「KING」と一致するもの

interview with Koji Nakamura - ele-king


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 中村弘二はポップ・サウンドの作り手であることと、その管轄外のところで音を鳴らすことの両立をはかる数少ないひとりである。1997年にデビューして2005年に解散したスーパーカーは、その活動中は幅広く愛されたバンドだったが、とくにある世代――おそらく現在20代後半から30代前半にかけて――にとっては、自分たちの思春期においてもっとも影響力のあるバンドのひとつとして記憶されている。そういえば最近、今年に入ってわが国のチルウェイヴ系の作り手として密かに売れ続けているフォトディスコなる青年に会ったとき、彼のバッグにiLLのバッヂがあったことを僕は見逃さなかったが、いま思えば中村弘二のニャントラ名義の最初のアルバム『99-00』(2001年)は早すぎたチルウェイヴ(もしくはアンビエント・ポップ)とも言える。
 まあとにかく、若いながらもすでに長いキャリアを持つ中村弘二自らがスーパーカーの音を改編したアルバムが、『RE:SUPERCAR 1』と『RE:SUPERCAR 2』である。この新しい2枚においてはトラックのみがアップデートされている。歌を残したまま、まるで腕の良い職人の仕事のように、彼はちょちょいのちょいと古い楽曲の埃を払って新しい光沢を与えている。それは驚くほどにスーパーカーそのもので、不自然な感じがしない。クラフトワークの『ザ・ミックス』のように、それは本当に純粋にアップデートされたものとしてある。
 以下のインタヴューでは、中村弘二のもうひとつの重要な個性であろう音の追求者的なところ、いま現在の彼の興味のある"音"の話題に時間を割いている。それを読めば、むしろ彼の次のiLL、さもなければニャントラが楽しみになってくるだろう。

すでに自分のものではないというか、客観的に聴けるから。自分のものではあるんだけど、自分のものではないというね。だから、ホントに客観的になれているかという不安もあったんだけど、どっかで「いや、もう客観的になれている」という思いがあった。だからできたっていうのもあるんですけどね。

これは震災前に作ってものなの?

ナカコー:「1」はそうかな。でも「2」は被っちゃったところがあるから。中断があったからね。

震災によって「2」の内容は変わった?

ナカコー:いや、それはなかったけどね。影響はあるけど、作っているときはそれはなかったから。やることはもう決まってたし、とりあえず、「戻そう」って。とりあえずやってたときの気分に戻さないと作れないから。

リリースが延びたんだよね?

ナカコー:延びましたね。

僕は震災後に聴いたんだけど、けっこう感じるものがあったんですよ。たとえば「1」の1曲目の"ウォーク・スローリー"なんかけっこう感動したんだけど、あのイントロも見事なものだったけど、「あせたってひとりじゃどこにも逃げられないから」ととか、いま聴くと違った意味に聴こえるっていうかね。オリジナル・ヴァージョンではもっと皮肉で歌っているわけでしょ?

ナカコー:いや、そうでもないですよ。デビューしたばかりだし、そんな皮肉って感じでもなかった。まあ、自然にやること自体が皮肉めいてるから。

地震があって、原発のことがあって、いろいろ大変な状況になったわけだけど。

ナカコー:震災後、いろんあことがあるけど、なるべくできることだけをやっていくっていうスタンスを取りたかったし、取りたいですけどね。いまもできることだけやっていくっていう。

今回のプロジェクトはどういう経緯ではじまったんですか?

ナカコー:最初はレコード会社からそのアイデアが出て、「できるかどうかわからない」っていう状態がけっこうあって。「ほんとに、やるの? やらないの?」みたいな。

最初は抵抗があったの?

ナカコー:「別にやらなくてもいいんじゃない?」っていうのもあったし、気持ちの半分では「興味アリ」っていうか。

なるほど。

ナカコー:やったことないからね。やったことがないものには興味があるから「ちょっと面白そうだな」とは思っていた。でも、実際にやったときにどれだけ大変かはわからないから、正式にやるまでに時間がかかった。

作者としては過去の自分に、それもまあ、10代の自分に向き合うわけだから、複雑なものもあったでしょ?

ナカコー:それはもうなかった。すでに自分のものではないというか、すごく客観的に聴けるから。自分のものではあるんだけど、自分のものではないというね。だから、ホントに客観的になれているかという不安もあったんだけど、どっかで「いや、もう客観的になれている」という思いがあった。だからできたっていうのもあるんですけどね。

DJカルチャーでいうリミックスという解体をせずに、歌をしっかり残したでしょ。

ナカコー:10代の頃の作品なんかは、当時は何もわからないで作っていたし、いまわかることが当時はわからなかったし、それをいまの感じに直したいというのがあった。いま聴く人のために作ろうっていうことだったから。

曲を完全に違うものにするっていう考えはなかった?

ナカコー:それはまったくない。あんまり解体はせずに、新曲と向き合うような感じで、もっと良い曲にするために作業するって感じでしたね。

「1」と「2」を分けたのは?

ナカコー:いや、そこは前期と後期っていう、ただそれだけ。あと量的なこともありましたね。

『フューチュラマ』以前、以降という分け方になっているけど、その分岐点というのはあるんでしょ?

ナカコー:「1」はまだデビューする前に作った曲が多いんですよね。

そうなんだね。

ナカコー:「2」のほうはデビューしてから書いた曲だから。デビューしてから2年ぐらいは曲を書いてないんですよ。それで久しぶりに書いたら視点が違うものになっていた。自分ではそんな大きく変わったとは思っていないんだけど、ちょっと見方を変えたぐらいでしかないんだけど。

「1」に収録された曲を作ったのって何歳ぐらい?

ナカコー:17~18歳ぐらいですね。

"サンデー・ピープル"を入れなかったのは?

ナカコー:単純に作業的なことですね。かなりキチキチのなかでやってて、間に合わないっていうのがあって、ぱっと思いついて、「この曲ならこうできるかも」っていうのだけを選んでいるから。だから、やったらやれるけど、時間がかかる。

ハハハハ。そういうことなんだ。敢えて外しているのかと思った。

ナカコー:そういうのはない。とはいえ、どういうアルバムにするのかちょっと迷っていた。1曲目と最後だけは決まっていて、で、作業しいてくなかで、「1」のほうは鳥の声とか波の音とか、ライブラリー音源を入れはじめてからすーっと曲順が決まっていって。1曲終わってからはコツがつかめてきて。

音は当時の音も使っているでしょ?

ナカコー:ほとんど当時の音。当時の音を使ってミックスを変えた。弾き直したのもあるけど。

いろいろ思い出したことあるでしょ?

ナカコー:思い出したことはあるけど、それが何かまでは覚えていない(笑)。

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ミニマリズムという考え方が好きだというのもあるかもしれないけど。ミニマリズムって、蓋を開けてみたら音が少ないわけだから、興味の矛先が音にいってしまってる。で、やっぱり音なんだってなってしまうと、結局ミニマルの概念に興味はないなと。やっぱひとつひとつの音の面白さ、そこだけでいい気がしてきて。

僕が初めて取材させてもらったのは、『フューチュラマ』(2000年)のときだったよね。「ストロボライツ」(2001年)の前ぐらいかな。そのときナカコーがものすごく熱くクラブ・ミュージックについて語っていたのをよく覚えているんだよね。

ナカコー:大多数の人から見たら、テクノやクラブ・ミュージックを聴く人なんて少なかったから、「面白いのになー」と思っていたし、「こんなに面白いのにどうやって伝えたらいいんだろう」とも思っていたんですよね。だから自分の音楽のなかに少しずつそれを入れてみたっていうのもあるんですけど。

プライマル・スクリームや『キッド・A』の話もしていたよね。

ナカコー:音楽の中身というよりも、ひとつの記号としてわかりやすかったからね。ロックなんだけどロックじゃないみたいな、そういうことを肯定してやっちゃうというか。

今回は大量のデモ音源まで入れて2枚組にしているでしょ。それはどういう意図があって?

ナカコー:いろんな意図があるんだけど、いちばん大きいのは値段の問題。

いくら?

ナカコー:3300円。3300円で十何曲って、(リスナーに)ちょっと悪いなって思うから、なんかおまけを付けたいと思ったし。デモテープは膨大にあるし、そのなかから編集して付ければ少しはお得かなというか。

あんま夢がある話じゃないんだね(笑)。ただ、デモ音源面白かったけどね。

ナカコー:もちろん、楽曲がこういう風にして生まれるっていう記録としても面白いかなって思ったし、あと、ヴォリュームがあるものを作りたかったから。

ナカコーって、つくづく音の人......音か言葉かって言ったら、間違いなく音の人だと思うんだけど、いろんな音が好きじゃない?

ナカコー:好きですね。

自分の好きな音の傾向についてはどう思ってる?

ナカコー:音楽じゃなくてもいいっていうか、音だけでもいい。なんか音楽的なものほどいま聴けなくなってきちゃって。

ホント?

ナカコー:音だけのCDのほうが全然聴けるし。

例えば?

ナカコー:ピアノが一定のコード進行でただボーンボーンって20分ぐらい流れているCDとか。

現代音楽?

ナカコー:現代音楽も好きだけど、そんなに現代音楽してないような60年代とか70年代のレコードとか。

ドローンとか。

ナカコー:そう、ドローンとか、あとノイズも好きだし。ノイズもそうだけど、音として面白いのがやっぱ好きかな。それが複雑なコード進行や複雑なリズムではなくても、プログレ的な何かじゃなくても別にいい。

最近そうなったって感じ?

ナカコー:うん、気づいてきましたね。

きっかけがあったの?

ナカコー:だんだん聴けなくなってきた。感情移入できなくなってきた。

曲になってると?

ナカコー:うん、曲になってるともうわかんねーな。

なんで(笑)? 聴きすぎなんじゃない?

ナカコー:ハハハハ。ていうか、難しいっていうか、何も思わないっていうか、音が面白いアルバムのほうがいい。

でもちゃんと今回も"ソング"になってるじゃん。

ナカコー:うん、そういう頭のときはできるんだけど。今回は既存曲だったし、もう"ソング"になってるから、自分の興味のある要素をちょっと入れたりした程度なんだけど、もしいま新曲を作るとなると、ポップスというか、歌のある曲はいまは作りづらいっすね。

それは逆に、すごく楽しみな話だよ。iLLではミニマリズムを追求して、取り入れていたと思うんだけど、その先にあったものがドローンやノイズだったっていう感じ?

ナカコー:んー(しばらく考え込む)......ミニマリズムという考え方が好きだというのもあるかもしれないけど。ミニマリズムって、蓋を開けてみたら音が少ないわけだから、興味の矛先が音にいってしまってる。で、やっぱり音なんだってなってしまうと、結局ミニマルの概念に興味はないなと。やっぱひとつひとつの音の面白さ、そこだけでいい気がしてきて。まあ、(ミニマルとそれは)関係性はありますけどね。

まあ、アグラフくんとそこで気が合うんだろうね。

ナカコー:牛尾くんも変な音楽聴いてますからね(笑)。

彼はミニマルだけど、しかしナカコーはなんかジョン・ケージみたいになっていくのかね(笑)。

ナカコー:ジョン・ケージ、好きですけどね。

お湯を沸かすときに出る水蒸気の音が面白いとかって言う人だもんね。

ナカコー:その気持ちのほうがいまはわかりますね(笑)。

リアリティを感じる?

ナカコー:聴いてて楽しいし。自分の気持ちの邪魔もしないし、考えずに聴けるし。

そうした自然の音も面白いけど、でも音楽家は、そこで創造しているわけだしね。

ナカコー:だからいま思い浮かんでいるのは録音技術ってことかな。自然の音だけで50分終わってしまうようなCDは好きじゃなくて、やっぱそれを加工しているもの、それを使って物語を作っていけるようなものだったり、まあ、でも、ポップ・ミュージックでも録音してそれを配置してってことだから。ただ、いまないモノを探していったとき、テクノはテクノで普通にあるし、「あの人はこういうことをやってる。この人はこういうことをやってる」って、「じゃ、自分は違うことをやろう」ってなると、なんとなくそっちに行くのかな。

「そっちに行く」ってというと?

ナカコー:聴いてて、時間感覚を感じさせる音楽というか、作品というか。それはやってみたいんですよね。1曲目は無音で、2曲目は無音のなかにひとつ音が入るぐらいの。それで60分を20曲ぐらいで構成されているようなもの。

そういうことはニャントラ名義でやってる、やろうとしていることなんじゃないの?

ナカコー:うん、ニャントラでやってることも近くなってきましたね。たぶんいつか統合されるのかもしれないけど(笑)。

すごいよねー、ナカコーって(笑)。

ナカコー:もちろんバランスも考えますよ。それに歌が入ってるようなものってできないかなと思っているし。実験的だけど、聴きやすいものっていうのができたらいいんですけどね。

生活のなかでほとんどの時間、音楽のことばっか考えているでしょ?

ナカコー:うん、ほとんどのことがすでにやられているでしょ。せっかく自分で音楽やってるんだし、「何か(新しいこと)ないかなー」とは思っているけど。

ずっと作っているっていうイメージがあるんだけど。

ナカコー:いまは(ラマを)制作中だからそうだけど、制作していていないときは考えているときが多いですね。楽器は触らないでずっと考えている。

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ドローンを聴いてても、6分ぐらいやればいいのに、それを2分で終わらせているヤツとかみると、共感持てますね。「だってドローンをやりたいわけじゃないもんね」って。たぶん、その瞬間をやりたかっただけで、ドローンを追求したいわけじゃないんですよ。

数年前、まだディアハンターがいまほど有名じゃない頃、マネージャーさんに「アメリカのディアハンターっていうのがiLLに似てるんだよね」って言ったら、数日後に「ナカコーはあんま好きじゃないみたいですいよ」って言われてさ(笑)。あとになって「そういうことか」って思ったけどね(笑)。

ナカコー:いや、好きじゃないとは言ってない(笑)。

でもまあ、近いっていうのもね。

ナカコー:そう、自分からは夢中にはなれない。想像が付く選択肢のなかでこういう道を選んだってことだと思うからね。そういう意味ではカセットテープで出している連中の音は面白いよね。ジェームス・ジェラーロとか。あの人なんか、もう音楽ですらない(笑)。

そうだよね。そのギリギリのところをいってる感じはあるよね。

ナカコー:ああいうのは、いまちょっと良いですよね。「あ、このアイデアはないかも」って思える。それと同時に「あー、やられた」って思うんだけど。毎日、そんなことの繰り返しですけど。

でもあれだよ、それ言ったらニャントラみたいなベッドルーム音楽はいまUSのインディですごいよ。

ナカコー:あ、それはちょっとそう思ったかもしれない(笑)。

ひと昔前ならグランジやっていたような子が、いまはアンビエントやドローンを作ってるでしょ。

ナカコー:ドローンを聴いてても、6分ぐらいやればいいのに、それを2分で終わらせているヤツとかみると、共感持てますね。

えー、それはどんなところに?

ナカコー:やっぱ2分で終わらせるところに。「だってドローンをやりたいわけじゃないもんね」って。たぶん、その瞬間をやりたかっただけで、ドローンを追求したいわけじゃないんですよ。

じゃあ、静寂に共感しいたのは?

ナカコー:あれはもう、灰野(敬二)さんのアイデアが最先端だなって。灰野さんはいまもって聴いたことのない音楽にチャレンジしてるっていうか、そこが伝わるものだったから。

なるほど。紙ele-kingのほうに書いてもらったナカコーの年間チャートがけっこう興味深いものだったよね。ところで今後はラマ(アグラフ、フルカワ・ミキらとの新バンド)をやりつつ、iLLのほうもやっていくんだよね?

ナカコー:ラマに関してはもっとわかりやすいポップスをやっていくと思うし、iLLのほうはいま面白いアイデアが浮かんだから、それを完成させたいなって感じ。

iLLにはまた新しい方向に進んでいく感じっていうのがあるんだね。

ナカコー:ありますね。ただ、その前にラマのほうがいま進行中なんで、時間的にちょっと後回しになってしまうんだけど。

ニャントラは?

ナカコー:あれはもっと気軽に出したいと思ってます。パッケージじゃなくてもいいし、あってももっと簡素でいいし、もっと直に、ツイッターで「1枚欲しいんだけど」って言われて「はい」って渡せるようなものにゆるくできたらいいんですけどね。

なるほど。じゃ、最後にスーパーカーに話を戻しますが、アルバムでいちばん好きなのは?

ナカコー:『アンサー』(2004年)かな?

それはどうして?

ナカコー:ようやく面白い盤が出せたかなと思ったからですね。

当時は解散するつもりもなかったみたいだしね。

ナカコー:でも「これが最後かなー」と思って作ってましたよ。バンドでできることってけっこうやったかなって思っていたし、バンドって4人の共同物だからそれを保てるところにいま来てないなと思っていた。

僕もスーパーカーは好きだったけど、ある世代にとってのスーパーカーってものすごいものがあるじゃない。

ナカコー:うーん、でもまあ、もう時間が経ってるしね。17~18歳ぐらいの若い子で「聴いてます」って言われるとびっくりしますけどね。

「1」のほうを聴いたら、どこかかまってちゃんに似てるなって思ったっていうか、かまってちゃんがスーパーカーに影響受けてるっていう話を聞いたことがあるんで。

ナカコー:会ったことあるけど、面白い変なバンドだよね(笑)。

アートワークに関して最後に訊きたいんだけど、こうした日常のなかの非日常はスーパーカー時代からの中村弘二のテイストだと思うんだけど、それと音楽との関連性について。

ナカコー:自然のなかに組み込みたいというか、作為的なことはほとんど嫌いだっていうのがあって、作為的なアレンジとか。わかりやすくするためにわかりやすい音を入れるとか、そういう自由を制限するみたいな。テレビが見れないのも、字がいっぱい出てきたりするのがイヤなんですよ。

テレビは見ないんだ?

ナカコー:見れなくなっちゃいましたね。情報が多すぎて。ないほうがすっきりして見れるのに、なんでごちゃごちゃ入れるのかって。そういうのが気になるんですよ。白い服を着ている人がいるのになんで赤い文字を出しているのか、気持ち悪くなったりするんですよね。時計の時報がピンク色だったり。そういうのがどんどん、強く苦手になってきて。

それでアンビエントやドローンのほうにいくのかな(笑)。

ナカコー:強制的に流されているっていうのがイヤですよね。ネットはこっちから選択するから気にならないんですよ。でも、テレビは付けたら強制的にはじまるから、それがイヤって言うか。だからたしかにアンビエントの考え方は好きですけどね。

なるほど。

ナカコー:あと70年代のドキュメンタリー番組の音楽も面白いですけどね。最近は60年代~70年代のライブラリー・ミュージックばっか聴いてるから。『KPMミュージック・ライブラリー』とか、あんなの。ああいうのって、いま聴くとエレクトロニカと同じだからね。

ele-king vol.2 完成のお知らせ - ele-king

 いやー、できました、
 現実逃避したくてもいよいよできなくなってきた震災後の言葉が詰まった『現実逃避』号。
 6/24発売予定です!
 以下、目次です。買ってください、
 お願いします!

 なお、掲載されるアイテムの一部を対象にしたキャンペーンをタワーレコードの一部店舗で実施します。6月24日(金) ~ 8月14日(日)のあいだにキャンペーン開催店舗で対象商品お買い上げのお客様に先着でele-kingバッジかステッカーのどちらかをプレゼントいたします。開催店舗、対象商品などキャンペーンの詳細はタワーレコードや本サイトにて後日発表いたします!


ele-king Vol.2

■contents

1 巻頭フォトストーリー 鈴木親

〈EKジャーナル〉
10 タイラー・ザ・クリエイター 
12 ブルックリン●松村正人 
15 バンクシー●水越真紀 
18 シック・チーム二木信

〈特別企画〉
20 ルポルタージュ311●磯部涼/久保憲司/小原泰広

〈Eコラム1〉
32 浜岡、80年のアトミック・カフェ、そして現在へ●河原崎禎/大久保青志

〈TAL-KING1〉
36 ハドソン・モホーク●木津毅

〈巻頭特集〉
42 現実逃避
46 feel good societyにおける憂鬱●野田努
48 ウォッシュトアウト インタヴュー●野田努/小原泰広
59 往復書簡:震災後のアンビエント●松村正人×三田格 
64 エスケープ・ミュージック100 part1
●加藤綾一/木津毅/野田努/橋元優歩/松村正人/三田格
78 〈コズ・ミー・ペイン〉●野田努/小原泰広
82 USヒップホップの変貌●高橋圭太 
86 エスケープ・ミュージック100 part2

〈no ele-king〉
100 テニスコーツ●磯部涼/小原泰広

〈論考・〉
106 Kポップの共振圏●南波一海

〈小特集〉
UKベース・ミュージック
110 ベースを越えて●ウィル・ソウル
114 ダブステップが消えるとき+レヴュー10●飯島直樹 
116 トドラ・T インタヴュー●野田努 

〈特別企画〉
123 灰野敬二伝●松村正人 

〈連載コラム〉
132 キャッチ&リリース●tomad 
134 私の好きな●牛尾憲輔(agraph) 
136 編年体ノイズ正史●T・美川 
140 新連載・水玉対談●こだま和史×水越真紀 

〈カルチャーコラム〉
146 EKかっとあっぷあっぷ
●樋口泰人/五所純子/小濱亮介/プルサーマル・フジコ/東谷隆司

〈TAL-KING2〉
156 大野松雄●松村正人/菊池良助 

〈Eコラム2〉
162 リーマン・ショック以後のUSインディ●木津毅 

〈特別企画〉
エレキン・アニメ
166 さやわか×三田格×mochiron(三毛猫ホームレス)/春日正信 

〈Eコラム3〉
174 激自然農法●湯浅学 

〈巻末特集〉
「いま聴きたくない音楽」 
176 ピチカート・ワン/田中宗一郎/対談:大川卓也×橋元優歩/菊地成孔 

表1~4●宇川直宏
表2●鈴木親 表3●菊池良助

Seekae - ele-king

 実はいま、今月末発売予定の紙ele-kingの2号目を制作中で、例によって松村正人は眠れぬ夜を過ごしながら磯部涼に毎朝電話しているという事態がここ1週間続いている。そんなわけで、無事に完成することができるかいまだ予断を許さない状況とはいえ、いまここで特集のテーマをひとつ言うと「現実逃避」だ。
 日本においては音楽における「現実逃避」がいまだネガティヴなものだと思われがちな理由のひとつはテオドール・アドルノによる有名な『音楽社会学序説』から逃れられないからではないだろうかと思う。こうした古い教養主義には学ぶことも多いが、「複雑な和声と多声の錯綜をも明確に把握」できるエキスパートとはかけ離れたリスナーである僕は、「娯楽」として音楽を享受するところからはじまったのであって、基本的には逃避(=快楽)は音楽体験における重要な醍醐味のひとつだと認識する立場にいる。
 当たり前の話だが、「娯楽」としての音楽が必ずしもそれに興ずる人が属する社会を肯定するわけではないことは、モータウンが公民権運動のサウンドトラックになったことからもわかる。そして、こうした前口上は抜きにしても、とくに震災後、未曾有の歴史に突入した我々としては、ひとりの消費者としても生活を少しでも明るくさせてくれるような音楽、一瞬でもこの現実を忘れさせてくれる音楽という娯楽の身近さをより敏感に感じているのではないだろうか。アドルノ先生が皮肉っぽく「音楽は空虚な時間を装飾する」と言っても、装飾のやり方次第では「だから良い」としか言いようがなく、おそらく我々は非日常を楽しんでいた日常を愛していることを再認識しているのだ。
 興味深いことに、そうしたドリーミーな音やそのエスケイピズムは、2008年の金融危機以降のアメリカを中心に産業が管理する音楽シーンとは別のところで、加速的に、ずいぶんと多様に、だーっと拡大している。そうした最近の傾向――チルウェイヴ、アンビエント、ドローン、ドリーム・ポップ、ローファイ・サイケデリック、IDM――などなどを紙ele-kingの2号では100枚のディスク・レヴューとして紹介している。オーストラリア出身の3人組、シーケイのセカンド・アルバム『+ドーム』も、その100枚に入れるべきアルバムである。チルウェイヴやアンビエント・ポップ、あるいビビオのようなはフォーキーなIDM、あるいは〈ブレインフィーダー〉周辺のドリーミーなダウンテンポと呼応している音楽だ。
 さらにまた興味深いことに、こうした新しいローファイ音楽の広がり、世界各地からの感応の仕方は、クラブ・ミュージックにおけるそれとほとんど同じなのだ。つまり、ベッドルーム時代における音楽の広がり――「あいつが作ったあの音は良いな、じゃ、俺はもうちょっと柔らかくそれをやってみよう」とか「あいつのあの感じと昔のあの感じをミックスしてみよう」などといった、いわば受け手側の再生産という、かつてはクラブ・カルチャーを通じておこなわれていたものが、現在はそれにインターネット共同体まで絡ませながら進行している。それで......毎週のように、新しい音があっちこっちから聴こえてくるというわけだ。ある意味では、そういった音楽においては芸術的な優劣ではなく個人の好みが尊重される。たとえば「俺はIDMでも、ドリーミーで楽天的なほうが好きだな」という人には、LORN(ロサンジェルス)よりはLONE(バーミンガム)だろう。この手の音楽には、クラブ・ミュージックのように機能性というところがあるのだ。
 シーケイの『+ドーム』は、バーミンガムのほうのローンの『エクスタシー&フレンズ』の陶酔感が僕がいま思いつく限りではもっとも近い。ビビオの『アンビヴァレンス・アヴェニュー』ほどフォークが強調されてはいないけれどフォーキーで、あの夢うつつな感覚とも繋がる。そして、こちらのほうがややサイケデリックで、ボーズ・オブ・カナダのメランコリーも少々入っている。真面目に作られた優しい音楽で、僕は自分の"好み"である。

 ところで、最近は三田格さんのレヴューがアップされていないじゃないかと数人の方からご叱咤を受けた。三田格さんはいま話題騒然の『ドミューン・オフィシャル・ガイド・ブック』の編集でテンパって......いや、がんばっているのです。乞うご期待ですよ。

interview with Mike Paradinas - ele-king


Various Artist
14 Tracks from Planet Mu

Planet Mu

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 昔からのファンに言わせれば、かつてマイケル・パラディナスの〈プラネット・ミュー〉は、エイフェックス・ツインの〈リフレックス〉の後を追って出てきたレーベルだった。が、ゼロ年代のなかばにその形勢は変わった。〈プラネット・ミュー〉はいまや、ダブステップ/グライム/ポスト・ダブステップにおける第一線のレーベルのみならず、シカゴのゲットー・ハウスの最新型、ジュークを発信するレーベルでもあり、まあ早い話、目が離せないレーベルのひとつである。
 201O年の暮れにレーベルが発表したシカゴのジュークのコンピレーション・アルバム『バングス・アンド・ワークス』は日本でもずいぶん話題になったものだが、今年に入ってからも新しいコンピレーション・アルバム『14トラックス・フロム・プラネット・ミュー』、あるいはフォルティ・DLのセカンド・アルバム、そしてボックスカッターの新作と〈プラネット・ミュー〉は相変わらず好調なリリースを続けている。あまたあるインディ・レーベルのなかで、正直な話、僕自身もここまで長く〈プラネット・ミュー〉の音源を追うことになるとは思いもよらなかった......といったところである。
 『ブラフ・リンボー』をアンディ・ウェザオールがむちゃくちゃ評価していた時代を知るわれらテクノ世代からIDM世代、そして若きダブステップ世代にいたるまで、いまや幅広く支持されているこのレーベルの主宰者、マイケル・パラディナスに話を訊いた。

レーベルのリリースを選ぶにあたって、エレクトロニカ/IDMのデモを聴くだけでなく、他のシーンを見ることは新鮮だったし、そのおかげで前に進めたと思う。それは自分がDJするときにレコードを選ぶ興奮や衝動といった感情に似ている。

まずはこの10年のレーベルの変遷について。2003年くらいまでは、IDM、ブレイクコア、ノイズやエクスペリメンタルを出していた〈プラネット・ミュー〉が2005年くらいからですかねー、ヴァイルス・シンジケートやマーク・ワン、ヴェクスドあたりをきっかけにグライムやダブステップのリリースをはじめて、2006年にはピンチやボックスカッターの作品も出すようになります。個人的にはあなたがミュージック(μ- Ziq)の名義でデビューした1993年から追ってきたので、2006当時は、あなたがグライムやダブステップに力を入れたことに驚きを覚えたんですよね......。

パラディナス:こんにちは! 自分の感覚ではレーベルの変遷それよりももっと前の91年くらいからはじまっていて、建築を勉強していたキングストン大学の頃だと思う。そのころはデトロイト・テクノ、ベルギー系のテクノ、当時真新しかったUKのブレイクビーツ・ハードコア(エイフェックス・ツインの"ディジリドゥー"のようなトラックも含め)をミックスしたDJセットで、 例えばこのDJセットなんか当時僕がよくかけていたレコードになるね。
www.mixcloud.com/mikep/mike-paradinas-90-92-hardcore-mix/

 僕が言おうとしているのは、音楽的なルーツはDJで、とにかくみんなを踊らせることだってことだよね。だから1998年に〈プラネット・ミュー〉をはじめたときは、自分がレーベルから出している音楽とDJしているときにかけている音楽にあまり繋がりはなくて、2000年夏ごろにヘルフィッシュ(Hellfish)やハードコアテクノの12"シリーズ"コンスタント・ミューテイション"(Constant Mutation)という、その当時かけまくっていたレコードのリリースでそういった不一致を修正しようと決めたんだ。レーベルのリリースを選ぶにあたって、エレクトロニカ/IDMのデモを聴くだけでなく、他のシーンを見ることは新鮮だったし、そのおかげで前に進めたと思う。それは自分がDJするときにレコードを選ぶ興奮や衝動といった感情に似ていて、2003年と2004年にリマーク(Remarc)を再発しようと決めたときにも同じような刺激があった。
 UKガラージ、2ステップ、130BPMのブレイクビーツは1998年くらいからDJでかけていたから、グライムが出て来た頃はそんなに驚きではなかった。 何人かのアーティストはジャングルやドラムンベースのプロデューサーやMCであったころから追っかけてたんだけど、2003年か2004年くらいになると、よりロウでそぎ落としたホワイト・レーベルがうようよ出てきて、ウィリーキャット(Wiley Kat)のホワイト・レーベル、DJ マースタ(Marsta)、ジョン・イー・キャッシュ(Jon E Cash)とか、本当に面白い時期だった。でもDJするときは違った音楽をかけていたから、〈プラネット・ミュー〉からリリースするとは思わなかった(例えば、2001年のワープのネッシュ・パーティのときなんかは完全にUKガラージ/ブレイクビーツだったね)。2001年のDJセットをちょっと録音したのがこれ。
www.mixcloud.com/mikep/2001-mike-paradinas-dj-set-at-alive-festival/

 2004年にマーク・ワン(Mark One)のリリースを決めて、それがレーベルで最初のグライムだった。とてもデストピアでインダストリアルなサウンドだと思う。ヴァイルス・シンジケート(Virus Syndicate)のあとに、もっとグライムを出したかったんだけど、多くのMCはメジャーと契約したがってたから上手くいかなくてね。金銭的に満足させられなかった。それでゴースト・レコード(Ghost Records)、ビークル・レコード(Vehicle Records)、オリス・ジェイ(Oris Jay)、ゼット・バイアス(Zed Bias)とか、その先のシーンであったダブステップに行き着いた。彼らはグライムのプロデューサーほどがっついてないからさ(笑)。いまだにグライムはダブステップより面白かったと思ってて、もっとアンダーグランドで荒っぽくて、妥協のない、それでいてポップでもある。いろんな企画のリリースがもっとあったんだけどダメだったね。
 ベクスド(Vex'd)は2004年に契約した最初のダブステップだった。彼らがピンチを紹介してくれたんだよ。ベクスドはグライムに近かったね。よりインダストリアルで、"スマート・ボム(Smart Bomb)"(2006年)なんか正にそれだよね。
www.youtube.com/watch?v=kwkwxyZ_-4k

 彼らはグライムが大好きでね。だから僕はベクスドが好きなんだけど。そこからしばらくダブステップ・レーベルになって、有名なプロデューサーだとハッチャ(Hatcha)やベンガ (Benga)みたいな人から連絡がきはじめたりしたよ。そのときのDjセットがこれ。
www.mixcloud.com/mikep/mike-paradinas-2005-breakstepdubstepgrime-mix/

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僕はいつだってストリート・ミュージックは好きだし、ただエレクトロニカのアーティストとして知られているわけで、もちろんナードは大好きだよ。グライムはブレイクコアよりガラが悪いと思うかな? 自分が見て来た感じだとグライムはとてもフレンドリーなシーンだった。

グライムとダブステップのどこがあなたにとって魅力だったのですか? それとも、あなたのなかでブレイクコアとグライムやダブステップとの共通性があったのでしょうか?

パラディナス:正直ブレイクコアと呼ばれるものに入れ込んだことはないね。なんかどれも同じに聴こえるし、そういった音楽をクラブで聴くこともなかったよ。つまらないと思ってた。それよりもラガ/ジャングルに影響された音楽やアーメン(Amen)がチョップしていた"ブレイクビーツ・サイエンス"が好きで、シットマットは最高のプロデューサーだと思う。DJでもよくかけていたし、みんなよく踊ってた。
 ヘルフィッシュ(Hellfish)や DJ プロデューサー(DJ Producer)も同じで、最初のダンスフロア・レコードだったね。激しい昔のジャングルやドラムンベースなんかを速くて踊れる音楽に持っていくときなんかは彼らをDJセットに入れてた。ヘルフィッシュ(Hellfish)、プロデューサー(Producer)、テクノイスト(Teknoist)、ドロフィン(Dolphin)、シットマット(Shitmat)なんかはブレイクコアだと思ってなかったね。ジャンスキー・ノイズ(Jansky Noise)、スピードランチ(Speedranch)のアルバムもブレイクコアではない、まあそういう感じはあるけどね。
 ベネチアン・スネアズ(Venetian Snares)は唯一自分がかけていたブレイクコアだったかな。彼は唯一無二のヴィジョンがある素晴らしいミュージシャンで、シーンのなかでもずば抜けていたよ。ブレイクコアのルーツであるDJ スカッド(DJ Scud)、パラキス・レコード(Paraxis Records)、アレック・エンパイア(Alec Empire)なんかは好きだよ。とても面白いし、別にブレイクコアを否定しているわけではないから。ただ個人的にはそういう見方ではなかった。グライムとブレイクコアではファン層もサブカルチャーも違うし、そんなに共通点はないじゃないかな。たぶんディジー・ラスカル(Dizzee Rascal)の"I Love You"のキックなんかはガバのキックに聴こえるけど、それは偶然だよね。

いまでもあなたはベネチアン・スネアズやシーファックス(Ceephax)のようなテクノ系のアーティストの作品をリリースし続けていますが、あなた自身はすべてを大きくエレクトロニック・ミュージックとしてみているのでしょうね。ファルティ・DLなんかは90年代初頭のテクノを思い出すようなサウンドだし、最近のダブステップのシーンからはテクノやハウスに近いサウンドが目立つようになったし、あなたにとっては20年前にテクノに接したのと同じ耳でダブステップにも接しているって感じなんですか?

パラディナス:テクノって何だろう? 前はハウスでないものすべてだった。いまの僕の捉え方だと4つ打ちでミニマルなものになる。僕がグライムや後のダブステップ(2002年から2003年)聴きはじめたころだったら、そう言えると思う。80年代後期のシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノと同じくらいの衝撃だった。僕にとってそれは感情の流れで、時間がたてば変わっていくし、ある音楽は自分のなかで古くなって、興味がなくなったり、感情の浮き沈みだよね。コンセプトやジャンルでどうこうってわけではないよ。新しいと言われるポスト・ダブステップなんかは、ハウスのプロダクションとメロディがちょっといままでと違うけど、ただダブスッテプの初期にあった重要な要素であった荒っぽいエナジーはなくなったよね。

とはいえ、〈プラネット・ミュー〉は、やっぱある時期まではナードなブレイクコア・シーンの中心的なレーベルだったわけだし、ワイルドでガラの悪いグライムのシーンに足を突っ込んだりして、それまでのファンからの反発なんかはありませんでしたか?

パラディナス:さっきも少し話したけど、僕はいつだってストリート・ミュージックは好きだし、ただエレクトロニカのアーティストとして知られているわけで、もちろんナードは大好きだよ。グライムはブレイクコアよりガラが悪いと思うかな? 自分が見て来た感じだとグライムはとてもフレンドリーなシーンで、ちょっと乱暴ではあったけど、ハイプもあったと思う。古くからのファンや新しいファンからも良い反応、悪い反応はいつもある。僕ができることは自分の感情に忠実である、それだけだよ。

たしかにテラー・デンジャ(Terror Danjah)のアルバムも面白かったんですが、あなた自身はグライムのシーンに足を運ぶことはあるんですか?

パラディナス:2004年と2005年くらいはよくグライムのパーティに行ってたいたよ。サイドワインダー・レイヴとか(Sidewinder Rave)。テラー・デンジャに関しては2003年から2006年の彼のレーベル、〈アフターショック(Aftershock)〉から出ていたレコードを集めていたから、すごいプロデューサーだよね。ただ、いまとなってはもうグライムのパーティは見当たらないな。警察が全部閉め出したからね。まだブターズ(Butterz)、ノーハッツ/ノーフーズ(No hats No Hoods)まわりであるみたいだけど。

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ダブステップは、その名前はまだあるけど、過去のものとはまったく変わったよね。クロイドン/ビッグ・アップルがアプローチした現行ダブステップのウォブリー・サウンドから進化を見て来たけど、2007年初頭にはもうその姿は変わっていた。

いままでミュージックやキッド・スパチュラ(Kid Spatula)、ジェイク・スラゼンガー(Jake Slazenger)などの複数の名義で自分の作品を発表してきたあなたですが、途中からレーベル業に専念しているように思えたのですが、このあたりの裏事情を教えてください。

パラディナス:そのとおりだよ。自分の音楽を作るのにちょっと飽きたし、自分では十分やったと満足している......と言いながらすぐに新しいリリースがあるかもね!

そういえばニール・ランドストラムのようなテクノのベテランまで、グライムの作品を出しましたよね。それだけ当時のダブステップには、テクノのプロデューサーを魅了するような勢いがあったっていうことなんでしょうね?

パラディナス:そうだね。グライムではなかった思う。シェフィールドのブリープから派生したテクノ系統のグライム/ダブステップとブレイクビート・ハードコアをミックスしたとても面白いミックスであったことに間違いないね。ニールはそういったサウンドにつねに影響を受けていたから、だからそんなに驚くような動きではなかった。多くのプロデューサーがダブステップの影響を受けていたのはたしかで、なにせジャングル以降もっとも大きなムーヴメントだったから。

スターキー(Starkey)、ヴェクスド、ボックスカッター、フォルティ・DL......ダブステップのアルバムを積極的にリリースしていきますが、もちろんあなたが好きだから契約しているのでしょうけど、とくに気に入っているアルバム名を挙げてもらえますか? 

パラディナス:そう、好きだからだね。スターキーのファースト・アルバム『エファメラル・エキシビッツ(Ephemeral Exhibits)』はとくにお気に入りで、やり過ぎてる感がなくより即効的で踊れると思う。ボックスカッターの新しいアルバム『ディゾルブ(Dissolve)』は彼のベストだね。まわりにどうこう思われるのを気にすることなく、彼の良いとろこが全面に出たんじゃないかな。

いま現在のエレクトロニック・ミュージックのシーンに関して、あなたはどう見ていますか? ダブステップはもう面白くないという意見の人もいるし、シーンはネクストに入ったという人もいます。

パラディナス:ダブステップは、その名前はまだあるけど、過去のものとはまったく変わったよね。2004年と2005年にのFWDと〈DMZ〉にはじまって、クロイドン/ビッグ・アップルがアプローチした現行ダブステップのウォブリー・サウンドから進化を見て来たけど、2007年初頭にはもうその姿は変わっていた。小さな島であったシーンが世界へ繋がったときからかな。いまだに初期のDMZがやってたピュアなダブステップのヴァイブレーションやサウンドは覚えてるよ。いまでも多くのレコードにそういった初期の雰囲気は残っていて、クロメスター(Kromestar)、スリー(Sully)、ルーカ(Lurka)、スクリーム(Skream)のプロダクションなんかそうだね。スクリームは最高だよ。テクノ、ガラージ/ハウス、フライング・ロータスのヒップホップに〈ランプ(Ramp)〉、〈ヘムロック(Hemlock)〉、〈ヘッスル・オーディオ(Hessle Audio)〉のようなポスト・ダブステップのフィーリングもある。本当に最高だよ。

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ジュークはシカゴのゲットー・ハウスから派生していて、ゲットー・ハウスは都市のクラブであったような反復的なサンプリングを多用したゲイ・カルチャーによるハウスとは違って、90年代前半に発展したストリート・ハウスで、〈ダンス・マニア〉がメインのレーベルだった。


Various Artist
14 Tracks from Planet Mu

Planet Mu

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最新のコンピレーション・アルバム『14 Tracks From Planet Mu』はどんなコンセプトで編集したのですか?

パラディナス:音楽的にはないかな。僕としてはその年にリリースされた作品を集めたコンピレーションを作ることでレーベルのいまの流れを伝えたかった。『Bangs and Works』のコンピレーションがあったからジュークは入れないようにした。

ちなみにいまのところもっとも売れたのは誰のどのアルバムでしたか?

パラディナス:ベネチアン・スネアズ『ロズ・シラグ・アラット・ズレテット(Rossz Csillag Allat Szulletet)』とミュージック『ビリオアス・パス(Bilious Paths)』だね。

これだけデジタルの時代になってもあなたは12インチ・シングルを出し続ける理由は何ですか?

パラディナス:まだ売れるからね! ヴァイナルが好きなんだ。本格的に売るのが難しくなったら止めるけどね。12"がお店にあると、それに気づいて家に帰ってダウンロードしようって人もいるから。お金を払ってダウンロードしてくれるかもしれないし。

DJネイト(Nate)やDJロック(Roc)のようなシカゴのジュークをどうして知って、あの音楽のどんなところに惹かれたのですか?

パラディナス:Youtubeとダットピフ(Dat Piff)のミックス・テープ・サイトで知ったよ。フットワーク(Footwork)は音楽的にもリズム的にも本当に面白い。自分の好きなツボがたくさんあって、昔のシカゴ・ハウス、アシッド・ハウス、ブレイクビート・ハードコア、ジャングルを思いだすんだ。ジャングルはダブル・テンポのドラムとハーフ・テンポのベースだけど、フットワークはハーフ・テンポのドラムとダブル・テンポのベースになっていて、両方とも160BPMくらいかな。

ジュークがどのように生まれ、発展したのか、ちょっと歴史的なことを教えてください。

パラディナス:ジュークはシカゴのゲットー・ハウスから派生していて、ゲットー・ハウスは都市のクラブであったような反復的なサンプリングを多用したゲイ・カルチャーによるハウスとは違って、90年代前半に発展したストリート・ハウスで、〈ダンス・マニア〉がメインのレーベルだったね。90年代後半にどんどん速くなっていって、ダンスとかパーティといった意味合からジュークで知られるようになったんだ。
 80年代なかばからハウス・オー・マティクス(House-O-Matics)のようなダンス・クルーがいつもハウスのダンスを踊ってて、90年代前半にフットワークはダンスバトルに特化した音楽としてジュークとともに進化しはじめて、ダンスが速くなるにつれて音楽も速くなって、最終的にはフットワークはジュークのキックドラムがなくなって今日の160BPM以上のベース・ミュージックになった。フットワークを"発明"したプロデューサーは90年代後期から00年代初頭あたりのPRブー PR Boo)、DJクレント(Klent)、DJチップ (DJ Chip)、トラックスマン(Traxman)、DJ スピン (DJ Spinn)、そしてDJ ラッシュド(DJ Rashed)。色の付いたミックステープで売られていて、シカゴには12インチを出すホワイト・レーベルもちらほらあったよ(シカゴの外には絶対に出さなかったとか)。

実際に現場に行かれたんですか?

パラディナス:ない(笑)。シカゴには行くつもりだったけど、そのときに各クルーのあいだでもめごとになりそうだから取りやめたんだ。『Bangs and Works』の発売するためにライヴァル・グループのプロデューサー連中とも上手く関係を保つためにもそうする必要があったし。そういった事情が穏やかになったら行こうかなと思ってる。実際にヨーロパ・ツアーに来ていた何人かは会ったし、もちろんフットワークに絡んでもらった人たちとも話をしてるよ。

実際にいまロンドンではああしたゲットーなダンス・ミュージックは受けているのでしょうか?

パラディナス:ジュークとゲットー・ハウスはいつでもリアクションあるけど、フットワークはちょっと違うかな。もうちょっと時間かかるんじゃないかと思う。ロンドンで3、4回DJしたけどレスポンスは毎回良いよ。アジソン・グルーブはとても上手く取り入れてるけど、フットワークというよりはポスト・ダブステップの続きとして見られてる感じがあるな。

〈プラネット・ミュー〉以外で、好きなレーベル、共感しているレーベルに何がありますか?

パラディナス:トライ・アングル(Tri Angle)、リフレックス、ハイパーダブ、ヘムロック、ビュターズ(Butterz)、エグロ (Eglo)あたりだね。

あなた自身の新作はいまどんな状態でしょうか?

パラディナス:いまはヘテロティック(Heterotic)っていうバンドのメンバーとして曲を書いてる。
www.soundcloud.com/heterotic
僕、ララ・リックス-マーティン (Lara Rix-Martin)、シンガーのニック・タルボット(Nick Talbot)がメンバーでもうすぐか、来年にはリリースしたいと思ってる。

最後にあなたのここ1~2年のトップ5を教えてください。

パラディナス:まずは『Bangs & Works vol. 1』、それからトロ・イ・モアの『Causers of this』、ティーンガール・ファンタジー『7am』、DJネイト『Da Trak Genious』、オリオール『Night and Day』

interview with Tadzio - ele-king

 お・前・の 脳みそどこだー!
 何を言ってもわからない 笑ってばかりでわからない
 あなたの思いはなんですか?
 感情 行動 言動 性格
 ファッキューファッキュー アイラブユー
 はやく 気付いて はやく 見つけて
 だけど... 死ね!"NOmiso"


Tadzio /Tadzio
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 「150曲作って死ね」という、今日じつに古風に聞こえる(まるでスポ根だ)言葉をきっかけに誕生した女性ノイズ・ロック・デュオ、タッジオ。ソニック・ユースもメルヴィンズも知らずにプレ・グランジなハードコアや辛口のジャンク・サウンドを鳴らす彼女たちは、結成1年にしてコンボピアノ、ヘア・スタイリスティックス(中原昌也)、狂うクルー、中村達也等と共演し、キュートなルックスに不敵な態度まで加わってスター性も十分、まさにアンファン・テリブルだ。
 それぞれを「部長」「リーダー」と呼び合い、ぶらっと並ぶ立ち姿は、ノー・エイジやテレパシーなど、ここ数年のインディ・ロック・シーンにデュオ編成が目立つ傾向と共振するかのようでもある。このことは音楽シーンにとどまらず、広く現在のコミュニケーションの問題としても重要なポイントではないかと思う。3人以上ではなく、ふたりというミニマルなフォーマットがいま持っているリアリティを、本インタヴューでは随所から読み取ることができるだろう。
 「150曲作って死ね」という言葉の主は中原昌也氏だが、見方を変えれば、タッジオとは、バンド誕生の時点で150曲という目標=終わりが予定されている時限プロジェクトとも言え、このワイルドなデュオがいったい150曲制作のあいだに何を見、どのように変化を遂げるのかという大掛かりなドキュメンタリーとしても興味深いものがある。
 サブカルチャーにおいて音楽の力が衰退しつつある日本の状況に、タッジオの誕生はどのような影響を与え、何を残せるのか。長い旅路の最初の行程を記録するファースト・アルバム「タッジオ」が完成した。

その頃ふたりとも無職だったんですよ。だから時間だけはいっぱいあって、スタジオにもいっぱい入るけど、ぜんぜんおもしろくなくって。

まず音楽的な背景からお聞きしたいんですが、ニルヴァーナとかソニック・ユースとか、あるいはメルヴィンズ、そういった90年代初頭のUSのインディ・ミュージックが......

リーダー:えへへ、やばいやばい......(部長に向かって)難しいこと言ってるよっ。

野田:直球だねえ。

リーダー:(部長に向かって)がんばろうねっ。

(一同笑)

いえいえ、あくまで音を聴かせていただいた上で思い浮かんだのが、そういうバンドの名前でして......

リーダー:はい。

はい。好きな音楽っていうと、どんな感じでしょう。

リーダー:ええと、いま言われたなかだと、ニルヴァーナは知ってます。

部長:ふたりで全然好きなの違うんで......。ハードコアとかも全然詳しくないですし。いろいろ言われるんですけど。

リーダー:ソニック・ユースとかも最近知ったくらいで。リーダーは。

ええー!? 「好きで好きで仕方ない」ってくらいかと思いました。

部長:全然。私もソニック・ユースは通ってないですし。

リーダー:バンドやりだしてからメルヴィンズとかも知ったんです。メルヴィンズ知らないでバズ・オズボーンの曲ができたんですけど。

へえー。"シック"とかもすごい重たい音で、ハードコアとかグランジとかを通過せずに、いきなりどうしてそんな音が生まれてきたんだろうって思います。

リーダー:リーダーは、なんか、知り合いとかがハードコアのバンドをやってるのを見てたんですけど。ぜんぜん趣味でやってる人たちの。汚ーい感じの。

はい。汚ーい感じの。

リーダー:未来のない感じの。

ははは。

リーダー:とかを見てて、って感じなんですけど。

へえー。じゃ、日本の知り合いのバンドからの影響なんですね。バンドを組むのは初めてですか?

リーダー:はい。初めてです。

ギターもドラムも初めてですか?

リーダー:はい。リーダーは初めてです。

部長:ドラムは中学のときに1、2年やってました。

中学で1、2年やったきりですか。部活動とか?

部長:いえ、バンドです。流行ってたんで、その頃。私が中学くらいの頃ですけど。

曲は......

部長:コピー・バンドです。

うーん。それで、初めてバンドを組んで急にあんなノイズが出てくるわけですか? ドラムも手数の多い感じの......

リーダー:バンドやるちょっと前に中原(昌也)さんとかと出会って、そういうノイズを初めて聴いたんですよ、リーダーは。そういう音を出したいって思ったわけでもないんですけど。

野田:中原君のライヴを観て?

リーダー:はい。何回か観ましたね。

うーん......

リーダー:あ、でもライトニング・ボルト。ライトニング・ボルトのライヴを観てリーダーはいちばんかっこいいと思いました。

ああ!

リーダー:いままで忘れてた。

それです! そのコメント拾えてよかった。

リーダー:ははっ!

野田:2年くらい前ですかね。

リーダー:そうですね。中原さんに誘われて行きました。

部長:私は逆に、高校のときから中原さんの音楽を聴いてたので、大人になってからこんなふうに一緒にやったりすることになるなんて思ってなかったです。

憧れとかあったわけですか。

部長:憧れというか、普通に好きで、家にCDとか持っていたので、変な感じ。すごい変な感じがします。

あ、では音楽的にタッジオを引っぱっているのは部長さんですか?

部長:引っぱって......?

(一同笑)

ははは。いえ、では曲ができるときはどんな感じなんでしょう?

部長:ふたりでスタジオ入って、ほんとに、ふたりで話しながらできる感じなんですよ。だからどっちかが作った曲を持ち寄るとかではなくて、どっちが引っぱるとかでもなくて。

まずスタジオに入るところからはじまるんですね。

リーダー:そう、スタジオに入って、音を出して、いまのいいねって言ってどんどんくっつけてくみたいな。

なるほど。バンドのきっかけは、学校とかですか?

リーダー:ううん、何かのライヴの打ち上げで出会って、ふつうにそこで、お友だちになって......

部長:で、リーダーがそこでギターを......

リーダー/部長:もらってー。

リーダー:で、なんかやりたいねって言ってたら、部長が昔ドラムをやってたって言ってたのを知って、で、スタジオ入ってみますかみたいな。

部長:最初はなんかコピーとか。

リーダー:そう。そのニルヴァーナとかやってたら、できなくって。

あら。タッジオでコピーとかやってたんですか。

リーダー/部長:ぷっ(笑)。

部長:あはは。でもコピーとかいっても、全然できてなくって!ふたりとも全然へたくそで、もう「はーっ」ってなってたんですよ。2、3ヶ月くらい。

リーダー:ニルヴァーナとかも全然......

部長:全然できなくてつまんないし(笑)、ニルヴァーナとかやってても。その頃ふたりとも無職だったんですよ。だから時間だけはいっぱいあって、スタジオにもいっぱい入るけど、ぜんぜんおもしろくなくって。それでちょっと(オリジナル曲を)作ってみよっかって。

リーダー:自分たちで作れば間違いがないから、すごい楽しくて。

ははは。たしかに「あ、ここ間違った」とかいうことがない。全部正解ですね。

リーダー:そう、自由にできる。

部長:自分のレヴェルに合わせて。

じゃ、けっこう、突然変異的に、そういういろいろな偶然やら事故やらが重なってできてきた音楽なんですね。

野田:中原昌也の音楽を聴いてたっていうのはどのくらいの時期からですか?

部長:暴力温泉芸者とか、トラットリアから出してたのとかです。

野田:ふーん、じゃわりと昔から。

部長:はい。私もともと小山田(圭吾)さんのとか大好きだったので、そこからたどって聴いてたんですけど。

野田:へえ。じゃ部長さんがマニアックなんだ。

部長:マニアック......そうですね(笑)。

リーダー:「部長さん」......(笑)

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私から見ても......いくつ離れてるんだっけ? わかんない、けっこう歳が離れてるんですけどこんな感じだし。リーダーには同世代の子とかは「若いわね~」ってふうに見えるんじゃないですかね。


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おふたりのお名前、部長さんとリーダーさんだったら、どっちも偉いじゃないですか。

リーダー:そうなんです。だからこういう名前にしたんです。どっちかが嫌だってことは絶対やらないっていう意味で。

部長:どっちも部長、リーダーみたいな感じです。

はいはい。すごいかっこいい名前ですよね。

リーダー/部長:ははははっ!

リーダー:かっこいいですか?

はい。すごいしびれました。

部長:あはは! けっこう変えた方がいいって言われるんですけど。

リーダー:こんな褒められたの久しぶり。ていうか初めて褒められた!

だって、若い、新しい世代の女性アーティストが、「オニ」と「ピカチュウ」(あふりらんぽ)を反復したってだめじゃないですか。そうじゃなくて、「部長」と「リーダー」って、いまいろんな映画やドラマなどが思い浮かぶんですが、2000年代の日本のサブカルチャーが描いてきた、若い人間の新しい関係性を象徴するような、いい名前だと思います。

リーダー:ははは。膨らましていただいてありがとうございます。

いえいえ、クールな名前ですよ。

リーダー:つけてよかったねー。一生リーダーと部長でいいよ。

あはは! では作品にお話を戻しまして。私"ノーミソ"とか音も言葉も好きなんですが、意外に歌詞が頭に入ってこないんですよね。ノイズとファンキーなリズムがかっこよくて、どちからと言いうと身体がよろこぶ感じなんですよ。で、タッジオにとって歌詞ってどのくらい大事なんですか?

リーダー:とても......大事?

野田:はははは!

部長:とても大事です! 全部、実話とか思ったことを歌詞にしてるんで。

リーダー:すごい嫌いな、まあ、苦手な方がいまして。

部長:ぷっ(笑)

リーダー:その人に問いかけてる感じなんですよ。ノーミソがほんとどこにあるんだろって思って。

あ、具体的に顔の見えてる曲なんですね。

部長:これはそうですね。

リーダー:(聴いている人が)いろんな人に当てはめてもいいんですが、それがきっかけですね。

へええ。歌詞はすっごく大事なんですね?

部長:あははは、歌詞を聴かせたいわけではないんですが......

リーダー:歌詞を書いてるのもすごい楽しい。

部長:うん。

そうなんですね。詞に、現代の風俗を感じさせるようなものが全然出てこないなと思って。辻でブルースマンが悪魔と契約するシーンを下敷きにしてたり、ビッグマフへの憧れがあったりとか、ピストルズも出てきますし、「ファックユー」と中指を立てるようなポーズを感じさせたり、ちょっと古い世界の言葉でできてますよね。ひとつだけ現代を感じさせるのが"カピバラ"。

リーダー:あ、電車かな?

電車も出てきますね。カピバラ自体にもいまを感じますが。

野田:何? カピバラって。

動物ですよ。ゆるキャラです。

リーダー:ほ乳類の中でいちばん歯が強いらしくって......

部長:すごいのほほんとしてるのに、牙だけグワーッ! ってなってるんです。

リーダー:そういう歌ですね。それが神様に勝ったっていう。

うんうん。それでその"カピバラ"だけがいまっぽいなんて、いまの世界は嫌いなのかな? って思って。

リーダー/部長:えーっ(笑)!!

リーダー:あははは。全部リアルなものですよ。私たちの世界の。

部長:まあ、イライラしてることは多いのかもしれませんけど、べつに嫌いとかではないですね。ふつうですよ。

リーダー:そう。日常で起こったことを歌詞にしてる。

なんか、友だちとどこそこへ行ったとか、その駅名がでてきたりとかしないなと思いまして。あるいは恋愛をテーマにすることがあっても、現実のディテールにこだわる書き方ではなくて、もっと抽象的というか......

リーダー:抽象的ってなんですか?

ええと、じゃ、誰かを好きだとして......

リーダー:あ、でもラヴ・ソングはいっぱいあります。

え? そうですか。

リーダー:1曲めとか3曲めとか。

部長:"ビースト・マスター"は恋愛の曲です。

あー! "ビースト・マスター"が恋の歌だとすれば、私的に、相手は女の子のように感じられます。

リーダー:なんかかっこいい人でもブスと付き合ってる人とか多くて、でもそれは......

部長:見た目はブスでも中身がきれいな人を好きになるからあいつは素敵よ、みたいな。あたしはきれいだけど、中身はブス、という曲です。

リーダー:でも、片思いの曲なんです。

野田:三角関係の曲なんだ。

リーダー:そうです。三角関係です。ふつうの男女の恋愛の曲です。

でもその相手の男性よりも、女性に向けてる視線の方が濃くないですか? 深いっていうか。こんなに深い観察が生まれているわけで。

リーダー:はい。

いま"ノーミソ"の話になりましたけど、"ノーミソ"とかって神様やカリスマのいない世界のことを歌っていると思うんですね。"ベルギー"で言えば「あの子」。神様とかあの子とか、そういう特別な、唯一の存在っていうものがいない場所。で、いるのはカピバラなんです。それが世界だ。って言ってるのかなと思いました。

(一同笑)

えっと、かけがえのない存在ってあるじゃないですか。それが、ない。というか成立しない世界。いまってインターネットがあればどこにでもつながるし、たいていのものが手に入りますよね。職場とか地域のつながりとかにしたって、昔のような結びつきとかしがらみ、そこにいるのが自分じゃなきゃいけない感覚って薄いですし、他の誰でも原理的には替えがきく。そういうすごく流動性の高い社会なわけですよね。神様も彼女もあの子もいないんだけど、カピバラみたいなゆるキャラだけがはっきり存在してる。鋭い牙を隠し持って......。そんなとこが現代的な感覚だな、と。

(一同笑)

部長:そこまで考えてないです。

リーダー:べつに、神様に頼らなくても、哺乳類=人間だけでやってけるよっていう。クロスロードに行ったら、神様はいなくてカピバラがいたから、あ、自分たちだけでなんとかしろってことねって思った、という。

タッジオって、まず詞ではなく音が聴こえてくるので、しかもいまっぽい言葉が希薄なので、詞って大事じゃないのかなあって思ってたんですよ。でも違うんですね。

リーダー:はい。うちらがいまっぽくないからそうなんだと思います。

はぁ。

リーダー:まあ、だからお互いいまっぽくないってだけなんですけどね。ね?

部長:うん。

野田:そういう、「いまっぽくないな」っていう感覚はあるんですか? 普段生活してて。浮いてるとか、同世代と合わないとか。

部長:たぶん、リーダーはあるのかもしれないよね。まわりに大人が多いんで。私から見ても......いくつ離れてるんだっけ? わかんない、けっこう歳が離れてるんですけどこんな感じだし。リーダーには同世代の子とかは「若いわね~」ってふうに見えるんじゃないですかね。

野田:じゃ、リーダーくらいの人たちの典型的な同世代像ってどんな感じなんですか?

リーダー:うーん、リーダーの同世代......?

野田:部長はなんとなくわかるよね。トラットリアとかコーネリアスとか聴いててさ。

リーダー:うーん、同世代、同世代......

何してたりするんですか? バイトとか?

リーダー:うーん......みんな何してるんだろう。

部長:とくにバンドはじめてからは、同世代の人とかとは遊ばないもんね。

リーダー:もとから友だちいなかったのにもっといなくなっちゃった。

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見た目はブスでも中身がきれいな人を好きになるからあいつは素敵よ、みたいな。あたしはきれいだけど、中身はブス、という曲です。


Tadzio /Tadzio
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なんか、若い方って保守的だなあと思ったりすることが多いんですよ。それこそ古い音楽を参照したりして、すごくブルージーなギターを弾く女性サイケ・バンドとか。素でレトロ志向な若いバンドがけっこう多い気がして、そういう「いまっぽさ」に対する批評があるのかなって感じるんです。同世代とか見てて、かったるいなとか思いませんか?

部長:そういうのありますね。

リーダー:渋谷歩いててよくね(笑)。

部長:ふたりで歩いてて、悪口しか言わないんですけど(笑)。

リーダー:変なバスとか走ってて。

あ、バスレベルで駄目ですか(笑)。ツイッターとかは?

リーダー:部長はやってます。

つかいこなせてる感じありますか? 私ツイッターって全然活用できなくて。

野田:はははは。

部長:ライヴの感想見たりとか、イベントのお知らせ見たりとかって感じですね。

なんだか、私よりもずっと落ち着いていて、ずっと年上のように感じられてきますね......。音楽以外にハマっているものとかないんですか?

部長:うーん。

音楽ばっかりですか。レコード屋さんとかは行きます?

部長:レコード屋さんは行きますね。DJをやってたりしたんで。

あ、そうですね。ジャンル関係なくご覧になります?

部長:いえ、偏ってますね。機械で作った音楽ばっかり聴いています。バンドは全然知らないですね。

あ、じゃあまさに『エレキング』なんて......

部長:買ってましたね。

野田:さすが!

なるほどー。どんどんタッジオが見えてきました。私、おふたりは立ち姿もすごくかっこいいなと思うんですが、ここ3年ほど、海外の音楽はとくにそうなんですが、デュオが多いんですよ。こう、ふたり組が、ぶら―っと立ってる写真が多くて、それが妙にかっこよくて説得力があるんです。デュオってミニマルな単位で、まあ、ひとりがいちばんミニマルですが、いま複数人で音楽やろうとすると、ふたりっていうサイズになにか意味やカギがあるんじゃないかなってことを考えさせられるんです。3人以上のバンドってやれると思います?

部長:(小声で)たぶんできない......

リーダー:やりたくないですね。

部長:サポートで入ってもらうとか......

リーダー:そう、ゲストで出てもらうとかはアリだけど......

部長:一緒に曲作ったりとかは無理ですね。

リーダー:うん。めんどくさそう。

ああ、ふたりのあいだでの緊密な何かがあるわけですね。

リーダー:はい。そう。スタジオ風景とかは誰にも見せられないですね。

(一同笑)

リーダー:悪口しか言ってない。

(一同笑)

リーダー:自画自賛しかしない。

部長:褒めあって曲ができるから、聞かせられません。

リーダー:うん。けなすことはいっさいしない。

じゃあ、ふたりがいちばん動きやすいサイズなんですね。

部長:増えすぎるとちょっと。

リーダー:ちょっと、ですね。

部長:あんまり団体行動とかも得意じゃないし、3人以上になると支障も出てくるかなあ。

リーダー:そうですね。揉めるからね。

わりとプライヴェートでも一緒にいるんですか?

部長:はい。よくお茶とかはしてたんですよ。

その延長でスタジオに入るようになったって感じですか?

リーダー:そう、お茶がスタジオに変わったみたいな。

先に言った海外のぶらーっとしたデュオもそうなんですが、3人以上ではないリアルがあるんだなって思うんですね。高校のときは部活とかはされてなかったんですか?

リーダー:リーダーはされてないです(笑)。

部長:私はギター部でした。弾けないのに。しかも部長でした!

(一同笑)

部長:弾けないけど仕切るのが好きだったんで仕切ってました。

でも団体行動は無理......?

リーダー:無理ですね。だから大勢のバンドってすごいと思う。何がどうなってんのか。

話は変わりますが、資料によるとこのアルバムは一発録りだっていうことなんですが、「せーの」で一気に録っちゃったんですか? いつもライヴやってるみたいな感じで。

リーダー:はい。それを何回かやって録りました。

へえー。じゃほとんど1日とかですか?

部長:はい。1日だね?

次いくよ、次いくよって感じで?

部長:録りっぱなしです。頭から最後までずっと録りっぱなしで、それを何回かやって。

リーダー:そう。通して、それを3回くらいやって終わり。

へえー。それで1セットまるまるじゃなくて、そのなかからいいものをチョイスしているってことですね。

リーダー:そうです。

そんなところから想像しても、一見ライヴがすごく大事なバンドなのかなって思えるんですが、じつは家で聴いたり、再生されることが大事な音楽なんじゃないかという気もするんです。ライヴをやっているのと曲を作ったり録音したりしているのとどっちが好きですか?

リーダー:どっちも楽しい。どっちも大事なことです。違う種類の楽しさです。

ライヴも大事なことなんですね。

部長:やっぱり大きい音でやれるっていうのが。反応も見れるし。

スタジオは、曲作りというか、ふたりでいろいろ言い合っている場所なわけですよね。それに対してライヴは知らない人もいっぱいいるところです。どちらが居心地がいい場所なのかなと思って。

リーダー:居心地がいいのはやっぱりスタジオだよね。

部長:そうだよね。

リーダー:空気もいいし。ライヴ・ハウスは空気悪くて。

ははは! そうですよね。オーディエンスの方って年代や性別的にはどんな方が多いんですか?

リーダー:おっさんばっかりだよね。

(一同笑)

部長:CD出したばっかりだし、ライヴもまだ10回ちょっとしかやってないので、まだよくわからないですね。客層とかは。もっと若い人にも観てほしい。

ああ、それはまさにCDになってから、これからという感じですよね。

部長:うんうん。

しかし、おじさんばっかりなんですか。

部長:とりあえず、出す前までは......

野田:なんでおじさんばっかりなんですか(笑)?

いや、わかります! 私も思いますよ。ノイズ・ロックをやる若い女性って、おじさんの萌えポイントなんですよ!

(一同笑)

部長:あー、それ誰かも言ってた。

だから、そういうところにタッジオが取り込まれちゃうと悔しいなと思って。

野田:なんかディスクユニオン(橋元)が言うと説得力あるね。

(一同笑)

いやー、そうですよほんと。だから、そういうところに取り込まれるのではなくて、音もスタイルもあるわけですから、ぜひとも外にぶつけていっていただきたいなって。若い層に。ただ、若い人が音楽聴いてるのか?って話はありますけどね。

リーダー:ああ、そうねえ。

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うん。怖い。渋谷とかにあるやつ怖い。「日本を元気に」とか言って......


Tadzio /Tadzio
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日本の音楽シーンはどのようにご覧になっていますか?

リーダー:えー......怖い......

(一同笑)

ははは! 怖いっていうのはなんでしょう?

リーダー:それは......

野田:ねえねえ、ノイズ・ロックの若い女性がおじさんの萌えポイントだっていうのはさ、具体的にはどんなバンド名が挙がるの?

ええ!? 気になりますか。いや、それこそトーク・ノーマルとかどうですか?

野田:でもあれはさ、若い子から教えてもらったんだよ。

ああ、そうなんですか?

野田:もっと有名どころで言うと?

私、日本のアーティストだとよくわからないですが、それこそあふりらんぽとかどうなんでしょう?

A氏:最初はおじさんだったと思いますね。

リーダー:へえー......

野田:ああ、そう?

部長:そうなんだ......

何でしたっけ、私いますごい大事なことを......。あ、そうです。日本の音楽シーンです! 怖いっていうのは何なんですか?

リーダー:あー、怖い!

アイドル・ユニットとかはどうですか?

リーダー:あれは、かわいい。

AKB48とかも好きですか?

部長:好きではないですけど! かわいらしいなとは思います。

あのなかでむかつく人とかはいないんですか?

部長:むかつく人は......ていうか、全然知らないですね。

リーダー:うん。全然知らない。

エグザイルとかは?

部長:あれは怖い!

リーダー:うん。怖い。渋谷とかにあるやつ怖い。「日本を元気に」(※渋谷駅前の広告看板)とか言って......

部長:全然元気になれない。

(一同笑)

リーダー:なんか落ち込んじゃう。あれ見ると。

ああ、わかるなあ......(笑)。

リーダー:だったらスマップとかがいい。

部長:うん。

リーダー:スマップは平和。聴いたことないけど。

部長:写真だけね。

じゃ、逆に前野健太さんとかはどうですか? ひとりでギター抱えて、活動もごくインディで。

部長:あの人は好きでした。

あ、そうですか?

部長:かわいくて。

かわいいですか!

部長:なんか私、なんだっけ、ダックス?(※スペース・シャワー・TVの動画配信サイト)に出たときに、前野健太さんの映像も流れてて、初めて観たんですけど、かわいい。

ははは! かわいい、と。なんか、前野健太さんが一言で収められちゃいましたね(笑)。

部長:いえ、ちゃんと聴いてないので......

リーダー:リーダー聴いたことない。

(笑)それこそ、同じ世代くらいの方で、たとえばライヴで一緒になったりする気になるアーティストとかはいないんですか?

リーダー:いないですね。

ははは!

部長:バンドはあんまりわからないんですよ。DJとかなら。

神聖かまってちゃんとか、相対性理論とか......

リーダー:も、わかんない。

わかんないですか。

部長:わかりますよ!

リーダー:わかりますよ。

部長:わかるけど、ちゃんと聴いてない。

リーダー:タイプじゃない。

部長:そう、タイプじゃない。

野田:かまってちゃんと似てるとこあるよね!

部長:ええ!!

リーダー:ええ!!

うーん、鏡合わせに......ですかね?

リーダー:あんまり聴いたことない。

部長:私は全然だめです、かまってちゃん。

そうなんですか。

リーダー:対バンしてかっこよかった人か......茶谷(※久土'N'茶谷)さんくらいかなあ?

やっぱりじゃあ......自分たちが一番かっこいいってこと?

部長:ははは!

リーダー:まあ、そうなっちゃいますね。

(一同笑)

なっちゃいますね(笑)。なんか、あえて聴かない、というよりは、バリアがある感じ?

リーダー:いや、かっこいいのはかっこいいと思う。つい最近も、なんだっけ? THE GIRL(注:日暮愛葉さんが新たに組んでいるバンド)?

部長:THE GIRLとか、久土'N'茶谷もかっこいいと思ったし。

リーダー:だから、レコ発にも久土'N'茶谷に出てもらうし。

ああ......

部長:なんか落ち込んできちゃった。

リーダー:なんかへこんできちゃったねえ。

いえいえ! もうちょっと「怖い」ってあたり掘り下げてお聞きしたいんですが。「怖い」のニュアンスってあるじゃないですか。べつにホラーで怖いわけじゃないですから。

リーダー:なんか、全部おんなじに聴こえる。全部おんなじに聴こえて怖い。

部長:なんか、あれをいいと思って聴いてる人の感覚が怖い。

リーダー:そこで音楽をやったら、私たちの音楽は大丈夫かしらって。

ああ。じゃ、音楽性というよりは、立っているところ、生きているところがみんなと違うんじゃないかっていう感覚ですかね?

リーダー:変なのがチャートの一位とかになってたら怖いなっていう、「怖い」。

そういう、ほんとにマスな音楽とおんなじ地平に立ってる感じあります?

部長:別かな。

リーダー:うん。別。

その自分たちのいる場所でのライバルっていないんですか?

部長:いないかな。

リーダー:うん。いない。

......やっぱ、かっこいっすね(笑)。

部長:かっこいいっていうか、ほんとに知らないんですよ!

(一同笑)

あ、でも部長さんはDJとかなら知ってらっしゃるんですよね?

部長:あ、いや、そこは掘り下げなくても......

いえいえ、聞かせてください。

部長:もともと自分でもやってたので。仙台とかでも。

日本のDJ。私こそあまりわからないので、教えてください。

部長:仙台でやってたのは、常磐さんとか、二見裕志さんとか、ムードマンとか。

野田:ふーん。

音的には......?

野田:ディスクノートっていうレコード屋さんあったじゃない、仙台に。なくなっちゃいました?

部長:あるんですけど......ていうか、私、野田さんのDJそこで観てます。

野田:えっ! あ、あのときかあ!......すごいねえ!

(一同笑)

部長:野田さんのDJですよ! でもそういうこと言わないでおいたんですけど、言っちゃった。

野田:えっ、いや......

(笑)いまテンション上がりましたよね?

野田:いや、だって、すーごい昔ですよ、それ。

部長:中三か、高一かなあ......

そういうところが、高校の頃のアジトだったんですか?

部長:そうですね。レコード屋さんとかは。

野田:ディスクノートってね、それこそディスクユニオンみたいなとこだよ。

部長:そうですねえ。店の感じとかも......

あはは、きたないなあ、ごちゃごちゃしてんなあ! みたいな?

野田:ファラオ・サンダースのTシャツを勝手に作って売ってるみたいなね?

ははは! ディスクユニオンはすごくちゃんとした会社ですよー。ではお話が戻るんですが、これからまた新たなアルバムを作っていく上で、そういったDJ的な素養はフィードバックされてこないんですかね?

部長:フィードバック......されてるのかなあ?

いえ、次の作品の青写真、ということなんですが......

部長:うーん、フィードバックしようとは思わないし、好きな音楽を持ち込もうとも思わないし、そういうのはまったく別物なんですけど、なんか聴く人によっては、「このリズム、テクノっぽいよね」とか言われたりします。

ああ! へえ。

部長:だからほんとに別のもので。ぜんぜん知らないことやってるから楽しいのかも。こんなふうに。

次の展開としては、そういう方向性はないんですかね?

部長:自分からは、ないと思います。勝手に入ってきちゃうってことはあるかもしれないですけど......

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なんかみんなすぐ解散とかしちゃうから、それだけはやめろって言われて......。だから、続けるって意味で150。アルバム1枚出して終わりっていう人たちもいるから、そんなんだったた出したくないなっていう感じ。


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今回の作品は、1枚目ってこともありますから、これまでの総決算、とりあえずやってきたこと全部出しますってアルバムかなと思ったんですが。

リーダー:総決算?

総決算といいつつ、結成が2010年でしたっけ?

リーダー:2010年!

部長:そう! まだ1年ちょっとです。

野田:ははは!

部長:まだ総決算は大げさです!

(笑)あ、そうですね。とりあえず、出しました~って感じですね。

リーダー:そうです。総決算です。

(一同笑)

(笑)ここまでの時点のものを、まとめたという形のものだと思うんですが、次の作品がまたあるわけじゃないですか。何か見えている画というか、こんな感じの作品になるだろうという予定はあるんですか?

リーダー:ま、曲ができたらまた作る。みたいな感じですかね。

部長:曲をつくっていく、という。

リーダー:うん。どんどんどんどん、いっぱい。

部長:それだけが、目標なので。曲ができて、アルバムができて、みたいな。150曲作るっていう目標があって。

ああ、そっか。150曲の目標があるんでしたね!

リーダー:はい。そこでもう終わりなんです。

はい。......えっ、終わり!?

リーダー:そこで終わりです。

部長:中原(昌也)さんから150曲作って死ねって言われたんで。

はい。

リーダー:だからそこでタッジオは終わりです。

終わりって......。そういうことですか......それ、言われたこと守ってたら死んじゃうじゃないですか!

リーダー:そうそう、でもタッジオが死んじゃうんです。タッジオ、ダイ。

野田:じゃあさ、150曲作ろうっていうところまではほんとにやるつもりでいるんだ?

リーダー:はい。それが最後っていうこと。

部長:数をいっぱい作りたいですね。わけわかんないのもできるかもしれないけど、とにかくいっぱい。

野田:3枚組のボックス・セットになっちゃうね。

(一同笑)

ああー! それは刺激的なアイディアじゃないですか。150曲全部入ったやつ!

部長:憧れですね。ボックス・セット!

野田:3枚組じゃ150曲は無理か。

部長:枚数多くしたい。15枚組とか。

リーダー:いいねえ。

野田:でもさ、中原昌也ひとりに言われたからって、なんでそれ守らなきゃいけないんですか?

リーダー:なんか渋谷の焼き鳥屋さんでふたりで食べてたときに言われたんですけど、そんときに言われてすぐスタジオ入ったのがきっかけなんですけど......

部長:なんかみんなすごい後押ししてくれて、中原さんとか。私がドラムやるのも、千住(宗臣)さんに打ち上げで「昔、ドラムやってたんですよねー」って言ったら、「やればいいじゃん、なんでいまやらんの?」みたいに言われて、あ、やっていいんだーみたいに思ったのがきっかけです。

リーダー:すごいまわりが応援してくれる。

へえー。じゃ、すごい相性でしたね。

野田:え、でもだからさ、中原昌也ひとりに焼き鳥屋でやれって言われたからといってさ......

リーダー:あ、でも言ったんですよ、ちょっと。バンドやってみようかなーみたいな。そしたらなんかもうすごい(中原さんが)興奮しちゃって、ギャー! みたいに言われて。ちょっと、まわりの人が心配するくらい。なんか、隣りのカップルが助けにきたりとか。

(一同笑)

リーダー:傍からみたら、おじさんと若い子がそんな......なんかすごい説教されてるみたいな感じになってて。「やれよ!! やって死ねよ!!」みたいな......

(一同爆笑)

部長:27で死ねって言われたよね。

リーダー:そう。

このアルバムに入っている以外に何曲もあるんですか?

リーダー:新曲がちょっとあるくらいで、いま13曲ですね。2曲できた。

じゃほんとにこれで全部、お蔵入りはない方向なんですね!

リーダー:そう。恥ずかしい。20曲くらいあることにしておけばよかった。

野田:いや、しつこくて悪いんですけど、中原昌也のどんなところが好きなんですか?

部長:あんまり深刻なのが好きじゃなくて、なんか中原さんって「なんちゃって」って感じあるじゃないですか。なんか、キャラ、本人自体もそうですけど。そういう音楽がもともと好きなんで、惹かれますね。絵も好きだし。人も好きだし。かわいい。

野田:暴力温泉芸者とヘア・スタイリスティックスとでは、どっちが好きですか?

部長:ええ......そんなに全部を聴き込んでるわけではないんですが......

野田:すごくたくさんあるもんね、中原くんの作品。

部長:どっちってこともないですね......どっちも好きです。最近出してるシリーズとかも。

150曲というのになにか説得力があったというか、それを守ろうというわけですから。150という数字には何か意味があると思いますか。

リーダー:いや、ないと思います。

野田:きっとそのときたまたま出たんだよ。

(一同笑)

そんなあやふやな数字にも関わらず守ろうというんだから、すごい信頼関係があるんですね。

リーダー:最初にその話を聞かせたときに言われたから、やけに印象的で。

部長:それを聞いて、量があればなんとかなるだろうって。

リーダー:なんかみんなすぐ解散とかしちゃうから、それだけはやめろって言われて......。だから、続けるって意味で150。アルバム1枚出して終わりっていう人たちもいるから、そんなんだったた出したくないなっていう感じ。

いまだけじゃなくて、その次出すということが確実に決まってる。ヴィジョンがあるわけではないかもしれないですけど、1回だけじゃない、次もやるという覚悟ですね。そういうのがあるというのは、また古風というか。若い人のバンドには珍しい感じがしますね。

野田:ちなみに、このタッジオっていう名前はどこから......?

リーダー:リーダーが好きなひと。

部長:『ベニスに死す』に出てくる美少年です。

美少年かあ。

リーダー:リーダーが好きで。

野田:なるほど......古風だねえ。

(一同笑)

では、まとめになります。いま言っていただいた部分と重なりますが、これからどのように活動していかれるのか、何か野心があればお聞きしたいです。

リーダー:うーん。

部長:うーん。

ライヴをひたすら続けていく感じでしょうか。

部長:うん、それを続けること。

じゃ、でっかく、「海外行くぜ!」みたいのはない?

部長:それはもちろん行きます。

リーダー:うん。それはもうライヴをやるっていう予定の中に組み込まれてる感じ。

シーンをオーガナイズして日本のインディ・ロックを引っぱっていくぞ! というような方向の野心はないですか?

リーダー:いや、それは勝手についてくればいいなって。

部長:やろうと思ってできることではないから。

野田:ていうか、絶対そういうタイプには見えないよね。

(一同笑)

そういうところがはっきりしてよかったです。野心というか、まあ、自分たちが最高! という。

リーダー:ぷっ。

そういうところがかっこいいと思います。

A氏:あんまり買い被るらないでくださいね。ほんとにまだ他のバンドと全然対バンしてないから、何にも知らないんですよ。

野田:いや、でも渋谷のディスクユニオンのインディ・コーナーとか行くと、いまの日本のロック・シーン内の断絶っぷりがそのまま凝縮されていて。最新のインディ・ロック=パンダ・ベアの新譜の隣にサニー・デイ・サービスの90年代の高価な中古盤があって、その隣にはスピード・グルー&シンキの2万円のオリジナル盤が売られていたりね、とても同じ音楽ファンとは思えない人が隣同士に並んでいる。

まさに、そうですね。タッジオのなかにもそういうせめぎ合いというか、すごく混淆としたものを感じますね。

部長:はい。

だって、「これが好き!」っていうバンドがまわりにないわけですよね?それって、海外の、とくにUSの音楽シーンとかだと考えられないことだと思うんですよ。それこそアニマル・コレクティヴなんかのまわりでは。

部長:アニマル・コレクティヴとか、そういうあたりは私も好きです。ギャング・ギャング・ダンスとか。

それが日本のバンドでないというところが不幸というか。どうですか、日本の音楽はアニメに勝てると思いますか?

部長:すごい嫌。アニメ。

(一同笑)

部長:嫌。もうー。

でも、すごい影響力ですよ。レコード屋で働いていてさえ、「若い人は音楽聴くのか?」っていう状況で、では、タッジオの音楽は「けいおん!」に勝てるのでしょうか?

リーダー:ケイオンって?

(一同笑)

部長:よくわかんないけどアニメだよ。

あ、すみません。私もよくは知らないんです。若い人にすごく支持されているマンガ、アニメです。

リーダー:オタクねー。

部長:そういうこというと「おばちゃんねー」って言われるよ。

リーダー:なんか、オタクもこっちを好きになればいい、ってことでしょ?

はい、質問の意図としては(笑)。あっちのアタマをぶちのめして......

リーダー:こっちになびかせる。

そう、こっちになびかせるということはできるんでしょうか? これ、最後の質問ですね。これに答えていただくことで、日本の音楽のひとつの未来をうらないましょう。ということで!

部長:ええー。もう、違う星の人たちみたいに思えちゃって。どうなんですかねー。

リーダー:じゃ、アニメを絞め殺すということで。

部長:うん。アニメを絞め殺す。

(一同笑)

ははは! じゃ、150曲作ったのちには、

リーダー:のちには。

世界がひっくり返っているであろうことを期待しまして!

野田:でも、アニメ観たらはまっちゃったりして。

部長:そうかもしれないですね! 偏見かもしれないから。

[Sick Team] - ele-king

 すでにご存じの方も多いと思いますが、Budamunk + ISSUGI + S.l.a.c.k. による新ユニット、シック・チーム(Sick Team)がいよいよその全貌を露わにします!
 発売日は6月2日、しかも......なんとその日にはDOMMUNEでライヴも披露することが決定しました! 7時から12時までたっぷり5時間使って、日本の新しいヒップホップの誕生をお届けします。当日は会場に来れる人は来てくださいね! 生で彼らのライヴやDJを体験しましょう!

6月2日(木曜日)
7:00~12:00 @ DOMMUNE
ライヴ:Sick Team、PUNPEE、GAPPER、etc
DJ:PUNPEE、BUDAMUNK
トーク:SORA(DOWN NORTH CAMP)、大前至、二木信、野田努......(後半、Sick Team参加予定)


interview with Silkie - ele-king


E王 Silkie
City Limits Volume 2

DEEP MEDi Musik/Pヴァイン(6/15発売予定)

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 「すべてのインタヴュアーがデトロイト・テクノから影響を受けているだろう? と訊いてくるんだけど......」と、ロンドンからやって来た25才のダブステッパーは言う。「僕は本当にデトロイト・テクノのことを知らなかったんだ。で、聴いてみたら、たしかに似ていると思ったけどね」
 このエピソードが彼の音楽的傾向を物語っている。シルキーを名乗るソロマン・ローズは、ダブステップに70年代ソウル/ファンクのフレイヴァーを注ぎこみ、2ステップ・ガラージのビートにそのメロウなフィーリングを混合する。それが2009年に〈ディープ・メディ・ミュージック〉からリリースされた『シティ・リミッツ・ヴォリューム1』だった。
 それはオリジナル・ダブステップの系譜からの一撃だったが、シルキーの音楽は、ときにロマンティックな都会の叙情主義ゆえに、この2年ものあいだじっくりと時間をかけながら、デトロイト・テクノやハウス・ミュージックのリスナーを巻き込んで、ジャンルを横断するような、より幅広い支持を得るにいたっている。

 この取材は彼がDBSのために来日した4月17日におこなわれている。福島第一原発の放射性物質の漏洩によってDJやミュージシャンの相次ぐ来日キャンセルのなかで、ロンドンからやって来たダブステッパーは意気揚々と渋谷を歩いて、そして居酒屋でビールを飲みながら話してくれた。

グライムというのはアーティストやオーディエンス同士のしがらみがあったり、音もアグレッシヴだし、けっこう大変なんだよ。発砲事件もたびたび起きているし、殴り合いの喧嘩なんか頻繁にある。それが嫌になっていたときに、友だちにダブステップのイヴェントに連れていかれて、あまりにもピースだったんでびっくりした。

『シティ・リミッツ・ヴォリューム1』がホントに好きなんですよ。

シルキー:それはどうもありがとう。

アルバムからはソウル・ミュージックというものを強く感じました。

シルキー:うん。(しばし沈黙)......それで質問は?

いや、ただ言ってみただけです。

シルキー:ハハハハ、オッケー(笑)。いつ質問が来るのかなーと思って、ついつい構えていたんだよ。

初めてだし、バイオ的なことを訊いてもいいですか?

シルキー:いいよ。2001年、15歳で音楽を作りはじめたんだ。最初はグライムから入った。当時のグライムのシーンはエキサイティングだったけど、メロディを受け入れるような感じはなかったけどね。

何がきっかけだったんですか?

シルキー:姉の影響でガラージを聴いたのがきっかけだったね。ガラージの熱が冷めかけた頃にグライムを聴きはじめて、ダブステップに関しては最初から聴きはじめたわけじゃないんだけど、急カーブを曲がるようにダブステップへといったね。

なぜグライムからダブステップへ?

シルキー:最初はホント、グライムにハマったんだけど、グライムというのはアーティストやオーディエンス同士のしがらみがあったり、音もアグレッシヴだし、けっこう大変なんだよ。発砲事件もたびたび起きているし、殴り合いの喧嘩なんか頻繁にある。それが嫌になっていたときに、友だちにダブステップのイヴェントに連れていかれて、あまりにもピースだったんでびっくりした。チーム同士のしがらみがないところも気に入ったし、それでダブステップのイヴェントに通うようになるんだ。そして自分で作ったテープを持っていって、自分の顔を売っていったんだよね。

ティンバランドやネプチューンズの影響は受けなかったの?

シルキー:ノー。ただまあ、グライムがいろんな音楽に影響されているものだから、直接ではないけど、知らないうちに影響されているかもね。

へー、ガラージやグライムの人たちはUSのヒップホップとR&Bからの影響が大きいでしょ。

シルキー:イエス、僕よりも年上の連中はみんなUSヒップホップからの影響を受けている。ただ、僕の世代になってくるとすでにUKガラージがすごく大きかったし、すぐにコマーシャルにもなった。だから僕の世代にとってのアンダーグラウンドはヒップホップとはまた別の音楽になったんだ。

え、最初からアンダーグラウンドだったんですか?

シルキー:ホントにそうだった。まだガラージがアンダーグラウンドだった1998年、僕が13歳のときに聴きはじめたんだよね。最初はガラージも小さなシーンだったけど、それはあまりにも早く大きくなってしまった。そして嫉妬や人間関係のしがらみが出てきてしまった。

ロンドンのアンダーグラウンドはまずはラジオから?

シルキー:ああ、ホントにラジオの役割はでかいよ。とくに年齢が若いとクラブには行けないから、まずはラジオで聴いて、そしてレコード店に行く。僕がそうだったな。ラジオで音を聴いて、ビッグ・アップルにレコードを買いに行って、ベンガに会うっていうね(笑)。アンダーグラウンドの入口はラジオだし、みんなそこから入っていくんだよ。

ちなみに同世代というと?

シルキー:スクリームやベンガ、ジョーカーなんかだよね。マーラーは年上だから叔父さんに接するみたいな感じだけど(笑)、スクリームやジョーカーみたいな連中はホントに同世代って感じで接している。

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PCがあって、フルーティ・ループスを使って、そして親から盗んだスピーカーを使って(笑)、ベッドルームでとてもベーシックなセットで作りはじめた。実はいまでもそんなに変わらないんだ。自分の部屋で作っているという感じが好きだし。


E王 Silkie
City Limits Volume 2

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作りはじめたときに目標とするプロデューサーはいた?

シルキー:とくにいないね。グライムやガラージに対する敬意はあったけど、自分がどうして音楽を作っていったのかと言えば、自分のなかには何かあるんじゃないかと信じていたわけで、そしてそれがシーンに貢献できるんじゃないかと信じていたからなんだよ。

最初の機材は?

シルキー:PCがあって、フルーティ・ループスを使って、そして親から盗んだスピーカーを使って(笑)、ベッドルームでとてもベーシックなセットで作りはじめた。実はいまでもそんなに変わらないんだ。自分の部屋で作っているという感じが好きだし。

最初にヴァイナルで作品を出すのは2003年? 初期の作風はガラージっぽい音だった思うんですが、それがダブステップに変化していくうえでパーティ以外の影響ってありました?

シルキー:基本的にはクラブからの影響だったね。最初はグライムのクラブに通っていて、ホントにグライムが好きだったんだけど、ただ音楽を聴いているだけなのに喧嘩になるようなところにうんざりもしていて、で、ダブステップの平和な雰囲気に惹かれていった。音楽を聴いて気持ちよくなれないと意味がないと思ったんだよね。

グライムって、やっぱそんな喧嘩ばっかだったんですね。

シルキー:ハハハハ、けっこう酷かったね。いまはだいぶ洗練されているのかもしれないけれど、初期のアンダーグラウンドだった頃のグライムのリリックというのはまったくの真実で、まあ、最悪の場合はパーティの最中に銃で人を撃ったりしていたわけだよ。洒落にならないくらい危ないシーンだった。

それであなたの音楽にはピースな感覚があるんですね。そうそう、あなたの音楽にはメロディがあるけど、以前、何か楽器をやっていました?

シルキー:ピアノは独学で少しやっていた。音楽理論はネットを見ながら勉強した。

音楽はあなたにとってどんな意味で重要だったんですか?

シルキー:僕はサッカーもやらないしコンピュータ・ゲームもやらなかった。僕には音楽しかなかった。他の子供たちがコンピュータ・ゲームをやっている時間に僕は部屋でずっと音楽を作っていたってだけだよ。

多くのダブステップのプロデューサーはシングルはたくさん出すけど、アルバムはあまり出さないですよね。そんななかであなたはわりと早くファースト・アルバム『シティ・リミッツ・ヴォリューム1』を出しましたよね。

シルキー:2003年が僕の正式なデビューだけど、実は2002年にもホワイトで1枚出しているんだよ。それは音楽を作りはじめて8ヶ月後に出した作品だった。そして2005年からしばらく作品を出さずにいて、それで2009年に『シティ・リミッツ・ヴォリューム1』を出しているんだよね。

コンセプトがあるアルバムですよね?

シルキー:つねにアルバムを作りたいと思っていた。そういう意味ではすべての曲には共通しているものがあると思う。

都市生活がテーマになっているんですか?

シルキー:たしかにそうなんだけど......というか、僕は世界に出たいけど、ロンドンで暮らしている。ロンドンから出られないんだ。それが"シティ・リミッツ(都市の境界)"という言葉に繋がっているんだ。ロンドンから出られないことが音楽に影響を与えていることは間違いない。"コンクリート・ジャングル"をよく聴くと車の音や街中の音が入っている。すべての曲はロンドンという街から得たインスピレーションで作られれている。

出身はどこ?

シルキー:どこかの雑誌を読んだらサウス・ロンドンと書かれていたけど、ウェスト・ロンドンだよ(笑)。

ご両親の出身は?

シルキー:ジャマイカです。

それでレゲエの曲も入っているんですね。

シルキー:母親から音楽的な影響を受けたことはないんだけどね。彼女も家で音楽を聴いていたわけじゃないんでね。ジャマイカ系ということを抜きにして、ロンドンで暮らしていると自然にレゲエの音が耳に入ってくる。そこからの影響だよね。

それでは、あなたのソウルやファンクのフィーリングはどこから来ているんでしょう?

シルキー:それもいろいろだと思う。90年代のR&Bかもしれないし、ガラージからかもしれない。とくに意識はしていないんだ。

サックスの音が好きなのはなぜ?

シルキー:それはもう、ただその音が好きだとしか言いようがない。

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スティーヴィー・ワンダーとクインシー・ジョーンズはとくに尊敬している。作っていくうちに、何かいいなと思えるアーティストに出会うんだけど、そのひとりがスティーヴィー・ワンダーだったね。実は最近は古い音楽ばかり聴くようになっているんだ。音楽を作っていないあいだは音楽ばかり聴いている。


E王 Silkie
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ダブステップやガラージ以外で尊敬しているアーティストに誰がいますか?

シルキー:たくさんいるけど、スティーヴィー・ワンダーとクインシー・ジョーンズはとくに尊敬している。初期の頃はとにかくビートを作ることに専念していたんだ。それで作っていくうちに、何かいいなと思えるアーティストに出会うんだけど、そのひとりがスティーヴィー・ワンダーだったね。実は最近は古い音楽ばかり聴くようになっているんだ。音楽を作っていないあいだは音楽ばかり聴いている。母親のCDコレクションも聴いているほどだよ。

どんな音楽が好き?

シルキー:嫌いなジャンルはないよ。ヘヴィ・メタルがかかっていると音量を下げるくらいかな(笑)。

ダブステップも生まれて10年くらい経ちますが、あなたから見てシーンはどう見えますか?

シルキー:とても健康的に見えるよ。音楽的に前向きにどんどん展開しているでしょ。古い世代もがんばっているし、新しい世代もどんどん出てきている。ダブステップと呼べるかどうかわからないものまで出てきていることも良いことだと思う。UKではダブステップはすでにメインストリームの音楽だけど、いまでもアンダーグラウンドはしっかりしているし、全体的に良い流れだと思うよ。

あなたが嫉妬を覚えるほどのプロデューサーは誰?

シルキー:ハハハハ、嫉妬は覚えないなー。素晴らしい作品を聴けば、自分にもそれが作れるんじゃないかと励みにしているよ。

好きなプロデューサーは?

シルキー:クエストやベンガやジョーカーや......いや、止めておこう。身内を褒めるようで気色悪い(笑)。

『シティ・リミッツ』のシリーズは今後どうなっていくんですか? 今年に入って2枚のシングルを出していますよね。

シルキー:音楽的に言えば、変化するだろうね。PCのプラグインも変えるし、音も変える。

昨年はUKファンキーもすごかったし、UKのベース・ミュージックもいま頂点を迎えていると思います。こうしたシーンの動きは意識していますか?

シルキー:僕のなかの変化はシーンにともなうものっていうよりも僕個人のなかの変化だと思う。自分がどこかのシーンに属しているって感じでもないし。セカンド・アルバムの『シティ・リミッツ・ヴォリューム2』もほんとんど出来ている。日本では〈Pヴァイン〉から6月15日にリリースする予定だよ。

それは楽しみですね。

シルキー:ありがとう。2歳年を取った分だけ、音楽もよくなっていると思うよ(笑)。

最後に、お礼を言いたいんだけど、今回の福島第一原発の事故の影響で多くの欧米のDJやミュージシャンが来日をキャンセルしています。そんなかで来てくれてありがとう。

シルキー:たしかにまわりの友だちにも止められたんだけど、テレビのニュース番組で言っていることを信じるよりも自分で調べてみて、その結果、放射線の量もそんなに気にすることもないんじゃないかと思って。まあ、自分が空港まで歩くまでのリスクとそんなに変わらないんじゃないかと思ったんだよ(笑)。

 取材をした数週間後に、セカンド・アルバム『シティ・リミッツ・ヴォリューム2』が届いた。間が悪いというか、新作について訊けなかったのがホントに残念だ。新作には前作とは違った興味深い変化があるのだ。
 アルバムの1曲目に収録された"フィール"は2ステップのビートとダブの空間のなかを、美しいピアノとストリングスが繊細に交わっていくいかにも彼らしい叙情詩で、アルバムでも1位~2位を競うほどの素晴らしい曲だが、『ヴォリューム2』には前作以上にビートが強調されている。アルバムの中盤はとくにそれが顕著で、ダブステップのビートをさまざまな角度で展開しながら、彼のジャズ/ファンクのセンスが活かされている(たぶん......そのスジでも大いに騒がれるでしょう)。そして、それはUKベース・ミュージックのスリリングな冒険となっているわけだが......、それはときとしてカール・クレイグのようなメランコリーを見せ、ときとしてURのような力強いファンクを見せているという、デトロイティッシュなセンスもさらに際だっている。
 そして......それは放射線量を気にしながら暮らし、もはや軽々しく"アーバン・ソウル"などとは言えなくなった我々にはなおさらずしりと響くかもしれない。まさに我々はいま、"シティ・リミッツ"な状況にいるのだから......。
 とはいえ、まあ、シルキーは新作でも変わらずロマンティックである。アルバムの最後から2番目に収録された"Only 4 U"は、"コンクリート・ジャングル"の続編とも言える曲だ。浮かれ、舞い上がってしまうようなジャズ・ダブステップで、ファンはこういう曲を心待ちにしていたのだろうし、そしてシルキーはそのことよく理解しているかのように、期待に応えている!

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TIGER & WOODS

TIGER & WOODS GIN NATION »COMMENT GET MUSIC
冗談のつもりがあんまり売れるものだから本気になって(?)フル・アルバム発表という事態に発展した、Running Back関係者による匿名ユニット(ということでOK?)タイガー&ウッズ。最高傑作トラックが本家Running Backから正規(?)再発!!

2

BATTLES

BATTLES ICE CREAM »COMMENT GET MUSIC
Comemeの奇才Matias Aguayoがメイン・ヴォーカルに抜擢された注目作"Ice Cream"が限定12"カット。

3

V.A.

V.A. ENJOY THE SILENCE VOL.2 »COMMENT GET MUSIC
Mule Electronic発、『Enjoy the Silence』シリーズの第2弾が到着!国内外のトップ・クリエイター達の渾身のアンビエント・トラックを収録して好評を博したシリーズの第2弾。アナログLPの他、国内盤が先行していたCDもおまけで同封されているお得すぎる内容です!!

4

KOLOMBO

KOLOMBO WAITING FOR »COMMENT GET MUSIC
多岐に渡るスタイルで非常に精力的なリリースを重ねるベルジャン・デュオMugwumpの片割れOlivier Gregoire。今回は105bpmの美しいシンセポップ・ハウス。Michael Mayerリミックスもグレイト!!

5

NIGHT ANGLES

NIGHT ANGLES AERODYNAMOUR »COMMENT GET MUSIC
Nhessingtons, BANDJOらのコズミック~バレアリック良質作品で当店でも大きな注目を集めたスウェーデン発"Force Majeure"から、UKのビートメイカーNight AnglesがデビューEPをドロップ。

6

HARDROCK STRIKER

HARDROCK STRIKER MOTORIK LIFE »COMMENT GET MUSIC
DJ Sprinkles a.k.a. Terre Thaemlitzによるリミックスが素晴しいSkylax新作です!!SkylaxのオーナーHardrock Strikerによる09年以来となる新作が到着。先日のDommuneでの講義も素晴らしすぎた(続編、希望!!)テリコ先生によるリミックスがとにかく最高!!

7

MR PRESIDENT

MR PRESIDENT NUMBER ONE »COMMENT GET MUSIC
70年代ソウル/ファンクなサウンドをスタイリッシュに展開して絶大な人気を誇るMr President。待望のアルバムは、込み上げ爽快ソウルから激ファンキー・インストまで、超充実の傑作です!!

8

MO KOLOURS

MO KOLOURS EP1:DRUM TALKING »COMMENT GET MUSIC
Paul White、Bullionらのリリースもある『One Handed』から新たな刺客!インド洋南西部に位置するモーリシャス島出身のパーカッショニスト=Mo KoloursによるデビューEP。土着的なパーカッションとヴォーカルのループが、スモーキーかつマッドな世界観を形成している力作!

9

ROMAN FLUGEL

ROMAN FLUGEL BRASIL »COMMENT GET MUSIC
前作"How to Spread Lies"は即完売、レジェンド・デュオAlter Egoの1/2、Roman Flugelが、お馴染みジャーマン音響ハウス名門Dialから再登場リリースです!!

10

AEROPLANE

AEROPLANE MY ENEMY (GREEN VELVET / REX THE DOG RMX) »COMMENT GET MUSIC
Eskimoの看板アーティストVito de Lucaによるソロ・プロジェクトAeroplane。昨年リリースしたデビュー・アルバム"We Can't Fly"から、Green Velvet & Rex The Dogによるリミックス・カットが到着。

Altz - ele-king

Played June Tune


1
Neil - DiabloI - Boogie Originals

2
Illaiyaraaja - Love Theme - Cartilage Records

3
Serenade Edit - Fushiming - CDR

4
The Backwoods - Breakthrough - ENE

5
Terry Hunter & Joey Donatello - Seduction - Night Club Records

6
The Barking Dpgs vs Jessi Evans - Scientist Of Love - Mad On The Moon

7
Khethi - Rainbow - Alala Records

8
Bryant K - Daisies Grow - Stones Throw Records

9
KZA - Mixed Roots Re-Edit - King Records

10
David Darling & The Wulu Bunun | - Ku-Isa Tama Laug - Panai

ZETTAI-MU Monthly Groundation in TOKYO & KYOTO - ele-king

 今年はベース・ミュージックがますます盛りあがりそうです。ダブステップ系の勢いも相変わらずですが、ハドソン・モホークやラスティーといったウォンキー系のリリースも控えているみたいだし、ホントに楽しみです。そんなわけで、日本のベース・ミュージックの総本山とも言える、KURANAKA 主宰の〈ZETTAI-MU 〉が東京と京都で開かれます!!
 震災後、海外からのDJの来日キャンセルが相次いでいますが、僕が東京でハウスで踊っていた大昔なんかは、外国人のDJがまわすなんて滅多にありえない時代でした。だからみんな日本人のDJを英雄視していました。いまでも、日本には良いDJがたくさんいます。今回の〈ZETTAI-MU 〉がもうひとつ興味深いのは、すべて日本で暮らしているDJでやっていることです。
 とりあえず低音好きは絶対に行こう! 踊って、瞑想しよう!


2011.5.27 (FRI)
ZETTAI-MU MONTHLY GROUNDATION in TOKYO @ AIR
"GRASP AT THE AIR"


O.N.O a.k.a Machine Live (THA BLUE HERB)
DJ BAKU (POPGROUP)
KURANAKA 1945 (Zettai-Mu)
DJ QUIETSTORM (中目黒薬局 / TIGHT)
GOTH-TRAD (DEEP MEDi / BACK to CHILL)
BLUE BERRY (BLACK SMOKER / SKUNK HEDAS)

@ AIR
Info tel: 03-5784-3386(AIR)
ADDRESS: 東京都渋谷区猿楽町2-11氷川ビル B1, B2
WEB SITE : https://www.air-tokyo.com/

OPEN/START. 22:00
¥3,000 Admission
¥2,500 w/Flyer
¥2,500 AIR members

https://www.zettai-mu.net/news/1105/0527_air/0527_air.html
https://www.air-tokyo.com/schedule/543.html


2011.6.3 (FRI)
ZETTAI-MU MONTHLY GROUNDATION in KYOTO @ WORLD


KODAMA KAZUFUMI (DUB STATION / MUETBEAT)
KURANAKA 1945 (Zettai-Mu)
O.N.O a.k.a Machine Live (THA BLUE HERB)
ナカムライタル (OUTPUT)
Light-One
and more act!

@ 世界WORLD
Info tel: 075 213 4119(WORLD)
ADDRESS: 京都市下京区西木屋町四条上ル真町97 イマージアムBF~2F
WEB SITE : https://www.world-kyoto.com/

OPEN/START. 22:00
¥2,500 ADV
¥3,000 DO

https://www.zettai-mu.net/news/1106/0603_world/0603_world.html
https://www.world-kyoto.com/schedule/2011/6/3.html

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