「KING」と一致するもの

Various - ele-king

 今週発売の紙エレキングVol.26に掲載されているマイク・パラディナスのインタヴューを読んで、ちょっと驚いた。パラディナスによって運営されている〈プラネット・ミュー〉が2011年にリリースしたジューク/フットワークを世界に初めて紹介したコンピレーション『Bangs & Works Vol.1』は当時、ネガティヴな評価を受けたというくだりである。僕と野田努は『テクノ・ディフィニティヴ』を書き始める際、2011年の代表作に『Bangs & Works Vol.1』を選ぶことになんの躊躇もなかった。それこそ1秒ぐらいで決めたし、10年近く経ったいまでもその判断でよかったと思っている。しかし、パラディナスが言うには「あの作品のせいで僕たちは多くのファンを失った」というのである。衝撃的な述懐だった。僕の足元にいたネコも(偶然だけど)ひっくり返っていた。

 〈プラネット・ミュー〉は二度はじまっている。最初は〈ヴァージン〉傘下のブランド・レーベルとして主にはパラディナス自身の作品を発表し、これが3年で〈ヴァージン〉の流通に疑問を覚えたことで離脱。98年からはインディ・レーベルとして仕切り直し、パラディナスとは専門学校のクラスメートだったディラン・J・ネイサン(Jega名義)のドリルン・ベースを「ZIQ001」としてリリースしている。ネイサンはイラン系で、僕は当時、彼の音楽からベドウィン・アセントやレイラと同じくアラブ系のセンスを聞き取ろうとした記憶がある。アラベスクを思わせる緻密な打ち込みに荘厳な世界観。テクノが世界に広がっていくということは、そのような価値観の広がりだと思っていた。ところが〈プラネット・ミュー〉から多くのファンが離れたのは『Bangs & Works Vol.1』が黒人の作品だったからだという。話にならない。ネコもひっくり返ったままである(つーか、そのまま寝てしまった)。新生〈プラネット・ミュー〉が4人目に契約したクリスチャン・クレイグ・ロビンソン(Capitol K名義)はドリルン・ベースとインディー・ロックをフュージョンさせた異才だけれど、その後はクンビアに染まり、現在はトータル・リフレッシュメント・センターを主催してサンズ・オブ・ケメットやイビビオ・サウンド・マシーンといった移民系の作品を数多く世に送り出している。〈プラネット・ミュー〉は日本人(Joseph Nothing、Guilty Connector)の作品を出すのも早かったし、バブリングと呼ばれるオランダのブラック・ミュージックだって紹介してきた。UKガラージの移民的なアレンジといえるグライムやダブステップもごく初期からリリースしてきたというのに……。


 〈プラネット・ミュー〉はレーベル・コンピレーションを頻発する。なので「25年だから」という重みはない(20周年を祝う『µ20』は50曲入りの3CDだったので物理的にも軽い)。ただ単純に『Planet Mu25』にはジューク以降のダイナミクスをフォローしてきた〈プラネット・ミュー〉の現在が反映され、次から次へと素晴らしい曲が続く。個人的には1曲も捨て曲はなかった(洗脳されてるとしか思えないw)。オープニングはイーストマンことアンソニー・J・ハート。セカンド・アルバム『Prole Art Threat』からの再録で、彼については前述したパラディナスのインタヴューで詳しく編集部が話を聞き出している(ので省略)、簡素なドラム・パターンが相変わらずカッコいいとだけ付け加えておく。RPブーやDJネイトといったジューク第1世代ももちろん収録され、後者はセカンド・アルバム『Take Off Mode』に収録された“Get Off Me (Betta Get Back)”をアンソニー・J・ハートがベーシック・リズム名義でドリル風にリミックス。ウラディスラフ・ディレイもリパッティ(Ripatti)名義でセルフ・リリースを重ねてきたジュークをここには寄せている。そう、インダストリアルで寒々しいムードに変換されたジュークは驚くほどヨーロッパ風の変容を遂げ、〈プラネット・ミュー〉から離れたファンも大挙して舞い戻ってくることだろう。ハンガリーのガボール・ラザールは5thアルバム『Source』からタイトル曲を再録。『Source』はマイク・インクとオウテカが出会ったようなIDMのアルバムで、〈プラネット・ミュー〉がいまだ『Artificial Intelligence』の延長線上にあることを示した作品である。この路線を〈プラネット・ミュー〉が手放したことはない。もしかすると〈ワープ〉よりもこだわっているかもしれない。残念なことにベース・ミュージックとフリージャズを合体させたスピーカー・ミュージックはセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』からの再録、「シンゲリの巨人」と化したライアン・トレナーも同じく『File Under UK Metaplasm』からの再録と、期待の星たちから新曲はなかった。今後の予告編となるのはボグダン・レチンスキーやアイルランドのラッカーからイーオマック(Eomac)のソロ作。アンビエント・ドラムン・ベースに挑む前者にエスニックなブレイクビートを刻む後者と、〈プラネット・ミュー〉の2021年はヴィジョンにあふれている。〈ワープ〉傘下の〈ディサイプルズ〉から復活を遂げたレチンスキーが移籍したのも驚くけれど、〈R & S〉に居座るかと思っていたイーオマックがアラブ首長国連邦の〈ベドゥイン・レコーズ〉からソロ・アルバムをリリースしたり、2020年には〈ニゲ・ニゲ〉のMCヤッラーとジョイントするなど一時期よりも先が読めない動き方を見せ始め、それがまさか〈プラネット・ミュー〉と結びつくとは思わなかった。新人ではファーウォームス(FARWARMTH)に期待がかかる。


 パラディナスのインタヴューを読んでいると、妻のラーラ・リックス~マーティンが想像以上に彼に影響を与えていたことがよくわかる。最初は2人でヘテロティックというシンセ・ポップのユニットをスタートさせ、『Love & Devotion(愛と退化)』というタイトル通り、ボケボケじゃんとか思っていたのだけれど、リックス~マーティンはソロでドローンに転じ、ミーモ・カンマ(Meemo Comma)の名義で活動を始めると一気に加速度を上げていく。自らアルバムを立て続けに制作するだけでなく、女性プロデューサー専門の〈オブジェクト・リミテッド〉をサブ・レーベルとして立ち上げ、そこからはアルカを思わせる中国系のルイ・ホー(RUI HO)による“Hikari”を再録し、同じくアブストラクなジュークを聴かせるジャナ・ラッシュは“Mynd Fuc”を新たに寄せている。ミーモ・カンマとしてもビートを取り入れた“Tif’eret”を提供し、これまでのホラーじみたドローンとは違った側面を見せ始めた。パラディナスが過去音源ばかり大量放出しているのとは実に対照的というか、パラディナスのインタヴューを読みながら聴いていると、妻の才能が伸びていくのを喜んで見守っているパラディナスの表情まで見えるような気がしてしまう。パラディナスはインタヴューの中でこう言っている、「妻は僕の物事に対する考え方の多くを変えてくれた、あるいは、教育してくれた人だ、そう思う」と。#MeToo時代にこんなことが言える男性がここにいる。〈プラネット・ミュー〉、25周年、おめでとうございます。

 日本ではKダブ・シャインによるブラック・ライヴズ・マター批判が話題になったけれど、アメリカでBLM批判の急先鋒といえばキャンディス・オーウェンズである。最初は若い黒人の思想家がドナルド・トランプを称揚していると話題になり、TVでも事あるごとに取り上げられるようになった。2年前にカニエ・ウエストがツイッターで彼女の思想を持ち上げたことで一気に注目の的となり、その直後に2人は急接近したようで、黒人が奴隷になったのは自らにもそう望んだ面があったからだとか、カニエ・ウエストの言動が以前よりもオルタナ右翼に近づいたのは彼女の影響によるところ大だったと考えられる。この秋の大統領選では「Brexit」の「R」を「L」に変えると「民主党からの離脱」を意味する「Blexit」という単語になり、民主党批判のキャンペーンにこのスローガンを使っていたオーウェンズが「ロゴをデザインしてくれたのはカニエ・ウエスト」だと吹聴していたところ、自分はデザイナーを紹介しただけだとカニエ・ウエストが抗議し、オーウェンズがブログで謝罪するという展開もあった。ちなみに選挙以前からオーウェンズが攻撃し続けたのは早くからバイデン支持を表明していたカーディ・Bで、オーウェンズは「あなたはバイデンやサンダースに利用されているだけだ」と執拗にカーディ・Bをバカ扱いし、SNS上で口汚く罵り合うこともしばしとなる。なお、カーディ・Bはトランプ支持者に自宅の住所を公開されて火をつけると脅されたため、犯人を特定したところ10代の若者が容疑者として浮かび上がったため、やるせない気持ちになったと述懐している。

 キャンディス・オーウェンズは最初からオルタナ右翼だったわけではないという。25歳で立ち上げたマーケティングの会社ではむしろ「共和党の狂気」とかドナルド・トランプのペニスのサイズがどうとかいったような記事まで書いていたとも。これがゲーマーとフェミニズムが対立して殺害予告や爆破予告の嵐となった「ゲーマーゲート論争」に巻き込まれて、個人情報をネットに晒され、窮地に陥った時にオルタナ右翼に救われ「一夜にして保守派になった」のだという。「リべラルは実際にはレイシストなんだと悟った。リベラルはネットを荒らしてドヤ顔をしたいだけ(=trolls)なんだと」。オーウェンズだけでなく、ゲーマーゲートの多くがこの論争を境にオルタナ右翼になったと言われている。女性のゲームプログラマーによる枕営業の有無が発端となって14年から16年にかけて大きな社会問題となった「ゲーマーゲート論争」はプログラマーの回想録を元に現在、映画化も検討されているそうで、業界の癒着やフェミニズムなど多くの議論が交わされたなか、やはり焦点のひとつとして浮かび上がるのがポリティカル・コレクトネスである。ネット・リンチに発展してしまうこともあるPCに対して、オーウェンズはここで強く否定的な感情を抱き、「攻撃対象を探しては潰しにかかるリベラル」という図式を固定させたのである。

 どちらに向かうかはともかく、オーウェンズが若くして才能を発揮した人物だということは疑いがない。それが黒人で女性だとなると、おそらくは黒人だから優遇されたんだろうとか(オーウェンズは「ブラック・カード」を使うという言い方をする)、女性だからチャンスをもらえたんだろうというやっかみに遭遇したことも多々あったに違いない。PCに対して息苦しい思いをしている人はたくさんいるだろうけれど、PCによって守られている人にも同じことはいえるということである。オーウェンズにとっては個人の才能に帰結することなのに、アファマーティヴ・アクションと呼ばれる優遇政策のおかげで現在の地位があると捉えられることは自分の才能を否定されるに等しく、アファマーティヴ・アクションをいとましく思うこともあったに違いない。そして、その優遇政策が何に由来するかというと、黒人は不当に扱われているという「考え方」であり、構造的な人種差別があるという「思い込み」だとオーウェンズは主張する。「そんなものはない。黒人は差別されていないし、私はやろうと思えば白人男性と同じことができる」とオーウェンズは繰り返し強調する。いわば民主党によって黒人たちは自虐史観に染められてしまい、何もできない人種だという考え方から抜け出られないだけだと。それがアイデンティティ・ポリティクスの正体だとオーウェンズは「見破った」。黒人のステロタイプな表現から逸脱したカニエ・ウエストが個人の能力を評価するという思想に共鳴したことも、だから、不思議ではないし、多少とでも社会性を持っていればマイケル・ジャクスンだって共鳴した可能性はある。プリンスやビヨンセはそうではなかった(『ブラック・パワー別冊』参照)。

 黒人は不当に差別されているという「間違った考え方」に基づくBLMは、だから、ただのテロ行為であり、「BLMは西欧社会を破壊する行為だ」とオーウェンズは続ける。BLMは初めから民主党が仕掛けた詐欺で、ジョージ・フロイドは黒人の悪しきカルチャーを象徴する人物だと彼女は断じて止まない。実は前述したカーディ・Bとは最初から言い争いになったわけではなく、保守系メディアで彼女が持つ番組に2500万円という破格のギャラで出演をオファーしたところ、「ジョージ・フロイドの死は当然だったとする人間とは口をききたくない」と一蹴され、先の論争がはじまったという流れだった。30代になると、オーウェンズの議論は結論ありきのものでしかなくなり、新たに起きている事象や事件から何かを読み解こうとするものではなくなっていく。最近ではアナ・ウィンターによって最高の男性モデルだと持ち上げられたハリー・スタイルズがデヴィッド・ボウイばりに中性的なファッションでヴォーグ誌に登場すると「男は男らしくしろ」とオーウェンズがツイートし、スタイルズはこれを無視、さらに過激なファッションで登場するなど、頭のいい人からは相手にもされなくなってきた。カニエ・ウエストがオーウェンズに共感の意をツイートした翌月、ドナルド・トランプも「キャンディス・オーウェンズはとても賢い思想家だ」とツイートし、大いに持ち上げていたのだけれど、「バイデンやサンダースに利用されているだけ」という彼女の言葉が固有名詞を入れ替えればブーメランとなって彼女の元に戻ってくるような気がするのは僕だけだろうか。


New Project of Jeff Mills - ele-king

 先日リリースしたバイロン・ジ・アクエリアスも好評なアクシス。2020年は、ベネフィシアリーズをはじめ、ジェフ・ミルズのミルザート名義の「Every Dog Has Its Day」シリーズがいつの間にか「vol.13」までリリースされているほか、おそろしく積極的に他のアーティストの作品も毎月のようにリリースしている。コロナ禍において、かえってやる気がみなぎってしまっているようだ。ちなみに「Every Dog Has Its Day vol. 4」は今週までフリーダウンロードできる。
 さて、その休みなきジェフだが、年明け1月には彼の新プロジェクト、ザ・パラドックスのアルバム『Counter Active』がリリースされる。これは故トニー・アレンのバックも務めていたガイアナ移民としてフランスで暮らすピアニスト、ジャン・フィ・デイリー(Jean-Phi Dary)とのコラボレーションになる。アフロ・キューバンとコンパ(ハイチの音楽)からの影響のなかに、ジャズ、レゲエとファンクが融和されたデイリーの演奏の評価は高く、ピーター・ゲイブリルやパパ・ウェンバ(コンゴの歌手)、有名なドラマーのパコ・セリー(ザヴィヌル・シンジケート)らのバックも務めている。

「トニー・アレンとの『Tomorrow Comes The Harvest』でのコラボレーションの延長としてこの企画は生まれた」とジェフの弁。「演奏のセットアップ後にジャン・フィと僕で簡単なジャム・セッションをするのが通常で、実際の演奏ではトニー・アレンが加わって、そしてサウンドチェック時のグルーヴを発展させていく」、このセッションのなか楽曲は「数分のうちに完成した」という。
「そのアイディアをスタジオに持ち込みレコーディングしたのが今回のアルバム。1年をかけてパリ周辺の様々なスタジオで膨大な量の曲をレコーディングした」
「『カウンター・アクティヴ』はふたつのクリエイティヴな精神が妥協や制限なくぶつかり合った結果。音楽が我々の人となり、言いたいことを如実に表している。タイトルは目的を持って成し遂げることを意味している。ちなみに『カウンター・アクティヴ』は二部構成の第一部なんだ」
 まずはその一部を楽しみに待とう。

The Paradox
Counter Active

Axis / AX096

Track Titles:
A1. Super Solid
B1. The X Factor
B2. Residence
C1. Twilight
C2. Ultraviolet
D. Residence (Alternate version)

Burialが新曲を発表 - ele-king

 レイヴ・カルチャーとは、実際そこに行ったことがない人にも、音楽という文化には飼い慣らされない領域があることを知らしめた意味でも重要です。かつて「レイヴ・カルチャーへのレクイエム」と言われたBurialが新曲“Chemz”を発表した。ブレイクビーツ、ハイピッチの声ネタ、ピアノリフという、初期ハードコア/レイヴ・ミュージックのお約束ごとを使いながら、それはいま亡きものの悲鳴なのか、それともいま現在おきていることなのか、いろんな思いを誘発する、12分にもおよぶ大作だ。

Burial - Chemz

 なお、2021年4月2日には本楽曲をA面に収録した12インチがリリースされ、B面には新曲「Dolphinz」が収録される予定となっている。

label: Hyperdub
artist: BURIAL
title: CHEMZ / DOLPHINZ
release date: 2021.04.02 Fri On Sale

12inch輸入盤
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11654
tracklist:
A. Chemz
B. Dolphinz

Synchronize - ele-king

 40年ぶりに再発され話題となった、日本のポストパンク・バンドを収録した1980年のコンピレーション『都市通信』、そのなかのひとつシンクロナイズ(後にザ・スカーレッツに改名)が、年明けにスタジオ+ライヴ音源をコンパイルした3枚組を限定リリースする。シングル2枚、カセット2本、未発表ライヴ音源、今回初出となる、ミニコミ「ニュー・ディスク・リポート」の付録ソノシート用に録音された3曲、アルバム「ポーラー・ソング」用に録音された5曲など未発表スタジオ音源を収録。いままでアーカイヴ化されてこなかった時代の貴重な音源であることに間違いない。

Synchronize, The Skarlets
An afterimage- Synchronize to The Skarlets –

仕様:3枚組CD
発売日:2021/1/27
初回限定盤
品番:WC-095~097
定価:¥4545+税
JAN:4571285920957
発売元:いぬん堂

Synchronize ~ The Skarlets
1978年 Synchronize結成。1980年 アルバム「都市通信」に参加。新宿ACBでのイベント「Street Survival宣言」への出演や都内ライヴハウスを中心に活動。1981年にシングル「訪問者」、1983年にシングル「PRIEST」を発表後、The Skarletsに改名。1987年にカセット「Skarlets」、1989年にカセット「Liverpool」を発表した。

CD発売記念ライヴ
2021年2月19日(金)新宿ロフト
AN AFTERIMAGE COLOR
料金:前売り3000円+drink
開場18:00 開演18:50
出演:シンクロナイズ、突然段ボール、モリモトアリオミ、NOISECONCRETE×3CHI5、DJ:肉夜メイジー

Total Info. https://www.synchronize80.xyz/


An afterimage
- Synchronize to The Skarlets -


Disc 1 Synchronize Studio
1. 都市通信
2. 転写
3. Easy Money
4. 訪問者
5. 幼年期
6. 連続線
7. PRIEST
8. MODE
9. Disillusion
10. 愛の見解
11. Please
12. holiday
13. NOBUYA
14. POLAR SONG

Disc 2 Synchronize Live & Demo
1. holiday
2. 都市通信
3. 停止セヨ
4. 時間膜
5. Cool Point
6. Girl’s Campaign
7. 幼年期
8. 連続線
9. Disillusion
10. MODE
11. 紅蓮
12. 愛の見解
13. 失楽園 - the location -
14. Please
15. PRIEST〜Easy Money

Disc 3 The Skarlets Studio & Live
1. Sun Room
2. 告白
3. Clear Screen
4. 反射率
5. Liverpool
6. 精霊代 - Lavender days -
7. 残像
8. 彼方 the far
9. 黄昏まで
10. 精霊代 - Lavender days -
11. 残像
12. 抱擁
13. 少年画報
14. 孔雀

Disc 1
Track 1 to 3 : Unreleased Tape
Recorded at Studio Magnet 12 June 1980.
Track 4,5 from Single「訪問者、幼年期」Plaza Records (7inch:PLAZA-1) 1981
Track 6 : Unreleased Tape 1981
Track 7,8 from Single「PRIEST, MODE」Polar Records (7inch:S-1) 1983
Track 9 : Unreleased Tape 1983
Track 10 to 14 : Unreleased Tape
Recorded at Sound Market 1984

Disc 2
Track 1 : Live Recorded at Shinjuku ACB 14 June 1980
Track 2,3 : Live Recorded at Shinjuku Loft 14 Aug. 1980
Track 4 : Live Recorded at Shinjuku Loft 3 Sep. 1980
Track 5 :Recorded at Rasenkan Feb. 1981
Track 6 :Live Recorded at Hosei University 18 Apr. 1981
Track 7,8 : Live Recorded at Shinjuku ACB 20 June 1981
Track 9 : Live Recorded at Harajuku Crocodile 25 Apr. 1982
Track 10,11 : Live Recorded at Kichijoji Manda-La 20 Feb. 1983
Track 12 : Live Recorded at Yotsuya Fourvalley 6 Apr. 1983
Track 13 : Live Recorded at Yotsuya Fourvalley 18 Nov. 1985
Track 14 : Live Recorded at Yotsuya Fourvalley 27 Jan. 1986
Track 15 : Live Recorded at Shibuya La.mama 7 Jul. 1986

Disc 3
Track 1 to 4 from「Skarlets」(Cassette) 1987
Recorded at ken's home 1987
Track 5 to 8 from「Liverpool」(Cassette) 1989
Recorded at ken's home 1989
Track 9 to 14 : Live Recorded at Fussa Chicken Shack 26 Jan. 1990

Produced by Mikio Shiraishi, Kenji Nomoto
Compiled by Mikio Shiraishi, Kenji Nomoto
Licensed from Sychronize, The Skarlets
Mastered by Kenji Nomoto (2-1 to 2-15, 3-1 to 3-14), Akihiro Shiba (1-1 to 1-14)
Remastered by Akihiro Shiba (2-1 to 2-15, 3-1 to 3-14)
Mastered at ken’s Home, Temas Studio
Remastered at Temas Studio
Photography by Ieki Maekawa
Designed by Shigeo Matsumoto

All Lyrics by Mikio Shiraishi
Music by Mikio Shiraishi (1-1 to 1-3, 1-6, 2-2 to 2-5, 2-8, 2-15 [Easy Money]), Mikio Shiraishi & Kenji Nomoto (1-4, 1-5, 1-7 to 1-14, 2-1, 2-6, 2-7, 2-9 to 2-15 [PRIEST], 3-1 to 3-14)
Vocals [All Songs], Guitar [2-14] : Mikio Shiraishi
Guitars [All Songs] ,Keyboards [3-5, 3-8]: Kenji Nomoto,
Bass : Hitomi Sanekata (1-1 to 1-3, 2-1 to 2-4), Toshiaki Kabe (1-4, 1-5, 2-6 to 2-8), Tetsushi Nishiyama (1-7 to 1-14, 2-9 to 2-15), Toshifumi Sato (3-1 to 3-4), Yukari Hashimoto (3-5 to 3-14)
Drums : Yoshio Kogure (1-1 to 1-6, 2-1 to 2-4, 2-6 to 2-12, 2-15, 3-9 to 3-14)
Programmed by Kentaro Yamaguchi (1-9 to 1-14, 3-1 to 3-8)
Keyboards : Yoko Kawano (1-6, 1-7, 2-12), Kentaro Yamaguchi (1-8 to 1-14, 2-13 to 2-15, 3-1 to 3-14), Hikaru Machida (2-5 to 2-8), Shuichi Ohmomo (2-9 to 2-11)

Thanks to U Inoue, Tadashi Moriya, Syunji Tsutaki

Pink Siifu & Fly Anakin - ele-king

 最近ぼくが好きで聴いているヒップホップといえば、ジェイ・エレクトロニカ&ジェイ・Zの“Ezekiels Wheel”、そして先頃リリースされたピンク・シーフ&フライ・アナキンのアルバムから“Mind Right”、この2曲に尽きるのであった。
 前者に関しては、ジェイ・Z絡みの曲をこの歳になってこれほど好きになるとは思わなかったが、サンプル・ネタがフリップ&イーノ『イヴニング・スター』の収録曲だし(元ネタが良いのはたしかだが、この再構成もみごと)、まあとにかくピンク・シーフ&フライ・アナキンの“Mind Right”とともに雑草(ウィード)が染みこんだ感じがたまらないのである。
 こんなことを書いていると、小林拓音あたりから、この厳しい時代にまどろんでいる場合ではない! などと非難されそうだが、厳しい時代だからこそまどろんでいたいのだ。スー(Sault)もスピーカー・ミュージックも素晴らしい、だが、こういう音楽=怠惰なビートも無くなって欲しくはない。

 アラバマ州バーミンガム出身のMC/プロデューサー、ピンク・シーフ、バージニア州リッチモンド出身のラッパー、フライ・アナキン、ともに近年のUSアンダーグラウンド・ヒップホップのシーンにおける注目株である。シーフは昨年の『Ensley』で脚光を浴び、今年の春に出した『Negro』におけるノイズ・パンクとジャズの壮絶な融合およびその政治性が話題になったばかり。いっぽうアナキンはリッチモンドのヒップホップ・クルーのひとりとしてすでに多くの作品に関わっているが、やはりジャズやパンクともリンクしている。ふたりとも90年代ヒップホップのグルーヴを現代解釈しながら、他方では音楽的にハイブリッドなこともやっていると、今後が期待される才能である。

 このコラボレーション・アルバム『フライ・シーフ』は、ふたりが架空のレコード店〈FlySiifu's〉で働いているという設定に基づいている。アルバムを通してその日常──日々の会話、顧客への対応、失敗、そして黒さ──を描いているという。アルバムの随所にはボイスメールを装ったスキットがあり、たとえば“Black Bitches Matter Hoe”は5日立ってもレコードが届かない客からのクレームに黒人女性が答えるもので、政治的ユーモアにもなっているようだ。
 ときにソウルフルに、ときにコミカルに、そしておおよそ愛らしく描かれる彼らの日常を演出するのは、アンダーグラウンド・ヒップホップの大物マッドリブをはじめとする14人のプロデューサー(オネスト・ジョンズのオーナーの息子、いまはLA在住のDJ/プロデューとして活動するBudgieも参加)。
 ぼくがほかに好きなのはLastnamedavidがプロデュースした2曲、ジャジー・ビートの“Runthafade”、そして“Clean”という曲で、ピアノ・ループを活かしたこの曲もまた“Mind Right”と同様に(最近人気のラッパー、Liv.eがフィーチャリングされている)、いい感じのチルなわけだ。アルバム全体が『Negro』の反動とも言えるほど、メロディアスで、ジャズとファンクがほどよく溶け込んでいながらほっこりしている。なので、これは通して聴くことをお薦めしたい。あたかもレコード店にいるかのような楽しい気分になるかもしれないし、温かく、この空しい冬にぴったりの、ありがたいサウンドトラックだ。

Dyl - ele-king

 ここ数年、ドラムンベースのフォーマットが崩れ過ぎてダブ・テクノや広義のアンビエントとして受け止められるものが増えてきた。しかし、それらはアンビエントに収まろうとして変化しているわけではなく、あくまでもドラムンベースの可能性を広げようとして結果的にアンビエントだったり、ミュジーク・コンクレートに聞こえるだけであって、そのような既視感の範囲を超えてしまえば途端に分類不可とされてしまう。そう、「アンビエントで片づけよう」とする発想自体が間違っているのであって、やはり「ドラムンベースがどこに向かっているのか」という耳で聴かないと見失ってしまうものがあるだろうと僕は思う。そして、そのようなものとしてエデュアルド・コステアによる3作目『Acvatic』をここではクローズ・アップしてみたい。ルーマニア語で「アクアティック」を意味する『Acvatic』はアンビエントの定番概念といえる「アクアティック」という言葉の響きも見事に裏切っていて、その意味でも興味深いアルバムであった。

 ドラムンベースを現在のような姿に変えたのはやはりASCや直接的にはフェリックス・Kだろう。Enaやペシミストがこれに続き、ビート主体だったドラムンベースはテックステップやドリルン・ベースが内在させていたサイファイ感覚を可能な限り増大させ、そのためにビートは必ずしも前面に押し出されるものではなくなっていく。古くはアレックス・リース、最近ではエイミットが流行らせたハーフタイムが広く手法としてシーンに浸透することでフリースタイル化は一気に進み、同時に観念肥大も起きていく(ハーフタイム=本来は音楽用語でビートを半分にするという意味ながら実際には6だったり10だったりで8で刻むとは限らない)。ソフィア・ロイズの3作目『Untold』も曲の冒頭で2小節から4小節ほどカチャカチャッとビートが鳴ったあとはノン・ビートで完結するというスタイルを貫いていたり。

 『Acvatic』の前作にあたる『Sonder』はまだ試行錯誤の段階にあり、雑然として捉えどころのない内容だった。ASCやフェリックス・Kのものまねとは言わないけれど、ドタバタとしたビートに不気味なメロディを組み合わせ、どの曲も聞いたような展開にしかならない。それがたったの1年で飛躍的なイメージの跳躍と驚きの完成度を示したのが『Acvatic』である。同作は洪水のような激しい水の音から始まる。水は時に人に襲いかかるもの。アンビエント・ミュージックの発想にはない水の描写であり、ノイズ・ドローンの背景にはモダン・クラシカルが折りたたまれるように詰め込まれている。続いてハーフタイムが導入され、ダブ・テクノの変形へと雪崩れ込む。曲名は“1.1”“1.2”……と素っ気ない。どの曲でも水は常に早く流れている印象で、これまでに海中を描写した作品で知られるミシェル・レドルフィや2・ローン・スウォーズメン『Stay Down』とも似たところはない。淀んだ水や溜まっている水ではなく、勢いをつけて動いている水がここではすべてなのである。曲が変わっても緊迫感は途切れることなく続き、不協和音の連打は水流が荒れ狂っている様を表しているということか。“1.5”などはむしろ金属的な響きが全体を覆い尽くしていてポリゴン・ウインドウ“Quoth”を思い出してしまった。完全にバッド・トリップである。気分を変えることもなく、徹底的に同じイメージが何度も追求され、エンディングを迎える頃には南極の氷がすべて溶けて大陸の多くが海に没した気分。ルーマニアといえばミニマルのペトレ・インスピレスクが代表格だけれど、陰鬱とした世界観はここでも共通していて、ローリン・フロスト同様、チャウセスク政権の後遺症がまだ尾を引いているという感じなのかなと。そして、それらがずべて吐き出されないと次には行かれないということなのだろう(クリスティアン・ムンジウ監督『4ヶ月、3週と2日』』なども同じ理由でつくられたに違いない。少子化対策として堕胎が違法と定められた時期を描いた同作は07年にカンヌでパルムドールを受賞した)。

 ブラジルとスペインに拠点を置く〈ディフューズ・リアリティ〉は基本的にはテクノのレーベルで、それがこのところは『Acvatic』に続いて、チェコのOFKや、この11月には日本のイッチ(Itti)ことトモユキ・イチカワも実験的なドラムンベースのアルバムをリリースしている。ハーフタイムでほとんど全編を埋め尽くした後者の『Get Into』は前半はリズムが少しもたつくものの後半の出来はかなりよく、Enaに続く人材が日本にもいるという期待を抱かせる内容だった。同レーベルはまたサワ・カツノリやユウキ・サカイといった日本人のリリースも多く、マサヒロ・メグミを逆から綴ったImugem Orihasamが『Acvatic』では“1.7”と“1.8”のリミックスを手掛け、ボーナス・トラックとして収録されている。

ele-king vol.26 - ele-king

増ページ特別号!

オウテカ4万5千字インタヴュー
──ヒップホップ、海賊放送、そしてシュトックハウゼンからレイヴまでを語る
使用機材についてのコラムやディスクガイド付き

特集:エレクトロニック・リスニング・ミュージックへの招待
──1992年に提唱された概念を軸に、部屋で聴く電子音楽を再考する
「90年代サウンド」「追悼アンドリュー・ウェザオール」「ダブ・テクノ」「ヒプナゴジック・サウンド&エスケイピズム」「ジョン・ハッセル再評価」「モダン・クラシカル」の6つの切り口から必聴盤134枚を紹介、マイク・パラディナスのインタヴューも

2020年ベスト・アルバム30発表
総勢32組によるジャンル別2020年ベスト10&個人チャート
──この激動の1年、もっとも心に響く音楽は何だったのか?

目次

オウテカ──その果てしない音の世界を調査する

4万5千字インタヴュー (野田努)
part1/part2

[コラム]
オウテカの使用してきた機材を考察する (Numb)
作り手側から見たオウテカ (COM.A)
生成と創造性──オウテカとMax/MSP (松本昭彦)
 
[ディスクガイド]
オウテカ厳選30作 (河村祐介、久保正樹、COM.A、小林拓音、野田努、松村正人)

特集:エレクトロニック・リスニング・ミュージックへの招待

[コラム&チャート]
エレクトロニック・リスニング・ミュージック=家で楽しむ電子音楽の大衆化 (野田努)
多くのプロデューサーが「マッド・マイク病」にかかっていた──90年代テクノについて (三田格)
90年代ELM──わたしの好きな5枚 (河村祐介、KEN=GO→、小林拓音、佐藤大、杉田元一、髙橋勇人、野田努、三田格)

[ディスクガイド]
(河村祐介、小林拓音、野田努、三田格)
90年代エレクトロニック・リスニング・ミュージック
追悼アンドリュー・ウェザオール
ダブ・テクノ
ヒプナゴジック・サウンド&エスケイピズム
ジョン・ハッセル再評価
モダン・クラシカル

[インタヴュー]
マイク・パラディナス (野田努+小林拓音)

2020年ベスト・アルバム30
──selected by ele-king編集部

ベスト・リイシュー15選

ジャンル別2020年ベスト10

エレクトロニック・ダンス (髙橋勇人)
テクノ (佐藤吉春)
アンビエント (三田格)
ハウス (Midori Aoyama)
ジャズ (小川充)
USヒップホップ (大前至)
日本語ラップ (磯部涼)
インディ・ロック (木津毅)
アフロ・テクノ (三田格)

2020年わたしのお気に入りベスト10
──アーティスト/DJ/ライターほか総勢31組による2020年個人チャート

Midori Aoyama、天野龍太郎、磯部涼、荏開津広、大前至、小川充、小熊俊哉、海法進平、河村祐介、木津毅、クロネコ(さよならポニーテール)、坂本麻里子、篠田ミル(yahyel)、柴崎祐二、高島鈴、髙橋勇人、デンシノオト、tofubeats、德茂悠(Wool & The Pants)、ジェイムズ・ハッドフィールド(James Hadfield)、原摩利彦、ジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)、二木信、細田成嗣、Mars89、イアン・F・マーティン(Ian F. Martin)、増村和彦、松村正人、三田格、yukinoise、米澤慎太朗

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interview with Isayahh Wuddha - ele-king

シティ・ポップ特有の一部のハイソな出来事や愛を聞いたり歌うのは、どこか虚しさでもあるし、満たされない欲求でもある。でもそれがエンターテイメントでもあるのだけど、決定的にあれはリアルではないし共感なんかできないと思っていました。

 京都の秘宝……いや、もしかするとこれは世界に誇る秘宝かもしれない。去年偶然に、本当に偶然に手にとった1本のカセットテープを繰り返し聴く中で、ふとそんな予感がした。そしてあれから約1年半、その予感は次第に確証になりつつある。

 Isayahh Wuddha(イサヤー・ウッダ)。台湾と日本にルーツを持ち、現在は京都に暮らすインナートリップ・シンガー・ソングライター。昨年、カセットテープのみでひっそりとリリースされたファースト・アルバム『アーバン・ブリュー』が口コミでじわじわと広がり、気がつくとジャイルス・ピーターソンがアルバム収録の “something in blue” をオンエアし、イギリスのディープ・ガラージ系レーベルの〈Wot Not〉からアナログ・レコードでもリリースされるに至った。BTS や BLACKPINK から、Yaeji や CHAI まで、メジャー/インディー問わず若き東アジア産のポップ・ミュージックが世界規模で注目を集め、細野晴臣や山下達郎の旧作もまた欧米の若い世代に聴かれている2020年。年齢も素性も謎に包まれた Isayahh Wuddha が飄々と国境を超えている様子は痛快極まりない。

 もちろん、DJやクラブ・ミュージックのフィールドでは古くから日本のクリエイターたちが海外で評価されていたし、YMO やサディスティック・ミカ・バンドのような例外もあるにはある。だが、竹内まりやの “Plastic Love” が近年、ネットミームで拡散されているような状況を目の当たりにするにつけ、この曲がリリースされた80年代にタイムラグなく海外でも聴かれていたらどうなっていただろう……と思う。そういう意味では、YouTube はもとより、SoundCloud や Bandcamp を通じ、全ての国の音楽にリスナーがどこからでも自在にアクセスできるようになった現代は幸せな時代だとも言えるだろう。実際、Isayahh Wuddha の『アーバン・ブリュー』が海外リリースされることになったのも、Bandcamp を通じてレーベルから直接連絡があったからなのだという。派手なプロモーションもない、ライヴも滅多にやらない、そんな彼が京都の自室でカセットテープのMTRでひっそりと作った曲が、世界中でじわじわと面白がられている状況は、そもそもが「海外リリース」という古くからの戦略概念をニヒリスティックに嘲笑しているかのようだ。

 公表されている Isayahh Wuddha の経歴は、「第二次世界大戦中に日本統治下の台湾にて徴兵され、衛生兵として日本へ従軍した台湾人の祖父と、日本人の祖母の孫にあたるということと、自身は日本に生まれ、現在は京都に暮らしていて、今も時々台湾におもむく……」ということくらい。2019年にトラックメイカーとして活動を開始し、自ら歌も歌いながら曲を作るようになった彼は、しかしながら、かなり確信犯的にポップ・ミュージック制作を視野に入れている。アーサー・ラッセル、プリンス、エイドリアン・シャーウッド、スリッツ、カエターノ・ヴェローゾ、デヴェンドラ・バンハート、クルアンビン、あるいはフランク・オーシャンやジェイムス・ブレイクあたりまでもチラつかせる豊かな音楽体験を武器としつつも、どこか人を食ったようなシニシズムとユーモアを掲げ、同時にロマンティシズムと妄想を抱えたまま、それでもポップな存在であろうとする開かれた感覚が魅力だ。

 そんな Isayahh Wuddha がセカンド・アルバム『Inner city pop』を12月16日にリリースする。ファーストはカセットテープでの販売だったが、今回はCDでの発売。ファンク、ダブ、トロピカリズモ、アシッド・サイケ、ディスコなど様々な音楽性を横断させながらも、深く語られることからスルリと抜け出してしまうような自嘲的軽やかさがさらに際立っているのがいい。曲そのものもキャッチーだし、呟くようにリフやフレーズに寄り添わせながらラップするメロウなヴォーカルも健在だ。

僕が目指しているのはマイケル・ジャクソンのようなキング・オブ・ポップ。より多く消費されて楽しんでもらえたら嬉しい限り。諸行無常

 タイトルにあるインナーシティについて、Isayahh 本人はこう話してくれた。
「日本の事、貧困、スラム化している現状です。通常インナーシティとくればマーヴィン・ゲイの “Inner City Blues” になりますが、ここはシティ・ポップにかけてポップを付けました。音楽家・プロデューサーの冥丁さんが言っていたことなんですが、架空の東京の音楽が溢れて、日本の地方どこでもそんな架空の東京の音楽ばかり鳴らしているという話がありまして。まさに2010年代のシティ・ポップ・ブーム、ヴェイパーウェイヴと重なるように思います」

 アルバムは11曲入り。ライヴでも使用するカセットテープMTRのチープな音像を生かしているからか、音自体は極めて不安定に揺らいでいる。ファースト以上にジャストなリズム、ジャストなメロディとは最も遠い位置で鳴らされ、アウトラインのハッキリした音処理を嫌って仕上げられたとんでもないアルバムだ。それは1970年代のタイやベトナムで制作されていた無国籍ファンクやソウルの持っていた妖しい歌謡性をも連想させ、ひいては Isayahh のルーツが台湾にあることを再認識させられる。実際、近年の台湾から登場している 9m88、落日飛車など新しい世代のシティ・ポップ系、AOR系アーティストとのシンクロもここにはあると言っていい。もっとも、Isayahh の作品は全くハイファイではないが。

「シティ・ポップ特有の一部のハイソ(上流社会)な出来事や愛を聞いたり歌うのは、どこか虚しさでもあるし、満たされない欲求でもある。でもそれがエンターテイメントでもあるのだけど、決定的にあれはリアルではないし共感なんかできないと思っていました。それは多様化ではなくてソフトに形骸化した音楽の様に感じます。アク抜きされたホウレンソウみたいな、一斉に栽培された味の薄い野菜みたいなものです。自分にとってそれらは美味しく感じませんでした。そもそも自分の音楽は歪で、世間一般からみて不完全だと思われるでしょうが、音像の歪さ、不完全さ未完成さが逆説的にリアルを体現していると思うのです。それは有名アーティストのデモ・テイクやライヴ盤に魅力を感じるのと同じかと思います。目に見えない息遣いがそこにあるような感覚なんです。自分はひねくれているから、誰かができる事を自分がやる必要はないと思いますし、自分が出せる音があるからそれをやると、音質もカセットテープMTRだから下手くそに音が割れたりする、そこも含めて誰も僕の音を鳴らす事はできないだろうって勝手な自信があります」

「僕が目指しているのはマイケル・ジャクソンのようなキング・オブ・ポップ。より多く消費されて楽しんでもらえたら嬉しい限り。諸行無常」と自虐的に話す Isayahh Wuddha。超絶にウィアードで超絶にミステリアスで超絶にフリーキーで、超絶にポップでチャーミング。新型ウイルスで人間ありきの社会が転覆した今、人間様の鼻っ柱を排除したところから始まる資本主義葬送行進曲のためのこのアンチ・ポップが、最後の消費文化の一つとして世界中でユラユラと鳴らされることを待ち望んでいたい。


プロフィール

■台湾と日本にルーツを持つ蠱惑(こわく)のインナートリップ・シンガーソングライター、Isayahh Wuddha(イサヤー・ウッダ)による 2nd Full Album『Inner city pop』が完成。
どこにも属さずサイケデリックに揺らぎながら鳴らされる、愛と狂気の密室ドラムマシーン歌曲集。

カセットテープとアナログレコードで発表された前作『urban brew』(2019)に引き続き、ヴィンテージのカセットテープMTRを用いて制作された Isayahh Wuddha(イサヤー・ウッダ)の2ndアルバム『Inner city pop』。演奏、録音はすべて本人が行った密室ドラムマシーン歌曲集がここに完成。本作にも収録の先行 7inch シングル「I shit ill」でもみられるサイケデリックなリズムに揺らぐ LO-FI サウンドは、音楽の深層に触れる喜びを想起させる。ミュージック・マガジン誌2020年9月号特集「日本音楽の新世代 2020」では注目の10組に選出され注目を集めながらも、未だ所在不明の彼から焙りだされる陰りを帯びた天然色の煙は社会と対峙するサウンドトラックになるだろう。

2nd album 『Inner city pop』
2020年12月16日リリース
形態:CD maquis-008
価格:2000円+TAX

01. In to r
02. for ever
03. agricultural road
04. i shit ill
05. celebretions
06. need
07. spacey
08. guitar
09. sexy healing beats
10. together
11. wait

校了しました - ele-king

 恒例の『ele-king』年末号、無事校了しました。今年はコロナの影響で夏号を出せませんでしたが(かわりに臨増や別冊をたくさん刊行)、年末号はしっかり12月25日に発売します。

 先に白状しておくと、これまでより定価が50円アップしています。ただしそのぶんヴォリュームも増量、いつもより32ページ多い特別仕様です。

 巻頭は、鮮やかな新作を2枚も送り出したオウテカの超ロング・インタヴュー。なんと、4万5千字もあります。
 ふたりの出会いについて、ヒップホップやエレクトロについて、かつてやっていた海賊放送について、シュトックハウゼンについて、レイヴについて……どれもこれまで語られていない貴重かつわくわくする話ばかりで、カットしてお蔵入りにしてしまうのがもったいなかったため、ページ数を増やすことにした次第です。50円の値上げ、お許しください。

 それと関連して、特集は「エレクトロニック・リスニング・ミュージック」。1992年に提唱されたこの概念を周回しつつ、90年代リヴァイヴァル+コロナ禍の現在、家で聴く電子音楽の名盤たちにフォーカスした、一家に一冊の保存版に仕上がっています。アンディ・ウェザオールの追悼やマイク・パラディナスのインタヴューもアリ。

 そしてもちろん、お待ちかねの年間ベスト・アルバム30枚も発表。総勢32名のライター/アーティスト/DJたちによるジャンル別ベストおよび2020年の個人チャートも掲載しています。この激動の1年、もっとも心を揺さぶる音楽はなんだったのか?

 発売は12月25日、どうぞご期待ください。

【寄稿者一覧】
●オウテカ特集
 河村祐介、久保正樹、COM.A、小林拓音、Numb、野田努、松本昭彦、松村正人
●ELM特集
 河村祐介、KEN=GO→、小林拓音、佐藤大、杉田元一、髙橋勇人、野田努、三田格
●ジャンル別ベスト&個人チャート
 Midori Aoyama、天野龍太郎、磯部涼、荏開津広、大前至、小川充、小熊俊哉、海法進平、河村祐介、木津毅、クロネコ(さよならポニーテール)、坂本麻里子、佐藤吉春(TECHNIQUE)、篠田ミル(yahyel)、柴崎祐二、高島鈴、髙橋勇人、デンシノオト、tofubeats、德茂悠(Wool & The Pants)、ジェイムズ・ハッドフィールド(James Hadfield)、原摩利彦、ジャイルス・ピーターソン(Gilles Peterson)、二木信、細田成嗣、Mars89、イアン・F・マーティン(Ian F. Martin)、増村和彦、松村正人、三田格、yukinoise、米澤慎太朗

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