「K A R Y Y N」と一致するもの

CHART by STRADA RECORDS 2010.01 - ele-king

Shop Chart


1

RADIOHEAD

RADIOHEAD I LOVE TO KEEP(10inch) SENSEI PLATES(US) / 2010/1/8 »COMMENT GET MUSIC
Master KevとTony LoretoがRADIOHEADをリミックス!SHELTER系の作品を彷彿とさせる黒いパーカッション・ビートがカッコいいディープなヴォーカル・チューンに仕上がっています!ビート・トラックも収録!

2

JOE CLAUSSELL

JOE CLAUSSELL WITH MORE LOVE SACRED RHYTHM (US) / 2009/11/20 »COMMENT GET MUSIC
A面には13分超の「With More Love Dance Version」を収録!Joeらしい骨太で疾走感のあるビートと軽快なリムに、哀愁漂うエモーショナルなギターソロが秀逸!多くのミュージシャンが参加していることで「生」ならではの力強さが前面に押し出された抜群のインスト!Body&SOULではこの1枚に収録されているDance Versionと限定Box Setに収録されるエクスクルーシヴVersionを立て続けにプレイ、終盤に差し掛かった時間帯にクラウドを音に酔いしれさせたことの記憶に新しい作品!B面にはMenrtal Remedy名義でリリースした傑作「The Sun The Moon Our Souls」の限定CDに収録されていたEntreaty」と「Kotu Rete (atmospheric reprise)」の2曲をカップリング!

3

HOMEWRECKERS

HOMEWRECKERS NOT MY BUSINESS CIRCUS COMPANY(GER) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
DAVID MANCUSOがヘビープレイした「HOME WRECKERS REWORK」も記憶に新しいドイツの三人組HOMEWRECKERSの新作がCIRCUS COMPANYから登場!ざっくり言うと「気だるく妖しい男性ボーカルの乗ったミニマル・テック・ハウス」なのですが、じわじわ加速していくような展開の巧さ、フロア栄え抜群の硬質&極太ファンキーなシンセ・ベース、幻想的&シリアスな上ものなど、絶好調時のCARL CRAIGを思わせる圧倒的とも言えるサウンド・クオリティーの高さは必聴ものです。B面2曲目では同レーベルよりDAVE AJUがリミキサーとして参加

4

MICHEL CLEIS

MICHEL CLEIS LA MEZCLA-REMIX EP feat.TOTO LA MOMPOSINA MOSTIKO(EU) / 2010/1/26 »COMMENT GET MUSIC
Luciano率いるCadenzaよりリリースされ2009年度を代表する空前の大ヒット作となったMichel Cleis「La Mezcla」のリミックス12インチがベルギーのMostiko傘下のBelgian House Mafiaから登場!ディープ・ハウス・ファンならベテランCharles Websterのミックスは必聴!DefectedからCopyright、BPitch ControlからPaul Kalkbrenner、Roog & Greg Electronics主催のDJ Roog、とハウス&テクノの実力派がリミキサーとして集結した充実の一枚!

5

GUILLAUME&THE COUTU DUMONTS

GUILLAUME&THE COUTU DUMONTS THE PUSSY SHEPHERD MUSIQUE RISQUEE(GER) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
OSLOやCIRCUSCOMPANY等からのリリースでもお馴染みGUILLAUME & THE COUTU DUMONTSがAKUFEN主宰のレーベルMUSIQUE RISQUEEから12インチをリリース!パーカッション系トラックが得意な彼らですが、今作では黒くグルーヴィーなディープ・トラック「Raw」がオススメ!ソウル~ファンク系のヴォーカル、コーラスのサンプリングもカッコイイ!

6

V.A

V.A PRIME NUMBERS EP E11 PRIME NUMBERS(UK) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
Trus'meが主宰するこのレーベルからの新作12インチはMr.Scruff & Kaidi Tatham、Motor City Drum Ensembl、Andresら3組のアーティストを収録したEP!中でも人気絶頂のMotor City Drum EnsembleによるB1が最高!突進する黒いグルーヴ感がたまりません!

7

I:CUBE

I:CUBE FALLING EP VERSATILE (FR) / 2010/1/20 »COMMENT GET MUSIC
フランスの人気レーベルVERSATILEからI:CUBEが12インチをリリース!オススメはB面に収録されている「Un Dimanche Sans Fin」!グルーヴィーなダンス・クラシック調の洗練されたインスト・チューンです!

8

NICO PURMAN

NICO PURMAN RHAPSODIES VAKANT (GER) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
CurleやMule ElectronicからもリリースしているアルゼンチンのクリエイターNico Purmanの12インチ!図太いベースにアフロ的なパーカッションが入ったB面「Funk Forest」がグッド!テック・ハウスと呼ぶには黒すぎるサウンドがカッコイイ!

9

V.A

V.A REMAKE MUSIQUE VOL.4 REMAKE MUSIQUE(FR) / 2010/1/20 »COMMENT GET MUSIC
フランスの注目レーベルREMAKE MUSIQUEからの第4弾EP!パーカッシヴ&トライバルな使えるハウス・トラックを中心に人気クラシックGrace Jones「La Vie En Rose」のエディット的作品なんかも収録!

10

TRUS'ME

TRUS'ME IN THE RED(W-PACK) FAT CITY(UK) / 2010/1/21 »COMMENT GET MUSIC
2ndアルバム!ソウルやジャズ、ハウス、ブギー等が渾然一体となった黒いサウンドが圧巻!AMP FIDDLERやPAUL RANDOLPH、LINKWOOD、PIRAHANAHEADらも参加した大充実盤です!

Chart by Lighthouse Records 森広 2010.01.28 - ele-king

Shop Chart


1

PIXELTAN

PIXELTAN YAMERARENA-I DFA / UK / 2009/12/23 »COMMENT GET MUSIC
NYのディスコ・ロック系レーベルとしておなじみの[DFA]から、なんと脱力系な日本語女性ボーカルをフィーチャーしたニューウェーヴ・ディスコ・ナンバーが登場。インパクト大でユーモラス、それでいてトラック自体もカッコいいナイスな一枚!

2

JOAQUIN JOE CLAUSSELL

JOAQUIN JOE CLAUSSELL UN.CHAINED RHYTHUMS EXITS SACRED RHYTHM MUSIC / US / 2010/1/19 »COMMENT GET MUSIC
ダントツのクオリティーの生音系ディープハウスをして昨今ますます存在感が増している感のあるJOE CLAUSSELLが、以前から話題だったボックスセットをついにリリース!流行と関係なく何年後でもずっと聴けるような珠玉の内容に!

3

NEBRASKA

NEBRASKA A WEEKEND ON MY OWN EP RUSH HOUR / NED / 2010/1/19 »COMMENT GET MUSIC
再発2枚も大人気だったNEBRASKAが、またしても[RUSH HOUR]からシングルをリリース!
この極上エレピ・ワークが効いたアーバンでウォーミーでグルーヴィーなジャズファンク・ディープハウス、今回も相当イイです!

4

JOAKIM

JOAKIM SIDERS VERSATILE / FRA / 2010/1/19 »COMMENT GET MUSIC
[TIGERSUSHI]主宰JOAKIMが甘くてエモーショナルに沁みるボーカルをフィーチャーしたエレクトリック・ブギーをリリース。
しかもEWAN PEARSONによるドープでサイケでグルーヴ感抜群のリミックスが最高にカッコよく、これは早くフロアで聴きたいです!

5

NOMI & RAMPA

NOMI & RAMPA INSIDE REBIRTH / ITA / 2010/1/19 »COMMENT GET MUSIC
昨今リミキサーの人選もイイ感じな[REBIRTH]から、今度はRUB N TUG/STILL GOINGのERIC D.をリミキサーに起用した新作がお目見え。
HOUSE OF HOUSEみたく90'sハウス感をセンス良く活かしたディープで幻想的な女性ボーカル・ナンバーで広い層から支持を得そう。

6

TRUS'ME

TRUS'ME IN THE RED FAT CITY / UK / 2010/1/19 »COMMENT GET MUSIC
NUMBERS]を主宰するマンチェスターの新世代ビートダウン・ハウサーの話題の2ndアルバムがついにアナログ化。ジャズ、ソウル、ディスコ、ファンク等のブラック・ミュージックの要素を色濃く含んだ、現場でも自宅でも活躍してくれそうな充実の内容となりました。

7

LUCIO AQUILINA

LUCIO AQUILINA BLACK ELF EP HIDEOUT / 2010/12/15 »COMMENT GET MUSIC
イタリアのテック・ハウサーが地味に放ってきた何気にカッコいい一枚。オーガニックでメロディックなチャイムの音色を用いながらグルーヴィーに展開していくディープハウシーなモダン・ハウス・トラックです。

8

JAKOB CORN

JAKOB CORN SUPAKRANK DOLLY RECORDS / GER / 2010/1/19 »COMMENT GET MUSIC
PANORAMA BARのレジデントとしても知られる女性DJ、STEFFIが立ち上げた新レーベルの第1弾は[RUNNING BACK]から昨年デビューしたJACOB KORNによる別名義。センスのいいモダン・ディープハウスやスモーキーなビートダウン系トラックを聴かせてくれます!

9

WAREIKA

WAREIKA MOUNTAIN RIDE TARTELET / DEN / 2009/12/8 »COMMENT GET MUSIC
'09年ブレイクした人気ユニットWAREIKAが年末前に放った一枚。ホーンやパーカッション、ボーカルなどを用いながらグルーヴィーでノリのいいバルカン系ミニマル・トラックを展開していてフロアをバッチリ盛り上げてくれます!

10

ANTONELLI

ANTONELLI DISCONNECTED DRECK / UK / 2009/12/22 »COMMENT GET MUSIC
[ITALIC]で活躍してきたドイツのミニマル・ハウサーがロンドンの[DRECK]からナイスな一枚をリリース。JUSTUS KOHNCKEやPARTIAL ARTSあたりに通じるような、アナログ機材のレトロな質感を活かしながらビルドアップしていくシンセ・ディスコです。

Vampire Weekend - ele-king

 30年前に大好きだったペイル・ファウンテインズのシングル集のようなCDを買った。ほとんど全部、持っているのになぜか衝動買いだった。そして、久しぶりにまとめて聴いたら......こんなにヘタだったのか......ガーン......

 忌野清志郎のソロ・アルバム『レザー・シャープ』でエンジニアを務めたチャールズ・ハロウェルはペイル・ファウンテインズのサード・アルバムをプロデュースし、そして、失敗に終わったと話してくれたことがある。クラッシュからドロップ・アウトしたトッパー・ヒードンと失業状態のスティーヴ・ヒレッヂがその時、目の前にはいた。清志郎は「♪曲がり角のところで~」と歌い出す。RCサクセションとして次のアルバムをつくるはずだったのに、ひとりでロンドンにいる清志郎も含め、誰ひとりうまくいっている人はいなかった。ペイル・ファウンテインズの話をする時、ハロウェルは少しうな垂れていた。「スタジオ内は完全に煮詰まって、どうにもならなくなってしまった。半分までできたところで終わりだということがなんとなくわかったよ」

 ハロウェルは夢を見ない若者だった。階級社会のイギリスが彼には一生、労働者だという自覚を与えていたのである。80年代といえばパワー・ステーションのドラムがすぐに引き合いに出される。あれはハロウェルがつくった音だ。自分のドラムの音をあれと同じにされたといってトッパー・ヒードンはカンカンに怒っていた。トッパー・ヒードンを黙らせたのは清志郎だった。清志郎は80年代を受け入れようとしていた。チャールズに向かって清志郎が「素晴らしい!」と英語でいった。「マーヴェラス!」。清志郎はハロウェルを日本に迎えてもう1枚のアルバムをつくった。「マーヴェラス」を縮めた『マーヴィー』だ。典型的なメンフィス・サウンドといえる「シェルター・オブ・ラヴ」をいかにもニューウェイヴ風のアレンヂで聴かせているのは清志郎とハロウェルの接点がそこにあったからである。仮ミックスが終わると、「チャールズ! マーヴィー!」と、清志郎は何度もマイクに向かって小さく叫んでいた。

 ペイル・ファウンテインズの透き通るようなサウンドを、あの瑞々しい音楽を、「夢を見ない」ハロウェルはどのように受け止めていたのか。諦めの裏返しとして有効な響きがそこにはあったのだろうか。そして、あの瑞々しさが重々しく変化していった時に、彼の心には何か感じることはあったのだろうか。さらには重い音さえ出せなくなってしまった時には......。


 ヴァンパイア・ウィークエンドは怖ろしいほど清々しい。これは何かの裏返しなのかと勘繰る気持ちさえ起こさせない。「どんな音楽?」と聞かれればファーストはトーケンズがカヴァーしたモノクローム・セットの「アポカリプソ」だったけど、セカンドはそれほどふざけてはいなくて「ファン・ボーイ・スリー+ハワード・ジョーンズ」と答える。ロスタム・バットマングリー(......って、コウモリだらけなんですけど)による別働隊、ディスカヴァリーからのフィードバックだったのか、セカンド・アルバムではエレクトロニクスが随所で取り入れられ、そのせいで、もはやアメリカのバンドが頭に思い浮かぶことはない。このセンスは完全にイギリスのものだし、とはいえ、ペイル・ファウンテインズの隣に彼らの音楽を置くのも抵抗がある。これがいまのアメリカだとしかいいようがない。アン・ライス以来、アメリカではゲイの比喩だとされてきた吸血鬼を名乗り、ソカやスカのリズムにのせて爽やかなメロディを歌う彼らが全米で1位をマークするという流れ。アメリカは何かに疲れてしまったのだろう。これが10年前には(イギリスから強引に取り寄せた)レイディオヘッドをアンセムとして称え、20年前にはニルヴァーナをトップに置いてきた国のその後の姿だとしかいいようがない。一方にアニマル・コレクティヴTV・オン・ザ・レイディオがいることを思えば、サイケデリック・ムーヴメントに対するサイモン&ガーファンクルのようなものになろうとしているのかなとか(まだ、そこまでの強度はないけれど)。

 ヴァンパイア・ウィークエンドはペイル・ファウンテインズのように煮詰まることはないだろう。彼らの清々しさは何かと引き換えにして出てきたものでは、たぶん、ないからである。変化することを楽しんでいるバンドのようだから、次で一気にエレクトロニカということもありうるのかもしれないけれど、あまりおおっぴらに記号化しない方がきっと長い支持は得られることでしょう。小手先の面白さでは、もしかすると、いま、一番なんだから。

Astor Piazzolla - ele-king

 去年の暮れに店頭にならんだ『ザ・ラフ・ダンサー・アンド・ザ・シクリカル・ナイト[タンゴ・アパシオナード]』は、86年から88年の間、晩年期のピアソラが〈アメリカン・クラーヴェ〉にのこした3作の2作目にあたり、ボルヘスの短編に着想を得たグラシエラ・ダニエレが制作したミュージカル「タンゴ・アパシオナード」の伴奏音楽が契機になった(じっさいは音楽劇で使用した楽曲を再構成した)ヴァラエティに富んだ作品だったが、「クラーヴェのピアソラ」の残り2作に比べると小品の感がしなくもないと書くと異論がありそうだが、当時の五重奏団と若干異同のある布陣で吹き込んだ『ザ・ラフ・ダンサー~』は、内側に圧縮する志向をもつピアソラの楽曲をどこか外へ開くようでもあり、私は今回リマスタリングでSACD仕様になったこのアルバムを、10年とはいわないまでもそれくらい久しぶりに聴いて、当時抱いていたクールでモダンな響きを、アンディ・ゴンサーレスやパキート・デリヴェーラといったジャズ/フュージョン奏者たちが異化していたことに気づいたのだった。スタッカートとスウィングのちがいというか、『ザ・ラフ・ダンサー~』ではジャズの身体性がタンゴのリズムを揺らし、楽曲の厳格さへの緩衝材になっていて、"ピアソラのタンゴ"へ迂回する(せざるを得なかった)回路がこのアルバムに小品といわないまでも実験作の風情を与えている。ブロンクス生まれながらラテン音楽に親しんだハンラハンの二重のアイデンティティが、4歳から16歳までをおなじくニューヨークで過ごしたピアソラの履歴と重なり、当人たちも意識しなかったモザイク状の暗喩をふたたび浮かび上がらせた『ザ・ラフ・ダンサー~』は『タンゴ:ゼロ・アワー』と『ラ・カモーラ』のほかの2作とともに、都市と形式の間を往復しながら聴き直されるべきだとおもう。

 ブロンクスで誕生したヒップホップと同じく、元はダンスと音楽とローカリティの複合物だったタンゴはピアソラの登場を俟つまでにすでに数十年の歴史(ヒストリー)と流儀(スタイル)を蓄えてきたが、多感な時期をニューヨークですごしたピアソラにはタンゴはエキゾチシズム抜きには接せられない音楽で、彼はタンゴ好きの父にバンドネオンを贈られてもさしてうれしくなかった。1921年生まれのピアソラは作曲家になるため留学したパリで師事したナディア・ブーランジェにタンゴをつづけるよう進言され帰国した60年代まで何度か挫折を味わったが、ピアソラにとってタンゴは、いまではほとんどのひとがヒップホップをブレイクダンスやグラフィティと切り離した音楽と認識するように、流儀でなく音楽の形式だった。「タンゴはどこまでタンゴなのか?」という自問自答。ピアソラのディスコグラフィにはそれが繰り返しあらわれてくる。『タンゴ:ゼロ・アワー』ではそれが先鋭化し、彼は藤沢周のやたらとハードボイルドな小説のタイトルにも引用された「ブエノスアイレス零時」のゼロのコンセプトを拡張し、タンゴの境界線を形式の力で探りあてようとする。私には「ブエノスアイレス零時」は昨日と今日を分かつ都市を徘徊するさまを描写した傑作なのだけど、それから20年以上経ってピアソラの音楽は完全に音楽に純化されたように聴こえる。『~ゼロ・アワー』の曲はかつてあったものの再演ではあるが、ピアソラの神経が隅々まで行き渡った後期五重奏団の再現性は、タンゴだけでなくクラシックやジャズの要素をアナロジーとしての多声部に変換し、1曲にアルバム1枚分の濃度をもたらし、私は多楽章形式の"コントラバヒシモ"なんか聴き終えるとどこかに旅行してきたような気持ちになるのだけど、このトリップ感(?)はあくまでもフォーマットの運動がベースにある。その意味でピアソラはタンゴの革新者だったが自身の音楽言語を手放さなかった古典的な作曲家でもあった。

 形式はやがて複雑化する。それはあらゆるジャンル音楽のあたりまえの展開なのだけど、「さらに複雑で美しい曲を」というハンラハンの求めに応え、87年と88年の夏に避暑地、プンタ・デル・エステ(ギリアムの『12モンキーズ』で使われた"プンタ・デル・エステ組曲"はここに由来する)で書き上げた組曲がメーンの『ラ・カモーラ』はトリップというよりショート・ステイほどの大作志向になり、和声は緊張感を高め、リズムは入り組み、場面はめくるめく、演奏は奔放になり、彼の音楽に叙情性を託すリスナーを煙にまきさえする。ここがたぶん境界線の手前だった。タンゴの体系の内側に充満したピアソラの体系。それは保守と革新という単純な二項対立ではなくて、"複数の形式"の相克だとおもう。ワーグナーでもストラヴィンスキーでもシェーベルグでもいい、形式の境界線ぎりぎりまでいくと音楽は形式の反作用を内側に抱えることになる。これは西洋音楽の話だけど、ピアソラは「タンゴはどこまでタンゴなのか?」との問いに答えると同時に「このフォーマットにはどれくらいの容量があるのか?」計ろうとした。クラーヴェのピアソラは私たちが現時点で聴けるその二重方程式の解であり、私は3作をあらためて聴き通して、森敦の文章をおもいだした。かなりな飛躍ですけどね。森敦は数学的にただしくないかもしれないと前置きしながら、トポロジーを文学的に読み解いてみせる。

近傍は境界にそれが属せざる領域なるが故に密蔽されているという。且つ、近傍は境界がそれに属せざる領域なるが故に開かれているという。つまりは、密蔽され且つ開かれてさえいれば近傍といえるのだから、近傍にあっては、任意の点を原点とすることができる。境界も円である必要もないばかりか、場合によっては域外における任意の点をも原点とすることができる。」(『意味の変容』筑摩書房)

 繰り返すが、ピアソラは破壊者でも越境者でもなかった。タンゴの近傍でタンゴの意味を反転させようと企図したモダニストだった。そう考えるとハンラハンとの出会いは当然のことに思えてくる。ふたりはともに都市にいて伝統に向き合った。ピアソラは3枚のアルバムを出したあと体調を崩し、五重奏団は解散した。彼はのちに六重奏団を再編したが、残された時間はわずかだった。そうやって、ピアソラ以後に枝分かれしたタンゴの新しい系は彼の死によって閉じられたとよくいわれる。しかし本当だろうか? 私はもう何年も前に、ファン・ホセ・モサリーニの東京公演を観たとき、彼のコンテンポラリーな感覚と、ついに観ることが叶わなかったピアソラの血の濃さのようなものを重ねて、プリンス・ジャミーとキング・タビーみたいなものかなーとおもったと書くと乱暴だが、外部の任意の点にたやすく接続できるなら、数多の継承者だけでなく菊地成孔のぺぺ・トルメント・アスカラールまでピアソラの血は逆流してくる。

 ピアソラこそゼロだった


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Beach House - ele-king

 河出書房新社から刊行される『ゼロ年代の音楽』における150枚のディスク・レヴューで、最初入れておいて、あとから「やっぱいいか」と削除してしまったのがボルチモアの男女デュオによるビーチ・ハウスのデビュー・アルバムだった(男はアメリカ人、女はフランス人)。そしてこの3枚目のアルバムを聴いて、「あー、入れておけば良かったな~」と後悔した。結論から言えば『ティーン・ドリーム』はここ数年のエレクトロニカ系ポップスにおいてはダントツに洗練されている。10年代に入って最初に心底気に入ったのがこのアルバムだ。この魅力にはとても逆らえない......そんな感じだ。

 正直言って、ビーチ・ハウスのような「無垢」で「潔癖性」の高いエレクトロニカ・サウンドに関しては(彼らは前作までは、日本ではお馴染みの時代遅れのエレクトロニカ・レーベル〈カーパーク〉から作品を出している)、二木信ではないが抵抗感のあるほうである。猥雑さを排除することで輝きを引き出そうとするそのやり方が、どうにも嘘くさく思ってしまう。早い話、お上品なだけじゃないかと思ってしまうのだ。だいたい若い頃はダッフルコートを着たガキがボサノバを聴いているだけで腹が立ったものだった......というのは嘘だが、とにかくこれは自分の育ちの悪さが関わっているのだろう。リアリズムの観点から言えば、僕にはなかなか遠くに感じられる音楽が多々あるのだ(さすがに年齢を重ねながら、そうした偏見はだいぶなくなったけれどね~)。

 そんな偏屈な人間が聴いても、ビーチ・ハウスには魅力があった。それは彼らの音楽が、物憂げさ、陰鬱さ、および失意......のような「負性」を心地よく響かせるという力を持っているからである。ダウナーだがラヴリーなのだ。彼らが表現するのは晴れ渡った青空ではなく霧のかかった曇り空であり、輝く太陽でも深夜でもなく黄昏の美しさなのだ。カラフルな田園ではなく、憂鬱な田園なのだ。

 ビーチ・ハウスは、90年代のテクノ~エレクトロニカの持つユーフォリアを我がモノにしたゼロ年代USインディのひとつであるという説明もできる。デビュー・アルバムも前作の『デヴォーション』も、そうしたモダン・ポップの文脈においては秀逸な作品に違いないが、しかし何か決定的なものが欠けている。僕のような門外漢が居ても立ってもいられなくなって、そこに強引に立ち入ってしまうのほどの魔力はまだない。そこへいくと『ティーン・ドリーム』は1年でここまで成長するものなのかと驚くほど、すべてにおいて研磨され、非の打ち所のないアルバムとなっている。極端に喩えるなら、グリズリー・ベアが"サンデー・モーニング"をカヴァーしたようなアルバムだ。僕はすっかり虜になっている。

 ギターの簡潔なアルペジオからキックの音に導かれて蜃気楼の世界に突入する1曲目の"ジブラ"、メロウなダウンテンポの傑作"シルヴァー・ソウル"、そしてまるでビートルズがハウスを取り入れたような"ウォーク・イン・ザ・パーク"(アルバムのベスト・トラックのひとつ)......簡素なピアノとヴェルヴェッツ流ポップスの"ユースト・トゥ・ビー"も良いし、キャッチーな"ラヴァー・オブ・マイン"や"ベター・タイムス"のような曲にさえも黄昏の感覚が横溢している。

 すでに何十回とこのアルバムを聴いているけれど、聴く度に夢の世界に飛ぶ。現実をすっかり忘れ、ひとりで夢に浸る。90年代で言えばエールのようなものか。とにかく、これはモダン・ドリーム・ポップの傑作である。

[Drum & Bass / Dubstep] by Tetsuji Tanaka - ele-king

1 Sub Focus / Could This Be Real[Drum&Bass RMX]/Triple X | Ram

 昨年のハイライトとも言うべきファースト・アルバム『Sub Focus』によってエクストリーム・レイヴ・ドラムンベースの確固たる地位を確立、それを不動のものにしたのがサブ・フォーカスである。そのもっとも待望されていたリリースによってドラムンベース界に新たな核が生まれたというわけだ。もっとも、プロデューサー・デビューから6年もの年月を費やして発表となったファースト・アルバムは、彼の類まれなる才能から考えると少々遅かった感は否めないのだが。
 彼の起源は2003年〈Ram〉のサブ・レーベル〈Frequency〉から発表された「Down The Drain/Hotline」である。当時のトラック・メイキングはまだ未成熟かつ方向性が定まっていない、ごく平凡なサイバー・ドラムンベースだった。もちろんその当時は、現在のようなスター・プロデューサーとしての確約はないに等しい存在として扱われている。彼に転機が訪れたのは、そう、2005年。その年のアンセム・ザ・イヤーとなったばかりではなく、2000年代を代表するトラック"X-Ray"の発表である。
 ドラムンベース界のみならず、その恍惚感溢れるトランシーレイブな作風で世界中のダンスフロアを掌握、稀に見るビッグ・アンセムとなった。その後、水を得た魚の如く立て続けに"Airplane"、"Frozen Solid"などの"ロック"チューンを発表。そして彼の地位を不動のものにした決定的なリリースがプロディジー"Smack My Bitch Up"のSub Focus RMXだった。そのリミックスはまるで新旧レイブ・サウンド伝道師の世代交代のようで、ドラムンベースをより多方面に押し上げてもいる。そしてその後の活躍は言わずと知れている。いまや名実ともにドラムンベース界のトップ・プロデューサーに君臨するのだ。
 さて、彼のファースト・アルバムからシングル・カットが待望されていた2曲がついにリリースされた。アルバムに収録された"Could This Be Real"のオリジナルは、現在のクラブ・シーンを席巻しているトレンド、エレクトロ・タッチから触発されたフロア直系のアーバン・ブレイクスだったが、シングル・カットのためにドラムンベース・リミックスへと自身でリワーク。ハーフ・ステップさながらのビート・プロダクションに流麗なレイヴ感漂うエレピを注入し、ハイブリッドでソフィスティケートされたシンフォニック・レイヴ・サウンドへと昇華させている。
 "Triple X"に話を移そう。これはまさに"X-Ray"の続編、誰もが待ち望んだ真のレイヴ・ミュージック、即ちこれがエクストリーム・レイヴをもっとも体現したトランシー・フロア・サイバーの最高傑作と呼ぶに相応しい。今後この作品はダンスフロアで皆を待ち続けることとなるであろう。

2.  Disaszt, Camo & krooked / Together[DC Breaks RMX]/Synthetic | Mainflame

 オーストリア、ウィーン発の新鋭レーべル〈Mainflame〉からレーベルのフロントマン、ディザスト(Disaszt)と若手ナンバ-1の呼び声が高いケーモ&クルックト(Damo & krooked)のサイバー・スプリット! "Together"では〈Viper〉、〈Frequency〉などシーンのトップ・レーベルのリリースからMINISTORY OF SOUND主宰DATAなどメジャーのリミックス・ワークなども手掛けるDJサムライ & DJクリプティックのエレクトロ・サイバー・ユニット、DC・ブレイクス(DC Breaks)が担当。レーベル・カラーであるカッティング・エッジでエレクトリックなサイバー感を継承しつつ、よりシンプルに交感し合う各々のサンプル群と、そして女性ヴォーカルが絶え間なくフォローするエレクトロ・ニューロ・ファンクとなっている。昨年からドラムンベースの新しいトレンドとして定着しつつあるエレクトロ・ドラムンベースだが、今作はまさにそれを体現している。まったく"いまこの瞬間の"ダンスフロア・シンフォニーで、レーベルのシンボル的トラックである。
 ケーモ&クルックト"Synthetic"は、〈Mainflame〉からもうすぐ発売されるファースト・アルバム、『Above The Beyond』の前編的トラックとなった。エレクトロ・ドラムンベースの若手急先鋒ケーモ&クルックトだが、今年はさらなる飛躍を期待されるだろう。彼らはすでにDJフレッシュ(DJ Fresh))、アダムF(Adam F)の〈Breakbeat Kaos〉から「Can't Get Enough/Without You」、ロンドン・エレクトリシティ率いる〈Hospital〉から「Climax/Reincarnation」、フューチャー・バウンドの〈Viper〉から「Cliffhanger/Feel Your Pulse」など、多数リリースが控えており、今後最注目のアーティストである。筆者が現在提唱しているエレクトロ・ドラムンベースが、ケーモ&クルックトやショックワン、フェスタなどによって閃光の如く輝き続けるムーヴメントになることを望んでいる。

 

3. Danny Byrd Feat Liquid / Sweet Harmony/Jungle Mix | Hospital

 ザリーフ&ダニーバード(Zarif & Danny Byrd)、"California"で昨年、最高のプロデュース・センスをまた見せつけたダニーバード! ハイコントラストとともに〈Hospital〉の制作理念をもっとも体現しているひとりであり、彼の高揚感溢れるキャッチーな作風はいまや誰にも真似できない、まさにダニーバード・サウンドとして定着している、キャリア10年以上の〈Hospital〉所属のベテラン・プロデューサーだ。
 筆者もDJのとき、必ずと言っていいほどお世話になっている。とくに昨年のザリーフとの共作やファースト・アルバムでのFT.ブルックスブラザーズ"Gold Rush"など......彼の作品をプレイするとき、いつも決まって、自身が中盤の窮地に陥っているケースが大半だ。なぜかと言えば......それだけ個の作品のみであらゆる場面を乗り切る力を持っている唯一のトラック、それがダニーバードの音楽だからである。彼には作品を出すたび毎回脱帽し、尊敬の念を抱き続けている。レコードを置き、針を落とすだけの偉大なキラー・トラックを量産し続けているのだから!
 そして今作"Sweet Harmony"は、初期のレイヴ感溢れるエレピ、FT.リキッドのソウルフルなヴォーカルを効果的に配した遊び心満載のキャッチーなフロアトラックとなった。原点回帰したかのような初期作風感漂うサンプル使いにダニーバードの懐の深さを再認識させられた。もちろんこれもフロアで爆発的人気を得るだろう。
 B面"Jungle Mix"は、ここ最近のダニーバードお気に入り(?)"Shock Out"でも垣間みれたおなじみのオルタナティヴ・プロダクションである。彼特有の変則アーメン・ビートにキャッチーなギミック・サンプルで否応無しにフロアをロックする、正真正銘のパーティ・チューンだ。90年代中期頃、一世を風靡した"Smokers Inc"や"Joker"のエッセンスが多分に感じられ、古き良きジャングル文化が彼によって現代に甦ったと言えよう。
 さらに本年度はダニーバード・フォースカミング・リリースで、みんなが待ち望んでいるあの曲"Paperphase"が〈Breakbeat Kaos〉からついにリリース。あのエレクトロ・ドラムンベース最強兄弟、FT.ブルックス・ブラザーズがまたタックを組み、懐かしのフレンチ・ディスコを思い起こさせるフィルター・ハウス・ドラムンベースに仕上がっている。
 まだリリース前だが、2010年のアンセム・ザ・イヤーをこれで決まりだ。

Animal Collective - ele-king

 これはちと古い。2009年の11月にリリースされた、「秋は優しく」なる題名の5曲入りのシングルで、その年のアルバム『メリーウェザー・ポスト・パヴィリオン』がUKではナショナル・チャートの26位にまでランクされた動物集団の勢いを感じる作品となった。1曲目の"グレイズ"は......陽気なフォークダンスである。どう考えてもストロボライトを浴びながら踊るというものではない。男女がスキップしながら手を取り合って踊っている姿が目に浮かぶ。

 ちょうどのこの原稿を書いている少し前には、彼らの2003年の『キャンプファイヤー・ソング』が再発されている。僕はこのCDは、『サング・トングス』を聴いたときに素早く探し回り、『ヒア・カム・ジ・インディアン』とともに買っている。60年代半ばのビーチ・ボーイズのアルバムに『パーティ!』というビートルズの曲のアコギによるカヴァー集があって、それはまるで学校の教室でクラスメートを集めながらワイワイがやがや、ビートルズの歌を歌って盛りあがっているような作品なのだけれど、『キャンプファイヤー・ソングス』はいわばそのアシッド・ヴァージョン。僕は......勝手ながらD・リゼルギン酸ジエチルアミドに浸りながらギターをかき鳴らす青年たちを夢想した。そうでなければ、あの1曲目の狂おしい不明瞭さに関して、他にいったいどんな説明が可能なのだろう。そして僕は、ストレートにそれを"キャンプファイヤー・ソングス"と言い切ってしまった動物集団のセンスに興味を抱いた。

 ちょうどこの頃は、文化のたこつぼ現象なる言葉が流行っていて、とにかく小宇宙ばかりが連なってばかりで面白くないと、そんなことが巷で言われていた。たしかに音楽のシーンでも90年代的なレイヴ・カルチャーはすっかり細分化され、互いに交わる兆しもなかった。そんな時期に、アニマル・コレクティヴはまさに小宇宙の司祭になろうとしていた。『キャンプファイヤー・ソングス』は、どう考えてもわずか数10人の音楽だ。しかし、コミュニティは小規模になったかもしれないけれど、親密性は高まっているのではないかとも思うのだ。ただ無闇に人の数だけ多ければ良いってものではない。そう考えれば、僕は日本のSFP周辺の連中の大きくなることへの警戒心と自律した小宇宙への欲望と、この時期のアニマル・コレクティヴの心地よい閉塞性は似ているようにも思えるのだ。

 アニマル・コレクティヴの"フォール・ビー・カインド"は、『メリーウェザー・ポスト・パヴィリオン』がそうであったように、『キャンプファイヤー・ソングス』の頃の閉塞感はない。良くも悪くも彼らはポップ・バンドとして商業的にも成功しつつあるし、その世界も広がりを見せている。シングルの2曲目の"ホワット・ウドゥ・アイ・ウォント? スカイ"がそれを如実に物語っている。グレイトフル・デッドの曲をサンプリングしているこの曲は、動物集団にとっておそらく最初の、わかりやすいポップ・ソングだ。

 "オン・ア・ハイウェイ"は、ダビーなエレクトロニクスと彼らのコーラスによるメランコリア。最後の"アイ・シンク・アイ・キャン"はクラウトロックのダークな引用で、陰鬱なエレクトロニクスと動物たちのコーラスとの協奏曲だ。
 「フォール・ビー・カインド」は『メリーウェザー・ポスト・パヴィリオン』の延長線上にある。パンダ・ベアの最初のソロ作品が好きな人は『キャンプファイヤー・ソングス』の再発を買ったほうがいいだろう。しかし、彼らの陽気なサイケデリアを楽しみにたいなら、このシングルも悪くはない。

V.A - ele-king

 私は反省こめて書きますが、ジャンク~スカム・リヴァイヴァルとしての「関西ゼロ世代」を強調するあまり、その背景のポスト・ニューウェイヴ、つまり80年代インディ・カルチャー(とその発展型である90年代オルタナティヴ)と彼らの断絶をうまく描いてこなかった。ペンペンズや砂十島NANIやオオルタイチは90年代と00年代のグラデーションのなかでは多彩であったせいでかえって、私は彼らの逸脱へむかう気持ちを既視感に引き寄せたところはなくはなかったが、真保☆タイディスコの『住mばsyo着るmの絡まって』を去年聴いたときアンダーグラウンドのそのまた下に走る活断層がはっきりとズレたことをさとったのだった。私は音楽の素養をいいたいんじゃない。彼女がタイから持ち帰ったという非西洋的な快楽のベクトルは、DJ~トースティング(?)を通して不可逆的に彼女の身体に流れこんだグルーヴは彼女の身体性を変容させていて、Jポップ~クラブの押韻と言葉と歌のメロディを書き換え90年代までと切断するポップ・ソングを作りあげることに資しているとファーストを聴いて考えたのです。10年前までは文化人類学の残り香があった音楽の輸入形態も10年後にようやく路傍に晒されたというか、バイリ・ファンキでもクンビアでもアジアのクラブ・カルチャーでも、アーティストとリスナーの間を直接行き来する音楽は批評のハイアラーキーになじみがたく、自然発生的な解釈(曲解、誤解)はローカリティさえ攪乱する、ニコ動的な個人レベルの加工貿易の観をていしている。この10年の音楽のトレンドは欧米のメディア主導型のラベリングと、局所地的ですらないマイ・ブームの集積のようなベクトルが併走した年代で、これに勝手知った「タコツボ化」などといういい方で目を瞑るわけにはいかない。赤瀬川源平じゃないが、ツボの内側に張られたラベルが反転して宇宙を包むことだって、考えようによってはあるわけで、音楽は意外にスリリングだ、という現状を〈クマル〉のレーベル・コンピであるこのアルバムは伝えてくる。これに先だった真保☆タイディスコの旦那のシャブシャブの『SONOFX』はどこか遠くを見つめたくなる、幻の名盤解放同盟のいい方を借りれば「いい湯加減」の、グライムに異文化コミュニケーションのフィルターがかかったような快(怪)作だったが、有象無象が集った『クマル・エキスポ・2010』では状況はいっそう錯綜している。デ・デ・マウスへのアンサーともとれる『SONOFX』収録のフィルタード・バラッド "Katatsumiru"の真保☆タイディスコによるアップリフティングなリミックスをはじめ(私の五歳の娘は一度聴いてこの曲を憶えました)、このなかでは比較的名の知れた参加者だろうシャブシャブとオオルタイチのオバケジャーとか、ほかにもneco眠るのバイオマン、ガルペプシとシャブシャブによるガルシャブはリズムコンシャスである意味クールなトラックを披露したかとおもえば、京都シーンからはスズメンバが参戦し、スズメンバのMU-TONはシャブシャブとのパンパス・エスカルゴスなるユニットに増殖していく。真保☆タイディスコはラキラキ、ニジベンテンなど複数のユニット名を使いわけているが、フリクションのレックの非正統的な後継と目されるべき(ホントかよー)リズムから帰納されたヴォーカル・トラック(ドイツ語あり)はダブ・ステップの影をチラつかせながら、野田努よれば「女性の時代」だった00年代の殿(しんがり)をつとめるようにもみえ、総体的にはシャープな1枚になった。

Chart by DISC SHOP ZERO 2010.01 - ele-king

Shop Chart


1

G.RINA

G.RINA MELODY & RIDDIM #1: mashed pieces MELODY & RIDDIM / 日本 / 2009.12.25 »COMMENT GET MUSIC
シンガーでありプロデューサー、トラックメーカー、DJでもあるG.RINA自身が立ち上げたレーベルの第1弾。ダブステップの名曲の数々をレゲエでいうリディムと捉え、そこに自作のメロディを乗せたストリートアルバム的内容。アイデアの斬新さだけに頼ることの全くない、オリジナルと別の輝きを持った楽曲としての完成度の高さに、彼女の多面的才能の豊かさを改めて実感。G.RINA流の新しいリズム&ブルーズの萌芽。

2

LIGHTNING HEAD

LIGHTNING HEAD TRAFFIC JAM / NOW I DELIVER (VERSION) / 2009.12.11 »COMMENT GET MUSIC
元ROCKERS HI-FI、BIGGABUSHとしても知られるLIGHTNING HEADの7インチ限定300枚。A面はSTEPHEN MARLEYのヒットをファンキー・レゲエ・ブレイクビーツにカヴァー。トロンボーンのトボケ味なリフ、途中ではアフロなノリも出てくる最高の仕上り。B面はR.HI-FIの名曲リミックス。ゆったりしたムードのオリジナルを、L.HEAD印のダンスホール・ビートで料理。

3

DISTANCE / PINCH

DISTANCE / PINCH CLOCKWORK / ONE BLOOD, ONE SOURCE (REMIX) TECTONIC /イギリス / 2009.12.11 »COMMENT GET MUSIC
B面の盟友PINCHが07年に発表した名作『UNDERWATER DANCEHALL』収録曲のリミックスが特に素晴らしい。ラスタ・シンガーRUDEY LEEを迎えた曲で、RHYTHM & SOUND~BURIAL MIXラインとは全く別の方向からディープなダブへとリミックス。サブ・ベースの歌うようなラインとドラムの感触の対比、そしてその空間にハメられる。

4

SOOM T

SOOM T DIRTY MONEY E.P. JAHTARI / ドイツ / 2009.12.03 »COMMENT GET MUSIC
驚くべき多方面からの支持を受けつつ、いよいよ2月に初来日を果たすDISRUPTとSOOM TのコラボEP。「アンタのキタナイ金なんて要らないわよ!」というサビが印象的なタイトル曲は、この夏に引っ張りダコだった各地フェスやクラブでも大人気だったという曲。ファズが掛かったようなビット・レートの低いダブ・ビートと、SOOM Tの独特な声で繰り出される、歌うようなトースティングが不思議と絶妙な相性。

5

UNTOLD

UNTOLD FLEXIBLE BRAiNMATH / イギリス / 2009.12.15 »COMMENT GET MUSIC
個人的には2009年にその動向/サウンドが最も気になったプロデューサーのひとりUNTOLDの新曲が、ZOMBYやSBTRKTなどもリリースするBRAiNMATHから限定でリリース。もはやUNTOLD印と言える、ヒプノで骨折気味のビートが生む不思議なトライバル感を、真空度高めにグルーヴさせた曲。80年代終わりから90年代頭の実験的ハウス?テクノにも通じる感触。

6

ECHO_TM feat. ECHO RANKS

ECHO_TM feat. ECHO RANKS SKYLARKING KANU KANU / ポーランド / 2009.12.27 »COMMENT GET MUSIC
現在エジプトはカイロ在住のHATTI VATTIが立ち上げたレーベル第1弾、限定300枚。ポーランドのプロデューサーECHO_TMによる、ニュールーツ系レゲエの作品で知られるシンガーECHO RANKSを迎えたディープな音像のミニマル?テック・ダブ。RHYTHM & SOUND?BURIAL MIX直系ではあるけれど、よりレゲエ寄りになっている微妙な感じが◎。裏のリミックスはドイツのBIODUB。

7

KALBATA

KALBATA OH GOSH / KARL BUTTER BOTANIKA / イスラエル / 2009.12.27 »COMMENT GET MUSIC
WARRIOR QUEENを迎えたSOUL JAZZからのシングルが大人気だったイスラエルのダブステッパーKALBATAの最新シングル。エレクトロな感触が前面に出つつのダンスホール・ビートのA面は、クドゥロや高速のMCが乗るグライムとも相性が良さそう。B面ではさらにエレクトロ感を増し"テッキーな"というのとはまた違うテクノな感触のトライバル・グルーヴを聴かせてくれる。

8

MJ COLE feat. SEROCEE

MJ COLE feat. SEROCEE AO PROLIFIC / イギリス / 2009.12.27 »COMMENT GET MUSIC
2ステップで有名なMJ COLEによるUKファンキー。TODDLA Tとも組むMC、SEROCEEのレゲエ・ベースのフロウが洗練されたトライバル・ビートを野蛮にグルーヴさせるオリジナル、ベースが上昇を繰り返す自身のリミックスも良いが、そこにカーニヴァルなムードも加わって01?02年のレゲエ味ブレイクビーツが大盛り上りだった時代の感触も思い出させてくれるZED BIASによるリミックスが楽しい。

9

ION DRIVER

ION DRIVER WHAT SITUATION RICOCHET / イギリス / 2009.12.27 »COMMENT GET MUSIC
「レイヴ後のモハーヴェ砂漠で日の出の音を録音したら」なんて資料にはありましたが、そうイメージすると妙にハマる5曲入。トライバルだったりサイケなチルアウトだったりゲットー・ベースなグルーヴもありつつの、ディープでプログレッシヴなテッキー・ビーツ。これも"ダブステップ以降"のひとつの形を示す重要な1枚となりそう。

10

JOKER

JOKER CITY HOOPER / OUTPUT 1-2 TECTONIC / イギリス / 2009.12.27 »COMMENT GET MUSIC
メジャー・アーティストのリミックスを手がけるなど、そのサウンドもすっかりトレードマークとなった新世代JOKER待望の新曲は地元ブリストルのTECTONICから。スロウでへヴィなグライム?R&B風トラックに、お得意のロボティックなシンセが歌うA面。B面は、このレーベルらしいディープさも出たトラックで、中盤以降のリズムの変化も◎。爆音で聴けば、この音の解像度にやられること間違いなし。

Charts by JAPONICA 2010.01 - ele-king

Shop Chart


1

AMAZIAH

AMAZIAH SLOWLY CLAREMONT 56/UK / 2010/1/4 »COMMENT GET MUSIC
大人気CLAREMONT 56の人気コンピ"ORIGINALS"最新第4弾に収録されていたスローモーなロッキン・ディスコの大傑作、AMAZIAH"SLOWLY"を片面一曲仕様で収録した限定10インチが入荷!全世界300枚、しかも国内ではジャポニカ独占少量入荷というレア化必至のアイテムです!これは見逃せませんよ!

2

MARK E

MARK E WHITE SKYWAY UNDER THE SHADE/UK / 2010/1/14 »COMMENT GET MUSIC
MARK E新作!A面収録の"WHITE SKYWAY"は持前のへヴィなビートとグイグイと持っていかれる抜群のビルドアップ感を兼ね添えたスペイシーなビートダウン・トラックを披露!相変わらずいいとこ取りなウワネタ・サンプルのミニマル感もばっちりです!B面にはこちらもスペイシーなジャジーなリフに包まれながら進行する高揚感がたまらないディープ・ハウス・トラック"NOCTURN"を収録!

3

KINGDOM☆AFROCKS

KINGDOM☆AFROCKS イチカバチカーノ JAPONICA/JPN / 2009/12/20 »COMMENT GET MUSIC
ライブハウス/クラブに野外フェスまで数多くのイベントに出演、その熱いライブパフォーマンスが全国のダンスミュージック・フリークスの間で注目を集め、あのアフロ界の重鎮トニー・アレンも太鼓判を押す日本最強アフロバンド、キングダム☆アフロックス待望のファースト・シングル!今年リリースされたファースト・アルバムが日本全国、海外でも話題を呼んでいるBASED ON KYOTOのプロデューサーDAICHIによるリミックスも収録!

4

COFFEE & CIGARETTES BAND

COFFEE & CIGARETTES BAND ELECTRIC ROOTS 001 ELECTRIC ROOTS/JPN / 2009/12/24 »COMMENT GET MUSIC
BIRDSは定番ブレイク"EDWIN BIRDSONG/RAPPER DAPPER SNAPPER"をベース・サンプルに、小気味良いリズムで進行するドラムが重なりあうブレイクビーツ~ニュー・ディスコ・トラック!ヘヴィ・ドラムに 80'Sなヴォイス/シンセ・サンプルを随所に入れつつ巧みなドラムの抜き差しで展開をつけるヒップホップ・トラック"HEAVY SWING"、ビートダウン・マナーなビート構築にウワネタ・ループがハマる全方位対応型クロスオーヴァー・トラック"JAMS"と、どれも隅々までC&C BANDの細かい拘りが行き届いた全3トラック収録!

5

V.A.

V.A. TTJ EDITS #26 TTJ/FRA / 2009/12/25 »COMMENT GET MUSIC
RICHARD VILLALOBOSが2006年にPLAYHOUSEよりリリースした37分超えの長編大作クラシック"FIZHEUER ZIEHEUER"の元ネタを天才TODD TERJEがリエディット。乾いたパーカッションとフリーキーなフォーン、トランペットが織り成すオリエンタルな世界観を、原曲の雰囲気を壊すことなく相変わらずの抜群のセンスで展開させています。これは何が何でも押さえておきたい!

6

UNKNOWN

UNKNOWN ANGOLA -/FRA / 2010/1/11 »COMMENT GET MUSIC
ヒットを連発する"DAI"シリーズより、またも強力な一枚が到着しました!CARLCRAIGのリミックスが大きな話題を集めたCESARIA EVORAの大名曲"ANGOLA"を大胆使用!今でも耳にするエスニック/アフロの傑作ディープ・ハウスを使用し見事にダンサンブルなトライバル・ハウスに仕上げた傑作トラックです!今回も間違いなく話題となりそうですよ!

7

SETENTA

SETENTA APARIENCIAS HOT CASA/NL / 2010/1/14 »COMMENT GET MUSIC
パリのラテン・ディスコ・ファンク・バンドSETENTAによるクロスオーヴァー・サウンド全開の最高すぎる7inch!ラテン/ブラジリアンなジャズ・ファンク~ディスコ風味の"APARIENCIAS"はギターやエレピ、パーカッションによるトロピカルな味付けいい塩梅な爽快グッド・ナンバー!B面には疾走感溢れるパーカッシヴ・ビート、ラテン~アフロ・ヴォーカルとが爽快感を際立てるラテン・ジャズファンク・ディスコ"SONRISA"を収録でこちらもかなりいい出来です!

8

SCOTT FERGUSON

SCOTT FERGUSON EVOLUTION OF A REVOLUTIONARY EP FERRISPARK/US / 2010/1/11 »COMMENT GET MUSIC
デトロイト近郊ハイランドパークを拠点に、マニアックなディープ・ハウス作品をリリースしてきた人気を集めてきたベテランSCOTT FERGUSONの新作が到着!GIL SCOTT-HERON"THE REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED"のアジテーションを使用し、エモーショナルな漆黒のアーバン・ディープ・ハウスを展開!大推薦ビート・ダウン!

9

SLOW MOTION REPLAY

SLOW MOTION REPLAY THINK BETTER / RAGGED MUSTANG SOUL SOURCE/JPN / 2009/12/15 »COMMENT GET MUSIC
THE CHAMP×"THINK TWICE"とベタに大ネタを組み合わせながらもイナタさや違和感が全くなく逆に洗練されたタイトなグルーヴを織り成す超絶マッシュアップ・ブレイクスに仕上がった"THINK BETTER"!そしてB面にはアフロ・ジャズ傑作"CURTIS AMY/MUSTANG"を下敷きにし、ラグドなビートにグルーヴィなジャズ・アンサンブルで迫るジャジー・ブレイクビーツ"RUGGED MUSTANG"を収録!

10

KEZ YM

KEZ YM BUTTERFLY EP YORE / GER / 2009/12/14 »COMMENT GET MUSIC
KEZ YM新作!!THEOやKDJにも通じるスペイシーなシンセ・コードに黒光りした声ネタを被せたデトロイティッシュ・ディープハウス"BRIDGE TO BRIDGE"やピッチダウン・ハウス・トラック"LOW TIDE"等収録ですが、中でもやっぱりレアグルーヴ感に重点を置いた生な質感が最高すぎるブレイクビーツ・ハウス"BUTTERFLY"がとび抜けてます!!日本人離れしたこの黒い感覚やばいです。
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