「K A R Y Y N」と一致するもの

Lust for Youth - ele-king

 〈セイクリッド・ボーンズ〉のリリースはつねに筆者のメンタルに小骨を残していく。現代においてポスト・パンクを実験的に追求しつづけるレーベルと呼んで間違いないと思うが、ここのカタログの多くは決定的に運動音痴というか関節が固いというか、ポスト・パンク的なもののなかでもゴシックでダークな部分やノイズ寄りな部分を奇妙にこじらせていて、リズム、メロディ、ハーモニーという音楽の三大要素もほぼ見事に剥落、とくにリズムについてはたいてい快感メーターがマイナスに振り切れる。この嫌がられ要素に潔いほどまみれた作品群には、なるほど忘れがたい個性と屹立した存在感があるのだが、いまこれを聴きたい人ってどんな人なんだろう? といつも考えてしまう。悪い意味ではない。すごく極端な、おもしろい人物かもしれないと思う。同時になにかしら強烈な負の力を渦巻かせていたりする気もする。筆者がつるつる人間なだけなのだろうか。

 というような理由で個人的に愛好することのなかった〈セイリレッド・ボーンズ〉だが、ラスト・フォー・ユースはちょっとびっくりした。同じように思っていた人や、〈キャプチャード・トラックス〉のなかでもとくにポスト・パンク寄りな作品を好む人などにはおすすめかもしれない。『パーフェクト・ヴュー』といいながら見通しの超きいてないジャケがまず素敵なんだけれども、こうしたセンスはめずらしい。時代から切り離されたような、古物商のカタログといった趣で並ぶこのレーベルの諸作のなかで、はっと目を引くに足りるアートワークである。ザ・メンなど皮肉やけれん味のない、ある意味ではピュアな芸術性を優先するようなジャケットに比して、ラスト・フォー・ユースにはよい意味でのいらだちや挑戦、意欲、ひねり、コンセプトを感じる。その意味でじつに色気がある。要は、自分たちと時代や世間とのあいだに距離があることを自覚しつつも、あまりそれと向き合う意志のなかったように感じられるレーベル・カタログのなかで、時代や世間に正対するように見えたのだ。ゆえに彼のダークウェイヴはみずみずしく力強い。

 ビートは単調だがシンセが熱い。"アナザー・デイ"に溶け込んだニュー・オーダーは若くササクレていて、"パーフェクト・ヴュー"にはミニマルな展開の果てに完全なオマージュさえ見られるが、彼らの音を生き直してみせるという気概が感じられる。"バルセロナ"のごついアンビエントにも"ヴィブラント"のインダストリアルなサウンド・デザインにも、生き生きとした血の奔流がある。かつ、コールド・ケイヴよりもクールでやや内向的。アメリカの人かと思っていたがスウェーデンのアーティストだった。なるほど。読み方がわからないけれども名前はHannes Norrvide、2009年ごろより〈NNA〉などからのテープ作品のリリースが断続的につづいている。本作はいちおう3枚めのフル・アルバムとして説明されている。〈セイクリッド・ボーンズ〉とは、2012年に彼の過去作『グローイング・シーズ』をリイシューすることから関係がはじまっているようだ。出たばかりだけれども、はやくもダークウェイヴ買い忘れの一枚、そして得がたく美しい一枚になった。

SACHIHO (S) - ele-king

音攻めパーティ「S」@KOARAを、弓J、Mariiと一緒に不定期開催でオーガナイズしています。よく「S」でかけるディープ・ハウス、90'sハウス、ミニマル、ダブステップなどいろいろと選んでみました。
6/15(土) HOUSE OF LIQUID@KATAにSクルーで出演。
https://www.liquidroom.net/schedule/20130615/14701/

S blog https://ameblo.jp/s-3djs/

S select 2013.6.10


1
Marcel Fengler - Hidden Empire - IMF

2
Andre Rozzo - Storm Warning(dj rollo remix) - Trackdown Records

3
Sascha Dive - Summer Madness(Halo Feat.Blakkat Surface Remix) - Deep Vibes

4
Mechanical Soul Saloon - Shoul - Pssst Music

5
Karnak - Black Moon - Tribal America

6
MRSK - Pinkman - Skudge

7
Pariah - Rift - R&S Records

8
Las - Zikedelic - Box Clever

9
Biome - Reality - Black Box

10
Moodman,Da Abe Fela,Dot,L?K?O - Las Roturas - MOOD/LosApson

Buffalo Daughter - ele-king

 あらためて聴くバッファロー・ドーターの20年、全14曲が収録された『ReDiscoVer.』(再発見)。新曲、新ヴァージョン、ライヴ音源も入っているが、基本、『ニュー・ロック』(1998年)や『I』(2001年)、『Pshychic』(2003年)をはじめとする、バンドがこれまで残した7枚のアルバムからの収録だ。で、あらためて聴くと、あらためて格好良いと思う。サウンド的な観点で言って、もしフィッシュマンズとコーネリアスとの溝を埋めるバンドを探すなら、それはあなた、バッファロー・ドーターです。
 雑多な音楽性、グルーヴを保ちながら、直線的なサウンド、とくに1990年代の日本の音楽シーンの最良のところがすべてあるかのように、柔軟かつ禁欲的でいながら陶酔的という、これこそ日本で解体され、更新されたロックンロールです。オールドファンはもちろん、バッファロー・ドーターを知らない世代、『踊ってばかりの国』のハバナ・エキゾチカがその後結成したバンドぐらいにしか認識していない若者は、これを機に再発見すべし。小山田圭吾参加の新曲、環ROYと鎮座ドープネスのKAKATOとの共作も聴くべし。リスナーが自分のベスト盤を作れるように、書き込み可能なCDRも1枚付いての2枚組です。

Buffalo Daughter

Buffalo Daughter
ReDiscoVer. Best,Re-recordings and Remixes of Buffalo Daughter

UMA

2013年7月24日 発売
¥2,600 (tax in)

Amazon


Ignatz - ele-king

 おそらく個人的にここ10年でもっとも感銘を受けたミュージシャンたちのひとりは確実にイグナッツ(Ignatz)ことブラーム・ディーヴェンス(Bram Devens)である。......と、音楽雑誌に寄稿している人間がのっけから感情論で語っていいのだろうか。いいんです。僕にとって彼のサウンドは距離を置くことができないほど美しいのだ。

 漫画文化史にその名を輝かせるジョージ・ヘリマン(George Herriman)の作品、『クレイジー・カット(Krazy Kat)』に登場する同名のネズミ、イグナッツ。漫画の主人公である呑気な猫、クレイジー・カットはこのネズミに恋心を抱いているが、当のイグナッツは毎回頭にレンガを投げつけるかたちでその想いを打ち砕く。しかしながらクレイジー・カットはそれを愛情表現と受け取っていて、この行為によって奇妙に関係性が補完されている。

ブラームのイグナッツは、この湾曲したエゴへの共感に名前を拝借したサイケデリック・ローファイ・フォーク、いやマインド・メルト・ブルースとでも呼ぶべきサウンドだ。かつて自らを「ローファイ・ファシスト」と称したほどの徹底的な劣化音質への拘り。彼のサウンドが昨今のローファイうんぬんと一線を画しているのは、それが彼の枯れに枯れた情念を表現するのにもっとも適したテクスチャーであるからだ。アカデミックなミュージシャン・バッググラウンドが放つギタースキルゆえに成立するクオンタイズされないループ、そこから生まれる絶妙なグルーヴに歌乗せされるエモーション。アメリカが生んだ今日型のアコースティック・ミュージックのヒーローが故ジャック・ローズ(Jack Rose (RIP))だとするならば、ヨーロッパのそれはイグナッツである。

実際、00年代後半から彼を中核としてベルギーのゲントで育まれたサイケ・フォークロア・シーンがヨーロッパのみならず、USシーンにも飛び火していったことは紛れもない事実なのだが、(僕が事あるごとに名前を出すシルヴェスター・アンファングIIでもブラームはしばしばプレイしている)日本での認知度はとても低い。

LSDマーチ(LSD March)でお馴染みの道下氏のサポートの下おこなわれた08年のイグナッツの軌跡のジャパン・ツアーは、蓋を開けてみれば当時結婚したばかりのブラームとデザイナー/アーティストである妻のジュリーの新婚旅行であったのだけれども、いまでもあの〈UFOクラブ〉で見たショウでの涙が出るほどの感動を忘れることはできない。

当時初めて話すブラームに「普段仕事どーしてんの?」と訊ねたら「してるわけないじゃん」と答えた彼の笑顔と、それに対して「わたしはすっごい頑張ってるのよ!」と言うジュリーの笑顔、ふたつの笑顔が神々しいまでの愛を物語っていたこともここに記しておこう。

え? このレコード? いいに決まってるでしょ。イグナッツのよくない音源なんて聴いたことないよ。

 ぶっちゃけた話、ここ最近レコードをいっさい買っていない。もとい、買えていない。無理矢理トレードさせられたものや、勝手に送られてきて現金報酬をうやむやにされる物品が大半を占めているのだ。

 そもそも金がない。金がないのであればそれなりに働けばよいわけであるが、それなりに働くのはそれなりに大変であり、また僕の言うそれなりは世間一般のそれなりの基準値より遥かに下回っているわけでもあり、とは言え同じような自堕落な生活を続けていた以前はそれなりにレコードも購入していた筈だ。諸悪の根源はユーロラック・シンセサイザーにある。

 今思えば数年程前、M・ゲド・ジェングラス(Sun Araw M.Geddes Gengras & Congos, Akron Family)のヤサであったグリーン・マシーン・スタジオのポーチを寝床にしていたことが事の発端であった。常時2~3バンドを掛け持ちしながらレコーディング/マスタリング・エンジニアとして活動するゲドはLAローカル・シーンに最も愛されている男だ。愛されるがゆえにワケのわからない日本人に家の一角を占領されたり、愛車で事故られたりもする。(僕の生涯ただ一度の自動車事故は彼の車でカマを掘ったことである。幸い大事には至らなかったものの掘られた車から出てきたのが2m近いラティーノのオッチャンだったときは死ぬかと思ったけども)

ゲドの長きに渡る膨大なソロ・ワークの主たるプロジェクトはモジュラー・シンセジスの探求である。僕が出会ったころはすでにユーロラック・フォーマット(ドエプファーのA100シリーズに代表される最もコンパクトな3Uサイズ)に移行していたが、それ以前はフラックラック、MOTM(5U)等の異なる規格を渡り歩いてきたそうだ。日々ジョイントを燻らしながら(ときどきその他も)、延々とパッチングを続ける彼の熱は、ほどなくして僕に飛び火した。昨年ホーリー・マウンテン〈Holy Mountain〉からリリースされたアルバム、テスト・リード〈Test Lead〉は彼の近年のシンセジスにおける集大成と呼べる傑作だ。

 昨今のインディ・シーンにおけるギターからシンセへの大移動と電子工作家たちのユーロラックへのベンチャー・ビジネス大進出、どちらのムーヴメントが先行していたのかは定かではないが、相乗していることに間違いはない。

アイオワの伝説であるサイケデリック・フリークアウト・バンド、ラクーン〈Raccoo-oo-oon〉のメンバーであり、現在はドリップ・ハウス〈Drip House〉として活動するダレン・ホー〈Daren Ho〉がNYで営むシンセ屋兼レコ屋兼アート・スペース、〈コントロール(Control)〉は地元でちょっとした社会現象を起こすほどの盛況ぶりだ。何の番組だか知らないがNHKから「アナログシンセ」のテーマで取材されてりゃ(しかも同番組内でゼノ&オークランダーが機材愛を語っとる!)社会現象と呼んでもいいだろう。

先日、〈コントロール〉でおこなわれたシンセ・ワークショップの模様がアップされていたのを流し見していたところ、見覚えのある長髪長身の男が熱心にプレゼンテーションを聞いている。僕は早速ピート・スワンソン(Pete Swanson)に「お前、行っただろ」と問いただしたところ、「あ、行ったよ。何で知ってんの?」との返答があり、その晩は機材話を延々と繰り広げるハメになった。彼もまたユーロラック・モジュラーの犠牲者のひとりだ。

 なんでこんなナ~ドな内容の戯れ言を散らしているかというと、じつは来る6月30日にスー寺で〈東京モジュラーシンセフェスティバル2013〉なる試みが催される。手前味噌で大変申し訳ないが、僕も〈メイク・ノイズ(Make Noise)〉社のプレゼンやデモを手伝ったり手伝わなかったりする予定だ。ちなみに〈メイク・ノイズ〉は自社が提案する「シャアド・システム」でのみ制作されたトラックを7インチでリリースするというレーベル活動を開始したばかりだ。すでにリチャード・ディヴァインとアレッサンドロ・コルティーニ(ナインインチネイルズ)、そして昨年の〈タイプ(Type)〉からの良作が記憶に新しいロバート・アイキ・オーブリー・ロー(Robert Aiki Aubrey Lowe)が控えている。

まだまだ日本においては認知度の低いこの分野だが、ガジェットがもたらすインディ・ミュージックの新世界を覗いてみてはいかがだろうか?

(倉本諒)


■東京モジュラーシンセフェスティバル2013
■2013年06月30日 (日)
■開場 17:30 / 開演 17:30
■料金 予約2000円 / 当日3000円 (ドリンク別)
モジュラーシンセサイザーの祭典「東京モジュラーシンセフェスティバル2013」を開催!実力者達のパフォーマンスからメーカーブースごとの試奏、実演販売、モジュラーシンセスターターキット抽選会、ドキュメンタリービデオの上映までモジュラーシンセサイザーの魅力を堪能する一夜。アナログエレクトリックの有機的で深遠な音色の美しさを思う存分体感して下さい!

東京モジュラーシンセフェスティバル2013
オフィシャルサイト
https://tfom2013.tumblr.com/

■ライヴ
ROBERT PIOTROWICZ (ポーランド)
BRIAN O-REILLY (アメリカ/シンガポール) & NAOKI NOMOTO duo collaboration
坪口昌恭 (日本)
PNEUMOTHORAX (Scott Jaeger of The Harvestman) (アメリカ)
HATAKEN (日本)
千葉広樹 (日本)
DAVE SKIPPER (イギリス / 日本)
& ETHAN DROWN HURLBURT (アメリカ / 日本)

■デモ実演
PITTSBURGH MODULAR (アメリカ)
THE HARVESTMAN (アメリカ)
HEXINVERTER.NET (カナダ)

■その他
日本初のモジュラーシンセサイザーのメーカーブースごとの試奏、実演販売。
モジュラーシンセスターターキット抽選会(モジュラーシンセを組む為に必要となる電源、ケース、ビスなど。)
モジュラーシンセサイザーのドキュメンタリービデオの上映、音楽を流します。



Sports-koide (SLOWMOTION) - ele-king

DJ 予定

6/15 HOUSE OF LIQUID (LIQUID ROOM)
https://www.liquidroom.net/schedule/20130615/14701/

6/22 SLOWMOTION (神戸 塩屋 旧グッゲンハイム邸)
https://www.nedogu.com/blog/archives/7091

6月からオープンのライブスペース「神保町試聴室」にスタッフとして参加しております!宜しくお願いします!!shicho.org

スローモーションなトラック 2013.6.3


1
Low Res - Amuck - Sublime

2
Paddo - Balkon - Suger

3
Rene Breitbarth - Sphere - Deep Data

4
Ezekiel Honing - Under The Covers Remix By Someone Else - Goosehound

5
Satanic Soul - PPP - Pomelo

6
Lawrence - Rabbit Tube DJ Koze Remix - Mule electronic

7
Archie Pelago - Brown Oxford - Mister Saturday Night

8
Am/Pm - Also - Dreck

9
Roger That - Unknown - Playground

10
Elgato - We Dream Electric - Elgato

DJ FULLTONO - ele-king

 ここ2~3年のダンス・ミュージックにおける最大の衝撃は、シカゴのフットワーク/ジュークだった。この強烈なリズムは、僕のようにクラブに行けなくなった年寄りから、IDカードで通れるギリギリの若い世代にまで届いている。エネルギッシュで、過剰で、創造的で、同時に庶民的でもあるからだろう。そして、あらためて顧みれば、それは新ジャンルというよりも、シカゴ・ハウスという大河の新しい支流だったことに気がつく。歴としたシカゴ・ハウスの子孫だ。昨年のトラックスマンの来日は、そのことを証明した晩だった。
 いまや世界的な広がりを見せているフットワーク/ジュークだが、日本には〈プラネット・ミュー〉がそれをセンセーショナルにパッケージしてリリースするよりずっと前から、シカゴ・ハウスにおけるゲットー・ミュージックの進化を追い続けていた複数のDJがいる。〈BOOTY TUNE〉はレーベルだが、その代表的なポッセのひとつだと言えよう。DJフルトノはレーベルの発起人。トラックスマンの来日のときにDJとして共演している。

 現在は大阪に住んでいるDJフルトノがOUTLOOKフェスでのDJのために上京した5月のある日、僕は彼に会うことができた。ビールを飲みながら話していると、シーンに名を馳せている〈BOOTY TUNE〉の強者たちが続々と現れ......飲みながらの熱いシカゴ・トークを繰り広げるなか、相手を見下すことなく、彼らの知識を惜しみなく分け与えてくれたのであるが、その姿勢の低さというか、居酒屋ノリというか、まっすぐな情熱というか、開かれているところもフットワーク/ジューク、いや、シカゴ・ハウスらしいと思った。

先日の飲み会は楽しかったですね。〈BOOTY TUNE〉のみなさんがあんな風に揃って来るとは思わなかったですが、あらためて、みなさんのシカゴに対するリスペクトを感じました。

DJ FULLTONO:こちらこそ、大変有意義な時間を過ごさせていただきました。深い話になるにつれ、チーマーが電話で仲間呼ぶみたいに、どんどん人数が増えてしまい申し訳ございません......ついみんなを紹介したくなったもんで。

いえいえいえ(笑)。しかも、シカゴ・ハウスの話だけであそこまで長時間話せるっていうのもすごいですよね。で、あのときも話したように、トラックスマンの来日が僕にとってフットワークを考え直す良いきっかけになりました。僕は、わりとシカゴのキワモノ的なところ、エクストリームなところに反応していたのですが、この音楽が、シカゴ・ハウス(ヒップ・ハウスも含む)のアップデートされたものであることをあらためて感じることができました。あれ以来、トラックスマン系のDJラシャドとか好きになってしまい......。

DJ FULLTONO:そうですね。〈プラネット・ミュー〉がフットワークという文脈で紹介した最初のアーティストがDJネイトだったことはご存知だと思うのですが、正直ジューク・ファンからしたら、なんで? って感じでした。無名のネイトがいきなり1EPと4枚組みのアルバムですからねえ。この人はヒップホップもやってて、シーンにはそれほど肩入れしてないような若手です。その次のリリースがDJロック、これまた無名。でもこの人はけっこうベテランで、〈ダンスマニア〉クルーのDJスラゴのレーベルからリリースしてる人でした。このとき、もしかして〈プラネット・ミュー〉はあえて、ラシャドやトラックスマンなんかを外してるのかな? と感じました。ジューク/フットワークにハマるためのストーリーがマイク・パラディナスのなかででき上がってたんじゃないかと。実際のところわからないですけどね。

フルトノ君や〈BOOTY TUNE〉のみなさんは、そういう意味では、まだフットワーク/ジュークが出る前からずっとシカゴ・ハウスを追っていた人たちですよね。そもそも、シカゴとはどうして出会ったのでしょうか? 

DJ FULLTONO:僕は高校のときにテクノに出会ったんです。94年前後ですかね。その頃って、シカゴ・ハウス・リヴァイヴァルがはじまった頃で、テクノ=シカゴと言ってもいいと思うんですよ。僕はジャンルのことなんて全くわからなかったんですが、無意識に耳に入ってたと思います。でもホントにハマッたと言う意味では、やっぱりヴォイス・サンプリング連呼の曲かな。当時、田中フミヤさんが大阪のクラブ・ロケッツで「カオス・ウエスト」というパーティを主催していて、京都からひとりで行って、誰とも喋らず1回も休憩せずにドリンク1杯で朝までひたすら踊ってました。何が楽しいのかわからないんですが、いつかわかると思ってひたすら踊るんです。そしたらあるとき、いきなり人の声が連呼するトラックがフロアに鳴り響いた瞬間、うわー!! ってなって、あのときのフロアの興奮度は凄かったですよ。そのトラックはたぶんDJファンクの「Pump It」だったと思います。何の予備知識も無しであんなもん喰らったら一生抜けられないですよ(笑)。いま一緒に活動してる連中ほとんど似たような経験してるんだと思います。

あの音楽のどんなところに惹かれたのでしょうか?

DJ FULLTONO:それがいくら考えてもわからないんです。シカゴの魅力は言葉で表わしても伝わらない気がして。でも、初めてシカゴ・ハウスの12インチ手に入れて針を落とした瞬間、「これこれ! この音」って思いましたね。なんでしっくり来たのかはわかりません。永遠のテーマですね。でもいまの若い人がジュークを聴いて、「よくわからないけどこれこれ!」って思ってくれたらなんか嬉しいです。

90年代のなかば、グリーン・ヴェルヴェットやDJラッシュなんかが出てきたとき、日本でもシカゴ・ハウスは人気がありましたが、デトロイトやヨーロッパの盤に比べると、手に入りづらかった時期もあったと思います。それでもシカゴ・ハウス/ゲットー・ハウスから離れなかったみなさんのその一途さはどこから来ているのでしょうか?

DJ FULLTONO:ちなみに僕はグリーン・ヴェルヴェットよりもポール・ジョンソン派でした!

ポール・ジョンソンは、シカゴに造詣が深い人はみんな好きですよね。

DJ FULLTONO:日本で手に入りにくかったでしたっけ? 

〈リリーフ〉みたいな人気レーベルはともかく、マイナーなレーベルになると東京ではバロン・レコードぐらいしか扱ってなかったですね。DJゴッドファーザーとか、ああいうのは、バロンでしたね。

DJ FULLTONO:じゃあ、わりと僕はまわりに恵まれてたほうです。90年代半ば、シカゴのゲットー・ハウスをたくさん仕入れてくれてたレコード店は多かったですから。バイヤーさんに感謝したいです。大阪のシスコやソレイユにはお世話になりました。リバーサイドにいたっては、レーベルのリリース番号紙に書いて、「全部オーダーして下さい」って頼んだりしてました。ほとんど入ってきて大変なことになりましたけど(笑)。後にそのリバーサイド京都店のDJイケダさんに誘っていただき、そこでバイトしてました。ゲットー・テックばっかりオーダーしてて、D.J.G.O.が良く買いに来てました。僕が彼の人生を狂わせてしまったんです。
 シカゴ一本でいままでやってきたわけではまったくなくて、逆にけっこう移り気激しい方だと思ってます。最初テクノDJやってたのに、ブレイクコア聴いたりエレクトロニカ聴いたり、ゲットー・テックやエレクトロのDJやったり、いまはジュークやってますからねえ。
 シカゴとかゲットーとかっていうテーマから離れなかった理由は、単純に好きだったのもあるんですけど、紹介してくれるメディアが少なかったからというのもあります。取り上げてくれないんだったら自分らが発信するしかないと思いました。シカゴ好きな人って、みんな何故か使命感みたいなのをどこかに持ってる。頼まれてもいないのに。バカなんですけどね(笑)。自分の場合、自ら情報を発信していこうという気持ちが芽生えたきっかけがあって、実は昔、ele-kingさんでシカゴ・ハウスの特集が組まれたことがあって、そこで、「〈ダンス・マニア〉100番以降は下ネタ連呼のカストラック」と評されたんです。自分が一番好きな部分がそう評されてしまったので、いつか自分がこの100番以降を紹介する立場になりたいという気持ちに火が付きました。野田さんが書いた記事ではないんですが、いま、野田さんがジュークに興味を持たれているということは僕にとって感慨深いものがあります。

しまった、恨みを買ってましたか(笑)。ただ、下ネタ連呼に関しては、英語がわかる人には本当に嫌がる人も少なくないんですよ。ところで、ロン・ハーディのなかにもすでにフットワーク/ジュークの種子があったんでしょうね。

DJ FULLTONO:恨みだなんてとんでもない(笑)。でもやっと言えた、何年越しだろう......。ロン・ハーディもミュージック・ボックスもリアルタイムで体験してないので、もちろん本当のところはわからないんですが、そうかもしれませんね。でもぶっちゃけると、僕あんまりオールド・スクール掘ってなかったんですよね。DJマエサカやDJエイプリルに教えてもらって発見することが多いです。ただ、シカゴ・ハウス・リヴァイヴァルの93年以降のシカゴ・ハウス/ゲットーハウスはアホほど聴きましたし、いまも集めてます。

では、フルトノ君の、フットワーク/ジュークとの出会いについて教えてください。

DJ FULLTONO:ゲットー・ハウスのBPMが年々上がってきて、97年頃からかな? それまで4つ打ちのハウス・ビートだったのが、ローエンドを強調したようなビートにシフトした頃、ジュークという言葉が使われ出しました。2000年代に入ってからシカゴのシーンはデトロイトのゲットー・テックと融合します。2004年にDJゴッドファーザーが〈ジューク・トラックス〉というレーベルをはじめた頃にジュークを意識しはじめました。
 変則的なビート、フットワークに出会ったのは、そのだいぶ後の2009年です。〈ジューク・トラックス〉からリリースされたDJラシャドのアルバム『ジューク・ワークス』を聴いたとき、新しい時代が来たと思いましたね。ハウスの原型をまったく無視した変則ビートだけど、音色や曲構成はあきらかにシカゴ・ハウス。あまりにも唐突な出来事だったんで意味がわかりませんでした。それと同時期かな。僕はその頃SNSのマイスペースでほとんどのゲットー・テック・ジュークのクリエイターと繋がっていたんですが、そのなかのひとり、トラックスマンが、まったく聴いたことのない変則ビートのトラックばかり使ったショート・ミックスを次々にアップしました。鳥肌ものでしたね。トラックスマンのマイスペース・アカウントは、その当時のままネット上に放置されてますんで、いまでもいくつかのミックスは聴くことができますよ。

ほほぉ。

DJ FULLTONO:でも衝撃的な反面、これがクラブで機能するのか? って悩まされましたね。その後シカゴから〈ゲットー・ファイルズ〉ってレーベルができて、DJラシャドをはじめ、聴いたことない名前のアーティストがどんどん出てくるんですが、それらのトラックはしばらくのあいだほとんどクラブでプレイすることはありませんでした。僕以外にもこの手の音を聴いていたDJはいるのかもしれないけど、おそらく現場ではプレイできなかったんじゃないでしょうか。〈プラネット・ミュー〉がそれらの曲をフックアップするまでは。

DJエイプリルなど、〈BOOTY TUNE〉のみなさんとはどうやって知り合って、そして、どうやってそれが〈BOOTY TUNE〉(https://bootytune.com/)へと発展したのでしょうか?

DJ FULLTONO:D.J.G.O.や黒木幸一は結構古くから一緒にいろいろやってたんですが、レーベルに関しては元々は僕ひとりで思い立って2008年に〈BOOTY TUNE〉をはじめました。ロゴ・マークをデザイナーの落合桃子さん(:::STROLL SPACE:::)に作ってもらった以外、運営は僕ひとりでした。その後、D.J.G.O.が僕に曲を20曲くらい送ってきたのをきっかけにトラックメイカーとして参加するようになりました。
 DJエイプリルとは2010年くらいかな。ツイッターを見ていたら、彼が〈ダンス・マニア〉レーベルの音源だけでUstreamをやってて、しかも1曲プレイするごとにその曲をツイートしてたので否が応でも目に付いて、ちょっと話しかけてみたんです。そしたら僕がUstreamで毎週日曜日午後3時からやってた「Booty Tune Ch.」という番組を聴いてくれるようになって、その後、東京で露骨キットさんが主催していた「galaxxxy mixer」という企画に出演した際、遊びに来てくれたのが初対面です。
 その数日後、大阪の地下一階という箱で回した際もわざわざ東京から来てくれました。そのとき、逆さ絵みたいなおっさんの顔がプリントされたTシャツ着てて、これ誰の顔ですか? って聞いたら、「お父さんを探してるんですよ」って言ってた。面白い人だなあと思って自分のいままでの音楽経歴をたくさん話しました。最初はみんな、レーベルを応援してくれる立場って感じだったんですが、気付いたらレーベルの人になってました。みんなでやった方が面白いことになりそうと思って。

シカゴ系をメインにしたDJパーティも大阪や東京で続けていたのですか?

DJ FULLTONO:2005年くらいからだったかな。その頃ってSNSのミクシーがブームで、マニアックな趣味を持つ人たちが繋がりやすくなった時代でした。そこでタカオカさんやDJファミリーと知り合いました。D.J.G.O.が、ゲットー・テックをメインにしたパーティをやろうと言い出したのをきっかけに、「スラムキング」というパーティを大阪でやったことがあります。あと、黒木幸一が東京で「シカゴ・ビーフ」というマニアックなパーティをやっていたみたいです。その頃って、ゲットー・テックがけっこう人気が出た時期でした。タカオカさんやDJファミリーがゲットー・テックのミックスCDをリリースしたり、タカオカさん監修のコンピレーション『ゲットー・ビート・プッシャーズ』も話題になってました。すごくいい刺激をもらいました。

実は功労者がたくさんいるわけですね。ところで、世界的に名の知れた〈プラネット・ミュー〉がフットワーク/ジュークを紹介したことで、いっきにこの音楽は広がりましたが、こうしたある種のブームは、〈BOOTY TUNE〉の活動にフィードバックされていますか?

DJ FULLTONO:もう、完全に恩恵を受けてます(笑)。『バングス&ワークス』の特典ミックスCD(国内オンリー)をやらせていただいたり、文章書かせていただいたり、めちゃくちゃ感謝しています。

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なんか欧米では、(ジュークというより)フットワークと呼ぶことのほうが多いように見受けられますが、どちらの呼称が一般的で、呼び方がふたつあるのは何故でしょうか?

DJ FULLTONO:呼び方はシカゴのアーティストあいだでも異なるくらい実は曖昧なんですが、足を速く動かすダンス「シカゴ・フットワーク」のバトルのために作られたトラックがフットワーク。パーティのために作られたトラックが「ジューク」という風に使い分けているようです。
 でも最近は、フットワークがクラブでプレイされることも多くなってきたので、UKではフットワークと呼ぶのが一般的みたいですね。僕個人としては、フットワークって呼んじゃうとそれまでのジュークと切り離された感じがするので、ジュークでいいんじゃないかなと思います。地方によって呼び方が異なるとか、一般に良くあることですしね。ただ、曲のレヴューとか書くときは使い分けますね。変則的なビートはフットワーク、反復的なビートはジューク。

なるほど、わかりやすい説明ですね。ところで、トラックスマンの来日時の良い話があったら教えてください。

DJ FULLTONO:それより先日のトラックスマンの事件はビックリしましたね。街で強盗に足を撃たれたということだけしかわからないので、本当に世界中のファンが心配してると思います。

そんなことがあったんですか。

DJ FULLTONO:「心配無い、元気だ」とエイプリルのほうには連絡があったみたいですが、心配です。しかし本人はその後も、いつものようにフェイスブックでオススメ音源を紹介し続けてるんです。すごいなあと。
 で、来日時、ホテルが一緒だったんですが、朝に一緒にマクドナルドに行ってハンバーガーふたつ買って、ひとつ店で食べて後はホテルで食べるってすぐに戻ったんです。「ハンバーガーとYoutubeがあればいいんだ」って言ってドアを閉めて、その後もひたすらフェイスブックでYoutubeをシェアし続けてました。シカゴの音楽を世界に紹介するという使命感がハンパないんです。
 パーティ中はパーティ中で学ぶことは多かったです。ほとんど控え室には行かずフロアにいました。東京公演の時はオープンからステージでマイク持ってましたからね(笑)。〈BOOTY TUNE〉のメンバーでゲットー・ハウスをプレイしてると、マイク持ってアーティストをシャウトアウトしてるんですよ。メインゲストが前座のMCもやるという前代未聞の光景でした。大阪では、自分の番が終わったらすぐにうちらの物販スペースに座ってくれて、その後の僕のDJのときもマイクで盛り上げてくれました。帰国後かな、「いますごく疲れてる。でも俺はバッド・ミュージックから世界を守らなければいけないから休んではいられない」ってコメントしてたそうです。熱すぎるでしょ(笑)。

とても良い人なんですね(笑)。僕はあの、クールさを売りしてない、一種のプロ根性にやられたのですが、ああいうリアルな感覚はフルトノ君も共感するところですか?

DJ FULLTONO:僕なんて好きなようにやってるだけですよ(笑)。でもDJはじめたときから心がけてるのは、まだクラブの雰囲気に慣れてないようなアウェイな人たちに衝撃を与えられるようなプレイをしようとつねに心がけてます。

あのとき、お手本にダンスをやっていた日本人の方はどういう人なのでしょうか? あんな風に動けて、羨ましかったです。

DJ FULLTONO:タクヤとウィージーですね。ふたりともシカゴ・フットワークを独学でやってます。あのダンスを取り入れてる人はいままでもダンスの世界にいたと思うんですけど、クラブで本格的に踊ってるのは彼らだけじゃなかと思います。俺の方が上手いって人は現場でどんどん勝負すればいいと思います。あと、そうしないと彼らもしんどいみたいです。フットワークってめちゃくちゃ疲れるんですよ。ふたりともノリがいいもんだから要望あればどんどん踊っちゃって、最後ぐったりしてるという(笑)。

ハハハハ。酒飲んだら無理っすよね。ところで、フットワーク/ジュークは、わりと大ネタのサンプリングを使ってますが、サンプリングはやはりこのジャンルでは重要な要素ですか?

DJ FULLTONO:サンプリングのないトラックものも多いんですが、大ネタ多いですね。大阪のファンクDJのピンチさんが言っておられたんですが、ジュークのいいところは、誰でも知ってる大ネタを使うところ。つまり、マニアのためにやってる音楽じゃないってことだと。僕は音楽を広く聴いてないのでほとんど元ネタわかってないんですが、DJ終わってお客さんに、「○○ネタ最高でしたよ!」とか良く言われるんで、なるほど有名なネタなんだなと気付かされます。

黒人音楽の大ネタを使うのは、それがブラック・コミュニティで生まれたものだからでしょうかね?

DJ FULLTONO:その辺は逆に野田さんに手ほどきいただきたいですわ(笑)。

デトロイトのゲットー・パティで、DJがマイケル・ジャクソンの「ビリー・ジーン」を高速でミックスしているのを見たとき、この音楽は本当に大衆音楽なんだなと思いました。踊っていた人たちも、子供から中年まで、幅広い世代にまたがってましたね。庶民的な音楽ですよね。おばさんから若い子まで行くような、チリ紙売ってるような雑貨屋で売っているミックスCDがその手のものでしたから。〈BOOTY TUNE〉では、日本におけるこの音楽の広がりについてはどう考えていますか?

DJ FULLTONO:そうですね。最近ネットで、ジュークが盛り上がってると良く耳にするんですが、あれはツイッター上だけの話であって、まだまだ少数派だと思うんです。現に僕は毎日自転車でアメ村を通るんですけど、服屋からジュークが聴こえて来たこと一度も無いですよ。そのくらいまだ認知されてないんです。情報が先行しすぎちゃったのかな。これから面白くなるんですが......。卑屈な意味で言ってるんじゃないです。それくらいいろんな人に聴いて欲しいと思ってるんです。いかに普通に耳に入ってくるかがこれからの課題。そのためにはもっと現場でプレイし続けて広げていかないと。
 いまジュークが好きでDJやライヴやってる人は、まわりで自分だけしかやってないとか、この客層では無理とか、なるべくそういうコンプレックス捨てて、この音楽の力を信じて、自分が描く最高のプレイをして欲しいです。オファーが来なければ家で磨いて準備してればいい。もしくはパーティはじめちゃえばいいと思う。時間は掛かるけど自分はそれが大事だと思ってます。ファッションやポップ・ミュージックの源流を辿ればクラブから生まれてたってこと多いですよね。クラブであんまり聴けないのに上辺だけのシーン作ったって薄っぺらいのはすぐリスナーにバレます。そんなものすぐ終わっちゃう。クラブからいろんな場所に繋がっていくって流れが自然だと思う。いろんなやり方があるんだろうけど、僕にはそれしかできません。

いま、日本で起きている面白いことがあれば、ぜひ教えてください。

DJ FULLTONO:世界で起きていることになるのかもしれませんが、最近海外のメディアが日本のシーンを紹介してくれるケースが多くなってきました。UKのリンスFMでIGカルチャーが日本のジュークをメインに紹介する放送があったり、アメリカの音楽メディア『The FADER』が「Japanese Juke」ってタグ作って、日本のアーティストを立て続けに紹介してくれたり、海外のフォロアーも少しづつ増えてきました。逆輸入で日本に広まるということが起これば楽しそうですね。

〈BOOTY TUNE〉はレーベルですが、やはり、フットワーク/ジュークというジャンルにこだわってのリリースを考えていますか? それとも、もっと幅広く考えているんでしょうか?

DJ FULLTONO:基本〈BOOTY TUNE〉は、僕が使いたいと思うものしかリリースしません。なのでおのずとジューク/フットワーク、ゲットー・テックといった音になります。自分のレーベルでリリースしたものを僕がプロモーターとなって現場でプレイするという構図です。小さいレーベルってそれでいいと思うんです。でも、EPで出すなら1曲くらい遊んでもいいかなと思うので、エレクトロとかゲットー・ハウスとか、何やってくるかわからない感じでも面白いですね。

先ほどの話にも出ましたが、インターネットがあることで、現在は日本のシーンが海外と繋がりやすくなっています。〈BOOTY TUNE〉が受けているネットの恩恵について話して下さい。

DJ FULLTONO:マイスペースで海外のアーティストと繋がれたことは大きいです。いまはマイスペースはゴーストタウン化しちゃってますが、フェイスブックで毎日世界のクリエイターと情報交換してます。翻訳ソフトが手放せません。昔は〈ダンス・マニア〉の盤面の少ない情報でしか知り得なかった謎の人たちと普通にスラング用語ばっかでコミュニケーションが取れてるっていうことはホントにネット様々です。
 一方、距離が縮まり過ぎて厄介なこともあります。シカゴの面白エピソードをネットにうかつに書けなくなくなってしまったことです。翻訳ソフト使ってる人もいますからねえ。直訳されたら茶化してるようにしか見えませんので。でも、こう言うと汚く聞こえるかもしれないんですが、シカゴのアーティストが日本人に対してこれほどウェルカムなのは、日本人がちゃんと金を払うからだと思います。そうじゃない人もいるけど、基本ビジネス・パートナーなんです。そこが他の国の人たちとシカゴの違うところ。でもそうあるべきだと思います。paypalで金送って新曲と交換。今週末パーティがあるから、いいのあったらすぐに送ってくれ! とか、とくにヤバイ曲があればリリースしようかって取り引きが結構日常的になってきました。手法は違えど昔からそういう感じだったのかなあと思ったりします。ネットがそれほど普及していなかった時代、日本の〈サブ・ヴォイス〉とかテクノのレーベルがシカゴのアーティストと密接に繋がっていたことは相当な労力と愛情があってのことだったんだろうなあと。比べることもおこがましいですが、ホントに頭が下がる思いです。

お下品なところとお上品なところとの両方がシカゴ・ハウスにはありますが、フットワーク/ジュークにも同様なことを思いました。ある意味では、お下品なところはわりと取り入れやすいと思います。しかし、あのエレガントさはなかなか出せるものではないと思います。日本では、お下品なところは拡大再生産しやすいんじゃないかと思っているのですが、そうしたバランス感覚についてはどう思われますか? 僕は、トラックスマンのバランス感覚の良いところに惚れたのですが......。

DJ FULLTONO:いやー、お下品な部分ですらなかなか真似できないです(笑)。最近広島のCRZKNY(クレイジーケニー)が、「ジュークは誰でも作れる」と良く言ってるんですが、ホントにその通りなんです。誰でも作れる。けどシカゴのフィーリングを出すのは難しいんです。日本のイメージとして、シカゴの人はドラムマシン適当に叩いて作った。みたいなのが昔から定番となっていますが、それは手法だけの話であって、聴けば聴くほどめちゃくちゃ拘っていることに気付かされます。音の良さとかそういうことではなく、ダンスそのものへの拘りです。
 フットワークで言えば、スネアの場所、タイミング、展開が変わるときの変化の具合。ベースはひとつの種類じゃなくて2種類3種類使う。見過ごしがちな細かい変化が随所に施されてるんです。トラックスマン、ラシャドあたりは本当に完璧だなあと感心します。RPブウに関しては、本当に頭のいい人なんだなあと聴けば聴くほど思います。わざとベタな打ち込みをして、そのビートを騙す為にオトリを挿入してきますから。この表現、全然伝わらへん(笑)。まあアルバム買ってみてください。

わかりました。フルトノ君のソロ・アルバムの予定はまだないのでしょうか? 待っているファンも多いかと思いますが......。

DJ FULLTONO:次に自分がリリースするものがリスナーの想定範囲内の音ではダメだと思っているので、実はここ1年くらい、作っては捨てるの繰り返しでした。自分の頭のなかで鳴っているビートを表現することができなかったんです。それがここ最近、いろんな所でプレイさせてもらったおかげで少しづつ表現できるようになってきたんです。自分で現場でプレイしてみて、コレだというものが揃ったタイミングでリリースできればと思ってます。おそらくまったく色気の無いトラック集になると思います。お店がそれを扱ってくれるのかという問題がありますが。

大丈夫でしょう(笑)。最後にフルトノ君の今後の予定、〈BOOTY TUNE〉の活動の予定などを教えてください。

DJ FULLTONO:間もなくデジタル配信でリリースされる、京都のアーティスト、グニョンピックスのEPはなかなかの力作なので是非聴いて欲しいです。彼の作品はとくに海外からのリアクションがすごくいいんです。あと近況では、7月にシカゴの若手プロデューサー、K.ロックのアルバムをCDでリリースします。これも最高。その他にもリリース予定はたくさんありますのでご期待ください。
 レーベル主催パーティはまだ予定はありませんが、いずれ東京でやりたいと思ってます。まだ企画段階ですが、大阪で、ケイタ・カワカミ君とパーティをはじめるかもしれません(言ってしまったのでもうはじめないといけませんね)。あと、8月31日に〈BOOTY TUNE〉クルーが初めて仙台に遠征します。他、大阪、京都、神戸、東京などでやってますんで、bootytune.com のスケジュールをチェックしてください。

ありがとうございました。また飲みに行きましょう。最後にフルトノ君のオールタイム・ベスト10枚を教えてください。

01) ALL RELEASE (DANCE MANIA & RELIEF)
02) KRAFTWERK / ROBOTS(91'ver.)
03) JEFF MILLS / PURPOSE MAKER 1 (PURPOSE MAKER)
04) JOEY BELTRAM / START IT UP (TRAX)
05) RED PLANET 7 
06) DJ HYPERACTIVE / LOCOMOTIVE (CONTACT)
07) DJ FUNK / KNOCK KNOCK (COSMIC)
08) DJ ASSAULT / ASS-N-TITTIE (ELECTRO FUNK)
09) LEGOWELT/ FIZZCARALDO (BUNKER)
10) DJ RASHAD / BETTA MY SPACE (JUKE TRAX)

カタコト - ele-king

 楽しくて、ダンサブルで、爆弾みたいなカタコトのライヴを見たとき、「これはトラブル・ファンクの再来か」と思ったが、しかし、カタコトのカセットテープ「今夜は墓場でヒップホップ」や配信のみのEP「MARYOKU EP」を聴くと、「これはビースティー・ボーイズの『チェック・ユア・ヘッド』だ」と思った。ラップあり、ローファイ・ロックあり、ファンクあり、パンクあり、弾き語りあり、涙も笑いもなんでもあり、彼女が言うように、「これは玩具箱」ではないか。
 カタコトには、すでに"まだ夏じゃない"という秋を歌った名曲があり、"魔力"という『楽しい夕に』の頃のRCサクセションのようなアシッドな名曲があり、"GET LUNCH"という腹が減る歌がある。たとえ惑星が地球に衝突しようと、カタコトこそ、今年の日本のブラテストホープ、ナンバー・ワンであることは間違いない。
 なお、メンバーは、 RESQUE D(MC)、MARUCOM(Guitar)、YANOSHIT(MC)、K.K.C(Bass)、FISH EYE(Drum)という謎の5人。蟹が大好物で、動物とも仲が良く、事情通によれば、メンバーのうちのふたりは快速東京といういま人気沸騰中のバンドでも演奏しているらしい。また、絵を描くのが得意なメンバーがひとりいて、彼はかつてPSGのPVを作ったとか。
 とりあえず、ele-kingでは、カタコトの詳細がまたわかり次第、お知らせしよう。

https://www.katakoto.info/

LowPass - ele-king

 いま、アメリカでは弱冠20歳の新人ラッパーが、カニエ・ウェストやリル・ウェイン、ひいてはプリンスさえ脅かそうとしている。ジューク以降のビート感覚をアーバン・サウンドに落とし込んだChance The Rapper、その最新ミックステープ『Acid Rap』の話だ。もちろん、ジューク以降ということでなら、Le1fの『Dark York』なんかも強烈だったけれど、ポップ・ポテンシャルという点では『Acid Rap』が抜きんでている。

 では、日本はどうか?
 何と言ってもECDが、超遅れてやって来た全盛期をキープしていると僕は思っているが、新世代と言うことに限定すれば「SIMI LAB以降」というのがうねりを生んでいる。彼らの台頭はヒップホップの原点調整、つまりメッセージ性ではなくダンス音楽としての機能性の回復だったと言えるだろう(ポップのレベルを目指すと言う意味でSALUの存在はひとつの試金石だろうが、彼のラップのすべてを必ずしも肯定できないとすれば、それはやはり、言葉の最終的な着地点が人生、人生、またもや人生、でしかないからだ)。
 ラップの純然たる機能性の追求、という意味では、やはり昨年のOMSBがハンパじゃなかった(彼がジュークを好きなのもわかる)。とくにヴィデオも作られた"Hulk"はショッキングで、同作の映像ディレクターを務めたというラッパーのGIVVN は、そこからの影響をTEE-RUGがルーピングするトラックの上に落とし込んでいく。それが、このLowPassと名乗るデュオ――あるいは「SIMI LAB以降」の決定打だ。

 男女の唐突な告白シーンから、満面の笑みでの街中をスキップ、そして渋谷〈ルビールーム〉のソファー席でダラダラ、からの、最後は巨大なキャップの例のアレで路上を闊歩......、そんな"Skip"のミュージック・ヴィデオが見せる軽快さ、そして湿り気のなさは、ソーシャルメディア(に投影される自己像)に翻弄されて生きる人たちをあざ笑うようだ。他人にどう見られたいか、どう見られたくないか、というか、前提としてそもそも自分という存在にそれほど興味がない人だっているのだ、ということをそこで思った。
 ラップにはQNからの影響も相当、ある。が、その憧憬に没入するどころか、先輩格からお株を奪うくらいの堂々たるパフォーマンスだ。「ラップはリリックよりもライミングだ!」とでも言いたげな態度が、序盤の"Mirror Mirror"から爆発するし、そこからハード・グルーヴィな"Skip"に雪崩れ込む瞬間は本作のハイライトのひとつだ。サウンド・エンジニアはイリシット・ツボイで、リリックの精読や、サンプリング・ネタの精査は抜きにしても、ただこの音を鼓膜に触れさせればそれだけでひたすら気持ちがいい、という状態に仕上げられている。

 トラックは、プレミア的な、オーセンティックでソウルフルなサンプリング・ループものもあれば、ディアンジェロ以降の揺れるビートもあるし、ダウナー・ハウス的なダンス・ビートの利いたエレクトロものもある。Maliyaなる女性シンガーが参加した"Nightfly"は、宇多田ヒカルを感じさせる妖艶なるR&Bの世界で最高。ゴージャスに重ねられたコーラスはもちろん、サビだけではなくバースも自分で蹴る、という気概にアガる。
 大げさで的外れだと笑われるかもしれないが、デ・ラ・ソウルと、そして『Madvillainy』(2004)と『Only Built 4 Cuban Linx... Pt. II』(2009)の鬼子、と言えば、本作のイメージを多少は伝えられるかもしれない。二木信がリストアップした「2012 Top 20 Japanese Hip Hop Albums」の上位作と比べてもなんら遜色ないし、〈アメブレイク〉のインタヴューによればトラックとラップは完全分業制で、必要以上に煮込むタイプではなさそうだから、スキップでもするような気持ちであまり考えすぎずにバンバン進んでいって欲しい。

 こんなに強く、ひたすらヘドバンしたくなる日本語ラップのアルバムって、実はけっこう久しぶりじゃない?

Deerhunter - ele-king

 高校時代、ディアハンターの『マイクロキャッスル』と『ハルシオン・ダイジェスト』にやられてしまった。そう書いただけで、そんなにハッピーな人生を送ってきていないということをほんの少しおわかり頂けるだろう。いまだにそうだが、僕は目の前にある現実を直視できるだけの強さを持ち合わせていない。だから僕は10代半ばにして自分の居場所を探すことを諦めてしまった。というよりは逃げ場を探しはじめた。そこから僕の音楽への冒険がはじまった。
 ディアハンターの『マイクロキャッスル』を聴きながら真夜中に散歩をした。ドリーミーな世界に守られるように。それは僕にひとときの安息を与えてくれた。

 『モノマニア』が発売された。アルバムがリリースされる少し前、ディアハンターがナイトショーでタイトル曲をパフォーマンスした映像を見た。衝撃的だった。ブラッドフォードはジョーイのようだし、指に包帯を巻いている。最後には、スタジオを飛び出した。それは僕にとって初めてのロックンロールの暴走をリアルタイムで感じた瞬間だったかもしれない。僕の友人はその映像を見た日、僕との約束をすっぽかし、パソコンをぶっ壊し、アコースティック・ギターも少し壊した。彼はブラッドフォードのせいだと言った。僕らはまだロックンロールに熱狂することができる。

 アルバムは"Neon Junkyard"で幕を開ける。初めて聴いたときはこれこそディアハンターだと思った。それがたとえ、前作までの僕らを包み込んだリバーブが消え去っていたとしても。

「ガラクタの中から光を見つけるんだ」
 『モノマニア』は、ブラッドフォード・コックスの救われることのない魂の叫びで溢れているが、同時に現実のなかでもがき続けるという強さもたしかに感じる。4曲目の"Pensacola"では、ロックンロールという古さを身にまとった新たなディアハンターが顔を見せる。9曲目は僕の友人を奇行へと走らせた悪名高きタイトル・トラック。曲の半分以上を長々と反復するアウトロが占める。これぞディアハンター。これまでのサウンドとはかけ離れているかもしれないが、兼ねてからブラッドフォードはディアハンターをロックンロール・バンドであると言い続けていた。

 僕は1995年生まれで、僕の音楽体験は最初から過ぎ去ったムーヴメントを追体験し、思いを馳せることではじまった。しかし、00年代後半からシーンに出てきたディアハンターやガールズ、ザ・ドラムス、ノー・エイジといったインディ・バンドに青春時代、リアルタイムで触れることが出来たのはとても誇らしいことだと思う。
 ディアハンターの新たな旅立ちを心から祝福するとともに、僕らは夜には"Neon Junkyard"に集まり、ガラクタのなかから光を見つけよう。僕らの世代にはディアハンターがいる。これは絶望を分かち合うためのアルバムではない。

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