TAMTAM Modernluv Pヴァイン |
2016年リリースの前作アルバム『NEWPOESY』で、そのタイトル通り、まったく新しいバンド像を提示してみせたTAMTAM。この勇気ある音楽的旋回で彼らは、我々の想像し得なかったような新たな魅力を知らしめることになった。おおまかな見取り図を描くなら、「レゲエのテイストを湛えたオルタナティヴ・ロック・バンド」というそれまでのキャラクターを潔く打ち捨て、「当世のインディR&Bやジャズ、ヒップホップなどの音楽的語彙に下支えされた音楽家集団」への華麗なる転身、とでも言うべきものであったかもしれないが、その転身劇以上に我々を歓喜させたのは、もちろんその音楽内容の充実ぶりであった。
さまざまな実験精神が注ぎ込まれたミックステープのリリースを挟み、いよいよ2年ぶりとなるアルバム『Modernluv』をリリースする彼ら。その音楽的視野はさらに広範に及び、肥沃さ・深度の面でも極めて大きく前進した。
前作以降の音楽的興味や、「バンド」という組織体ならではの創作のダイナミズム、各人のテクスチャーへの繊細なこだわり、そして「現代の愛」という「カッコつけ切った」タイトリングと、稀なる歌詞世界。作詞作曲とヴォーカルを手掛けるクロ、ドラマーにしてバンドのブレインともいうべき高橋アフィのふたりに話をきいた。
もともと僕はノイズとか、なかでも、パワー系ではなく弱音的なものが好きだったんですけど、そういうエクスペリメンタル系の流れのものと、いまのR&Bとかヒップホップのアンビエントなものが、なんとなく音響的に共通するメロウな気持ち良さがあると思っていて。 (高橋アフィ)
■〈Pヴァイン〉に移籍後の前作リリースから2年弱を経て、さらにバンドの周りの環境が変わったということはありましたか?
高橋アフィ(以下T):大きく変わったことはそんなになくて。ただ、前作から中村公輔さんにエンジニアリングをお願いしているのですが、ミックスなどのポストプロダクションはもちろん、今回はより曲のコアなところまで関わってもらいました。もちろん僕たちから希望を出すこともあったんですが、中村さんのアイデアでどんどん変わったりして。昔からいろんな音楽を聴いてはいたんですが、「いまこういう音楽がカッコいいと思う」とか、「こういうものが面白いと思う」といったコミュニケーションをするなかで、よりスムーズにやれるようになったな、と。
クロ(以下K):だんだん自分たちとしても、やりたいと思っていることを100用意したら100近くできるようになってきている気がしていて。それは外部環境の変化もあると思うのですが、自分たち自身の変化もあると思います。
■コミュニケーションの際の音楽的語彙も、じっさいの録音への取り組み方も深化した、と。
K:そうですね。
■今回はイメージの共有が中村さんとも最初からできているような感じだったんでしょうか。
K:そうですね。普段からLINEでコミュニケーション取ったりしながら。
■前作ももちろんアイデア豊富で、それをひとつひとつ実現していく感じだったと思うのですが、今回は目標の共有の度合いが明らかにレベルアップしていて、それが成果として表れていると感じました。
K:『NEWPOESY』のときは、それまでと大きく音楽性が変化したりメンバーが変わったりとか、「これがいまのTAMTAMだ」という自我をアピールするということに力を注いだ感じだったんですけど、そこはもう卒業できたというか、考える深度を深めていくことが今作ではできたと思います。
■『NEWPOESY』を出したあと、自主制作でミックステープ『EASYTRAVELERS mixtape』をリリースしましたよね?
K:当初は、ラフなものを1作挟んでからフル・アルバムを出そう、という感じだったんですが……結果的に結構丁寧に作り込んじゃって。
T:海外のミックステープっぽいものを、何を演って何を録っても良いっていうラフな感じでやってみようと思って始めたんですが、制作を進めていくうちに、「この曲はふざけてあの感じでミックスしよう」とかやりはじめたらすごい時間がかかってしまって。けれど、それを経たこともあり、だいぶ変なことやってもカッコよくまとめることができるんだな、と思うこともできました。
■じゃ、ある意味で『EASYTRAVELERS mixtape』が今作『Modernluv』の習作的存在ということですかね。そこでいろいろアイデアを出した結果、アルバムで目指すべきものが研ぎ澄まされてきた?
T:そうですね、いろんな所まで広げても音楽の強度は保てるし、そっちのほうが面白くなるだろうな、と思って。あとは機材が増えたこともあったり。
K: たしかに『Modernluv』に入っている曲で、ミックステープと制作期間が被っているものもあるので、ホント地続きで来ている感覚です。
■どの曲?
K:“Fineview”と……
T:“Deadisland”がそう。
別室でみんながミックスをやっているときに、ブースだけ借りてひとりでずっとダビングをして、気がついたら半日経ってました(笑)。 (クロ)
■TAMTAMは、初期からレゲエを重要なルーツとして活動してきたと思うのですが、今回は結構その色が薄くなってきたんじゃないかなと思いました。その点、ミックステープには割とはっきりとレゲエっぽいものが収録されていたりして。で、いま挙げてくれた2曲は、トロピカルさもあってレゲエ的テイストも残っているかなと思うんですが、それ以外の曲については、現在のオルタナティヴなR&Bとかに対してバンドがフォーカスしているのかな、というのを思いました。
K:たしかにそうかも。
T:ただ、ヴォーカルとベースとドラムで基礎を作って、その上にキーボードとギターを重ねていって、という作り方自体は今回もそれまでとあまり違いはなくて。だから、新しい興味とより混ざっていった、というのが感覚としては近いかもしれません。
K:元からラスタマンではないですし(笑)、同世代の他の人たちの平均よりレゲエが好きだった、というくらいの話かもしれないです。
■だから、元々好きだったレゲエも、そして新たな興味も、別け隔てなく等距離で見ている感じなのかなと思いました。
K:そうかもしれないですね。
■以前のインタヴューで、前作の制作に向けての転機となった曲として“星雲ヒッチハイク”を挙げていましたが、今回も「こういう方向性でアルバムをまとめていこう」というキーになったような曲はあるんでしょうか?
K:個人的には“Esp feat. GOODMOODGOKU”ですかね。リード・トラックだからというのもありますが、制作の早い段階でできた曲で、これが核になるかなという感触があった。デモの段階ではもっとアップテンポな曲だったんですが、BPMを落としてスタジオで試してみたら「おっ」という感じになって。こういうちょっとローなダンス感をバンド・サウンドで演奏するというのが面白いかもと思って、そこから発展させていきました。
■たしかにこの曲はリード・トラックなのもすごく納得できるな、と思いました。アルバム全体的にもBPM抑え目の印象を受けたので、その象徴という感じもします。GOODMOODGOKUさんの参加はどういった経緯で?
K:彼とはそもそもなんの繋がりもなかったので依頼するのは賭けでした。GOODMOODGOKU & 荒井優作として去年リリースされた『色』が好きだったので、ダメ元でお願いしてみよう! と。
T:その時点で曲自体はもうできていたんですが、ラップのパートのところはまだできてなくて。客演が決まってから付け足す形で作りました。
■リリックを含めて作ってくれませんか? という感じで?
T:そうですね。
K:まくし立てるタイプのラップの人も良いかもな、とか、たくさんラッパーをフィーチャーするっていうのも面白いかなとも思ったんですが、GOODMOODGOKUさんはもっとも自分たちのやっていることと地続きの感覚でやってくれそうな感じがあったので。
■メロウなラップというか……とても巧みに溶け込んでいると思います。
K:GOODMOODGOKUさんが参加してくれると決まってからは、彼の持っているエレガンスも意識して楽曲制作をしたかもしれません。
■このところ、いろんなジャンルで「メロウ」というタームが浮上してきて、国内外シーンでも重要なものになっていると思うんですが、今作『Modernluv』もやはりとてもメロウだと思いました。おふたりが普段聴いている音楽も反映されているのかなと思うんですが、「メロウ」とか「メロウネス」って感覚って、自分たちにとってどんなものでしょう?
T:もともと僕はノイズとか、なかでも、パワー系ではなく弱音的なものが好きだったんですけど、そういうエクスペリメンタル系の流れのものと、いまのR&Bとかヒップホップのアンビエントなものが、なんとなく音響的に共通するメロウな気持ち良さがあると思っていて。先述の『色』のトラックを作っていた荒井優作さんもどこかのインタヴューで言っていたんですけど、「クラブ以降のアンビエント」みたいな話をしていて、そういう感覚というか。
■フランク・オーシャンに代表されるような……
T:そう。あとブラッド・オレンジや、80年代っぽいものも含めて。スクリュー系の音楽も好きで聴いていたし。音としての快楽を高めていくと、ビートの有無に関わらず、ちょっとメロウな感覚が出てくるというか。だから自分のなかでは、エクスペリメンタル寄りのアンビエントの流れとしてメロウなものが存在している気がします。
■例えば70年代のソウルとかAORとかいう流れの「メロウ」ではなくて。
T:そうですね。でも、ヴェイパーウェイヴも聴くようになって、80年代のフュージョンやAORも、音響的にメロウな作品として聴くようになりましたけど(笑)。
■現在何気なく言われる「メロウ」って複数の流れがある気がしていて。レア・グルーヴ~アシッドジャズ由来の90年代型DIG文化を反映したフリー・ソウルとかからの流れ。ヴェイパーウェイヴからフューチャーファンクに繋がる流れ。それと、多少領域も被るけれど、いまおっしゃったエクスペリメンタル的文脈も汲みつつアンビエントとブラック・ミュージックが融合していく流れとか……。そういう論点で考えると、今作は、はっきりとどの流れから出てきた、と言い切れないようなハイブリットな面白さがあると思って。それは、メンバーみなさんが聴いてきた/聴いている音楽が反映されているんだろうなって思うし、その上、レゲエも含め、プレイヤーとしてずっと演奏経験を積んできたっていうのもやっぱり単純な傾向付けから抜け出ている要因なのかな、と思いました。
T:クロちゃんは、90年代のR&Bとかルーツ?
■ミッシー・エリオットとかネプチューンズとか?
K:そうですね。あとR・ケリーとかめちゃくちゃ好きでした(笑)。
T:ちょっといま絶妙に出しづらい名前ですね(笑)。
K:高校生の頃とか聴いてました。
■みなさんが聴いてきたそういった音楽がとても有機的に消化されている感があって。いわゆる「メロウネス」にもいろいろな種類や傾向があるけど、みなさんのなかでストレスなく混合しているんだろうな、と。
T:それと……アルバムを作っているなかで「メロウ」とは、と考えたとき、元ライのロビン・ハンニバルがプロデュースしている、デンマークのオーガスト・ローゼンバウムというピアニストのソロ作にはとても影響を受けました。ロビンのクアドロンや周辺のアーティストたち……。ヴェイパーウェイヴ風の80年代的ゲートリヴァーブ、生音のシネマティックな音響、それとポスト・クラシカル的というか、現代音楽っぽい感覚。そういったメロウネスも参考にしたかもしれません。
■そういった音像のコントロールの話になると、やはりエンジニアの中村さんの活躍は相当大きいんだろうなという気がしてきます。リズム面についてですが、作曲やデモ段階から途中でアレンジを変えたりするんでしょうか?
T:クロちゃんからデモが来る段階では大体全パートできているんです。完コピは難しいのである程度はもちろんその後変わりはするんですけど。大幅に変わった曲は“Esp”と“Morse”と“Goooooo”と……あ、結構変わってますね(笑)。
■最初から「はいリズムはこれで行きます」という感じで決めて臨んだわけではないように感じたんですよね。おそらく、コミュニケーションのなかで「あ、これは変えちゃって良いんじゃないか」とか、それ位のスポンテニアスさがないと、なかなかこういう風な仕上がりにはならないだろうな、と思って。
K:“Morse”とか“Goooooo”とかはもう、10転11転くらいした。デモの跡形もない。
T:すごく変わりましたね。無難な落とし所として、ちょっと遅めのテンポで柔らかな4つ打ちベースに16分っぽいのをアクセント的に入れるっていう、いわゆるトロピカル・ハウス的なパターンがあまりに使いやすくはあるんですが、いまやってもあまり面白くないな、と。だからといって、R&Bをそのままやるバンドでもないですし。リズム・アレンジはかなり考えたな、という気がします。
■クロさんはデモをバンドに共有する段階で隙間とかアレンジの余地を残しておいたりするんですか?
K:そうですね。TAMTAMのデモ制作には、トラックとしてひとりで一旦完成近くまで持っていきたいときと、まったくそうでなく大雑把に、部分的に作るときがあって。でもどっちの場合も最終的には演奏する人物の解釈・変更はむしろあったほうが嬉しくて。ポジティヴなものだと思っています。あくまで自分はメンバーのなかで少しフレーズ出しや構成が特異なポジションという認識で。それと、打ち込みだと、特にギターの音がイメージしづらいので、ギターは固定フレーズのたたき台になるようなものだけ作って、結構丸投げしちゃうことが多いかもです。
自分はそういうタイプではないなと思っているからこそ、じゃあカッコつけ切った方ほうが良いなというのがあって。 (クロ)
■メロディと構成だけは固めるけど、アレンジは基本余白のある状態で、と。
TAMTAM Modernluv Pヴァイン |
K:基本ベースとドラム、そして歌ですね。それ以外は結構変わっちゃうかも。でも“Morse”はバンドで合わせてみたときにぜんぜんハマらないなあと思ったので、メロディも全て変えました。それから、レコーディングでカリンバ音源などの重ねをたくさんしていった。これはライヴを想定していない作り方なので、7月以降レコ発やツアーでバンドで演奏する準備をこれからやらなきゃなんですが(笑)。
T:生バンドと打ち込み感の融合ということで言うと、このアレンジ「チルくていいよね」みたいな感じで盛り上がっても「でも、それならバンドじゃなくていいかも……」と迷ったりするんです。そういうときにムラ・マサを聴いて。ムラ・マサはバンドじゃないですけど、トラックは生音っぽいニュアンスが出ている。なおかつ打ち込み特有の圧のある感じで、リズムのシンプルな強さが際立っていて。
■打ち込みと生っぽさの融合。
T:それならバンドでやれるかも、と思って。
K:ただ、ムラ・マサの感覚をバンドに置換するのはさほど苦労なくイケるだろうと思ったんですけど、じっさいはぜんぜん一筋縄にいかなくて。
■プレイが難しいという意味?
T:それもあるんですけど、それ以上に、彼はもう2個くらい何かしら違う技を使ってると思うんですけど。
K:意外とバンドらしさとの共存が難しいのかも。受けた影響をそのままやってみようとすると「あれ? なんか情報量足りない?」ってなっちゃったんですよね。
■でも結果的には、ムラ・マサの感覚をバンドで再現するというところに拘りすぎなくて良かったと思います。いい意味で、みなさんのプレイの手癖みたいなものが引き出されることで、個性も出てくるわけで。
そういう意味で“Morse”などは、バンド・サウンドのダイナミズムが聴けるので、例えばジャズ・ファンが聴いても面白いと思うだろうし、“Fineview”もファンク的だったり、プレイヤビリティに根付いた快感もちゃんとある。特定の質感を狙いすぎると、肉体的な要素を削ぎ落としすぎてしまうこともままあると思うのですが、それがしっかり残っているというか、全面的に聞こえてくる。だからもしかすると、いまのUKジャズのシーンとかにもバランス感覚が近いのかな、と思ったりしました。
今日いらっしゃらないメンバーの方々の音楽志向についても教えてください。まずギターのユースケさんは?
K:かつては結構普通にロック少年だったと思うんですけど、最近はDJで引き合いが多いようで、元からクラブ・ミュージック全般的な部分には詳しいですね。
T:バレアリック寄りというか、生音のレア・グルーヴっていうより、辺境系のサイケ色が強い感じの。
K:ここ最近はニコラ・クルーズにハマっているみたいで。「今作でも影響を実践した」と言ってました。本人に言われて作った後に気づきました(笑)。
■たしかに、フレージングとかはすごく巧みなんだけど、なんというかギター・キッズ感はなくて、自身の演奏を俯瞰的に捉えている感覚を覚えました。DJとしても活動しているというのはなるほどという感じです。キーボードのともみんさんは?
K:彼は一言で言うなら、ポップスとして精度が高いものが好きという感じだと思います。
■宇多田ヒカルとか?
K:そう。それと、ディズニー映画のサウンドトラックとか。あんまりバンド活動をしていてもなかなか会わないタイプの……
T:ぶれずにずっと好きだよね。学生の頃から。出会ったころは、槇原敬之とか。
K:学生の頃に一緒に演っていたラテンとかカリプソ、レゲエも彼の嗜好を捉えたみたいです。
T:ラテンとかもよくあるんですけど、80年代っぽいというか、逆にいなたいくらいのゴージャスな音を狙いたいとき、「そういう音色で」っていうと、ぱっとすぐ弾いてくれたり。そういう勘所がすごくあって。そういうポップスのアクっぽいところを即座に理解してくれます。
■なるほど。かなり客観的にポップスを聴いているということですね。ウェルメイドなものを目指すという点においては皆さん同じだから、ユースケさんやともみんさんのなかにある蓄積や引き出しが混交することでTAMTAMのバンド・サウンドが形作られている、と。
T:そうですね。
■次にクロさんの歌唱のことについてお訊きします。前作『NEWPOESY』での変化が大きいかと思うんですが、以前に比べると相当に歌い方が変わりましたよね。
K:そうかもしれないですね。
■今回、前作よりさらにソフトというか、抑制されたヴォーカリゼーションに感じたのですが、やはりこれは音楽性の変化に合わせて、ということなんでしょうか?
K:普通に歳を取っただけかもしれないですけど(笑)。昔の自分の音源や『NEWPOESY』も含めて、ちょっとキンキンするなって。そこをもっと無理しないように歌うのは意識したかもしれないです。
■先ほど90年代のR&Bがルーツというお話をしていましたが、だからといって、張りまくって歌い上げる系とはまったく違って、よりクワイエットというか、ちょっとフォーキーさも感じました。
K:最近は「どうだ、歌い上げてやるぞ」というような人よりは、抜き方がうまい歌い方の人が好きで。歌い手はもちろん、最近だとノーネームとかラッパーにも好きな人が多くて。
■それはリズム感というかフロウというか?
K:それもそうだし、声の使い方が面白い。
■その声の使い方ということで言うと、個人的にそういった女性ラッパーからの影響以上に感じたのは、ダーティ・プロジェクターズのコーラス処理に似た感覚というか……。吉田ヨウヘイgroupではコーラスを担当されていますが、そういったことを通じて歌に対する意識が変わったりしましたか?
K:そうですね。吉田ヨウヘイgroupでは、一般的に言うコーラスより地を出してメインと同じくらいの存在感を出すというなかなか珍しい形態なので、そういう意味では使える声を日々発掘してます。
■じっさい今作のコーラス・アレンジもすごく凝っているなあ、と思いました。
K:もともと重ね録りが好きだったのでそこはなんの苦でもないですね。家でデモ録音しているときも、放っておくとコーラスの重ねが止まらなくなります。
■オケとコーラスの関係性が高い意識で突き詰めるられているというのはTAMTAMの音楽の特徴のひとつだと思いました。
K:すべて、メインの歌を録ってコーラスも必ず2~3本は重ねるという流れでした。1曲目のタイトル曲はいちばん最後の曲のBPMを落としているだけなんですが、あれに関してはひたすらコーラスをその場で適当に10何本とか重ねて。
■たしかにすごい音像でした。声というより何か……。
K:別室でみんながミックスをやっているときに、ブースだけ借りてひとりでずっとダビングをして、気がついたら半日経ってました(笑)。ムー(MØ)とかのような、簡単には知覚できないところにいっぱいコーラス・トラックがあったというのをやりたくて。シンセとか環境音みたいに鳴らしたり、喋っている声を入れたり、じつは細かくパンを左右行き来させたり、とか。
インディR&Bの人たち、フランク・オーシャンとかもそうなんですけど、等身大っちゃ等身大なんだけど、パートナーを誘う言葉がすごいカッコつけているってことに気づいて。 (高橋アフィ)
■最後に歌詞の話を。全体的になんというか……。言葉にしちゃうと俺がアホみたいなのですが(笑)……「都市の大人の恋愛観」というのが色濃くある気がして。
一同:(笑)。
■「アーバンなラブ・アフェア」という感じ? 言い方を変えるなら、「平成の終わりのラグジュアリー」というか。それはアルバム通した要素としてある気がするんですけど、何か意識して書いているんでしょうか?
K:私田舎者なので(笑)、アーバンかどうかはわからないんですけど……。いまの自分から、あんまり距離がないものにしようと思っていました。
■題材を自分に相応のものから選んでいる、と。
K:そうですね。男か女かはわからないけれどパートナーが存在して、その関係性についてを書くところが多かったというか。それこそ前作でそうやって書くのが楽だなあと気づいて、自分の言葉が出てくる感じになって。
■その前はかなり壮大な世界観というか、宇宙をモチーフにしたりしてましたよね。
K:そう。単純にSFが好きだから、それをネタ元にしてて。いま思えば見よう見まねで歌詞を書いてた時期で、自分のメソッドもないから、歌詞書くのは好きだけど「上手く伝えられた」と思うことが少なかった。さっきのサウンドの話とも一緒かもしれないのですが、作曲も自分でやるようになって、作曲面の自我が固まるにつれて歌詞もメロディもすごく乗せやすくなってきた。パーソナルなことも、開いた感じで書きやすくなった気がします。
■全体的にものすごい気怠そうというか……(笑)。大人ならではの甘美な疲れ、みたいな……熟れたラグジュアリー感ということなのかもしれないけど、『なんとなくクリスタル』のような感じとももちろん違っていて。自分の周りの題材を素直に扱ってこういう作風になるっていうことは、非常にアーバンな生活をされている方なのかな、とか思いました(笑)。
K:そんなこともないんですが(笑)。狙ってアーバンにしている曲もありますね。
■なんというか、かつてのプロの作詞家的っぽさもあるんですよね。2000年代半ばくらいがピークだと思うんですけど、等身大の自分をピュアにさらけ出す、的なものが素人作家主義のようなものとしてかつてあったと思うんです。そういうのっていま聴くと結構キツかったりするんだけど、今作の曲からは言葉の使い方とか含めていい意味での職業作家性やストーリーテラーとしての意識を感じました。
K:たしかに、自分の近くにいる相手に何かのきっかけで思ったりしたこととか、をとっかかりにするという意味では「等身大」ではあるけど、リアルにさらけ出す、というものは目指してなくて。たしかに自分の好みとしても作家っぽい人は好きです。小西康陽さんとか。
■ユーミンとか。
K: そうそう。自分のなかで歌詞について迷っていたときに、「好き・嫌い」「自分にフィットする・しない」の2軸で世のなかの歌詞を分類してみたことがあって。「好き」でいうと、じつは強烈な個性をさらけ出す、痛烈でリアルな言葉を吐くといったタイプも好きで、自分ができないから憧れるところもあるんですけど。自分はそういうタイプではないなと思っているからこそ、じゃあカッコつけ切った方ほうが良いなというのがあって。それでまたR・ケリーが出てくるんですけど(笑)。
■そこに繋がるんだ。
K:R・ケリー、そんなに持ち上げても仕方ないんだけど本当に最近また参照したからな(笑)。こういうの好きだったなって。歯の浮くようなことを言い切るとか……それこそGOODMOODGOKUさんも、そういう視点で「うわ! カッコいい!」と思いました。
T:ああ、言ってましたね。シド(ジ・インターネット)もそんな感じだって。
K:そうそう。ちゃんと気取ってて好き。
T:良いなという歌詞を探していたとき、インディR&Bの人たち、フランク・オーシャンとかもそうなんですけど、等身大っちゃ等身大なんだけど、パートナーを誘う言葉がすごいカッコつけているってことに気づいて。恋愛ものだったら、愚直な感情をすごく詩的な表現で伝えるみたいなのは多いですよね。フランク・オーシャンの“Super Rich Kids”とか、本当にそのときフランク・オーシャンがそうだったかというよりも、「俺たちSuper Rich Kidsだ」って言うこと自体カッコつけているけど、カッコつけているからこそリアルさが出るといったような、あの感じは結果的に参照してたかものしれない。等身大だけど、言葉遣いまで等身大にしなくてもいいっていう。
K:R&Bは金の話か女の話か犯罪の話かをイキって歌うみたいなのが多いと思うんですけど、トピック自体はともかく、歌うときのカッコつけ方自体は、いいなと思っていて。
■そのカッコつけが、いまの日本の都市文化的な風土を経由して表現されている気がして。本作の曲からは、どうしても東京の夜の街並みが浮かんでくる。それはもちろんかつてのバブル期の風景とも違って。カッコいい言葉を使いながらも、心象風景は現代っぽいという。一方で、ストリートに根ざした音楽は社会的なイシューと繋がっているべきだという論調もあるじゃないですか。その論調を拒絶するわけでもなく、個人の関係のなかへ逃避するときに発生してしまう気怠さを、なるべくベタつきのないカッコよさで見据える行き方というのは、現代に生きている都会人として気負いのない真摯な態度であるとも言えると思います。「メロウ」というのはそもそも「メランコリック」と親和性があると思うし。そういう意味ではみなさんと同じくらいの世代、30代で、自立しつつもそろそろ生活に膿み始めている大人たちとかは絶対共感できるだろうなって(笑)。
T:良かったです(笑)。
K:浮かばれました(笑)。
■最後にアルバム・タイトルのことを。『Modernluv』っていうのは、まさにこれまで話してきた通り、この2018年の……多レイヤー化する社会に揺られながら、日々を生きる大人がする気怠さと憂鬱を孕んだ恋愛、という意味なのかなって勝手に解釈してたんですけど……あってますかね?
K:素敵な解釈で嬉しいです。それをカッコつけて看板を付けてあげたみたいなことかな。
■めちゃハマってますよ。「LUV」だしね。カッコつけ切ったな、と(笑)。
K:なんか……バンドとして、いきなり「LOVE」はまだ恥ずかしいかなっていう(笑)。