「K A R Y Y N」と一致するもの

Synth-pop, Rock & Roll, Electronica, Juke, etc. - ele-king

Inga Copeland - Don't Look Back, That's Not Where You're Going
World Music


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「Don't Look Back, You're Not Going That Way.(振り返らないで、あなたはそっちではない)」、いかにもアメリカが好みそうな自己啓発的な言葉で、沢井陽子さんによれば、この言葉がポスターになったり、ブログのキャッチになったり、本になったりと、いろんなところに出てくるそうだ。インガ・コープランドは、そのパロディを彼女のセカンド・シングルの題名にしている......といっても、この12インチには例によってアーティスト名も曲目もレーベル名も記されていない。表面のレーベル面には、ナイキを着てニコっと笑った彼女の写真が印刷されていて、裏側は真っ白。ちなみにナイキは、彼女のトレードマークでもある。
 Discogsを調べると今回の3曲のうち2曲はDVA、1曲はMartynがプロデュースしているらしい。ディーン・ブラントではない。ベース系からのふたりが参加している。レーベルの〈World Music〉は、ブラントとコープランドのふたりによる。1曲目の"So Far So Clean"はアウトキャストの"So Fresh, So Clean"のもじりで、「いまのところとってもクリーン」なる題名は悪ふざけだろう。シニシズムは相変わらずで、しかし音的にはスタイリッシュになっている。

Synth-pop

Jamie Isaac - I Will Be Cold Soon
House Anxiety Records


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 デビュー・アルバムのリリースが待たれるキング・クルーの初期作品を出していたレーベルから、冷たい心を持った新人が登場。簡単に言えば、ザ・XX、ジェイムズ・ブレイクの次はこれだろう、そう思わせるものがある。まだ聴いてない人は、"Softly Draining Seas"をチェックしてみて。

E王

Electronic Blues

Americo - Americo graffiti PEDAL


 アメリコは、50年代のロックンロール(ないしはフィル・スペクター)×70年代の少女漫画(ないしは乙女のロマンス)×70年代歌謡曲×ポストパンクという、なかば超越的なバンドだ。坂本慎太郎作品やオウガ・ユー・アスホール作品で知られる中村宗一郎をエンジニアに迎えての12インチで、全6曲。アートワークも楽曲も(そして録音も)アメリコの美学が貫かれている。ヴォーカルの大谷由美子さんは、80年代はクララ・サーカス(日本でザ・レインコーツにもっとも近かったバンド)なるガールズ・ポップ・バンドをやっていた人。

Rock & RollDream Pop

DJ まほうつかい - All those moments will be lost in time EP HEADZ


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 クラスターのレデリウスを彷彿させる素朴なピアノ演奏ではじまる、。DJまほうつかいこと西島大介の4曲入り......というか4ヴァージョン入り。本人の生演奏によるピアノをまずはdetuneがリミックス、自分でもリミックス、そして京都メトロでのライヴ演奏が入っている。エレクトロニカ調のもの、クラウトロック調のもの、少しお茶目で、それぞれに味がある。西島大介といえば可愛らしい画風で知られる漫画家だが、これは漫画家が余興でやったものではない。僕は最初の2と3のヴァージョンが良いと思ったが、もっともシリアスなライヴ演奏が最高かもしれない。

Modern ClassicalAmbient

DJ Rashad - I Don't Give A Fuck Hyperdub


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 これだけファック、ファック言ってる曲はラジオではかけられないが、海賊ラジオやネットでは大丈夫なのか。DJラシャドの「ローリン」は今年前半の最高のシングルだった。"アイ・ドント・ギヴ・ア・ファック"は前作のソウルフルなな路線とは打って変わって、残忍で、好戦的で、不吉で、緊張が走る。声ネタを使ったDJスピンとの"Brighter Dayz"ではジャングル、フレッシュムーンとの"Everybody"でも声ネタを使った、そして頭がいかれたジャングル、DJメニーとの"Way I Feel"はパラノイアックで不穏なR&Bを披露する。楽しんでいるのだろが、しかし......やはり恐るべき音楽だ。

Juke, Footwork

Tuff Sherm - ele-king

 リッチー・アフメドのミックスCDオーディオ・アトラスのデビュー作を聴いていると、なるほど三度めのアシッド・ハウス・リヴァイヴァル(ティン・マンいわく、ネオ・ネオ・アシッド)が本格的になってきたようである(一度めのリヴァイヴァルは93年から96年まで。二度めは04年から05年にかけて)。ハイエログリフィック・ビーイングのレーベルからリリースされたギリシアのオーディオ・アトラス『ウインドウ・2・ザ・ワールド』(あえて橋元優歩の議論には乗りません)は「よくできている」。文句はない。完成度も非常に高い。イギリスではチャンピオン・オブ・グライムと言われたリンスがついにハウスのDJとして起用したリッチー・アフメドも前半のホット・ネイチャードからダニー・テナグリアにかけての展開はフラッシュ・バックを起こしそうなほど強酸性で、現在のLAに負けないドラッグ・カルチャーが音楽の背後に蠢いていることを感じさせてくれる。それに続けて収録されているアフメド自身のトラックは「♪エル・オー・ヴイ・イー、ラ~ヴ~」と単刀直入なコーラスを聴かせてしまうほどである。ほとんどサマー・オブ・ラヴである。迷いがない。

 とはいえ......なんとなく新鮮味がない。ジミ・ヘンドリクスそっくりのレコードやジョイ・ディヴィジョンもどきが現れても「世界が変わる」などとは感じないように、言ってみればアシッド・ハウスという音楽的なジャンルの底力に驚くだけである。ソウル・ジャズ、ポーカー・フラット、ボーイズノイズを追って、いまさらながらにテリー・ファーリーが5枚組みのCDボックスをコンパイルし、DJピエール&グリーン・ヴェルヴェットVsフューチャー名義で"アシッド・トラックス2012"がリリ-スされ、ヴァキュラ"ピクチャー・オブ・ユー"が高値を呼び、ミスター・フィンガーズが再発され(それは野田努か)、ムーヴ・Dがマジック・マウンテン・ハイでいまさらながらに絶頂を極め、リフレックスがここぞとばかりにデイヴ・モノリスやシーファックス・アシッド・クルーを送り出してくるなど「ネオ・ネオ・アシッド」を待ち焦がれていた人は思ったより少なくなかったのだろう。そういえば電気グルーヴも20周年でやりまくっていましたよね。

 ドゥロ・ケアリーの名義で"ジャンプ・ウイズ・ザ・ヘヴィ"(2011)や"リーリー・ブリップス"(2012)といった話題のEPを連発してきたユージン・ヘクターはなぜかファースト・アルバムをタフ・シャームの名義でリリース。シャームというのはどうやらエンジェル・ダストのことで(よい子の皆さんはググらないように)、これまでガラージ・ハウスを妙な角度からいじくりまわしてきたサウンドが多かっただけに、この気運に乗じて聴いたこともないような幻覚サウンドが期待できるのかと思ったら、そういうわけでもなく、むしろ作風は地味に。トーン・ホークやナッティマリ(=カート・クラックラッチ)の別名義であるロン・ハードリーとともにクラン・ダスティンの"ダーク・アシッド"にもフィーチャーされるほどアンダーグラウンドからは多大な期待を集めているだろうに、最初はなんで......と思っていたところ、後景の音に意識が集中しはじめると、ああ、やっぱり、これはアシッド・ハウスを洗練させたものであり、独自の文法を作り上げたものだということがわかってくる。アシッドというのは、後景に退かせたサウンドが肝だったりして、曲のなかでヘンな風に動いている音を発見してからが楽しいわけで。あるいは前景に押し出されているリズムにもユニークなものが多いし、19歳で脚光を浴びたヘクターが21歳でここまで歩を進めたことに早くも感動が......。

 それにしても微細なところに神経を使ったアルバムである。どの音に集中するかでぜんぜん曲の特徴も変わってしまうし、ある種のスタイリッシュな印象だけで終わってしまう人も少なからずではないだろうか(それはそれで恰好いいし)。そうかと思うと"ボイルド"のイントロダクションのようにいきなり泥沼に引きずり込むようなトリップ・サウンドを仕掛けてきたりもする(この曲はアシッド・ハウスのノイ!かと思うほど、一曲のなかでスピード感に翻弄される)。あるいは、アシッド・サウンドに特有のズレも随所に盛り込まれていて、予想もしないところで急に快楽への穴が空いたりもする。ヤバい。楽しい。初めてアシッド・ハウスというタームを知ったときの驚きがここでは何度も蘇ってくる。繰り返すけれど、完成度ということではオーディオ・アトラスのそれもミスター・フィンガーズやカール・クレイグに匹敵するものはあるのである(『ウインドウ・2・ザ・ワールド』からはUR"ファイナル・フロンティア"のような曲が次から次へと出てくる)。しかし、トリップ・サウンドにはやはり定型ではなく意外性が求められるのではないだろうか。それを満たしてくれたのはタフ・シャームであって、オーディオ・アトラスではないのである。

 ウイ・コール・イット・アシ~~~~~ッド!!??

11月はすぐそこ! - ele-king

 踊りたい人間と、ちゃんと音楽を聴きたい人間とをともに満足させてくれるエレクトロニック・ミュージックのお祭り〈エレクトラグライド〉が、今年も開催される。昨日、出演アーティスト情報の第一弾が発表となった。ジェイムス・ブレイク、チック・チック・チック、エイドリアン・シャーウッド&ピンチ、ファクトリー・フロア、マシーンドラム。ベテランから新人枠までいずれ劣らぬ存在感を放っており、この後二弾、三弾とつづく情報解禁がさらに楽しみになる。
 そこで勝手にele-king的第二弾大予測を開始する!
 まずはソフィア・コッポラ監督の新作映画にも抜擢され、〈ワープ〉からの新譜も控えてステージをひとつ上げた感あるOPN(Oneohtrixpointnever)。来い! そしてパフォーマンス・スタイルにおいても随一のインパクトを誇り、イクエ・モリとのコラボなどを経ていまやヨーコ・オノからも呼び声がかかるという宅録女子、ジュリアナ・バーウィック。来い! ドローン・フォークからインダストリアルなダンス・ミュージックへ鮮やかに突き抜け、もはやブレイク寸前の超知性派ノイズ・アイドル、ピート・スワンソンも来い! フェリックス・Kやセイント・ペプシなんかもいると楽しいな! 〈ビートインク〉はきっとやってくれるでしょう......昨年同様、外れたらスミマセン!!
 胸を高鳴らせて続報を待とう。

国内最大級のエレクトロニック~ダンス・ミュージック・フェス〈エレクトラグライド〉、今年も開催決定!

electraglide
2013/11/29(FRI)
幕張メッセ

FEATURING:
JAMES BLAKE
!!!
SHERWOOD & PINCH
FACTORY FLOOR
MACHINEDRUM
PLUS MUCH, MUCH MORE ...

日本最大級かつ最も刺激的でクリエイティヴなエレクトロニック~ダンス・ミュージック・フェス〈エレクトラグライド〉!
オービタル、フライング・ロータス、アモン・トビンなどを擁し大盛況のうちに幕を閉じた昨年に続き今年も開催決定!
まずは第一弾ラインナップ(5組)を発表! そして今週末8月24日(土)より主催者先行発売がお得な早割価格¥7,800で開始!

James Blake

2011年1stアルバムで衝撃的デビューを飾り、初来日公演はすべてソールドアウト、2012年のフジロックではWHITEステージのヘッドライナーとして圧巻のライヴを披露、そして今年、2ndアルバム『オーヴァーグロウン』発売後に開催された来日公演でも、追加公演を含む東京2公演を完売! 久しぶりにシーンに登場したニュー・ヒーロー、ジェイムス・ブレイクが、エレグラに登場!

!!!

アルバム『スリラー』リリース後行われた緊急来日公演(完売!)で、噂通りの最狂ライヴでフロアを絶頂へ導いた!!!(チック・チック・チック)

Sherwood & Pinch 

もはやUKベース・ミュージック・シーンの伝説的存在であり、最近もエイジアン・ダブ・ファウンデイションの最新作をプロデュースするなど未だ活発な活動を続けるOn-U Sound総帥エイドリアン・シャーウッドと、ベース・ミュージック新世代の最重要人物ピンチによるドリーム・タッグ=シャーウッド&ピンチ!

Factory Floor

すこぶる高い評価を得た一昨年のフジロックでのライヴも忘れがたい、そして間もなく最新アルバムも発売されるファクトリー・フロア!

Machinedrum

エレクトロニック~ダンス・シーンにおいて絶大かつ強固な信頼を集め、間もなくアルバムが〈ニンジャチューン〉より発売されるマシーンドラム!


今後、続々追加ラインナップを発表していきます!
次回発表も乞うご期待!


■日時
2013/11/29(Fri)

■場所
幕張メッセ

■Open/Start
20:00

■Ticket
主催者先行早割:7,800yen(8/24~9/2)
前売:8,800yen
当日:9,800yen
※18歳未満の入場は不可、入場の際IDの提示をお願い致します。

前売TICKET詳細
◆主催者先行(先着):https://l-tike.com/electraglideticket/
[8/24(SAT)12:00~9/2(MON) 23:00]
先行早割価格 7,800YEN

◆一般発売:9月7日(土)から
前売 8,800YEN
チケットぴあ 0570-02-9999[https://t.pia.jp/] (Pコード:209-961) 初日特電:0570-02-4480
ローソンチケット 0570-084-003 (Lコード:72626) 初日特電:0570-084-637
イープラス [https://eplus.jp]

ビートインク [www.beatink.com] ※先行発売:9月3日より

GANBAN 03-3477-5710 (店頭販売のみ)

※お買い求めいただいたチケットは返品できません。

企画制作:BEATINK / SMASH / DOOBIE
後援:SHIBUYA TELEVISION
INFO:
BEATINK 03-5768-1277 beatink.com
SMASH 03-3444-6751 smash-jpn.com smash-mobile.com
HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999 doobie-web.com

www.electraglide.info

ビル・ドラモンド『45』刊行! - ele-king

 僕が子供の頃は「ロックとは生き方だ」というクリシェがあった。それはセックスしまくって、ドラッグきめて、暴れて、アウトサイダーを気取ることを意味しない。髪型や服装でもない。重要なのはスタイルではなくコンセプトなのだ。「ロックとは生き方だ」とは、「カウンター・カルチャーとしてのロックとは"創造的な"生き方だ」という意味だと、子供の僕は片岡義男の本なんかを読んで解釈した。人生はどんな風にでも生きられるだろう。屋根に登って落書きすることも、金を燃やすことだってできる。失敗もあろう。笑いものにもなろう。口座から金もなくなろう。腹も減ろう。女にも出ていかれよう。音楽をいっさい聴かない自由だってある。が、基本的にそれはわくわくする冒険である。エルヴィス・プレスリーとビート・ジェネレーションとビートルズを結びつけたのはこれだ。
 とはいえ、「ロックとは生き方だ」は、いまとなっては空しい言葉だ。あの犬のように、飼い慣らされたほうが楽なのだ。よって、地球のてっぺんである北極にエルヴィスの銅像を建てなければいけない。地球をよりよくするためには。こうした妄想と、そしてノエル・ギャラガーが『ビー・ヒア・ナウ』発売日前に「地球上のすべてのバンドをなぎ倒す」とラジオで豪語する話からビル・ドラモンドの『45』ははじまる。「地球上のすべてのバンドをなぎ倒す」──なんと珍妙な野心だろう。それが「ロックとは生き方だ」なのだろうか。そして、そのいっぽうでは再結成にいそしむロックのリジェンドたちがいる。ホワット・ザ・ファック・イズ・ゴーイン・オン? ビル・ドラモンドはウッドストックに銃を持っていかなければならないと空想する。そして、バスで図書館に通って、「トリックスター」の意味を調べる。「トリックスターという概念は双子の英雄と関係し、片方、または両方がそれを体現している。変幻自在な存在、トリックスターは創造者だが、同時にずる賢く、時には悪意ある行動を起こし、狡猾すぎるとされることもある。(略)トリックスターの役割は策士であることが多いが、彼は創造神である時もジョーカーである」
 エコー・アンド・ザ・バニーメンとはトリックスターになるはずだった。バンド名はドラムマシンの名前とウサギ男たちという意味ではなく、トリックスターと関わるものであるはずだった。メンバーは意味を間違えている。それでもロンドンの音楽メディアはエコー・アンド・ザ・バニーメンとティアドロップ・エクスプローズを絶賛した。ビル・ドラモンドは自分が思い描いていた「ロック」の不在を、自分の夢想でもって穴埋めする。「惑星間レイラインのせいだよ。宇宙から伸びてきてるこのラインは、地球ではまずアイスランドにぶつかって、そこからウナギみたいにねじ上がり、リヴァプールのマシュー通りに降りてくる。キャバーン・クラブ──後のエリックス──があるところにね。そしてまた戻って、地上をよじれ、曲がりながら進むと、今度はニューギニアの未開の高地に辿り着く。そこからまた宇宙へと帰るんだ。宇宙の果てへ。レイラインのことは知ってるよね? ヒッピーが夢中になってた古代英国を横切る想像上のパワーラインで......(略)」


ビル・ドラモンド・著
『45 ─ザ・KLF伝』

萩原麻理・訳
(8月30日発売予定)

Amazon

 本書『45 ザ・KLF伝』は、1953年生まれのビル・ドラモンドが45歳になったその日から1年にわたって自分の半生を綴った本である。言うなれば一時代を築いた元ポップスターの回想録。ビートルズとパンク・ロック(そしてヒップホップとアシッド・ハウス)をリアルタイムで経験している世代に属するこのスコットランド人は、学校をドロップアウトして、牛乳配達から大工などさまざまな職業を転々としながら、70年代末にエコー・アンド・ザ・バニーメンのマネージャーとして、86年からはザ・JAMS、ザ・KLFのメンバーとして活動を通して経済的な成功を収めている。ブリットアワーズという音楽業界からの大きな賞に選ばれると潔く引退&全作品を廃盤にして、稼いだ大金を燃やしたことでも知られている。金を燃やすことは、新自由主義の脅威が差し迫っている今日において大いなる反対声明にも思える。
 ビル・ドラモンドは、「ロックとは生き方だ」の実践者だと言えよう。トニー・ブレア政権誕生に音楽業界までもが興奮状態となったとき、権力にすり寄る文化人を嫌悪したのもドラモンドだった。金を燃やしたことの自分への祝いものとして自分が好きだった有名な作家のアート作品を買い、そして買った金額でその作品を売りに出すことも、彼が知っているロックンロールに関わる行為だと思える。何を馬鹿な、もういい加減にしろ、という自分の内なるもうひとつの声を聞きながら、ドラモンドは夢見ることを止めない。

 編集者には、自分がどうしても出したい本というものがある。『45』は僕にとってそうしたものの一冊だ。ロックンロールの散文詩のようなこの自叙伝は、「我々がどこから来たのか」について考える契機を与えるだろう。どうか読んで欲しい。45歳になった人も、これから45歳になる人も。ブレイディみかこさんはマルコム・マクラレンを希代のロマンティストと形容しているが、マクラレンが惜しみない賞賛を寄せたのが、ビル・ドラモンドである。(野田努)

GOLDIE x DEGO - ele-king

 ゴールディとディーゴと言えば、泣く子も黙るドラムンベース界の2大巨匠。シカゴ・ハウスで言えば、マーシャル・ジェファーソンとラリー・ハード、NYハウスで言えばフランキー・ナックルズとフランソワ・ケヴォーキアン、デトロイト・テクノで言えばホアン・アトキンスとデリック・メイが一緒に来るようなもの。あまりにでっっっっっかいブッキングだ。とくにディーゴはいま何を回すのだろう? すっっっっっっごく興味あるんですけど......。では、9月21日、代官山ユニット。待ってるぜ。


DBS presents
"GOLDIE x DEGO (2000Black/4hero)"
W Birthday bash!
2013.09.21 (SAT) @ UNIT

feat.
GOLDIE (Metalheadz)

with:
DX
DJ MIYU
DJ ICHI a.k.a DIGITAL ONE

vj/laser:
SO IN THE HOUSE

Painting : The Spilt Ink.

saloon:
DEGO (2000Black/4hero)

Yoshihiro Okino (Kyoto Jazz Massive)
Yukari BB (Juno Records)
Toshimitsu "Tiger" Takagi
OKA (DESTINATION)
SAYURI (DESTINATION)
ZuKaRoHi (ブロークンビーツ酒場)
Shimoda

open/start 23:30

adv.¥3,300 door ¥3,800

info. 03.5459.8630 UNIT

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Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 208-636)、 LAWSON (L-code: 70076)、
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia https://www.clubberia.com/store/

渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、TECHNIQUE(5458-4143)、GANBAN(3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP (5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

★90年代初頭ロンドンのアンダーグラウンドから勃発したUKブレイクビーツ革命はジャングル/ドラム&ベースから今日のベースミュージックの潮流を生んだ。そんなシーンのパイオニアはゴールディー、そして4ヒーロー/ディーゴに他ならない。20数年前、活動を共にして以来、それぞれの音楽を追求して行ったゴールディーとディーゴが9/21(土) 代官山UNIT&SALOONで再会する。GOLDIE x DEGOのW Birthday bash!!!! 奇跡の一夜!伝説を見逃すな!

GOLDIE (aka RUFIGE KRU, Metalheadz, UK)
"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年に4ヒーローのReinforcedからRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル、Metalheadzを始動。自身は95年にFFRRから1st.アルバム『TIMELESS』を発表、ドラム&ベースの金字塔となる。98年の『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極めるが07年、RUFIGE KRU名義で『MALICE IN WONDERLAND』をMetalheadzから発表、08年に自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』を配信で発表。09年にはRUFIGE KRU名義の『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』をリリース、またアートの分野でも個展を開催する等、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続けている。12年、Metalheadzの通算100リリースに渾身のシングル"Freedom"を発表。13年3月には新曲"Single Petal Of A Rose"を含む初のコンピレーション『THE ALCHEMIST: THE BEST OF 1992-2012』がCD3枚組でリリースされ、まさにアルケミストなゴールディーの不朽の音楽性を再認識させる。
https://www.goldie.co.uk/
https://www.metalheadz.co.uk/
https://www.facebook.com/Goldie
https://twitter.com/MRGOLDIE

DEGO (2000Black/4hero, UK)
 ロンドンに生まれたDEGOはサウンドシステムや海賊放送でのDJ活動を経て90年にReinforced Recordsの設立に参加、4HEROの一員として実験的なハードコア/ブレイクビーツ・トラックのリリースを開始。やがて4HEROはDEGOとMARC MACの双頭ユニットとなり、タイムストレッチング等、画期的な手法を編み出し、ドラム&ベースのパイオニアとなる。傑作『PARALLEL UNIVERSE』(94年)、『TWO PAGES』(98年)以降、4HEROはD&Bのフォーマットを捨て、『CREATING PATTERNS』(01年)、『PLAY WITH THE CHANGES』(07年)で豊潤なクロスオーヴァーサウンドを打ち出す。DEGOはTEK9名義でダウンテンポを追求する等、オープンマインドかつ実験的な制作活動は多岐に及び、98年に自己のレーベル、2000Blackを始動し、革新的な音楽共同体としてのネットワークを拡張、ブロークンビーツ/ニュージャズの潮流を生む。KAIDI TATHAMらBUGZ IN THE ATTIC周辺と密に交流し、dkd、SILHOUETTE BROWN、2000BLACK名義のアルバムを制作。11年には満を持してDEGO名義の初アルバム『A WHA' HIM DEH PON?』を発表、ジャズ、ファンク、ソウルetcへの深い愛情を反映した傑作となる。その後も精力的な活動を続け、12年に『TATHAM,MENSAH,LORD & RANKS』を発表している。
https://www.2000black.com/
https://mrgoodgood.com/
https://www.facebook.com/2000blackrecords
https://twitter.com/2000black_dego

〈UNIT〉
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com

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〈GOLDIE JAPAN TOUR 2013〉
9/20(金) 高知 X-pt. GOLDIExDEGO (問)088-885-2626
9/21(土) 東京 UNIT GOLDIExDEGO (問)03-5459-8630
9/22(日) 広島 cafe Jamaica (問)082-240-0505
9/23(月) 札幌 DUCE (問)011-596-8386

〈DEGO JAPAN TOUR 2013〉
9/20(金) 高知 X-pt. GOLDIExDEGO(問)088-885-2626
9/21(土) 東京 UNIT GOLDIExDEGO(問)03-5459-8630
9/22(日) 大阪CIRCUS ---(問)06-6241-3822


MARIA - ele-king

 三田格は『街のものがたり』を読んで真っ先に聴きたくなったのがマリアだというが、その気持ちは理解できる。何を隠そう、橋元と僕もくだんの本を編集しているとき、マリアの章のゲラを読んで涙腺が緩くなったものだ。
 シミラボのライヴで見る彼女はたいてい道化ている。売れっ子ライターの二木信的に表現するならファンキーというのか、彼女はOMSBからのいじりさえも自分を笑う成分に利用する。マリアは、反抗的だがご機嫌なシミラボのステージの華であり、最高の道化師でもある。
 ところが、『街のものがたり』で語られる彼女のエピソードは、軽く笑い流せやしない重たさがある。これはOMSBにも言えることで、敷居が低く、そしてファンキーなシミラボのライヴの背後には、がちにハードなものが秘められている。『街のものがたり』を読んだ多くの読者がマリアに反応するのは、「ええ、こういう人だったんだ」という、ある種の驚きを覚えるからだろう......などと言ったら失礼だろうか、「普通って何? 常識って何?」「そんなもんガソリンぶっかけ火を付けちまえ」と繰り返したシミラボは、ハイブリッドであるがゆえの疎外者の集まりかもしれないが、マイノリティとしての自分たちの人生を売りのタタキにはしていないのだ。

 何にせよ、本作『Detox』はマリアの最初のソロ・アルバムだ。素晴らしい。それ自体に意味がある。〈BLACK SMOKER〉から出た『LA NINA』でも、日本のジュークのコンピレーション『160OR80』でも、彼女は圧倒的な存在感を見せている。日本のヒップホップの新しいミューズへのリスペクトの表れだろう、『Detox』には多くのビートメイカーやラッパーが参加している。シミラボのOMSB(WAH NAH MICHEAL)やUSOWA、LowPassのGIVVN、C.O.S.A.、Earth No Mad、MUJO情、DIRTY-D、Cherry Brown、TAKUMA THE GREAT、DIRTY-DやISSUE、JUGG等々。
 米軍基地は保守派にとってはある種の必要悪、リベラル派にとってはとにかくけしからんものとして、あり続けている。軍人と日本人との間に生まれた子供の居場所は彼らの対立のなかにはなかったが、ヒップホップにはあった。『Detox』から聞こえる希望は、もちろんすべてとは言わないけれど良くも悪くもこと地方では街のちんぴら予備軍の音楽として広まったヒップホップが、あまりにも純粋なモラルを説いていることにある。それはニーナ・シモンから忌野清志郎にいたるまでの、過去の素晴らしいポップスが表してきた地面から見える愛(性愛)に関係している。

 『Detox』には、マリアがいま思っていることすべてが詰め込まれているようだ。男の視線を釘付けにするPVの"Helpless Hoe"では女の狡猾さを攻撃、ねっちこくもグルーヴィーな"Movement"では人びとへ蜂起をうながし、"Depress"では彼女が経験した人種差別を語る。彼女の女性性も表現されている。"Sand Castle"や"Your Place"などいくつかの曲ではその魅力的な声を聞かせる。ナイトライフがあり、国家への不信感、友情や恋心が繰り広げられる。
 僕はマリアのような女性を何人か知っている。女であることを隠さない女、女であることを無理に抑えつけない女は、アメリカからのR&Bの波とともに日本にも定着しているわけだが、『Detox』はジェシー・ウェアやアデルなんかよりもエイミー・ワインハウスに近い。
 しかし、性はすべてを支配しない。クローザー・トラックの"Bon Voyage"は、本能的でありながらも理性的でもあろうとするマリアの内的世界の、見事な叙情詩として、アルバムの核心をまとめ上げる。「大波小波へのへのもへじがあたしのダーリン」「出会いと別れ繰り返すだけ/でもあたしはできない平和ボケ/てめぇの悩みなんてほざけクソくらえ」「わかってもいてもわからないふり/バカ演じてんのがぴったり/ってよりぶっちゃけすげー楽」......(略)
 マリアの純情なソウルこそ、たったいま聴いたほうがいい。愛に向き合ったこのアルバムに僕はがつんと食らった。こういう表現を謙虚な彼女は嫌がるだろうけれど、敢えて言おう。彼女の言っていることはまったく正しい。「この国のアビレージに踊らされるな/君のステップを踏んで行けば/世界はゆれる/地球はまわる」"Never To Late"

Eccy - ele-king

Eccyです、久々のチャートっす。
相変わらず曲作ったり写真撮ったりしてます。
最近は下北沢moreでVERTIGO PLUSというPartyをやっております。
次回は多分10月です。遊びに来てください!

https://twitter.com/_Eccy_
https://soundcloud.com/eccyprodukt
https://yusukekiyono.tumblr.com/

Chart


1
Chvrches - Recover (Cid Rim Remix) - Glassnote

2
Tinashe - Boss (Ryan Hemsworth Remix) - Free DL

3
Eccy - BLSPK - Forthcoming NTB

4
Purity Ring - Lofticries - 4AD

5
TOKiMONSTA - Go With It (feat.MNDR) - Ultra

6
Eccy - Fantasia - Unreleased

7
Eccy - Sketchbook - Forthcoming NTB

8
Rustie - Slasherr (Flume Edit) - Free DL

9
AlunaGeorge - Your Drums, Your Love (Friendly Fires Remix) - Tri Angle

10
Zomby - White Smoke - 4AD

第12回:インディオのグァテマラ - ele-king

 ロック。という音楽は、米国で白人に奴隷として使われていた黒人たちが夜な夜な歌い踊っていた音楽と、ジャガイモ飢饉で大挙して米国に渡り、やはり白人階級の中では最下級の存在として労働していたアイルランド人が歌い踊っていた音楽が、19世紀後半に何かの拍子で出遭い、混ざり合って出来た音楽だという説がある。
 つまり、この説でいえば、ロックとは、虐げられた黒人と白人の音楽が混合して出来上がった下層のハイブリッド・ミュージックだったわけである。
 この説に並々ならぬロマンを感じていたのがセックス・ピストルズのマネージャーだった故マルコム・マクラレンだ。彼は、この説を叩き台にした映画を撮る企画を熱っぽく英紙に語ったことがあった(米国で異人種の音楽が出遭うきっかけを作るのが何故かオスカー・ワイルド。という、いかにも彼らしい設定だったらしい)が、結局はその夢を果たせないまま他界した。

 この野望を語るマルコムのインタヴュー記事を読んだ時、わたしが最初に思い出したのは、英国のミュージシャンでも、米国のミュージシャンでもなく、山口冨士夫だった。
 十代の頃からの友人が、村八分に参加していたことのある男性と同棲していたという事情もあり、友人とわたしは年上のその男性に連れられ、東京で何度かティアドロップスのギグを見に行った。それはわたしが英国とアイルランドと日本を行ったり来たりする若い娘だった時代の話だが、山口冨士夫という人のバンドは、マーキーやダブリンのトリニティ・カレッジのホールで見るロック・バンドと比較しても遜色ないと思っていた。
 友人の恋人から村八分時代の冨士夫やチャー坊の逸話を聞かされたわたしは、日本のロックというのは、村八分のことである。という主張を抱いて来た。わたしは福岡出身の人間なのでサンハウスも聴いたし、柴山俊之や鮎川誠の長距離ランナーとしての凄みや、博多の人間らしい芸人根性もわかる。
 が、ロック。というのは、芸人や音楽家として優れていることとはちょっと違う。
 黒人の血を引く日本人として生まれ、ひどい差別を受けながら施設で育ったという、戦後日本の矛盾や浅ましさを全身で受けとめながら生きて来たような冨士夫のギターには、芸事の巧さや楽曲の出来云々では語れない(おそらく今どきの人々に言わせれば音楽のクールさとは全く無関係な)スピリッツとか、アティテュードとかいうようなものの轟きが宿っていた。
 マルコム・マクラレンという希代のロマンティストがそう信じたように、ロックの起源が虐げられた者たちの異人種交合ミュージックであったとするなら、山口冨士夫は日本のロックのオリジンだったとも言えるのではないか。

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 『街のものがたり──新世代ラッパーたちの証言』を読んでいて、OMSBやMARIAのインタヴューの箇所でふと思い出していたのも冨士夫のことだった。日本における混血の子供たちのストーリーは、昔も今も、一貫して存在しているのである。
 数年前、ブライトンから福岡に帰省した時に、バスの中で3歳の息子が泣いたことがあった。「みんなからジロジロ見られるのが怖い」という。あのジロジロは確かに日本独特のものだと思う。英国なら、目が合えばにこっと笑ったり、とりあえず何か言ったりする。相手に喧嘩を売っているわけでもなければ、無言で誰かを凝視するというようなことはしない。
 「なんでみんな僕を見ているの?」
 と尋ねてきた息子にわたしは言った。
 「他の人たちと違うからだよ」
 「?」
 「例えば、イングランドのバスだって、誰かが犬を連れて乗ってきたら、みんな一斉に犬を見るじゃん。あれと同じ」
 と答えると、息子が「僕は犬じゃない」と言って余計ぎゃんぎゃん泣きはじめたので、しまった。と反省したことがあったが、しかし、要するにあれは犬だからなのである。わたしの祖国には、日本人離れしたものを妙に崇める風潮がある一方で、本当に身近に存在する日本人離れしたものは凝視し、排他する傾向がある。

 英国で、「No Blacks, No Dogs, No Irish」(北部では「No Blacks, No Gypsies, No Irish」だったらしい)が罷り通ったのも、子供の頃の冨士夫が日本で差別されていたのと同じ時代だ。
 英国で黒人やアイルランド人をもっとも激しく差別したのは、実はワーキング・クラスの人びとだった。というように、戦後の日本でも、貧しい人々の歪んだ憂さ晴らしの矛先が下層の混血に向けられたのは容易に想像がつく。
 ひどい時代に弱者が一つになる。というのは、あれはわりと幻想で、ひどい時代ほどひどい目にあっている者がさらに弱い立場の人間に対してひどいことをする。しかし、そうした人間の本性が剥き出しになっている時代は、虐げられている者たちの怒りやせつなさが表現として噴出する時代でもあろう。
 が、わたしの祖国の場合には、その後、「国民みんなそれなりにお金持ち」のスローガンと共に、政府と国民が共謀して下層の存在を隠蔽した時代がやって来て、虐げられている者。などというコンセプトじたいがどうしようもなくダサくてアナクロで、「やっだー、いまどき何言ってんのー」と笑われる時代がやってきた。
 英国の場合、サッチャーの時代までは下層の叫びはロックのテーマになり得たが、トニー・ブレアが登場すると、日本の「みんなお金持ち」時代と似たようなアゲアゲ系のムード重視政治の時代が到来し、やはり虐げられた者はコメディのネタになってしまった。
 が、UKでは保守党が政権を奪回し、再びサッチャー時代ばりにひどい時代がやって来てしまったので、昨年はジェイク・バグのような人がチャート1位になるという現象も起き、数年前なら余裕でアイコンになっていただろうトム・オデールのような人が「クソMORの焼き直し」とこき下ろされるような風潮になっているが、日本は、どうなのだろう。
 と思っていた矢先に、日本のロックのオリジンである山口冨士夫が逝った。

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 冨士夫の死を知らされた日、勤務先の保育園の庭でティアドロップスをかけていた。
 職場には音楽好きの保育士が何人かいるので、裏庭で子供を遊ばせるときに、およそ保育園らしからぬ音楽がかかっていることがたまにあるが、わたしがかけたティアドロップスでも子供たちはノリノリで踊っていた(ちなみに、彼らはボガンボスも大好きだ)。

 "いきなりサンシャイン"で4歳児がギターを抱えているふりをしてがんがん掻き毟るような仕草をしたときには、ああ、やっぱりこれを聴くと、万国共通、みんな冨士夫になるんだよ。と、つい目頭が熱くなったが、英語を母国語(または第二母国語)とする子供たちにはこの曲が一番発音しやすかったのか、キャッチーで覚えやすかったのか、そのうちぽつぽつと子供たちが歌いはじめた。

 グァテマラのインディオ インディオのグァテマラ

 白い肌や黒い肌、茶色い肌、黄色い肌、それらの色が混ざり合ってもはや何色なんだか判然としなくなった肌、をした子供たちが山口冨士夫と一緒に歌っていた。

 グァテマラのインディオ インディオのグァテマラ

 冨士夫がこれを見たら、何と言っただろう。と思った。
 英国の夏の空は、珍しく真っ青に晴れ渡っていた。
 あの日は終戦記念日だった。が、インドが英国から独立した日でもあることをお迎えに来た父兄の一人が教えてくれた。

Pete Swanson - ele-king

 踊った。というか跳ねた。ベッドルーム・ポップに繚乱と彩られたこの6~7年に象徴されるように、メディテーショナルでドリーミーでサイケデリックなムードにとっぷりと浸かってきたインディ・シーンはいま、その長い長い眠りを、壁を蹴破られるようにして覚まされつつある。まるで『進撃の巨人』だ。ベッドルーム(=壁の中)の安寧は、破られた穴から流入するおびただしいノイズ(=巨人)によって乱れ、緊迫し、覚醒させられるだろう。巨人たちの名は、もちろん「インダストリアル」である。

 昨年末の『ele-king vol.8』に収録された座談会内ですでに指摘されていたこの兆候は、つづく『ele-king vol.9』において特集となり、約半年をかけて誰の目にも著きものとなった。筆者がいまもレコ屋の店員だったならば、売りたい新譜のポップにはたとえ間違っていたとしても「インダストリアル」の文字を滑り込ませただろう。定義も曖昧で振れ幅の大きいこのマジック・ワードは、だからこそ広い射程を持った新しい価値観としてリニューアルされ、ベッドルーム・ポップの思わぬ細部へと浸透している。サファイア・スロウズや禁断の多数決のほうのきらが昨年の年間ベストのなかにアンディ・ストットを挙げたりするのはその顕著な例だろうし、当のアンディ・ストット自身も両者の境界点に結像する存在である。

 いろんな側面があるが、ズシン、ガシャンという、倉本諒言うところの「鉄槌感」は、その重要な要素のひとつだ。自意識の延長ともいえるベッドルーム空間を、容赦なく壊してくれるノイズやビート、あるいはミニマリズムを、われわれはおそれつつも、いつしか欲するようになっていた......"パンク・オーソリティ"は、この間隙に途方もない力で入り込んできて、気持ちよいほど血を沸かせ、身体を叫ばせる。興奮した意識にはベッドルームはいかにも手狭だが、狭い壁のなかで、頭のなかはむしろ澄み渡っていくような気がする。

 と書くと、情感や内面性を排した身体的な音楽だと思われるかもしれないが、そういうわけでもないところがピート・スワンソンの素晴らしいところであるし、筆者とてべつに「外の世界に出よ」などと言いたいのではない。基本、出たくない。"パンク・オーソリティ"では、鉄槌感がそのままメロディのように機能して、あるエモーションを立ち上げていくのだ。
 各トラックが層状に重なっているのではなくて、一枚に溶けているようなノイズ・コラージュ。どの部分も、たとえばポップスのように安定した構造を持っていたり、それに沿って聴く体験を支えてくれない。どの音もチリチリ、ビリビリと震え、ふいに発火しそうな細かい電流をた走らせている。ただ、低音が裏拍を強調しながらリズムのパターンを形成しはじめると、曲(あえてトラックとは書かない)の相は一気に色合いを変え、鉄槌感とともに、感情を揺さぶり、そこに訴えかけてくる力が生まれる。それでダンスを知らないこの体も飛び跳ねることになったのだ。

 繰り返しになるが、ピート・スワンソンにおいてズシン、ガシャンはメロディであり、エモーションである。"パンク・オーソリティ"は、彼が2000年代初期から続けてきたイエロー・スワンズの、パッショネートなギター・ドローン、凝縮されたノイズ、心を打つ旋律性、そういったものの延長にあるのだろう。ビートが意識的に取り出されたのは、ほんの最近のこと――『マン・ウィズ・ポテンシャル』(2011)で、テクノ的なバックグランドを初めて大々的に解放したというスワンソンだが、そこにいたる約10年には、膨大なノイズ・ロックのアーカイヴがあったわけだ。筆者はそのほんの数箇所しか摘んでいないけれども、『パンク・オーソリティ』を親しく感じるのは、そのイエロー・スワンズの名の下に錬成された内面性やエモーションのためなのだろう。やわくも脆くもなるものを、彼はつよく美しく音によって鍛えることを知っている。『進撃~』で言えば彼は「奇行種」なのであり、人間なのだ。

 今年もっとも繰り返し聴いた作品だ。かけるたびに部屋のなかで躍り、部屋のなかで部屋を破り、身体に流れる血の温度を感じている。眠気はなくなった。国内盤には5曲ものボーナス・トラックが収録されている。すごい、どうしよう。でもやっぱり"パンク・オーソリティ"がいちばん素晴らしい。

カセット・ストア・デイ - ele-king

 よう、ニュース太郎だ。何かニュースはないのかな......っと、そうだ、「カセット・ストア・デイ」ってどう思う? 

https://cassettestoreday.com/

レコード・ストア・デイ」はぼちぼち定着してきたよな。今年はあれのカセット版がはじまるらしいんだよねー。来月あたまの9月7日。目前だ。運営は同じじゃないように見えるけど、実際そのへんはどうなのかな? レコード・ストア・デイは、中小レコード屋にみんなが足を運ぶようにって狙いもあったわけで、そもそもはアーティストが大手チェーンやネットでは買えないエクスクルーシヴな音源(レコード)を作って、該当規模の店だけに販売を許可、「それ売ってちょっとだけでも潤ってくれよな!」っていう、まあ平たく言えばアナログ盤文化活性化&レコ屋救済イヴェントだった。もちろん、アナログのおもしろさを改めて楽しんだり、「レコ屋」って場所で生まれるコミュニケーションを途絶えさせたくないっていう意図が中心にあるわけで、年々その規模を拡大しているところはリスペクトに値するよな。

 付帯するイヴェントも海外ではたくさん企画されているし、何より、誰でも勝手に「レコード・ストア・デイ限定」って銘打って作品のリリースができるところがいい。みんな、どうせCD-Rでデモとか自主盤とか出すんだったら、どんどん「ストア・デイ限定」を売り文句にしたり、それ用にシングルを作ったりすればいいんじゃないかなあ。その許可は誰に取る必要もないもんね? 利用しない手も楽しまない手もないんだよ。

 年々少しずつ規模を大きくして、いまではビートルズのニュー・リミックス音源とか、企画仕様盤の類は常連、ニール・ヤングやジョーン・バエズからブルース・スプリングスティーン、デヴィッド・ボウイ、T・レックス、ザ・クラッシュ、ポール・ウェラーからトロ・イ・モワやセント・ヴィンセント、ウィルコまで何でもある。「ストア・デイものに今年は何が出る?」ということ自体が楽しい話題を提供していて(一部の人間は血眼になって予約を入れまくる......)、春と秋の風物詩のように感じている人もいるんじゃないかな。

 カセット・ストア・デイの方はどうなるのか。公式に「詳細教えてよ」ってメールしたんだけどナシのつぶてでさ。サイトには趣旨や理念についての説明がほとんどないんだけど、参加店舗名や参加アーティスト名がズラッと並んで、イヴェント情報も載っているから、レコード・ストア・デイの目指すところと大体同じなんだろうと思う。カセット自体のおもしろさの伝道、というだけではなくて、それを売る「場所」とカルチャーを盛り上げていこう、っていうね。でも、すごいよね、そうそうたるレーベルがすでに名前を連ねている。〈4AD〉〈ドミノ〉〈ウィチタ〉〈トランスグレッシヴ〉〈ファット・キャット〉〈ジャグ・ジャグ・ウォー〉等々......あれ? カセット出してたっけ? みたいなレーベルのアーティストがどんどん参加してるんだよ。それに、アット・ザ・ドライヴ・インとかフレーミング・リップスとかカセットあったら普通にアガるよな! グッズ感覚でさ。

 まあ、ニュース太郎はそんな感じで素朴かつカジュアルにこの祭を楽しむけどさ、〈ナイト・ピープル〉とかガチのテープ・レーベルの参加がいまひとつ薄いところは気になるよね。実質的にシーンを築いてきた人たちはどう思っているんだろうか。メジャーなプレイヤーたちが宣伝塔になるのはいいことだとして、祭が祭で終わっちゃって、あとに何も残らなかったりするとさびしい。とくに、クルマのオーディオ環境がいまだカセット・デッキ主流だっていうUSと、カセットの生産自体が終わりつつある日本との間には差が大きいよね。カセットがより「トクベツなモノ」に感じられる日本では、それこそいっとき珍しがられて終わってしまうことだって考えられる。カセット文化を定着させる必要なんて、べつにないといえばないんだけど。

 あと、公式ホームページのライヴ・スケジュールの「東京」の欄がずっと未定なまま最近消えてたことも気になる。東京でも何かやりたかったんだね......。誰か、何か知ってたらele-king info宛に教えてくれよな! いや、教えてくださいませ。ツイッターでもいいぜ。あと、どう思うかっていうオピニオンでもかまわねえ。テープの時代なんてほんとにくるんですかい!?

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