「KING」と一致するもの

R.I.P. 阿木譲 - ele-king

追悼・阿木譲

 4年前、前に飼っていたネコの最後を看取ってくれた獣医さんから生後3日の子ネコが4匹いるから見にこないかという連絡があり、さっそく見に行った。気に入ったネコがいたら1匹もらおうかなと軽く考えていた僕は、その子ネコたちが視野に入った瞬間、思わず「2匹下さい」と言っていた。気にいるとか気に入らないという振り幅は一瞬で吹き飛んでいた。僕は即座に黒く見えた子ネコを選び、彼女は少し考えてから白い子ネコに決めた。高校生の頃、『ロック・マガジン』の編集部に押しかけたところ、編集部には10匹近くの黒猫がいて、それまでイヌ好きだった僕は、憧れの存在だった阿木譲が黒猫たちと暮らしていると知り、自分もネコ好きに変わろうと決めたのである。それ以来、犬を嫌うようになり、ネコを飼うなら黒猫がいいと思い続けていた。その願いが叶ったのである。白にはクリン、黒く見えた子ネコにはクランと名付け、半年であっという間に大きくなると、黒猫だと思っていたクランはドット模様が密集しているだけで、実際には黒猫ではないことがわかってきた。黒猫じゃなかった……。クランの模様を見るたび、僕は「阿木譲は遠い存在だな」と思わずにはいられない。そして、10月21日、本当に阿木さんは遠いところへ行ってしまった。実は少し予感があったので、驚いてはいない。最後にお会いしてからは30年近くが経っている。遠い記憶。誰とも重ならない思い出。いつから僕は阿木譲を見失っていたのだろう。

 『ロック・マガジン』は1976年に創刊されている。僕が読みはじめたのはその翌年で、パンクの記事が目当てだった。ほかにパンクのことを載せていた雑誌は『詩の世界』ぐらいしかなく、ブライアン・イーノやデヴィッド・アレンといったパンク以前の人たちに興味を持ったのも『ロック・マガジン』が彼らのインタヴューを載せていたからだった。合田佐和子が描いたジャン・ジャック・バーネルやリチャード・ヘルなど表紙のデザインも圧倒的に洒落ていて、高校生の僕には寺山修司の「地下演劇」とともにすぐにもハイブローな背伸びアイテムになっていった。下北沢の五番街というファッションビルにレコード・ショップがあり、そこでバックナンバーを買うこともできたので、ジャーマン・ロック特集なども読み耽った。そして、大阪で行われている『ロック・マガジン』のイベントが修学旅行と重なっていることを知った僕は修学旅行の最終日に「父親が危篤なので東京に帰ります」とウソをついて京都から大阪に向かい、学生服のまま心斎橋で行われていた『ロック・マガジン』のイべントに潜り込んだ。そして阿木さんの話を聞いたり、アシュ・ラ・テンペルのレコードを聴いているうちに夜中になり、東京へ帰る新幹線がなくなっていることには気がつかなかった。時すでに遅かった。阿木さんはイベントが終了してから「東京から来てくれたのは君か」と声をかけてくれ、「今夜は編集部に泊まって行けばいい」と言ってくれた。しかも、その日はアーント・サリーのライヴがあるからそれも見ていけという。そう言いながら、阿木さんは出口に向かっている女の子にひと言声をかけ、何を言ったのか聞こえなかった僕に「あれだけで彼女は理解したね」と言った。どうやらナンパしたらしいのだ。素早いなんてもんじゃなかった。

 ニュー・ウェイヴの時代になっても『ロック・マガジン』はぶっちぎりだった。チャート・ミュージックもアンダーグラウンドも区別せず、毎号、魅力的なレコードが山のように紹介されていた。その後、ネオアコという名称に落ち着く音楽はウォーター・ミュージックとして取り上げられていた。視点の中心にあるのはモダンかどうかで、シャーマニズムとモダンをどのように折り合わせていくかということが阿木譲の問いであり、世界観のすべてといってよかった。僕は完全にそれに染まってしまった。僕が最も悩んだのはザ・ポップ・グループだった。いまでもよく覚えているけれど、『ロック・マガジン』で大きく取り上げられていた『Y』をシスコの御茶ノ水店で見つけた僕は、さすがにあのジャケットを見て躊躇してしまい、『Y』を抱えたまま1時間も店内をうろうろし続けた。どうしても踏ん切りがつけられず、本当にこのレコードにモダンの要素があるのかと疑い続けた。クラフトワークのそれとはまるで様相が違うし、僕にはまだ表面的なモダンしか見えていなかったのである。しかし、最終的には阿木譲に対する信頼が僕をレジへと向かわせた。スロッビン・グリッスルしかり、リエゾン・ダンジュオーズしかりである。『ロック・マガジン』がなければその種の音楽が日本にここまで浸透したかどうかは実に怪しい。ジョイ・ディヴィジョンやザ・フォール、ノイエ・ドイッチェ・ヴェレやボディ・ミュージック。阿木譲になかったのはブラック・ミュージックの要素だけで、それもある種の美学として徹底的に排除していたように見えたし、そこには時代の要請もあれば、そこまで偏向しなければ辿り着けなかった境地もあっただろうから、ひとりの表現者がとった態度としてはある種の必然だったのだろうと思う。僕はだんだん鵜呑みにはできなくなってしまったので、おそらくはアシッド・ハウスの解釈を巡って進む道も異なってしまったのだとは思うけれど、モダンとシャーマニズムを拮抗させた音楽に対する愛着はいまでも充分に受け継いでいると思う。

 新しい雑誌の名前を一緒に考えてくれと言われたり、アメリカ村にオープンしたレコード・ショップに遊びに行った際は、こんなものが見つかったと言って演歌歌手時代に出演した『てなもんや三度笠』のヴィデオを本人の解説付きで見せてもらったりと、阿木さんとの思い出は少なくはない。復刊した『ロック・マガジン』を何冊か手渡され、これを東京で有効に使ってくれと言われたり、借金取りからかかってきた電話に「ないものは返しようがない」と、むしろ阿木さんの方が高圧的にやり返していた場面に出くわしたこともある。その中でも阿木さんが東京にきた時、ピカソに行こうということになったはいいけれど、ファッション・コードなのかなんなのか誰も中に入れてもらえず、仕方がないので、六本木の路上に座り込んで雑談に花を咲かせ、「阿木さんはじゃあ、どんな曲で踊りたいんですか?」と訊いたところ、即答で「コイルだね」と返されたことはとくに印象深い。ニュー・ウェイヴが下火になり、バブル直前のディスコといえばどこもブラコンばかりで、つまんねーなーと思っていた矢先に、この人はなんてカッコいいことを言うんだろうと思い、いまから思えば、その数年後にはまるでブラコン全盛に反旗を翻すようにしてイギリスではセカンド・サマー・オブ・ラヴが勃発したのである。阿木譲はこの動きを受けてすぐにも大阪でマセマティック・モダンをオープンし、僕と野田努、そして、石野卓球がロクにできもしないのにDJをしに行ったこともある(初対面だった阿木さんと石野卓球はまるで親子が再会でもしたかのような盛り上がり方だった)。そして、阿木さんが最初にかけた曲は忘れもしないエース・ザ・スペース“9 Is A Classic”だった。ブラック・ミュージックを避けてレイヴ・カルチャーを推進させるなら、そこしかないという選択である。あの意志の強さには舌を巻いた。

 阿木譲がどんな晩年を過ごしたのか僕は何も知らない。10代の時に受けた影響があまりに大きく、そしてそれは良いところだけでなく、悪いところも受け継いでいる気はするので、そのことをもって阿木譲は自分のなかで生き続けているとイージーに思うことにしたい。阿木さんに対しては常に両義的な気持ちが渦巻いてしまうので、自分としては「合掌」などと書いてきれいにまとめてしまうこともどこか嘘くさいとは思うけれど、洋楽を扱った日本のメディアであれだけの仕事をしてきた人にはやはりご苦労様でしたというのが適切だし、その功績は褒め称えられてしかるべきだろう。
 阿木さん、お疲れさまでした。どうぞ安らかにお眠りください。

空間現代 × 坂本龍一 - ele-king

 布石はあった。空間現代と坂本龍一。昨年末に発売された『async』のリミックス盤『ASYNC - REMODELS』、そこにおいて両者はすでに出会っている。あるいは今年の6月。空間現代は、ロンドンでおこなわれた坂本のキュレイトによるイベント《MODE 2018》に出演してもいる。そんな彼らが、初めてのコラボレーションLPとなる『ZURERU』を11月3日にリリースする。
 Aサイドには『ASYNC - REMODELS』所収のトラック“ZURE - KUKANGENDAI REMODEL”を再構成した共作曲“ZURERU”が、Bサイドには空間現代のライヴでお馴染みの“SUUJI”と、それを坂本龍一がリミックスした“SUUJI REMODEL”が収録される。
 日本の音楽シーンにおいてひときわ尖った試みを続ける両者の邂逅――この機を逃すなかれ。

坂本龍一と空間現代の初コラボレーションLP『ZURERU』発売

来年に、〈Editions Mego〉傘下の、Sunn O))) の Stephen O'Malley が主宰するレーベル〈Ideologic Organ〉よりニュー・アルバムの発表も予定している「空間現代」と、Yellow Magic Orchestra や数々の実験音楽・映画音楽などで知られる日本の伝説的音楽家「坂本龍一」の初コラボレーション作品がアナログ・レコードで発売となります。

坂本氏が2017年に発表したアルバム『async』を、Oneohtrix Point Never や ARCA、コーネリアスなど国内外の様々なアーティストがリミックスした作品『ASYNC - REMODELS』の日本版ボーナストラックに空間現代が抜擢され、その際に制作され収録された「ZURE - KUKANGENDAI REMODEL」が、そこから更に、坂本龍一のピアノの内部奏法と空間現代の生演奏によって再構成・録音されたものが本作の「ZURERU」です。

本作には、この二組の共演曲“ZURERU”に加え、空間現代のライブ盤『LIVE』の冒頭や Moe and ghosts とのコラボ作品『RAP PHENOMENON』にもラップ入りで収録され、空間現代のライブではお馴染みの楽曲“数字|SUUJI”が、単曲としては初めて音盤化。そして、坂本龍一が“SUUJI”をリミックスし、7分に及ぶ荘厳なドローンに変換した“SUUJI REMODEL”を作品の最後に収録しています。

録音・ミックスは、サイデラCEO、オノセイゲン。マスタリングは、ビョークのミックスも手掛け The Mars Volta や Lightning Bolt、Gang Gang Dance など数々のマスタリングを手掛けるNYのエンジニア、ヘバ・カドリーが担当。

空間現代 × 坂本龍一
『ZURERU』

Format: LP
Label: KUKANGENDAI LLC.
Cat no: KKG-1
発売日: 2018年11月3日
価格: 2300円+税

A-1 空間現代 × 坂本龍一
「ZURERU」
B-1 空間現代
「SUUJI」
B-2 坂本龍一
「SUUJI REMODEL」

https://kukangendai.stores.jp/items/5bd017662a28623e2100039e

TREKKIE TRAX CREW - ele-king

レーベル6周年イベントに向けた10曲

TREKKIE TRAX 6th Anniversary

2018年10月26日(金)23:00~5:00
Glad & Lounge Neo

【価格】
前売り 3,000円(1D別)/当日 3,500円(1D別)

【出演者】

■Glad
813 (From Russia)
TENG GANG STARR
Amps
Carpainter (Live)
Cola Splash
gu2
iivvyy
Masayoshi Iimori
Ryuki Miyamoto
TREKKIE TRAX CREW

■LOUNGE NEO
Elevation (From USA)
Hojo b2b Persona (From Taiwan)
EGL
has
isagen
HAKA GANG
Native Rapper
Maru feat. Onjuicy
Miyabi

■Lounge: TREKKIE TRAX : Branch
Allen Mock
FIREMJ.
fuishoo
Herbalistek
kai shibata
niafrasco
Oyubi
UTAKICHI
Zepto

VJ : mika / Rio / hyahho
Photo : Toshimura
Food : 新宿ドゥースラー

【プロフィール】
TREKKIE TRAX CREW

TREKKIE TRAXは2012年に日本の若手DJが中心となり発足したインディーレーベルである。
これまでのテンプレートに囚われない様々な音楽を世界に向けて発信することを指針とし、全国各地で活動しているトラックメーカーとともに楽曲リリースを行っている。

レーベル発足よりこれまで50作品を超えるリリースをリリースし、その楽曲のクォリティの高さは日本だけでなく、世界中から賞賛を受けている。
これまでSkrillex, Diplo, Major Lazer, Porter Robinson, Mija, RL Grime, Djemba Djemba, Carnage, Wave Racerなど名だたるDJ達からサポートを受けており、2015年に開催されたULTRA JAPAN 2015ではメインフロアにて多くの楽曲がプレイされるだけでなく、レーベルから2名のアーティストが出演した。

またレーベルの総決算としてリリースされた「TREKKIE TRAX THE BEST 2012-2015 (CD)」が世界最大の音楽メディア「Pitchfork」へレビュー掲載されスコア【7.2】を獲得するほか、Skrillexが主宰する「NEST HQ」での特集記事やMini Mixのリリース、LuckyMe Recordsがホストを務めるRinse.fmのプログラムでのレーベルが特集ほか、「BBC Radio 1Xtra」や「Triple J Mix Up」でも楽曲がプレイされるなど各国のメディアに大きく取り上げている。

2016年にはレーベルのコアアーティストと共に3都市6公演のアメリカツアーを成功させるほか、Porter Robinson & Madeon - Shelter Live Tourのアフターパーティーにも出演を果たした。
他にもアメリカ・テキサス州で開催された「South by Southwest 2016」への出演やPC Music、Lido、DJ Paypal、Muchinedrum、Addison Groove、DJ Sliinkなどその他多くのアクトの海外公演のサポートを務めるほか、アメリカ・中国・韓国などでもツアーを行い多くの世界中のファンを熱狂させている。

日本国内ではm-floのTaku Takahashiが局長を務める日本最大のクラブミュージックインターネットラジオ「Block.fm」にてクルーのandrew, Carpianter, Seimeiによる「Rewind!!!」のホストを務める。
またHyperdub Label Showcaseへの出演を筆頭とする来日アクトのサポートや、Nina Las Vegas、Lucky Me Records所属のJoseph MarinettiやDeon Customのアジアツアーの主催、自身のレーベルの全国ツアーなど積極的に自主企画を行うほか、アパレルブランド「THE TEST」のコラボなどその精力的な活躍は今後の日本のユースシーンを牽引する今最も注目すべきレーベル、DJ集団と言える。

https://soundcloud.com/trekkie-trax
https://twitter.com/trekkietrax
https://www.trekkie-trax.com/

King Coya - ele-king

 やはりマーラの存在は大きかったのだろう。サウンドそれ自体のおもしろさや強度はもちろんだけれど、彼の功績はディプロや M.I.A. 以後、ベース・ミュージックの新しい聴き方を用意したことにもある。以前からあった世界各地の民族音楽を、それそのものとは異なる角度から、つまりはダブステップ以降のベース・ミュージックの文脈において消化するという体験。それは受容法の更新でもあるがゆえに、「似たようなことはすでに誰それが十年前からやっていた」というテンプレートは著しくその効果を減退させることになる。

 ブエノスアイレスのレーベル〈ZZK〉は、近年はニコラ・クルースの活躍でその名を耳にすることが多いが、もともとはコンピレイション『ZZK Sound Vol.1』(2008年)でディジタル・クンビアを世に知らしめたレーベルである。コロンビアにルーツを有するクンビアがアルゼンチンでクラブ・ミュージックへ昇華されるというそもそもの経緯からして興味深いわけだけれど、そのシーンを牽引してきた同レーベルが設立10周年を迎えるこの年に、当時の活気を思い出させるようなアルバムを送り出してきた。

 キング・コジャことガビー・ケルペルは、本名名義で2001年に発表したフォルクローレのアルバム『Carnabailito』が〈Nonsuch〉によってライセンスされたことで注目を集めた、ブエノスアイレスのプロデューサーである。そのケルペルがフロアを志向し、大胆にエレクトロニクスを導入したプロジェクトがキング・コジャで、上述の『ZZK Sound Vol.1』への楽曲提供を経て、翌2009年にはフル・アルバム『Cumbias de Villa Donde』を発表している。IDMやアンビエント的な発想も導入するなど、ディジタル・クンビアに留まらないその多様な表現は、トレモールらとともにアルゼンチン音楽の新世代として脚光を浴びたわけだが、その後トム・トム・クラブやアマドゥ&ミリアムなどのいくつかのリミックス・ワーク、あるいはバルヴィーナ・ラモスとの共作を除けば、リリースは長いこと途絶えていた。そんな彼が9年ぶりに発表したソロ・アルバムが本作『Tierra de King Coya』だ。

 結論から述べると、フォルクローレとベース・ミュージックとの融合がこのアルバムの肝になっていて、そういうと以前とさほど変わりないように思われるかもしれないけれど、たとえば冒頭“Te digo Wayno”の中盤で乱入してくるベースに体現されているように、低音の鳴らし方がマーラ以降を感じさせる作りになっている。ほかにも、クドゥーロを独自に咀嚼しながらダークな雰囲気を演出する3曲目“Algo”(ラップを務めるのはケルペルの妻であり、〈ZZK〉からのリリースもある歌手のラ・ジェグロス)のように、前作とはまた異なる形でおもしろい試みが多くなされている。どことなく M.I.A. を想起させるヴォーカルが印象的な6曲目“Pa que yo te Cure”も、ナスティさを携えながらまったくといっていいほど下品さは感じさせず、ケルペルのさじ加減のうまさを堪能することができるし、最終曲“Icaro Llama Planta”でリズムと上モノが醸し出す不思議なムードは、リスナーを酩酊の境地へと誘うこと請け合いである。

 随所で顔を覗かせる笛のためだろう、アルバム全体としては前作以上にフォルクローレ色が強まっている感があるものの、それに負けじと低音のほうもぶんぶん度合いを増していて、この10年のあいだにダブステップ以降のベースが世界各地へ浸透したことを改めて教えてくれる。やっぱりジャイルス・ピーターソンの先見性はずば抜けていたというか、かつて彼がキング・コジャのファースト収録曲をモー・カラーズとサブトラクトのあいだに挟んで繋いでみせたのは、ある種の予言だったのかもしれない。とまれ、ブエノスアイレスのヴェテランによるこのカムバック作は、いわゆるグローバル・ベース~グローバル・ビーツの成熟を知るのにうってつけの1枚と言えるだろう。

interview with TOYOMU - ele-king

 まいったね、トヨムは罪深いまでに楽天的だ。荒んでいくこの世界で、シリアスな作品がうまくいかない自分に葛藤していたようでもあった。しかし、人生を「面白がる」ことはとうぜん必要なこと。いや、むしろ面白がる、楽しむことが土台にあるべきだろう。ストゥージズだって「no fun(面白くねえ)」といって面白がったわけだし、泣くのはそのあとだ。
 トヨムの名が知れたのは、2016年のカニエ・ウェストの一種のパロディ作品によってだった。『ザ・ライフ・オブ・パブロ』をおのれの妄想で作り上げたその作品『印象III:なんとなく、パブロ』がbandcampでリリースされると、欧米の複数の有力メディアから大きなリアクションが起きた。それまで知るひとぞ知る存在だったトヨムは、一夜にして有名人になった。
 それから彼は、日本のトラフィック・レーベルからミニ・アルバム「ZEKKEI」を出したが、それはパロディ作品ではなく、牧歌的なエレクトロニック・ミュージックだった。そんな経緯もあって、いったいトヨムのアルバムはどうなるのかと思っていたら、ユーモアとエレクトロ・ポップの作品になった。〈ミュート〉レーベルの創始者、ダニエル・ミラーの初期作品を彷彿させる茶目っ気、LAビートの巨匠デイダラスゆずりのエレガンス、それらに加えてレイハラカミを彷彿させる叙情性も残しながらの、チャーミングなアルバムだ。“MABOROSHI”という曲は、トーフビーツの新作に収録された“NEWTOWN”、あるいはパソコン音楽クラブの“OLDNEWTOWN”なんかと並んで、2018年の日本のエレクトロ・ポップにおいてベストな楽曲のひとつだと思う。
 取材は、10月上旬、広尾のカフェでおこなわれた。通りに面したオープンエアのテーブルには、心地良い秋風が入って来る。この時期の黄昏時は、あっという間に夜を迎えるわけだが、江戸川乱歩が幻視した都会の宵のなかに紛れる怪しいものたちの気配を感じながら、インタヴューは、ゆるふわギャングからサンダーキャットまで、節奏のない彼の好きな音楽の話からはじまって、気が付いたらお互いビールを数杯飲んでいた。

https://smarturl.it/toyomu

だんだんアートといってやっても自分自身がそこまで楽しくないなと思いはじめて。それだったらもうちょっと単純に明るくやろうと思いはじめました。だから自分としてはこのアルバムは明るいアルバムだなと思っています。

今回のデビュー・アルバム『TOYOMU』は、自分ではどんなアルバムだと思いますか?

TOYOMU(以下T):ジャケに表れているように、自分ではすごくカラフルな作品になったと思っています。1曲1曲の単位が集まって、アルバムとして。ぱっと見がそういう感じではあるんですけど、いままで自分自身が、ビートと呼ばれるものをやろうと思ってやっていた時期とか、ラッパーに提供しようと思ってやっていたとか、もしくは”MABOROSHI”みたいにシングルを作ろうという感じで、作り方に対する考え方自体がだいぶシンプルな方向に、シンプルって言ったらおかしいな……、自分の感情として分かりやすい方にだんだん近づいていった。アルバムとしてできあがってみるとあんまり複雑なことや、自分ができないことはもうできないなということを割り切ってやったということもちょっとある。

食品まつりさんのコメントとぼくのコメントは言葉は違うけど、だいたい同じような内容で、同じような印象を持ったのかなと思いました。ドリーミーで、ほっこりなアルバム。そう思われていることを自分ではどう思いますか?

T:人から見たときにドリーミーということは、きっとファンシーさが最後まで残り続けたんだろうなと思います。たぶん現実とひたすら向き合い続けたら、あのようなアルバムにはなっていなかったと思うんですよね。音楽という世界だけに関して言ったら、自分の世界のなかで考えて作ったので、その部分が要素として強いかな。それがたぶんドリーミーと言われる原因ではないかなと少し思います。

自分自身ではそう思わない?

T:ぼくはみんなにわかりやすいように、お祭りみたいな感じ、カーニヴァルちっくな感じだと思っているんですよ。いや、サーカスとかそういうものも近いかな。渋い曲や、かっこいい曲がいちばんベストだと思って作っていたときと、どれだけ人と違うことをやるかみたいな部分で魅せようと思ってやっていたときがあって。人から見たときにそういうわけのわからないものって結構不気味にうつるとぼくは思うんですね。まったくわけのわからないものとか、あとは真剣に物事をやっている人とか。そういうのに対してはお客さんからすると、まじめな演劇を見ている感じ。大衆とか民衆の人たちが楽しみにきているというよりかは、高尚なものを見ている感じで接するような。

アートを見ているような?

T:アートを見ているような、そっちの方を自分はかっこいいと思ってやりたいという感じでいままでは動いていたんですけど、だんだんアートといってやっても自分自身がそこまで楽しくないなと思いはじめて。それだったらもうちょっと単純に明るくやろうと思いはじめました。だから自分としてはこのアルバムは明るいアルバムだなと思っています。たぶんJ-POPとかになってくると思うんですけど、ただひたすら明るいということは、全く屈託がないというか。サーカスとかもそうですけど、ピエロとか大道芸の人とかも一応は明るくはふるまっているじゃないですか。でも、ずっとツアーじゃないですけど、各地を転々としてまわっているから疲れも出てくるし、ずっと笑顔ではいられないと思うんですね。でも、みんなに対して明るい顔をしようという気持ちで動けばある程度はみんながわーって拍手もしてくれるだろうし。いちばん近いのはサーカスのイメージという感じなんですよね。

サーカスには影というものもあるんだけど、影や暗闇をこのアルバムには感じないです(笑)。

T:きっとぼく自身がサーカスに対してそう思っていないからということが大きいと思います。あとは、このアルバムを作るにあたって、何回か曲自体を捨てたりとかしたんですよ。作っては捨てみたいなことが繰り返しあって。だから自分のなかでは、もう作るのが嫌だなと思うくらいにまでたまになったりして。

どういう自分のなかの葛藤があったの?

T:『ZEKKEI』を出した2年くらい前に遡るんですけど、それくらいからアルバムをいちおう作りだしてはいたんですよ。

2年かかったんだね。

T:じっくりやっていてもそのときはアートみたいなものが頭のなかにあったので、人と違うかっこいいものを作るんだみたいな感じがすごく大きかったんですよね。

そのときのかっこいいアートな音楽ってエレクトロニック・ミュージックで言うとたとえば何? OPNみたいな?

T:OPNとかアルカとかもそのときはよく聴いていた。あとは坂本教授の『async』。こういうのがかっこいいなみたいな感じで。いったら全部影があるじゃないですか。でも自分としてはそういうのもやるんですけど、そういうやり方でやっても、人に伝わるまでにならないんですよね。

あるいはそれをやると、自分自身が自分に対してオネストになれていない?

T:オネストになれていないということと、それに偽っているみたいな感じも若干はあった。かっこいいだろというものを思い込みでやったけど、結果的に作り出したものを周りの人に聴かせても、とくにそれに対して何かコメントがあるということがまったくなかったんですよ。ということは、自分ではかっこいいと思って作っているけど、相手に伝わっていないみたいなことが出てきた。そこの伝わらなさみたいなものがすごく自分ではもどかしいというか、イライラするというか。自分ではかっこいいと思っているのに。そういうことが作りはじめてから長いこと続いたんですよ。

じゃあ1枚分のアルバム以上の曲を作っては捨て、作っては捨て。

T:最近もボツ曲をもういちど聞いてみてた んですけど、ものすごい量があって。ちょっと工夫したら別の要素に使えるみたいなものがいっぱいまだあるんですけど。その状態自体が自分自体を陰鬱な気持ちにさせるというか。作れば作るほど、より悪くなっていくなみたいな。

ぼくはOPNやアルカみたいな人たちを評価しているんだけど、これだけ音楽がタダ聴きされて、飲み放題みたいな世界になっていったときに、逆に飲み放題だと酔えないということだってありうるわけだよね。

T:ハードルが下がったのに別に聴く人が増えていないということ?

そういう意味で言うと、トヨム君はもともと曲を無料ダウンロードで出していたわけじゃない? しかし、これはこれで作品として作りたいと思ったわけでしょ?

T:もちろん。ただ、自分の能力との差がどうしてもある。きっと誰だってそういうことはあると思うんです。自分はこうしたいけど、いくら気持ちを入れ替えようと思ってもできないとか。そのときは簡単な話、ちょっと切り替えて、自分はそれができないからできることをやろうみたいな感じでシフトすればすぐに道を切り替えられたと思うんです。いまになって思えば、自分とその周りの状況に甘えていたという感じがあるんですよ。自分にウソをついていたというか。

OPNやアルカみたいな人はすごくシリアスじゃない? そのシリアスさを捨てたなという感じはするんだよね。

T:シリアスになりたかったけど、それをやろうと思ってもまったくできなかったんですよね。そんなフリをするということ自体がいまになって思えば間違っていた。自分に合っていなかった。そういうところのレベルで全然コントロールしきれていなかったというのが自分のなかであるんですよ。

それでこういうジャケットにしたんだろうけど、何かきっかけがあったの?

T:結局いくらやってもできないということになったときに、音楽を辞めるかどうかくらいまで考えていたんですよ。別に音楽を作ることに辞めるとかないけど。あとはいろいろな人と会ったりして。自分はいまでも実家暮らしなんですけど、実家暮らしをしている人でもちゃんとやっている人はもちろんいますが、その生活レベルからして見直した方がいいんじゃないかと思って(笑)。京都でやっていたらどうしても周りがめちゃくちゃ競い合っているという状況では正直ないと思うんですよ。

ゆるい?

T:もちろん京都でもしっかりやっている人はいるけど、自分と同じトラックメイカーやビートを作っている人で競い合っているような状況は東京のようにはない。京都は超田舎ではないけど、超都会でもないから。

独特なところだからね。

T:居たら心地良いんですよね。自然もあるし、川もあるし。そこに居たら、自分では俺は他人とは違うんだと思っていても、どうしてもあらがえないだろうなというのは意識しないと。そこに気付いたのが一番大きかったですね。地方都市に住んでいてめちゃくちゃ頑張っている人もいっぱいいるし。

自分が地方都市でやっているんだという意識はこの作品にはすごくあるの?

T:その反面インターネットがあるから、意識さえ、やる気さえチェンジできたら関係ないんだろうなというのは思うんですけど、そう口では言ってもできない方が絶対に多い。なんでこういうアルバムになったかというときも、実感として自分の人生がそう思ってきたということがけっこうある。

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全部楽しかったらいいじゃんとは思わないですけど、全員がシリアスにならなくてもいいんじゃないかなと思いますね。という発言が出るくらいぼくは楽天的。だから、トーフくんがああいうものを作れるのは本当にすごいと思う。ぼくは自分ではまったく。

この作品を作っていくときに、自分のなかで励みになった作品はある?

T:単純にぼくは〈ブレインフィーダー〉が好きだから、その流れでサンダーキャットも聴いていたんですけど、あの人の突き抜け方とかがいちばん。実際去年メトロでも観たんですけど。

へー、どんなところが?

T:あれだけベースがうまかったら、俺さまベースうまいだろみたいな感じになると思うのに、めちゃくちゃアホなジャケにしたりとか、人に対して優しいんですよね。食品さんとかもみていて思うんですけど、この人良い人だなって思う作品のほうが。2年くらい前まで小難しいことが好きだったけど、そういうアルバムを作るうえでプチ挫折みたいなものがあったから。実際そういうものをシンプルに聴いたら心が豊かになるし、ポップだし。門戸が広いというか風通しが良いというか。尚且つそういうこともやっていたからということもあるんですけど、最近アリアナ・グランデがカヴァーしたりとか、サンダーキャットのプロデュースの曲とか、ファレルのアルバムに入っているみたいなああいういわゆるメインストリームにもちゃんと出て行けるような感じにまで昇華できるんだなと思った。

音楽性は全然違うけど、サンダーキャットはでかかったんだ。

T:前から好きだったから、その流れで聴いていました。あの人も友人の死みたいなものがあって、『Drunk』より一個前は結構シリアスな感じがあったんですけど、今回はアルバムを通じて全部突き抜けているなという感じがしましたね。ジャケからしてもそうですけど。まあ、それだけじゃないですけど、ポップな作品の方が聴いていたかもしれないですよね。むしろ。

ぼくはもっとポップになるかなと思っていたんだけど。ラップしたりとか。わりとおさえているなと思った。なんでそこまではいかなかったの?

T:2年の制作期間に発した、良い部分が全て集約されているのが今回のアルバムです。なのでそこに対しての体力温存は全くありませんよ。全精力をそそいで作ったものだからこそ、「次は自分の声を入れてみたい」というような願望も見えてきましたが、そういった経験がないとまず思いつかなかっただろうと思います。

じゃあ自分の方向性は決まったと。

T:アルバムの形が全部見えるまでは、自分はいったいどうしたらいいんだろうというのが自分のなかではぼんやりとしかないのに、こういう方向にいくんだみたいなものを勝手に決めつけて思っていて。ぼんやりとしたもの、そういう方向性な感じでみたいに思っていたけど、そういうことはやめようと思った。その形で、1回自分のモヤモヤしていたものを終わらせたいなという意味で。

ここまでいくのが大変だったということはよくわかったよ。

T:そうやって抽出したものがいまの僕の地盤を固めたことは間違いないので、自信を持ってどんどん次へ向かおうと思います。というかむしろ、これからさらに面白い風景が見れそうなのでワクワクしてますね。

今回のアルバムの方向性というか、もうこれでいいやと思えたのはどの曲を作ってから?

T:やっぱり”MABOROSHI”ですね。自分のなかで歴史的に残る作品を作ってやるみたいな気持ちが無く、純粋に心からやりたいと思って一番形に成し遂げられた曲なので。しかもそれがサンプリングとかもまあ。なので、この曲が自分のなかのひとつもモヤモヤを晴らしてくれた。

なんで”MABOROSHI”という曲名にしたの?

T:ぼくはもともと、幻とかサイケデリックなものが好きというわけではないんですけど、ああいうものがいちばんぼくのなかではかっこいいみたいなことが基盤としてあるんですよ。

ふっとよぎる幻覚みたいな感じ?

T:幻覚というと言い方がおかしいんですけど、ファンシーなものが自分は一番好きなんですよ。

ファンシーなものってたとえば?

T:いちばんわかりやすく言えばディズニーの世界ですね。ファンタジア、魔法。ハリーポッターとかでもそうですけど。小学生のときも読んでいたし。

最高なファンタジーって何?

T:いまぱっと映像だけで言うならば『ザ・フォール』という映画。『落下の王国』というのがあるんですけど。もうちょっとわかりやすくいうと……。やっぱりさっき言ったディズニーの『ファンタジア』なのかな。小さい頃に観ているから。

大人になってからは?

T:この世にあるかどうかわからないみたいなものが好きで。

たとえば?

T:ラピュタとか?

へー、ジブリが好きなんだ。あ、でもたしかにジブリっぽいかも(笑)!

T:ずっと観ていたわけではないですけど、生活の延長線上にちょっと近所の山を登ったらみたいな。

ジブリだったら何が好きなの?

T:『となりのトトロ』か『千と千尋の神隠し』で迷いますね。どっちか。ぼくの趣味がものすごく子供っぽいんですよね。本当に絵本とかにある感じの世界感が好きで。『おしいれのぼうけん』とか知っていますか? 自分の押し入れの先がトンネルになっていて。

でも、うん、ジブリっぽいよ。

T:人としてという意味ですか?

いや、もちろん音楽が。“もぐら慕情”とか。“MABOROSHI”も『千と千尋の神隠し』のレイヴ・ヴァージョンと喩えられなくもない。

T:ジブリっぽいですか(笑)。

トトロのフィギュアとか持っていたりする? 昔けっこう有名な UKのディープ・ハウスのDJの家に泊めてもらったとき、ベッドにトトロのぬいぐるみがあって(笑)。

T:フィギュアは持っていないです。そういう感じではない(笑)。ただあの世界感が何回観てもひたれるからいいなと思うんですよね。夏になる度に。

それは世代的に?

T:世代的なものが大きいと思うんですけど、日曜ロードショーとか。あと、いま思ったんですけど、もうひとつはもしかしたらゲームかも。ポケモンとか。ポケモンとあと任天堂系のマリオ。ポケモンは現実でもないけど。あれは世代的なものかもしれない。いずれにしてもゲームを作るとなったら、そのときはファンタジーというのが人気作の大前提ですよという感じでみんな作っていた感じがする。

しかし、トヨム君はトーフビーツとは逆だよねー。トーフビーツは2作連続であれだけメランコリックなアルバムを作っているじゃない? 同じ世代で関西で暮らしていてもこうも違うのかって感じが(笑)。

T:でもそれでいいんじゃないかなとぼくは思うんですけどね。たしかにぼくもリスナーとしてだったら全部楽しかったらいいじゃんとは思わないですけど、全員がシリアスにならなくてもいいんじゃないかなと思いますね。という発言が出るくらいぼくは楽天的。だから、ああいうものを作れるのは本当にすごいと思う。ぼくは自分ではまったく。

そうだよね。自分に嘘をつくことになっちゃう。

T:それをやったらすごくベタベタしそう。ネトネトしたものになりそう。あんなにさらっとできない。

彼はアーティスト気質なんだろうね。実はすごく。エンターテイナーでいようと思いながらも、どうしてもアーティスト的なんだよな。

T:まじめですよね。それは昔から絶対誰も勝てないだろうという感じがするので(笑)。常に競い合っているからバチバチやってやるぜとは思わないですけど、そこまでそんなに思っていないやつが同じ土俵でやってもそんなに意味がないんじゃないかな。

彼は単純にいまの音楽シーンで自分と同世代、それ以下の人がもっと出てきて欲しいんだよ。ひとつはね。話していて思うのは、俺しかいねーじゃんというくらいな感じ。もっと出てきてくれよ、ポップ・フィールドに。いつまでも年上ばかりじゃなくて。

T:切り込み隊長にさせるなよみたいな(笑)。

そう。

T:それは今回のアルバムがとくにそうですね。ひとりで走っていますからね。

ひとりで走っているよ。それは同世代としてどう思う? あれは同世代の音楽をやっているやつに対するメッセージじゃない?

T:そういう話に関してもそうなんですけど、以前は単純にトーフ君がものすごく売れていて、自分は必至にかっこよくて渋いものを作っているんだけどなと思いながらも、うずくまっていた感じの時期とかがあった。そういうのが単純にうらやましいなと思って。同じ年に生まれたのにみたいなことがあった。いまはたしかに同じ時期に生きてきたけど、単純に圧倒的にトーフ君の方がやっている年数が長いし。

先輩だと。

T:普通に先輩という感じ。ぼくは全然同世代だとは思ったことがない。

なるほど。これは紙面に乗せるからね(笑)。

T:そこは別に俺のことなんか見てねぇよという意味ではなくて、単純にリスペクトしかないという感じ。だから、じゃあ俺もいっちょ言ってやるかじゃなくて、自分ができる、いちばん本気でやれるやり方でどんどんアタックをしていこうみたいな考え方にいまはなってきたんですよ。

じゃあ、トヨム君は、地方に住みながらこつこつとやると?

T:ぼくは出ていくぞという気持ちがものすごくいまは強いですけどね。でもシリアスにやることが自分のやり方であるとは到底思えないというか。

だから自分なりのやり方で、もっていく。

T:なんか、ふぁーっとしたい。しゃがみこむというよりかは。全員が全員シリアスだったら気持ち悪いと思うんですよ。

まあとにかく、来年のRAP入りのアルバムを楽しみにしているよ。今日はどうもありがとうございました。

ライヴ情報
11月16日(金)H.R.A.R @京都METRO / https://bit.ly/2xKj9hh
12月22日(土)食品まつりとTOYOMUの爆裂大忘年祭 @KATA + TimeOut Cafe&Diner / https://bit.ly/2J4fTSi

公演概要
タイトル:食品まつりとTOYOMUの爆裂大忘年祭
出演者:食品まつりa.k.a foodman / TOYOMU and more! *追加出演者は追ってご案内します。
日程:2018年12月22日(土)
会場:KATA / Time Out Cafe&Diner (両会場共に恵比寿リキッドルーム2F)
時間:OPEN/START 18:00
料金:前売¥2,500 (ドリンク代別)/ 当日?3,000(ドリンク代別)
問合わせ:Traffic Inc./ Tel: 050-5510-3003 / https://bit.ly/2J4fTSi / web@trafficjpn.com
主催・企画制作:Hostess Entertainment / Traffic Inc.

<TICKET INFO>
10月22日(月)より販売開始!
購入リンク
https://daibonensai.stores.jp/

<出演者>

食品まつりa.k.a foodman

名古屋出身のトラックメイカー/絵描き。シカゴ発のダンスミュージック、ジューク/フットワークを独自に解釈した音楽でNYの<Orange Milk>よりデビュー。常識に囚われない独自性溢れる音楽性が注目を集め、七尾旅人、あっこゴリラなどとのコラボレーションのほか、Unsound、Boiler Room、Low End Theory出演、Diplo主宰の<Mad Decent>からのリリース、英国の人気ラジオ局NTSで番組を持つなど国内外で活躍。2016年に<Orange Milk>からリリースしたアルバム『Ez Minzoku』はPitchforkやFACT、日本のMUSIC MAGAZINE誌などで年間ベスト入りを果たした。2018年9月にLP『ARU OTOKO NO DENSETSU』をリリース。

*追加アーティストの発表は追ってご案内申し上げます。

Time Grove - ele-king

 ジャズがすごいのはUKだけではありません。いまイスラエルでも独自のシーンが大きな盛り上がりをみせています。
 アヴィシャイ・コーエンとともに〈Blue Note〉からもリリースのあるピアニスト、ニタイ・ハーシュコヴィッツ。そして、フリー・ザ・ロボッツなどLAシーンとも接点を有し、この夏〈Stones Throw〉からアルバムを発表したばかりのリジョイサー。
 これまでも両者はコラボを重ね、ともにテルアビブの名門レーベル〈Raw Tapes〉から作品を発表してきた仲でもありますが、そんな彼らを中心に結成された新たなグループ、タイム・グルーヴのデビュー・アルバムが10月24日に発売されます。CDが出るのはなんと日本のみ。卓越したプレイヤーとプロデューサーたちによって紡ぎだされる極上の音楽をご堪能あれ。

イスラエルのジャズ&クラブシーンを代表するミュージシャンが集結!!
ジャンルを超越した最高のグルーヴを聴かせる、Time Groveのデビュー作が完成!!

日本企画限定CD(輸入盤CDは、ございません。)

ジャズ・ピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツと、バターリング・トリオのリジョイサーを中心に結成されたプロジェクト、タイム・グルーヴの全貌が遂にこのアルバムで明らかになる。イスラエルから登場した、いま最も注目すべき才能溢れるミュージシャンとプロデューサーたちが作り上げた音楽。真に自由度の高い、開かれた音楽とはまさにこのこと。(原雅明 rings プロデューサー)

Time Grove :
Amir Bresler – Drums,
Sefi Zisling – Trumpet,
Eyal Talmudi – Saxophone, Clarinet,
Rejoicer – Keyboards,
Nitai Hershkovits – Piano, Keyboard,
Yonatan Albalak – Guitar, Bass

アーティスト:TIME GROVE (タイム・グルーヴ)
タイトル:More Than One Thing (モア・ザン・ワン・シング)
発売日:2018/10/24
FORMAT:CD
BARCODE:4988044042285
規格No.:RINC44
LABEL:rings
税抜販売価格:2,130円
税込販売価格:2,300円

Tracklist :
01. TG THEME
02. SECOND ATTENTION
03. JUNGLE BOURJOIS
04. INDOPIA
05. PIANO BUBBLES
06. SIR BLUNT
07. TALEK
08. NEZAH
09. A_L_P
10. ROY THE KING
11. LATRUN

Amazon / Tower / HMV / disk union

ブレインフィーダー10周年!
ヒップホップ、ジャズ、テクノを横断する稀代のレーベルの全貌

ケンドリック・ラマーとのコラボも記憶に新しい
フライング・ロータス、サンダーキャット、ジョージ・クリントン
の3大インタヴュー掲載!

つねに革新的な音楽を作り続けるフライング・ロータスの舵取りのもと、
オープンマインドな姿勢でヒップホップ、ジャズ、テクノを横断し、
多くの個性的な作品を送り出してきたLAのレーベルの足跡を徹底的に紐解く!!

ドリアン・コンセプト×ジェイムスズー、ジョージア・アン・マルドロウ
のインタヴューも掲載、充実のディスクガイドにコラム、貴重な写真も多数収録。

映画『KUSO』&『ブレードランナー』特別座談会:
渡辺信一郎(『マクロスプラス』『カウボーイビバップ』『サムライチャンプルー』)×
佐藤大(『カウボーイビバップ』『攻殻機動隊』『交響詩篇エウレカセブン』)×
山岡晃(『サイレントヒル』『BEAT MANIA』『LET IT DIE』)

特別インタヴュー:
TREKKIE TRAX(Masayoshi Iimori & Seimei)――新世代から見たLAの魅力

【執筆陣】
天野龍太郎、大前至、小川充、小熊俊哉、河村祐介、木津毅、小林拓音、
小渕晃、野田努、原雅明、バルーチャ・ハシム廣太郎、三田格、吉田雅史


contents

Flying Lotus

preface ジャズにクソを投げろ!――フライング・ロータスに捧げる (吉田雅史)
interview フライング・ロータス (三田格/染谷和美/小原泰広)
column 音楽の細分化に抗って――フライング・ロータス小史 (原雅明)
Flying Lotus Selected Discography (小林拓音、三田格、吉田雅史)
column ドーナツの輪をめぐる旅――フライング・ロータスとJ・ディラ (吉田雅史/大前至)
column 崩壊したLAの心象風景――フライング・ロータスの映画『KUSO』が描きだすもの (三田格)
interview 渡辺信一郎×佐藤大×山岡晃 健康なクソをめぐる特別座談会 (小林拓音)

Brainfeeder 10th Anniversary

column ブレインフィーダーはどこから来て、どこへと向かうのか――レーベル前史とこれまでの歩み (三田格)
my favorite 私の好きなブレインフィーダー (大前至、小熊俊哉、河村祐介、天野龍太郎、吉田雅史、小川充、木津毅、小林拓音、三田格、野田努)
interview ジョージ・クリントン (野田努/染谷和美/小原泰広)
interview サンダーキャット (小川充/萩原麻里/小原泰広)
column ブレインフィーダーに影響を与えた音楽――ジャズ/フュージョンを中心に (小川充)
interview ドリアン・コンセプト×ジェイムスズー (小林拓音/川原真理子/小原泰広)
interview ジョージア・アン・マルドロウ (吉田雅史/バルーチャ・ハシム廣太郎)
Brainfeeder Selected Discography (小川充、小林拓音、野田努、三田格)

LA Beat

interview TREKKIE TRAX (Masayoshi Iimori & Seimei) (小林拓音/小原泰広)
correlation chart LAビート・シーン人物相関図 (吉田雅史)
column 世界を変えたムーヴメント――ロウ・エンド・セオリー盛衰記 (バルーチャ・ハシム廣太郎)
column LAビート・シーンの立役者――ストーンズ・スロウの物語 (大前至)
Stones Throw Selected Discography (大前至)
column ギャングスタ・ラップからLAが学んだもの――西海岸サウンドの系譜 (小渕晃)
LA Beat Selected Discography (大前至、小林拓音、野田努、三田格、吉田雅史)

DMBQ - ele-king

 今年2月に通算12枚目、じつに13年ぶりとなるアルバム『KEEENLY』を発表し話題をさらったDMBQ。その最新作のアナログ盤がなんと、〈DRAG CITY〉およびその傘下の〈GOD?〉からリリースされることが決定しました。発売は11月16日で、LP2枚組の仕様、ボーナストラックも追加収録されます。来年には〈GOD?〉を主宰するタイ・セガール(彼も今年新作『Freedom's Goblin』を発表)とのUSツアーも決まっているとのこと。
 また、今回のリリースを記念し、2本のライヴが開催されます。11月17日(土)@新代田FEVER、12月24日(月祝)@京都 METRO。ふたたび世界へ向け飛び立たたんとしている彼らの最新ライヴに、ぜひ足をお運びください。

DMBQ、今年2月発表のアルバム『KEEENLY』が米〈DRAG CITY〉 / 〈GOD?〉よりアナログ2枚組LPでリリース。全米及びヨーロッパで発売決定。ボーナストラックも2曲追加。Ty Segall とのツアーも。

2018年2月、13年ぶりとなるニュー・アルバム『KEEENLY』を発表し、その圧倒的轟音とノイズを武器に、ロック・ミュージックの全く新しい切り口を提示することで音楽シーンを震撼させた DMBQ。そのアルバム『KEEENLY』が、アメリカの名門レーベル〈DRAG CITY〉、及びその中に Ty Segall が設立したアナログ・レコード専門レーベル〈GOD?〉より、2枚組LPレコードとなって全世界に向けてリリースされることになった。

きっかけはこの春行われた Ty Segall の日本ツアーでの DMBQ との競演。DMBQ の凄まじい音の存在感とオリジナリティ、そして脅威的なライヴ・パフォーマンスを観て、まずは2週間後から行われるヨーロッパ・ツアーへの帯同を初日のライヴで即オファー。さすがに予定も合わず、さらにはここまで急な調整もつくはずもなく……でこれは断念したものの、ツアー中に『KEEENLY』を聴いた Ty は、本作のアメリカ他海外でのリリースと、アメリカ本国での Ty Segall との合同のツアーはできないか? とツアー中に続けてオファー。当の DMBQ としても、元々本作のリリースを足掛かりに、アメリカ及び諸外国での活動復帰を計画していた事もあり、話はあっという間に決まっていったという。リリースにあたり、〈DRAG CITY〉単体でのリリースも打診されたが、Ty が「絶対に自分が関わっている〈GOD?〉から出したい!」と熱く誘ったこともあり、〈GOD?〉制作・〈DRAG CITY〉販売という豪華さで、2枚組LPとしてめでたくリリースされる運びとなった。また、すでに来年には米国での Ty Segall とのスプリット・ツアーが予定されており、DMBQ の活動は再び海外へと羽ばたいてゆくこととなりそうだ。
 今回のリリースには、アルバム4面目を飾る2曲の新録ボーナス・トラックが追加されている。スプリング・リヴァーブを破壊的に振動させる強靭なベース音にアブストラクトなドラムが絡むへヴィ・ナンバー“When I Was A Fool”と、歪んだオルガンの裂け目から、極上の甘いエコーが香りたつ美麗なインスト・ナンバー“The Cave And The Light”。2曲ともに通常の DMBQ の楽曲とは少し趣を異にしつつも、DMBQ らしいノイズと音響の意匠が際立った、ボーナストラックならではの自由度の高いサウンドが聴ける。

リリースに際し、Ty Segall からコメントが寄せられている。
以下:

“There is no band like DMBQ. They are unique destroyers of sound, and lovers of sonic beauty, existing in the places between. Masters of harsh tone and psychotic rhythm. “Keeenly” is an alien planet type record, evoking images of landscapes and weather patterns found in other galaxies. Purple wind and green fire.”
「DMBQ のようなバンドは他にはない。彼らはハーシュ・トーンと狂気のリズムの名匠として、比類なき音の破壊者、または、音響美の恋人、その両側面の中間に存在する。『KEEENLY』は、紫の風や緑の炎のような、違う銀河系の景色や気候を思い起こさせる地球外型のレコードだ。」

 このリリースを記念して、11月17日(土)新代田 FEVERにて、12月24日(月祝)に京都 METROにて発売記念ライヴを行う。京都 METRO ではアメリカより一時帰国する嶺川貴子が、非常に珍しい本人名義でのライヴで参加。かつてと変わらない歌声と独自の空気感が会場を支配する、嶺川の深遠なライヴも見逃せない。
 来年より再び海外へと活動の場を広げてゆく DMBQ の、現時点での総決算となるライヴ。音響面でもいつも以上の万全の準備をして、堂々のライヴ・パフォーマンスと高圧力なサウンドを披露したいとのこと。DMBQ の今をしっかりと確認しておいてほしい。

DMBQ Album "KEEENLY" Vinyl 2xLP Release Anniversary Show

■11月17日(土)新代田 FEVER
出演:DMBQ, COMPUMA, K.E.I (VOVIVAV, OOO YY)
時間:OPEN 19:00~
チケット:前売¥2,800 当日¥3,300
LAWSON Ticket: L:75943, e+で取り扱い中。
問い合わせ:FEVER 03-6304-7899

■12月24日(月祝)京都 METRO
出演:DMBQ, 嶺川貴子
時間:OPEN 19:00~
チケット:前売¥3,000 当日¥3,500
*期間・枚数限定早割り¥2,500発売予定。詳しくは METRO HP にて。
問い合わせ:METRO 075-752-4765


DMBQ『KEEENLY』
2018年11月16日発売(米国)
発売元:DRAG CITY / GOD?
Catalog/Serial #:GOD#015
日本国内取り扱い:DISK UNION

Gottz - ele-king

 とどまるところを知らない KANDYTOWN からまた新たな一報です。同クルー内でもひときわ強烈なインパクトを放つMCの Gottz が、本日ソロ・デビュー・アルバムをリリースしました。MUD をフィーチャーした“+81”のMVも昨日公開済み。いやもうとにかく一度聴いてみてください。フックがあまりにも印象的で頭から離れなくなります。Neetz、Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young Vision)らが参加した『SOUTHPARK』、これは要チェックです。

KANDYTOWNのラッパー、Gottz の MUD をフィーチャーした“+81”のMVが公開!
その MUD や Neetz、Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young
Vision)らが参加した待望のソロ・デビュー・アルバム『SOUTHPARK』がいよいよ本日リリース!

 KEIJU as YOUNG JUJUやDIAN、MIKI、DJ WEELOWらとともに結成したグループ、YaBasta として活動し、IO や Ryohu らを擁するグループ、BANKROLL と合流して KANDYTOWN を結成。16年リリースのメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』でも“The Man Who Knew Too Much”や“Ain't No Holding Back”、“Feelz”といったライブでも定番な楽曲で猛々しいラップを披露して注目を集め、グループとしての最新曲“Few Colors”でもラップを担当。また IO や YOUNG JUJU、DONY JOINT、MUD といったメンバーのソロ作品にも立て続けに参加し、大きなインパクトを残してきたラッパー、Gottz(ゴッツ)! KANDYTOWN 内でも一際目立つアイコン的な存在でもあり、ラッパーとしてだけでなくモデルとしても活躍し、BlackEyePatch のコレクションやパーティに出演したことも話題に!
 その幅広い活動からソロ・リリースの待たれていた Gottz の正に待望と言えるソロ・デビュー・アルバム、その名も『SOUTHPARK』から KANDYTOWN の仲間でもある MUD が参加し、自己名義アルバムのリリースも話題な KM がプロデュースした先行曲“+81”のミュージック・ビデオが公開! Reebok CLASSICがサポートしており、BAD HOP や YDIZZY、Weny Dacillo らの映像作品にも関与してきた KEN HARAKI が監督を担当している。
 そしてその MUD や Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young Vision)が客演として、KANDYTOWN の Neetz や FEBB as YOUNG MASON、Lil’Yukichi、KM がプロデューサーとして参加した『SOUTHPARK』がいよいよ本日リリース!

Gottz "+81" feat. MUD (Official Video)
https://youtu.be/Y15eBPsYL5g


[アルバム情報]
アーティスト: Gottz (ゴッツ)
タイトル: SOUTHPARK (サウスパーク)
レーベル: P-VINE / KANDYTOWN LIFE
品番: PCD-27039
発売日: 2018年10月17日(水)
税抜販売価格: 2,700円
https://smarturl.it/gottz-southpark

[トラックリスト]
1. +81 feat. MUD
Prod by KM
2. Makka Na Mekkara
Prod by Lil’Yukichi
3. Don't Talk
Prod by Lil’Yukichi
4. Count It Up (PC2)
Prod by Lil’Yukichi
5. Kamuy
Prod by KM
6. Move! feat. Hideyoshi
Prod by KM
7. Summertime Freestyle
Prod by YOUNG MASON
8. Raindrop
Prod by KM
9. The Lights feat. Ryugo Ishida, MUD
Prod by Neetz
10. Neon Step - Gottz, Yo-Sea & Neetz
Prod by Neetz
Guitar : hanna
* all songs mixed by RYUSEI

[Gottz プロフィール]
同世代の KEIJU as YOUNG JUJU や DIAN、MIKI、DJ WEELOW らとともに結成したグループ、YaBasta のメンバーとして本格的に活動を開始し、IO や Ryohu らを擁するグループ、BANKROLL と合流して KANDYTOWN を結成。15年にソロ作『Hell's Kitchen』をフリーダウンロードで発表し、16年にはKANDYTOWNとして〈ワーナー・ミュージック〉よりメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』をリリース。

 今年も、筆者の暮らすメキシコの「死者の日」が近づいてきた。「死者の日」とは毎年10月31日~11月2日の3日間祝われるお盆のこと。メキシコじゅうがカラフルな切り紙の旗、ガイコツの砂糖菓子や、鮮やかなオレンジのマリーゴールドの花で彩られる。数千年前から受け継がれる先住民の風習と、スペイン侵略後のカトリック信仰が混合された独特な祭礼で、故人と生きている者たちが交流する期間だ。お盆にしては、華やかであり、まるで死ぬのも、そんなに悪くはないと語っているようだし、身近に感じさせる。
 そもそも、メキシコの暮らしは、死と隣り合わせである。2018年上半期だけでも1万6000に及ぶ殺人事件数があり、ここ10年以内に起こった女性殺人は2万3800件と増加傾向で、毎日7人の女性が殺されていることになる。1か月前には、うちの近所のメキシコシティ中心部ガリバルディ音楽広場で、マリアッチ楽団の衣装を着た殺し屋たちが、麻薬倉庫前に現れ、ロバート・ロドリゲスの映画みたいな銃撃戦が起こった。ここまで暴力が近いと、命がいくらあっても足りない。怒りと恐怖を抱くと同時に、どうせ儚い人生、濃く生きてやると腹をくくらせる。
 2018年12月から、「左派」大統領の新政権がうまれ、変化が期待されるメキシコではあるが、筆者のような働く移民にとって、光はあるだろうか? 2002年に元メキシコシティ市長は、元ニューヨーク市長ジュリアーニをメキシコシティ中心部の再開発指導者として呼び寄せ、ジェントリフィケーションの波を起こしたが、その元メキシコ市長オブラドールこそが、私たちの新大統領なのだから。筆者が夫と営む、吹けば飛ぶよな小さなアジア食堂は、開発が進む、ダウンタウンの一角にあり、年々値上がりする家賃と、工事を名目に突然断たれる電気や水道の供給と、チンピラども(警察を含む)との駆け引きの合間で戦々恐々としている。 それでも、ここで踏ん張ろうと思うのは、市井の人々は温かく、いちいち空気を読む必要なんてないし、失敗も恥ずかしくない。自分のリズムで呼吸でき、何度でも生き返られる場所だからだ。

 そうは言っても、へこみそうな時に、食堂で店内音楽としてCDでよくかけるのがエル・ハル・クロイの音楽だ(当食堂のBGMはCDだ。メキシコではスポッティファイが音楽を聴くためのメインメディアになりつつあるが、あえて抵抗している)。
 スペイン語の定冠詞「EL」に、「黒い春」という日本語をミックスした名を持つこのバンドは、メキシコ系米国人=チカーノたちが多く暮らす、イースト・ロサンゼルス出身。哀感あるギターと可憐なヴォーカルのエディカ、ジャジーなベースのマイケル、変拍子を巧みに取り入れたドラムのドミニクから成るトリオだ。2007年にアルバム『サブン』でデビューし、今までに『カンタ・ガジョ』(2013年)、『192192192』(2016年)の、3枚のアルバムを発表。2016年には日本ツアーも行った。彼らの音には、60年代後半、ブラジルの軍事政権に抵抗して起こった音楽ムーヴメント、トロピカリアや、メキシコやキューバで古くから歌い継がれているボレロ、ラテン各国で鳴り響くクンビア、アフロペルー音楽、ジャズ、そしてパンクやロックの影響を受けているが、ミクスチャーではない。伝統と前衛が同居したエル・ハル・クロイとしか言いようがない世界で、その魂の底から立ち上るようなブルースに労われる。甘美でありながら、生ぬるい癒し音楽ではない。

 そんなエル・ハル・クロイが、なんと、日本でメキシコの死者の日を祝うイヴェントに参加し、ツアーも行うという。そこで、ヴォーカルのエディカにメールでインタビューした。

 エル・ハル・クロイの3人は、イースト・ロサンゼルスのパサデナにある音楽学校の同期生により生まれた、アーケストラ・クランデスティーナというアフロファンクや、フリージャズを演奏する楽団のメンバーとして出会った。エディカは当時、打楽器と歌を担当していた。

「楽団の解散後、地元図書館のメキシコ独立記念イヴェントでスペイン語曲を歌うバイトのためにエル・ハル・クロイの前身ともいえるトリオを結成した。それが成功し、本格的に活動を始めた。最初は、アコースティック編成で、スペイン語で歌うグループだったけれど、のちにポルトガル語曲も加えるようになった。私にとって、英語よりも自分の第一言語であるスペイン語で表現するのが自然だった。ポルトガル語は、父がたくさんのブラジル音楽を聴いたり、演奏したりするので、身近だった。ブラジル音楽のリズミカルな歌が大好きで、スペイン語で、それを再現したりもした。でも、本格的に勉強したくて、UCLAの語学コースや、ブラジルのバイーアでも勉強した」

 音楽家になろうと思ったのには、父親の影響が大きいと語る。

「父の一家は、音楽を生業としているので、私が幼い頃から、周囲に音楽があふれていた。父は、ギター、ベース、ピアノを演奏し、歌手でもあった。私は、5歳から父と歌い、思春期にはギターを演奏しはじめた。その時から自分の曲を演奏するのにやりがいを見つけた」

メキシコ人の両親が、メキシコシティからイースト・ロサンゼルスのボイルハイツに移住してから、エディカは生まれたのだが、「自分はメキシコ人だ」という。

「母は私を妊娠しながら国境を超えたので、メキシコ仕込みと言えるでしょ(笑)。両親はロサンゼルスで英語を学んだけど、家庭ではいつもスペイン語で会話したし、私をメキシコ人として育てた。10代までは、父の仕事の都合で、メキシコで過ごすことが多かった。幼少期には南部のオアハカやベラクルス、思春期にはメキシコシティや、グアナファトで数年暮らした。私の両親は、1960年代の公民権運動などのチカーノ・ムーヴメントの頃に、米国にはいなかったし、私はチカーノとして育っていない。エル・ハル・クロイは、 「イースト・ロサンゼルス出身の米国とメキシコにルーツを持つグループ」と言える。ただ、他の2人のメンバー(マイケルとドミニク)の両親は米国で生まれ、チカーノとして位置付けられる。でも、私たちの音楽は位置付けを必要としないし、カテゴライズは、表現を制限させる」

 メキシコとラテンアメリカの文化は、彼女のインスピレーションの源泉だが、ロサンゼルスも、音楽やアートを学び、大切な仲間たちと出会い、人生の転機となった、重要な場所であるのには変わりない。そんなロサンゼルスを舞台にした『ELLA(彼女)』という曲(2018年10月にEPとして発売)では、夜明けとともに自宅を出て、日中は遠くの高級住宅でハウスキーパーとして働き、夜更け前に帰宅して、ようやく、自分の子どもと過ごせる母親の日常を美しく歌い上げている。

「私が幼かった頃、母はビバリーヒルズの富裕層の家の清掃や、その家の子どもたちの面倒を見る仕事をしていた。週末に私をその家に連れて行くこともあったんだけど、そこで、彼らと私たちとの経済格差に気づいた。大人になって、イースト・ロサンゼルスからUCLAへへ向かう路線バスで、多くのラテン系の女性たちと乗り合わせた。彼女たちの多くは、ビバリー・ヒルズで降車した。そんな姿を見て、私の幼少期に母が同じような仕事をしていたのを思い出した。そこで、社会で不可視の存在とされている彼女たちに捧げる曲を作った」

 エル・ハル・クロイの曲の数々は、厳しい現実をまっすぐ受け止めながらも、あまりに詩的だ。それは、過酷な日々から一瞬でも解放させてくれるような、優しく強い音楽でもある。エディカは、ほどんどの曲の歌詞を担うが、どうやってこのスタイルに行き着いたのか。

「私はいつでも詩を書いていて、そこから曲が生まれることが多い。音楽以外には、ビジュアル・アートの勉強をしていたので、その一環でイースト・ロサンゼルスの美術学校で、浮世絵の北斎や広重、メキシコのグアダルーペ・ポサダのような古来からの方式で木版画を教えるクラスがあり、習得した。版画のモノトーンから表現する世界は、私の音楽にも影響を与えている。言葉のイメージを膨らませて絵を描くことも好き。私の夢の一つは、自らが描いた絵をアニメーションにして、エル・ハル・クロイの3作目のアルバム『192192192』に収録された日本語とポルトガル語の曲、「YAGATE」のプロモビデオを作ること。誰か日本のアニメーション作家とコラボレーションできたらと思っている。でも、曲を映像化することよりも、その曲じたいが、聴き手の想像力を掻き立て、それを視覚化できるのが大事だと思う」

 現在、4枚目にあたるエル・ハル・クロイの新作を制作中で、人間の眠っている能力や直感についてをテーマにし、リインカーネーションについての曲も含まれるという。

「音楽で表現したいのは、貧困層への不公平さ、差別、私のような移民の子どもたちに起こる、不特定の土地を移動しながら暮らす体験、人生と死、愛、そして亡くなった愛する人たちを思い出すこと」と語るエディカ。今回、日本で死者の日を祝うイベントに出演し、ツアーを行う(11月2日から代官山・晴れ豆を皮切りに全国6カ所を回る)ことについては、こう語っている。

「再び大好きな日本へ行けることが嬉しいし、興奮している。このことを謙虚に受け止めて、私たちの音楽や伝統文化を、日本のみんなと少しでも共有したい。音楽を作り、何年もグループを続けていくのには、とても努力を強いることだったので、報われる思い。この繋がりが続くといいな」

 エル・ハル・クロイの演奏は、日本へメキシコ、ロサンゼルス、ラテンアメリカの美しい空気を運ぶことだろう。その美しさは、わかりやすいものではないかもしれないが、暗闇の中の一筋の光のように、ひときわ強く輝いているのだ。(文:長屋美保)

■エル・ハル・クロイ「死者の日」ジャパン・ツアー

☆エル・ハル・クロイカリフォルニア州ロサンゼルスから登場した3人組音楽グループ。今やロサンゼルスの人口の半分を占める所謂ラティーノと呼ばれる中南米系住人の文化・社会的拠点であるイースト・ロサンゼルスの出身。現在まで3枚のアルバムを発表。ランチェーラと呼ばれる伝統のメキシコ音楽、クンビアというコロンビア発祥で中南米中に伝播したダンス音楽、またブラジル音楽、さらにアメリカの前衛音楽やジャズなどにも大きく影響を受け、今までのチカーノ・ロックやミクスチャー・ロックとは異なる独創性の高い音楽を奏でる。また、不法滞在、暴力、貧困などのコミュニティが抱える問題への高い意識、メキシコから国境を超えて伝わった伝統とアメリカ文化が融合・発展を遂げてきた豊穣なチカーノ文化・社会への誇り、ラティーノだけでなくアジア系など多様化するロサンゼルスの現在の空気感も巧みに混ぜ合わせ、その独創性高いサウンドのなかに、複雑なテーマ性も内包し独特の魅力を漂わせている。大熱演となった2016年のツアー以来、第2回目の来日。

メンバー
エディカ・オルガニスタ(Gt. Vo)
マイケル・イバーラ(Ba)
ドミニク・ロドリゲス(Dr. Vo)

11月2日(金)代官山 晴れたら空に豆まいて
Open:18:30/Start:19:00
予約\3,900 / 当日\4,400(+1ドリンク別途)
Live:Shoko & The Akilla、Los Tequila Cokes
DJs: Trasmondo DJs、星野智幸、Shin Miyata
Tacos: Taqueria Abefusai、Octa
Shop: Barrio Gold Records
詳細・予約:https://mameromantic.com/?p=60288


11月3日(土・祝)金沢 FUNCTION SPACE
Open:20:00/Start:21:30
予約\3,500 / 当日\4,000(1ドリンク付)
DJs: U-1、ハンサム泥棒(KYOSHO & YASTAK)、中村一子(Record Jungle)
Tacos: Ricos Tacos
Shop: Barrio Gold Records
後援:北國新聞社、北陸中日新聞、エフエム石川、HAB北陸朝日放送、テレビ金沢、
北陸放送
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60305


11月4日(日)大阪 do with cafe
Open:18:30/Start:19:00
予約\3,500 / 当日\4,000(+1ドリンク別途)
Live: Conjunto J、カオリーニョ藤原
DJs: TZ(EL TOPO)、Shin Miyata
Tacos: Cantina Rima
Shop: PAD、Barrio Gold Records
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60309


11月5日(月)高知 五台山・竹林寺
Open:17:30/Start:19:00
予約\3,000 / 当日\3,500
Tacos: Masacasa Tacos
Shop: Masacasa Music
Supported by Masacasa Music、 竹林寺、Bar a Boucherie 松原ミート、Mushroom
record
予約:Masacasa Music(9/27以降)担当:都筑 080-9832-6081 /
masacasamusic@gmail.com

11月6日(火)徳島 Amusement BAR Fly
Open:19:00/Start:19:30
予約\3,000 / 当日\3,500(+1ドリンク別途)
Live: 越路姉妹
Shop: Barrio Gold Records
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60315


11月8日(水) 横浜 B.B. Street
Open:18:30/Start:19:30
予約\3,000 / 当日\3,500(+1ドリンク別途)
Live: gnkosaiBAND .
Shop: Barrio Gold Records
https://www.bbstreet.com/


■■公演予約方法■■
11/5高知公演、11/8横浜公演以外の公演については下記で承ります。
電話:晴れたら空に豆まいて:03-5456-8880(14:30-23:00)
MUSIC CAMP, Inc. TEL: 042-498-7531 e-mail:ehk@m-camp.net
※件名を「エル・ハル・クロイ予約」として、本文に公演日、お名前、人数、ご連絡
先電話番号を明記ください。

総合サイト⇒ https://www.m-camp.net/ehk2018.html

招聘・制作:晴れ豆インターナショナル / BARRIO GOLD RECORDS / MUSIC CAMP,Inc.

また文中に出て来る関連動画は以下です。
☆DIA DE LOS MUERTOS
https://www.youtube.com/watch?v=2luTdONIFfQ

☆ELLA
https://www.youtube.com/watch?v=3UbkD_3pVFs

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