「KING」と一致するもの

R.I.P. Biz Markie - ele-king

 ヒップホップ・シーンの中でも唯一無二なユーモアあふれるキャラクターで、多くのファンから愛されていたラッパー、Biz Markie (本名:Marcel Theo Hall)が7月16日、メリーランド州ボルチモアの病院にて亡くなった。享年57歳。妻である Tara Hall に看取られながら、息を引き取ったという。
 死因は発表されていないが、一部では糖尿病による合併症と報じられている。Biz Markie は2010年に2型糖尿病と診断され、昨年には糖尿病治療の入院中に脳卒中になり、一時は昏睡状態になっていたとも伝えられていた。その後、意識は回復していたものの闘病生活は続き、今年7月頭には Biz Markie が亡くなったという噂がインターネット上で広まり、代理人が否定のコメントを発表するという騒ぎも起きていた。

 1964年にニューヨーク・ハーレムにて生まれ、その後、ロングアイランドにて育ったという Biz Markie。ちなみに同じくラッパーの Diamond Shell は彼の実兄であり、Biz Markie のバックDJを務めていた Cool V は彼の従兄弟にあたる。
 10代半ばからラップをはじめた Biz Markie は80年代初期にはハウス・パーティや学校のパーティにてマイクを握り、徐々に活躍の場を広げていき、その後、クイーンズを拠点とするロデューサー/DJの Marley Marl 率いる Juice Crew の正式メンバーとなる。Juice Crew 加入当初は当時、人気アーティストであった MC Shan や Roxanne Shante のライヴのサポート・メンバーとしてステージに立ち、ヒューマンビートボックスを披露。1986年にリリースされた Roxanne Shante のシングル「The Def Fresh Crew/Biz Beat」にも Biz Markie のヒューマンビートボックスが使用されており、このシングルは彼にとって最初のリリース作品となった。
 Biz Markie 自身がデビューを飾ったのが、同じく1986年にリリースされた 1st シングル「Make The Music With Your Mouth, Biz」で、Marley Marl がプロデュースを務めているが、Biz Markie 自身も曲の制作に深く関わっており、お得意のヒューマンビートボックスも披露している。また、このシングルも含めて、Biz Markie の初期の作品のリリックのいくつかを彼の盟友でもある Big Daddy Kane が手がけていたこともファンの間では有名な話だろう(Biz Markie が曲のテーマやコンセプトを伝えて、それを Big Daddy Kane がリリックにしていた)。
 1988年には 1st アルバム『Goin' Off』、翌年には 2nd アルバム『The Biz Never Sleeps』をリリースし、この 2nd アルバムからシングルカットされた “Just A Friend” はビルボードの総合シングル・チャートで最高9位に入るなど、Biz Markie 自身にとっても最大のヒット曲になった。一方、1991年にリリースされた 3rd アルバム『I Need a Haircut』では、収録曲 “Alone Again” における Gilbert O'Sullivan (ギルバート・オサリヴァン)の楽曲からのサンプリングが著作権侵害にあたるとして訴えられ、アルバムは一時販売停止に。これまでヒップホップ作品のサンプリングに関してはグレーゾーンの扱いであったが、この件以降、メジャー・レーベルではサンプリングに関して著作権所有者に事前に確認することが一般化していくことになる。
 心機一転を図った、1993年リリースの 4th アルバム『All Samples Cleared!』(このタイトルも最高!)からは、ディスコ時代の大ヒット曲である McFadden & Whitehead “Ain't No Stoppin' Us Now” をバックにヘタウマな歌を炸裂させた “Let Me Turn You On” が大ヒットして、Biz Markie の健在っぷりを強く印象づけた。そして、2003年には結果的にラスト・アルバムとなってしまった『Weekend Warrior』を発表している。

 その愛されるキャラクターによって、広く音楽シーンから支持されていた Biz Markie は様々なアーティストの作品にフィーチャリングされており、同じ Juice Crew の Big Daddy Kane や Kool G Rap & DJ Polo を筆頭に、Beastie Boys、De La Soul、Beatnuts、Princ Paul、Cut Chemist といったヒップホップ勢に加えて、Usher や Nick Cannon といったR&Bシンガーの作品にもゲスト参加。さらに1997年にリリースされた The Rolling Stones のシングル「Anybody Seen My Baby」にて、前出の 1st シングル「Make The Music With Your Mouth, Biz」のカップリング曲 “One Two” がサンプリングされたことも大きなニュースとなった。さらに彼のキャラクターは音楽シーンを飛び越えて、人気子供番組『Yo Gabba Gabba!』への出演でも話題を呼び、映画『Men In Black II』ではヒューマンビートボックスをする宇宙人役での出演も果たしている。

 最後に日本との繋がりを記して終わりたい。日本にも数多くのファンを持つ Biz Markie だが、90年代半ばにはすでに初来日を果たしており、その後、ライヴやDJなどで何度も日本を訪れている。2015年にはヒップホップ・フェス《SOUL CAMP》に出演し、その2年後の2017年の来日公演が最後となった。さらに日本のヒップホップ・シーンからも人気の高かった彼は、テイ・トウワ(TOWA TEI)、dj honda、DJ HASEBE、NIGO といった日本人プロデューサー/DJの作品にもゲスト参加している。

 “Make The Music With Your Mouth, Biz”、“Just A Friend”、“Let Me Turn You On” 以外にも “Nobody Beats the Biz”、“Vapors”、“Spring Again” といった数々のヒップホップ・クラシックを残し、さらに “Picking Boogers” や “Toilet Stool Rap” のようないままでのヒップホップの楽曲にはなかったユーモアあふれる歌詞の世界観でヒップホップの可能性を広げてきた Biz Markie。これからも彼の楽曲は愛され続けるであろうし、誰も Biz Markie を倒すことはできない。

interview with Ravi Coltrane - ele-king

 ジョン・コルトレーンの夫人にして、自らもピアニスト/オルガン奏者/ハープ奏者として活動したアリス・コルトレーン。ジョンの生前最後のバンド・メンバー及びコラボレーターで、1967年の死別後はソロ活動に転じ、〈インパルス〉や〈ワーナー〉などに数々の作品を残している。1970年代にはファラオ・サンダースやジョー・ヘンダーソンらと共演し、『プター・ジ・エル・ドード』(1970年)、『ジャーニー・イン・サッチダナンダ』(1971年)、『ユニヴァーサル・コンシャスネス』(1971年)など、現在のスピリチュアル・ジャズの源流となるような作品をリリースする。スピリチュアル・ジャズやフリー・ジャズと言っても、彼女の場合はインドの思想や音楽に影響を受けたメディテーショナルなサウンドが特徴で、一方『ジ・エレメンツ』(1974年)や『エタニティ』(1976年)ではエキセントリックな電化ジャズ・ファンクを見せ、1980年代以降の作品は宗教色やゴスペル色が強まり、ニューエイジ・ミュージックやヒーリング・ミュージックとして捉えられるものも少なくない。後進のミュージシャンにも多大な影響を与えてきたが、そうした後進にはジョンとの息子であるサックス奏者のラヴィ・コルトレーンがおり、そのはとこにあたるフライング・ロータスもアリスの影響を受けた血縁者のひとりである。

 2007年に没するアリス・コルトレーンだが、生前の彼女は演奏活動以外ではヒンディー教に入信し、教育活動にも力を注いできた。1980年代は商業音楽から身を引き、教育や礼拝で使う音楽をプライヴェートで制作している。1982年に自主制作で発表した『トゥリヤ・シングス』もそうした作品で、オルガン演奏のほかに彼女の初めての歌声も聴くことができる貴重な録音だ。今年は〈インパルス〉の創立60周年を記念し、アリスの〈インパルス〉時代のアルバムが次々とリイシューされていくが、それと同時にこの『トゥリヤ・シングス』が新たに『キルタン~トゥリヤ・シングス』として蘇る。この初CD化に際してラヴィ・コルトレーンが企画に関与し、新たにミックスとマスタリングを施したものとなっているそうだ。そこにはある理由が存在するのだが、ラヴィ自身にその理由や『トゥリヤ・シングス』にまつわる話、さらにアリスとの思い出などを尋ねた。


リリースのタイミングがいまこの時期だったというのは、偶然なのかどうかわからないけど、世界がこの音楽を聴くタイミングはいまなんじゃないか、と思うんだ……。みんなをひとつにし、世の中を悩ませる物事に癒しをもたらすのではないかと思っている。

この度アリス・コルトレーンが1982年にカセット・テープで発表した『トゥリヤ・シングス』が、『キルタン~トゥリヤ・シングス』として初CD化されます。当時アリスは商業的な音楽活動から身を引き、東洋思想に傾倒して宗教音楽や音楽教育に力を注いでいたのですが、このテープも音楽教育の一環として彼女の生徒たちに配るために作られたものでした。今回CD化をおこなうに至った経緯についてお聞かせください。あなたも参加したアリスの生前最後の作品『トランスリニア・ライト』(2004年)の制作中に、この音源が再発掘されたそうですが。

ラヴィ・コルトレーン(Ravi Coltrane、以下RC):そうだね、母が当時メジャー・レーベルの契約の責務を離れて、あらゆる意味でメジャーな音楽シーンから遠ざかって、スピリチュアルな道に突き進んでいた(註1)、という君の見解は正しい。母は1960年代も1970年代もスピリチュアルな方向性に動いていたんだけど、1980年代には完全にスピリチュアル方面に従事していたようだね。当時の彼女が作っていた音楽は、そのスピリチュアルなコミュニティに向けてのみ制作していたようだ。『トゥリヤ・シングス』は特に彼女のアシュラム(註2)のメンバーに向けてのものだった。カセットのみのリリースで、商業的なリリースではなかったんだ。そうした音楽は教育のものでもあったけど、彼女の生徒たちとコミュニティを高揚させるものでもあった。

註1:スピリチュアルについてはさまざまな意味があるが、そのなかに霊的なものや精神世界があり、現代では占星術やヒーリング、ヨガなどの分野から、カルト宗教やオカルト世界においても用いられる。アメリカでスピリチュアルに関する顕著な例として、1960年代から1970年代にかけて大きなうねりを生んだニューエイジ・ムーヴメントがあげられる。人間性の解放を謳うニューエイジ・ムーヴメントは、反戦運動やヒッピー・カルチャーといった当時の世相や風潮とも結びつきを見せ、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーが提唱したインドの瞑想思想とコミットして精神世界へ足を踏み入れていった芸術家や作家、知識人がいた。著名なところでザ・ビートルズ、シンガー・ソングライターのジョン・デンバー、女優のシャーリー・マクレーン、アップル創業者のスティーヴ・ジョブスなどがいるが、アリス・コルトレーンも時代的にこうしたニューエイジ・ムーヴメントの影響を受けたひとりだった。
註2:ヒンドゥー教における山間の僧院のことで、この場合はヨガなどのセミナーをおこなっていたと考えられる。

 1970年代の母は年に数回に渡りインドへ旅をしていて、年によっては数回以上訪れたこともあった。そして行くと数週間滞在していたものだ。ヒンドゥー教などを学び、スピリチュアル・グル(註3)やアドヴァイザーなどを探し求めていた。伝統的なヒンディー語の曲や歌を学んだりしていくにつれて、自分でもその手の音楽の作曲をするようになった。サンスクリット語や古代のヒンディー語の言葉で歌われるような楽曲を作るようになったんだ。『トゥリヤ・シングス』というタイトルになったのは、20年以上の音楽キャリアを積んできた母が初めて自分の声をスタジオでレコーディングしたからなんだ(註4)。母はかなり若いときから音楽活動をしていて、1958年の後半から1959年にパリでしばらく活動をしたりした。そうしていろいろなキャリアを重ねていったから、この手の新しいタイプの音楽を作るという風になったときでも、もうすでにそれに対する準備は整っていたんだ。

註3:グルはサンスクリット語で師や指導者を指し、ヒンディー教における精神修養の先生を意味する。アリス・コルトレーンはグルのひとりであるサティヤ・サイ・ババに師事している。
註4:トゥリヤとはアリス・コルトレーンのヒンディー教の改宗名であるトゥリヤサンギータナンダを由来とする。

 オリジナルの『トゥリヤ・シングス』を初めて聴いたときのことを覚えているよ。レコーディングがおこなわれた1981年、僕はまだ16歳だった。母の声をレコーディングとして聴いたことがなかったので、ものすごくパワフルな声で母が実際に歌っているということに驚いた。非常にユニークで豊かなアルトの音域だった。母がもともとリリースしたオリジナルの『トゥリヤ・シングス』は好きだったけど、2004年にいままでに聴いたことのなかったあるミックスを発見したんだ。オリジナルの『トゥリヤ・シングス』では聴くことがなかった録音を発見したんだよね。1982年のオリジナル版には重ね録りしたパートがたくさん入っているけど、2004年に発見したものは1982年ヴァージョンの元になったと思われる音源で、母の歌と自身でウーリッツァー(註5)を伴奏した録音が入っていただけのものだったんだ。ほとんどファースト・テイクで、修正などはほぼ入っていない作品だった。それに母はストリングスやシンセサイザーのアレンジ、嵐や風の効果音を付け足して1982年にリリースしたんだ。

註5:楽器メーカーのウーリッツァー社はエレクトリック・ピアノ、オルガン、シンセサイザーなど様々な鍵盤楽器を製作していたが、アリス・コルトレーンはセンチュラ・プロフェッショナル・オルガン・ウィズ・オービット・III・シンセサイザーというアナログ・シンセ内蔵オルガンの1971年製805型を愛用していた。

 その歌とオルガンだけの元の音源を聴いたときに、僕はそれにいたく感動した。彼女のヴォーカルとウーリッツアーのパフォーマンスの深みのある感覚を体感できたんだ。いままで重ね録りをしていたことで聴くことができなかった細部がクリアに見えてきた。
 そうして2004~2005年ぐらいからいままでずっと気になっていた音源だったんだ。できることなら重ね録りの部分が入っていない、アリスの歌と伴奏のみのこの最初のヴァージョンをリリースしたいと思っていた。これらのパフォーマンスには慈愛が感じられたんだよね。

これを聴くと僕は当時のみんなで集まる日曜日の礼拝に戻ることができる。母はオルガンの前で演奏し、このような歌をみんなで歌いはじめる。より直接的に、パーソナルな形で音楽と繋がる方法だと思ったんだよね。

今回のCD化にあたってはウーリッツァーと歌声のみにフォーカスし、なるべく最初のテイクに近づけたミックスやマスタリングがおこなわれているそうですね。

RC:もともと『トゥリヤ・シングス』は1982年に個人的にリリースされたものだったけど、インターネットの普及によってシェアされたりして人の手に渡ってきた。そうしたこともあって、アリス・コルトレーンのファンはこの1982年ヴァージョンをすでに知っていると思う。多くの人たちはオリジナル・リリースのファンでもあり、この1982年のヴァージョンもみんな大好きなんだよね。
 でも、僕が聴いてみて思ったのは、2004年に発見したファースト・テイクのオルガンとアリスの声だけのほうが、アリスの本当の世界を体験できるんじゃないかなということなんだ。実際に1980年代当時の母が演奏しながら先導するキルタンの礼拝に出るとこういう感じのものだったよ。場合によっては20~30名ほどの人びとが部屋のなかにいて、母がオルガンの前で演奏するという感じのものだった。当初はできればこのファースト・テイクを世に出したいと思っていたのだけれど、残念ながらそれはただのミックス・テープで、CDとしてきちんとリリースできるような録音状態ではなかった。
 そうするなかで昨年に1982年版のマスター・テープ(1981年の録音時の24トラック・マスター)が見つかって、それを元にファースト・テイクに近づけるように編集することを思いついた。僕もリモートでミックスとマスタリング作業に立ち会って、こうして今回リリースする『キルタン~トゥリヤ・シングス』はファースト・テイクに近い形で歌とオルガンにフォーカスしたものになったんだ。これを聴くと僕は当時のみんなで集まる日曜日の礼拝に戻ることができる。母はオルガンの前で演奏し、このような歌をみんなで歌いはじめる。より直接的に、パーソナルな形で音楽と繋がる方法だと思ったんだよね。

企画者、プロデューサーとして、いま『キルタン~トゥリヤ・シングス』を再リリースする意味についてお聞かせください。

RC:タイミングが全てだと思っている。物事というものは、それぞれが持つ適切なタイミングでおこなわれなければならないと思っている。『キルタン~トゥリヤ・シングス』は2004年とか、2005年とかにリリースされてもよかった。2010年、もしくは2015年にリリースされてもよかった。でも2020年、僕たちは地球上に住むうえでもっとも大変な時期をいま迎えていて、2021年も僕らはまだヒーリングを求めている。この惑星上ではヒーリングに対してのニーズが高まっているんだ。高い意識と人としての強いコネクションをみんな求めている。人類はひとつのファミリーとして、お互いを認識するようになっている。このような音楽は人びとをまとめてくれて、人びとのスピリットを高揚させると思う。リリースのタイミングがいまこの時期だったというのは、偶然なのかどうかわからないけど、世界がこの音楽を聴くタイミングはいまなんじゃないか、と思うんだ……。みんなをひとつにし、世の中を悩ませる物事に癒しをもたらすのではないかと思っている。

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最新のものはつねに取り入れていた。テクノロジーの変化が彼女のスピリチュアルな人生への探求心と結びついて、音楽的な変遷や変化をもたらしたんじゃないかな。そして、変化とは局所的なものではなく、全てのものが有機的に移り変わっていったという感じだね。

今回のタイトルに用いた「キルタン」とは音楽に合わせて神の名前を唱えながら祈りを捧げるという、一種の「歌うヨガ」を指しているそうですね。あなた自身はこの作品についてどのように理解していますか?

RC:僕はこのCDは宗教音楽だとは思っていない。これはスピリチュアル・ミュージック(註6)、ディヴォーショナル(祈りの)・ミュージックだと思っている。ひとつの宗教教義を歌っているものではないと思っているし、全ての神聖な音楽を表わすユニヴァーサルなものだと思っている。この音楽を表現するとしたら、そういった言葉がいちばん適切だと思うんだ。献身的な愛というテーマを通して心と繋がる、スピリットと繋げてくれるものだし、この音楽はどこか優美で、幸福に満ちて、喜びに溢れている感じがする。母はこの音楽をサウンド・オブ・ピース(平和の音)、サウンド・オブ・ラヴ(愛の音)、サウンド・オブ・ライフ(生命の歌)と表現していた。幸福のサウンドとも言っていた。これらの音楽を聴いて瞑想していても、一緒にチャントをしていても、スピリットを高揚させてくれるものなんだよね。意識を引き上げてくれるんだ。それがこの音楽が作用するものだと思う。

註6:スピリチュアル・ミュージックはいろいろな解釈ができるが、たとえばヒーリング・ミュージック(癒しのための音楽)もそのひとつと言える。

オリジナル・カセットをリリースした〈アヴェイター・ブック・インスティチュート〉はアリスが設立した出版会社だったのですか? ほかにも『ディヴァイン・ソングス』『インフィナイト・チャンツ』などいくつか作品をリリースしていますね。

RC:そうだね、あれは彼女の作品をリリースしていくひとつのルートだった。そして、これは商業的な目的ではなく、個人的に使っていくために作られたもの。彼女のスピリチュアル・レコーディングがほとんどで、ほとんどの作品はカセットで録音されていた。チャント(註:サンスクリット語の歌や詠唱を指すと思われる)やそれらの翻訳を載せたブックレットが添えてあったんだけど、〈アヴェイター・ブック・インスティチュート〉はそうしたものの出版もおこなっていた。母はそのほかに本を2冊書いていて、1冊は『モニュメント・エターナル』、もう1冊は『エンドレス・ウィズダム』といって、2冊とも〈アヴェイター・ブック・インスティチュート〉から出版されている。

この作品がリリースされた1982年、あなたはまだハイ・スクールの学生だったのですが、当時のアリスの状況や本作について覚えていることはありますか? 1982年はあなたの兄であるジョン・コルトレーン・ジュニアが交通事故で亡くなった年でもあり、家族にとっていろいろ辛いことがあったかと思いますが。

RC:そうだね、そうした意味では家族にとってとても辛い1年だった。ジョンが突然車の事故で亡くなってしまうというのは、僕らも全く予想していなかったことで、本当にショックだった。でも母の力によって僕らは乗り越えることができ、先を進むことができたんだ。とても大変な時期であったけど、母は自分の夫の死ともうすでに向かい合っていた。3人の子供の父親を亡くして、そのころにはもう自分の母親と父親もすでに亡くしていた。人生のこういった移り変わりは避けられないものなんだ。もちろん家族にはなるべく長く周りにはいて欲しいと思うものだけど、神がそのときだと決めたら、そのときはくるんだ。そして、そうした不幸が訪れても、母のスピリチュアルな道への信念と鍛錬が彼女へ必要な力を与えてくれ、残っている子供たちがしっかりと支え合って生きていくことを可能にしてくれた。それは彼女自身が自分の内面に向かい合ったことによって可能になった。音楽というものがつねに癒しにつながっていたと思うし、スピリチュアルな目標みたいなものも癒しになっていたと思う。

1967年のジョン・コルトレーンとの死別後、アリスは心の探求からヒンディー教に傾倒し、1978年にトゥリヤサンギータナンダに改名しました。1975年にカリフォルニアでインド哲学のヴェーダーンタ学派のセンターを設立するなど、音楽、宗教、哲学、教育を繋ぐ役割を担う存在だったのですが、こうしたアリスの活動についてはいかが思われますか?

RC:1967年当時、僕はまだ2歳だった。父が亡くなり、母はスピリチュアルなものに目覚めた頃だったけど、とても幼くて何が起こっていたのか自身でも理解していなかった。そして僕ら家族が1971年にカリフォルニアに移り住んだ当時、僕はやっと6歳になった。でも振り返ると、その1967年から1971年の間、母はあらゆることを体験していたんじゃないかな。彼女自身のスピリチュアルな目覚めに気づき、神へ自分を捧げていくという決意、そして自分の子供たちを育てていきながら生きていくという責任、そのふたつを両立させていくということの確信を得ていたんだと思う。
まわりの友だちの母親と比べて、母はとてもユニークな存在だった。友だちが家に訪ねてくると、僕たち家族の様子を見て「これは何の宗教?」って訊かれるんだ(笑)。「一体何が起こっているの?」って(笑)。子供のころはそういった質問に答えられなかったのを覚えている。でも、それが僕らのママだったし、彼女の歩んだ道筋は驚くべきものではあったけど、思いやりのある母親で、愛情をたっぷりと注いでくれたよ。僕らの面倒もよくみてくれたし、必要なものは全て与えてくれた。一緒に遊んでもくれた。「かけっこしようよ」って言うと、スニーカーを履いて一緒に走ってくれたり。とても早かったよ。僕ら全員を抜くぐらい早かった。馬も飼っていて、馬に乗ってレースをしたりもした。映画館や遊園地にも連れてってくれていた。普通の親がやってくれることは全てやってくれていた。同時に母はとてもユニークなアヴァンギャルドな音楽を作って、国中をツアーして、音楽を演奏していた。スピリチュアルな道のため、インドへも旅行していた。色々な肩書きを持っていて、フルタイムで仕事をしていたよ。とてもユニークな人生を歩んでいたと思う。

彼女にとって、音楽というものは仕事としてやっているものではないんだ。何かの波長みたいなものと繋がって演奏するものだから、タイミングが合わないとその波長とは繋がることができない。

演奏家としてのアリスに関して話を伺います。もともとジャズ・ピアニストとしてスタートし、ジョン・コルトレーンのグループでも演奏してきたわけですが、1968年以降のソロ活動ではハープ奏者としての印象も強いです。ほかにもオルガンやシンセサイザーを演奏し、作曲やアレンジを含めたトータルでのサウンド・クリエイター的な側面を見せる彼女ですが、サックス奏者であるあなたから見て、彼女はどんなミュージシャンだったと思いますか?

RC:うん、そうだね、君の言うとおり母はいろいろやっていたね。僕にとっては、母の存在はそうした全ての活動に携わった音楽家だった。ミュージシャンとしてフルに活動していたよ。毎日家でも母の音楽は聴いていたし……。コンサートとかにも同行して一緒に行っていたよ。自分のコンサートに子供たちを連れていっていたんだ。コンサートのバック・ステージの記憶は結構ある。「演奏が終わるまで静かに待っていてね! コンサートは90分で終わるから、それまでふざけたり、遊び回ったりするのはダメよ! 終わったら帰ってくるから」って言われて(笑)。それが僕のいちばん古い母の思い出だよ。とにかく音楽には没頭していた。スタジオにもコンサート会場にも一緒に行ったね。
 僕が中学のときに最初にクラリネットをプレイしはじめたときも、基本的に母が僕の先生だった。母は仕事や自分のやっていることに対して、つねに熱心に取り組んでいた。最も崇高な形で自分の音楽、クリエイティヴィティを表現することに情熱を注いでいた。素晴らしいミュージシャンだったよ。

1970年代前半のアリスは、ファラオ・サンダース、ジョー・ヘンダーソン、カルロス・サンタナなどいろいろなミュージシャンと共演し、宇宙をテーマにした独特の世界観を持つ音楽を作りました。一般的にスピリチュアル・ジャズと呼ばれるこれら作品は後世にも多大な影響を及ぼし、あなたの親戚のフライング・ロータスもその影響を受けたひとりかと思います。一方、1980年代以降のアリスの作品はニューエイジ・ミュージックやヒーリング・ミュージックにカテゴライズされるものが多く、ゴスペルや宗教色が強いです。こうした彼女の変遷についてはどのようにとらえていますか?

RC:母の音楽の変遷に限らないけど、後になって分析して、スタイルやジャンル分けしたりするのは簡単なことだ。これはそう、あれはそうじゃないと言うのは楽だ。でも、その渦中にいるものからすれば、自分のスタイルが変わったという風には思わないんだよ。進化として捉えている。成長、前進としてみている。母もそうだったんじゃないかな。
 母は新しいテクノロジーに関しても、つねに目を向けていたので、70年代に多くのアナログ・シンセサイザーが出てきたとき、そういった楽器に対しても興味を持っていたんだ。そういうサウンドを追求したりしていた。そういった意味では、最新のものはつねに取り入れていた。テクノロジーの変化が彼女のスピリチュアルな人生への探求心と結びついて、音楽的な変遷や変化をもたらしたんじゃないかな。そして、変化とは局所的なものではなく、全てのものが有機的に移り変わっていったという感じだね。「今度はこのスタイルでやって、こうやって変えて」という意識でやっていたわけではないと思うんだ。そういう感じではなかった。自然な成り行きのなかでの前進だったと思う。ひとつのロジカルなステップがまた次のロジカルなステップに導いてくれる感じだね。

フライング・ロータスは子どものころ毎週アリスのもとを訪れていたそうですが、彼もこの作品を聴いていたのでしょうか?

RC:はとこのスティーヴ(フライング・ロータス)は、母の姉妹の孫なんだよね。母とその姉妹、つまり僕から見て叔母のマリリンはとても仲が良かった。スティーヴのお母さんのタミーはマリリンの娘で、僕の従姉妹にあたるんだ。タミーと僕の姉は1日違いで生まれたんだよ。1960年の10月にね。タミーは僕にとって従姉妹というよりも、姉のような存在だったけどね。カリフォルニアですごく近くに住んでいて、一緒に育ったような感じ。もともと母の一族のほとんどがデトロイトに住んでいたんだけど、叔母のマリリンは子供たち二人、タミーとメルヴィンを連れてロサンゼルスに移り住んだんだ。その後すぐ1971年に母もカリフォルニアに移り住んだ。だからマリリンたちと僕ら家族はとても近しい関係だったんだ。
 スティーヴが生まれたときも覚えている。ひとつの大きな家族のようなものだったね。スティーヴは母とも時間をいっぱい過ごしていたし、年上の従兄弟たちともいっぱい時間を過ごしていた。僕とか僕の兄弟、姉などと時間を過ごすことも多かった。彼はとても才能のある人だよ。ずっと才能があったと思う。

『トランスリニア・ライト』での共演などを通して、あなた自身はアリスから直接的に学んだことはありますか?

RC:(苦笑)音楽というものにはタイミングがあり、そのタイミングで作らなければならない、ということを学んだね。そのときが来たらレコーディングをしなければならない、ということを学んだ。タイミングが合わないときはレコーディングはおこなわない、ということもね(笑)。『トランスリイア・ライト』に関わった当時の僕は、24時間いつでもレコーディングできるようにスタジオを借りていたんだ。僕自身はスタジオに毎日8~9時間いることに慣れていたからね。何か作業して、休憩を取って、また戻って作業をする、というのを繰り返していた。スタジオを完全に朝から晩まで貸し切り状態で予約するんだけど、母は午後にやってきて1、2曲弾いたら、「今日はこれでいいわ」って言って帰ってしまうんだ。「ママ、まだ2時間しかやってないよ。スタジオは1日中借りているんだけど」って僕が言うと、「今日の分はこれでいいわ。充分録れたから。明日また戻ってきてやるわ」って言うんだ。
 彼女にとって、音楽というものは仕事としてやっているものではないんだ。何かの波長みたいなものと繋がって演奏するものだから、タイミングが合わないとその波長とは繋がることができない。そのタイミングが合わないと、「今日はここでおしまい。明日また戻ってやろう」ということになるんだ。言うなれば、辛抱強く待つことを覚える感じかな。身体とスピリットがもっとも繋がる瞬間を待ち、その瞬間に起こるべきことが促されるように根を張り、瞬間を待つことかな。例えばほとんどのジャズ・ミュージシャンは朝に演奏をしたがらない。朝に音楽を演奏するのがとても奇妙な感じがするんだ(笑)。夜に演奏するほうがとても自然に感じられるし、そういった時間帯のイヴェントのほうが身体に馴染んでいる。朝起きて、食事も何回かとって、太陽が落ちて、また違う時間帯になって、完全に違うエネルギーが流れている。だから、母の言うことはよくわかる。スタジオのなかでも同じようなことが起きるんだ。その音楽を作る適切な時間を作らなければならない。そのタイミングが来ないときは、もうその日は待ってもダメなんだ。

〈アヴェイター・ブック・インスティチュート〉のほかの作品について先述しましたが、今後もアリスの音源の再発や未発表音源の発掘などの計画はありますか?

RC:母は存命中にたくさんの音源を残してきた。〈アヴェイター・ブック・インスティチュート〉をやっていた期間はレコード会社には所属していなくて、〈インパルス〉やその親会社の〈ABC〉との契約も切れ、〈ワーナー〉との契約も切れていた。でも、音楽はずっと作り続けていたんだ。1980年代は完全にスピリチュアルのコミュニティに向けての音楽のみを制作していた。レコーディングもずっと続けていた。レコーディングした音源はいっぱいあるんだよね。適切な時期が来たらリリースしたいとは思っているんだ。

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アリス・コルトレーン入門のための10枚

選・文:小川充

1. John Coltrane, Alice Coltrane / Cosmic Music
Coltrane Recording Corporation (1968) → Impulse! (1969)


※ジャケは〈インパルス〉盤

ジョン・コルトレーンの死の翌年に発表された作品で、彼が生前に録音した2曲と死後にアリス・コルトレーンが録音した2曲を収録。ファラオ・サンダース、ラシード・アリらコルトレーン・グループ最終期のメンバーも参加。タイトルどおり宇宙をテーマに掲げ、それを曼荼羅になぞらえたインド密教や古代エジプトの宇宙観に彩られる。音楽的にはフリー・ジャズと形容できるが、“The Sun” におけるアリスのピアノの深遠で孤独な美しさは筆舌に尽くしがたい。

2. Alice Coltrane / Huntington Ashram Monastery
Impulse! (1969)

アリスがハープの演奏をはじめたのはジョン・コルトレーンの死後に放ったソロ第1作の『A Monastic』(1968年)からで、第2弾となる本作ではラシード・アリ、ロン・カーターとのトリオ編成で、レコードのA面でハープ、B面でピアノをメインにフィーチャーした構成。全体的にモード奏法に則った演奏で、トリオというシンプルな編成だからこそ万華鏡のように煌めくハープの演奏が際立つ。ヒンディー教の改宗名となる “Turiya” や “Ashram” “Jaya Jaya Rama” など、ヒンディーやサンスクリット語のタイトルやワードが用いられのはこのアルバムからで、彼女がインドの精神世界に没入していく様子がうかがえる。

3. Alice Coltrane featuring Pharoah Sanders and Joe Henderson / Ptah, The El Daoud
Impulse! (1970)

ジョン・コルトレーン後継者の最右翼だったファラオ・サンダース、それに並ぶ存在のジョー・ヘンダーソンというサックス奏者2名を迎えたアルバムで、ステレオの右チャンネルにファラオ、左チャンネルにジョー・ヘンを配した録音となっている。インド哲学やヒンディー教への帰依を示す “Turiya & Ramakrishna” がある一方、ジャケットのデザインや “Blue Nile” のように古代エジプト文明をモチーフとする曲もある。その “Blue Nile” は神秘的なハープとフルートに導かれるモーダルなスピリチュアル・ジャズの傑作。

4. Alice Coltrane featuring Pharoah Sanders / Journey In Satchidananda
Impulse! (1971)

前作に続いてファラオ・サンダースと組み、ラシード・アリ、セシル・マクビーという強力なリズム・セクションを擁した〈インパルス〉時代の最高傑作。ビート詩人のアレン・ギンズバーグも師事していたインテグラル・ヨガのグル、スワミ・サッチダナンダとの交流に触発されて作った作品で、タンブーラなどインドの古典楽器も交えた演奏がおこなわれる。特に表題曲でのハープとタンブーラによるラーガを取り入れた演奏は、アリスによるスピリチュアル・ジャズとインド音楽の交わるひとつの到達点と言える。

5. Alice Coltrane With Strings / World Galaxy
Impulse! (1972)

大規模なストリングス・セクションとの共演で、アリスはピアノ、オルガン、ハープ、タンブーラ、パーカッションなどをマルチに演奏するほか、オーケストラ・アレンジもおこなっている。自作曲も演奏するが、ジョン・コルトレーンの代表曲の “A Love Supreme” と彼の定番演奏曲であった “My Favorite Things” もやっている。その “My Favorite Things” では前半のオルガンを中心としたサイケデリックで混沌とした演奏から、後半の壮大なストリングスに彩られた世界へと昇華していく様がドラマティック。

6. Joe Henderson featuring Alice Coltrane / The Elements
Milestone (1974)

ジョー・ヘンダーソンとの再共演で、アリスはピアノ、ハープ、タンブーラなどを演奏。周りをチャーリー・ヘイデン、マイケル・ホワイト、レオン・ンドゥグ・チャンクラー、ケネス・ナッシュら猛者が固め、火・空気・水・土という世界の物質を構成する四元素から名付けられた4曲を収録。土着的なアフロ・ジャズの “Fire” やドープなジャズ・ファンクの “Earth” などはジョー・ヘンのカラーが強い作品で、アリスにとってはある意味で異色作とも言えるが、彼女の参加作の中でもっともブラック・ジャズ、スピリチュアル・ジャズ色の強い作品でもある。“Air” はアリスならではのインド音楽とフリー・ジャズのエクスペリメンタルな邂逅と言える。

7. Devadip Carlos Santana & Turiya Alice Coltrane / Illuminations
Columbia (1974)

ラテン・ロック・バンドのサンタナのリーダーであるカルロス・サンタナとの共演作。ジャズ勢とのコラボをいろいろ行うカルロス・サンタナだが、ジョン・コルトレーンの熱烈なファンでもあり、その未亡人のアリスとの共演が実現した。サンタナのメンバーのほか、ジャック・ディジョネットやデイヴ・ホランドなどマイルス・デイヴィスのグループで活躍してきた面々が参加。カルロス・サンタナはアリスについて「至高で独創的な音楽家」、「自身にとってストラヴィンスキーやレナード・バーンスタインのような存在」と高く評価しており、彼女のスピリチュアルな啓示がカルロスの精神を高みへと導き、彼の作品中でもっとも信仰心に満ちたアルバムとなった。“Angel Of Air” や “Angel Of Water” など、ストリングスを用いた壮大で高揚感に満ちた世界が展開される。

8. Alice Coltrane / Eternity
Waner Bros. (1976)

〈インパルス〉から〈ワーナー〉へ移籍しての第1作で、チャーリー・ヘイデン、ジェローム・リチャードソン、ヒューバート・ロウズ、サンタナのアルマンド・ペラザらと共演。時代的にはジャズのフュージョン化が進んでいた時期で、アリスの音楽にもさまざまなスタイルとの融合が見られる。そのひとつがエキセントリックな電化ジャズ・ファンクの “Los Caballos” で、パーカッシヴなラテン・リズムとアナログ・シンセ内蔵オルガンが入り乱れた演奏は圧巻。アリスのアグレッシヴさが表われた貴重な録音と言えよう。“Spiritual Eternal” や “Spring Rounds From Rite Of Spring” における映画音楽のようなスケールの大きいオーケストレーション・アレンジも光る。“Om Supreme” はゴスペルとソフト・ロックが出会ったような不思議な混声コーラスを聴かせる。

9. Alice Coltrane / Transcendence
Waner Bros. (1977)

以前のジャズ・ミュージシャンたちとのセッションから打って変わり、インドの伝統楽器の演奏者、ストリングス、コーラス隊を交えるほかは管楽器、リズム・セクションなどが入らない異色の編成で、アリスも鍵盤類やハープ、タンブーラなどを多重録音する。アリスのマルチ・クリエイター、トータルなサウンド・プロデューサーぶりが発揮された作品であり、インド音楽へのさらなる傾倒が伺える。ニューエイジ・ミュージックやヒーリング・ミュージックへ進む分岐点となったアルバムだ。ハンドクラップとコーラスで綴る “Sivaya” はインド風ゴスペルと言うべきか。

10. Alice Coltrane / Translinear Light
Impulse! (2004)

2007年に没したアリスにとって生前最後の録音となったアルバム。息子のラヴィ・コルトレーンがプロデュースとテナー・サックスなどの演奏で参加し、さらに弟のオーラン・コルトレーンもアルト・サックスを演奏する。ほかにチャーリー・ヘイデンやジャック・ディジョネットなど長年に渡る共演者も参加。“Blue Nile” や “Jagadishwar” など自身の代表曲の再演のほか、“Walk With Me” や “This Train” などゴスペルや民謡も演奏する。表題曲や “Blue Nile” などに見られるように全体的にモーダルな演奏で、ラヴィの演奏も父、ジョン・コルトレーンを彷彿とさせる。アリスとしては1960年代の原点の時代に立ち返ったような作品集と言えよう。

interview with 食品まつり a.k.a foodman - ele-king

 早口である。食品まつりはとにかく早口である。同じ副詞を繰り返しながら異なる内容に切り替わっていくしゃべりはさながらジュークにも等しい。ジュークみたいにしゃべるからジュークをつくるようになったのか。それともジュークをやっているうちに話し方もジュークみたいになったのか。副詞を多用せず、主語と述語の結びつきをもう少し明確にすれば黒柳徹子のようなしゃべり方になるのかもしれないけれど、そのようにする必要は感じられない。黒柳徹子のようにしゃべると音楽性が変わってしまう気がするということもあるけれど、慌てたようにしゃべり、人と話をするときに焦りがちな食品まつりが、今回のように「やすらぎ」というコンセプトを掲げることには自然と説得力を感じるからである。ジュークなのに「やすらぎ」。このような矛盾した命題をクリアーしていく、その特異な音楽性。あるいは変革の予感。そして、何よりも食品まつりはいま、日本のアンダーグラウンドから世界に向けて独自の音楽的ヴィジョンを発信し、日本からオリジナルな音楽が生まれるという実績を積み重ねている最中なので、黒柳徹子にかまけているヒマはないのである。サン・アロウのレーベルからリリースされた『ARU OTOKO NO DENSETSU』から2年10ヶ月、〈ハイパーダブ〉から新作をリリースした食品まつりに換気のいい部屋で話を訊いた。

コロナになって、ライヴもあまりできなくなって〔……〕深い意味もなくて、アジフライをSNSにアップしたりして、そういう日常の楽しみの比重が大きくなってきたというかな。身の回りの楽しみというか。

チャレンジャーですよねー。

食品まつり(以下、食まつ):そう言っていただけると。

真価がわかるのは2~3年後かなという気がするぐらい、戸惑いもあります。

食まつ:ああ、そんな。

こんなに変えちゃうものかなという……思い切りが良すぎて。

食まつ:はい。

これは制作期間は? 『ARU OTOKO NO DENSETSU』が終わってから?

食まつ:そうですね。『ARU OTOKO』が終わって、制作をはじめたのが去年の7月ぐらいからなんですけど、だいたい1ヶ月ちょいぐらい。

早いんですね。『EZ MINZOKU』はコンセプトを決めてつくり込んだもので、『ARU OTOKO』は何も決めないで思いつくままにつくったということでしたけど、今回は?

食まつ:今回はコンセプトがあって、まず音的な面は、自分が20代前半にギターとパーカッションで友だちと名古屋の路上で演奏していた時期がけっこうあったんですけど、友だちがギターをじゃかじゃか鳴らして、僕がそれに合わせてパーカッションというか、小さなタイコを合わすみたいな。そんな感じでやっていて、たまに自作の曲もやったりして、あんま考えもナシに路上で遊んでただけなんですけど、お酒を飲みながらやっているとセッションみたいになって、パカパカやってると通りすがりの酔っ払いも入ってきたりして。

(笑)。

食まつ:それが楽しかったという記憶があって。そんな大して上手くもないんですけど、やっているうちにトランス感が産まれる気がして。

トランスということは、人が聞いてるとかじゃなくて……

食まつ:自分たちがただ楽しくなって。上昇していく感じになって。それが面白いなって。で、これを打ち込みでやったら面白いんじゃないかなというアイディアはけっこう前からあったんです。そういうのがボンヤリとあって。それがひとつ。で、コロナになって、ライヴもあまりできなくなって、最初はちょくちょく名古屋のクラブには遊びに行っていたんですけど、そういう機会もなくなって。

うん。

食まつ:で、家の周りとかしか行くところがなくなって、自分は名古屋の外れに住んでるんですけど、その辺をうろうろしてたら、高速道路の入口があって、パーキング・エリアに裏から入れるというのを発見したんですね。「裏から入れるじゃん」と思ってパって入って、で、食堂があったんで、ちょっと入ってみようと思って、なんとなく頼んだのがアジフライで……

あー、ツイッターであげまくってましたね。

食まつ:「アジフライ、美味しい」ってなって、そこからハマっちゃって。週5ぐらいの勢いでパーキング・エリアに行っちゃって。

週5(笑)。

食まつ:そう。で、まあ、深い意味もなくて、アジフライをSNSにアップしたりして、そういう日常の楽しみの比重が大きくなってきたというかな。身の回りの楽しみというか。

今回のアルバムで意識したのは全曲同じように聞こえるということなんですよ。〔……〕自分の好きなアルバムというのは、似た感じの曲が並んでるのが多いなというのがあって。ベーシック・チャンネルとか。

なるほどコロナの影響なんですね。

食まつ:そうですね。そっから入っていって、そんなことやってるうちに、やっぱアルバムをつくんなきゃいけないなってなって。なんとなくボンヤリと自分の中で2~3年に1枚つくんなきゃいけないかなというのがあって。

けっこう空きましたもんね。

食まつ:そうなんですよ。それでパーカッションとギターのアイディアと、今回、いろいろと日常で経験した楽しいことを合わせた感じは面白いかなって。

20代前半に感じたことを振り返るというノスタルジーではなく?

食まつ:そうですね。ギターとパーカッションを使うということだけ決めて。

確かに “Yasuragi” “Shiboritate” “Parking Area” “Minsyuku” といったあたりはギターありきの曲だと思いました。

食まつ:そうですね、ギターのじゃかじゃかした感じやパキパキした感じで。

自分で弾いて?

食まつ:いや、プラグ・インとサンプリングを分解して組み替える、みたいな。自分ではぜんぜん弾けないので(笑)。押尾コータロー、ヤバいなとかも思ってたりしたので。バカテクの。

全部、リズム・ギターですよね。リズム・ギターに対する強い関心が?

食まつ:そうですね。まさにリズム・ギターですね。

『ARU OTOKO』がすごくいいと思っていたので、最初は「え?」と思ったんですけど……

食まつ:(笑)。

一番違うのはなんだろうと思ったら、メロディがなくなってるんですね。シンセが入ってなくて、そのせいなのか、シュールな感じがしないと思ったんですよ。『ARU OTOKO』にあった凄みがなくなって、即物的になってるんだと。音だけが置かれていて、精神的な部分を膨らませる気がないなって(笑)。

食まつ:かもしれないですね。音自体はフィーリングでつくってるだけだったんですけど、今回のアルバムで意識したのは全曲同じように聞こえるということなんですよ。

全部同じ? そうだったかなあ(笑)。

食まつ:そういうイメージだったんですよ(笑)。

自分ではそうなんだ? “Sanbashi” はまったく違うと思うけど。

食まつ:ああ、あれはそうですね(笑)。自分の好きなアルバムというのは、似た感じの曲が並んでるのが多いなというのがあって。ベーシック・チャンネルとか。大体、似た感じじゃないですか。

一堂:(笑)

パラノイアックにやりたいんだ?

食まつ:今回は統一感を持たせたくて。『ARU OTOKO』がいろんな世界に行ってたんで、つくってる期間も今回は短めだったし、夏だったので、汗かきながらいろんな場所に行って集中してつくっていたということもあるのかなって。記憶としては曲をつくってるというより汗だくになって自転車で走ってるという記憶の方が残ってるんですよ。めちゃくちゃ日焼けして。曲つくってるのに、肌が黒いっていう。

一堂:(爆笑)

食まつ:「どういうこと?」っていう。

いいじゃないですか(笑)。

食まつ:体も引き締まってきて(笑)。つくりながら面白いなって思ってて。

コロナっぽくないですねー。

食まつ:そうですね。健康的になって。

僕は、今回はコンセプトがあるとしたら日本の伝統的なリズムをテーマにしたのかなと思ったんですよ。

食まつ:それに関してはなんも考えてなくて。

そうなんだー。“Michi No Eki” がお経を読むときのリズムに聞こえたり、“Numachi” はまた三三七拍子やってるなーとか、“Food Court” は聴くたびに印象が変わるんだけど、チンドン屋っぽく聞こえたりね、〈ハイパーダブ〉からリリースするにあたって日本のリズムを海外のリスナーに意識させてやろうと考えたのかなって。

食まつ:無意識に出たのかもしれないですけど、手癖というか、自分がよく使うパターンというか、あと、けっこう、間(ま)を意識したところはあったかもしれないです。

日本のリスナーよりもイギリスの人にはどう聞こえるのか興味あるというか。

食まつ:ああ、確かに。

コロナで困ってるミュージシャンは多いと思うんですけど、ユーチューブで楽器の弾き方や解説をはじめた人がたくさんいて、そのなかでロサンジェルスに住んでる日本人のジャズ・ドラマーの人が日本のリズムについて解説していた動画あったんですよ。

食まつ:はい。

いろんな国から来てる人たちと演奏する機会が多いから、みんな自分の国のリズムについて話すのに自分だけ日本のリズムがわかっていなかったと。悩んじゃったらしいんですよ、「お前の国のリズムは?」と訊かれて。

食まつ:なるほど。

それで、その人が見つけたのが千葉県のお寺でお経を読んでいる動画で、言われてみるとヘンなリズムなんですね。カカッカッカッ……みたいな。

一堂:(笑)

確かに面白いリズムなんですよ。西洋のリズムではないしね。食品さんもジュークから入って、洋楽のリズムでスタートを切ってるわけだから、日本のリズムを意識すると、今回の作品みたいになるのかなあと思って。

食まつ:ああ。そう言われるとそんな気もして来ますねえ。

でも、意識的ではなかったんですね。

食まつ:そうですね。日本のビートを意識したのは三三七拍子だけでした。つーか、あんまり意識してしまうと、そのままになってしまうというか。

パラパラとか阿波踊り的な。そこが日本的だなって。上半身だけで踊る感じ。

食まつ:そうかもしれないですね。

ベースを入れないせいもあると思うんだけど、そのことにはアンビヴァレンツな感情もあるんですけど(笑)。

食まつ:このアルバムをつくる前にUKの CAFE OTO っていうヴェニューがあって、ロックダウンで困っているミュージシャンを救済する意味もあるんですけど、そこがやってる〈タクロク〉というレーベルから去年、僕も「SHIKAKU」というEPを出していて。それがちょっと今回のアルバムの青写真的な意味もあって、カクカクとしたビートをつくりたいというコンセプトで。全体にカクカクしてて(笑)。それをつくったことがアルバムに影響してるなあと自分でも思うんですけど。

うん。「ODOODO」みたいなEPとはぜんぜん違いますよね。よくこんなにつくり分けられるなって。

食まつ:あれは〈マッド・ディセント〉から出てるし、もうちょい広い層に聞いてもらいたいなというものなので。あんまりやってなかったような曲もやってみたりして。ハウスとか。実験で。

そうでしたね。

食まつ:いままで聞いてなかった人からも「よかったよ」って声かけられたんですよ。

広がりがあったんだ。最後に入ってた “Colosseum” というのは何かのサンプリングなんですか。あのメロディは個人的にツボだったので。

食まつ:あれはサンプルを細かく切って並べる感じです。

ああ。じゃあ、ああいうメロディの曲があるわけじゃないんだ。

食まつ:そうですね。

でも、今回は『YASURAGI LAND』から完全にメロディをなくすと。それは初めから決めてたんですね。

食まつ:あんまり意識してなかったですけど、言われてみると確かにメロディはあんまりないか……

まったくないですよ。意識していないなんてスゴいなー。

食まつ:言われてみるとそうですね。

一堂:(笑)

食まつ:自転車で走ってたのが必死だったという記憶の方が濃くて。

一堂:(笑)

そうかもしれないけど、最後に家でトラック・ダウンとかするわけですよね。そのときに物足りないとは思わなかったと。

食まつ:そうですよね(笑)。

満足してるんですよね(笑)。

食まつ:そうすね(笑)。

一堂:(笑)

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「休んで下さい」という感じですね。座敷とかで寝転んでお茶でも飲んで……みたいな。

タイトルが「やすらぎ」じゃないですか。いま、脳内物質はドーパミンじゃなくてオキシトシン志向だというトレンドというか、傾向がありますけど……

食まつ:いや、なんか、「やすらぎランド」とかありそうじゃないですか。地方には。

東京以外の雰囲気は僕はぜんぜんわからないんだけど、そうなんだ?

食まつ:ありそうなんですよ。「やすらぎランド」って響きもいいし、あとまあ、ゆったりした曲もあるし。だったら『YASURAGI LAND』かなあって。

実際に「やすらぎランド」を建てちゃったらいいんじゃない?

食まつ:そうすね(笑)。

僕の印象だと東京の中心よりも、その周辺の方がシャレた名前を店につける気もするんだけど。「シャトレーゼ」とか。

食まつ:ああ、地方とか田舎の方ががんばっちゃうのかもしれないですね。

東京の方がダサい名前が多いような……名古屋だとなんのイメージもないんだけど。

食まつ:ああ。わけのわかんない名前の店もいっぱいありますよ(笑)。

まあ、でも、そのタイトルにするということは、「ここに来て安らいで下さい」ということなんですよね。

食まつ:「休んで下さい」という感じですね。座敷とかで寝転んでお茶でも飲んで……みたいな。

最初、タイトルだけ見たときに、『ARU OTOKO』からシンセが醸し出す雰囲気が受け継がれてるのかなと予想したんですよ。アンビエントっぽいような。でも、実際にはリズムがチャカポコ来たなっていう(笑)。

食まつ:確かにそうすね(笑)。

まあ、でも、それが和風のリズムに聞こえたところで、まったく違うアルバムだなと思って。それこそYMOが出てきたときに「テクノお神楽」と評されたことがあったんですよ。それに倣うと「ジュークお神楽」みたいだなあというか。実際にはどこもお神楽じゃないんだけど。

食まつ:ああ、なるほどー。

まあ、日本っぽいニュアンスがあるということですよ。でも、それで「ジューク感」があるのがスゴいというか。

食まつ:今回は割にあるかもしれないですね。

意識しなくても「和風が滲み出るのはいい」と、コムアイさんも理想のように言ってたけど。

食まつ:そうですね、意識的に出すんじゃなくて、やっているうちに自然に出るみたいなものはあるのかもしれないですね。そこの部分のコントロールは自分でも意識してるところで、無理に出そうとするとよくないから。

無理に出さないということは、日本の伝統的なリズムの音楽も聞いたりはしてるということ?

食まつ:詳しくはないですけど、割と好きで聴いたりはしてます。津軽三味線とか。

ああ、聞くんですね。“Michi No Eki” でフィーチャーされている Taigen Kawabe(ボー・ニンゲン)のヴォーカルも祝詞っぽく聞こえたりね。あれも偶然?

食まつ:歌い方はこちらから少し指示させてもらったりしたんですけど、メロディとかは自由にやってもらいました。あれは、歌が入ってからトラックはつくりかえたんですよ。

あ、そうなんだ。

食まつ:毎回、そうなんですよ。歌もの系は、歌に合わせてトラックは変えちゃうんです。

へー、そういうもんなんだ。

食まつ:毎回、そうすね。

細かいんですね。ちなみに物足りない面があるとすれば、全体にダイナミズムがもうちょっとあってもよかったかなというのはありますね。

食まつ:あー、海外のレヴューでは「ライト」とか「フュージョン」という風に書かれていたので、そういう風に聞こえるのかなとは思いました。「ジャズ・フュージョン」に聞こえるとか。

YMOに近づきましたね。

食まつ:(笑)確かに。最初にコード9にデモを送った段階で坂本龍一の『エスペラント』の雰囲気があると言われて。

ああ、それは素晴らしい。坂本龍一がやりきったと言ってたアルバムですね。あれはいい。

食まつ:それと、映画のサントラで、なんちゃらスカイ……

『リキッド・スカイ』?

食まつ:あ、そう、そう。そのふたつのフィーリングがあると彼は言っていて。

『リキッド・スカイ』ねー。なるほどね。

食まつ:『エスペラント』も聴いてみたらなるほどと思ったし、『リキッド・スカイ』もめちゃくちゃシンパシーを感じる音でしたね。ヘンな音がずっと鳴っていて。

わかる、わかる。映画は観ました?

食まつ:いや、観てないです。

映画も面白いよー。ロードショーで観たんだけど、監督が音楽もやっていて、これはヘンと思ってサントラを探したんですよ。コード9も面白い聞き方しているなあ。そもそも〈ハイパーダブ〉から出ることになった経緯は?

食まつ:デモを送ったっていう。ジュークをつくりはじめたきっかけが〈ハイパーダブ〉のDJラシャドだったし、ジェシー・ランザのリミックスをやったりして多少の交流もあったので。で、メールで送ったら、これいいじゃんていうことになったという。返事が早かったんですよ。

なるほど。どこにもない音をつくったという感じもあるし。

食まつ:いや、いや。

そういう野心はあるわけでしょ。

食まつ:毎回、それはそのつもりです。「これが自分です」という感じでつくろうと思ってて。

仲間がいない感じって、どんな気分?

食まつ:ほかにないものをつくりたいという気持ちは最初からずっとあるので……ずっと同じことをやっているというか。

アルバムはそうしようということですよね?

食まつ:そうです、そうです。

「ODOODO」や「DOKUTSU」といったEPはそこまでじゃないというか。

食まつ:そうですね。あの辺はライヴでやって反応が良かった曲を録音してる感じですね。ライヴでやる曲はあんまりアルバムに入れなかったりして。リズムがバシバシというか、ライヴとアルバムの印象は変えてるかもしれないです。

それだけアルバムは特別視してるということですよね。

食まつ:めちゃくちゃしてますね。洋服のブランドみたいに、コレクションというか、何年から何年までの方向性をアルバムが決めるという意味で自分のなかではいちばん重要ですね。

やっぱり陽気な要素もありつつ気持ち悪いというのがけっこう好きというか。ユーモアがあって、シリアスになりすぎないのが好きですね。

もう次に考えてることはあるんですか?

食まつ:やっぱりアフリカですかね。〈ニゲ・ニゲ〉の人たちも聴いてくれてるみたいなので。シンゲリのセットをやったこともあるんですよ。やっぱり陽気な要素もありつつ気持ち悪いというのがけっこう好きというか。ユーモアがあって、シリアスになりすぎないのが好きですね。

『YASURAGI LAND』を誰かにリミックスしてもらうとしたらどの辺が?

食まつ:ああー。考えてなかったなあ。誰だろう? 今まで自分の曲をリミックスしてもらうという経験が……

ない?

食まつ:1回だけありますかね。2012年に広島の CRZKNY(クレイジーケニー)さんていうジュークをやっている方が1曲だけやってくれたことがあって。

それだけですか? じゃあ、コード9にやってもらおう!

食まつ:そうですね。踊れる感じにしてもらうとか。

ぜんぜん違う感じの人がいいですよね。昨日の夜、それを考えていてオールタイチとか名前が浮かんじゃって、それじゃ同じになっちゃうなって。

食まつ:(笑)ちょっといま、思ったんですけど、ベースとかキックが入っているのを想像して聴いてもらうのもいいかなって。

頭で音を足す?

食まつ:そういう聞き方もできるかなって。そうすればいくらでも頭のなかでヴァリエーションがつくれるというか。やっぱり想像の余地を残したいなっていうのがあるんですよ。

70年代に、数寄屋橋に日立ローディープラザというライヴハウスというか、音楽教室みたいなハコがあって。

食まつ:ええ。

バンドが目の前で演奏するんですけど、聴いている人には全員、卓があって、自分の好きなミックスでそのライヴを録音してカセットで持って帰れたんですよ。ベースをカットしたい人はベースのメモリはゼロにしてしまうみたいな。

食まつ:へえー。

パンタ&HALの演奏を録音した覚えがあるんだけど、最初にひとりずつ楽器の音を鳴らしてくれるので、ギターとかドラムを自分の好きな音量に調節してね。誰も真剣にバンドを見ないから、演奏している人たちはやりにくかったらしいんだけど。オーディエンスはずっと卓と格闘してて。

食まつ:(笑)。

そういう感じで好きな感じで聴いて欲しいと。ちょっと違うか。

食まつ:すごいですね、それ。自分で揚げれる揚げ物屋さんみたい。

“Aji Fly” に繋げたな。

食まつ:それぐらい自由に聴いて欲しいのはありますね。こんだけスカスカなんで、ベースとキックを入れるだけですべての曲の印象が変わると思うんですよ。

そうですよね。最後に、課外活動が多くてぜんぜん追いきれてないんですけど、課外活動でやった自信作はなんですか?

食まつ:いろいろあるんですけど、アイドルで金子理江さんの、2017年に出た trolleattroll 名義のやつなんですけど、相対性理論の真部(脩一、現・集団行動)さんと一緒にやった “lost”(https://www.youtube.com/watch?v=qcTBIw8ux00 )ですかね。パーカッシヴな曲で、いま聴くと『YASURAGI LAND』に繋がるなって。メロディは真部さんなんですけど。あと、去年、釜山ビエンナーレっていう芸術祭があって、コロナの時期でもなんとか開催されて、10人のミュージシャンが曲を提供したんですけど、僕も参加して、それはけっこう好きですね。

そこでしか聴けない曲?

食まつ:レコードにもなってるんですけど、韓国語なんですよ。

調べてみます(……と言ったものの、さっぱりわからず)。

〈Hyperdub〉からの最新作『Yasuragi Land』発売を記念したリリース・パーティー
“Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021”の開催が決定!

昼のコンサート(8月8日開催)とサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイト(9月11日開催)の2部構成

名古屋在住のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、食品まつり a.k.a foodman。〈Hyperdub〉より最新作『Yasuragi Land』を発売したことを記念し、リリース・パーティーの開催が決定! 今回のイベントはクラブ&モードなアドベンチャー・パーティ Local World と SPREAD での共同開催となる。土着、素朴、憂いをテーマに南は長崎、北は北海道、Foodman に纏わるアーティスト含む全国各地からフレッシュな全20組が集まる昼のコンサート(8月8日開催)とサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイト(9月11日開催)の2部構成、2021年の湿度と共に夏のボルテージを上げるサマー・イベント。

Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021

SUN 8 AUG Day Concert 16:00 at SPREAD
ADV ¥3,300+1D@RA *LTD70 / Club Night DOOR ¥1,000 OFF

LIVE:

7FO
cotto center
Foodman
machìna
NTsKi
Taigen Kawabe - Acoustic set -

DJ: noripi - Yasuragi set -

SAT 11 SEP Club Night 22:00 at SPREAD + Hanare
ADV ¥2,500+1D@RA *LTD150 / DOOR ¥3,000+1D / U23 ¥2,000+1D

- 70人限定 / Limited to 70 people
- 再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

・サウナフロア@SPREAD

LIVE:
Foodman
JUMADIBA & ykah
NEXTMAN
Power DNA
ued

DJ:
Baby Loci [ether]
D.J.Fulltono
HARETSU
Midori (the hatch)

・水風呂フロア@Hanare*

LIVE:
hakobune [Tobira Records]
Yamaan
徳利

DJ:
Akie
Takao
荒井優作

artwork: ssaliva

- Hanare *東京都世田谷区北沢2-18-5 NeビルB1F / B1F Ne BLDG 2-18-5 Kitazawa Setagaya-ku Tokyo
- 150人限定 / Limited to 150 people
- 再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

食品まつり a.k.a foodman

名古屋出身の電子音楽家。2012年にNYの〈Orange Milk〉よりリリースしたデビュー作『Shokuhin』を皮切りに、〈Mad decent〉や〈Palto Flats〉など国内外の様々なレーベルからリリースを重ね、2016年の『Ez Minzoku』は、海外は Pitchfork のエクスペリメンタル部門、FACT Magazine、Tiny Mix Tapes などの年間ベスト、国内では Music Magazine のダンス部門の年間ベストにも選出された。その後 Unsound、Boiler Room、Low End Theory に出演。2021年7月にUKのレーベル〈Hyperdub〉から最新アルバム『Yasuragi land』をリリース。Bo Ningen の Taigen Kawabe とのユニット「KISEKI」、中原昌也とのユニット「食中毒センター」としても活動。独自の土着性を下地にジューク/フットワーク、エレクトロニクス、アンビエント、ノイズ、ハウスにまで及ぶ多様の作品を発表している。

Local World

2016年より渋谷WWWをホームに世界各地のコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージックのローカルとグローバルな潮流が交わる地点を世界観としながら、多様なリズムとテキスチャやクラブにおける最新のモードにフォーカスし、これまでに25回を開催。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 -外伝- w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic - halloween nuts -
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX0 World - Reload -
Local XXMAS World - UK Club Cheers -
Local World x ether

https://localworld.tokyo

イベント詳細はこちら
Day Concert: https://jp.ra.co/events/1452674
Club Night: https://jp.ra.co/events/1452675

UNKNOWN ME - ele-king

 毎日こうも過酷な暑さがつづくと、あの涼しかった音空間が猛烈に恋しくなってくる。

 今春、LAの〈Not Not Fun〉から初のLP『BISHINTAI』を発表した UNKNOWN ME。ユニットとしての知名度はまだそれほどないかもしれないが、やけのはら、P-RUFF、H.TAKAHASHI の3人と、ヴィジュアル担当の大澤悠大からなるアンビエント・プロジェクトである。ヴィジブル・クロークス以降のアンビエント/ニューエイジの流れとリンクしつつ、その更新を試みているグループと言っていいだろう。6月27日、アルバムのリリース・パーティが開催されるというので足を運んできた。場所は神宮前 Galaxy。食品まつり a.k.a foodmansatomimagae、Chee Shimizu と、かなり豪華な面子がそろった。

 階段をくだり地下のエントランスを抜けると、ひんやりと冷えた空気が漂っている。すでに satomimagae のパフォーマンスははじまっていた。30~40人ほど集まっていただろうか、にもかかわらず、下手したら空調の音まで聞こえかねないほど会場は静まりかえっている。耳に浸透するかなしげなギターの音と、澄んだ satomimagae のヴォーカル。〈RVNG〉から出たすばらしい新作でも独自の静けさを表現していた彼女だが、ライヴでは一層そのサイレンスが際立って聞こえる。音が鳴っているのに、サイレンス。おかしな話だが、ほんとうにそうとしか形容のできない体験なのだ。
 最後の曲が終わると、一気に会場が談話に包まれる。つなぎDJは Chee Shimizu。おとなしすぎず、主張しすぎず、絶妙なあんばいのアンビエントやオブスキュアなトラック群が空間を彩っていく。

 ふた組めは、〈Hyperdub〉からの新作を控える食品まつり。ここでオーディエンスが50人くらいまで増える。アンビエントでスタートしたセットはほぼ低音を用いることなく、ちゃかぽこした上モノで引っぱっていく感じで、これまたどこか涼しげなサウンド。じょじょに実験性が高まっていき、後半になるとダンサブルな反復が飛び出しパーカッションの饗宴を迎えるが、最後はやはり静けさを強調した電子音で〆。「聴きこむ/踊る」という二項対立を宙吊りにするかのようなセットは、この満足には踊れない時代、身体はどう音に反応すべきなのかという問いを提起しているかのようだった。やはり食品まつり、あなどれない。

 ふたたびつなぎDJをはさんで、いよいよ主役の UNKNOWN ME。4人全員がワイシャツとネクタイを着用して登場、ずらっと横一列に並ぶ。きれいなシンセ音、水やひぐらしなどの具体音が入れかわり立ちかわり登場し、白昼夢のごとき音空間が生成されていく。これは、涼しい。基本的にアルバム収録曲が演奏されていたはずで、ほとんどがノンビートなのだが、ビートはなくともリズムはあり、ここでもコロナ時代における身体性について考えさせられることになる。
 ヴィジュアルも手がこんでいて、東京タワーや駅などのランドマークと、山や川での釣りの風景などが代わるがわる映し出されていく。文明と自然、都市的なものとロハス的なもの、それらの共存なのか対比なのかはわからないが、やはりなにかを投げかけてくる映像表現だった。
 最後はアルバムにも参加していた MC.sirafu、中川理沙、食品まつりも加わり大団円……手ちがいにより、食品まつりが2曲のあいだほぼなにもできず棒立ち状態に陥るアクシデントはあったものの、うまい具合に電子ノイズの即興でイヴェントは幕を下ろした。

 こちらがそういう構えでいたからかもしれないが、3組ともそれぞれのやり方でコロナ禍におけるひとの集合のあり方、身体性の新しいかたちを探っているように感じられた。大声で騒ぐのではなく、といって孤独にストイックに音に没入するのでもない、そのはざまを探るようなライヴ。
 このときは「まん防」だった。その後四度めの非常事態宣言が発せられ、醜悪にもオリンピックが強行開催されようとしているいま思い返してみると、この日は地獄のなかにさっと吹きこむ、一陣の涼風のようなイヴェントだった。

 いま、フロアに行くことは難しい状況だけど、そんなときでも素敵なダンス・ミュージックはたくさんリリースされている。セレクトしたものはすべてフロアを志向しているのと同時に、できるだけリスニング視点もあるサウンドを取り上げるよう留意した。なので、家で聴くのにも楽しめるセレクトになっていると思う。
 また、〈Defected〉や〈PARLOPHONE〉などの巨大レーベルは別として、そのほかはレーベルという視点で切り取ってみても面白いものばかりなので、気に入ったならそこから掘ってみるのもいいと思う。とくに〈Shall Not Fade〉からはふたつも取り上げているが、このレーベルは好リリースを連発している。UKのアンダーグラウンドなハウス~UKガラージはこれからもっと活況を見せるに違いない(という願望)ので、とくにこのレーベルの動向はよくチェックしておくべきだ。
 自分が普段よく聴いているお気に入りのダンス・ミュージックたちです。ここからみなさんの生活にささやかな広がりをもたらせたら嬉しいです。


Barry Can’t Swim - Amor Fati EP Shall Not Fade

 こういうディープでジャジーなハウス・ミュージックは、踊れる要素がありつつ家聴きにも適している、と僕は思っている。EPのなかでは、ジョー・サンプルの “Black Is the Color” をサンプリングした “Jazz Club After Hours” がいちばん心地よく、僕はこれをぼうっとしながら部屋で何度も聴いている。が、「家聴き」とは言いつつ、このEPには夏を憧れるような雰囲気が同時にあり、確かに “El Layali” におけるまばゆいピアノは、カラッと乾いた太陽の下にいるかのような気分にさせるし、“Rah That’s a Mad Question” におけるフィルターの抜き差し、ピアノとリヴァーブのかかったギターの組み合わせは、メロウな夕立の海で聴きたくなってしまう。
 今年も夏は来るのだろうか、自由で開放的なあの空間はあるのだろうか。そんな外への憧れが家のなかでふつふつと湧き上がってきたら、このEPのヴァイブスはさぞや期待に応えてくれるだろう。


Lxury - Smart Digital Life EP Shall Not Fade

 ラグジュアリーを初めて知ったのはたしか……ディスクロージャーの BBC Essential Mix をアホみたいに聴きまくってた高校生のころ、そのトラックリストで名前を見つけたときだった気がする。そこからずいぶんと時間が経ち、〈Shall Not Fade〉から、ついにEPをリリース。僕が彼を発見した “J.A.W.S” (ディスクロージャーがプロデュース)から較べると、より様々なサウンドを吸収しながら、すべてに渡ってきらびやかなシンセを展開した、モダンなハウス・ミュージックに仕上がっている。オープナーの “1722” における、大胆なクラップやピッチの操作されたヴォーカル・サンプルを聴くと過去の音を想起しかけるが、続いて “Spin” や “When I Wake Up” を聴いてみると、そのプロダクション・スキルが時を経てあきらかに飛躍しているのだと確信させられる。


Elvin T - Get Close EP ReGraded

 ダンス・ミュージックが好きで「ミッドランドのシークレット・ウェポン」という触れ込みに興味を引かれないひとはいるのだろうか? ロンドンのプロデューサーであるミッドランドの主宰する〈ReGraded〉からの最後のリリースは、過去3年間において、ミッドランドが数々のヴェニューのピークタイムでスピンしていたという、エルヴィンTの “Get Close” に決まった。ギターとストリングスのサンプリングが四つ打ちに乗りながらじょじょに展開していき、やがて「I wanna touch you」と繰り返しのヴォーカルがあらわれる……高揚感あふれるリッチなディスコ・ハウスに仕上がっており、たくさんのひとがトラックIDを探し求めたのも納得のクオリティだ。EPにはいわゆる「Radio Edit」ヴァージョンが収録されているが、これは絶対に「Extended」ヴァージョンで聴かなければならないやつ。


Todd Edwards - “Can’t You Believe?” Defected

 およそ150にも及ぶトッド・エドワーズのカタログが、このたびデジタル/ストリーミング配信された。スマホの画面からのぞかせる、無骨なブラックラベルのジャケットはとっても味気なく思えたけれど、つぶさに聴くとやはりUKガラージは最高だと思わせてくれる。ニューヨークのガラージ・ハウスからロンドンのUKガラージへ、その過程における重要人物のひとりがトッド・エドワーズなのだ。それらの素晴らしい仕事が一挙にアクセス可能になったのだから、聴かないわけにはいかないだろう。BBC Radio1 にて、ジョイ・オービソンが序盤に “Can’t You Believe?” をスピンしていたことは、このアメリカ人DJがUKのダンス・シーンにおいていかにリスペクトされているかを如実に示している。ハウスの反復的な四つ打ちが退屈になったら聴いてみてみよう。まさに「JESUS LOVES UK GARAGE」を感じるサウンドであふれている。


PinkPantheress – Passion PARLOPHONE

 ウィンドウズのスクリーンセーバーを模したジャケに、2分程度の尺、そしてささやくかのような気だるいヴォーカル。これらの要素はいかにも現代的なポップ・ソングであるし、そんな音楽がTik Tokから出現した20歳の女の子によるものだというのは、想像に難しくない。しかし、突如としてジャングルのリズムが展開されるそのプロダクションには、ほかのありがちなポップ・ソングでは感じない違和感がある。彼女はほかにもUKガラージのバンガーから、あるいはドラムンベースのクラシックなどから拝借しており、つまり、20歳の女の子がネット上で気軽に作った音楽と90~00年代のダンス・トラックが出会うことで、ちぐはぐではあるが面白いサウンドが生まれている。これで踊るのはあまりに短すぎるものの、彼女のサウンドがどういう展開を見せるか気になるので、取り上げてみました。


Unknown Artist - Ghost Phone 004 Ghost Phone

 もしレコード屋で、このカートゥーンのキャラクター(ポー○ー・ピッグ?!)をあしらった12インチを発見したら、迷わず買ったほうがいい。カタログすべてが連番のシンプルなタイトルに「Unknown Artist」表記。ヴァイナル・オンリーの謎めいたレーベルで、僕が知っている情報は、ブリストルのショーン・ケリーが主宰していること、〈Honest Jon’s〉がディストリビューションで関わっていること、そしてカタログすべてがめちゃくちゃかっこいいこと、その3つだけだ。ドレイクの大ヒット “Passionfruit” (元ネタはムーディマンのライヴ)からのサンプリングや SZA のリエディット、あるいはトラップ、ダブステップ、ベースなど、一定のフォームに束縛されない実験的なサウンドを提供している。今作「Ghost Phone 004」も、ときにメロウなR&B、ときに2ステップなリズムと常に飽きさせない。自分の足で歩かなければ買えない素敵な音楽もあるということで、たまにはレコード屋にも出かけよう。

Goldie - ele-king

 ベリアルが “Inner City Life” をリミックスしたり、スケプタとのコラボ曲 “Upstart” が話題を集めたりしたのが2017年。後進にも大きな影響を与えているゴールディーだが、このたび1995年のアルバム『Timless』の25周年記念盤がリリースされている。ゴールディー本人監修によるリマスターが施されており、レア曲やリミックスを収めたボーナス・ディスク付きのCD3枚組仕様。未聴の方は、ぜひこの機に。

ドラムンベースの金字塔作品が25周年を記念してリマスター復刻

4ヒーローの『Parallel Universe』と双璧をなすゴールディーによるドラムンベース初期の金字塔『Timeless』が発売25周年を記念してアニバーサリー・エディションとして未発表発掘&リマスター復刻! ソリッドなビートとフューチャリスティックな流線形サウンドをミックスしてアンダーグラウンドなクラブ・サウンドをネクストレヴェルへと引き上げたシーンのマイルストーン的な一枚。いま聞いても全く色あせることのない、まさに「タイムレス」なマスターピース。


アーティスト名:GOLDIE(ゴールディー)
アルバム・タイトル:Timeless - 25 Year Anniversary Edition(タイムレス 25周年記念盤)
商品番号:RTMCD-1480
税抜定価:2,700円
レーベル:London Records
発売日:2021年7月18日
直輸入盤・帯/英文解説日本語対訳付

◆ドラムンベースというイギリス独自のジャンルを4・ヒーローやロニ・サイズらと共に開拓し発展させ、00年代以降のベース・ミュージックのシーンにも大きな影響を残したUKクラブ・シーンの生ける伝説ゴールディー。

◆その名声を決定づけたデビュー・アルバム『Timeless』の発売25周年を記念した再発企画(オリジナル発売は1995年、ロンドン・レコード/FFRRからのリリース)。

◆ダイアン・シャーラメインのボーカルをフィーチャーしたリード・シングルの「Inner City Life」は、UKチャートのトップ40へと躍進し、ドラムンベースという音楽ジャンルが、アンダーグラウンドなクラブ・シーンから飛び出し広く一般的な注目を集める最初のきっかけとなった、歴史的にも重要な90年代クラシックス。

◆壮大なシンフォニーの「Timeless」、盟友ロブ・プレイフォードとの問答無用な直球ドラムン「Saint Angel」、メイズのベース・ラインが炸裂した「A Sense Of Rage」、意表を突くイーノのシンセが異郷トリップを誘う「Sea Of Tears」、生ドラムでレイドバックした「State Of Mind」、クリーヴランド・ワトキスのジャジーなチルアウト曲「Adrift」などなど、バラエティに富んだ楽曲群が、ゴールディーのアルバム・アーティストとしての新たな側面を、見事にあぶり出しております。まさに「タイムレス」なマスターピース。

◆本人監修によるリマスター、レア曲やリミックスを収めたボーナス・ディスク付きの3枚組。

◆クラフトワークやテクノのガイド本などの著作もあるジャーナリストのティム・バーによる解説の日本語対訳を添付予定。

[収録楽曲]

CD1
1-1a Inner City Life
1-1b Pressure
1-1c Jah
1-2 Saint Angel
1-3 State Of Mind
1-4 This Is A Bad
1-5 Sea Of Tears
1-6 Jah The Seventh Seal

CD2
2-1 A Sense Of Rage (Sensual V.I.P. Mix)
2-2 Still Life
2-3 Angel
2-4 Adrift
2-5 Kemistry
2-6 You & Me

CD3
3-1 Timeless [Instrumental]
3-2 Kemistry (VIP Mix)
3-3 Angel (Grooverider Re-edit)
3-4 State Of Mind (VIP Mix)
3-5 Still Life (VIP Mix) [The Latino Dego In Me]
3-6 Saint Darkie
3-7 Inner City Life [4 Hero's Part 2 'Leave the planet mix')
3-8 [re:jazz] - Inner City Life
3-9 Sensual

食品まつり a.k.a foodman - ele-king

〈Hyperdub〉からニュー・アルバム『Yasuragi Land』を送り出したばかりの食品まつり。同作の発売を記念し、リリース・パーティが開催されることになった。昼の部(8月8日開催)と、「サウナ」「水風呂」の2フロアにわかれた夜の部(9月11日開催)の2部構成という、ユニークな開催方式です。食品まつりとゆかりのあるアーティストを含む全20組がかけつける……これは行きたい!

Local World x Foodman - Yasuragi Land - Tokyo 2021

世界で最もピースな電子音楽家FoodmanによるUKの名門〈Hyperdub〉からの最新アルバム『Yasuragi Land』のリリパがクラブ&モードなアドベンチャー・パーティLocal WorldとSPREADにて共同開催!

土着、素朴、憂いをテーマに南は長崎、北は北海道、Foodmanに纏わるアーティスト含む全国各地からフレッシュな全20組が集まる昼のコンサートとサウナと水風呂の2フロアに別れた夜のクラブ・ナイトの2部構成、2021年の湿度と共に夏のボルテージを上げるサマー・イベント。

■SUN 8 AUG Day Concert 16:00 at SPREAD

ADV ¥3,300+1D@RA *LTD70 / Club Night DOOR ¥1,000 OFF

LIVE:
7FO
cotto center
Foodman
machìna
NTsKi
Taigen Kawabe - Acoustic set -

DJ: noripi - Yasuragi set -

・70人限定 / Limited to 70 people
・デイ・コンサートの前売チケットで9/11クラブ・ナイトのドア料金が1000円割り引かれます / Advance tickets for the day concert will get you 1000 yen off the door price for the club night on 11th Sep
・再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter


■SAT 11 SEP Club Night 22:00 at SPREAD + Hanare

ADV ¥2,500+1D@RA *LTD150 / DOOR ¥3,000+1D / U23 ¥2,000+1D

サウナフロア@SPREAD

LIVE:
Foodman
JUMADIBA & ykah
NEXTMAN
Power DNA
ued

DJ:
Baby Loci [ether]
D.J.Fulltono
HARETSU
Midori (the hatch)

水風呂フロア@Hanare*

LIVE:
hakobune [tobira records]
Yamaan
徳利

DJ:
Akie
Takao
荒井優作

artwork: ssaliva

・Hanare *東京都世田谷区北沢2-18-5 NeビルB1F / B1F Ne BLDG 2-18-5 Kitazawa Setagaya-ku Tokyo
・150人限定 / Limited to 150 people
・再入場可 ※再入場毎にドリンク・チケット代として¥600頂きます / 1 drink ticket ¥600 charged at every re-enter

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EVENT PLAYLIST
https://soundcloud.com/meltingbot/sets/local-world-x-foodman-yasuragiland

前売リンク
Day Concert https://jp.ra.co/events/1452674
Club Night https://jp.ra.co/events/1452675

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食品まつり a.k.a foodman

名古屋出身の電子音楽家。2012年にNYの〈Orange Milk〉よりリリースしたデビュー作『Shokuhin』を皮切りに、〈Mad decent〉や〈Palto Flats〉など国内外の様々なレーベルからリリースを重ね、2016年の『Ez Minzoku』は、海外はPitchforkのエクスペリメンタル部門、FACT Magazine、Tiny Mix Tapesなどの年間ベスト、国内ではMusic Magazineのダンス部門の年間ベストにも選出された。その後Unsound、Boiler Room、Low End Theoryに出演。2021年7月にUKのレーベル〈Hyperdub〉から最新アルバム『Yasuragi land』をリリース。Bo NingenのTaigen Kawabeとのユニット「KISEKI」、中原昌也とのユニット「食中毒センター」としても活動。独自の土着性を下地にジューク/フットワーク、エレクトロニクス、アンビエント、ノイズ、ハウスにまで及ぶ多様の作品を発表している。

[最新作リリース情報]
食品まつり a.k.a foodman - Yasuragi land [Hyperdub / Beatink]
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11814

Local World
2016年より渋谷WWWをホームに世界各地のコンテンポラリーなエレクトロニック/ダンス・ミュージックのローカルとグローバルな潮流が交わる地点を世界観としながら、多様なリズムとテキスチャ、クラブにおける最新のモードにフォーカスし、これまでに25回を開催。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 -外伝- w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic - halloween nuts -
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX0 World - Reload -
Local XXMAS World - UK Club Cheers -
Local World x ether

https://localworld.tokyo

label: BEAT RECORDS / Hyperdub
artist: 食品まつり a.k.a foodman
title: Yasuragi Land
release date: 2021/07/09 ON SALE
* 輸入盤LPは8月中旬発売

国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説書封入
CD予約: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11814
LP予約: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11815

Phew - ele-king

 エレクトロニック・ミュージックにおけるサウンドの加工や異化つまりヴァリエーションによる「異質さ」は、批評家コジュオ・エシュンの「ソニック・フィクション」論でいうところの、従来的な思考法からの逸脱をうながす(参照:紙エレ22号P110、高橋勇人による論考「周縁から到来する非直線系」)。これはアフロ・フューチャリズム理論のなかで記述されているロジックではあるが、いまやエレクトロニック・ミュージシャンとして世界で活躍するPhewの作品から聴こえる電子音を読み解く上でも流用可能だろう。サウンドがうながす非直線的思考──じっさい彼女は新作における資料で、次のように発言している。「80年代、そして90年代までは物事が過去から現在、未来へという流れで進行していましたが、とくに21世紀がはじまって以来、その流れが変わってしまったと感じます。個人的には、現在から連なる未来というものが見えなくなってしまいました」
 反転した「ニュー・ディケイド」が描かれているのであろう、Phewの待望の新作はTraffic / MUTEから10月22日に世界同時発売決定。まずは第一弾先行シングル「Into The Stream」の青木理紗監督によるミュージック・ヴィデオをどうぞ。

Phew (Phew)
ニュー・ディケイド (New Decade)

発売日:2021年10月22日(金)
品番:TRCP-294 / JAN: 4571260591103
定価:2,400円(税抜)/ 解説:松村正人
ボーナス・トラック収録
Label: Traffic/Mute

Tracklist
1. Snow and Pollen
2. Days Nights
3. Into the Stream
4. Feedback Tuning
5. Flashforward
6. Doing Nothing
7. In The Waiting Room (bonus track)

[Pre-order + Listen]
https://smarturl.it/phew

伝説のアート・パンク・バンド、アーント・サリーの創設メンバーであり、1979年解散後はソロとして活動を続け、1980年に坂本龍一とのコラボレーション・シングルをリリース、1981年には、コニー・プランク、CANのホルガー・シューカイとヤキ・リーペツァイトと制作した1stソロ・アルバム『Phew』を発売。1992年、MUTEレーベルより発売された3rdアルバム『Our Likeness』は、再びコニー・プランクのスタジオにて、CANのヤキ・リーベツァイト、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのアレックサンダー・ハッケ、そしてDAFのクリスロ・ハースと制作された。2010年代に入り、声と電子音楽を組み合わせた作品を次々に発売し、エレクトロニック・アーティストとしても世界的評価を高めた。ピッチフォークは「日本のアンダーグラウンド・レジェンド」と評している。また、アナ・ダ・シルヴァ(レインコーツ)、山本精一(ex.ボアダムス)等とのコラボレーション作品も発売。2021年10月、最新ソロ・アルバム『ニュー・ディケイド』はTraffic/Muteより世界発売。

https://www.instagram.com/originalphew007/
https://twitter.com/originalphew
https://www.facebook.com/Phew-508541709202781
https://phewjapan.bandcamp.com/merch

〈PAN〉 × 〈Hakuna Kulala〉 - ele-king

 ベルリンの〈PAN〉と、ウガンダはカンパラの〈Hakuna Kulala〉(〈Nyege Nyege〉のサブレーベル)が手を組んだ。『KIKOMMANDO』と題された新プロジェクトは、カンパラのシーンを新たな角度から切りとるもので、音源に加え写真やMVもその一環に含まれる模様。
 8月6日にリリースされるミックステープには Blaq Bandana や Ecko Bazz、Swordman Kitala や Biga Yut といった〈Hakuna Kulala〉のアーティストが参加。〈PAN〉の STILL が全曲のプロデュースを担当している。STILL ことシモーネ・トラブッキは、かつてザ・バグが先鞭をつけたエレクトロニック・ミュージックとダンスホールの折衷を継承する音楽家で、2017年の『I』が話題となった人物だ。
 それは対話だった、とトラブッキは今回のプロジェクトについて述べている。「シンガーたちに自信を持ってもらえるような音楽的土台をつくると同時に、わたしは彼らに挑戦もした。一緒に仕事をすることはアイディアを加速させ、発明というものがひとりだけでできるものではないことを明らかにする。それこそ『KIKOMMANDO』がわたしにとってアルバムでなく、ミックステープである理由だ」とのこと。
 現在 Ecko Bazz の “Ntabala (Rolex Riddim)” が公開中。他の曲も楽しみです。

V/A (Prod. by STILL)
Title: KIKOMMANDO
Format: Digital mixtape / Book
Label: PAN / Hakuna Kulala
Cat. No: PAN 124 / HK029
Release date: 6 August 2021

01. Blaq Bandana – Nkwaata (Prod. by STILL)
02. Ecko Bazz – Ntabala (Rolex Riddim) (Prod. by STILL)
03. Swordman Kitala – Rollacosta feat. Omutaba (Prod. by STILL)
04. Biga Yut feat. Florence – Ntwala (Prod. by STILL)
05. Biga Yut – Tukoona Nalo (Prod. by STILL)
06. High Cry Interlude (Prod. by STILL)
07. Jahcity – Njagala Kubela Nawe (Prod. by STILL)
08. Biga Yut – Plupawa (Prod. by STILL)
09. Winnie Lado – The Race (Prod. by STILL)
10. Florence – Bae Tasanze (Prod. by STILL)
11. Jahcity – Tukikole Nawe feat. Omutaba (Prod. by STILL)
12. Winnie Lado – Ahlam Wa Ish السماء هي الحد (Prod. by STILL)

interview with Jouska - ele-king


 北欧……といってもぼくはデンマークにいちど行ったことがあるだけで、ノルウェーはおろかスウェーデンにさえも足を踏み入れた経験がないので偉そうなことはとても言えない。でもひとつだけ、北欧がほかのヨーロッパ諸国と決定的に違っていることは最初の1日目でわかった。街にせよ、ホテルや飲食店のトイレにせよ、とにかく清潔なのだ。街中イヌの糞だらけだった90年代のパリとは偉い違いだった。このクリーンさは北欧の音楽に反映されているように思われる。ハウスであれアンビエントであれ、ジャズであれシンセ・ポップであれ、スカンジナビア半島で生まれる音楽にはこざっぱりとした清潔感があり、独特の透明感がある。北欧のこうしたアンダーグラウンドな音楽は、90年代は待っていては見つけられず、探そうという意志がなければ出会えないものだったが、その品質が国際的に評価されていったことで、いまでは北欧はそれ自体がひとつの音楽ブランドと言えるほどのファンを獲得している。

 ノルウェーに関して言えば、クラブ系ではビョーン・トシュケリンドストロームプリンス・トーマストッド・テリエジャガ・ジャジストなどなど……それから知性派としてはジェニー・ヴァルがいるし、近年ではスメーツと、そしてここに紹介するヨウスカがいる。

 ヨウスカ(Jouska)は、マリット・オティーリエ・ソービック(Marit Othilie Thorvik)とハンス・オラヴ・セテム(Hans Olav Settem)という20代半ばの2人によるプロジェクト。昨年、配信のみでリリースされたアルバム『Everything Is Good』が海外メディアや北欧ポップス・ファンのあいだで話題となって、先日〈Pヴァイン〉からCD盤/アナログ盤としてもリリースされたばかり。

 ヨウスカは、捻りの利いたエレクトロニカ・ポップスでリスナーを魅了する。彼らの屈折した感性は、アルバムのスリーヴにもうかがえる──美しい海と何かひどい目に遭遇したばかりの女性の顔、題名は「すべては良い(Everything Is Good)」。マリットのエーテル状のヴォーカルとハンスによる折衷的なトラックとのコンビネーションは、初期のスメーツに似ているが、ヨウスカはドリーム・ポップ色が強い。
 取材では、ぼくからの質問のほか、彼らと同世代の通訳の水島くんとの対話から彼らのライフスタイルやノルウェーのお国柄に関する話題など広範囲に渡って話してくれている。日本で暮らすぼくからしたらなかなか興味深い話ではあるが、しかし、やはり日本から北欧は遠い。たとえばノルウェーのオスロはよく知られるように、2022年の冬季オリンピック誘致に立候補したけれど、IOCからのあまりの財政負担が強いられる無茶苦茶な要求(宿泊施設の条件から移動手段や料理や酒の指定、国王との対面等々)をみて、きっぱりと撤退している。
 ……ま、とりあえずぼくたちはヨウスカの音楽を楽しみましょう。



ノルウェーの伝統的なポップ・ミュージックはだいたい年寄りのために作られてたりするから、僕たちの世代は自分たちが好きなものを好きなように作りたかったんだと思う。それは結果的にはノルウェーらしいモノではないけど、新しいモノではあると思うんだ。

ヨウスカはどのようにスタートしたのですか?

マリット(以下、M):私たちはオスロのミュージックスクールで出会ったの。最初は普通に遊んでいたんだけど、いつからか一緒にスタジオに入るようになったのよね。

ハンス(以下、H):だいたい7年前だよね。

M:そうね。初めて会ったのは2014年だと思う。

H:最初はマリットが音楽を作りはじめていて、それがめちゃくちゃカッコいいと思ったからほぼ強制的に入れてもらったんだ(笑)。それから最初のリリースの前に一緒にたくさんの音楽を作ったよ。最初の数年感はインストの曲やサンプルを中心に実験的でちょっと変わった楽曲までいろいろアイデアを練って作っていったよ。

オスロの音楽学校で出会ったということですが、音楽のプレイ面を学ぶ学校だったのですか? 

M:4年生のポップ・ミュージックをテーマにしていた学科だった。そこでは音楽をプレイすることはもちろんだけど、ビジネスも勉強したね。

H:両方だよね。オスロで唯一のポップ・ミュージックにフォーカスした授業を学べる学校だよ。ジャズやクラシックをプレイすることがほとんどだと思うんだけど。

ティーンのときとかはどんな音楽が好きだったの?

M: 私はけっこう何でも聴いていたと思う。昔はヒップホップでダンスをしてたんだけど、その影響もあってヒップホップやR&B、ポップ・ミュージックを最初は聴いていた。そこからだんだんとインディーを掘るようになったって感じかな。アルバムというよりかは楽曲ごとに聴いていたわ。プレイリストとかを作ってね。

H:マリットはナップスターでダウンロードして聴くのがお気に入りだったよね(笑)。いまの世代では一般的だよね。僕はもっとオールドスクールで、グリーン・デイとかビートルズのCDを買っていたし、マイナーなパンク・バンドや昔のロックンロール・バンドのCDを集めていたんだ。

M:彼はバンドもやっていたのよ。

H:そうだね。だからアルバムで聴くのが好きだったのかもしれない。

ちなみにノルウェーの音楽を聴いていたの?

H:うーん、ティーンのときはノルウェーの音楽には全然ハマってなかった。

みんな海外の音楽を聴いているのが普通なの?

M:そうだね。だいたいみんなアメリカやイギリスの音楽を聴いているよ。

日本とは全然違うね。日本人はだいたい日本の音楽を聴いているから。

H:個人的にノルウェーのポップ・ミュージックは良い方向にチェンジしたと思う。いまではアメリカの音楽のクオリティーと変わらないレベルにあるけど、昔は海外の音楽よりも劣っているように聴こえたんだ。あとポップ・ミュージックじゃないけど、80年代のファンクやディスコとか90年代のヒップホップとかカッコいいものも探せばたくさん出てくるよ。でもそれに気づいたのは最近かな。

なるほど。だから海外のサウンドに影響を受けているように感じるけど、それは自然なことなんだね。

M:うん、自然だよね。オスロのアーティストでノルウェーの音楽だけを聴いている人は私たちの周りには少なくてもいないし。

なるほど。そうしたらヨウスカのことについてもう少し話していきたいんですが、ヨウスカという名前の由来や付けた理由はありますか?

M:私が 「普段使わない/耳にしないクールな単語」って調べたときにヨウスカってワードがリストに載っていたの。まず見た目がカッコいいと思った。 ヨウスカって単語の意味は自分の頭のなかで架空の会話が何度も何度も繰り返されて頭のなかでグルグル回っていること。って感じなのだけど、そういった音楽を作りたかったからクールだと思ったのよね

H:取り憑かれたかのように何度も何度も強制的にね。なかなか目にしないワードで、他の単語では説明できないような言葉を使いたかったんだ。

M:私が見たそのサイトには日本の単語も載っていたよ

本当に?

M: うん。意味は理解できなかったけど、形がカッコよかったわ(笑)。

僕には何がカッコいいのかわからないけど、いろんな人から言われるよ(笑)

H:日本のカルチャーはカッコいいと思う。もちろん全部のことを知ってるわけではないけど、現代では昔よりも世界中のカルチャーが影響を与えあっていると思うし、それが良い感じに表現されているよね。例えば僕は日本のヒップホップとかをたまに聴くよ。意味は理解できないけど、それでもカッコいいと思う。

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グライムスはスペシャルだ。彼女が作り出したエイリアン・テクノ・ヴァイブスは僕らの音楽にも入っていると思う。FKAツイグスも本当に最高だしUSやUKからの影響はもちろん、フランスのエレクトロ・ミュージック・アーティストとかからも影響を受けている。

音楽制作について訊きたいんだけど、インスピレーションはどこから受けることが多いですか? 他の音楽からとかですか? それとも日常生活?

H:日常の経験から影響を受けるよ。僕たちは日常で起こったことをありのままに書いているわけではないけど、例えば何かに怒っているときは激しいビートができるし、いつも自然と頭に浮かんでくるモノをまずは作るようにしているから、落ち込んでいるときは自然とアンビエントなシンセサウンドが浮かんできたりする。ひとつの楽曲のなかにたくさんの感情が宿っていると思うけど、それは自然と湧き出てくる感情が音につながっているからだと思う。歌詞を書くのには苦労するときもあって、さっき話した自分たちのムードはサウンド面で表現することが多いのだけど、歌詞は抽象的に表現をして、聞いてくれる人がそれぞれの意味を見つけられるようんしたいんだ。これが僕たちの人生で起きたことだよって伝わえるわけではなくてね。僕たちは抽象画を書いて、最終的にそれがどのような絵なのかはリスナーに感じたまま受け取って欲しいんだ。

M:抽象的な音楽を作りたいというのは私たちのひとつのテーマであると思う。

リスナーに考えたり、色をつけるスペースを与えたいと?

M:そういうことだね。

たしかに”Everything Is Good” といいながらもサウンドはカオスティックで全然グッドではなかったり、頭のなかで映像が自然と浮かんでくる楽曲も多いですよね。

H:それは映画にも影響を受けることが多いからかな? たまに映画についての曲も書くよ。他のアートから影響を受けてまた別のアートを生み出すのは素晴らしいことだと思うんだ。

どんな映画に影響を受けたの?

H:『ショップリフター』って見たことある? 日本の映画だと思うんだけど。舞台は東京だっけ?

M:うーん、たぶん。

ああ、『万引き家族』ね。僕は観たことないけど、有名な映画です。

H:Hirokazu Koreedaの映画だよね。発音がわからないけど。

ヒロカズ・コレエダだね。

H:コレエダ? 発音するのが難しいね。でもとても影響を受けた映画のひとつだ。ベタだけど『パラサイト』も好きだね。

M:『マルホランド・ドライブ』……

H:イエス! 僕たちはデヴィッド・リンチが大好きだ。

M:最近私はMUBIというプラッフォトームでよく映画を見ている。知っている?

知らないなあ。Netflixみたいな感じですか?

M:似たような感じだけど、MUBIはもっと昔の映画、インディペンデントな作品やフィルム・フェスティヴァルで上映されたモノとかが取り扱われてるんだよね。最近『La Haine』というフランス映画は最高にクールだったわ。

へえ! 全然知らなかったよ。チェックしてみるよ!

H:日本のシリーズを見てたことあったよね? なんて名前だっけ?

M:名前忘れちゃったわ

H:あれ韓国のだっけ?

M:たぶん

H:ごめん日本と韓国はいつもゴチャゴチャになっちゃうんだ。

大丈夫だよ。僕もよくあるよ。あなたたちは自分たちの音楽を ”ベッドルームR&B”と呼んでいますね。プレスリリースによるとあなたたちはThe Internetやグライムスといったアメリカ(カナダ)のアーティストから影響を受けていると書いてあるけど、FKAツイグスやマッシヴ・アタックのようなUKのアーティストのスタイルとも親和性を感じます。ヨウスカが音楽を作る上で、アメリカのアーティストからの影響が多いのですか?

H: 面白いね。いま挙げてくれた4つのアーティストは僕たちにとっていちばん影響を受けているアーティストと言えるからね。とくにグライムスはスペシャルだ。彼女が作り出したエイリアン・テクノ・ヴァイブスは僕らの音楽にも入っていると思う。FKAツイグスも本当に最高だしUSやUKからの影響はもちろん、フランスのエレクトロ・ミュージック・アーティストとかからも影響を受けている。たくさんの音楽を聴いて、それぞれから影響を受けているし、国はあんまり関係ないかな。アメリカやカナダのアーティストが多い気もするけど、それは単純にアーティストがたくさんいるからだと思う。

M:私は自分がバンド・プレイヤーとしても参加しているノルウェーのSassy 009から大きな影響を受けている。バンドに参加してからはもちろんだけど、彼女と知り合う前からね。Sassy 009のアルバムのMixをしていた人が“Everything Is Good”のMixもしてくれたのよね。

マリットがSassy 009のプロジェクトに参加してから具体的にはからはどのような影響を受けましたか?

M:レコーディング・プロセスからソングライティング、とにかくいろんなことを影響されていると思う。彼女の音楽そのものはもちろん、美学のようなモノにも影響を受けているわね。スタジオワークで衝動的にイメージをサウンドに変化させるのがすごく魅力的で。音やテイク選びにも優れていて、彼女からサウンドのノイズ、アンビエント、歪みなどの使い分けを多く学んだと思う。

ヨウスカのサウンドには他にもテクノやアンビエントとかの音楽性も加えられていて、とてもオリジナルなモノだと思う。いつも音楽を作るときにヨウスカのオリジナリティーを出すことは意識してる?

M:そうだね! 私たちは自分たちのオリジナル・サウンドを作ることを意識してる。さまざまなアーティストからの影響を感じさせつつも、自分たちのオリジナル・サウンドとして成り立っているのはとても重要だし、聴いてくれた人がいままで聴いたことないような音楽を作りたいの。

インスピレーションをミックスして?

M:そういうことよ。

H:とにかくインスピレーションは多いほうが良いと思っているし、それをミックスすることで良いものが作れると思っているんだよね。

なるほど。楽曲制作では最初にゴールを作りますか?それとも感覚的に作りますか?

H:たまに制作に入る前にどんな曲を作りたいのかビジョンを描くことはあるね。もちろん感情に任せることもあるよ。怒りの感情が強いときはそういった曲になるし、悲しいムードだと自然とメランコリックな表現がキャプチャーされたりね。ただヴィジョンを描くとはいったけど、例えばあのアーティストのあの曲みたいな楽曲を作りたいとかはないかな。曲を作る前にこの曲を聞いてくれた人がどんなムードになってほしいのかを考える感じかな。

ライヴとかをイメージして?

H:そうだね。ライヴでのオーディエンスもヘッドフォンでひとりで聴いてくれる人もイメージかな。

H:ライヴで演奏することなんていまでは奇妙な話に思えちゃうね。悲しいけど。

日本ではキャパシティーを制限してライヴを開催できるよ。なんとかね。

M:本当に?

うん、完璧とは言えないけどね。僕も主催しているイベントがあったりするよ。

M:私たちを呼んでよ!

計画するしかないね! こんな時代終わったらね!

M:楽しみだわ。

話は代わるけど、マリットは好きなヴォーカリストやリリシストはいますか?

M:う〜ん、選ぶのが難しすぎるわ。

M:レナード・コーエンとスフィアン・スティーヴンスはとてもお気に入りね。私たちの音楽とはかけ離れてるけどね。

H:彼らのような少しメランコリックなアコースティック・ミュージックは小さいときから触れる機会の多い代表的なジャンルでもあるんだ。僕らは2人とも小さな街の出身だからカルチャーとかも発展してなかったし、悲しいムードから逃げ出したいときとかにレナード・コーエンやスフィアン・スティーヴンス、あとはダミアン・ライス(アイルランドのフォーク歌手)とかもよく聴いていたね。フォーク系のアコースティックな音楽は僕たちが10代の頃によく聴いていた音楽のひとつだと思う。

M:ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンも大好きだわ。彼の音楽を初めて聴いてたとき、言葉では説明できないような感情に初めて陥った。感情爆発したかのようだったし、いままで聴いたことのない音楽のようだったの。

H:僕もだよ。彼のセルフタイトル・アルバムからはかなり影響を受けている。あのアルバムを聴いている間は完全に彼の音楽の世界に溺れているような感覚にさせられる。音が瞬間的に伝わってきて、それが景色を作り出すんだ。

僕も彼が大好きだよ。初めてコーチェラで彼のステージを見たとき、本当に遠くにいて彼の姿も見えないくらいだったんだけど、それでも彼が鳴らす音はダイレクトに伝わってきたりしてね。

H:2011年に観た彼のライヴはいまでも人生でもっとも素晴らしかったライヴのひとつだよ。さっき言った大好きなSTアルバムのツアーでね。

そのとき見れたのは羨ましいな。マリット何を考えているの?

M:女性で好きなリリシストは誰かな〜って考えてて。たくさんいすぎて決められないわ。

(笑)

M:グライムスの話はしたしなあ。Joan BaezやLinda Perhacsは大好きだわ!

H:ニコも大好きだよ。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは聴いたことある?

もちろん

H:ルー・リードのバンドね。彼女はいくつかの曲でコラボしたんだ。アンディ・ウォーホルが仕組んだんだよね。

H:おかしいことに2015年より後のアーティストについては何も語ってないね(笑)。

M:たしかに(笑)

ノルウェーにはほかに、クラブ系ではリンドストロームやトッド・ティエリ、プリンス・トーマスのような国際的なDJ / プロデューサーがいるのと、〈Smalltown Supersoun〉というレーベルもありますが、ヨウスカや他の同世代のアーティストにとって彼らはどういった立ち位置ですか?

H:もちろん、彼らは知っているよ! 彼らに影響を受けたと声を大きくしては言えないけれど、彼らのライヴを何回か見ているから、もしかしたらどこかで知らずと無意識で影響を受けているかもしれないね。〈Smalltown Supersound〉についても知っているけど、残念ながら繋がりはないかな。ただ、ノルウェーのレーベルやアーティストが世界的に評価されるのは嬉しいことだし、僕たちの世代やさらに若い人たちも含めて世界中に自分たちの音楽を発信したいと思っているのは間違いないね。

ジェニー・ヴァルはどう? 彼女もノルウェーの画期的なアーティストだと思うけど。

M:大好きだわ! 『Blood Bitch』というアルバムをめちゃくちゃ聴いてるよ。

H:あ! ちょっとまって!

M:彼女のコンサートは素晴らしかったわ。思ってるほどにノルウェーで有名ではないけどね。

(ハンズがTシャツを持ってくる)

わお! ツアーTシャツ?

M:猫を飼ってるから穴が空いてるけどね。これは日本語だよね?(“血売女“ という字が書いてある)

それは漢字だね。僕たちも使うよ。「Blood Bitch」って漢字を使って書いてあるね。

H:なるほど!

M: 私は彼女のダウナー落ち込んでいるときによく聴くかな。そういったダークな感情から逃げるのにちょうど良いのよね。

H:彼女はたくさんのノルウェーのアーティストに影響を与えていると思うよ

M: とくに女性ヴォーカリストにはね。

H:彼女は新しい女性SSWのシーンを早い段階から作っているからね。たぶん2010年くらいからかな。ノルウェーのいまのシーンにも繋がっているとても重要なアーティストだと思うよ。

LAでも人気だったよ。彼女のツアーはすぐにソールドアウトしてね。ようやくだけど、アルバムの話しも聞いてもいいですか?

M:もちろん


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日本やアメリカと比べるとここでは生計を立てるための機会がみんなに与えられていると思う。仕事を失ってもここでは大きな問題ではなくて、政府が新しい仕事を見つけるサポートをしてくれるんだ。


『Everything Is Good』は音はもちろん、コンセプトも素晴らしい1枚でした。まずあのジャケットが目を引くと思うのですが、あのジャケットを作る上での戦略や目的はあったのでしょうか?

H:僕たちは大惨事のようなシチュエーションを描きたかった。そもそもウェディングドレスを中古ショップで見つけて、それを持ってビーチに行ったんだ。ウェディングドレスといえば “ロマンチック”や“幸せ”のようなポジティヴな感情を象徴するモノだと思うんだけど、それを身につけながら悲しみや憂鬱のようなモノを表現したかったんだ。

“Everything Is Good”というタイトルなのに楽曲がメランコリックなのと同じだね。

H:そういうことだね。

M:ドレス全体は見えないけどね。

マリットは撮影日について覚えていることはある?

M:私たちは一日中海にいたんだけど、とにかく寒い日だったのよね(笑)。身体についた砂を設立されているシャワーで洗い流したんだけど、とにかく水が氷水みたいで。もう本当に最低だったの。もしかしたらそのムードがその写真にも現れてるのかもね(笑)。

そもそもオスロにビーチがあるのを知らなかったよ。

H:ノルウェーのビーチはLAのようなビーチではないけどね。砂浜は狭いし、だいたい寒いよ(笑)。

撮影はいつだったんですか? まさか冬じゃないよね?

M:もし冬に撮影していたら私たちはいまここにいないわ(笑)。去年の春くらいね。

どっちにしてもビーチに行くには早すぎるね(笑)。

H:ノルウェーにはビーチに行くベストタイミングが7〜8月しかないからね(笑)。ちなみに日本のどこに住んでるの?

神奈川というところに住んでるよ。電車で30分くらいで東京にいけるところ。よくこの質問されるのだけど、住んでるところを説明するときは、もしNYが東京だったら、NZに住んでるって説明するんだけどわかるかな?

H:NYとNZね。村上春樹の本を読んでるから東京近辺の街や駅の名前とか少しわかるよ。都会的でコンパクトな街のイメージがあるね。

東京の満員電車は想像できる?

H:できるよ。昔やってたバンドのMVでフィルム班が東京に撮影しに行ったことがあったんだけど、そのとき彼らは小さな電車にたくさんの人が乗っている映像を撮ってきてね。しかも他の人を無理やり電車に押し込んでいるんだ。

M:OMG

だね。最悪だよ。アルバムの話に戻るけど、『Everything Is Good』の制作に限って言うと、一番影響を受けた3組のアーティストを教えて下さい

M:グライムスは確実ね あとは……。

H:ノルウェーのスメーツも入るかな。

H:いままで触れてこなかったけど、テーム・インパラにもたくさん影響を受けているね。グライムス、スメーツ、テーム・インパラの3つのアーティストの間にいるようなサウンドを作りたかったんだ。テーム・インパラの大好きなところはダークな曲でもといかく音がとにかく心地良いところで、高揚させるような楽曲の中で同時に悲しみやダークさが味わえるのが好きなんだよね。

たしかにヨウスカのサウンドにも包まれるような心地良さがありますよね。

M:そこは意識したわね。水が流れるように自然に身を委ねられる心地良いサウンド作りをとくにシンセサイザーの音で意識したわ。

H:あとは「Euphoria」というドラマにも影響を受けたね。雰囲気やヴィジョンがとてもクールなんだ。チェックしてみて。

見てみるよ。 『Everything Is Good』というポジティヴなアルバム・タイトルですが、内容はもっとメランコリックでダークでエモーショナルですよね。何故こういったアイロニカルな表現をタイトルで使用したのでしょうか? まったく情報がなければサマーチューンが詰まったアルバムをイメージします(笑)。

H:大事なところだね。アルバムはダークでメランコリックなモノに仕上がったんだけど、アルバム内容をそのまま表現するようなタイトルはつけたくなかった。もっと面白くしたかったのさ。アルバムのタイトルを見てから聴いてもらえれば一瞬でそれがアイロニカルな表現だって気づいてもらえると思うし、ちょっとクスッとしてほしくてね。予想していたサウンドと別のものを届けたかったんだ。僕たちはペテン師ではないけど、サプライズが好きでね(笑)。

(笑)ヨウスカの音楽には哀しみが含まれていると思うのですが、その哀しみはどこから来た哀しみですか? 個人的な心配事や出来事、もしくは日々の生活の中で感じること? もしくはもっと外の世界で起きている社会問題とかからですか?

M:混ざっていると思う。もちろんパーソナルな経験から来ることもある。そしていまの私たちが置かれている状況とかからもね。例えばInstagramにいいね!とフォロワーを稼ぐために写真を上げるのは本当にストレスになるし、この状況にまだ慣れない。それでも残念なことにいまでは社会の大きな一部になってしまっているでしょ。そういった日々の小さなことから気持ちがダウナーになってそれが楽曲のムードにも反映されていると思う。

ときどき全部やめたくなるよね。

H:本当にね。それに僕たちは神経質だと思うんだよ。いろいろ考えてしまうし心配ごとも多い。でも自分たちの性格がこういう人間だって知ってからは感情を自分たちの音楽で表現したいと思ったよ。無理に明るい音楽を作るんじゃなくてね。悲しいかもしれないけど、同時に美しいかもしれないから。

感情を吐き出せる場所があるのは素晴らしいことだと思うよ。 ちなみにパーソナルなこと以外だとノルウェーのダークな部分から影響があったりするんでしょうか?

M:あるわよ。

例えばどんな? ノルウェーには行ったことがないので、多くの情報を知ってるわけではないけど、そんなアウトサイダーにはノルウェーはとても良い国に見えます。カレッジに無料で行けたり、医療システムも平等で整ってる。僕はアメリカが好きだけど、とても問題が多すぎて良い国とは言えないし、日本に良いイメージを見る人も多いけど、治安は良いけどじつは自殺者が多い国なんて良い国とは言えないよね。そういう意味でいうとノルウェーは外部者からしたらパーフェクトな国にも見えたりするんだけど、そうじゃないかもしれないよね。ノルウェーのダークなポイントはあったりするのでしょうか?

H:そうだね、まずたしかにノルウェーやスウェーデン、デンマークといった国は世界のなかでもとくにラッキーな国だと思うよ。国の決まりや政治においてね。小さい国だからまとめやすいというのも大きいと思う。例えば僕たちはほとんどの国民が政府を信じているし、世界的に見るとそれはユニークなことだと思う。例えばアメリカでは政府と国民の間には溝が空いていると思う。政治家と市民はまるで違う世界に住んでいるかのようにね。でもノルウェーでは誰もが誰かしら政治に関わっている人を知っているから、格差がなくて親近感を持ちやすいんだ。それは多くの人たちが持っている社会主義的な考え。ほんとうの意味での社会主義ではないのかもしれないけど、平等主義者というのかな。

平等主義者? 例えばどんなことから感じるの?

H:日本やアメリカと比べるとここでは生計を立てるための機会がみんなに与えられていると思う。仕事を失ってもここでは大きな問題ではなくて、政府が新しい仕事を見つけるサポートをしてくれるんだ。たぶんだけど、日本やアメリカでは一度仕事を失ったら、それは人生に大きく作用するような出来事になっていると思うし、自殺とかにも繋がってくると思うんだけど。

そうだよ。

H:日本はアメリカよりマシでしょ?

うーん、経済的な格差にしてはマシだと思う。アメリカにはホームレスが多すぎるしね。LAを離れてNYCに行ったときがあったんだけど、しばらくNYで生活してLAに戻ってきたら友だちがホームレスになってた。そういったことが普通に起きたりするんだ。彼はたった23歳だったのにね。ところでノルウェーのダークポイントは?

H:人びとがとても孤立しているんだ。自分自身の抱える問題や感情を人に話すのも苦手だし、新しい人たちと出会うのを恐れているところかな。なかには生まれてから死ぬまで同じ環境のなかで同じ人たちと過ごす人たちもいるよ。日本にも似ている部分があるよね?

そうだね。日本人はとくにシャイだから。でもノルウェー人もシャイなの? 僕には数人ノルウェー人の友だちがいるけど、彼らめっちゃ喋るから(笑)。逆に珍しいのかな?

H:そうだね。レアだよ。ノルウェー人はとてもシャイだと思う。

M:ノルウェー人は偏見が強いよね。

H:そうだね。ノルウェーの人は偏見が多いと思うし、すぐに他人をジャッジする傾向にあると思う。たしかに他の国よりも住みやすい国ではあるんだけど、それをわざわざランキングっぽい感じで表現していたりする。それは社会的にはよくないと僕は思うかな。

M:甘やかされて育った子供みたいにね。

M:気候も関係あると思う。冬なんてとにかく暗いし寒いんだけど、それらが人のムードとかにも直接関係していると思う。

H:ノルウェーより南から引っ越してきた人たちは、とにかく冬になると落ち込むよ。なんつったって、太陽が出ないからね。

M:真っ暗よ。

H:この気候はノルウェーの人たちのワガママな正確を生み出しているひとつだと思う。世界的には考えられないかもだけど、あの冬があるし、僕たちは毎年夏に長い夏休みを取る権利があると思ってるからね(笑)。

そろそろアルバムの話に戻りたいのですが、4曲目に収録されている“Pink”という曲にはDoglover95というアーティストがゲスト参加していますよね。彼はオスロのラッパーのようですが、元々繋がりがあったのでしょうか? 

H: うん、彼のことはもともと知っていたよ。彼がリリースしたアルバムが大好きだったんだ。

M:彼の音楽ではノルウェーのラッパーでは珍しい実験的なサウンドなんだよね。

H:ノルウェーのラッパーはだいたいキャッチーなモノを目指して作るんだけど、彼はもっといろんなモノを取り入れていてユニークな存在だよ。人としても最高なヤツだから一緒に仕事できて嬉しかったね。

M:プロデューサーとしても素晴らしいの。

アルバムを作ってるときに記憶に残ってることってあります?

M:フィレンツェに2週間行ったときがあって。

H:ダラシないノルウェー人だね(笑)。

M:アルバムの制作もスタートしてね。すべてが素晴らしい体験だったのよね。

H:建造物やムードとか街を歩いているだけで感じることがたくさんあったんだ。ダビンチとか偉大なアーティストがたくさん生まれた街だからね。滞在するだけで感じるモノがとにかく多かったんだよね。音楽を作るのには最適な場所だね。

ノルウェーからそんなに遠くない?

H:遠くないよ。飛行機で3時間くらいかな。

それは良いよね。ヨーロッパに住んでいると、いろんなところに気軽にいけるのがいいよね。

M:うん。文化や言葉が違う国に気軽にいけるのはアーティストにとって良いことだと思う。

アルバムのなかでとくにお気に入りの曲はある?

H:僕のお気に入りは冒頭の”Everything Is Good”だよ。個人的に一番ピュアな曲だと思うし、アルバムのムードを1曲で表現できた曲だと思うんだ。メランコリックな気持ちにもなるし、楽曲の最後のカオスなアレンジが好きだね。

M:私は“Beat Up You Baby”がお気に入りね。まずメロディが好きなの。脳内のなかをグルグル回ってる感じがするのよね。この曲は他のアーティストとは全然違うオリジナリティのある曲にとくに仕上がっていると思う。インディー・ギターとR&Bヴォーカルをミックスしたスタイルがとくにうまく表現できたかな。

アルバムのラスト・トラックである“”♰shadow♰は作中もっとも実験的な曲ですが、この曲のアイデアはどこから来たんですか?

H:(笑)Shadowだよ(猫をみせる)。

M:フィレンツェで作った曲だよね。

H:フィールド・レコーディングでイタリアの子どもたちが公園で遊んでいる様子を録音したんだけど、それをあらためて夜中に聴いているとメランコリックな気持ちにさせられてね。ただ、子どもたちが理解できない言語で喋っている要素が録音されているだけなのに、ノスタルジックが止まらなかったんだ。だからこのサンプルの上でヨウスカらしい即興シンセを乗せて、アルバムのラストアンセムにしたんだよ。

M:フィールド・レコーディングでとてもノスタルジックになって、私は子供の頃の感情を思い出したの。子供のときに飼っていたペットが死んじゃったこととかね。本当に残酷で辛かった。当時はその私が大切にしていたウサギが死んでしまったことを理解もできなかったの。この曲はそのウサギとShadowを重ねた曲だね。この子もいつか死んでしまう日が来るわけだし。

H:だから「shadow」の隣に♰がついているんだ。

M:あらためてお葬式をやっているかのようにね。

とても悲しい終わり方ですね。

H:だね。

オスロの音楽シーンについてもっと訊きたいのですが、先ほどスメーツやSassy 009というアーティストが話題になりましたが、個人的にはDas Bodyや Lokøyといったアーティストも好きで、こういったエレクトロ・ミュージックにR&Bが加わったスタイルの素晴らしいアーティストがオスロから続々と出てきているような気がするのですが、それに理由などはあると思いますか?

H:たしかにオスロではつねにどこかしらの若いアーティストのコミュニティーがいつも急激に成長をしている感じがあるよ。理由としては、まずアーティスト同士の距離が近くて影響与えあっていることかな。オスロという街は大都市に比べると規模が小さいから知り合いが音楽を作っていることも多くて、そういった知り合いがカッコいいものを作っていると自分も作りたくなる。そういった連鎖が生まれていると思う。コラボレーションとかもやりやすい環境だと思うしね。他にはライヴをプレイする場所もたくさんあるし、ノルウェー政府からサポートを受けられることもたくさんの若い子が音楽をやっていける余裕がある理由の大きいなひとつだと思う。

政府に支援されている?

H:そうなんだ。だから誰しもが弁護士や医者を目指す必要はないんだ。そういった財政的な支援があるから僕たちはメジャーなポップを作らなくても済んでいる。楽器を買ったり、アルバムを制作したりするのはお金がかかることだけど、僕たちアーティストはそういった音楽活動することで欠かせないことに関して財政的支援を受けられるんだ。

M:あと、目立ちたいってのもあると思うな。ノルウェーではだいたいがポップ、ヒップホップ、フォークみたいな音楽をやってる人が多いから、だから違うタイプの音楽を作ればシーンのなかで目立つしね。

H:ノルウェーの伝統的なポップ・ミュージックはだいたい年寄りのために作られてたりするから、僕たちの世代は自分たちが好きなものを好きなように作りたかったんだと思う。それは結果的にはノルウェーらしいモノではないけど、新しいモノではあると思うんだ。それで結果的にそういった思考を持ったアーティストはオスロに集結する。それ以外の街ではなかなか活動が難しいからね。

M:私たちは別々の街で育ったけど、どちらとも音楽をやってる人はいなかったね。本当にやりたいならオスロに引っ越してくるのが主流なのよ。小さい街にとって悲しいことかもだけどね。でもオスロに引っ越してきて、すれ違う人が全員カルチャーに対して興味を持っているような感じがあるわ。

他のジャンルのアーティストとも関わったりしますか?

H: うん、いろんなジャンルのアーティストと関わるよ。僕たちはプロデューサーとしても活動しているからね。とくにアコースティックな音楽や実験的なジャズ、更にはノイズミュージックのようにヨウスカよりも実験的なモノをやったりもする。自分たちのなかでリミットを立ててしまうとつまらなくなってしまうからね。そういったこともあって僕たちはいろんなアーティストと繋がりがあるよ。

InstagramでSafarioと一緒に仕事をしているとこを見たよ。

H:そうだね、最近彼と仕事をしているよ!

彼はもっとアメリカのベッドルーム・ラップっぽい感じだよね。他のアーティストとかもジャンルをまたいで仕事をしている人が多いの?

H:あんまり多くはないかな。だいたいの人たちは同じジャンルの人たちと一緒に仕事をしたり遊んだりしているからね。LokøyやSafarioのようになかにはジャンルを超えて色々やっているアーティストもいるよ。個人的には自分たちとまったく違うアーティストと仕事をすることは最高だと思っている。全然違う趣味のなかでお互いが好きなモノを見つけたら、それは大きな発見にもなって自分自身をアップデートすることにも繋がるからね。

クラブとかには遊びに行くの? 

M:行かないわね。

H:いまは行かないね

M:昔から行かなかったじゃない。オスロにはクールなクラブは多くないの。

H:オスロにはクールなクラブはあんまり多くないんだ。少しはあるけど、だいたいオスロのパーティ・カルチャーといえば、飲んで、酔っ払ったら外で休憩して、良い感じの人を見つけてセックスするみたいな感じだからね。ただここ10年間でいろいろ変わってきていると思う。最近レイヴ・パーティを主催する人が増えていて、そこではクールな音楽がいつも流れているんだ。街の中心にあるクラブだとせいぜい2〜3くらいしか良い場所があるかないかって感じかな。

なるほどね。クラブ・カルチャーは若い子には根付いていませんか?

H:クラブに行くのは高いんだよね。ノルウェーの人はだいたいお金をそこそこ持ってるけど、それ以上にアルコールが高いんだ。だから若い人がクラブで朝まで過ごすにはハードルが高くてね。半月の給料を一夜で溶かすようなモノだよ。

本当に? 普段から高いの? それともクラブ内でだけ?

H:どこ行っても高いけど、クラブはとくに高いね。アルコールのルールが厳しいんだ。

日本とは真逆だね。日本は他の国よりも安くアルコールをクラブで買えるよ。でも逆にドラックには超厳しいから海外のお客さんからはたまに文句言われてるよ(笑)。

H:ノルウェーもドラッグに対しては少し厳しいかな。でもいろいろ変わっていて、マリファナはたぶん合法になっていくと思う。

最後にオススメのオスロの新人アーティストを3組教えて下さい。

M: まずはJuni Habel(ユニ・ハベル)彼女はインディーフォークSSWね。最高なの。

H:少しジョニ・ミッチェルに似てるかな。メロウでチルなフォークでめちゃくちゃ最高だよ。

M:Niilasも最高ね。

H:彼はエレクトロ・プロデューサーだね。彼はずっとDJとして活動していたんだけど、最近自身のデビュー・アルバムをリリースしてね。それが最高なんだよ。クラブっぽさもあるんだけど、メランコリックな要素もあってね。彼は自身の音楽にサミー族の音楽やカルチャーをミックスしようと挑戦しているんだ。サミー族の話は聞いたことある?

ごめん知らないや。

H:彼らはノルウェーの先住民なんだ。ドイツやデンマークから人びとがノルウェーに移住してくる前からノルウェーの北の地域に住んでいた人たちで、まったく違うカルチャーのなか生活していた。アメリカのネイティヴ・アメリカンと同じ感じだね。Niilasはそういったサミーの伝統音楽とヨーロッパのテクノやUKのブレイクビーツをミックスしているんだ。

M:後はアンビエントもミックスされているわ。

なるほど。ノルウェー人にしか作れない音楽ってことだね。

M:うん、そのとおりだわ。

もう一組は誰でしょうか?

H:たくさんいるから選ぶのが難しいね。

M:Murmurかな。彼女は私と一緒にSassy 009のバンドメンバーをしているの。

H:Murmur はライヴがカッコいいんだよね。日本にも一緒に行きたいよ。

M:私は彼女の唄声が大好きなの。彼女の歌い方は少なくてもここでは他の人とは全然違うのよね。

H: 僕たちみたくノルウェーのアーティストはシャイだから囁くように歌ったり、メロウな感じで歌ったりすることが多いんだけど、彼女は身体の全体から声を出すように歌うんだ。

名前もカッコいいね。ヨウスカ、Murmur、Sassy 009でツアーをできたら最高だね。

M:そうだね! せっかくリリースもできたしいつか日本にも行きたいわ!

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