「K A R Y Y N」と一致するもの

Teams - ele-king

 ヒップホップやハウス、あるいはディスコ・ミュージックに通じていない筆者のようなリスナーから心待ちにされるのもむべなるかなだ。意外なことにあたまの"セヴン・デイズ・ア・ウィード"は、アニマル・コレクティヴ『メリウェザー・ポスト・パヴィリオン』のポスト・ヒプナゴジック的解釈ともいうべきトラックで、ベン・アレンがポップに翻訳してみせたアニマル・コレクティヴの躁的なハッピー・サイケデリアを、さらにハイに、さらにドリーミーに加速したようなトラックである。深いリヴァーブ、オーヴァー・コンプでびりびりになったプロダクション、昂揚をつづけるシンセの波、たっぷりと響くバス・ドラム。『フィールズ』の天地をひっくりかえすような混沌にも同じようなフィーリングがあった。ただ、こちらのテンションにわずかに危険なにおいがただようのは、アニマル・コレクティヴの3連符を4拍打つようなビート感覚に対し、16分音符を3拍子で打とうとするためだろうか。なんとなくそこには精神よりも肉体のハイを求めるようななまなましさがある。曲名もそういうことかもしれない。

 インディ・ロックとエレクトロニックなダンス・ミュージックがかつてなく接近し、驚くほどのヴァリエーションを生みだす状況を、さまざまなレーベルがひろいあげている。〈ヒッポス・イン・タンクス〉や〈メキシカン・サマー〉、あるいは〈100%シルク〉などがフォーカスするのはまさにこの混淆である。『チームス vs. スタースリンガー』として〈メキシカン・サマー〉からリリースされたスプリット・シングルが、日本国内でも輸入盤店を中心として喝采をもって迎えいれられたことは記憶に新しいが、そのチームスのほうのフル・アルバムがいよいよ解禁された。ノックスヴィル出身、現在はLAで活躍するこの繊細な身体つきの黒人プロデューサー、ショーン・ボウイは、このリリースによってまたかなりのファンを得ることになるだろう。ドリーミーなディスコ・ポップとして、またローファイでエクスペリメンタルなIDMとして、ショーンはじつにのびやかなビートを描く。自らのフェイヴァリットとしてニルヴァーナやクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、キンクスやジェファーソン・エアプレインを挙げていて驚くが、サイケデリックでリヴァービーなものに惹かれながらも、ソリッドな音を追求したいということなのかもしれない。

 トロ・イ・モワをよりストイックなファンクネスで締め上げたようなディスコ・ナンバー"スタンツ"、ドラマチックでスローなビートでたたみかける"ワット・ターンズ・ユー・オン?"とつづけることでチームス本来の流れに引き戻し、軽やかにR&Bをはさみながら表題の"デイズ・オフ"などユーフォリックなドリーミー・ヴァイブへと展開していく。後半のローファイでアンビエントなサウンド・スケープは、まさにポスト・ヒプナゴジックが描くべき原野を浮きぼりにしているように思われる。

 チルウェイヴがどこからかつれてきたあの幻想のサマー・フィーリングはだれかが解くことになるだろう。それはあらかじめいつか解かれるものとしてのはかなさを持ったものであったし、それがゆえにせつなくエモーショナルにさまざまなアーティストの音を縁どった。『デイズ・オフ』(と読むのだろう)の秀逸なジャケットは、そうした夏の虚構性をクリティカルに解体する。グラフィックな海と南島にはそれがどこにも存在しない人工の夢であるという皮肉が美しくきざみこまれているようにみえる。クリア・ヴィニールに淡くマーブルな柄が入っているのがなんともせつなく痛い。醒めながらみる夢......チルウェイヴのその後を知的な筆致で描きおこすような、秀逸な1枚だ。

Harmonia & Eno '76 - ele-king

 1996年にクラスターが初めて来日したとき、――ハンス・ヨアヒム・レデリウスは60半ばをまわっていたし、ディーター・メビウスも50を過ぎていた――、渋谷のオンエアー・ウェストのフロアには20代~30代初頭のテクノ世代か、リアルタイムで聴いていた40代のプログレ世代がパラパラといるだけのものだったが、伝え聞いたところによれば、2010年の代官山ユニットでの来日公演では、フロアは本当に満員だったという。ドイツのふたりのおじいちゃんによるアンビエント/ドローンを聴きに、1000人近くの人が集まるなんて90年代には考えられなかったことだ。しかもオーディエンスの多くが若い女性客だったという。きっとそのなかの何人かはグルーパーやローレル・ヘイローを聴いているに違いない。

 ハルモニアは、クラスターのふたり(レデリウス+メビウス)とノイ!とは別の、アンビエントという当時まだ新しかったコンセプトに興味を抱いていたミヒャエル・ローターの3人によるプロジェクトで、1974年と1975年に1枚づつアルバムを発表している。どちらも名盤だが、僕はセカンド・アルバムにあたる『デラックス』をとりわけ好んでいる。黄金の太陽、そして裏ジャケットに見えるのは川縁でのびりとしたときを過ごしている3人......そのリラックスしまくっている佇まいに相応しく、『デラックス』は和やかだが、夢の続きのような居心地の良さがある。愛嬌のあるミニマルな展開、ロマンティックなメロディ......ポスト・サイケデリックとも言える生活のなかの満ち足りた感覚、「正直であること、愚かであることを恐れていない」――本作のライナーでスティーヴン・アイリフががそう書いているように、ハルモニアは、ジュリアン・コープが「これでもか」とあおってみせたクラウトロックの神話性ないしはミステリーとはまた少し違った趣を有している。はったりじみたところがないし、ドラッグ・カルチャーをこじらせてしまったようなところもない。まさにチルアウト(リラックス)している。こういうオジサンになりたいと、若い頃、僕は思ったものだった。
 
 本作は、早くからクラウトロックの先駆性を評価していたブライアン・イーノが、ドイツのフォルストという村で暮らしているクラスターを訪ねたときの記録である。1997年に未発表アルバムとして最初のヴァージョンがリリースされているが、これはそのさらにまた未発表曲3つを加えたヴァージョンで、日本盤にはスティーヴン・アイリフによる美しいライナーの訳が付けられている。2007年にハルモニアの未発表のライヴ音源『Live 1974 』をリリースしているロンドンの〈グロンド・レコーズ〉からの再リリース盤だ(UKリリースは2009年で、2010年にはシャックルトンも参加したリミックス盤も出ている)。
 
 未発表音源によるアルバムというのものは、なかにはいい加減なものもあるが、これはむしろ当時発表されなかったことが不思議なほどのA ランク・レヴェルの内容である。レデリウスの叙情的なピアノとローターの美しいギアルペジオ、メビウスの電子音、それらが万華鏡のようにきらめく"Almost"、ハワイアン・ギターと愛らしいリズムボックスとの素晴らしい出会いによる"Weird Dream"......「この音楽をあらかじめ作曲しておくことはできない」、スティーヴン・アイリフはそう書いている。"Sometimes In Autumn "の悪戯っぽく反響する電子音と昆虫の声、未知の領域への誘い......「楽譜をしりぞけ、つねにインプロすることで、我々リスナーも創造という行動の共犯者であるという感覚」、それがハルモニアの魔法だとアイリフは言っているが、まったくその通りだと思う。クラスターのふたりに関しては、その後もイーノとの共作は、1977年の有名な『クラスター&イーノ』、1978年の『アフター・ザ・ヒート』との2枚がある。どちらも必聴盤。何年経とうが。

 6月に入り、ニューヨークはイヴェントで目白押し。





 まずはいま、ブルックリンでいちばん面白いアート・エリア、ブシュウィックで、「ブシュウィック・オープン・スタジオ」が、6月第一週末に開催された。
 アーティストのスタジオを、その週末だけ一般開放して、スタジオを見学をするイヴェントである。ブシュウィックには数えきれないほどのアーティストがスタジオを構えているので、場所によってはミュージック・ショーがあったり、ヴィデオ上映会があったり、ライヴ・ペインティングがあったり、盛りだくさんなのである。
 たくさんあるので、案内所として、いくつかのハブ・スタジオがあり、そこで地図やインフォをもらい、オススメを教えてもらえる。駅でいうと、3、4離れて固まっているので、プランをたてて行動するのが良い。デタラメに行っても、そこそこ面白いものが見れる。みんなフレンドリーで、アーティストと触れ合えるし、フリードリンク、フード、見る物満載、楽しい週末イヴェントである。
 私がチェックしたのは、デカルブ・アベニューとブロードウェイの角にある「ロード・サインズ」。道の角に、大きなサインが作られていて、サインの先には、このサインを作ったアーティスト(スコット・グッドマン、サキ・サトウ)も含む10人ぐらいのアーティストのスタジオ「1100broadway」があり、その近所の「ブルックリン・ウェイ・フェアーズ」にもお邪魔した。友だちの家に来たかのようで、スナックなどが持ち寄り。アーティストの作品は、ドローイング、ペインティング、彫刻、クリスタル、ボトル、ヴィデオ......などなど。作者は、気軽に作品について説明してくれる。

 同じ週末には、「ブルックリン・フィルム・フェスティヴァル」のキックオフ。ニューヨークでは、次々とフィルムフェスティヴァルが開催されるが、有名所では「トライベッカ・フィルム・フェスティヴァル」がある。私が個人的に好きなのは、監督の顔が見える、インディ感漂うフェスティヴァルで、「Res fest」(レス・フェスト)、「ニューヨークUFF」(ニューヨーク・アンダーグラウンド・フィルム・フェスティヴァル)、「BFF」(バイスクル・フィルム・フェスティヴァル)などが印象に残っている。
 今回のブルックリン・フィルム・フェスティヴァルも、私の心を動かすインディ・フェスティヴァルである。アメリカ、ロシア、イタリア、トルコ、スペイン、ドイツなどの映画が集まっているのだが、監督やロケ地、ストーリーなどが、ブルックリンに関連していて、ブルックリンが映画の中心であることをアピールし、インディの映画制作、アーティストの素晴らしさ、アーティストの創造の自由を促進している、ブルックリンから世界に発信するフェスティヴァルだ。

 こちらがトレーラー。






 このなかからひとつ、「lefty loosey righty tighty (レフティ・ルージー・ライティ・タイティ)」をピックアップする。
私が昔働いていた音楽オンラインショップで、現在働いていて、私のレーベルの物もいつも扱ってくれるパトリックが脚本を書いたというので、個人的にも親近感をもっていた。
 ストーリーは彼と同世代の典型的なアメリカ人30代男の生活、その恋愛模様が描かれている。3人の友だちが、これまでのバブルの崩壊を悟り、歳を取るごとに直面する自分自身や生活の変化のなかでドラマは繰り広げられる。
 撮影場所はブルックリンのパークスロープ。ここは、ブシュウィックとは対象的な、家族が住む地域で、ストローラーを押したお母さんを良く見かける。エッジさはないが、別面のブルックリンという感じが伝わる。
 ブルックリンと言っても、とても広く、インディ・ロック界でいうブルックリンはウィリアムスバーグ、ブシュウィック、グリーンポイント辺りなので、機会があれば、他の地域も紹介していきたい。例えば、どこに住んでいるの? と聞いてブシュウィックというと、「ああ、ミュージシャンかアーティストなのね」と、パークスロープと言うと、「ああ、落ち着いてるのね。子供がいるの?」などと、会話がはじまる。地域ごとに「顔」がある。

 さて、席は100席もなかったが、ほとんど埋まっていた。監督が言うには、DIYでどこまでできるかがテーマで、脚本家、俳優、映画音楽(ミュージシャン)、いやいや、お客さんもほとんどが彼の友だちだったかもしれない。見に来ている人は登場人物が経験していることを自分と照らし合わせ「ああ、わかるわー」という、共感を楽しんでいるように思えた。
 日本人の私から見ると、30代の微妙なお歳頃のアメリカ人が作った、ローカル感満載の映画で、「まったくアメリカ人はルーズでイージー(良い意味で)」と、表面的に思えるのだが、そのなかに見える登場人物の、微妙な心の動きや葛藤には、共感できるものがある。
 結局この映画で伝えたかったメッセージは、特異性を越え、生活を混乱させ、壮大で恐ろしい現実に自分の心を開いていくことだろう。ちなみに映画の最初に出てくる制作者のクレジットが、デリのサインを使って表され(つまり、かなりニューヨーク的)、オーディエンスにもしっかり受けてたが(拍手まで起こった)、ただこれは、アメリカの地方に住んでいる人にも理解し難いかもしれない。日本で言うと、町の商店街のサインを使って、名前を載せるという感覚なのだが、そのユーモアのセンスが、ここにいるからわかるという限定的なもの。笑いは、世界共通で有りながらツボは違う。上映後の監督への質問には、これでもか、というぐらい質問する(的外れな質問でもお構いなし)。

 もうひとつ見た映画は、「Cat Scratch Fever(キャット・スクラッチ・フィヴァー)」。こちらはルームメイトで親友のふたりの女の子が主人公、彼女たちは自分たちの生活を別次元の世界で見れることを発見する。そう、現在の生活とテクノロジーの数えきれない可能性の暗喩でもある。 こちらも、ストーリーからロケーションからとてもDIYで親近感を感じた。いずれせによ、これもまた、今日的なテーマである。

 話しは飛ぶが、たまたま見つけたこのプロモ・ヴィデオ(https://news.aol.jp/2012/06/04/italian-supermarket-lip-dub_n_1537380/)、イタリアの生協のスタッフが、オープン記念で作っているのだが、素人でここまでできるのは、イタリア人の血筋(ジェスチャーに長けている国民)なのか!

CHIDA (ene / FUNIKI ENE) - ele-king

【CHIDA's DJ SCHEDULE 】
6.15 (Fri) ENESP No.1 feat. ROOM FULL OF RECORDS KICK OFF PARTY@eleven
6.20.Wed. Aoyama Tunnel/Tokyo
6.29.Fri. G6 at Taipei

ene Europe Tour 2012
with THE BACKWOODS(aka DJ KENT/Force of Nature)
7.19.Thu. Guimaraes / Portugal
7.20.Fri. LUX Fragil / Lisbon / Portugal
7.21.Sat. Sunstream(Boat) / Lisbon / Portugal
7.27.Fri. Dalston Superstore / London / UK
7.28.Sat. City Music Hall / Newcastle / UK
8.3.Fri. TBA / Istanbul / Turkey
8.4.Sat. TBA / Helsinki / Finland
8.10.Fri. TBA / Moscow / Russia
8.11.Sat. Loftus Hall / Berlin / Germany

ボム10 NOW.


1
Cos/Mes - Sadistic EP♯2 - FUNIKI ENE

2
Hatchback - Main County EP - Adult Contemporary

3
Iori - NEXUS - Bitta(Album)

4
Kaoru Inoue - Ground Rhythm(The Backwoods Remix) - SEEDS AND GROUND

5
Phreek Plus One - La Spirale(Justin Vandervolgen Remix) - Internasjonal

6
Still Going - Work That Shit Party - Still Going Records

7
Soft Rocks - The Revenge of Soft Rocks - ESP Institute(Album)

8
The Backwoods - Flying Bugz(Kaoru Inoue Remix) - ene

9
The Backwoods - Cloud Nine(The Stallions Remix) - ENESP

10
Windsurf - Weird Energy(9dw Remix) - catune

5ive (cos/mes) - ele-king

【スケジュール】
https://underground.jp/
https://soundcloud.com/cosmes
Schedule
6.9 (Sat) Oath 7th Anniversary Day2 @Oath
6.15 (Fri) ENESP No.1 feat. ROOM FULL OF RECORDS KICK OFF PARTY@eleven
6.28 (Thu) We Here Now @seco

Every Wednesday Chida&5ive @Aoyama Tunnel May2012 Chart


1
Reynold - Coolin - Eintakt

2
Still Going - D117 - Still Going Records

3
Jonsson/Alter - Mod Mixes - Kontra Musik

4
Pharaohs - Flutter & Moon - 100% Silk

5
Anthony Naples - Mad Disrespect EP - Mister Saturday Night

6
Uku Kuut - Vision Of Estonia - Peoples Potential Unlimited

7
Cos/Mes - Sadistic EP♯2 - FUNIKI ENE

8
The Backwoods - Awakening (Cos/Mes Morikawa Remix) - ENESP

9
Soft Rocks - Little Lights (Cos/Mes Remix) - ESP Institute

10
Rune Lindbaek feat Kurt Maloo - Wonder (Cos/Mes Remix) - Drum Island

Rufus Wainwright - ele-king

 トム・フォードの初監督作『シングルマン』は僕としては正直、雰囲気でファッショナブルに仕上げてしまったような半端な印象が残っているが、ゲイ・アイコンでもある大物デザイナーが同性愛者の中年以降の孤独を取り上げたという点では肩を持ちたいと思っている。パートナーを失ったゲイ中年のどうしようもない喪失感。そこではフォードのような成功者もまた、マイノリティとしての老いることと先行きの不確かさに恐れを抱いているようだった......彼がデザインする服から読み取れる自分のセクシャリティをさらけ出すような挑発的な姿勢だけでは、掬い取れないものがあったのだろう。
 多くのゲイが若くして直面する「いかにして愛を見つけるか」という問題もさることながら、「どのように晩年を迎えるか」という文字通り最後のテーマも非常に重い。つい最近オバマが賛成を表明した同性婚の是非が同性愛者たちにとって切実であることは、視点を変えれば社会に彼らを受け入れるコミュニティが不十分であることの表れでもある。セックスの相手を見つけることで紛れる孤独も、ある時期まではあるだろう。しかし、家族の形成が容易ではないセクシャル・マイノリティにとって、老いによる孤独は避けられない現実である。ポップ・ミュージックにおいてその重さを誰よりも美しく、しかし徹底的に歌ったのは他でもないアントニー・ハガティだった。「わたしが死ぬとき、看取ってくれる誰かがそこにいることを願う」という突き詰めた祈りをあらかじめ不可侵であるようなあの声が歌うことによって、「けれどもそこには誰もいないのだろう」と思わせる迫力がどうしようもなく宿っていた。

 ルーファス・ウェインライトは自分がゲイであることを早くから表明しつつ、しかしアントニーやパフューム・ジーニアスのような生々しさや重さとは違ったやり方でゲイであることを歌ってきた。それは舞台装置の設定だ。二部作である『ウォント・ワン』『ウォント・トゥー』がその端的な例で、そこでは自らの男性性と女性性を戯画化してジャケットで中世の騎士と姫に扮してみせ、「ゲイの救世主」と題した曲では「いや、それは僕じゃないよ」とはぐらかしてもいた。あるいは、ゲイ・アイコンである伝説的な女優ジュディ・ガーランドのアルバムの再現ライヴ『ルーファス・ダズ・ジュディ・アット・カーネギー・ホール』は、ゲイのシンガーであることを真っ向から引き受けたキャリアを代表する一枚である。彼にとってゲイである自分はある意味では見世物として割り切られていて、虚実入り乱れたキャラクターを作り上げるのは得意とするところだった。
 しかしいま思えばそれは、いくらかの自己防衛を含んでいたとも言える。『リリース・ザ・スターズ』以降のオリジナル・アルバムにおいてルーファスは、彼自身の内面をそれまでよりもストレートに晒し始めている。ほぼピアノの弾き語りに絞った前作『オール・デイズ・アー・ナイツ:ソング・フォー・ルル』は、一枚丸ごと母親の喪に服したダークなアルバムだった。その後のツアーでは、第一部の間ずっと観客に拍手を禁じる抑圧がわざわざ用意されていたほどだ。それに思い切り反動するように軽やかに開かれたこのアルバムの動機は娘が生まれた喜びだったというから、思った以上に実人生が作品に反映されるタイプのソングライターであったのかもしれない。いや、おそらく自身がそれを許したのだろう。プロデューサーはマーク・ロンソンという意外な人選ながら、なるほどオペラ歌手めいたゴージャスな歌唱よりも、ソウル・シンガーとしてのルーファスの側面がよく出ていて、洗練されたアレンジと共にこれまでの濃密さを思えば非常に聴きやすい作りだ。シンセで味付けがされたAOR風の"バーバラ"やダンス・ポップ的ですらある"ビター・ティアーズ"など、新鮮だ。50年代以前のスタンダード・ナンバーへの深い理解と愛が自然に感じられるアルバム後半も風通しが良く、"リスペクタブル・ダイヴ"や"ソング・オブ・ユー"など、哀愁のこもったメロディをリラックスして歌えるのはこのひとならではだろう。歌われている内容も、シンプルな愛の言葉が中心を占めている。

 だからこれは、ルーファス・ウェインライトが個人の人生の幸福について素朴に歌った初めてのアルバムだと言えるかもしれない。ただ、やや穿った見方であると前置きをしておくが、そうすることで「ゲイの人生におけるある選択」を表明しているようにも自分には感じられる。自身の結婚と子を設けたことを本作の出発点としているのだが、ありふれた幸福を装いながらその特殊性についてもしっかりと言及する。中核を成している"モントーク"は娘に向けてこう歌われている――「いつの日か君はモントーク岬を訪れ、パパが着物をまとい もうひとりのパパが薔薇の手入れをしているのを見るんだ/きびすを返して帰らないでくれるといいな」。このアルバムの軽さは、そのようなゲイの幸福がけして特別なものではなく、本当に気軽に聴けるものであることを目論んでいるのではないだろうか。ゲイが家族を作るならばそれはオルタナティヴなものに「ならざるを得ない」が、しかしだからこそ選択する自由は残されているし、たくさんの可能性があることをルーファスがここで示しているように思えてならない(そう言えば、トム・フォードも子どもを長く欲しがりながらパートナーの反対でまだ持っていないと数年前に聞いたが、その後どうしたのだろう)。
 その意味で、ルーファス・ウェインライトは本人が望もうが望むまいが、「ゲイの救世主」であることをいくらか負っている。だから彼には、老いても自分の人生を歌ってほしいし、そこでこそ愛を見出してほしい。同性婚が議論に上がる気配すらないこの国においても、それは何らかのモデルになるはずだ。もしマイノリティが社会の生きづらさに抵抗するならば、幸福と愛を追求することを諦めないことだと、このよく伸びる歌声を聴いていると思う。

LOW END THEORY JAPAN - ele-king

先日、下北沢のZEROに行ってしばらく飯島直樹さんと話し込んでいたら、いきなりズカズカとお店のなかに原雅明さんがこのフライヤーを置きにやって来て、僕を見るなり、「紹介してよ!」と、迫力満点のヴォーカリゼーションで言われたので紹介することになりました。今日のロサンジェルスの最重要拠点、ロー・エンド・セオリー・ジャパン再来です!
 倉本諒くんのように、ドゥーム・メタル/ノイズを追求していたらマシューデイヴィッド周辺と知り合って、それでロー・エンド・セオリーへと漂着しているインディ・キッズもいるんだよと、おそるおそる原さんに言ったら、「最近はそういう子、多いよ!」と、これまた迫力満点に言っておられました......。そうですよね、いろいろなジャンルの交流点になってますよね。昨年、タイムラインのライヴ会場でも、フライング・ロータスからデトロイト・テクノへと漂着した若者がおりました。一時期は島宇宙だとかタコツボ化などと揶揄されていましたが、実はリスナーは、ぜんぜん横断しているんですよねー。
 はっきり言って、メンツがかなり豪華です。原さん、ありがとう。僕も行ってみようかと思っています。
 
 以下、原さんから届いたメールです! 札幌と大阪でもありますよ!

 3月に大盛況で終わったLOW END THEORY JAPANが早くも再登場! 今回はダディ・ケヴとノーバディのレジデントの2トップに、ラス・Gという最強の布陣。さらに、プロデューサーたちがフレッシュな未発表ビートを紹介するLOW END THEORYの名物企画Beat Invitationalの日本版を開催。多数出演する日本のビートメイカー、DJ、ビートボクサーたちのパフォーマンスにも注目!

LOW END THEORY JAPAN [Summer 2012 Edition]
6.30 (土) @ 渋谷 WWW (03-5458-7685)
https://www-shibuya.jp/schedule/1206/001745.html
OPEN / START : 23:00
CHARGE : ADV.3,500yen / DOOR 4,000yen
※20歳未満の方のご入場はお断り致します。(要写真付き身分証)

Live&DJ
DADDY KEV / NOBODY / RAS G

Beat Invitational
(出演者は後述)

DJ
DJ KENSEI / DJ SAGARAXX / BUDAMUNK / BUGSEED & PIGEONDUST / YAGI & ILLSUGI / FUJIMOTO TETSURO / DJ FEBB

VJ
DBKN / KAZUYA ITO

RAS G | ラス・G
ダブやジャズも飲み込んだスモーキーなビートと、敬愛するSun Ra譲りのコズミックな世界観で、ユニークなサウンドを作り上げたラス・G。LAのシーンのキーとなるPooBahやBrainfeederにも関わり、 Dublab制作の『Secondhand Sureshots』など重要なプロジェクトにも参加している。最近はRas G & The Alkebulan Space Program名義で、よりディープなサウンドを追求している。 2009年のLOW END THEORY JAPAN以来の待望の再来日となる。 https://afrikanspaceprogram.com/

DADDY KEV | ダディ・ケヴ
LOW END THEORYの、またレーベルALPHA PUPの主宰者。アンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンの伝説的プロデューサーであり、フリースタイル・フェローシップからフライング・ロータスまでさまざまなアーティストのマスタリ ング・エンジニアとしても有名。LOW END THEORYでは多くの若いアーティストをフックアップし、LAのみならず世界のビート・ミュージック・シーンの活性化に寄与し、多くのアーティストから リスペクトを集めている存在。 https://www.daddykev.com/

NOBODY | ノーバディ
ヒップホップ育ちのサイケ・ロッカーであり、マーズ・ヴォルタやプレフューズ73のツアー・メンバーとしても知られているノーバディは、サイケデリック・ロックとヒップホップを融合させた『Pacific Drift: Western Water Music Vol.1』で脚光を浴びた。ミスティック・コーズ・オブ・メモリー、ブランク・ ブルー名義でもアルバムをリリース。ネットラジオdublabの設立メン バーの一 人でもあり、常にLAの音楽シーンの中心で活動を続けている。 https://www.alphapuprecords.com/artistpage.php?ArtistID=93


Beat Invitational〈ビート・インヴィテーショナル〉は、ビートメイカー/ プロデューサーにスポット当ててきたLAのLOW END THEORYの人気企画。今回初めて日本人アーティストも多数交えて日本で開催される。

Beat Invitationalに出演するのは以下の9組の個性豊かな面々......

HAIR STYLISTICS a.k.a 中原昌也
小説やペインティング、映画批評でも知られる中原昌也の音楽ユニット。リリース作品多数あり。ヴィンテージのサンプラーやシンセサイザーなどハードウェアを基本にしたライヴの出音の良さも魅力の一つ。

BUN / FUMITAKE TAMURA
2011年、坂本龍一のレーベル「commmons」よりアルバム『BIRD』をリリース。ザラついた音の質感を綿密に構成し、様々なジャンルを横断していくアーティスト。先頃、LAに赴き、LOW END THEORYにライヴ出演したばかり。

QUARTA330
Hyperdub所属。Flying Lotusへのリミックスの提供をはじめ、Thom Yorke(RADIOHEAD)、Mouse On Mars、Ministry of Soundのミックスに収録される。2010年ハートキャッチプリキュア!との出会いを契機に【中略】 SonarSoundTokyo2011へ出演。

NEO TOKYO BASS
CRASH、ENDLESS、GYTO、SKYFISHから成るプロダクション&DJクルー。

櫻井響
ベーシストの父とシンガーの母の元、幼少からジャズに親しみつつ、DJの活動中にhuman beat boxを始め友達が増える。言葉以外の「音」でコミニュケートできることから、国内外、様々な人や楽器とのセッションも多い。音を模写した声をその場で LOOPさせ、曲を変えていくソロライブで活動の場を広げている。

CONFLICT
KABEYA & SHIROの2人によるビートメイカー・デュオ。5年振りの新作アルバム 『YELLOW BEAT』の評価も高く、DADDY KEVのAlpha Pupを通じてワールドワイド配信されている。

JEALOUSGUY
北海道を拠点に活動中。AKAIのMPD18というMIDIパッドを叩きながらリアルタイムでbeatやメロディーを構築している。ライブ感を重視したスタイル、つんのめったビートでフロアを盛り上げている。SonarSoundTokyo2011でも話題を呼んだ。

BUGSEED
サンプリングベースのHIPHOPビートメイカー。2010年Bandcampにて"Bohemian Beatnik LP"を発表後、海外から世界に発信しているオンラインメディアのコンピレーションアルバムやGuest Mixに多数参加するなど国内外を問わずアクティヴに活動している。

DJ MUTA
JUSWANNAへの楽曲提供や数々のミックスCDのリリースなど精力的に活動を続けるDJ&プロデューサー。3月のLOW END THEORY JAPANのDJがネットでも公開されて注目を集めている。https://www.mixcloud.com/LowEndTheoryJapan/...


+DADDY KEV、NOBODY、RAS GもBeat Invitationalに参加決定!

メインフロアを共に作り上げるDJはLOW END THEORY JAPANのレジデントとも言えるこの二人......

DJ KENSEI
DJの可能性を追求するDJとしてのレンジの広さもさることながらHIP HOP DJとして80年代後半から主に90年代にかけてその時代のDOPEなSOUNDをリアルタイムで数多くのCLUBの現場でプレイしてきたDJとして知られている。DADDY KEVによる INDOPEPSYCHICのリマスタリングも話題を呼んだ。

SAGARAXX
1990年代後半からDJを始める。山仁との1MC×1DJのライブアクトとしても活動を展開し、2007年からはDJ Kenseiとのプロジェクト、Coffee& Cigarettes Bandと して楽曲の制作やライヴ・セッションにも関わっている。


ラウンジDJには才能あふれるフレッシュなDJ&プロデューサーが多数参加。こちらも見逃せない......

YAGI & ILLSUGI
2012年にスプリットBeatTape『STONED BEAT TAPE』をCassetteTape,CDRで自主リリース、国内外のBeat系メディアでも紹介されるなど好評を得る。渋谷THE ROOMで行われているBeatパーティ"Trane."をDJ SAGARAXXやBugseedらと開催。

BUDAMUNK
ヒップホップのプロデューサー。96年にLAに渡米。MCのJoe StylesとOYGと"Keentokers"として活動開始。帰国後はAKAI主催のMPCバトルで優勝、Jazzy SportやDOGEAR RECORDSからリリースを重ねる。現在はSick Teamの一員として、全てのビートをプロデュース。また、mabanuaとのユニットGreen Butterでもリ リース。

BUGSEED
サンプリングベースのHIPHOPビートメイカー。2010年Bandcampにて"Bohemian Beatnik LP"を発表後、海外から世界に発信しているオンラインメディアのコン ピレーションアルバムやGuest Mixに多数参加するなど国内外を問わずアクティヴに活動中。

PIGEONDUST
90年代からトラック制作を始める。当時の音楽体験、辺境地レアグルーヴコレクター、ジャズ専門レコード店などの遍歴、尺度から現行するヒップ ホップ、ビート音楽を同世代とは一線引いたスタンスで咀嚼する。18歳で米mushへトラック提供、その後haiiro de rossiを始めとする日本人MCに楽曲を提供。

FUJIMOTO TETSURO
新しいクロスオーヴァーミュージックを追求するビートメーカー/DJ。Aroop Roy監修の『Absolute!!』に参加以降、数々のremixをこなし、COSMOPOLYPHONIC のコンピや、チャリティーコンピ『LA・JPN・LA』にも曲を提供。最近ではオリジナルEP「Reflections」をBagpakよりリリース。

FEBB
16才でAKAI主催のビートバトル "GOLD FINGER's KITCHEN"予選で優勝。ラッパー、トラックメイカー、DJとしての顔を持ち、SPERB of TETRAD THE GANG OF FOURらと共に"CRACKS BROTHERS" としても活動。東京の正統派ハードコア HIPHOPの未来を担う者として、また一人のアーティストとして、今後の動きが注目されている一人。

"LOW END THEORY JAPAN [Summer 2012 Edition]"ツアー、札幌、大阪公演の詳細

6.29(金) : 札幌 BESSIE HALL (011-221-6076)
https://bessiehall.jp/
Live&DJ
DADDY KEV/ NOBODY / RAS G
+
REBEL MUSICAL / jelousguy / DJ KEN / and more
VJ
SWEET SMOKE

7.01(日) : 大阪 TRIANGLE(06-6212-2264)
https://www.triangle-osaka.jp/
START 17:00 FINISH 1:00
Live&DJ
DADDY KEV / NOBODY / RAS G
+
KILLER BONG (BLACK SMORKER from Tokyo)
DJs
KAZUMA (phenoma / mo'wave) / QUESTA (beats gourmet band) / naguy
SPECIAL LIVE PAINT:
TOKIO AOYAMA
VJ
Colo GraPhonic(COSMIC LAB / BetaLand) / LPC
DANCER:
SUPREME GOODMAN
Another floor DJs:
鬼タモリ / MASH (ROOTDAWN RECORD) / Dj Tell (Buddha Smog) / Dj old Shella a.k.a NAGAN SERVER (MONO ADAPTER) / GREENWORKS (FACTORY NO.073)
DECO:
OLEO
SOUND
KABA-MIX

MORE INFO
corde inc. https://corde.co.jp/
Twitter: Alpha Pup Japan https://twitter.com/alphapup_jp
Facebook: https://www.facebook.com/events/314529778617248/

Gabby & Lopez - ele-king

 ギャビー&ロペスの音楽は、それ自体が多幸感に溢れているわけではないのだが、聴いている人をほんわかとした気持ちにさせる。間違ってもアッパーではないし、いまどきのドリーミーな感じでもないが、気持を楽にしてくれる。ポスト・ロックのアンビエンスのなかで、たとえば〈スリル・ジョッキー〉のような洗練されたアブストラクト・サウンドへと向かったとしても、他では代用が効かない、ギャビー&ロペスにしか出せない感覚がある。彼らの音楽には一種の慎ましさ、物静かであることの快楽がある。森俊二が〈メジャー・フォース〉という日本で最初のヒップホップのインディ・レーベル出身というのが嘘のようだ。

 ギャビー&ロペスは、森俊二と石井マサユキというふたりのベテラン・ギタリストによるプロジェクトで、本作『トワイライト・フォー・ナインス・ストリート』は、2006年の『ニッキーズ・ドリーム』以来6年振りにリリースされる3枚目のアルバムとなる。このアルバムには、はからずともマーク・マッガイアとの共通点を見出すことができる。ギター・サウンドの追求、波乗り好きなこと、ムードを醸し出すアンビエント的な音楽性、とくに"Reflection "のディレイ・サウンドなどは......しかし、ギャビー&ロペスには、日本の音楽に特有の繊細さがある。さざ波のようなかすかな揺れ動きにこそ、彼らは美しさを見出している。ギターのいち音いち音に細心の注意が払われ、エレクトロニクスの注ぎ方にも深い配慮がなされている。そして、2本のギターの交錯する響きこそが、このプロジェクトの肝にある。

 "Birdcall Lulu"や"She Likes Motor Cycle"はファンにとってはキラーな曲のひとつだ。ふたつのギターの音符は水飴のように溶け、静けさのなかで音が躍動している。ベースがうなる"Half Step Ahead "では、マニュエル・ゲッチング流のディレイに加え、ジェフ・パーカーのポスト・バップめいた質感を思い出す。
 アルバム・タイトルになった"Twilight For 9th Street"はアンビエントというよりも、彼ら流のバラードで、アルバムのなかでもっとも感傷的な曲だが、演奏される2本のギターの弦の振動が織りなす音響の美しさは将来への不安を一時期的にせよ、確実に取りのぞいでくれるだろう。すでにいろんな名カヴァーが存在するボブ・ディランの"Just Like A Woman"を彼らもカヴァーしている。

 『トワイライト・フォー・ナインス・ストリート』は、何か偉そうなことを言っているわけではないが、我々にとっては大切な音楽のひとつだ。過去の2枚と比較すると、ギターの演奏もほどよく抑制されている。ドラムパートは控えめに演奏され、2本のギターの音色の甘美さが前面に出ている。UMA UMAの叙情にも接近しているように思えた。いずれにせよ、間違いなく、彼らの最高作。

DBS presents - ele-king

 良くも悪くも、日本でもブローステップが幅を効かせるようになった現在、あるいはまた、ポスト・ダブステップが目立つようになったこのとき、カウンターな立場からそれら新しいメインストリームに食い込むかのように、ドラムンベースとダブステップが熱を帯びてきている。今回のDBSは、そのUKの興奮を伝えるべく、ドラムンベースの王様、ゴールディー、そしてダブステップのオリジナル世代のDJ、ヤングスタのふたりを呼ぶ。
 6月の梅雨のなか、ぶっ倒れるまで踊りたいヤツはここに来い!

2012. 06. 16 (SAT) @ UNIT
feat. GOLDIE
YOUNGSTA + MC TOAST
with: ENA, DJ TAKAKI
vj/laser: SO IN THE HOUSE
B3/SALOON: STITCH、TETSUJI TANAKA、DJ MIYU、DOPPELGENGER、DUBTRO、dj noa(Jar-Beat Record)
live painting: The Spilt Ink

open/start 23:30
adv.3,500yen door. 4,000yen

Supported by STUSSY

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.unit-tokyo.com

★ドラム&ベースの帝王、ゴールディーとUKダブステップNo.1DJ、ヤングスタが激突! ゴールディーは先頃、自ら主宰するMetalheadzより記念すべき通算100リリースに新曲"Freedom"を発表、壮大かつ破壊力を放つ"Freedom"は圧倒的な存在感を示す。そしてRINSE FM、FWDの重鎮にしてUK/DUBSTEP界No.1DJに選ばれたヤングスタがMCトーストを引き連れ3年振りに来日決定! UKリアル・アンダーグラウンドのサウンズ&ヴァイブスがここにある!

Ticket outlets:
PIA (0570-02-9999/P-code: 170-812 )、 LAWSON (L-code: 78429 )
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia : https://www.clubberia.com/store/

渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、TECHNIQUE (5458-4143)、GANBAN (3477-5701)
代官山/UNIT(5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com


★GOLDIE JAPAN TOUR 2012
6/15(金) 広島SACRED SPIRITS CAFE JAMAICA (問)082-240-0505
6/17(日) 福岡Kieth Flack(問)092-762-7733

★YOUNGSTA + MC TOAST JAPAN TOUR 2012
6/15(金)大阪CIRCUS

GOLDIE (aka RUFIGE KRU, Metalheadz, UK)
"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年にファビオ&グルーヴライダーのDJ MIXに触発され、4ヒーローのレーベル、ReinforcedからRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル、Metalheadzを始動、ドラム&ベース革命を遂行する。自身は95年にFFRRから1st.アルバム『TIMELESS』を発表、ドラム&ベースの金字塔となる。98年の2nd.アルバム『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極め、リリースが遠のくが、07年、RUFIGE KRU名義による9年ぶりのオリジナル・アルバム『MALICE IN WONDERLAND』をMetalheadzから発表、シーンの最前線に復帰。以来ゴールディーの創作活動は加速し、08年に長年構想されてきた自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』をMetalheadzのウェブ限定で発表。09年にはRUFIGE KRU名義のアルバム『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』をリリース、また音楽とシンクロして近年目覚ましい活動を示すアートの分野でも個展を開催する等、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続けている。音楽活動20周年となる2012年、Metalheadzの通算100リリースに新曲"Freedom"を発表、壮大かつ破壊力を放つ"Freedom"はMetalheadz、ゴールディー渾身の作品である。
https://www.goldie.co.uk/
https://www.metalheadz.co.uk/
https://www.facebook.com/Goldie
https://twitter.com/MRGOLDIE

YOUNGSTA (TEMPA, RinseFM,UK)
沸騰するダブステップ・シーンで"Master of the decks"の異名を持つDJ、ヤングスタ。12才からDJをはじめ、13才でロンドンのガラージ専門ラジオ局、Freak FMに出演し、若くしてアンダーグラウンド・シーンに頭角を現す。その後、ガラージからダブステップへのサウンドの変遷とともに歩み、DJハッチャとともにシーンのパイオニアDJとなる。'05年にはダブステップのトップ・レーベル、TEMPAからMIX CD『DUBSTEP ALLSTARS:VOL.2』をリリース、またDMZからローファーの"Twisup"のリミックスを発表。翌'06年には『DUBSTEP ALLSTARS:VOL.4』をハッチャとともに手掛け、まさにダブステップ台頭の起爆剤となる。'10年にはセヴン、SP:MC、クリプティック・マインズとのコラボレーションを発表、'11年には最新MIX CD『RINSE:14』を手掛ける。シーンを代表する放送局RINSE FM、パーティー、FWD>>にレギュラー出演し、'11年dubstep forumアワードでベストDJとベスト・ラジオショーの2冠に選ばれた。
https://www.tempa.co.uk/
https://www.facebook.com/Youngsta

interview with Grimes - ele-king


Grimes
Visions

4AD/ホステス

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 キャリアのはじめからドローンやアンビエントを志向していたという女性アーティストなど、いまやめずしくないのかもしれない。グルーパーLAヴァンパイアズはもちろんのこと、ローレル・ヘイローのようなIDM、ジュリアナ・バーウィックジュリア・ホルタ―などクラシカルな音楽の素養をオリジナルなフォームに転換する才媛たち、高い方法意識をもった女性アーティストの名はいまいくらでも挙がる。アンダーグラウンド史上空前の女子繚乱の季節がおとずれているのかもしれない。ことに宅録女子という未掘の類型がそのカギとなるだろう。エレクトロニック・ミュージックにおいても、ガレージ・ポップにおいても、そうした女性たちの数や影響力はすでにはかりしれない値を示しはじめている。
 
 今回取材したグライムスはそうしたアーティストたちのなかで群を抜いてポップな存在だ。きりっとそろえた前髪に印象的なメイクとまなざし、DIYないでたちにはモードな雰囲気がただよい、ある種のジャンル的な敷居の高さを解除するにはじゅうぶんなファッション性をそなえている。それでいて音はするどくインディ・シーンの先端をとらえ、活動拠点はモントリオールの手弁当なアート・スペースである。
 〈ヒッポス・イン・タンクス〉や〈ノー・ペイン・イン・ポップ〉といったリリース元も、野の才能を見繕って時代性を生みだしていくことに長けたレーベルだ。彼女はファッションとしてではなく、むろんのこと彼女のなかのミューズのためにひたむきに音楽活動をつづけてきた。それがいま、育まれつつある宅録女子カルチャー、そしてあまねくエレクトロニック・ミュージック・シーンのポップ・アイコンとして、おおきな輝きを放ちはじめたのである。

 超ゴス少女だったというグライムスのなかに同居する死や不快のモチーフと宗教音楽体験、中世芸術への思慕。そうしたものがドローンにはじまり、ダブステップやウィッチ・ハウス、あるいはクリスティーナ・アギレラを通過して、彼女ならではのドリーミーなエレクトロニック・ポップを形成してきた様子がこれらの回答のなかにはよく示されている。
 そしてまた、飢えても好きなことをやりたいという奔放であるようで実直な強い意志、恋愛をめぐるかなりプライヴェートなことがらについてもこだわりなく述べる態度、音楽や自分の志向性への深く熱心な考察など、彼女の人間としての魅力までもがじゅうぶんにつたわってくるだろう。グライムスことクレール・ブーシェ、彼女こそ現代のポップアイコンである。

このアルバムの前までは私は何も持っていなかったから。家賃も払えず、住所不定で、学校も退学して仕事も辞めた。恋愛も辛い関係で上手くいっていなかった。それでも信じて音楽活動を続けるしかなかった。

あなたが音楽制作に向かうことになったきっかけを教えてください。

クレア:友だちがみんな音楽をやっていたの。私はそれまでバレエにどっぷり浸かっていた経験から音楽がとにかく大好きで、自分でも作りたいと思っていたんだけど、やり方がわからなかったの。で、友だちが具体的な作り方や録音方法を教えてくれたのがきっかけで、自分でじょじょに掘り下げていったの。

はじめはベッドルームでディスコ・ミュージックをつくっていたとうかがいましたが?

クレア:むしろ、実験的なドローン音楽ね。最初の頃は。

〈アルブツス〉というコミュニティはどういう経緯で知ったのですか。またそこはとてもDIYなムードで運営されているということですが、あなた自身はそこでどのような活動をされていたのでしょう?

クレア:〈アルブツス〉は実は高校のときの親友が運営しているの。だから13歳くらいからの付き合いになるわ。カナダって主要都市は物価がすごく高くて、私がこの5年くらい住んでいるモントリオールは逆にすごく安いの。だから多くのアーティストがモントリオールに引っ越すようになって、いまではカナダにおけるアートの中心都市になっているわ。そうやって私も仲間とモントリオールに引っ越して、みんなでライヴ会場をはじめたの。すごくDIYなノリのね。チャージはどんなにとっても5ドルまでとかね。
 常に人でいっぱいで、なかで煙草も吸えるし、お酒も持ち込めて、毎晩いくつもバンドが出演するの。ものすごい盛り上がりだったんだけど、結局警察によって閉鎖させられたわ。でも、そこを拠点に音楽活動をしていた仲間がたくさんいて、そこを運営していていま私のマネージャーをしている彼がレーベルを立ち上げることにしたの。というのも、そこでライヴを定期的にやるだけで、モントリオール以外に活動を広げられずにいるバンドがたくさんいたから。そういうバンドをもっと国外に売り出していこうと彼は思ったの。そうやってはじまったのが〈アルブツス〉レーベルよ。

あなたのトライバルで儀式めいた雰囲気やゾンビのモチーフはどこからきたものですか。またそれはあなたのセルフ・イメージにつながるものですか?

クレア:なんとなくそれもあるんじゃないかしら。私は「死」にすごく惹かれるし、「不快なもの」にもすごく惹かれるの。若い頃にはマリリン・マンソンやトゥールをすごく聴いたわ。高校では超ゴスだったし。メタルのアートワークが大好きで、あと中世の芸術がすごく好きだった。マカーブレ(死をテーマにした西洋の中世芸術)とか。
 私がやっていることの本質は、受け手にとってわかりやすい要素を最低限入れること。ポップ・ミュージックの要素だったり、前髪をたらした可愛らしい女の子のイメージとか。そういう人が共感しやすい要素を取り入れつつ、それとは対照的な不快、或は不気味なものと組み合わせてバランスをとるの。つまり、私の音楽の不気味な声や音やアートワークというのは、わかり易い要素を伴わせることで、人の潜在意識に入り込み易くなる、という。よりショッキングでなくなる。「気味が悪いから見たくない」という壁を取り除くことができる。ふたつを同時に提示することでともに正当化できるの。
 また逆の見方をすると、私はハードコアといったすごくノイジーなシーンにずっといたわけで、そこではむしろポップ・ミュージックをやるほうが過激だと思われていた。だからグライムスとしてダークなモチーフを持ち続けることで、そっちのコミュニティにも支持されたいという思いもある。ポップ過ぎるものを彼らはクールだと思わない。このふたつの対照的な要素の融合とバランスを突き詰めたいの。

『ヴィジョンズ』や『ガイディ・プライムス』のアートワークのドクロやゾンビにはリボンや花がついていますし、"ヴァネッサ"のミュージック・ヴィデオなどをみていても、女性が飾るということへの批評を感じます。ドクロやゾンビやおどろおどろしいペインティングは、女性の美について両義的な意味をあらわしたものだと考えてよいでしょうか?

クレア:どうかしら。昔からそういうダークなものにただ惹かれるの。でも何を美しいと思うかは人それぞれで違って当然だと思うわ。

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好きじゃない仕事をするくらいなら、空腹や寒さにも耐えるほうがましだって思っていた。信念のためだったら、快適な生活を犠牲にしてもいいと思うの。9時5時の仕事をするくらいなら暖房費が払えなくて凍えたほうがましだって思うの。

最近はアナログ志向のアーティストが増えてきたように感じます。あなた自身もJUNOを使用されているようですが、イクイップメントについてはどのように考えていますか。

クレア:私はデジタル機材のほうが選択肢の自由があるから好き。JUNOは超融通が効く機材だわ。あれ一台でなんだってできる。ヒップホップの曲だって作れるし、IDMのトラックだって作れる。とにかく操作しやすいし、デジタルだから無限に何でもできる。もちろんアナログでも同じことはできるけど、私は昔からデジタル思考で、無駄が省けたほうがいい。だから楽なやり方があるだったらそっちを選ぶわ。
 それとあと、できた曲に改良を加えることが多いから、デジタルだと簡単に手を加えることができる。いちど録音したらそれで終わりってわけじゃない。曲が出来た後で、「全部変えたい」って思うことがしょっちゅうあって、全部始めからレコーディングし直す代わりに、必要な箇所だけ手を加えればいい、という効率性は私にとって重要なの。

あなたのヴォーカル・スタイルに影響を与えたものがあれば教えてください。また、音域を広げる練習を積んだというのは独学によるものですか?

クレア:独学だけど、影響を受けた部分も大きいわ。たとえばいまは次の作品の曲を作っていて、アーサー・ラッセルのヴォーカルにすごく影響を受けているわ。今作に関してはアウトキャストやダンジョン・ファミリーやマライア・キャリーあたりにすごくはまっていたわ。もちろん彼らのほうが私よりもずっと歌はうまいんだけど、自分の声を鍛えるのに、彼らの曲に合わせて歌ったし、プロダクション面でも影響を受けているわ。

"sagrad npekpachbin"や"ワールド・プリンセス"、"ノウ・ザ・ウェイ"などでは声とハーモニーの音楽的な可能性が意識されています。あなたには聖歌隊などの経験があるのですか? そうでなければこうした曲はどういうものにインスピレーションを得て作られたものですか?

クレア:中世の音楽をよく聴くのと、宗教音楽もよく聴くわ。私自身は信仰心が強いわけではないけど、子どもの頃は家庭がカソリックだったからカソリック・スクールに行ったし、毎日教会に通わされたわ。だから聖歌合唱に接する機会は本当に多かった。そういう合唱音楽は私にとって何か霊的なものだったり、漠然とした全知全能な存在を連想させるし、子どもの頃に経験したものとして懐かしいものでもある。それに、合唱音楽には独特のパワーを感じるの。
 私は信仰心が厚いわけでは決してないけど、キリストが十字架に張り付けになった陰惨なモチーフを表現した偶像や絵画に覆われた様式美を極めた巨大な建造物の中に立って、大きな窓、ステンドグラス、高い天井に囲われ、その巨大な空間の自然な音響の中で、2~300人の子供が合唱するのって、本当にパワフルだし、鮮烈なイメージとして私の脳裏に焼き付いているわ。5歳の時の思い出が。当時はまだ神を信じていて、歌いながら全知全能の神の存在を常に感じてたし、その存在に怯え、とにかく劇的な体験だった。私にとって芸術や音楽触れた最初の経験でもあったし、私の子供時代の大きな部分を占めているわ。

ジュリアナ・バーウィックやグルーパーは聴いたことがありますか。

クレア:彼女たちの音楽はすごく好きよ。グルーパーとは一緒にライヴもやったことがあるわ。

彼女たちはウーマン・リブとはまったくべつのやり方で女性の強さや繊細さを表現したアーティストだと思います。あなたの音楽にも共通したものを感じますが、どうでしょう?

クレア:たしかに彼女たちのフェミニスト精神というのは、彼女たちの存在そのものだったり、彼女たちが自分のやりたいことを貫いていることに集約されていて、決して押し付けがましくない、というのはいいやり方だとは思うわ。というのも、政治的なメッセージをあからさまに作品の中で主張するのは人をしらけさせるだけだと思うの。だからフェミニズムのいちばんいい取り上げ方というのは、必要な時には自分を貫くけど、過度に主張し過ぎないことだと思う。そうした過度な主張がこれまでフェミニズムに悪いイメージを与えてきたから。

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ダンス・ミュージックは何か深い部分で人間くさいものに訴える音楽で、ポップ・ミュージックをみんなバカにしがちだけど、実はポップ・ミュージックって極めて人間くさいものだからこそ多くの人に受け入れられるものなんだと思うの。

ハルファザ』の曲の大部分の歌詞は、まとまった意味を構成することを意図的に避けているようにも感じますが、歌詞はあなたにとって音以上に重要なものですか?

クレア:前作よりも今作のほうがテーマがあって、歌詞にも重点を置いているわ。『ハルファザ』はほとんど歌詞を書かなかったも同然だったから。今作『ヴィジョンズ』では歌詞を書いたけど、それでも曖昧なものにとどめている。というのも、私にとって音楽はものすごく感情的なもので、そこに込めた思いを言葉で赤裸々に人に伝えるのは難しいの。

『ヴィジョンズ』の歌詞は2人称が多く用いられていて、すれ違いや孤独を生むラヴ・ストーリーが暗示されているように思われますが、どうでしょうか。「私の心はどこにもない」("ジェネシス")「ひとりで生きるのはやめられない」("エイト")「ああすべては部屋の中」("アンティオコス")などは、「愛してほしい」("シンフォニア")といいながらも孤独を避けられないものとしているようで印象的でした。

クレア:このアルバムを作っていたあいだ、いろいろなことを経験したわ。たとえば、私がミュージシャンとして成功することを歓迎しない相手と数年恋愛関係だったとか。応援してくれるどころか、逆に対抗してこようとするから、結局別れることにした、という。あと、年がら年中ツアーに出ていたから、いきなり側にいられなくなったというのもあって。長いあいだ好きでずっと付き合ってきた人との関係を続けるのか、それともすべて捨てて自分の道を進むのか、という選択に直面して、結果的には後者を選んだわけで、それが最良の選択だったと頭でわかっていても、気持ちはすごく複雑だった。
 とくにこのアルバムの前までは私は何も持っていなかったから。家賃も払えず、住所不定で、学校も退学して仕事も辞めた。恋愛も辛い関係で上手くいっていなかった。それでも信じて音楽活動を続けるしかなかった。これで成功しなかったら大変なことになっていたわ。それだけ大きな賭けだった。でも、一か八か賭けるなら今しかないとわかっていた。

『ヴィジョンズ』は引きこもっていたときに構想した作品だとうかがいましたが、どのようなことがあったのでしょうか。また、タイトルはその閉塞した場所からみえたヴィジョンということなのでしょうか?

クレア:私の作品への取り組み方を象徴している言葉だと思っている。今作は自分にとって初めてのきちんとしたアート作品だと思っている。アートというのは私にとって常に非論理的で抽象的なもので、現実から離れて言葉では説明できないものの気まぐれで存在するもので、異常なまで感情的なものなの。
 大学在学中にヒルデガルド・フォン・ビンゲンについての論文を書いたことがあって、彼女は間違いなく統合失調症だったと思うんだけど、中世の女性作曲家で、当時はまだ女性が音楽を作曲することが受け入れられていなかった。でも実は、独創的すぎるという芸術的観点から軽視されたのではなく、神に対する冒涜だと思われたからだったの。彼女は実際法王と会って話をして中世ヨーロッパでもっとも話題になった作曲家となったの。彼女は自分が神から幻視体験(ヴィジョンズ)を受けていると主張していて、自分が作る音楽、文章全ては神の指示によるものだと言うの。私はこの話にすごく興味を持ったの。果たして彼女は心からこれを信じていたのかって。実はめちゃくちゃ賢い人で自分の芸術作品を世に伝えるにあたって創作の神秘についてそう語ったのか、それとも心底そうだと信じていたのか。だからこそ頭のイカれた天才だったと思うの。
 私も自分の作品を作る上で同じことを考えてみたの。いったいどこまでが私自身が考案したもので、どこからが私を超越したものの真実で生々しい表現なのかって。実際、曲がどうやってできたのか覚えていないことだってある。何時間も、例えば14時間、15時間、ずっと制作にのめり込んで、はっと気付くと曲が出来ていて、それがどうやってできたのか言葉では説明できないっていう。

サウンドからすれば『ヴィジョンズ』は『ハルファザ』や『ガイディ・プライムス』よりもポップになっている印象があります。また引きこもっていたとはいえそれが暗鬱な調子ではなくドリーミーな曲調で表現されていることが心に残りました。そうしたポップさや明るさのあるドリーム感は意識して生まれてきたものでしょうか?

クレア:どこまでが意識的かはわからないけど、アルバムを作っている最中に思ったのは......。私が強く惹かれる、つまり別世界に連れてかれるっていう音楽が2通りあって、その一つが合唱宗教音楽で、もう一つがポップ・ミュージックなの。聞いていて凄く気持ち良くて心の琴線に触れて思わず震えてしまうっていう。おかしな話なんだけど、私をそうさせる音楽って例えばクリスティーナ・アギレラだったりするの。「もう完璧!」って、つぼにはまるの。その歌詞のせいでも、真意のせいでもなく、ただ聴いてピンとくるものがあるの。
 ダンス・ミュージックは何か深い部分で人間くさいものに訴える音楽で、ポップ・ミュージックをみんなバカにしがちだけど、実はポップ・ミュージックって極めて人間くさいものだからこそ多くの人に受け入れられるものなんだと思うの。人間の基本にあるものに訴えるからみんなが共感できる。それって素晴らしいことだと思うし、自分の音楽でも大切にしたい部分なの。音楽を作っている時に一番大事なのは、楽しんで作ること。私がポップ・ミュージックを作る理由は、その楽しさを極めた音楽を作りたいから。

ウォッシュト・アウトのリミックスは『ヴィジョンズ』の制作時と重なりますか?

クレア:あれはアルバムよりもずっと前よ。1年半くらい前かしら。

ビートのない音楽をつくることに興味はありますか? 『ヴィジョンズ』はダンス・ミュージックとして洗練されたものであると同時にアンビエント・ミュージックへと展開していくような可能性も含んだ作品だと思いますが?

クレア:考えたことは何度もあるけど、もっと歳をとってからやろうと思っているわ。そもそもドラムなしのヴォーカル・ミュージックを作るには歌をもっと鍛えないといけないし。50ものヴォーカル・パートを重ねようと思ったら、ドラムのビートなしでタイミングを合わせるのはレコーディングのオーヴァーダブにしてもライヴでも難しい技術的を要するわ。でも興味はある。純粋な和声音楽もよく聴いているわ。でも、グライムスとしての今の活動を考えると、そういうアルバムを作ってもライヴで再現できないだろうから、作るならツアーをしなくなってからじゃないかしら。或は別プロジェクトとか。いまはレーベルと契約したばかりだし、よく考えて、その時の自分が出すべき作品を出していきたい。そしていつか音楽で生計を立てる心配をしなくてよくなったら、自分をより解放した作品を出してもいいと思っている。

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私はハードコアのノイジーなシーンにずっといたわけで、そこではポップ・ミュージックをやるほうが過激だと思われていた。だからグライムスとしてダークなモチーフを持ち続けることで、そっちのコミュニティにも支持されたいという思いもある。

パンダベアからの影響を語っておられますが、彼の音楽には明るさと暗さのどちらを感じますか? また彼の音楽を現実逃避的とする意見をどう思われますか?

クレア:私がパンダベアをはじめアニマル・コレクティヴの音楽に惹かれる理由は、もの凄くメランコリックでありながら昂揚感もあるというところで、私の音楽にもそういう部分がたくさんあると思うの。ものすごくダークで韻鬱だったかと思うと、ものすごく恍惚として、そのふたつが共存している。アニマル・コレクティヴのそういう部分にいつも惹かれていたの。明るいだけでも暗いだけでもなく、その両方が凝縮されていて、生々しく感情に訴えてくる。
 パンダベアからは技術的な部分でもすごく影響を受けているわ。彼が使うテクニックを私もよく使う。音楽を作り始めた頃、アニマル・コレクティヴとパンダベアに完全にのめり込んでいたから。彼らのループの使い方とか、彼らの機材の使い方とか。自分もアニマル・コレクティヴと同じ機材を使って音楽の作り方のノウハウを覚えていったの。

あなた自身が「ゴス・ポップ」と発言されていたこともありますが、〈4AD〉からリリースされてどのように感じますか? 〈4AD〉の音楽にはむかしからシンパシーがあったのですか?

クレア:〈4AD〉は昔から好きなレーベルだったわ。今回契約したのも何かすごくしっくりきたから。彼らはメジャーじゃないからインディならではの創作の自由があるし、でも彼らの場合はインディーでも大きな組織があるから、より多くの人に自分の音楽を届けることができる。たとえば注目されたアーティストが出てきても、〈ベガーズ〉傘下ということで、膨大な注文にも対応ができる。小さなレーベルでは対応し切れない。〈アルブツス〉から〈4AD〉に今回移った最大の理由がそれ。
 〈アルブツス〉ではすべてのメール注文に対して手作業ですべて対応していた。手書きで購入者の住所を書いて、CDを入れて、郵便局に持っていって発送する、という。それでは手に負えなくなってしまって、より大きなレーベルが必要だったの。で、実際彼らは私の自由にやらせてくれるし、レーベルの歴史も素晴らしい。過去の名作もそうだけど、見事に再生を果たしたのも素晴らしいと思う。新しい〈4AD〉はピュリティ・リングやグライムスもいて正にいまの音楽を発信していて、長い歴史ありながら先進的なレーベルであり続けるのはすごくカッコいいと思う。

モントリオールの音楽シーンについて教えてください。いちばん盛んなのはエレクトロニック・ミュージックですか? また、あなたのようにアートとクロスするようなパフォーマーや、ひとりで個性的な表現を追求するアーティストはたくさんいるのでか?

クレア:モントリオールはすごくエレクトロニック・ミュージックが盛んで、パフォーマンスを売りにしているアーティストもすごく多いわ。斬新で先進的なものはロフト・シーンから出てきているわ。敷居やジャンル分けのないライヴで、だいたい真夜中過ぎに始まって、みんな酔っぱらって、ものすごく盛り上がるの。みんな人と違うことをやるんだけど、不思議なことにすごくポップでもあるの。エレクトロニック・ミュージックだったりダンス・ミュージックももちろん盛んなんだけど、ノイズ・ミュージックの伝統もあって、その両者を組み合わせる人が多いわ。グライムスもそう。つねに新しい音色を追求するし、私に音楽を教えてくれたミュージシャンたちもみんな自分でエフェクターを作ったり、電気回路を歪めたり、楽器を発明したりしていたわ。だからポップ・ミュージックなんだけど、他の要素と融合させて実験的でもあるの。

社会生活のなかでグレたり不良になったりしたことはないのですか? ご自分のことは優等生と不良ではどちらだと思いますか。

クレア:優等生では絶対にないわね。高校2、3年と大学1、2年はちゃんと勉強して成績も良かったんだけど、その前までは成績も悪かったし素行も悪かったわ。いつも親に反抗していて、家を追い出されてたわ。でも大学に行きたいと思ってそこから持ち直したの。で、大学に無事入って、2年くらい真面目に勉強したんだけど......。
 なんか、自分が好きじゃないことをやらなきゃいけないのが無理なのよね。音楽をはじめてからも、成功する前の2年くらい、好きじゃない仕事をするくらいなら、空腹や寒さにも耐えるほうがましだって思っていた。信念のためだったら、快適な生活を犠牲にしてもいいと思うの。9時5時の仕事をするくらいなら暖房費が払えなくて凍えたほうがましだって思うの。学校も同じで、途中から私の創造性を掻き立てるものが何もないと感じたし、特に共感できる人も大学にはいなかった。学校に行けることはぜいたくだし、素晴らしいことだと思うんだけど、そこまでありがたさを感じることができなかった。いつかまた戻りたいとは思うけど、100%確信した時じゃないと駄目だと思っているわ。

音源をカセットテープでリリースするのはなぜですか?

クレア:昔はそれがいちばん安かったからよ。最近でも続けているのは、カセットテープというフォーマットが気に入っているから。ほら、簡単に飛ばしたりとかできないでしょ。最近はみんな落ち着きのない音楽の聴き方をするから曲が埋もれてしまいやすい。聴いて15秒でピンと来なかっ聴き続けないといけない。そこがいいの。

ディオンとのEPをリリースしている〈ヒッポス・イン・タンクス〉はあなたにとってどのようなレーベルですか?

クレア: 〈ヒッポス・イン・タンクス〉は大好きよ。いまいちばん好きなバンドのゲートキーパーも〈ヒッポス・イン・タンクス〉に所属しているわ。ディオンは数年前に彼らと契約したんだと思うけど、彼はすごく仲のいい友だちで、昔からずっと一緒にテープを出そうって話してたの。カナダだとDIY的に2組のアーティストが片面ずつ担当してスプリット・テープを作って出すってよくあるのよね。で、彼とは私がまともに音楽を作るようになる前からいつか一緒にやろうって話をしてたの。で、彼と「じゃあ、やろうっか」ってことになって、〈ヒッポス・イン・タンクス〉が「ぜひリリースしたい」って言ってくれて、気付いたら予算とか組まれていて、すっかり大事になっていたの。冗談かと最初思ったわ(笑)。

バンドやグループを結成してアルバム制作をしたいとは思いますか?

クレア:いいえ。

ずっとひとりでやっていこうと思っている?

クレア:ええ、そうよ。

次のアルバムについて考えておられるイメージがあれば教えてください。

クレア:いまもうレコーディングしているところよ

今作『ヴィジョンズ』とはまったく違うものですか。

クレア:違うけど、似てる部分もある。ポップ色はきちんと残したいと思っているわ。グライムスは私にとってポップ・プロジェクトだからこれからもポップ・ミュージックを作っていくつもりよ。よりハイ・ファイなものにしたいと思っているの。プロダクションをしっかりしたものにしたい。新しいヴォーカル・インターフェイスを入手したばかりだから、超クリアで手前にヴォーカルを持ってきたいと思っている。オーヴァーダブを減らして、ストレートなヴォーカルを前面に持ってくるイメージよ。そして凄くミニマルなもの。インダストリアル・ミュージックにいますごくハマっているの。だから、ヘヴィなドラムスとヴォーカルを中心としたものを考えているわ。

※6月29日発売予定の『ele-king vol.6』は宅録女子特集!

エレクトロニック・レディランド~テクノ女性上位時代~
グライムスが表紙を飾ります! ジュリアナ・バーウィックにローレル・ヘイロー、マリア・ミネルヴァ、スリープ∞オーヴァーなどなど気鋭の女子インタヴューをヴォリューミーに盛り込み、喪女音楽を模索する対談、女子と音楽をめぐるコラム、関連ディスク・ガイドなどなど、インディ・シーンの先端を走る女性たちの姿を浮き彫りにする、エレクトロニック・ミュージック・ファン~インディ・ロック・ファン必携の内容!!

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