ゼロ年代、地方のクラブ・シーンにエネルギーを注入したのは千葉の小さなパーティ〈フューチャー・テラー〉の首謀者、DJノブだった。アシッディなミニマルをかけようが、ソウルフルなハウスをミックスしようが、彼はつねに羽目を外すことを賞揚する。まさに「バカになれ」、そう言い続けているとも言える。そんな彼の評判はこの10年で広く知れ渡り、そして彼の「クレイジー」なプレイも相変わらず熱い支持を得ている。
かれこれ2月以上前のことだ、DJノブがベルリンの〈ベルグハイン〉でまわすらしい、そのニュースはele-king内で素早く話題となり――といってもたったふたりのあいだでだが――よしそれじゃあ、DJノブが帰ってきたら話を訊こう、ということになった。律儀にも、千葉の男はその話を覚えていてくれた。我々はDOMMUNEの上のSUPER COREで会うことになった。
あのね、優しさとかいっさい出しちゃダメなんですよ。ホントにゴリゴリで、グルーヴでもっていって、何も起こらないなかで何を起こすのかっていう話なんですよ。
■どうっすか、最近。
ノブ:最近、面白いっすよ(笑)。
■面白い(笑)?
ノブ:テンポ良く遊べているというか、やりたいことができているというか。
■ベルリンから戻ってきたのはいつ?
ノブ:4月28日ですね。
■まわしたのは?
ノブ:24日。ベルリンを27日に出て28日に戻りましたね。実質三泊ですか。火山の影響で、最初に取っていたチケットがキャンセルになってしまって。4日前になってようやくチケットが取れた。
■DJだけやってすぐ帰ってきたの?
ノブ:ちょっとは遊んだ。
■ベルリンは?
ノブ:13年前に遊びで行って以来。もう全然違ってた(笑)。
■浅沼優子さんの原稿読んでいると、ベルリンがいかにすごいかビシビシ伝わってくるんだけど(笑)。
ノブ:はははは、そうっすね。
■で、〈ベルグハイン〉でのプレイはどうでしたか?
ノブ:まあ、自分なりに合格点かな。常連の人たちも褒めてくれたし。観光客もいるけど、ローカルな人たちに受けたのが良かった。やる前はちょっと心配だったから(笑)。
■千葉とくらべてどうですか?
ノブ:はははは、それは全然違いますよ(笑)。そこは......日本であれやるの無理じゃないですか。やろうとおもってもできないから(笑)
■行ったことないからわからないんだよね。
ノブ:あれは日本では100%不可能です。すべてにおいて。
■アレックスは〈パノラマ・バー〉でライヴやったんだよね。「どうだった?」って訊いたら、目をまん丸くして「ホント、クレイジーだよ」って言ってた(笑)。もちろん褒め言葉なんだけど。
ノブ:クレイジーな世界だけど、ルールは守られているというか、お客さん同士でマナーは守られているというか。
■ノブ君が〈ベルグハイン〉でまわすって決まったとき、エレキングの更新をやってくれている鎌倉君という子からすぐにメールが来てね、「すごい!」って。だから「よし、じゃあ、話を訊いてみるよ」って。
ノブ:だって電話くれるの早かったすよね。
■〈フューチャー・テラー〉がついにインターナショナルな舞台に立つというね。素晴らしいですね。だってさ、ジェフ千葉がヘルタ・ベルリンとチャンピオンズ・リーグで試合をするような(笑)。
ノブ:はははは。たしかにそんな感じっすよね(笑)。
■どのくらいまわしたの?
ノブ:3時間。最初は4時間って言われてたんだけどね。3日前に3時間にししょうってなった。
■ふーん。その、アレックスいわく「クレイジー」なクラブ、ノブ君いわく「日本では絶対に実現不可能」なそのクラブって、ノブ君には肌にあったんじゃないかなと思うんだけど。
ノブ:合いますね。素晴らしいですね。いや、素晴らしいっていうか(笑)、まあ、あれは病みつきになっちゃいますよね。またすぐに行きたいと思ってますからね。
[[SplitPage]]
■そもそも何で〈ベルグハイン〉に行くことになったの?
ノブ:デットマン。マルセル・デットマンが初来日したときに〈フューチャー・テラー〉でやってくれて、それで千葉をすごく気に入ってくれて、去年のベスト・パーティにも挙げてくれたんですよ。浅沼さんもマルセルと仲が良いし、「やろうよ」みたいなことを言ってくれて、で、すぐに決まっちゃいましたね。マルセルのアルバム『Dettmann』のリリース・パーティだったんですよ。
■まあ、ノブ君の場合は、より「クレイジー」な場所に行けば行くほど相性が良くなるような気がするし。
ノブ:そうですね。日本も「クレイジー」な部分を無くさないように、ちょっとがんばりたいですけどね。
この方がデットマンさんです。 |
■でも、世界的に有名な〈ベルグハイン〉のレジデントやってるデットマンが千葉をそこまで理解したっていうのはいい話だね。
ノブ:そうなんですよね。ホントに気に入ってくれたみたいで。
■さすがだね!
ノブ:いやいや、まだ勉強中ですよ。
■はははは。
ノブ:そういえば先週、〈フューチャー・テラー〉が東京に初進出だったんですよ。
■ああ、〈リキッド・ロフト〉で、〈フューチャー・テラー〉名義でやったんだ。
ノブ:そうなんです。けっこうやりたいことやりましたね。
■でも、東京でやると〈フューチャー・テラー〉でなくなるっていうことはないの?
ノブ:それないっすね。だってもう、千葉だけで考えていてもしょーがない......っすよ、やっぱ、他の街でも千葉と同じような状況のところがあるし、そこはもうこだわらずにやろうと。千葉でやるのは基本だけど、もうどこでやってもいい。千葉だけで完結している場合ではないっていうか。
■〈フューチャー・テラー〉のヴァイブレーションが他の場所でも充分に通用するってことで自信もあるだろうし。
ノブ:そうですね。そこはありますね。
■さすがだね。
ノブ:まあ、だから呼んでくれる人もいるんだろうし。
■ところでベルリンでの何か面白いエピソードない(笑)?
ノブ:いや、だから普通にセックスしている(笑)。
■書いていいんですか(笑)?
ノブ:言っておくけど、オレじゃないですよ(笑)。
■そうか(笑)。
ノブ:13年前はやっぱベルリンのゲイ・カルチャーを知らなかったから。
■ああ、そうか。
ノブ:〈ベルグハイン〉は完全にゲイ・カルチャーなんですよ。ゲイじゃないとあそこまでのことできないと思うし。
■よく「現代の〈パラダイス・ガラージ〉」って言うものね。
ノブ:そうそう。ゲイの人たちの瞬間の瞬間の快楽の追求のすごさって......、もうあれは完成型だと思うんですよ。
■ほー。
ノブ:なおかつ白人文化の究極のカタチだと思うんですよ。テクノをファンクション・ワンで世界でいちばんすごい音で出している。「ここまでやっちゃうんだ」みたいな。やっぱすごいっすよ。
■女性もいるんでしょ?
ノブ:女性もいますよ。でもやっぱ6~7割は男。門番の人もそこはコントロールしている。キャピキャピした女の子はまず入れない。
■なるほど。で、何か面白いエピソードはないですか? 喋ってくださいよ。
ノブ:面白いエピソード(笑)。うーん、なんだろうな? なんかあったかなー。〈ハードワックス〉のダブステップのパーティに行ったんですけど、大阪のキラサン(・ムーヴメント)のサウンドシステム使っていて、面白かったですよ。そこで今回初めて、やっと黒人に会いましたね。ベルリンは黒人をあんま見かけないっすよね。
■あれだけ黒人音楽好きがいるのにねー。デトロイトのバズ・ゴーリーなんかも移住してたわけでしょ。そういうコミュニティ感はやっぱあった?
ノブ:それはある。感じましたね。〈ハードワックス〉周辺の人たちとしか遊んでいないですけど、その辺の兄ちゃんの家に遊びに行ったときに、「オレの曲聴いてくれ」って、クオリティの高い曲を作っていたりするし。やっぱそこはすごい。
■ちなみに〈ベルグハイン〉はどんなので盛りあがるの?
ノブ:あのね、優しさとかいっさい出しちゃダメなんですよ。ホントにゴリゴリで、グルーヴでもっていって、何も起こらないなかで何を起こすのかっていう話なんですよ。テクニックがめちゃくちゃ重要だし......、かなりベルリンを意識してやりましたね。
■ハード・ゲイ的なの?
ノブ:超ハード・ゲイ。ハード過ぎます。〈ベルグハイン〉の常連の日本人の男の子の友だちができたんですけど、〈ベルグハイン〉でたまにやっているセックス・パーティがあるらしいんですよ。そのときは50人ぐらいが数珠繋がりになって......(笑)。
■それはすごいねー(笑)。
ノブ:何か塊が見えると思ったら、数珠繋がりだったと。〈ベルグハイン〉の下の階にセックス・クラブがあって、そこに連れてってくれると言われたんですけど、ちょっと行けなかったです、やっぱ(笑)。
■ダンス・カルチャーの発明家たちのほとんどがゲイだったというのは......。
ノブ:いや、もう、そこは絶対にある。そこはすごく思った。ゲイ・カルチャーはホントにすごいっす。それがいちばんの衝撃かな。快楽の追求の仕方がすごい。
[[SplitPage]]
いや、あれはスキルのことを言っているのに、話がでかくなっちゃっただけで、オレは別にパソコン使ってても良いDJは良いと思っているし。オレもそのうちPCでDJやるかもしれないし。
■話を変えましょうか? 最近はiLLとのコラボレーションをやったけど、他に何かあった?
ノブ:アルツのリミックスをやりましたね。自分の曲の12インチが神戸の〈グラス・ワックス〉というレーベルから出ます。〈グラス・ワックス〉っていうのは、K・アレクシーとか出しているレーベルなんですけど。すごく良い感じでできました。もうすぐ出ると思いますよ。あれは聴いて欲しい。誰もやってないことやったつもりだから。
■おー。
ノブ:それが受けるかどうかは別として、挑戦したつもりです。
■それは注目だね。
ノブ:あと......なんだろう。また余計なことを言うと面倒くさくなるけど、ベルリンはみんなレコードでしたね(笑)。
■はははは、人から聞いたよ。例のPCの件だね。
ノブ:いや、あれはスキルのことを言っているのに、話がでかくなっちゃっただけで、オレは別にパソコン使ってても良いDJは良いと思っているし。オレもそのうちPCでDJやるかもしれないし。
■だからデリック・メイと同じことを言ってるだけでしょ。
ノブ:そうそう。ただね、オレが言いたいのは、パソコンでピッチ合わせをやっても良いと思うんですよ。楽だし。サージョンがPC使ってDJしていたんですけど、それは素晴らしかったし、ヘンリック・シュワルツやDJソデヤマも良いし。ただオレは......いまはレコードやCDでないと自分が思う緊張感が作れないからそうやっているだけで。
■でもベルリンって、いまどきヴァイナルなんだ?
ノブ:ホントにびっくりしましたね。〈ベルグハイン〉も〈パノラマ・バー〉も。
■ブースにちゃんとターンテーブルがどんとある感じ。
ノブ:そうっすね。でも実際......ヴァイナルは音が本当にいいっすよ(笑)。
■なんかね(笑)。
ノブ:あれは無くしちゃいけないと思うんですよ。
■そうだね。
ノブ:もちろん新しいことも受け入れるし、だけど、古くて良いものを守るってことも大切だと思うんですよ。そこのバランスは絶対に大事でしょ。
■CDJは使っているでしょ?
ノブ:使いますよ。でも、いまは7割がヴァイナル。自分なりにCDJを使いこなせるようになったらもっと使うかもしれないけど。
■データで良い音源もあるからね。
ノブ:そうなんですよ。オレも1年前からビートポートでちょこちょこ買ってますけど、良いのはありますからね。でもマスタリングなどして工夫しないと音が良くない。
■浅沼さんが最近やったダニエル・ベルのインタヴューで、彼が良いこと言ってたんだよね。90年代ですでにヴァイナルはカルトなものだったと。みんなCDに移行してたから、すでにヴァイナルは時代遅れだった。でも、それが逆に自分は特別な世界に関わっているという気持ちにさせたと。自分はこの文化の時代遅れのもので新しいものを生み出す側面が好きなんだと。
ノブ:そうっすね。ハーヴィーも最近のデジタル・カメラに喩えて良いこと言っていたよ。オートフォーカスのデジタル・カメラがいくら出回っても、プロは存在するって。そういうことをオレも言いたかったんですけど。でも、思い切り勘違いされて......。
■やっぱ影響力が大きいから(笑)。
ノブ:オレ、頭悪いからうまく文章書けないし。
■はははは。
ノブ:オレの戯言をそんなに気にする人がいるんだなって感じですよ(笑)。
[[SplitPage]]
で、オレの今後5年間の目標は、そこにいかにもっと多くの若者を呼び込むかってことなんです(笑)。20代前半が来ないわけじゃないけど、もっともっと来て欲しいっすね。
■いま、DJは月にどのくらい?
ノブ:6~8本っすね。疲れが取れないっすよ(苦笑)。
■じゃ、毎週末どっかでやってるんだ。
ノブ:そうっすね。
■今週末はユニットじゃなかった?
ノブ:ノーマン・ノッジと一緒にやります。彼も〈ベルグハイン〉のレジデントのひとりっすね。で、翌日が熊本。
■週に2回ぐらい。
ノブ:来週は3回。土曜日に1回で、日曜日2回。
■どうっすか、日本をまわって。
ノブ:いや、いいんじゃないっすか。こないだも大阪、平日まわしたけど、100人以上来たし、求めている人は求めているから。ぜんぜん良いのかなって思いますね。
■それはDJノブだからでしょ。
ノブ:それはわからないっすけど。
■でも、間違いなく地方を元気づけたじゃない。
ノブ:あ、それはよく言われる。それこそ熊本なんかめちゃくちゃハードコアっすよ。九州はホントに、「クレイジー」なシーンがある。福岡にもノブ君っていて、そいつもすごいがんばってる。
■へー、じゃあノブ君の現場は元気なんだね。人によっては最近の日本のクラブは元気がないって言うからさ。
ノブ:ただ、さっき言った「クレイジー」な部分は少なくなっているように感じてますね。だからそれを〈リキッド・ロフト〉でやれたのは良かった(笑)。かなりめちゃくちゃだったけど、超まとまってた。オレとローカルDJだけで400人以上入ったし。あれは大成功だった。〈フューチャー・テラー〉の3人と名古屋のローカルでがんばってるヤツと、それだけで人が集まったから。
■たいしたものだね。
ノブ:そういう意味では「クレイジー」なものを求めている連中もいるんですよ。で、オレの今後5年間の目標は、そこにいかにもっと多くの若者を呼び込むかってことなんです(笑)。20代前半が来ないわけじゃないけど、もっともっと来て欲しいっすね。元気がない20代前半にこの遊びの面白を広めたいっすよ。
■でもいるでしょ、そういうヤツはいつの時代でも。
ノブ:若くてやんちゃなヤツ、もちろん〈フューチャー・テラー〉にもいるんですけど。でも、絶対に減っているように思いますよ。
■そういう時期なだけなんじゃないの。今後増えるかもよ。
ノブ:そういえば、こないだハーヴィーの〈オッパーラ〉に遊びに行って、オレ、やらかしちゃんですね(笑)。
■派手に遊んでしまった(笑)?
ノブ:そうなんすよー(笑)。
■ノブ君は自分で踊るの好きだもんな。
ノブ:自分で踊らないDJは、DJがつまらないっすからね。遊んでないDJはダメっすね。オレはだって、フロアで踊る人のためにDJやってるから。やっぱね......。
■はははは。
ノブ:はははは。
■まあ、〈フューチャー・テラー〉が屈託が無さ過ぎるんだよ(笑)。
ノブ:はははは。でもまあ、やっぱベルリンでその原点を見たというか。
■快楽への欲望の?
ノブ:浅沼さんと〈ベルグハイン〉で午後の3時まで踊ってましたからね。(注)
■ひぇー、3時まで! それはオレには無理だ。
ノブ:はははは。
(注)浅沼優子さんいわく「3時まで踊ったけど、私は途中2時間くらい居眠りしましたよ(笑)。いちばん踊ってたのノブ君ですよ!」