「K A R Y Y N」と一致するもの

DC/PRG - ele-king

 菊地成孔率いるデートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデンが今年で結成20周年を迎えます。それを記念し、初期スタジオ・レコーディング作品3枚が、スペシャルプライス盤として再発売中です。なお同バンドは現在4都市をめぐるツアー中で、明日28日には新宿の BLAZE にて東京公演が開催されます。詳細はこちらから。

“菊地成孔”主宰ビッグバンドDC/PRG結成20周年記念!

常に進化を止めないサウンドでシーンを席巻し、幾多のアーティストに多大な影響を与えてきたDC/PRG。その原点とも言うべき1stアルバム『アイアンマウンテン報告』(2001年)から2ndアルバム『構造と力』(2003年)、そして3rdアルバム『フランツ・カフカズ・アメリカ』(2007年)の初期スタジオ録音3作品を結成20周年を記念して初回限定生産スペシャルプライス盤として緊急リリース決定!

菊地成孔コメント
 
[1999年当時のこと]
 バンドの着想は90年代初頭からありましたが、カヴァー曲(「circle/line」菊地雅章)の採譜とオリジナル曲のスコア化を経て、リハーサルスタジオに最初に入ったのが1999年末でした。世界はノストラダムスの預言や2000年問題が(どうやら)なさそうだという雰囲気と、何よりほとんどの人類が世紀末から新世紀へ跨ぐ、という時で、ネットという麻薬も今ほど蔓延っておらず、世界では目を覆うような内戦や紛争も絶無ではありませんでしたが、やがてそれらも集結し、「21世紀は争いのない〈心の世紀〉にしたい」的なオプティミズムで温まっていました。音楽は渋谷系やDJ先導の初期のクラブジャズなど、お洒落で高踏的で快楽的な感じでした。リズムに揺らぎや混沌を求める等というのは夢のまた夢、といった感じです。ですが僕の内部では「21世紀は、戦争や内紛がもっと醜悪な形になって、経済も悪化する」といった予感がありました。これがいかに、病的なまでに時代とアゲインストしていたかは、タイムマシンに乗って1999年まで来ないとご理解頂けないと思います。僕は生死を彷徨う難病を克服したばかりで、生命としての勘が鋭くなっていたんだと思います。来るべき時代に備えるのがジャズの特命だと思っており、すぐに準備に入りました。今回、我々の初期3作をP-VINEさんにリイシュー(サブスク解禁)して頂く運びとなったことをとても嬉しく思います。中でも、デモ盤もない、ライブハウス回りの、意味不明な音楽をやるバンドに契約書を差し出し、ちょっとしたマスヒステリーの中に突き落とし、3年間はマネージャーもやってくれ、僕らと世界のあらゆる運命を変えてくれた、生涯の恩人、又場クン(当時、P-VINE RECORDS A&R)に神聖なまでの感謝のバイブスを送ります。



アーティスト:DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN / デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン
タイトル:Report From Ironmountain / アイアンマウンテン報告
PCD-20412 定価:¥2,000+税
発売日:2019.11.13 【CD】

70年代エレクトリック・マイルスからの源流をジャズ~ソウル〜ファンク〜アフロ、さらには現代音楽までクロスオーヴァーした唯一無二なスタイルでダンスミュージックへと昇華した衝撃の1stアルバム(2001年作品)! ポリリズミックなリズムに重厚なグルーヴ、ツインドラムを備えた11人編成によるビッグバンド・スタイルで畳み掛ける怒涛のインストゥルメンタル・ミュージック! ジミヘンで有名なナンバー「HEY JOE」をも独創的な解釈でプレイするなどジャンルやカテゴリを超越したスタイルは00年代の幕開けにふさわしいボーダレス・サウンド!

《収録曲》
1. CATCH22 / 2. PLAY MATE AT HANOI / 3. S / 4. CIRCLE/LINE~HARD CORE PEACE / 5. HEY JOE / 6. MIRROR BALLS

【パーソネル】
菊地成孔(Vox-Jagar / CD-J / キーボード)/ 大友良英(ギター)/ 高井康生(ギター / フィルター)/ 芳垣安洋(ドラムス)/ 藤井信雄(ドラムス)/ 栗原正巳(ベース)/ 津上研太(ソプラノ・サックス)/ 後関好宏(テナー・サックス)/ 坪口昌恭(シンセサイザー / エレクトリック・ピアノ / クラヴィネット)/ 大儀見元(パーカッション)/ 吉見征樹(タブラ)
ゲスト:イトケン(ドラムス / タンバリン)

[「アイアンマウンテン報告」について]
 盤のタイトル、収録曲、曲順、曲名までが、製作前から全て、ミリ単位の精緻さで決まっていました。レコーディングで生じる演奏上のミスや混沌の全てに既視感があり、それは、恐らく、世界のジャズ史上でも最も長時間に及んだ編集作業を全て終えて、ミックス、マスタリングの終了まで途絶えませんでした。今ではもう考えられない集中力と憑依の力が、僕らがシットインしたスタジオ全体に漲っていて、僕らは新しいバンドのレコーディング、というより、何らかの、世界側からのミッションを遂行するのだとしか感じていませんでした。かといってスタジオが異様な緊張感に包まれていた。とかではありません。非常にリラックスした興奮とともに、全ては進みました。アルバムタイトル、楽曲タイトルに、僕のオリジナルは「ミラーボールズ」しかありません。あとは全てテキスト引用された物です。これは戦争、というより「戦場」に関するアルバムで、というか、音楽の中にある戦場の側面を、戦争が起こって行く生成過程と最大限まで共振させた作品です。20世紀までの、としますが、地上戦の構造と音楽の構造との共振の数値として、これを超える作品を僕は知りません。不安と恐怖が快楽であり、戦闘が健全さと繋がっている、という極秘事項を音楽で表現した、数少ない音楽の一つだと自負しています。


アーティスト:DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN / デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン
タイトル:Structure et Force / 構造と力
PCD-20413 定価:¥2,000+税
発売日:2019.11.13 【CD】

ポリリズムから溢れだす混沌としたグルーヴにあらたにホーンセクションを増強することで前作からのコンセプトをより強固なものへと進化させた第二期14人編成による2ndアルバム(2003年作品)! 80年代に一世を風靡した思想書〜浅田彰『構造と力』と同名のタイトルを冠し確固たるコンセプトをもとに全6曲で構成された壮大な組曲! 緻密に計算された音場と音象をベースにカオティックに乱れ飛ぶ音粒、そして複雑に展開し続ける曲構成はまさにプログレッシヴな進化を遂げるエクスペリメンタル・ダンス・ミュージック!

《収録曲》
1. 構造 I - 現代呪術の構造 / 2. 構造 II - 中世アメリカの構造 / 3.構造 III - 回転体と売春の構造 / 4. 構造 IV - 寺院と天国の構造 / 5.構造 V - 港湾と歓楽街の構造 / 6. 構造 VI - シャンパン抜栓の構造

【パーソネル】
菊地成孔(コンダクター / CD-J / キーボード)/ ジェイソン・シャルトン(ギター)/ 高井康生(ギター)/ 芳垣安洋(ドラムス)/ 藤井信雄(ドラムス)/ 栗原正巳(ベース)/ 津上研太(ソプラノ・サックス)/ 後関好宏(テナー・サックス)/ 坪口昌恭(シンセサイザー / エレクトリック)/ 大儀見元(パーカッション)/ 吉見征樹(タブラ)/ 関島岳郎(チューバ)/ 青木タイセイ(トロンボーン)/ 佐々木史郎(トランペット)
ゲスト:イトケン(ドラムス)

[「構造と力」について]
「アイアンマウンテン報告」のリリースパーティーが渋谷クラブクアトロでセッティングされたのは2001年9月14日です。つまり「よし。あと3日だ」という夜に、あの同時多発テロがあり、僕は、ミッションの遂行が順調であることを確認しましたが、そのままパニック障害を発症しました。このアルバムが仏語タイトルと英語タイトルと日本語タイトルを持っているのは、パリのスタジオで録音し、ライナーノートも含め、文字情報を全てフランス語にする予定だったからです。パニック障害の発症によって、パリへのフライトはなくなりましたが、クリエイトの力は倍返しで得ることになりました。このことは今でも音楽の神に感謝しています。何せこの作品と、前期のスパンクハッピーの代表作「ヴァンドーム・ラ・シック・カイセキ」は、作曲作業と録音作業が全て並行して、つまり僕は、パニック障害の発症により、生まれて初めて、アルバムを二枚同時に製作したのでした。今同じことをしろと言われても、絶対にできません。この作品から、僕はPCによるデモ制作、つまり作曲にMIDIを導入し、生演奏に変換可能な技法上の臨界点まで追及し、収録される6曲のリズム構造が、全て違うように、まず最初に6パターン作ってから楽曲化しました。発表当時は、ファンクジャズのミニマリズム平均から見て、あまりに多弁的で音数が多かったが故に、これはファンクでもジャズでもないと批評されましたが、アフロビーツやエレクトリックマイルズが、昭和というのどかな時代の色眼鏡から剥離し、正しく咀嚼されきった現在に於いては、何が起こっているか、リスナーがパノラマの動体聴力で見通せる、つまりポップな作品だと思っています。



アーティスト:DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN / デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン
タイトル:Franz Kafka’s Amerika / フランツ・カフカズ・アメリカ
PCD-20414/5 定価:¥2,000+税
発売日:2019.11.13 【2CD】

前2作のスタイルを踏襲しながらさらなる進化を遂げたCD2枚組/全100分におよぶ超大作! 発表直後に活動終了を宣言するなど初期(第一/二期)DCPRGの集大成とも言うべき3rdアルバム(2007年作品)! 14人編成による多様なリズム構造を備えた楽曲群に各メンバーのインプロヴィゼーションが連鎖的にフィーチャーされたカオティックなサウンドでありながら前2作に通じる圧倒的なファンクネスをも体現! 常にフロアライクなスタイルと先進性でダンスミュージックの新たな地平を切り開いた初期DCPRG最終章がここに!

《収録曲》
DISC1:1. ジャングル・クルーズにうってつけの日 / 2. (イッツ・ア・スモール) ワールド・ミュージックス・ワールド / 3. 競売ナンバー49の叫び
DISC2:1. ワシントンDC / 2. 1865年 バージニア州 リッチモンド / 3.フォックス・トロット / 4.花旗

【パーソネル】
菊地成孔(コンダクター / CD-J / キーボード)/ ジェイソン・シャルトン(ギター)/ 高井康生(ギター)/ 芳垣安洋(ドラムス)/ 藤井信雄(ドラムス)/ 栗原正巳(ベース)/ 津上研太(ソプラノ・サックス)/ 後関好宏(テナー・サックス)/ 坪口昌恭(キーボード / シンセサイザー)/ 大儀見元(パーカッション)/ 吉見征樹(タブラ)/ 関島岳郎(チューバ)/ 青木タイセイ(トロンボーン)/ 佐々木史郎(トランペット)

[「フランツカフカのアメリカ」について]
 合衆国とイラクの酷い戦争は、ある意味で00年代のカルチャーも経済もバッドリードし、リーマンショックによるシャットダウンまでそれは続きました。僕は、2006年の、合衆国軍によるバクダッド侵攻の報を聞きながら、21世紀に前置されたオプティミズムの一掃と、合衆国の弱体と、このバンドのミッションの終了を感じ、活動を終わることにしました。この作品さえ、アルバム名、楽曲共に僕のオリジナルではありません。全ては、検索し、歴史を再構築してみてください。「構造と力」で、PC使用の作曲を、少なくともこのバンドでは終えたと思った僕は、本作ではほとんど作曲をしていません。バンド活動中にメンバー全員が培った、ポリリズム、マルチBPMキーピングのスキルに全面的に依拠し、全てのチューンは、数小節の汚いメモ書きだけでレコーディングされています。初期衝動、PCによるシュミュレーション構築、集団即興のブランディングという風にバンドは発達を遂げ、この円環は現在でも閉じたまま、どの状態にいるかだけが動いています。全ては2001年から2007年までの6年間で遂行されたことです。後の音楽史に我々が何を与え、何を奪ったかは、何を捨てられ、何を奪われたかは、今回のリイシューを機に、特に現在の若いジャズファンにジャッジメントして頂きたい。僕は、1999年から、「楽に若者が聴けるようになるまで、まあ20年はかかるな」と思っていました。未来に向けて音楽を建築し、実演し、維持し、世界と共振して行く事だけが、僕を症状から救出し、治癒し、それをリサイクルする原動力であり、それは現在も変わりません。

ECRIT-O - ele-king

 映画や音楽、美術や文学などの分野を横断する批評誌『エクリヲ』がリニューアルを敢行、12月1日に最新号「vol.11」を発売する。第1特集は「ミュージック×ヴィデオ」、第2特集は「インディーゲームと動詞」とのことで、興味深い内容に仕上がっているようだ。詳細は下記より。

新刊『エクリヲ vol.11』特集「ミュージック×ヴィデオ」&「インディーゲームと動詞」号を刊行致します(一般発売は12月1日)。

「聴覚と視覚の実験制作 ミュージック×ヴィデオ」特集では、宇多田ヒカルやSuchmos、けやき坂46らのMV制作でも知られる映像作家/VJの山田健人(yayel)インタビューほか、ミュージックヴィデオ史 1920–2010s、MV技法集を収録。

アーティストや楽曲のプロモーションの一環で制作されるMVは、その黎明期(以前)から音と映像の実験制作を繰り返し、独自の表現の発展を遂げてきた。幅広いアーティストのMVを制作する山田健人氏(yayhel)のインタビューをはじめ、MVの歴史の流れが一望できる年表、MVの技法を解説したコラム。そしてアニメテッドMVを論じた海外論文の本邦初となる抄訳を含む論考をはじめ、5つの本格的なMV論を掲載。音楽と映像の両面からMVを捉えた視ヴィジュアルミュージック聴覚芸術をめぐる思考の扉を開く特集。

「インディーゲームと動詞」特集では、5名の気鋭のゲームクリエイターへのインタビューほか、インディーゲーム60作を紹介する付録を掲載。

インディーゲームにおける「動詞=できること」の豊かさに注目し、作品を分析、「ゲームで何かをする」とはどのようなことなのかを特集。インディゲーム制作者のインタビュー(『ALTER EGO』大野真樹、『Baba Is You』Arvi Teikari、『KIDS』Mario von Rickenbach & Michael Frei、『The Stanley Parable』『The Beginner’s Guide』Davey Wreden、『The Tearoom』Robert Yang)や、60作品を動詞で分類し紹介する「インディーゲーム動詞リスト」、松永伸司(ゲーム研究・美学)と横山タスク(エクリヲ編集部)による論考を掲載。ゲームについて前進的な思考を求める全ての人に、必読の特集。

特集の他にも、全世界2000万部突破の劉慈欣『三体』を扱う本邦初の本格評論、楊駿驍による「〈三体〉から見る現代中国の想像力」、現代アート作品や、「写真」の定義を問い直す「ゲーム内写真」の美学を問う谷口暁彦による「ヴァーチャルなカメラと、それが写すもの」も収録。

デザイナー・加納大輔のアートディレクションによる、全面リニューアル号となります。

Stereolab - ele-king

 10年ぶりの活動再開とともに順次リイシュー企画の進んでいたステレオラブですけれども、なんと来日公演が決定しました! 2020年の3月、稀代のバンドが東京と大阪の地に降り立ちます。来日公演はじつに11年ぶりとのことで、いやーこれは見逃せません。ちなみにリイシュー企画最後の2作、『Sound-Dust』と『Margerine Eclipse』は明々後日、11月29日の発売です。イアン・F・マーティンによる深い深いステレオラブ論はこちらから、レティシア・サディエールのインタヴューはこちらから。

STEREOLAB
10年ぶりに再始動をしたオルタナティヴ・ミュージック界の皇帝
ステレオラブ
11年ぶりの来日公演が決定!!

80年代のギター・ポップ・バンド、マッカーシーに在籍していたギタリスト兼ソングライターのティム・ゲインと、英語とフランス語を使い分けながら歌うヴォーカルのレティシア・サディエールを中心として90年代にロンドンで結成され、クラウトロック、ポストパンク、ポップ・ミュージック、ラウンジ、ポストロックなど、様々な音楽を網羅した幅広い音楽性で、オルタナティヴ・ミュージックを語る上で欠かせないバンドであるステレオラブ。その唯一無二のサウンドには、音楽ファンのみならず、多くのアーティストがリスペクトを送っ ている。10年ぶりに再始動を果たした彼らは、過去タイトルから一挙7作品を再発すると共に、Primavera Sound Festival や Pitchfork Music Festival など様々な大型フェスティヴァルを含む大規模なツアーを敢行中。そしてついに11年ぶりとなる来日公演が決定した。

https://youtu.be/nYDtWdyIUiQ

今回の再発キャンペーンでは、メンバーのティム・ゲインが監修し、世界中のアーティストが信頼を置くカリックス・マスタリング(Calyx Mastering)のエンジニア、ボー・コンドレン(Bo Kondren)によって、オリジナル・テープから再マスタリングされた音源が収録されており、ボーナストラックとして、別ヴァージョンやデモ音源、未発表ミックスなどが追加収録される。国内流通盤CDには、解説書とオリジナル・ステッカーが封入され、初回生産限定アナログ盤は3枚組のクリア・ヴァイナル仕様となり、ポスターとティム・ゲイン本人によるライナーノートが封入される。

Japan Tour 2020
STEREOLAB

東京 3/16 (月) LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
¥6,500 (前売 / 1ドリンク別)
03-3444-6751 (SMASH)

大阪 3/17 (火) UMEDA SHANGRI-LA
OPEN 18:00 / START 19:00
¥6,500 (前売 / 1ドリンク別)
06-6535-5569 (SMASH WEST)

■チケット発売

主催者先行:11/26 (火) 17:00 ~ 12/2 (月) 23:00 (抽選制)
https://eplus.jp/stereolab/

一般発売:12/14 (土)
東京:e+ (Pre: 12/4 12:00 ~ 12/8 23:59)|ぴあ (P:171-039)|ローソン (L:74870)|岩盤 ganban.net
大阪:e+ (Pre: 12/4 12:00 ~ 12/8 23:59)|ぴあ (P:171-116)|ローソン (L:55768)

クレジット
協力:BEATINK

お問合わせ
SMASH:03-3444-6751|smash-jpn.com

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: SOUND DUST [Expanded Edition]
release date: 2019/11/29 FRI ON SALE

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: MARGERINE ECLIPSE [Expanded Edition]
release date: 2019/11/29 FRI ON SALE

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: EMPEROR TOMATO KETCHUP [Expanded Edition]
release date: NOW ON SALE

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: DOTS AND LOOPS [Expanded Edition]
release date: NOW ON SALE

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: COBRA AND PHASES GROUP PLAY VOLTAGE IN THE MILKY NIGHT [Expanded Edition]
release date: NOW ON SALE

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: Transient Random-Noise Bursts With Announcements [Expanded Edition]
release date: NOW ON SALE

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: Mars Audiac Quintet [Expanded Edition]
release date: NOW ON SALE

BUSHMIND - ele-king

 いきなりだが、BUSHMINDがニューエイジ/アンビエントのミックスCD『New β Sound』をリリースする。まあ、たしかにサイケデリックはつねに彼のコンセプトではあったので、自然の流れかなと思うが、それにしても彼のウェイトレス感はハンパないです。
 「作った動機はいろいろ重なった結果で……最初は2年前ぐらいに吉村弘の“Tokyo Bay Area”って曲を聴いたとこからすかね」とBUSHMINDはこのミックスCDの背景を明かしてくれた。「その曲で新しい感覚を開かされたのと、日本の過去の音楽自体ほとんど知らなかったんで、掘るのがメチャクチャ楽しくなっちゃって。そっから1年以上毎日新しい音楽探してて、これはミックスに落とし込まないとって思った感じです。ただ現状、世界的にニューエイジ、アンビエントが流行ってるから、自分の色をどうやって出そうかって考えたときに、自分の友だち、知り合いの音源を使うってのがアツいんじゃないかって思って、作りはじめました」
 つまり、選曲もふくめてまったくのBUSHMIND解釈のアンビエント。かの『環境音楽』とは確実に一線を画しています。レーベルは〈セミニシュケイ〉。値段は千円です。いろんな旅が待っているよん。

■ Artist : BUSHMIND
■ Title : New β Sound
■ Format : CD
■ Price : 1,000円(税抜)
■ Label : Seminishukei (JPN)
■ 品番:SMNSK-1939
■ 発売日 : 2019年12月5日

ブラック校則 - ele-king

 赤塚不二夫がもしも酒に溺れず、武居俊樹に代わる若くて優秀なブレーンとタッグを組み続けることができた場合、いったいどの時期までのギャグマンガと張り合えただろうと考え、高橋留美子から中村光へと受け継がれたコミュニティ路線や赤塚がハナから興味を示していない自意識系を除外すると、かなりな拡大解釈をして久米田庸治『さよなら絶望先生』(05-12)や大武政夫『ヒナまつり』(10-)までは行けたのではないかと根拠もなく思うのであった(詳細は会って議論でもしよう)。だけど、『セトウツミ』(13-17)の此元和津也だけはどうやっても赤塚とは距離があり、此元本人が仮りに赤塚の担当編集者になるようなことがあったとしても、これをひとつの作品にまとめることはやはりできないのではないかという溝を感じてしまう。理由はいずれ考えるとして、その、此元和津也が脚本家としてデビューすると知り、10月からのTVドラマ『ブラック校則』は実に楽しみだったし、実際、これまでのところ期待を裏切られた回はない(あとは最終回を残すのみ。正直、10月期のTVドラマではベストでしょう。2位は向田邦子を思わせる『俺の話は長い』、3位は『少年寅次郎』か『おいしい給食』)。主役はセクシー・ゾーンの佐藤勝利演じる小野田創楽とキング&プリンスの高橋海人演じる月岡中弥で、彼らは学校の校則に疑問があるという縛りを手玉にとって、自分たちが置かれている日常を笑いに変え、なんとも鮮やかに高校生活をグレード・アップさせていく(流しソーメンの回、最高!)。これにモトーラ世理奈演じる町田希央がスクラップ工場で働く外国人労働者とラップやグラフィティを介して課外時間を充実させ、労働問題などを巧みにストーリーに織り込んでいく手腕は見事としか言いようがない。モトーラ世理奈はイタリア系アメリカ人を父に持つハーフのファッション・モデルで、最近は女優業にもめざましく、この7月に茂木欣一と柏原譲の演奏を得てフィッシュマンズ「いかれたBaby」のカヴァーで歌手デビューも果たしている。強い内容のセリフをたどたどしく話す様子にはつい目が惹きつけられる。

 驚いたのは『ブラック校則』の映画版が同じ時期に並行して公開されたことで、これがTV版と違ってコメディ要素はほとんど削ぎ落とされ、同じ撮影素材を使いながら、まったく違う雰囲気の内容に仕上げられていたこと。TV版では『セトウツミ』をマネて毎回、小野田創楽と月岡中弥がお台場の海でだらだらと駄弁りながら学校であったことを回想したり、「コーツ高レジスタンス部」と呼ばれるチャット・ルームにログインしたりと、いくつかシチュエーションの異なる場面転換が用意されていたのに、映画版ではシンプルに学校生活だけを追い、ストーリーも一直線に進んでいく。導入はTV版と同じく、町田希央が登校してくると、生活指導の教師から髪を茶色に染めているのは校則違反だと注意され、そう言われた町田希央はくるっと方向を変えて学校の敷地から出ていく。これを毎日繰り返していたのか、町田希央はすでに出席日数が危うくなっている。本当は地毛であるにもかかわらず、町田希央は仕方なく髪を黒く染めて登校してくる。地毛証明書を提出すれば、そもそもこんなことにはならなかったのだけれど、彼女にはそれを提出できない理由があり、この様子を見ていた小野田創楽は校則の方がおかしいと感じ、校則を変えるために意見ボックスを設置する。これに腹を立てた生徒会長の松本ミチロウ(田中樹)が小野田創楽の前に立ちはだかる――。高校生が始める「運動」はあっさりと挫折したように見えたものの、ある時、校舎の裏に誰かがグラフィティを描き殴ったところから、これがレノン・ウォールのような役割を果たすようになり、学校にいる間はスマホを取り上げられていることも手伝って、生徒たちが校則に対して思っていることなど様々な意見が描き加えられるようになっていく。なんでペンキがいつもたっぷりと置いたままなのかなという細かい点は気になったけれど、取り立てて特別な才能があるわけでもない小野田創楽を中心に現状を変えていこうとする高校生の姿はティーンムーヴィーにしては珍しいテーマだし、ルールがあった方がいいと「自由を恐れる」生徒会長の上坂樹羅凛(箭内夢菜)が変化を見せたり、吃音症のラッパー、達磨がほとんど素のままで演じる東詩音など個性的なキャラクターの配置が面白く、何よりも此元和津也の硬派っぷりに驚かされる作品であった。

 TV版の第4話で月岡中弥がこんなことを言う。何匹かの猿がいて、ハシゴを登ればバナナに手が届く。ところが1匹がハシゴを登ると他の猿には冷水が浴びせられる。誰かがハシゴを登ろうとすると、冷水を浴びたくない猿たちはこれを止めさせる。やがて誰もハシゴを登らなくなる。そこに新しい猿が入って来ると、もはや理由もわからずハシゴには登らせない。髪型、スカート丈、アルバイト、自転車通学がどうしてダメなのか、実はもう誰にも理由などわからないのに禁止になっていると。これに対する答えとして、TV版では第5話で規則を破った教師が事故死したというエピソードが語られる。でんでん演じる法月士郎校長はかたくなに校則は厳しくあるべきだと自説を曲げない。映画版ではこうした重層性はなく、校則を変えたい一心で小野田創楽たちは最後まで突っ走っていく。ありとあらゆる登場人物が束になってクライマックスに突入するプロセスはなかなか圧巻でした。小野田創楽が設置した意見ボックスに5人しか意思表示をしなかったにもかかわらず、壁に殴り書きされた言葉で事態が動き始めるという流れは、日本人の「本音」好きがよく表れていて、それは同時に潜在的に「変えたい」はあっても「理想」がないということも露わにしている。この世界がどうなったらいいのかという理想がなければ「変えたい」という衝動もその場しのぎで終わりかねないし、過程こそすべてと考えるか、馴れてしまえば「このままでいいや」ということになりかねない。適度な息抜きを与えられた「このままでいいや」は明らかに「変えたくない」には勝てないし、理想のない「変えたい」は「このままでいいや」にかなわない。「変えたくない」が保守で、「変えたい」がリベラルやラディカルだとすれば、日本人のほとんどは、おそらくは「このままでいいや」ということになるだろう。TV版の第2話で月岡中弥は「痛いやつ、必要説」を唱える。群れからはずれた「痛いやつ」しかパイオニアにはなれないと。月岡中弥の冗談とも本気ともつかない話しっぷりは本作の大きな魅力である。

 僕の記憶にある限り、80年代や90年代の日本人はフィリピンやインドネシアの開発独裁ぶりを見て、どこか嘲笑っていた。イメルダ夫人が贅沢三昧にふけるのはアジアがまだ「後進国」で「遅れている」からだと。僕にはいまの日本はまるで「成長」という呪文をかけられた開発独裁の国にしか見えない。政治家などというものはどの国も大したものじゃないのかもしれないけれど、せめて自分たちがやったことの記録ぐらいは残して欲しいし、身内や友人に利益供与があった場合、マレーシアや韓国でも政治家はクビにされ、国民は他の選択肢に変えるというのに、いまの日本にはそれこそスハルトかピノチェトが君臨しているかのように政権は盤石で、記録を残す政治家を選ぼうという「理想」すら耳にしない。開発独裁に怯えていたアジアの人たちは無知でバカなんだろうな~などとかつては勝手に思っていたけれど、あ、いまは自分たちがそれなのかという感じ。「このままでいいや」が長く続いた結果ということなのか、日本はいま、経済的に途上国並みだとかいう議論の前に政治的に後進国になってしまい、ルワンダのカガメ政権やベラルーシのルカシェンコ政権、トルコのエルドアン政権やフィリピンのドゥテルテ政権と同じカテゴリーに属しているということなんだろうか。つーか、これジャニーズ映画なんですよね。田母神美南(成海璃子)とかヴァージニア・ウルフ(薬師丸ひろ子)とか、役名がとんでもないですけれど。


映画『ブラック校則』(11.1公開)予告編

interview with Kazufumi Kodama - ele-king

 9月6日に吉祥寺のSTAR PINE'S CAFÉで観たKODAMA AND THE DUB STATION BANDのライヴは強烈だった。個人的に、大好きなじゃがたらの“もうがまんできない”をこだま和文のヴォーカルとTHE DUB STATION BANDの卓越した演奏で聞けたことは大きい。だが、それだけではない。実際にライヴを観ながら心のなかで反芻したからと言って、僕なんかがこう書くのはあまりに恐れ多いのだが、まぎれもなく“いまの音楽”だった。しかしなぜそう強烈に感じたのか? それはわからない。それ故、この、こだま和文とバンド・リーダーでベースのコウチへのインタヴューは、そんな個人的な問いを出発点としている。

 トランペット奏者のこだま和文率いるレゲエ・バンド、KODAMA AND THE DUB STATION BANDは、2005年にスタジオ・ライヴ盤 『IN THE STUDIO』、さらに翌2006年にカヴァー集『MORE』を発表したのち活動を休止するものの、2015年12月のSTAR PINE'S CAFÉでのライヴを機に突如活動を再開する。こだま和文とコウチに加え、キーボードのHAKASE-SUN、ドラムの森俊也、ギターのAKIHIROといった日本のレゲエ界の腕利きのミュージシャンたちが集まり再出発を果たしたバンドは、12インチ・シングル「ひまわり / HIMAWARI-DUB」を発表し、2018年12月には、トロンボーン奏者/ヴォーカリストのARIWAの加入を経ていまに至る。

 そして届けられたのが、バンドとして初のオリジナル・フル・アルバムとなる『かすかな きぼう』だ。“霧の中でSKA”というタイトル通り哀愁のムードのなかを軽快なリズムが進行するスカから幕を開け、こだま和文流としか言いようのない憂いを帯びた“CHORUS”へと続く。故・朝本浩文(16年11月に死去)が曲を書いたMUTE BEATの“SUNNY SIDE WALK”のカヴァーでは、コウチが書いた歌詞をARIWAが歌っている。透徹としたダブがあり、ギターのAKIHIROによる“GYPSY CIGARETTE”は酔客でごった返す盛り場のナイトクラブにわれわれを誘うようだ。張り詰めた緊張感がある一方で、開放的であるのは、KODAMA AND THE DUB STATION BANDというバンドの共同体の個性によるものではないだろうか。
 バンドとアルバム、歌うこと、さらにヒップホップやファッション、“もうがまんできない”や“黄金の花”、ツイッターなどなどについて。国立の喫茶店でこだま和文とコウチが語ってくれた。

セクションというものは、演奏上、非常に不自由になるんですね。ところが、それを考えることもなく、彼女を受け入れていた。ARIWAが何か、僕の壁みたいなものを取っ払ってくれた。

STAR PINE'S CAFÉのライヴを観てとても感動しました。こういう言い方は恐縮なのですが、“いまの音楽”と強く感じました。

こだま和文(以下、こだま):そういうことを意識しているわけではないですけど、いまの音楽と言われるのはうれしいですね。いつもいましかないという気持ちでやっていますから。

艶めきがあり、身体が自然に踊り出してしまうようなダンス・ミュージックでした。こだまさんは、2017年に受けられたあるインタヴューを読むと、ある時期までは、ソウルやファンク、レゲエにしろ、踊れるということを経験したオーディエンスやリスナーから踊れないと思われるのはなかなか困ることでもある、という趣旨の話をされています。KURANAKAさんやYABBYさんとコンビを組んで、いわゆるDJセットでも活動されてきました。

こだま:そうやってヒップホップに近いようなこともやっていたわけですから、どこかで常にダンス・ミュージックをやっているという気持ちがありました。でも、これはブラック・ミュージックだとか、これはダンス・ミュージックだとか、そういうようなことを気にすることもできないくらい、僕にとって、いまは現実性のほうが強いんですよね。

“現実性のほうが強い”、というのはとても考えさせられる言葉です。

こだま:いまの暮らしのなかで、踊っていられないだろということもありますでしょ。「そんなに楽しくしろと言われても困るよ」という声が自分のなかからも聞こえますからね。ライヴでみんなに踊ってほしい、という気持ちになるときはもちろんあります。車椅子でライヴに来てくださる方が手足を動かして踊ってくれてもうれしいです。ただ、こっちが強くアピールして「踊れ!」というような時代ではないと思うんです。病院でずっと寝たままの人にも僕らの音楽を聴いてもらえたらいいなとも思いますし、こちらのこだわりなり垣根を取っ払って、リスナーとの関係を作りたいですよね。それで、自分のほうから音楽に何か決められたかたちを持ち込むことをやめたんです。だから自分が作る音楽もどんどんはみ出していきますよね。今回の作品もそんなところを含めて聴いてもらいたい音楽になっています。

いま、「そんなに楽しくしろと言われても困るよ」という声が自分のなかから聴こえてくる、とも話されていましたが、一方で、『かすかな きぼう』からはバンドとしてレゲエ、音楽をやる楽しさ、そういう音のふくよかさも伝わってきます。いまあらためてバンドで音楽をやるということについて何を考えますか?

こだま:最近のこの世の中で、5、6人の大人が集まってひとつの何かをやるというのはとても贅沢なことなんです。若いころは勢いもあって無敵なところがあるので、前日あまり寝ていなくても集まって音を出したりしていたけど、そういうわけにもいかなくなる。それぞれの暮らしの事情がある。しかも、DUB STATION BANDのミュージシャンたちは、選ばれたような、みんな忙しくしている連中だから、ある時間に全員で集まって音を出してバンドに密度を持たせるのは大変なんですね。そんななかで、それぞれ異なった音楽性や好みやセンスを持っている5、6人の人間がひとつの曲に向かって演奏をする。それがふくよかさとなって出ていたら、それはとてもうれしいことですね。こうやって、バンドのメンバーが集まり音を出し、作品を作るということはとても豊かなことなんですよ。いつ何があって、誰かが離れていってグループが続けられなくなるかわからないんです。だから、いましかないと。そういう気持もあります。

いまの時代に、“カネじゃない”なんて、なんだかんだ言ったってキレイゴトだろ、「やっぱり世の中、ゴールドだろ」って気持ちもよくわかるんですよ。僕のなかにだってそういう気持ちはありますからね。

2015年12月のワンマン・ライヴを機にDUB STATION BANDをもういちど始動させたきっかけは何だったのでしょうか?

こだま:第一期のDUB STATION BANDは、それこそ、メンバーひとりひとりのいろんな事情や都合で活動できなくなる時期がきたんですね。僕にとって愛すべきバンドだったから、もういちど腰を上げるのは大変なことで、かなり足踏みしてね。それにしびれを切らしたのかな、ベースのコウチから真剣に「もう一回やりませんか?」と熱意のあることを言われました。最初にその話をしたときにコウチに伝えたんです。「すまんけれども、自分は音楽にしかエネルギーを向けることができない。いろんな意味で他の面倒な仕事もやってほしい」と。それをコウチは快く受けてくれて、リーダーとして音を出すこと以外のこともやってくれているんです。実はそれは、僕にとっては初めての経験なんです。バンドを維持するために自分がリーダーではないという状態がとても良いかたちだなと思いましたね。ありがたいですよ。

そして、2018年の12月にはトロンボーン奏者/ヴォーカリストのARIWAさんもバンドに合流された、と。彼女は、ライヴでもこだまさんとともにフロントに立って演奏されています。

こだま:彼女のことは生まれたころから知っていて何年かおきに会う機会もあったんです。だけど、まさか上京してきた彼女といっしょに音楽をやることになるとは想像していなかったですね。あるとき、コウチが、彼女をリハーサル・スタジオに連れてきてくれたんです。しかも彼女はトロンボーンを持参していて。だったらとにかく音を聞いてみたいなという思いでした。そのときのインパクトは言葉では言えないほど強かった。長いことホーンのアンサンブルでは演奏してなかったんですけど、彼女と僕のアンサンブルは、図らずも僕の好きなものだったんです。演奏すればただちに相性みたいなものはわかるんです。あまりにもぴったりと彼女とのセンスが一致したので驚きました。それは技術的に彼女のレベルが高いとかそういうことではなく、言葉で説明できない何かが僕と彼女のアンサンブルにそのときにすでにあったんです。ミュージシャンとして、とても不思議な出会いでしたね。ARIWAが突然目の前に現れていっしょに楽器を演奏しているということ自体が不思議なことでした。

バンドでの、トランペットとトロンボーンのアンサンブルは、こだまさんにとってはMUTE BEAT以来ということになります。

こだま:セッションを省けばそうなりますね。セクションというものは、演奏上、非常に不自由になるんですね。息を合わせるとか音程を合わせるとか、決められたことを外せないとか、そういう制約がいろいろある。それにたいして僕はある種のトラウマみたいなものがあったんです。そういう制約がめんどうになったから、自分は80年代後半にソロに移行していったわけですから。自分の吹きたいように吹く、歌いたいように歌いたかった。そうして、ソロ・アルバムを作り、DJセットというサウンド・システム型のパフォーマンスをやるようになっていく。そのなかではかなり演奏の自由度が高いわけです。DJがオケを出してくれて、曲もつないでいってくれる。気が向かないところは流しちゃっても、そのあいだDJがスクラッチでもエフェクトでもいろんなことをして楽しめる。そういうすごくフリーなパフォーマンスが魅力的でDJセットをやったんです。バンドでワンホーンでやるのもやはり自由度が高い。そんな風に長年、セクションを拒んでいたわけですね。ところが、セクションの不自由さということを考えることもなく、彼女を受け入れていた。ARIWAが何か、僕の壁みたいなものを取っ払ってくれたとも言えますよね。

そのARIWAさんが歌う“Sunny Side Walk”はMUTE BEATのカヴァーですね。原曲にはなかった歌詞をコウチさんが書かれています。

こだま:“Sunny Side Walk”をやりたいと言ったのはコウチなんです。

コウチ:このバンドは基本的にこだまさんのやりたいようにやりたいと思ってはじめたんです。だからこっちからこれがやりたい、あれがやりたいとはほとんど言わない。そういうなかで、この曲は自分の方から提案したんです。もちろん朝本さんへの追悼の気持ちもありました。そうして、ライヴでやるようになったんですが、まだそのころは歌詞はなかったんです。それが、ある日突然歌詞が湧いてきて。これまで歌詞を書いたことはなかったですし、だから最初はARIWAに歌ってもらおうと思って書いたわけでもなかったんですよ。“Sunny Side Walk”は僕の散歩曲でもあって、いろんなことを考えながら散歩をしているそのままを描いてみたんです。字面で見てしまうとただの散歩の情景なんですけど、それこそ社会を変えようとするデモだったり、こだまさんがおっしゃっている日々の暮らしだったり、そういういろんなものが反映されてもいると思います。

こだま:僕は彼のセンスを知っているから、とてもコウチらしい歌詞だなと思いましたね。僕に足りない部分をコウチやARIWAが引き出してくれたということもありますね。あんまり言葉にすることもなくなってきたけど、モノを作ったり、演奏することにおいて大切なのは、やはり自由であるということですよ。何人かの人間が集まったとしてもそれぞれがまず自由じゃなきゃいけないんです。やりたくないことはやらないとかね。いまこのバンドは、時間がかかっても出てきたものを素直に出していくという状態になっていると思うんですね。誰にも拘束されない時間のなかで、それぞれのなかから出てくるのがいいですよね。ライヴや曲からそういう自由が伝わったらいいなって思いますよ。

いま語られた自由や、さきほどの「自分のほうから音楽に何か決められたかたちを持ち込むことをやめた」という言葉ともつながると思うのですが、ある時期からこだまさんは歌われています。先日のライヴでも歌っていましたね。

こだま:自分の好みやセンスから拒んでいた部分が取り払われて、ある時期からカラオケに行くようになったんですね。するとそこで、歌うことへの殻がすこし破れるわけです。そこで得たものがあった。「この俺でも歌えるな」と。でも、歌いはじめてから数年はかかっていますよ。歌うことが好きになり真面目にカラオケで歌うようになって、さらに、みんなと飲みながら下手でもいいから楽しく歌おうだけではなく、自然にライヴのなかで歌うようになるまでには。

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もともと僕は作業着が好きだったから、すべて捨て去ったなかでどうしても着るんだったら作業着がいいやという選び方だった。すると、外で土木作業をしている人たちとさして変わらない格好になるわけですね。そういうところに自分の価値観みたいなものを絞り込んだんですよね。

カラオケで歌う悦びを知ったということですね。その感覚はとても理解できます。最初はどういう曲を歌っていたんですか?

こだま:ボブ・マーリーばかり歌うというわけではないですよ(笑)。演歌も歌うし、こどものころから馴染んできた歌謡曲や好きな洋楽のロックも歌います。カラオケボックスではなくて、まったく知らない方々が飲んでいるスナックなんですよ。だから、ちょっとしたセンスがいる。季節外れの歌をいきなり歌わないとか、自分で歌い続けないとか、決まり事ではないですけど、僕が得てきたデリカシーみたいなものがあるわけです。また、そのお店のママが、「歌うからにはちゃんと歌ってね」ってうるさいんですよ(笑)。そのころDJもやっていたから前に歌った人からのつなぎを意識して歌ってみたりしましてね。前の人が山口百恵の“コスモス”を歌うのであれば、さだまさしさんの曲を歌おうかなとか、海の歌が来たならば、俺は渚の歌にしようかなとか。そうやって見ず知らずの不特定多数の人の前で歌うことで、ある意味でエンターテイメント性みたいなものが、大げさに言うとね、鍛えられたんですね。ちょっと話が脱線したかな。

いや、とても重要なお話だと思います。STAR PINE'S CAFÉのライヴのときにはじゃがたらの“もうがまんできない”とネーネーズの“黄金の花”(『MORE』収録)をカヴァーされて、歌われました。

こだま:“もうがまんできない”は数あるじゃがたらの曲のなかでも、よく聞いていた曲なんですよ。レゲエ・アレンジの曲ですから、DUB STATION BANDに持ち込みやすいし、他の曲との関係も比較的作りやすい。じゃがたらの“タンゴ”もそうですね。また、おそれ多くも、じゃがたらの歌を歌うことを、自分にぶつけてみたところはあります。ネーネーズの“黄金の花”も自分に身近な曲だったのが大きい。ライヴに行ってご本人たちにもお会いしたし、たまたま“黄金の花”の作詞家の方にもお会いしました。だからとりわけ強い印象がある曲なんです。ネーネーズと言えば、“真夜中のドライバー”も好きな曲です。歌いやすいということもあるけど、よく聞いている曲を自然と選んでしまったんですね。“黄金の花”を最初に歌ったのは、初期のDUB STATION BANDのアルバムのレコーディングのときでした。もし、そのときみんながNGを出していたら歌わなくなっていたかもしれないですね。でも、ある程度受け入れてくれて、それで調子に乗ったわけです。さらに、バンドが再開して時間を置いて、あるとき、「実はじゃがたらの歌をやりたいんだよね」って言ってみたんですよ。するとみんながとにかく良い演奏をしてくれるのでこれまた調子に乗りましてね。『かすかな きぼう』では集中してオリジナルの曲を録音したので、これらの曲はまだレコーディングをしていないんですよ。でも現状ライヴでやっている曲は全部録音しておきたいという気持ちはあります。

ライヴでは“もうがまんできない”と“黄金の花”が補完し合っているように聞けました。“もうがまんできない”には、「ちょっとの搾取ならがまんできる」という歌詞があって、一方“黄金の花”には「黄金で心を捨てないで」という歌詞があります。とても単純化してしまいますが、端的に言うと、両者とも「世の中はカネじゃないんだ」ということを訴えている。僕は普段国内のヒップホップのライヴを観ることがとても多いんですけど、年々、“世の中、カネじゃない”と主張するラッパーは減っていると感じているんです。それが一概に悪いとかではないですし、言うまでもなくお金は大事です。ただ、ミュージシャンやラッパーが、それが仮にパフォーマンスだったとしても、ひとつのオルタナティヴの提示として“カネじゃない”と表現する場面を観ることが少なくなったな、と。そのことをKODAMA AND THE DUB STATION BANDのライヴを観て考えさせられました。

こだま:でもね、この国もいろいろ経てきて、いまの若い人たちも若い人たちなりに生きていくのが大変な時代ですから、「“カネじゃねえ”なんてキレイゴトだろ」という言葉はすぐに返ってくるんですよね。僕がたまたま選んだそれらの曲のなかにそういうシンプルなメッセージ性みたいなものがあるとしてもですよ、もっとふくらみをもたせたうえでの、つまり自由を表現したいんです。ラッパーたちが「世の中はカネだぜ!」ということをラップしてもいいと僕は思いますよ。いまの時代に、“カネじゃない”なんて、なんだかんだ言ったってキレイゴトだろ、「やっぱり世の中、ゴールドだろ」って気持ちもよくわかるんですよ。僕のなかにだってそういう気持ちはありますからね。

2000年前後でしょうか、ちょうどソロ作品を立て続けにリリースしている時代にこだまさんはヒップホップ・ファッションにかなり傾倒されていましたよね。当時、音楽雑誌に載っていた迷彩柄のシャツか何かを着たソルジャーのような出で立ちのこだまさんの写真に釘付けになったのをおぼえています。

こだま:露骨にそういう格好をしていましたね。当時は、これからはこれしかないぐらいの気持ちでヒップホップをかき集めて聴いていましたから。もちろん80年代はじめにも、ジャズ、ソウル、スカ、レゲエやダブといったいろんな音楽を経てきた自分の前に、それらの音楽と同時進行的にヒップホップはあったわけですね。90年代にはデ・ラ・ソウルなんかも聴いていましたよ。でも2000年前後のものは、それから10年、20年ぐらい経たヒップホップですからね。ものすごく強い影響を受けましたよ。エミネムも聴いたし、何よりドクター・ドレーですよ。あのサウンドは強烈だった。凄まじいですよ。ドクター・ドレーのインストのアナログを買い集めましたね。
 その一方で、当時は着るものなんてどうでもいいじゃねえかっていう気持ちになっていった時期なんです。だけど何かを選ばなきゃいけない。そこで聴いている音楽は強く影響するわけですね。どうでもいいことを捨てて剥ぎ取って何かを選ぶということになると、アーミーシャツだったりするんです。もともと僕は作業着が好きだったから、すべて捨て去ったなかでどうしても着るんだったら作業着がいいやという選び方だった。タオルを巻いてキャップをかぶったりしていましたね。すると、外で土木作業をしている人たちとさして変わらない格好になるわけですね。そういうところに自分の価値観みたいなものを絞り込んだんですよね。でも、そういう格好も誤解されたりして批判もあったんですよ。「ラッパーみたいな格好をしちゃって」というような、ね。ネットも普及してきた時代だったから、そういうのを目にしちゃったりしましたね。
 ただ、そういう格好ができるも、のめりこんでいく音楽があってこそですよね。格好なんて普通でいいのかもしれないと思うなかで、ある音楽にのめり込むことで、かろうじて新しいTシャツを買う喜びみたいなものを見つけるわけですよ。年齢とともに、いまはそれすらもちょっと危ういですけど。だけど、何もかもどうでもいいやとなってしまうと、本当にどうでもよくなってしまう。それじゃ生きていけないから。周りにいろんな人がいてくれるありがたみや、ライヴに来てくれる人がいることを支えに生きていっている感じがいまはする。それを続けていけたらいいな。

ネガティヴなことだけじゃ成り立たない。かといって、希望じゃないんですよ。ましてや明るく楽しく踊ろう、ということではない。そこで出てきたものが“かすかな”という言葉だった。

いまの話をうかがって、ますます、今回のアルバムのタイトルの『かすかな きぼう』はとてもこだまさんらしい言葉だなという実感が深まりました。“かすかな”という言葉で僕が連想したのは、こだまさんが篠田昌已さん(編註:じゃがたらのメンバーで、それ以前は梅津和時の生活向上委員会にも参加していたサックス奏者。チンドンも演奏。89年には関島岳郎、中尾勘二とコンポステラを結成。92年、急逝)の『コンポステラ』(1990年)に寄せた文章でした。こだまさんが「音楽で何が出来るんだろう?」と問いかけると、「微力なんだよ、微力なんだけれどやって行くんだよ」と篠田さんが答えた、というエピソードがありますね。『かすかな きぼう』はその篠田さんの言葉を、2019年を生きるこだまさんなりに再解釈したような言葉ではないかと。

こだま:いま篠田くんの話がでましたが、当時の篠田くんもじゃがたらと同時に自分の音楽をやりながら、光のようなものを求めていましたよね。それは僕と一致するところでした。そして、自分が生きる2019年のいま、そういう思いをひとつのアルバムにして聴いてもらいたいと思ったときに、曲名やタイトルをつけるのはなかなか難しい。はるか昔から生きるということは難しいことだったかもしれないですけど、僕がいま生きて感じているのは、国内外の人びとの大変な状況だったり、希望をなくす事柄についてです。そういうことがあまりにも多いんですよ。僕は楽友と呼んでいるんですけど、音楽をやってきた友がポツポツと亡くなっていく現実もある。日々ちっとも楽しくないんですよ。生きていたくもないけど、いま死にたくもない、っていう僕のキーワードがあるぐらいなんですね。そういうなかでも、曲を書いて、それを6人の人間が集まって音を出して作品にできるありがたみがある。そういう作品に思いを込めようとなったとき、どうしてもネガティヴなことだけじゃ成り立たない。やっている以上は聴いてほしいという気持ちを込めたいわけです。かといって、希望じゃないんですよ。ましてや明るく楽しく踊ろう、ということではない。そこで出てきたものが“かすかな”という言葉だった。曲やアルバムやイベントのタイトルを考えるときは、ポジティヴに考えるのではなくて、むしろ“こういうふうに思われたくない”という消去法に近いんです。それが強くなったのは3・11のあとですね。やっぱり大きかったですよ、3・11は。いろいろ変えました。本当に楽しいことなんてないよ、というのが正直な思いです。しかし、江戸アケミはそんな3・11を知らないんだよなぁ。

江戸アケミさんがいま生きていたら何を考えただろうって思ったりすることはありますか?

こだま:いやあ、とてもじゃないけどそこまでは考えが及ばないですね(笑)。でも彼はツイッターとか向いていたかもしれないね。わからないけれども。ツイッターで発信することに対していろいろ背負ったりしていたかもしれないな。

こだまさんのツイッターをよく拝見しています。晩酌されている台所の写真や食事の写真をツイートされていますね。僕は、イヤなことがあるとこだまさんのツイートを見ています(笑)。

こだま:僕は、自己顕示欲みたいなものがいちばんイヤなものだと思っているにもかかわらず、ツイッターをやっているわけですよ。だから矛盾したなかにいつもいる。「お前のことなんか知りたくねぇよ。もっとこっちは大変なんだ」という気持ちでいまの世の中あふれているわけじゃないですか。そのなかには他人から攻撃されてしまうようなあからさまな政治的な発言もあれば、もうちょっと暮らしのなかから聞こえてくる切実な声もありますよね。こちらもそれを垣間見ているわけだから、抑制もしますよね。

本作にも“STRAIGHT TO DUB”という研ぎ澄まされたダブがありますが、こだまさんは音楽、あるいはレゲエやダブのサウンドで、いわゆる自己顕示欲の抑制のようなものを表現されてきた側面もあるように思います。

こだま:ただ、一方で、もうすこしテンションの高い時代には、ものすごく過剰に自己顕示することが自由のひとつの表現だったんですよね。江戸アケミが自分の顔を割れたグラスで傷つけて血を見せるとか、ピート・タウンゼントがステージ上でギターを壊しちゃうとかね。でも、いまやそういう表現は見透かされてしまうでしょ。世の中に生きている人びとは「そんなことじゃおもしろくねぇんだよ」ってなっているわけです。すると、能天気ではいられなくなる。だから、いまはお笑いが成り立たない時代ですよね。一体何をみんな笑いに求めているんだろうか。僕はぜんぜん笑えないんですよ。だけど、たまたま笑えるときがなくはないんですね。ネットからそういう数少ないチャンスみたいなものを得るときはありますよね。

 インタヴュー終盤、こだま和文は、コウチの提案を受け、ステージ上でひとり、ツイッターの呟きのようにお話をするその名も〈独呟「ライブツイート」〉というイベントを数日後に開催すると話してくれた。僕は行けなかったが、きっと、笑いも起きるステキな会になったのだろう。友人に声をかけつつ、次のKODAMA AND THE DUB STATION BANDのライヴに備えようと思う。

Jon Casey - ele-king

 これは〈トランスマット〉が出さなければいけないアルバムだったのではないだろうか。南アの実質的な首都プレトリアからジョン・ケイシーによるデビュー・アルバム。ブリティッシュ・テイストのダブステップ「Geneva / Trigger Happy」で2年前にデビューし、ごく短期間に「Rockefeller EP」「6 Caliber EP」「Wave013」「On The Storm EP」と立て続けにリリースを重ね、ゴムやトラップをミックスしていく過程で独自のアマルガメイションを起こしたハイブリッド・ベース。これまでのリリースからは完全にひと皮向けてしまい、この夏にリリースされた「Catharsis EP」からも完全にかけ離れた内容となっている。オープニングは意表をついてメカニカルなタンゴ。”Militant(過激派)”というタイトルとは裏腹にファニーなムードでゲートウェイは開かれる。初期から音づくりは基本的に派手な方ではあったけれど、“Birdbrain”(18)あたりがターニング・ポイントとなったのか、それまでまったくといっていいほどアフリカ的な軽やかさには欠け、むしろブリストル産を思わせるウォッブリーな振動を運んでくることが多かったのに、続く“TV Room”と“Jaded”ではデリック・メイもかくやと思うようなカラフルで空間的に広がりのあるドラム・パターンを連打。デトロイト・テクノとUKファンキーを足して2019年に着地させたら、こうなっただろうか。この開放感は予想外だった。これに"Jaded(=疲れ切った、うんざりした)”というタイトルをつけるセンスは100%理解不能。ピアノのループがとてもいいです。先行シングルとなった“Banga(波)”はゴムやバングラにジュークも混ぜて、もはやどこまで行ったかよくわからないリズムに。スクリュードさせたヴォーカルからコロコロとリズム・パターンが変わる複数の「波」に翻弄される3分6秒。同曲を共作しているダバウ(Dabow)はアルゼンチンでケイシーと似たようなことをやっている新鋭で、この人もユニークな存在だけれど、面倒なので省略。続いて“Ransack(略奪)”。ジュークをスクリュードさせたような短い曲で、またしても穏やかではないタイトルだけれど、アルバム・タイトルとなっている『Flora & Fauna』が「(特定の地域に住む)動物と植物」のことを指し、ジャケット・デザインに象牙らしきものがあしらわれているのを見ると、やはり密漁によってアフリカの動物が乱獲されていることに心を痛めているという意味なのかなと。そう思うと少し悲しい曲に聴こえてくる。

 後半は初期にやっていたダブステップに立ち返りつつ同じことはやらないぞという気概を見せてトラップを意識したような曲が続き、まずはスローモーションでどんちゃん騒ぎをしているような“2 Slice”、タイトルを裏切らずにカチャカチャとにぎやかな“Pac Man”、のったりとした“Playlust”はPlaylistとlust(欲望)を掛け合わせた現代の鎮魂歌のようで、これはデリック・メイというよりはカール・クレイグかな。最後がトラップとダブステップを不可分なく融合させてしまった“Plymouth”で、レーベルのアナウンスも含めて『Flora & Fauna』が過度にトラップであると強調して紹介されるのはこの曲のせいではないかと思われる。重苦しく優雅で、南アフリカが複雑で込み入った生活環境に覆われていることがざっくりと伝わってくる。同曲に参加している清水ではないチー(Chee)もまた南アのプレトリアでドラムンベースを軸に音楽制作を行い、2017年にセカンド・アルバム『Fear Monger』が注目を集めた新鋭。「南アにはまだ数え切れないほどのアーティストが眠っているよ」とは、2年前にチーが語っていた言葉で、そのなかにはすでにジョン・ケイシーもいたということなのだろう。チーにはEDMの残像がちらついている。年齢的に見て、そこが音楽への入り口だった可能性は十分にありうる。しかし、彼はそこから類まれなる克己心を持って自らの音楽性を掘り下げ、アンダーグラウンドへと突き抜けてしまった。クワイトやアヨバネスから数えて彼が南アのクラブ・ミュージックにおいて何世代目に当たるかはもはやよくわからないけれど、チーの背中を追ったジョン・ケイシーにはEDMのメソッドを振り払う苦労はなく、あっさりと次に歩を進められる条件が整っていたのだろう。「6 Caliber EP」あたりは『Fear Monger』とそれほど大きな差があるとは思えないものの、『Flora & Fauna』ははるかに遠くまでリーチを延ばし、カリフォルニアのレーベルからこうして手が伸びてきたと。


Jagatara2020 - ele-king

 ビッグ・ニュースの到着だ。驚くなかれ、80年代バブル期の日本に抗い、駆け抜けた伝説のバンド、じゃがたらが復活する。それだけではない。年明け2020年、じゃがたらは江戸アケミ死後30年の沈黙を破り、Jagatara2020 として“みんなたちのファンファーレ”、“れいわナンのこっちゃい音頭”の新曲2曲を含むニュー・シングルをリリース。1月27日・28日には渋谷クラブクアトロでのライヴ、渋谷 LOFT9 でのイベントも決定している。また、長らく音源が絶版となっていたが、12月22日、旧BMGビクター発売音源全曲のサブスク配信開始予定。さらにまた、じゃがたらクラシックな2枚のアルバム『南蛮渡来』と『裸の王様』がアナログ盤として1月22日に発売決定!
 アフロ、ファンク、ダブなどを吸収したタフなサウンドと鋭く深い言葉の数々は、世相が荒れ、ひとが「生き方」に迷う21世紀の現在だからこそリアルに響くにちがいない。
 この記念すべき新たな船出を祝し、われわれエレキングも『別冊ele-king じゃがたら──おまえはおまえの踊りをおどれ』を刊行します! 江戸アケミの地引雄一によるインタヴュー2本(うち1本は未発表)、荏開津広によるインタヴュー1本のほか、南流石、OTO、EBBY、中村ていゆう、大平ソウリ、ヤギヤスオ、こだま和文らの最新インタヴュー、松原研二による未発表写真に加え、加藤典洋による「じゃがたら論」の再録、さらに磯部涼、荏開津広、栗原康、こだまたけひろ、志田歩、陣野俊史、高島鈴、高橋慎一、野田努、二木信、平井玄、古川日出男、松村正人らによる論考も収録。1月末発売予定。乞うご期待!

[12月18日追記]
 これはすごい……。1月27日に渋谷クラブクアトロで開催される Jagatara2020 のライヴ「虹色のファンファーレ」のゲスト・アーティストが発表されたのだけれど、鮎川誠(SHEENA & THE ROKKETS)、近田春夫(活躍中、LUNA SUN)、こだま和文、田口トモロヲ、不破大輔(渋さ知らズ)、いとうせいこう、町田康、Nobutaka Kuwabara(DEEPCOUNT)、高田エージ(SUPER BAD)、吹越満、大槻ケンヂ(筋肉少女帯、特撮、オケミス)、向井秀徳、永山愛樹(TURTLE ISLAND、ALKDO)、七尾旅人、折坂悠太と、そうそうたる、ほんとうにそうそうたる面子である。この日のライヴはいったいどうなってしまうのか!!
 あわせて、1月29日にリリースされるシングル「虹色のファンファーレ」のアートワークも公開されている。詳細は下記より。

Jagatara2020、1/27渋谷クラブクアトロにて開催の「虹色のファンファーレ」のゲスト・アーティストを発表! 併せて1/29発売のジャイアント・シングル「虹色のファンファーレ」のカヴァー・アートを公開!

1990年に中心人物のヴォーカルの江戸アケミの急死により解散してしまった、日本のロック史を語る上で絶対に欠かすことのできない最重要バンドのひとつ、JAGATARA。2019年3月に伝説のイベント、TOKYO SOY SOURCE 2019 において Jagatara2020 として完全復活した彼らが、江戸アケミのちょうど30回目の命日となる2020年1月27日(月)に渋谷クラブクアトロにて開催するイベント、「虹色のファンファーレ」の豪華ゲスト・アーティストを発表!

ゲスト・アーティスト
鮎川誠(SHEENA & THE ROKKETS) / 近田春夫(活躍中、LUNA SUN) / こだま和文 / 田口トモロヲ / 不破大輔(渋さ知らズ) / いとうせいこう / 町田康 / Nobutaka Kuwabara(DEEPCOUNT) / 高田エージ(SUPER BAD) / 吹越満 / 大槻ケンヂ(筋肉少女帯、特撮、オケミス) / 向井秀徳 / 永山愛樹(TURTLE ISLAND、ALKDO) / 七尾旅人 / 折坂悠太

併せて、じつに30年ぶりの新曲に当時の未発表曲を追加収録し、Jagatara2020 として2020年1月29日(水)にリリースするジャイアント・シングル「虹色のファンファーレ」のカヴァー・アートを公開!

カヴァー・アート

日本のロック史における最重要バンドのひとつ、JAGATARA が奇跡の復活! Jagatara2020 として30年ぶりの新曲を発表! 当時の未発表曲を追加収録したジャイアント・シングルをリリース! リリース記念ライヴ&イベントも決定!

■1990年、中心人物のヴォーカルの江戸アケミの急死により解散してしまった、日本のロック史を語る上で絶対に欠かすことのできない最重要バンドのひとつ、JAGATARA。江戸の追悼イベントなどの形でその後も何度か集結していた彼らが、2019年3月、伝説のイベント、Tokyo Soy Source で Jagatara2020 として完全復活。じつに30年ぶりの新曲に、当時の未発表曲を追加収録したジャイアント・シングルをリリース。

■なによりもまず、新曲2曲がすばらしい。どちらも Oto の作曲で、南流石の作詞・リード・ヴォーカルによる「みんなたちのファンファーレ」は、JAGATARA 再始動を自ら祝うかのような、文句なしに楽しい祝祭性に満ちあふれた楽曲に仕上がっている。TURTLE ISLAND/ALKDO の永山愛樹の作詞・リード・ヴォーカルによる「れいわナンのこっちゃい音頭」は、辺境グルーヴと日本の音頭のハイブリッドといった感のきわめて秀逸なナンバー。どちらも西アフリカあたりの音楽のにおいを感じさせる、JAGATARA ならではの作品。そして、特筆すべきはそのフレッシュさだ。全編からあふれ出るみずみずしさ、新鮮さは、往年のファンはもちろん、JAGATARA 未体験の音楽ファンをも魅了すること間違いない。

■Oto 厳選の未発表曲もすごい。江戸アケミのお気に入りだったという「LOVE RAP」の1988年のライヴ録音、1983年のEP「家族百景」所収の「プッシー・ドクター」の1989年ライヴ録音ロング・ヴァージョン、江戸のギター弾き語りにフールズの伊藤耕がコーラスを付けた(それだけでも感動的だ)「へいせいナンのこっちゃい音頭」(1989年未発表ライヴ録音)の3曲。これは期待せずにはいられない!

■本作のリリースを記念し、渋谷クラブクアトロでライヴ、渋谷 LOFT9 でイベントの開催も決定している。

《商品情報》
アーティスト:Jagatara2020
タイトル:虹色のファンファーレ
レーベル:Pヴァイン
商品番号:PCD-20420
フォーマット:CD
価格:定価:¥2,000+税
発売日:2020年1月29日(水)

収録曲
1. みんなたちのファンファーレ (新曲)
2. れいわナンのこっちゃい音頭 (新曲)
3. LOVE RAP (1988年/未発表ライヴ録音)
4. プッシー・ドクター (1989年/未発表ライヴ録音)
5. へいせいナンのこっちゃい音頭 (1989年/未発表ライヴ録音)
6. みんなたちのファンファーレ (インスト)
7. れいわナンのこっちゃい音頭 (インスト)

《ライヴ/イベント情報》
Jagatara2020「虹色のファンファーレ」
公演日:2020年1月27日(月)
会場:渋谷 CLUB QUATTRO
www.club-quattro.com/shibuya
出演:Jagatara2020
Oto(G) / EBBY(G)/ 中村ていゆう(Dr) / 南流石(うた) / ヤヒロトモヒロ(Per) / エマーソン北村(Key) / 吉田哲治(Tp) / 村田陽一(Tb) / 宮田岳(B) / 関根真理(Per) / ko2rock(Sax) / 西内徹(Sax) / 桜井芳樹(G)

ゲスト・アーティスト [*12/18追記]
鮎川誠(SHEENA & THE ROKKETS) / 近田春夫(活躍中、LUNA SUN) / こだま和文 / 田口トモロヲ / 不破大輔(渋さ知らズ) / いとうせいこう / 町田康 / Nobutaka Kuwabara(DEEPCOUNT) / 高田エージ(SUPER BAD) / 吹越満 / 大槻ケンヂ(筋肉少女帯、特撮、オケミス) / 向井秀徳 / 永山愛樹(TURTLE ISLAND、ALKDO) / 七尾旅人 / 折坂悠太
※ゲスト表記順は年功序列とさせて頂いております。

時間:18:00開場 / 19:00開演
料金:前売6,000円 / 当日6,500円(ともにドリンク代別)
1/27~28通し券:10,000円(各日ドリンク代別) ※60枚限定 ※1/28はお土産つき
チケット発売:
・Jagatara2020 Official Site 優先予約 11/27(水)12:00より jagatara2020.com
・QUATTRO WEB先行予約 11/28(木)12:00より(11/29(金)18:00まで) https://www.club-quattro.com/tickets/
・渋谷CLUB QUATTRO店頭 12/01(日)11:00より ※12/02以降は営業時間内に限る
・プレイガイド(e+、チケットぴあ、ローソンチケット) 12/01(日)10:00より
※Jagatara2020 Official Site、及び渋谷 CLUB QUATTRO 店頭発売でのチケットはオリジナルチケットとなります。
※通し券の発売は、Jagatara2020 Official Site と渋谷 CLUB QUATTRO 店頭のみとなります。

Jagatara2020「Jagatara2020ナンのこっちゃい生サロン」
開催日:2020年1月28日(火)
会場:渋谷 LOFT9 Shibuya
www.loft-prj.co.jp/loft9
出演:Oto / EBBY / 中村ていゆう / 南流石 / 宮田岳 / and more ※Guestあり(後日発表)
-トーク&ミニライブ・レア映像・Jagatara 生カラオケ大会など予定-
時間:18:00開場 / 19:00開演 ※物販の販売は17:00より
料金:前売4,000円 / 当日4,500円(ともにドリンク代別)
チケット発売:
・Jagatara2020 Official Site 優先予約 11/27(水)12:00より jagatara2020.com
※チケットはオリジナルチケットとなります。
※1/27~28通し券については、1/27の情報をご覧ください。

Jagatara2020
江戸アケミを中心とする日本のファンク・ロック・バンド、JAGATARA(じゃがたら)。1979年3月に江戸&じゃがたらとして活動を開始。1982年5月、暗黒大陸じゃがたら名義で今や日本のロックの金字塔となったデビュー・アルバム『南蛮渡来』を発表。各方面で高い評価を得る。1983年、バンド名をじゃがたらに改称。1983年末から1985年夏にかけて、江戸の精神的不調により活動休止。1986年頃から JAGATARA という表記を使用しはじめる。1989年4月、アルバム『それから』でメジャー・デビュー。そのわずか7ヵ月後の1990年1月27日、江戸の急死により解散。2019年3月、約30年ぶりに開催された伝説的ライヴ・イベント、Tokyo Soy Source にて、残ったメンバーにより Jagatara2020 として復活。江戸アケミの志を受け継ぎ、活動を再開。
www.jagatara2020.com

NITRODAY × NOT WONK - ele-king

 ミニ・アルバム『少年たちの予感』が話題のニトロデイが、年明けの1月12日に新代田FEVERにて自主企画イベント《ヤングマシン4号》を開催する(この日はヴォーカル小室の20歳の誕生日なのだという)。共演相手に選ばれたのはなんと、こちらも今年話題のアルバム『Down the Valley』を発表した NOT WONK! これは素敵な一夜になりそうだ。詳細は下記をば。

NITRODAY、ヴォーカル小室の20歳の誕生日となる、2020年1月12日(日)新代田FEVERにて自主企画ヤングマシン4号を開催!
共演は NOT WONK が決定!

来年2020年1月12日(日)NITRODAYヴォーカル小室の記念すべき20歳の誕生日に、自主企画シリーズ「ヤングマシン」の第4回「ヤングマシン4号」の開催が発表された。
対バンは以前自身のツアーにも招き、メンバーがリスペクトを公言している、NOT WONK の出演が決定!

まさにヤングでロックでオルタナティブな夜になること間違いない。
先行受付も本日からスタートするので、ロックファンは間違いなく来て欲しい夜になるだろう。

【LIVE INFO】
ヤングマシン4号
2020年1月12 日(日)東京・新代田FEVER
出演:NITRODAY / NOT WONK and more...
open 17:30 / start 18:00
2,800円(ドリンク代別)

オフィシャル先行受付
11/22(金)12:00~12/1(日)23:00
https://www.nitroday.com/

NITRODAY "ブラックホール feat.ninoheron" (Official Music Video)
https://youtu.be/YCz0RcZWXHA

NITRODAY "ダイヤモンド・キッス" Official Music Video
https://youtu.be/Q_B-7kmMcjc

NITRODAY "ヘッドセット・キッズ" Official Music Video
https://www.youtube.com/watch?v=GAysdh-dL1U

“少年たちの予感”各配信サイト
https://ssm.lnk.to/premonition_of_kids

NITRODAY
NEW MINI ALBUM「少年たちの予感」
発売日:2019年10月23日(水)
税込価格:¥1,650 税抜価格:¥1,500
品番: PECF-3244
収録曲
01. ヘッドセット・キッズ
02. ダイヤモンド・キッス
03. ブラックホール feat.ninoheron
04. アンカー
05. ジェット (Live)
06. ボクサー (Live)
07. レモンド (Live)
08. ユース (Live)

【other live】

■2019年12月8日 「極東最前線~にゅーでいらいじんぐ2019~」 
会場:渋谷CLUB QUATTRO 出演)eastern youth / NITRODAY

■2019年12月13日 「Doors Music Apartment -1213-」
会場:仙台LIVE HOUSE enn2nd + 3rd 
出演:NITRODAY / オレンジスパイニクラブ / osage、Slimcat / TETORA / CRYAMY / MINAMIS

■2019年12月20日 「年末調整GIG 2019」
会場:名古屋CLUB UPSET
出演:EASTOKLAB / キイチビール&ザ・ホーリーティッツ / PELICAN FANCLUB / NITRODAY

■2019年12月31日 「AFOC x Shelter presents ROCK 'N' ROLL NEW SCHOOL 19/20」
会場:下北沢SHELTER
出演:a flood of circle / SAMURAIMANZ GROOVE / The ManRay / THE PINBALLS /突然少年/ NITRODAY  / DJ:片平実 [Getting Better]

■2020年2月15日 「ROOTS NEW ROUTE TOUR」
会場:心斎橋Pangea
出演:Jurassic Boys / No Buses / CAR10 / NITRODAY / DJ:DAWA [FLAHE RECORDS]

■2020年2月16日 「ROOTS NEW ROUTE TOUR」
会場:名古屋CLUB ROCK'N'ROLL
出演:Jurassic Boys / No Buses / CAR10 / NITRODAY / DJ:⽚⼭翔太(BYE CHOOSE)

【PROFILE】
小室ぺい(ギボ) やぎひろみ(ジャズマスター) 松島早紀(ベイス) 岩方ロクロー(ドラムス)

独特の語感で描かれる小室の歌詞世界を軸に、様々なロックミュージックへのリスペクトと愛情を感じるサウンドをポップにそして、時にエモーショナルに表現し、今後の日本ロックミュージックを担うであろう大きな可能性を秘めたバンド。2018年7月2nd EP「レモンドEP」をリリースし、Apple Music「今週のNEW ARTIST」、SPACE SHOWER NEW FORCE 2018、タワレコ メンなどにも選出され、2018年12月1st アルバム「マシン・ザ・ヤング」をリリース。2019年3月22日新代田FEVERにてバンドとして初のワンマンライブを開催。7月19日渋谷WWWにて自主企画第3弾「ヤングマシン3号」を開催。そして11月より盟友betcover!!とのスプリットツアー“エノシマックスツアー”を開催中。

▼TOTAL INFO
NITRODAY OFFICIAL WEBSITE
https://www.nitroday.com/

Noah - ele-king

 Noah 『Thirty』は、いくつもの色彩が反射するダイアモンドのようなエレクトロニカ・ポップであり、ひとりの音楽の感性の中に瞬いた「光と旅と都市を巡る音楽」でもある。

 Noah は日本の電子音楽家だ。2009年より音楽活動を本格化させ、ピアノやクラシック音楽をベースにしつつ、繊細で緻密なエレクトロニカ/ポップな作品をリリースしてきた才人である。代表作をひとつ挙げるとするならば東京の音響レーベルの老舗〈Flau〉から2015年にリリースされ、英国『ガーディアン』誌で絶賛されたという『Sivutie』だろうか。

 「白昼夢」の世界を描いたという『Sivutie』から4年を経て発表された作品が、新作『Thirty』である。本作品において Noah は「自分が自分でないような」感覚をカラフルな現実として表現していく。「東京」という都市が現実と虚構の狭間で色彩豊かに生成するような感覚とでもいうべきか。じじつこの4年のあいだに Noah は故郷の北海道を離れて東京を活動拠点とするようになったという。『Thirty』には未知の都市に対する繊細な感性が横溢している。

 そう、エレクトロニカにおいて私たちはいつもひとりの音楽家の感性と感覚と認識と感情を知ることになる。エレクトロニカはとてもパーソナルな音楽なのだ。Noah の音楽も都市が放つ粒子の只中で、自身の「声」を生成する。「声」とはいわゆる人の声だけではない。音楽の、音響の、和声、旋律の中に息づいている音楽家の「声」だ。
 私たちはすぐれた音楽を聴くと、たとえインストの楽曲であっても作曲した音楽家の「声」を感じることがある。例えば坂本龍一のピアノ曲。彼のハーモニーは、その音楽の「声」だ。近年ではフローティング・ポインツのトラックに彼の「声」を聴き取ることができた。Noah の楽曲も同様である。彼女の音楽には、彼女にしかない響きがあった。たとえばそのハーモニーに、そのメロディに、そのノイズに。

 本作『Thirty』は Noah の新しい代表作に思えた。『Thirty』は前作『Sivutie』以上にポップなトラックを収録している。電子音響のカーテンのように幕開けを告げる“intro”、ダンサブルなエレクトロニカ・ディスコ“像自己”、ピアノと電子音とヴォイスが交錯するオリエンタルな“夢幻泡影”、エキゾチック・エレクトロニカ・ミニマル・ミュージックとでも形容したい“18カラット”、80年代香港ポップをエレクトロニカ経由で粒子化したような“メルティン・ブルー”、硬質なムードに満ちたラグジュアリーでインダストリアルな“愛天使占”、シンプルなメロディとミニマルな電子の交錯が心地よい“シンキロウ”、エレピの響きとハイハットの刻みの中心に空間的な静寂のなか中華的なメロディと微かな電子音が交錯する“風在吹”、アップテンポの4つ打ちビートとディスコ的なベースラインと麗しい音響処理による“像自己 alternative ver.”。

 全曲 Noah という音楽家の作曲家としての力量とサウンドメイカーとしての繊細さと緻密さが交錯しており、現時点での彼女の最高傑作といっても過言ではないだろう。2018年にリリースされた Teams と Noah と Repeat Pattern による『KWAIDAN』での制作が、『Thirty』にも大きな影響を与えているのでないかと想像してしまった。

 『Thirty』を聴くこと。それは見知らぬ都市を訪れたときに感じる未知の「光」を感じる経験に似ている。都市の放つ光に目が眩む感覚。この作品には、どこかそのような旅行者の意識を感じた。その場のすべてを吸収するように移動を重ね、意識と感覚を飛躍させる未知なる都市の旅人たちと同じように、本作の楽曲たちは、どこか「次」へと向かおうとする意志を放っていたのである。
 ここではないどこかへ。仮想と現実の彼方へ。エレクトロニカ、ポップ、オリエンタル、クラシック、ヴェイパーウェイヴ、アジアン・ポップなど軽やかにステップしつつ、まるでダイアモンドのように華麗な光を放つ本作を聴きながら、私はすでに Noah の次回作がいまから楽しみになっている。

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