「K A R Y Y N」と一致するもの

Roméo Poirier - ele-king

 2016年にロンドンのアンビエント・レーベル〈Kit Records〉からリリースされたフランス人電子音楽家のロメオ・ポワリエの『Plage Arrière』は、ギリシャの島々をモチーフにした美しいエレクトロニカ・アンビエントであった。瀟洒にして心地良いサウンドに虜になったリスナーも多かったのではないかとおもう。
 ポワリエはバンドやユニットのメンバーとしてはいくつもアルバムをリリースしているがソロ作品としては『Plage Arrière』が最初のリリースだった。ちなみに〈Kit Records〉は、ロンドンのNTSラジオでの放送からはじまったレーベルで、ハーピストのメアリー・ラティモアのように広く知られる音楽家のアルバムもリリースしているものの、多くの知られざる音楽家の良質な作品を送り出してきた信頼のおけるレーベルである。
 2019年には Robert Merlak のリリースで知られるUKのレーベル〈SWIMS〉から『Plage Arrière』がヴァイナル・リイシューされた。このリリースで『Plage Arrière』を知ったエレクトロニカ・マニアも多いのではないか。同年、ポワリエは詩人・作家ラース・ハーガ・ラーヴァンド(Lars Haga Raavand)と電子音とスポークン・ワードを組み合わせたアルバム『Kystwerk』を〈Kit Records〉からリリースしている。

 さて2020年、ロメオ・ポワリエは新作『Hotel Nota』をマンチェスターのアンビエント・レーベル〈Sferic〉からリリースした。この『Hotel Nota』もまた『Plage Arrière』と同様にノスタルジックでエキゾチックなムードが濃厚なサウンドに仕上がっていた。ドローン主体のアンビエントというより、いくつもの電子音がレイヤーされるエレクトロニカとして実にブリリアントかつエレガントな仕上がりだ。微かなダブ処理も耳を心地良く刺激し、音の旅へと誘うような感覚を生みだしている。ヤン・イェリネックのミニマルな電子音楽や、アンドリュー・パーカーの『Tristes Tropiques』や『Sounds From Phantom Islands』などのエキゾチックな電子音楽を思わせもすると書くと分かりやすいだろう。そしてマスタリングを手掛けているのはアンビエント名匠のステファン・マシューだ。素晴らしいアートワークともに「エレクロトロニカ名盤」の貫禄をすでに漂わせているとは言いすぎか。

 アルバムには全11曲が収録されている。どの曲も旅先のポストカートを想起させてくれるエレクトロニカ・トラックである。1曲め “Thalassocratie” から明白だが、単に耳触りの良い透明な音というわけではなく、どこかゴツゴツとした、しかしオーガニックな音によって構成されている。その音の質感はどこか1950年代、1960年代モノクロームのイタリア映画やフランス映画のようにノスタルジックな叙情を感じさせてもくれる(アンドリュー・パーカーの近作を少し思わせもする)。6曲め “Hotel Nota”、7曲め “Pénombre” で展開される遠くから聴こえてくるかのごとき音響設計も素晴らしい。アルバムの到達点ともいえる曲は9曲め “Ekphrasis” と10曲め “Raccordement” だろう。ミニマルなフレーズと微かなノイズが、まるで波の満ち引きのように展開していく。
 そう、『Hotel Nota』はまるで夏の記憶へと遡行するようなエレクトロニカ・アルバムなのである。この深い安息の感覚はロメオ・ポワリエの夏/海の記憶と濃厚に結びついているのだろう(彼は写真家でもありライフガードでもあるという)。音が鳴るたびに深まるノスタルジアの純度。フェネスの『エンドレス・サマー』以降、さまざまなエレクトロニカが追求してきた「永遠の夏」がここにもある。

Park Hye Jin - ele-king

 2018年に「If U Want It」をリリースし、今年〈Ninja Tune〉からの12インチ「How Can I」が話題となったソウルのプロデューサー/シンガーのパク・ヘジン(박혜진)、この9月には〈Domino〉からブラッド・オレンジとの共作 “CALL ME (Freestyle)”も発表している彼女の緊急来日公演が決定した。12月18日@渋谷CONTACT、12月19日(土)@大阪BLACK CHAMBER。今後どんどん成長を遂げていくだろう彼女の現在を、この耳で確認しておくチャンス。しっかり感染対策しつつ、ぜひ会場へ。


世界が注目する新鋭パク・へジンの緊急来日が決定!
前売(限定枚数)の先行発売を開始!

박혜진 Park Hye Jin
and more

TOKYO | 2020/12/18 (FRI) CONTACT
OSAKA | 2020/12/19 (SAT) BLACK CHAMBER

今まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのパク・ヘジンの緊急来日が決定!
2018年のデビュー以降、ベルリンのベルグハイン/パノラマ・バー、イビザのDC-10でのプレイ、そしてプリマベーラ・サウンドへの出演や〈88rising〉主催のフェスティバル『HEAD IN THE CLOUDS FESTIVAL』、さらにジェイミー・エックス・エックスとのロンドンでの共演など、瞬く間に活躍の場を世界へ広げていったDJ、ラッパー、シンガーソングライターとして活躍するパク・へジン。その後〈NINJA TUNE〉と契約し、今年6月にリリースした最新EP「How can I」は発売されるや否や世界中で完売店が続出。最近では、ブラッド・オレンジとのコラボ曲が発表されるなど、その勢いは止まることをしらない。主要音楽メディアやファッションメディアから称賛され、大きな注目と期待を集めている。これは見逃せない!

今回の緊急来日に合わせて、海外で制作され SOLD OUT となっていた「How can I」EPのジャケ写Tシャツを数量限定の再生産が決定! 本日より BEATINK オフィシャルサイトにて、受注受付スタート。商品は12月上旬より順次発送される予定。

How can I T-shirt のご予約はこちら
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11565

박혜진 Park Hye Jin - Can you (Official Video)
https://youtu.be/WUiapHwpEdc

Blood Orange & 박혜진 Park Hye Jin - CALL ME (Freestyle) (Official Video)
https://youtu.be/wPr8zRCQV10

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【東京】
公演日:2020年12月18日(金)
会場:CONTACT TOKYO (https://www.contacttokyo.com)
OPEN / START 22:00
前売:¥3,300 (税込) | 当日:¥4,000
※ 20歳未満入場不可。入場時にIDチェック有り。写真付き身分証をご持参ください。
※ You must be over 20 with photo ID.
INFO: BEATINK 03-5768-1277 [www.beatink.com] / CONTACT 03-6427-8107 [https://www.contacttokyo.com]

【大阪】
公演日:2020年12月19日(土)
会場:BLACK CHAMBER (クリエイティブセンター大阪 https://www.namura.cc/)
OPEN / START 15:00
前売:¥3,000 (税込) | 当日:¥3,500
※ 別途1ドリンク代金¥600必要
INFO:CIRCUS OSAKA https://circus-osaka.com

チケット発売:
先行発売:11/11(水)正午12:00〜
◆BEATINK (https://beatink.zaiko.io/e/ParkHyeJinJP2020)

一般発売:11月14日(土)〜
◆イープラス (https://eplus.jp/)
◆BEATINK (https://beatink.zaiko.io/e/ParkHyeJinJP2020)

企画制作:BEATINK

Gus Dapperton - ele-king

 弱さという壁を乗り越える方法を、NYの若きシンガーソングライター、ガス・ダパートン(Gus Dapparton)はどうやら知っているらしい。プロデューサーとしての才能も持つ優れた音楽性、特徴的な髪型やファッションセンスなど独自かつキャッチーなスタイルで各方面から支持を得る彼は、ポップ・アイコンの新星として光を浴びる存在だ。そんな彼の約2年ぶりのアルバムとなる最新作『Orca』は、ガス・ダパートンの影の側面、自身の内なる弱さと向き合おうとする姿がリアルに描かれている。

 最近ではニュージーランドのポップシンガー、ベニー(BENEE)とのシングル作 “Supalonely feat. Gus Dapparton” がヒットし、昨今を賑わすZ世代のアーティストとしてさらなる注目を集めるなかリリースされた本作。獰猛な哺乳類・シャチの名をタイトルに冠し、彼が過去に経験したトラウマや痛み、ツアー中に抱えたかつての苦悩と対峙しながら償いと赦しを探求していく……というテーマが全体を通して語られてゆく。そのテーマを生々しく強調したのは、デビュー・アルバム『Where Polly People Go to Read』でも際立っていた、耳を惹きつけるキャッチーな歌声だ。ベッドルーム・ポップ的な前作では語りかけてくるような印象だったが、今回は力強く振り絞り出したり、ときにはシャウトしたりとアグレッシヴな歌い方へと変化している。しっかりと聴かせにかかる歌声と、ギターやピアノなどの生音を取り入れたバンド・サウンドとの重なりには、ノスタルジックな切なさというよりも、まだ熱を持つ生傷に消毒液を垂らしたときのひりつきにも近い心のしびれを感じてしまった。

 サウンドと同様、ひりついた叫びや想いが生々しくいたいけに表れたリリック。それでも、楽曲からは孤独さや悲壮感といったネガティヴな印象が払拭され、むしろピュアなポップ・サウンドとして真剣に聴けてしまうのはなぜだろう。その理由は、メンタルに傷を負った自身と向き合おうとする姿と、周囲への感謝をストレートに歌った “First Aid” の終盤には彼の本名が第三者的に登場したり、“My Say So” では客演で参加した Chela が、まるで赦しを与えるかのように歌っていたり、幼少期の臨死体験が元となった “Post Humorous” のリリック・ビデオでは彼の友人らがリップシンクしていたりと、彼を支える多くの存在が本作を彩っているからであろう。人が弱さや苦しみを乗り越えるには、つらく険しい過程を共にするつながりの存在が欠かせないということを意味するかのように。そう気づかされると同時に “Medicine” “Swan Song” でクライマックスを迎えると、なんだか泣きはらしたあとの爽快感にも似た前向きで鮮やかな感傷が胸に残った。

 ガス・ダパートンはこんな場面でも、内なる弱さを乗り越えるためのもうひとつの方法を誰かに与えていたようだ。以前、とある TikTok スターが #BLM 運動の一環としてアップしたキング牧師からの引用キャプション付きの自撮りに批判が殺到した際、彼はこう呼びかけた。「Just because you caption your selfies with an MLK quote doesn't mean this isn't shallow as f**k. (自撮りにマーティン・ルーサー・キングの言葉を引用したからといって、これが浅はかでないという意味ではない)」。このかなり厳しいメッセージを受けた TikTok スターは、しでかしたことの重大さを受け止め謝罪し、世界が直面する問題に対し自ら深く学んだ上で声を上げていくと姿勢を改めたそう。彼の言葉がつながりとなり、ほかの誰かが抱える弱さを乗り越えようとさせたのだ。

 もうガス・ダパートンはただのポップ・アイコンの新星ではないのかもしれない。弱さを乗り越えた彼はいま、人びとから光を浴びる存在ではなく、人びとを光へと導くポップ・スターとしての輝きを新たに放ちはじめていると思う。

男は天才であり、稀代の悪党だった
10代なかばでサウンドクラウドに上げた曲が
そしてビルボードで1位になるときには獄中だった
ポップスターになる条件がすべて揃ったところで
過去がものすごい速さで彼を元いた場所へと引きずり戻した
20歳になる前に彼は社会的制裁を受け
そして20歳になると彼は首に銃弾を撃ち込まれて死んだ
しかし彼の死後、彼の曲はヒットした
サブスクではクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を抜くほどに

つまりこういうことだ。
人の為し遂げることに報いなど存在しはしない。
地位、権力、名声、金。
すべてクソだ。
だから僕はこうアドヴァイスする。
ゲームに疑いようもなく裏があり、
しかも、目に見えない社会的圧力が
こちらの行動まで規定してくるような場面では、
できることは一つしかない。
ぜんぶ間違ってやれ。
──本書より

くたばれインターネット』の著者が描く
異色のXXXテンタシオンの評伝
夭折したラッパーの生涯を通して問う
ネット社会や音楽シーンの意味と人種問題、
あるいは、
現代への痛烈な批判とテンタシオンへの思い

解説:二木信

目次

一章 今再びこのアメリカを驚愕せしめん
二章 本当っぽい方がいい
三章 息絶え絶えになお叫びつつ
四章 汝(なれ)は吸血鬼(ヴァンパイア)なるか?
   嬰児(みどりご)の我は死と歩む
五章 保護観察
六章 ♯予期せぬ結
七章 魔女とのまXぐXわXい
八章 歩哨(センティネル)の丘──ウィルバー・ウェイトリーと限りない空虚(ヨグ=ソトース)とともに
九章 ベイビー・イッツ・ユー
十章 ジュネーヴァ
十一章 我痛みを知るより先に朽ち果つるを望む
十二章 死走

訳者あとがき
解説(二木信)

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Eartheater - ele-king

 例年のようなお祭り騒ぎは見られなかった。仮装しているひとも少なめで、でも人出じたいは前週までの土曜よりも確実に増えていたように思う。つまり、やじうまが多かったということだろうか? 10月31日の夜、ハチ公前の風景。
 コロナ時代におけるハロウィーンはいったいどうなってしまうのだろう──なんて考えなくてもいいことを考えてしまったのは、彼女の背に生えた羽根に見とれてしまったから。他方で尻には火がついている。〆切でも迫っているのだろうか? これくらいはもうインスタ時代のスタンダードなのかもしれないけれど、ジャケがアルカばりにたいへんなことになっている(じっさい、フォトグラファーはアルカを撮ったこともあるダニエル・サンヴァルト)。わたしはじぶんのスタイルをカスタマイズする──かつてそう宣言した彼女らしいヴィジュアル表現だ。
 農場で育ち、馬を友とするアレクサンドラ・ドリューチンによるプロジェクト、アースイーター4枚目のアルバムは『不死鳥』と題されている。ずばり、再生の象徴だ。生物の屍体は土へと還り、またべつの生命の肥やしになる──と彼女は紙エレ23号のインタヴューでも語っている。そういう輪廻転生のような話に彼女は、どうしようもなく自己を重ねてしまうのだろう。
 過剰に視覚に訴えかけるアートワークや「わたしの肌にしたたる炎」なる副題からもわかるとおり、今回のアルバムはコンセプト的にかなり熱い1枚に仕上がっている。前作『IRISIRI』の「水」とは対照的だ。とはいえ溶岩や火山など、地質学的な対象から着想を得ているところは、相変わらず彼女が人新世的な音楽家でありつづけていることを物語っている。
 そんな本作のパッションをもっともよくあらわしているのは、キャッチーなメロディの映える “Volcano” だろう。「欲しいのはいい感じの激突」「山頂をさらに突き上げるために/黙れ/地震を引き起こせ、2枚のプレートのように/岩盤をずらせ/わが火山よ」なんて歌詞は──地震大国に暮らすわれわれには笑えない話だが──まるで蜂起を呼びかける革命家のようでさえある。山岳派、ドリューチン。

 ひるがえってサウンドのほうは、しかし、まったくといっていいほど熱気を感じさせない。むしろ「涼やか」と形容したほうがふさわしいムードに覆われている。ポイントは室内楽の導入だろう。じつはくだんの “Volcano” も、「プラグを引っこ抜けば究極の反ドラッグになるかも/むしろわたしはこっちの(アンプラグドな)生活の中毒」というフレーズではじまっている。これは、本作がエレクトロニクスよりもアクースティック・サウンドを主体としていることのメタ的な確認だ。
 前作やそれと同時期に制作されたミックステープ『Trinity』とは異なり、ここにはテクノのビートもなければトラップのビートもない。“Burning Feather” や “Kiss of The Phoenix” のようにエクスペリメンタルな電子音を聞かせてくれるトラックもあるにはあるが、ひたすら弦の反復で押し通す “Metallic Taste of Patience” なんかはストレートに「モダン・クラシカル」と呼ぶべき曲だろう。ヴァイオリン、チェロ、フルートを担当する楽団、ジ・アンサンブル・デ・カマラの貢献は大きい。“Below The Clavicle” などで挿入されるハープも本作に落ち着いた雰囲気をもたらしている。スペインのサラゴサで録音した影響なのか、いくつかの曲でギターがスパニッシュな響きを携えているのも聴きどころだ。
 もっとも注目すべきはやはり、ドリューチンの声ということになるのだろう。ときにやさしく囁くように、ときに叫ぶように、曲ごとに不安定な表情を見せる彼女のヴォーカルは、「涼しげな」室内楽サウンドとは裏腹に、どこまでも激しく燃え上がり死の淵から蘇る、不死鳥の葛藤を表現している。このアンバランスこそが本作のキモだ。
 前作で高い評価を獲得したがゆえに、尻に火がついてしまったドリューチン。きっとこんなふうに彼女はこれからも都度、おのれのスタイルをカスタマイズしていくにちがいない。

Jun Togawa - ele-king

「戸川純です。11月末のチッタに、意気込んでます! 久々のワンマンですが、歌の訓練を欠かさず続けてきたので、そこらへんと 演奏をご堪能くださいませ。楽しみです!」

JUN TOGAWA BIRTHDAY LIVE 2020 *振替公演

11/30 (mon)
川崎CLUB CITTA’
open/start 18:00/19:00
adv/door 5000円/5500円+1D
*枚数限定。全席自由。

-Live-
戸川純(Vo)
中原信雄 (B)
ライオン・メリィ (Key)
矢壁アツノブ (Dr)
山口慎一 (Key)
ヤマジカズヒデ (G)


e+ イープラスでチケット発売中!
URL:https://eplus.jp/togawajun/
※未就学児入場不可

入場順
1、プレオーダー A1~
2、一般 B1~3、当日券 C1~

会場の新型コロナウイルス感染予防の取り組みについて
https://clubcitta.co.jp/content/counterplan

Laura Cannell - ele-king

 相変わらず美しく、そして深みのある音楽だこと。心が嬉しくなるとはこういう音楽のことだろう。
 ローラ・キャネルはイギリスのヴァイオリン奏者であり、インプロヴァイザーである。オリヴァー・コーツの新作のように、キャネルの作品もまずはその音(トーン)によって決定する。それは忘れがたいトーンで、あまりに独自なトーンと響きゆえに、一瞬にしてその場の空気を変えてしまう。あるいはまた、静かで情熱的で、ぎょっとするような強度のある倍音を有している。それはまるで、彼女が自然界と話しているかのような、ある種の言語に思える。
 曲のなかには、ヨーロッパ各処の中世の音楽、スティーヴ・ライヒ風のミニマリズム、レデリウス的な室内楽が混ざっている。とくに近代以前の古いもの──国家がとくに誇りとしていないような、中世の旋律や民謡など──を掘り起こすことは、キャネルのおそらく全作品に通底するコンセプトだ(松山晋也氏なら、この曲は地中海のあのエリアで、この曲は東欧のどこそこで、などと言い当てられるかもしれない)。
 そして場所。
 2014年の実質的なソロ・デビュー作『Quick Sparrows Over The Black Earth』によって注目された彼女は、場所を選んで演奏し、録音している。どこでもいいわけではない。2016年の『Simultaneous Flight Movement』は海沿いの灯台で、2017年の『Hunter Huntress Hawker』と前作『The Sky Untuned』は小さな村の古く荒廃した教会で、今作『The Earth With Her Crowns(彼女の冠をした地球)』は水力発電所で演奏し、録音した。場所もキャネルの作品においては、いわばメタレベルでの楽器である。
 
 クワイエタスはキャネルの音楽を“エイシェント・フューチャリズム(古代・未来主義)”と呼んでいる。以前書いたことの繰り返しになってしまうが、最近は、アイルランド出身のアーニェ・オドワイアー(Áine O'Dwyer)、あるいはアースイーターなんか、エイシェント・フューチャリズム的なアプローチをする人が目につくようになった。自然現象と過去への畏敬の念、そこに未来(それは手法的な未来でもあり、必ずしも楽天的ではない未来である)が絡み合う、強い主張のこもったヴィジョンが空の彼方まで広がる。ちなみに、エイシェント・フューチャリズムの始祖をひとり挙げるとしたら、ぼくはサン・ラーだと思う。

 『The Earth With Her Crowns』はリリースされてからすでに数か月が経っているのだが、初夏、真夏、そして秋から冬へと、ぼくは前作同様このアルバムを部屋のなかでなんども聴いている。彼女の高度な演奏技術ゆえに、曲はオーヴァーダブしたかのように聴けてしまうけれど、すべては彼女ひとりによる即興で、驚くべきは、すべては一台のヴァイオリン(そしてリコーダー)によって演奏されている。
 ローラ・キャネルの演奏は、そしてきわめて詩的で、記憶を反響させ、閉ざされた思いを解放するかのようだ。そう、だからためしに空を眺めながら聴いて欲しいですね。胸の奥から得も知れない感覚がこみ上げてくるだろう。

Jam City - ele-king

 ジャム・シティことジャック・ラザムが帰ってきた。2015年の『Dream A Garden』から5年、ついに新たなアルバムが送り出される。タイトルは『Pillowland』、発売は来週11月13日で、今回は〈Night Slugs〉ではなく自身のレーベル〈Earthly〉からのリリースとなっている。
 プレスリリースによれば、疑念と痛みと混乱と変化に満ちた自らの生活に向きあった結果、アンフェタミン漬けで甘~いポップの夢景色のなかに逃避した内容になっているらしい。ふむ。楽しみに来週を待とう。

Jam City
Pillowland

Earthly

01. Pillowland (2:28)
02. Sweetjoy (2:50)
03. Cartwheel (3:38)
04. Actor (2:01)
05. They Eat The Young (2:30)
06. Baby Desert Nobody (1:32)
07. Climb Back Down (3:26)
08. Cruel Joke (4:50)
09. I Don't Wanna Dream About It Anymore (5:05)
10. Cherry (4:05)

Written & Produced by Jam City
Mixed by Liam Howe and Jam City
Mastered by Precise
All artwork by Jakob Haglof
All photography by Sylwia Wozniak

https://pillowland.org/

Virtual Dreams - ele-king

 よう、俺と同世代人たち、ついにこんなコンピレーションが出る時代になっちまった。アムステルダムのレーベル〈Music From Memory〉から、90年代アンビエントのコンピレーション、題して『仮想の夢:ハウス・テクノ時代のアンビエント探求1993-1997』。原題は『Virtual Dreams: Ambient Explorations In The House & Techno Age, 1993-1997」。 LFOやBedouin Ascent、MLO、La Synthesis、Sun Electricやんなか全17曲が収録されるらしい。詳しいリストはココ

 俺より若い世代へ。これがベストな選曲かどうかは議論の余地はあるかもしれないけれど、聴いてみる価値はあると思う。そこで、君がさらに完璧な現実逃避を望むなら、年末号の紙エレキングをチェックして欲しい。まさに90年代の「エレクトリック・リスニング・ミュージック」を大特集しているから。自分で言うのもなんだけど、タイムリーな特集だし。君のコレクションに一助になると思う。ヨロシクね。

Various Artists
Virtual Dreams: Ambient Explorations In The House & Techno Age 1993-1997
Music From Memory
2020年 12月11日発売

Andrew Weatherall tribute book - ele-king

 まったく……残念ながら今年2月に亡くなってしまったアンドリュー・ウェザオールだが(いまこれだけ人々が分断された時代だからこそいて欲しかった、本当にそう思う)、彼のトリビュート・ブックがイギリスで刊行されることになった。企画したのは、93年から04年まで発刊されていたUKのダンス・ミュージック系音楽誌の『ジョッキー・スラット』。題して『Andrew Weatherall: A Jockey Slut Tribute』。
 かつて同誌に掲載されたすべてのウェザオールのインタヴューをはじめ(この頃、ウェザオールは滅多に取材を受けない人でも有名だった)、80年代半ばから2020年までの彼のキャリアにかんする多くの記事を掲載。新たにボビー・ギレスピーやダニー・ランプリング、キース・テニスウッドらによる1万ワード(日本語に訳すとおそらく3万字くらい)のオーラル・ヒストリー(証言集)も収録されるとのこと。全160ページ。
 なお、同書のすべての収益はウェザオールが支援していたアムネスティ・インターナショナルなどの慈善団体へと寄付される。詳細はこちらから。

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