「K A R Y Y N」と一致するもの

Eccy - ele-king

ども、Eccyです。今年もあっという間に終わってしまいましたねー。
結局リリース出来ませんでした(泣)。が、しかし! 何か最近気合いも入ってきたしモチベーションも上がってきたので、来年はリリースすると思われます! いやします! しよう! する! 出来るかな? いやしなきゃ! するでごわす!するなっしー! するめいか! するーざふぁいやー! ちゃかかーん! ということで、2013年のベストアルバムトップ10を書きました。載せたいのもっといっぱいあったけど悩みに悩んで絞りました。ではわたくし、2014年はもっと頑張ります! みなさんよいお年を!(紅白あまちゃん特集楽しみっすね)

https://twitter.com/_Eccy_
https://soundcloud.com/eccyprodukt
https://yusukekiyono.tumblr.com/

10 Best Albums Of 2013


1
Oneohtrix Point Never - R Plus Seven (Warp)

2
Jon Hopkins - Immunity (Domino)

3
Bonobo - The North Borders (Ninja Tune)

4
Danny Brown - Old (Fool's Gold)

5
Atoms For Peace - AMOK (XL)

6
相対性理論 - TOWN AGE (みらいレコーズ)

7
Sky Ferreira - Night Time, My Time (Capitol)

8
Zomby - With Love (4AD)

9
Pusha T - My Name Is My Name (GOOD)

10
Quasimoto - Yessir, Whatever (Stones Throw)

Compilation Albums - ele-king

 コンピレイションを3~4枚。

Various Artists - New German Ethnic Music  Karaoke Kalk

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 エレクトロ・アコースティックならぬエレクトロニカ・アコースティック系の〈カラオケ・カルク〉が企画したのはドイツのフォークロアをマーガレット・ダイガスやウールリッヒ・シュナウスをはじめとするクラブ系のプロデューサーたちが電子化するというもので、1970年代にヘンリー・フリントがアメリカでブルースやカントリーをエレクトロニック化した「ニュー・アメリカン・エスニック・ミュージック」に習ったものだという。このところドイツでは過去の音楽に関心が集まっているらしく、移民たちがドイツに持ち込んだ音楽を浮き上がらせるためにリミックスという手法を選択したのだとか。なるほどトーマス・マフムードは北アフリカ起源のグナワをダブに変換し、グトルン・グットはクロアチアの無伴奏男性合唱、クラッパに重いベースをかませて高い声を引き立てている。マーク・エルネストゥスの興味はモザンビークに移ったようですw。

 元の曲がわからないのでジャーマン・ネイティヴのようには楽しめないものの、基調となっている重苦しさはブルガリアン・ヴォイスを思わせるものが多く、オープニングのムラ・テペリはまったくそのまんま。言われてみれば明らかにトルコ系の名前だったカーン(エア・リキッド)はかつての出稼ぎ先だったギリシア音楽をゴシック風にアレンジしてみせる(古代を中世化させたわけですね)。奇しくも2013年はトルコ人9人を殺害したネオ・ナチで唯一自殺しなかった女性、ベアテ・チェーペの裁判がドイツ中の注目を集め続けた年だけにトルコ系のプロデューサーが健在だったというだけで嬉しい知らせといえる。ワールプール・プロダクションズのエリック・D・クラークがキューバ系だったということも初めて知った。
 グルジアや南米からのエントリーもあって、2013年には相変わらずモンド気分な『ザ・ヴィジター』をリリースしたマティアス・アグアーヨと第2のジンバブエと化しているベネズエラのニオベはそれぞれヴェトナム・カン・ホーというフォーク・ソングとスペインのルネッサンス合唱を題材にレジデンツ風ラウンジ・ミュージックに仕上げている(そう、個人的には南米組、圧勝です)。つーか、トラック・リストは面倒くさいので以下を参照。
https://www.inpartmaint.com/shop/v-a-new-german-ethnic-music-immigrants-songs-from-germany-electronically-reworked/

HouseIDM

Various Artists - Scope Samurai Horo

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 なんだか補完しあっているようだけど、同じドイツから〈サムライ・ホロ〉がコンパイルした『スコープ』は期せずして、フォークロアとはなんの関係もないのに、似たような重厚さにに支配され、フェリックス・Kのヒドゥン・ハワイと同じく、ベーシック・チャンネルを通過したストイックかつスタイリッシュなミニマル・ドラムンベースを聴かせる。イギリスからASCや最新シングルがまさかの〈トライ・アングル〉に移ったニュージーランドのフィスなど、集められたプロデューサーはドイツだけとは限らず、このところ頭角を現しつつあるサムKDCや2011年に『テスト・ドリーム』が話題となったコンシークエンスの名前もあるものの、まるでひとりの作品を通して聴いているような統一感があって、その意志の堅さには恐れ入る。こういった音楽をマイナー根性ではなくファッショナブルな感覚で聴いていただけたら。



ExperimentalDrum'n'BassIDM

Various Artists - We Make Colourful Music because We Dance in The Dark
Greco-Roman

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 大量に吐き出される音楽にはやはり無意識が強く反映され、日本のそれには奇妙な躁状態が表出しているように(なんで?)、ヨーロッパはいまだ深い闇に沈んでいるようである。2017年までにEUからの離脱を国民投票で決めるだなんだと騒がしくなってきたイギリスは、しかし、まったく雰囲気が違っていて、ディスクロージャーのシングルをリリースしてきたグレコ・ローマンがコンパイルした『ウイ・メイク・カラフル・ミュージック・ビコ-ズ・ウイ・ダンス・イン・サ・ダーク(僕たちは暗闇で踊るのだから、カラフルな音楽をつくるのさ)』は(思わずタイトルで買ってしまったけれど)、たどたどしさをなんとも思っていない勢いと若さに満ち満ちている。ディスクロージャーとデーモン・アルバーンのDRCミュージックに参加していたトータリー・イノーマス・イクスティンクト・ダイナソー以外はまったく知らないメンツだったけれど、バイオとテルザがとても耳を引き、調べてみたら前者はヴァンパイア・ウィークエンドのクリス・バイオで、それこそヴァンパイア・ウィークエンドのトラックを使い回したハウス・ヴァージョン。ハーバートがデビューさせたマイカチューのプロデュースによるテルザはゼロの飯島さんもお気に入りのようで、「踊ってんじゃなくて戦ってんのよ/輝いてんじゃなくて燃えてんのよ/触ってんじゃなくて感じてんのよ」という歌詞を気だるげに歌っています。


Various Artists - Young Turks 2013 Young Turks

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 この辺りのシーンの火付けは野田努が言うようにジ・XXなんだろう。同じくレーベル・コンピエイションとなる『ヤング・タークス2013』はジ・XX「リコンシダー」にサウンド・パトロールで紹介したFKAトゥィッグス「ウォーター・ミー」とまー、レア・シングルばりばりで、コアレスのニュー・プロジェクト、ショート・ストーリーズ「オン・ザ・ウェイ」まで入ってますよ。いやー、こんなに勢いがあったら、そらー、EUも飛び出しちゃうかも知れませんねー。とはいえ、ギリシャを見放さなかったことで、EUには現在、周辺から弱小国が相次いで加入を決め、入れてもらえないのはトルコだけという感じになっています。〈ヤング・タークス〉というのは若いトルコ人という意味だけどね。

ExperimentalHouseAmbientElectro

 もういい歳こいてることは重々承知、僕は未だに自分の放浪癖を更正するすべを知らない。この原稿を書いている現在も、何の因果かヨーロッパを放浪している。これは、まあ、そのドリフト録とでも言うべきものだ。そもそもはふとした思いつきでLAに向かったことから始まるこの生活だが、今回の最終目的地もいちおうのところLA。僕の放浪はLAに始まりLAに終わるのだ。いや、終わればいいんだけれども。

 といいつつ、この記録を書きはじめた10月には、ローブドア(Robedoor)のヨーロッパ・ツアーのコラボレーターとして暗雲立ち籠める最悪の欧州をドリフトしていた。しかし彼らとの出会いは僕が初めてLAに長期滞在していた2009年に遡る。当時はLAの〈エコー・パーク〉をヤサにしていて、ローカルたちが集うギャラリーや人ん家で夜な夜な催されるアホなパーティーを通じて親交を深め云々、そこからずっとつながる縁である。

■Oct14th
 ローブドアのブリット(〈NNF〉主宰)とアレックスにベルリンにて久々の再会を果たし、昨年LAでの対バン以来初めて観る彼等のデュオ編成でのパフォーマンスに度肝を抜かしたのは言わずもがな、今回のツアーの前半戦をサポートしたスウェーデンからのナイスガイ、マーティンによる初めて見るサンド・サークルズ(Sand Circles)のライヴ・セットは素晴らしいものであった。〈NNF〉からの過去のテープはどちらもヴァイナルをプレスするにじゅうぶんなクオリティであるが、それを納得させるセットだ。
ショウ終了後、再会の感激冷めやらぬ我々はベルリンの寒さをものともせず、さらに寝床を提供してくれたお姉チャンの家が5階で勿論エレベーターが無いため全力で機材を持ち込むことによって全員熱気すら放ち、ヨーロッパの一般的ボロ・アパートの何たるかを忘れシャワーの順番を譲り、みなを起こさぬよう悲鳴を抑えながら3日ぶりのシャワーを冷水で浴びていた。

■Oct15th
 翌朝ムニャムニャのままプラハに向け出発。国境を越え、チェコに入国した途端に濃霧に包まれるハイウェイ。ようこそ暗黒のチェコへと言わんばかりの歓迎にテンションも上がる。幻想的なプラハの町並みに感銘を受けながらダンジョン感全開のハコでのショウ。この日のローブドアのセットは素晴らしかった。勿論この土地で得た僕の心象風景とローブドアのサウンドが相乗効果をもたらしたのであろうが。僕が嗜好するような音楽シーンがこの土地に根づいているのかはわからないが少なくともこの日集まった多くのオーディエンスが熱烈にソレを求めているのがビンビンに伝わってきた。この日の主催者たちが運営する〈アムディスクス(AMDISCS)〉等のDIYレーベルが放つ多くのリリースからもそれをうかがい知ることができる。


そしてこの画のように野暮ったい。しかし野暮なオーディンスこそがリアル。ノー・ハイプ・シット。見よ前列のお姉ちゃんを。

寝床への道中、マシンガントークで町のあっちこっちの歴史を熱弁するこの日のプロモーターの一人(名前失念)は最高だった。僕らのために用意してくれた寝袋のひとつがテントだったのは意味わからんかったけども。

■Oct 16th
全員が早起きした。宿先の正面にそびえ立つ重そうな教会前(Church of the most sacred heart of our load)で朝市が催されており、僕らは大量の新鮮な果物とチーズを購入し……って、そう、チーズ。ローブドアのアレックスは食品輸入関係の仕事をこなしているためか、とにかくチーズに目がなく、僕らはツアー全日程を通してあらゆるチーズをつねに喰っていたため、車内はつねにチーズ臭で充満していたであろう。
この日のショウはウィーンのフラック(Fluc)で移動時間に余裕のある僕らは満場一致でクトナー・ホラのセドレツ納骨堂に寄ることにした。メタル系バンドのジャケで写真が濫用されているアレである。ノリでホトケをLEGOのごとく積み上げてみました的な実物に感銘を受けながら僕らは今回初めての観光らしい観光に充足した。

 フラックで僕らを迎え入れてくれた〈ヴァーチャル・インスティテュート・ヴィエナ(VIV)〉を主催するステファンとシーラは間違いなくウィーンでもっともイケてるカップルだ。シーラは最高の手料理をふるまってくれ、サウンドチェック後に僕らはそれを堪能し、ステファンは自身のNHKヴァイヴなプロジェクトJung An Tagenでナイスなオープニング・アクトを務めてくれた。ハコのサウンドシステムもさることながら、この日はDJ陣が素晴らしかった。SKVLKRVSHと名乗るアンチャンは僕の今年度のヘヴィロテをほぼ網羅してくれたし(D.R.I.からピート・スワンソンのミックスとか最高過ぎる)、そして何故かジェノバ・ジャクジーが80'sゴス全開のDJを……。
どうやらヨーロッパ・ツアー中であったアリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティに参加していた彼女は、最高潮に達したメンバー間の不和によりツアー半ばにして脱退し、強引にソロ・ツアーを慣行していたらしい。アナーキー過ぎる……。


酔いどれアレックスとジャクジー。何でジャクジーなのよってツッコんだら超真顔で本名だからと仰っておりましたが……

■Oct 17th
 お次はチューリッヒへ、ちなみに僕は今回のドリフトに際してビザも帰りの航空券も取得しておらず、EU加盟国でないスイスに入国するのを危惧していたが、問題なく国境を通過できた。高架下とスケート・パークに隣接するハコ〈Klubi〉は、どことなく新大久保〈アースドム〉を彷彿させる構造と音作りで、爆音での演奏を熟知しているようだ。プロモーションからアテンド、サウンドメイキングまで手掛けてくれたロジャーはソルト(Soult)としてホーラ・ハニーズ(Hola Honeys)のプロモーション・ツアーでNHKと共に来日もしている。ソリッドなDJを担当していたお姉ちゃんが用意してくれた豪勢な食事は、あまりのうまさに全員が無言でガッついていた。
満腹で弛緩しながらも、このあまりにも勿体ない待遇の何たるかを、僕にとって初めてのヨーロッパ・ツアーであるがゆえのカルチャー・ショックなのか、それとももしかしたらヨーロッパにおけるミュージシャンシップはゲストを快く迎え入れることがひとつのステイタスなのかしらんなどなど夢想しながら眠りについた。

無駄にドリフトは続く……

ackky (journal) - ele-king

7incシングル"Painting in November" 絶賛発売中!
radloop.com
ackkyjournal.cx

最近観た映画で面白かった作品(DVDレンタルと成さん(bonobo)コレクション)


1
LOVE STREAMS - JOHN CASSAVETES

2
THE MASTER - Paul Thomas Anderson

3
Spring Breakers - Harmony Korine

4
ペトラ・フォン・カントの苦い涙 - Riner Werner Fassbinder

5
アメリカの友人 - Wim Wenders

6
DRIVE - Nicolas Winding Refn

7
十階のモスキート - 崔 洋一

8
裏切りのサーカス - Tomas Alfredson

9
人生はビギナーズ - Mike Mills

10
世界にひとつのプレイブック - David O Russell

Ultramarine - ele-king

 ウルトラマリンなんていったい誰が覚えているんだっていうの。誰も覚えていないよ。これだけ消費が速い世界で15年ぶりに新作を出したからといって、誰も騒ぐまい。誰もね。あの弱っちい清水エスパルスが試合で信じがたい逆転勝利を果たした次の週だったから、気分が良かったのだ。レコード店の新譜コーナーに面出しされている「Ultramarine」の文字に驚き、何も考えずに買って、そしてそのままだった……、それから後味の悪いリーグ最終戦の日に、家で聴かれないまま放置されているこのレコードに気がついて……で、わりと頻繁に聴いている。
 実は、僕はいまでも覚えている。1993年6月26日(27日だっけ?)、昼間の1時かそのぐらいだ。グラストンベリーの、心地良い初夏の風を浴びながら、NMEステージの芝生に寝っ転がって、ウルトラマリンの演奏を聴いていた。なかば微睡みながら聴いていたので、どんな音だったのかは思い出せないが、その演奏が素晴らしかったことだけは覚えている。素晴らしかったというのは、その時代のその時間帯にもっとも相応しい音を出していたということだ。
 ウルトラマリンとは、サマー・オブ・ラヴの余韻がまだ残る時代に、ハウスとダブとジャズとフォークとカンタベリー的な牧歌性とをかき回し、透明な音色と美しい旋律にろ過したバンドだった。いまとなっては90年代の音楽の秘密のひとつと呼べるかもしれない。ロバート・ワイヤットをゲストに招いたり、ケヴィン・エアーズの曲を歌ったり、後にカール・クレイグがリミックスを手がけていることからも、ウルトラマリンの音楽がどんな傾向のものだったのかお察しいただけると思う。ジャケに大きく「STAR」という文字の描かれた『Every Man And Woman Is A Star』(1991年)は忘れることのない名作だが、しかし同時に忘れたい作品でもある。あまりにも甘く、お茶目かつ無垢で、負けることにも慣れた大人が振り返るには気恥ずかしくもあるのだ。ウルトラマリンは、その後メジャーの〈Blanco Y Negro〉に移籍して、『United Kingdoms』(1993年)や『Bel Air』(1995年)など何枚かのアルバムをリリースしているのだが、当時、瞬間的だが多くのリスナーを惹きつけたウルトラマリンは、ゆっくりと忘却の彼方へと葬られていくのである。

 しかし、橋元あたりが「ドリーミー」という言葉をやたら使う度に、ウルトラマリンも知らないクセに何言ってんだか……と思っていたのも事実だ。それでは久しぶりに聴いてみようじゃないか。そして、試しに『Every Man And Woman Is A Star』に針を落とすと、「あれ、こんなだっけ、こんなだっけかな?」と、自分のなかで虚妄と化したグラストンベリーの思い出との落差に居心地の悪さを覚え、結局のところ、音楽作品というよりもウルトラマリンそのものがタルホ的な郷愁となっていることを悟る。
 が、『ディス・タイム・ラスト・イヤー』、衝動的だったとはいえ買ってしまった以上は、貧乏根性も手伝って、聴かなければと思って聴いていると、やはり良いナー、ウルトラマリン、こんなに良かったっけ……と感心する。本当に素晴らしい。尖っているわけではないが、むしろ尖っていないからこそ素晴らしい。彼ら自身も、15年ぶりに新作を出すからには、いまこの時代に自分たちの音楽の受け入れ先があることを感じているのだろう。音楽性の幅もあり、質の高い音響を作れるスキルを持っている連中だが、『ディス・タイム・ラスト・イヤー』は方向性も間違っていない。90年代の諸作と比較すると(もともと角が取れている連中だったが)さらにまた角が取れている。つまり、より平穏でアンビエントなテイストを注ぎながら、『Every Man And Woman Is A Star』の頃の淡い幻覚と切ない旋律も捨てることなく、ゆったりと展開する。その力の抜け具合が片足はクラブに浸かっていた昔よりも良い。ブラジリアンの混じった“ファインド・マイ・ウェイ”、フュージョン風の“アイコンタクト”、アシッド・ハウスのベースを透明なポスト・ロックにろ過した“デコイ・ポイント”、陶酔のアンビエント・ダブの“ウィズイン・リーチ”……いいぞいいぞ、完璧に現実逃避させてくれる。そして、聴き込んでいると、20年前の6月のサマセット州の農場で聴いた音はたしかにこんな感じだったと思えてくるのだ。……あのとき、「絶対にどんなことがあっても、自分はまたここに戻ってこよう」と29歳の自分は心に誓ったものだが、あれ以来行っていないし、残りの人生のなかでももう行かないんじゃないかと思う。いや、正確に言うなら、1993年6月のサマセット州は、もうあの場所にはないのだ。『Every Man And Woman Is A Star』は、2003年、〈ラフトレード〉によってリイシューされ、ボーナス盤には1993年のグラストンベリーでのライヴ演奏が1曲収録されている。僕はその1曲を聴くためだけに、いつかそのCDを買う可能性がないとは言えないが、極めてゼロに近い。 

Youth Code - ele-king

 どうやら昨年頃からその兆候が見えていた90'sリヴァイヴァルは完全にトレンドとなってしまったようだ。

 ときに野生の鹿を轢きかけるなどして肝を冷やしながら極寒の東海岸をドリフトしている昨今のわたくしですが、先日、ブルース・コントロールのふたりの運転で移動しながら連中が車内でフロント242(Front 242)をかけていたので、何でこんなん聴いてんのよと訊ねたところ、ラス曰く、だって安いじゃん。とまっとうな回答が返ってきた後、でもEBMはいま結構流行ってんだよとのこと。確かにここ数週間ブルックリンを徘徊していたかぎりそれは充分に感じられた。たしかに昨今のUSインディー・シーンにおけるキーワードはインダストリアルというよりはボディ・ミュージックなのかもしれない(三田先生は流石です)。

 コールド・ケイヴに代表されるミニマル・ウェーヴ・リヴァイヴァルはボディ・ミュージック・リヴァイヴァルに完全に移行したと言っても過言ではあるまい。ユース・コード(Youth Code)はLAを拠点に活動する超スキニー・パピーな男女ユニットである。個人的にとてもアガッているおもな理由はこの男、ライアン・ジョージ。彼はかつて燻し銀のオールド・スクール・ハードコアを聴かせてくれたキャリー・オン(Carry On)のメンバーである(このあたりのバック・グラウンドも相当コールド・ケイヴと被ってるよね。だってウェスのアメリカン・ナイトメアも同時期に限りなく同じシーンで活動してたわけだし……)。
この手のサウンドにおける看板レーベルと言える(ジェネシス・P・オリッジの再発とかも精力的にやってますからね)〈ダイス・レコーズ(Dais Records)〉から発表された彼らの初のセルフ・タイトル・フルアルバムとなる本作は完全にボディ・ミュージックとしか形容できないビシバシ系のトラックにハードコアな男女ヴォーカルが畳み掛けるハイテンションな内容だ。またこのお姉ちゃんがブルータルなんですよ。Youtubeを見る限りパフォーマンスも相当テンション高めなんで近いうちに見たいなー……

 でもヒップなDJたちにとっては良いトレンドではないでしょうか。だってEBM系のレコードはワゴン・セール出没率高いですからね。

interview with Lea Lea - ele-king


Lea Lea
Pヴァイン

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 あの手この手で続けられるM.I.A.バッシングを見ていると、マドンナが『トゥルー・ブルー』(86年)を出した頃を思い出さざるを得ない。どこか挑戦的な女を見ると無性に腹が立つ男がいるということなのかなんなのか、理由は後から取ってつけたような批判が後を絶たず、何を歌っても三流扱い、映画『シャンハイ・サプライズ』に出れば「ワースト・アクトレス」に認定と、それはもうスゴい言われようだった。「フェミニズムを10年遅らせた」という女性たちからの批判も凄まじかったし、マドンナも脇が甘いというのか、批判を寄せつけないという雰囲気からはほど遠く、むしろ呼び込んでいるような風情まであった。いまのM.I.A.にも、そうした「呼び込む」感じというのはあって、「無性に腹が立つ人たち」の琴線を刺激していることは確かなんだろうけれど、これだけ時代が経っていれば、それがマドンナと同じものであるはずがなく、格差社会やイスラム差別といったイッシューも重なっているだろうから、なかなか見えにくいとは思うものの、どこがどう変わったのか、そこが気になるところではある。M.I.A.は一体、時代の何を刺激しているのだろうか。

 ジャマイカのテリー・リンもフォロワーにたとえられたけれど、リー・リーことリー・リー・ジョーンズにもM.I.A.と重なる部分があるように思われる。彼女について考えることもひとつの方法ではないかと思い、具体的にM.I.A.の名前を出して、どこか影響があるか訊いてみたところ、これは完全にスルーされてしまった。それだけ脈があると考えればいいのか、それともぜんぜん見当はずれだったのか。ひとつ、面白かったのは、リー・リーも政治的な歌詞を過剰に歌う反面、楽園に対するイメージも強く持っていたことで、イギリスにはこれまで戦闘的なシー・ロッカーズから浮かれモードのベティ・ブーへ、あるいは、グランジ・ロックのヴードゥー・クイーンからラウンジ・ミュージックのアンジャリへと、極端な方向転換を試みたフィメール・ミュージシャンがどの時代にもそれなりにいたことで、そこには政治とパラダイスが裏表に存在しているという観念がどうしても認められてしまう。「なにも戦いたくて戦っているわけじゃないから」と、彼女たちは言っているかのようだし、M.I.A.に通じる部分もそこかなーと思ったり。

ヴォーカルのレンジとパフォーマンスと社会的なメッセージのバランスを取ろうといつも思っています。

店頭で見かけたジャケットのヘア・デザインが気になって興味を持ちました。ドクロの髪飾りは何を意味していますか?

リー・リー:昔からドクロのデザインには魅了されてきました。ヴィジュアルも美しいだけでなく、感情にもうったえかけてきます。わたしたちはみな、頭蓋骨を持っています。みな、骨格を持っていて、それはわたしたちが生存している証拠の裏にあるものですよね。

音楽をやりはじめたきっかけや、現在に至る過程を教えてください。

リー・リー:音楽家の家庭に生まれたので、子どものころから歌いはじめ、パフォーマンスしてきました。15歳のときにプロとして音楽を作りたいと気づいて、そのときはヒップホップのバンドに参加しました。18歳のときに初めてソロのリリースがありました。そのとき以来、順調に物事が進んでいますね。

派手になり過ぎない演奏やどこか覚めた雰囲気を残した歌い方だと思いましたけど、それは意識して?

リー・リー:ヴォーカルのレンジとパフォーマンスと社会的なメッセージのバランスを取ろうといつも思っています。このことを常に忘れないようにし、どの曲も慎重に考えて作りこんでいます。

曲はどうやってつくるのですか?

リー・リー:いろんなやり方があります。最初にメロディーが浮かぶこともあれば、先に詞を思いつくこともあります。キム・ギャレットとジャック・ベイカーといっしょに作曲と制作を進めてきました。型にはまった作曲方法がないので、かえってイノヴェイティブでエキサイティングなものになりました。

ホレイス・アンディとはどんな関係? 彼から学んだことはありますか?

リー・リー:アルバムのプロデューサーのジャック・ベイカーに紹介してもらいました。残念ながら、ジャマイカに行ってホレイスといっしょにレコーディングはできませんでした。まだ実際には会ったこともないのです。彼は音楽の生きる伝説で、彼の音楽からは沢山影響を受けてきました。

先行シングル『ブラック・オア・ホワイト』のリミックスにGOTH-TRADを選んだ理由は?

リー・リー:GOTH-TRADとは共通の友人を通して数年前にロンドンで知り合いました。すぐに意気投合したのです。いっしょに仕事をしたいとずっと思っていました。『ブラック・オア・ホワイト』のリミックスを誰にしようか考えたときに最初に浮かびました。光栄にも彼は引き受けてくれて、あのリミックスはお気に入りのひとつです。



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殴られて、めった刺しにされて、残酷に苦しめられてから生き埋めにされるより、「AK-47」で瞬時に撃ち殺してほしいとその女性は懇願しているのです。それは寛大な処罰の象徴であり、選択の余地のない世界からの現実逃避において間違いを引き起こすものでもあります。


Lea Lea
Pヴァイン

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クラブにはよく行く方ですか? どこで音楽を聴くことが多いですか?

リー・リー:そこまで頻繁にクラブへ行く方ではありません。むしろライヴハウスにバンドを見に行ったり、温かい雰囲気で盛り上がっているようなバーでDJプレイを見ている方が好きですね。こういうところで新しい音楽を聴くのは大好きで、いろんな影響を受けます。

歌詞がわからないのでタイトルから内容を想像するだけなのですが、“アパルトヘイト”や“ブラック・オア・ホワイト”は人種差別だとして、“デッド・ガール・ウォーキング”は死刑制度に関する曲ですか?

リー・リー:どちらも人種差別についてではありません。

あ、違うんですか。

リー・リー:“アパルトヘイト”は経済的な隔離がテーマです。不正を生み出し、世界中のコミュニティは分裂させられています。“ブラック・オア・ホワイト”は判断(ジャッジメント)や、さまざまなイデオロギー/パーソナリティー/文化に対してオープンになれないことについて歌っています。両方とも社会問題が根底に強くあるので、そこからの波及効果で人種差別に関しても読み取れるのかもしれませんね。“デッド・ガール・ウォーキング”も死刑制度に関する歌ではなく、わたしたちは必ず死ぬ運命にあることをテーマにしています。

なるほど。ドクロに繋がるテーマなんですね。アメリカでいま、もっとも人気があると言われている“AK-47”ではおそらく自動小銃の残酷さを訴えていると思いますが……



リー・リー:“AK-47”はアメリカとの国境近くに住んでいるメキシコ人の女性の視点で書かれています。麻薬戦争の起きている過酷な地帯のことです。殴られて、めった刺しにされて、残酷に苦しめられてから生き埋めにされるより、「AK-47」で瞬時に撃ち殺してほしいとその女性は懇願しているのです。メキシコの国境付近に住む人々にとってはこのような恐ろしいことが日常なのです。この場合には「AK-47」は寛大な処罰の象徴であり、選択の余地のない世界からの現実逃避において間違いを引き起こすものでもあります。

“ブラック・オア・ホワイト”のヴィデオで日本刀を振り回しているのは?

リー・リー:あの刀に暴力を助長する意味はありません。自由意志のヴィジュアル的なメタファーとして使いました。自分と他人を守り受け入れるためにも使えますし、傷つけるためにも使えるものです。

フェミニズムがバックラッシュの憂き目にあって以来、女性ミュージシャンの書く歌詞は社会や男性に期待しなくなり、女性から女性に向けられたものが増えました。日本では「女子会コミュ」とか言うんですが、音楽ではその最大の成果がケイティ・ペリーやアメリカのハイヒール・モモコと化しているニッキー・ミナージュだと思います。あなたはそういった流れに属するよりはM.I.A.やジャマイカのテリー・リンに近い立場を選択したと考えてよいですか? そうだとしたら、そのようにしようと思った理由は?

リー・リー:わたしの興味は社会問題について歌って、音楽を作ることです。人権や男女間のことなどにも触れますね。

『モーヴァン』や『ハッピー・ゴーラッキー』、あるいは最近の『フィッシュタンク』といったイギリス映画を見ていると、イギリスの若い女性たちは異様なほど追い詰められているというか、ほとんど全員テロリスト予備軍に見えてしまいますが、実際はどうなんでしょう? 最近の映画であなたがいいと思った作品があったらそれも教えて下さい。『アリス・クリードの失踪』なんかはイギリスらしくていい作品だと思いましたけど。

リー・リー:正直に言うと、これらの映画は見たこと無いのです……。でも女性のメイン・キャラクターがステレオタイプではない役をするような映画は大好きです。『ハンガー・ゲーム』でのカットニス・エヴァディーンは最高でしたね!

ああ、めちゃくちゃ強い女性像ですね。アメリカ型というか。あ、イギリスにも『タンク・ガール』があったか。ちなみにイギリス以外の国で暮らすとしたら、どこがいいですか?

リー・リー:タイ~カリフォルニア~ハワイの順番に住みたいです。基本的に暖かくてビーチが近くて、時間がゆっくりな感じのところならどこでも言ってみたいですね。

現時点での目標はなんですか?

リー・リー:当面の目標は世界ツアーをすることです。日本にも行ってぜひパフォーマンスしてみたいです!

ひとりだけ死者を蘇らせることができるとしたら、誰にしますか?

リー・リー:マリリン・モンローです。女性の中でももっとも美しく、知性があって、創造性に溢れるエネルギッシュなひとだからです。

あれー、僕といっしょですね。理由もほとんど同じだなー。へー。

Huerco S. - ele-king

 昨年に続き、今年も〈ソフトウェア〉は充実したリリースをコンスタントに続けている。オート・ヌ・ヴにはじまり、スラヴァ、ピート・スワンソンコ・ラ、そして現在22歳のブライアン・リーズによるソロ・プロジェクト、ホアコ・エスである。

 ブライアン・リーズはアメリカ合衆国のど真ん中、一般的には田舎扱いされるカンザス州カンザス・シティの出身で、だから彼はホアコ・エスの音楽を「中西部のテクノ/ハウス」と言ったりもする。「デイズド・デジタル」のインタヴューによれば、リーズにとっての「中西部のテクノ/ハウス」というのは同時にシカゴとデトロイトの古典的なダンス・ミュージックのことでもあるらしい。北アメリカ大陸全体を俯瞰したとき、イリノイもミシガンもカンザスも真ん中に近い、ということなのだろうか。

 ともあれホアコ・エスの音楽は、そういったクラシカルなハウスやテクノを彷彿とさせるスタイルを取っている。アクトレスがそうであったように。だがホアコ・エスの『コロニアル・パターンズ』はもっとローファイなノイズ混じりのグズグズとした音質であり、どことなく平坦でダウナーで、よりディストピックである。たとえば“ラグタイム・U.S.A.(ウォーニング)”や“スカグ・コミューン”、“エンジェル”はハウスっぽいスタイルだが、始終さまざまな種類のノイズがチリチリと鳴りつづけ、キックやヴォーカル・サンプルもビリビリと音割れしていたりする。『コロニアル・パターンズ』は、どの曲もカセット・テープやレコードを何度かくぐらせたような奇妙にローファイでひしゃげた音で録音されている。
 ホアコ・エスはベーシック・チャンネルのサウンドも強く想起させる。くぐもったイーヴン・キック、浮遊するノイズにも似た電子音、信号音、いつ終わるとも知れぬ反復……。“プラックト・フロム・ザ・グラウンド、トゥワーズ・ザ・サン”や“クィヴィラ”などはとくにそうだ。だがFACTでリーズが語っているとおり、「ベーシック・チャンネルが生み出したサウンドはこの世ならざるもの」だが、ホアコ・エスのサウンドはもっとドロドロとしていて土臭い。“クィヴィラ”や“フォーティフィケイション・III”に漲るインダストリアルな感覚は土臭いというよりも油臭いと言ってもいいかもしれない。

 『コロニアル・パターンズ(植民地の様式)』は先コロンブス期のアメリカにインスパイアされているそうだ。不穏で示唆的なアルバム・タイトルと印象的なアートワークはそういったことに関係している。ピッチフォークのレヴューによれば、“モンクス・マウンド”はイリノイの遺跡のことだし、“クィヴィラ”は16世紀にスペイン人に「発見」された神話的な場所のことである。
 上記のFACTのインタヴューによれば、リーズはカンザスの隣州ミズーリで暮らしたことがあり、ミシシッピ川流域のネイティヴ・アメリカンたちによる遺跡や文化に感銘を受けたのだという。遺跡の細かく微妙な意匠はほとんど無駄なものにも関わらず、奴隷労働者たちはその意匠のために繰り返し繰り返し作業する。「それをサウンドに応用したんだ。何かを繰り返しすること、そして同じものを繰り返し聴くこと。スコップで土を掘るみたいにね。物事の覆いをはずし、一方では物事に覆いを被せている」。
 ホアコ・エスの音楽は、あるパターンを執拗に反復すればするほど何かしらの真実に近づいていくようでもあり、そこから遠のいていくようでもある。クリアーでない音質が掴みどころのなさを加速させている。『コロニアル・パターンズ』はダンサブルなレコードではないが、手による作業と音の異様な物質感とが刻み込まれている。その一方で非常にアブストラクトでもある。物事を宙吊りにするような不思議な魅力を放っているレコードだ。もしかしたらブライアン・リーズは中西部のモーリッツ・フォン・オズワルドになれる、かもしれない。

Bill Callahan - ele-king

 先日、京都の小さなカフェ・バー――もしも屋という、とても素敵なお店だ――で観たアクロン/ファミリーのマイルス・シートンのアコースティック・ソロ・セットは、何よりもそこでゆっくりと流れる時間が愛おしいものだった。20人くらいだっただろうか、そう多くはなかったが集まった連中が、そこで静かに弾かれる弦の音に暖を取るように耳を傾ける。「友だちの子どもの子守唄がわりの曲なんだ」……その、小さな音を聴き逃さずに慈しむような場所だったが、しかしたぶん、優しいララバイに眠ってしまってもかまわなかった。こんな風に過ぎるときを忘れていたな、と思いながら僕はゆっくりと手元のグラスワインを飲み干す。そうだ、でも、今年はビル・キャラハンのアルバムにもこんな時間の流れがあった……心地よい酔いがそれを思い出させてくれる。

 「僕が今日発した言葉は「ビール」と「ありがとう」だけ ビール… ありがとう… ビール… ありがとう… ビール…」

 1曲め、“ザ・シング”のそのフレーズを聴いた瞬間はもう、僕は『ドリーム・リヴァー』を――キャラハンの15作目のソロ・アルバムを、すっかり好きになっていた。ホテルのバーでひとりでひっそりと酔っ払う寡黙な男……しかしそれを描写する音は、対照的にとても雄弁だ。ゆっくりと演奏される弦たちと、そっとリズムを取る打楽器たち、それらが控えめながらもダビーに響き、キャラハンの深い深い低音がそこに寄り添う。かと思えば、フィドルのピンと張った弦の高音がいっしょになって歌いはじめる……。とにかく録音がすばらしい。ひとつひとつの楽器が、それぞれの音が、呼応し合うように重ね置かれている。フルートやオルガン、そしてソー・ハリスによるコンガといった多様な音色がここでは聞けるが、どれもが思慮深く抑制されている。それをじっくりと耳で追うためのアルバムだ。
 スモッグとしての活動を含めて20年以上、ビル・キャラハンは体内での時間の過ぎ方がひとと違っているのだろうか。豊かな色彩で描かれる非常に映像的な音は、アルバムのアートワークのように叙情的な風景を見事に浮かび上がらせてしまう。そのバリトン・ヴォイスだけでなく詩的さも含めてレナード・コーエンのような歌で、彼はわたしたち聴き手に思索に潜る時間を与えようとする。「どれぐらい行っていたのか/どれぐらい旅していたのか/どれぐらい疲れたのか/そして どれぐらい遠くまで来たのか/輪のなかで(“シーガル”)」……いくぶんヘヴィですらあるそのバラードは、酒場に引き寄せられる男を形而上的な領域までするりと連れて行ってしまう。

 アメリカ大陸で、いや世界じゅうで綿々と歌い継いできたフォーク・シンガーのように、キャラハンはどこか超然とした佇まいで静かに風景と物語を歌いつづけてきたが、その豊穣な時間の流れこそを録音物として封じ込めることにここで成功している。12月の街の喧騒がどれだけ慌しかろうとも、これを聴いているときだけは、ゆっくりと呼吸ができる。穏やかな演奏の後ろでごく小さく風のような音が聞こえる“ウィンター・ロード”……「冬の道」で、キャラハンは悠然と、しかし感情を乗せてこう歌う。「物事が美しいときを 僕は学んだ/ただ守り続けるために」。ジャスト・キープ・オン。このアルバムの締めくくりに、ふさわしい言葉だ。
 本作に先がけて2曲ダブ・ヴァージョンの12インチをリリースしていたが、来年1月には全編ダブ・ヴァージョンのアルバムが発表されるという。聴き手をさらに深いところまで連れて行ってくれるだろう。タイトルは、『ハヴ・ファン・ウィズ・ゴッド(Have Fun With God)』というそうだ。つまり、スピリチュアルな場所について、音によって迫っているに違いない。

ele-king vol.12 - ele-king

 ときにファンタジーはリアリズム以上に人を鼓舞しますよね。クリスマス・キャロルのように、あるいは公民権運動の長くて暑い夏、デトロイトの人びとの気持ちをとらえたのがモータウンの華麗なビートだったように……というわけで、なかばこじつけがましくてナンですが、人が何かとファンタジーを求めるこの季節、オウガ・ユー・アスホールの巻頭インタヴューとともにはじまる2013年のベスト・ファンタジー号です。
 2013年度のベスト・アルバム30枚、ジャンル別のベスト(ハウス、テクノ、ヒップホップ、ワールド、アンビエント/実験音楽)、ぜひ、あなたの音楽生活の参考にしてください。出戸学の超偏愛的なベスト10、ミツメの2013年によく聴いた音楽も一読の価値アリです。座談会には田中宗一郎先生もご登場しております。
 しかも、今回は「ブリストル・ニュー・スクール特集」です。20年ぶりに燃え上がるブリストル・サウンド、ぜひチェックしましょう。
 さらに菊地成孔のロング・インタヴュー、大好評の「保坂和志×湯浅学の音楽対談」、マニアックな記事としては「ウッドマン×ケス(ペイズリー・パークス)、ネオ・グラフィズムはベース・ミュージック界の洒落モノ、フェイド・トゥ・マインドなどなど。
 紙エレキングの12号、ファンタジーの季節にぴったりですよね。発売は今週金曜日(22日)。ネットばかり見ていないで、紙を見ましょう、心の健康のためにも。(ちなみに先日のエレグラ、物販ブースにて、みなさまに募った「ele-kingの年間ベスト3予想」、用意した200枚のアンケート用紙がわずか3時間ほどで無くなるほどの盛況でしたが、なんと、正解はありませんでした……よって、もっとも正解に近い方、3名様には、メールアドレスのほうにメールを送らせていただきます。予想アンケートを書いていただいたみなさまには本当に感謝です。あらためてお礼申し上げます)

ele-king Vol.12

目次

〈連載ネオ・グラフィズム〉
FADE TO MIND 4

〈巻頭インタヴュー〉
オウガ・ユー・アスホール◎野田努/小原泰広 14

〈特集〉
2013◎野田努 26
〈座談会〉ハウスと90Sリヴァイヴァルで対抗軸がはっきりした2013年に人は書を捨てクラブに行ったのか?◎木津毅×田中宗一郎×野田努×橋元優歩×松村正人×三田格 26
〈年間ベスト〉2013年エレキングランキング30(1~10)◎木津毅/野田努/橋元優歩/松村正人/三田格 40
〈インタヴュー〉ミツメ◎中村義響 49
2013年エレキングランキング(11~20)
〈論考〉音楽の論点2013 
ハウス◎島田嘉孝 59
DJブラウザ インタヴュー◎野田努 64
ウッドマン×ケス(ペイズリー・パークス)ジューク放談◎ 67
ヒップホップ◎sypht aka アイデアの神様 74
実験音楽◎デンシノオト 76
テクノ◎山崎真 77
ワールド◎Shhhhh 79
2013年エレキングランキング(21~30) 81
〈インタヴュー〉アクトレス◎野田努 86

〈第二特集〉
ブリストル・ニュー・スクール◎飯島直樹 92
〈コラム〉耳栓とレーベルの街◎Yusak Shigeyasu 96
〈コラム〉欧州ドリフト日誌 エンプティセットと出会うの巻◎倉本諒 99
〈インタヴュー〉ペヴァラリスト◎Yusak Shigeyasu 102
〈ディスクガイド〉ザ・マッス・オブ・ブリストルズ・ニュー・スクール◎飯島直樹/野田努/三田格
〈コラム〉ドラムステップの行方◎三田格
〈インタヴュー〉岡田利規◎九龍ジョー/菊池良助 114
〈特別企画〉
音楽談義その3:保坂和志×湯浅学◎松村正人/菊池良助 120
〈カルチャーコラムEKかっとあっぷあっぷ〉
本◎松村正人 136
映画◎木津毅×三田格 138
アート◎岡澤浩太郎 140
演劇/舞台◎プルサーマル・フジコ 142

〈連載〉
本日の鳩みくじ◎西村ツチカ 129
アナーキズム・イン・ザ・UK外伝◎ブレイディみかこ 144
二木ジャーナル◎二木信 148
キャッチ&リリース◎tomad 150
光と闇がそなわり最強に見えるレヴューV2◎金田淳子 152
ナポレオン通信◎山本精一 154
音楽と政治◎磯部涼/小原泰広 158

〈第三特集〉
ポスト・ジャズ◎松村正人 161
菊地成孔◎野田努/松村正人/菊池良助 162
ヘテロフォニック・グルーヴ・ミュージック2◎山口元輝 172
ポスト・ジャズ~ディスクガイド10◎細田成嗣 176

〈巻末特集〉
マイ・プライベート・チャート10◎178
天野龍太郎/あらべぇ/OMSB(Simi Lab)/小林祐介(THE NOVEMBERS)/Seiho/竹内正太郎/田中宗一郎/伊達伯欣/デンシノオト/トクマルシューゴ/トビー・フェルトウェル/直枝政広(カーネーション)/野田努/橋元優歩/D.J.Fulltono/前田毅/Madegg/松村正人/三田格/ミツメ/嫁入りランド

表1 出戸学(オウガ・ユー・アスホール) 撮影=小原泰広
表2~3 撮影=菊池良助
表4 サファイア・スロウズ×倉本諒 撮影=小原泰広


●註記
戸川純「ピーポー&メー」は著者都合により休載します。

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