「K A R Y Y N」と一致するもの

Jana Rush - ele-king

「もし誰かが暗い場所にいるなら、このアルバムは素晴らしいリスニングになるかもしれない。そしてそれは鬱というものを反映し……だけどそれは、炎のように燃え上がる、ある種抽象的な情熱なんだ」とヤナ・ラッシュは『ワイアー』誌の8月号で話している。「激しい音と周波数は自分への鼓舞と攻撃性の解釈でもある」
 リリース元の〈プラネット・ミュー〉といえば、先日はDJマニーの、レーベル自身の説明文によると「ロマンティックなフットワーク」アルバムを出したばかりで、そして今度はヤナ・ラッシュによる、レーベル自身の説明によると「激しい感情的なジェットコースター」アルバムをリリースした。
 1ヶ月ほど前、ぼくは先行リリースされた“Moanin’”を聴いたときに、これはすごい曲だと興奮した。情熱的なビバップ・ジャズの遠吠えのようなサンプリングと武術のようなドラミングにサブベース。この10年、エレクトロニック・ミュージックを前進させた大きな勢力のひとつにシカゴのフットワークがあることは言うまでもない。そもそもはローカルなダンス・バトルのための音楽として開発されたドラミングに特徴を持つこのスタイルは、マイク・パラディナスのキュレーションによって世界に伝達されると、エレクトロニック・ダンス・ミュージックのシーン全般にアイデアと活力を与えた。シカゴ内部ではDJラシャドやRPブーらがそのサウンドを前進させ、近年では食品まつりやジェイリンのようにシカゴ外部の人はアートフォームとしての可能性を追求するようにもなった。そしていま、シカゴのヤナ・ラッシュはこのスタイルの可能性をさらに押し広げて、アルバム1枚分のダンスというよりはより感情豊かなディープな音楽表現へと発展させてみせている。
 
 彼女は新人というわけではない。調べてみると、ロバート・アルマーニやカジミエ、ポール・ジョンソンらシカゴ第二世代の影響のもと13歳から音楽を作りはじめたヤナ・ラッシュのデビューは90年代のなかば、レーベルはゲットー・ハウスの名門〈ダンス・マニア〉だった。大学にも進学し、やがて化学技術者、医療技術者、消防士などさまざまな職を転々としたそうだ。と同時に、彼女は長いあいだ、過労と深刻な鬱病からくる自己嫌悪に悩んできてもいる(彼女が20年近く作品を発表していないのもその影響だろう)。彼女が音楽で復活するのは2017年のアルバム『Pariah』で、ちなみにリリース元は〈Objects Limited〉、マイク・パラディナスのパートナー、ララのレーベルだ。現在ラッシュは石油精製所で化学技術者として働いているというが、本作『痛みをともなう啓発(Painful Enlightenment)』は4年ぶりのセカンド・アルバムで、彼女が自分の鬱病と向き合って制作された作品である。
 なにしろ曲名には“自殺念慮(Suicidal Ideation)”なんていうのがあって、しかもこの曲がアルバムの目玉だったりする。アルバムの2曲目に配置されたそれは不快でシュールなポルノ映画のような、じつに奇妙な世界を描写しているわけだが、ジャズ・ギターの破片が壊れた機械のように繰り返される表題曲“痛みをともなう啓発(Painful Enlightenment)”にしても、女のあえぎ声と不吉なジャズ・ピアノの“G-Spot”にしても、シカゴ・クラシックを攪拌機に詰め込んだ“かき乱されて(Disturbed)”なる曲にしても、アルバムには居合抜きのようなドラミングと、そしてなんとも言えない不快な感覚がある。“マインド・ファック(Mynd Fuc)”は、調性を欠いた自由さにおいて、いわばフットワーク版デレク・ベイリーだ。もしくは彼女は、シカゴのゲットー・ハウスとスロッビング・グッリスルの領域とのあいだに回路を開通させている、と言えるだろう。つまり、インダストリアル・フットワークと呼べる何か。いずれにせよ、オウテカのファンを自認するリスナーであれば必聴だろう。
 アクトレスのねじれたエレクトロを彷彿させるのは、DJペイパルとの共作“銀河のバトル(Intergalactic Battle)”で、これはアルバム中で唯一ファンキーと呼べる曲かもしれない。フランスのプロデューサー、ナンシー・フォーチューンとの共作“私を狂わせて(Drivin' Me Insane)”はそれこそTGの“ユナイティッド”の後につなげたくなる曲だったりするが、アルバムの最後を飾るDJペイパルとのもうひとつの共作“Just A Taste”の勇ましさが退廃に淫することを拒絶する。
    
 レーベルによれば、このアルバムは「フットワーク・アルバムではない」とラッシュから言われたという。彼女はこう言った。「よりダークなエクスペリメンタル・リスニング・ミュージックのようなものであって、疑うことなく自分自身になる機会なんだ」
 シカゴのフットワークはここまで来た。気楽に踊れるアルバムでないし、酔いにまかせて気持ちよくなれる音楽でもない。むしろただただシラフになっていく、そんな作品であるがゆえに好き嫌いは分かれるだろう。が、しかしひとつたしかなことがある。本作は懐かしい過去ではなく、エレクトロニック・・ミュージックの未来に向かっている。
 

Prettybwoy - ele-king

 2013年に〈Big Dada〉のコンピ『Grime 2.0』に参加、グライム/UKガラージの文脈から出発し、2017年には上海のレーベル〈SVBKVLT〉からEP「Genetics」を送り出している東京のプロデューサー、Prettybwoy が英ファクトの名物シリーズ「Fact Mix」に登場している。
 冒頭からびっくりするような展開で、『エヴァ』で耳にしたような声がするなと思ったら、90年代のアニメ『KEY THE METAL IDOL』がフィーチャーされている(主題歌も)。これがずっとつづくのかと思いきや、じょじょにノイズなどが侵入をはじめ、つぎつぎと尖ったダンス・ミュージックが繰り出されていく。
 なお Prettybwoy は9月17日に〈SVBKVLT〉からデビュー・アルバム『揺蕩う』をリリースすることになっている。そちらも楽しみ。

ラディカルで、クソ面白い!

大勢の人が集まって踊る、ただそれだけのことが国家を動揺させた……
アシッド・ハウス、イビサ、マッドチェスター、ニューエイジ・トラヴェラーズ、ジャングル……
英国ジャーナリストが見事な筆致で描く
20世紀最後で最大の音楽ムーヴメントの全貌

1997年に刊行され、2010年に増補版が出たクラシカルな1冊がついに翻訳刊行!

並々ならぬ共感と知性によって書かれた、熱を帯び機知に富んだ真実の歴史 ──アーヴィン・ウェルシュ

あれは「特別な時代」以上の何かだったのだろうか? ドラッグ熱に浮かされた享楽主義に過ぎなかった? それとも、我々の多くがそう強く信じたがっているように、それ以上に重要な何かだったのか? アシッド・ハウスの誕生以来、「じゃああれは一体なんだったのか」の疑問は何度もしつこく繰り返されてきたし、本書はそれに対する幅広い回答のあれこれを含んでいる。そのいずれも必然的に個人的な視点に依るものであり、どれひとつとして決定的な回答ではない。もしかしたら、今にして思えば、あのとんでもない時代を実際に生き抜いただけで充分だったのだろう。共同体の全員と共に我を忘れるあれら歓喜の瞬間の数々を味わったこと、おそらくそれ自体が、我々にはあれ以上を望めない素晴らしい体験だったのかもしれない。(本文より)

目次

前書き(長い歳月の後で)

序幕 八〇年代のとある晩

第1章 快楽のテクノロジー
第2章 サマー・オブ・ラヴ
第3章 マジカル・ミステリー・ツアー
第4章 東への旅
第5章 フリーキー・ダンシング
第6章 テクノ・トラヴェラーズ
第7章 都市のブルーズ
第8章 ケミカルな世代

謝辞
索引

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燻裕理 - ele-king

 1970年代、だててんりゅう、頭脳警察(『悪たれ小僧』のベース)、裸のラリーズ(有名な2枚組のライヴ盤『Live ‘77』でベース担当)に参加、長い活動休止期間を経てニプリッツ、MOLLS、ポートカスなどで活動、近年は燻裕理(くんゆうり)名義で知られる、日本のアンダーグラウンド・ロックのリジェンド、ヒロシ(悲露詩、HIROSHI 、ひろしNa、ひろしNar、楢崎裕史)がソロ・アルバムをリリースする。タイトルは『びど』。ドラムは、頭脳警察の石塚俊明。独特の脱力したロック・サウンドは健在です。
 

燻裕理 (Youri Kun)
びど

レーベル:いぬん堂
品番:WC-098
定価:¥2200(税込)
発売日:2021/9/6
https://inundow.stores.jp/items/610281ef053624788f619538

李劍鴻 Li Jianhong - ele-king

 『The Wire』2021年7月号で北京のトゥ・ウェンボウ(朱文博/Zhu Wenbo)が運営するレーベル〈Zoomin’ Night〉の特集が組まれたほか、同8月号では恒例企画「めかくしジュークボックス」にリー・ジェンホン(Li Jianhong/李剣鴻)とウェイ・ウェイ(Wei Wei/韋瑋)が登場するなど、ここにきて中国のアンダーグラウンドなノイズ/即興/実験音楽シーンがにわかに注目を集めはじめている。5月にイタリアの〈Unexplained Sounds Group〉から中国実験音楽のコンピ『Anthology Of Experimental Music From China』がリリースされたことも記憶に新しいが、本稿ではアンダーグラウンドなシーンにおける重要人物のひとりリー・ジェンホンにスポットを当て、彼が今年の春に発表した2枚の新作アルバム『山霧 Mountain Fog』『院子里的回授 Feedback in the courtyard』を紹介する。

 リー・ジェンホンは〈P.S.F. Records〉からのリリースでも知られる中国の実験音楽家/ノイズ・ミュージシャン/ギタリスト。1975年に生まれ、中国・杭州で90年代よりバンド活動をはじめ複数のグループで活躍。90年代後半に中国でインターネットが普及しはじめたことをきっかけに、ノイズや即興、実験音楽なども聴くようになっていったという。2003年には知り合いのミュージシャンとともにレコード・レーベル〈2pi Records(第二層皮独立唱片機構)〉を設立、同年にファースト・ソロ・アルバム『在開始之前、自由交談 Talking Freely Before The Beginning』を発表。また2003年から2007年にかけて 2pi 音楽フェス(第二層皮音楽節)を開催し、中国有数の前衛/実験音楽の祭典として知られるようになる。ゼロ年代後半から北京でも活動しはじめ、2011年に移住。同年には Vavabond 名義で知られるノイズ・ミュージシャン、ウェイ・ウェイとともに新たにレーベル〈C.F.I Records〉を立ち上げる。以降、これまで中国内外のレーベルから多数のアルバムを発表しており、中国においてアンダーグラウンドな音楽シーンが誕生した初期から活動を続けている代表的なミュージシャンのひとりとして高い評価を得ている。

 同じく中国出身で現在はフランスを拠点に活動しているミュージシャン、ルオ・タン(Ruò Tán/若潭)が運営するレーベル〈WV Sorcerer Productions〉からリリースされた『山霧 Mountain Fog』は、ジェンホンの真骨頂とも言うべきノイズ・ギターをソロとデュオで収録したライヴ・レコーディング作品。1曲目のソロではいきなり激烈なフィードバック・ノイズが鳴り響き、高柳昌行や大友良英を彷彿させる攻撃的な展開が延々と続く。だがオクターバーを使用して重低音を効かせ、フィードバックの持続音を強調した演奏内容は、ハーシュなノイズ・ミュージックではなくドゥームメタルにも近いダウナーなアンビエント/ドローンのようにも聴こえてくる。こうした傾向は中国の若手サックス奏者ワン・ズホン(Wang Ziheng/王子衡)を迎えた続く2曲目のデュオ・セッションでより顕著に表されており、ドローン状のギターとサックスが時に渾然一体となる特異な音楽内容は、フリー・インプロヴィゼーションの歴史に多数の名演を刻んだ編成(高柳昌行と阿部薫のデュオをはじめギターとサックスによる即興の系譜についてはhikaru yamada hayato kurosawa duo『we oscillate!』のライナーノーツで掘り下げたのでより詳しく知りたい方はそちらをご参照ください)でありながら、これまでのどの作品とも似ていない唯一無二のサウンドを生み出している。

 他方の『院子里的回授 Feedback in the courtyard』はジェンホン自身のレーベル〈C.F.I Records〉からリリースされたソロ・アルバム。フィールド・レコーディングとインプロヴィゼーションのあわいをいくような作品で、人びとの話し声や咳払い、虫の音、航空機の音など環境音と一体化するように、ギターの繊細なフィードバック・ノイズや電子音響のようなサウンドが聴こえてくる。紙版『ele-king vol.25』に寄稿したジャンル別2019年ベストのインプロヴィゼーションの項で触れたように、近年の即興音楽には環境音を活用した作品が多数発表されているものの、ジェンホンはこうした試みにすでに10年以上にわたって取り組み続けている。というのも彼は2010年に3枚組のアルバム『環境即興 Environment Improvisation』*をリリース、雨音や鳥の鳴き声、羽虫の飛び交う音といった自然環境の響きから、人びとの生活音、例えば日常会話やテレビから流れる音声、果ては酒場から聞こえてくる楽しげな音楽までをも相手取りながらギターによる即興演奏を行ない、その後も環境音と即興演奏を統合する独自の方法論を探求してきているのだ。今作では「おもちゃを片付けようとしない子供たち」や「夕食後のキッチンの片付け」、「夜10時、母はまだ咳き込んでいた」といった各楽曲のタイトルが示すように、まるでドラマ仕立てで日常生活のワンシーンを切り取るような環境音の響きとともに演奏を行なう内容となっている。

 冒頭で述べたように『The Wire』が中国のアンダーグラウンドなシーンを相次いで取り上げているものの、ジェンホンをはじめ中国で活躍するミュージシャンたちの多くは独自のコンテクストですでに長期間の活動を継続してきているのであり、その蓄積を見落としてはならないということは付け加えておきたい。なお、ギタリストとしてのジェンホンの活動を辿り直した記事が2019年に Bandcamp に掲載されているほか、コロナ禍に見舞われて以降の中国の実験的な音楽シーンについてはウェブ・マガジン『Offshore』主宰の山本佳奈子さんが多数のコラムを精力的に執筆されているので、あわせてお読みいただけるとより理解が深まるのではないかと思います。

*『環境即興 Environment Improvisation』は現在Bandcampでそれぞれ『十二境 Twelve Moods』『空山 Empty Mountain』『在这里 Here Is It』として個別に購入することもできる。

Koji Nakamura - ele-king

 多作で知られるナカコーが、CD-Rのみで展開していた「Texture」シリーズ。その全24枚250曲もの膨大な楽曲群のなかから、20曲を厳選した編集盤『Texture web2』が、配信限定でリリースされている。「2」と付いているとおり、昨年の『Texture Web』に続く試みだ。エレクトロニカやアンビエントなど、ナカコーの実験的な側面を知るのに持ってこいの作品なので、ぜひチェックを。

ナカコーが、CD-Rのみで販売していたTextureシリーズ全24作品250曲の中から、20曲を選曲したアルバム「Texture web2」が8月13日より配信スタート。

Koji Nakamraが2014年よりスタートさせた、CDRのみで販売されているTextureシリーズは、ナカコーの作品すべての通ずるテクスチャ音源集。2021年8月現在で、24枚250曲に及ぶ作品が発表されている。このシリーズは、コレクターも多く発売するも、すぐ完売を繰り返している作品群。そのTextureシリーズの中から20曲をセレクトし、配信限定アルバムとして発表したのが「Texture web2」。エレクトロニカからアンビエント・ドローンまで、インストゥルメンタルの楽曲で構成されている。サブスクで気になったらナカコーが運営するレーベル「Meltinto」でCD-R作品もチェックしてみて欲しい。

商品概要

Koji Nakamura / Texture Web2
MLT-1009
2021/8/13 on streaming

▶︎配信URL: https://linkco.re/zhZrf2ua

01. Computer In Love from Texture01
02. A Vision/A Dream from Texture02
03. Flower from Texture03
04. Ne U/A gE from Texture04
05. PRE from Texture05
06. Dead Moon from Texture06
07. Tyche from Texture07
08. Video Loop1 from Texture08
09. M o l t from Texture09
10. StigmA God Area from Texture10
11. Unkown Test from Texture11
12. Joy from Texture12
13. 826 from Texture13
14. Oboro from Texture14
15. Nocturne from Texture15
16. Snake Eater from Texture16
17. White Room from Texture17
18. Aura from Texture18
19. Border/Mind from Texture19
20. Red Sun from Texture20

OFFCIAL URL
https://kojinakamura.jp/

PROFILE
ナカコーことKoji Nakamura。1995年地元青森にてバンド「スーパーカー」を結成し2005年解散。その後、ソロプロジェクト「iLL」や「Nyantora」を立ち上げる。その活動はあらゆる音楽ジャンルに精通する可能性を見せメロディーメーカーとして確固たる地位を確立し、CMや映画、アートの世界までに届くボーダレスなコラボレーションを展開。その他remixerとしても様々なアーティトを手がけ遺憾なくその才能を発揮している。現在はフルカワミキ、田渕ひさ子、牛尾憲輔と共にバンド「LAMA」として活動。そして、2014年4月には自身の集大成プロジェクトKoji Nakamuraを始動させ「Masterpeace」をリリース。同年10月には大阪クラブクアトロ、名古屋クアトロ、恵比寿リキッドルームでワンマンライブを行った。キャリアを重ねつつも進化し続けるナカコーを示唆するライブとなった。現在は、Koji NakamuraとアンビエントプロジェクトNyantoraや、ダークロックユニット「MUGAMICHILL(ナスノミツル、中村達也、ナカコー)」を中心に活動中。また、2017年4月よりスタートした“Epitaph”プロジェクトは、CDリリースやダウンロード販売を想定せず、ストリーミングのみをターゲットとし、プレイリスト(≒アルバム)は、ナカコーの新作でありながら、彼の気分でそこに収められている曲が変わり、バージョンが変わり、曲順すら変わっていた。1ヶ月に1度2~3曲アップロードされており、DAW+アクセスモデル時代の新しい表現のトライだった。プロジェクトスタートより約2年。そして前作より約5年。2019年6月26日に「Epitaph」を遂にCD化した。同時期には関西テレビ他放映の連続ドラマ「潤一」の主題歌と劇伴音楽を担当。さらに、連続ドラマ「WOWOWオリジナルドラマ アフロ田中」の、メインテーマ曲と劇伴音楽を担当するなど、音楽の分野で多岐にわたり活動中。

Meltinto
https://meltinto.theshop.jp/

Daichi Yamamoto - ele-king

 『Andless』は Daichi Yamamoto が表現者として、自身の殻を破るための作品だった。タイトルは「undress(服を脱ぐ)」をパラフレーズしたもの。生々しい内面の告白を、アブストラクト・ヒップホップやグライムなどUKのダンス・ミュージックをアップデートしたサウンドに乗せて、ラップ、レゲエ、ソウルなど多様な歌唱法を複雑に使い分けて楽曲に昇華していった。個人的にはリリックもトラックも “How”(Produced by Kojoe!)が特に好きだ。

 2nd アルバムとなる『WHITECUBE』は前作をさらに一歩前に進めた作品だ。Apple Music のレヴューによると本作は「白い立方体のアートスペースをイメージ」したという。ならば、そこで展示されている作品のテーマは「混乱」「愛」だろう。収録された13曲は、すべてベクトルが異なる愛を多角的に表現している。

 展示会場の入り口にあたる1曲目の “Greetings” の冒頭でシャウアウトしてるのはなんと Daichi の実父であるニック山本。嫌が応にも親子の愛を感じた。続く “Love+” では古橋悌二のインタヴューがサンプリングされる。古橋は、京都出身の芸術家で、アーティストグループ・ダムタイプの中心メンバーだった。HIV感染が明らかになり、1995年に35歳で敗血症で亡くなるまで、愛、性、差別、資本主義、搾取、矛盾、混乱をテーマに、繊細で、複雑で、洗練されていて、同時に猥雑でもある作品を発表していた。不勉強ながら “Love+” で古橋を知った。

 一夜漬けの私が古橋の多くを語るのは失礼だ。だがダムタイプの「S/N」を見て、“Love+” を聴くと、Daichi は古橋の芸術観に共感し、加えて、サンプリングやローカリズムというヒップホップのルールを用いて、26年前から変わらぬ問題に改めて一石を投じる意図があるように感じた。

 そして興味深いことに、続く “Simple” で客演の釈迦坊主はクラブで見つけた女の子を「お持ち帰り」しつつ、最近会えてない友達に「死んだりしてなきゃいいな」と思いを巡らせる。大上段の「愛」においては矛盾しているかもしれないが、それも確かに愛なのだ。

 『WHITECUBE』ではこういった矛盾が続く。それを否定も肯定もしない。あるがままを受け入れる。以降アルバム中盤は音楽についてのトピック。4曲目 “Cage Birds feat. STUTS” は音楽がもたらす解放性をバレアリックな音で肯定的に表現するが、次の5曲目 “Ego feat. JJJ” では一転して攻撃的なドリルでエゴイズムの暗黒に浸る快楽を歌う。ちなみにこの2曲だけでも1本原稿が書けるくらい素晴らしい。特に感動したのは、“Ego” で Daichi が「投げる爆弾は檸檬/飛ばす果汁まるでVenom」と文学とポップ・カルチャーをごちゃ混ぜにした猥雑なラップをすれば、JJJ はスペイン語の「Dinero, dinero, dinero」(金、金、金)と「消えろ消えろ消えろ」で踏んで応える。フレッシュを連べ打ち。かっこいいを畳み掛ける。

 そしてここから構成はさらに複雑になる。grooveman spot と Kzyboost による陽気なウェッサイチューン “Wanna Ride (The Breeze)” では「憧れていたThug」と歌う。この曲と対になっているのは9曲目 “Pray feat. 吉田沙良(モノンクル)”。幼い頃にジャマイカで経験した Thug の行き着く先の究極が描かれる。間に挟まれる “People” “Kill Me” は制作で向き合う自身の矛盾が対になっている。

 本作の愛と矛盾の複雑な構図は、10曲目 “Chaos” のフック「今日君は間違いまた強くなる/それだけの事/もがいていこう/このChaosの中で/後は振り向かずに/Going far far away」に集約されていく。

 また私は “Chaos” の「エンゼルフレンチみたく白黒じゃない/問題がC.R.E.A.Mを挟んでるみたい」というラインにも膝を打った。「C.R.E.A.M」とは言わずもがな「Cash Rules Everything Around Me」。つまり現金。おそらく地球を破壊するレベルまで膨張を続ける資本主義社会への考察だ。偶然だろうが、「Love+」でサンプリングした古橋もダムタイプの公演「S/N」で、HIVに感染した自身が(製薬会社が喧伝する)高価な “エイズ特効薬” を飲み続けることを、「サイエンスの始めた新しいビッグビジネス」と皮肉るシーンがある。

 生死すらビジネスにする現実。そんな Chaos を、あえて複雑な構造のアルバムにすることで、表現したように思えた。そんな世界を生きる私たちに「Paradise Remix Feat. mabanua, ISSUGI」で ISSUGI は言う。「外面より内面の居心地優先して作り出すParadise/お前だけが知るエントラスはお前の為だけにある、他じゃない」と。

 もしかしたら楽園の入り口は人と違うかもしれないし、昨日まで自分が思っていた答えとも違うかもしれない。だが、他ならぬあなただけのもの。こじつけかもしれないが、同じく “Paradise” の「見えないpressureにがんじがらめじゃもったいない/楽しめ誰のLife?」というラインもそんな思いで聴いた。

 “Paradise” を踏まえると “maybe” のフック「足りないもの探し疲れたら/足りてるもの数えてみたら/答えは手のひらの中/でもわからず頭Boom Shakalaka」も肯定的に響く。またさまざまインタヴューを読むと、本作の制作は「頭抱えて立ち止まるlegs」(“maybe”)で、なかなか進まなかったという。散々立ち止まってようやくたどり着いたのが、“Paradise” であり、“maybe” であり、“Love+” の「(芸術は)自分をもっと心の底から動かす原動力として捉えたい」という古橋の言葉だった。

 創作の苦しみ、自身と向き合う困難を、この混沌を極める現代社会になぞらえて表現した。それが『WHITECUBE』。ラストの “Testin’” はストレートなラヴ・ソングだ。Daichi Yamamoto にとって創作とは広義の愛と同義。親子、恋人、友人、動物、音楽、映画、読書……。自分を突き動かすピュアなパワー。当然そこに大小はない。主義主張とも違うもので、消費の対象にもなりなえない、神聖なもの。それはつねに自分のなかにあるものなのだ。

bar italia - ele-king

 謎が音楽を面白くする。わからないから知りたくなる。たとえばそれはベリアル(その謎はだいぶ薄まってはいるが)だったり、SAULT(『Nine』と呼ばれる素晴らしいニュー・アルバムはアクセス可能な世界から99日で姿を消す)だったりするわけで、共通しているのは音楽の向こうに誰がいるのかわからないということだ。耳に入る音が情報のほとんど全てで、そこから僕らはどんな人間がこの音楽をやっているのかと想像する。ヒントは音にちりばめられている、このスタイルは、この音色は、このメロディは。あるいは視覚からわかることもあるかもしれない。ジャケットの感じはあれに似ている、タイトルのセンスにだって個性は出る、そうやって姿を見せない誰かの形を作り上げていく。

 音楽だけがあればいい? そうなのかもしれないけれど、でも音楽の魅力はそれだけじゃない。極端な話、AIが曲を作る時代になったとしても僕らはきっとそのAIの姿を想像しているはずだ。おおよそ全ての創作物に作者の意図を感じとり、時代の空気をそこに見つけて、なんでいまこれをやったのかと考えて、こんなことをするのはどんな人間だろうと思いを巡らせる。言ってしまえば情報を伏せるということ自体がひとつの情報でもある。そうやって音楽に振りかけられた謎が好奇心を刺激する。

 ディーン・ブラントが主宰する〈Wold Music〉がリリースするバー・イタリアはまさにそのような好奇心を刺激するユニットだ(ユニットなのか?)。全てが秘匿されているというよりかはヒントをそこらかしこに散らばして攪乱させるタイプ。数多くあるような気がする手がかりは、どこかに繋がっているようでいてそうではなく、それっぽく見えるものはフェイクで、本物を演じる偽物だったり、あるいはその逆で偽物を演じる本物だったりして全ては煙にまかれている。ここまでEP 1枚とアルバム2枚がリリースされているがまったくもってつかみ所がない。聞こえてくるのはまとわりつくようなギターの音とのっぺりとした男女の声。フィルムに収められた映画のように1分台、2分台の短い曲がつなぎ合わされ、その隙間からイメージが浮かび上がり、そしてそれらがあわさり意味になっていく。2nd アルバム『bedhead』でも 1st アルバムで見せたそのスタイルは継続されていて、それはうらぶれた海辺のリゾート地を舞台にしたサイコホラー映画のような趣で、大仰で美しく、まとまりがなく強烈なイメージを浮かばせる。悪夢の始まりのような “Bechelorette” のギターの音から “angels” の壮大な覚悟への唐突な場面転換、ホテルのテレビに映るノイズまみれの映像が浮かぶ “itv2”、頭の中の旅というには駆け足すぎて、手のひらからこぼれ落ちるように、気がつけばもう次のシーンに移っている。それらの断片はまさに夢のようにイメージを残して消えていく(残るのは過ぎ去った余韻がもたらす感情だけだ。書き留めておかなければ忘れてしまう)。

 13曲、22分という短い時間は何かを考える隙を与えない。考えるのはだからその余韻に浸っている最中だ。僕は謎のユニット、バー・イタリアに思いをはせる。8曲目の “Letting Go Makes It Stay” にはミカ・レヴィがフィーチャーされている。考えてみるとミカ・レヴィがいまやっているバンド、グッド・サッド・ハッピー・バッド(Good Sad Happy Bad)の『Shades』と同じようなスタイルのアルバムなのかもしれない。だがそれよりももっと下世話でまとまりがない。何に似ているのかと言ったらそれはやはりディーン・ブラントで、ディーン・ブラントの『The Redeermer』(あるいは『Stone Island』)とハイプ・ウィリアムスから改名しリリースされたインガ・コープランド・アンド・ディーン・ブラントの『Black is Beautiful』を混ぜたような印象を受ける。

 ここでのインガ・コープランド役はイタリア人女性のニナ・クリスタンテという人が担っている(イタリア人だからバー・イタリアなのか? パルプの? ソーホーにある店の名前とかけて? このふざけた感じのセンスもいかにもディーン・ブラント的だ)。ニナ・クリスタンテという名前でググってみると1988年ローマ生まれのアーティストの個展の情報がヒットする。彼女は栄養士でありパーソナル・トレーナーでもあって、ベッドルームでのワークアウトのビデオが作品に添えられて展示されていた模様。もう少し調べてみると2016年にコペンハーゲンの YEARS というアート・ギャラリーでディーン・ブラントとおこなったという hot16 という名の展示会の情報が出てくる(そう言えばコペンハーゲンのシーンが盛り上がっていた頃、コペンハーゲンにディーン・ブラントが住んでいるらしいという話を聞いたことがあった。確か Lower とも関係があったはず。思い出して調べてみたら “At The Endless Party” のビデオを撮っていた。Lower も素晴らしいバンドだ)。バー・イタリアの最初のリリースは2020年だが、彼女とディーン・ブラントはどうやらそれ以前から一緒に活動していたようだ。

 だがインガ・コープランド・アンド・ディーン・ブラントのディーン・ブラントにあたる部分、バー・イタリアでのその役はディーン・ブラントではない。ディーン・ブラントの音らしきものは聞こえてくるがその声は聞こえてこない。響き渡るのは別の声だ。ディーン・ブラントのそれよりももっと感情的で、役者みたいな色気がある、白黒の昔の映画から流れてくるみたいな、そんな雰囲気を持った声がする。バー・イタリアについて表に出ている名前はニナ・クリスタンテの名前だけでこの声の男性の名前はどこにも記されていない。この男はいったい誰なんだろう?(Reddit で見かけた名前、ダブル・ヴァルゴ? この人が? 本当にそうなのか?)

 ニナ・クリスタンテの YouTube のページには先に挙げたワークアウトの映像と共に “prod. dean blunt” と書かれている曲がいくつかアップされていて、コペンハーゲンの展示会のことを考えてもディーン・ブラントが深く関わっているのは間違いなさそうに思えるのだけど、それも本当のところはわからない。考えれば考えるほど深みにはまっていく。

 それをあざ笑うかのような “not dean blunt” の文字、現在は削除されているがリリース当初の Bandcamp の作品紹介の欄にはただ一言この言葉だけがあった。しかしそれすら本当かどうかはわからない。自ら違うと言うあたりがいかにもディーン・ブラントっぽい。

 ますますわからなくなってきた。深みにはまりヒントを求め、再び再生ボタンを押す。本物を演じる偽物に偽物が示す本物、とっちらかった美しい悪夢のようなアルバムには謎が振りかけられていて、頭に浮かぶイメージはその時々で変わっていく。もしかしたら何かを理解しようとするその過程にこそ意味は生まれるのかもしれない。わからないから知りたくなる、謎が音楽を面白くするのだとしたら、きっとバー・イタリアの音楽は最高のエンターテインメントに違いない。ふざけたユーモアの美しい悪夢、イメージのパラノイア、深みにはまって抜け出せない。

Primal Scream - ele-king

 今年2021年は、プライマル・スクリームの革命的なレコード『Screamadelica』のリリース30周年にあたる。
 それを記念し、9月17日には同時期の12インチを集めた10枚組ボックスセット『The Screamadelica 12” Singles』と、『Screamadelica』のピクチャー・ディスクが発売。さらに10月15日には『Screamadelica』の未発表デモ音源やミックスを収録した『Demodelica』(ライナーノーツはジョン・サヴェージ)がリリースされることになっている。

 ボックスセットのうち1枚は、アンドリュー・ウェザオールによる “Shine Like Stars” の未発表リミックスなのだが、ついに昨日 BBC6 にて同曲が初オンエア、その後スポティファイやアップル・ミュージックで配信がスタートしている。すばらしいダブです。試聴はこちらから。

https://primalscream.link/SLSRemix

LNS & DJ Sotofett - ele-king

 毎回そのリリースが多くのディガーたちを震撼させている、ダンス・ミュージックのレフトフィールドをひた走るDJソトフェット、そんな彼とここ数年コラボを重ねるカナダはヴァンクーヴァ出身の LSN こと、Laura Sparrow のコラボ・プロジェクトのファースト・アルバム。リリースは30周年を迎えるベルリン・テクノの牙城、驚きの〈TRESOR〉より。これが同レーベルのリリースというのも納得の、デトロイト・テクノやエレクトロへの偏愛をひしひしと感じる、なんというか体幹と骨格のしっかりしたテクノ・アルバムの傑作に仕上がっています。

 ソトフェットと言えば実兄のDJフェット・バーガーとともに、リンドストロームプリンス・トーマスらとともに2000年代中頃のノルウェイのディスコ~ハウス・シーンから現れた逸材で(よりアンダーグラウンドな存在ではありますが)。ハウス~ディスコ・レーベル〈Sex Tags Mania〉を中心にその傘下や派生レーベル、さらには周辺のレーベルを束ねたディストリビューター、〈Fett Distro〉などを運営。とにかく活動は多岐にわたり、兄弟ともにそのDJプレイを筆頭に、そのリリース、〈Fett Distro〉取り扱い商品にしても、もはや “オブスキュア” という言葉ですらも薄くにじんでしまうほどの、膨大なレコード・アーカイヴの音楽的背景に裏打ちされた、もう本当に絶妙なラインを攻めてくるそんな音楽性に溢れております。

 ソトフェットの音楽性をひとことでくくるのは本当に難しいのですが、一応、これまでのリリース・キャリア的にはハウスが中心にありながらも、強烈なアシッド・ハウスやエレクトロ、さらにはダブやダンスホール、トロピカルなジャズ、ときにライヴ・エレクトロニクスやドローンなどなど、とにかくさまざまなスタイルを節操なくリリース。そのあたり、どこか膨大な自身のライブラリーに「ないもの」を作っているような感覚ではないでしょうか。まさにディープなディガーだからこそ歩めるレフトフィールドが主戦場といった感じでしょうか。でも変過ぎて無視されるような部類ではなく、みんなが注目し続けて、そのリリースが突如としてシーンを動揺させ、ザワつかせる、そんな存在感を放っています。
 音楽性というところで言えば、どこにも属さない “外し” のジャンク~ローファイ感が生み出す強めのサイケデリアと、その名義なども含めたユーモラスな “抜け” の良さでしょうか。〈Honest Jon's〉からのリリースとなった実質の 1st アルバム『Drippin' For A Tripp (Tripp-A-Dubb-Mix)』(2015年)ではスペース・ロック的な電子音から、クンビアなどの要素も感じさせるトロピカルなハウスやディスコを展開していて、わりと彼の音楽性を知るには良い標本ではないでしょうか。といってもこれまたLPオンリーなので入手が……一応、彼の Bandcamp 〈SO-PHAT〉で作品を聴けないこともないですが、むしろ混乱をきたすような断片性が支配していて、そんなところも彼らしいのですが。

 対して LNS はエレクトロやアシッド・ハウスなど、初期のエレクトロニック・ダンス・ミュージックが持つ、チープなマシーン・グルーヴ/サウンドの虜といった感じでしょうか。わりとテクノやインダストリアル~実験的な電子音楽寄りのリリースを繰り広げるソトフェットのレーベル〈Wania〉にて、これまでソロ、コラボともにリリースしています。

 で、そんなふたりによるコラボ、これまでのリリースは4枚ほどあり(1枚はスプリット)、レトロなテクノへの思いを感じさせる、そんなリリースではありましたが、本作『Sputters』ではさらに一歩進み、前述のように本腰を入れてテクノへの偏愛を感じさせる作品となっています。簡素に打ち鳴らされるドラムマシンと最小限のシンセ・リフによる「これぞテクノ」な世界観を展開しています。ディープ・エレクトロニクス “Enter 323” の不穏な響きにはじまり、ドラムマシンの絶妙な音色変化と抜き指しでマシーン・グルーヴを醸し出し、シンセ・パットで深海を漂う “K.O. by E-GZR”、さらにこれまたドレクシア系のエレクトロがダブへと連結したような “El Dubbing”、そしてそのダブ感を引き継いだ骨太なミニマル・テクノ “Dúnn Dubbing”。このあたりのダブ感は、もはや使い古されてベタになってしまったベーシック・チャンネル由来のソレではなく、1990年代後半のハード・ミニマル勢、例えばUKのバンドゥールやスウェーデンのカリ・レケブッシュあたりを彷彿とさせる感じもあり、新鮮な響きがあります。
 インダストリアルでサイケデリックなエレクトロ “Vitri-Oil” や “Sputtering”、“Cellular Coolant” といった楽曲は、これまた “El Dubbing” と同様ドレクシアの影響を感じさせるサウンドで、その他ではカール・クレイグやそのUKのフォロワーたちのサウンドあたりを思い起こせる美しいテクノ “Shim” などなど、やはり本作には彼らのデトロイト・テクノへの偏愛を感じさせる音源が多い印象があります。彼ら “らしさ” が爆発している音源と言えば “The 606” で、ローランド TR-606 を売り払おうとした LNS をたしなめるために、その性能を引き出し作り上げた作品らしいのですが、エレクトロ・スタイルではじまり、後半のふんわりとサイケでアフロなディープ・ハウス感が重なっていくあたりは、ソトフェットのこれまでのハウス・サイドな作品のファンとしてはグッとくる感じではないでしょうか。

 どの曲に関しても、ドラムの打ち込みの妙技のグルーヴとミニマルな “量” をキープするシンセ、そしてエフェクトを含めたミキシングで聴かせてしまう、まさにテクノの “うまみ” が凝縮した作り。なんというかとにかくストレートにかっこいいテクノ・アルバムなんですね。どちらかと言えば、これまでの作品性を考えると LNS の音楽性にソトフェットが寄り沿った作品とも言えそうですが、よりチープなアシッド&エレクトロ色の強い、彼女のソロ作品を考えれば、やはりこのテクノ・サウンドはユニットの妙が出ていると考えるのが妥当でしょう。また、膨大な音楽的背景のなかから彼らがいま選んだ、絶妙な取捨選択の末に作られた作品であるというのは、これまでの作品を考えると明白で、彼らのこれまでのレフトフィールドなリリースを知れば知るほど、その活動総体にも唸らせられる、そんな作品でもあります。

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