「KING」と一致するもの

BRAWTHER ×Fukutomi - ele-king

 時代はハウスなのかね、というか、先日のジャパニーズ・ハウスの記事の異常な盛り上がりに、ああ、ついに時代は一周して、ハウス・ミュージックが若者の音楽になったんだなと実感しました。
 で、そのハウスの記事を書いてくれた日本語がおそろしくうまいフランス人、アリックス君が主宰に関わっている、ディープ・ハウスのパーティが今週末にあります。イギリスからは〈My Love Is Underground〉からのリリースで知られる有望株、BRAWTHER、そして日本からは福富幸宏だ! ザ・XXのライヴに感動して人、ディスクロージャーに押しかけた人はかならず行くこと。


@AMATE-RAXI  https://www.amrax.jp/
11月9日、22時open
DJ:BRAWTHER、福富幸宏,、DJ Stock
入場料:3000円(1ドリンク付)、w/f 2500円(1ドリンク付)

■BRAWTHER (Balance / My Love Is Underground / Dungeon Meat)
 イギリスのリーズ在住、パリ生まれのハウスミュージック育ち──BRAWTHERの全ては彼の音楽に集約されていると言っても過言ではない。 現在まで一部の限られた楽曲しか世界的にリリースされていないが、いずれも〈SECRETSUNDAZE〉や〈MY LOVE IS UNDERGROUND〉など業界で圧倒的に支持されているレーベルばかりだ。最近では〈DUNGEON MEAT〉というレーベルを創始、さらにいままで以上にディープでダークな音楽をリリースする予定になっている。
 BRAWTHERの表現の多様さは、強く刺激的な4/4beatsから観客を白昼夢へと誘うサウンドまでと幅広く、常にハウス・ミュージックの根本を魅力的に伝えてくれる。あのシカゴ・ハウスのパイオニアCHEZ DAMIERの親友であり弟子となったのも、そう遠い昔話ではない。
 DJとしてイビザDC10のCIRCO LOCOで心地よいサウンドを提供する傍らロンドンのナイトクラブFABRIC、PANORAMA BARやGLASTONBURYでプレイするなど活躍の場は広く、リーズの老舗BACK TO BASICS からも声がかかる人気だ。
 彼がさらに大きな舞台に打って出る準備は整いつつある。BRAWTHER、彼のサウンドが世界の音楽シーンを震撼させる日は近い。

■福富幸宏
 1988年に初めてNYを訪れた際ハウス・ミュージックにノックアウトされ、以来一貫して「ハウスの本質と多様性」を追求すべくDJ,制作活動を行ってきた。その作品は常に様々な音楽のエッセンスを含み、容易にはカテゴライズし辛いものであったが、それが故に持つオリジナリティは国内よりむしろ海外Jazzシーンで高く評価される結果となり、'99年以降
リリースされた作品は全てワールドワイドリリースを果たしている。
 最新作『Contact』は、ハウス・ルーツに立ち返りつつその「本質的な多様性」を見据えた、ストイックかつ幅広い内容となっている。

DJ STOCK (World Spin / JMC)
 90年代後半、ニューヨーク流入期のシカゴ・ハウスに影響を受け、DJを開始。ソウルやファンク、ヒップホップ、フュージョンジャズといったブラックミュージックを聞きながら、USハウスを中心としたプレイを続け、シカゴでもプレイを行う。やがて、Ron Hardyとその子供たちの影響から、ハウスと生音を行き来するスタイルにシフト。
 現在は、Pal JoeyやBoo Williams、Jovonn等ののハウスdjを招いて開催するアンダーグラウンドなディープハウスパーティ”World Spin”の主宰として活動している。

〈JAZZY COUSCOUS〉について
 東京を中心にで活動しているアーティストクルーやレコード・レーベルのクリエイター集団。 ローカルやインターナショナルDJを中心に JAZZ, HOUSE, HIPHOP等とにかくディープな音の普及を促進するパーティをプロデュースしている

〈FAAK〉について
 今回Fuck Art And Kissの最初んコレクションのリリース・パーティでもある! 期待すべきコレクションです! FAAKについての最新情報はこちらへチェック:
https://fuckartandkiss.blogspot.jp/

interview with Laurel Halo - ele-king


Laurel Halo
Chance Of Rain

BEAT / Hyperdub

Tower HMV Amazon iTunes

 自分で掘った墓穴に入って、所在なくそのときを待っている――死か、雨か。『チャンス・オブ・レイン(降水確率)』のジャケットに使用されている、滑稽なようにも陰鬱な狂気であるようにも見える絵は、もう数十年も前に父親が描いたものだそうだ。このアルバムを「カラフル」と称する当代きっての女性プロデューサー、ローレル・ヘイローは、絵については「殺伐」と評し、自身の音とは対照的なものととらえているようだが、どうだろうか。むしろカラフルさから遠く離れて、彼女はいま色のない地平に立ち、墓穴のそばで雨を待つように、ストイックにビートの追求を行っているように見える。

 非常にハードなテクノの印象を強めた、ローレル・ヘイローのセカンド・アルバム『チャンス・オブ・レイン』。彼女は、弊誌vol.6「宅録女子特集」で、グライムスやマリア・ミネルヴァ、メデリン・マーキー、ジュリアナ・バーウィックらとともに取り上げた頃からずいぶんと変化を見せた。それぞれに強烈な個性と方法を持ち、けっして消費されない存在感を放つ彼女たちを一概にくくることはできないけれども、ヘイローはこのなかではもっとも意識的(反省的)に自身の方法論を見つめ、前進させてきたアーティストかもしれない。
 本作を聴けばそれがよくわかるだろう。冒頭と終曲こそはひと刷けの叙情によって色づいているが、基本的には非常にミニマルなスタイルが保持され、硬質なビートとともに薄墨色の世界が構築される。あまり得手とはいえなかった声による表現もばっさり切られ、まるであえて華やぎや抑揚を消そうとさえするかのようだ。前作の否定、凌駕。感性やひらめきで世界を立ち上げるのではなく、テクニカルに抽象性を生む――なんとなく、そのように自らに課しているのではないかと思えてくる。
 〈ヒッポス・イン・タンクス〉から〈ハイパー・ダブ〉へ。ジェイムス・フェラーロやハイプ・ウィリアムスやOPNをまたぐような地点に前作『クアランティン』はドロップされたわけだが、その場所の重要性を知ればこそ、次に自分がなすべきこと、見出すべきものを、真剣に考えているのだろう。前作以降はライヴ・セットを充実させることにも力を注いだというが、そこでの方法を応用し、ビートを軸として再現性ではなく即興性を優先したというエピソードには今作の性格がよく表れている。そしてその非カラフルな音の佇まいには、どこかアンディ・ストットやデムダイク・ステアなどのモノクロームにひそめられた高い美意識とストイシズムすら連想される。彼らを透過するかたちで本作をインダストリアル的だと評することもできるだろう。現在形の音楽として申し分ないリアリティと、自身の成長の程を見せつける傑作となった。

 本作をもって、ヘイローは現代を代表する女性プロデューサーとして随一の存在へと押し上げられることになるはずだ。そのようにステージが上がることは、勤勉な彼女をさらに磨いていくに違いない。『WIRE』のアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得したデビュー作はその輝かしい布石にすぎなかったのだと、誰もが語るところとなるだろう。一見色のないこのアルバムは、じつのところは彼女自身が言う「カラフル」さの凝縮と研磨による果実である。白と黒とでローレル・ヘイローはなんとも複雑な音――ストーリーを描きだしている。

基本的に「未来」には魅力を感じるけど、「未来」という考えについての無用な議論には落胆してしまうの。

新作、『チャンス・オブ・レイン』は『クアランティン』と比べると、よりヘヴィにリズムを重視し、そして時にはほとんどテクノのような音のアルバムになりましたね。またヴォーカルや、暗く低い音もほとんどありません。なぜこのようなサウンドに変わったのでしょうか。前作と今作での制作上、およびレコーディング上の違いについて教えてください。

ローレル・ヘイロー(以下LH):端的に言うと、わたしがライヴでやっているような音のレコードを作りたかったの。『クアランティン』はスタジオで一から作りはじめ、ライヴで再構築するという流れ。『チャンス・オブ・レイン』はまったく逆で、ライヴのために作成したシークエンスから各トラック、アルバムへ作り上げたもの。このアルバムでは作曲する上で新しいアプローチを取りたかった。たとえば、各トラックのチャンネル数を少なくする、あからさまなメロディ・ラインを取り入れずにメロディっぽく聴こえるようにする、とかね。もちろん、わたしがずっと重視してきた曲の流れやムードといった音楽的要素は維持しながらだけど。わたしの音楽には常に闇がある。『クアランティン』は今作よりその部分がよりはっきりしていたと思う。あと、『クアランティン』をリリースする前は、よりビート重視の音楽を出していたことを考えれば、そんなに大きな変化だとは思わない。ただ音が進化した、というだけじゃないかしら。

わたしは前作と今作の2枚、未来的かつロマンティックな音だと感じました。これは、あなたの世の中との関係や世の中に対する見方、態度を反映していますか。あなたはロマンティックな人間だと言えるでしょうか。どのようなものにインスピレーションが涌き、美を見出しますか?

LH:あなたが言っている「未来的」や「ロマンティック」な音がどういうものかわからないけれど、わたしの音楽はいわゆる「ロマンティック」なものだとは思わないし、確かにプログレッシヴな音楽を作ることには興味があるけれど、「未来的」だとは思わない。「未来的でロマンティック」という表現は、ただ未来的であることが良いことだ、というように聞こえるわ。自分の音楽をそのように捉えてはいないの。未来は過去によって形作られるのに、どうやってそれを無視してヴィジョンだけを持てるの? サイエンス・フィクションみたいで、そのような考え方にわたしは賛成できない。
基本的に「未来」には魅力を感じるけど、「未来」という考えについての無用な議論には落胆してしまうの。それよりも、アイディアありきであり、連続性がなく前進するのみ、という考え方を変えるために何ができるかに興味があるの。ロマンティックだと感じる理由はたぶん、キーボードの音や気まぐれなコードからではないかな。けれど、やはり「ロマンティック」とは呼べないと思う。

モダン・テクノロジーとインターネットが文化に多大な影響を与えるという、おもしろい時代にシーンに登場してきましたね。モダン・テクノロジーおよびテクノロジーとアートとの関係からどのような影響を受けましたか。ポジティヴなこととして受け止めていますか、それともネガティヴなこととして受け止めていますか。

LH:作曲という面からはモダン・テクノロジーをとくに好んで取り入れてはいない。古い音と新しい音、両方使用するしね。けれども、もし生み出される音楽がよければiPadを使って音楽を作っても良いと思う。モダン・テクノロジーを決してネガティヴには捉えていないけれど、その無限の可能性によって逆に個性が発揮されないというリスクがあると思う。最近の音楽の多くは同じようなサウンドばかりだから、アーティストはもっと自分のこだわりをもたなければいけないのではないかしら。


不機嫌さの複雑な描写という意味ではアルバム・カヴァーとアルバムの音には一貫性があるし、アルバムの音がよりカラフルなのに対し、画題のもの悲しさという面ではコントラストを生み出すものでもある。

アルバム・カヴァーの意味について教えてください。アルバムの雰囲気とどのように関係していますか? カヴァー・アートの重要性は?

LH:カヴァーはわたしの父親が描いた絵で、スタジオ・モニターの後ろの壁に飾ってあるものなの。長年にわたって、その絵を毎日鑑賞しているわ。人を混乱させる絵だけれど、ブラック・ジョークや希望も含まれているの。不機嫌さの複雑な描写という意味ではアルバム・カヴァーとアルバムの音には一貫性があるし、アルバムの音がよりカラフルなのに対し、画題のもの悲しさという面ではコントラストを生み出すものでもある。カヴァー・アートはわたしにとってとても重要なもの。音楽を表現するものだし、アルバムをまとめる役割も果たすわ。

あなたはクラシック音楽のトレーニングを受けていますね。それによる恩恵はどのようなものがありますか。また、身につけたスキルによってより自由に音楽制作ができていると思いますか、それとも足かせになっていますか。エレクトロニック・ミュージシャンにとってクラシック音楽に関する知識や楽器を弾けることは重要なことだと思いますか。

LH:クラシック音楽のトレーニングは利益にも不利益にもなると思う。例えば、音感トレーニングを受けたために、ベーシックなハーモニーにはすぐ飽きてしまい、変なコードを探したりしちゃうの。けれどピッチに関する情報は音楽の物語やフィーリングには全然関係ないでしょ。どれだけ立派にハーモニック・ヴォイシングを構築しても全体のヴァイブスが駄目だったら意味はない。そもそも私が作りたい音楽にハーモニーは関係ないし。セオ・パリッシュが以前、「猿にミックスを教えることはできても、ストーリーを語らせることはできない」と言っていて、このDJに関するコメントはここにこのまま当てはめられるわね。記譜法や音楽理論を学んだり、どんなキーでも歌えるようになるかもしれないけれど、心から音楽をつくることとは何も関係はない。

アナーバーからニューヨークに引っ越しましたね。アナーバーはデトロイトに近いですが、地理的な要因は音楽家としてのあなた、もしくはあなたの個性にどのような影響をもたらしますか。ニューヨークはアーティストとしての生活にどのような変化をもたらしましたか。また引っ越しはあなたの音楽に影響を与えましたか。

LH:音楽を作りはじめたころ、アナーバーの音楽シーンはわたしをすぐに受け入れてくれた。また、小さい街だったため、ひとつのショーにノイズ系、フォーク・アーティスト、ハウスDJなどさまざまなアーティストが集まりとてもクールだったの。ミシガンで育つと、デトロイト、イプシランティ、アナーバーの多くの音楽にインスパイアーされずにはいられないわね。音楽的にとてもおもしろいところで、いつも地元の州の音楽から多くのことを学んでいるわ。ニューヨークではアンダーグラウンド、ワールドクラス問わず、たくさんのアーティストが音楽を作るのを見ることができたので、いろいろなことを吸収できた。そういう意味で、わたしのアーティストとしての人生を変えたわね。また、多くのショーをこなし、貯金することで、ちゃんとした機材を購入できた。さらにトレンドがどのように生み出され、人々がそれをどのように利用し、そしてそれらに巻き込まれないためにはどうすればよいかについても少し学ぶことができた。でも結局、ニューヨークにいながら、ほとんど外出しないで自分の音楽に集中していたわね。

いままでで最高の音楽体験はどのようなものでしたか。それはどのような影響をあなたに与えましたか。

LH:絞るのは難しいわね。たくさんあるわ。Model 500がデトロイト・エレクトロニック・ミュージック・フェスティヴァルで雨のなか数千人の前でプレイし、母船の到着を歓迎するために、ホアン・アトキンスに悲鳴をあげている光景はすごかったわね。あと、池田亮司の作品をすごい低音と頭に突き刺さるような高音で劇場で聞いたときも衝撃的だった。また、凍ったミシガン湖の畔から空に向かって噴き出したように見えるオーロラを見たときの無音状態も忘れ難い。鳥肌がたつような瞬間があるのよ。身の毛をよだたせる、完全に時間を忘れさせる、いつまでも記憶に残る、音や音楽があるのよね。

どのようなライヴ・セッティングが理想ですか。いままででいちばん良かった場所はどこですか。

LH:理想のライヴのためにはきちんとしたベースと落ち着いた高音がでる最高のサウンド・システムが必要ね。当然ノっている観客もね。新鮮な空気がある野外もいいかも知れないわ。最近ではザ・バンカーがクイーンズのリッジウッドの食べ放題中華料理屋で豪華なサウンド・システムを持ち込んで開いたパーティーがベストだったわ。異様だったけれど、とても印象的な夜だったわ。

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interview with Daniel Miller - ele-king

 電子音楽好きで〈ミュート〉を知らない人間はまずいないでしょう。もしいたら、それはブラジル代表の試合を見たことがないのにサッカー観戦が好きだとぬかすようなもの。僕にテクノを教えてくれたのは石野卓球という名前で知られている男だが、彼が10代のとき、このレーベルに心酔していたことをよく憶えている。〈ミュート〉がまだマニアックなレーベルだった時代だ。君たちがまだ生まれる前、電子音楽自体がポピュラーではなかった時代、信じられないかもしれないけれど、音楽をやるのにドラマーがいなかったことが考えられなかったという太古の昔の話だ。
 ポストパンク時代のUKには魅力的なインディ・レーベルがいくつもあった。〈ラフ・トレード〉、〈4AD〉、〈ファクトリー〉、〈チェリーレッド〉、そして〈ミュート〉だ。
 レーベルは、1978年、ダニエル・ミラーがザ・ノーマル名義の7インチ・シングル「T.V.O.D. / Warm Leatherette」を発表したことにはじまる。コルグのシンセサイザーとテープマシンを使ったミニマルなその曲は、エレポップの夜明けとして、インダストリアルの青写真として知られることになる、いわばポストパンクの記念碑的な作品だ。歌詞は(ゲイリー・ニューマンの“カーズ”と同様に)J.G.バラードの『クラッシュ』からのインスピレーションで書かれている。つまり車に性的興奮を覚えるという、ちょっといかれた曲だ。そしてこの曲は、2年後グレイス・ジョーンズ(当時のディスコ・クイーンですよ)にカヴァーされ、アメリカでもヒットしている。……にも関わらず、ダニエル・ミラーは、わりとあっさりアーティスト業を廃業して、自身の情熱をプロデューサー業とレーベル運営に注いでいる。
 そして、いや、だからこそ〈ミュート〉の輝かしい歴史が幕を開けた。エレポップの先鋭ファド・ガジェットをはじめ、ノイズ/アブストラクトの先駆者ボイド・ライス、プロト・ハウスのヤズー、80年代の黄金時代のニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズとマーク・スチュワート、声の冒険者ディアマンダ・ギャラス、シンセポップの急進派アイ・スタート・カウンティング、インダストリアル・ダブ/ヒップホップのレネゲイド・サウンドウェイヴ、旧ユーゴスラビア出身のいかついインダストリアル集団ライバッハ、EBMの代表格ニッツァー・エブやミート・ビート・マニフェスト、80年代末からのワイヤー……再発やライセンスでは、カン、クラフトワーク、スロッビング・グリッスル、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン……名前を挙げるのはこのくらいにするけれど、レーベルの根幹にはクラウトロックとノイズがありながら、〈ミュート〉はポップ・フィールドでも成功を収めている。デペッシュ・モードとイレイジャーを筆頭に、最近でも、本国では国民的な存在のゴールドフラップや若い世代を代表するポリー・スカッターグッドなど、このレーベルがポップスを忘れたことはない。レフトフィールドな電子音楽とエレポップの開拓者としての大衆派路線の両道を貫きつづけて35年、なのである。
 この度、東京の〈トラフィック〉が〈ミュート〉とレーベル契約を交わした。まずは11月6日、ダンスビートを我がモノとした時代のキャバレ・ヴォルテールの再発が3枚(80年代の傑作『ザ・クラックダウン』と『マイクロフォニーズ』、政治的な問題作『カヴァナント、ソード・アンド・アーム・オブ・ザ・ロード』)、そしてイレイジャーのクリスマス・アルバムが出る。
 〈ミュート〉一筋35年の男、ダニエル・ミラーに電話をした。


ザ・ノーマル、1979年のライヴ模様。

〈ラフ・トレード〉、〈4AD〉、〈ファクトリー〉、〈チェリーレッド〉なんかはみんな質が良かったね。お互いが目標だった。一緒に何かをすることはなくても、同時期に存在していたということがとても大切だったんだと思う。

現在も〈ミュート〉レーベル全体のディレクションはあなたが見ているのですか?

ダニエル・ミラー(以下、DM):そうだね、ミュートというひとつのチームではあるけど、もちろん僕のレーベルだからいまでもディレクションを見ているよ。どちらかというと、いまはレーベルのクリエイティブ方面に重点を置いているかな。

レーベルが生まれたのが1978年ですから2013年は実は35周年記念だったんですね。いまでも〈ミュート〉のカラーがありますし、レーベルのコンセプトは変わっていないようにも思いますが、いかがでしょう?

DM:レーベルをはじめた当初に築き上げたコアとなる僕らの価値観は35年経ったいまでも変わっていないと思う。音楽の面で言えば、前に進んだし、扱うサウンドの幅も広がったけどレーベルのコンセプトは当初から確固たるものだ。

35年前のことは憶えてらっしゃいますよね? どのようにレーベルがはじまったのか話せてもらいますか? 

DM:いわゆる「レーベル」というものは実在しなくて、僕が自分の音楽をリリースするっていうところからはじまった。最初からかしこまってレーベルをはじめようという計画があった訳ではなかったんだ。自分のシングルをリリースする、それくらいのものだった。でもそれからすぐに実際にレーベルを立ち上げて、自分の好きなミュージシャンの音楽をリリースしたら楽しいんじゃないかって思うようになった。

レーベルを大きくしたいという野心は最初からあったのでしょうか?

DM:質のいいレーベルにしたいという気持ちはあったけど、レーベルを大きくしたいという野望はとくにはなかったな。クリエイティヴ面に強くて、所属アーティストの面倒をきちんと見るレーベルにしたかった。こういう価値観を元に大きくなるんだったらいいよね。

〈ミュート〉は現在の多くのレーベルにとって目標になっていますが、あなた自身にとって目標としたレーベルはありましたか?

DM:これといって目標にしたレーベルはなかったけど、僕がはじめたくらいの時期に出て来たインディ・レーベル、例えば、〈ラフ・トレード〉、〈4AD〉、〈ファクトリー〉、〈チェリーレッド〉なんかはみんな質がよかったね。お互いが目標だった。一緒に何かをすることはなくても、同時期に存在していたということがとても大切だったんだと思う。だから、僕はこういったレーベルをリスペクトしてたし、仲間意識もあった。僕の目標はどこにもないレーベルを作ることだった。他のレーベルもそうで、似たり寄ったりのレーベルを作るのではなく、本当の意味での新しいレーベルを作るのが皆のゴールだった。

ザ・ノーマルの「ウォームレザーレット」は僕もいまでも持っていますが、当時それなりにヒットしたと思います。ザ・ノーマルとしての活動をしなかった理由は何だったのでしょう?

DM:ははは、ありがとう! そうだね、実際のところ自分自身をミュージシャンとかソングライターとして見たことはないんだ。その当時のエレクトロニック・ミュージックに対して自分の中のステートメントを表現したかっただけで、自分のことをいわゆるレコーディング・アーティストとして見たことはない。むしろ、その当時僕のやっていたことを引き継いでやってくれるようなアーティストたちと一緒に何かやっていきたいと思っていて、それをあえて自分自身で続けていこうとは思わなかった。

レーベル運営やプロデューサーに徹しようと思った理由も?

DM:うん、だからひとつ前の質問で答えた通りだね。

エレクトロニック・ミュージックというコンセプトは最初からあったと思いますが、あなた自身、どんな影響からその方向性を選んだのでしょう? 

DM:レーベルをはじめる以前からエレクトロニック・ミュージックのファンだった。フューチャリスティックだったし、音楽的にも前に進んでいると思っていたからね。でも、その当時エレクトロニック・ミュージックっていうのは限られた人だけの音楽という感じでもあったんだよ。なにしろ機材はすごく高価で、ギターを買うみたいな感覚で気軽にシンセも買えるというわけにはいかなかった。
 しかし、その当時、日本のKORGとかROLANDなんかのシンセのブランドが出て来てね。そういえば、僕が初めて手にしたシンセはKORGのものだったな。お気に入りのシンセでいまでも持ってるよ。それで、新しい世代がエレクトロニック・ミュージックを気軽にはじめられる時代が来たと感じて、さらに音楽を前進させてくれると信じた。
 僕は常日頃から音楽を前に進めたいと思っていて、エレクトロニック・ミュージックがその答えだと確信した。ただそれまでは、さっきも言ったように機材が高価すぎて誰もが出来ることではなかった。だから、手頃なシンセが出て来て、自分でレコードもリリースできる環境が整ってきはじめて、僕はエレクトロニック・ミュージックが限られた人だけのものじゃないし、大それたプロダクションも必要なくて、ミニマルに作り上げることが出来るっていうことを証明したかった。

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でっちあげバンド、シリコン・ティーンズのアー写。


ザ・ノーマル時代のダニエル・ミラー。

日本のKORGとかROLANDなんかのシンセのブランドが出て来てね。そういえば、僕が初めて手にしたシンセはKORGのものだったな。お気に入りのシンセでいまでも持ってるよ。それで、新しい世代がエレクトロニック・ミュージックを気軽にはじめられる時代が来たと感じて、さらに音楽を前進させてくれると信じた。

カンやクラフトワークのバックカタログを契約して、ザ・レジデンツとも契約をされましたね? このあたりがあなたのルーツなんでしょうか?

DM:そうだね、とくに60年代後半から70年代中盤までのドイツのバンドには個人的に大きな影響を受けた。彼らの音楽に出会っていなければMuteは存在しないとも言える。それくらいの影響力だったし、僕にとっては音楽とのライフラインでもあった。その当時、イギリスやアメリカの音楽はつまらなかったんだけど、ドイツでの音楽的な動きはすごく面白いと思った。

自分のレーベルからカンやクラフトワークを出すことは、やはり感慨深いモノがあるのでしょうかね?

DM:その通り、信じられないような気分だった。彼らと話し合って、彼らの音楽を再度世に出すということは本当に名誉なことだったよ。

スロッビング・グリッスルのようなラジカルな作品を出しながら、イレイジャーのようなポップ・ヒットも出しているのが〈ミュート〉の特徴だと思いますが、この10年ではゴールドフラップがレーベルのポップ・アーティストを代表していると思います。あなたから見てゴールドフラップの魅力はどんなところにあるのでしょう?

DM:その当時の、(ゴールドフラップの)アリソンのボーイフレンドが彼女のデモテープを持って来てくれたんだけど、聴いた瞬間に虜になって、最初のコーラスの部分で契約したいと思わせる程のインパクトだった。彼女の声から、アレンジ、サウンド、曲に至るまですべてがパーフェクトで、一瞬にして恋に落ちたような気分だった。本当に即決だったんだ、最初のコーラスで決めたくらいだから。契約後リリースしたアルバムは、全てすばらしい出来だったから、僕の判断に間違いはなかったね。

まだ日本では有名ではないのですが、ポリー・スカッターグッドの魅力についてもあなたの言葉で紹介してもらえますか?

DM:ポリーは素晴らしいライターでストーリーテラーだ。彼女の曲にはストーリーが詰まっている。いまでこそ彼女は20代だけど、契約当初はまだティーンエイジャーで、彼女の歌詞がすごく良くて魅了されたんだ。それまで音楽を聴き込んできたわけではないようだから、よりいっそう興味をひかれたのかな。そのせいか、新しい手法やサウンドに対してもオープンなスタンスを取っている。1枚目と2枚目のアルバムを聴いてもらうとわかるけど、その頃彼女はまだ自分のスタイルを確立していなくて、いろいろなやり方を試していた過程にいたからかなりスタイル的に異なる仕上がりだった。彼女は有望なパフォーマー、ソングライター、シンガーだよ。

キャバレ・ヴォルテールのバック・カタログを契約した経緯について教えてください。

DM:90年代初頭くらいから彼らとは一緒にやっていて、僕らは常にバックカタログをリイシューすることによって良い音楽を絶やさないようにしている。そうすれば、人の心のなかで生き続けるから。パッケージし直して、リイシューしたり、ボックスセットを出したりね、このプロセスは彼ら(キャバレ・ヴォルテール)だけではなく、バックカタログを出しているすべてのアーティストに言えることで、良い音楽、僕らが大事にしている音楽を世に出し続け、人の目に触れるところに置いておくことが大切だと思っている。カンや他のアーティストについても同じこと。

キャバレ・ヴォルテールの再発をダンス・ミュージックにシフトしてからの『ザ・クラックダウン』以後3枚のリリースからはじめた理由は何でしょう?

DM:彼らの初期の方のアルバム(5~6枚)の権利はあったけど、後期のアルバムに関して最近まで僕らには権利がなかったから。去年くらいにようやくバンドから権利を得て、リリースに至った。

これで、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン、スロッビング・グリッスル、そしてキャバレ・ヴォルテールと、ノイズ/インダストリアルのビッグ3をリリースしていることになると思いますが、あなたの彼らに対する思いを教えてください。

DM:ノイバウテンは自分たちのレーベルでリリースしてるけど、〈ミュート〉でも彼らのバックカタログは何点かリリースしてるね。こういったアーティストと長年一緒に仕事ができるのは本当に喜ばしいことで、それが〈ミュート〉としてやりたいことでもある。僕の個人的な好みがこういったバックカタログにも反映されてる。ポップ・ミュージックも好きだし、エクスペリメンタルなサウンドも好きだしといったように。自分の好きなアーティストとこうやって長年やっていくのは決して容易いことではないけど、とてもいい経験だ。

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現在のダニエル・ミラー。(photos : Erika Wallsm)

Carter Tuttiはスロッビング・グリッスルのメンバーだったし、長い付き合いがある。別にポストパンク時代のものがすべて良いっていうわけではないよ。それほど良くもないバンドももちろんいたし。でもその時代のバンドでいまでも格好いいバンドもいるのはたしか。

ヴィンス・クラークやデペッシュ・モード、ニック・ケイヴなど有名どころもそうですが、他にもライバッハ、バリー・アダムソン、ブルース・ギルバート、ボイド・ライスのように地味ながらずっとリリースし続けているアーティストがいますよね。彼らのような人たちはレーベルにとってファミリーみたいなものなんでしょうか? 

DM:断っておくとデペッシュ・モードとニック・ケイヴはもううちではリリースはしていないけどね。もちろんイレイジャー、ヴィンス・クラーク、ゴールドフラップなんかはいまも出している。ライバッハやボイド・ライスなんかはずっと一緒にいるからね、そりゃもう家族みたいなもんだ。彼らが良い音楽作り続ける限り、それを世に送り出したいと思う。こういったアーティストたちとともに歩んでいくことも僕自身大切なことだと思っている。

来年はライバッハの新作が控えていますが、彼らのような東欧のベテランの作品に対する新しいリアクションにはどんなものがありますか?

DM:彼らにはいまだに世界中に熱狂的なファンがたくさんいるね。ライバッハに対してだけではないけれど、すべてのアーティストに対して新しいオーディエンスをつけたいと思っていて、それによってリリースを続けていければと思っている。ライバッハに関しては、新しいリアクションというのは目立ってあるわけではないけれど、彼らが活動をし続けていることを見られるのはみんな喜んでいるよ。

再発もので、意外なほどセールスの良かった作品やアーティストがいたら教えてください。

DM:全体的に見ると、カンだろうね。89年からバックカタログのリリースを続けているけど、コンスタントにものすごく良く売れている。バックカタログの売り上げの中では常にカンがダントツだね。これにはいつも僕も驚かされるよ。と、同時にもちろんうれしくも思うけどね。

亡くなったフランク・トーヴェイの編集盤を2006年に出していますね。彼はレーベル初期を代表するアーティストでしたが、彼はどのような人物でしたか? 

DM:フランクは僕がレーベルを立ち上げて初めて一緒に仕事をしたアーティストだ。Fad Gadgetとして契約をした。だから彼にはとても思い入れがあったし、彼との関係は特別なものだった。フランクとは友だちから紹介してもらって、デモを聴いたんだけどそれがすごくよくてね、実際会ったら意気投合した。クリエイティヴで、心優しくて、ユーモアのセンス溢れるやつだった。長年一緒にやっていたあいだ、途中で音楽活動をやめて、プロダクション方面にいったりしたけど、またアーティストとして活動をしはじめてた矢先に亡くなってしまったので、ものすごく悲しかったし、残念だった。彼と一緒に仕事ができて心から良かったと思ってる。

昨年もCarter Tuttiの『Transverse』を出していましたが、やはり、ポストパンク時代のアーティストには特別の思い入れがあるのでしょうか? 

DM:そりゃ、もちろん。Carter Tuttiはスロッビング・グリッスルのメンバーだったし、長い付き合いがある。別にポストパンク時代のものがすべて良いっていうわけではないよ。それほど良くもないバンドももちろんいたし。でもその時代のバンドでいまでも格好いいバンドもいるのはたしか。クリス&コージー(Carter Tutti)はもちろんそうだし、その当時から一緒にやってるワイヤーも素晴らしいしさ(Duet Emmo名義で共作もしている)。ポストパンクの時代から変わらずいいバンドがいるのは間違いない。

80年代にくらべて、音楽の力は弱くなったと思いますか?

DM:80年代に比べたら、60年代のほうがより多くの選択肢があったと思う。ただ、いま、音楽がこういった時代よりもより強いインパクトを与えることは可能だと思う。現在に比べてその当時は音楽に対して深い思い入れを抱くこともできたんだけど、いまはいろいろな選択肢があることによって絞りきれなくなっている。だからこそ、アーティスト自身や、アーティストが作る音楽そのものがよりいっそう強いインパクトを与えて、昔のような人の心の掴み方をしなければならない。結論から言うと、音楽の力は80年代に比べると弱くなっている。もちろん、それを覆す可能性もおおいにあると思うけど、あの当時のようにはいかないと思う。さっきも言ったようにいまは選択肢がありすぎるから。

インターネットの普及によって、ミュージック・ビジネスはこの10年で大きな変化のなかにあると思います。あなたは現在の変化をどのように見ていますか? 

DM:インターネットの普及によって出来ることはかなり広がった。それにはもちろん音楽も含まれていて、レコーディングの技術が生まれてから現在に至るまでの膨大な量の音楽に誰でも気軽にアクセスが出来るようになったし、この変化はポジティヴなものだと僕は思う。ただ、さっきも言ったけど、こういう技術の発達によって選択肢がぐんと広がった以上、一歩先を行くには、音楽自体がよりいっそう強いインパクトを与えなければいけないと思う。

新しいサブレーベル〈Liberation Technologies〉について教えてください。このレーベルのリリースにはMark Fellのような比較的新しい世代の実験的なアーティストが目に付きますが、今後、どのような展開を予定しているのでしょうか? 

DM:僕らは長年エレクトロニック・ダンス・ミュージックにも携わっていて、〈ミュート〉のサブレーベルでもある〈Nova Mute〉からはスピーディー・Jやリッチー・ホウティン(プラスティックマン)なんかのタイトルをリリースして来た。僕はダンス・ミュージックが好きだったし、その世界に居続けたかったから、その辺の音楽に詳しいやつと一緒に〈Liberation Technologies〉をはじめたんだ。まずは12インチのリリースやダウンロード・アイテムをリリースすることからはじめた。ジャンルはとくに特定せずに、それを越えて常に前に進み続ける音楽を出していきたかった。はじめてから1年くらい経つけど、立ち上げてよかったと思ってる。とても満足しているし、ネクストステージをどのようなものにするか考えているところだ。

長年、ミュージック・ビジネスに関わっていて、音楽が嫌いにはなりませんでしたか?

DM:いや、音楽自体を嫌いになったことはいちどもない。仕事上で音楽を聴かなければいけないのはたまにつらかったりもするけど。レーベル運営者としての音楽に携わることと、いちファンとして音楽に触れることはまったく別物だから。音楽業界自体は僕は好きではないんだけど、アーティストと仕事をすることはとても楽しいし、彼らのヴィジョンを形にする手助けが出来るのもうれしい。長年やっていればつらいこともあるけれど、ほとんどの部分においてはレーベルをやっていて良かったと心から思るし、いまでもそう思えていることが大切なんじゃないかな。

DJはやられているんですか? 

DM:うん、年に10回程、だいたい月1回のペースで。かけるのはテクノだね。

日本には、〈ミュート〉に影響を受けたアーティストが少なからずいますが、日本人アーティストを出しようなことはお考えではないですか?

DM:まだその機会に恵まれたことはないんだけれど、いいアーティストがいればもちろん! ボアダムスとは何かやろうと思ったこともあったけれど、実現はしなかった。そこまで詳しいわけではないけれど、日本の音楽は好きだしね。日本だけではなく世界中のアーティストに興味があるよ。

2013年にリリースされた作品で、あなたにとって良かった作品をいくつか挙げてください。

DM:いい質問だね(笑)! 良かった作品は間違いなく、〈ミュート〉からリリースした作品だ。ゴールドフラップのアルバムがダントツで良かった。自分のレーベルからアーティストを選ぶのは好きじゃないんだけど、ゴールドフラップのアルバムは群をを抜いてたからね。レーベルをやっていて難しいのはさ、自分が手がけている音楽以外のものを聴く暇がないんだ。だいたい毎年、クリスマスの時期になると数週間時間が出来るから一年を振り返っていろいろ聴けるんだけど、いまの時点だと〈ミュート〉からリリースされたものかな(笑)。

Keith Rowe / Graham Lambkin - ele-king

 ここ10年、若い人らの音楽を聴いていて思うのは、みんなうまいなあということ。演奏がうまい。しっかりしている。真面目だ。松村だ。そんな風に感心するいっぽうで、型にハマり過ぎているんじゃ……と思うときがある。
 音楽だけの話でもない。最近はたまに電車のなかで絵を描いてらっしゃる学生さんを見かけるが、そーっとのぞき見すると、まあ、たいてい誰もが似たような絵柄で、でもたしかに電車のなかでジャクソン・ポロックみたいなことしていたら危ない人かもしれないし。何にせよ、下手でもガッツのあったドーハ世代が好きで、技術を捨てることができたパンク/ポストパンクとか、あるいは素人ディスコなどと揶揄されたハウスなんかに感化されている人間は、うまさというものを否定はしないけれど、型にハマり過ぎていると何かと警戒しがちでいけない。
 AMMの影響は、今日にいたって、さらにまた、地味~に地味~に浸透し続けているように感じる。「最近はAMMみたいなのばっかりだからさ」と松村がいつもの調子でぼやいていたが、ノン・ミュージシャンというコンセプトの下地がなければポストパンクもああはならなかったろうし、実際コーネリアス・カーデューの再発盤は、レコード店の、もはや現代音楽でもフリーでもなく、もっとガキんちょが集まるようなポップなコーナーにある……いやいや、でもこういうのは、背伸びしたいガキんちょだからこそ聴くものだよな。基本、人間おっさんになれば趣味はますます保守化するし、若いからこそ、がんばって、無理して背伸びして、自分が入り込めない世界に侵入したいと思うもの。グラハム・ラムキンも、イギリスに住んでいた若い頃にAMMを聴いて、多大な影響を受けている。
 『Making A』はラムキンとキース・ロウとのコラボレーション作品である。作品においてロウはギターを使っていない(彼はギターを発信器のように使うことで知られている)。クレジットには「コンタクト・マイク/オブジェクト(物)/フィールド・レコーディング」とある。いっぽうラムキンの担当は、「コンタクト・マイク/オブジェクト(物)/ルーム(部屋)」。楽器を使わず、ただここには音がある。そして、ここには作者の存在感さえもない。姿を消したふたりの男が残した音のみが鳴っている、そんな感じだ。柔道で言うところの空気投げ……というのは我ながらひどいたとえだが、しかし『Making A』を聴いていると、万がいち長生きできたら、人生のどこかで、自分もビル・ドラモンドのように音楽をまったく聴かないという年月を過ごしてみたいという願望に駆られるのだった。

 そのキース・ロウとのコラボレーション作品もあるベテランの中村としまる(ノーインプット・ミキシング・ボード奏者で知られる)、そしてKen Ikeda(〈Spekk〉や〈Touch〉からの作品で知られる)、そして伊達伯欣 (畠山地平とのOPITOPE、コーリー・フラー とのイルハで知られる)の3人による『Green Heights』(リリースはフランスの〈Baskaru〉)は、まったく美しい時間を誘発してくれる。四方八方散っていく音色は、彼らがこの作品を楽しみながら作ったことを告げているのだろう。リラックスした音楽だが、いわゆるリラクゼーション系の爽やかな、パッケージされた「さあ、リラックスして下さいね〜」とは違う。フェネスを美術館から引っ張り出しながら、3人の男が静寂という畑を耕しているような、そんなこと思わせる。休日の昼間に聴こう。気配が変わる、しかもたぶん良い方向に。
no non-music, no life...

 さあ、きました、エレグラ最終ラインナップ! セオ・パリッシュとノサッジ・シング× 真鍋大度 × 堀井哲史 × 比嘉了というビッグなステージの情報が追加公開。1ヶ月後をわれわれele-kingチームも楽しみに待ってます!

絶大な人気を誇るデトロイト・ハウスの雄、セオ・パリッシュ出演決定!
ノサッジ・シングと真鍋大度等によるオーディオ・ヴィジュアル・ライヴが実現!



 ついに今年のエレグラのフル・ラインナップが出揃う!! 最終ラインナップに強力な2組が参戦! アタマからケツまで見どころ満載! このラインナップを一晩で体験できるのはまさに奇跡的!(タイムテーブル等は近日発表)

 まずは、もはや説明不要、絶大なる人気を誇るデトロイト・ハウスの雄、セオ・パリッシュがエレグラに初登場!
 90年代後半デトロイトのアンダーグラウンド・シーンから現れ、いまやトップ・プロデューサー/DJとして揺るぎない地位を確立。卓越したDJスキルのみならず強靭な意志と愛を注入したそのDJプレイは、オリジナル曲に加え、ダンスクラシック、ジャズ、ソウル、ヒップホップなど広範囲におよぶ黒人音楽を見事な構成力でまとめ上げ、ダンスフロアをスピリチュアルな熱狂へと導く。彼が祭主となり、濃厚でソウルフルな漆黒のグルーヴを放出し、その夜の儀式は衝撃的な音楽体験となるだろう!

「音楽に対する愛からすべてが生まれる……オープンに、また敬意とともに用いることでDJプレイはスピリチュアルな儀式に生まれ変わる。そしてその数時間の選曲をひとつの歴史に変えることができるんだ。」― セオ・パリッシュ

 LAビートとエレクトロニカ~チルウェイヴを自在に往来し、プロデューサー、リミキサーとしてフライング・ロータスやケンドリック・ラマーなど 大物アーティスト達が賛辞を惜しまない逸材ノサッジ・シング。そしてYoutubeで100万ヴューを超える彼のミュージック・ビデオのディレクションをはじめPerfumeのライブ演出を手掛けるなど、そのクリエイティヴィティーでメディア・アートから音楽、広告業界まで股にかけ、いまや世界的にその名を轟かす真鍋大度が、これまた世界的に評価を受ける堀井哲史、比嘉了とのチームで、ノサッジ・シングの音を映像演出! 今後ワールドワイドに展開していくという噂の、見逃せないスペシャル・ユニットがエレグラにて驚愕のパフォーマンスを世界初披露!


■国内最大級のエレクトロニック~ダンス・ミュージック・フェス
electraglide2013

出演:
JAMES BLAKE
2manydjs LIVE
!!!
MODESELEKTOR [DJ SET+909] with Pfadfinderei
THEO PARRISH
SHERWOOD & PINCH
FACTORY FLOOR
MACHINEDRUM
NOSAJ THING x 真鍋大度 x 堀井哲史 x 比嘉了

開催日:
2013/11/29 (FRI)

会場:
幕張メッセ国際展示場

開場:
OPEN/START 20:00

チケット:
前売 ¥8,800 / 当日 ¥9,800
※18歳未満の入場は不可、入場の際写真 付きIDの提示をお願い致します。
※お買い求めいただいたチケットは返品できません。

前売TICKET販売詳細:
チケットぴあ 0570-02-9999 [ https://t.pia.jp/ ] (Pコード:209-961)
ローソンチケット 0570-084-003 [ https://l-tike.com ] (Lコード:72626)
イープラス [ https://eplus.jp ]
tixee(スマートフォン用eチケット)
[ https://tixee.tv/event/detail/eventId/1829 ]
Confetti [ https://confetti-web.com ]
楽天チケット [ https://r-t.jp/electraglide2013 ]
ビートインク [ https://shop.beatink.com ]

店頭販売(ABC順)
BEAMS RECORDS
ディスクユニオン (渋谷Club Music Shop / 新宿Club Music Shop / 下北沢Club Music Shop / お茶の水駅前店 / 池袋店 / 吉祥寺店 / 町田店 / 横浜西口店 / 津田沼店 / 千葉店 / 柏店 / 北浦和店 / 立川店 / 高田馬場店 / 中野店 / web shop)
GANBAN
HMV(ルミネ池袋店 / ららぽーと横浜店 / ららぽーと柏の葉店 / イオンモール船橋店)
JET SET TOKYO
more records(大宮)
大麻堂東京店
TECHNIQUE
TOWER RECORDS(新宿店 / 秋葉原店 / 池袋店 / 吉祥寺店 / 川崎店 / 町田店 / 柏店 / 津田沼店)
TSUTAYA TOKYO ROPPONGI / TSUTAYA三軒茶屋 / SHIBUYA TSUTAYA / 代官山蔦屋書店 / TSUTAYA横浜みなとみらい店 [ https://www.tsutaya.co.jp ]

他一部CDショップにて

INFO:
BEATINK 03-5768-1277 beatink.com
SMASH 03-3444-6751 smash-jpn.com smash-mobile.com
HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999 doobie-web.com

企画制作:BEATINK / SMASH / DOOBIE
後援:SHIBUYA TELEVISION
協賛:CA4LA / PLAYBUTTON

www.electraglide.info

泉まくら - ele-king

『卒業と、それまでのうとうと』『マイルーム・マイステージ』発売中です。
https://twitter.com/macra_iz
https://subenoana.net/

泉まくらに影響を与えた日本語ラップ10枚

餓鬼レンジャー 『UPPER JAM 』
降神 『望~月を亡くした王様~』
メシアTHEフライ『MESS -KING OF DOPE-』
meiso 『夜の盗賊 』
SEEDA 『街風』
サイプレス上野とロベルト吉野 『ドリーム』
MINT 『AFTER SCHOOL MAKIN' LOVE』
ラッパ我リヤ 『ラッパ我リヤ伝説』
DJ MASTER KEY 『DADDY'S HOUSE vol.2』
田我流 『B級映画のように2』

- ele-king

 アイム・ノット・ア・ガン(I'm not a gun)なるデュオが2000年代初頭に姿を現したときの清新な印象を忘れられないという人はいないだろうか。抑制された叙情をたたえ、清潔な手つきで差し出されるあのウォーミーなIDMは、その後も損なわれることなく2010年の『ソレース』まで引き継がれている。
 さて、その片割れであるギタリスト(相棒はご存知、ジョン・テハーダ)、Takeshi Nishimotoによる来日ツアーが来月からはじまる。リリースしたばかりのソロ作『ラベンダー』のお披露目ともなるであろう同ツアー、渋谷O-nestではTo Rococo Rotのロバート・リポック(Robert Lippok)がベルリンから駆けつけ、サポートを行う予定だ。見逃せないコラボレーションになるだろう! 〈flau〉主宰にして誰もが愛さずにはいられない国産エレクトロニカの重要アーティスト、ausの出演にも期待が募る。




■11/14(thu)@shibuya O-nest
lavandula japan tour

出演:
Takeshi Nishimoto (I’m Not A Gun)
Robert Lippok (To Rococo Rot)
aus

開演:
OPEN: 19:00 / START: 19:30

料金:
ADV: 3000 / DOOR: 3500 (ドリンク別)
TICKET 発売中 チケットぴあ212-468 / ローソンチケット75699 / e+ / O-nest

info:O-nest 03-3462-4420

アメリカ西海岸発、エレクトロニック・ダンス・ミュージックの重鎮、John Tejadaとの共同プロジェクト「I'm Not A Gun」や、レーベル「CCO」からのソロ・リリースなど、日欧米を駆け巡る世界的に著名なベルリン在住ギター・プレイヤー、Takeshi Nishimoto。リリースしたばかりのソロ・アルバム『lavandula』(sonic pieces)を携え、ベルリンのアート・コーディネイション・チーム「onpa))))」との共同企画で11月に来日ツアー(全国8ヶ所)を実施。渋谷O-nestでは、今回のアルバムにサポートとして参加したTo Rococo Rotの重要メンバー、Robert Lippokもベルリンから同行し、Takeshi Nishimotoのライヴをサポートする。彼のワールド・プレミアムなギター・サウンドとRobert Lippokの織り成す電子音のそれぞれのライヴは、会場全体に流麗で甘美的狂気のサウンドを醸し出すこと必至。Takeshi Nishimoto そして Robert Lippokのレアなソロ・ライヴ・パフォーマンスをぜひ体験しよう。


Erasure - ele-king


イレイジャー
Snow Globe

Mute/トラフィック

Review Amazon

 日本で暮らすアラフォー、アラフィフ世代にとって、イレイジャーといえば「ビートUK」じゃないでしょうか。もうとにかく、イレイジャーがシングルを出すとUK1位。アルバムも1位……という感じで、ヒットし続けたのでした。『ザ・サーカス』(1987年)、『ジ・イノセンツ』(1988年)、『ワイルド!』(1989年)や『コーラス』(1991年)のようなアルバムは、まさにシンセポップのお手本です。しかもヴォーカルのアンディ・ベルはゲイとしても有名で、音を担当しているヴィンス・クラークといえば、あなた、デペッシュ・モードのオリジナル・メンバー、ヤズーの仕掛け人、つまり、〈ミュート〉レーベルはこのヴィンス・クラークという天才を発掘したがためにレーベルとして大きくなったと言える、そんなすごい人なのです。  最新アルバム『スノウ・グロウブ』は実に通算15枚目のアルバムです。5曲の新曲と8曲のクリスマス・ソング・カヴァーという構成になっています。  ファンの方々はご存じだったかもしれませんが、昨年、アンディ・ベルのパートナーだったポール・ヒッキーがエイズで亡くなられました。新作には、そんな悲しみを乗り越えるかのような、力強いさ、深いエモーションがあります。そして6歳になったヴィンス・クラークの息子を祝福するかのように、温かい電子音をバックにクリスマスの歌が歌われています。  日本で暮らすアラフォー、アラフィフにとって、イレイジャーといえば「ビートUK」じゃないでしょうか。ヴィンス・クラークと同じように小学生ぐらいのお子さんのいる方も多いはず。今年は、エレポップの天才が送るクリスマス・アルバムを聴きながら、「あのね、お父さん(お母さん)が若かった頃にね……」などと教えてあげるのもいいかもしれませんよ。


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