「K A R Y Y N」と一致するもの

Broadcast - ele-king

 90年代半ばから10年代初頭にかけて活躍したバーミンガムのバンド、ブロードキャスト。1995年にヴォーカリストのトリッシュ・キーナン(2011年1月14日急逝)とベーシストのジェイムズ・カーギルによって結成された同バンドは、翌96年に〈Wurlitzer Jukebox〉からデビュー、ステレオラブの〈Duophonic〉からもシングルを送り出している。
 その後〈Warp〉に移籍した彼らは、97年に初期シングル集『Work and Non Work』をリリース。以降、3枚のオリジナル・アルバムと1枚のコラボ・アルバム、1枚のサウンドトラックともう1枚の編集盤を残している。そのポップかつサイケデリックな音楽は、ボーズ・オブ・カナダとともに憑在論の文脈においても語られてきた。
 そんな彼らの主要作は2015年に一度リイシューされているのだが、このたびさらなるリイシューとレア音源のリリースがアナウンスされた。
 タイトルは三つ。ひとつは、03年と05年に発表されたシングル尺のCDを合体した『Microtronics』。もうひとつは、09年にツアー会場のみで販売された『Mother Is The Milky Way』。最後は、96年10月から03年8月にかけて録音されたBBCラジオのセッション音源集『BBC Maida Vale Sessions』。いずれもリマスタリングが施される。発売は3月18日。フォーマットはそれぞれCD/ヴァイナル/デジタルの3形態が用意されている。
 現在『BBC Maida Vale Sessions』より “Sixty Forty” が公開中。かつて〈Warp〉20周年のコンピにて初公開された、ニコのカヴァー曲だ。シューゲイズなギター・アレンジと「べつの機会はあるの?」という歌詞が、せつなすぎる……。予約・試聴はこちらから。

ジャズとアンビエントの境界で - ele-king

 最近のジャズ界の潮流を見て思うのは、アンビエントやチルアウト、もしくはニューエイジやヒーリング・ミュージック、メディテーション・ミュージック、音楽療法(セラピー)といった概念を取り入れたり、そうしたテイストや要素を感じさせるアーティストが増えていることだ。イスラエル出身のリジョイサーことユヴァル・ハヴキンはじめ、アメリカのジョン・キャロル・カービー、イギリスのキンカジューなどがそれにあたり、イギリスではアルファ・ミストイシュマエル・アンサンブルなどがそうした方向性の作品を作ることがある。楽曲単位で見ればほかにもいろいろなアーティストからアンビエントなどの要素を読み取ることができるし、昨年リリースされたファラオ・サンダースとフローティング・ポインツのコラボもこうした一例に上げられるだろう。

 しかしながらこうした試みを以前にもおこなっていたアーティストはいて、シネマティック・オーケストラはその最たる例であるし、その名もズバリのアンビエント・ジャズ・アンサンブルというグループもあった。カルロス・ニーニョは現在まで一貫してアンビエントなジャズを追求している。もっと遡れば、アリス・コルトレーンや一時期のポール・ホーンなどは大きくアンビエントやニューエイジの世界に入り込んでいったし、マリオン・ブラウンはエリック・サティに傾倒し、ハロルド・バッドの作品を演奏したこともある。演奏という側面を見れば、ビル・エヴァンスやキース・ジャレットのピアノにアンビエントの世界観を感じることもできる。瞑想的なスピリチュアル・ジャズは一種のメディテーション・ミュージックである。つまり、ジャズとアンビエントの融合は決して新しい潮流というわけではなく、そもそも現代音楽やフリー・ジャズが発生した時点で存在していたものである。ただし、ここにきてこうした方向性が再び見直され、それに取り組むアーティストが増えていることは興味深いことである。

 ナラ・シネフロもこうしたジャズとアンビエントの境界線にいるアーティストのひとりだ。ナラは現在はロンドンを拠点に活動するが、祖先をたどるとカリブ系のベルギー人で、マルティニークにルーツがあるという。フランスの海外県のひとつであるマルティニークは、ジャズの分野でもいろいろ優れたミュージシャンを生んでいて、彼らの演奏は独特のラテン風味を有しているところが特徴だ(もっとも、ナラ自身はそうした自分のルーツはあまり意識していないと思うが)。音楽好きの家に生まれ、幼少の頃から身近に音楽があり、ピアノやヴァイオリンなどの楽器に自然と触れていった。高校でジャズの理論や楽譜などを学んだが、基本的にはそうした楽理に則った音楽教育には馴染めず、耳や心で感じたままに演奏をしていくほうが性に合っていたそうだ。

 そして、彼女の音楽性を形成する上で重要な要素として、幼い頃より自然界の音が身近にあったことが挙げられる。子供の頃はベルギーのソワーニュの森でよく遊んでいたという彼女によると、「音楽好きの家庭だったから、生まれた時から常に音楽に囲まれて育ってきた。家の中にはCDも楽器も沢山あって、それを自然に吸収していたの。(中略)もう一つ私の周りにあったのは鳥の声。家の近くには森があって、鳥たちが会話をする鳴き声をずっと聴いて育ったの。私には、鳥の鳴き声の中に美しいメロディとリズムが聴こえる。庭に出るといつもそれが聴こえてきて、刺激を受けていた。鳥の声を聴くと、ホームにいると感じるのよね」(オフィシャル・インタヴューより。以下同)。アンビエントを環境音楽と捉えるなら、自然界にある音、日常の生活音などがもっとも身近な音となるのだが、そうした動物や鳥、虫たちの鳴き声が後の彼女のアンビエントな音楽性に結びついていったと考えても不思議ではないだろう。

 ナラは18歳のころから本格的に作曲をはじめ、22歳のときに作曲、制作、演奏、エンジニアリング、録音、ミキシングを全て自身でおこない、9か月間の制作期間を経て完成させたのが『スペース1.8』である。このアルバムでナラはモジュラー・シンセサイザーの他、ペダル・ハープも演奏している。ピアニスト及びオルガン奏者であり、ハープ奏者でもあり、そこにシンセサイザーを交えて音楽制作をおこなっていたアリス・コルトレーンを想起させるスタイルである。特に今回はシンセを用いたことが彼女にとって大きな鍵となっている。

今回のアルバムが一番影響を受けているのはシンセ。今までずっと使ってみたかったけど買えなくて、今回始めて手に入れたの。使い方を自分で考えたり、新しい発見が沢山あって楽しかったから、あまり他からの影響やインスピレーションは必要なかったのよね。シンセという特定のものを使ってどこまでディープにいけるか、一つのものを使ってどこまで広がりを持たせることができるかが自分の中で大きかった。何時間もシンセを触れることが嬉しかったのよね。

 アルバムはそうした彼女の独演や孤独な創作作業と、同時に友人のミュージシャンたちとのコラボやセッションを融合してできている。参加するのはヌバイア・ガルシア、シャーリー・テテ、エディ・ヒック、ジェイムズ・モリソン、ジェイク・ロングなど、いわゆるサウス・ロンドンのジャズ・シーンで知られる面々だ。ナラはサウス・ロンドンのジャズ・ライヴ・コレクティヴとして名を馳せるスティーム・ダウンのメンバーとして活動していたことがあり、そうした中で繋がりが生まれたミュージシャンたちである。こうしたミュージシャンたちが参加し、ナラ自身がカリブの血を引くとなると、サウス・ロンドン・ジャズに頻繁に見られる土着性の強いアフロ・ジャズ、カリビアン・ジャズ的なモチーフを想像しがちだが、『スペース1.8』に関してはそうしたアフロ・リズムやブラック・ジャズ色が前面に出た作品ではない。アフリカ音楽の要素があるとしても、それは瞑想性や牧歌性といった部分でのことで、むしろ一般的なサウス・ロンドン・ジャズ・シーンとは切り離して見るべきだろう。それよりもナラ・シネフロというアーティストの個性や作家性が強く表れた作品である。

 『スペース1.8』の収録曲は全て “スペース” という単語が付けられ、その1番から8番までの合計8曲が収められる。「アルバムを作っている時に、各トラックがそれぞれ一つの空間のように感じたの。異なった季節とか、昼とか夜とか。全ての曲が、それぞれの時間や世界、場所、フィーリングを持っていた。だから、トラックを “ルーム” と呼び始めたの。(中略)曲を空間だと考えることで、自分に自由が与えられた感じがした。(中略)スペースというのは、宇宙じゃなくて空間を意味するスペースなのよ」。具体的な単語による曲名はときに聴く前にリスナーに先入観を与えてしまい、結果的に自由な感受性を阻害することがある。抽象的な空間という “スペース” を使った理由はそこにあり、現代音楽や環境音楽の作曲家が用いる題名と同じような意味合いを持つ。

 アルバムは周波数の違いが人間の身体に与える影響にナラが魅力を感じたことからはじまったという。ナラはサウンド・エンジニアとしてキャリアを積んでいたこともあり、音の周波数に強い興味を持っていた。そして日頃の研究を通じ、錬金術的な音の力を探求するために様々な波長に調整した層をモジュラー・シンセによっていくつも重ねている。また、モジュラー・シンセやハープを演奏することは、彼女自身にとっても深いセラピー的な効果をもたらしているという。「シンセサイザーとハープが出す音のほうが優しく感じられるの。過ぎたるは及ばざるがごとしと言うし、人間ならではの不完全さがたくさんあるから」。音響心理学だけではなく、ナラの興味は物理学にも及んでいる。ペルセウス座銀河団のブラックホールから発せられる周波数という、人間が聴くことができる範囲をはるかに超える音についても学び、そうした概念を『スペース1.8』に取り入れている。

 音楽セラピーということについてさらに掘り下げると、ナラは20代の初めの頃に腫瘍を克服したという体験があり、そうした闘病生活から得られたものが『スペース1.8』の制作にも反映されているそうだ。シネフロ自身の言葉で言うと、このアルバムが見つめるのは、彼女が “傷を金へと変えたこと”、つまり、錬金術的プロセスであり、人生を変える力を持つサウンドの実験的探求だ。「アルバムのレコーディングには強い薬効があって、そのときに私の身体が必要としているものなの。身体の内的な働きにいっそう焦点を当てるようになったし、自分を治療するような音世界を作るようになったわ」。

 アルバムにはフィールド・レコーディングによる素材も盛り込まれており、そのひとつが鳥の鳴き声である。「鳥は私の最初の教師だった──鳥たちが呼んだり、応えたりする鳴き声や、その音程とリズミカルなフレージングが」とナラは言う。幼少期のベルギーのソワーニュの森や、彼女の祖先が住んでいたマルティニーク島のセント=ジョセフ、ブーリキにある緑豊かな山の尾根を、こうした鳥の鳴き声によって表現したのが “スペース1” である。こうした自然の中で遊んでいた記憶が『スペース1.8』の随所に見られ、それは彼女の音楽に対する姿勢にも表われている。つまり、音をいろいろいじって遊び、変化させて楽しむこと。モジュラー・シンセによる音の実験はまさにそれで、エディ・ヒック、ドウェイン・キルヴィングトンとの3時間に及ぶ即興セッションを切り取って短くした “スペース3” である。彼女はこの自由で制約のないセッションを心から楽しみ、ルールのない作品を作った。

 幼い頃の学校での音楽授業に対してナラはこう述べる。「音楽教育って何を教えるかとか、教え方が決まっているじゃない? 私はそれがあまり好きじゃないのよね。聴いて学習するのではなく、読んで学ばないといけない音楽は私にとっては窮屈。ヴァイオリンを習った2年間でそれを感じて、楽譜はもう読みたくないなと思った。脳じゃなくて、ハートや耳で音楽を勉強したいという気持ちが強くなったの」。そうした昔の自分といまの自分を比べて語る。

私は5歳から音楽をプレイしているんだけど、その時から変わってないことを祈る(笑)。私はいつも、あの頃のピュアな部分を取り戻そうとしているの。物事を判断しすぎたり考えすぎることなく、ルールもなかったあの頃。何が良いとか悪いとかはなく、フィーリングが全てだった。そうやって音楽を作るのはいつだって楽しかった。でも、音楽を勉強することでその情報を吸収しすぎちゃって(笑)。前はすごく純粋だったのに、音の決まりや譜面への収め方を知ってしまうと、それにとらわれるようになる。先生にダメだと言われて、なんでダメなの? と思ったこともよくあった。だから、知識を取り入れ過ぎてしまってもダメなのよね。今は、自分が学んできたことをそれにとらわれ過ぎずに自由に使って音楽を作りたい。知識をツールとして使っていけたらいいなと思う。5歳の時が自分のベストだったと思うの(笑)。ハートでサウンドをプレイしていたから。スキルや学習は、それに圧力をかけちゃうのよね

 『スペース1.8』はナラが心の赴くまま、自身を自由に開放して作ったアルバムである。

 NYのヴァイナル熱、これはもう熱と言うよりは普通になっている。NYにレコード屋はたしかにたくさんある。イートレコード、ブルックリン・エクスチェンジ、レコード・グロウチ、キャプチャード・トラックス、アカデミー、マテリアル・ワールド、ヒューマン・ヘッド、スペリア―・エレヴェーション、セカンド・ハンド、ヴァイナル・ファンタジー、フェイス、A 1などなど、これらの店はほとんどがヴァイナルを扱っている。ヴァイナルを買う人が多いので、必然的にこうなるのだろう。CDを置いている所もたまにあるが、セクションは小さいし、カセット、Tシャツ、ジン、ポスターなどのマーチ系の方が多い気がする。DJをやっている人も多いし、ディスコグなどで売買している人も多い(それを生活の糧にしていたり)。
 私はイベントを企画するので、DJを探すが、いまはほとんどがヴァイナルDJだ。「DJ探しているんだけど」と、まわりに言うと、だいたいすぐ見つかる。聞くのが好きでヴァイナルを買い、DJはやらない人も多いが、ヴァイナルを買う人のDJ率は高いと思う。バーに行くとだいたいDJがいて、いい感じのチューンをかけてくれるし、ライヴに行ってもDJがいる。それだけDJをする場所、機会が多いのだ。そうするとよいチューンをかけるために、良いレコードを探すことになる。と言う感じで、熱があるのかはわからないが、ヴァイナルのある生活が普通になっているし、時間ができたらちょっとレコード屋行ってくる、とささーっとレコード屋に寄る人もまわりには多い。いつも何か良いネタはないか探しているんでしょうね。
 以下、いくつかのお店に簡単な質問を投げてみました。

■Academy Records

──開店はいつ?
Mike:お店は2店舗あるんだ。イーストヴィレッジ店は2001年4月1日。ブルックリン店は2004年4月1日。

──在庫のレコード数
Mike:イーストヴィレッジ店には40,000枚ぐらい? ブルックリン店には100,000ぐらいだと思う。

──主に売れているジャンルは?
Mike:2店舗ともにジャズ、ソウル、ロック、ヒップホップ、レゲエ、ブルース、ラテンなど。

──客の年齢層/男女比率は?
Mike:ブルックリン店の年齢層は20代から30代が大半で、イーストヴィレッジ店はもう少し年齢層が上です。男女比率は、女性が30〜40%。いままで以上にレコードを購入する女性が増えているね。

──なぜいまレコードが人気だと思う?
Mike:色んな人が、色んな違う理由でレコードが好きだと思うけれど、何と言ってもレコードは楽しいからでしょう。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Mike:イーストヴィレッジ店ではWorld's Experienceの『As Time Flows On』が$2000。ブルックリン店ではO’Seisの同名シングルが$3000。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム(新旧問わず)
Mike:毎日変わるけど John Coltrane『A Love Supreme Live In Seattle』とMarvin Gaye『What's Going On』。

Academy Records (イーストヴィレッジ店)
415 East 12th St
NY, NY
10009

Academy Record Annex (ブルックリン店)
85 Oak St
Brooklyn, NY
11222

■Second Hand Records NYC

──開店はいつ?
Fatik:2016年10月。

──在庫のレコード数。
Fatik:10,000枚。

──お店が推しているジャンルは?
Fatik:選べる良い音楽はたくさんあります。ファンク、ソウル、ジャズ、エレクトロニック、ヒップホップ、ロック、ラテン、レゲエなどです。

──客の年齢層/男女比率は?
Fatik:20~50歳くらい。40%が女性、60%が男性

──なぜいまレコードが人気だと思うか?
Fatik:ヴァイナルは、それを追いかけている人たちにとっては、いつも人気でした。最近私が関心を寄せているのは、いまのヴァイナル人気は、物理的な経験と繋がる方法を探している人びとから来ているということです。私たちがしている多くのことはインターネットを中心に展開していて、1日の終わりに少し空虚な気持ちを残します。そこへいくと、手に持つことができるものは違いますよね。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Fatik:ヴェルヴェッツの1stのMONO盤が$700で売れたね。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム。
Fatik:1枚を選ぶのは難しいですが、年末にかけて、FBIと言うバンドの同名のセルフタイトル・アルバムが良かったです。

Second Hand Records NYC
23 Lawton St
Brooklyn NY

■Eat Records / Scorpion Records

──開店はいつ?
Casey:2003年9月11日。

──在庫のレコード数は?
Casey:約5,000枚。

──売れているジャンルは?
Casey:ロック、ジャズ、ファンク、ソウル、レゲエ、ヒップホップ。

──なぜいまレコードが人気だと思うか?
Casey:良い音、物理的なメディア・ライブラリーを提供してくれるし、その価値を保持し、あなたにストリートの信用を与えてくれる。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Casey:$800で、Tool『Ænima』。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム。
Casey:Grateful Dead『Fox Theatre, St. Louis, MO』 4 x Vinyl lp box set

Scorpion Records
792 Onderdonk Ave
Queens, NY 11385


■Superior Elevation Records

──開店はいつ?
Tom:お店は、2015年にオープンしましたが、僕は、2000年からレコードを売っています。

──在庫のレコード数は?
Tom:いつも100,000ぐらいが在庫にあります。お店に出ていたり、倉庫に入っていたり、地下にあったりなどです。

──主に売れているジャンル。
Tom:ロック、ソウル、ジャズ、ラテン、ジャマイカンなどですが、ディスコとハウス・ミュージックに力を入れています。

──なぜいまレコードが人気だと思うか?
Tom:理由はたくさんあると思いますし、この質問の背後にはミステリーがあります。個人的には、心理的な問題があると思います。現在多くの人たちは、彼らの好きな音楽に愛着を感じていません。ほとんどが、コンピュータ(のアルゴリズムなど)が、彼らのために選んだものですから。それを人びとはそれほど気にしていませんでしたが、ある時点で、彼ら自身がアイデンティティをもっていないのではと不安になったのでしょう。ヴァイナルは所有できるものです。視覚的な魅力があります。さらに、ストリーミングのプラットフォームで失われてしまう、自分の好きなバンドはどんなヴィジュアルか、何年に発売されたか、自分が何を好きか、なぜ好きになったのかなどを学ぶのに役立つであろう、良き情報源でもあります。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Tom:$1200、Cerebral HemmorhageのレアなシンセLP『Other Worlds』(1981)です。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム。
Tom:難しい質問ですね。1枚がすぐには出てきませんが、ファンとして、最近エキゾチカという音楽ジャンルに惹かれはじめています。

Superion Elevation.com
+1 (415) 624-6905
100 White st.
Brooklyn, NY

Jenny Hval - ele-king

 それまで足場にしていたブルックリンの〈Sacred Bones〉を離れ、ロンドンの名門〈4AD〉へ移籍することが報じられたのが去る11月。言葉とサウンド、その両面で高い評価を得てきたオスロのシンガー/プロデューサー、昨年はロスト・ガールズとしてもすばらしいアルバムを送り届けてくれたジェニー・ヴァルの新作がリリースされる。それに先がけ、ほのかにアフロを感じさせる新曲 “Year of Love” のMVも公開。“Jupiter” に続きまたも意味ありげな映像に仕上がっています。発売は3月11日。楽しみに待っていよう。

JENNY HVAL
ジェニー・ヴァル〈4AD〉移籍第一弾アルバム3月11日発売決定
同作より新曲「Year of Love」MV解禁!!

2019年にリリースされた前作『The Practice of Love』が絶賛され、ホーヴァル・ヴォルデンとのユニット、ロスト・ガールズでの活動も高い評価を獲得している北欧アヴァン・ポップの至宝ジェニー・ヴァルが最新アルバム『Classic Objects』を3月11日に〈4AD〉よりリリース。同作より作品の冒頭を飾る「Year of Love」のMVが解禁された。

Jenny Hval - 'Year of Love'
https://youtu.be/2i2oJJwgLTk

〈4AD〉デビュー曲「Jupiter」に続く今回のシングルは、ポール・サイモンの『The Rhythm Of The Saints』を彷彿とさせるパーカッシヴなサウンドスケープにヴァルのシルキーな歌声がたなびく楽曲で、ライヴ・パフォーマンス中に目の前でオーディエンスから求婚されたという実話に基づき、この困惑から既婚者であるプライヴェートな自分とアーティストとしての自分の関係性を問うアイデンティティの探求をテーマにしている。また、MVはヴァルとジェニー・バーガー・マイハー、そしてアニー・ビエルスキーの3人によって監督された。

パンデミックによりアーティスト活動が中断されたことによって、音楽や芸術活動がいかに不安定な労働であるかという普通の人間として当然抱く感覚を経たことによって、とにかくシンプルな物語を書くことにフォーカスしていったという本作はどの曲にも透明感と高揚感のあるヴァースとコーラスが存在するポップ・アルバムへと昇華されていった。また、アルバムは前作に続き坂本龍一やビョークといった大物アーティストからアレックスGやプーマ・ブルーといったインディ・アクトまで幅広く手がける才媛ヘバ・カドリーがエンジニアを務め、作品の神秘性を引き出している。

2022年3月11日(金)に世界同時発売となる最新作『Classic Objects』の国内流通仕様盤CDには解説および歌詞対訳を封入。アナログ盤は通常盤に加え、数量限定ブルー・ヴァイナルが同時リリース。本日より各店にて随時予約がスタートする。

label: BEAT RECORDS / 4AD
artist: Jenny Hval
title: Classic Objects
release date: 2022/03/22 FRI ON SALE

CD 国内仕様盤
 4AD0431CDJP(解説・歌詞対訳付) 2,200円+税
CD 輸入盤
 4AD0431CD 1,850円+税
LP 限定盤
 4AD0431LPE(Blue Vinyl / LTD) 2,850円+税
LP 輸入盤
 4AD0431LP 2,850円+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12331

Ehiorobo - ele-king

 ソフィーラスティーで知られるフューチャー・ベースから分岐したバブルガム・ベースやカワイイ・フューチャー・ベースをメインにリリースする〈DESKPOP〉から2016年にデビューしたエヒオロボによるセカンド・フル(ほかミックステープ多数)。ニュージャージー育ちのナイジェリア系で、Seiho とはプリンスのトリビュート・カヴァーでタッグを組んだり、Tomggg との “Feel Ya” など日本のアンダーグラウンドにもすでに浸透しているプロデューサーである。とはいえ、『Joltjacket』からはこれまで日本に見せてきた顔とは少し異なる気配が漂い、レーベル・マナーに沿ってカワイイ・フューチャー・ベース全開だった『Limeade』から一転、完成に4年もかけたという『Joltjacket』にはもっと多種多様な音楽性が詰め込まれている。ブルックリンの実験的ソウル・シンガー、レイン(L’Rain)のセカンド・アルバム『Fatigue』(https://lrain.bandcamp.com/album/fatigue)にちょっと引きずられた感もあるけれど、全体にかなり破天荒で、とくに前半のポスト・ロックの導入は強引に耳を引っ張る。『Limeade』にはEDMをチープにしたような面も強くあったことを思うと、この変化はかなり大きく、「これはもうフューチャー・ベースではない!」といったカワイイ主義者の叫びがいまにも聞こえてきそう。確かにぜんぜんきゃりーがぱみゅってないし、カワイくもなんともない。レーベルも伝統と変化を等しく重んじるのがポリシーだという〈Grind Select〉に移り、デザインもカワイイは卒業。ちなみにテキサスのブラゾス(Braz_OS)とともに〈DESKPOP〉を運営するオハイオ(現ペンシルヴァニア)のフューチャー・ババが2015年にリリースした『Gamewave』がいまのところPCミュージックを抑えてヴェイパーウェイヴとバブルガム・ベースの接点に立つカワイイ・フューチャー・ベースの代表作とされている(https://floorbaba.bandcamp.com/album/gamewave)。

 冒頭からカッさばいてくる。ピタ『Get Out』が始まるのかと思ったらリズム・ギターだけで山下達郎ばりに歌い出す。途中からギターはソニック・ユースかダイナソーJr ばりに轟音を撒き散らし、ヴォーカルと演奏は分裂状態のまま曲は進む。基調はR&Bで、どの曲もこれまでと同じく丁寧に歌い上げながら、サウンドがとにかく荒々しい。時にリスナーを振り回すようなレインの疾走感もそうだけれど、2010年代のヒップスターR&BやサイケデリックR&Bとは明らかに手触りが異なり、どちらかというとクリッピングのようなミュジーク・コンクレート・ヒップホップをR&B化させたような感じだろうか。歌詞では♪愛が戦場なら君はバズーカ砲を手にしている~(“Fusion Bazooka”)とか、コーラスワークが冴える “Shit’s Creek” では♪ドアマットのように僕は精神を踏みつける~など日々の葛藤を洒落た言い回しで歌っている感じが多い(そういう意味では同じナイジェリア系のマイクに近い)。♪遺体安置所で過ごし、君の塊から記憶が霞んでいく~とか♪墓地でモノクロームに溶けていく~など複数の曲で親しかった人の死が示唆され、どの曲でもエヒオロボは暗闇に取り囲まれている。一方で、♪人生は豪華なものだ~とも歌い、さらに♪人生はバリー・マニロウのようにトロピカル~と、曲調も全体に暗いわけではない。コーネリアスのように明るく跳ね散らかす “Caramelized!” など、むしろ希望にあふれてもいるし、アルバムも終盤に差し掛かるとカワイイ・フューチャー・ベースのヴァイブスが戻ってくる。しかも、それがバカみたいに感じられることもなく、わりと普通に楽しい。♪君にケタミンは必要ない、ここに垂直のロールス・ロイスがある~というのはロード “Royals” に対する卑猥なアンサーだろうか。♪僕はもう戦いくない、争いはやめうようと君に言って欲しい~ ♪旅に行きたい~料理が好き~幸せが好き~好きな人のそばにいたい~と、FKAトゥイッグスの新作ミックステープとメッセージがほとんど同じ。

 ジェイ-Z が出てきた頃、よくこんなヘンなトラックの上でラップができるなと思ったものだけれど、エヒオロボの歌にもにたような違和感があり、それがとにかく楽しい。ほぼ全編スロッビン・グリッスルのようなトラックで攻めるワシントンのサーE.u+トゥース・クワイアやJペグ・マフィアなど奇天烈なトラックを売りにしているユニットはあれこれあるなか、ヴォーカルに力があって、トラックがどれだけ無茶苦茶でもきちんとヴォーカルに意識が向くようにつくられているのもいい。むしろ中盤は比較的大人しい展開で、いってみれば楽器演奏の比重を増したこともあり、音楽性の複雑なエモ・ラップをやってみたということなのだろう。


ニッポンカレーカルチャーガイド - ele-king

世界有数のカレー大国──ニッポンのカレーがこれ一冊でわかる!

欧風カレーにインドカレー、スリランカ、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、タイ等々の多様なルーツ
カレー麺にスープカレー、スパイスカレーにご当地カレーなどの日本独自カレーの数々

4,000軒以上のカレー店を食べ歩いた著者による「奥深きカレー文化」と200軒以上の「おすすめ店」のガイドブックが登場!!

目次

はじめに
第1章 日本カレーのパイオニアたち
第2章 洋風・欧風カレー
 老舗洋食系カレー/大衆洋食系カレー/欧風カレー/欧風カレー(ボンディ系)/フレンチカレー/カツカレー/ドライカレー
第3章 カレーライス
 大手チェーン系/東京カレーライス/東京カレーライス(喫茶店カレー)/関西カレーライス/金沢カレー/ご当地カレーライス/焼きカレー/ダムカレー
第4章 カレーパン
第5章 和カレー
 カレーうどん/カレーそば/カレー丼/スパイス和食
第6章 中華カレー
 中華カレー(咖喱飯)/中華カレー(ネオ中華カレー)/カレーラーメン/スパイスラーメン
第7章 世界のカレー
 インド料理のカレー/パキスタン料理のカレー/バングラデシュ料理のカレー/ネパール料理のカレー/スリランカ料理のカレー/ビリヤニ/タイ料理のカレー/その他の国のカレー
第8章 スープカレー
第9章 クラフトカレー(スパイスカレー)
 大阪スパイスカレー第1世代/大阪スパイスカレー第2世代/大阪スパイスカレー第3世代/大阪スパイスカレー第4世代以降/京都クラフトカレー/神戸クラフトカレー/関東クラフトカレー(老舗系/印度カレー)/関東クラフトカレー(新世代/スパイスカレー系)/九州クラフトカレー/名古屋クラフトカレー /静岡クラフトカレー/東北クラフトカレー
第10章 スパイス居酒屋&BAR
第11章 肉料理店のカレー
第12章 カレー・イノヴェイティブ
第13章 レトルトカレー
第14章 カレー+カルチャーイベント
おわりに

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

P-VINE OFFICIAL SHOP
◇SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA
◇未来屋書店/アシーネ

Luke Wyatt & Dani Aphrodite - ele-king

 ファッション・ブランド〈C.E〉の2022年春夏コレクション(明日1月14日(金)ローンチ)を記念し、ヴィデオが公開されている。
 ディレクターを務めるのは、トーン・ホーク(Torn Hawk)名義で〈L.I.E.S.〉や〈Valcrond Video〉、〈Rush Hour〉といったレーベルから音楽作品を送り出してきたルーク・ワイヤット(Luke Wyatt)と、ヴィデオ・アーティストのダニ・アフロディーテ(Dani Aphrodite)。ディストピックでストレンジな雰囲気の映像に仕上がっている。
 音楽を担当しているのは、Rezzett としての活動でも知られ、アクトレスの〈Werkdiscs〉からアルバムを出している Lukid(2019年のシングル「Drip」も素晴らしい1枚でした)。ヴィジュアルも音も、要チェックです。

C.E Spring Summer 2022 Video
Video: Luke Wyatt and Dani Aphrodite
Music: Lukid
https://000.cavempt.com/

King Krule - ele-king

 歓声が聞こえる。それはいまとなっては少し現実感のない、どこか架空の世界の音のようにも聞こえる。

 年が明けて2022年、僕は時間に線が引かれて境目ができた後の世界から以前の世界を眺めている。2020年の半ばから配信ライヴを見る機会が増えて(チケットアプリ DICE を入れて初めて買ったものが会場に行くことのない配信ライヴのチケットだったというのはなんとも奇妙な話だ)歓声のないクリアな音を聞いていた。日本にいながらも三つの会場、ウィンドミル、ジョージ・タバーン、ギャラリーでおこなわれたインディペンデント・ヴェニュー・ウィーク2021を見ることができたのはある意味ではラッキーなことだったのかもしれない。元々はフェイマスとジャースキン・フェンドリクス(つまりブラック・カントリー・ニュー・ロードの“Track X”に登場する二組だ)が同じ日に見られると思いチケットを買ったのだけれど、いちばん印象に残ったのは彼らが出ていない二日目に出演していたドッグという名前のなんだかわからない形のギターを弾いていたなんだかわからないバンドだった。ここまで発表している音源はなし。当然こんな名前で見つかる情報もほとんどなし。その後なんとかインスタグラムのアカウントを見つけて記憶の中での再生を続けながらいまはその最初のリリースを楽しみに待っている。少々奇妙な形のこうした出会いができたのはストリーミング配信でイベントがおこなわれたからに他ならないだろう。望んでのことではなかったのかもしれないが、今日では配信ライヴの文化というものが形成されつつある。それはリアルのライヴの代替なのかもしれないけれど、リアルのライヴにはない側面もあって、それが適応を迫られた世界のメニューに載っている。2020年の上半期にあったような「しょうがない」という気持ちは「このようなやり方」という風に変わりいまではすっかり「そういうもの」として受け入れられているのだ。

 あぁしかし歓声が聞こえる。キング・クルールのライヴ・アルバム『You Heat Me Up, You Cool Me Down』を再生して最初に耳に入るのは歓声だ。キング・クルールことアーチー・マーシャルをステージに迎え入れる声。その声はその場の空気を具現化したもので、そこにいない僕らの感情を引っ張っていく。チューニングを合わせるみたいにしてパンデミック以前の会場の様子に思いを巡らしているうちにギターの音が聞こえてきて、アーチー・マーシャルがそこにいるということが示唆される。そうしてまた歓声。ズー・キッドを名乗っていた時代の古い曲 “Out Getting Ribs” からライヴがスタートし手拍子が起こる。16歳の少年アーチー・マーシャルが作った曲を25歳の父親になったアーチー・マーシャルが唄う。10年前には聞かれなかったサックスの音が響いて、それでなんだか時間の流れが見えたような気分になる。
 キング・クルール以降という言葉をしばしば見かけるようにキング・クルールの音楽がいまのロンドンのバンドに与えた影響は少なくない。ヒップホップに影響されたようなビートにジャジーなギター、ポスト・パンクの要素にダブ、言葉と感情を伝える独特なヴォーカル・スタイル、様々な要素が混じりあって作られるその空気にはサウス・ロンドンの音楽のほとんど全てがあって、その後に続くシーンのひな形になったといえるのかもしれない(もう少し付け加えるならキング・クルールもまた近年注目を集めるブリット・スクール出身だ。現在のような流れの、塊ではなく単体の兆しとして、それはキング・クルールの音楽の中にあったのかもしれない)。
 2013年の『6 Feet Beneath The Moon』、2017年の『The Ooz』、2020年の『Man Alive!』、三つのオリジナル・アルバムの中からまんべんなく曲が選ばれて、その全てが『Man Alive!』をリリースした直後の空気の中で調和する。このライヴ盤はヨーロッパの都市がロックダウンされる数週間前におこなわれたツアーの最初の数公演の中からセレクトされたもので、どこかの一夜がそのまま収められたものではないのだが、しかし上記の歓声を含め現実に起こった出来事を繋ぎ合わせ、意図してその後におこなわれるはずだったツアーの起きることのなかった架空の一夜を作り出しているように思えてならない。サックスが鳴り響く “Out Getting Ribs” の余韻から “Emergency Blimp” になだれ込む、その瞬間に僕はスリルを感じる。タイトなドラムは気持ちをせかしギターの音が不安を煽る。ここでのアーチー・マーシャルのヴォーカルはオリジナル・ヴァージョンとはまったく違うつばを吐きかけるような強烈な勢いと対処しきれない不安を吐き出すみたいな様相を呈していて、それがさらに不安を煽って加速させる。3rdアルバム『Man Alive!』に収録されている “Stoned Again” もやはりオリジナルとはまったく異なっているような印象で、より生々しくなった演奏と矢継ぎ早に荒々しく言葉を紡ぐアーチー・マーシャルのヴォーカルがジャジーなヒップホップを思わせ、荒れ狂うギターとサックスの音が感情の形を作っていく。

 キング・クルールの音楽はなんとも居心地が悪いものだ。都会的で暗く孤独で不安を煽るようなもので、スタイリッシュでモダンな音の裏に隠れた繊細な感情が作り込まれたオリジナル・アルバムからほころびてステージの上で漏れ出ている。ある種の見栄のような美意識と映画のサウンドトラックのような物語性を帯びた美しさ、その裏で牙が研がれ不安といら立ちが解放される、ステージ上で繰り広げられる崩しが入ったようなキング・クルールのそれがなんとも格好良く思わず憧れみたいな気持ちを抱いてしまう。居心地が悪くなるのは、それが共感し誰かとシェアするような感情ではなく個人の心の中にある孤独を投影したものだからなのかもしれない。孤独とは誰もいないということではなく、人びとの気配の中にあるものなのだ。

 そうしてこの架空の一夜は1stアルバムの最初の曲 “Easy Easy” で締められる。お約束のジョークのようなやりとり。最後の曲だとアーチー・マーシャルが静かに告げて歓声が起こりポーズだけの申し訳程度のブーイングがおこなわれる。この曲のキング・クルールはまるで10代の少年のように攻撃的でシンプルなギターの音を響かせ声を荒げている。それは在りし日の思い出のようでもあり、それと同時に飾らないアーチー・マーシャルのいま現在の姿のようでもある。手拍子が聞こえ、それがかき消され、アーチー・マーシャルの声に続くように観客の歌声が聞こえはじめる。バンドのサウンドが陰鬱さを塗りつぶすかのように激しさを増す。それは不安からの解放のようでもあって、この瞬間のカタルシスは観客の前でのステージでなければ得られない。人びとの心からの自然な反応、そのまとまった感情が空気を作り、それが追体験する者の心をも揺らすのだ。そうしてまた歓声。キング・クルールの気配が消えたステージを包み込むようにして拍手と歓声が鳴り響いて、そしてまるでその日が夢だったみたいに、フェードアウトして消えていく。歓声にはじまって歓声に終わる、ありえたかもしれない架空の一夜を描いたこのアルバムは、もしかしたら現実にあった夜よりもライヴというものを表現しているのかもしれない。キング・クルールのこのライヴ盤は、音楽というものがリリースされてそれでおしまいになるようなものではないと教えてくれるのだ。

dj honda × ill-bosstino - ele-king

 2021年の日本のヒップホップ・シーンの中でも、かなり攻めたリリースを行なってきた THA BLUE HERB 率いるレーベル、〈THA BLUE HERB RECORDINGS〉(以下、〈TBHR〉)。そのひとつが5月に発表された O.N.O の全曲プロデュースによる YOU THE ROCK★のアルバム『WILL NEVER DIE』で、YOU THE ROCK★と THA BLUE HERB との過去の歴史を知る人びとにとっては大きなサプライズであり、かつ内容的にも非常に充実した素晴らしい作品であった。その半年後にリリースされたのが、dj honda と ILL-BOSSTINO (以下、BOSS)という、世代を超えた2大巨頭のコラボーレーション・アルバム『KINGS CROSS』であり、個人的には『WILL NEVER DIE』以上のインパクトを与えてくれた作品となった。

 現在、共に札幌を拠点に活動している dj honda と BOSS であるが、それぞれ通ってきた道は全く異なる。80年代からDJとして活動を開始し、90年代半ばから2000年代にかけてはNYを拠点にメジャー・レーベルのもとでUSヒップホップの最前線にいた dj honda。一方で BOSS は O.N.O と共に結成した THA BLUE HERB の一員として、90年代の東京中心であった日本のヒップホップ・シーンの中で孤軍奮闘し、作品のリリースやライヴを重ねながら、いまやシーンの中で確固たる地位を確立している。それぞれ世界と日本を相手に戦ってきた彼らであるが、同じヒップホップというカテゴリーでありながら、これまでほとんど重なる部分がなかったというのが紛れもない事実だろう。正直なところ彼らのコラボレーションがどのような形になるのか個人的にも全く想像がつかなかったが、このアルバムを聞けば、そんな心配は一発で吹っ飛ばされる。90年代のUSのヒップホップを聞いて衝撃を受けた BOSS のラップと、90年代のUSヒップホップ・シーンのど真ん中にいた dj honda のサウンドの相性の良さというのは、冷静に考えれば当然のことなのかもしれないが、良い意味での驚きが本作には詰まっている。

 誤解を恐れずに言えば、dj honda は間違いなくヒップホップ・シーンのレジェンドであるが、彼のいまの活躍を知らない人にとってはすでに過去の人となっている。しかし、例えば2015年リリースの B.I.G. JOE とのジョイント・アルバム『UNFINISHED CONNECTION』や2018年リリースの紅桜とのジョイント・アルバム『DARK SIDE』を聞けば、プロデューサーとして彼がいまだに現役であることは明白だ。サンプリングによる90年代と同じプロダクション・スタイルを用いながら、サウンドのクオリティは完全にアップデートされており、何よりも彼のトラックに漂うどこか昭和を思わせるような空気感は B.I.G. JOE や紅桜、そして、もちろん BOSS のようなタイプの日本語ラップには見事なまでにハマる。いま現在も毎日スタジオにこもってトラックを作り続けているという dj honda であるが、バラエティに富んだ本作全16曲のトラックを耳にすれば、いまが彼にとっての全盛期にすら思える。

 そんな dj honda に対しての尊敬の念とある種の緊張感が BOSS のラップからは強く感じられる。dj honda のこれまでの活動の歴史を綴った “A.S.A.P.” などはその筆頭であるが、さらに BOSS 自身の過去にもリンクして、まるで初心に戻ったかのようにも感じられる瞬間も多々ある。かと思えば、“GOOD VIBES ONLY” のようなポジティヴなマインドを全開にした曲もあったりと、dj honda のトラックに誘発されるかのように、THA BLUE HERB や BOSS 自身のソロ・アルバムとも異なる視点や感情が存分に引き出されている。個人的には “REAL DEAL” のようなどストレートなヒップホップ・トラックであったり、逆に “'CAUSE I'M BLACK” や “SEE YOU THERE” のようなノスタルジー漂うトラックに乗った BOSS のラップも最高に痺れる。

 『WILL NEVER DIE』と同様に本作もサブスクでのリリースを一切行なっていないというのがまた〈TBHR〉らしいが、こんな最高なアルバムを聞き逃すのは本当に勿体ないと思う。

Billy Wooten - ele-king

 今回Pヴァインの「VINYL GOES AROUND」が手掛けるのは、かつてマッドリブを魅了した70年代インディアナポリスのヴィブラフォン奏者、ビリー・ウッテンのTシャツ。〈Stones Throw〉の名コンピ『The Funky 16 Corners』(2001)に収録されたことでも知られる代表曲 “In The Rain” と “Day Dreaming” をカップリングした7インチ付きセットも限定発売される。カラーリングやサイズなど詳細は下記より。

ジャズ・ファンからソウル/レアグルーヴ・ファンまで魅了するBilly Wooten率いる、The Wooden GrassのTシャツをVINYL GOES AROUND限定で販売。「In The Rain」の7インチもセットも。

ジャズ・ファンからソウル/レアグルーヴ・ファンまで魅了するBilly Wooten率いる、The Wooden Grassのライヴ・アルバムのジャケットのデザインを使用したTシャツを株式会社Pヴァインの新規事業・VINYL GOES AROUNDにて販売することが決定しました。

Billy WootenはGrant Greenの"Visions"や、Richard Evansの"Dealing With Hard Times"のレコーディングにも参加しているヴィブラフォン奏者であり、自身でもいくつかの名盤を残したインディアナポリスのアーティスト。ライヴ・アルバムの他にも貴重な彼の演奏写真もT シャツにして同時販売。また、彼の代表的曲、「In The Rain」の7インチを限定生産でセット販売いたします。

哀愁のあるヴィブラフォンの演奏と、歪んだオルガン、マシーンの様に一定に刻む強烈なビートが奏でるザ・ドラマティックスのカヴァー「In The Rain」はかつてMADLIBも自身の作品で使用した曲。中盤以降の盛り上がりと、後半の繰り返されるフレーズがまるでHIP HOP的なサウンドで、多くの人を虜にした70年代のジャズの名曲です。カップリングにはソウルの女王、アレサ・フランクリンの名曲、「Day Dreaming」を収録。疾走感ある曲で、激しく演奏するヴィブラフォンが強烈なジャズファンク。本作はスペシャル・エディットを加えて45回転での収録となります。

・BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS with IN THE RAIN 7inch 販売ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive

[商品情報①]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS A
カラー:BLACK / CHARCOAL / NAVY
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1012
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報②]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS A with 7inch
カラー:BLACK / CHARCOAL / NAVY
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1013
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

[商品情報③]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS B
カラー:BLACK / WHITE / STONE BLUE
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1014
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報④]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS B with 7inch
カラー:BLACK / WHITE / STONE BLUE
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1015
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

[商品情報⑤]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS C
カラー:BLACK / WHITE / MILITARY GREEN
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1016
価格:¥4,800(税抜)(税込:¥5,280)

[商品情報⑥]

商品名:BILLY WOOTEN ORIGINAL T-SHIRTS C with 7inch
カラー:BLACK / WHITE / MILITARY GREEN
サイズ:S / M / L / XL / 2XL
品番:VGA-1017
価格:¥6,400(税抜)(税込:¥7,040)

※期間限定受注生産(~2022年2月7日まで)
※商品の発送は 2022年3月上旬ごろを予定しています。
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。
※Tシャツのボディは ギルダン2000 6.0 オンス ウルトラコットン Tシャツになります。

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