「K A R Y Y N」と一致するもの

Serph x 河野愛 - ele-king

 サーフがこれまでわれわれに見せてくれた桃源の夢──それは毒に同義であることをサーフ自身が弊誌インタヴュー(『ele-king vol.』)にて語ってくれたのだが──は、もう一本の柱によって支えられている。河野愛のイラストだ。これまでサーフの作品や活動の多くに関わってきたイラストレーターである。古代ギリシャのモチーフ、架空の生物たちの跋扈、魚も鳥も家も同居する空間……時間と場所がねじ曲がり、あるべきでない時代とあるべきでない空間とが接続され、しかしそのことが奇妙な均衡を生み出す河野のタッチに、すでにサーフの音を連想してしまう人もいるのではないだろうか。一枚の絵の中に、微細な描き込みと神話的な圧縮性をもって世界を埋め込むようなその手つきは、サーフ版マジック・リアリズムとも呼ぶべき、あの強烈な世界構築にしずかに寄り添っている。

 そんなふたりのコラボレーションを、より純度の高いかたちで結晶させるようなプロジェクトがはじまっている。クラウドファンディングを利用したCD付きアートブックの制作だ。これまでのコラボレーションの記録に加え、書き下ろし&描き下ろしの作品、アルバム未収曲のコンピCDも付くようで、通常のパッケージ・リリースでは実現しにくい仕様を楽しめる。また、協力する度合いによって幾パターンものリターンが準備されているから、ファンならばじっくりと頭を悩ませながら参加したいところだ。
 募集期間は11月28日(金)まで。ダイレクトにこの素敵な作品を支えてみよう。

【Serph x 河野愛 コラボレーション・アートブック制作プロジェクト】

■情報掲載日:掲載中
■クラウドファンディング・サイト:CAMPFIRE
■プロジェクトURL: https://camp-fire.jp/projects/view/1267
■ 募集期間:10/15~11/28(45日間)
■ 目標金額:1,350,000円
■プロジェクト概要
このプロジェクトは、電子音楽家Serphとイラストレーター河野愛による、CD付きコ
ラボレーション・アートブックの制作を目指すものです。
Serphは、nobleへの移籍後初リリースとなる2ndアルバム『vent』(2010年作)以降、
今月6日に発表した最新EP『Spring Field EP』まで、その全作品のアートワークを、
イラストレーターの河野愛とのコラボレーションで制作してきました。ノベルティや
MVの為に制作したアートワークも含めるとその数は数十点にも及び、Serphの音楽を
世に問う上で、今や河野愛のアートワークは欠かせないものとなりました。
そこでこのたび、これまでの河野愛によるアートワークを数点の描き下しとともに一
冊の本にまとめ、Serphのレア音源集CDを付けた、Serphと河野愛によるコラボレー
ション・アートブックの制作を思いつきました。
Serphと河野愛のこれまでのコラボレーションの記録となるこのアートブックを、ク
ラウドファンディングを通じて皆さまと共に作り上げる事が出来ればと思っています。
このプロジェクトに参加してくださる皆さまの為に、ジャケットの原画やSerphによ
る書き下し楽曲のプレゼントなど、この場限りの様々なリターンをご用意しました。
少しでもご興味をお持ち頂けたら、ぜひ皆さまのお力をお貸しください。プロジェク
トが無事成立し、このアート本を世に送り出せる事を楽しみにしています。
アートブック制作の実現へ向け、皆さまのご協力をどうぞ宜しくお願いします。

<Serphプロフィール>

東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月にピアノと作曲を始めてわず
か3年で完成させたアルバム『accidental tourist』をelegant discよりリリース。2010
年からはレーベルをnobleに移し、同年7月に2ndアルバム『vent』をリリース。以降、
2枚のフルアルバムといくつかのミニアルバムを発表している。
2014年1月には、自身初となるライブ・パフォーマンスを単独公演にて開催し、満員
御礼のリキッドルームで見事に成功させた。
より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ボーカリスト
NozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。

<河野愛プロフィール>

1984年1月千葉県生まれ。2008年からフリーのイラストレーターとして、雑誌、広
告、映像、WEB、CDジャケットなど幅広いアートワークに携わっている。一部挙げ
るとソラリアプラザ、URBAN RESEARCH、Panasonic、Bunkamura、講談社、
KADOKAWA、ワコール、Serph、ほぼ日、その他多数。細密画をベースに形や大き
さや色、固定観念にとらわれず共存しあう空間を描く。
https://aikohno.com/

■河野愛からのメッセージ
これまでSerphのアートワークで様々な作品を生み出してきました。
それは、私が今迄自分だけの発想で描き上げたものとは違い、音のイメージにあった
テーマに沿ったもので、一人ではなくデザイナーやレーベル関係者の方とアイデアを
共有し、新しい発想の元、描いた事ないような描き方で描き上げ、素晴らしい仕上が
りとなって世に送り出してきました。
そんな作品も今では数十枚となり、それぞれ思い入れのある作品となり、一挙に集め
て、一冊の本になったら嬉しいな、って思っていました。
そんな中、レーベルの方に声をかけてもらい、一気に企画が進み、作品集として本を
販売する企画が実現するまで、あと一歩ということころまできました。
その、あと一歩、皆さんの力をお借りしたいです。
今迄、個人としての作品集を制作していないことから、この企画が実現出来れば、初
めての作品集が世に送り出せる事になります。
私の絵は、細密をベースにしているので、じっくり見て頂きたい想いがあります。
是非、ご協力頂けたら嬉しいです。

■Serphからのメッセージ
亜空間の原風景
蜃気楼の絵筆、デスティネーション・パステル
いつもSerphの作品世界を彩ってくれている河野さんの絵。
音に奥行きを与え、視界から音楽が流れていきます。
Serph体験をより濃厚にしてくれるアートワークを網羅する、必ず素敵な本になると
思います。皆様のご協力をお待ちしてます。

■アートブックの仕様について
・カラー40ページ+CD
・サイズ:A4変形(21cm x 25cm)
・シリアルナンバー入り
※新たな描き下し数点を含む、河野愛によるSerphの全アートワークを掲載予定。
★CD収録楽曲:
アートブック用に書き下ろす新曲含む、雑誌のサンプラー収録音源、ECサイトおよび
配信サイトの購入者特典用音源、1stコンサート用のリアレンジ音源など、全てアルバ
ム未収録の楽曲を8~10曲ほどコンパイルしたSerphのレア音源集。

■資金の使い道について
・本印刷代
・版下作成代
・デザイン代
・CDプレス代
・著作権使用料
・ ファンディング運営会社手数料

■プロジェクトがマッチング(成立)出来なかった場合:
商品の発売を中止とさせて頂きます。

■リターン内容
<500円>
・Serphと河野愛のお礼メッセージ
<3,000円>
・Serphと河野愛のお礼メッセージ
・完成した本を1冊
<5,000円>
・Serphと河野愛の直筆お礼メッセージ付きのオリジナルポストカード
・本のサンクスクレジットへお名前を掲載
・完成した本をSerphと河野愛のサイン入りで1冊
<8,000円>
5,000円のリターン内容に加えて、
・プロジェクト限定の非売品オリジナルTシャツ
・Serphの未発表音源2曲
※楽曲データのDLリンクを送ります。
<50,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Event Horizon』のジャケット原画を額装してプレゼント。
<50,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Winter Alchemy』の盤面に使用した原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Winter Alchemy』のジャケット原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Heartstrings』の中面に使用した原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定1個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serph『Candyman Imaginarium EP』のジャケット原画を額装してプレゼント。
<100,000円>限定5個
8,000円のリターン内容に加えて、
・あなたのテーマで河野愛が絵を描き、原画を額装してプレゼント。
<150,000円>限定3個
8,000円のリターン内容に加えて、
・Serphがあなたの楽曲を1曲リミックスします。
<200,000円>限定2個
8,000円のリターン内容に加えて、
・あなたのテーマでSerphが曲を作り、河野愛がジャケットを描きます。
・完成したジャケットと楽曲はデータにてプレゼント。
・描いた原画を額装してプレゼント。


DJ 威力 - ele-king

廉価で手に入れた古書10選

本とレコードを買うことの境目があまりありません。
最近、天神橋筋商店街の天牛書店にて、内容の割にかなり廉価で手に入れた古書10選です。
音の出ないレコード。

『dublub.jp OSAKA #11』at GalaxyGallery
Mark Frosty / MAYUMIKILLER / 威力

10.25.SAT
『TROPICAL HOLE』at PINEAPPLE EXPRESS
BING aka Toshio Kajiwara / Hobobrazil / 威力 / 池田社長 / GYOKU

11.1.SAT
『GORF meets ECHOES』at FROG
αAREA、PPMG、SPINNUTS、THE KLO、威力、KURITA、sonic、SB10、OLEO、NxOxT

11.23.SUN
『ECHOES』at atmosphäre
sonic、pulseman、orhythmo、DNT、SPINNUTS、CJ、行松陽介、威力

twitter.com/iiimmrrarrmmiii
https://yofukenoongakufan.tumblr.com/

Katakoto - ele-king

 2014年、衝撃のデビュー・アルバムを発表した、愉快なヒップホップ・グループのカタコト──人気絵描きのドラゴン(『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』の表紙イラストもこの人)、人気ラッパーのヤノシット、快速テツマルを擁する──がいっきに4つのPVを公開。そして、REMIX&マッシュアップ音源の絶賛フリーDLサイトも公開中です。1曲、group_inouのimaiがリミックス。これはけっこう、面白いです。ちなみに、借りたいDVDがわからないときは、木津毅か三田格かテツマルに訊くのが良いみたいです。


HELLO KATY MV

Man In Da Mirror MV

デス!プルーフ MV

ピアノ教室の悪魔MV

眠りたい音楽、眠らせないイヴェント - ele-king

 早耳のリスナーの間ではすでに注目されている気鋭の若手バンド、Taiko Super Kicks。今年8月には彼らの持ち味でもある浮遊感のあるスローテンポな曲群が収録された初の5曲入りミニ・アルバム『霊感』(限定店舗とライヴ会場、Bandcampのみでリリース)が話題となったが、そんな彼らが初の自主企画〈o m a t s u r i〉を10月31日に開催する。

 Taiko Super Kicksの音楽がどういうものか知らない人に説明するとしたらそれは、「ゆったりとしたBPM」がキモの「ギターの絡みが気持ちいい正統派オルタナ・ロック」だろうか。PavementやYo La Tengoといった90年代オルタナUSロックをフェイヴァリットに挙げ、22歳の瑞々しい感性で書き上げる曲は『霊感』をはじめ、総じて「気怠さ」を伴うところがポイントだとボーカル/ギターの伊藤暁里は言う。「最初はサイケっぽいものがやりたかった。次第に「気怠さ」に惹かれて曲作りを行うようになった。そのきっかけは村上龍の『限りなく透明に近いブルー』を読んでて、どんよりと倦怠感に包まれている、それまでにあまり知らなかったイメージだったこともあり、その感じを音に出したかった」。“霊感”“Ringo no Sitsukan”などの曲……具象を避け、雲をつかむようでいて親密、室内的で幽玄としたサウンドスケープ。それでいて、ちゃんと捻りの効いたロックをやっている。「眠気を誘うような、気怠い音楽をさらに突き詰めたいと思ったきっかけは去年のグルーパーやジュリアナ・バーウィックみたいなアンビエントっぽい女性ヴォーカルものを聴いて。霊感はそういうイメージで作ってました。すごいシンプルで寝ながら聴く音楽。その頃はライヴでも「客が眠りたいと思わせるような感じでやろう」とか言ってて(笑)」。

 自主企画のタイトルは〈o m a t s u r i〉、場所は〈o-nest〉でフロアとラウンジの2ステージで行い、moools、Lantern Paradeといった先輩バンドからLUCKY TAPES、New HouseよりPunPunCircleといった若手のバンドまでヴァラエティに富んだメンツ。さらには、先日アルバムをリリースしたばかりのnohtenkigengo、そしてミツメのnakayaan、『霊感』のジャケットも手掛けたmay.eと、彼らと親交の深いアーティストも参加する充実のラインナップに加え、ラウンジエリアにはココナッツディスクの出店とフリーマーケットなんかもある。
 「ライヴハウスに行ってスマホみるしかないとかつまんない時間を過ごさないようにしようっていうのがあって。待ち時間にしたくない。カッコいいバンドを集めただけのイヴントってのも熱いとは思うんですけど疲れるだけっていうのもあって、なのでできるだけヴァラエティを持たせて。あとは、同年代だけのバンド、勢いのあるバンドだけを呼ぶのも嫌なのもあり、こうなりました。絶対に誰でも必ずハマれる要素、瞬間を用意しています。ひとりで来ても楽しい、新しい何かに出会えると思います。」
 10月31日はお祭りへどうぞ。

■Taiko Super Kicks presents
” o m a t s u r i ”

10/31(Fri) @渋谷TSUTAYA O-nest
OPEN: 18:30 / START: 18:30
ADV: 2000 / DOOR: 2500 (ドリンク別)

【5F】
Taiko Super Kicks
moools
Lantern Parade(3人編成)
LUCKY TAPES

【6F】
may.e
nohtenkigengo
PunPunCircle(New House)

【DJ】
nakayaan(ミツメ)
A Taut Line(Greeen Linez)

【出店】
ココナッツディスク
オマツリフリーマーケット(7A 理科 出演者の皆様)

【チケット情報】
※以下プレイガイド及びメール、または各出演者様に直接お取り置きをお願い致します。ローソンチケット: 76511

e+

メール予約: omatsuri.info@gmail.com  (お名前と枚数をご明記ください)


あの一夜を着る - ele-king

ここまでアブストラクトにデザインされたイヴェントTシャツが過去にあっただろうか!?

10月2日に行われた〈ele-king night OGRE YOU ASSHOLE vs 森は生きている〉の記念TシャツをANYWHERE STOREにて販売いたします!

 先日行われたイヴェント、〈ele-king night OGRE YOU ASSHOLE vs 森は生きている〉。滅多にないこの組み合わせのライヴは、来場した方々より絶賛の声を多数頂きました。

 そしてこの事実を記録すべく制作し、当日は会場でも販売いたしました記念Tシャツが、ANYWHERE STOREでもお買い求めいただけることになりました。

 デザインは、紙版『ele-king vol.14』(売り切れが危ぶまれているエイフェックス・ツイン表紙号!)のアート・ディレクターを務めた気鋭のデザイナー・鈴木聖。

 両バンドの音のイメージをアブストラクトに表現した、他のイヴェントTシャツとは一線を画したデザインではないでしょうか!?

 背中にさり気なく、このイヴェントが行われたことを記録してございます。


Tシャツ前面にプリントされている2つのテクスチャー。
柔らかい素材で、首回りの詰まりすぎないTシャツです。

■お買い求めはこちらから!

ANYWHERE STORE (https://anywherestore.ele-king.net/?pid=82487259


森は生きている - ele-king

 もう秋だ、冬だ。2014年を振り返ってみると、UKのエレクトロニック・ミュージックと日本のインディ・ロックの1年だったという印象を受ける。たとえば坂本慎太郎の『ナマで踊ろう』、オウガ・ユー・アスホールの『ペーパークラフト』……などなど、そして森は生きているのセカンド・アルバム『煙夜の夢』。
 ele-kingの12インチ・シリーズの第三弾は、森は生きているのキラー・トラック「ロンド」、GONNOによるリミックスである。ライヴでも甘美この上ない演奏のこの曲は、読者諸氏にはもはや説明不要であろう。A面では、メンバー自らの再ミキシング・ヴァージョン、B面は世界を股にかける男、GONNOによるハウス・ミックス・ヴァージョン。これがまた、醒めたくない夢そのもので……。
 斜に構えて、洒落ている世代が台頭しつつある。スタイルをばっちり身につけている。森は生きているは、ソフト・ロックを徹底的に参照するだけでは飽き足らず、新作ではもっとダイナミックな飛翔を遂げているが、それはまた別の機会に。

森は生きている
ロンド EP feat. Gonno

Pヴァイン

Phychedelic RockSoft RockDeep House

Amazon


トム・アット・ザ・ファーム - ele-king

 わたしたちは眩い才能が開花する瞬間に立ち会っている。グザヴィエ・ドランの話だ。1989年生まれ……25歳。初監督作は19歳のときに撮られた。わたしたち日本の観客の多くが彼の映画にはじめて出会ったのは長編3作め『わたしはロランス』だったが、それは、ある日「女になる」ことを決めた青年が痛切に愛を求めて彷徨する姿が鮮烈で幻惑的なイメージと甘いポップ・ミュージックに彩られつつ描き出されたもので、観る者の胸を激しくかき乱したのだった。そこにはたしかに狂おしい若さと、それを飛翔させるだけの大胆さと詩情があった。ゲイであることを公言しているこのハンサムな青年は、すでにアイコニックな存在として――「神童」などと言われながら――未来を嘱望されている。



 ドランの4作めとなる『トム・アット・ザ・ファーム』は、自身が脚本・主演・編集を務めながらも、彼のこれまでの作風とやや距離を置く心理スリラーだ。ジャンル映画と言ってもいい。しかもミシェル・マルク・ブシャールの戯曲を基にしているため、はじめて他者の原作に由来する物語を扱っており、結果としてこれまでのやや過剰なセンチメントは抑えられ、非常に醒めた一本となっている。そして、驚くほどに明確に「同性愛者として生きること」がどういうことかを突き放してえぐり出している。
 戯曲を下敷きにしているため舞台はほぼ田舎の農場に限定されている。ドラン本人演じる主人公トムは、交通事故で喪った同性の恋人ギヨームの葬儀に出席するため彼の故郷の農場を訪れるが、ギヨームは生前、母に自分の存在を隠していた。事情を知るギヨームの兄・フランシスに「母に真実を語るな」と脅され、やがてトムはフランシスからの暴力に晒されるようになっていく……。ブシャールの戯曲には序文で「同性愛者は、愛し方を学ぶ前に、嘘のつき方を覚える」と書いているそうだが、まったくもってその通りで、恋人ギヨームが自分の存在を隠していたことにトムは傷つくが、そのこと自体は別段驚くことではない。カミングアウトを受け入れない土壌が根強く残っていることは、日本で暮らしていればじゅうぶん理解できることだ。
 この物語で問題となっているのは、トムと恋人の乱暴な兄・フランシスとの関係だ。「真実を告げる」と言うトムに、フランシスは物理的な暴力で「黙らせる」。ここでのフランシスはホモフォビアの表象である……たしかにそうだろう。しかしながら、トムは同時にフランシスに強く惹きつけられてもいる。フランシス演じるピエール=イヴ・カルディナルはヒゲを生やした筋肉質な体格の男として最初の登場シーンでは上半身裸で現れ、度々トムに息のかかる距離に接近してみせる。また、幾分唐突にフランシスとトムがタンゴを踊るシーンの官能性は、映画の色気そのものになっている。自分たちに嘘を強要し、精神・肉体両面に対して暴力をふるう存在あるいは社会に、同性愛者たちが自らすすんで囚われの身となってしまうことを、『トム・アット・ザ・ファーム』は一種エロティックにあぶり出しているのだ。嘘をつき続けていたほうが楽だということを自分の幸福と錯覚し、あまつさえ、そうした状況と「契り」を交わすようにすら、なる。

 だからこそ、本作は後半で脱出もののスリラーとなるのだ。トムは逃げなければならない。フランシスの暴力から、非寛容から、あるいは、重ね続ける嘘から。そうした社会的なアングルはブシャールの戯曲の時点ですでに確立してはいただろうが、ドランがここでやっているのは、ヒッチコックが比較に挙げられるような「映画」的な文法にそれを乗せることである。弛むことのない緊張感。パーソナルな度合いが強かったドランのフィルモグラフィのなかで、明らかに『トム・アット・ザ・ファーム』は自分自身と、世の同性愛者が置かれた状況を異化して見つめることでそのフォルムの完成度を高くしている。
 ラストで流れるのはルーファス・ウェインライトの“ゴーイング・トゥ・ア・タウン”だ。「僕はアメリカにはうんざりなんだ」……。その歌声はそこで、逆説的に希望として響いている。「自由」はもしかしたら囚われの身でいることよりも困難で、不安なことかもしれないが、だからこそ踏み出す価値がある。逃げなければならない、僕たちは逃げなければならない……。

予告編

interview with Bok Bok - ele-king

 今年の元旦だっただろうか。リンスFMでの〈ヘッスル・オーディオ〉の番組でベンUFOとピアソン・サウンドとのB2Bに招かれたのは他ならぬボク・ボクだった。〈ヘッスル〉のふたりがダブステップをかけまくるなか、〈ナイト・スラッグス〉のリーダーはグライムで対抗。レコード屋の壁一面がダブステップだったゼロ年代初期、店員がヤングスタだろうがそこへグライムを求めに通っていたという男は、最後までけっして折れなかった。まさに現代版のセロニアス・モンクとマイルズ・ディヴィスによる喧嘩セッション。2014年のはじまりは血塗られていたのである(ちなみに、この3人はとても仲良しで後日にもB2Bをしています)。


Bok Bok
Your Charizmatic Self

Night Slugs / ビート

ElectronicDubstepGarageGrime

Tower HMV Amazon iTunes

 こんな出来事を紹介してしまったが、ボク・ボクは決してグライム原理主義者というわけではない。彼はロウ・ハウスからときにヒップ・ホップやジュークへと展開もさせられる技術と、あらゆるジャンルへの感受性と柔軟性の持ち主だ。〈ナイト・スラッグス〉のアーティストが集結するパーティのフロアに一時間立っていれば、彼ら全員がこの素養を持つフロアから「モテる」DJだという答えにたどり着く。ひとつのジャンルを一晩流しつづけるシリアスなパーティも最高だが、〈ナイト・スラッグス〉が持つどこにでも行ける「軽さ」(もしくはいい意味での「チャラさ」)もなければシーンのバランスが取れなくなってしまうのかもしれない。

 だがボク・ボクがグライミーでありつづけていることもたしかだ。EP『ユア・カリズマティック・セルフ』にはR&Bやファンクがある。〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルである〈フェイド・トゥ・マインド〉から2013年にアルバム『カット4ミー』をリリースしたアメリカのアンダーグラウンドの歌姫、ケレラが参加した“メルバズ・コール”。「ベース系」といわれるジャンルでは珍しくスラップ・ベースが使われている“ファンキエスト”。いままでボク・ボクがプロダクションであまり見せてこなかった姿がここにはあるものの、BPM130-140付近の曲の早さや空間を際立たせる技法、そしてベースの使い方はグライムである。自身のルーツとDJで培った「モテ感」が絶妙な作品だ。

 さて、このあたりでそろそろご本人に登場してもらいましょう。レーベルの過去と未来について、ロンドンの思い出、ディジー・ラスカルからDJラシャドまで、ボク・ボクは多くの質問に軽やかに答える。そして、最後まで読むといいことがあるかもしれません……。
(テキスト:髙橋勇人)

Bok Bok / ボク・ボク
音楽からファッションまで注目を集めるロンドンの若手クリエイター集団、〈ナイト・スラッグス〉の中心人物。そのネットワークはニューヨークにまで及び、姉妹レーベル〈フェイド・トゥ・マインド〉とともにアンダーグラウンド・シーンにおいて強い発信力と存在感を誇っている。自身のプロジェクトにおいては2011年の「サウスサイド」が脚光を浴び、本年リリースの『ユア・カリズマティック・セルフ』へは、デビュー・アルバム『CUT4 ME』(2014)が『ガーディアン誌』の年間アルバム・チャート7位にもなったヴォーカリスト、ケレラをフィーチャーするなど、先進的な動きをオーガナイズする嗅覚と手腕にも長けている。


建築って、建てられた時代によって当時の技術が反映される。なおかつ建築のプロセスでアナログ、つまり人力が使われないことはない。そういった感じで、自分たちは現在のテクノロジーをアナログの手法を取り入れながら音楽で表現したいという気持ちがある。

今日はあなたにプレゼントを持ってきました(『ele-king vol.12』を見せる)。この号では〈フェイド・トゥ・マインド〉を特集したんですよ。このグラフィックはキングダムがデザインしたものなんですよね?

ボク・ボク(以下BB):ワオー、ありがとう! このロゴをデザインしたのは僕なんだけど、背景のコラージュとかはキングダムがやっているよ。すごいね、見開きが4つも!

この会場(代官山〈UNIT〉)でDJしたことってありましたっけ?

BB:日本には何回か来ているんだけど、ここは今回が初めてなんだよ。この楽屋には友だちのサインがたくさんあるね(笑)。お、ヤングスタのサインがある。彼がロンドンのブラック・マーケット・レコードで働いていたときによくレコードを買いに行ったよ。2004年とかだったと思うけど、そのときにフロアで売っているレコードのほとんどがダブステップで、そんななか僕はグライムを買いによく店に行っていた。僕が聴きたいグライムのレコードを「この曲はクソだな! 俺が作るんならプロダクションはこうする」とかヤングスタは言っていたよ(笑)。

おお(笑)。それがいつの話ですか? 僕は店名がBMソーホーになってから行ったんですが、ダブステップはあくまでお店の一部という感じでした。

BB:それが2004年くらいかな。〈dmz〉とかがはじまった年でダブステップが盛り上がってくる時期だったんだよ。

以前、この部屋でアンディ・ストットとデムダイク・ステアにインタヴューをしたんですよ。デムダイク・ステアの「テスト・プレシング #5」はグライムみたいでしたよね。

BB:グライムが登場してからもう10年は経つけど、いまになってシーンに外のプロデューサーたちがグライムを取り入れたりしている印象だな。僕が最初にグライムを聴くようになったときと比べたら、現在はより多くのひとがシーンに注目しているのはたしかだ。僕は初期からシーンを追っていたから、当時を思い出してちょっとノスタルジアを感じるよ(笑)。ダニー・ウィードとかジョン・E・キャッシュとか懐かしい!

〈フェイド・トゥ・マインド〉と〈ナイト・スラッグス〉のロゴ・デザインはあなたが担当されたとのことですが、それらはポスト・インターネット世代のストリート感を象徴するデザインだと思います。

BB:おお! 僕も部分的にはそう思うかな。現在ってもう完全にコンピュータの時代だけど、僕がネットをはじめたときっていまほどユビキタスって感じではなかった。インターネットが発達する前後の境目が僕の世代なんだ。だから、僕よりちょっと年下のひとたちにも違和感を覚えるときがある。


グラフィティという意味でなら言うべきことはあるね。じつは僕はグラフィティをやっていたことがあるんだ。

初めて自分のパソコンを手に入れたのはいつなんですか?

BB:1999年くらいかな。でもそれは1.0世代のコンピューターだった。SNSも何もなくて、いまとはまったく違ったものだったな。マイスペース、フェイスブックもなければツイッターもなかった。

あなたのデザインを見ていると、いまはストリートがネットのなかにある気がするんですよ。ストリートというものはご自身のなかで重要なものなんですか?

BB:ストリートは広い意味だけど、具体的に言うと?

グラフィックのようなものから、自分たちだけの遊び場という意味です。

BB:グラフィティという意味でなら言うべきことはあるね。じつは僕はグラフィティをやっていたことがあるんだ。そのことをほとんど誰も知らないんじゃないかな。だから初期の〈ナイト・スラッグス〉のロゴもグラフィティ的なタイポグラフィの影響がある。だけど僕はもともと印字や文字列が好きなんだ。僕にはそういったデザインのバックグラウンドがあるからね。ストリート的なものが自分のデザインに関係しているだろうけど、それが直接的なのか間接的なのかはわからないんだ。

もし2014年の現在に〈ナイト・スラッグス〉をスタートさせていたとしたら、デザインは同じものになっていたでしょうか?

BB:判断するのは難しいけど、たぶん同じものになっていたと思う。僕たちはいろいろ経験を積んできたから、もちろん違ったデザインをする可能性もあるよ。でも僕はひとつのことに執着するタイプなんだ。いろんなものに毎日手を出すひともいるけれど、僕はそうじゃないかな。最初からそのマインドはずっと変わっていない。


僕たちは現在にいるから、そこから目を背けてしまったら偽っていることになると思うんだ。

もうひとつデザイン的な意味で言うと、近未来的な要素も〈ナイト・スラッグス〉にとっては特徴的だと思います。80年代へのオマージュのようにも見えますね。この数年来、そうしたリヴァイヴァルもありましたが、今度は時代が90年代へ向かっていると思います。90年代カルチャーで思い入れが強いものはありますか?

BB:その質問に答える前にいくつか付け加えることがあるな。僕は80年代に生まれて90年代に育ったから、そのあたりの文化に影響されているかもね。だけど、僕が音楽とアートワークをデザインするときは、自分の置かれていた環境を参照したりはしないよ。そのふたつがいかに上手く結びつくかをつねにチョイスしているから、創作のプロセスに取り入れるものは現在かもしれないし場合によっては過去かもしれない。
 2010年は本格的に〈ナイト・スラッグス〉をはじめた年なんだけど、当時のアートワークは80年代の初期にパナソニックが発表した「グライダー」(ロバート・エイブル・アンド・アソシエイツ制作)というヴィデオに影響を受けている。デザインを考えているときのリサーチをしている段階で見つけたんだよね。そこから僕たちのデザインは変わっていったけど、もとにはこの作品がある。



 これはかなり初期のCGによる作品で、シンプルだけど温かみがあるデザインが好きだ。全部デジタルだけど、ある種のソウルを感じない? これ以上細部にこだわったら、このテクスチャーは出ないだろうね。たしかに80年代を象徴するような作品だと思うけど、単純にこのヴィデオが持つフィーリングに惹かれたんだ。

未来を描いているようだけど、映像の主体が機械ではなく紙というところがおもしろいですね。

BB:そうなんだよ! 全部がデジタルなんだけど、冷たさは感じられないんだ。

そういう嗜好をお持ちなのは、アナログ的なものへの興味があるからですか?

BB:アナログのプロセスは大好きだ。現在ではかなり珍しいものになってしまったけど、大事にしていることのひとつだね。機材もアナログのものが多い。でも、それと同時にデジタルとアナログの組み合わせにも可能性を感じているんだ。仮にすべてアナログのみでプロダクションをしてしまったら、レトロ過ぎる仕上がりになってしまう。それだけはどうしても避けたい。だって僕たちは現在にいるから、そこから目を背けてしまったら偽っていることになると思うんだ。もちろん、現在だってアナログのみで作られた作品もたくさんあって、インスパイアされるようなものもあるけれど、同時におもしろくないものも多い。
 大事なのは最良の結果を導き出すことだよね。アナログの利点は暖かくて、人間味があって、操作の面でオープンであることだと思う。対してデジタルはプロセスが簡潔で音がクリーンだ。たとえば、建築って建てられた時代によって当時の技術が反映される。そしてなおかつ建築のプロセスでアナログ、つまり人力が使われないことはない。そういった感じで自分たちは現在のテクノロジーをアナログの手法を取り入れながら音楽で表現したいという気持ちがある。

『グライダー』を見てからいまの話をきくと、新作EP「ユア・カリズマティック・セルフ」は、まるであなたのトラックが部屋で、ケレラの歌が紙飛行機だというふうにも感じられます。

BB:その解釈はおもしろいね。じつは今回のEPのプロダクションではアナログの音源をかなりたくさん使っている。それを最終的にデジタルで処理するんだけど、それが僕のスタイルなんだよ。

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「ファンキー」って言葉は自慢するときによく使われるんだ。そして、ファンクは滑らかなソウルへの反抗でもあったわけだからね。

このEPでおもしろいところは他にもあって、たとえば“ファンキエスト”という曲があります。「ファンキエスト」は「ファンキー」の最上級ですが、この曲はファンクネスからむしろファンクを削ぎ落して残ったものという感じがするんです。

BB:なるほど。スタイル的にはファンクじゃなくてグライムだしね。

どうして“ファンキエスト”という名前なんでしょうか?

BB:「ファンキー」って言葉は自慢するときによく使われるんだ。「俺が最高でもっともファンキーだ!」とか、「5分後、俺が最高にファンキーになってやるぜ」とかね(笑)。
 そうやって「ファンキー」は人間味とかを意味することもあるけれど、同時に堅くて尖っているものを指したりもする。たとえばファンクのスラップ・ベースも尖った音だよね。ファンクは滑らかなソウルへの反抗でもあったわけだからね。この曲のサウンド面で意識したのは、スタイルとしてのファンクではなくて、そういったフィーリング的なものだね。もともとそういう表現が好きで、それをテーマに作ってみた。

そういった堅さや尖ったイメージというものが、あなたのスタイルや〈ナイト・スラッグス〉にはあると思います。ファンクからファンクを削ぎ落していったようにも見えるけれど、いまおっしゃった意味でもっとも「ファンク」なんだというのが逆説的でおもしろいです。

BB:ファンクの定義を何とするかでファンク・ミュージックは大きく変わってくる。でも、自分にとってファンクとはいろんなものが集まってできたものなんだ。抽象的というのとは少し違うんだけど、多様な要素を取り込むという意味では自分がやっていることに繋がるものがある。それと同時にグライムというものが自分にとっては本当に大事な要素だったから、サウンドはぶれていないんだ。

あなたは過去にもグライムの素晴らしい曲をリリースしていますし、オールド・スクールのグライムにも精通しています。“サイロ・パス”という曲ではディジー・ラスカルの“ゴー”をサンプリングしていますよね。少し前ですが、2012年のロンドン・オリンピックの開会式にはディジー・ラスカルが登場しました。あなたはそれをどのように見ていたのでしょう?

BB:ディジー・ラスカルはもはや人間国宝みたいなものだからね。彼のファースト・アルバムはゲットーでの暮らしについてのものだった。最近の曲では、彼はふたつの選択で迷う自分についてラップをしたりする。「俺はゲットーに戻るべきか、それとも夢を追うべきか」みたいにね。いまとなっては、ディジーはグライムを超越する存在になった。ファッションに夢中になり過ぎていたこともあったけど、最近はまた昔のスタイルに戻りつつある。その一方で彼はポップ・スターなわけだ。彼のロール・モデルはすごいと思うよ。オルタナティヴであると同時に国宝級に大きな存在であるわけだからね。セレブの世界にだって彼はいける。オリンピックの開会式への出演はまさにそんなディジー・ラスカルの両義性を象徴していると思う。


ディジー・ラスカルはもはや人間国宝みたいなものだからね。彼のロール・モデルはすごいと思うよ。オルタナティヴであると同時に国宝級に大きな存在であるわけだからね。

ブリストルのカーン&ニークは〈バンドゥール〉を立ち上げて、グライムのリリースをレコードしています。彼らは現在もダブプレートを切っていますが、その活動についてどう思いますか?

BB:昔は僕もダブプレートを切っていたんだけど、値段が高くなってしまったからもうやらなくなった。それに、どんなメディアを使おうが自分の音楽には関係ないと思う。自分はCDJも使うから、ダブプレートの音がいいのはわかるけど、そこにこだわる必要はないんだよ。もちろん、いまもダブプレートを切っているひとたちを尊敬しているけどね。

ちなみに、グライムにはMCも重要な要素ですが、どうしてあなたはMCをやろうと思わなかったんですか?

BB:プロダクションの面に関しては自分はいけると思ったけど、MCの才能が僕にはなかったからね(笑)。

最近のダンス・ミュージックの傾向として、たとえばテセラらスペシャル・リクエストのようにジャングルやレイヴの要素を積極的に取り入れる動きがあります。このような流れのなかで、あなたはどうしてジャングルをやらないんでしょうか?

BB:単純に自分のバックグラウンドにジャングルがないんだよ。それに僕は起こったことをフォローするタイプの人間じゃないから、無理にトレンドを追うことはしない。

あなたにとってジャングルとグライムは何が違いますか?

BB:自分が15歳くらいのときにグライムをリアルタイムで体感できたことは大きな差になっているね。ジャングルには間に合わなかったからさ。取り巻く文化もぜんぜん違うよね。ジャングルはドラムンベースになって文化的な意味で「終わり」を迎えた。グライムはガラージから発展したものだけど、当時はそれが単なる移行ではなくて新しい文化が芽生えたように思えたんだよ。
 音楽そのものにしてみても、グライムはテクノのフォーマットにとても似ている。メロディとノン・メロディや、音楽的なものと非音楽的なものの境を行きできる点とかね。ジャングルだってもちろんそうだけど、なぜか自分にはピンとこなくてね。それに対してグライムは自分にとってとても響く存在だったんだ。


ジャングルはドラムンベースになって文化的な意味で「終わり」を迎えた。グライムはガラージから発展したものだけど、当時はそれが単なる移行ではなくて新しい文化が芽生えたように思えたんだよ。

〈ナイト・スラッグス〉は今年で6周年を迎えて、最初の領域からだいぶ広がって世界的な規模で動いていると思います。もともとの形──小さなパーティというレベルに戻したいという思いはありますか?

BB:戻りたくはない。たしかに前よりも多くの場所でDJするようになった。今度はツアーで南アフリカへ初めて行くんだ(笑)。でも自分の活動は同じものが長く連続しているだけだよ。僕はそれに関してかなり前向きに考えている。レーベルを6年やってきたけど、ジャンルについてもあんまり考えてこなかったな。つねにフィーリングを大事にしてきたからね。そういった姿勢は少なくとも僕の立場から見ると変わっていない。

パーティのような、集まりであったり現場であったりというところに原点があるわけではないんでしょうか?

BB:現在はスタジオにいる時間のほうが長いから、パーティの現場へ行く時間は前よりは減ったかな。最初の2年くらいは、音楽を作っている仲間の作品の発表場所として現場を重視していたけど、2008年くらいから曲をリリースできるようになった。活動の領域が変わったのはそこからだね。

作品をリリースしていくことがレーベルの大きな目的だったんですか?

BB:そういうわけでもなかったよ。最初はリリースするものが何もなかったからね。DJをはじめて曲を作る前から、僕は音楽のコレクターだった。だからレーベルを立ち上げて曲をリリースするのは夢ではあったよ。それがいまではできている。でも、「いまみたいになりたい!」と昔から強く思っていたわけでもない。当時の自分のまわりにいた音楽仲間に恵まれていて、彼らと何かやってみたいと思っただけなんだよ。

この質問は日本のファンのためにも整理しておこうと思うんですが、〈ナイト・スラッグス〉と〈フェイド・トゥ・マインド〉の関係はどういったものなんですか?

BB:オーケー! 〈ナイト・スラッグス〉のあとにできたのが〈フェイド・トゥ・マインド〉で姉妹レーベルにあたる。たまにぶつかることもあるけど、家族のケンカみたいなものだよ。だから双子ではなくて兄弟なんだ(笑)。クルーそれぞれがユニークなアイディアをもっているからね。〈フェード・トゥ・マインド〉はアメリカ的なものを、〈ナイト・スラッグス〉はロンドンの側面を体現していて、それぞれのアイデンティティがある。でも通じるものがあるからコラボレーションもするんだ。

ロンドンとアメリカの関係を作りたかったという意図はあるんですか?

BB:そうじゃないよ。〈フェイド・トゥ・マインド〉はキングダムが自発的にはじめたレーベルだからね。彼がレーベルをはじめるときに、僕はロゴのデザインを頼まれたんだけど、「そうしたらレーベルは〈ナイト・スラッグス〉みたいになっちゃうよ?」って言ったんだ。するとキングダムは「それでいいじゃん!」って快く答えた。そこからいまのような関係に発展したんだ。ちがう場所に尊敬できる相手がいることは、自分に夢がかなったような気分だな。


彼がレーベルをはじめるときに、僕はロゴのデザインを頼まれたんだけど、「そうしたらレーベルは〈ナイト・スラッグス〉みたいになっちゃうよ?」って言ったんだ。するとキングダムは「それでいいじゃん!」って快く答えた。

今日は〈テックライフ〉のTシャツを着ていますが、この会場はラシャドが東京でプレイした最初で最後の会場です。彼とフットワークについて意見があれば教えてください。

BB:彼は音楽的に多くのものを残した。80年代のシカゴ・ハウスのときからフットワークのシーンにはすごい才能を持ったプロデューサーがたくさんいるけど、ラシャドはそれを世界に広める役割、つまり大使のような存在だったね。彼はフットワーク以外のジャンルのプロデューサーと交流してメッセージを広めていた。

リンスFMでP.O.L.スタイルとともにラシャドの追悼セットをしていましたが、誰のアイディアだったのでしょうか?

BB:その日は僕がリンスでプレイする予定で、ポール(P.O.L.スタイル)が僕のゲストだった。前日のラシャドの訃報が届いたんだけど、そのときのムードがかなり緊迫したものだったから、なんとかしなきゃなと思ったんだ。だからいろんな種類の音楽をかけて追悼することにしたんだ。あれは正しい選択だったと思っているよ。ラジオでかけたことがない曲もたくさんかけて、世界中のリスナーと共有できたしね。

ファッションが昔ほど音楽カルチャーを引っ張らなくなりましたが、たとえばファッション、あるいはヴィジュアル表現へのこだわりはありますか?

BB:たしかにそのとおりだね。いま世界では文化が単一化していて、どこに行っても似たような格好のひとが増えた。ファッションに音楽が入る余地がなくなってきているように思える。
 僕の場合、ファッションと音楽って必ずしも結びつくものではないんだ。スケートボードにはまったときに、ヴィデオをみたりしてヒップホップとパンクが結びついていることに影響されたりはしたけどね。
 〈ナイト・スラッグス〉のヴィジュアルに関しては音楽のアイディアやフィーリングをもとにしている。ファッションについてはあんまり考えてはいないけど、いつかできたらいいな。

〈ナイト・スラッグス〉はひとつのスタイルを提示してきました。そして、その中心にはあなたがいましたね。2020年までにあなたが提示していくもののなかに何を期待できるでしょう?

BB:難しい質問がきたね(笑)。いまと同じ価値観を保ちつづけているかぎりは同じことをやっていくと思う。いまのスタンスでまだまだできることは多いと思うんだ。音楽的にはより多くの要素を取り入れてみたい。アートをより経験的なものにするアイディアも出てるんだよ。たとえばアートワークと音楽にしてみても、インスタレーションみたいな形で表現することだっておもしろそうだよね。こんな感じで可能性はたくさんはあるけど、自分がいままでやってきたことを続けていくよ。


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My Panda Shall Fly - ele-king

「ハッピーバースデイ、ニーナちゃん!」という宇川直宏の掛け声でニーナ・クラヴィッツのDJがはじまる。10月だけ秋葉原の〈3331〉で開催されているDOMMUNEは、家から歩いていこうと思えば行ける距離なので、買い物のついでに足が向けられる。先日もそんな調子で軽くフロアを覗いてから家に帰ってふと思った。いつの間にか英米だけではなくロシアだとかアルゼンチンのDJを気軽に見ることができるようになっていると。90年代の初めはドイツのダンス・カルチャーだって遠くに感じられたのに。

 今年に入ってからもようやくデビュー・アルバムをリリースしたモー・カラーズがモーリタニア、同じくアーカがヴェネズエラときて、ラッカー(Lakker)のリミックスに惹かれて興味を持ったスレン・セネヴィラトニ(Suren Seneviratne)もスリランカ出身だという(96年からロンドン在)。ラッカーが起用されていたEP『プッシュ』はモウ’リンとの共作だったので、どこからどこまでが彼の作風なのかは推し量ることができなかった上に、そもそも回転数がよくわからなかったので、〈サウンドウェイ〉からとなったセカンド・アルバム『トロピカル』が僕にとっては明確な導入部である。〈サウンドウェイ〉は〈オネス ト・ジョン〉をじりじりと追いかけているようなレーベルで、アンゴラのバティーダ(Batida)やコロンビアのメリディアン・ブラザーズなどクラブ・カルチャーとの境界線をなし崩しにするリリースが増えつつあり、どこか気取った〈プロジェクト・ムーンサークル〉からリリースされた『プッシュ』とはイメージが結びつかず、むしろ、そんなにもワールド寄りなのかと驚いたぐらいである。しかし、実際には、これはNYでレコーディングされたエスニック・ポップであった。同じくスリランカのMIAがクゥドロやバイレ・ファンキなど世界のリズムに目配せをしていたようなものとはまったく異なり、都会的な洗練に覆い尽くされていたのである。

 と、それで価値がなくなってしまうわけではない。僕には『トロピカル』がトーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1980)のソフィスティケイティッドされた後日談に聴こえ、フェイクの金字塔として輝けるその地位を補強するものに思えて仕方がない。かつて、トーキング・ヘッズは都会から足が抜けなくなったルー・リードとは対照的に、都会にいながらリモート的にどこへでも移動し、トポスからはかけ離れたポップの構造を生み出すことに成功した。まさに「you may find yourself in another part of the world」(「Once In A Lifetime」)である。「ノー・ニュークス」をモジッただけとはいえ、『ノー・ニュー・ヨーク』(1978)とはよく言ったものだけれど、自分がその場にいないという感覚は故郷喪失者たちによるロックン・ロールからヴェイパーウェイヴまで、ポップには必然的に伴ってきた要素ともいえる。アフリカ・バンバータしかり、マスターズ・アット・ワークしかり。ラプチャーやLCDサウンドシステムが『イエス・ニュー・ヨーク』(2003)を掲げた時期はハテナだけれど、現在ならOPNがそのフロント・ラインに立ち返ったといえるだろうか。

 途上国から出てきたミュージシャンには2タイプある。過剰に祖国やその文化圏を思い出す叙情型と、まったくのデラシネと化してしまう叙事型である。「僕のパンダが空を飛ぶ」とは上手くつけたもので、土地との結びつきをなくし、架空の世界に飛翔する契機がまずは言葉によって与えられる。それこそこの世界にパンダを私有している人間など存在しないし、それがさらに空を飛んでしまうとはファンタジーもいいところだし、それで「トロピカル」とくれば、トーキング・ヘッズを上回るフェイクが繰り広げられたところでまったくおかしくはない。そういえばアーサー・C・クラークは『スリランカから世界を眺めて』(1977)で同国を地上の楽園にたとえていたなー。

♪Letting the days go by~ (“Once In A Lifetime”)

Chim↑Pomに捧げる! - ele-king

 「三田さんは僕の音楽をいつも全否定するんですよ。だからプロデュースをお願いしようと思って!」「あはははは!」というやりとりののちに、制作者たちによるライナーを眺めて2度爆笑した。いや、黒笑というべきだろうか。三田格のブラック・ジョークが炸裂した名ライナー(しかもご丁寧に英訳されていて3度黒爆笑だ)も必見の、why sheep? 11年ぶりのサード・フル・アルバム『REAL TIMES』が〈U/M/A/A〉からリリースされた。

 ジャケットとなる作品は、きわどく社会への問題提起をつづけるアート集団Chim↑Pomによるものだが、3.11以前から彼らにジャケットを依頼することは決まっていたそうだ。震災は予定外の出来事だったが、その直後にChim↑Pomによって現地で制作された作品とその展示「Real Times」から大きく感銘を受けたwhy sheep? は、本作を『REAL TIMES -dedicated to Chim↑Pom-』として完成させた。ゲストにもUA、EYE(ボアダムス)、Cuizinier(TTC)など豪華な顔ぶれがそろう。また、ブックレットには渋谷駅にて撮影された写真も使用されている。

Chim↑Pomによるアートワーク
Red Card
2011 ©Chim↑Pom
Courtesy of MUJIN-TO Production, Tokyo

Why Sheep?
Real Times -dedicated to Chim↑Pom-

U/M/A/A

2014年10月8日(水)発売
UMA-1044 / 価格2,500円(税込)

Tower Amazon

■収録トラック
1.Rue Pierre Leroux
2.Radiation #1
3.11th (Away From The Borders, Close To The Borderless) feat.EYE
4.Somewhere At Christmas
5.Radiation #2
6.Grum Sai Grum
7.On My Answering Machine
8.relativisme extrême
9.Mandarake feat.Cuizinier(TTC)
10.Empathy feat.UA -PUSH-
11. Sênga (Empathy Reprise)

■プロフィール
Why Sheep? (内田学)
細野晴臣のレコーディング・アシスタント等を経て、WHY SHEEP? 名義でM.O.O.D(Moodman主宰)より1996年伝説的なファースト・アルバムをリリース。国内外のメディアで大きな反響を呼ぶ。その後アジア、ヨーロッパを中⼼に世界各国を放浪。7年間の沈黙の後、2ndアルバム『The Myth And i』が日・欧・米と世界発売される。数々のリミックスや映画等のサントラ、プロデュース等を手がけると同時にサマーソニック等、国内外での公演を精⼒的にこなす。2007年には、⾳を禅の作庭術になぞらえたサウンド・アートプロジェクト“枯⼭⽔サラウンディング”を⽴ち上げクリエイティヴ・ディレクターを務める。東急多摩川線全駅を使った多摩川アートラインプロジェクトでの作品「八水響」などが有名である。2010年には故マイケル・ジャクソンの伝記『マイケル・ジャクソン・レジェンド』(チャス・ニッキー=バーデン著)の監修も手掛け、初版1万部が予約のみで完売する。3.11以降、アーティスト集団Chim↑Pomの映像作品"気合い100連発"にリミキサーとして参画し、トークイベント"Rm311"を開始する等、⾳楽活動の領域を超えて勢⼒的に活動し、2014年秋、集⼤成ともいえる3rdアルバム「Real Times」をリリースする。

■Chim↑Pom の『Real Times』展とは
2011年5月20日-25⽇に無⼈島プロダクションで開催した芸術実⾏犯「Chim↑Pom」の個展。
2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発での事故を受けて制作された作品群。巨大な現実を前にアートの無⼒が語られ、多くの展覧会が⾃粛された中、Chim↑Pomは現地に赴いて作品を制作。また、渋谷駅に永久設置されている、日本の被爆/被曝のクロニクルとも言える巨大壁画「明日の神話」に福島原発の事故の絵をゲリラで付けたし社会的事件を引き起こした。それらの作品で構成された「Real Times」展は、日本における震災・原発事故への代表的なレスポンスとして、国内のみならず海外でも大きく報道された。
https://chimpom.jp


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