デトロイト・テクノにおける偉大なるミニマルの父、そして手のつけられないSF中毒者でもあるジェフ・ミルズから新しいプロジェクトに関する連絡を受けた。以下は、彼自身からのメッセージである。
文:ジェフ・ミルズ
『Fantastic Voyage』(「ミクロの決死圏」)プロジェクトはパリのシテ・ラ・ミュージックというベニューからの依頼ではじめたものだ。そのベニューでいくつかの映画上映をスペシャルな形で行う企画があり、僕にも好きな映画の音楽を制作してほしいと言われ、すぐにこの映画を選んだ。1966年発表以来毎年のようにどこかで上映されていて、僕も長年お気に入りだったし、他のSF映画とは一線を画した内容でいちど観たらその感動はなかなか忘れない印象的なフィルムだ。
『Fantastic Voyage』を新しいサウンドトラックとともに上映するにあたって、僕は観客を巻き込んで体験するような内容を考えた。映画のなかで、病気の科学者の体内に潜水艦が入っていくところで、観客も同様なフィーリングを感じるようなシナリオを考えた。観客が体感できるように、映画内で風が吹く場面では会場に設置した巨大扇風機を回し、床を振動させるべく第二のサウンドシステムを用意したり。スクリーンもふたつ用意し、体内に入る前は1枚目のスクリーン、2枚目のスクリーンのまわりにはデコレーションやライティングを施し体内の雰囲気をだし、その他にも観客が体内にいるような感じを体験できるよう工夫した。
サウンドトラック制作には数か月を要し、実際に使用したよりもっと多くのサウンド、80~90曲を用意していた。制作初期の段階から、このサウンドトラック制作ではテクノロジーに頼るような音はつりあわないと考えていた。人間の体のなかに入っていくのはとてもオーガニックなことで、それがテクノロジーの進歩、コンピュータや機械より重要なことだと思った。音が複雑に絡み合い、多次元的な層を織りなすようなサウンドをつくりあげていく必要があると感じた。あえてシンクされていないシーケンスを組み合わせることで、血流や内臓の自然な感じを表現しようとした。映画のために制作したスケッチ(曲)をぜひリリースしたいと思って今回2枚組のCDにした。
映画『Fantastic Voyage』のおもしろいところ、他の映画とは違うところは、信じられない体験が宇宙や海などではなく、人間の体内で起きるというところだ。だからどんな人でも興味を持つはずだし、身近なこととして感じられるはずだ。医学的な知識がなくても、わかりやすいように科学者たちの冒険とともに説明されており、若い人たちは一度は見るべき映画だし、すべての人が自分たちの体がスペシャルだということを再認識する機会を与えてくれると思う。