「K A R Y Y N」と一致するもの

Alex from Tokyo - ele-king

www.alexfromtokyo.jp

https://soundcloud.com/alexfromtokyo
https://www.facebook.com/pages/Alex-From-Tokyo/
https://soundcloud.com/tokyoblackstar
https://www.facebook.com/pages/Tokyo-Black-Star/
twitter: @alexfromtokyo

Alex from Tokyo timewarp ele-king chart 11/2012


1
Brawther-Sexy thing remix (My Love Is Underground) from paris underground trax vol.1

2
Deetron featuring Hercules & Love Affair - Crave (Music Man)

3
Land Of Light-Land of Light (ENESP) LP

4
Free Disco featuring Naive Sound Boogie Band-Ghost Boogie 1977 (curved)

5
Dj Kaos-Crosswindlanding (Jolly jams)

6
Henrik Schwarz-Take words in return (Watergate)

7
Jeff Mills-Sequence (Axis records) COMPILATION

8
Brisa-Stay Gold (aubele)

9
L.U.P.O.-Hell or Heaven (Gigolo records)

10
坂本慎太郎-死者より From the dead (zelone records)

TIMEWARP feat. BRAWTHER @eleven - ele-king

 ジョイ・オービソンやボディカ、あるいはジェイミーXXらUKベース・ミュージックの若手がハウス・ミュージックへとアプローチするなか、ラッシュ・アワーのような長年そのシーンをサポートしているレーベルが活気づいたり、シカゴの巨匠のひとり、シェ・ダミエが脚光を浴びたり、ブラック・ジャズ・コンソーティアムのセカンド・アルバムが時間をかけながらじわじわ広まったり、ディープ・ハウスらしく地味ながらも、ここ数年、ソウル/ジャズ・テイストのハウス・ミュージックが活気づいている(井上薫も新作を出したばかりですよね)。そんななかで、アレックス・フロム・トーキョー率いる「TIMEWARPクルー」がよりによって11月23日に夜にハウスの密会を企んでいる。
 今回は、ロンドンのパーティ・シーンを牽引し続ける「secretsundaze」をはじめ、各国のフェスティヴァルでオーディエンスを沸かせている期待の若き才能、ブラウザー(BRAWTHER)がゲストDJで初登場! 
 日本でのプレイは初となる彼ですが、盟友シェ・ダミエも認める古き良きディープ・ハウスをアップデイトさせたような作品、モダンかつトラディショナルなメロディを共存させたようなプレイから広がるサウンドスケープでオーディンスを魅了する。ファンキー&エクレクティックなアレックス・フロム・トーキョーによるロングセットもお聴き逃しなく!!
 VJもフロアに多数のスクリ-ンをセットし会場一面を異空間に彩ります。ラウンジも「TIMEWARP」フレンズのDJ陣に加え、JMCで活躍中のTomouyki YasudaとDJ Stockがグルーヴ感溢れる空間にエスコートしてくれることでしょう。ファンキーなアーバン・サウンド&ヴァイブスがParis・New York・ London・Tokyoを繋ぐ熱い一夜。ディープ&モダンなダンス・パーティにご期待下さい!

「TIMEWARP- feat. BRAWTHER -」
日時:2012年11月23日(金) 22:00~
会場:西麻布eleven
東京都港区西麻布1-10-11セソーラス西麻布B1/B2
https://go-to-eleven.com/
料金:3,500円 / 3,000円(w/f) /
1000円(first 50 people before 23:30)
★11月生まれの方は入場無料!
(※ドリンクチャージとして1000円頂戴します。
要写真付き身分証明書)

Guest DJ:
Brawther(The Secret Agency/Balance)

DJ:
Alex from Tokyo(Tokyo Black Star/Innervisions/Worldfamous NYC)
Ryo Watanabe(FACE/ESCAPE)
TR(:SYNTHESIZE)

VJ:
SATI. (HUEMM)、 KOCCI & VJ HAJIME

Lounge DJ:
CANA (MOON'S A BALLOON)
Alixkun(Konnekt)
T.B. Brothers
Tomoyuki Yasuda(JMC/WAVE MUSIC)
DJ Stock(WORLD SPIN/JMC)

Photo:
Kenjiro Abe

Food:
OSTERIA SCHUMACHER

https://go-to-eleven.com/schedule/detail/761/2012/11

Produced by :Synthesize inc.
https://www.synthesize-inc.com/

Supported by adidas originals
https://www.adidas.com/jp/originals/

BBH - ele-king

 膨大なレコードからざっくりスライスして、さくさくと展開するところはJディラの『ドーナッツ』を彷彿させるが、『ジ・アルバム』はソウルというよりも『サージェント・ペパー~』の側だ。ヒップホップというよりはカクテル・ラウンジとさえ呼べる。とくに前半は、洒落ている。つまり、フライング・ロータスの新作以上に、こちらのほうがジェントル・ピープルだ。
 そんなわけで、『ジ・アルバム』が『ファンタズマ』や砂原良徳の隣に並んでいても驚かない。アートワークのデザインの方向性次第では、このアルバムはウータン・クランよりもディック・ハイマンさもなければドリーム・ポップのコーナーに分類されていたかもしれない。

 BBHとは、Bushmind + starrBurst + dj Highschoolの3人組で、日本のアンダーグラウンドなヒップホップ・シーンの......もはやベテランと呼べるのだろうか。ブッシュマインドは昨年、通算2枚目となるソロ・アルバムを出している。そのアルバム『Good Days Comin'』では、ラッパーたちの協力のもと、ここではとても書けないある種の真実を描いているが、BBHはそのインストゥルメンタルな展開とも言えるかもしれない。
 彼らは本当にいろいろなところから音を持ってきている。イージー・リスニング、サントラ、レゲエ、パンク、ロービットの効果音......雑多な音のなかから彼らいうところの「サイケデリック」を表現している。ここには、厳しいストリートの生存競争や都会の感傷、お決まりのメッセージやリアリズムなどから遠く離れた、桃源郷的とも言える心地よさがある。たとえば20曲目の"THENEONLIGHTSGLITTERSANDCHANTSTHROUGHTHENIGHT"などは、ソニック・ブームのヒップホップ・ヴァージョンとも呼べるようなもっとも印象的曲のひとつだが、いきなり20曲目に飛ばして聴くよりは、最初から順番に聴いていったほうが良い感じのアルバムだ。

 オウル・ビーツやブン、ブダモンク、フラグメントイーライ・ウォークスなどなど、2010年はドイツのレーベルが、そして2012年はフランスのネット・レーベルが日本以上に日本のビートメイカーを評価しているかのようなコンピを発表、オリーヴ・オイル以降の......と呼ぶのが的確なのかどうかはさておき、ビート・シーンにはたくさんの才能がごろごろしているようだ。他方では、クロックワイズも再活動すると宣言しているし、女性ビートメイカーのクレプトマニアックにも他ジャンルからの注目が集まっている。メインストリームではDJフミヤが楽しいアルバムを発表したばかりだ。そういうなかにあって、BBHは、他の誰とも違った、温かくドリーミーなアプローチを見せている。やや幻覚気味のイージー・リスニングだと思う。ある意味、いままでブッシュマインドとは縁のなかったリスナーにこそ聴いてもらいたい。

DJ mew (恥骨粉砕) - ele-king

2012.12.15 恥骨粉砕@Star Pine's Cafe!!!!!
久々やります!皆様どうぞよろしくお願いします!
more info https://chikotsu-funsai.tumblr.com/
blog https://djmew.exblog.jp/

今秋のベストヒット 2012.11.07


1
Laid Back - Cosyland - Brother Music

2
Traxman - Itz Crack - PLANET MU

3
LV feat. Ruffest - Ultando Lwaka - Hyperdub

4
Junip - Howl - MUTE

5
blur - She's So High - EMI / PARLOPHONE

6
Jon Hassel - Toucan Ocean - Lovely Music

7
Coldplay - High Speed - EMI

8
DJ Krush - 蒼い雨 - Es.U.Es Corporation

9
Nick Cave & The Bad Seeds - Red Right Hand - Mute Records

10
DJ Rashad - Kush Ain't Loud - Lit City Trax

Chart Meditations 2012.11.12 - ele-king

Chart


1

Andrew Chalk - 狂詩曲の波間に浮かぶ四十九の風景 (Faraway Press)
英ドローンの重鎮Andrew Chalk待望の新作は、なんと49のランドスケープを49曲で表現した54分に渡る至福のラプソディー集。現実世界が薄らいでいく事間違いなしの紛うこと無き傑作です!

2

Bernard Gagnon - Musique Electronique (1975-1983) (Tenzier)
Xenakisに師事していたカナダの電子音楽家によるコンクレート集。どれもこれも鋭利な金属摩擦のようで完成度が凄まじい。間違いなく2012年の重要発掘作でしょう!

3

Cut Hands - Black Mamba (Very Friendly)
アフロノイズ・プロジェクトCut Hands待望の2nd。重い打撃の岩石パーカス、暗黒アフロな辺境リズム、髪が逆立つ鋭いノイズはここでも炸裂。アンビエント要素も増えて更に暗黒界を制覇してます!

4

Twinsistermoon - Bogyrealm Vessels (Handmade Birds)
世紀末ドローンと、男性の声とは思えない程にボーカルの甘さが際立つフォークを演奏する仏作家の新作。混沌と至福の境界線が曖昧になって深くなってます! ジャケも素晴らしい。

5

Sympathy Nervous - Plastic Love (Minimal Wave)
ここMWにより再評価が高まった国産シンセポップ・ユニットの編集盤第2弾。80sテクノポップにテクノの原型やインダストリアル、日本語詞と、電子音が跳ねまくる絶妙な格好良さです!

6

Bee Mask - Vaporware / Scanops (Room40)
奇跡の来日も記憶に新しい電子音楽家Bee Mask。長尺2曲構成にて、宇宙の漆黒や星々の光を巻き付けながら神秘的な電子音がグングンと上昇。抜群のSF世界を構築しています! 完成度高いです。

7

V.A. - Tomorrow's Achievements - Parry Music Library 1976 - 86 (Public Information)
カナダの電子音楽レーベルParry Musicの音源集。瑠璃色にの柔らかいアンビエンスや近未来/宇宙色なロマンスが備わった展開でどれも高品質。OPN以降のアンビエント時代にガッツリ食らいつく1枚です!

8

Discoverer - Tunnels (Digitalis Recordings)
カセット1本出したっきりだったシンセシストですが、これがどっこい人気のレーベルから好作を発表。出す音1つ1つから近未来の町並みが出来上がって行くようなロマンス、宇宙リゾートな日差しが広がる抜群の心地良さです!

9

V.A. - The Instructional Media Guide To Mindful Internet Exploration (Instructional Media)
南国ニューエイジな世界観で、一部のカセット狂に大きな爪痕を残したレーベルの第2作。レーベルの代表作家Mother Gangやそのうち大きなレーベルからデビューしそうなMagic Eyeなどなど。ここは装丁が良いです。

10

Diseno Corbusier - El Alma De La Estrella (ViNiLiSSSiMO)
スペインのニューウェーヴバンドの86年作が再発。脱力奇怪ボーカルと太いミニマルシンセが暴れる1曲目が素晴らし過ぎます。近年のこの手の再発の中でもかなりキレた1枚でしょう!

Chart JET SET 2012.11.12 - ele-king

Chart


1

Visitors - Night Fever - Idjut Boys Rmx (Disques Sinthomme)
Dj Harvey, David Mancuso, Prins Thomasら大御所が挙ってプレイ中!!姉妹レーベル"Ghost Town"と共に注目が集る"Disques Sinthomme"からの最新作。未だ謎多きユニットVisitorsによるリリース第二弾。Idjut Boysによるリミックスを収録した注目の一作が遂に解禁!!

2

Lusty Zanzibar - Empress Wu Hu Ep (Glenview)
Nangや"Bear Funk"といったニューディスコ・レーベルからのリリースで知られるUkプロデューサーAlex Cordiner A.k.a. Lusty Zanzibarが"Glenview"初参戦。収録4作品漏れなくお薦めです!!

3

Fudge Fingas - Untytled Ep (Firecracker)
エジンバラのプロデューサー/キーボードディストFudge Fingasによるオリジナルトラックと、レーベル・オーナーLinkwoodによる作品をリミックスした作品をコンパイルした大注目Ep作品!

4

Aeroplane Feat. Jamie Principle - In Her Eyes (Aeropop)
ベルギー名門"Eskimo"を拠点に素晴しいリリースを繰り広げてきたAeroplaneによる最新作。ヴォーカルにシカゴ・レジェンドJamie Principle、リミキサーにはTiger & WoodsとChopstick & Johnjon (Suol)の人気アクト2組を抜擢。ニューディスコ・ファン必聴の一枚が遂に解禁です!!

5

Falty Dl - Straight & Arrow (Ninja Tune)
ご存じNinja Tune/Planet Muが誇るNy在住の美麗Ukベース人気者Falty Dlがジャズ薫るコードワークを散りばめて完成させた、Swindle越えアーバン・ベース名曲がこちら。素敵過ぎます!!

6

Darkstar - Timeaway (Warp)
Hyperdubからの'10年作『North』が超ロングセラーとなった大人気トリオがWarpから挨拶代りにお届けする極上美麗なポスト・ダブステップ・ポップ名曲です!!

7

Kidkanevil & Daisuke Tanabe - Kidsuke (Project Mooncircle)
ご存じNinja Tuneが誇るバンドStatelessのトラックメイカーKidkanevilと、Mike Gaoとのスプリット盤も爆裂ヒットしたDaisuke Tanabeによる電撃コラボ・アルバムが登場しました!!

8

Amen Brother Disco Band - Volume 1 (Amen Brother)
まるでIncredible Bongo Bandなパーカッシヴ&ブレイキン・ファンク!!アイルランドから大注目ファンク~ディスコ・バンドが登場です!!

9

Ital - Dream Pn (Planet Mu)
もはや説明不要のインディ・シンセ・ダンス最重要アクト。Daniel Martin-Mccormickによるソロ・ユニットの2枚目のアルバム!!前作同様Planet Muからのリリースです!!

10

Azymuth - Avenida Das Mangeurias / Partido Alto (Far Out)
今も高い人気を誇る孤高のブラジリアン・フュージョン・バンド、Azymuthの1979年作『Light As A Feather』収録の2曲を、Theo ParrishとLtj Xperienceがリミックス!!

Andy Stott - ele-king

 カタログ本というのはこれがあるからキリがない。あと数週間早くアンディ・ストットのセカンド・アルバム『ラグジュアリー・プロブレムズ』を聴いていたら、最後の1ページに加えた。

 アンディ・ストットはマンチェスターの〈モダン・ラヴ〉を拠点に活動しているDJで、デムダイク・ステアの(レコード蒐集家として知られる)マイルズ・ウィテカーとのコンビでダブステップの作品も出している。ストットは、2011年には「We Stay Together」と「Passed Me By」の2枚のシングルによって、デムダイク・ステア(紙ele-king vol.5参照)や〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉のレイムあたりとも共振しながら、マンネリ気味だったミニマル・ダブに「ダーク・アンビエント/ポスト・インダストリアル」なるテイストを見せたひとりだった。
 彼らの怪奇趣味の先人にはサム・シャックルトンがいて、新作『ミュージック・フォー・ザ・クワイエット・アワー』......これがホントに、「ここまでやるのか」と、正直、聴覚体験でそれほどの驚きを感じにくくなっている中年の耳を充分に震え上がらせた。今年のテクノの大きな衝撃だ。こんなに怖い音響を他に知らない。
 アンディ・ストットの音響/残響には『ミュージック・フォー・ザ・クウィエット・アワー』のような、1枚通してヘッドフォンで聴くと頭がおかしくなるようなことはないが、それでも充分に面白い。クラウトロックの巨星のひとつ、ファウストの最初のアルバムの幻覚性の高いカット・アップを彷彿させながら、ミニマルとダブとインダストリアルの3点を結んでいるようだ。ニック・エドワーズのソロもキャバレ・ヴォルテールがダブをやったみたいだったけれど、彼らにはどこかしら共通する感覚がある。数字のような正確性ではなく、曖昧で比喩的な表現に逃げながら、何か確実な声を発しているように見受けられる。

 1曲目の"Numb"が良い。歌声の断片の残響を巧妙に反復させ、霊妙なループをミキシングしながら、空間を広げていく。曲の終わりでは、歌の断片の反復にあらたに言葉の断片が繋がる。その美しい瞬間は見事で、ある意味ダブのネクストとも言えよう。
 リズムのアクセントにダブステップの痕跡も見られる。スクリューを混ぜながら、ダンス・ビートとしての機能も見失わない。気体のような女性ヴォーカルとの絡みはイヴェイドを思わせるが、タイトル曲の"Luxury Problems"ではしっかりハウスのビートを取り入れつつ、やはりシャックルトン的な音響的な倒錯を試みている。この曲がまた良くて、カール・クレイグの"クラックダウン"をスクリューしながらダブミキシングしたようだ。
 正直言って、10月のあいだ350枚以上のアルバムを聴いたので、テクノはしばらく聴きたくないと思っていたのだが、無理だった。"Up The Box"のリズム・エディットも実に新鮮。素晴らしいことに、テクノにはまだ前進する余地がある。まったく贅沢な問題だ。

DJ Nature - ele-king

 レゲエやヒップホップ、レアグルーヴなどを内包したストーン・フリーなヘヴィ・ダウンテンポをして、90年代初頭にトリップ・ホップとして知られることになるブリストル・サウンド。そのオリジネーターであるワイルド・バンチ・サウンドシステム設立メンバーのDJマイロは、1988年に〈メジャー・フォース〉からリリースしたHiroshi+K.U.D.O feat. D.J. Milo名義のシングル「D.J. Mix」がヒップホップ史におけるメガミックス・クラシックスとして殿堂入りを果たしたという意味においても紛うことなきリヴィング・レジェンドである。
 しかし、ワイルド・バンチの他のメンバーはマッシュルームとダディ・G、3Dがマッシヴ・アタックを結成。ネリー・フーパーはビョークやマドンナを手掛ける人気プロデューサーとなり、トリッキーがソロ・アーティストとして世界的な成功を収めたのに対して、DJマイロは華やかなシーンの表舞台から距離を置くように、1989年にニューヨークへ渡った。そして、一時滞在したことで生まれた日本とのつながりから、その後、スチャダラパーやエリ+ヒロシなどのリミックスを散発的に手掛け、2003年には日本発のソロ・アルバム『SUNTOUCHER』をリリースするものの、ブリストルのレジェントという形容が常に付いて回る境遇にあった。たしかに彼が音楽シーンに与えた影響を考えれば、そうした形容も至極当然なものであるが、ニューヨーク移住から20年以上を経て、彼のプロフィールはそろそろ加筆の必要があるように思う。

 アルバムとしては実に9年振りとなる彼のDJネイチャー名義による『Return Of The Savege』は、その大きなきっかけとなる1枚だ。前作『SUNTOUCHER』では厚いスモークのその先でアブストラクトなロービートと生音を挿したディープ・ハウスを共存させていた彼の作風は、2010年にジャジー・スポートや本作のリリース元であるNYのレーベル、ゴルフ・チャンネルでの作品リリースを通じた活動再開後、その軸足はディスコ、ハウスに移行。12曲がすべて新曲となる本作のビートはよりスロウに、そして、エレクトリック・ピアノやトランペット、オルガンやサックスといった生楽器を交えながら、低速のグルーヴがテンションを緩めることなく足元に絡みつく。さらにストリングスやヴォーカルなどのローファイなサンプル・フレーズを重層的に重ね、その揺らぎやほころびにブラック・スピリチュアリティを宿すプロダクションはラフなメロウネスに貫かれており、そこにはブリストルから日本経由で、NYへ渡った彼の30年に及ぶキャリアを通じて育まれた揺るぎないものが確かに息づいている。

 そして、このアルバムと共に筆者が知ることになった話はこれまで見聞きしてきたストーリーとは異なるマイロの素顔を伝えるものだ。1985年にリリースされたファーリー・キースの"Funkin With The Drum"でシカゴ・ハウスの洗礼を受けた彼は、ワイルド・バンチとして活動をおこないながら、実は長らくハウス・ミュージックへの情熱を募らせていたのだという。ワイルド・バンチ時代からマイロのことをよく知る荏開津広氏に直接聞いたところによると、当時から彼のDJは、ヒップハウスを交えたハウス・セットが独立して存在していたとのことで、1989年にニューヨークへ渡ったのも、当時のヒップホップはもちろんのこと、NYハウス・シーンへのシンパシーが大きな原動力だったという。
 そして、当時、その治安の悪さから悪名高かったマンハッタンのアルファベット・シティに住み、チョイス時代のラリー・レヴァンやザンジバルでのトニー・ハンフリーズのプレイを体験し、サウンド・ファクトリーやレッド・ゾーン、ベター・デイズ、シェルターといったクラブに足繁く通っていた彼は、念願だったネイチャー・ボーイ名義での音楽制作を開始。シングル・リリースを重ねた末、92年に発表した(そして、その存在がほとんど知られていない)初のアルバム『Ruff Disco Volume One』は、荒々しいサンプリング・フレーズのループとプリミティヴなドラムマシーンの組み合わせから生み出されたダーティーなハウス・トラックに、当時、親交が深かったというNYハウスの代表的なレーベル、〈ニュー・グルーヴ〉の影響が色濃く反映されている。その後、プライヴェートで営むヴァイナルやストリート・ウェアの輸入会社が多忙になり、彼の作品リリースは途絶えるものの、断続的に音楽制作を行い、それが2003年の『SUNTOUCHER』となり、2010年以降の本格的な復活へとつながったようだ。
 そうした経緯を踏まえたうえで、"野蛮人の帰還"という意味のタイトルを戴いた本作に、彼が込めた思いとはいかなるものなのか。ここではもちろんその全てを推し量ることは出来ない。しかし、ブリストルのゲットー、セント・ポールズで結成されたワイルド・バンチから現在まで、彼が音楽を通じて体現するラフネスが、執念のように青く燃え続けていることは確かだ。そして、すぐそこにあった成功には目もくれず、ブリストルのレジェンドという評価に甘んじることもなく、はたまた、ニューヨークの街が浄化されようとも、彼が時を超えて音楽の理想を追い求める荒ぶる情熱は、NYハウスがリヴァイヴァルしつつある時代にあって、この作品を特別なものにしている。

interview with Andrew Weatherall - ele-king


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

Amazon iTunes

 夜だ。雨が窓を強く打っている。以下に掲載するのは偉大なるDJ、アンドリュー・ウェザオールのインタヴューだ。彼はテクノのDJに分類されるが、その音楽にはクラウトロックからポスト・パンクなどが注がれ、その美学にはいかにも英国風のゴシック・スタイルがうかがえる。最新の彼の写真を見ると、19世紀風の趣味がますます際立っているようにも思える。その気持ちも、僕は英国人ではないが、ある程度までは理解できる。
 僕は彼と同じ歳なので、世代的な共感もある。パンク、ポスト・パンクからアシッド・ハウス、テクノへと同じ音楽経験をしてきている。この人のお陰で、我々は人生のなかでいろいろな人たちと出会い、話すことができた。ポスト・パンクのリスナーをハウス・ミュージックと結びつけてくれたのはアンドリュー・ウェザオールである。彼が正しい道筋を示してくれたと僕はいまでも思っている。
 ちょうどこの取材の最中『テクノ・ディフィニティヴ』というカタログ本のために昔の作品も聴き返したが、全部良かった。彼の新しいプロジェクト、ジ・アスフォデルス名義のアルバム『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト(情熱に支配され、欲望に滅びる)』も良い。まだ何10回も聴いているわけではないが、きっと後で良く思える気がする。だいたい題名が示唆に富んでいる。以下の彼の発言に出てくるが、彼なりに「人間特有の悲劇」を表しているそうだ。
 アンドリュー・ウェザオールはこの取材で、本当に誠実な回答をしてくれたと思う。彼には最初から、ある種日陰の美しさのようなものがあった。古風な親分肌というか、謙虚さのようなものがあったが、今回の取材では、寛容さも身に付けているように僕には感じられた。自分もこうでありたいものだと思う。 

俺が音楽の道を選んだ理由のひとつに、競争というくだらないものに関わりたくないという理由があった。俺は自分が野心家ではないと話したが、じつはそうではなくて競争心がないということなんだ。野心はあるが、競争なんてしたくない。「野心はあってもいいけどがんばるな」なんて若い人向けのメッセージとしては最低だな(笑)。

2009年に『ア・ポックス・オン・ザ・パイオニアズ』を出して以来のアルバムになるんですよね? あれ以降の3年間はあなたにとってどんな時間でしたか? 

アンドリュー・ウェザオール:俺は次の構想を練るというようなことはしない。つねに音楽を作り、レコーディングをしている。そして6ヵ月から1年おきにまとまった量の音楽ができあがり、アルバムになる可能性が出てくるわけだ。『ア・ポックス・オン・ザ・パイオニアズ』につづく作品を作っていたけど、それは結局リリースされないね。1年くらいかけて制作に取り組んでいたんだけど、ある法的な事情によってリリースできなくなった。そのときいっしょに制作していた人を解雇したので、それまで作ってきた音楽をリリースするのが複雑になってしまったんだ。
 だからこの3年間、レコーディングはつねに続けていた。ただリリースする予定だったものがリリースできなくなったというだけのことだ。俺は音楽制作という仕事をストップすることはないよ。「これからアルバムを作ろう」って具合に取り組むのではなく、つねに音楽を作っている。そしてたいてい、マネージメントのほうから「そろそろアルバムを出す時期なのでは」と言われるから、パソコンに保存してある音楽を確認し、アルバムに収録できそうなものを選んでいき、それをリリースするということになる。

〈ロッターズ・ゴルフ・クラブ〉からも作品を出しませんでしたよね? それは、先ほどお話しされていた理由からなのでしょうか? それともそれ以外の理由もあったのでしょうか?

AW:さっきの話も一因としてある。それに、ほかのアーティストのレコードをリリースするというのはけっこう責任の重いことでね。音楽業界の現状からして、俺はその責任を負いたくなかった。だから〈ロッターズ・ゴルフ・クラブ〉は、自分の音楽をリリースするためのレーベルになると思う。それは俺の責任だからいいんだ。
 俺は最近、〈バード・スケアラー〉という別のレーベルも立ち上げた。そこではほかのアーティストの音楽をリリースしているよ。このレーベルはアナログ・レコードのみ限定300枚のリリースをするためのもので、ダウンロードはなし。あまり責任も重大じゃないし、レコードはすべて売れる。300枚だから1日で売れるんだ。俺は音楽をリリースできるし、アーティストもレコードが何千枚と売れるなどと期待していないから、責任も重くない。

この3年ものあいだ、あなたのことですから他の名義で作品を出していたんじゃないでしょうか? 

AW:いや、ないよ。たとえあったとしても教えない(笑)。だって他の名義で作品を出す意味が失われてしまうだろ?

ティム・フェアプレイは、『ザ・ボードルームVol.2』にも参加してましたね。彼とはどのように出会って、そしてどのようにジ・アスフォデルスは誕生したのでしょうか?

AW:ティム・フェアプレイと俺は90年代なかごろから2000年代初期まで〈ヘイワイヤー〉というパーティでDJしていて、ティムはそのパーティの常連だったんだ。だから共通の友人もたくさんいた。彼と出会ったのはそんな経緯だね。その後、彼はバッタントというバンドにいて、ギターを担当していた。それから彼は俺の所有するスタジオのひと部屋に移ってきたよ。俺のスタジオは4、5部屋あって、そのひと部屋が空いたから、彼がそこに自分のスタジオを移してきた。だから彼はつねに俺がいる隣の部屋で作業していたのさ。
 彼とは長年友だちで、あるときから俺のとなりのスペースで仕事をしていた。そして、俺がエンジニアを必要としているとき、ティムが理想的なパートナーだと気づいた。彼は俺の仕事の仕方もわかってるし、俺が求めているサウンドもわかっている。彼は、俺のキーボードやドラムマシンの好みなんかも知ってる。とても自然な成りゆきで彼と組むことになったよ。そしていっしょに音楽を作るようになった。俺たちの作品はアンドリュー・ウェザオールの作品ではなくいっしょに作ってできあがったものだから、ユニット名が必要だということになって、俺が「ジ・アスフォデルス」という名をつけた。アスフォデルはユリ科の花の名前。ギリシャ神話では「死」や「破壊」を意味する不吉なものとされていた。だが同時にとても美しい花だ。こんなにも美しいものが、悪の象徴とされている。俺はそういう組み合わせが大好きなんだ。
 とにかくティムと組んだのは自然な流れからだ。俺がギタリスト、エンジニアを必要としているときにティムがいた。彼は俺の現場につねにいたから自然とそういうふうに発展したんだ。

あなたからみてティム・フェアプレイのどんなところがいいと思いますか? 

AW:ギターがめちゃめちゃうまいところ。それからプログラマー、エンジニアとしての腕もいい。そして何よりも、すごくいいやつだ。音楽、文学、アートの好みがとても近い。これは非常に重要なことだね。

[[SplitPage]]

ポップ・カルチャーやトラッシュ・カルチャーが、そのへんの哲学者よりも簡潔に人間のありようについて言及できているのをみると俺はうれしくなってくる。40年代50年代のパルプフィクションもそうだ。路上にいる人びと、通勤中の人びとを魅了するためには、還元主義的で直接的な表現を用いなければいけなかった。


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

Amazon iTunes

ジ・アスフォデルスのトラックは、公式には今年あなたが出した3枚組のミックスCDが最初になるのですか?

AW:そうだ。あのCDにはジ・アスフォデルスの曲がふたつある。"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"とたしか"ロンリー・シティ"だったと思う。初めてレコーディングした曲がこのふたつというわけではないけど、公式リリースとしてはそうだ。俺は〈ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース (以下ALFOSと略)〉というパーティをやっていて、この2曲もそのパーティ向けに作られた曲だ。だからよくパーティでかけてたね。
 みんなが、「ジ・アスフォデルス」という名前をはじめて見たのはこのミックスCDでだと思う。いまだにジ・アスフォデルスが俺だということを知らない人もいる。CDに記載されてる細かい文字を読まないんだ。よく「ALFOSのあのヴァージョンいいね」と言われるが、俺が「ああ、あれは俺が歌ってるんだ」と言うと驚かれる。「本当に? 本当にお前が歌ってるの?」ってね。細かい文字を読めば俺とティムの名前が載ってるのにね。

"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"の最初のヴァージョンはあのミックスCDにも収録されていましたよね。『マスターピース』と今回の『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』とはどのような関係にあるのでしょうか?

AW:共通点をひとつ挙げるとすれば、〈ALFOS〉の雰囲気やそこでかけている曲かな。ミッドテンポで、ディスコ、ポスト・パンク、テクノ、ハウスの要素が入っている。俺が作る音楽というのは、無意識的にだけど、俺がいままで35年間聴いてきた音楽が反映されている。俺がいままで聴いてきた音楽は、いいものも悪いものも、俺の骨の一部、音楽的DNAを構成している。俺が作る音楽というのは、俺がいままで聴いてきたものの産物といえるだろうね。
 このアルバムのスタート地点として、〈ALFOS〉でかけられるような音楽を作るっていうコンセプトがあり、そこから発展していった。スタート地点はダンスフロアだったが、そこから枝分かれしていったよ。ダンスフロア向けのトラックを曲にしていくことによってそのトラックが聴く側にとってよりおもしろいものになる。そういうフロア向けのトラック集というのももちろんいいが、俺はたまに曲が聴きたくなるんだ。だから、アルバムのなかに〈ALFOS〉向けではない曲を入れることによって、作品をダンスフロアから少し遠ざけたのさ。

『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』はじつにあなたらしいタイトルですが、同時にいままでにない直球な言葉表現を使ってきましたね。そのココロは何でしょう?

AW:『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト(情熱に支配され、欲望に滅びる)』というのは、俺に言わせると、人間特有の悲劇を表現する6単語なんだ。人間を前進させるのは情熱だ。新しいものに対する情熱、向上心に対する情熱......だけどときどきその情熱の方向性を間違えて、権力に対する欲望や金に対する欲望と化してしまう。それが結果として我々を滅ぼすことになる、というね。どこでこの表現を見つけたかというと、じつは見つけたのはティムなんだが、ティムはB級映画やホラー映画が大好きで、70年代のゲイ・ポルノ映画のポスターを持っていた。その映画には古代ローマ時代の剣闘士が登場するんだけど、ポスターのいちばん下に、「ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト」と書かれていてね。それを見て最高だと思ったんだ。
 ポップ・カルチャーやトラッシュ・カルチャーが、そのへんの哲学者よりも簡潔に人間のありようについて言及できているのをみると俺はうれしくなってくる。40年代50年代のパルプ・フィクションなんかもそうだ。路上にいる人々、通勤中の人びとを魅了するためには、還元主義的で直接的な表現を用いなければいけなかった。それと同じ意味で、直接的に簡潔に書くというのは、着飾った文章を書くことよりも難しいのかもしれない。だからダシール・ハメットのような作家は偉大だと思う。人間のありようを一文で表現できるから。
 誤解しないでほしいんだが、俺は着飾った文書の本を1冊まるごと読むのも大好きだ。俺は19世紀末から20世紀初めのヨーロッパ小説が好きで、その文体には着飾った文章や長々しい説明も多い。だが同時に、気のきいた言い回しとか、安っぽい格言とかも大好きなんだ。自分で気に入ったものは書きとめておくね。1冊の本になるくらいの量があるよ。小説や映画などからピック・アップするんだ。とにかくアルバムのタイトルは人間のありようについての哲学的な言及だが、ゲイ・ポルノ映画のキャッチ・コピーでもあるというわけだ。受け取り方は人次第さ。

たしかに今回のアルバムにはパッションとラストを感じました。何がきっかけでそうなったのでしょうか?

AW:おもしろいことに、俺の音楽はそう捉えられることが多いらしい。先日、『CSI』という警察モノのテレビ番組を見ていたら、俺の音楽が使われていたんだが、それがSMかなんかのセックス・クラブみたいな場所でかかっている音楽として使われていたんだ。ほかにも人から「お前の音楽は情熱的でセクシーでいかがわしい雰囲気がある」とよく言われる。なんでだろうな? よくわからないけど、たんに俺がいかがわしいやつなのかもしれない(爆笑)。
 でも、そういう雰囲気の音楽が好きだからだと思うよ。この35年間、もっとも心を動かされたのはそういう音楽だったんだ。情熱的な音楽。自分たちのやっていることに対して情熱を感じて音楽を作っている人たちの音楽さ。自分の音楽について「パッションを強く感じる」と言われたらそれは最高の褒め言葉だと思うよ。意識的にそういうものを作っているのではないし、先も言ったようにそれは35年間の経験からにじみ出るものだ。恋に落ち、恋に冷め、誰かを愛し、誰かを愛するのをやめる、誰かに愛されなくなる......人間の人生経験は、芸術経験と同じくらい大切なものだ。俺は音楽を25年間作り続けているから、自らの音楽というものを極めてやろうという決意を持っている。君に、さまざまな音楽を聴かせて、当時の俺がどの地点にいて、どんな精神状態だったかというのをひとつひとつ説明していくこともできるよ。当時の俺は調子がよかったとか。アルバムをかけて、振り返ってみれば、この作品を作っていたときは俺の精神は崩壊する直前だった、とか(笑)。
でもそれも情熱なんだ。悪い方に向けられた情熱だが、情熱に変わりない。俺は音楽に対して情熱を持っている。だから25年間続けていられる。そしてときに音楽に対して欲望もある。それはまたあるときに俺を破滅へと追い込む(笑)。
 とにかく、自分の信条にそった音楽を作っていれば、聴いた人にそれが自然と伝わると思う。だから俺の音楽はパッションやラストが感じられると言ってくれるのは俺にとっては最高の褒め言葉だ。

[[SplitPage]]

そのとき俺たちの頭のなかにはソフト・セルの"セイ・ハロー・ウェイヴ・グッドバイ"がかかっていた。そして俺は、「マーク・アーモンドに電話してヴォーカルを歌ってもらおう」なんてことを考えてた。俺がもっと金持ちで大きなレコード会社と契約していたら、そう言っていると思うけどね。そういう無意識的なソフト・セルへの愛がこめられている。


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

Amazon iTunes

『マスターピース』もそうでしたが、あなたのこれまでの人生で愛した音が詰まっていると、『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』でも感じました。テクノ風ですが、よく聴くとロックンロールのグルーヴもあるし、ダブもあるし、ベースやギター、ヴォーカルにはこの10年あなたが追求してきたサウンドがある。セイバース・オブ・パラダイス、トゥー・ローン・スウォーズメンのときと比較した場合、ジ・アスフォデルスでのあなたは、音楽的なアプローチにおいて、どこが違っているのでしょう? 

AW:音楽的なアプローチにおいてはあまり違いはない。最終的な結果が違うだけだ。先も話したように、俺は毎日スタジオに出勤して音楽を作る。もちろん海外へ出かけるときや休みを取りたいときは別だが、それ以外は俺は毎日ふつうに音楽の仕事をしているんだ。それをこの25年間やってきた。アプローチに変わりはないよ。俺は音楽制作という過程を楽しんでやっている。そして芸術を作ることによろこびを感じる。絵を書くのが楽しいと感じるように音楽を作るのが楽しい。あまり最終的な結果にはこだわらずに、プロセスを楽しんでいる。
 ただ、セイバース・オブ・パラダイスとしてやっていたのは15年前のことだ。当然ながらいまの俺は当時の俺とはまったく違う。あれから20年間分の音楽を聴き、20年間分の人生経験やスタジオでの経験を積んだ。25年間の見習い期間をようやく終えた気分だよ。そしてようやく仕事のやり方がわかってきた感じだ。いま俺が作っている音楽は、俺の頭の中に25年前からあったサウンドだ。25年前、俺は頭のなかにあるサウンドを表現する技術力を持っていなかった。音楽を25年間やり続けて、スタジオでいろいろなことを学んでいくと、そういうことができるようになる。頭のなかにあるサウンドを、具体的な形にして最終的な作品として作りだすことができるのさ。
 どの媒体でもそうだが、頭にあるイメージを実際の形にして表現するのは、長い訓練と勉強が必要だ。ただ、俺はけっして学問的にやれといっているのではない。自然に身につけていけばいいと思う。俺だってこの25年間、パソコンのマニュアルやドラムマシンのマニュアルばかりを読んできたわけじゃない。俺の身体的な技術は、ほかのエンジニアに比べるとそこまでいいものではないから、エンジニアを起用するけど、いまではエンジニアに、どのようなサウンドをイメージしているかを技術的に伝えることができる。以前は曖昧な表現でしか自分のイメージしたサウンドを伝えることができなかったからね。

人間的にはどのように変化したと思いますか? 歳を重ねて見えてきたことはありますか?

AW:かなり落ちついた人間になったと思う。いまでは自分の地位が確立されたから、自分の作品がなかなかいいものであると自分でも信じられるようになったね。俺は長年、不安を感じていた。俺は若いころから注目を浴びて、多くの人から自分の作品がとれだけ素晴らしいかを聞かされていた。それがかえって俺を不信にさせた。俺の音楽キャリアの最初の5~6年はすさまじいスピードで進んでいった。そして俺は防御的になった。誰かが俺の正体を見破るんじゃないかと恐れていたんだ。「あいつは郊外出身の、服屋の店員だった男だ」ってね。
 俺自身、俺のデキは、他人の俺に対する評価よりもよくないと思っていたんだ。でもそれが20年や25年続いていると、証明すべきものがなくなってくる。それはある意味、すでに証明されてきたからだ。25年後もその場に居つづけているということ自体が証明になっているということだ。それに気づいたときには、肩の荷が下りた気がしたよ。もちろんそれは徐々に気づいていくもので、いまでも疑問に思うときはある。もちろんその疑問を感じるのはいいことで、それがあるから前進できる。それを感じなくなったら、もう音楽はやっていないだろう。いまの俺は95%の満足感と5%の疑問で成り立っている。その5%があるから俺は前進しつづける。
 とにかく、人間的にはより自信がつき、傲慢さが減ったと思う。もう証明するものはないと感じると同時にいまの立場を当然のものとしてはとらえてはいない。証明すべきものは、じつを言うとまだあるんだ。この先、25年間築き上げてきたものをそのままの状態かそれ以上にキープすることだ。俺は野心的な人間じゃないんだ。とくに目標もゴールもない。いまの状態で幸せだ(笑)。自分の仕事は大好きだし、俺のスタジオは家とはべつの場所にある。だから毎日、俺は家を出てそこへ仕事をしに行かなければいけないようにしている。俺は若い頃に家を飛び出してから、自分で仕事をして生き抜いていかなければいけないとわかっていた。その考えがいまでも身についているから、音楽を作るということに関しても毎日仕事に行くのと同じように考えている。
 よく、「芸術」を生業としている人がそれを「仕事」と称すると、それを聞いた人はおかしな印象を受ける。芸術に対して屈辱的な言い方だと感じるようだ。芸術は仕事ではなく、神秘的な行為のように考えている人が多い。けど実際はそんなことはない。俺にとっては仕事だ。俺が大好きな仕事だ。だから俺のいまの立場でこの仕事をつづけられていることに対してとてもうれしく感じている。べつに昇進しようとがんばっていない。もちろんいい音楽を作ろうという野心はある。だけど、競争心はないんだ。俺が音楽の道を選んだ理由のひとつに、そういった競争というくだらないものに関わりたくないという理由があった。
 さっきも俺は自分が野心家ではないと話したが、じつはそうではなくて競争心がないということなんだ。野心はあるが、競争なんてしたくない。「野心はあってもいいけどがんばるな」なんて若い人向けのメッセージとしては最低だな(笑)。

いや、最高ですよ。今日の日本では、いちど痛い目に遭っているのにかかわらず、さらに追い打ちをかけるように競争と自立が主張されはじめています。「がんばるな」は良いメッセージでしょう(笑)。そういえば、少し前のあなたの写真を見ると、ヴィンテージなファッションを着て、古いレコードや楽器を持っています。それはちょっとしたアンビヴァレントなユーモアに見えますよね。あなたが古いモノが好きだということと、現代社会へのちょっとした皮肉というか。

AW:いやその通りだよ。当然皮肉も少し混じっている。ただ、俺はテクノロジーにとくに感嘆させられないというだけだ。現代のありように対してとくに素晴らしいことだとは思っていない。たしかに60~70年間で人間は空中飛行から、月に上陸するという宇宙飛行まで可能にした。そういうことに対してはたしかに近代の人間の可能性というものに感心するが、最新のテクノロジー機器をすべて持つ必要性は感じない。テクノロジーは俺にとってはツールだ。自分に必要ないツールは家に置いておく必要がないのと同じことだ。たとえば木を切り倒すためのノコギリは俺は持っていない――必要ないからだ。ある時期まで俺にとってパソコンは絶対不可欠のものではなかった。だが、契約書を確認するのに、わざわざ会社に出向かなくてもいいとか、仕事をする上で便利なもの、時間や経費を削減するものだということがわかった。だからパソコンを買っていまはパソコンを使っている。ライブラリーとして使うときもあるし、仕事に使うときもある。
 それがはたして常識なのか皮肉なのかはわからないけど、俺のテクノロジーに対するアプローチはそんなところだ。自分の人生をよりよくすると思ったら使う。俺はiPhoneを持ってない。車のなかからメールする必要もないし、つねに自分のオフィスと連絡が取れる状態にする必要性も感じないからだ。『ニンジャフルーツ』とかいうゲームをする必要もないし、アングリーバードを投げる必要もない(笑)。iPhoneに対してステイトメントがあるとかいうのではなくて、俺には必要ないと言っているだけだ。
 よく、人は俺のテクノロジーに対するアプローチを見て最初はそれを疑問に思う。「こんなにたくさんのプログラムを見逃してるよ」とか言うけど、しばらく話していると彼らは「たしかに、こういうのがなかったら俺の人生はずっといまよりもシンプルになっているな」と認める。俺は来年で50になるから、もし俺がいま18だったらもう少し違っていたかもしれない。それでも、俺が18のころを振り返ってもやはり同じだったと思う。俺はティーネイジャーの頃からそういうガジェットといったものに興味がなかった。読書に興味があった。誰かのスクリーンを見つめるよりも、自分の想像力に興味があった。それはある種の傲慢かもしれないが、それがテクノロジーに対する俺の意見だ。
 俺のスタイルはたしかにユーモアが含まれていると思う。それが君に伝わってうれしい。俺が近代の生活に立ち向かっている、と思っている人も多い。俺はヴィクトリア朝やエドワード朝の衣装の美的感覚が好きなだけだ。むかしから俺は、19世紀末あたりのエドワード朝のスタイルが好きだった。だからその時代の格好をするし、テクノロジーはとくに必要性を感じないから使わないというだけだ。けど、そのふたつを合わせて、100年前の格好をして古い楽器を持っている写真を撮ったら誤解されても仕方ないね。
 これはステートメントというよりは、美学の話だよ。芸術の民主化というのはいい面もあるが悪い面もある。あらゆる人が芸術に触れることができるというのはとてもいいことだと思う。ただそのアクセスのよさを利用する人間が出てくる。そうすると、膨大な量の中途半端な芸術がこの世に広まってしまう。中途半端な芸術は、悪い芸術よりもさらにひどい。悪い作品なら、話し合って何が悪いと議論できる。中途半端な芸術は誰に何のメリットももたらさない。いま、そういった中途半端な芸術がインターネットを通じて出回りすぎていると感じるよ。それがよくない面だね。インターネットについて批判するのはこれくらいにしておこうか。とにかく、俺は、ライフスタイルや服装に関しては現代の美学よりも100年前の美学を好む。そうは言っても家にパソコンはあるし、100年前の暮らしをしているわけでもない。ふたつの時代のいいところをとっているだけだ。気分によって過去に戻ったり未来へ行ったりしているよ。

[[SplitPage]]

俺は若いころから注目を浴びて、多くの人から自分の作品がとれだけ素晴らしいかを聞かされていた。それがかえって俺を不信にさせた。俺の音楽キャリアの最初の5~6年はすさまじいスピードで進んでいった。そして俺は防御的になった。誰かが俺の正体を見破るんじゃないかと恐れていたんだ。「あいつは郊外出身の、服屋の店員だった男だ」ってね。


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

Amazon iTunes

あなたのようなレコード愛があるDJは、PC中心になった現代のDJスタイルを複雑な感情で見ていると思いますが、最近ではむしろ若い世代がデータにうんざりしてレコードを作ったりしていますよね。あなたはそういう動きをどう見ていますか? USのアンダーグラウンドなシーンでは、ヴァイナルとカセットしか出さないレーベルもありますよね。

AW:それは自然なことなんだ。それも『ルールド・バイ・パッション、デストロイド・バイ・ラスト』に当てはまる。たとえば、子どもは段ボール箱ひとつで楽しく遊べてしまう。それをお城に見立てて遊んだりしている。そこに親がクリスマス・プレゼントで新しいおもちゃを与える。子どもは興奮し、新しいおもちゃで1日ほど遊ぶ。だけど、きっと2日後にその子は再び段ボール箱でお城ごっこをして遊んでいるだろうね。結局、人間とはそんな生き物で、新しいものには情熱を感じ欲望を感じる。だが十中八九、もともとあったものでじゅうぶんだった、という結論に達するのさ。むしろ、もともとあったものの方がよかったということも多い。とくに芸術――音楽やヴィジュアル・アート――の分野においては、いままで完璧であったものを、よりクイックで簡単なもので以前のものほどよくないものに置き換えてしまった。それに最近になってみんな気づいてきたんだと思う。
 シンセの場合もそうだ。当初、シンセのソフトウェアが出たときはみんな夢中になった。このプラグインがあるから、もうシンセは必要ない、と言っていた。それから5年後のみんなの感想はこうだった「これはいいけど、実際のシンセよりも音がよくないし、いじっていてシンセほど楽しくない」。そしてシンセを買い直していた。だから当初100ドルで買えたシンセがいまでは1000ドルになっている。われわれの時代の人間は新しいものに飛びつく。だが、その後に以前使っていたものの方がよかったと気づくんだ。それは人間性というものだからしかたない。同じことがレコードとデータでも起こっているということだと思うよ。
 俺はべつにパソコンで音楽を作ってもいいと思う。大切なのはどう聴こえるかだ。ロー・レゾリューションのMP3の音楽は、俺にとって爪で黒板をひっかくのと同じように聴こえるが、レコードを録音してパソコンに取り込み、それをWAVファイルで再生しているのなら、問題ない。手法は何でもいいんだ。大事なのは最終的なサウンド、もしくは仕上がりだ。パソコンでアートを作ってもいいと思う。そのアートがパソコン以外の世界でも存在できると感じられることができるならね。それが最近のアートの問題だ。現実味に欠ける。パソコンのなかでしか存在しないものに感じられる。たとえそれをプリントアウトしても、スピーカーで再生して聴いたりしても、パソコンの世界でしか生きられないものに感じてしまう。
 俺が好きな音楽は、たとえパソコンで作られたとしても何らかの雰囲気が感じられるものだ。どこかでレコーディングされた感じ。どこかで描かれた、撮影された感じ。そういう雰囲気を持つ芸術に興味がある。そういったことを若い人も同じように感じているのだと思う。よく若い人が俺にアドヴァイスを求めてくる。「音楽を作ったけど、音がフラットに聴こえる。どうしたらもっと生き生きとしたものにできるのか?」と。レコーディングもちゃんとやっているし、音自体も悪くない。けどフラットに聴こえる。俺はこう訊く。「パソコンから一度取り出したか?」、そうすると、していない、と言う。だから、こうアドヴァイスする。「古いテープ・レコーダーを買ってテープ・サチュレイションしてみればいい。音楽に少し息を吹き込んでから、再びパソコンに取り込めばいい」、人びとはそういうやり方に気づきはじめているのだと思う。
 俺はパソコンもアナログ機材も両方使う。アナログ機材をひとつ使うだけで、サウンドをパソコンの世界から引き離して、現実性といういち面を与えることができる。そのサウンドはパソコン以外の、外の世界を経験して再びパソコンの世界に戻っていった。最近の芸術の多くはそれがされていない。現実の世界を経験していないんだよ。

詩人ジョン・ベッチェマンがどんな人か、あなたなりに紹介してください。

AW:彼はイギリスの詩人で、20世紀のはじめに生まれて、1980年代に亡くなったと記憶している。とてもイギリス人らしい詩人で、イギリスの郊外や田舎など、とても心地よく見える情景についての詩を書いた。同時に彼には狡猾で鋭いウィットがあり、イギリスの上品で礼儀正しい生活態度は、皮をはがすと、かなりめちゃくちゃで腐敗していることを知っていた。イギリス人にジョン・ベッチェマンというと、みんな「イギリス人すぎる。ベタだ」と言ってうんざりするだろう。ジョン・ベッチェマンはイギリス人のステレオタイプを詩にしてきた人だよ。
 だけど、アルバムの"レイト・フラワリング・ラスト"はとてもダークな詩で、詩の内容は、ふたりの元恋人同士が酒の勢いでヤるために再会する、という話だ。かなりダークでいかがわしいだろ? 俺はそういうイギリスらしさに惹かれるんだ。とくにヴィクトリア朝、エドワード朝の時代はイギリスは歴史的にも最高潮に達して非常に礼儀正しく上品だった。だが、その裏では、あらゆる種類のいかがわしいことがおこなわれ、ダークな部分がたくさんあった。当時は非常に整った社会で、イギリスは礼儀正しく上品とされていたが、表面を取り除いてみると、当時のイギリスは非常にダークな世界だったということがわかる。俺はジョン・ベッチェマンのそういうところに惹かれる。彼は桂冠詩人にもなった人だ。年代は忘れてしまったけど、とにかく彼の描くイギリスの二面性というものに惹かれるね。

あなたはいろいろなスタイルのDJパーティを企画してきましたよね。『フロム・ザ・ダブル・ゴーン・チャペル』の頃は、50年代のロックンロールをかけるパーティをパブでやっていました。たしかダウンテンポの曲だけのパーティをやっているという噂を聞いたこともあります。この3年のあいだ、何かこの手のユニークなテーマのイヴェントも続けていたのでしょうか?

AW:それが〈ALFOS〉だよ。ダウンテンポばかりというか、BPM90あたりからはじめて、120BPMくらいまで持っていくんだ。3年くらい前、古い友人のショーン・ジョンストンといっしょに車でいろいろなギグに行った。そこでミッドテンポというか、少しディスコっぽくてポスト・パンクっぽい、テクノなのかハウスなのかわからない音楽にたくさん出会った。それからそういう音楽を自分たちで探して、お互いにかけたりして、ついに「こういう音楽をかけるイヴェントをやろう」という話になった。
 でも、最近はみんなもう少し速めBPMが好みだからちょっと難しいかもしれないと思った。だから規模は小さめではじめよう、と言ってパブの地下でイヴェントをはじめた。キャパは100人くらい。それが2年半前くらいにはじまって、いまはみんながイヴェントのコンセプトを理解するようになってきた。3枚セットのCD『マスターピース』は、〈ALFOS〉に行ったらどんなサウンドが聴けるかというのを表現したものだ。最近はヨーロッパの各地でも〈ALFOS〉をやっているよ。イヴェントはオールナイトでやる。10時からはじまって、朝4時に終わる。もしくは12時からはじめて6時に終わる。ひと晩かけてイヴェントをやるのが大事なんだ。テンポの変化もゆっくりだから、クラウドがイヴェントの雰囲気を理解してそれにとけこむまで時間がかかる。魔法がかかるまでには時間がかかるのさ。秘薬が効くにはたくさんのミックスを必要とする。これがいまの俺のメインのプロジェクトだ。いまでもロカビリーのDJセットやテクノのセット、ハウスのセットをたまにやったりもするが、〈ALFOS〉がメインだよ。

ちょっとロカビリー風の"ワン・ミニッツ・サイレンス"では何について歌っているんでしょうか?

AW:俺とティムはクラスターというドイツのバンドにはまっているんだけど、そのバンドの時代の特有のリズムというものがある。クラウトロックやグラム・ロックのリズムだ。俺たちはとくにそこにはまっていて、この曲を作っていたときにクラスターを聴いていたんだと思うよ。俺たちは曲を作るとき、いつもリズムとベースから入る。ドラムとベースだ。そのときもたしかティムがリズムをプログラムして、俺がベースラインを書いた。そこから曲を作り込んでいくんだ。
 曲の内容について、俺はふだんあまり話したくないんだけど、この曲は多少政治的な意味を持った曲なんだ。具体名称は出さないが、ある女性が悲劇を経験した。それに対して彼女は、政府にその行為を正式に認めることを求めていた。要は、彼女の家族がテロ攻撃の被害者となった。政治的な話になってしまうから、どの国のどちら側ということは伏せておく。彼女が求めていたものは、被害者の亡くなった記念日に自分の国で1分間の沈黙を得るということだった。ただそれだけだ。その記事を読んだときに、それだけを望んでいる人もいるのだ、と気づいた。多くの人は富や名声を望む。だが、彼女が望んだものは、遺族を思うために国民にだまってもらい、静かな時間を1分間だけくれ、ということだった。それを読んで感動したんだ。だから曲の内容はそういうことだ。
 俺はこういうふうに、新聞の記事をとって曲にする、ということはあまりしない。まじめになりすぎてしまうし、他人の苦しみや政治的な動きをポップ・ソングにしてしまうのはどうかと思う。価値を落としてしまう可能性がある。彼女の経験をエレクトロなアルバムの曲にしたことによって、その価値を落としていなければいいと願うよ。

[[SplitPage]]

「芸術」を生業としている人がそれを「仕事」と称すると、それを聞いた人はおかしな印象を受ける。芸術に対して屈辱的な言い方だと感じるようだ。芸術は仕事ではなく、神秘的な行為のように考えている人が多い。けど実際はそんなことはない。俺にとっては仕事だ。俺が大好きな仕事だ。


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

Amazon iTunes

"ザ・クワイエット・ディグニティ・オブ・アンウィットネスト・ライヴズ"からはちょっとバレアリックな、80年代末のようなピースなアトモスフィアを感じます。何からこの曲はインスピレーションを得たのでしょうか?

AW:ティムがはじめエレクトロっぽいビートを作ったから、俺がそれにベースラインを書いたんだ。もともとはダブのトラックにする予定だったと思う。だから聴いてみるとダブ寄りのサウンドになっているよ。そこから曲が発展して、俺がキーボードをのせたからよりポップな感じになった。そしてティムがさらにパートを加えていく。そのとき俺たちの頭のなかにはソフト・セルの"セイ・ハロー・ウェイヴ・グッドバイ"がかかっていた。無意識的にね。そして俺は、「マーク・アーモンドに電話してヴォーカルを歌ってもらおう」なんてことを考えてた。俺がもっと金持ちで大きなレコード会社と契約していたら、たしかにそう言っていると思うけどね。そういう無意識的なソフト・セルへの愛がこめられている。ニュー・オーダーのアルバム『パワー、コラプション&ライズ(権力の美学)』の要素も入っている。それも80年代中旬な感じがする一因かもしれない。
 でも最初からそういうのを意識して作ってるのではなくて、曲ができあがってから、ほかの人に「この曲は○○に似ているね」と指摘される。アルバムのすべての曲はドラムとベースラインが基本で、そこから作り上げられている。そこから曲がどう発展するのかはわからない。それがアナログ・シンセを使うよろこびでもある。すべての曲はドラムとベースラインからはじまり、シンセなどを使って、「ジャム」しながらできあがっていく。「ジャム」という表現はつまらないしロックっぽいから本当は使いたくないんだが、プロセスとしてはそういうことになる。
 バンドがギターやドラムを使って徐々に曲を書いていく作業と同じように、俺たちも自然なセッションをしながら曲を作っていく。作っている曲は電子音楽だけど、手法は基本的な作曲の手法だ。お互いにパーツを作って、「これはどうかな?」とアイデアを投げ合っていく。ふたり以上の人がいっしょに音楽を作るということはそういうことだ。だから俺はエンジニアといっしょに仕事をするのが好きだし、過剰に独学で習得しようと思わない。アマチュアでいいんだ。エンジニアとのやりとりに楽しみを感じるからだ。エンジニアから学ぶのはおもしろい。
 俺は50になるけど、まだ知らないことがあると認めることができるよ。すると人生はいちだんと楽なものになって、学ぶ作業も楽しく感じられる。ひとりでやる作業よりも、共同作業の方が俺にとってはずっと楽しい。最近の電子音楽を作るミュージシャンはひとり作業が好きな人もいるが、俺にとって音楽制作において好きなプロセスは共同作業の部分だ。お互いと競いあうのではなくお互いを笑わせようとする共同作業。もちろん音楽に対する態度は真剣なんだが、たまにはおもしろいことをやる。たとえば、絶対ありえないようなパーツをわざと入れる、とかね。お互いを笑わせるためだけにね。ジ・アスフォデルスはそういうふうに音楽制作をする。たとえダークな音楽を作っていても、意外な要素を入れたりして、お互いをニヤリとさせる。仕事をするにしても、楽しんで仕事をするべきだと思うんだ。会社で座っていても、向こうに座っているやつと冗談を言い合って笑う。それでいいと思う。

そして、クローザー・トラックの"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"へとつづきます。80年代末に生まれたA.R. ケインのこの曲もある種の前向きさを感じる曲ですね。この曲についてコメントをお願いします。

AW:"ア・ラヴ・フロム・アウター・スペース"は俺が長年好きな曲だった。A.R. ケインも大好きなバンドだ。イギリスの、少し変わったポスト・パンク・バンドで、"ALFOS"は俺のこれまででいちばんお気に入りのひとつに入る。あの曲には、リリースされてからずっといい思い出が残っていて、俺は曲のファンだったから、そのカヴァー・ヴァージョンは自分の頭のなかにはつねにあったよ。そしてイヴェントをやるときに〈ALFOS〉とつけて、その名前をつけたからにはヴァージョンを作らなければいけないなと思った。
 曲はとてもアップ・リフティングな曲だ。俺はそれをバラードにしようなんて思わなかったけど、自分なりのヴァージョンを作りたかった。このアルバムに入っているヴァージョンは、『マスターピース』に入っているヴァージョンと少し違う。ストリングスを加えたんだ。そうすると、ハッピーな曲なんだけれど、メランコリックな要素が少し加わる。俺は鬱になったりはしないが、ものがなしい雰囲気は好きだ。メランコリックな感情というのはポジティヴだと思うから、自分が実際にメランコリックでいる状況を好むよ。だから、ハッピーな曲にものがなしさやメランコリックな要素を多少加えるのが好きなのかもしれない。

DJはどのくらいのペースでやっているのでしょうか?

AW:毎週末だよ。俺の週末は来年の半ばまで空きがない。5年前「DJギグはいつまでもつかな」なんて思っていたけど、いまは(DJ依頼の)電話が鳴りやまないんだ。電話が鳴りやまないからいまでもつづけている。電話が鳴らなくなったらほかのことをすると思うけど、いまのところはやりつづけるよ。とても疲れる仕事だけどDJするのは楽しい。平日の4~5日間はスタジオで仕事をして、金曜と土曜はクラブでDJをすると。とても疲れるよ。だから俺にとっては仕事だね。とても素敵な仕事だとは思う。世界中を旅して、2~3時間ほかの人の音楽をかける。他人にうらやましがられる職業だ。だけど、日曜日に帰宅した俺を見ると、みんな、俺がどんなに働きものかということがみてとれるだろうね。もちろんDJはとても楽しい仕事だよ。

UKではダブステップ以降のダンス・ミュージックがものすごく大きくなっているとききます。若い子たちはみんなレイヴによく行くそうですが、あなたは現在のUKのダンス・カルチャーをどう見ていますか?

AW:いまの時代、UKのダンス・カルチャーをほかのダンス・カルチャーと切り離すことはできない。アメリカのおかげでダンス・カルチャーは世界的なカルチャーとなり、ポップ・カルチャーとなった。情報が普及するスピードがこんなに速いおかげで、ジャスティン・ビーバーの新曲にはダブステップの要素が入っていたりする。最近はディプロがジャスティン・ビーバーといっしょに仕事をしているらしいじゃないか。アンダーグラウンドからオーバーグラウンドへの移行がすぐにできる現代では、現状をうまく分析することはできないな。
 たとえば、誰かが曲を週末にレコーディングしてそれがロンドンのダブステップのクラブで翌週にプレイされ、同じ週の木曜にサウンドクラウドにアップされる。翌週の月曜日には何万人もの人がその曲を聴いている――世界中の映画会社関連の人、レコード会社関連の人、プロデューサーなども含めてだ。そういう人がそれを聴いて「いまロンドンで流行っているのはこれだ。これを使おう」と言ってその要素を自分たちのポップ・ソングに注入する。ダンス・カルチャーがポップ・カルチャーだというのはそういう意味だ。だからダンス・カルチャーに関してはこういうコメントしかできないよ。
 それに、俺は自分の道は自分で決めて、その上を歩んでいくことにしている。まわりを見渡してほかに何があるのか、この先何が起こりうるかということを少しは気にするけど、この年になると方向を外れることはない。昔はよくいろんな方面に行っていたよ。ある週はドラムンべースにはまっていたり、翌週は別のことをしていたり......昔はほかの人が何をやっているかということに気を取られ過ぎていた。いまでは自分が好きなもの、やりたいことにしか集中していない。だから他のカルチャーもあまり見ていないんだ。ダブステップを聴いて、いいと思うものがあればそれが誰か探して、そこからさらにいろいろ聴いていくかもしれない。ほかの人のクラブ・カルチャーは視野に入っているけど、いまもっとも集中しているのは、自分がクラブで何をやりたいのかということだね。

あなたはリミキサーとしてもひとつの道筋を作ってきたと人ですが、ここ最近であなたがリミックスをしたくなるような若いバンドがいたら教えてください。

AW:好きなグループを聴いて「このバンドをリミックスしたい」とはあまり思わないよ。リミックスという行為自体を批判するわけじゃないけど、世のなかにはリミックスが必要ない曲もある。大好きな曲のリミックスを頼まれたが、断った経験は何度もあるさ。オリジナルの曲が好きすぎて、リミックスをしたいと思ってもできないんだ。曲を聴いて、もうこれ以上よくならないと感じたり、反対に、自分が共感できるパートがひとつもない場合、その曲のリミックスはしない。好きな音楽は、リミックスしようと考えるのではなくて、そのままにしておくことが多いかな。

[[SplitPage]]

俺はティーネイジャーの頃からそういうガジェットといったものに興味がなかった。読書に興味があった。誰かのスクリーンを見つめるよりも、自分の想像力に興味があった。それはある種の傲慢かもしれないが、それがテクノロジーに対する俺の意見だ。


The Asphodells
Ruled By Passion, Destroyed By Lust

ROTTERS GOLF CLUB/ビート

Amazon iTunes

では最近であなたを興奮させた音楽作品は何でしょうか?

AW:たくさんありすぎるよ。スタジオを歩き回って見てみよう。最近聴いている音楽が山のように積み上げられているからね。レイランド・カービィというダークなアンビエントを作るミュージシャンがいるが、その人の作品はとても好きだ。ザ・ケアテイカーという名義で活動しているが、彼のアトモスフェリックな音楽は素晴らしい。それから今年リリースされたモダン・ソウルのレコード、ヴェニス・ドーンの『サムシング・アバウト・エイプリル』はアナログ・サウンドが美しい作品で、むかしのソウル・アルバムのようなサウンドだが、それにモダンなダーク・タッチが入っている。今年のリリースで大好きな作品のひとつだね。
 渋谷に6階建てのタワーレコードがあるだろう? あそこで、俺はエレクトラグライドのプロモーションとして「今年のベスト10アルバム」を紹介している。だからタワーレコードに行ってみてくれ(笑)。それから、カントリーのアルバムで『カントリー・ファンク:1960-1975』というのも好きだな。『パーソナル・スペース』という80年代のエレクトロニック音楽のコンピレーションも素晴らしい。最近のバンドでトイというバンドがいるけど、トイは好きだよ。リミックスもやった。最近聴いているのはそんなところかな。

エメラルズOPNのようなUSの電子音楽なんかは好きですか?

AW:両方好きだよ。とくにエメラルズは好きだね。ギターを使ったサウンドだから、スピリチュアライズドやスペクトラムのようなバンドを彷彿させる。ああいう、チラチラ光るようなメタリックなサウンドは昔から好きだよ。エメラルズの音楽はキーボードやギターを使ってそういうサウンドを表現している。それが良い。さっきの質問の答えにエメラルズも入れてくれよ。
 エメラルズのサウンドはパソコンで作っているかもしれないけれど音が生き生きとしている。音に空間が感じられるから好きなんだ。けっしてフラットな音ではない。サウンドを聴くと、アップル・マークの後ろでパソコンをいじっている人のイメージではなく、どこかのスペースでレコーディングされたのだというイメージがわく。実際彼のライブをみると、アップル・マークの裏でパソコンをいじっているんだけどね(笑)。けれど彼の音楽はそれを超越している。

家でリラックスしたいときには何を聴いていますか?

AW:家ではめったに音楽を聴かないよ。俺は週7日間、1日8時間音楽を聴いていられるという特権を与えられているからね。だから一日中音楽に関わる仕事をして、さらに帰宅して家で音楽を聴くことはあまりない。音楽関連のドキュメンタリー番組をテレビでやっていると観たりはするけど、朝11時に出勤して7時に帰宅するまではずっと音楽を聴いているから、その後にはあまり聴かないんだ。家ではたいていラジオをつけているけどBBCラジオ4で、ドラマ、ドキュメンタリー番組、ディスカッションなどいろいろな内容の番組をやっているチャンネルだね。帰宅した後はそういうことをしている。それか読書。読書していることが多いな。俺はつねに、小説、歴史、芸術に関する3冊をいっしょに置いておいて、それらを気分に合わせて読んでいる。
 俺のなかで音楽とリラックスは同じカテゴリーに入らない。もちろん仕事中は椅子に座ってるからリラックスしているけれども、君の言うリラックスは頭のスイッチを切る、ということだと思う。俺は音楽がかかっているときに頭のスイッチを切るということはしないんだ。それがたとえひどい曲であっても「ひどい曲だ、なんだこのひどい曲は?」と思ってしまう(笑)。音楽に対しては、いい悪いという反応が俺のなかで絶対に生まれてしまう。だから音楽とリラックスは別物だ。そして俺はリラックス(頭のスイッチを切る)ということもしない。だから本当は瞑想やヨガなどをやるべきだと思うんだけど、俺の頭のなかはつねに時速160キロで進んでいる(笑)から無理だと思うんだ。
 俺はつねに外部からのインプットを必要としている。たとえそれが風呂に10分間入っているときでもだよ。新聞か本か何かしら読んでいる。外出するときは音楽を聴かない。携帯用音楽プレイヤーは持ったことがない。音楽的インプットよりも、外の世界で起こっている情景の方がよほどおもしろい。だけど同じ場所に長い間座っていなければいけない状況のときは必ず本や新聞を持っていくよ。とにかく、音楽とリラックスは俺にとっては別物だけど、音楽でリラックスできるってことは素敵なことだね。

いまもっとも欲しいものは何でしょうか?

AW:いまもっとも欲しいもの? それはむずかしい質問だね。いまその答えを考えて「いま欲しいものといったら、飲み物かな」と思ったら、ちょうど、スタッフのスコットくんが紅茶を入れて持ってきてくれたんだ。

願ったり叶ったりですね!

AW:そうなんだ。完璧なタイミングでお茶を持ってきてくれた。欲しいものは手に入ったよ。とにかく、いまの状況をキープして、この仕事をつづけることかな。さっきも話したけど、俺の野心は、野心を持たずにいまの状態と同じところに居つづけるということだ。すでにほどよい量の作品を生み出したし、スタジオもいい感じで動いている。スタジオのスタッフは素晴らしい人たちばかりだ。この10年間で最高の状態になっていると思う。それ以上を願うのは欲ばりなんじゃないかと思う。もちろん世界平和や食料飢饉や飢餓をなくすという願いはあるけれど、個人レヴェルの話をすると、いまやっていることを続けるということになるね。

なるほど。それではエレグラでお会いしましょう!

interview with secretsundaze - ele-king


JAMES PRIESTLEY & GILES SMITH - 10 YEARS OF SECRETSUNDAZE

Amazon

 ロンドンが誇るハウス、テクノ・パーティ、secretsundaze(シークレットサンデーズ)のことを初めて知ったのはたしか、アンドリュー・ウェザオールにインタヴューした時だったと思う。彼の口から長らく下火になっていた非定住型のウェアハウスやオープン・エアのパーティ、それも日曜午後の時間帯に始めた新世代として名前が挙がったことで、海の向こう彼らをチェックするようになり、ジャイルズ・スミスとジェームス・プリーストリーというふたりのDJからなるsecretsundazeがハウス、テクノの最前線と全体像を見事にとらえた人気パーティであることを知った。
 そして、ほどなくして届けられた初の、そして2枚組となるミックスCD『Secretsundaze vol.1』。この作品に衝撃を受けたこともよく覚えている。2007年当時、いまのように顕在化していなかったミニマル・テクノからディープ・ハウス回帰の流れをいち早く予見していたばかりか、スタジオ「Life's A Beach(Todd Terje Remix)」のようなバレアリック・トラックやDOCTOR'S CAT「Feel The Drive」のようなイタロ・ディスコまでもがそこにはミックスされていて、ジャンルの細分化をまるで無視するかのような、現場感覚のクロスオーヴァーがとにかく面白かった。そして、それからというもの、個人的にはダンス・ミュージックの新しい動きを知りたいときは、彼らの動向を気にするようになったほどだ。

 彼らの歴史と功績、その後の飽くなき進化は後述のインタヴューに譲るが、2004年のジェームス・プリーストリー初来日を皮切りに、secretsundazeとしてもたびたび来日してきた彼らが本国でのパーティ始動から11年目にして日本で心機一転。さすがにいきなりデイタイム・パーティとまではいかなかったが、今回は早い時間のパーティの楽しみを紹介するべく今週末に来日を果たす。ジャイルスは先頃、モダン・ディープ・ハウスの傑作と評されるデビュー・アルバム『Golden Age Thinking』を発表したトゥー・アーマディロスの一員として、ジェームスもダン・ベルクソンやマルコ・アントニオをパートナーに、プロデューサーとしても活躍。さらにはレーベル、secretsundazeやDJマネージメントのシークレット・エージェントも運営するなど、その活動は多岐に渡っているが、なにはともあれ、まずはパーティとしてのsecretsundazeについて掘り下げるべく話を聞いたのだが、意気上がる彼らの日本でのパーティが本当に楽しみだ。

僕らは好きな場所で、好きなようにDJできるパーティが作りたかった。ただそれだけで、最初はゲストDJすらいなかったし、それほど壮大なヴィジョンがあったわけではなかったんだ。のちに僕らの代名詞となる「日曜午後のパーティ」というアイディアについても、考えていなかったわけではなかったけど、どちらかといえば偶然でそうなったところが大きいね。

90年代末のスーパー・クラブの時代を経て、2000年代初頭のロンドンのハウス、テクノ・シーンは低迷期にあると言われていたように思うのですが、そんな2002年におふたりはどのような思いからsecretsundazeをスタートさせたんですか?

ジャイルス(以下G):はじめたきっかけは、他のあらゆるパーティと同じで、誰にも指図されず、自分たちが好きな音楽をかけて、好きな人を呼びたかっただけなんだ。その頃の流行はというと、エレクトロが台頭してきていて、イースト・ロンドンではブロークンビーツが人気で、いわゆるアンダーグラウンド・テクノ/ディープ・ハウスは人気もなく、そういった音楽がプレイされるパーティもいまのようにはなかった。だから、僕らは好きな場所で、好きなようにDJできるパーティが作りたかった。ただそれだけで、最初はゲストDJすらいなかったし、それほど壮大なヴィジョンがあったわけではなかったんだ。のちに僕らの代名詞となる「日曜午後のパーティ」というアイディアについても、考えていなかったわけではなかったけど、どちらかといえば偶然でそうなったところが大きいね。
 なぜかというと、僕たちが絶対ここでやりたいと思っていた(ブリックレーンの)「93 Feet East」というクラブがあって、いまもそのクラブ自体は存在しているんだけど、そこにはもう無くなってしまった「The Loft」という部屋があった。その部屋は、初めて足を踏み入れたときから、「ここだ!」と感じたところだった。理由はうまく説明できないんだけど、そういう場所ってあるだろう? とにかく、「ここでパーティをやりたい!」と思ったんだ。他にもロンドン中のクラブを見て回ったけど、「The Loft」以上の場所は見つけられなかった。そこで、店に話をしに行ったんだ。当初は金曜か土曜にやるつもりだったんだけど、クラブには他にも2つ部屋があったから、店側からは「金、土にやるのであれば、全部の部屋使うイベントを優先したい」って言われたんだよ。当時、僕たちはまだロンドンでパーティをやった経験がなかったし、いきなり3部屋を使ったパーティをやるのは荷が重過ぎた。そもそも僕らは「The Loft」を使いたかっただけだったから、話し合いのなかで「日曜日はどうかな?」って逆に提案したんだ。店側も、「日曜日?」と最初は驚いていたけど、普段は閉めている日だから、別に構わないということで日曜にやることになったんだ。

では、最初のsecretsundazeはクラブでの開催だったんですね。

G:そうだね、普通のクラブだった。「The Loft」は建物の二階にあって、テラスがついているところが普通のクラブとは少し違っていたところだね。キャパシティは150人くらいかな。テラス側の壁が全面窓になっていたから自然光が入って、まるで屋外にいるような雰囲気があったし、テラスにも自由に出入りすることができた。

その後、どうして、箱を移動することになったんですか?

G:1年目は「The Loft」の5月から9月にかけて隔週でやっていたから、それだけでもかなりの回数になるんだけど、2年目をはじめたところで近隣から騒音の苦情が来たんだよ。パーティ自体はすごく調子が良かったのに、会場からは追い出されることになってしまった。最初は50人くらいのお客さんからはじめて、1年目の終わりには150人くらい。その後、オフシーズン中に口コミで評判が広がったのか、2年目のシーズンになったらいきなりお客さんが増えて500人くらいになったんだけど、いずれにせよ、会場に収まり切らないほどだったから、「The Poet」という場所に移ったんだ。そこは「The Loft」よりさらに素晴らしいロケーションで、完全にイリーガルだった。表向きはイースト・ロンドンのパブだったんだけど、そこはビジネス街にあって、日曜日は人気がなかったし、その店には500~600百人収容できる大きな裏庭があったんだ。ここで1年半ほど続けたんだけど、結局、ここも警察に見つかって追い出されることになった。とてもスペシャルな場所だったんだけどね。

(会場の雰囲気が分かる映像見つけました:https://youtu.be/5g2I-J28SHw

では、secretsundazeは会場を変えて行うパーティにしようという意図は元々なかったんですね?

G:全くなかったよ(笑)。でも、何事にもそうなる理由があるんだろうね、そうこうしているうちに、僕らの会場に対する考え方もオープンになっていったし、色んな可能性を考えるようになった。そして移動することにも慣れた。いまの時点でも、「夢の会場」と思える場所を見つけられたかどうかは分からない。もし見つけられたならそこを離れる理由はないだろうし。でも、常に「よりよい会場」を探し続けることが日常になってしまった感じだね。お客さんも場所が変わることが当然だと思っているし。2007年からの2シーズンやった「Canvas」という会場は本当にアメージングなところで、僕たちは離れたくなかったんだけど、離れざるを得なかった。キングスクロスのビルの屋上で、3000人収容できたんだ。実際に3000人入ったことも何度かあったね。

(ここですね:https://youtu.be/mNnQ6TSGUJQ

都心の屋外でそんな大規模なパーティをやるなんて、東京では考えられないんですが、ロンドンではどうしてそれが可能だったんですか?

G:ロンドンでもいま現在は考えられないね。でも、2007年頃までのイースト・ロンドンはもっとカッティング・エッジな街だったんだ。いま頃になって「イースト・ロンドンはカッティング・エッジだ」って言ってる人もいるけど、いまはメインストリームな街だよ。仮にいま同じことをやろうとしたら、ずっと遠く東の住居がなくて工業ビルしかないような地域へ行かないと無理だ。でもそうすると、今度はそこまで出かけるのが大変になってしまう。だから、実際どんどん難しくなっているよ。でも、2002年にはじめた頃のブリック・レーンやイースト・ロンドンは、ずっとオープンマインドだったし、当局もずっと放任主義的だったんだ。

[[SplitPage]]

最初は50人くらいのお客さんからはじめて、1年目の終わりには150人くらい。その後、オフシーズン中に口コミで評判が広がったのか、2年目のシーズンになったらいきなりお客さんが増えて500人くらいになったんだけど......。

ここ数年はロンドンでもクラブではない会場を使った「ウエアハウス・パーティ」がどんどん増えているようですが、これについてはどう思いますか?

G:そういうスタイルでパーティをはじめたのは僕らが最初じゃないし、日曜のパーティだって、90年代にはベン・ワットの「Lazy Dog」や「Full Circle」といったパーティがあって、実際に僕も行ったことがあった。でも、secretsundazeほどのスケールのものはなかったかもしれないね。だから、偶然の産物とはいえ、日曜の午後に本気で遊ぶパーティを確立させたとは言えると思う。ロンドンの「Half Baked」やローマの「Confused」はsecretsundazeに遊びに来た人たちが「俺たちもやりたい」といってはじめたsecretsundazeにインスパイアされたパーティで、これは賞賛だと受け止めているよ。
 日曜の日中という時間帯にやると、普通のクラブとはまた違った層のお客さんが来るんだ。月曜日の朝に会社に行かなくてもいいような、アーティスト系の人たちも多いし、ロンドンの平均的なクラブの金曜や土曜の夜の客層よりもいいお客さんが集まるんだよ。

クラブも多く、パーティ激戦区であるロンドンでこれほど成功できた理由は何だと思いますか? ふたりはケンブリッジからロンドンに移ったばかりで初めてオーガナイズしたパーティだったわけですよね?

G:理由はたくさんあると思う。ロンドンではないとはいえ、ケンブリッジは車で1時間ほどの街だから、ロンドンには十分馴染みはあった。北部から出て来た、というわけじゃなかった。当初は、僕とジェームスと、主に制作面を仕切ってくれていたクリストフという友だちと、もうひとりの4人で始めたんだけど、成功の理由は、まず情熱を持ってやっていたからじゃないかな。パーティをはじめること自体は誰でもできるけど、僕らはそれ以前にずっと音楽にのめり込んできた。だから自分たちのスタイルもある。
 あとは、レジデントである僕ら自身を強調した点も重要だったと思う。大物のゲストに頼るのではなく、自分たちのスキルを上げることに注力した。レジデントが1時間ずつやって後はゲストに盛り上げてもらって終わりっていうパーティは多いけど、とくに初期の頃はゲストではなく自分たちにお客さんがつくように努力したね。それと、プラスアルファの努力をして面白い会場を見つけて毎回お客さんを飽きさせないように心がけた。楽な選択肢を選ぶのではなく、ね。マーケティング/プロモーションの仕方も控えめに、ロゴやデザインもミニマルに、シンプルにアンダーグラウンドに、情報を与えすぎないようにしたのも良かったと思う。

ジェイムズ(以下J): 僕らに正しい土台、正しい理由があったからじゃないかな。つまり本当に自分たちがやりたいという純粋な気持ちからやり始めたことだったし、元々大きな計画を立てていたわけではなかった。はじめた当初はみんな別に仕事を持っていたし、これで稼がなきゃいけないというプレッシャーもなかった。若かったし、エネルギーもあった。愛情があったから育っていったんだと思う。それが最高のプロモーションだからね。当時はソーシャル・メディアなんかなかったから、僕ら4人自身が「パーティ大使」になって交遊を広げていた。その頃はそれぞれかなりパーティで遊びにも行っていたからね(笑)。情熱を持っていたこと、自分たちのやっていることを信じていたこと、そこに運が加わって、ちょうどいいタイミングにちょうどいい場所にいたんじゃないかな。いわゆるスーパー・クラブの時代が終わり、オルタナティブなものが求められていたときに、それを提供できたんだと思う。

当時、secretsundazeではどんな音楽をプレイしていたんでしょう?

J:secretsundazeの特徴のひとつは、午後の早い時間からはじまるから、リラックスした、ウォームアップの時間が長いところ。初期の僕はこの午後早めの時間にプレイすることが多かったから、ジャズやソウル、ファンク、ブロークンビートからはじまって、徐々にハウスに近づけていくような感じでやっていた。僕は自分をハウスDJだと思ったことはなかったけど、secretsundazeと共に成長して、いまはかなりハウスに寄ったスタイルになっていると思う。でも、元々フリースタイルだから、伝統的なハウスDJとはちょっと違うと思うんだけどね。

今では、かつて、オルタナティブだったディープ・ハウスも再び主流になってきているように思うんですが、おふたりはいまのsecretsundazeをロンドンのクラブ・シーンでどのように位置づけられていますか?

J:secretsundazeのサウンドは、レジデントである僕とジャイルスと、僕らが選ぶゲストによって定義づけられている。それは常に進化してきたし、もともと戦略のようなものがあったわけでもない。単純に僕らがインスパイアされた音楽や、好きなものを取り入れて来ただけなんだ。いつも新しいアーティストや違うDJをブッキングするのもそういう理由からさ。現在のsecretsundazeがどんなパーティかという点に関しては、パーティ自体は11年目になるんだけど、いまも全く新しいDJを呼んでいるし、いまもカッティング・エッジであり続けていると思いたいね。とくに僕とジャイルスは、最近、元気だと感じられるイギリスのプロデューサーに注目しているんだ。
 ここ3~4年、イギリスから面白いものがたくさん出ていると思うよ。パーティをはじめた頃は、UKのアーティストで呼びたい人はほとんどいなかったんだけど、いまはたくさんいる。僕らはそうしたプロデューサーたちの多くをサポートしているつもりだし、secretsundazeにも出演してもらっていて、その何人か、例えばジョージ・フィッツジェラルドやジョイ・オービソンはいまやかなり成功している。彼らはダブステップやUKガラージをバックグラウンドとしていて、根っからのハウス・プロデューサーではないけれど、クロスオーヴァーする可能性を持っている。そういうアーティストをハウスのパーティにブッキングするプロモーターはほとんどいなかったけど、secretsundazeではそれをだいぶ前から試みているんだ。

secretsundazeは新しい才能、知られざる才能の紹介の場としても機能していますよね。リカルド・ヴィラロボスにルチアーノ、スティーヴ・バグ、マティアス・タンツマンといった才能をロンドンで始めて招聘したパーティとも言われていますが、secretsundazeのブッキング・ポリシーは?

G:リカルドやスティーヴ・バグは、たしかに彼らがビッグになる前、かなり早い段階で呼んだのは間違いないけれど、secretsundazeがはじまったのと同じ頃にオープンした「Fabric」が先か僕らが先か、という感じだった。それ以外ではジョシュア・イズやドック・マーティンといったサンフランシスコのDJをよく呼んでいたのと、キャシーやローソウル、サッセのUKデビューもsecretsundazeだった。Innervisionsの面々なども、かなり早い時期に呼んだと思う。今年もいままでイギリスに来たことがなかったエイビー(Aybee)を呼んだしね。もっと楽をしようと思えば、確実に人が入って盛り上がるDJをブッキングすることはできるけど、それはやらないようにしている。

J:僕たちが好きでリスペクトしている人たちを呼ぶという以外では、どんなにプロデューサーとして名前が知られていてもDJがちゃんとできる人しか呼ばない。それは僕らにとって最初から守っているとても重要なポリシーだ。ただ新しくハイプなだけのプロデューサーには飛びつかず、DJとしてのバックグラウンドがあるかどうかを確認してからブッキングする。そして、少なくとも、彼らにプロフェッショナルなレヴェルまで成長できる時間を与えるね。
 例えば、サシャ・ダイヴは、5年ほど前に僕らがふたりとも作品をすごく気に入っていたアーティストだったけど、ずっとブッキングしなかったんだ。なぜなら、彼はDJをはじめて間もないことと知っていたから。いいレコードを作ることとDJをすることは別物だからね。結局数年経ってからブッキングしたよ。他には、僕たちはオリジナルというか、生粋のUSアーティストも積極的に呼ぶようにしている。彼らは取り組み方が真剣だし、ヴァイブもアプローチもヨーロッパのアーティストとは全く違う。よりハードコアでピュアリストというかね。そういう、既に確立されたアーティストと、カッティング・エッジなアーティストを両方ブッキングすることで面白いコンビネーションにしようと努めているんだ。そして、もちろん、単にフライヤー上の見栄えがいいからというだけでなく、きっちりとパーティ全体の流れを考えてその組み合わせを考えるようにしてるね。

G:パーティをはじめた頃といまではブッキングするアーティストもだいぶ変わっていると思うけど、変わっていないのは質の高いハウスとテクノを核とする点だ。僕らのルーツはシカゴとデトロイトにあって、それは揺るぎないね。僕らがやっているDJのマネージメント・エージェンシーにシェ・ダミエやデラーノ・スミスやパトリス・スコットが入っているところにもそれは表れている。
 ただ、それだけが全てではないよ。僕たちはただ、いい音楽に対してオープンマインドでいようとしているだけなんだ。僕個人はかなりテクノも聴くし。でも1回1回のパーティのブッキングについては、全体の流れの中でそれをどうバランスよく配分するかを考える。secretsundazeの特徴、あるいは強みのひとつは、その日のパーティの流れをとても慎重に考えてプログラムするところにあるんだ。例えば今年のオープニング・パーティではクラシックなサウンドとフレッシュなサウンドの両方を取り入れたかったから、ジョイ・オービソンとリル・ルイスをブッキングしたんだけど、ジョイ・オービソンはとてもUKっぽいサウンドのアーティストでリル・ルイスとは全然違うから、僕たちがそのバランスを取るようにして、その日の最初から最後までの流れを上手く作るようにしたんだ。

[[SplitPage]]

情熱を持っていたこと、自分たちのやっていることを信じていたこと、そこに運が加わって、ちょうどいいタイミングにちょうどいい場所にいたんじゃないかな。いわゆるスーパー・クラブの時代が終わり、オルタナティブなものが求められていたときに、それを提供できたんだと思う。

おふたりはいまお話に出てきたように、自分たちで運営するエージェンシーでたくさんのアーティストを抱えていますよね。

G:そうなんだ。30名ほどのアーティストがいるから、その中だけでパーティを回そうと思えば、それもできる。でも、エージェンシーの方は必ずしもsecretsundazeに合うアーティストばかりではないんだ。エージェンシー名にsecretsundazeとつけずにThe Secret Agencyとした理由もそこにあるんだよ。パーティの枠に縛られず、UKガラージやベース系など、もっと幅広い音楽を紹介したいからね。だからエージェンシー所属のアーティストでsecretsundazeにブッキングするのは8割くらい。オクトーバーやパトリス・スコット、Wビーザ、スヴェン・ヴァイズマンなんかがそうだね。

近年、secretsundazeはパーティだけでなく、DJのマネージメント・エージェンシー、さらにはレーベルと、その活動範囲を広げていった理由は?

J:エージェンシーをはじめた理由は、これまでやって来たことから自然に派生したということ。つまり、僕たちの願いであり、恐らく特技でもある「新しい才能の発掘」だ。僕らは、他から有名アーティストを引っ張って来たりすることに興味はなくて、草の根から一緒に育っていくようなアーティストを応援しているんだよ。そして、エージェンシーとしてプロモートすることで、そういう人たちに対して、1回や2回の出演チャンスをあげるだけでなく、もっと踏み込んで共にキャリアを築いていくことができる。僕とジャイルスは、これまでとても幸運に恵まれていて、音楽でここまでやって来ることができた。だから、その分、僕たちで力になれるなら、他のDJやプロデューサーのゴールなり夢なりを実現する手助けをしたいんだ。
 実際、エージェンシーをはじめたことによって、家族のような絆もできたしね。そして、もちろん、イベントやパーティをやる際にラインナップに加えられるようなアーティストが既に揃っていることも心強いよ。それからレーベルは、エージェンシーの機能を補完する役割、それからsecretsundazeの精神とサウンドを世界中に伝えることにあるんだ。僕たち自身がいつも色んなところへ出かけられるわけじゃないし、例えば日本も通常年に一度しか行かない。だから、レコードで少しでも楽しんでもらうことは、secretsundazeにアクセスするひとつの方法になる。
 来年はもしかしたらサブレーベルもはじめるかもしれないよ。まだ決まってはいないんだけど、secretsundazeに縛られずより幅広い音楽もリリースしていけたらと思っているからね。さらにそうやってエージェンシーとレーベルの両方を機能させることで、アーティストは次のステージに成長していける。実際に、エージェンシーに入った時はほとんどギグをやっていなかったのに、いまは忙しくなったり、より遠いところへブッキングされたり、より高い出演料をもらえたりしているアーティストを見ると自分のことのように嬉しいし、そうやって、全てがとても有機的に発展したのがいまの状況なんだ。

おふたりがいま注目しているDJ、プロデューサーは?

J:いい質問だね。えっと......ブレイデン(Braiden)というロンドンのアーティストがいるんだけど、彼はDJとしてとてもエキサイティングな才能で、既に二回出演してもらっている。リリースは現時点でジョイ・オービソンのレーベルDoldrumsからの1枚しかないけれど、もうすぐRush Hourから2枚目が出るよ。僕が今年最も気に入っているレコードのひとつだ。とてもユニークでフレッシュな、UKベースにインスパイアされたテクノという感じ。うちのエージェンシー内でいうと、Fear of FlyingなどのレーベルもやっているBLMというプロデューサーかな。secretsundazeレーベルの8枚目も彼の曲なんだけど、テクノのヴァイブを持ったハウスを作っているんだけど、そのバランス感覚がフレッシュだね。
 エージェンシー以外では、まだほとんどヨーロッパでプレイしていないシカゴのスティーヴン・タンかな。彼はここ2年ほどの僕のお気に入りだね、デトロイトの影響を受けたハウス/テクノでとても最高なんだ。もうひとりはトレヴィーノ(Trevino)かな。彼は僕らのエージェンシーに所属しているわけではないけど少し関係している。彼はかつて、マーカス・インタレクスという名義でドラムンベースを作っていて、実は昨年出した僕らのミックスCD『10 Years of Secretsundaze』にも彼が2001年に出した曲を収録したんだ。その曲「Taking Over Me」は僕以外で誰もかけてなくて、ちょっとした秘密兵器だったんだよね(笑)。その彼が、今年からトレヴィーノという名義でハウス寄りのトラックを作るようになって、実は今度secretsundazeから出る僕の曲「Speed」も彼にリミックスしてもらったんだ。
 この曲は、かつてLTJブケムがレジデントだった「Speed」というパーティにインスパイアされていて、ブケムが「Horizons」というドラムンベース・クラシック曲に使ったのと同じヴォーカル・サンプルを使っているんだ。だからリミキサーとしてトレヴィーノはぴったりだったんだよね。あとはWビーザとジョン・ヘックル、エティル(Ethyl)とフローリ(Flori)、それからアンソニー・ネイプルズというニューヨークの新人も注目株だね。

おふたりのDJプレイに関して、実体験した印象としてはジャイルズがどちらかといえばテクノ寄り、ジェームスがディスコ寄りのプレイに特徴であるように思ったんですが、DJのパートナーとして、お互いの音楽性についてはどのように思われていますか?

G:そうだね、僕がディープ・ハウス~テクノ寄りで、ジェームスは元々ドラムンベースがバックグラウンドにあって、そこからディスコ、ハウスへと変化していった。僕もガラージやベースものをかけたりもするけど、基本的にハウス/テクノのピュアリスト(純粋主義者)だ。僕から見たジェームスの強みは、僕よりも「パーティDJ」だということ。何をプレイするかよりも、プイレのし方の面においてね。僕がプレイする曲を彼もプレイするんだけど、プレイのし方が違って展開がもっと速い。僕はどちらかといえばもっと伝統的なスタイルで、徐々にビルドアップして、また落としていくルーティーンをなるべくスムースに繰り返していくスタイルで、終盤の、着地に向かっていく時間帯が得意なんだけど、ジェームスは自分のプレイしたいものを恐れることなく奔放にぶち込んでいくスタイルだね。そして、常にお客さんの期待に応えるだけでなく、いい意味での裏切りがあるんだ。だから、ジェームスはパーティの前半や中盤にプレイすると映えると思う。
 僕らは毎年Robert Johnson(フランクフルト近郊のクラブ)でロングセットをやるんだけど、そのときのジェームスのプレイが僕はいつも楽しみなんだ。そこでは音楽好きのお客さんが集まることもあって、ジェームスの幅の広さが発揮されるんだよ。ディスコ、ブレイクビーツ、ブロークンビーツ、ハウス、テクノ......彼のそういう多彩な部分が僕は好きだね。

J:ジャイルスは、伝統的なハウスのプログラム方法で、物語のように曲をつなげていき、流れを作ることができるDJだね。彼のようにそれができる人は他にはそう多くない。僕は逆に、リスクを恐れずに異なるジャンルや時代、リズムの曲を織り交ぜてかけることが多いよ。UKベース/ガラージ系の曲をかけるのも好きだしね。お客さんにサプライズをもたらすようなプレイを目指しているんだ。お客さんにショックを与えることなく、いい驚きをもたらすことができるのも優れたDJの条件だと思うからね。だから、僕のプレイは、ファンク・パンクやテクノを多めにかけていたときもあれば、ディスコを多めにかけていたときもあるし、その時々で変化しているんだ。

[[SplitPage]]

ジョイ・オービソンとリル・ルイスをブッキングしたんだけど、ジョイ・オービソンはとてもUKっぽいサウンドのアーティストでリル・ルイスとは全然違うから、僕たちがそのバランスを取るようにして、その日の最初から最後までの流れを上手く作るようにしたんだ。

そんなおふたりが続けてきたsecretsundazeはイビザやベルリンを含むヨーロッパでの評価を確立しながら、トレンドの移り変わりが激しく、飽きっぽい遊び人相手に、11年に渡って良質なパーティを提供してきましたよね。この11年のハイライトは? 

G:ハイライトはあり過ぎて挙げ切れないけど...... 強いて3つ挙げると、ひとつはイースト・ロンドンのストリート・パーティだな。元々は小規模のサイクリングのプロモーション・イベントだったんだけど、secretsundazeがそれを乗っ取ったようなかたちになったんだ。あれはたしか、2004年か2005年頃だったと思うけど、道路に3つサウンドシステムが出ていて、他ではレゲエなんかがかかっていて、その一つをsecretsundazeが担当したんだ。その道路に沿って電車の高架があったんだけど、そこにミラーボールを吊るしてね。4000人かそれ以上の人たちが集まったよ。フリーパーティだったから、イースト・ロンドンの地元の人たちが遊びに来ていて、とても特別な雰囲気だった。
 ふたつめは、2006年にイビサ島でリカルド・ヴィラロボスを呼んでやったパーティだね。その頃の彼は有名になりはじめたばかりの頃だったんだけど、イビサ島というのは、地元にネットワークがないとパーティをするのがとても難しいところでね、それでも僕たちはパーティの数日前に島へ渡って、とにかく死にものぐるいでパーティをオーガナイズしたんだ。「The Blue Marlin」という島の南側にある美しいロケーションでできることになって、いまは金持ち向けの気取った店になってしまったけど、その頃はとてもシンプルなビーチ・バーだった。サウンドシステムもとても良くてね。この日も2000人くらいが詰めかけて、ビーチが人でいっぱいになって近くの道路も渋滞するほどだったんだけど、そのときの雰囲気が素晴らしかった。イビサでも、他の場所であんなヴァイブのパーティは体験したことはないね。もう6年も前のことなのに、いまでもイビサに行くと、そのときのパーティの話をして来る人が時々いるよ。
 3つめは...... どれにしようかな。2年目の「The Poet」でやったシーズンは全て最高だったね。イヴァン・スマッグ、ルチアーノ、ローソウル、トレヴァー・ジャクソンなんかを呼んだけど、どのDJも会場に入ると顎が外れそうに驚いていたよ(笑)。屋外だったけど、壁に囲まれていたから音も良かったし、何人かのDJは、お客さんの勢いや会場の雰囲気に飲まれそうになって緊張していたほどだったよ。僕らは毎回やっていたから慣れていたけど、それくらいパーティに勢いがあったんだ。

最後の質問です。いま、日本のクラブ・シーンは古くからある法律を振りかざした公権力の過度な取り締まり対象になっていて、箱自体が営業停止に追い込まれたり、極端にいえば、深夜に踊ることが禁止されているような状況下に置かれていて、ダンス・ミュージックというもの、そして、パーティを続けることの根源的な意味が問われています。そこでお聞きしたいのは、ふたりが困難な状況に直面しても続けてきたパーティとは?

J:多くの人にとって、パーティをすること、踊ることは極めて重要な意味を持っていることは間違いないよね。とくに震災のような厳しい体験を経た日本では、厳しい状況のときこそ、多くの人で集まって楽しい時間を共有する体験が必要だと思う。ただ楽しいから遊びに行くというのも十分な動機だけど、日常のことや心配事を忘れて自己を解放したくなるときもあるだろ?  そういうときこそ、パーティはより大きな意味を持つんだと思う。
 日本が今直面している法律の問題はとても難しい課題だから、向こう数年どんな変化が起こるのかということにも興味があるよ。今回の僕たちのツアーも早めにはじまって深夜に終わるスタイルだから、それがどう受け入れられるのかも気になるね。例えば、ここ数年ロンドンではナイトクラブではなく、ウエアハウスのパーティが主流になってきている。そういう単発のイベントの方が、クラブを営業するよりも規制が緩いからだ。そのせいで、クラブの営業が厳しくなって来ている現実があって、実際に何軒ものクラブが閉店してしまった。クラブ営業だけでやっていける店は本当に少なくなって来ているんだ。新しいお店の多くは、クラブだけではやっていけないので日中はアートスペースとして運営しているよ。それは面白い動きだと思うけれど、残念なのはクラブとしての設備投資が十分にできないから、音響などに資金が回らないこと。この経験が日本でどう応用され得るかはわからないけど、いま起きている問題のせいで日本の素晴らしいサウンドシステムを持ったクラブが存続できなくなるとしたらとても悲しいね。日本のクラブの素晴らしいところ、そして世界中のDJから愛される理由は、妥協を許さない音作りにあると思うから。
 とはいえ、みんなの音作りの情熱が消えることはないだろうから、ロンドンのようにアンダーグラウンドなウエアハウス・パーティが主流になっても、仮設の素晴らしい音響を実現してくれるのかもしれないけどね。あるいは今後、時間帯を早めた、日中のパーティが多くなってくるのかもしれないよね。少なくともロンドンではそうなって来ているし、僕らが最初に日曜の日中のパーティをはじめた動機のひとつに、ロンドンの土曜日の夜だと多くのクラブが3時に閉店してしまって、ひとつのパーティを作り上げるには時間が短過ぎるという不満があった。だから日曜の午後2時~10時半までの時間があれば、もっと色んなことができると思ったんだ。だから、そうやって遊び方を変えてみるのもひとつの方法かもしれない。

つまり、secretsundazeみたいなパーティをやってみれば? と(笑)。

J:その通り(笑)!

インタヴューの完璧な〆をどうもありがとうございました。それでは日本でお待ちしてますね。

J:ありがとう。パーティで待ってるよ。

11/8(木) 21:00~ secretsundaze presents Giles Smith and James Priestley @ Dommune
観覧の予約はこちら:https://www.dommune.com/reserve/2012/1108/

11/10(土)20:00~ secretsundaze tokyo @ Galaxy
出演:Giles Smith, James Priestley & Kez YM
https://www.thegalaxy.jp/programme/secretsundaze.php

11/11(日)19:00~ secretsundaze osaka @ Circus
出演:Giles Smith, James Priestley, Ageishi & Ono
https://circus-osaka.com/events/secretsundaze/

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727