「K A R Y Y N」と一致するもの


Hot Chip
Why Make Sense?

Domino / ホステス

Electro-popIndie Rock

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 考えすぎてるよね、「意味が必要かい?」なんてタイトル。「僕たちよりいいものと取り換えなよ」とか「燃え尽きる」とか――結成からおよそ15年が経つバンドにそんな穏やかでない言葉を明るく歌われると、ファンとしてはちょっと……。だけど、悩む大人の男たちの姿はちょっとセクシーかもしれない。バンドのいじけたような態度は前作のたくましさの裏返しのようにも思われる。デビューのころに漂わせていた「負けている」意識がアルバムに通底しているとも感じるが、その感覚と、ボーナス・ディスクの“バーニング・アップ”で、放送禁止用語がデビュー作以来ひさびさに(しかもサラッと)歌われていることとは無関係じゃないだろう。一時はキッズを騒がせたポップ・スターも30代半ばにさしかかって、これ以上バンドをどうしていいかわからない、ちょっとムシャクシャしてたってことだろう。自信たっぷりに振る舞っているようにみえて、じつのところ頭の中(In Our Heads)は、悩み(Why Make Sense?)でいっぱいだったと。タイトルは自分たち自身の「意味」を求めて悩んだことを暗に示している。

 前作『イン・アワ・ヘッズ』のアグレッシヴさ(逞しさ)は影を潜め、今作『ワイ・メイク・センス?』のサウンドはバンド史上もっともソフト、スムース、スウィート。仕事で疲れている人間にもやさしい。セカンドのころを思わせるシンセ使いの“クライ・フォー・ユー”や、スティーヴィー・ワンダー節の効いた“スターテッド・ライト(Started Right)”、可愛らしいベース・ラインとモリッシーの曲へのオマージュっぽい歌詞が印象的な“イージー・トゥ・ゲット”。この3曲のファンキーさと無邪気さを聴いて、いっしょに歌っていると心が軽くなる。とはいえ、白眉は冷たくシリアスな“ニード・ユー・ナウ(Need You Now)”――この曲がアルバム最大の聴きどころ。冷たい世界の中で、小さく震える心。ホット・チップの名曲には、いつもそんな心の震えが描かれているように思う。高揚とも焦燥ともつかないアップテンポなビートと、その上を滑るように歌うアレクシスの不安げな声。ホット・チップの持ち味は、この穏やかでない心の「震え」を捉えていることだと僕は思う。

 バンドを後ろから支えてきたフィリックス、バンドの前に立って歌ってきたアレクシス。フィリックスがおおらかにバンドのことを見つめていて安心したので、アレクシスにはもっとパーソナルな音楽との関係について訊ねた。

■Hot Chip / ホット・チップ
ロンドンを拠点に活動する5人組エレクトロ・ポップ・バンド。2000年の結成以降、自主でリリースした「メキシコEP」等が注目され、2004年のデビュー・アルバム『カミング・オン・ストロング』の成功によって世界的な存在へとステージを上げる。これまでに5枚のアルバムをリリース。〈フジロック'10〉でのパフォーマンスなど、ライヴでの評価も高い。曲作りのメインとしてバンドを牽引するのは、アレクシスとシンセのジョー・ゴッダート。今回インタヴューに応じてくれたのは、ヴォーカルのアレクシス・テイラーと、ドラムマシンのフェリックス・マーティンだ。メンバーがそれぞれ活発にソロ活動も行っている。

フィリックス編!

「己であれ」(Be what you are)
──Hot Chip “Why Make Sense?”(2015)

ひさびさの新譜でしたね。時間がかかった理由は何でしょう?

フィリックス:そうだね、僕らはいままでだいたい2年ごとのペースでアルバムを出しつづけてきたから、今回は普段より長い時間がかかったと言えると思う。理由はたぶん、『イン・アワ・ヘッズ』の世界ツアーを2年やったから、ツアーが終わった頃には疲れきっていて、次のアルバムのための曲もできていなかったからかな。アルバムを作るのには大抵1年くらいかかるからね。それと、僕らはそれぞれの別プロジェクトに集中する時間がほしかったっていうのもあるよ。僕のバンド、ニュー・ビルドや、ジョーのツー・ベアーズとかもあって、忙しかったのさ。

前作から3年経ちました。おっしゃるように各メンバーのソロが活発でしたし、メンバーも多くなったりなど、モチヴェーションというところでホット・チップとしての録音や活動は以前と変わりましたか?

フィリックス:メンバー? ああ、ロブは10年くらい前からときどき関わっていたけど、ドラムのサラ・ジョーンズは新しく加わったメンバーと言えるかな。そうだね、ある程度変化していると言えるんじゃないかな……たとえばアル・ドイルの作詞やソングライティング面での影響力が大きくなったし、バンドのサウンドにもバンドの変化が表れていると思う。でもそれはホット・チップのこれまでのアルバムにも言えることだよ。僕らはいつもバンドの外で他のプロジェクトをやって、そこからのインスピレーションをまたバンドに持ち帰ってくるんだ。

デ・ラ・ソウルを迎えることになった経緯、録音の様子を教えてください。また、なぜ他の曲ではなく“ラヴ・イズ・ザ・フューチャー”を歌ってもらったのでしょう?

フィリックス:たしかジョーが最初にそのアイデアを思いついたんだ。なにかこれまでのアルバムでやっていない新しいことをしてみたくてさ。それで僕らのレーベルに、彼(ポス)に連絡してもらうように頼んでみたら、彼からいいよって返事がきた。あの曲にした理由は、んー……あの曲がいちばんわかりやすくヒップホップっぽいビートだったし、テンポもちょうどよかったからかな。全体の雰囲気がぴったりだったんだ。他の曲でもよかったんだけど、ポストゥノゥスとのコラボレーションにはあれがしっくりきた。

スクリッティ・ポリッティもアレクシスさんたちと同様、優れたソングライターですね。どんなところに共感しますか? またどの作品が好きですか?

フィリックス:スクリッティ・ポリッティが好きなのはおもにアレクシスだから、僕にはちょっと答えにくい質問だけど……彼はかなりアヴァンギャルドなバックグラウンドからきていて、ちょっと変わった人なんだけど、それでいてメインストリーム・ポップの位置にいるから、僕らは彼に一種のつながりを感じるんだ。かなり非凡で、エキセントリックなイギリス人アーティストだよ……いや、正確に言うとウェールズ人か。

どんなかたちのアートであれ、いいアートっていうのにはユーモアと真面目さは混ざり合って共存しているものだと思うけど、僕らの音楽もそれと同じことだよ。

毎作、洒落た皮肉が隠されていますが、今作最大の皮肉は?

フィリックス:もちろん僕らはいきなり大マジメになったりしたわけじゃないし、今回のアルバムにもたくさん茶目っ気やふざけた要素が入っていると思う、いつも通りにね。でも、皮肉っていうのはどうだろう……。正直、僕らがどういうふうに皮肉と関わってきたかよく分からないな。皮肉っていうと、何かを笑ったり、笑いものにするために何かを引っ張り出してきたり、あるいは自分のやっていることに対して真剣じゃなかったりっていうことを想像する人が多いよね。僕らは遊び心を持っているし、自分たち自身についてそんなにしかつめらしく構えているわけじゃないけど、特別に皮肉っぽいわけでもないと思う。すべてジョークのつもりでやってるわけでもないし。どんなかたちのアートであれ、いいアートっていうのにはユーモアと真面目さは混ざり合って共存しているものだと思うけど、僕らの音楽もそれと同じことだよ。

バンド中、いちばんファンクに影響を受けているのは誰ですか?

フィリックス:たぶんいちばんはアレクシスかな、昔からプリンスやスティーヴィ・ワンダーがすごく好きで、彼らがアレクシスにとっての主なインスピレーション源になっていると思うから。

あなたがたは、無理に若づくりすることもなく、また枯れることもなく、自然に音楽をつくっているように思います。人気バンドとしてのプレッシャーもあるかとは思いますが、どうしてそのようにいられるのでしょう?

フィリックス:人気の点では、僕らはとてもラッキーなことに、一気にブレイクしたりせず、かなりゆっくり堅実に成長してきたから、それをプレッシャーに感じたことはないよ。僕らの音楽を聴いてくれる人たちがいるっていうことにとても感謝しているんだ、それって当たり前のものではけっしてないからさ。だから、それに圧倒されたり、それが音楽を作るうえで障害になったことはないし、むしろ作ったものを聴いてくれる人たちがいるっていうことはエキサイティングだよ。それに僕らはただ自分自身に正直でいて、なにか本来の自分たちとはちがうイメージを作ったりしたことはないから、そのおかげで若さをキープしようと苦労したりすることもなくすんでいるよ。でも僕らもまだ30代前半から半ばくらいで、まだ年金暮らししているわけでもないし、あと数年は時代遅れにならずにいられるんじゃないかな。

僕らはただ自分自身に正直でいて、なにか本来の自分たちとはちがうイメージを作ったりしたことはないから、そのおかげで若さをキープしようと苦労したりすることもなくすんでいるよ。

「あと数年」?

フィリックス:ははは、いや、ずっとおもしろいことをやりつづけられるアーティストやミュージシャンもたくさんいるし、要はいい音楽を作れるかどうかってことさ。僕の個人的な気持ちとしては、前回の『イン・アワ・ヘッズ』と今回のアルバムは僕らが作った中で最高の作品だと思うから、もしも僕らがこのままおもしろい音楽を作りつづけられるならずっと続けていくと思うし、そうしたら人々にはそれに付きあってもらうことになるね(笑)。

ジミー・ダグラスとの仕事の様子やエピソードを教えてください。

フィリックス:ジミーとの仕事は直接対面でのやりとりはまったくなかったんだ。僕らが彼にトラックを送って、彼がひとりでミックスをしたから、会うことはできなかったよ。でもその成果には僕らみんなとても満足している。

2枚組になった理由は?

フィリックス:正直そのへんについて僕はよく知らないんだ。でも、アートワークについては前回もアルバムのジャケットになった写真を手がけてくれたニック・レルフとのコラボレーションだよ。今回は、誰もが自分だけの色やデザインを持つことがコンセプトになっているんだ。アルバムを買う人みんなが所有する楽しみを感じられるようにしたくてさ。

ホット・チップからダンス・ビートがなくなることはありますか?

フィリックス:うーん……(しばらく考える)、アレクシスはこれまでに自分のソロ名義でいっさいダンスミュージックと関わりのない音楽を何度かリリースしていると思うけど、ホット・チップはこれからもずっとダンス・ミュージックとの何かしらの関わりは持ちつづけると思うよ。僕らのやっていることに欠かせない要素だからね。次のアルバムがいきなり『ホット・チップ アンプラグド』になって、僕らがウクレレを爪弾いてる、なんていうのは想像できないな。ダンスっていうテーマは維持しつづけると思う。

タイトルは誰の提案ですか?

フィリックス:タイトルはもともと曲の歌詞の中で生まれてきたんだ、だから提案というか思いついたのはアレクシスさ。

また、タイトルの問いかけに対するあなたの答えは?

フィリックス:はははは(笑)。あれは、答えがない質問なんじゃないかな。あれが指しているのは、「make senseする(意味を成す、つじつまが合う)必要なんてあるのか?」、「どうして僕らは自分たちのやっていることが道理にかなっていないといけない、と感じてしまうのか?」、「ただ楽しもう、馬鹿なことをしようよ」っていうことだからさ。

いまのロンドンのクラブはどんな様子ですか?

フィリックス:いまのロンドンのクラブ・シーンは、サウンドも多様だし、すごく刺激的でおもしろいDJたちもたくさんいる。行くべきところさえわかっていれば、まだまだイノベーションは起こっているしコミュニティも健在なんだ。ただ、〈プラスティック・ピープル〉が閉店してしまうのは残念だね。僕らにとっても、他のいろいろなアーティストにとっても重要な場所だったから残念だけど、きっとまた新しくおもしろいものが生まれてくると思う。最近たくさんの新しい規制ができて、クラブの運営が難しくなっているんだ。売春やドラッグの取引がクラブ内であったらその責任も負わなきゃならないし、プロモーターやクラブのオーナーにとっては厳しいビジネスだよ。

スリーフォード・モッズはご存知ですか? 差し支えがなければ教えてください。彼らの音楽をどう思いますか?

フィリックス:ああうん、知っているよ。彼らはポストパンク/ヒップホップみたいな感じのバンドで、あまり他にはないサウンドを持っているよね。要はかなりクレイジーなサウンドだけど、彼らは他の人がどう思うかは気にしないみたいだ(笑)。けっこうパンクで、現代のイギリスでの生活がいかに腐ってるかみたいなことを、放送禁止用語満載で歌っててさ。彼らはクールだよ、とても頭が良い人たちなんだと思うな。

今回僕らはいままでにないほど時間をかけて、納得のいくサウンドを追求したし、僕にとってはこのアルバムは僕らがいままでに作ったなかで最高のアルバムだと思っているから、満足しているといえるね。

フェリックスはテクノやハウスがお好きだと思いますが、チープなサウンドだった初期から比べ、ホット・チップはどんどんバンド・サウンドが強くなっています。今回のアルバムについて、フェリックスとしてはサウンド面で満足していますか?
じつはもっと別のアイディアがあったりしませんか?

フィリックス:うーん、そのとおり僕はテクノやハウスが好きだけど、もともとそういう音楽がバンド自体にとってすごく大きな影響を与えているわけではないんだ。ライヴのときにはよりダンスっぽい面が出てくるかもしれないけど。ただジョーやアレクシスにとっても、昔のハウスはこれまでずっとインスピレーションになっていたと思うけど、今回彼らはテクノやハウスよりも、自分たちのルーツであるヒップホップやR&Bに戻りたかったんだ。サウンド面についていえば、今回僕らはいままでにないほど時間をかけて、納得のいくサウンドを追求したし、僕にとってはこのアルバムは僕らがいままでに作ったなかで最高のアルバムだと思っているから、満足しているといえるね。

ニュー・ビルドはフェリックスが舵を切っているバンドかと思いますが、次作の構想はありますか?

フィリックス:いろいろとプランはあるよ。いちばん最近は僕らの曲“プア・イット・オン(Pour It On)”のビデオを作ったんだけど、とても気に入っている。だからちょうどそこでいったんピリオドを打って、しばらく休みをとるいいタイミングになったんだ。でも僕とアルはスタジオを共有していて、いつも次のニュー・ビルドのアルバムがどんな音になるかについて話をしているよ。ある程度、自分たちを新しく作り替えるようなものになると思う、これまでとはちがったサウンドや、いままでやったことのないことに挑戦したいんだ。次のアルバムができるまでに時間はかかるかもしれないけど、まちがいなく活動を続けてはいく予定だよ。僕らはまだ自分たちがどんなバンドなのかはっきり定まってはいないと思うから、まだ具体的にどうやるかはわからないけど、いったん白紙に戻して新しいことをやるつもりさ。

今後のフェリックス自身の野望を教えてください

フィリックス:野望か……答えるのが難しいな、僕は音楽においては自分が想像したよりもはるか先に到達してしまった感じがするから、そんなに野望っていうものはないような気がする。何かちがうことをしたいなとは思っているし、作曲をしてみたり、音楽以外のこともやってみたいと思っているよ、僕個人的に思っているだけだけどね。ホット・チップとしては、おもしろい音楽を作って世界中を旅しつづけられるといいな。それって素晴らしいことだし、それ以上に望めることなんてそんなにたくさんないよ。いまもツアーをしているし、日本でのショウはまだ何も具体的に決まっていないけど、決まるといいな。できるとしたら、今年の終わりか来年のはじめになると思う。

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アレクシス編!

他のなによりも、音楽は僕に幸福感と生きている実感を与えてくれる


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ホット・チップが自主制作の『メキシコ・EP』を2001年にリリースしてから14年が経ちました。初期のホット・チップをどう評価しますか?

アレクシス:ひんぱんに聴くわけじゃないけど、何曲かはそれなりにオリジナルでナイーヴかもしれないし、いいんじゃないかと思う。でも、何曲かはよくないね! ジョーはいまでも思い浮かぶようなとてもいい曲をいくつか書いたと思う。初期の曲で僕のお気に入りは“マロウ”と“ヒッティン・スキットルズ”だな。

バンドをはじめてからメンバー間の友情はどのように変化しましたか?

アレクシス:幸運なことに、僕たちはいまだにいい友だちだし、楽しい時間をいっしょに共有している。16才のときほどいっしょにいるわけじゃないけど、いまでも親しい仲だよ。

あなたはデビューから現在にいたるまで、キャリアを通してシンガー・ソングライターでありつづけてきました。ファンはみな、あなたの歌声を愛していると思います。そんなあなたが初期のアバウト・グループにおいて、なぜ歌や曲作りを放棄して即興演奏に向かったのでしょう?

アレクシス:僕は純粋な即興音楽を作りたかったんだ。さらに言えば、すでにある曲を即興で演奏することには惹かれなかった。そんなことをしてもいいものにはならないと思ったんだ。とはいえ、即興演奏に興味をもちながらも同時に曲を書いてもいたよ。
 なにより僕はアバウト・グループの4人でいっしょに演奏することで何が起こるのかを見たかったんだ。曲作りを放棄したというよりも、チャールズ・ヘイワードとパット・トーマスとジョン・コクソンとのコラボレートであることが大切だったんだ。

僕はコレクターだ。大好きなミュージシャンの音楽をもっと聴きたいというか、とくにそのミュージシャンのキャリアにおいて僕が最高だと思う時期の音楽を探しているんだ。

あなたは服や骨董も好きですが、ブートレッグのコレクターでもあります。とくにジョージ・ハリスンの『オール・シングス・マスト・パス』のデモ音源にとても感銘を受けていましたね。未完成のデモ録音の質感に対して憧憬のようなものを持っているのでしょうか?

アレクシス:そう、僕はコレクターだ。未発表のものをいつも欲しているわけではないけど、というより、大好きなミュージシャンの音楽をもっと聴きたいというか、とくにそのミュージシャンのキャリアにおいて僕が最高だと思う時期の音楽を探しているんだ。
 ブートレッグを集め出したのはとても若いころで、ちょうどプリンスのとてもとても有名な『ブラック・アルバム』がブートで流出されたころ(1987~88年)。カムデン・マーケットで『ブラック・アルバム』のブートを探し歩いているうちに、『クリスタル・ボール』や『カミール(Camille)』や『クルーシャル(Crucial)』とか……他の非公式/アウトテイクのコレクションを見つけたんだ。なかでもお気に入りの曲は“オールド・フレンズ・フォー・セール(Old Friends 4 Sale)”と“ウィットネス・フォー・ザ・プロセキューション(Witness 4 The Prosecution)”だね。プリンスのブート同様に他のミュージシャンのアウトテイクを集め出したのは、実際それから数年後のことなんだ。
 プリンス史上でもいわくつきの“ウォーリー(Wally)”というアウトテイクがあって、彼がレコーディングしたあとにそれを全部消してしまって、後日、イチから再レコーディングしたとされている。僕はそれがとっても聴きたいんだけど、たぶん永遠に無理なんだろうね。
 ちなみに、ホット・チップにも未発表曲がたくさんある。いい曲もいくつかあるよ!

あなたのソロ作やアバウト・グループでは、音楽が未完成のままにされているように思えます。ホット・チップでの完成度とは非常に対照的です。音楽を完璧に仕上げることから解放されたいという気持ちがあるのでしょうか?

アレクシス:ちょうど『ラブド・アウト』を作りはじめたときに、日本のバンド=マヘル・シャラル・ハシュ・バズのライヴを観たんだ。彼らの短くて未完成な響きの曲にいくらか影響されたよ。そのうち何曲かは8秒くらいしかない曲もあった! 他にも、ポールの『マッカートニーⅠ』や『マッカートニーⅡ』。とくに前者は未完成な音楽に光を当ててるよね。あと、『ライク・フライズ・オン・シャーベット(Like Flies On Sherbert)』をはじめアレックス・チルトンのレコードにも触発された。
 それで、自分が作っている音楽は、「調理しすぎ」ないで素材を活かしたほうがいいんじゃないかという気がしはじめたんだ。何曲かはどう完成させればいいのかわからなかったんだと思うけど、それ以外の曲に関しては、プロダクションをつけ足したり再録音したりリメイクしたりして曲の持つよさが削れてしまうのが恐くて、わざと素材のままにしておくことにしたんだと思う。やり直しを繰り返して魅力が損なわれないようにしたかったし、録音の最中の即興の要素に興味があったから。
 完璧に仕上げることがベストのときもある。だけど、仕上げることで、楽しんで作っていたはずの音楽が退屈なものに感じられてしまうときもあるんだ。

愛は、それについてどう考えたり感じるかによっていつも変質しているものだよ。誰もがいつだってその秘密を明らかにしたり知ろうと試みている……。

ホット・チップにおける「LOVE」という言葉の意味は変化していると思います。とくに『ワン・ライフ・スタンド』と『イン・アワ・ヘッズ』の間で、愛を乞う立場から、相手へ助言や愛を与える立場へと変わりました。そして、『イン・アワ・ヘッズ』の音と歌詞はとても自信に満ち溢れていました。なにがあなたたちを強くしたのでしょうか?

アレクシス:愛は、それについてどう考えたり感じるかによっていつも変質しているものだよ。誰もがいつだってその秘密を明らかにしたり知ろうと試みている……。
 なにが僕たちが強くさせたかという問いにはどう答えればいいかわからないな。もし僕たちが強いのだとしたら、ビーチ・ボーイズとほうれん草を組み合わせたからかな?

今作『ワイ・メイク・センス?』ではR&Bやソウルの影響が色濃く感じられます。これは意図的しての結果でしょうか?

アレクシス:そうでもないんだ。アルバムとは、つまりなにを残してなにを外すかの結果だ。僕たちはいつだってR&Bを愛してきたし、3曲においていつもより影響が顕著なだけだよ。でも『カミング・オン・ストロング』や『ジ・ウォーニング』での影響と同じくらいだとも思う。ジョーはコマーシャルなディープ・ハウスのリヴァイヴァルにちょっと嫌気がさしてるみたいだけど、それがこれまでとくらべて違いを生んでいるのかもしれない。

今作のアートワークは非常にシンプルでパワフルですね。線のズレがまったく別の絵柄を生んでいます。ホット・チップが歩んできた道のり、あるいはその音楽を表しているように思えます。作者の現代アーティスト=ニック・レルフは、これまでもホット・チップやあなたのソロ作品やTシャツをデザインしていますね。ニックの作品のどんなところが好きなのでしょうか?

アレクシス:ニックは素晴らしいアーティストだ。彼の作品が大好きだよ。彼はとても想像力が豊かで、聡明で、なすことが論理的なんだ。だけど、彼の作品がなぜそうなっているのかというディテールをすべて解き明かすのは簡単じゃない。彼は、ポピュラーなカルチャーとあまり知られていないカルチャーのなかでも僕たちの大好きな要素を参照している。ホット・チップととても相性が良いし、僕は彼と仕事をする前からファンだったと思うし、幸運なことだよね。変わった見方をすれば、僕にとってニックとオリヴァー(・ペイン)はなんだか音楽のデュオのようにも見えるんだ。

※筆者註:ニック・レルフとオリヴァー・ペインは2人組で活動し現代アート界で名を成したが、現在は別々で作品を発表している。

〈Angela Federico〉の“Everything She Wants” Tシャツ。〈Spruce〉60年代オリジナルボディの『ピーナッツ』(スヌーピー)のスウェット。〈キツネ〉の10年くらい前のジーンズ。〈リーヴァイス〉のヴィンテージのポケット付パーカー。〈Vuokko〉の……

スリーフォード・モッズのことは知っていますか? またどう評価しますか?

アレクシス:彼らのことは話に聞いているし、記事を読んだこともあるけど、まだ音楽を聴いたことがないんだ。

新しい音楽でお気に入りのものはなんでしょう?

アレクシス:“マキシマム・ビジー・マッスル”と“クラップトラップ”という曲を作ったジョー(Joe)(https://www.ele-king.net/review/sound_patrol/001231)。

最近のお気に入りの洋服を教えてください。

アレクシス:〈アンジェラ・フェデリコAngela Federico〉の“Everything She Wants” Tシャツ。
〈Spruce〉60年代オリジナルボディの『ピーナッツ』(スヌーピー)のスウェット。
〈キツネ〉の10年くらい前のジーンズ。
〈リーヴァイス〉のヴィンテージのポケット付パーカー。
〈Vuokko〉のジャンプスーツ。
〈Supreme〉のジャンプスーツ。
〈TSPTR〉のスヌーピーのバックパック。
ジョージ・マイケル『Listen Without Prejudice』のスウェット。
〈Primark〉のスウェットとショーツ。

あなた自身に賞を与えるとしたら、どんな賞ですか?

アレクシス:もっともリハーサルをしないソロ・パフォーマーかな?

現在の野望を教えてください。

アレクシス:夢で新曲をつくること。

(筆者註:おそらくポール・マッカートニーが“イエスタデイ”を夢で書いたという話を基にした発言でしょう。)

Why Make Music?

アレクシス:Music makes me feel happy and alive more than anything else.
(他のなによりも、音楽は僕に幸福感と生きている実感を与えてくれるから。)

Helm - ele-king

 UKエクスペリメンタル界の貴公子、ルーク・ヤンガーによる何気に通算6枚めのフル・アルバムは、ふたたび古巣の〈パン〉から。キナ臭い政権下に迫りくるオリンピックの不協和音にバッチリ符号してしまうアルバム・タイトルの偶然も重なり、現在の日本全体を覆う不穏なサウンドトラックとしても聴いてしまえるのは恐ろしい。

 『オリンピック・メス』は、ヘルムのトレード・マークである多種多様なフィールド・レコーディングとアコースティック・サウンドをソースとするサンプリング・ループ、モジュラー・シンセによって丁寧に構築された作品で、その奇妙なサウンドの質感が渾然一体となって浮かび上がる不穏な世界を、これまでになく音楽的ダイナミズムに富んだかたちで仕上げられている。〈エッセティック・ハウス(Ascetic House)〉からカセット音源としてリリースされた前作は恥ずかしながら未聴なのでたしかなことは言えぬが、これまでの〈PAN〉や〈KYE〉からのアルバムを鑑みれば、その12インチで聴ける具象性と抽象性の絶妙なバランス、そして見事なまでにギリギリ非音楽にならない──それゆえに広がる世界には、4次元空間的感覚とでも呼ぶべきものがあった。まるで人間が存在しない、個としての意思が定点から主観で捉える世界ではない、意思が境界を越えて拡散してゆくような……。そこには、ヘルムのレコードのデザインをいくつか手掛けてもいるグラハム・ランキン(元シャドウ・リング)の音楽にどこか通じる感覚があったわけだが、本作には完全にルーク・ヤンガーの意思や感情、それを通してこの世界を捉える聴者の個と呼ぶべき感覚が存在する。まぁ自分で何を言ってるんだかわけがわからないけども、要はこのアルバムはヘルム史上もっともポップでエモーショナルであるわけだ。

 某メディアでは〈コンパクト〉のポップ・アンビエント・シリーズやルー・リードの『メタル・マシン・ミュージック』すら引き合いに出されているがわからなくもない。ルークいわく、近年のアイス・エイジ(Ice Age)とのツアーや彼を取り囲む人々の交流に感化され、ループ・ベースであった自身の音楽によりリズムを意識したとのこと。劇的な変化、という表現は的確でないにしても、音だけ聴かされたらヘルムって思わないかも。

 蛇足だが、ヒートシック(Heatsick)ことスティーヴン・ワーウィックとルークがかつて組んでいた恐ろしいアヴァン・ハーシュノイズ・ユニット、バーズ・オブ・ディレイ(Birds of Delay)はどうやら未完らしく、今後どういったかたちになるかわからないがケリをつけたいとのこと。こちらも楽しみだ。


Matmos - ele-king

 木津毅と言えばマトモス、マトモスと言えば木津毅。ユーモアの込められたミュジーク・コンクレートの発想で1枚のIDMポップを作り上げたのは、ハーバートよりもマトモスが先だよ。先にやればいいってものじゃないけれど、実際、マトモスの片割れはハーバートのレーベルから作品出しているし、その音の採取において政治性をヒモづけてもいる。ゲイ・カルチャーの表現においても、一芸に秀でている。ビョークも一時期マトモスとはべったりだった。
 そんなマトモスが久しぶりに来日する! 四国の高知にも行くそうだし、関東では秩父でやるというから、これは観光もできるし、楽しそうだ。梅雨が明けていることを祈る。

 1年間の沈黙の後、満を持して行われる今回の「東京BOREDOM」は、ビョークのリミックスを手がけた事でも知られる実験的電子音楽デュオ”Matmos"と、ゲームパッド、ジョイスティックによる自作コントローラーでノイズとストロボライトを操る、アメリカ、ボルチモアのノイジシャン“Jeff Carey”を招いてのスペシャル版。
 舞台となるのは、埼玉県は秩父市のライヴハウスLadderLadder。その周辺の古着屋なども使っての観光地ヴァージョン。
 他の出演も、PHEW、切腹ピストルズ、YOLZ IN THE SKY、SuiseiNoboAz、ドラびでお等と超個性的な上に、当日は、秩父最大の夏祭り「秩父川瀬祭り」も行われているとのことなので、ライヴハウスの中と外両方でお祭り気分を堪能出来そう。
 また7/18には、「東京BOREDOM #11東京」と題して、今回のMATMOSのツアーの中打ちと、秩父のボアダムへ繋ぐ意味でのオールナイト・パーティが行われる。MATMOS来日ツアーのチケット(及び半券)を持参された方はチャージフリーで入場出来るとのこと。

7/20(月祝) 東京BOREDOM#11<秩父>
@秩父LadderLadder&STUDIO JOY&anbai works(古着屋)
11:30/12:30 ¥2500/¥3000(+1drink)

MATMOS (U.S.A)
JEFF CAREY (U.S.A) ×ドラびでお
PHEW
切腹ピストルズ
in the sun
GROUNDCOVER.
SuiseiNoboAz
ビイドロ
YOLZ IN THE SKY
HAVE A NICE DAY!
Bossston Cruizing Mania
GOMESS
mmm
マヒトゥー・ザ・ピーポー(GEZAN)
とうめいロボ
原嶋卓哉
DOTAMA【術ノ穴】
エンヤサン【術ノ穴】
ヒロネちゃん【術ノ穴】
ifax!【BLACKSHEEP】

<DJ>
DJ MEMAI
DJ:COGEE【BLACKSHEEP】
DJ:SUNGA【BLACKSHEEP】
kussy(fragment)【術ノ穴】

<VJ>
eetee
GENOME
…and more!!!!!

<DECO>
COLORgung【BLACKSHEEP】
<LASER>
NxOxT【BLACKSHEEP】

7/18(土All night) 東京BOREDOM#11<東京>
@下北沢THREE
23:30/24:00
charge:¥2000(+1drink)/女性¥1500(+1drink)
MATMOSツアーチケット持参:2drink\1000のみ

transkam
worst taste&specialmagic
HALBACH
otori
HIKO×bonstar
ニーハオ!
galcid+齋藤久師
GuruConnect (skillkills)
※スペシャルゲスト有り!

<FOOD>
SPICE ADDICTS
eetee

<VJ>
IROHA
GENOME

Matmos & Jeff Carey Japan Tour 2015 スケジュール

7.17 落合 Soup
7.18 西麻布 Super Deluxe
7.19 東高円寺 二万電圧
7.20 秩父 ladderladder
7.23 心斎橋 CONPASS
7.24 京都 METRO
7.25 高知 DAHLIA

 

東京BOREDOM
オフィシャルサイト
https://tokyoboredom.tumblr.com
Facebookページ
https://www.facebook.com/tokyoboredom

Matmos & Jeff Carey Japan Tour 2015
オフィシャルサイト
https://matmos2015.multipletap.com
Facebookページ
https://www.facebook.com/matmos2015


Booty Tune presents DJ PAYPAL Japan Tour 2k15 - ele-king

 シカゴのジュークは、瞬く間に世界的な音楽になった。UK、日本、そしてUSからベルリンへ。とくに DJラシャド以降は、「DJラシャド以降」という言い方が通用するほど、シーンは世界規模で拡張しているのだ。その中心には、シカゴのTEKLIFE がある。
 いや、しかし、DJ Paypalというネーミングが最高ですね。Paypalこそまさしく悪魔的なシステムです。深夜酔っぱらって、いつの間にかレコードやCDを買っていたなんてことはザラです。現代消費社会の象徴です。それをDJネームにするとは……なんて不遜な人でしょうか。
 しかも、この人のDJは、そうとうにポップなようです。
 これは期待するかありません。7月19日(東京)〜20日(大阪)です。みんなでこの謎のDJを冷やかしつつ、彼のハッピー・ジュークを楽しみましょう。

 世界を沸かす覆面ジューク DJ、ついに来日!
 ついに謎のジューク DJ が来日を果たす!  ジューク好きの間で密かに話題になりはじめた 2012年の活動開始から、この3年でまたたく間にシーンの中心に躍り出た、正体不明の覆面トラックメーカーDJ Paypal。その人を食ったDJ ネームゆえ、出演時はいつもTシャツを頭から被り、その素顔を見せることは決してない。最近、ネット決済会社の本家 Paypal から名称の未許可使用のクレームを受け、フェイスブックでも強制的に名前を変えさせられるほど、知名度も アップ中。
 大ネタを惜しげもなく使いまくる、老若男女問わず踊らせるアッパーかつポップなディスコ・スタイルは、北欧の Slick Shoota とともに現行パーティ・ジュー クのひとつの到達点と言える。自身のレーベル〈MallMusic〉からリリースされたファースト・シングル「Why」に収録された“Over”がクラブ・ヒット。さらに、新世代ベースを牽引するレーベル〈LuckyMe〉からもシングルをリリー スし、Machinedrum、Ikonikaらの著名アーティストたちのサポートを受けながら、UKベースやドラムンベースなど、ジューク・シーンに留まらない幅広い活躍を見せ続けている。2014 年からは現在のジューク・シーンの中心とも言える、シカゴ最大派閥の TEKLIFE クルーにも所属。UK の老舗レーベル〈Hyperdub〉の10周年コンピレーションにもその名を連ねた。
 今回の来日公演は Booty Tune が主宰となり、東京の大阪の 2 箇所で公演。日本勢の出演者陣もジューク・シーンをはじめ、タイトな顔ぶれがそろう。会場は、 日本フットワーク・ダンス・シーンの総本山「Battle Train Tokyo」の恵比寿KATA と大阪 Circus。全日本のジューク・ファンが待ち望んだ、ヨーロッパ最強のジューク・アーティストの来日公演。アッパーでハッピーなジュークに乗っ て、Let Me See Yo Footwork!!!

【東京】
Still Pimpin' feat.DJ Paypal
会場:KATA + Time Out Cafe & Diner [LIQUIDROOM 2F]
日程:7 月 19 日(日/祝前日)22:00~
出演:DJ Paypal (TEKLIFE, LuckyMe/Berlin, Germany)、D.J.Kuroki Kouichi、Guchon、TEDDMAN、D.J.APRIL(Booty Tune)、Dx (Soi Productions)、SUBMERSE、Boogie Mann (SHINKARON)、食品まつり aka Foodman、Kent Alexander(PPP/Бh○§†)、Frankie Dollar & Datwun (House Not House)、Dubstronica(GORGE.IN)、 Samurai08、コレ兄(珍盤亭)料金:Door Only ¥2,500 (With Flyer ¥2,000)

【大阪】
SOMETHINN vol.12
会場:CIRCUS
日程:7 月 20 日(月/祝日)19:00~
出演:DJ Paypal (TEKLIFE, LuckyMe /Berlin, Germany)、D.J.Fulltono (Booty Tune)、Keita Kawakami (Dress Down)、Hiroki Yamamura(Booty Tune)、AZUpubschool (Maltine Records / Sequel One Records)etc...
料金:TBA

■DJ Paypal(TEKLIFE, LuckyMe / Berlin, Germany)
アメリカ出身、ベルリン在住、本名不詳の謎の覆面トラックメーカー。DJ Spinn と故 DJ Rashad によって結成された世界的クルー「TEKLIFE」のメンバー。2012 年頃から徐々に頭角を現し始め、その後 Machinedrum、Jimmy Edger、Ikonika、Daedelus らからの熱烈なサポートを受け、そのキッチュな 名前に違わぬプロップスと実績を積み上げてきた。イーブンキック主体のサン プリングジュークを得意とし、アッパーかつポップなトラックメイキングで、 Juke/Footwork の枠を超え、多くの DJ に愛されている。これまでも前出の アーティストのほか、同じ TEKLIFE の盟友、DJ Earl や DJ Taye、DJ Rashad らのほか、Nick Hook や Sophie などともコラボ、リミックスワーク などを手がけている。
※20 歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。(You must be 20 and over with photo ID.)


 今年で6年目に突入するギャラリー、KATA夏目前の恒例催事!(これが終わると1年も折り返し!!早っ!ヤバっ!!なのですが……)
 この夏、幡ヶ谷より新天地へ移転予定のレコード&CD&あれこれショップの老舗中の老舗"LOS APSON?"さんとのタッグで開催の「LOS APSON? x LIQUIDROOM presents T-SHIRT! THAT'S FIGHTING WORDS!!! 2015」。
 今回も多数のアーティスト/ブランドが一堂に会して、6月26日(金曜日)から3日間の限定開催。
 今回はユーズド(古着)のラインナップも加わり、ますます熱を帯びること間違いナシ!!
 日々の場内BGMはオリジナル・スタイリンなDJが揃い踏み。最終日には隣接のTime Out Cafe & Dinerにて、今年1月に当店1階メインフロアにて実に10年ぶりの復活となった「GOLD DAMAGE(通称ゴルダメ)」のジャパン・ヴァージョンも開催でまさに隙なし!
 そしてそして、今回のLOS APSONさんのTシャツ・デザインは五木田智央が担当! モリモリ盛り盛りの内容にてよろしくお願い申し上げます。

LOS APSON? x LIQUIDROOM presents
T-SHIRT! THAT'S FIGHTING WORDS!!! 2015

 1年とは早いものです。身震い系ゾクゾク〜〜〜っとすると思ったら、もう「T-SHIRT! THAT'S FIGHTING WORDS!!! 2015」の季節がやって参りましたっ!!!  ウギャーーーっと喜んでいいのか、戦(いくさ)が始まった焦りなのか、分からなくなっている私・ロスアプソン店主ですが、とにかくやりますよ〜〜〜、今回もギンギン・ビンビンにっっっ!!!

 今年は新作Tシャツの出品メンツを厳選し、ネクスト・レベルを模索!?!?  そして、ラインナップの目玉としては、レベルの高い? ユーズドのラインナップを充実させる予定です!!!  一着しか無いカッコいいユニーク古着は、争奪戦間違い無しでしょうね……。
 っつーーーことで、今年も楽しみにしていて下さいねっ!

 あ、最終日には、Time Out Café & Dinerスペースにて、オヤGパワー全開で今年復活した「GOLD DAMAGE」の“ジャパン!”ヴァージョン(和モノ&デビシルのJAPAN縛り)もやりますので、そちらもご期待下さいっ!!!(山辺圭司/LOS APSON?)

【Artists / Brands】
LOS APSON? / ackkyAkashic / ALCHEMY WORKS / amala / BLACK SHEEP / BOMBAY JUICE / BOOZE DESIGN WORKS / BREAKfAST / BUGPIPE / CELEBS / COMPUMA (SOMETHING ABOUT) / COREHEAD / DANCE HOLE by ヒューヒューボーイ / DJ DISCHARGE (Unconscious When) / DJ YOGURT (UPSET REC) / dublab.jp / ECD / FEEVER BUG / forestlimit / GEE Print / HE?XION! TAPES / ifax! / Indyvisual / JINTANA & EMERALDS / KEN2D SPECIAL / KIZM / KLEPTOMANIAC / LIBRARY RECORDS / MANKIND / MGMD A ORG. / midnightmealrecords / noise / PARANOID / PARTIZAN25 by WOM / PART2STYLE / SAMPLESS / SEMINISHUKEI / SHOGUN TAPES / SONIC PLATE / Summer Shot / SUMMIT / TACOMA FUJI RECORDS / Telepathy / TENT / Tetsunori Tawaraya / TEXACO LEATHERMAN / TURBO SONIC / Vincent Radio / VOVIVAV / WACKWACK / wacky COLORgung / WDsounds / 2MUCH CREW / 37A (PANTY) / 373 / 86ed / GRASSROOTS / LEF!!! CREW!!! / TRASMUNDO / ChillMountain / TWENTY SEVEN / MORE (DAY IN DAY OUT) / TARZANKICK!!! / mink / ESSU / CosmicLab. / TADZIO / KIRIHITO / 威力 / 大井戸猩猩 / 河村康輔 / 五木田智央 / 竹本侑樹 / ヘンタイワークス / 嫁入りランド / LIQUIDROOM

2015.6.26 friday→28 sunday
KATA[LIQUIDROOM 2F]
15:00-22:00
entrance free

■DJ Time@KATA[17:00-22:00]*28日(日曜日)のみ15:00-22:00
▼6.26(fri) feat. DJ DISCHARGE, KEIHIN, DJ YOGURT
イケイケ・ドンドンなDJメンツに声をかけました。ディープで華やかな一夜となることでしょう〜。皆さん乾杯しましょう〜♪
▼6.27(sat) feat. Shhhhh, BING (HE?XION! TAPES), 威力
奇祭の秘宝達を招集しました。ほんわかヘンテコ&異次元最先端を感じながら、Tシャツをお選び下さい。レッツ・ホニャララ!
▼6.28(sun) feat. SHOGO TSURUOKA (TURBO SONIC)
「GOLD DAMAGE 2015 Let's Go Crazy」にてラジカセ・インスタレーションをカマしたTURBO SONICの旦那が、とんこつラーメン風?ディスコにて、開店からラストまでの7時間ロングセットに身震いチャレンジ! レア体験を、お見逃し&お聴き逃し無くっ!

★Special Party!!!@Time Out Café & Diner[15:00-22:00]
▼6.28(sun) feat.『GOLD DAMAGE ジャパン!』
10年ぶりのゴルダメ復活地の階上にて、ゴルダメ・トリオが「ジャパン!」縛りで、またまたやらかします! チーママchampagneshowerに、今話題の(?)B2BユニットCocktail Boyzを迎え、和モノ&デビシルのJAPANのみの限定選曲にてバター・サロン作戦を試みます!
溶けてしまう虎は、ダ〜レだっ!?

GOLD DAMAGE Deejay's:ヤマベケイジ (LOS APSON?), 五木田智央, COMPUMA
Guest DJs:champagneshower (CELEBS), Cocktail Boyz[Q a.k.a. INSIDEMAN & KENKEN from KEN2D SPECIAL]

info
KATA https://www.kata-gallery.net
Time Out Café & Diner 03-5774-0440 https://www.timeoutcafe.jp
LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net


New Order - ele-king

 

 シカゴ・ハウス、デトロイト・テクノ、石野卓球、この3つに多大な影響を与えたポストパンクのUKのバンドは? 答:ニュー・オーダー。毎週月曜日の朝になると頭のなかでかかっている曲は? 答え:ブルー・マンデー。女(男)と別れる度に聴く曲は? 答:リグレット。

 ピーター・フック抜きのニュー・オーダーのライヴの評判がやたら良かったし、オールドファンにはまさかの〈ミュート〉レーベル移籍の第一弾です。ここは期待しちゃいましょう。ニュー・オーダーの10年ぶりのオリジナル・アルバムが9月23日にリリースされることが決まりました。アルバムのタイトルは『ミュージック・コンプリート』です。
 メンバーは、バーナード・サムナー、ジリアン・ギルバート、スティーヴン・モリスの3人+新ベーシストのトム・チャップマン、フィル・カニンガム。全11曲のうちの2をトム・ローランズがプロデュース、うち1曲を共作しています。アートワークはもちろんピーター・サヴィル。
 2000年代に入ってからの2枚のアルバムが、どちらかと言えばロック色が強かったものの、最近のジェイミーXXのアルバムのように、ダンス・ミュージックがポップ・カルチャーとなっている現状において、マンチェスターの大物がどのような作品を出してくるのか、注目したいと思います。

 続報を待て!

(※なんと、ele-king booksからはバーナード・サムナーの自伝『Chapter and Verse - New Order, Joy Division and Me』の翻訳本を新作と同時期に刊行する予定です)

Quantic presents The Western Transient - ele-king

 ここ数年来のクァンティックことウィル・ホランドはラテンというイメージだった。ラテンといっても幅広いが、2007年にイギリスからコロンビアへ移住してからは、コロンビアの伝統音楽であるクンビアに傾倒した作品が目立ち、それがコンボ・バルバロやオンダトロピカなどのバンドに表れていた。そんなクァンティックが、今度はアメリカに移住したのが2014年初頭のこと。現在はニューヨークを拠点に活動しているが、彼は根っからのボヘミアンであり、いつかまた見知らぬ土地へ旅立つのかもしれない。いずれにせよ、その土地や人々に根付く音楽に影響を受けるのは、クァンティックのいままでの活動を見れば想像がつく。

 アメリカといえばジャズだが、新しいバンドのウェスタン・トランシエントを率いての新作『A New Constellation』は、それを反映してジャズの影響が色濃い。ジャズといっても今流行の新世代ジャズとかではなく、たとえば“Latitude”を聴けばわかるように、1960年代後半から70年代初頭のソウル・ジャズやジャズ・ファンクなど、アーシーで土臭いものだ。また、レコーディングはロサンゼルスで、現地のミュージシャンたち(ビルド・アン・アーク、フライング・ロータス、カマシ・ワシントン、ケンドリック・ラマー、ブレイケストラらのセッション参加メンバーから構成される)との演奏ということもあり、温かでリラックスした雰囲気が漂う。同じ生音でもUK時代のクァンティック・ソウル・オーケストラが、ディープ・ファンクやレア・グルーヴといった英国のクラブ・サウンドの流れに属していたのに対し、本作でのレイドバック感はやはりUS西海岸の空気を孕んだものと言えよう。

 本作を制作するにあたってのインスピレーションとして、デヴィッド・アクセルロッドやカル・ジェイダー、スティーヴ・キューンの初期昨品などをクァンティックは挙げている。“The Orchard”や“A New Constellation”などはモロにアクセルロッド・マナーの作品と言え、そうした空気感を出すためにアナログ楽器や録音機材にも拘った。当時のレコーディング状況に近い設定で、全てワンテイクで録音したというところに、クァンティックの音楽に対する姿勢が表れている。“Nordeste”はブラジル北東部の主にバイーア音楽を指す言葉だが、その代表的アーティストであるアイアートやエルメート・パスコアルを彷彿とさせるナンバーだ(ちなみにアイアートは、キューンがゲイリー・マクファーランドと制作した1971年の傑作アルバムにも参加した)。この曲や“Jumble Sale”“Requiescence”に顕著だが、ジャズのなかにラテンやアフロ・キューバンの要素を持ち込み、コロンビア時代の音楽的ルーツがアメリカ音楽と融合したことによって出来上がった作品であることがわかる。

 ほかにガレージ・ロック的なテイストの“Bicycle Ride”、スティールパンの入ったカリビアン・ディスコ調の“Creation(East L.A.)”とバラエティに富むアルバムだが、いろいろなものから影響を受けつつも、根っ子の部分で自身の確固とした音楽基盤と繋がっている、そんなクァンティックのアルバムだ。

My Morning Jacket - ele-king

 ブッシュ・シュニアの弟が出るとか出ないとか、アメリカが来年のことでソワソワしはじめているなと思っていたら、もはやアメリカを代表するロック・バンドのひとつと言っていいだろうマイ・モーニング・ジャケットが新作のシングルで「デカい決断はきみ自身でしないと」と主張していて、ついにやってくるオバマ時代の終わりにちょっとこじつけそうになってしまった。もちろんバンドにそんなつもりはないだろう。が、ともかくその曲、“ビッグ・ディシジョンズ”のブリッジにはMMJの最良の部分が抽出されていて、その10小節を聴くためだけに何度もリピートしてしまう。「やれ! やるんだ! きみが本当にほんとに、本気ならな! 後悔したくなかったら、我慢なんてするな!」……高らかに鳴らされるギターとともに上空へとよく伸びるジム・ジェームスの歌。このバンドはつまるところいつだって、人生は素晴らしいし、きみには何だってできると聴き手を励ましつづけてきた。そう書くと能天気に聞こえるだろうか? だが、バンドはそのことを少しも恥じていないとばかりに、相変わらず力を振り絞って演奏している。

 7枚めとなる『ザ・ウォーターフォール』でMMJは、あれこれやり過ぎてやや散漫な印象を残した前々作『イーヴル・アージス』、実験的でダークだった前作『サーキタル』から引き返し、ボナルー・フェスティヴァルで堂々たるライヴ・バンドとして君臨する彼ららしい音とともに再始動している。オープニング、“ビリーヴ(ノーバディ・ノウズ)”でエレキ・ギターがドライヴすれば、ジムが「その日は来た! 僕の心は開かれている! マイ、オー、マイ! 信じろ、信じろ、信じろ、信じろおおおおおお!!」と吠える。それが生きていることだと証明せんとばかりにドラムは叩きつけられ、ジャムは渦を巻く。
 とはいえ、もはや彼らがただの豪快なジャム・バンドでないことはファンはよく知っていることだ。つづく“コンパウンド・フラクチャー”では洒脱なシンセ・ファンクが聴けるし、その次の“ライク・ア・リヴァー”はアシッド・フォークだ。『Z』以降顕著なエレクトロニカやヒップホップへのジェームスの興味はここでも隠し味になっている。ハード・ロック魂はやや抑えられ、そのぶんサイケ度はグッと上がる。ジャケットの赤い滝を見ればいい。サイケデリックであるということは、その幻の向こうに何か理想を見ることではないかと、そのことを探索することではないか……という気分になってくる。少なくとも、ピンク・フロイドとレッド・ツェッペリンがケンタッキー州の熊に襲われたような、このバンドのパワフルなロック・チューンを聴いているあいだは。

 先のソロにもよく表れていたが、ジム・ジェームスのシンガーとしての幅もグッと増した。オルタナ・カントリー的な小品“ゲット・ザ・ポイント”の穏やかな歌もいいが、白眉はねじれたギターのメロディが悩ましい“シン・ライン”。陶酔的なコーラスとともにファルセットのジムの声は少しかすれ、弱さをふとこぼしてみせる。「これは愛することと時間を無駄にすること、その間の薄いラインなんだ」……それはフライングVをかき鳴らした無敵状態の彼の口からは出ない愛の言葉だ。それでもである、「誰もきみを愛していないよ……僕以外は」なんていう包容力を、このひとは捨て去ることはない。ただただレイドバックしていく終曲“オンリー・メモリーズ・リメイン”では彼のソウル・シンガーとしての一面も見せながら、甘い歌でこう告げる。「僕たちのこの世の身体は朽ちていくけれど、僕たちが分け合う愛は生き続けるんだ」。僕は、それがたとえ幻覚だとしてもその歌に溶けていく欲求に抗えない。

 もう一度、例のブリッジを聴きたいがために“ビッグ・ディシジョンズ”を再生する。コーラスはこうだ――「きみは優しくて誠実だけど、恐怖に縛られているんだ」。僕には、それが遠いアメリカに住むひとたちだけに向けた歌だとは、どうしても思えないのである。

interview with Cornelius - ele-king


Cornelius
攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.music by Cornelius

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坂本真綾、Cornelius
あなたを保つもの/まだうごく

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V.A.
攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius

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 小山田圭吾a.k.a.コーネリアス。
 彼と初めて会ったのは1990年だから、いまから25年前ということになる。25年の歳月は世界の様相を激変させたけれど、どんなときも自然体を守り、自分の生き方と時間軸を保ちながら、音楽的にもめざましい進化を遂げたコーネリアスの軌跡は、アーティスト・ネームの由来となったSF映画に因んで「この惑星の霊長類史上稀にみる」と形容したくなるほど稀有なものがある。

 2006年の『Sensuous』以来、オリジナル・アルバムこそリリースされていないが、インターナショナルなオファーが絶えないリミックスやCMワークス、Eテレの教育番組『デザインあ』の音楽制作、salyu ×salyuなどのプロデュース、そしてYoko Ono Plastic Ono Band、YMO、高橋幸宏&METAFIVEなどのメンバーないし準メンバーとしての活動を通じて積み重ねてきたコラボレーションの数々は、不在を感じさせるどころか、他に例を見ないほど充実している。

 彼が約3年間に渡って音楽を手がけた、89年の原作発表以来25周年を迎える日本におけるサイバー・パンクの金字塔的作品『攻殻機動隊』の前日譚『攻殻機動隊 ARISE』も、現在オンエア中のTVアニメ『攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』ならびに映画『攻殻機動隊 新劇場版』をもって、一連のシリーズを完結する。
 作品の舞台は近未来――といってもいまからわずか12年後の――2027年の日本だが、坂本慎太郎との共作によるそれぞれの主題歌、“あなたを保つもの”と“まだうごく”は、映像作品のテーマ・ソングという役割を超えて、なぜか2015年現在の日本を覆う不穏な空気に対するアンサー・ソングのように響いてくる。

ほら 見て 今までの 約束 破棄された
新たな この世界 あなたを 保つものが
あな たの あな たが
あな たを あな たに
あな たの あな たが
あな たを あな たに
してる
“あなたを保つもの”

 しばらく会えずにいる間も、彼が創造する音楽はいつも近くに在った。
 心が波立つとき、彼の音楽に耳を傾けると、平穏な気持ちを取り戻す。感覚を研ぎ澄ませたいとき、彼の音楽に全身を浸せば、マインドのセットアップが完了する。
 ぼくにとって彼の音楽は、「自分を保つもの」として欠かすことができない。

 いま、ぼくらが生きるこの国で、奇妙な事態が進行している。
「今から おきる ありとあらゆる現実を 全部 見て 目に 焼き付けよう」
 4年前、坂本慎太郎と小山田圭吾が、salyu × salyuというプロジェクトで発したメッセージが、いま再び、別の意味合いを帯びはじめている。

どこまでも どこまでも 続く道を
すこしずつ すこしずつ 歩くために 理由がいる

まだ うごく
まだ みえる
“まだうごく”

 どこからか声が聞こえる。
 自分のゴーストに従え、と。


■コーネリアスが手掛ける「攻殻機動隊ARISE」シリーズの劇中曲
世界中のクリエイターに影響を与え、映像作品としても革命的なインパクトを残し、歴史にその名を燦然と刻む傑作SFアニメ映画『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)。その“生誕”──士郎正宗による原作『攻殻機動隊』25周年を記念して、今週末より長編アニメーション映画『攻殻機動隊 新劇場版』が公開される。同作は、現在放送中のテレビアニメ『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』とともに「攻殻機動隊ARISE」シリーズの完結編となり、そのラストを締めくくるテーマソングを、同シリーズのサントラを手掛けてきたコーネリアスと主人公・草薙素子を演じる坂本真綾とが彩る。
Salyuや青葉市子から、ショーン・レノン、高橋幸宏までを迎え、坂本慎太郎が詞を提供することでも話題となった、このスペシャル・コラボレーションによる一連の音楽作品は、2枚のサントラ盤をはじめとしたいくつかのリリースによって楽しむことができる。川井憲次、菅野よう子からの連続性の上に、新たな“攻殻”の音世界が築かれていることがはっきりと感じられるだろう。このたび発表されるのは『攻殻機動隊 新劇場版O.S.T by Cornelius』ならびにシングル『あなたを保つもの / まだうごく』、そして貴重なライヴ映像等を収めたミュージック・クリップ集『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius』。どこから観て、どこから聴いても特別な作品群だ。

■Cornelius / コーネリアス
フリッパーズ・ギター解散後、1993年から開始された小山田圭吾によるソロ・プロジェクト。ソロ・デビュー22年を迎え、国内外多数のアーティストとのコラボレーションやリミックス、プロデュースなどますます幅広く活動する。2008年にリリースされた「Sensurround & B-Side」がグラミー賞のベスト・サラウンド・サウンド・アルバムにノミネート。「UNIQLO」「CHANEL」などのCMや「デザインあ」(NHKEテレ)といったTV番組ほか、映像とのコラボレーションも多い。https://www.cornelius-sound.com/

これまで僕がコラボレーションしてきた人たちが、ここに集まった、っていう感じはあるかな。

小山田圭吾(以下、小山田):すごい久しぶりだよね。ライヴでチラッと会うくらいだもんね。

北沢夏音(以下、北沢):そうだね。何回かそういうこともあったけど……。

小山田:いや、もう20年くらいは取材とかしていないんじゃない(笑)?

北沢:……かもしれない。つねに取材はしたかったんだけどね。音も聴いていたし、小山田くんの活動はつねにフォローしてる。

小山田:取材してたといっても、いちばんやったのはフリッパーズの頃だよね。

北沢:うん。だけど、『バァフアウト!』を創刊してしばらくのあいだ、コーネリアスのデビューから少なくとも『69/96』までは必ず取材してた。

小山田:そうだそうだ。それも20年近く前だからね(笑)。

北沢:『Fantasma』のときは『クイック・ジャパン』でクロス・レヴューする企画があって、ぼくは映画『渚にて』の終末観と重ね合わせて原稿を書いたことまでハッキリ覚えてるんだけど、取材が実現したかどうか……してないかもね。

小山田:そうか。不思議だね。

北沢:あんまり久しぶりだから、どこから切り出していいかわからないけれども。そうだな、まず、今回の『攻殻機動隊 新劇場版O.S.T by Cornelius』の音源を頂いてから、もうずーっと聴いてる。たんなる劇伴ではない、アルバムとしてのトータリティをすごく感じる。このサントラ盤自体、小山田くんがこのところ行ってきた、いろんな人たちとのコラボレーションの集大成といえるものになっていて、その精華がギュッと集約されてる。それだけでも十分すぎるくらい価値がある素晴らしいアルバムになっていると思った。
この『攻殻機動隊ARISE』のシリーズのサントラについては、前に出ているもの(※『攻殻機動隊ARISE O.S.T.』)も買って聴かせてもらってたんだけど、今作は前作とのつながりもありつつ、もっと広がりがあるというか。坂本真綾さんがヴォーカルをとるTVアニメ『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE』のオープニング・テーマ“あなたを保つもの”と『攻殻機動隊 新劇場版』主題歌“まだうごく”という核になる2曲がまずあって、だけどそれだけじゃなくて、高橋幸宏さんがヴォーカルの“Split Spirit”とか、ショーン・レノンがヴォーカルの“Heart Grenade”とか、既発の曲もピタッとハマっているし、アルバム全体がものすごく起伏に富んでいる。環境音楽的なアプローチだったり、ミニマルやノイズ、はたまたアグレッシヴでエッジィなギター・ロック・サウンドが聴けたり、曲想もヴァラエティに富んでいて、最後まで飽きずに聴けるし、繰り返し楽しめる。

小山田:よかった。

北沢:ぼくは、ショーンと合作した“Heart Grenade”がすごく好きで。メロディとか展開は完璧にコーネリアスなんだけど、ショーンが詞を書いて彼の世界観が投影されることによって、普遍的なモダン・ポップに仕上がっていて、最高だなと思った。今回『攻殻機動隊OST 2』をまとめるにあたって、どういう構想があったの?

小山田:うーん。まぁ、とくに構想というのはなくて、基本はサントラなんで、映画の劇伴と主題歌を集めたものなんだけど。『OST 1』はボーダー1(※攻殻機動隊ARISE border:1 Ghost Pain)と2(※攻殻機動隊ARISE border:2 Ghost Whispers)で、今回の『OST 2』はボーダー3(※攻殻機動隊ARISE border:3 Ghost Tears)、4(※攻殻機動隊ARISE border:4 Ghost Stands Alone)と劇場版ということで。「ボーダー1」は全部で50分ある最初のやつで、比較的多くの曲が必要だったから、(それを作った時点で)もうある程度のヴァリエーションが出揃ってて──だから1、2で“『攻殻』の劇伴”というのはすでにあったんだけど、3、4と劇場版で少しずつ曲が増えていったという感じ。それぞれの映画にテーマがあって、それに沿う形で曲ができていった感じかな。

北沢:その核にあったのは、やっぱりオープニングとエンディングのテーマ?

小山田:まぁ、そうですね。毎回エンディング・テーマがあって、それは主題歌ということで、映画によって多少内容が変わってくる、っていう感じなんだけど。


サイバー・パンク的なSFにYMOが与えた影響ってあるんだろうね。日本の未来感みたいな。そういう意味でも、僕がやってきたコラボレーションと、『攻殻機動隊』の世界観がハマったなっていう感じ。

北沢:おそらくSalyuのプロデュースをやったことから、現在にいたる流れがはじまったんじゃない? salyu × salyuの『s(o)un(d)beams』(2011年)の中の曲は前作のOSTに起用されてなかったっけ。あれはちがうか。

小山田:『s(o)un(d)beams』の中の曲じゃなくて、『攻殻機動隊』用の書き下ろし(※salyu × salyu“じぶんがいない”)だったんだけど。ちょうど「ボーダー1」をやる前にsalyu × salyuのプロジェクトをやって。それでSalyuに「最近何やってるの?」って訊かれて「『攻殻機動隊』のサントラやるんだよ」って話をしたら、彼女がこの映画をすごく好きだったみたいで、じゃあ、って頼んだという流れで。今回のも含めて、これまで僕がコラボレーションしてきた人たちが、ここに集まった、っていう感じはあるかな。
偶然かどうかはわからないんだけど、Salyuが『攻殻機動隊』を好きだったり、ショーンにも(ヨーコ・オノ・プラスティック・)オノ・バンドのライヴでロンドンに行ったときに『攻殻機動隊』の話をしたら、彼も観ていて好きだったみたいで、そういう縁があった。幸宏さんはさすがに観てなかったんだけど、以前のシリーズで“ソリッド・ステイト・ソサイエティ”っていう話があって(※『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』)。

北沢:そのタイトル、モロにYMOだ。

小山田:そう。ああいうサイバー・パンク的なSFにYMOが与えた影響ってあるんだろうね。日本の未来感みたいな。そういう意味でも、僕がやってきたコラボレーションと、『攻殻機動隊』の世界観がハマったなっていう感じ。

北沢:ミレニアム以降、『Point』(2001年)を分岐点に小山田くんの楽曲の作り方が変わって、『Sensuous』(2006年)にいたるまで、その方法論を発展させてきた過程というのは、すなわちひとつの音をどう響かせるか、それを研ぎ澄ませてきた過程だという気がするんだけど。そういうなかで自分の声や言葉の響き、作詞についても新しいアプローチをして、その流れでSalyuとのコラボもあって。やっぱりすごく大きかったと思うのが、坂本(慎太郎)くんとの共作をそこでスタートさせたことかなと。共作のきっかけは?

小山田:それは僕から提案したんじゃなくて、Salyuが「(作詞は)坂本くんがいい」って言ったんだけどね。僕も坂本くんがいいなと思っていたんけど、バンドがちょうど解散したばっかりで。

北沢:ゆらゆら帝国はもうなかったんだね。(※2010年3月31日付けで解散を発表)

小山田:あんまり活動をやっていないし、(そんなときに)頼むのもどうかなって思っていたんだけど、Salyuが「坂本さんがいい」って言ってるからお願いしたら、やってくれるって。


視点が、僕としてはすごく共感できる。客観性を絶対に失わないで、ユーモアみたいなものも含んでて。いままで坂本くんが作ってきたものを含めて、そう思うんだけど。

北沢:小山田くんと坂本くんの共作のやり方って、先に坂本くんの詞があるわけじゃないよね? 彼自身のいつものスタイルも詞先じゃないっていうし。彼とどういうふうに共作したのか、あらためて教えてほしいな。

小山田:salyu × salyuのときは、僕がデモ・テープみたいなものを持って行って、アレンジも全部できていて、メロディ・ラインもシンセで入っている音源をSalyuにまず渡して。Salyuがそこにデタラメな──自分が発語したい言葉で仮メロを入れるんだけど、それは何語でもなくて、メロディに対して彼女が発語したい言葉を歌っているっていうすごい変なもので。それを坂本くんが聴くと、何か空耳的にいろいろ聴こえてくるらしいんですよ(笑)。それを歌詞の言葉に置き換えるみたいな作業だったのね。
salyu × salyuの頃はそういう作業だったんだけど、今回の『攻殻』に関してはデモ・テープを坂本くんに渡して、あとはとくにディレクションもなく、わりと好きに書いてもらった。でもその前に『攻殻機動隊』のDVDボックスを渡して観てもらって、なんとなくその世界観を掴んでもらってから、後はおまかせっていう感じだった。「じぶんがいない」(※「border.1」エンディング・テーマ)っていう曲に関しては、言葉がパズルみたいになってて、声が入り組んでいって、言葉が増えていくことによって、メロディができていくみたいな……。

北沢:「き、き、き、きく、きく、きおく」みたいな感じ?

小山田:うん。一文字で意味があって、二文字でも意味があって、三文字でも意味がある、みたいな言葉があったら当てはめてほしい、とかは(坂本くんに)言ったけど。

北沢:小山田くんからお題を出した?

小山田:うん。で、それ以外の曲に関しては、何もディレクションはなかったかな。

北沢:それにしてはものすごくジャストな詞だよね。しかも“あなたを保つもの”を聴いたとき、これは作詞が小山田くんだと言われたら信じちゃうような、わりと小山田くんっぽい感じも入ってるなって。最初にもらったとき、小山田くんはそう思わなかった?

小山田:うーん。そうかな?

北沢:自分ではあんまり?

小山田:「うで ゆび あし つめ」とか?

北沢:うん、そういうところも。

小山田:まぁわかるけど。メロディを作ってる人が僕だし、あんまり“日本語のポップス”(の常道)じゃないところに言葉を当てはめようとすると、そういう言葉が入るのかなっていうのは。でも、僕にはできないようなものにはなっていると思うんだけど。そこはやっぱり坂本くんの力。

北沢:“あなたを保つもの”だと、どの言葉がとくに坂本くんっぽいと思った?

小山田:うーん。具体的にはわからないけど、ホントに上手いなと思うんだよね。言葉のはめ方もそうだし、歌ってて……というか、発語して気持ちいい、みたいなところをまったく損なわないで、なおかつ文章としてもおもしろくて、深い意味も感じられるような歌詞の言葉を作れる人だと。しかも視点が、僕としてはすごく共感できる。客観性を絶対に失わないで、ユーモアみたいなものも含んでて。今回だけじゃなくて、いままで坂本くんが作ってきたものを含めて、そう思うんだけど。


「あなたを保つもの」、つまり「ゴースト」っていうものを、いろんな角度から言っている、ってことだと思うのね。そのなかで坂本くんのいままでやってきたことと重なる部分もあって、それがまたいろんなかたちで出てきているっていう。

北沢:“あなたを保つもの”と“まだうごく”を聴いて感じたのは、もともと彼自身のなかでも、「幻」(ゴースト)がかなり大きなテーマとして存在していたんじゃないかということ。坂本君の最初のソロ・アルバムのタイトルが『幻とのつきあい方』だし、一方『攻殻機動隊 ARISE』のシリーズを通してのオープニング・テーマが“GHOST IN THE SHELL ARISE”でしょう?
それで、「幻ってなんだろう?」と考えたときに、英語の「ghost」には「幻影」や「幽霊」のほかに、キリスト教的な「聖霊」という意味もある。これを日本的に解釈すると、草木に宿る「精霊」とか「死者の魂」、さらには人間の内奥にある魂(ソウル)や精神(スピリット)をも「ゴースト」と呼んでいいだろう、とぼくは思う。もしそうであるなら、「あなたを/保つもの」、あるいは「あな/たを/あな/たに/してる」ものとは、人間の五体に備わっているさまざまな器官のみならず、目に見えない、フィジカルではない霊的なもの――つまり、「体を/捨てても/あなたを/保つもの」――の力によって、人は自分自身を保ち、命と心を支えられているんじゃないか、と。そういう想いをこの2曲の詞から感じた。
それが当たっているかどうかは坂本くんに訊かないとわからないけど(笑)、ぼく自身はその考えにまったくうなずけるというか、自分はきっとそうだな、って思ったりもした。小山田くんは、自分が何によって保たれていると思う?

小山田:なんだろうね(笑)。うーん。

北沢:こういう質問は面倒臭いかもしれないけど、ちょっと訊いてみたかった。

小山田:うーん、よくわからないな。


坂本真綾とコーネリアスによるシングル『あなたを保つもの / まだうごく』のジャケット。カバー・イラストは詞を提供した坂本慎太郎が自ら手掛けている。


北沢:体を捨ててもあなたを保つもの。

小山田:この映画のテーマ自体がそういうものっていうか。(草薙)素子っていう主人公がいて、(生まれる以前に)“義体”っていう体にされてて。

北沢:サイボーグ?

小山田:サイボーグ……、まぁサイボーグなんだよね。生まれながらにサイボーグで、ゼロ歳児の義体っていうところ(出生)から、「自分を保つものはいったい何なんだろう?」ってつねに悩んでいるというか。その魂みたいなものを映画のなかでは「ゴースト」と呼んでいるんだけど、基本的なテーマがその「あなたを保つもの」っていうこと。で、坂本くんの詞に関しても「あなたを保つもの」、つまり「ゴースト」っていうものを、いろんな角度から言っている、ってことだと思うのね。世界観やテーマもはっきりしているから、そのなかで坂本くんのいままでやってきたことと重なる部分もあって、それがまたいろんなかたちで出てきているっていう。

北沢:“まだうごく”には、「昔は幻に/名前がついていた/ひどく大切な/もののように」という一節があったり、「素敵な人たちは/先に行ってしまった」っていうフレーズがあったりするけど。なんか、それこそ石橋英子さんがジム・オルークさんたちとやっているバンドの名前「もう死んだ人たち」(石橋英子 with もう死んだ人たち)じゃないけど、もう死んでいる人たちの音楽を聴いていることが、やっぱり坂本くんは多いみたいで、それも小山田くんとの対談で言っていた気がするんだけど……。

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©士郎正宗・Production I.G / 講談社・「攻殻機動隊 新劇場版」製作委員会
『攻殻機動隊 新劇場版』6月20日(土)全国ロードショー
https://kokaku-a.jp/


ゴーストは見たことある? (北沢夏音)

ないです(笑)。UFOはあります。 (小山田圭吾)

北沢:実際に、偉大な人たちが、いまこうしている間にもどんどん死んでいって、でもぼくらはそういう人たちからインスピレーションをもらったり、励まされることがよくあるし。そういえば「自分のゴーストに従え」というメッセージが今回の『攻殻機動隊 新劇場版』にもあるね。

小山田:うん。出てくるよね。

北沢:(唐突に)ゴーストは見たことある?

小山田:ないです(笑)。UFOはあります。

北沢:どこで見たの?

小山田:タイで見ました。出そうでしょう?(笑)

北沢:都心部で?

小山田:ちょっと田舎の方ですよ。

北沢:チェンマイとかあっちの方?

小山田:いや、チェンマイまではいかないですけど、けっこう20人くらいで見たのでたぶん本物だと思うんですけど。自分ひとりだと自信がなくなるけど(笑)。

北沢:変な話だけど、守護霊が自分にいるとしたら何だと思う?

小山田:守護霊? なんだろうね。ぜんぜんわかんない(笑)。

北沢:(笑)そういうオカルティックな方面にはぜんぜん興味なかったっけ?

小山田:自分の守護霊に関してとか?

北沢:うん。

小山田:うーん、あんまわかんないですね。聞いたこともないです。UFOには興味があります。


流行っているものがあんまりよくわからないんで(笑)。いまは流行りも多様化しているじゃないですか。

小山田さんは、普通に新譜とか聴かれるんですか?

小山田:うーん、ちょいちょいですね。

最近は何かチェックされた新譜はありますか?

小山田:最近……何かチェックしたかな。名前が最近覚えられないです(笑)。

(笑)。それは再発とかじゃなくて新しい人の名前ですか?

小山田:新しい人の。新譜でもけっこうダウンロードで買ったりすると、コピペしてポンってやって名前を覚えないパターンが多くて。

北沢:気にしなくなっちゃうんだ。

小山田:うん。ぜんぜん気にしなくなっちゃうね。でも昔に比べたらあんまり買わないですね。まぁ、ちょいちょい聴いてるけど。

買われるものに関しては、どういうタイミングで「これがほしい」って思うんですか?

小山田:ネットを見ていて、とかユーチューブを見ていて「あっ、いいな」って思ったものとか。

じゃあ、巷でクラウト・ロックがリヴァイヴァルしているとか、インダストリアルがリヴァイヴァルしているとか、あるいはエイフェックス・ツインが昨年大復活したり、フライング・ロータスの存在感もジャンル横断的に大きかったとか、そういうようなことは感じていますか?

小山田:フライング・ロータスは、最初のやつは聴いた。去年出したやつは聴いてない。

そうなんですか。去年のは、ちょっとキング・クリムゾンというか、プログレっぽくなっていたりもするんですけど、いま挙げたようなものの全部の要素が今回の『攻殻機動隊 新劇場版』のサントラから感じとれるんですよね。小山田さんはたぶん絶対に意識されていないでしょうし、わざわざ追ってもいらっしゃらないとは思うんですが、全トラック中にごく自然にトレンドが溶け込んでいる感じがして、すごいなぁと。

小山田:あっ、たしかにクリムゾンっぽいのはちょっとあるかもね(笑)。

北沢:あるある。あとインダストリアルっぽいのもある。

小山田:うん、インダストリアルっぽいのもあるね。

エイフェックス・ツインっぽいのもありますよね。

小山田:あっ、エイフェックスっぽいのもあるかもね。

そういう時流みたいなことって今作を作るうえで意識されてたんですか?

小山田:流行っているものがあんまりよくわからないんで(笑)。いまは流行りも多様化しているじゃないですか。

それはありますね。今月何を聴けばいいかなんて、昔とちがって共有できない事柄ですよね。

小山田:うん。わかんないじゃん。自分のなかの流行りはなんとなくあるけど。いま、何が流行ってんだろう? わかんないや。インダストリアルも流行ってんの?

北沢:まぁ、密かにそういう潮流はあるよね。


インダストリアルと『攻殻機動隊』の親和性はけっこうある気がする。マシーンと(融合する)未来感みたいな。

小山田:どういうの? TG(スロッピング・グリッスル)みたいなの?

なかにはありますよ。話し出すと長いですが……。

北沢:シューゲイザーとチルウェイヴとドリーム・ポップの行末に、インダストリアルがどーっと流れ込んできた感じがする。

あとテクノも最近は聴こえてくるんですけど、そういうものが結びついている気がしますね。

北沢:ベース・ミュージック隆盛の反面、ここのところずっとふわふわしてる音が来てたけど、さすがに甘口に飽きたのか少し尖った音の方に流れが変わってる気がする。

小山田:インダストリアルとかは昔は聴いていたし、クリムゾンとかはそんなには聴いていないけど、エイドリアン・ブリューが入ってからのクリムゾンは好きで。

北沢:エイドリアン・ブリューって、小山田くんっぽいよね。音の遊び方、トリッキーなギターのフレージングとかユーモアのセンスが。

小山田:その前はあんまり聴かないんだけど、『ディシプリン』三部作くらいが好き。インダストリアルと『攻殻機動隊』の親和性はけっこうある気がする。マシーンと(融合する)未来感みたいな。

北沢:あるね。このサントラにも破裂音とかけっこう入ってるし。

クリムゾンみたいな要素がいまをときめくアーティストからふと聴こえてくる、その理由については意識されてないとしても、それが時代の差し色だったのは間違いないと思うんですね。そんな感性が自然に入っているところが、いま現在の新譜としてもすごいな、って思ったんですけど。そのあたりの手応えはどうですか?

小山田:もちろんこれは『攻殻機動隊』のサウンドトラックなんだけど、それと切り離してもアルバムとして聴けるものに構成したいと思っていて。単に劇伴の曲を並べているだけじゃなくて、アルバム用にリサイズしたり、ミックスしたりしてる曲もあったり、これに入っていない曲もたくさんあったりして、そのなかからアルバムとして聴けるようなエディットや選曲をしてるんだよね。
世界観が統一されているのは、もちろん作品の映像があってこそなんだけど、自分が自由に作りたいものを作るとなると、もうちょっと多面的で、興味も移りがちになって……、ここまでひとつのトーンで作品を作ることって、ひとりでは難しいのね。だけど、依頼があって限定された条件のなかでやるからこそ、こういうわりと世界観が統一されたアルバムができたんだなって思う。それが自分のなかではよかった。自分の作品だとやりたいことがいろいろ出てきちゃったりするんだけど、必ずしもそれがいいことじゃないなっていうか(笑)。


もちろんこれは『攻殻機動隊』のサウンドトラックなんだけど、それと切り離してもアルバムとして聴けるものに構成したいと思っていて。

北沢:それは、プロデューサーとしての小山田くんがそう思うってこと?

小山田:うん。まぁそうだね。今回やってみて思ったんだけど、そういう限定された条件で作ることによってしか生まれない作品っていうものもあるな、って。

北沢:『攻殻機動隊』のシリーズで、小山田くんが自分をヴォーカリストとして起用しないのは、自身のソロ作品と区別するため?

小山田:区別するためっていうわけじゃないんだけど。(しばし黙考して)まぁ、それもちょっとはあるかもね。なんか、自分とコーネリアスとその他の作品の境界線が、自分でもよくわからなくなってきていて(笑)。

北沢:溶けてきているよね(笑)。だんだん交じり合ってきたような。

小山田:何がどうなっているのか自分でもわからなくなってきていて、果たしてこれをコーネリアスと言っていいのか、小山田圭吾の作品なのか、それもよくわからない。でもそれを区別するとしたら自分の歌だってことは、あるといえばある。あと、あんまり自分の歌に責任が持てないっていうか(笑)。自分が歌うことはいつでもできるし、こういう機会がせっかくあるなら、いままでコラボレーションしてきた人とまたやるのもいいかなっていう。

北沢:たしかに、そういう人たちがサントラの一部として自然にハマっているからね。前に青葉市子さんとやった“外は戦場だよ”(※「border.2」エンディング・テーマ)は、本当にぞっとするような怖い歌詞だと思うけど、それが彼女のえもいわれぬクワイエット・ヴォイスで歌われると、よりリアリティが増すとも言えるし、聴いている自分も当事者になったような感覚が伝わってくる。青葉さんならではの不思議な憑依感というか。これはたしかに他の人には歌えない、演奏できないような曲だと、一度聴くとそう思ってしまうね。

青葉さんはじめ、いろんな女性ヴォーカリストが歌っておられますけれども、今回の坂本真綾さんは、歌い手として、あるいは素材として、どういう存在でしたか? 声優さんということは意識されましたか?

小山田:別に、いつも通りに作っていたんですけど。すごく歌が上手で、クセのない良い声だよね。すごくやりやすかったですよ。女優さんだからといっても、むちゃくちゃ強い個性があるっていう感じでもなくて、わりと水みたいにいろんなものに変われる部分もあって。歌録りは非常に速かったですね。

では、アプローチとしては他の女性ヴォーカルと変わることなく?

小山田:うん。ぜんぜん。

声を純粋に音として捉えている部分もあると思うんですね。それぞれの歌い手さんにもそういう意味でのちがいがあると思うんですけど、曲をつくる上で意識せざるを得ない差はなかったですか?

小山田:えーっと、歌い手さんに合わせて作るっていうこともあんまりなくて。それよりも楽曲に合わせるというか。ただ、salyu × salyuに関してはわりと歌をたくさん使ったり、コーラスだとか声を組み替えたりすることはこれまでもやってきたことだったんだけど、今回も(坂本真綾さんに)そういうことをやってみたりだとか。(青葉)市子ちゃんのときは、逆にそういうことはやらないとか。

北沢:青葉さんに関しては、彼女が自分で詞や曲を書いて歌うシンガー・ソングライターであるというところを尊重しようという気持ちがあるのかな?

小山田:市子ちゃんだったら、基本はギターと歌だけで成立するような世界をやってて、コーラスを重ねたりすることもあんまりなく、さらっとひと筆書きみたいなメロディが合うかなとか。Salyuの場合はコーラスとかもやるし、普通の一本の線みたいな歌も歌えるし、歌に特化した人だから、いろんなアプローチができると思う。真綾さんの、とくに“まだうごく”とかはシリーズ最期の劇場版だったので、スケール感のある歌ものをやって、彼女の声の質感みたいなものがちゃんと聴けるといいかな、と思って作った。
歌い手さんの条件によって変わることは、それくらいの意味ではあるけど、まぁそんなにはないと言えばない、というか。その時々の映画の内容によってだったり、いろんな条件が重なってこういう結果になっていると思う。

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劇場版の最終作なので。基本は悲しい話なんだけど、そのなかの微かな希望が印象に残るようにイメージしてたな。

北沢:小山田くんは、タイアップありきで楽曲を作っても、絶対にタイアップっぽくならないよね。小山田圭吾オリジナルのコーネリアス・サウンドの強度が前提にあるからこそ、そういうことができるんだろうね。歌い手のキャラクターとか、声の存在感に引っ張られると、たぶんそうならないんだけど、ホント不思議だよね。リミックスを集めた『CM』のシリーズも毎回楽しみにしてるんだけど、誰のどんな曲を手がけても、完璧にコーネリアス・サウンドになってしまうものね。そのオリジナルなサウンドの進化の過程がコーネリアスの歴史そのものになっている。誰とやっても負けないよね。それは字義通りの勝ち負けではなくて、相手に引っ張られることがほとんどない気がする。これは引っ張られたという例はある?

小山田:そうだなぁ(笑)。誰かに引っ張られるってことがどういうことなのかわからないんだけど(笑)。あくが強い……。

北沢:そういうことじゃないんだけどね(笑)。さらっとしてるのに、小山田くんの色は強烈だよね。

小山田:音の入れ方が独特、っていうのはあるのかもしれないけどね。

北沢:タイム感も独特だし。“まだうごく”はシンセ・ベースの使い方がすごくかっこいい。ゆっくり歩いている感じのウォーキング・テンポでこれは絶妙だなって思った。こういう技をパッと出してくる人はなかなかいないからね。

小山田:地味な感じでしょう(笑)?

北沢:いや、地味だとは思わないなあ。かっこいいよ。

小山田:けっして派手じゃないじゃない? テンポものろいし。

北沢:まぁ、布袋(寅泰)さんみたいな感じの派手さはないよね。

小山田:まぁ布袋さんではないと思うけど(笑)。いちおう劇場版の最終作なので。基本は悲しい話なんだけど、そのなかの微かな希望が印象に残るようにイメージしてたな。

北沢:いろんな仕事を小山田くんはやってるけど、そのすべてが真のコラボレーションになっているのが素晴らしいと思う。「これはおもしろそうだからやってみようかな」っていう判断の基準はあるの?

小山田:うーん……、勘ですね(笑)。野生の勘。なんとなくヤバそうなのはわかるんですよ、話をきくだけでも。これはちゃんとできそうだなとか、これは無理とか。

先ほどは、それは「縁」だともおっしゃっていましたね。

北沢:どこかで似たもの同士が集まったような雰囲気があるね。ある種の同族というのかな。

小山田:同族……なのかな(笑)。まぁでも、一部分では波長が合っているわけだから、そういう意味ではいっしょなのかもしれない。


これまではすごいストイックだったし。「音をなるべく鳴らすんじゃない」みたいな。でもいまはそういう気分じゃない。もうちょっと遊びがある感じというのかな。

北沢:ところで、最近の小山田くんはどういうモードなの? 『Point』のときはかなりミニマリズムを極めた感じがあったのが、『Sensuous』ではまた少し色づいてきた。僕はファーストからそれぞれの作品ごとに愛着があるけど、やっぱり『Sensuous』が小山田くんの作品のなかでいちばん好きだし、コーネリアスとしての決定版みたいな感じがしたのね。さらにその先を行くものを作るのは大変なことなのかな、と思ったりもするんだけど。でも、こうやっていろんなコラボレーションを重ねることで、自然に歩みを先に進めてきたようなところもあるから、この先どんな世界を見せてくれるのかすごく楽しみなんだ。

小山田:最近のモードとしては、どうなんだろうな(笑)。でも、『Point』や『Sensuous』よりも余裕がある感じというのは、なんとなく。

北沢:張り詰めてない感じ?

小山田:そうそう。緊張感みたいな部分ももちろんあるけど、もう少しゆとりがある感じがいいなって。これまではすごいストイックだったし。「音をなるべく鳴らすんじゃない」みたいな。でもいまはそういう気分じゃない。もうちょっと遊びがある感じというのかな。

北沢:いまのこの時代の空気を小山田くんはどういうふうに感じているのか、小山田くん自身の声と音で聴いてみたいよ。

小山田:いまの空気……。なんとも言えないね。なんとも言えない感じが続いてる、っていう感じだね(笑)。


いまの空気……。なんとも言えないね。なんとも言えない感じが続いてる、っていう感じだね(笑)。

北沢:何かものすごく大きな転換期、ターニング・ポイントに差し掛かってるような、コーナーを曲がっちゃう寸前みたいな切迫感があるし、その先はどうなるんだろうな、って。

小山田:漠然とした不安がつねにあるみたいな。それはずっとそうだけど。

北沢:それこそ、3.11の後、3月29日にsalyu × salyuの“続きを”をセッションした映像をネットにアップしたよね。あれなんかすごく不思議な、おそろしくジャストな曲として響いた。

小山田:そうだね……。あれは本当にそう思ったね。

北沢:あれは本当に、「呼ばれちゃって」できた曲なんじゃないかって。

小山田:震災直後のタイミングであのアルバム(『s(o)un(d)beams』)が出たんだけど、地震の頃にちょうどミックスとかマスタリングをしてたんだよね。震災の後、しばらくあんまり音楽を聴けなかったんだけど、仕事でしょうがないから聴いたりしてて。で、なんか坂本くんのつくった歌詞が頭の中に入ってくると、完全にいまの状況を歌ってるとしか思えないような内容だったんで、すごくびっくりしたことを覚えてる。坂本くんもきっと自分でびっくりしたんじゃないかな。そういう時代のムードを敏感に感じることのできる人だから、そういう偶然って、起きちゃうときは起きちゃうんだと思った。


震災の後、しばらくあんまり音楽を聴けなかったんだけど、仕事でしょうがないから聴いたりしてて。で、なんか坂本くんのつくった歌詞が頭の中に入ってくると、完全にいまの状況を歌ってるとしか思えないような内容だったんで、すごくびっくりしたことを覚えてる。

北沢:歌の歌詞が時代を予見してしまうことって、歴史的にこれまでにもあったことだと思うんだけど──

小山田:歌は世につれ世は歌につれ、って。そういうことはあるからね。

北沢:もう4年前か。でも毎年毎年、あの曲がだんだん近くに聞こえてくるような感覚ってないかな? 遠ざかっていけばいいものでもあるのに、逆にちょっと大きく聴こえてくるところが、ぼくにはあるのね。それは不気味なんだけど、この曲のすごさがどんどん巨大化する生き物のように……まるで竜みたいに感じられることがあるというか、繰り返し覚悟を問われているような感じがして。小山田くんにとっても、“続きを”はいまだに特別な曲だったりする?

小山田:うん。あの曲はすごく特別な曲だな、って思ってる。坂本くんといくつかsalyu ×salyuのプロジェクトで作ったんだけど、どれもすごく気に入ってて……。

北沢:去年の11月に、日本科学未来館で開催した『攻殻機動隊』25周年記念のライヴ・イヴェントでは、坂本くんに「出演しない?」って声をかけてみたりしなかったの?

小山田:しない(笑)。つねに「ライヴはもうやらない」って言ってるし。

北沢:たしかにね。彼はいつもそう言ってるんだけど、やっぱり観てみたい気持ちもある。

小山田:そりゃそうだよ。


『攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius』
2014年11月24日に開催された日本科学未来館にて行われたイヴェントの模様やスタジオ・ライヴなども収録。
高橋幸宏&METAFIVE(小山田圭吾×砂原良徳×TOWA TEI×ゴンドウトモヒコ×LEO今井)による“split Spirit”では胸の熱くなるライヴ・パフォーマンスを目の当たりにすることができる。

北沢:あのライヴ・イヴェントのキュレーションは小山田くんだから、坂本くんに声をかけて断られたのか、彼の気持ちを慮って声をかけなかったのか、どっちかなと思って。

小山田:しょっちゅう彼もそう言われてるだろうし、その度に「もうライヴはやらない」という話も聞いてるから、ぼくが誘うまでもなく、やりたくなったらやるんだろうな、って思ってる。

北沢:(高橋)幸宏さんと(鈴木)慶一さんのザ・ビートニクスみたいに、ふたりでユニットを組んでみるという発想はないの?

小山田:うん。ぜんぜんない。

(一同笑)

北沢:たしかに想像つかないもんな。


(劇中に出てくる)感情の幅がわりと限定されているぶん、ひとつの感情でいくつかのヴァリエーションをつくらなきゃいけないってことがあって。

北沢:ところで、いまの気分で小山田くんが好きなサントラというと?

小山田:なんだろうね(笑)。

北沢:去年日本公開された、スカーレット・ヨハンソン主演の『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』(ジョナサン・グレイザー監督、2013年)という映画を観たんだけど、その音楽をミカチュー(Micachu)っていう女の子がやってたんだよね。

小山田:あ、ミカチューっているね。

北沢:うん、坂本龍一さんとかも評価してる。そのミカチューが、ミカ・レヴィ(Mica Levi)名義でサントラを手がけているんだけど、弦のチームをびしっと揃えて、ある意味、小山田くん的な──エクスペリメンタル、かつ“環境”的なアプローチで、弦を使って緊張感あふれる音色をひりひりとつくり上げてるの。それは聴いてみたらいいかもしれない。

新しい作品も映画館に観にいったりされますか?

小山田:たまには行きますよ。

サントラとして音楽を意識したりしますか?

小山田:まあ、全体で観ちゃうかな。でもサントラだけ持ってるのに映画は観たことない、みたいなものもあるからね(笑)。そういう聴き方もできるほうがいいなあ、と思うけど。

北沢:『インヒアレント・ヴァイス』(ポール・トーマス・アンダーソン監督、2014年)もおもしろかったよ。サントラはレディオヘッドのギタリスト(ジョニー・グリーンウッド)が劇伴を担当していて、1970年のロサンゼルスが舞台だから、その頃の古い曲とかもいろいろ入ってるんだよね。

『攻殻機動隊ARISE』というひとつの作品が展開するのに沿って、サントラもこうしてアルバム2枚を重ねているわけですが、その上で今回の『攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.』と『攻殻機動隊ARISE O.S.T.』を分けているものがあるとすると何でしょう?

小山田:どうなんだろうな……。必要になってくる曲にはヴァリエーションがあって、基本はこういう映画だから、そこに表れる感情の種類がある程度は限定されてくるんだよね。“緊張感”とか“悲しみ”とか“バトル”とか。いきなりギャグが入ってくるようなことはなくて、笑いの要素は少ない。そういうのが「1」「2」の中でだいたい出揃って。だから今回のサントラの方に入っているのは、それにいくつかプラスして、という感じ。「3」「4」「5」に関しては、どっちかというとメロウな話が多くて……(草薙)素子のラヴ・ストーリーとか。だからわりとピアノの曲とかアンビエントとかが多いかもしれない。それは自分で振り分けたというよりは、映画の内容によって、という感じかな。

北沢:たしかに“感情”って大きいよね。音って感情によって決まるようなところがある。劇伴ってそういうものなのかもね。

小山田:うん。感情とか雰囲気とかね。その中でも、(劇中に出てくる)感情の幅がわりと限定されているぶん、ひとつの感情でいくつかのヴァリエーションをつくらなきゃいけないってことがあって。

北沢:なるほどね。同じ曲でもメイン楽器を変えることで、いろんなヴァリエーションをつけたりとか。

小山田:そうそう、いろいろと。このサントラに入っているもの以外にもいろんな曲があって。入っているものでも、たとえば“Moments In Love”っていう曲にはピアノのヴァージョンとハープのヴァージョンのふたつがあって、それ以外にもいくつも──いろんなサイズだったり、リズムトラックが入っているものだったり、メイン楽器がちがっていたり――いろんなヴァージョンがたくさんあるのね。その中からこのアルバム用にエディットしたものが入ってる。


れをやっているとき「ちょっとアート・オブ・ノイズっぽいな」っていう要素があると思ってた。そういう元ネタはけっこうあるんだよね、曲のタイトルに。

北沢:“Moments In Love”ね。このタイトルも小山田くんがつけたの?

小山田:そうです。まあ、もとはタイトルってものが存在してないから。

北沢:坂本くんが詞を書いたものは坂本くんがタイトルを?

小山田:うん。

北沢:“Moments In Love”って聞くと、ふと頭の中をアート・オブ・ノイズがよぎるな(笑)。

小山田:うん、もちろん。そうです。

北沢:〈ZTT〉にもサントラもどきみたいな盤があったような気がする。

小山田:ちょっと〈ZTT〉っぽさもあるかもしれない(笑)。

北沢:トレヴァー・ホーン的な。

小山田:うん、あるかもね。これをやっているとき「ちょっとアート・オブ・ノイズっぽいな」っていう要素があると思ってた。そういう元ネタはけっこうあるんだよね、曲のタイトルに。

北沢:うんうん(笑)。「No.9」って付いてる曲が2曲あるけど、これはやっぱりビートルズの……。

小山田:それは、「9課(公安9課)」っていう設定があるからだね。

北沢:ああ、そうか! こんなふうに一曲一曲、全曲のタイトルの元ネタを訊けたらすごく楽しいんだけど、残念ながら時間が来てしまった……!!


Cornelius
攻殻機動隊 新劇場版 O.S.T.music by Corneliu
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坂本真綾、Cornelius
あなたを保つもの/まだうごく

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V.A.
攻殻機動隊ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE/新劇場版 Music Clips:music by Cornelius
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 ここ何年か、K-POPにはまる友人がたくさんいて、なんだか友だちの一人や二人がつねに韓国にいるような錯覚を覚えるほどなのだが、ぼく自身もチャン・ギハと顔たちやヤマガタ・ツイークスター、フェギドン・タンピョンソンといった面々の来日ライヴやら、顔たちのメンバーにしてプロデューサーである長谷川陽平の『大韓ロック探訪記』(DU BOOKS)などを通じて新旧の韓国ロックには大いに興味のあるところなのだ。
 最近だと、韓国でも数少ない(と思われる)D-BEATノイズ・クラスト・バンド、スカムレイドのライヴが素晴らしかったですよね。新宿ロフトのバーステージがぐっちゃぐちゃになる盛り上がりっぷりで。

https://scumraid.bandcamp.com/album/rip-up-2015-ep

 さて、そんな韓国インディの中でもヤマガタやタンピョンソンら、ホンデ(弘大)地区で活動する「51+系」とも言われるシーンには音楽的なおもしろさとトンチのきいたポリティカルなメッセージ性を特徴とするバンドが現れている。紙版『ele-king』vol.9のヤマガタ・インタヴューにも出てくるが、彼らのそうした政治的スタンスには〈トゥリバン〉という食堂の強制撤去に反対する運動の経験が大きく影響しているという。
 その運動の経緯を記録したドキュメンタリー映画があるというので前々から見たくて仕方がなかったのだ(新宿のIrregular Rhythm Asylumで自主上映が行わていたのだが情弱なもんで行けなくて……)。その映画、『Party51』がいよいよ正式に日本公開される。

 一連の運動はホンデのうどん屋〈トゥリバン〉が、再開発のため一方的に「300万ウォンやるから出て行け」と宣告されたことに端を発する。しかし、女主人(これがまた肝っ玉母さんな感じでかっこいいんですよ)はそこで諦めずに立て籠りを開始。それを支援するミュージシャンたちがそこに集まり、毎週ライヴを行うようになる。

 もともとライヴハウスみたいなところだったのかなと思ってたのだけど、この映画で観るかぎりどうも普通に食堂だったようだ。彼らを動かしているのは「こういうことを許してしまうと、また同じことが起こる」という危機意識である。この「明日は我が身」っていう感覚はすごく大事だと思う。他人事だと思っているうちに取り返しのつかないところまで動いてしまってることって普通にありますからね。

 やがてライヴ以外にも活発な議論が展開されていき、「インディ」に替わる「自立音楽」を名乗って「自立音楽生産者組合」を立ち上げ、メーデーには51組のバンドを集めたフェス〈Newtown Culture Pary 51+〉を開催。運動は店内にとどまらず、食えないミュージシャンたちが自分たちの環境を改善するために情報や意見を活発に交換していく。労組の大会で演奏して会場のおばさんたちにドン引きされる場面なども(笑)。

 ヤマガタ・ツイークスターがライヴでラーメンを作るパフォーマンスは〈トゥリバン〉での経験がルーツにある。また、後に韓国のレコード大賞みたいなので新人賞を受賞するほどの成功を収める404などは、初ライヴが〈トゥリバン〉だった。〈トゥリバン〉での運動が終わった後もさまざまなかたちで「自分たちの場所を作る」ための工夫を続けている姿が映画では描かれており、東京でいう桜台の〈pool〉や落合の〈Soup〉といったオルタナティヴ・スペースを思い起こさせもする。

 そういえば、〈トゥリバン〉の運動でも大きな役割を演じたノイズ・ミュージシャンのパク・ダハムはレーベル・オーナー兼オーガナイザーとして日韓を頻繁に行き来している(磯部亮・九龍ジョー『遊びつかれた朝に』でも言及されてますね)のだが、ぼくがパクさんに初めて会ったのは〈pool〉で行われたジンのイベントだった。

 ブラックジョーク満載のステージングがとくに印象的なパンク・バンド「バムサム海賊団」と素人の乱の交流も描かれているけれど、こうした国際企業や国家主導のグローバリゼーションとはちがった等身大の草の根コミュニケーションがアジアの地下シーンで活発に行われている最近の状況は個人的にいちばんワクワクするところ。

 ということで、すごく身近ですごく勇気のもらえる映画である。日本でもある程度なじみのあるバンドマンたちがたくさん登場するので、まずはそんな彼らの考えや歌詞の内容を知ろうという興味で観にいってもいいと思う。映像祭〈オール・ピスト〉の一環として東京と京都で先行公開された後、10月に全国上映が行われる予定。(大久保潤)



『Party 51』
ドキュメンタリー映画 2013年/韓国/101分/韓国語/日本語字幕
監督:정용택 JUNG Yong-Taek
製作:パク・ダハム(Helicopter Records主宰)

韓国ソウル、弘大(ホンデ)地区で自立した活動を続けるソウルの音楽家たち。都市開発により弘大の家賃は上昇。ライブハウスの数も年々減少。30歳前後の年齢になった彼らは、不安定な収入に不安も抱く。2010年頃、音楽家たちは不動産屋からの立ち退き要請を拒否し立てこもった弘大の食堂オーナー夫婦と出会う。彼らはお互いに協力し、立てこもり真っ最中の食堂で連日あらゆる音楽ライブを開催する──。
『Party 51』は、ユーモアを取り入れながら自分たちの場づくりと人集めに奔走するソウルの音楽家たちを追った力強いドキュメンタリー作品。来日公演が話題を呼んだYamagata Tweaksterやタンビョンソン、日本の即興・実験音楽シーンとの交流の深いパク・ダハムといった、韓国インディー音楽シーンのキーパーソンたちが多数出演。

■HORS PISTES 2015 / オールピスト2015
https://www.horspistestokyo.com/ja/

東京 TOKYO
『Party 51』 上映+トーク
〈UPLINKセレクション〉
6月20日(土)
at UPLINK FACTORY(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1階)
★上映終了後 トーク(Skype出演:パク・ダハム、聞き手:山本佳奈子/Offshore)
18:45開場 / 19:00上映開始
料金:¥1,800 一律
チケット予約:https://www.uplink.co.jp/event/2015/37967

京都 KYOTO
『Party 51』プレミア上映
6月21日(日)
at アンスティチュ・フランセ関西・京都
※上映前後のトークはありません。
14:30上映開始
料金:¥800


■『遊びつかれた朝に
──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』

磯部涼×九龍ジョー

ホンデのシーンや韓国のインディ・ミュージックについても、興味深い情報や状況の紹介、また、東京のシーンと比較しながらの深い考察が加えられています。
詳しくは第2章を。
刊行から1年、まったく内容に古さを感じさせない、いや、ますます予言じみてくる言葉の数々に驚かされる対話集!

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