「KING」と一致するもの

Mala@ele-king TV - ele-king

 今月の20日に東京でのDJを控えているダブステップのカリスマ、マーラが、ドミューンに生出演します。DJプレイは、本番でしかやらないという彼の主義のため、現場に行ってもらうしかないようですが、18日は公開インタヴューということで、喋ってくれます。盟友ゴス・トラッドも同席しての、ディープ・メディ・ミーティングといった感じになりそうです。夜7時から9時まで、お見逃しなく。ele-kingもサポートさせていただきます。たまにはdommuneにも来て下さいね。
 それで、予習。『マーラ・イン・キューバ』の素晴らしいPVを見つけたので、まだの人、ご覧下さいませ。そしてDBSに行こう。

Mala - Cuba Electronic


"Noches Sueños"--Mala featuring Danay Suárez [Official Video]


タイトル:ele-king TV Presents "MALA IN DOMMUNE"
出演:MALA、GOTH-TRAD、野田努(司会)、チクヒコウイチ(通訳)
内容:UKダブステップ界の最重要人物MALAがDOMMNEに登場! アルバム『MALA IN CUBA』で新たなる新境地を開拓! 音楽革命家MALAが主宰するレーベルdeep mediを解説!

interview with DJ Nobu, Shhhhh, Moodman - ele-king

この度、『Crustal Movement』なる3枚のミックスCDがエイヴェックスから同時にリリースされた。DJノブによる『Dream Into Dream』、Shhhhhによる『EL FOLCLORE PARADOX』、ムードマンによる『SF』。3人のDJのそれぞれの個性が反映されているばかりか、今日のクラブ・ミュージックの魅力を切り取った、3枚とも実にドープな仕上がり。クラブ・ミュージックの「いま」がしっかりあって、しかもミキシングの「いま」もある。

interview with DJ Nobu

キラー・テクノ ──DJノブ、インタヴュー

取材:小野田 雄

DJ NOBU
Crustal Movement Volume 01 - Dream Into Dream

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 ちょうど10年近く前になるだろうか。噂を聞きつけて、不案内な千葉へと初めて出掛け、デトロイト・ハウスのドン、テレンス・パーカーと盟友のスティーヴ・クロフォードをフィーチャーしたFuture Terrorで味わったのは濃厚なハウス・ミュージックだったと記憶している。その当時の片鱗は〈MOODS & GROOVES〉の音源をエディット、ミックスした2008年のミックスCD『CREEP INTO SHADOWS』で追体験出来るものの、Future Terror主宰のDJ NOBUは気が付けば、いつからか、テクノをプレイするようになっていて、2010年に日本人で初めてドイツ・ベルリンのベルクハインでプレイするまでの傑出したDJになっていた。
 そのあいだの自分はといえば、彼のプレイするパーティやFuture Terrorに足繁く通っていたわけではなかったけれど、それゆえに、4作目となる最新ミックスCD『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』は成功を収めてなお、変わらずに変わり続ける彼の音楽性とそのスタンスに大きな衝撃を受けた。そして、テクノやハウスがインダストリアルやノイズ、ドローン、ミュージック・コンクレート、ヴィンテージな電子音楽などと共振しながら描き出す美しくも危ういサウンドスケープに驚き、魅せられると同時に、久しぶりに彼の話をゆっくり聞いてみたいと思った。

はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。

2006年の『NO WAY BACK』から最新作の『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』まで、これまでリリースした4作のミックスCDを紐解くと、NOBUくんの音楽遍歴がはっきりわかりますよね。

DJノブ:その変遷はわかりやすいですよね(笑)。90年代、テクノが好きだったにも関わらず、出会いに恵まれていなかったり、面白さを感じられなくなって、一時期、DJの現場から離れるんですけど、その時期にいままで通ってこなかったハウスに触れて。もともと、ブラック・ミュージックが好きだったこともあって、その流れからハウスもすごく好きになって。DJを再開してからはハウスをプレイするなかで、スパイスとしてテクノを使うようになるんですけど、どうしてそうなっていったかというと、デカかったのは「濡れ牧場」だったりして。

「濡れ牧場」というのは、CMT、Shhhhh、UNIVERSAL INDIANNという3人のDJが東高円寺GRASSROOTSで主宰していた伝説的なアシッド・パーティですね。

DJノブ:彼らはDJを通じて、人に驚きを与えることをやってたじゃないですか。僕はおそらくもっとも濡れ牧場にゲストで呼ばれてプレイしてるDJだと思うんですが、僕も負けず嫌いなんで、例えば、ノイズを混ぜてみたり、「どうしたら面白いことが出来るか?」っていう試行錯誤をしながら、みんなで遊ぶなかで、当時の時代性もあってか、面白い作品がどんどんリリースされるようになったテクノに惹きつけられて、気づいたら、テクノが中心になっていたっていう。もちろん、いまでもハウスはプレイするんですけど、自分はテクノに完全に取りつかれてしまっているので、流れとしてはそういう感じなんですよね.

NOBUくんを魅了してやまないテクノはどこに魅力があるんでしょうね?

DJノブ:テクノという音楽はDJの力量によって、最高のものにも、最低のものにもなると思うんですね。そういう意味で、テクノはひりひりした緊張感をもって、自分がプレイヤーでいられる音楽、自分の世界を作りやすい音楽だと思うんですよ。しかも、エレクトロニック・ミュージック全般で考えた時、テクノは進化の速度も早いので、自分も飽きずに接していられる......飽きないというか、ホントに自分が頑張らないと、置いていかれちゃう世界だと思うので。

2010年にプレイしたベルクハインでの体験を振り返ってみて、いかがですか?

DJノブ:いま、思い出すと、そこで繰り広げられているスタイルを日本でやってる人と出会えてなかったんですよね。もちろん、ベルグハインのような環境がないなかで、「このレコードはこうやって使うんじゃないか?」って自分なりに考えてきた経験は、それはそれで重要だったりはするんですけど、2009年に初来日したマルセル・デットマンと一緒にやったとき、「テクノってこういうことでもあったのか。知らなかった。すみません」って感じの衝撃を受けて。さらに翌年呼ばれたベルクハインでは自分の出番が終わった後、午後4時くらいまでずっと踊って、彼らがやっていることに真剣に向き合ったことで、本当にたくさんの発見があったんです。でも、もう3年前の話なんで。

ベルクハインで目から鱗だった発見というのは、例えば、グルーヴの作り方とか?

DJノブ:いちばんデカかったのはグルーヴの作り方ですね。そのグルーヴにしても、「ベルクハインのスタイルは変わらず一貫している」って言う人も多いんですけど、去年、感じたのは、彼らは彼らで実はさり気なく変わっていて、根っこにあるグルーヴも最近は丸くなったり、変化し続けていますね。

自分は行ったことがないんですけど、世界最高峰の音響だったり、あるいは快楽追求が半端じゃないゲイ・クラウドだったり、ベルグハインのエクストリームな環境は日本には存在しないわけで、向こうのスタイルをそのまま日本で再現するのは難しいというか。

DJノブ:日本は日本で別の意味でのエクストリームな現場が存在するし、状況もシーンのあり方も全然違いますからね。とはいえ先ほどの話じゃないですけど、テクノをかける手法は学ぶ事も当時はありましたし、もちろんたくさんの刺激を受けましたね。

2010年末にリリースした前作『ON』は、そうしたベルクハインでの経験が反映されたミックスCDだったと思うんですけど、その後、2年以上に渡って、全国各地でいろんな夜、いろんなフロアを経験するなかでどんなことをよく考えます?

DJノブ:例えば、海外から来て、来日したときのDJやライヴがまったく良くなかったアーティストでも、ただ来日アーティストってことだけで、良いと思っちゃう人は相変わらず多いのかなって。もちろん、こんな人がいたんだって驚くような海外のアーティストが出てきたりもしていますけど。こないだも某来日アーティストがやってた全然面白くないライヴが盛り上がってて、そうかと思えば、UNITのDEMDIKE STAREで一緒になった京都のSTEVEN PORTERとか、KEIHINがAIRで新しくはじめたパーティ「Maktub」にライヴで出たRYO MURAKAMIくんのライヴを見たら、相当にクオリティが高いことをやっているのにそこに気づいてない人が多かったり。まぁ、それは最終的に俺の好みの問題になっちゃうんですけど、「この人は光るもの持ってるな」って思う人は日本にもいるのに知らないままでいるのは、もったいないと思うんですよ。みんな、まわりの評判やメディアの情報をただ受けるだけじゃなく、自分の感覚を信じて、能動的に面白いものを見つけられるようになったらいいんじゃないかって思うんですけどね。

ここ最近、音楽の進化のスピードがあまりに速いから、その動きに付いていくのは大変だったりもするでしょうし、まずはその夜をどう楽しむか、楽しませるかっていうのが夜遊びの基本だったりもするでしょうから、そう簡単な話ではないと思うんですけどね。

DJノブ:でも、ときには多少リスクを侵してでも、いままでの楽しみ方とは違った新しい試みを取り入れていかないと面白くないじゃないですか。だから、そのバランスはホントに難しいし、悩み続けているポイントだったりもして。新しいことをやるのと聴きやすさ、なじみ易さのバランスはつねに意識してます。

今回のミックスCDにしても、ここ最近のピークタイムを切り取った内容にするという選択肢もあったと思うんですよ。でも、そうせずに、広義の電子音楽に立ち返りながら、進化しているテクノのカッティング・エッジな流れに共鳴したところがNOBUくんらしいなと思いました。

DJノブ:いまはSOUNDCLOUDを掘れば、その辺のミックスCDよりもいい音源なんて、いっぱいあるんですよ。だからこそ、新しい感覚のものを提示していかないとなって思ったんですよね。しかも、いま、日本のテクノでそういうことをやろうとしている人も少ないですし、そう考えたら、自分はチャレンジしていかないとなって。世界のトップ・レヴェルでやってる人もいたりはしますけど、はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。

今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。

テクノという枠組みにとらわれず、広く電子音楽を意識するようになった具体的な作品やアーティストは?

DJノブ:前作『ON』でも使っていましたけど、振り返ると、ダブステップの枠をはみ出したShackletonやインダストリアルな、あるいはアブストラクトなベクトルで発展していったSandwell District、Silent Servantなんかの登場がデカかったと思いますね。その流れでRegisを聴き直したら、90年代にはわからなかった感覚がわかったり、そうやってあれこれ掘るようになったんですよね。後はSvrecaのような表現者。IORIと遊ぶようになったのも大きいです。MnmlssgsのChrisと交流を持つようになったことも大きいです。

例えば、2曲目のTod Dockstaderは昔のライブラリー音源だったり、16曲目のFrancis Dhomontもミュージック・コンクレートだったり、ダンス・ミュージック用に作られていない曲が多数使われていますよね。

DJノブ:その辺のレコードは家で聴くのが面白くて買うようになったんですけど、よくよく考えると、初めて、dommuneに出たときもターンテーブルが壊れたときにかけたのもそういう現代音楽のレコードだったんですよね。何年か前なので忘れちゃいましたけど、Chee(Shimizu:DISCOSSESSION)さんのORGANIC MUSICで買ったものだったんですよね。それ以前にも「濡れ牧場」でオブスキュアなレコードを使って、変な時間を作ったりすることはやったりしていたから、その流れが歳月を経て、洗練されたということもあるんじゃないかと思いますね。

ミックスCDの構成に関しては、どんなことを考えました? 例えば、MOODMANのミックスは、USBを差したCDJ-2000を使ったからこそ、クイック・ミックスを通じて、独自のグルーヴが出てると思うんですね。

DJノブ:今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。作り込んだものじゃなければ、自分としては売れるものにならないなって。
 だから、今回はいままででいちばん曲数を多く使って、コラージュしながら、映画を観るような、ある種のストーリーが感じられるものにしました。そういう意味では普段のDJとは頭の使い方も違いますよね。ただ、いちばん最初に作ったテイクがあまりにマニアックすぎたというか、あまりにも度が過ぎたものになってしまったので(笑)、キックが入ってくる7曲目のADMX-71あたりから自分なりに聴きやすい入口を設けたんです。

あと、ここ最近のトラックは解像度が飛躍的に上がっていると思うんですね。そういう最新のトラックとリイシューものの電子音楽が上手く混ざってるところにも、NOBUくんの上手さや鋭さを実感しました。

DJノブ:後半、2曲使ってるL.I.E.S.のロウなトラックはさておき、今回は古いものも新しいものも音がいいトラックを選びましたからね。だから、当初使おうと思っていたThe Trilogy Tapesのトラックも、もともとがカセットだったり、音質が独特なので、混ぜた時に浮いてしまって。そういう曲を省いていって、最終的にいまの形に落ち着いたんですよ。

今挙がったL.I.E.S.にしても、ハウスの領域をはみ出して、ダブステップや広い意味での電子音楽に歩み寄ってる面白いレーベルだったりしますしね。

DJノブ:L.I.E.S.のトラックは、今回、2曲使ってますけど、海外ではあれだけ話題になっているのに、日本ではいち部のDJしか使ってないし、多くの人には聴かれてもいないじゃないですか。好みの問題でもあるとは思うんですけど、何で面白いものに飛びつかないのか、自分にはよくわからないんですけどね。

だからこそ、今回のミックスCDは、カッティング・エッジなエレクトロニック・ミュージックに触れる最高のきっかけになるんじゃないかと。

DJノブ:それと同時に今回のミックスCDは長く聴き続けられる普遍性も自分なりに追求したつもりです。今回のようなアプローチのプレイもイケるところはイケるというか、土地によっては、テクノについて全く知らないキャバ嬢がガンガン踊ってくれたり(笑)。でも、それは能動的に楽しもうと捉えてくれてるからだと思うんですよ。例えば、こないだ、8年振りに徳島へ行ったんですけど、テクノ・シーンがないに等しいような土地なのに、「ここまでやっちゃっていい?」ってところまでプレイしても、付いてきてくれたし。もちろん、そのときのプレイの良し悪しにもよるんでしょうけど、チャレンジできるところではやっていきたいと思っているんですけどね。

かたや、2001年にスタートしたFuture Terrorも2011年に10周年を迎えたわけですけど、3月9日の最新回はいかがでした?

DJノブ:こないだ久しぶりにやってびっくりしたのは、あのパーティは、自分がコントロールするんじゃなく、お客さんがコントロールしてて(笑)、俺がお客さんに付いていくって感覚がいままでDJしてきて初めてのことだったんですよ。もちろん、それは不快なことではなかったし、むしろ、何のトラブルもなければ、ストレスもなかったし、すごく楽だったんですね。そう考えると、お客さんも遊び方が上手くなったり、音楽の聴き方も変化しているんだろうし、成長しながら、俺たちがやってることについてきて、さらにはDJをコントロールするわけですから、スゴい話ですよ(笑)。

はははは。そういう意味で、回数は減っても、NOBUくんにとって、進化の起点はFuture Terrorにある、と。

DJノブ:いや、例えば去年の話ですけど、進化の起点になったと感じる機会はmnmlssgsのパーティに誘ってもらって自分なりに何を表現するか悩んだり、Labyrinthで体験したBee Maskのライヴが衝撃だったり、他のパーティに、きっかけがあります。自分にとってFuture Terrorは帰る場所っていうか、俺の原点ですよね。集中力があれだけすごいお客さんが集まるパーティはほかになかなかないと思うし、自分ではじめたパーティながら、「ああ、こんな盛り上がり方してるんだ」って、他人事のように驚きましたからね(笑)。

取材:小野田雄

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interview with Shhhhh

音のうしろのフォークロア──Shhhhh、インタヴュー

取材:松村正人
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Shhhhh
Crustal Movement Volume 02 - EL FOLCLORE PARADOX

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 "Crustal Movement"シリーズは花も実もあるDJの仕業だけあって、音楽にどこかに運ばれていく感じを、ひさしぶりに味わったすばらしいミックスばかりだったが、なかでもShhhhhの『エル・フォルクローレ・パラドックス』はワールド・ミュージックという確たる言葉はあっても、それが具体的に何を指しているのかわかりかねる音楽をあつかいながら、既知の体系知に寄りかからないShhhhhのものとしかいえない「ワールド」を築いている。リズム、和声、装飾があり、トラッドとダンス・ミュージックからなるこの世界地図を、Shhhhhは上から目線ののっぺりした俯瞰図ではなく、あくまで彼の視野にうつる水平の風景として描き、国境線の画す音楽の分布ではなく、等高線のつながりがほのめかすつながりを聴く。ゆえにそこから、〈Sublime Frequencies〉から〈Honeset Jon's〉まで、クワイトと東欧のポリフォニック・コーラスとが、あるいはボアダムスと(ホワイトハウスのウィリアム・ベネットの別名義である)カット・ハンズが犇めきあうロールシャッハ・テストで反転したような世界地図がうかびあがる。ラテン・アメリカでは「民族音楽」のほかに「伝承」全般を意味する"Folclore(フォルクローレ)"とは、1978年生まれのDJにしてワールドミュージックのディストリビューターにとって、では具体的に何を指すのか。「フリー(クド)・フォーク」と呼ぶべきミックスCDをリリースしたShhhhhに話を訊いた。

緯度ではなくて標高差。海抜が低くなる海のそばの地域では声のソロが多くなるとか、つきつめると傾向があるんじゃないかという、完全に妄想なんですけど、そういうことを考えているうちにイメージが広がって曲がつながって世界が変わっていく感じがありました。

トラベル感がありながらもちっとも長さを感じさせないミックスだと思いました。

Shhhhh:最初はもうちょっとワールドミュージックっぽくて、ヨーロッパのフォークみたいな曲が多かったんですけど。

トラッドということですか?

Shhhhh:そうですね。トラッドで四つ打ちっぽい曲。途中ちょっと入っているじゃないですか? そういった曲を含めたおもしろいセットが最初できたので、それをパッケージングしてみようかと思ったんですが、権利がとれなくて流れが変わっていくにつれて、シャックルトンやボアダムスを入れることでふだん自分がやっていることに近いシンプルなものに着地した感じでした。

シンプルというのは?

Shhhhh:ヨーロッパのフォークだろうが、いまのダンス・ミュージックのおもしろい曲とまぜてひとつの世界観を提示するのが僕のDJの目標のひとつでもあるんです。短く感じるというのは成功というか、最初のヴァージョンだといろんな国をまたいで、あっちいったりこっちいったりするので、それをおもしろがってくれるひとももしかしたらいたかもしれなんですけど、これはエキゾチックなコンピレーションじゃないんですよ。DJがつくるということはひとつの世界観を聴かせることだとも思うんです。だからワールドミュージックの紹介というよりもダンス・ミュージックをまぜたものに落としこみたかったんです。

今回のミックスCDはShhhhhくんにとってのワールドミュージックの現在の見取り図を提示しているといえますか?

Shhhhh:現在の見取り図かといわれるとどうなのかという気がしますけどね(笑)。

たとえば、私が雑誌でこういうテーマで特集をするとしたら、こういう風に編集すると思うんですね。

Shhhhh:雑誌というより、もうちょっとシネマティックというか映像的なのかもしれませんね。妄想の物語かもしれないですが(笑)。一回このなかの解説にも書いたんですけど、「標高差」がテーマというか。

標高差というのを具体的に教えてほしかったんですよ。

Shhhhh:ワールドのトラッドのいろんなところを行き来するみたいなところからダンス・ミュージックに近づけるなかで、後半に行くにしたがって、自分のなかでどんどん空気が薄くなっていく気がしたんです(笑)。録音したスタジオの標高をクレジットしたらおもしろいんじゃないか、というくらい(笑)。国別、地域別の括りはいまはあたりまえじゃないですか? 標高別というのは新しいかもしれない、空気の薄さで音楽性ってつなげられるんじゃないかとか(笑)。

たしかに屋久島なんか、緯度は低いけど、高い山があるから寒冷地の植生もあるもんね。

Shhhhh:そういう感じです。緯度ではなくて標高差。海抜が低くなる海のそばの地域では声のソロが多くなるとか、つきつめると傾向があるんじゃないかという、完全に妄想なんですけど、そういうことを考えているうちにイメージが広がって曲がつながって世界が変わっていく感じがありました。雑誌の編集というのは僕はわからないですが、映画を撮っていくというか、こういう場面、こういう場面、というのでシーンがどんどん変わっていくというのを変わっていくのを考えるのは好きですね。

場面は変わっていくんだけど、全体のつながりはある。そういった動性がある、と。

Shhhhh:僕はいきなり流れを変えるようなDJをするのも好きなんですけど、CDということもあって、世界観を壊さす集中しつつ、細かい変化が起こって標高だけ微妙に高くなっていく感じでやろうと思っていました。CDというので、ふだんのDJよりも世界観をつくるのは意識したかもしれないですね。

Shhhhhくんの作品だと、『ウニコリスモ』があって、〈ZZK〉のコンピ(『ZZK Records Presents... The DigitalI Cumbia Explosion』)があったわけですが、それはアルゼンチン音響派やデジタル・クンビアといったテーマがありましたよね。『エル・フォルクローレ・パラドックス』はそういうものがないところがはじまっていますよね。

Shhhhh:『エル・フォルクローレ・パラドックス』は『ウニコリスモ』の続編的なニュアンスもあるんですよ。多くのリズムやダンスでDJミックスをつくるというのが完全に一致しています。じつは南米の曲は今回、レオナルド・マルティネッリ1曲しか使っていないんですが、ほんとうは使わないつもりでした。僕は南米の音楽に関する仕事もしているし、紹介役を自認してもいるんですが、もうちょっと拡大した方向で考えたいというのもあったんです。それとやっぱり、ワールド系のライセンス系の問題があって――

ライセンスとるって難しいですか?

Shhhhh:音源をもっているレーベルがなくなっていたり、そもそもレーベルが歌っているひとに連絡がとれないということもありました(笑)。

それをわざわざ探してくれるとも思えないもんね。

Shhhhh:そうなんですよ。ワールドミュージックってとても植民地音楽で、民族衣装を着せてエキゾチシズムを売る世界でもあると思うんですよ。そういうところもつくっているうちに見えてきたところはありますね。

植民地音楽というのはいままでもShhhhhくんのなかにありましたか? 仕事してもワールドミュージックに携わっているでしょう。そうすると搾取するというか、やましい気持ちにならないですか?

Shhhhh:搾取するというよりも僕は完全に紹介する立場だと思っています。こういうのがあるという立場、それはDJであっても、ふだんの輸入の仕事でもまったくいっしょです。まったくというと語弊はありますけど、こういう音楽がありますよ、こういうダンスがあってこういう聴かせ方がありますよ、ということの一方で権利ってなんだろうと、今回は思いました。

ビッグネームの曲を使うのは単純にお金の問題だけど、こういうひとたちの曲を使うのは地政学ともいえますからね。

Shhhhh:そうなんですよ(笑)。それで果たして現地のひとたちにお金が渡るかといえば、そうも思えない。だからメールの返事もないかもしれない。勘ぐっているだけかもしれないですけど、でもまあその可能性はゼロじゃない。そういうのが見えてくると、DJというものとワールドミュージック、音楽の権利というものを考えさせられました。

ワールドミュージックはフランスとか、ヨーロッパを経由した非西洋音楽という側面がありますからね。

Shhhhh:まさにそのフランスの某名門レーベルがまったく返事くれなかったですね(笑)。僕なんかも、フランスのレーベルや研究者によって、いろんな音楽を知ることができたので、簡単に批判することもできませんが。

枠をとっぱらって、レーベルやジャンルを限定せず、それこそワールド・ワイドなミックスにしようとしたからこそ、そのような問題も出てきたといえますね。

Shhhhh:そうですね。

『エル・フォルクローレ・パラドックス』は好きな曲が多かったからおもしろかったですよ。

Shhhhh:〈Fonal Records〉とか、松村さん好きそうですもんね(笑)。

ご名答(笑)。レオナルド・マルティネッリもね。

Shhhhh:レオナルドは『ウニコリスモ』のときもとりあげたんですが、〈Los Anos Luz Discos〉というレーベルから出していたトレモロというバンドもやっているひとなんですよ。

目のつけどころがさすがだと思いました(笑)。ほかの雑誌はわからないけど、すくなくとも「ele-king」の読者にとってワールドミュージックの入り口としては最適だと思いますよ。

Shhhhh:そういってもられるとうれしいです(笑)。僕はワールドミュージックといっても、民族音楽だけをDJでかけるというのはできないんですよ。もちろんそういうひとをディスっているわけじゃないですよ。でもやっぱり、僕は1978年生まれですが、アメリカの影響下にある日本に生まれ育って、オルタナティヴ・ロックが好きで、ボアダムスに行きついて、というのがあって、そういったものが自然に出てくると思うんですよ。世界中にそういうヤツが増えてきていると僕は思っていて、レオナルドもフォルクローレと不思議なエレクトロニカみたいなものをやるじゃないですか? 彼はたぶんどっちも好きなんですよ。僕もそうなんです。
 一昨年バルセロナに行ったんですけど、それはルンバ・カタラーナというキューバのルンバがカタルーニャ地方、バルセロナに渡ってきて、ジプシー音楽と結びついた庶民の音楽の現場を取材だったんですが、DJでルンバ・カタラーナをかけたり、エディットしたりしている現地のクルーに訊いたところ、「俺も最初はテクノはまわしていたんだけど、いろいろ考えるうちに自分たちの国にルーツのかっこいい音楽があることに気づいたんだよ」といっていたんですね。グローバリズムで90年代からみんないろんな音楽を聴くようになったのがいまは自分の国の音楽を考えるようになっていきている。みんながみんな、同じ12インチを買うのではなくて混ぜ合わせる、そういったミクスチャーが僕らが考える以上に世界中で多発してきていると思うんですよ。それは『ウニコリスモ』をつくったときにも明確に思いました。それこそ、ふつうのヤツがフォルクローレみたいな音楽をリスペクトしているというんですね。
 で、僕にとってのルーツは彼らなんです(資料に書いてあるボアダムスを指さす)。このひとたちは、僕にとっての気分としてのスタンダードというか......うまくいえないな。ボアダムスってなにかしらトライバルな要素をとりいれるじゃないですか、それは無意識にとりいれているというか。今回、ボアのトライバルな部分も抽出したかったし、それをほかの音楽と並列に提示するのはやりたかったことでもあります。本人たちにしてみれば、「そんなこと知らんわ」といわれるかもしれないですけど(笑)。

"Rereler"をリミックスしているCoswampって誰なの?

Shhhhh:EYEさんです。

だよね(笑)。名義何個目なんだろうね?

Shhhhh:ハハハ。その場で決めたんでしょうね。サンフランシスコの2枚組(『Boredoms Live At Sunflancisco』)の収録曲を12インチで出したときのリミックスです。

Shhhhhくんは最初に聴いたボアは何ですか?

Shhhhh:中学か高校か。僕は最初、ソニック・ユースがすごい好きだったんですよ。問答無用でかっこいいと思ったんですよ。テレビで観て。

MTV?

Shhhhh:「ビートUK」だったかも(笑)。サーストン(・ムーア)がジャンプしてギターをグギャーとやっているのをみて一発でやられたんです。その流れで、ボアダムスを知って、そういう音楽をやるひとが日本にもいるんだ、と思ったんですよ。僕はクラブ・チッタのソニック・ユースが人生初ライヴで、前座がOOIOOだった憶えがあります。ボアダムスの渋谷のライヴに行ったのは17〜18歳のときでした。

私はShhhhhくんの六つ上ですけど、私にとっても90年代はボアダムスでしたからね。

Shhhhh:それをフォーク的な要素で解釈するというのは大胆不敵だという気もしますけど(笑)。

でもここしばらくのOOIOOのヴォーカル・アンサンブルなどは『エル・フォルクローレ・パラドックス』に収録したヨーロッパのポリフォリックな音楽の影響もありますよね。

Shhhhh:Shhhhh:僕が7年前に今のワールドミュージックのディストリビューションの会社に入ったときから、たまに面白いのをお勧めしたりしてますよ。

Shhhhhくんとの関係が影響している気もしますけどね。

Shhhhh:逆に僕が彼らがこういうのが好きなんじゃないかということで聴きこんだりしているので、僕のほうが影響を受けていますよ。

たがいに影響しあっている?

Shhhhh:それは僭越すぎます(笑)。僕はDJ一直線というタイプではないし、輸入の仕事も好きだし、こういった音楽を紹介したりといったフィクサー的なことも好きなんです。今回のCDもワールドなんだかテクノなのかダンスなのか、バランスとるのが好きなんですね。

そのバランス感覚がShhhhhくんの特徴だと思います。

Shhhhh:バランスという意味で真ん中に立つのがすごくしっくりくるんですね。それは僕だけじゃなくて、すべてのDJがそうなんじゃないんですかね。

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interview with Shhhhh

音のうしろのフォークロア──Shhhhh、インタヴュー

取材:松村正人
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世界の別天地

グローバリズムで90年代からみんないろんな音楽を聴くようになったのがいまは自分の国の音楽を考えるようになっていきている。みんながみんな、同じ12インチを買うのではなくて混ぜ合わせる、そういったミクスチャーが僕らが考える以上に世界中で多発してきていると思うんですよ。


Shhhhh
Crustal Movement Volume 02 - EL FOLCLORE PARADOX

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今回幕開けは〈Sublime Frequencies〉の音源ですが、これはアラン・ビッショップのやっていることに敬意を表したということですか?

Shhhhh:これには裏話があって、タンザニアのすごい声ネタのトラックがあって、じつはそれをオープニングにしようと思っていたんです。

それはどこから出ているの?

Shhhhh:現地ものでエル・スールの原田(尊志)さんが仕入れてきて、これはすごいと(一部で)話題になった曲です。大人数の合唱曲なんですけど、これが頭だったら、僕が最近やっているワールド・フォーク・セットをパッケージングできるだろうというきっかけの曲だったんですよ。それがライセンスできなかった(笑)。このCDをつくるにあたって、最初にあげていた曲だったので、あれがダメなんですよ、といわれて、エーッって(笑)。

レーベルはどこなんですか?

Shhhhh:現地のレーベルで、連絡先はgmail。いま考えると、よくそんなところからライセンスしようとしたとも思うんですが、でもやっぱり途方に暮れて、声ネタのオープニング曲を探していたら、これ(Borana Tribe"Borana Singing Wells")にたどりついたんです。これなら最初にもいいし、中盤のヴォーカル曲のパートが生きてくるかな、と。で、〈Sublime Frequencies〉からは半日くらいで返事もらえたんですね。フランスのレーベルはダメだったけど。それで、結局オレはオルタナっ子なんだと思いました(笑)。カット・ハンズと〈Fonal Record〉も返事すごく早かったですもん(笑)。安心とも諦めともつかない宿命を感じました(笑)。オチがついたというか。制作中それで一回楽になりました。

オルタナティヴとしてのワールドミュージックといことではウォーマッド(WOMAD)的な見本市としての提示方法もあれば、ロス・アプソンの山辺(圭司)さんみたいなプレゼンテーションもあって、Shhhhhくんはその最新型だと思うんですよ。

Shhhhh:ロス・アプソンでルーベン・ラダとエドゥワルド・マテオのCDを「お尻から声が出てる」といって紹介しているのを知ったらウルグアイのひとは怒るかもしれないですけど(笑)、愛があり、誠実に解釈すればいいんだというのは山辺さんから学んだことかもしれないですね。

「辺境」という形容にも逆説的な価値観がかいまみえますから。

Shhhhh:でも僕はマージナルというよりはもうちょっとわかりやすいポップなものを今回はやりかったですね。

それこそバランスだ、と。

Shhhhh:山辺さんとか虹釜(太郎)さんの探求は横目で見つつも、わりとふうつに買える12インチを入れるというのも、バランスですよね。

すでに知っている曲、それこそシャックルトンであっても、Shhhhhくんのつくる流れのなかで聴くとまた違う顔つきになると思いましたよ。

Shhhhh:それがDJの役割じゃないかと思います。だから今回のCDはDJの作品だとすごく思いますね。コンパイラーとしてではなく。

今回ほかに使いたくて使えなかった曲はありますか?

Shhhhh:ニューカレドニアの音楽ですかね。〈POWWOW〉が終わった後、CMTの家ではじめて聴いたんですが、これ山辺さんの葬式で流れていたらヤバイね、って話になって、なぜか葬式という言葉がCMTの口から出てきたんですよ。

湿っぽい曲なの?

Shhhhh:そんな感じじゃないですよ。ゴスペルっぽい、とはいえ、ゴスペルじゃなくて、昇華していく感じもあり、海の感じもあるというか、しかも美しいんですよ。カナック族の音楽らしんですが、ジャンルとして存在しているかはわかりません。それもライセンスしようと思ったんですけど、連絡がつかず(笑)。そのかわりといってはなんですが、スヴェン・カシレックさんの曲を最後に入れられたからよかったですけどね。スヴェンさんはハンブルグのひとで、ケニアのヴォーカリストとエレクトロニカみたいなトラックをつくっているんですよね。結局現地ものじゃなくて、クラブよりの音楽ですね。このひとも返事早かったです(笑)。

アルゼンチン音響派にしろ、伝統的なものをワンクッション置いてアレンジした音楽に、Shhhhhくんは惹かれるところがあるのかな?

Shhhhh:音楽のうしろにある「フォーク」を考えるのが楽しいんです。90年代にレゲエ/ダブってわりと紹介されていたじゃないですか? それはUKからだと思うんです。それと同じで、2000年代に入って、イギリスの〈Soundway〉がコロンビアのコンピを出したのが僕にとっては大きかったんですよ。レゲエを聴いていたひとでもクンビアに流れたひとは多かっただろうし、それはすごくおもしろかった。僕と山辺さんが大好きなチーチャっていうペルーのサーフ・ギター・クンビアみたいな音楽があって、そのコンピもニューヨークから出ていました。2006〜2007年は全体的にラテンものの再発が多くではじめたんです。ニューヨークやイギリスのレーベルが最初だったりするんですが。でも不思議なことにそれはコロンビアとかアフロ・ペルーの音楽のコンピはあるんですけど、白人をコンパイルしたものはなかったんです。『ウニコリスモ』はアルゼンチンの白人の音楽中心ですが、あのミックスCDをつくる前はそんなことも考えていました。アフロ・ラテンのコンピはいっぱいあっても、アルゼンチンの音楽、たとえば(アタウアルパ・)ユパンキなんかは「ど」のつくフォルクローレですが、そういう音楽をまとめたものはないと思ったんですよね。

ユパンキはよく知られているんじゃない?

Shhhhh:でもクラブ/レア・グルーブ的解釈ではけっしてないじゃないですか? だからブエノスアイレスって僕にとってのポコッと残された場所だった、というのはいま思えばありますね。〈Honest Jons〉とかでもトラディショナルなアルゼンチンものって1作も出していないんじゃないですかね。〈Soundway〉などの再発ものであまりないんですよね。

いわれてみればそうかもしれないね。

Shhhhh:あとアルゼンチンは黒くないんですよ。南のほうだとカンドンベが出てきて、マテオみたいになるんですが。

黒っぽさ、白っぽさは気にするほうなの?

Shhhhh:後づけですけどね。

聴く前にそれで選ぶことは?

Shhhhh:ないです。でも僕は白いほうが合っているかなとは思いますね。

Shhhhhくんの軽快さはリズムを溜める方向ではないからね。

Shhhhh:そうかもしれないですね。たとえば黒人のテクノ、デトロイト・テクノを僕はいっさい通っていないんですよ。それよりも、四つ打ちならトランス、あるいはハウスやディスコ・ダブなんですね。ヒップホップなんかも好きでしたけど、トライブでしたから。

トライブは黒さはあまりないですね。

Shhhhh:そうですね。フリージャズはすごく聴いていましたけど、それも黒さというよりはドン・チェリーのあの感じでしたから。

アイラーとかコルトレーンではなくてね。

Shhhhh:もっとインターナショナルものですよね。

『ブラウン・ライス』みたいな?

Shhhhh:どちかといえば『Mu』のファースト・パートですね。『Mu』のファーストに針を落としたときの衝撃は忘れられないです。知らない国のお祭りというか、それこそ、カット・ハンズ"Black Mamba"と同じようなショックを受けました。これをジャズっていっていいの?! と思いつつ、やっぱりジャズだな、と。何かしらフォークな要素に惹かれるはそのときからあったんでしょうね。あとあれが好きでした、〈off note〉。ご存じですか?

もちろん知っていますよ。

Shhhhh:大好きなんですよ。コンポステラとか、聴きまくっていました。

コンポステラはボアダムスと並んで日本の90年代を代表するグループだと思いますよ。

Shhhhh:それは僕と同じですね(笑)。トランスのパーティとか、若いからタイパン(タイパンツ)履いて行くじゃないですか? その次の日は寝ないで吉祥寺曼荼羅の篠田昌已13回忌のライヴに行ったこともあります。あれは西東京のフォークじゃないですか(笑)。篠田さんのチンドンの要素と、あとはクレツマーですよね。じつはアルゼンチンってユダヤ移民が多くてクレツマーが盛んなんですよ。ルーツをたどるとユダヤ系の名前が多いんですよね。『ウニコリスモ』のときも、クラリネットの感じがコンポステラを思いだすな、と思ったこともありますから。それでアルゼンチンの音楽に入りやすかったというのはあります。そう考えると全部つながっている気がしますね。

音楽のある要素を聴きとって拡大する耳がShhhhhくんはある気がしますね。つなげていくというかつながっていくというか。いまの世の中では、どんな音楽にもたどりつけるけど、情報がありすぎることでさらにその先に踏みだそうとすると迷っちゃったりするじゃない?

Shhhhh:文脈だったり妄想の映像だったり国籍だったり、そういうものは重要だと思います。この前、つなげるとき、どういうことを考えているんですかってお客さんに訊かれたんですけど、単に自分のなかの文脈を勝手につくっているんですよ、とそのときは答えたんですけどね。DJはみんなそうだと思いますよって。

じゃあDJするときは何に一番留意するの?

Shhhhh:DJのときは低音とグルーヴをキープしないと場が成り立たないというのはあります。抽象的なコラージュもやりたいと思うんですけど、結局酒場というかひとが集まるとみんながみんな、そんな音を求めているわけではないので、普遍的なグルーヴは必要だというところに、何度も戻りますもん。最大公約数が四つ打ち、イーヴン・キックなのかそうじゃないのかというのもすごく考えていて、この前もEYEさんとそういう話になって、人類のダンス・ミュージックの最大公約数は四つ打ちじゃないか、とEYEさんはそのときいっていて、『エル・フォルクローレ・パラドックス』では自分なりの解釈を提示したつもりです。四つ打ちじゃなくても普遍的なビートを出す、誰にもわかるものをやろうと思いました。(了)

取材:松村正人

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interview with Moodman

聴くことコレ即ち魔道なり──ムードマン、インタヴュー

取材:野田 努
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Crustal Movement Volume 03 - SF mixed by MOODMAN

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 年齢を重ねてみて、わかることのひとつに、新しいモノってあまりないということがある。25歳の頃は「新しい」と思っていた音楽も、それより以前に似たものがあることや、いま「新しい」と思われがちなことも、すでに似たものがあることがわかる。そういう意味で、「リヴァイヴァル」という言い方はフェアでない。それは時代のモードの説明のひとつに過ぎない。
 新しければ良いというものではない。そういうスリルは、ときにたしかに目を眩ませるが、同時に疲れることでもある。逆に、新しくないモノが人の心を奪うこともある。それは、よく磨かれていることを意味する。
 ムードマンのミックスCD『SF』は1996年の曲ではじまり、1994年に繋がれるが、それ以外の29曲は、ほとんどがこの3年に発表された曲。その多くがダブステップ系だ。しかし『SF』は、大雑把に言えば、僕にはテクノのミックスCDに聴こえる。美しいアンビエントと温かいソウル、多少の遊び心の入ったリズミックで、柔らかいテクノの連続体......。
 僕がこのミックスCDを好きなのは言うまでもないところではあるが、年季の入った耳が選んだ31曲を使ったミキシングを、機会あらば、25歳の君にも聴いて欲しい。

ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。

選曲はすぐ決まった?

ムードマン:選曲自体は、わりと早かった方かな?

1曲目も? 最後の曲も?

ムードマン:まず、ばーっと曲を出して、曲順とかつなぎ方は組んでいく作業のなかで決めていきましたね。そこは悩みましたけど(笑)。

あー、そうか。

ムードマン:1曲目(ジョン・ベルトランの1996年の曲)は、もともと別のアプローチで使うことを考えていたんだけど、やっていくうちに「ここかな」という。

1曲目がジョン・ベルトランで、2曲目がステファン・ロバーズでしょう。1990年代初頭のテクノで、ムードマンの原点なんだけど、31曲の収録曲のほとんどがここ3年ぐらいに出た曲なんだよね。

ムードマン:ですね。今回、作っているうちに大きくふたつのテーマが、ぼんやりと浮かび上がってきたんです。まずは最近、90年代初頭にインテリジェント・テクノの系譜で活動していたオリジネーターたちの動きがまた活発なんですよね。

カーク・ディジョージオの曲も入っているよね?

ムードマン:カーク・ディジョージオこそ、その代表かもしれないんですが、自身のレーベルを含めてここにきてまたすごく精力的に動いている。BPM130前後の、実にいい湯加減のピュアテクノを頻発しています。ここ2~3年、あまり語られていないかもしれないけど、ものすごい曲の量と質なんですよね。ステファン・ロバーズもそう。原点回帰という意味でも、そのあたりの動きが面白いと思っていた、これがまずひとつあった。あともうひとつは、ここ数年のダブステップの感じを眺めていて、当時のインテリジェント・テクノに近い拡散のベクトルを感じていたんです。

本当にそうだよね。

ムードマン:当時は大きくレイヴ・カルチャーというのがあって、そこへのアンチまでとは言わないけど、それを異化する形で生まれたアート・フォームがインテリジェント・テクノだったと考えてみると、ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。単純に、BPMもいろいろなことになっていますよね。GPRとか、irdialとかの雰囲気を思い出したりしながら追っかけてました。これがもうひとつの思いで。いろいろ他にも考えたんですけど、今回は、基本的にはそのふたつの気分を結びつけるような選曲でできないかなと。

だとしたら、その意図はパーフェクトに伝わる内容になっていると思うよ。

ムードマン:曲の流れで言うと、新しいものからはじめて古いものに落とす方がその気分は伝わるのか、逆の方がいいのかとか。オリジネイターの作品をもっと入れたらどう聞こえるかとか......構成は50パターンぐらい作ったんだけど(笑)、最終的にはわりと素直にジョン・ベルトランから......というのがしっくり来るかなと。彼とはずいぶん前に一度だけ一緒にDJをさせてもらったことがあるんですが、そのとき、とても喜んでくれて、すごく自分的には支えになったんで(笑)。感謝もこめて1曲目に(笑)。

ジョン・ベルトランの久しぶりに新作出すんだけど、スゲー良かったし。ところで、31曲も入っているのが驚いたんだけど(笑)。ムードマンにしては詰め込んだなと思って。で、20曲目前後、10曲目台の後半からダブステップ系の曲が続くんだけど、トラックリストを見なければ、ダブステップって気がつかないもん。

ムードマン:「気がつかれないこと」は目指した要素の重要なひとつです、とか言ってみたりして(笑)。

ほぉ。

ムードマン:カットが早いのは、ここ10年ぐらい僕はデータを意識的に使っていて、もちろんいまでもアナログ盤もいまでもかけるんですけど、データを使う時に限っては、僕の身体感覚では、曲がより素材っぽく感じるというか。いわゆるバトルDJのカットイン/カットアウトとは性質がことなるクイックさというか。ミニマルをかけるときもそうなんですけど、データを使うようになってから素材として音源を使うことの楽しみを知ってしまったというか。この感覚を記録しておきたくて、過去2作のミックスCDはアナログ盤を使ってやってるんだけど、今回はあえてCDJを使ってデータのみでやってみたんです。過渡期のデータでの遊び方みたいなものを残しておこうかと。

だいたい3分弱で、短いと1分も使ってないものね。

ムードマン:そこは強弱を付けてやったかな。長く使うものと短く使うやつと。曲によっては、バッサリとキーフレーズを抜いてますよ。

今回はすべてデータなんだね。

ムードマン:今回はそう。

俺は、いまだにムードマンというと、どうしてもアナログ盤というイメージが払拭しきれないからな(笑)。ヴァイナル・ジャンキーじゃない。

ムードマン:そこからは抜けられないですね。約10年前にデータと両刀になったんですけど、いまでもヴァイナルは......(笑)。

買ってるでしょう!

ムードマン:ですね。ただ、僕の世代だとやっぱりアナログにこだわる人が多いんですけど、過渡期ではあるけど、データもまたかわいいんですよ。

ヴァイナルで買ったものは、CDRとかに落としているの?

ムードマン:ヴァイナルはヴァイナルでプレイしますね。ヴァイナルをデータ化するときは、自分でマスタリング的なこともするけど、今回の収録曲はすべてデータで手にいれたものですよ。レアな音源かどうかよりも、かけ方の提案がしたかったということも大きいんです。他ジャンルをと思われる音源を、ディープ・ハウスとしてかける。

20年前とかさ、土曜日日曜日によく渋谷で会ったよね。ムードマンは決まって両腕で買ったばかりの大量のレコードを抱えていてさ、持ちきれないからタクシーで帰るわとか言って(笑)。

ムードマン:あの頃は、100円レコード棚の主でしたね。ヴァイナルの救出が自分の使命だと思っていた(笑)。まぁ、そこはいまでも変わらないですかね。最近、いい喫茶店が減ってるでしょ。なので、街中で時間が空いても、他に行くところも無いので、レコード店にいくしかないんですよ。まぁ、あとは居酒屋ぐらいかな、居場所は(笑)。以前に比べてプラスされたのは、通販ですよね。毎日、10枚から20枚のレコードが届く始末で......(笑)。

狂ってるねー(笑)。

ムードマン:いやぁ......(笑)。

レコード屋さんはものすごく重要だし、レコード屋さんがある街に住みながらアマゾンでしか買ってないヤツはわかってないと思うのね。レコード屋さんは、まず情報が整理されているでしょう。お店のセンスもあって、面だしできる枚数も限られているから、選びやすいというのがあるじゃない。

ムードマン:日本にはいいセレクト・ショップがたくさんありますからね。

そう、セレクト・ショップなのよ。しかも親切なレコード屋さんだと自分が持っている情報を分け与えてくれるからさ、「こういうのもあるよ」って教えてくれて、自分が知らなかった音も知ることができるじゃない。それはアマゾンにはできないからさ。だから、逆にデータで音源を探すのって......。

ムードマン:そう、難しい。

難しいよね。

ムードマン:しかもぜんぶよく聴こえるし。

そうなの?

ムードマン:それはそれでけっこうサヴァイヴァルで、逆に言えば、面白いんですよ。

今回のムードマンのミックスCDで初めて知った曲がかなり多いんだけど、たとえば、20何曲目かな(笑)、〈スモーキン・セッションズ〉っていうレーベルの曲で、ハーフステップになる曲があるじゃない?

ムードマン:はいはい、ジャズっぽくなる展開のね。

そう、あれとか、「良いナー」って思ったんだけど、どうやって探すのよ?

ムードマン:もうね、試聴につぐ試聴ですよ。

おー。

ムードマン:ひとり「良いナー」と思ったら、ずっとそこを追いかける。もうどんどん追いかけるっていう。

プロデューサーを?

ムードマン:プロデューサーでも、レーベルでも、そのまわりをぜんぶ聴く。今って、ぜんぶ聴ける状態にあるから、それをぜんぶ視聴する。むしろ、テキストはほとんど読まないんです、すみません(笑)。

はははは。

ムードマン:はははは。いまって、恵まれてますよ。視聴できるんだから。

寝る時間がないね。

ムードマン:ないない(笑)。嘘、寝てますよ。でも、レコードと同じですよ、掘り方は。僕はセレクト・ショップも好きだけど、値段均一のお店のえさ箱も好きなんですよね。誰かのお薦めももちろんいいんですけど、僕は誰も薦めていないものに愛しさと切なさと心強さを感じるんです(笑)。よくわからないものを買うって、自己が崩壊するいいチャンスなんですよ。

なるほど。

ムードマン:メディアのあり方としては、いま、過渡期だとは思うんですが、自分としてはアナログでいま掘りたいモノと、データで掘りたいものとがそれぞれ明確にあるんですよ、わりと。ただ、それを日々続けてるっていう(苦笑)。

(笑)。

ムードマン:今回入っている曲でもアナログで出ているのも多いし、まぁ、どっちで手に入れようかなっていうのは迷いますよね。でも、いまって早く買わないとなくなっちゃうでしょ。そこに参加するよりは、単純にもっと多くの曲を聴きたいだけなんですよ。

あー、なるほどね。

ムードマン:例えば、地図を書くときに、GPSとかで俯瞰して書く人もいれば、伊能忠敬じゃないけど、歩いて書く人もいる。僕は歩いて書いて、測量するほうが好きなんです。

それはいい喩えだね。

ムードマン:俯瞰する誰かの目を、まったく信じてないんです(笑)。

しかし、伊能忠敬としてデジタルの世界を歩くのって、相当な根気がいるんじゃない?

ムードマン:そこまでたいへんではないけど(笑)、まず、周辺というか、ヘリがわからないんですね。どこが崖だか分からない。

それはそうだよね。

ムードマン:ヴァイナルは100年ちょいの歴史ですが、もう掘り尽くせないくらいの量があるでしょ。2010年頃には地球上のアナログって、すべてアーカイブ化されちゃうかなぁと妄想していたんですが、ダメでしたね(笑)。まだまだ深い森のような感じですよね。しかも、新しい音楽はどんどん出てきている。狂いそうです(笑)。

でも、いまほど情報が氾濫している時代もないというか、ホントに情報過多じゃない。情報サイトとか見ると、誰がこれだけの情報を消化するんだよって感じで更新されるでしょ。そういうカオスのなかで、情報をセレクトするのって重要だよね。いかに削除していくかっていうか。

ムードマン:それはひとつコツがあって、ほとんどの情報がコピペなんですよ。だから、コピペをまず無視すること。日々発信されている情報は、誰かのコピペばかりで、オリジナルに当たっていないですよ。はっと気づくと、コピペに洗脳されてる自分がいませんか、と。

リツイートの文化だよね。

ムードマン:リツイートはまだ誰が拡散したか主体が見えるけど、ニュースとか、評論とかが、コピペの場合も多いですからね。デジタルの世のなかになって、意外と感覚が閉じたかなとしばしば思うのは、そういうことです。コピペが大きな障壁になっていると思う。コピペ、コピペって、何度も口にするとなんだがかわいいですが(笑)。まぁ、でも、そこのたかを外しちゃえば面白い世界が広がっているのでは(笑)。

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聴くことコレ即ち魔道なり──ムードマン、インタヴュー

取材:野田 努
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例えば、地図を書くときに、GPSとかで俯瞰して書く人もいれば、伊能忠敬じゃないけど、歩いて書く人もいる。僕は歩いて書いて、測量するほうが好きなんです。俯瞰する誰かの目を、まったく信じてないんです(笑)。


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Crustal Movement Volume 03 - SF mixed by MOODMAN

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今回の選曲見せてさ、まあ〈アップル・パイプス〉とか〈ヘッスル・オーディオ〉とか〈パンチ・ドランク〉とか、ダブステップ系の人気レーベルの楽曲があるんだけど、でも、ダブステップの系譜で聴いていったら出会えないようなレーベルも入っているんで、そこが「らしい」と思った。

ムードマン:自分にとっての良い湯加減を探しただけです(笑)。ただ、今回は楽曲的にはわりと現時点でポピュラーなものを選んだつもりで、むしろ、ダブステップの定番的な楽曲を違った感じで聞こえさせることに気持ちを注いだんです。ダブステップに関しては、本道ももちろん、好きなんですよ。ただ、自分がかけても説得力がないのでね。

結果論なのかもしれなけど。

ムードマン:良い湯加減の曲を見つけたときは嬉しいですよ。そのときは、つい、その周辺をぐるぐるとまわっちゃう。テクノ創世記の話で言えば、例えばハウスのコーナーの片隅に、〈トランスマット〉の12インチが1枚混ざっていたりして、「なんだこの妙なイラストは?」と思って、そこからその周辺を探したのと同じことをしているだけですよ。あの頃、「ヌード・フォト」に針を落としたときの衝撃はいまでも覚えてますね。

デジタルの世界でもそれが可能なんだね。

ムードマン:もちろん。

アナログ盤は、やっぱモノとして愛でることができるけど、データは......、否定するわけじゃないけど、集めても充実感がなくない(笑)?

ムードマン:いや、モノを愛でる感覚は重要だけど、そこに引っ張られるといろんなことを見失うと思いますよ。音楽はモノじゃないから。空気の振動だから。

クラシックの時代は楽譜だったわけだしね。

ムードマン:パッケージングされて音楽を聴くのって、たかだかここ100年の歴史ですよね。データはアルバム単位じゃなくて曲単位なんだけど、アルバム文化なんていうものは、これもまた古くなくて。SP盤、EP盤、そしてLP盤っていうね。

『サージェント・ペパー~』以降なわけだしね。

ムードマン:アルバム単位で作家性を出すって言うのは、『サージェント・ペパー~』以降といわれてますよね。って、今日はこういう話で良かったんでしたっけ?

でも好きでしょ?

ムードマン:大好き(笑)。愛でる感覚は大好き。レコードを開けたときの匂いが、まず好き(笑)。ただ、いまの作家がいまのスタイルで作っている音楽を、軽視するのは良くないと思う。良くないというか、もったいないと思うんです。データとヴァイナルと二項対立で語られがちですが、グラデーションで様々なメディアがあるわけで。ポンチャックはカセットでかけたいとか、エキゾチックサウンドを8トラックで聴いたらびっくりしたとか。オープンリールで聴くディスコって凄みがあるなとか。いろいろね。愛でる感覚はメディアに関係なく伝えたいとは思っています。

デジタルをディグるときの快楽ってどんなもの?

ムードマン:僕はそもそもあいだにあるものが好きで、ヒップホップでもなく、レゲエでもない、ラガマフィンヒップホップに萌える感覚というか(笑)。

ムードマンは本当にそうだよね。今回のミックスCDなんか、「あいだ」だよね。

ムードマン:で、デジタルは僕にとっては、「あいだ」を探しやすいんですよ。

へー、そうなんだ。

ムードマン:これまでおいそれとは聴けなかった地域の音源とか、「この辺くさいぞ」ってディグすると、あるんですよね。今回のミックスCDではそこまで広い地域の音楽をピックアップしませんでしたけどね。

AでもなくBでもなく、AとBのあいだにあるもの。

ムードマン:3つ以上かもしれないし、それらが混ざり合っているもの。混ざり合いそうだという雰囲気。なにか妙なものが生まれてきそうだぞという躍動感もふくめて、そういった音楽が好きなんですよ。ロウな感じっていうか。食感で言うと、グミっぽい感じと言うか。ちょっと違うか。

そう考えると、2013年に出したというのも結果論なんだけど、必然にも思えるんだよね。何故ならいまはその「あいだ」で良いのがたくさんあるから。

ムードマン:ミックスCDって、ドキュメンタリーかなと思ってるんです。

最初のミックスCD(2002年の『Weekender』)はポスト・パンクっぽい感じがあったりね。

ムードマン:ミックスCDに関しては、収録している曲が新しいとか古いとかいうことではなくて、「いま」の空気がどうやっても染み込む。「いま」を封印する能力に長けてるとおもっているんです、ミックスCDという型式自体が。なので、映像で言うならば、映画というよりは、ドキュメンタリーを撮る感覚に近い感じというか。客観性の限界としての個性と言うか。

噂では、ムードマンはいまシカゴのフットワークにハマってるっていう。

ムードマン:ああ、よく言われるんですけど、パーティでがっつりかけたのは数回です(笑)。新参者です。ハマっているということでは、ゴルジェ(GORGE)のほうがハマっているかも(笑)。まぁどちらも、ときどき、隙あらば混ぜてはいますけど、僕の場合はもともと、広義のダブとともに、広義のベース・ミュージックが好きなだけなんです。マイアミベースの頃から、ずーっと。マイアミというと、2ライヴ・クルーに端を発するお尻系のイメージが強いけれど、もっとクルマ系とか、スピーカー系とか、宇宙系とか。マイアミでもダークな系譜のトラックはいまのベース・ミュージックに近いんですよ。昔、エイヴェックスからリリースさせていただいたコンピ『インテリジェント・ベース』にも少しだけその要素は入れたんですが。

そうだよね。フットワークって言葉が新しくなっただけで、やっていることは、シカゴ・ハウスとオールドスクール・エレクトロのアップデート版というか。

ムードマン:そのなかでも際立って、オリジナルですけどね。オールドスクール・エレクトロの系譜への関心は、もちろんずーっとあって。もっというと、その前段階の、エレクトリックなブギーからエレクトロに帰結する流れがいちばん自分のツボなんですけどね、地味だしクラブではなかなかかけるチャンスが無いんですが。先週たまたま、DJ APRILさんとか、PAISLEY PARKSのKENTさんと一緒だったんですが、彼らはストリクトリーにシカゴのストリートのフットワークをかけていて、やっぱりかっこ良かったなぁ。半端ないですよ。僕はどうしても、先人への尊敬が前提なんだけど、「あいだ」ぐらいのジュークをかけたくなってしまう(笑)。

なに、その「あいだ」ぐらいのジュークって(笑)?

ムードマン:ジュークの影響を受けてるとおぼしき世界中の音(笑)。あるいは、単に同時多発的な、類似性を感じるビート。

アジソン・グルーヴみたいな?

ムードマン:「あいだ」のまた「あいだ」もあるんですよ(笑)。デトロイトっぽいヤツとか、アンビエントっぽいヤツとか。同時多発的というか、近いビートでまた違った表現をしている人たちがたくさんいる。もっとR&Bっぽいとかね。オリジネイターに敬意を払いながら、その拡散というか拡大というか、そこをかけるのが僕の担当かなと思って(笑)。王道ではないですよね。

まあそれ言ったら何が王道なのかと思うけど、DJラシャドの最近出た2枚組とか聴いた?

ムードマン:うん、聴いた。

最高だよね。

ムードマン:最高。こないだトラックスマンが来日したときに、自分はジュークという以前にシカゴ・ハウスのDJだというような発言があったんだけど、なるほどなぁと。プレイもシカゴハウスのクラッシックを新しい観点でかけていてかっこよかったなぁ。感慨深かったです。

そういえば、フットワークが入ってないなと思って。

ムードマン:今回は聞き心地として、平坦な感じにしたかったの。フットワークは自分的にまだまだ完全に消化できてはいないので、平坦にできないのです(笑)。

ピッチが合うの?

ムードマン:ピッチの面では、たぶん、やりようはある......はず(笑)。

あの辺、本当に面白いよね。聴いててワクワクするよ。

ムードマン:僕がいちばん好きなのは、スネアの音が優しいところ。中音から上が良いんですよ。

えー、そう? アグレッシヴな感じあるじゃん。

ムードマン:いや、フットワークって、ベース・ミュージックのなかでは非常に高音が優しくなっている。もちろんきついの一発入れてくるパターンもあるけど、シカゴハウスの系譜のなかでは、とくにスネアの鳴りが希有ですよ。

なるほどね。

ムードマン:昔、マイアミ・ベースにハマった頃、よくローライダーが集まるモーターショーに行ってたんですよ。会場の一角に、ウーファーを何十個も積んだクルマが死ぬほど並んでいてね、けっこう遠くから、低音の固まりを感じるんです。で、近づいていくとベースの沼というか、低音が身の回りをぼわーっと包んでいて、高音は蚊の鳴くような音で、小さく鳴っている感じなんですね。ああいう感じが好きなんです。そういう音の配置っていうのかな。レゲエのサウンドシステムでも好きなのは、上(高音)が天の声のように微かに聞こえる感じ。つま先から首ぐらいまでが低音で、低音浴というか、いい湯加減のベースにずっと包まれている感じ。そのポテンシャルがあるベースミュージックが本来的には好きですね。

なるほどね。フットワークにしてもダブステップ系にしても、ミニマルやダブにしても、ここ数年で、ダンス・ミュージックがまた更新された感じがあって。

ムードマン:全部、続いているんですけどね、急に変わった訳ではなくて。さっきのインテリジェント・テクノのオリジネーターの話じゃないけど、新しいムーヴメントだけではないんです。例えば、ディープなヴォーカルハウスも地味ながらアップデートされていたり。バズの起こりようがないので、話題になりにくいだけなんです。なんというか、いまの「更新された」っぽい空気って、新しい音楽のリリースの形態、流れが整ってきたことも大きいのかもしれないですね。

ミックスCDを「平坦な感じ」にしたかったっていうのは何で?

ムードマン:これは僕の習性なんだけど、ミックスCDって、なんかしながら聴くでしょ。

「さあ、聴くか!」っていうよりも、家で、なんとなくかけるって感じだよね。

ムードマン:だから、一定のテンションが保たれているものの方が、個人的には使用頻度が高いんです(笑)。

実用性を考えればそうだね。

ムードマン:そう、テンションは一定しているんだけど、ふと気がつくと変な音が入っているみたいな。「あれ?」っこんな曲、入ってたっけ?とか。そのくらいの変化を、小出しにまぶしているものが好きなんです。主張せず、引っ込みもせず。甘からず、辛からず、美味からず(笑)。だから、過去の2作もそうなんですけど、キーとか、ヤマは、作らないんです。

そうだね。

ムードマン:自分がよく聴くのが、そういうものなだけなのですが。どの曲も他の曲を引っ張らない感じ。ムード音楽志向なんですかね、やっぱり。ゆきゆきてディープ・ハウスというか。

貫禄だね(笑)。

ムードマン:本当はもっと出したいんですけどね、ミックスCD(笑)。いろんなスタイルで出したい。

でも、今回3枚同時発売されたけど、3枚とも面白かったな。ダンス・ミュージックがいま面白いんだなってよくわかる感じで。

ムードマン:3枚とも、キャラクターが出ましたよね。Nobuくん、Shhhhhくんと一緒に出せて、良かったな。

Nobu君のが尖ってて、Shhhhh君は、ワールドな感覚を捉えていて、ムードマンのが安定感があるっていうね。

ムードマン:今度は、ゴルジェ(GORGE)で1枚作りたいな(笑)。やらせてくれないかな。

最近はDJはどんなペースでやってるの?

ムードマン:週に2回ぐらいかな。

それは己の体力の限界に挑戦しているの(笑)。

ムードマン:いや、単純に音が聴きたくなるんですよ。でかい音で。結局、DJやってなくても遊びに行ってしまうから(笑)。同じなんですよ、体力的には。しかも、ふだん音楽をずーっと聴いているから、曲のかけ方なんかも考えてしまったりして。もともと分裂気味なので、いろんな方がDJで呼んでくれるのでホントありがたいです。
 あと、僕は毎回、オーガナイザーからお題をもらうんです。今回は、こんな感じでお願いします。はい、がんばります。という感じで。結果、毎週のように悩んでいるけど、それが楽しいんですよ(笑)。大喜利というか、ボケ防止にはいいですよ。

最近は、若い子のあいだで、ムードマン・スタイルがスタンダードになっちゃってるんだよ。働きながら音楽やるっていうのが(笑)。

ムードマン:ちゃんとかどうかは分からないけど、海外の人にとってはそれが普通ですよ(笑)。よく両立していられるねって言われるんだけど、そういうことでもなくて。僕の場合は、一生のうちどれだけ音楽を聴けるかっていうことが一番大きくて、あとはどうでもいい。どうでもいいというほど、破天荒なキャラじゃないですけど(笑)。ライフ・イズ・ワンスですから。

最初からそこは思ってないもんね。

ムードマン:まず聴きたいんですよ。その代価として身銭を切る。データでも同じ。

そこは作り手へのリスペクトでしょ?

ムードマン:そう。作り手がもっと作れるように。芸で食うべき人が芸で食えることが大切。で、僕はただとにかく、聴きたいんですよね(笑)。音楽のかけ方に関しては、自分のスタイルがどうこうではなくて、そうやって自分が聴いた曲を、どうやったら他人によく聴かせられるか......なんですよね。

しかしムードマンもいい歳だから、いままでのように突っ走り続けられない領域に近づいてきているよ。

ムードマン:もう、そうなってますよ(笑)。

週2でもすごいよ。

ムードマン:なので、普段、気がつかれないように、ぼーっとしてますよ(笑)。リビング・デッドですよ。トオルさんとかノリさんとかワダさんをずーっと見てきて、いつまでも若い衆気取りでいたけど。野田さんにずいぶん前に「いずれ来るよ」って言われてた通りに来てますよ(笑)。

ムードマンが最初にDJをやったのって?

ムードマン:10代の後半。ちゃんとしたところでは、〈ZOO〉が初めてだったと思います。

そのときは何をかけたの?

ムードマン:〈ON-U〉(笑)。当時は面白い音楽を聴くためには、クラブに潜入するしかなかったんですよ。毎日のように、日常では耳にできない音楽がかかっていた。スカ、カリプソから、テクノまで。で、出会った音楽を少しずつ集め始めたんですね。最初は、友だちの主宰する身内のパーティだったんですよね。レコードもってそうだから出てという感じで。〈ON-U〉ばっかりかけてたら、店長から「良いねー」みたいに言われて、調子にのったという。

俺、ムードマンがまだ大学生だった頃に家まで行って取材したじゃん。あのとき、レコードは家にたくさんあったけど、まだ部屋にDJ機材とかなかったような気がするもん。

ムードマン:あのときは、ボロボロの家具調ステレオしかなかったかも。あのずいぶん後ですね、DJの機材を買ったのは。つなぎとかは、ミックスとかは、当時、働いていたお店のオープン前の時間を使わせてもらったりして練習しましたね。

いま、25年ぐらい?

ムードマン:そうです。好きだと言うだけで来てしまったというか、正直、こんなに長くやれてると思ってなかったです(笑)。

レコードどうしてる?

ムードマン:カミさんのレコードも加わったので、XX万枚ぐらいかな......。

ハハハハ、それ酷いね。

ムードマン:7インチが多いんで、場所はとらないんですけど....嘘、食卓の周囲以外は、音盤です(笑)。

ジャンルで言うと?

ムードマン:いや、もういろいろ。ここのところは50年代の音源を探ってることが多いですかね。どんなジャンルでも、例えばジャケットの裏を見て、面白い楽器の編成だとつい買っちゃうんですよね。そもそも、シンセものも、リズムボックスものも、その観点で好きなんです。

編成?

ムードマン:3ピースなのにアコーディオンが入っていたり。アレンジが面白いものが好きなんですかね。今回の選曲にも結局、その要素は出ているかもしれないです。地味なんだけどひと癖あるものっていうか。大衆小説でいうところの「奇妙な味」というやつです。

はははは、そうだよね。それ、〈ON-U〉にはじまっているのかもね(笑)。ところでさ、〈ダブスレストラン〉のコンピレーションを再発したいんだけど、ライセンスしてもらえない? 聴きたい人は多いと思うんだよ。

ムードマン:赤岩君と連絡が取れればいいんだけど......僕だけがやっていた訳ではないので。ちょうど、20年前ですよね。当時、〈ダブスレストラン〉に送られてきたデモテープは、ぜんぶ取ってあるんですよ。段ボール、数箱分かな。いま聴いても、どれもクオリティ高いし、面白いんですよ。
 なにが面白いかというと、ガチリアルな、ベッドルーム・テクノの音源というか。明確なフロアが無かった時代に、みんなが仮想のフロアを夢想して制作したクラブ・ミュージックである点です。ありえたかもしれない90年代。メタフィクションですよね。いずれなんかのカタチで公の場で共有できればと思っているんだけど、さすがに当時の作り手は、もういい大人だろうし、住所も違っているだろうし、連絡付けようがないだろうからな。海外の音源を買うよりも、送られてくるデモテープの方が面白かったんですよ、当時。あの時代でしか生まれなかった、すごく良い音がたくさん眠ってるんですよ。聴いてみたいでしょ。

むちゃくちゃ聴いてみたいから出そうよ。

取材:野田 努

interview with Yakenohara - ele-king


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

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 太陽、新しい、リラックス、幸せ、未来、夢、光、希望、大切なこと......言っておくけど、これは啓発本ではない。やけのはらの2年半ぶりのセカンド・アルバム『SUNNY NEW LIFE』から聴こえる言葉だ。CDのケースには、明るいリゾート地のような写真がデザインされている。ジャケには青空が見える。

 やけのはらは、ゼロ年代、さまよえる世代の代弁者として登場した。小洒落たリゾート・ミュージックとは、ある意味真逆の存在で、ささやかな、汚れた日常をロマンティックに描こうとするリリシストだ。彼の初期のレパートリー、"Summer Never Ends"(SFPのリミックス)、"Rollin' Rollin' "(七尾旅人との共作)、"DAY DREAMING"(BUSHMINDとの共作)、あるいは"GOOD MORNING BABY"といった曲は、空しい日々の、しかし小さく甘い、そして美しい物語だった。結果、2010年の真夏にリリースされた彼の『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』は、派手な宣伝もないのに関わらず、多くの人たちに聴かれることになった。
 地下より野外、夜より朝、冬より夏を、やけのはらは、好んでいる。猥雑俗悪なものより潔癖な表現を選ぶ。そのように僕には見える。『SUNNY NEW LIFE』は、それに輪をかけてドリーミーなサウンドに特徴を持つ。曲によっては、トロピカルなムードさえある。近年稀に見る脱力感もあるし、そうした軽やかさが『SUNNY NEW LIFE』の魅力だが、口当たりの良い言葉ばかりが並んでいるわけではない。春の日差しのようにうららかで、温かい音楽の背後にあるやけのはらの「思い」をお届けしよう。

僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。

ジェフ・ミルズのときに久しぶりに会ったんだよね。

やけのはら:あー、はいはい。ていうか、ジェフ・ミルズが音楽を担当した、麿赤児さんの大駱駝艦の公演ですよね。それから次の日にも何かで野田さんに会ったんですよ。

寺尾沙穂さんのライヴじゃない?

やけ:そうです、そうです。

ジェフ・ミルズのときに行って、「あれ、やけのはらに似てるひとがいるなー」と思って。あまりにも似てるなーと。そしたら本人だった(笑)。

やけ:あれは、友だちが劇に出てたから。

「何でここにいるの?」って。

やけ:野田さんはおかしくないですよね、ジェフ・ミルズだから。僕はジェフ・ミルズだから行ったんじゃなくて、友だちが出るのに興味があるから行ったんですけど。

しかも2日連続で会ったからね。びっくりしたよね。ずっと会ってなかったから。実際、前のアルバムから今回のアルバムまで長い年月が経ったんだけれど。

やけ:そんな、そこまでは(笑)。10年とかじゃないんで(笑)。えっと、前が夏なんで2年半。

2年半かぁ......。そうだよね。なんか、『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』の頃がすごく昔に思えない?

やけ:それは僕もあります。いろんなひとたちにとっても3.11があったんで、やっぱりそれ前後っていう考えがあるんだろうし。自分のなかでも、同じ世界の同じ時間のつながりのなかですけど、そのときの雰囲気というか感情ってまた違うものとしてあるイメージがありますね。

今回の『SUNNY NEW LIFE』は、『THIS NIGHT~』を出した後から考えられていたものなの?

やけ:考えてました。なんていうか、ラッパーとしてガツガツとアルバムを出していこうって感じじゃないんですけど、『THIS NIGHT~』で自分なりのラップ・アルバムを1枚作れて、やっと作り方がわかったというか、いちおうできるってなって。ただ、早く作れるタイプでもないので、そのうちできればいいやっていうのだと、5年か10年かわからないけど、なかなかできないだろうなっていうのもあったし。
 もともとの気持ちとしても、DJのほうが自分の性格には向いてると思っていて、そういうのは自分のライフ・ワークとしてずっとできるかもしれないし。でも声出してラップして、っていうことはいろんな状況や自分の体力とか気持ちとかにしろ、できるタイミングにできるだけやりたいなっていうのもあったので。気持ち的にはすぐ作りたいぐらいの感じで思ってたというか、最初は「2011年に出します」って言ってましたね。
 そこに震災があって、いろんな面でドタバタしたりっていうのがあって、作業も止まるわっていうか、2011年は早かったっていうか。思うようにできず。まあ、なんやかんやで多少時間経ったなっていうか。イヴェントにはいろいろ出たのはあるんですけど。そんななかで2年半経ちましたが、気持ち的には早く出したいっていうのはありましたね。

サンダルはいつやめたの?

やけ:30歳ぐらいじゃないですか。大人になったんじゃないですか。

あれはやめようと思ってやめたの?

やけ:うーん、覚えてないですけど、なんですかねえ。ある日、「この靴キレイだしいいなー」と思って、わらしべ長者的に。靴をいっぺん履き出すと、現代人は恐ろしいもので、もう靴のない生活には戻れないですよ。

なんで(笑)?

やけ:いやいやいやいや、ちょっともうそういうのは。

逆に、あの頃ってなんでつねサンダル履きだったの?

やけ:よくわかんないです。ラクだったんじゃないですか?

最初会ったときのインパクトっていうのがサンダルに集約されているところがあって。だって、真冬に、横浜から渋谷までサンダル履いたまま来てラップするひとって、それまで知らなかったからね。

やけ:そういう感じで書いてましたよね。そのときに「スポーツシューズではなく、サンダルを履く彼の......」っていう風に書かれていたのを覚えています。

やけのはらと言えば、冬でもサンダルっていうイメージだったのにね。

やけ:そこまでいくと極端じゃないですか(笑)?

上はダウン着ているのに、足がサンダルというね(笑)。でも、今回のアルバムもそういう意味では、変わらないというか、やけのはららしいなっていう風には思ったけど。もちろん変化はあるけど、「彼ならこういうときこういうこと言うだろうな」っていう。

やけ:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。

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だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

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それにしても最初のアルバムは完成まで時間がかかったね。

やけ:大きな問題は、ライヴを当時はまだできなかったことですね。DJをバックにラップするっていうのがなんか、まずしっくり来なかったっていうか。それがドリアンくんに出会って、キーボードとだったら1DJ1MCぐらいの人数で、音楽的にもイヴェントとしても自分にとってやりやすかったし、自分なりのライヴができるって。それが、すごく大きいですね。モチベーションとかいろんな意味とかでも。そのことに気がつくのが、すごい遅いんですけど(笑)。
 で、いまはライヴができる楽しさがあって。DJも楽しいんですけど、それとはまた別の、新しい曲を作りたいとかアルバムを作りたいとか意欲が湧いてく来るというか......、自分が好きなレーベルで、楽しくコミュニケーションしながらできているので、普通に次のアルバムを作りたいなと思いました。僕が野田さんにはじめて会ったときから6年ぐらい経ちますよね。そのとき僕にはライヴの手段がなかったから。

DJしかやってなかったもんね。

やけ:ライヴがない状態で、日々の仕事っていうとヘンですけど、DJとかリミックスとか日々の時間でやることもいろいろあるなかで、なんか行くアテのないラップ曲を10曲作るとかってなかなか難しかったというか、機会があるときしかできないというか。

温かい作風だとは思うんだけど、今回のアルバムには、他方では、やけちゃんの問題提起や主張がより際立っているようにも感じたのね。その辺をひとつひとつ話していければなっていう風に思ってます。

やけ:こういう感じがもともとの自分の素っていうか。いまの感じが素に近いっていうのは、僕も思ってる し。野田さんは最初から俺のサンダルを気にしてるようなひとだったから。サンダル感はこのアルバムとは違うかもしれないけど(笑)。物質に対する考え方とか世のなかの情報とか、物事に対する僕の感覚みたいなものをサンダルってタームで野田さんが捉えてくれたんだと解釈して(笑)、そういうのはこっちのほうが入ったりしてるっていうか、そういうのを僕らしいって言ってくれたのなら、自分もそうだと思う。

もう、とにかく、何とか、ある種の前向きさみたいなものを打ち出したいわけでしょう?

やけ:そうですね。ぜんぶそうですけどね。

思春期な感じを残しつつ。

やけ:思春期? あー、そこはちょっと違います。言ってる意味はわかるんですけど。たしかに、ファーストのときは青春を意図的に入れてますが、このアルバムではそういうところを排除したつもりなんですよね。大人になっていくっていうことが裏テーマだったので。

でも大人になってもYOUNGでいたいっていうのじゃないの?

やけ:いや、このアルバムに関しては、なんだろう、大人を受け入れるみたいなものが裏テーマなんですよ。

今回のアルバムっていうのはさ、結果的には、すごくポジティヴな雰囲気を前に出しているじゃない?

やけ:うーん、僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的 に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。
 今回は、新しさとか生活とか、統一したテーマで作りました。そして、「年を取っていく」とか「暮らしていく」とか、「大人になる」......。「暮らしていく」っていうのは時間が経過していくから当然年を取るわけで。そこが裏テーマだったんですけど、それは誰にも指摘されてないですね。「大人になりましょう」っていうのを言ってるんです。

それにしても、何故、ここまでムキになって前向きさを打ち出したの?

やけ:やっぱり震災は大きかったですし、震災だけじゃなくて原発だったり、そういう3.11で起こったこと以外の経済や、それによって気にするようになった社会のシステムだ ったりとか。たとえば僕がもともと感じていた資本主義社会やグローバリゼーションに対する違和感みたいなものが、よりいっそう気になったり。さらには自分が知っている範囲よりも広い、社会や世界の構造だったり。
 で、世界の構造を生む、貨幣の制度に対する個人ひとりひとりの気持ち。たとえばそんなに紙幣をいっぱい集める満足感を、市民はそこまで憎しみ合いながらも得る必要があるのか、とか。物質なんかにしても、そういうものが本当に必要なのか、とか。自分にもともとあった、ダサイ言葉だけど(笑)、消費社会に対する距離感や違和感みたいなものが、よりいっそう震災を経た社会や世界では自分が知りたいと思ったりとか。
 で、よりいっそう違和感であったり、豊かさの形だったり、何に喜ぶべき??「べき」っていうのもおかしいんですけど、たとえばこういうものを得てこういう暮らしをするのが幸せだっていうことに対 して、ひとりひとりの多様性がもっとあっていいんじゃないか、とか。
 そういう意味で、「新しさ」は、自分に対して言ってるっていうのもあるし、リスナーのきっかけになってくれたら嬉しいみたいな意図もあるし。なんですかね......あれ、僕、何言おうとしてたんだっけ(笑)?

(笑)今回が明るいアルバムになった理由は3.11にあるっていう話かな。

やけ:そう、それで社会のシステムがその前に戻ろうみたいになっているけど、変えようよっていう。何が本当に必要でどういうものを美しいと思うかなんかを、もう一度ちゃんと捉え直したりしようと。みんなが思わされている世界の認識も、デッサンし直して新しいのにしようと。そういう意味での「新しい」。戻るんじゃなくて、流れをリセットしたほうがいいんじゃないかって。リセットっていうか、新しい発想。たとえば音楽産業なんかで言っても、「あの時代のああいうのに戻ろう」とかそういうことよりも、新しい形を模索しようって。

「90年代をもう一度」ではなくて......。

やけ:社会には意外とそういうムードがある気がするんですよね。3.11を経ても。

いまは、むしろ「明るくなれ」って言うほうが難しいことだと思うのね。

やけ:「SUNNY」っていうのは「明るくなれ」って感じでもないんですけど......、なんだろうなあ。

『SUNNY NEW LIFE』っていうのはさ、言葉としては空振りしかねないというか。世のなかの絶望感に対して、もっと希望を持とうと言ってるわけでしょう?

やけ:まあそうですね。

イチかバチか、でも言ってみるか、みたいな感じなの?

やけ:そんなでもなかったですけどね。だって"RELAXIN'"とかも「リラックスしていこうよ」だから。

「リラックスしろ」なんて言われたらさ、「ふざけるな」って怒るひともいるかもしれないじゃない?

やけ:いやいやだから、わざとリラックスしようって言ってるんです。

ははははは。

やけ:みんながリラックスしてたら言わないですから。そういうムードじゃないから、リラックスしようって言ってるわけです。あとなんか、ギスギスした空気感よりは、抜けた軽やかなものにしたい。

ギスギスした空気感っていうのはどこから感じるの?

やけ:いろいろですね。僕が愛する文化も落ち込んできてるし......。それがどんどんコンビニエンスになってたり、文化的なものっていうものが利便性や消費のなかでどんどん求められなくなっているというか、切り捨てられていっているように感じますけどね。

"JUSTICE against JUSTICE"という曲には憤りがあるんだけど、これは何についての曲?

やけ:これは去年の12月の選挙のときに書いたもので、まあ石原慎太郎ですね、はっきり言うと。尖閣問題。
 マチズモみたいなこととか男性性・女性性とかもいろいろ気になっていた時期で。戦争だったり、あらゆるとこにも通じると思いますし、だからべつに石原だけのことじゃないけど。もうひとつ言うならアメリカ。近年のアメリカ、というかアメリカの侵略の歴史、アメリカ人的なマッチョな発想だったり支配の歴史だったり。アメリカのこともちょっと考えてたかな、9.11とか。なんだっけ「次々と作る敵」とかは、アメリカがいろんなところを次々と侵略したり、大義名分を作って侵略するみたいなイメージで。
 これはガンジーの言葉の引用ですけど、「目には目を歯には歯をってことをしてると、ぜんぶなくなってしまうよ」と。人類の知恵は科学で核兵器を作れるんだから、このまま戦い合っていても取り返しがつかないことになっちゃうんじゃないかなって。日本人でももちろん、99.9パーセントのひとたちが戦争反対って言うと思いますよ。だけど、「中国人ってアレだよね」とか言っちゃうひともいたりとか。北朝鮮は気持ち悪いって言ったりとか。北朝鮮にいつ攻撃されるかわからないんだったら、「そこはもうやっちゃいましょうよ」みたいな、とか。そういう空気って普通にあるような気がして。

アルバムではこういう、ある意味では、すごく際立った言い方、前向きさもふくめて単刀直入に言ってるよね。

やけ:それはだから、大人になってきたり??。良くも悪くも年を取ってきて、それを受け入れるっていうのが裏テーマなんですけど。30超えた大人で、3.11で社会と日本が大変なことになってるなかで、やっぱり考えざるを得 ないですよね、それは。そういう社会構造だったり、いろんなことを。クラブとかDJとか、そういうみんなが楽しむ物事に関わることとしても。

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激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

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いまでもクラブDJやってる?

やけ:基本的に、もちろん。

どれくらいやってるの?

やけ:ここ3、4ヶ月はアルバム制作でほとんど入れてなかったですけど、基本的にけっこうやってますね。性格的にもほんとはそっちのほうが合うんですけどね。元から世界に何かを伝えたいから音楽をやる、俺が声を出すって言うよりは、何かを作りたいっていう感じで音楽を作り出しただけなんで。単純に音楽を聴くのが好きで、自分が前に出たい欲求で音楽をやってるわけでもないので。だからDJっていう距離感であったりコミュニケーションの仕方っていうのは自分の性格に合ってるなと思いますけどね。

そして、本人いわく大人になったという......

やけ:いや、なってないんですけど。その話をもっと言うと、ずっといつまでも子どもでいることがいいというか、大雑把に言うとアンチ・エイジングな風潮ってあるじゃないですか。ロリコン嗜好とか。そういうのに対するちょっとしたアンチがあるっていうか。なんか全体的に年を取ることがいけないみたいな風潮がある気がして。若いのがいい、みたいな。自分がファースト・アルバムで言いたかった「YOUNG」はそういうことでもないし。

共感できるけど、でも、そういうのもいいなあと思うときもあるし、ダメだなと思うときもあるし(笑)。

やけ:でもそれはいいんじゃないですか。なんていうか、振る舞いですね。直接的な、服とかそういうことよりも、精神構造、世界認識とか、そこが誤解されたイヤな子どもっぽさみたいなものまでもアリみたいになっ ちゃってるような気がするというか。そういうのに対する対する違和感とか。大人っていうのも象徴的な概念ですけど、それがじつは裏テーマであったんですよね。

去年やけちゃんと飲んだときに、1枚CDをくれたよね。『7泊8日』ってやつ。

やけ:あー、はい、友だちです。VIDEOTAPEMUSIC。僕も曲に参加してますね。それが出たぐらいのときで、たまたま持ってたんで。

やけちゃんのアルバムにも似たような感覚があると思ったんだよね。コンセプトとしてはさ、虚構でもいいからユートピアみたいな感じがあるじゃない?

やけ:ユートピアというのはちょっと違うけど。

やけのはらがディストピアを表現するとは思えないから。

やけ:それはそうですよ。自分のテーマはずっと「SUNNY」だし、内に行くエネルギーより外に行くエネルギーだし、ヴェルヴェッツよりビーチ・ボーイズなんですけど。なんだろうな、VIDEOTAPEMUSICの音楽はそこが良さですけど、フィクションじゃないですか。そういうところよりは、もうちょっ と地に足つけて、僕は本当の生活のことを言ってるんですけどね。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドも生活のことを言ってると思うんだけど。

やけ:でもさっきの話で言うディストピア志向じゃないですか。僕のいちばん好きだったり、僕がやりたいことは、ヴェルヴェッツではなくてビーチ・ボーイズなんです。ビーチ・ボーイズのほうがファンタジーなんですけど。

いまビーチ・ボーイズをやるっていうのは、どうなんだろうね。それ相応の気持ちが必要じゃない?

やけ:なるほど、そういう意味での空振りってことだ。

何故ビーチ・ボーイズなの?

やけ:それはだから難しいですよ。それはたぶん、自分がいちばん最初に音楽を好きになったときから、音楽の聴き方でどういうとこ ろを聴いてたかっていうと、反抗とか興奮というよりも楽しくなりたいとかだったと思うんで。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもビーチ・ボーイズも両方好きっていう風にはならないんだ?

やけ:いや、音楽で言ったらヴェルヴェッツも好きですよ。だけど、自分の素でそういうトーンのアルバムには行かない。ジャケットが黒一色にはやっぱりならないっていうか。

まあ、そりゃそうだよねえ。

やけ:いや、そりゃそうかはわかんないですよ。次のアルバムは意外とゴシックな感じで(笑)。

わはははは。だったら、そもそも、やけのはらって名前が矛盾してるよね。

やけ:ビーチ・ボーイズみたいなものが好きなひとがいるとして、そういうのをいま風にやってますみたいなひととは、たぶんまた全然違います、それは。

ワイルドサイドのビーチ・ボーイズ(笑)。

やけ:砂糖だけしか入ってないのは、やっぱヤなんですけど、ドリーミー・ミュージックっていうのは、ちょっとありました。磯部(涼)さんなんかは「けっこうエキゾだね」って言ってて、自分はラウンジ・ミュージックっていうのはもちろんあったけど、エキゾっていうのはまったくそういう認識を持っていなかったから、それは意外だったんですけど。自分のなかではラウンジ・ミュージック、ドリーミー・ミュージックっていうイメージっていうか。

やっぱり『7泊8日』とも近いと言えるんだね?

やけ:元々好きなラインだし、友だちだし、会う前から彼は僕の音楽を聴いてくれてたり、音楽に求めているものが近かったんで、けっこうすぐ仲良くなって、今回のアルバムに参加してもらって、大事な役割を果たしてくれてますね。
 ただ、僕としても、こういう音楽のトーンっていうのは昔から地で普通に好きだったっていうか。だから新機軸って言うよりは、逆にバック・トゥ・ベーシックっていうか。
 これを作ってる2、3年はUSインディとかにも興味なくなったし、新譜で興味あるラインとかもほとんどなく、逆に世界や歴史のことなんかに興味があったり、音楽でも古いほうに遡ったり。新譜もまったく聴いてないわけではもちろんないですけど。
 前のアルバムのほうが、そのときのトレンドなんかをちょっとぐらい取り入れようかなとか、そういうのがあったから、今回はもうちょっと素ですね。最後の最後になってトラップに興味持って、何曲かドラムがちょっとトラップ風なんですけど。かなり何でもないオールド・ミュージックだったり、自分の素で好きなトーンって感じ、かなあ。

アルバムの冒頭は、ウクレレか何かを弾いてるの?

やけ:あれはただのサンプリングです。簡単なコード弾きのやつを、ちょっとピッチ変えて2コードにして。だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。

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つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないっていうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

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やけちゃんが言うラウンジ・ミュージックっていうのはどういうイメージ?

やけ:部屋で鳴ってて気持ちよくなるってことですかね。それ以上にも以下にも最終的には着地しないっていうか、あんまり意味性を持たせてもわからないし。

具体的に言うとたとえばどんなの?

やけ:うーん、なんですかねえ。それこそ、アンド・ヒズ・オーケストラとか名前に入っているような古いものとか。ジェントル・ピープルの元ネタみたいなものとかですよね。やっぱりレコード世代なんで、古いよくわからないラウンジっていうか「その他」とか買ってましたね。だから音楽を聴いて高揚したいとかより、自分の中でもいろんな耳のチューニングはもちろんありますけど、たぶん音楽聴いて楽しくなりたいんじゃないですか、自分は。
 僕、起きてから寝るまでずっと音楽聴いてるんですよ。気候とか自分の気持ちとかに合わせて、うちでひとりDJをずっとしてるんです。ひとによっては「聴くぞ」っていうときにだけヘッドフォンで聴いたりするじゃないですか。でも僕は、なんだろう、つねにぜんぶムード・ミュージックとして捉えてると言えば捉えてるっていうか。言葉が入っちゃってはいますけど、自分が昼に聴きたいトーンはこんな、っていうか。

"HELTER-SKELTER"も曲名とは裏腹な......。

やけ:"HELTER-SKELTER"って「混乱してる」って意味ですよ。ジェット・コースター。

のんびりしてるじゃん。

やけ:ああ、まあまあ。でもジェット・コースターの名前ですけど、元々の意味は「混乱してる」って意味ですよ、これは。これが震災のあとの曲ですよ。「どうしよう」っていう。

でも、音楽がけっこうのどかに感じたんだよね。

やけ:いや、これ全然のどかじゃないですよ! いちばんリリカルな曲ですよ。感情がいちばん入ってるというか。もうだって、「このまま あのときのままではいられないよ」「この夢の続きは一体どんな風?/フキダシの中の言葉をなんにする?」ですよ。君は何を思うんだってことですよ。フキダシのなかの言葉っていうのは比喩で、漫画のひとの横にこうフキダシがあるみたいなイメージで、それに対して何を思うんだっていう。
 こんな日々をどうやって受け入れるんだ、どう消化するんだ、それを「混乱している」、"HELTER-SKELTER"って言ってるんですよ。消化できないっていう。

でも聴いた感じはまったくそういう風に思わなかったので、逆に言えばそれはやけのはらの狙い通りっていうことでもあるわけでしょう?

やけ:まあたしかにそうですね。この曲は、このアルバムのなかではヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいなアレンジでも成り立つような歌詞というか、意味の曲であるわけだから。ちなみに、もちろん沢尻エリカとは何の関係もないですってことは、書いといてください。

とにかく、ドリーミーなものを心がけたっていうのはいい話だね。

やけ:心がけてもいるし、元々好きだし、気分的にもそういう......あ、震災の後にけっこう思ったことですね。それがさっきのマチズモとかインスタントなんかの話に繋がるんですけど、年齢もあるのかもしれないけど、激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。
 とくに震災の後とかは、直接的にその後にやったリミックスはぜんぶノンビートにしちゃって。ほとんど低音入ってない曲とか。気分的にもそういうムードだったっていうのはありますね。まだこれ(アルバム)は、揺り戻しがあってビートをそれなりに入れたっていう。でもノンビートの曲もあるし、けっこう一時期のノリだと危なかったですね。声入ってるのに1曲ぐらいしかリズムがない、みたいな(笑)。

おおー、それも聴きたかった。クラウド・ ラップみたいな(笑)。

やけ:いや、それだとさらに素なんで、そういうのはもっと年取ったときに取っときます。そこまで行っちゃうともう戻せないんで。

最後から3番目の曲("BLOW IN THE WIND")でさ、「普通じゃないものにいまも夢中さ」ってあるけど、その「普通じゃないもの」って何のこと?

やけ:いや、それはだから難しいんですよね。わざと危ない言葉だからそのままで言ってるんですけど。多様性ってことですね。

難しいことを言うねー。

やけ:いや、ぜんぶで一貫して言ってるんですけど、「小さな声をなかったことにするな」みたいなこととか、「はみ出る感情や生き方を楽しもうよ」とかだったり。自分が聴きたいのは誰かの代理ではなくて。まあこれも安易な言い方にまとまっちゃいますけど、誰かの思惑で決められた何かに流されるんじゃなくて、自分の好きなものを自分で決めたりとか。こういう言い方をするとカッコいい風に聞こえてしっくり来ないな。 うまく言えないけど、つねに一貫したテーマとしてあるというか。
 たとえばその時代の大多数の感情や音楽がこうだからって言って作るんじゃなくて、そこからやっぱり零れ落ちるそのひとなりのエネルギーであったり形であったり、表現だったり。そういうのに対する愛着っていうのはすごくあるし、そういうのが聴きたい、したい。っていうのはあると思いますね。

やけのはらって、家のなかで考えて作るって言うよりは出かけて行って作るようなイメージをずっと持っててさ。前作のときのPVでも、江ノ島の海辺でみんなで遊んでるのを使ったじゃない? イヤミったらしいぐらい楽しそうな映像をさ(笑)。

やけ:なんですか、「イヤミったらしいぐら楽しそう」って(笑)。パンチラインですね。言葉としてエッジが効いてた(笑)。でも、いまの気分だったらあんなことはできない。

でも、「外に出よう」って感じはまだあるでしょう?

やけ:それはでも、実際のことでも観念的なことでも、もっと世界を知ろうってことは言ってるんですけど。最後の("where have you been all your life?")がまさにそういう曲ですよ。最後の曲のことがあんまり言及されないんだよなあ。

いや、話がまだそこまで行ってないから(笑)。じゃあさ、アルバムの後半、"JUSTICE against JUSTICE"以降っていうのがさ、希望を見ようとしているよね?

やけ:それはでも、"D.A.I.S.Y."って曲ですかね。"BLOW IN THE
WIND"って曲は文化のことを歌ってるんですけど、これはむしろ寂しさを伴ってる感じがしますけどね。「普通じゃない」っていうのも、これは不毛さを愛していくってことで、だからこの曲は、そういう意味では意外とブルーなんですよね。

なるほどね。まあメランコリックな曲でもあるからね。でもこの"D.A.I.S.Y."はさ、「やけのはら、どうしちゃったんだろう」ぐらいのさ、人生肯定感じゃない(笑)?

やけ:え、でもそんなこと言ったら"GOOD MORNING BABY"とかもそうじゃないですか! 曲名は、デ・ラ・ソウルの"デイジー・エイジ"が何かの言葉の頭文字になっていて、その法則を踏襲したというか。だから、"D.A.I.S.Y."は"DAYS AFTER INOSENT SWEET YEARS"の頭文字ってことにしたんですけど。だから、これもじつはブルーだからこそ、ですよ。
 あと、"D.A.I.S.Y."って、いろんな意味がありますよね。『2001年宇宙の旅』でコンピュータが歌った"デイジー・ベル"っていうのは、はじめて電子合成のロボットが歌った曲だし。でも、映画だとあのコンピュータが最後に歌った曲なんですよね。それで壊れてなくなっちゃって。希望の象徴だったり、でもアンビヴァレントなブルーな匂いもするじゃないですか。『2001年宇宙の旅』での使われ方なんか。

あるいは、ヒッピーというかフラワー・チルドレンというか。20世紀的な理想主義だよね。

やけ:そうですね。でも「デイジー」みたいなこととか、ヒッピー的なタームでそういう物事の象徴となってた時代、60年代、70年代のほうが未来に対しての希望みたいなものが、何て言うか、無邪気だった感じがあるじゃないですか。無邪気に本当に希望を信じていたような。僕はもちろん生まれてないんで、後から触れての印象ですけど、未来に対して希望があった時代の象徴って気がして。そういうのが気分にあったというか。

それを敢えていま言ってみたかったっていう感じ?

やけ:いや、難しいっす。いろんな自分の知ってる情報やニュアンスのなかでしっくり来たっていうか。ニュアンスや感覚の捉え方の話なのでうまくは言えないですが。でも前のアルバムも音ができてないときからPVは"GOOD MORNING BABY"って決めてたし、このアルバムもじつは前からこの曲になるんだろうな、って1、2年前からそう思ってました。

新しい恋をしたとか(笑)?

やけ:恋は関係ないです。ラヴ・ソングはできないっすよねえ。タイトルだけ"I LOVE YOU"って曲入れましたけど。観念的なラヴ・ソングだったらいいですけど、本当に女性との直接的なラヴ・ソングっていうのは人生で一度も作れたことがないかもしれないですね。そういうのはちょっと、今後のテーマに取っておいて。昔、野田さんが「やけちゃんはラヴ・ソングやったらいいよ」って言ってくれて、心のなかにはラヴ・ソングに対する想いはいろいろあって。

やけのはらは場面の描写が好きだよね。なんか、男と女というよりも、もっとがやがやしている感じがする。

やけ:それは性格ってことになっちゃうと思うんですけど、つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないって いうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。

これがやけのはら人気の秘密なんだよ(笑)。

やけ:いや、これが性格なんですよ。映画なんかでも、あんまり楽しくない映画とかイヤなんですよね。それはDJで培ったものがあるのかもしれないのと、自分も人間なんでそういうのがゼロとは言えないですけど、自己陶酔してるタイプのミュージシャンじゃないと思うので、例えば「苦労してるオレを見てもらう」みたいなことって発想としてないっていう。

だからっていうか、"デイジー"は、今回のアルバムの象徴的な曲なわけだよね?

やけ:この曲は大事でしたね。ぜんぶの曲で同じことを言ってるとも言えますが、この曲では、ぜんぶまとめて言ってるってとこもあるので。結局ひと言でまとめると、「楽しく生きましょう」とかそういうことなんですけど(笑)。

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絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、夜中4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。


やけのはら
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やけのはらは、決して順風満帆にここまで来ているわけじゃないよね。

やけ:まず、ファースト・アルバムが30歳とかですからね。

ある意味では苦労人というか。

やけ:まあ、生活的に貧しかった20代前半とかもありますが。ただ、べつに苦労って気はなかったですよ。苦労っていう実感はないですね。

絶望を味わったことはあるわけでしょう?

やけ:わかんないです。そのころは、絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、午前4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。
 それはいまでもそうですけど、そういうところを何かに合わせてしまうんだったら、野垂れ死ぬわ、ぐらいの感じがやっぱりあったんで。けっこう現実面でそう思ったっていうか、笑い話じゃなくて、ガチで浮浪者みたいな生き方も視野に入れつつぐらいの感じっていうか。べつにいいです、もうなんか。それだったらもう死にます、野垂れ死にます、みたいな。

説得力のある話だね。午前4時にさ、何もやることのない青春っていうのが良いよね。

やけ:何もやることがなかったわけではないけど(笑)。

そういう未来の見えなさのなかで生まれた前向きさなわけだね。

やけ:それはそうだと思いますけどね。だから、いちおう知恵を練ったんじゃないですか。性格的に月から金の普通の仕事はできないと。CDとか出しつつも音楽はやってる。じゃあ音楽でもっと収入を上げようとか、DJやるにしろ何やるにしろ、もっと細かいところから積み重ねる、もっとこうして良くしていこう、楽しんでもらおう、とかだったり。ここをもっとこうできるようになって、音楽のクオリティを上げよう、とか。

知り合った頃は、DJとしてはすでに人気あったからなあ。

やけ:DJはひとりでできたから。なんとなくやれてしまったというか。
 同い年の旅人くんとかを見ると僕なんか全然遅いなと思いますよ。上京してきて18、19で音楽で身を立てるみたいな思いがあって。すごい偉いなと思いますよ。僕にはそういう気持ちがぼんやりしかなくて、性格もあるし、横浜っていう都内近郊が地元だったので、音楽はしたいけどガツガツとミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。僕はそういうところで判断が遅くて、ボンヤリしてましたね。ファースト・アルバムが30歳ですからね。

素晴らしいじゃない、それは(笑 )。

やけ:性格なんですよ。ひとつひとつのことを、こういうのがいいらしいって言われても、「ほんとっすか?」みたいな感じでつねに疑ってかかるタイプなんで(笑)。だからひとつひとつがすごい時間かかって。

じゃあ、最後の曲("where have you been all your life?")について、なぜこの曲を最後にして、そしてどうしてこの曲が生まれたのかを。

やけ:うーん......まず直接的に言うとタイトルからできたんですけど。年上の友だちの結婚式で、引出物のトート・バッグに「where have you been all your life?」って書いてあって。なんかいい言葉だなと思って。オールディーズの曲名なんですが、なんかこの言葉が引っかかってて、そこから連想してできたというか。街を歩いているときにふっとフレーズが出てきて、あのタイトルで「あなたは何したいの」みたいなことを問いかけるっていうのが面白いかなと思って作ってた感じですね。
 でもどっちだったかな、「your」か「my」かどっちか忘れたんですけど、英語で「やっと会えましたね」みたいな意味になるんですよね(註:「where have you been all my life?」で「どうして君ともっと早く巡り会わなかったの?」の意)。そこらへんが面白いな、と思って。だからいろんなことがあったり、世界や生活のなかで自分にしっくり来る楽しいことをやっていきましょう(笑)、それのために知恵を絞って街に出たり、いろんな世界と友だちになろう、街に出よう、そういう曲ですね。

リスナーに呼びかけるっていうか、こういう直接的に語りかける曲っていうのも、俺久しぶりに聴いたような気がしたんだよなあ。

やけ:マジですか。まあ自分に言ってる的なところもあるんですけどね。なんかボンヤリしたりするじゃないですか、生きてるなかで。まわりから望まれていることと違ったりとかね、そういうこともありますし。自分がいちばんやりたいこと 、好きなこと、いちばん大事なひとを考えるとか、そういうのがいいんじゃないかって。暮らしっていう意味で見ても、物質面で見ても、いろいろなひとつの作法、もの。どこに住んで何をする、そうしたことひとつひとつもある種思想ですし、自分ももう一度しっくり来るものを見つけたいですし。みんな本来のしっくり来るものを見つけるのがいちばんいいんじゃないかと思うので。
 それは前も言ったんですけど、答が出る前に「こういうのがしっくり来ますよねー」みたいな押し売りの波とかがやっぱりすごく多いような気がするので。生き方、場所、ものとか、いろんなことですけど。

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音楽はしたいけどガツガツミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

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今回さ、アルバムのジャケットにひとを載せなかったのはなんで?

やけ:うーん......具体的にひとを載せたくなかったわけではないですが、たとえばまた同じような感じで女のひとが載るっていうのは続編っぽくなるので絶対ヤだなっていうのはありつつ、まあ流れですね。信藤三雄さんの写真なんですが??〈トラットリア〉とかピチカート・ファイヴで信藤さんがやってたことっていうのは好きだったし。で、大人になって、〈トラットリア〉や信藤さんがやって来たことが当時よりも見えてきて。
 そうしたら、僕の前のアルバムをなぜだか信藤さんが気に入ってくれてて。それでお会いする機会もあって、面識もできた流れもあって、今回のアルバムを作ったスタジオが信藤さんの事務所の近所で、スタジオに遊びに来てくださって。で、世間話のなかで見せてもらった信藤さんがiPhoneで撮った写真なんです よ。これはただの記録みたいな感じで信藤さんが撮った写真なんだけど、なんかピンと来て、写真をお借りして使わせてもらったっていう。

どこにピンと来たの? 青空?

やけ:雰囲気です。ムードですね。

これはどこなの?

やけ:沖縄です。

沖縄なんだ。いいねぇ。やけちゃんは間違っても沖縄なんか住めないからね。

やけ:え、なんで?

俺と同じように、東京で生きて東京で死のうぜ。

やけ;僕は意外とレイドバックしたところで死んでいくつもりです。

どこで(笑)?

やけ:いや、わかんないですけど。

そんな~、やけのはらのクセに。

やけ:いやでも、都市生活に対するアンビヴァレントな気持ちは感じ取れるんじゃないです か、このアルバムからは。

はい、むちゃむちゃ感じ取れますね。じゃあ、そろそろ最後の質問にしたいんだけど。"SUNNY NEW DAYS"みたいな曲は、どういうときに作ったの?

やけ:これはアルバムの最後で、「もう作るぞ」と思って作ったっていうか。近所の公園で歌詞を書きました。

シンプルな歌詞だけどさ、これはアルバムのコンセプトが固まってから?

やけ:完全にそうですね。ちなみに「新しいニュースペーパー」って言葉はSAKANAの曲から引用してるんですが。えーっと何て曲でしたっけ? ......、"ロンリーメロディ"。

へえー、そうなんだ。

やけ:あの曲ほんっと最高ですよね。あの曲の歌詞はほんとにすごい。なんでしたっけ、「わたしの歩き方が遅すぎるのなら/どうぞ置いていってください」。その「歩き方が遅すぎるのなら、どうぞ置いていってください」っていうようなラインは、ほんと文明社会に対する違和感みたいなところもある曲なんですけど。あの曲はほんと素晴らしい。あの曲の影響はあるかも。あの曲とアルバムでやろうとしてたことの感じは近い。

ああ、SAKANAとやけのはらの共通する感覚ってあるかもね。

やけ:厭世観みたいな意味で近いところはあると思いますよ。世界に希望を求めてるけど、じつはあんまり信じてない、みたいな。

ああー、なるほどね、厭世観。都会のなかで暮らしながらの厭世観みたいな。

やけ:だから諸手挙げてキレイな世界、先へ進んでいこうみたいなカラっとした感じは実は全然なくて。だからこそ無理矢理そうしてるっていうか。

(笑)たしかにブライアン・ウィルソンも、彼の複雑な人生を考えるとね。あの明るさっていうのは。

やけ:しかもあれだけグチャチャな人生を生きているブライアン・ウィルソンがいまでも一応元気で音楽やりながら生きてるっていう。

interview with Jesse Ruins - ele-king


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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 「日本人ということはわかっているが、 女の子か男の子かは定かではない。ただ、彼らの音楽は圧倒的に素晴らしい」──『ガーディアン』はジェシー・ルインズのデビューにそのような賛辞を送っている。同紙いわく「性のサインを持たない、不定形で、中性的な音楽」、ゆらめくジェンダー、そのドリーム・ポップは、想像癖のあるリスナーの関心を集めている。
 顔の見えない男女の写真もミステリアスなイメージを膨らませた。彼らは東京にこだわってはいるが、トゥーマッチな情報世界からは静かに身を引いている。いまごろはモノレールに揺られながら夕日を眺めていることだろう。ちょっとしたファンタジーだ。言葉を主張しない歌が、黄昏に響く。

 以下のインタヴューを読めば、チルウェイヴとは何だったのかがよくわかる。その正体、その真の姿、それはブロガー文化が最初に純粋な高まりを見せた2009年の、ほとんど瞬間的に成立したデジタル民主主義がもたらしたひとつの成果だった。ジェシー・ルインズはその恩恵を受けた日本人のひとりである。
 僕がジェシー・ルインズを好きな理由のひとつは、彼らがインディ・シーンの動きに敏感で、自分たちでもDIYでやっているところにある。
 彼らは、とくにUSのインディ・シーンに触発されている。3年前はチルウェイヴにどっぷりハマって、そしていまがある。彼らはそういう自分たちの経験や気持ちを決して隠さず、いつでもざっくばらんに話してくれる。ジェシー・ルインズが生まれる土台となった〈コズ・ミー・ペイン〉は、カセットテープとアナログ盤しか出さない。日本では、おそらくその手では、唯一のレーベルだ。

 ジェシー・ルインズは、2011年に〈コズ・ミー・ペイン〉からカセット作品を出すと、2011年12月、ロンドンの〈ダブル・デニム〉から7インチ、2012年にはブルックリンの〈キャプチャード・トラックス〉からミニ・アルバム「ドリーム・アナライシス」をリリースしている。
 このたび、西海岸の〈レフス〉から出る『ア・フィルム』が正式なファースト・アルバムというわけだ。バンドのメンバーはサクマ(Nobuyuki Sakuma)、ヨッケ(YYOKKE)、ナー(Nah)の3人だが、ほとんどはサクマがコントロールしている。

 3人は、物静かで、シャイだが、わりと気さくな人たちである。週末の夜、下北沢のレコード店で待ち合わせをした我々は、店を出ると人通りの少ない通りの、若者で賑わっている値段の安いカフェに入った。生ビールを注文して、それからスパゲッティー、フラインドポテト......。

「Gorilla vs Bear」という『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。最初は〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。

ジェシー・ルインズはどうやって結成されたの?

ヨッケ:もともとは完全に佐久間君のソロでしたね。〈コズ・ミー・ペイン〉を立ち上げたときに、ファロン・スクエア(Faron Square)、エープス(AAPS)、そして、佐久間君のナイツ(Nites)があったんですね。最初はその3組でスプリットを作ろうと思ったんですけど、それでは面白くないからコンピレーションにしようと。でも、コンピレーションを作るには曲数が足りない。で、それぞれがソロを作れば2倍になるから、なんとかなるだろうと(笑)。

はははは、その話憶えているよ。

ヨッケ:そのときに佐久間がジェシー・ルインズという名義を作ったんです。そのときは......、なんて言うんだろう、アンビエント、ドローンじゃないけど、ディスコ・パンクも混じって、雑多なものでしたね。

いま流行のインダストリアル調な感じもあったよね。

サクマ:最初は、別名義の名前を考えただけで、インダストリアルもそんなに意識してないけど、作ったらあんな感じなったんです。

"If Your Funk"という曲ですね。

サクマ:メロディもなにもない曲ですよね。

サクマ君のなかには新しいアイデアがあったの?

サクマ:いや、何もない。ただ、コンピのために名前を作っただけ。どちらの曲もナイツ名義で良かったんです。コンピのときは、名前を考えただけです。

『CUZ ME PAIN COMPILATION #1』だよね。

サクマ:はい。2010年ですね。

ヨッケ:6月? 8月? 夏ぐらいだったよね。

サクマ:2010年の年末に、ザ・ビューティとスプリットでカセットを出そうとなって、「じゃあ、ジェシー・ルインズでやろうかな」と。ザ・ビューティにとってもそのときのメインは、ファロン・スクエアだったんですね。その次にアトラス・ヤング名義でもやってて......ややこしいんですけど、ザ・ビューティという名義は優先順位で言えば、いちばん下だったんですよね。僕は、ナイツ名義だったから。だから、自分たちのメインではない名義で何かをやろうという、単純な発想ですね。俺はその頃は、DJやるのもナイツ名義だったし。

なるほど。

サクマ:で、そのカセットを出したのが2011年の1月だったんです。それを瀧見(憲司)さんが買って、そこからザ・ビューティが出てくる。そのあと、僕も、春ぐらいかな、"ドリーム・アナライシス"という曲を作って、それが「Gorilla vs Bear」とか、海外のサイトに載って、そこからですね、海外のレーベルからオファーがやたらたくさん来るようになったのは。

どうして載ったんですか?

サクマ:僕が送ったんです。「Gorilla vs Bear」に。mp3のサイトで、〈フォレスト・ファミリー〉というレーベルもやっているんですけど、そのときは『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。テニスを発掘したのもそのレーベルでした。最初は、〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。それから、多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。

それはすごいね(笑)。

サクマ:すごかったですね。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。それで、〈レフス(Lefse)〉からアルバムを出したいというオファーをもらったんですけど、曲数がぜんぜんなかったので、「いますぐに出せない」と言ったら「マネジメントをやりたい」と言われて。海外事情もわからないので、手助けしてもらえたら嬉しいということで、マネジメント契約を交わしました。UKの〈ダブル・デニム〉から7インチを出すのはそのあとですね。

そのEP、「A Bookshelf Sinks Into The Sand / In Icarus」が出たのは?

サクマ:2011年の12月です。

そのときに『ガーディアン』が新人コーナーで取りあげたんだ。

サクマ:ちょうどリリースのときですね。〈ダブル・デニム〉の人から「来週ぐらいに『ガーディアン』に載るから」って言われて。

あれはびっくりしたよね。あのアー写が良かった。NAHちゃんも格好良かったよ。

ナー:梅ヶ丘で撮ったヤツ(笑)?

顔が写ってないの。あれは想像力を掻き立てられるものがあったと思うよ。

サクマ:そこまで考えていないけど、そのときは顔は出さないほうが良いなとは思った。何人だってわからないほうが面白いだろうし、受け手に勝手に想像してほしかった。

ジェシー・ルインズという名前が良かったよね。音楽と合っているというか。女の子の名前でしょう?

サクマ:男の子の名前です。

ナー:女の子は、JESSIEなんです。

ああ、そうか。海外からのメールって、オファー以外ではどんなメールがあった?

ヨッケ:amazingが多かったよね。

サクマ:あとは、brilliantとか。そういう単純な感想ですね。でも、やっぱ、そういう感想よりも、業者みたいな人から「ツアーを組みたい」とか、「曲を使いたい」とか、それが異様に多かった。

ヨッケ:個人ブログへの掲載許可みたいな内容のメールも多かったよね。

それそれ、それがまさにチルウェイヴというムーヴメントの正体だよね。インディ・ミュージックをブログで紹介するということのピークがチルウェイヴだったんだよね。

サクマ:そうですよね。

ヨッケ:それは無茶苦茶あったと思います。

だから、コズ・ミー・ペインが日本のチルウェイヴの代表みたいな言い方は当たっているんだけど、それはどういう意味かと言うと、そうした、2010年ぐらいのインディとブログ文化との連動にアクセスしていたっていう意味で、チルウェイヴなんだよね。音楽性で言えば、ウォッシュト・アウトとコズ・ミー・ペインがそこまで重なっているとは思えないし......。そもそもサクマ君の音楽的なルーツって何なの?

サクマ:ハードコアや、ポスト・ロック。

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とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。だから、描きたいのは、雰囲気ですね。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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自分の音楽制作に影響を与えたものってある?

サクマ:いまでも昔の音楽に影響を受けているわけではないんですよね。常に新しい音楽のほうが好きなんで、新しい音楽に影響受けてます。

音楽を意識的に聴きはじめた当時の影響は?

ヨッケ:それ、俺も知りたい(笑)。

サクマ:とくに何かひとつのアーティストがすごい好きだったという感じではないんですよね。あー、ジョン・オブ・アークは好きだった。シカゴ音響派は好きでした。20歳とか、大学時代でしたね。でも、いまもハードコアは聴いてます。高校生のときは好きだったから。

ヨッケ:コズ・ミー・ペインはみんな趣味がバラバラなんですよ。僕はアヴァランチーズが好きだった。レモン・ジェリーとか。サンプリング・ミュージックが好きでしたね。

ナー:私は、2004年~5年にイギリスに留学してたんですよね。

ま、まさかリバティーンズ・ギャルだった!?

ナー:その世代の後のもっとアングラなバンドばかり観ていました。ただ、私は、UKロックからの影響のほうが大きかったですね。日本に帰ってきたらは、どんどん古いほうに興味がいって、ゴシック・パンクとか、ポジパンとか......ヴァージン・プルーンズとか、80年代の音を探したり。

すごい(笑)!?

ナー:クリスチャン・デスとか。

はははは。

ヨッケ:ホント、みんな趣味が違っているんですよね。

UKから帰ってくると、何かやらなきゃっていう気になるよね(笑)。

ナー:ホントにそう。私も、帰ってすぐにイヴェントはじめた(笑)。

はははは。ところで、〈ダブル・デニム〉から出たときには、ジェシー・ルインズの音楽の方向性は固まっていたの?

サクマ:「Gorilla vs Bear」に音源を送ったときには、もう「これだ」という感触はありましたね。

〈ダブル・デニム〉の次は、2012年2月の〈キャプチャード・トラックス〉からの12インチ『ドリーム・アナライシス』だよね。

サクマ:〈ダブル・デニム〉からのリリース前に、〈キャプチャード・トラックス〉からオファーがあったんです。同時に3つのオファーがあったんですよね。そのなかで〈キャプチャード・トラックス〉はインディのレコードを買ってる人間からしたら特別なレーベルだったんです。

『ドリーム・アナライシス』のときはもう3人だった?

サクマ:ライヴは3人でした。ただ、ヨッケはまだサポートだったので、メンバーは最初は2人でしたけど。ライヴをやりたかったんですよね。

ナー:コズ・ミー・ペインが梅ヶ丘でやっていたパーティに友だちに連れて行かれたんですよね。それで知り合って。

サクマ:ナーは僕がこういう人がいいなって考えてた理想像に近い人だった。あと、メンバーにするなら、もともと友だちじゃないほうが良いなというのもあったんです。コズ・ミー・ペインの周辺じゃないところにいる人が良いと思っていた。

共通する趣味は何だったんですか?

サクマ:わからなかったですね。2~3回会ってから、誘った。

ヨッケ:2011年の夏前ぐらいだったね。

サクマ:初ライヴは2011年の12月でしたね。〈ダブル・デニム〉からシングルが出て、すぐぐらいでしたね。渋谷のラッシュというところでした。夏前から半年弱くらい3人でスタジオ入ってひたすら練習してました。

ヨッケはドラム経験者?

ヨッケ:いや、それが初めてでした(笑)。

サクマ:俺もぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。

サクマ君とナーちゃんの2人で録音した最初の曲は何だったんですか?

ヨッケ:『CUZ ME PAIN compilation #2』の曲(Hera)じゃない?

サクマ:基本的には僕が曲を作っているんですが、一緒に作っているってことはないですね。曲を作って、ヴォーカルを入れてもらう。だから......これは言っていいのかな......。

ナー:はははは。

ヨッケ:ああ、そういうことか。

ええ、意味ありげな、なにが「そういうことか?」なの(笑)?

サクマ:どうしようかな......。

ナー:はははは。

サクマ:正直に話すと、彼女のヴォーカルを入れたのは今回のアルバムが初めてです。〈ダブル・デニム〉や〈キャプチャード・トラックス〉からの音源は、実は僕が曲も作ってヴォーカルをやって完パケまでやっている。女の人の声になっていますが、実は僕の声を加工して、編集したものなんです。ただ、そこをずっと隠していたんです。あたかも彼女が歌っているように。

『ガーディアン』でも「androgynous(中性的)」とか、「we have no idea whether Jesse Ruins is a boy or a girl(ジェシー・ルインズが男の子なのか女の子なのは我々は知らないが)」って紹介されていて、やっぱそこは、すごく引っかかるところだったんでしょうね。

サクマ:まあ、わかる人にはわかったと思いますけどね。ただ、その編集した声と、実際の彼女の声が似ているんですね。すごい偶然なんですけど。だから、ライヴを聴いている人には、本当に彼女が歌っていたんだと思っている人もいたと思います。

へー、面白い話だね。それでは、今回の『ア・フィルム』は3人のジェシー・ルインズにとっての最初の作品でもあるんだね。

ヨッケ:とはいえ、ほとんどがサクマ君が作っていますけどね。僕は録音を手伝ったり、1曲だけアレンジを担当して、マスタリングを手伝った。

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ぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。


ジェシー・ルインズ
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ジェシー・ルインズが描きたいものは何でしょう? 何らかのムードやアトモスフィアを描きたいのかなと思っているんだけど。

サクマ:海外のサイトでは、よくM83と比較されるんですけど、好きですけど、ぜんぜん意識したことない。モデルにしているようなアーティストがいるわけでもないんです。最初のイメージとしてあったのは、ソフィア・コッポラの映画と『ツイン・ピークス』の雰囲気が混ざった感じでしたね。

ヨッケ:ソフィア・コッポラは音楽の使い方がうまいですからね。ニュー・オーダーとかストロークスとか。

エールとか?

サクマ:『ヴァージン・スーサイド』ってよく言われるけど、『ロスト・イン・トレンスレーション』です。「Gorilla vs Bear」に送った音源は、あの斜陽な感じと、それから『ツイン・ピークス』のダークな感じを出したくて作りましたね。

ヨッケ:インダストリアルなM83みたいなことを言われたんですけど、ニュー・オーダーの影響を受けているのがM83なんで。

ああ、そうか、ニュー・オーダーって映画から知っているんだね。

サクマ:とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。

はははは。

サクマ:だから、描きたいのは、雰囲気ですね。

そうだよね。歌はあっても、言葉がないもんね。そこはすごく徹底しているというか。

ナー:ライヴをやっているときも、自分でも無茶苦茶エフェクトをかけていますからね。

アルバム最後の曲なんかは、ヴェルヴェットみたいだけど、もっと抽象的だよね。ああいう文学性はないしね。

サクマ:もともと歌い上げている音楽は好きじゃないんで。歌が中心にある音楽が好きじゃない。音が部分としてあるほう好きなんで。シンセと歌メロは同じなんです。

声も楽器のひとつという言い方は昔からあるんだけど、それとも違っているかなーと思うんだけど。あと、8ビートじゃない。ほとんど8ビートだよね。

サクマ:そこは気にしていない。わからないから。僕がそれしかできないってだけなんです。打ち込み能力がないんです(笑)。ただ、もし能力があったとしても複雑なことはやらないかと思いますね。

ニュー・オーダーの"ブルー・マンデー"よりもジョイ・ディヴィジョンのほうが好きなんでしょ?

サクマ:ああ、そうですね。僕はジョイ・ディヴィジョンのほうが好きです。意識してなかったけど。

ヨッケ:8ビートだから僕が叩けたっていうのもあるね(笑)。

はははは。

サクマ:中学生用のバンドスコアですね。

いま日本のロック・バンドって、なんであんなにみんなうまいの?

ヨッケ:真面目なんだと思います(笑)。ドラムは過去にやったことがまったくなくて、YMOの"CUE"という曲があるんですけど、最初はあの曲の坂本龍一の叩くストイックなドラムのコピーからはいりました(笑)。

ナー:初めて知りました(笑)。

はははは、練習した?

ヨッケ:練習はしませんでしたが、研究はしました。

サクマ:うまくなくても良いんですよ、僕は。自分たちがスタジオ・ミュージシャンみたいにうまかったら、面白くないと思うんです。

『ア・フィルム』というタイトルにしたのは?

サクマ:収録曲が、映画のタイトルや登場人物の役目などを文字って付けているんですよ。完全に自己満足の世界ですね(笑)。最初は、タイトルは「ジェシー・ルインズ」でいこうと思っていたんですけど。

それいいじゃん!

サクマ:でも、『ア・フィルム』のほうがリスナーが勝手に想像できるかなと。曲もそんな作り込んでないんです。もう、ばーっと作った感じ。作り込んでしまうのが嫌なんです。

ヨッケ:2ヶ月以内でぜんぶ作ってましたからね。

海外ツアーの予定は?

サクマ:今年はそれが目標ですね。『ドリーム・アナライシス』のとき、ツアーの話は2回くらいあったんですけど、中止になりましたから。アルバムが出るんで、今年はやりたいな。日本国内のツアーはします。

ライヴはいまのところ何本くらいやってるの

ヨッケ:20本ぐらいかな。多いときは月に2回はやっています。

サクマ:次のライヴでは4人組になるかもしれないね。

新メンバーが?

ヨッケ:ドラマーが入って、僕がギターその他を担当するっていう。

レーベル的には新しい動きはある?

ヨッケ:コズ・ミー・ペインの新しいコンピレーション、『#3』を出します。

良いですね。コズ・ミー・ペインは、さっきのチルウェイヴの話じゃないけど、ブログ文化で支えられながら、フィジカルではアナログ盤とカセットのみという、そこもチルウェイヴの人たちと同じだったよね。

ヨッケ:そこは自分もひとりのリスナーとして、そうでないと嬉しくないというか、残るものにしていというのがありましたね。ネット・レーベルが全盛ですけど、僕らがそれやったらすぐ終わっちゃう気がするんですよね(笑)。やっぱ、アナログやカセットみたいに、手間暇かけてやるからこそ、続ける気になるというか。そういうのが単純に好きなんです。

サクマ:お金ないんですけど(笑)。

ヨッケ:お金ないんですけど(笑)。

 サクマは、コールド・ネーム名義でも最近、カセット・レーベルの〈Living Tapes〉から作品を出したばかり。また、ジェシー・ルインズの視聴はココ→https://soundcloud.com/lefse-records/jesse-ruins-laura-is-fading

■5月26日『ア・フィルム』リリース記念のパーティがあります!5/26(sun) at 渋谷Home
Cuz Me Pain
-Jesse Ruins "A Film" Release Party-

OPEN 18:00予定

Live
Jesse Ruins
Naliza Moo
and more...

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interview with Tatsuhiko Nakahara - ele-king

 さて、今回の主役はアーティストではない。イヴェンターである。いっぷう変わったスタイルで注目を集めるライヴ・イヴェント〈月刊ウォンブ!〉(https://gekkanwomb.com/index.html)の企画者、仲原達彦氏に話をきかせてもらった。
 音楽産業の昨今をめぐっては、CDなどのフィジカル・リリースが苦戦をつづけるのに対し、大型ライヴ・イヴェントへの動員が増えているといった話が好んで取りあげられるが、仲原はそうした産業構造の変化を捉え颯爽とイヴェント業界に新規参入を果たした風雲児......とかではない。彼が活動するのは、もっと地味で、もっと儲からないフィールドだ。しかもその規模については、当人が明確に「自分の目の届く範囲」という限定を加えている。筆者がおもしろいと思ったのはこの独特の尺度である。

 仲原が企画するイヴェントは、アーティストありきの公演スタイルではなく、そこにひとつの場所性を生むことを優先するものであるように見える。たとえば〈月刊ウォンブ!〉は月1開催・12回完結という異色のライヴ・サーキットだが、この連続性のなかで〈ウォンブ〉はまるで場所のように機能しはじめる。毎月そこに行く。行くとこのイヴェントのコンセプトをゆるやかに共有した他のリスナーがいる。「○○が出るから観にいく」というよりも〈ウォンブ〉に行く、という感覚が芽生えはじめている印象だ。趣味のコミュニティのような雰囲気に近いかもしれないが、もちろん会員制などではないし、どんな動機で観にいってもかまわない、かつ出演者のタイプも多彩だから、ほどよい流動性と距離が保たれる。それぞれにとっての「行きつけ」となる可能性が入口に横たわっている。

 また、そこに集まる客とアーティストとオーガナイザーという三角形のなかで、やりたいことや金や充実感などがストレスなく回るような、三方一両得なシステムが模索されているようにも感じられる。詳しくは以下のインタヴューを読んでいただきたい。アートや音楽とそのマネタイズにまつわる問題は根深いが、それぞれに理想的な状態や条件を捨てずに運営できるサイズと方法が、たとえば〈ファクトリー〉のころには無理でも、いまならあるかもしれない。(こうしたことに異なった立場と方法で取り組んでいるひとりには、たとえば〈マルチネ〉のtomad氏などがいる。※ele-king vol.7参照)

 ......等々ということがらが、仲原の言う「自分の目の届く範囲」においてなら可能なのではないか。もちろん、仲間内のサークル活動ならば同様の動機によって発想されたものがほとんどだろう。しかし、商業的なイヴェントにこの単位を持ち込むのは難しい。両者は背反する原理を持っている。そのフィールドのなかで「自分の目の届く範囲」だからこそ守り、豊かにすることのできるものを、仲原ははっきりとつかまえている。そしてそうしたものが大切にされていること自体が、じつにいまらしい価値観であると感じられる。大規模イヴェントひとつの価値に、こうしたイヴェントひとつの価値が劣るということはない。むろんどちらにもそれぞれの楽しみがあり、欠点もあるだろう。単純に比べることはできないのだが、音楽イヴェントが提供できるもののなかで、音楽以外の部分が持っているたくさんの可能性について、彼らの活動はまだまだ多くを示唆している。

 仲原は大学在学中から複数のイヴェントを形にし、年若くして企画力も行動力も持ち、何よりも活動の根本にはっきりとコンセプトや理念を据えている青年だ。東京では毎夜たくさんの音楽イヴェントが開かれていて、そこにはさまざまなイヴェンターの思いや苦闘や工夫が、同じだけさまざまな形態と規模をもって展開されているわけだが、その一隅で芽吹きはじめた彼と彼らの活動に注目してみたい。

 では長くなりましたが、どうぞ本文を。収録は〈ウォンブ〉の第2回が行われた2月末。すでに第3回が行われた後のタイミングになってしまって恐縮だが、印象は変わらない。フロアにひとりとして知り合いはいないが、オオルタイチのノイズのカーテンを「やってる?」とくぐることができた。

月1開催・12回完結。〈月刊ウォンブ!〉とは?

僕は企業にいるわけでもないんで、ずっとつながっていてくれる人たちや環境があるというのはありがたいですね。

第1回めってシャムキャッツの印象も強かったためか、華やかでフレッシュな、ロック・バンドらしいバンド・サウンドをメインにした夜、という印象がありました。新しくて勢いのある存在をフック・アップしようという。

仲原:若くて男くさい感じですよね(笑)。初回は元気をつけたいなと思って。

あ、やっぱり「連続もののなかの初回」という意識があったんですね。それに対して第2回はシンガー・ソングライターの系譜を軸にしつつ、もっとじっくり歌とかムードを楽しんでもらおうというディレクションがなされていたと思います。実際にはブッキングについてどんな狙いや意図があったんでしょう?

仲原:そうですね、〈月刊ウォンブ!〉は12回あるわけじゃないですか。なので同じ傾向でずっとやっていくと、そこから外れることに不安が生じてくると思ったんです。変化させることが難しくなるといやなので、まずは最初の2~3回でできるだけいろいろなことをやろうと。試行錯誤の途上ですね。

3月はオオルタイチさんから柴田聡子さんまで、またヴァリエーションが広がりましたね。

仲原:はい。でも振り幅をさらに広げても大丈夫だという自信が生まれてきましたね。

実際すごくしっかり考えられてますよね、イヴェントの構想として。いい悪いは別として、イメージやヴィジョンを持たない企画も多いわけじゃないですか。

仲原:しっかり考えないとバレちゃいますから。何も考えてないなって。ただ集客が期待できそうだから組む、というのでは飽きられるし、僕自身がやってて楽しくないですね。スタッフ含め全員が楽しい状態でやりたいんですよ。

まさに次に訊きたかったことなんですが、〈月刊ウォンブ!〉って全12回完結ですよね。長いサーキットなわけです。そんなふうにあらかじめ回数が決まってたりとか、会場をリングに見立てる演出があったり等々、イヴェントありきではなくて、イヴェントをやる意義そのものを問い直そうというような気概を感じるんですよね。そもそもこのイヴェントの構想がどんなふうに生まれてきたのか、そのなかに何を見ているのか、教えていただきたいです。

仲原:本当にはじめのことからお話しすることになるんですが、僕が去年、一昨年とやっていた〈プチロックフェスティバル〉からはじまると思います。〈TOIROCK FES〉というのもやっていました。どちらも普段ライヴをやるような場所ではないので、ゼロからイヴェントを作っていました。〈プチロック〉は日芸(日本大学藝術学部)の学園祭でやるフェスで、学校の力を借りず個人で企画してました。〈TOIROCK〉のほうはさいたまスーパーアリーナにTOIROってスペースができて、そこのオープニングで5日間何かやれないかということで生まれたイヴェントです。
(2012年)12月の〈TOIROCK〉をWOMBのなかのライヴ事業をやっている部署のかたが観に来てくれていて、こういうイヴェントができないかという相談を受けたんです。
僕自身、既存のライヴハウスでやることにはそんなに興味がなかったのですが、熱心にWOMBのスタッフの方が声をかけてくれて。12月の中頃に下見に行って、「もしかしたら変なことできるかもなあ」って思って、そこから現実的に考えはじめました。1回だけのイヴェントだとテンション上がらないな、と思ったので、やるなら1月から毎月、1年間やるのはどうだろう、という話をして。WOMBで毎月ライヴ・イヴェントは誰もやってないことなんじゃないかなと思って、徐々にやる気がでてきました。
WOMB(ウーム)って最初は読めない人が多いと思うんです。実際僕もそうでした。なので読み間違いである「ウォンブ」というイヴェント名をつけました。

さらに「ウォンブ」と『週刊少年ジャンプ』って似てるし、響きもいいなというところから〈月刊ウォンブ〉に。どうせならフライヤーもマンガにしたいと思って、『シティライツ』等の作者、大橋裕之さんにお願いしました。友人のイラストレーター、ゴロゥちゃんにお願いして、『ジャンプ』みたいなウォンブ・ロゴも作ってもらって。そういった作業が全部面白かったですね。
イヴェントのフライヤーって、イヴェントが終わると価値がなくなるじゃないですか。かわいければ取っておくけど、大抵捨てられちゃう。でもマンガになっていると捨てるどころか、わざわざ遡って集めてくれる人までいるんですよ。次も欲しくなるし。こういうフライヤーって無かったなと思います。
あと、これは初めて言うんですが、12ヶ月分のフライヤーを綴じる「表紙」を12月の月刊ウォンブでご来場者全員に配布します。このマンガにだけ興味あって集めてる人もいるかと思うんですが、いつかイヴェントにも来てくれるとうれしいですね。

なるほどー。そうやってお訊きしたあとからこじつけるわけではないんですが、極端に言えばライヴというかたちを通したひとつのインスタレーションというかね、終幕とともに表紙をそれぞれが綴じるという、参加する側の行為によって完結するリレーション・アートみたいな側面があると思うんですよ。演者を観せとく、っていうものとは根本のところが違うと思うんですね。そういえば、日芸のご出身なんですか? なにか日芸コネクションというか、大学で会った仲間や知り合いが活動の母体になってたりします?

仲原:いや、あんまりいないんですよね。日芸の映画学科なんですけど。脚本コースってところがけっこうヒマで、よくライヴに行ったんです。そこでU-zhaanさんとかと仲良くなって、ライヴのお手伝いをするようになって、音楽の仲間も増えていきました。それで〈プチロック〉につながっていくんですが、そこで集まってもらったチームとほとんど変わっていませんね。アイディアを出してくれたり、発想や嗜好が近い人たちに集まってもらいました。仕事ができるというのはもちろんですが、おもしろがってくれる人を大事にしたいと思って。この3年間でだいぶチームとしてできあがってきたし、さらに今年の12回でまとまりも強くなっていくだろうなと感じています。〈プチロック〉で募集した学生のボランティアの人たちは十数人残ってくれてますし、すごく助けられてます。

イヴェントってスタッフと協力体制がとっても重要でしょうからね。

仲原:僕は企業にいるわけでもないんで、なおさらですね。ずっとつながっていてくれる人たちや環境があるというのはありがたいですね。

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〈roji〉というキー・ワード

〈roji〉は結構ゆるくて適当で、つながりを強要されずに自然にみんなが集まってくる場所なのがいいですね。

わたし自身、日本や東京のインディ・シーンに詳しいわけではないのですが、〈阿佐ヶ谷Roji〉ってひとつのキーワードになっているのかなと感じることがしばしばあるんですね。〈月刊ウォンブ!〉もフードの提供が〈Roji〉ってしっかり明記されてるんですけど、このイヴェントの本質をある部分から照らす存在なんじゃないかと思うんです。それについても後ほどうかがいたいんですが、まず〈Roji〉について紹介してもらってもいいですか?

仲原:ああ、なるほど。〈Roji〉っていうのは、ceroの高城くん(vo.)とお母さんのルミさんがやっているお店ですね。高城くんって、僕の大学の先輩なんですよ。時期はかぶってはいないんですけどね。大学1年生のときからceroのライヴによく行くようになって、〈Roji〉にもよく行くようになって、2011年の6月くらいに声がかかって週1で入ることになりました。〈Roji〉はシャムキャッツの夏目くんとか、王舟とか、他にもたくさんのミュージシャンが集まってくる店でもあるので、その界隈のミュージシャンと仲良くなりました。〈Roji〉で働くようになってから知ったミュージシャンも多いです。結構ゆるくて適当で、つながりを強要されずに自然にみんなが集まってくる場所なのがいいですね。
2月の〈ウォンブ〉のフードのことも、「火曜メシ出さない?」って店長のルミさんにきいたら「いいよー」ってふたつ返事で決まって、そんなくらいの気負わない店なんですよ。だから、僕にとっても大切な場所だけど、何か組織として機能している場所って感じではぜんぜんないですね。生活の一部くらいな感じです。

ああ、なるほど。その生活の一部だっていうような感じで、表には見えなくてもコンセプトの底の方に隠れてるものなんじゃないかなって思ったりしたんです。ひとつのカフェやバーという場所を起点にしてゆるやかに音楽コミュニティが形成されているっていうこと、しかもそれがいくつかのアーティストの成功によってそこそこ大きいかたちでシーンのなかに存在感を示しはじめている、そういうのはいまどき珍しいなと感じるんですよね。この数年はとくにネット・レーベルとかネット上のプラットフォームを利用して、様々なコミュニティとか刺激的な表現が生まれてきてると思うんですが、そういうものに比較して、地域性やリアル空間でのコミュニケーションに根ざして生まれてきているシーンを、仲原さんはどのように見ていらっしゃるんでしょう?

仲原:なんだろうなあ。〈Roji〉だけじゃなくて、阿佐ヶ谷ってベッドタウンみたいなところなので、わざわざ遊びに行くというよりは帰りに一杯飲んで帰る、みたいな雰囲気は良いですよね。ミュージシャンばっかりじゃなくて、ライヴ好きな若い音楽ファンも多くて、さらにお互いの距離が近い感じはあります。はたからみたらコミュニティだけど、内部ではそこまで意識してるわけではなくて、趣味の近い人が集まってるって感じですね。今回こんなふうに指摘されて、そういうこともあるなと気づいたくらいで。
ただ、たしかにイヴェントには〈Roji〉のお客さんも多いんですよね。べつに特に意識して呼びかけたわけじゃないんですけど。あとは〈TOIROCK〉〈プチロック〉もネットでしかチケットは買えなかったんですけど、唯一リアルな場所で買えるのは〈Roji〉だったりはしましたね。それも僕がバイトしてるから売りやすいってだけだったんですけど、もしかすると、無意識に〈Roji〉という場所の作用が働いていたりするのかもしれないですね。

〈ウォンブ〉が12回完結になることには様々な偶然や条件も働いたわけですけれども、やっぱり持続する場所性――1回きりじゃなくて、そこが「場所」であるということがどこかで意識されているんじゃないか、その意識の底には〈Roji〉みたいなものが原型としてあるのではないか、そんなことを感じるんですよ。

仲原:それは僕が2月のイヴェントを終えたときにすごく感じたことのひとつですね。すごくいい場所になったなあと思っていて。1回目じゃわかんなかったんですけど、2回目は「あ、この人前回も来てくれてたな」っていうのがあったし、「また来月ね」みたいなやりとりとかも聞こえたり、そういう人たちがまた新しい人を連れてきてくれたりっていうことを感じました。毎月1回の、みんなの決まった用事、みたいなことっていままでなかったなって。

ああー。

仲原:それはすごくうれしい言葉だし、こちらが強要するわけでなく、また来月ここに集まろうねっていう場所を作れているのならいいなって思います。来月の出演者に興味がなくても来てくれるとか。「場所」を作ったなっていうのは、ちょうど昨日ライヴが終わって感じたことですね。ツイッターとかを見てもそう思いました。「前より音よくなってるじゃん!」とか。前との変化をみんなが楽しんでくれて感想を言ってくれるのはすごくうれしいことでした。「ステージのかたち変わってたじゃん」「今回煽りVTRないの?」とか(笑)。

○○が出るから、というのではない動機が生まれている。

仲原:そうです。だんだんそうなっていけばなって思ってたのに、2回目からみんながそれを意識してくれている。僕以上に。だからけっこうびっくりしてますね。そうして場所っぽくなることに。

わたし職業的に問題がありますけど、ライヴって得意ではないんですよ。そこにいるだけで気が散ったり緊張してしまうし、演奏だけ観たい。ましてアーティストのMCに笑うとかそんな余裕がない。けど〈ウォンブ〉ってわりとつられて笑ったりできるんですよね。だから内輪かそうでないかギリギリのところで、でも排外的じゃない感じのインティメットな空気が流れていて、けっこう居心地がいいんです。それはやっぱりうまく場所を作れているということなんじゃないですかね。出演アーティストの種類だけで作れるものではない。

仲原:そうですね、僕だけでも作れませんしね。あそこの雰囲気を作っているのはお客さんがいちばんかなと思います。僕らが楽しんでいるということも大事なんでしょうけど、お客さんの感じがいいです。みんなずっと楽しそう。特定アーティストのときだけ観る、という感じじゃないですしね。〈プチロック〉も〈TOIROCK〉もそうで、本当に音楽が好きなお客さんたちなんだなって。それに毎回助けられています。

金と人間関係。すべてのコミュニティはかなしく滅びる!?

このまま続けて、結果を出したいと思ってます。このやり方で誰もが大丈夫っていう状態をつくれてはじめてイヴェントだというか......。とりあえずまだ諦められないですね。

あえて悪くきこえるかもしれない質問なんですが、ネットと違って、いまいったような「場所」の維持ってけっこうなコストがかかると思うんですよね。それは経済的にもそうだし、人間関係においても出てきたりするものではないか、一般的には。多くの音楽コミュニティやそれを母体にしたレーベルも、わりと悲しい歴史をたどっていたりしますよね。いくらマーケット・システムに、音楽や人間関係といった貴重な財を絡め取られないようにってがんばっても、たとえば〈クリエイション〉のアラン・マッギーとかも苦闘しつつレーベルを潰すわけだし、「アーティストに最大限のバックを」って考えてたトニー・ウィルソンの〈ファクトリー〉なんかも同様で、そういう顛末はみんなすでに物語になってるくらいです。そういった歴史に鑑みて、なかなか音楽コミュニティの永続というのは難しい。わたしは〈ウォンブ〉に12回という縛り、時限が設けられているのを興味深く思っているんですが、どこかでコミュニティとその限界みたいなものについての嗅覚が働いていたりするんでしょうか? 経済的な部分について、また人間関係的な部分について、お考えがきければなと思います。

仲原:いや、経済的なところはほんとにいろいろありますよ。お客さんや演者にはなるべくそこは意識させないようにって思っています。隠すという意味ではなくてね。この12回もいろいろ大変だっていうところはもちろん見えているわけで、正直そこはもう少しどうにかしなければいけないという意識があります。スタッフにも還元したいですしね。それはやる側のモチヴェーションにもつながる大事な話です。
 ではたとえば入場料を上げるのか? 3000円にすれば簡単なことではあるんです。けれどそれをやるとせっかくの「場所」をつくるという部分が損なわれてしまう。節約できる部分だってあるでしょうね。たとえばリングを特注していますが、あれにもすごくお金がかかっている。でも12回のイヴェントのそもそもの根本を考えて、必要だと判断しているわけです。ここはほんとに難しくって......。

いや、でもそこに挟まって苦闘されている話をこそききたいというか、それによって勇気づけられる人もいるでしょうし、たとえばここで仲原さんが斃(たお)れても、それを越えていく人のための大事な礎になると思うんですよ。音楽とかイヴェントにとって一種の理想主義はとっても重要なものですし、それがどのように達成され、あるいは失敗してしまうのか......達成してほしいですし、提示された音楽性とはまた別の部分で、この行く末って注目したいところです。

仲原:やっぱり、正直なところ経済的な部分は見せたくないって面もありますよ。普通のお客さんなら気にしないところだとは思いますけど。

じゃあ極端ですけど、究極的には貧乏しても理想を通したい? それとも儲からなければ理想も意味ない?

仲原:僕は、理想を通して儲からないかなって思ってます(笑)。

ああ、偉いですね。

仲原:このまま続けて、結果を出したいと思ってます。12回あるわけだからこのなかでどうにかしていきたい。僕はこれに賭けているという部分もあるので、〈ウォンブ〉がうまくいくかいかないかというのはとても重要です。おもしろいと思ってくれている人がいても、結果が出なかったり、誰かが過度に苦労したり、スタッフが困ってしまうような状況になったとすれば、それは続けないほうがいいんだと思ってます。このやり方で誰もが大丈夫っていう状態をつくれてはじめてイヴェントだというか......。とりあえずまだ諦められないですね。

うーん、応援したいです。一方で、イヴェントのもうひとつの柱である音楽的な方向性についてなんですが、やっぱり、〈ウォンブ〉も演奏を観せるだけではなくて、新しいアーティストや音を紹介していく場を兼ねてもいるわけじゃないですか。「こんなシーンがある」っていうのは、アーティストたちがそう名乗るわけじゃなくて、われわれメディアやイヴェントやファン・コミュニティなんかが歴史にしていくわけですよね。

仲原:そうですね。いまはピンときてないんですが、いつか「こんなシーンがあった」って語ってもらえたらうれしいなとは思います。

ぼくらに最適なサイズとは?

僕にとっては、僕自身の手の届く範囲のなかでやりたいということがいちばん大きいです。自分の手の届ききらないものになってしまったら、たぶんやめちゃうと思います。

ところで、またちょっとあえてネガめの質問なんですけど、このイヴェントが大きくなっていく未来があったとして、大きくなることは、ある意味で異物を巻き込んでいくことでもあると思うんですね。もしかするとわたしだってそうかもしれないですが、もっと無責任に参加してきて、悪意のある非難をする人も出てくるかもしれない。ステージの規模を上げるっていうのは、そういう危険を呼び込む可能性も高くなるということです。どうでしょう? それでも大きくなっていくべきなのか、そうなったときに守りたいものが何なのか、それにおいては規模を上げる必要もないということなのか。

仲原:うーん、異物を排除していきたいという気持ちはないです。実際に大きくならないとわからない部分はあるんですが、でも、うーん......あんまり気にしてないですかね(笑)。でも、僕にとっては、僕自身の手の届く範囲のなかでやりたいということがいちばん大きいです。自分の手の届ききらないものになってしまったら、たぶんやめちゃうと思います。顔が見える範囲でやっているのが楽しいし、大きくなっちゃったとしてもたぶんそのレベルが変わらないところまでというか。それに、このまま大きくなっていけるのかもしれないし。

そうか、そうですね。それは確かにいま考えることではないですから。でも「手の届く範囲」というすごくシンプルな、でも根本的なものさしを意識されているというのが印象的でした。その範囲においては問題というかブレは起こらないと。

仲原:そうですね。今回のイヴェントだって批判をする人はいるでしょうし、もちろんそれは受け入れていきます。ただそれに引っ張られるわけではなくて、僕はやっぱり、やりたいことをやりながら、いつかその人たちにも納得してもらえるようなものを目指していきたいですね。

やっていることも方法も違いますけれども、たとえば〈マルチネ〉のtomadさんたちなんかも、やりたいこととお金の問題と、それをどうアーティストやまわりに還元していくかということに対してとても繊細な工夫と挑戦をされていて感心するんですよ。イヴェントとレーベルでは役割も活動するレイヤーも違いますけど、そのへんの音楽とお金の構造をめぐっては、ぜひ妥協せずに実験なさってほしいなと思います。でかいビジネスにするんじゃなくて、アーティストにもスタッフにもユーザーにも理想的な状態や条件を捨てずに続けられるサイズと方法が、〈ファクトリー〉のころには無理でも、いまはあるかもしれない。それは音楽にとってもいいことのはずです。

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入場料とは何か

イヴェントを楽しめる/楽しめないということは料金設定にも関係しますから。モトが取れた感覚があると楽しい。

仲原:アーティストへの還元は僕も悩みながらいろいろ考えているところで。今回はチケット代をちょっと安めにして、そのかわりフードとか物販を大きくしたんですよ。物販ってその場でダイレクトにアーティストにお金がいく場所なので、けっこう重要だし、そこでひとつの還元が可能になるんです。CDショップだとそうでもないかもしれないけど、お客さんからしてもライヴ会場の物販でお金を払うときって、アーティストに直で渡してる感覚が強いと思うんですね。ライヴ・チケットが3000円だとすると、1000円のものを買うのに躊躇しちゃうけど、2000円だったら1000円くらいは財布のひもも緩む。だからその意味でも僕のイヴェントはできるかぎり入場を安く抑えようと思ってるんです。
 〈プチロック〉の入場料は1500円なので、ほんとに物販がすごく売れるんですよ。たくさん持ってきた物販が全部なくなってるとかってことが結構あって。お客さんの意識が高いのもありますが、これはすごいなって思います。来て、何か買うっていうスタイルがスタンダードになってほしいですね。CDだけだと見に来ないかもしれないけど、フードやフリマがいっしょに並んでると、ちょっと物販のぞこうかなという気にもなる。あまりたくさん出演料をお渡しできるイヴェントではないので、そのあたりの工夫でアーティストに少しでも還元したいです。

ああ、それは新鮮ですね。ストレートに入場料からではなく、物販への誘導という別ルートから還元のシステムをつくる。みんなやってることなんですか? オリジナルなアイディア?

仲原:どうなんでしょう。わざわざそういう話をしあうということはないんですが、僕には経験的な体感としてあったんですよ。入場料1500円なら確実に物販が売れる、っていうのは。それから、〈トイロック〉は2000円ですけど、そのうち1000円分はフード・ドリンク・チケットにしたんですよ。3000円でライヴだけだと、「3000円分ライヴ楽しまなくちゃ」って思っちゃうけど、その分何か付いてるとちょっと違ってくる。「あれ? 俺たちほとんどメシ食いにきただけじゃん?」っていうのもいいと思うんですよね。

チケット代のなかに入場以外のサーヴィス代も含まれていると感じられれば、楽しみ方も変わってくると。USとかだと、ライヴハウスがただのレストランみたいなところだったりして、出てるのが誰か知らなくても食べに来て音を聴くっていいますしね。

仲原:何か手本があってはじめたわけではなくて、ほんとに実感からはじめたことなんです。でもお金ってほんとに微妙で繊細なものでもあって、もし入場料で3000円とってたら、もっとイヴェントへの批判もあったかもしれませんね(笑)。そういうものだと思います。イヴェントを楽しめる/楽しめないということは料金設定にも関係しますから。モトが取れた感覚があると楽しい。

なるほど(笑)。もちろん、音楽だけでもそれは可能だと思うんですが、イヴェントというものの別のあり方をとても意識していらっしゃる、とくにそれが、音楽を聴く場であることを超えた居場所となることを考えておられるから出てくる発想だと思うんですよね。

仲原:だからといって、フリー・イヴェントが成功するということでもない。そこは自分がやることになったとしても、お客さんの目線でどうやって楽しめるものにするか考えます。

小規模ながら「フリマ」があるのも楽しかったですよ。文化祭みたいな手作り感で入りやすいし、かといって閉じた感じもなかったですね。物販っていう制度を押し付けられるわけでもなくて、参加型というか。やる側と観る側とスタッフの三角形のなかで、どうやって快適さとお金を回していくのか、まだ未完成なんでしょうが、そういう大きめのヴィジョンが感じられました。

仲原:フリマは基本的に僕の知り合いにお願いして出展してもらってるんですが、僕も当日まで何が出るとか把握しなくて、毎回すごく楽しみなんですよ。ライヴの転換中にフリマのフロアが賑わってるのを見るのもすごくうれしいし、楽しい。もしかしたらこういうのをいろんな制度とか、型にはめてやっちゃうと楽しくなくなるのかもしれないですね。

リングが可視化するもの

(リングに)ロープもつけてセッティングしたときに興奮しましたね。あれはまだまだアップグレードできるし、僕はお金をかけていくところだと思ってるんです。

仲原:あとはプロレスのリングのことですね。あれは単に、今年の1月4日に新日本プロレスの〈1.4〉に連れて行かれて、めちゃくちゃ感動したのがきっかけなんです。東京ドームだったんですけど、すごく興奮して。 格闘技は好きだったんですけど、WOMBでイヴェントやるってなったときに、真ん中にステージ置きたいなって思ってたのもあって、つながりましたね。次の日には僕の知り合いにプロレスの衣装を作っている人がいるので、その人に相談しました。その人の奥さんは内装のデザイナーみたいなことをされていたので、3人で話して、リングを特注しようということになりました。

えー。すでに本番2~3週前じゃないですか?

仲原:実際に話を進めたのは1週間前からで(笑)。制作期間は4日間で、当日の朝仕上がりました。もうどんなんができてるんだ!? って状態です。1本1本はただの鉄の棒なので、迫力もないし、大丈夫かなって。でもロープもつけてセッティングしたときに興奮しましたね。あれはまだまだアップグレードできるし、僕はお金をかけていくところだと思ってるんです。

へえー! そこですか(笑)。

仲原:もっと進化させます。誰も期待してない進化ですけどね(笑)。音響とかは僕もすごく意識して、よくなるように取り組んでますけど、映像とかリングとかって誰も進化することを想定してないと思うんですね。そこをよくしていくと「あ、変わった」っていう反応がくると思うんです。

これは意図したところではないかもしれないですけど、やっぱりライヴってステージという線があるかないかで別のものに変化すると感じました。観る側がステージというものを意識すると、どうしてもアーティストにこうべを垂れるというかたちになる。もちろんその構図はぜんぜん悪いものではないです。ですけど、そこにあの一本のロープが張られることで、あっちは見せ物だぞという感じが強調されると思うんですよね。極端な話、観客がゼロでも成立するのが音楽です。でもあのロープは、観てるやつがいないと成立しないぞ、ということを意識させる。客が優位になって、前のめりな参加ができる。

仲原:ちょっと喧嘩腰ですよね(笑)。

野次がいい感じに飛んでますよね。

仲原:そうですね、盛り上がるところで盛り上がってもらえるようになったなというか。そういう感じはありますね。

そうそう、音楽にとってそれが最良の聴かれ方だという意味ではなくて、イヴェントの魅せ方、楽しませ方としてやっぱり斬新なものはあると思うんです。

仲原:最初にミツメの映像が流れたとき、みんなポカーンとなったと思うんです。何だこれ? みたいな。でもビーサン(Alfred Beach Sandal)が悪役として出てきて、最後にシャムキャッツが現れたときには、異様なヒーロー感が出てたんですよね。それぞれが何かを残したわけではなくて、ああ、これプロレスを真似てんだなってお客さんが理解してくれるなかで、勝手にそういう見え方ができていくというか。シャムキャッツのときには花道に行ってハイタッチしてる人たちもいましたから(笑)。お客さんが楽しみ方を見つけてくれるということを感じて、すごくうれしかったし、あの仕掛けはそういうものなんだなって思いました。カメラマンがリングサイドからカメラでぐいってのぞき込んで撮ってるのも、そのまんまプロレスじゃねえかよ! って感じで楽しかった。

きっとリングは最初に思っていたこと以上の効果を持っていると思いますよ。

仲原:そうですね。きっかけはただプロレス観に行ったというだけだったんですけどね。不思議な気持ちがします。あんなに機能するとは思ってなくて。リングだけじゃなくて、WOMBっていう会場の力に助けられている所もたくさんあります。映像を大きく映せるので、SphinkSさんとmitchelさんに協力してもらってリアルタイムVJを投影してます。めちゃくちゃカッコいいですよね。あと全フロア、普段のWOMBではあり得ないくらい照明を明るくしていて、そのおかげか未来都市みたいな、不思議な雰囲気になりました。フロアが多いのもWOMBの魅力なので、そういった良さは全て活かしたいです。あと毎月、来月のウォンブのチケットを会場内に隠していて。WOMBを隅々までじっくり見て欲しくて(笑)。

なるほどー。ではちょっとインタヴュー・ドキュメンタリーみたいなシメになるんですが......そう儲かるわけでもない、苦労も多い、いってみれば裏方でもあるこんな取り組みを続けているのはなぜなんでしょうか?

仲原:これがいまやれることだから、ですかね......。僕が少しでも求められてるなって感じる場所でもあるし、同年代で同じようなことをしている人もいないから、やるべきことなんだろうなという気がする。12月までウォンブを続けるのは、そうスケジュールを決めちゃったから、というだけですね。なんかしまらないなあ(笑)。

ele-king vol.9  - ele-king

〈特集1〉「新工業主義――ニュー・インダストリアル!――」
現エレクトロニカのちょっぴり危険な新傾向を探る。
〈特集2〉花田清輝     他

Cosmopolis - ele-king

 アリエル・ピンクも大好きなデイヴィッド・クローネンバーグ監督の新作『コズモポリス』が面白い。今作はニューヨークはブロンクス生まれの小説家ドン・デリーロが、まるでその後起こる「リーマンショック」を予言していたかのように、2003年に発表した同名小説の映画化。デイヴィッド・クローネンバーグはこの原作に惚れ込み、わずか6日で脚本を書き上げたという。

 ロバート・パティンソン演じる主人公エリック・パッカーは、FXや株の投資で巨万の財を築いた人物。しかし、ある日突然世界的な金融恐慌が起こり、彼の持っているすべての資産は紙屑同然となってしまう。そんななか、それまでの因果が彼を襲い、数奇なエピソードが折り重なっていくなかでの主人公の葛藤が冷徹に重く描かれている。第65回カンヌ国際映画祭のコンペディション部門でパルムドールを最後まで競った作品だというのもうなづける。

 資本主義や格差に対する警鐘であり、また、その映像美も見事だが、私はもうひとつ別の観点からも面白かった。主人公は生活のほとんどが超高級リムジンのなかで完結する。仕事の指令からはじまり、睡眠、食事、排便、彼女とのSEX、医者の健康診断すらもすべてそのなかでおこなわれる。主人公のエリック・パッカーが何故そのような生活スタイルを選んだのか......。
 ヒキコモリや部屋から出ない若者が増えていると聞くが、クラブ人間としては、コミュニケーション文化に関する問題提起としても興味深い作品なのだ。いまクラブ・カルチャーは、オンラインの生活に慣れ親しんでる近年の若者にどんな「リア充」を提供することができるのだろう......。

 尚4月8日DOMMUNEにて『コズモポリス』封切り直前特別番組が決定。Broad DJには東京アンダーグランドを代表してMASA a.k.a. Conomarkが満を持してDOMMUNEに初登場。この日は3時間SETでタップリお届けします。
(五十嵐慎太郎)


『コズモポリス』
4/13(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショー!
(C)2012 COSMOPOLIS PRODUCTIONS INC. / ALFAMA FILMS PRODUCTION / FRANCE 2 CINEMA

監督・脚色:デイヴィッド・クローネンバーグ
原作:ドン・デリーロ「コズモポリス」(新潮文庫刊)
出演:ロバート・パティンソン、ジュリエット・ビノシュ、サラ・ガドン、マチュー・アマルリック、サマンサ・モートン、ポール・ジアマッティ

2012年/フランス=カナダ/カラー/ビスタサイズ/DCP/5.1ch/110分
原題:COSMOPOLIS/日本語字幕:松浦美奈/R?15
配給:ショウゲート/協力:松竹
配給協力・宣伝:ミラクルヴォイス
https://cosmopolis.jp/


4月8日 19:00~「コズモポリス」封切り直前特別配信 at DOMMUNE
「クローネンバーグが描く現代社会の末路」

TALK LIVE
柳下毅一郎/高橋ヨシキ/Ackky/DJ Hakka-K
Broad DJ
MASA a.k.a. Conomark (3 HOUR SET)
https://www.dommune.com/



Vol.7 『Dishonored』 - ele-king

 

 突然ですがみなさん、いま〈Looking Glass Studios〉が熱いです。と言っても何がなにやらわかりませんね。すみません、NaBaBaです。年度初めの今日このごろ、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

 いきなりで失礼致しましたが、今回の連載は昨年から予告していた『Dishonored』のレヴューをついに行いたいと思います。〈Arkane Studios〉が開発したこのオリジナル新作は昨年遊んだ作品のなかでもとくに素晴らしいもので、ぜひ書こうと思いつつ延びに延びてこの時期になってしまいました。

 しかしいまこの時期となると、ゲーマーの間でいちばんの注目の的となっているのはやはり26日に発売された(国内では4月25日)『BioShock: Infinite』ではないでしょうか。現代のゲーム業界きっての名手、Ken Levine率いる〈Irrational Games〉が開発した同作の評判はすさまじいもので、海外ゲーム・レヴュー・サイト各所でも満点の続出で、「IGN」では「全てのジャンルを前に推し進める革新的な作品」と、異例の絶賛ぶりが披露されています。

 かくいう自分にとっても今年の一、二を争う期待作なのですが、じつはこの『BioShock: Infinite』と『Dishonored』はある種の兄弟関係にあることはご存知でしょうか。これら2作のそれぞれの開発スタジオは、どちらもあるひとつのスタジオから分離した会社なのです。

 その大元でいまや伝説となっているのが、冒頭で述べた〈Looking Glass Studios〉(以下LGS)。90年代に大活躍したこの技巧派のスタジオは、『Thief』や『System Shock 2』等のゲーム史に残る名作を数多く生み出し、後続に多大な影響を与えるとともに、多くの名クリエイターを輩出しました。

 たとえば連載第3回にご紹介した、『Deus Ex』を手掛けたWarren Spectorもそのひとりで、『Deus Ex』自体は〈Ion Storm〉という別スタジオが主導の作品ですが、『System Shock 2』のスタッフも多く出入りして開発されていたようで、〈LGS〉とは非常に深い関係にあったと言えるでしょう。

 しかしながら〈LGS〉は2000年に倒産しています。ではすでになきスタジオが何故いま熱いのか。それは〈LGS〉の遺伝子を受け継いだ人々が、近年各所で目覚ましい活躍を見せているからです。

 その先駆けとなったのが一昨年発売された『Deus Ex: Human Revolution』。開発した〈Eidos Montreal〉は〈LGS〉や初代『Deus Ex』の開発陣とは直接的な繋がりはありませんが、本作で確かな完成度を発揮し、シリーズのリブートを成功させました。

 また今年に入ってからは『BioShock』シリーズの前進である『System Shock 2』が、長きにわたる権利関係のゴタゴタによる販売凍結状態を乗り越え、遂に〈GOG.com〉で再販を果たし、さらに〈Eidos Montreal〉が今度は〈LGS〉のもうひとつの名作、『Thief』シリーズの9年ぶりの最新作を発表しています。

『System Shock 2』はKen Levineの実質デビュー作であり、後の〈LGS〉系作品の独特の自由度はこの作品で確立された。

 そしてもちろん忘れてはならないのが大本命の『BioShock: Infinite』と、今回主役の『Dishonored』です。〈Irrational Games〉と〈Arkane Studios〉はともに〈LGS〉から独立・派生したスタジオであり、比較的近い時期に両スタジオの作品が出揃ったのは、90年代来の洋ゲー・オタク的にはぐっと来るものがあるのです。熱い、これは熱いのですよ。

 こうした背景もあるので、当初は〈LGS〉を振り返りつつ、『Dishonored』と『BioShock: Infinite』の両方を同時にレヴューしようかとも思いましたが、ちょっと長くなりすぎるような気がしたのと、これを執筆している時点で『BioShock: Infinite』を遊ぶまでまだ少しかかりそうだったので、2回に分けて書いていきたいと思います。そういうわけで今回は『Dishonored』のレヴューです。

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■業界の異端児スタジオに多くの才能が集結した

 『Dishonored』はいまどきでは珍しい一人称視点のスニーク(隠密)アクション。女王殺害の冤罪を着せられた主人公が、自らを陥れた相手に復讐していくストーリーで、潜入からターゲットの暗殺に至るまでのアプローチの多彩さや、豊富なガジェットや特殊能力による自由度の高さが売りの作品です。

 開発した〈Arkane Studios〉は前述した通り〈LGS〉倒産後独立したスタジオのひとつで、これまで『Arx Fatalis』や『Dark Messiah: Might and Magic』等、〈LGS〉の名作『Ultima Underworld』の名残を感じさせるファンタジー作品を手掛けてきました。といっても両作品とも当時の主流からは外れたゲーム・デザインで、良く言えばユニーク、悪く言えば奇ゲーという評価が多数の、いまひとつマイナー・スタジオの域を出られていなかったように思えます。

 
『Dark Messiah: Might and Magic』は近接戦に力を入れたファンタジー作品で、そのノウハウは『Dishonored』にも生きている。

 『Dishonored』も、見た目やシステムの奇妙さがこれまでの〈Arkane Studios〉節を彷彿させ、発売直前まで一抹の不安があったのは事実です。しかし遊んでみると同スタジオらしさは良い方向に作用しているとともに、表面上の奇抜さに反して実際のゲーム・デザインは、〈LGS〉作品の持ち味をとても忠実に継承していると感じました。

 これは今回新たにプロジェクトに加わったViktor AntonovとHarvey Smith両氏の力が大きいのでしょう。

 Viktor Antonovは連載第1回でご紹介した『Half-Life 2』で特徴的なアートを手掛けた人物で、今回は氏の持ち味がさらに全面的に発揮されていますね。時代掛かったイギリス風の街並みに無機質な金属の構築物が埋め込まれたかのようなデザインは大変ユニークで、それに説得力をもたらす世界観の構築も非常に緻密。これまでの同スタジオの作品はもちろん、他の同時代のゲームも軽く凌駕するオリジナリティがある。ことアートワークに限って言えば、ここ4、5年でもトップクラスと断言出来ます。

 
骨組み剥き出しの建造物の数々が、作品に得も言われぬ威圧感を与えている。

 一方、本作のディレクターのHarvey Smithは、かつては〈LGS〉に在籍し、また『Deus Ex』ではプロデューサーを務めた人物で、本作のゲーム・デザインも彼の経歴がとても色濃く反映されています。
 それこそ遊んだときの第一印象、とりわけ問題解決のための手段の多さはすごく『Deus Ex』らしさを感じたし、豊富な超能力を駆使するところは『System Shock 2』や『BioShock』も想起させます。そしてダークな世界観や観視点でのスニーキングに主眼をおいたゲーム・デザインは『Thief』に通ずるものがある。

 実際のところ本作のゲーム・デザインの骨組みは、宝を盗むのがターゲットを暗殺することに替わっている以外は『Thief』にとても似通っています。むしろそうした骨子に適合する範囲で他の〈LGS〉系列のゲームのシステムや、その他諸々現代のトレンドを組み合わせたのが『Dishonored』とも言い換えられるでしょう。

■二つの方角から掘り下げられた自由度

 具体的に見ていくと、まずゲームはステージ性で、各ステージはターゲットの拠点とその周辺地域が舞台となり、その範囲内でプレイヤーは自由に歩きまわれるデザインです。ステージはとても複雑かつ立体的に構成されていて、主要な建物は内装がしっかり作りこまれている凝り具合。当然ターゲットのもとにたどり着くまでには無数のルートが存在し、どのように進めるかはプレイヤー次第となっています。

 このあたりの自由度はいかにも『Thief』や『Deus Ex』的と言え、自分の頭で考えて進むべき道を決めていけるのは楽しいし、ルートごとにしっかり差別化されつつゲームに破綻が生じないのは見事。『Deus Ex』のレヴューでも触れましたが、ゲームの自由度という点において即興性が重視されるようになった現代に、レベル・デザインの作り込みで遊ばせてくれる作品は希少です。

 逆に『Thief』や『Deus Ex』と違っていまどきのゲームらしいのは、ルートの多彩さが予めプレイヤーに開示されていることが多い点でしょう。どういうことかというと、本作では後述する特殊能力を駆使して屋根や屋上等高所を移動ルートとする機会が多いのですが、その高所は先の状況を一望できる絶好のポイントにもなるわけです。高所なら敵に見つかる心配がないので、安心してじっくり戦略を練ることができるというメリットもある。

 また市民の立ち話や拾った書類等に、秘密の部屋だとか警備が手薄な場所だとかの情報があると、自動的にジャーナルのリストに追加されます。いちいち覚えていなくてもジャーナルを見ればどんな攻め方が有効か一目瞭然で、これもまた選択肢をプレイヤーに開示している例のひとつでしょう。

 こういう親切設計はじつにいまどきのゲームらしく、『Deus Ex』当時ではあり得ないものですが、自由度の高さを楽しんでもらうための誘導としてよく機能しているシステムだと思います。

 
屋根に登って下を見下ろし、先へ進む戦略を考える。これが本作の基本だ。

 対してもうひとつの特徴である豊富なガジェットや超能力もよくできています。とりわけ超能力は『Deus Ex』のAugや『BioShock』のPlasmidを原型にしていると感じられますが、その種類は短い距離を瞬間移動するものから時を止めるもの、なかには周囲の小動物や人間に乗り移るもの等々、一見すると変てこなものも多いです。

 しかし実際に使ってみるとどの能力も意外なくらい使い勝手が良くて、たとえば瞬間移動は屋根から屋根、道なき道を進んでいく手段としてゲーム中もっとも重宝する他、敵の目前を気づかれずにすり抜けるのにも使えます。乗り移る能力であればネズミや魚に乗り移れば排水溝を伝って建物内に潜入できるし、ターゲットに乗り移れば人目のないところまで誘導してから暗殺するということも可能。

 
動物に乗り移れば不審がられることなく衛兵の横を通過できる。しかし足元に寄りすぎると踏まれるので注意。

 このように各能力は応用性が高く、プレイヤーの想像力次第でステルスから戦闘までいろいろな使い道が考えられます。これはレベル・デザインとは違いより即興的な自由度とも言え、その場の思いつきをその場で実験したくなる魅力がありますね。とくに戦闘時にこれは顕著で、瞬時の判断が求められる状況で創意工夫して敵を倒し弄ぶ楽しさは、『BioShock』もかくやと言わんばかり。

 こうした即興性は『Thief』や『Deus Ex』に欠けていた要素であり、逆に『BioShock』は即興性優先で、レベル・デザインの濃さは大分減退していました。『Dishonored』の優れているところはその両方を持っていることであり、〈LGS〉の系譜のさまざまな要素をまとめ上げた、これまでの総決算的な作品であると評価することが出できます。

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■「何でもできる」は良いことばかりではない

 さて、〈LGS〉の系譜の現代的復刻という点で思い出すのが『Deus Ex: Human Revolution』ですが、この作品と『Dishonored』は当然似ている部分がありつつも、根幹の方向性はやや異なっています。

 最大の違いは自由度の範囲で、『Deus Ex: Human Revolution』はオリジナルに比べ敵との戦闘に大きくフォーカスしていて、反面複雑・立体的なレベル・デザインは減退し、より直線的なゲーム進行になっていました。言ってしまえば普通のアクション・シューティングに近くなっていたと言えます。

 
『Deus Ex: Human Revolution』の戦闘重視のデザインは、これはこれでまた評価がわかれるところではある。

 対する『Dishonored』は自由度をかぎりなく拡張していく姿勢で作られており、その点をもって僕はこの作品は楽しめたわけですが、しかしこれは人によって評価が分かれるところだろうとも思うのです。

 本作はスニーク・アクションというジャンルではありますが、コソコソ隠れるだけでなく敵とガチンコで戦うことも可能で、なおかつその振れ幅も大きく、ひとりの敵にも見つからずにクリアすることができれば、正面玄関から殴りこんでの皆殺しも可能になっています。この手のゲームにしては主人公がかなり強いということもあり、本作のスニークというのは生存戦略上の必然というよりも、プレイヤーの好み次第という面が強いのです。

 しかし本作に限らずステルスも皆殺しも自由自在みたいなゲーム性は今世代のゲームではとてもよく聞く謳い文句のひとつなのですが、プレイ・スタイルをプレイヤーの好みに委ねている分、効率だけを追求されたら途端に味気ない遊びになる恐れや、どんなプレイ・スタイルでも遊べるということは、逆に何をやっても何とかなるという意味でもあり、全体的に緊張感が欠けてしまうという問題点が付きまとっています。

 本作もこの点を完全には払拭できていないのが残念なところで、無傷で手軽に進みたければ、屋上からペシペシ撃っていればそれでOKみたいな、身の蓋もない事態になる危険性は否定できません。自由度を高くしたがゆえの、楽勝な進め方が存在してしまっています。

 
ただ倒したいだけだったらピストルを何発も撃ちこめばいい。これもまた自由ではあるが味気ない。

 ただプレイヤー側が遊び方に明確な目的意識を持てば、それに見合った楽しさが返ってくるところに救いはある。敵にいちども見つからずに進めようと思ったらやはり相応の手応えは生じてくるし、なるべく多くの武器を使いこなして敵を殲滅してみようとすれば、こちらの戦術に柔軟に対応してくる敵の反応を見ることができるはずです。

 そういう意味では人を選ぶゲームであることには違いなく、おもしろさのポテンシャルは高いんですが、楽しみ方をわかってないとそれを十分に味わえない恐れがある。それに比べると『Deus Ex: Human Revolution』は、自由度が減退した分、遊び方は明快になっていて、どんな遊び方でも比較的一定のおもしろさや手応えが保障される面があるのは確か。

 だからと言ってどっちの方が優れているという話ではありませんが、少なくとも『Dishonored』を遊ぶ際は上記の点は予め留意しておいた方が、より楽しめるかと思います。

■まとめ

前述した〈LGS〉の系譜の総決算という言葉がふさわしい作品で、自由度の高さは近年では屈指のもの。〈LGS〉ファンはもちろん、自由度の高いゲームが好きな人や、ユニークな世界観が好きな人にピッタリの作品です。

逆にそれらが好きでない人には合わないゲームでもあり、また自由度が高いとは言え純粋なアクションやスニークと同等の面白さや緊張感を求めても期待外れになるでしょう。あくまでも自由度の高さを楽しみ、味わう作品だと思います。

 ここ半年で、レコード店の壁面は、「industrial / minimal」というタグのついたレコードで占拠されています。デザインを一新したリニューアル号のメイン特集は「新工業主義――ニュー・インダストリアル!――」。新作を出したばかりのオウテカの超ロング・インタヴューをはじめ、先日来日公演を終えたアンディ・ストット、そして音を聴いている限りでは、やばいBボーイだろうと思われていたものの、実際はとんでもない美形だったジャム・シティのインタヴューもあります!
 インダストリアル系の50枚以上のディスク・ガイドもありますが、これがなんと、最近出たばかりのDJノブのミックスCDの選曲とばっちり重なっておりました! なので、ノブのミックスCDを聴きながら読んでもらえれば、かなりスリリングなトリップを体験できるでしょう。

 そして、小特集は「乱世をいかに生きるか――よみがえる花田清輝」。
批評家・思想家として比類のない活躍と著作を遺し、強靭なユーモアとともに時代の「転形期」を生きた鬼才・花田清輝の魅力を掘り起こします!

 その他、フェミニャンの人生占いや人気沸騰中のceroのインタヴューなど、面白い記事満載なので、よろしくです。
 書店にないときは注文しましょう!! たのむよ。

 では、目次を大公開!!

〈フォト・ギャラリー〉
吉永マサユキ

〈特集〉
ニュー・インダストリアル

・オウテカ・インタヴュー 松村正人
・座談会「インダストリアル・ジャッジメント」 倉本諒/KEIHIN/松村正人/三田格
・アンディ・ストット・インタヴュー 野田努
・ジャム・シティ・インタヴュー 三田格
・ディスク・レヴュー60(アルバム編・シングル編・クラシック編) 倉本諒/野田努/松村正人/三田格/山崎真
・コラム 「ミニマル・ミーツ・インダストリアル」 山崎真
・EP-4 unit3 インタヴュー 松村正人/菊池良助

〈小特集〉
乱世をいかに生きるか――よみがえる花田清輝

・イントロダクション「絶望の淵からの挑戦状 その2」 野田努
・インタヴュー「花田の発見――上杉清文が語る花田清輝」 市原健太
・花田清輝の武器 水越真紀
・SY, MOR & HDKY ブレイディみかこ
・あらためて自意識の話をはじめるために #妄想 橋元優歩

〈EKジャーナル〉
Shing02 / MA1LL

〈TAL-KING〉

・Serph 橋元優歩
・AOKI takamasa×BUN×kyoka×マツナガ・コウヘイ special座談会 野田努/松村正人/小原泰広
・cero 竹内正太郎/小原泰広
・ヤマガタ・トゥイークスター 野田努/小原泰広

〈論考I〉八Oと九Oの緊張と弛緩 ばるぼら
〈no ele-king〉前野健太 磯部涼/小原泰広
〈連載まんが〉本日の鳩みくじ 西村ツチカ

〈カルチャーコラムEKかっとあっぷあっぷ〉

・「本とハコ」 湯浅学×直枝政広 松村正人
・映画 樋口泰人
・演劇 プルサーマル・フジコ
・アート 五所純子

〈連載コラム〉
・ネオ・ニヒリズム 粉川哲夫
・季刊・二木ジャーナル 二木信
・キャッチ&リリース tomad
・編年体ノイズ正史 ボルビトマグース T・美川
・ナポレオン通信 山本精一
・水玉対談 こだま和文×水越真紀
・〈特別企画〉フェミニャンの占星術ルーム
・ピーポー&メー 戸川純

〈新連載〉ネオ・グラフィズム MA1LL

〈表紙ウラ〉AOKI takamasa


Techno definitive reissue - ele-king

 2枚の名盤、しかもけっこう入手困難で、中古で恐ろしい値段が付けられていたアルバムが再発されました。
 1枚は、デトロイト・テクノのカール・クレイグの、初期作品集『エレメンツ 1989-1990』。彼が19歳から21歳にかけて作ったトラック集ですが、この音楽が、エイフェックス・ツインやカーク・ディジョージオ、そしてミックスマスター・モリスに与えた影響ははかりしれません。アンビエント色が強く、また、素晴らしい旋律を持っている"エレメンツ"は必聴。他にも、セクシャルな"クラックダウン"、ばっちり叙情的な"エヴォリューション"、真夜中のハウス"プリーズ・スタンド・バイ"、タンジェリン・ドリームめいた"ニューロティック・ビヘイヴィア"......この機会に聴きましょう。

 もう1枚は2009年に忽然とリリースされ、世界中のディープ・ハウス・リスナーを虜にした、フレッドP ことブラック・ジャズ・コンソーティアムの幻の『ストラクチャー』。スピリチュアルで、メロウで、催眠的で、中毒性の高いアンビエント・テイストはハンパないです。オリジナルはジャケ無しでリリースされましたが、今回はジャケ付きの再発です。 
 家のリヴィングで、リラックスしながら聴きましょう。


サイケ/BFC
エレメンツ 1989-1990
Planet E/Pヴァイン

amazon

ブラック・ジャズ・コンソーティアム
ストラクチャー
Soul People Music/Pヴァイン

amazon

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