「KING」と一致するもの

GONNO & HAL ca - ele-king

 日本を代表するテクノDJのひとり GONNO(4/28には GONNO × MASUMURA として CONTACT でもプレイ)による新作2タイトル『Waft』『Wander Other Worlds』と、菊地晴夏を中心とする新プロジェクト HAL ca によるデビュー作『ANIMA』、計3タイトルが〈813 Records〉からリリースされる。いずれも立体音響技術「360 Reality Audio」を用いた作品とのことで、どんなサウンドに仕上がっているのか、自身の耳で確かめてみてほしい。

GONNO と HAL ca による立体音響作品が 813 Records より3タイトル同時リリース!

ヨーロッパを中心にテクノ/ハウスシーンでも活躍してきたDJ/プロデューサー Gonno 音響作品『Waft』『Wander Other Worlds』と、様々なサウンド・インスタレーションを手がけてきたコンポーザー菊地晴夏を中心とした新プロジェクト HAL ca によるデビュー作『ANIMA』が一挙リリース。

これまでpeechboyやXTALなど国内の気鋭エレクトロニック・アーティストの作品を発表してきたレーベル813が、立体音響技術360 Reality Audio に特化したスタジオ「山麓丸スタジオ」の協力を得て、 新たな音響快感を追求したアンビエント、テクノミュージック作品にアプローチする。

まずGonnoによる2作品は、後日に発表されるEP『Loom』と合わせた立体音響三部作の一環。『Waft』は、ニューエイジ~アンビエントへと接近し新たなイマーシヴ体験を追求した4曲入りEP。そして1トラック20分強の大作シングルとなる『Wander Other Worlds』は、リコーの開発するRICOH PRISMの体験プログラムとして制作された楽曲から発展。同プログラムのビジュアル演出を手掛けた画家、Akiko Nakayamaがアートワークを提供している。

同様にRICOH PRISMのプログラムとして、デジタル・アーティスト村上裕佑のディレクションで制作された同名作品のサウンドトラックでもある、HAL ca『ANIMA』にも注目してほしい。中心人物となる菊地晴夏は、パリのエコールノルマル音楽院の映画音楽作曲科を首席で卒業という才媛。配信作品としては今作がデビュー作となる。HAL caでは今後、空間音響を軸としたプロジェクトとして活動していく。


Gonno / Waft
Label: 813
2022年3月30日発売
※Amazon Music Unlimited、Deezerなど360 Reality Audio対応プラットフォームにて先行リリース。ステレオ版のリリースは4月6日予定。

[収録曲]
1. Warbly FM
2. Nikita
3. 550 Drums
4. A Long Way


Gonno / Wander Other Worlds
Label: 813
2022年3月30日発売
※Amazon Music Unlimited、Deezerなど360 Reality Audio対応プラットフォームにて先行リリース。ステレオ版のリリースは4月6日予定。

[収録曲]
1. Wander Other Worlds


HAL ca / ANIMA
Label: 813
2022年3月30日発売
※Amazon Music Unlimited、Deezerなど360 Reality Audio対応プラットフォームにて先行リリース。ステレオ版のリリースは4月6日予定。

[収録曲]
1. MononooN
2. roTaTe
3. MeMory
4. NoVa

Ryoji Ikeda - ele-king

 昨年の『music for installations vol.1』に続き、新たに池田亮司によるインスタレーション音楽集『vol.2』がリリースされることになった。本人の主宰する〈codex | edition〉から。16枚の作品写真をまとめたカードセット『fragments vol.1』も同時発売。いずれも999部限定とのこと。また、4月16日より開催される弘前れんが倉庫美術館での展示会場では、先行発売も予定されている。詳しくは下記をチェック。

Ryoji Ikeda
music for installations vol.2
fragments vol.1

池田亮司によるインスタレーション作品の音源集第2弾『music for installations vol.2』と、16枚の作品写真をまとめたカードセット『fragments vol.1』 をcodex | editionから同時リリース。
それぞれ限定999部、2022年3月31日(木)からプレオーダー開始。

音そして視覚的要素、物理や数学的なアプローチを用いて人間の知覚能力やテクノロジーの臨界点に挑むような作品を様々な形態で発表し続けているアーティスト/作曲家の池田亮司。『music for installations vol.1』『superposition』に続き、codex | edition から『music for installations vol.2』を2022年4月22日(金)に限定999部でリリースする。先のリリースと同じくCDとブックレットのセットで、ブックレットには収録曲の図版を数多く掲載。

同時に発売する『fragments vol.1』は、池田によって厳選された作品写真を収録した16枚のカードセット。こちらも限定999部で、特製のボックスに封入されている。
セットには世界各地の美術館での作品展示風景や、《test pattern [times square]》や《A [for 100 cars]》といった大規模プロジェクトのインスタレーションビュー
などが含まれている。

また、4月16日(土)から開催する弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市)での池田の大型個展に合わせ、同ミュージアムショップmuseum shop HIROSAKI MOCAにて、一般発売に先がけ展覧会のオープニング日より先行発売を行う。

music for installations vol.2 [cd+booklet](2022.4.22 リリース)
*8トラック収録(全71分)のCDと96ページのブックレットのセット 
*限定999部、エディションナンバー入りカード付き 
*デジタル音源も同日リリース

fragments vol.1 (2022.4.22 リリース)
*特製ボックスに16枚のカード(189 x 124 mm)を封入
*限定999部、エディションナンバー入りラベル付き

【プレオーダー】
3月31日(木) 18時(JST)よりcodex | editionのオンラインショップにてプレオーダー開始

【先行発売】
4月16日(土)より弘前れんが倉庫美術館のミュージアムショップ「museum shop HIROSAKI MOCA」にて先行発売実施

【展覧会情報】
2022年度 展覧会[春夏プログラム]「池田亮司」展
会期:2022年4月16日(土)-8月28日(日)
会場:弘前れんが倉庫美術館(青森県弘前市吉野町2番地1)
https://www.hirosaki-moca.jp

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music for installations vol.2
アーティスト Ryoji Ikeda
タイトル music for installations vol.2
レーベル codex | edition
品番 CD-004
税込価格 5,500円
発売日 2022年4月22日(金)
(デジタル音源も同日リリース予定)

トラックリスト
1. the planck universe [micro] (2015)
2. the planck universe [macro] (2015)
3. point of no return (2018)
4. data.anatomy (2012/2019)
5. supersymmetry [experience] (2014)
6. supersymmetry [experiment] (2014)
7. code-verse (2018)
8. data-verse (2019‒20)
合計収録時間:1:11:46

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fragments vol.1
アーティスト Ryoji Ikeda
タイトル fragments vol.1
レーベル codex | edition
品番 PC-001
税込価格 4,950円
発売日 2022年4月22日(金)

作品リスト
datamatics [prototype‒ver.2.0]
data.tron [8K enhanced version]
data.flux [12 XGA version]
test pattern [100m version]
test pattern [times square]
supersymmetry [experience]
supersymmetry [experiment]
the planck universe [micro]
the planck universe [macro]
the radar [rio de janeiro]
the radar [fondation vasarely]
the radar [shanghai]
A [continuum]
A [for 100 cars]
db

Duppy Gun - ele-king

 サン・アローゲド・ゲングラスを中心としたダンスホール・プロジェクト、ダピー・ガン。その新作が、ブリストルの〈Bokeh Versions〉と東京の〈Riddim Chango Records〉との共同リリースとなった。この異形のダンスホール、要チェックです。

DUPPY GUN X ELEMENT - ANDROMEDA EP

1.Jahbar Darkblood - Love My People
2.Element - Andromeda Riddim
3.I Jahbar Darkblood - Puff It
4.Element - Puff It Riddim
5.G Sudden - Walk Stagger Rum Song
6.King G - Chopping
7.Element - Rum Song Riddim

Produced by Duppy Gun & Element
Mastered by e-mura (Bim One Production)
Artwork by Cameron Stallones
Label: Bokeh Version / Riddim Chango Records

試聴サイト
トレイラー (Youtube)
■ 国内発売日: 2022年4月8 日(金)
12"EPレコード販売

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Sun ArawとM. Geddes Gengrasを中心に、I Jahbarなどジャマイカ在住のMCクルーと結成された異形ダンスホール・コレクティブのDuppy Gunが、日本のプロデューサーElementを迎えた7曲入りのEPがブリストルのレーベルBokeh Versionsと日本のRiddim Chango Recordsの共同でリリースされる。

これまでにSeekers International、 Jay Glass DubsやLow Jack、国内ではMars89や7FOの作品、さらにはTNT Roots、Bush Chemist、Traditionなどの再発を手がけ、オブスキュアなダブレーベルとしてその存在を確立してきたブリストルのカルトレーベルであるBokeh Versionsが日本とロンドンの2拠点から新しいサウンドシステム・ミュージックを提案してきたRiddim Chango Recordsと手を組んだ形になる。
Jahbar, G Sudden, King G, Darkbloodの4人のジャマイカ人MCが吐き出す強度の高いキラーなヴォーカルと、キングストンのダブポエットNazambaとの楽曲も記憶に新しいElementが製作した、SF要素がありながらもいわゆる”テクノ・ダンスホール”とも一線を隠す、オリジナルなリズムトラックが融合した楽曲7曲 (ヴォーカル4曲、インストヴァージョン3曲)を収録した12インチが4月8日リリース!
アートワークはDuppy Gunコレクティブをスタートさせた1人であり、Sun Araw名義でオルタナティブで実験的な作品を残してきたCameron Stallonesが担当している。


Duppy Gun情報
Bokeh Versions情報


© The Gift Film Limited 2020

 ここ数週間、ぼくはジャック・ケルアックについて思いをめぐらせている。去る3月12日が、ビートの王様の生誕100年だったのだ。それでぼくは、不安と期待をもってディーンとサルの物語、つまり『路上』として知られるその小説を40年振りに読んだ。
 じつは数年前から『路上』はいつか読み直そうかなと思っていた。トレイシー・ソーンの自伝『安アパートのディスコクィーン』を出したとき、同書のなかで若きソーンが、ビート世代の登場を宣言したその記念碑的な小説を自分のフェイヴァリットとして何度か挙げていることが気になっていたのだ。なんていうか、つまり、あれはもう女性の描き方に関しては目も当てられないというか……、いや、そうじゃなくてもモノシックでモノ静かで、ソツのない文章やリベラルな道徳心と自己宣伝のSNSで溢れたこの時代、カウンター・カルチャーというものは嘲笑や批判の対象であっても崇拝の的にはならないのが現実だったりする。だからなおのこと、ソーンが自伝のなかでその教典を強調していることが興味深いと思ったのだ。まあ、たしかにケルアックに代表される1950年代のビート・ジェネレーションはカウンター・カルチャーの発火点だった。なんにせよ、それが出発点だった。人生を冒険のように生きて、白人社会を嫌悪し、黒人を賞賛しジャズに熱狂する。それが60年代になるとヒッピーへと展開し、1970年代にはパンクになった。そう、そうなのだ。
 が、しかしそれにしても、このモノシックでモノ静かな時代に、飲んだくれて、ドラッグをやりまくって、おびえながら生きるのではなく生きていることに興奮しながら生きるということは、いったいナンなのか……、50年代のアメリカで萌芽したカウンター・カルチャーは現代ではもう無効なのか……、この大きな問題については6月末売りの紙エレキングにおいて、マシュー・チョジックさんと水越真紀さんの力を借りながら論じてみようと思っている(できるかな?)。
 そんなことを考えていた矢先に、ジュリアン・テンプル監督によるシェイン・マガウアンの評伝映画が日本でも公開されると知った。見るしかないだろう。テンプルは、『ザ・グレイト・ロックンロール・スウィンドル』や『ビギナーズ』、あるいはジョー・ストラマーやグラストンベリー・フェスティヴァルの見事なドキュメンタリー映画で知られるベテランで、この筋では信用できる監督だ。
 
 で、シェイン・マガウアンなのだが、日本でもいまだ根強い人気を誇っているし、彼の若き姿はパンクのドキュメンタリー映画を見ている人にはお馴染みだろう。セックス・ピストルズやザ・クラッシュのライヴの最前列で異様にノリまくっているひとりの若者、見るからにやばそうなパンクス、それが後にザ・ポーグスのヴォーカリストとして世界中に知られることになるシェイン・マガウアンだ。また、シェインは手のつけられない大酒飲みとして、あるいは歯のない男としても知られている。もちろん、彼が作った曲でもっとも有名なのは、あの最高にアップリフティングな“フェアリー・テイル・オブ・ニューヨーク”だ。シェイン・マガウアンとは、クリスマスの夜のニューヨークで、酔っ払って牢屋に入れられた男の話——アイルランド人のカップルの夢と絶望——が歌われている、イギリスでもっとも人気のあるクリスマス・ソングの作者であり、歌手である。


© ANDREW CATLIN

 あの曲の舞台がニューヨークなのは意味がある。19世紀なかばのアイルランドにおける大飢饉によって、数百万人のアイルランド人が職を求めてアメリカに渡った。だからアメリカには本国アイルランドよりも多くのアイルランド人がいる。そうした無名のアイルランド人の、酔っ払うことでしか生きていけないような世知辛い人生を、あの曲は宇宙クラスのおおらかな愛をもって歌い上げている。多くの人たちから愛されて当然だ。

 アイルランドの民謡(フォーク)をパンクのフィルターを通して再現したザ・ポーグスは、素晴らしきアイリッシュ・ディアスポラである。シェインは、幼き日々に過ごしたアイルランド南部の田舎町ティペラリーでの記憶を決して忘れることはなかった。6歳から酒とタバコを続けながらも、だ。ウィスキーと川、動物たちとギネスビール、二日酔いの郵便配達員、子供の飲酒を咎めなかった家族や親戚、カトリック教会、パブと音楽、こうしたものすべてがシェインのなかではアイルランドの誇りだ。一家がロンドンの集合住宅に移住し、母はノイローゼになり、学校ではいじめにあい、マルクスの資本論を読んで無神論に衝撃を受けても、シェインのなかのカトリック的なもの、植民地主義への怒りと愛国心、IRAへのシンパシーが揺るぐことはなかった。


© The Gift Film Limited 2020

 学校は、校内でドラッグを売りさばいて14歳で退学となった。それから、肉体労働などをしながら酒とドラッグを体内に流し込んだ。精神病院に入れられもしたが、退院してから最初にライヴハウスで見たのが、そう、セックス・ピストルズだった。それを機にパンクの使徒となったシェインは、ギグというギグで暴れた。あるギグにおける流血っぷりがNMEの記事になったこともあったが、彼は同時にDIYの精神でファンジンを作ったりしているし、それから音楽もはじめる。

 ジュリアン・テンプルは映画の前半のアイルランド時代を詩情豊かに愛らしく描いている。そして、続くロンドン時代のパンクまでの時間を烈火のステージとして再現している。だが、周知のように、パンクの時代は数年で終わる。シェインは、その次にやってきたファッショナブルなシンセポップのシーンが気にくわなかった。そこには、田舎からやって来た薄汚い酔っ払いの居場所はなかった。しかし同じころ、音楽誌はワールド・ミュージックの紹介にも熱を上げていた。そこでシェインのなかにひとつのアイデアが生まれた。彼にとって身近なワールド・ミュージック、すなわちパブで演奏されているようなアイルランド民謡、これとパンクを合体させるという。

 映画のなかでは、最近の(本国での公開は2020年)シェインがたびたび登場する。車椅子生活を送っている彼は、椅子にもたれかかってジョニー・デップやボビー・ギレスピーを相手に話しているわけだが、その姿からは、長年のアルコールとドラッグ(LSDからヘロインまで)によるダメージを感じないわけにはいかない。廃人のように見えることもある。が、とはいえ、そこには緊張感があり、ときおり鋭い目つきをもって言葉を発するシェインからは、彼の反骨精神と屈強な生命力も感じる。
 ジュリアン・テンプルは、この映画のためにアイルランドの歴史をケルト神話から説明しているが、ザ・ポーグスの音楽を好きになるのにアイルランド人である必要がないように、映画を楽しむのにアイルランドの詳しい政治史を知っておく必要はないかもしれない。いや、IRAに関する知識はあったほうがいいだろう。ケン・ローチの素晴らしい『麦の穂をゆらす風』も見ておくに超したことはない。アイルランドは英国の帝国主義との闘いもあるが、その独立をめぐっての内戦という悲惨な歴史をも持っている。
 ただ、ぼくが映画を見ていて目頭が熱くなってしまったのは、アイルランド史でもなければシェインをなかば聖人化しかねないテンプルの演出によるものでもない。アイルランドの土着性を打ち出したザ・ポーグスの演奏は、たしかになんど聴いたって格好いい。だが、それ以上に、この映画においてはシェインの「人間臭さ」がぼくにはたまらなかった。
 パブで飲んだくれている人生――個人的には大好きな世界ではあるのだが――をロマンティックに語るのは、大人としてまあどうかと思う。二日酔いでまっすぐ歩けず、昼間っから公園のベンチでぶっ倒れているときなど、経験者にはわかる話だが、ほんとうに惨めなものだ。6歳から酒を飲み、どんなに身体が悪くなっても飲み続けているシェインのロックンロールな生き方をことさら賞揚したくもない。また、彼が表現するアイルランドは、それをステレオタイプ化しているかもしれないというリスクも感じなくもない……が、映画を見ている最中はそんなネガティヴな感情はまったく湧かなかった。130分はあっという間だ。惹きつけてやまないのは、音楽ドキュメンタリー映画としてのクオリティの高さだけではない。


© The Gift Film Limited 2020

 たびたび登場し、貴重な証言を話すシェインの妹がシェインの“魂(ソウル)”について語ったとき、ぼくはいろんなことが腑に落ちたような気がした。もしジュリアン・テンプルがシェイン・マガウアンの“魂”を描こうとしたなら、この映画は成功していると言える。たとえば、ザ・ポーグスの音楽は、パブで飲んだくれているうだつのあがらない連中を楽しませるために、はじまっている。なにしろ、その音楽のベースにあるのは民謡なのだ。民謡とは自分個人のためにある音楽ではない。みんなのためにある。内的なものではなく外的なもの、要するに社会的な音楽なのだ。街をほっつき歩いて、夜分ホームレスと一緒に酒を飲みながら連中から聞いた話が歌詞のヒントになっているとシェインが打ち明ける、象徴的なエピソードがある。シェインは、やがて成功し、ロックスターとして祭り上げられても自分を見失わなかったひとりだが、それというのも彼の魂が、そんな安っぽい賛辞など認めなかったのだろう。そんなことよりも彼のなかではパブで飲んでいるときのほうが幸せで、アイルランド人としての誇りのほうが重要なのだ。
 それにしてもシェインは、いくつもの美しい歌詞を書いたものだ。劇中には多くの曲が流れるが、あらためて彼の非凡さを思い知った。音楽ファンにとっては、最後のニック・ケイヴとのデュエットのシーンは最高のプレゼントだが、ジュリアン・テンプルはこの映画を通じて、それ以上にもっと大切ななにかを発しているように思えてならない。それは、アカウントを作って月々の購読料を払って誰かと対話するような世界では決して得られないもので、いま世界から失われようとしている古き良きもの、この日本でいままさにどんどん欠落しつつあるもの、つまりそれは「人間らしいかっこ悪さ」と呼ばれうるものかもしれない。だからスマートには生きられない諸君よ、最後に確実に言えることがある。この映画を見た誰もが、見る前の自分より元気になっていると。
 


© NATIONAL CONCERT HALL, DUBLIN

R.I.P. Mira Calix - ele-king

 こういう仕事をして、いろんな人と会って話したりするなかで、この人の性格はうらやましいなと思えるような人と会うことがある。ミラ・カリックスはそんなひとりだった。彼女のからっとした感じ、テキパキとした感じ、頭の回転の速さ、そしておそらくは、困難にぶち当たっても可能な限りに前向きに思考し、突破してしまいそうな明るさ——そうした彼女の属性は、彼女が南アフリカ生まれでロンドンに移住したコスモポリタンであるがゆえなのかどうかはわからないし、そもそもぼくが彼女と会ったのはわずか2回なので、まあ、365日そんな感じだったのかどうかもわからない。ただ、彼女にはどこか竹を割ったような、さっぱりした感じがあって、その感覚は彼女の音楽作品からもぼくは感じていた。どんなに彼女が実験的なことをやろうが、遊び心があって、ユーモアもあった。遺作となったアルバム『Absent Origin』のアートワークがそうであったように。
 ミラ・カリックス、本名、シャンタル・フランチェスカ・パッサモンテが亡くなったと所属元の〈Warp〉が3月28日発表した。死因は公表されていない。52歳だったという。まったく、なんて悲しいニュースだろう。
 彼女のキャリアは、90年代初頭のロンドンのアンビエント・ソーホーというアンビエントに特化したレコード店の店員としてはじまった。ぼくの、あまり頼りにならない記憶装置によれば、たしか彼女はDJシャンタルとして、1993年の「アンビエント・サマー」と呼ばれたあの夏、アンビエントDJとしてシーンの一部になった。
 懐かしい時代だ。奇跡的な時代だったと思う。シーンにいる誰もが自分個人のためではなくシーンのため、みんなのために動いた時代だった。「アンビエント・サマー」は、口もきけないくらいにぶっ飛んでダンスする第二期レイヴ・カルチャーから枝分かれしたシーンで、アンビエントでも実験音楽でもプログレでも、まあみんなでのんびりと、いろんな音楽を楽しんでチルアウトしましょうやというシーンだった。頭角を現した彼女は、シェフィールド時代の〈Warp〉の広報担当にフックアップされた。彼女のミッションは、それこそAIシリーズを売ることだったが、広報担当時代の彼女の最大の功績は、ハウス至上主義者からの「オウテカやAFXでは踊れない」といった批判に対して、『Blech』というDJフードによるミックス作品で反論したことだった。
  
 それから周知のように、シャンタルはミラ・カリックスとして多くの作品を発表した。2000年のデビュー・アルバム『One On One』、2003年のマスターピース『Skimskitta』。それから彼女はハイブローなアートの世界にも進出した。ロンドン・シンフォニエッタとの共作、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーのための作曲、あるいはオペラのための作曲やインスタレーションなど、それらのいくつかの楽曲は『3 Commissions』と『The Elephant In The Room: 3 Commissions』にまとめられている。
 ミラ・カリックスは2021年、2007年の『Eyes Set Against The Sun(太陽に目を向ける)』以来となる、久しぶりのアルバム『Absent Origin』をリリースした。このアルバムはレヴューでも書いたように彼女の集大成的な内容の作品で、おそらくはもっとも傑出した作品だった(年間ベスト・アルバムにも挙げた)。このアルバムに先駆けて2019年にリリースされている復帰作となったシングルのタイトルは「Utopia」だったが、シャンタル・フランチェスカ・パッサモンテは間違いなくユートピストだった。最後まであの時代の精神を忘れなかったことは、その遺作が充分に証明している。彼女の最後のツイートは「help the displaced….save Ukraine ……save democracy…. save the world」だった。
 
 以下、これまでやった2回のインタヴューをここに掲載することで、彼女への供養としたい。


■エレキング、1997年8月/9月号

 ごきげんなヒップホップ野郎ジョージの取材を終えてから悪い知らせが届いた。スクエアプッシャーことトム・ジェキンソンが、列車に乗り遅れ、予定の時間よりも到着がだいぶ遅れそうとのことだ。
 ふーむ、仕方あるまいと思っている時に、〈Warp〉のオフィスにやって来たのはミラ・カリックスことシャンタル嬢だった。今年で28歳になる彼女は、もともとロンドンのアンビエント・ソーホーというレコード店で働きながらDJとして活動していて、メガドッグやメガトロポリスやフリー・パーティでまわしていた。パーティでオウテカと知り合い、その後オウテカのメンバーのショーン・ブースと結婚、住居をシェフィールドに移してからつい最近まで〈Warp〉のオフィスで働いていた。しかし今や彼女はミラ・カリックスという名のもと、〈Warp〉と契約したアーティストのひとりである。これからシーフィールのマーク・クリフォードの協力を得て、アルバムの制作に取りかかる予定だとも言う。
 ミラ・キャリックスの音は、まさしく〈Warp〉の“アーティフィシャル・インデリジェンス・シリーズ”的な展開で、それはブラッグ・ドッグやオウテカ、そして最近話題のボーズ・オブ・カナダと並んで古き良き〈Warp〉の伝統に基づくものである。スペースメン3の大ファンで、スペースメン3に関するものならすべて集めているという彼女と話してみることにした。

――〈Warp〉レコードにどういう印象を持っていましたか?
シャンタル:もともと〈Warp〉は大好きだった。とくにオウテカとブラック・ドッグの大ファンだった。初めて〈Warp〉のオフィスを訪れた時はあまりの小ささにショックを受けたことをよく覚えている。仕事はとても楽しかった。私が好きな3つのレーベルのひとつで働くことができたのはラッキーだったと思う。
――好きな他のふたつのレーベルは?
シャンタル:4ADとデディケイティッド。スピリチュアライズドの大ファンだからね(笑)。
――しかしミラ・カリックスやオウテカみたいな音は決して多くの人に聴かれる音じゃないですよね? 今後どうすればあなたがたのような音楽は残っていくと思いますか?
シャンタル:売れないといっても、そういったアーティストがささやかながら暮らしていける枚数が売れれば、それが彼らにとって売れたということになるのよ。たしかにオウテカみたいな音は私、すごくいい音楽と信じているけど、ラジオなんかでなかなかかけてもらえない。ラジオ局が最初から、この手の音楽は理解しづらいと思ってしまっているから。それはオーディエンスをみくびった態度だと思う。日本もきっとそうでしょうね。テクノでさえ、深夜のラジオでしかかからない。
――しかしオウテカみたいなアーティストも〈Warp〉は出し続けるじゃないですか。最近も5枚目のアルバム『LP5』を出したばかりですよね。そこは偉いなぁと思います。
シャンタル:まったくその通り。そしてリリースすれば買う人もがいることも事実。つまり、オウテカの音楽を好きな人が少なからずいるってこと。前はよくプラッドやオウテカのような音は踊れないからダメだって、ジャーナリストから叩かれたことがあったわ。だから私たちはDJフードに頼んでミックスCDの『ブレック』を企画したの。「どう? 私たちみたいな音でもDJの腕次第で充分に踊れるでしょ!」ってね。DJフードは素晴らしいDJだと思うわ。〈Warp〉の人たちはみんなDJフードのことが好きなの。だって彼らはジャンルで差別しないで、本当になんでもミックスできる人たちだから。
――そうだったんですかー。いやー、僕もあの『ブレック』には本当にぶっ飛ばされましたが、まさかその背景にあなたが関わっていたとは。
シャンタル:第2弾も考えていたんだけど、DJフードが忙しくなっちゃってねー。
――話は変わりますが、オウテカのショーンと結婚したんですよね?
シャンタル:ええ(笑)。一応オウテカのひとりと結婚したつもりなんだけど、家にスタジオがあるからオウテカのふたりとほとんど毎日顔を合わせていて、まるでオウテカのふたりと結婚したみたいになっちゃった(笑)。
――しかしあなたの家からはオウテカの音とミラ・カリックスの音が同時に鳴っているわけだから、近くを通る人は不思議に思うでしょうね。
シャンタル:しかも建物の一階はトルコ料理のレストランだから、トルコ音楽もミックスされている(笑)。


■remix 2003年5月号

 前回〈Warp〉を訪ねたのは6年くらい前のことで、レーベルはまだシェフィールドにあった。当時〈Warp〉は冴えない地方都市のしかしもっとも成功しているインディ・レーベルだった。それがいまではロンドンの原宿ともえいるカムデンタウンだ。大きなドアを開けると広いフロアを囲むように円陣にデスクが並べられ、10人以上のスタッフが机のうえのコンピュータに向かってかちゃかちゃ音を立てている。フロアの中央にはスピーカーがあり、最先端のアンビエントが流れている。なんだか変な光景だ。
 ミラ・カリックスを名乗るシャンタル・パッサモンテと最初に会ったのも6年前のシェフィールド時代の〈Warp〉を訪ねたときだった。オウテカのショーン・ブースと結婚して間もない頃で、彼女が〈Warp〉を退職し、ミラ・カリックスとしてアーティスト契約したばかりの頃だった。最初のアルバム『One On One』がリリースされるおよそ2年前のことでもあった。
 シャンタル・パッサモンテは6年前と変わらずよく喋りよく笑う。とても楽しそうだ。彼女のキューリアスな音楽からもそんな彼女の振る舞いが聴こえる。日々の生活の微妙な変化に驚きと喜びを感じ、雨の音を聞き分け、風の匂いを音に置き換え、暗い夜の窓の外の化け物たち、遠い森の動物たちの内緒話に耳を澄ましているような、想像力を楽しむ人間がそこにいる。「音楽を作るときはいつも楽しんでやっているわ。遊び、そう、むしろ遊んでいるといった感じね」
 彼女はこの2年半のあいだに90曲を作り、それを1枚のアルバムにまとめたばかりだ。彼女の2枚目のアルバム『Skimskitta』は悪戯っぽいノイズのあとに美しいピアノが流れ、そして魔法の時間ははじまる。「音楽を作るのは主に昼間の時間帯。部屋に東の窓と西の窓があって、だから早朝から黄昏時まで太陽の光が入ってくる。こんな賢沢ないよね(笑)。だって朝の光から夕刻の光まで満喫しながら音楽を作れるんだから!」
 彼女の人生のパートナーでもあるショーン・ブースのいるオウテカはつねに最新のソフトウェアに目を光らせているが、彼女は彼らとは正反対の態度を取るかのようにアナログ機材や役に立たない楽器を好んでいる。オウテカとの比較でもうひとつ言うなら、オウテカの音の粒子の塊のようなビートに対して、彼女のドラムは石を鳴らしたときの音で構成されたりしている。そんなアイデアを捻り出すことが彼女の創作への情熱なのだ。
 3年前に引っ越した彼女の住むサフォークは、彼女の音楽に大きな影響を与えている。「シェフィールドに住んでいた頃はとんでもない場所で、部屋の窓の外が大通りだったからもういつでも騒がしいし、しかも部屋の下がトルコ料理屋でしょう(笑)。引っ越した場所はもっと田舎の、そうねー、私たち以外の住人といえば鳥ぐらい(笑)。どこに住んでようと変わらないと思っていたけど、だってスタジオの中身は変わらないわけだしね、でもね、環境の変化は……、やっぱ大きいわ(笑)!」
 ミラ・カリックスの音楽は数々の奇妙な物音で成り立つ一編のメルヘンのようだ。“狼と羊と扉”という曲では彼女だけが知る真っ暗な洞窟を探検しているような気分にさせられる。美しいピアノの音とざわめくパーカッションと遠くで聞こえる声。“I May Be Over There”のたどたどしいピアノの鍵盤の動きと宇宙のように広がるストリングスと奇妙なノイズ。
 「ロマンティックなものに惹かれるんだけど……」彼女はそう断ったあとで、ミラ・カリックスの音楽の秘密を教えてくれた。「それは具体的な人間関係のロマンスというよりも世界のロマンスみたいようので、私はその美しさを肯定したい。うまく言えなんだけど、もっと大きな美しさ、ボーズ・オブ・カナダは郷愁のなかの美だけど、私が表現したい美は過去のものではなく、だからといって遠い未来のことでもない、身近にあって尊い美、そんなものを見つけたいと思うわ。とても甘く美しい、そのロマンス、とても重要なことよ(笑)。音を選ぶときもそのことにはすごく神経を使う」
 「それは“喜び”という言葉で置き換えられるかもしれないね」彼女は次の質問を遮ってさらに説明を続ける。「変な話だけど、悲しみのなかにもそれはあるんじゃないかと思っている。メランコリーという言葉があるわよね、メランコリーというのは不思議な言葉で、淋しさと美とが共存している。メランコリックな眼差しというのは美にはつねに淋しさがつきまとうとういことで、私の感覚はたぶん正確な意味でのメランコリックではないと思っているけど、ちょっと近いところもあるわ。何故ならロマンスについて思いを巡らせているときやはり淋しさを100%拭いきれない自分がいるんだから。この感覚は説明しずらいわ、私が言いたいことが伝わればいいんだけど、でも考えてみればそれをうまく伝えること自体もひとつのロマンスよね (笑)」
 ロマンスという言葉は誤解を受けやすい言葉だが、面白いことに彼女はそれを積極的に使おうとする。もっとも彼女のロマンスは一次元的なものではなく、いま日本で流行のファンシー・ショップのようにすべてが人工的にかわいらしく整っているわけでもない。無邪気に音と戯れているかと思えば突然暗闇に包まれたりもする。ダークな曲もある。だからと言ってミラ・カリックスの音楽から、彼女が思春期に夢中になった〈4AD〉やスペースメン3などという過去を引き出しにくいのも事実なのだ。「そうは言ってもスペースメン3のことはいまでも愛しているわ」彼女は笑いながら自分の音楽的影響のいち部を明かす。「ま、思い出だけどね (笑)。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインを思い出にするにはまだ早いけど、だけどこの5年だけでも素敵な音楽はたくさん出てきていると思っているのよ。たとえばドレクシア、素晴らしいわ。ダークな音楽だけど、とても創造的でドライヴ感がとにかくダイナミックでしょ。ここ数年ではダントツね!」
 シャンタル・パッサモンテはDJとしてもここ数年はいろいろなイヴェントに呼ばれている。学生時代に彼女はDJフードなどとつるんでDJをしていたほどなのだ。最近ではリー・ペリー、スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラスなどの大物とイヴェントで一緒になっているが、とくにフランスのフェスティヴァルでリー・ペリーと会ったことは彼女にとって興味深い経験だったようだ。「リー・ペリーと会ったとき私はDJバッグを持っていて、彼は私に 『あなたはどんな音楽をプレイするのかね?』と訊いてきたわ。だから私は『そうね、エクスペリメンタルなエレクトロニック・ミュージックかな』と答えたのよ。そうしたらリー・ペリーが何て言ったと思う? 『ほほう、それではきみもダブをやっているわけだ』と彼は言うのよ。私は一瞬『え?』と思ったけど、すぐにあとで『言われてみれば、私はダブよね』と思ったの (笑)。だってたしかに私の音楽は、リー・ペリーのように考えればダブなんだから!」
 「気がつくということはすごいことだと思わない?」彼女はさまざまな人たちとの出会いを振り返りながら、興味深い話を続ける。「いままで気がつかなかったことに気づくって世界が広がることでしょ? 自分が知らなかった考え方や解釈と出会うことはだから最高なのよ。音楽によって自分が変化するわけじゃないわ。変化するんじゃなくて広がるのよ。自分の興味のない音楽に対して人は耳を塞いでしまうけど、私からすればもったいない話よね。音楽に新しい発見があるのは、発見はその音楽ではなくそれを発見した人間の側の発見なのよ。それって素晴らしいことだと思うわ」
 ミラ・カリックスの『Skimskitta』はそういう意味で音楽解釈の冒険でもある。風の音や木々のざわめきが音楽であるように、『Skimskitta』は想像力にどこまでもこだわっている。「少なくともファッショナブルな音楽ではないわよね (笑)」 彼女はそう言うと、アルバムのタイトルの意味とその狙いを次のように説明してくれた。「“動き”のあるタイトルが欲しかった。アルバム全体のテーマでもあったし。“スキムスキッタ”という言葉を発語するとき、なんか“動き”を感じない? 実際“スキッタ”という言葉には“動き”を予感させるニュアンスがあるし、“スキム”という言葉は、あの一、よく子供が川の水面に石を投げて石が水のうえを何度か跳ねたりするじゃない? あれを英語で“スキム・ストーン“と言うんだけど、他にもねー、実はスペルはちょっと違うけど“スキッタ”にも石を投げるというニュアンスもあるの (笑)。いろんな意味があるんだけど、最終的には“動き”というイメージからそれをアルバム・タイトルにしたわ」
 最後に彼女は現在の嘆くべき政治状況に関しても意見を述べてくれた。「私は毎日欠かさずニュースと新聞をチェックしているのよ。いまの状況は、ひょっとしたら多くの人にとって気にはなるけどよく知らないということだと思うの。マッシヴ・アタックはああいう風に自分たちの意見を言ったけど、それは大切なことよ。こういうときはアーティストでもジャーナリストでもなるべく意見を言ったほうがいいと思うわ。意見をシェアすることで理解を深めることができるわけだし、もっともシンプルなレヴェルでは友だちとカフェで話すだけでも違うと思っている。もっとみんなの意見を言い合うことでそれが動きに繋がるかもしれないし、戦争をくい止めることになるかもしれない。で、私の意見は、ブッシュとブレアをイラクに送って、フセインと3人で部屋に閉じこめて彼らだけで喧嘩してくれってことね。これなら兵隊も武器も使わずに済むわ。彼らのアイデアよりはいいんじゃない(笑)?」
 さて、この暗い時代に『Skimskitta』は美というロマンスを掲げているわけだが、その考え方に僕は共感する。僕も願わくは音楽を聴くときはロマンスを感じながら聴きたいと思っている。それはつまり身近にあって尊い美、それを肯定すること、これで決まり。

µ-Ziq - ele-king

 一昨年に設立25周年を迎え、去る2021年もDJマニーヤナ・ラッシュRP・ブーなど変わらず力作を送り出した〈Planet Mu〉。同レーベルを率いるマイク・パラディナス本人によるプロジェクト、ミュージック(µ-Ziq)名義の新作EP「Goodbye」が4月1日にリリースされる。
 今年2022年は代表作『Lunatic Harness』の25周年にあたり、夏にリイシューが予定されているのだが、それを中心に展開される新作シリーズの一発目に当たるのが今回のEPだという。なんでも、『Lunatic Harness』のリマスタリング中に過去のアーカイヴに触れる過程でインスパイアされたのだとか。美しい和音とグリッチ、ジャングルのリズムが融合した表題曲が現在公開中です。

artist: µ-Ziq
title: Goodbye
label: Planet Mu
release: 1st April, 2022

tracklist:
1. Goodbye
2. Giddy All Over
3. Moise
4. Rave Whistle
5. Rave Whistle (Darkside Mix)
6. Rave Whistle (Jungle Tekno Mix)

https://planet.mu/releases/goodbye/

灰野敬二/不失者 - ele-king

 70歳まではハードな音楽をやっていたい──そう公言していた灰野敬二、2010年代には Sunn O)))スティーヴン・オマリーオーレン・アンバーチとのバンド、ナゾラナイなどもやっているエクスペリメンタル・ミュージックの巨匠が、来る5月3日、ついに70歳を迎える。まさにその当日と翌日、不失者の2デイズ・ライヴが開催されることになった。3日は高円寺ShowBoatにて、4日は渋谷WWWにて。長きにわたる灰野の活動の、その次を目撃する二日間。

─70歳まではハードな音楽をやっていたい。
そう公言していた灰野敬二が、2022年5月3日、70歳になる。

ハードの次に、ロックの後に、
何がある のか。何になる のか。

その先を、目撃する2日間。

不失者 日.日

灰野敬二 / 不失者 2DAYS
不失者 日.日

DAY 1
日程:2022年5月3日(火・祝)
会場:高円寺ShowBoat
時間:開場15:00 開演16:00
問い合わせ:ShowBoat 03-3337-5745 (14:00~23:00)

DAY 2
日程:2022年5月4日(水・祝)
会場:渋谷WWW
時間:開場17:00 開演18:00
問い合わせ:WWW 03-5458-7685

チケット
一般発売:3月26日(土)10:00
販売URL:https://eplus.jp/fushitsusha-www/
・2DAYS チケット:¥8,500(全自由/ドリンク代別)
・DAY1 チケット(5月3日 高円寺ShowBoat):¥4,500(全自由/ドリンク代別)
・DAY2 チケット(5月4日 渋谷WWW):¥4,500(全自由/ドリンク代別)
https://www.fushitsusha.com/

Aldous Harding - ele-king

 ポピュラー(=人気のある/大衆向け)音楽というだけあって、ポップスの基本テーゼのひとつは「人に好かれること」にある。耳に心地よいメロディやサウンド、踊りたくなるビート、美しいヴィジュアル等の正の価値観&普遍性は大抵勝つのだ。筆者の暮らすイギリスでも、ここ数年音楽業界のマーケティング・キーワードとして「共感しやすさ」が重視されている。SNSや各種プラットフォームの発達でかつて以上にファンとじかに繫がることのできる時代だけに、スターも「近づきがたい憧れ」だけではなく「親しみやすい普通の人間」な面もアピールした方が賢明かつ無難らしい。
 正の価値観だけで世界が構成されているはずはなく、光あるところに影が生まれるように、負の価値観も音楽の想像力を拡張してきた。前衛や実験音楽のノイズ、不協和音、ドローン、即興/偶然といった「秩序を乱す」ヴォキャブラリ──ときに「音楽ではない」とも評された──は、様々な形でポピュラー音楽に侵入し吸収された。チャート1位云々のレベルではなく多くはアート/アングラ/インディ系と呼ばれるが、それらも確実に商業音楽の一角を占める。人間は清明で整った美しいものだけではなく、不快な/不気味な/恐ろしいものにも魅かれてしまう。普通は抑圧されるか排除される、境界線をかく乱する異物(ジ・アザー、埒外、禁忌、アンビヴァレンス。ジュリア・クリステヴァが言うところのアブジェクシオン)に、アートは長い間生存する逃げ場をもたらしてきた。
 ニュージーランド出身、現在ウェールズを拠点に活動するシンガー・ソングライター、オルダス・ハーディングの新作4th『Warm Chris』を聴きながら、そんなことを考えている。オルダス(Aldous)というとハクスリーが浮かぶし、オルダスの語源は「old」らしい。だが、男性でも年寄りでもないこの人の正体はハナ・シアン・トップという名の今年32歳の女性だ。2015年からやっているツィッターのこれまでのポストは13個。プラヴェートかつインタヴューも苦手という「作品に語らせる」アーティストで、音楽はラウドでもノイジーでもなく一聴チャーミング。だが、その世界観が放つ不穏さ・矛盾は、アブジェクシオンの美で際立っている。

 フォーク/ブルーズ系ミュージシャンのロリーナ・ハーディングを母にもつ彼女にとってギターを手に歌う行為は日常的な光景だったようだ。10代で作曲を始め、一時期ブルーグラス・バンドでも活動。地元のインディ〈Spunk〉から発表したセルフ・タイトルのデビュー作(2014)のジャケットはトラッカー帽にTシャツという現代女性ぶりながら、フォークとカントリーに根ざしたサウンドと思慕に満ちたメロディ、アルカイックなトーン/密やかなフレージングを継承した歌声はタイムレスだった。メルヴィン・ピークの『ゴーメンガースト』を引用した曲名やPV(特に “Hunter”)や歌詞に浮かぶアンジェラ・カーターの『血染めの部屋』的想像力も作用し、同作は「ゴシック・フォーク」とも評され注目を集めた。

ジョンには歌の本質を見極める不思議な才能が備わっている。言葉で言い表せない感覚のようなもので、私の人生の中でもっとも重要なもののひとつである彼との関係は、ふたりにそれぞれ与えられたギフトの間で起きる沈黙のコミュニケーションの上に成り立ってきたように思う
(*発言はオルダス・ハーディングとのメール・インタヴューより引用、以下同)

 世界的な名門〈4AD〉からのリリースとなったセカンド『Party』(2017)で、彼女はジョン・パリッシュと一種運命的な出会いを果たす。『Warm Chris』も含め3作をプロデュース(プレイヤーとしても貢献)することになるジョン・パリッシュはPJハーヴェイの懐刀として知られるが、ジェニー・ヴァル、ディス・イズ・ザ・キット、ドライ・クリーニング等の作品でも優れた手腕を発揮してきた。パーソナルな歌という根本は変わっていないものの、彼と共にピアノ、打ち込み、管楽器、クワイア等の新たな彩りをストイックに配した音空間を造成しつつ、オルダスは大胆なヴォーカル・パフォーマンスに乗り出していった。イノセントな少女のささやき、男性的な低域、空を刺すナイフのようなシャウト、柔らかなメゾ・ソプラノ、初期ニコの硬質で超然としたトーン。曲ごとに、というかひとつの曲の中ですら表情・質感・音域がメタモルフォーズし、視座も変わる。“Horizon” のドラマチックさを筆頭に、表現者としての跳躍が起きた。

まあ、私の歌詞やヴィデオの解釈には色んなものがある。私をホドロフスキーの大ファンで障害者だと思っている人たちもいる。また、ホドロフスキーの大ファンで子供を産めない人だと考える者もいる。どうなることやら

(実に多彩なヴォーカルの「妖精」を用いていますね、との意見に対し)この世界はカラフルなもの、そうじゃない? ヴォイスは楽器であり、私はこの世のギャップを埋めるためにそれを使う。あれら様々なヴォイスは、若い願望やテレビ番組等々と同じくらいに、私の一部を成している

 ニュージーランドと欧州の音楽賞で最優秀アルバム部門にノミネートされた前作に続くサード『Designer』(2019)はクリーンなアレンジとあたたかなサウンド、レンジを広げたヴォーカリゼイションがハモり始めた1枚。初来日も果たしている。才媛ケイト・ル・ボンのコラボレーターでもあったH.ホークライン(ヒュー・エヴァンス)らウェールズ・シーンとのオーガニックな連携も嬉しいが、“Designer” や “The Barrel” のR&Bなグルーヴ・メイクや “Weight of the Planets” のトロピカル味の導入が何より耳を引く。フォークという分類からスルリと逸脱した一種無国籍/無時代なハイブリッドぶりは、スラップ・ハッピーの『Acnalbasac Noom』の楽しさすら彷彿させる。
 より多くの耳目に触れたことで、彼女につきまとう「エニグマ」、「風変わりな」といった形容詞もこの作品で定着したように思う(別に難儀な人だとか、意図的にミステリーを醸しているのではなく、作品や自身を「説明」することに意義を感じないようだ)。たとえば、一聴軽やかなポップ・ソングである “The Barrel” のヴィデオ。子宮を思わせるトンネルを潜ると、17世紀オランダ風でありつつアシメトリーな衣装(上記の引用発言で彼女が触れている「ホドロフスキー」は『ホーリー・マウンテン』に由来する)と分厚いプラットフォーム・シューズ姿を始め、色々な「オルダス」が登場する。がに股で指をスナップする映像は心をざわつかせずにいられないし、「鳩」、「フェレット」、「卵」、「ピーチ」といったセックスや繁殖のイメージを喚起する言葉が並ぶ詩的な歌詞も解釈は十人十色。どうして? 何を象徴しているの? と謎は深まるばかり。
 「動物園の目」なる不思議なイメージからなぜか話がアラブのドバイにまで飛ぶ “Zoo Eyes” の歌詞もシュールで抽象的だ。「ズゥアイズ」―「ドゥバイ」の韻なのはわかるが、そもそも「私はドバイで一体何をしてるんだろう?」の自問で始まる曲だけに、その「私」の状況も曖昧と言える。これでは Genius も註釈に困るだろうし、彼女が主体(語り部)と客体(キャラ)を兼ねるヴィデオもマルチプルな視点が可能な夢の世界のそれ。この奇妙で美しい内的ロジックと想像力を、聴き手は直観で受け入れる(あるいは拒絶する)しかない──簡単に飲み下し消化できない異物でありつつポップな魅力も備えた、久々のカリスマの覚醒だった。

今回のヴォーカルは、他のレコード以上に純粋な音響/音声にチューニングを合わせている。背景音に対して、言葉のサウンドそのものを独立した詩として響かせたかった

 新作『Warm Chris』は、奇妙な感性を自由に広げると同時に、音楽的なフォーカスを引き絞ったマエストロの1枚と言える。どこに向かうか見当のつかない曲展開やテンポ/ムード・チェンジ、コード進行の妙、変幻自在なヴォーカル。1曲ごとに味わいも中身も違うイースター・エッグを思わせる緻密さながら、風通しのよいサウンドゆえに自然体に響くバランス感が素晴らしい(「がんばった」エキセントリックさほど悲しいものはないので)。そこには、ゲストに迎えた英ジャズ界の名物ドラマー:セブ・ロチフォード(近年ではサンズ・オブ・ケメットにも参加)が存在感を増したベースと共に軽快でしなやかなグルーヴを形成しているのはもちろん、タイトル曲のフィンガー・ピッキングを始めギターも健在ながら、歯切れよいアタック感のあるピアノ──昨年出た単発シングル “Old Peel” のPV でもわかるが、ロックダウン中に彼女はピアノを学んだ──がリード楽器になっている点も大きく作用している。

ジェイソンがオーストラリアのフェスでプレイしたのを見たことがあった。自分のショウの後で少し話せたけれども、彼にさよならと言いつつ、頭の中ではもう彼に向けてEメールを書いていた。私たちの間には非常に敬意に満ちた、不安定なケミストリーが生じた。ジェイソンに期待していたのはサウンドではなくエネルギー。彼の肉体性と頭脳から、こちらの求めるどんなサウンドも作り出せる人だと、自分には分かった。たしか彼はあの曲をワン・テイクで録ったんだったと思う

 掛け布団やキルトにぐるぐる巻きにされたアーティスト写真、第一弾シングル “Lawn” のヴィデオではトカゲ(!)に扮する等、相変わらずシュールな世界にも引き込まれる。彼女のこれまでのアルバムはすべて9曲入りであり、ジャズ味が新鮮な⑨ “Bubbles” でしっとり終わる……のもありだっただろう。しかし今回は10曲目に、強力なワイルド・カード=スリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンがカメオ参加した “Leathery Whip” が控えている。「美女と野獣」な顔合せだが、このふたりにしか生み出せない強烈に異色なポップ・マントラなだけではなく、双方が通常の守備範囲を越えている意味でも秀逸(ジェイソンはアレックス・キャメロンの『Oxy Music』でもコラボしている。興味のある方は聴き較べてみてください)。

 この曲の「少し歳をとったけれど私は変わらないままだ/私のことを欲しがる連中は私が追いかけているものを持ち合わせていない/あり得ない」という印象的なヴァースの力強い拒絶の意思(それは “Old Peel” でも響いていた)はより明確にアーティストとして/女性としての自身を定義した彼女を伝えるし、この大胆なオープン・エンディングを聴いていると、オルダス・ハーディングはどこまで行くんだろう? とますます楽しみになる。その唯一無二の旅路をぜひたどってみて欲しい。

Laura Cannell - ele-king

 音楽ファンというのは、自分が好きになれるアーティストを見つけたときは嬉しいものである。この人の作品は追ってみようと思える、そんなアーティスト。生活のなかで自分のためにじっくり何度も、ときには集中して聴いてみようと思える音楽。もちろんそうそう出会えるわけではないが、これがこの世界を支配している巨大なメディア企業や商業的な利益が取引される世界とは別のところであったりすると、ことさら嬉しかったりする。ローラ・キャネルは、ここ数年のぼくにとってそういう人だ。彼女の音楽を聴いているとつくづくこう思う。まだ世界には自由が残っている。

 キャネルの音楽は、自由な世界で鳴っている。ザッカーバーグのメタヴァースの話ではない。つまり彼女は型にハマった音楽から本気で遠く離れて、じつにユニークな発想で音楽を作っている。たとえば、ぼくにとって彼女の音楽を好きになるきっかけとなった『The Sky Untuned』は、イングランドの田舎の中世から残っている教会のなかで、ひとりただひたすら演奏したときの記録だ。音の反響は録音した空間によって決まる。彼女はインプロヴァイザーであり、リコーダー/ヴァイオリン奏者だが、かつて存在し、現在不在なものの記憶を辿るようなその音楽は、その場所でなければ生まれなかったのだろう。彼女はそれ以前にも灯台で演奏し、水力発電所でも演奏している。
 彼女は、もともとクラシックの訓練を受けているが、もうずいぶん前に楽譜がなければ何もできない世界と訣別した。そういう意味でも彼女は自由だが、しかし彼女は自分の音楽に制限を与えている。それはひとつの決められた楽器で、ほとんど一発録りで作品を作るということ。あとから編集したり、手を加えたりしない。その瞬間に生まれる音楽こそが彼女の音楽だ。
 彼女の音楽は、先にも言ったように即興だが、しかしそこには彼女が調査し、長らく研究しているアーリー・ミュージックや中世の民謡の旋律の断片がミックスされている。彼女の内側から出るものと、彼女が学んでいる古楽や民謡(=フォーク)が混じり合い、それが彼女の作品のいち要素となる。また、彼女は、音楽大学でリコーダーもヴァイオリンも学んでいるが、その楽器の弾き方の常識から逸している。独自に開発した奏法をもってヴァイオリンは歪んだ音を出し、リコーダーはダブのように響かせる。そこで聴かれるメロディは、今日のポップ・ミュージックで聴かれるどれとも違っている。彼女はいわば音の吟遊詩人である。

 本作『アンティフォニー・フォー・ザ・ツリーズ』は、ローラ・キャネルにとって7枚目のソロ・アルバムだ。これまで彼女は、曲の主題に動物、それも鳥類をたびたび選んできているが、このアルバムは、彼女が暮らしているエリアに生息する鳥たちとの対話がもとになっているという。すべてはリコーダーの演奏によって表現されているが、その音色は多彩で、というよりも異彩で、ときに妖異で、しかも彼女は伝説のジャズ・ミュージシャン、ローランド・カークのように、二本のリコーダーを同時に、それぞれ別の音符を演奏することができる。
 さて、カラスに呼びかけている1曲目は、なるほど動物の鳴き声のようだ。とはいえアルバムは動物の鳴き声の模倣などではない。今回はある意味、もっともぶっ飛んだ作品とも言えるだろう。反響し、反復するその幽玄な音響の彼方からさらにまた音が響く続く “For the Gatherers” はなかば神秘的で、続く “For the Sacred Birds” では瑞々しくも平和的な旋律が広がる。
 時空を越える音楽があるとしたら、キャネルの作品はそのひとつだ。この音楽に古いも新しいもない。アルバム中盤の “私たちは羽を借りた(We Borrowed Feathers)” から “鳥の神話のために(For the Mythos of Birds)” にかけて、キャネルはほとんど宇宙的とも言える領域へ突入する。次に待ち構えている表題曲もまた異境的で、それは鳥類たちの楽園のようであり、最高にトリップしたサン・ラーの微笑みのようでもある。一本のリコーダーでドローンを発しながら(いったいリコーダーでどうやって?)、メロディを反復させる “フクロウになった少女(The Girl Who Became an Owl)” にも謎めいた美しさがあるが、いたって穏やかで、アルバムはその平穏さのなかで終わっていく。
 この音楽は、自然や環境に関する教訓めいたものではない。ぼくたちに聞こえている世界はひどく限定的で、すぐ近くにはまったく別の世界が広がっていることをほのめかしている。

 最後に、少しばかりエレキング読者も親近感を覚えるかもしれない、彼女のこれまでの共演者について触れておこう。たとえば彼女は、元ディス・ヒートのチェールズ・ヘイワードとWhistling Arrowなるバンドを組んで1枚のアルバムを作っている。また、彼女は先鋭的な電子音楽家として知られるマーク・フェルとの共作アルバムを残している。それから彼女には1枚のリミックス・アルバムがあり、そこにはエコープレックスやボーダー・コミュニティのメンバーらが参加している。さらに昨年は、彼女はアイルランドのアーティスト、Kate Ellisといっしょに毎月1枚のシングルを発表していたが、10月EPには、元キャバレー・ヴォルテールのクリス・ワトソンが参加した。いまや一流の録音技師として名高いワトソンは、その作品において、川のせせらぎ、雨の音、そして野鳥の声を提供している。
 

※ここで予告を一発。6月末発売予定の紙エレキング、「フォーク特集」において、ローラ・キャネルの日本では初インタヴューを掲載予定です。乞うご期待。

250 - ele-king

 昨年ニュース出ししたところ、あまりの反響の大きさに編集部も驚きの韓国でポンチャック(韓国演歌・ミーツ・テクノ)・リヴァイヴァルを先導する男、250(イオゴン)。これぞ真の韓流なのだと言わんばかりの、とんでもない力作がついに完成した。アルバム名はシンプルに、『ポン ppong』だ。

  『ポン』には、電気グルーヴのファンにはお馴染みのイ・パクサも参加。また韓国ジャズ界の大物、イ・ジョンシクをはじめ、韓国大衆音楽における重鎮たちが何人も参加している。コロナに戦争と、こんなとんでもない時代、音楽と笑いをありがとう。まずはこちらで購入可

‘ロイヤル・ブルー (Royal Blue)’

 本作には、韓国大衆音楽の象徴的な存在であり、近年欧米でも再評価の機運が高まっているギタリスト・作曲家のシン・ジュンヒョン、韓国の「国民歌手」チョ・ヨンピル(チョー・ヨンピル)の80年代の代表曲「ソウル・ソウル・ソウル」や「キリマンジャロのヒョウ」をはじめ、作曲家の夫キム・ヒガプとのコンビによる数多くの名曲でも知られる作詞家のヤン・インジャ、90年代の韓国歌謡界には欠かせない名セッションプレイヤーであり(ソテジ・ワ・アイドゥル「君に」、デュース「夏の中で」、イ・スンチョル「さよならなんて言わないで」等)、日野皓正セクステットのメンバーとしても活動するなど日本のジャズ・シーンとの交流も深いサックスの巨匠イ・ジョンシク、高速道路トロット・メドレー界の伝説であり電子オルガン奏者のナ・ウンド、日本でもポンチャックの代名詞として名高いイ・パクサ、そのイ・パクサの片腕として知られたキーボーディストのキム・スイル、韓国では誰もが知っている人気アニメ『赤ちゃん恐竜ドゥーリー』の主題歌を歌った歌手オ・スンウォンまで、大衆音楽の歴史に名前を残した巨匠たちが大挙して参加している。


250(イオゴン)
ポン ppong

BANA
アルバム音源ストリーミング・購入リンク
https://orcd.co/250ppong

Tracklist
01. 全てが夢だったね It Was All a Dream
02. ベンバス Bang Bus
03. 愛のはなし Love Story
04. 裏窓 Rear Window
05. そして誰もいなくなった …And Then There Were None
06. バラボゴ Barabogo
07. 私は君を愛す I Love You
08. ください Give Me
09. ロイヤル・ブルー Royal Blue
10. レッド・グラス Red Glass
11. フィナーレ Finale

‘ベンバス (Bang Bus)’

‘裏窓 (Rear Window)’

 日本統治時代、同時代の西洋音楽の(直接的な)影響を受けることがなかった朝鮮半島で、最初に根を下ろした大衆音楽は他でもない、演歌と軌を一にしたトロットだった。トロットは時代の雰囲気に乗り、変化と拡張、栄枯盛衰を経て、今日に至るまで命脈を保ってきた。その中でも、トロットをベースにテクノとディスコを融合した混種であるポンチャックは、観光地の駐車場、高速道路の休憩所、お年寄りが集まる公園といった場所で接することができる類のものだった(ただし、これは日本でも知られるところの狭義の音楽ジャンルとしてのポンチャックであり、本来ポンチャックという言葉はリズムを表す擬声語である)。
 トロット、とりわけポンチャックは「中高年のダンス音楽」、という固定観念が若い世代の頭の中に深く植え付けられた。あるいは、一部のエンターテイナーがギャグ的なイメージを作るために披露する音楽として人口に膾炙したであろう。ポンチャックを消費する世代がいよいよ終わりに近づいているように見える現時点で「果たしてポンチャックは命脈を繋いでいくのだろうか」という疑問が生じる。ここで、BANA(Beasts And Natives Alike)所属のプロデューサー、250 (イオゴン) の試みが注目される。
 250は、韓国のプロデューサー兼DJとして、幅広い分野で優れて独創的な活動を展開してきた実力派アーティストだ。250は、自身のデビュー・アルバム『ポン』のために、実に4年もの長きにわたって制作作業に没頭してきた。
 250は、NCT 127(’Chain,’ ‘My Van’)、ITZY(’Gas Me Up’)、f(x)、BoA 等のK-POPのみならず、ESENS、Masta Wu、Kim Ximya (XXX) 等のヒップホップに至るまで、幅広いジャンルのプロデューサー
として活発に活動してきた。そしてその実力を認められ、キツネのアジア・ツアー、NTSラジオ、ガブリエル・ガルソン・モンターノのソウル公演、ソウル・ファッション・ウィーク、カルティエ財団のソウルでの展示音楽など、様々な分野でラブコールを受けてきた。
 アルバム『ポン』は、韓国大衆音楽史において明らかに重要な位置を占めるものの、ジャンル的に切り捨てられ、誰もまともに議論しようとしない「ポン」というキーワードを真摯に見つめ直す、大きな意味を持ったプロジェクトだ。
 韓国、そして日本においてもなじみのあるポンチャックのリズムとメロディーを250が自分だけのスタイルで現代的に再解釈した今回のアルバムには、韓国大衆音楽史上初めて「ポン」について真摯に探求し、究極的には様々な世代を一つにするダンス音楽を作ろうという実験的意図が込められている。
250はアルバム『ポン』の4年にわたる制作過程を愉快に収めたドキュメンタリー・シリーズ「ポンを探して」のホストとして、ドキュメンタリー映像をこつこつと発表し、音楽愛好家の間で多くの関心を呼んできた。 2018年には『ポン』にも収録されている最初のシングル「裏窓(イチャン)」と型破りなミュージック・ビデオを公開し、キツネのキュレーションによるプレイリストに選曲されるなど、多くの期待を集めた。
 BANA (Beasts And Natives Alike):韓国の音楽シーンにおいて、その際立ったキュレーションで独自の位置を占めるレーベル兼マネージメント。SMエンターテインメントのインターナショナルA&Rだったキム・ギヒョンが独立して2014年に設立。韓国最高のラッパーの一人とされる E SENS (イーセンス) が、以前の事務所だったアメーバカルチャーを離脱後、BANAの立ち上げから最初の所属アーティストとして合流したことで大きな話題を呼んだ。E SENSが大麻不法所持で逮捕後、2015年に獄中から発表したアルバム『The Anecdote』は各方面から絶賛を浴び、翌年の韓国大衆音楽賞で最優秀アルバム賞を受賞。その後もエクスペリメンタル・ヒップホップ・デュオのXXX、プロデューサー/DJの250やMaalib、アニメーターの
エリック・オー等、多彩なアーティストと契約。2021年3月には韓国ヒップホップ界を牽引してきた重鎮ラッパー、Beenzino (ビンジノ) の加入が発表され、今後の展開にさらに期待が集まっている。

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