「K A R Y Y N」と一致するもの

HB - ele-king

 本能や直観を理想化して、とかくイノセンスを賞揚し......と同時に自然のサイクルを祈願しながら、モダン・ライフを病んでいると思うとき、音楽はときにアフリカないしは非西欧的なリズムへと向かう。ミルフォード・グレイヴス、マニ・ノイマイヤー、ザ・スリッツやポップ・グループ、あるいはじゃがたらやボアダムスやあふりらんぽ、あるいはレッド・プラネット・シリーズにおけるマイク・バンクス、あるいはUKファンキー......まで入れて良いのかどうかわからないけれど、まあ、とにかくそうしたプリミティヴィズムというのは、われわれにとって確実にひとつの武器であることは間違いない。プリミティヴィズムにおける反知識的な態度、要するに「考える前に踊りなよ」という姿勢はつねに商業主義のワナに晒されているものの(たとえば、インディアンや東南アジアなどの民芸品を扱う雑貨屋を見ればよい)、しかし、ひとつだけはっきりしているのは、それはそれまで教えられてきた知識への素朴な抵抗である、ということだ。

 とくに僕の世代ではその感覚がよくわかる。パンク・ロックにおいてレゲエのリズムが重要視されたのもそれで、世界史を作ってきた文化が支配してきた文化のリズムをわれわれは積極的に選んだのだった......と、まあ、そこまで気合いを入れなくても、50年代のエキゾチカにおけるそれ(アフロ、ラテン、ヴードゥーのようなドラミング)でさえ上流階級の気持ちを解放したのだから彼らのリズムには特別な力があるのだ。ボアダムスやあふりらんぽのように神秘的な宇宙をのぞき込まなくても、リズムはわれわれに不思議な活力を与えるのである。

 HBは、ドラマーのmaki999を中心に2004年12月に東京で結成された女性3人によるバンドで、すでに2007年に〈残響レコード〉からデビュー・アルバム『Hard Black』をリリースしている。他のふたりはmuupy(パーカッション)とtucchie(ベース)。今回の『ブラック・ホール・イン・ラヴ』はセカンド・アルバムとなる。収録された8曲すべてがインストゥルメンタル曲で、1曲ヒゴヒロシさんが参加している。メロディといったものはほとんどなく、たまに演奏されるメロディ楽器もリズムを強調する。大雑把に言えば、ただひたすらリズムが刻まれている。笑い声からはじまり、ドラムとパーカッションは素晴らしい律動を生み、ベースは唸っている。その迷いのない演奏は誰もが言うように「心地よく」、聴く者を清々しい気分にする。この手のアイデアは決して目新しいものでないが、スネアとハイハットの音は耳にこびり付いて、パーカッションは頭のなかでこだまする。ベースは身体を震わせ、気がつくと繰り返し聴いているという有様だ。

 近いうちiPodに入れてみようかと思う。歩きながら聴くのが楽しみだ。もちろん、評判のライヴ演奏もいつか聴いてみたい。ワールドカップ期間中の僕にとっての"サプライズ"はこの『ブラック・ホール・イン・ラヴ』だった!

Rusko - ele-king

 2009年のダブステップのフロアヒットのひとつにイマルカイ(Emalkay)の"ホエン・アイ・ルック・アット・ユー"がある。重たく、汚れていて、やかましい、そしてクラクラする(英語で言えば、wobbly)ダブステップである。勝手な推測だが、この大ヒットが、あるいはまたキャスパと彼のレーベル〈ダブ・ポリス〉に代表されるような動きが、ローファーをポスト・ダブステップに駆り立て、ザ・XXとアントールドを近づけたのかもしれない。重たく、汚れていて、やかましい、そしてクラクラする――いわばダブステップ界におけるラモーンズたちは、コード9やDMZのようなオリジナル世代からしたら、違和感があるのだろう。UKファンキーやグライムならオッケー、が、このヤンキーくさい乱雑さだけはどうも......そんな思いがシーンから見えてくるようだ。が、無責任なことを言えば、これもまた一興なのである。
 シーンの過渡期を表すシグナルなのだろう。オリジネイターがシーンの限界を感じて"次"に向かう。よくあることだし、その"次"はもちろん楽しみだ。しかし、玄人たちの去った焼け野原で踊っている子供たちこそレイヴ・カルチャーそのものなのだ。汗だくなって踊る。若さゆえの暴走。作品主義に基づいた洗練さとは逆のベクトルだが、音にのめり込む度合いの強度においてそれらは圧倒的となる。2006年に〈ダブ・ポリス〉からデビューしたクリス・マーサー、ラスコという名で知られるプロデューサーも最初はそんなひとりだった。
 スクエアプッシャーを敬愛し、DMZを聴いてダブステッパーの仲間入りを果たしたリーズ出身の青年は、〈ダブ・ポリス〉と〈ダブ・ソルジャー〉を拠点にしながらキャスパとともにその人気を伸ばしていった。とくに2007年に「ファック!」を連呼する忌々しい"コックニー・サグ"が大当たりすると(それはまるで......セイバース・オブ・パラダイスの"ウィルモット"のダブステップ・ヴァージョンである)、リトル・ブーツやベースメント・ジャックス、ザ・プロディジーなどポップ畑においてもリミキサーとして進出。そしてディプロの〈マッド・ディセント〉と契約を交わすと、昨年の9月にロサジェルスに越し、M.I.A.の3枚目もサポートしつつ、晴れてこうしてデビュー・アルバムを発表するにいたったわけである。
 ディプロは、バイリ・ファンキにしてもボルチモア・ブレイクにしてもダンスホールにしても、音にのめり込む度合いの強度にアプローチする。それをポップでスタイリッシュにパッケージする才能に長けている。メジャー・レイザーのあの、ナンセンスなダンスホールを思い出せばいい。パロディ精神に根ざした彼らのレゲエは、しかも結局のところ本場キングストンの人たちをも虜にして、ジャマイカでも大ヒットしている。いま〈マッド・ディセント〉はポップ・ダンスの重要拠点としてピークを迎えつつあるのかもしれない。意味のある音楽ではないが、ここには創造性と"楽しみ"があるのだ。
 
 ラスコのデビュー・アルバムは〈マッド・ディセント〉らしい作品である。ブリトニー・スピアーズから声がかかるばかりか、USインディ・ロックのアンダーグラウンドにおいて目下もっとも評価の高いスライ・ベルズとのコラボレーションも噂になっている若きダブステッパーは、いまの勢いのまま、ブレーキを踏むことなくアルバムを発表する。それは若さゆえの暴走ではない。手をかけてパッケージされたモダン・ダンス・ミュージックだ。
 重たいベースの邪悪なドライヴからはじまる『O.M.G.!』は、ダーティ・プロジェクターズのアンバーのヴォーカルとともに加速したかと思えば、〈ダブ・ポリス〉の作品でお馴染みのMC、ロッド・エズランがレゲエのリズムに言葉をのせる。リスナーを退屈させることなく、ミラーボールが煌めくディスコやダーティ・ダブステップ、それからレイヴィーなジャングルへと突き進む。アルゼンチン代表の前線の3人がボールを奪うといっきに駆け上がり、そして相手ディフェンス陣を突破してシュートするように。
 アルバムを象徴するのは、モダン・ファンクを打ち鳴らす、ベン・ウェストビーチが参加した"フィール・ソー・リアル"、あるいはシンセベースが唸り、グッチ・メインの声が聴ける"ガット・ダ・グルーヴ"といった曲だ。それらは"Pファンクの後継者"と言われた1980年代前半に活躍したオハイオ州のグループ、ザップによるエレクトロ調のファンクを思い出させる。ザップと言えばロジャーによるトーク・ボックスが有名だが、あの変調された"声"は『オー・マイ・ゴッド!』のいたるところに顔を出している。
 ダブステップの観点から見れば意見は分かれるかもしれないが、鳴り物の入りのデビュー・アルバムとしては申し分のないできである。

interview with Tim Lawrence - ele-king


アーサー・ラッセル
ニューヨーク、音楽、その大いなる冒険

P‐Vine BOOKs
ティム・ローレンス (著), 野田努 (監修), 山根夏実 (翻訳)

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ラヴ・セイヴス・ザ・デイ 究極のDJ/クラブ・カルチャー史
P‐Vine BOOKs
ティム・ローレンス (著)

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 ティム・ローレンスによる著書『アーサー・ラッセル(原題:Hold On to Your Dreams)』は、意義深い本である。自分が監修しているから言うわけではない。この本が売れようが売れまいが、僕のギャラは変わらない。

 最初出版社のY氏からこの仕事を依頼されたとき、内心「嘘でしょ!」と思った。いくらなんでもアーサー・ラッセル......それは無謀である。職業音楽ライターのあいだでもたいして知られていないし、ただでさえ本が売れないこの時代にアーサー・ラッセルとは......、たしかに偉大なアーティストに違いないが......、僕はY氏に「大丈夫ですか?」と訊き直したほどだった。
 ところがこの仕事に携わり、訳のほうが2章まで進んだ時点で、僕は素晴らしい著書に関われたと感激した。モダン・ラヴァーズの話まで出てくるとは思わなかったし、『アーサー・ラッセル』は、当初僕が想像していたよりもずいぶんスケールの大きな本だった。

 たしかにアーサー・ラッセルは、90年代半ばからゼロ年代にかけて再評価された、というか初めて真っ当に評価されたひとりである。『Wire』やデヴィッド・トゥープ、あるいはジャイルス・ピーターソンや〈ソウル・ジャズ〉レーベルのお陰で、彼の先鋭的なディスコ作品をはじめ、フォークやカントリーの諸作、あるいは意味不明な歌モノとしてあり続けた『ワールド・オブ・エコー』や回転数違いの録音で〈クレプスキュール〉から出されたままだったミニマルの作品『インストゥルメンタル』にいたるまで、ほとんど彼の作品は容易に聴けるようになった。
 と同時にアーサー・ラッセルに対するミステリーはますます高まった。いったいこの男は本当は何をしたかったのか? ディスコなのか? 現代音楽なのか? ロックなのか?

 重要なのはそういうことではない。著者であるティム・ローレンスは、『アーサー・ラッセル』の前には『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』という本で、70年代のニューヨークのディスコの歴史を綴っている。セカンド・サマー・オブ・ラヴに触発された彼は、70年代のニューヨークのディスコのなかに、とくに孤児院で育ったデヴィッド・マンキューソのなかにその理想主義の萌芽を見出している。『アーサー・ラッセル』はそれに続く本である。いくらなんでもアーサー・ラッセル......実は著者でさえ最初はそう思っていたと告白している。果たして需要はあるのかと。が、研究が進むにつれて、そうした懐疑はすべて消去された。それはこの物語がアーサー・ラッセル個人のそれではなく、彼と彼を取り巻く人びと、彼が暮らした都市の共同体的な物語だからである。

ティム・ローレンス(Tim Lawrence)
1967年ロンドン生まれ。1990年から1994年にかけてジャーナリストとして活躍。BBCに勤務しながら大学で学び、サセックス大学で英文学博士号修得。現在、東ロンドン大学で教えながら数多くのダンス・ミュージックのライナーノーツを執筆している。『アーサー・ラッセル』は『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』に続く2冊目の著書。

私の人生は新自由主義的な政策によって形作られたものです。私は著書で、新自由主義的な現在を改めて思い描く方法を模索していますが、それは現在と未来を豊かなものにできるように、それに力強い声を与えることが目的だと言えるでしょう。

あなたの『アーサー・ラッセル(原題:Hold On to Your Dreams)』、とても興味深く読ませていただきました。あなた自身も書いているように、あの本はアーサー・ラッセルという素晴らしい異端者の伝記であると同時に、それだけでは完結し得ない示唆的な内容となっています。おそらくあなたが望んでいるのは、アーサー・ラッセルを神格化することでもなければ、70年代ニューヨークのダウンタウンの文化的コミュニティへのノスタルジーに浸ることでもない。あなたは新自由主義がもたらす競争社会に翻弄されながら生きている私たちに、そうした冷酷な窒息状態を突破できるような可能性を、音楽を通していっしょに考えたいと願っている。そうじゃありませんか?

ティム:私が著書を通して成そうとしていることを雄弁に描写してくださいましたね。しかし厳密に言うと、アメリカで展開され、〈ザ・ロフト〉やさらに広義のダウンタウン・ダンス・ムーヴメントの形成に影を落としたカウンター・カルチャー運動に対する一種の弾圧は、新自由主義の台頭以前にまで遡るものなんです。同時に新自由主義への言及は、私がサッチャー・レーガン時代の申し子であるのと同じくらい正しいものでもあるとも言えます――なぜなら私はマーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンが政権をとって間もなく政治を意識するようになり、それ故に私の人生は彼らの新自由主義的な政策によって形作られたものだからです。私は著書で、社会の境目に存在した文化的な歴史を研究することで新自由主義的な現在を改めて思い描く方法を模索していますが、それはその文化的な背景が現在と未来を豊かなものにできるように、それに力強い声を与えることが目的だと言えるでしょう。言い換えれば、歴史的な見地のためだけにそういったものを書くことには興味がないんです。私はそれが私たちの注目に値するから書き、そしてそれが私たちの注目に値するのは、その慣習に深い意義があり、今日的な意味を帯びているからに他ならないのです。

 もちろん〈ザ・ロフト〉やその後継的な〈パラダイス・ガラージ〉などのパーティは、いまでも多くのパーティ主催者、ダンサーやDJにとって非常に大きな意味を持ち続けていますし、デヴィッド・マンキューソもいまだにニューヨークのみならず日本やロンドンで〈ザ・ロフト〉やロフト・スタイルのパーティを主催し続けています。しかしアーサー・ラッセルに関して言えば、彼は表面的にはいち個人ですが、究極的に、彼が個人としての人生を歩むのではなく、飽くなき情熱で多岐にわたる音楽シーンで活動した共同的なミュージシャンだったからこそ私は彼について書きたいと思ったんです。そういった意味では、「アーサー・ラッセル」は反個人的な伝記、もしくは反伝記的な伝記だと言えるでしょう。この本は、ひとりの人間についてではなく、たまたま20世紀後半でもっとも美学的かつ社会的に進んでいると言われたシーンの数々で活動していたひとりのコラボレーターについての物語なのです。またアーサーは彼の時代の遥か先を行ってもいました。彼の音楽とコミュニティのヴィジョンに関して言えば、彼は私たちのまだ先を行っているでしょう。

あなたにとって(そして私たちにとって)考えるうえでの大いなるヒントのひとつ、それをあなたは(そして私たちは)クラブ・カルチャーに求めています。『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』をあなたは、デヴィッド・マンキューソの話からはじめています。また、彼の"生き方"ないしは"やり方"を、クラブ・カルチャーがなしうる最善のもののひとつとして記していると思います。都会で暮らす私たちにとって、あるいはノーマティヴな社会からはじき出された人たちにとって、あるいは競争社会の負け犬たちにとって、クラブ・カルチャーというのは社会的な役目を果たす可能性を大いに秘めているし、あなたはそこに期待しているわけですよね?

ティム:最初に少し訂正させてください。デヴィッドは〈ザ・ロフト〉をクラブとして運営していたわけではありません。プライヴェートなパーティとして主催していたんです。私やみなさんが誕生日を祝うためにパーティを開くように、彼は厳密には自宅でパーティを開催していただけなんです。デヴィッドが山のような煩わしく制限的な規制を守る必要がなかったことを考えると――アルコールを売らないかぎり――その区別はいまも昔も重要です。その結果、〈ザ・ロフト〉は普通のディスコテークやクラブよりも遥かに親密な場所となり、パーティも長く続けることができ、それによって音楽的・肉体的な表現行ための幅も広がった。いっぽうで上手に運営され、強い倫理観を持つクラブは、〈ザ・ロフト〉やそこから派生したヴェニューで培われてきた価値から多くのものを模倣できるのではないでしょうか。

 この質問のより広範な面に関して言えば、まさにその通りだと思います。プライヴェートなパーティや公共のクラブは、人びとが集まって異色の、しかし非常に重要なコミュニティの形態を形成する場を提供しています。近頃ではみんなで集まってグループとしてともに過ごせる場所はますます少なくなりつつあるじゃないですか? 映画館もそういった場を提供しているものの、映画館の観客はとても受け身でしょう。スポーツのイヴェントもひとつの場ですが、こちらは男性主体の傾向が強く、競争に根差したものです。公園も素晴らしい場所だとは思いますが、そこでの社交的な体験はごくまばらです。その他の音楽イヴェントも良いでしょうが、参加者は通常他の観客に対してではなく、出演者に意識を向けます。クラブのようなダンス・スペースはまったく違う何かを提供するもので、その相互作用の形式は非常にダミナミックです。私たちは視覚的な文化が支配する社会で生きていますが、音楽とダンスは私たちに耳を傾け、身体を使うことを促してくれるんです。そしてそれが極めて感情豊かなコミュニティに繋がるのです。

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アーサーは知的な根拠で書かれた音楽よりも情感豊かなものを好んでもいたことから、フィリップ・グラスの作品は評価してもより知性派のスティーヴ・ライヒの作品には親しみを感じなかったようです。

『アーサー・ラッセル』で、あなたは現在のiPod世代の多元主義について言及しています。アーサー・ラッセルは、さまざまなジャンルを越境することのできた人で、それはあらゆる価値が並列された現代の音楽鑑賞の価値観とも重なるかもしれない。しかし、アーサー・ラッセルは、現代の多元主義が陥る退屈な平等性とは正反対の態度で生きていた。つまり、彼には、音楽芸術の善し悪しを判断する彼なりの基準というモノがあったということですよね? あなたなりにアーサー・ラッセルの持っていたその"基準"についてもう少し説明してもらえないでしょうか?

ティム:私がアーサーの代弁をするのは難しいですよ――彼がまだ生きていて自分の言葉で答えてくれたらと願わずにはいられません。ですが私が受けた印象では、アーサーはあらゆる類いの音楽に耳を傾ける人間でしたが、おしなべて優劣がないかのような、無粋な多元主義的なスタンスに陥ることはいっさいありませんでした。アーサーはクラシック音楽からディスコ、ニューウェイヴ、ヒップホップ、フォーク、そして正統派のポップに至るまでの信じられないほど幅広いサウンドにはまっていました。彼はいつもヘッドフォンで音楽を聴きながらダウンタウン・ニューヨークの街を歩き、友人が彼に出くわしてヘッドフォンを借りればアバと同じ確率でモンゴルの喉歌が流れてきたそうです。言い換えれば、彼の好みは折衷的で予測不可能だった。もちろんアーサーがアバのあるトラックを他のトラックよりも気に入っていたとか、モンゴルの喉歌でも特定のスタイルを特に楽しんでいたということはあったでしょう。ですが概して、彼はあまりにもありきたりかつ型にはまりすぎている曲は気に入らなかったし、もしかしたらそれこそが彼がいつでもとても新鮮に響くアバの曲を好んでいた理由だったかもしれません。
 そういった条件以外に、アーサーの仏教的な思想が彼にオープンかつ民主的で肯定的な音楽のスタイルを受け入れさせた。そしてその結果、彼は必要以上に個人主義的な形式や自己中心的な演奏スタイル、そして独善的に複雑な演奏形式に支配された音楽を嫌うようになったのです。同じ価値観が彼にアシッド・ロックやプログレッシヴ・ロックを敬遠させ、けれどより直接的かつ包括的なミニマリスト・ロックを受け入れさせた。
 またアーサーは、彼があまりにも攻撃的で虚無的だと判断していたというノーウェイヴ・ムーヴメントにはいっさい関心を示しませんでした。そして彼のレコーディングのいくつかにはジャズ的な要素も含まれていたものの、その即興者を英雄的な個人として祭り上げる傾向のせいか、彼が心からジャズを受け入れることもありませんでした。
 最後に、アーサーは知的な根拠で書かれた音楽よりも情感豊かなものを好んでもいたことから、フィリップ・グラスの作品は評価してもより知性派のスティーヴ・ライヒの作品には親しみを感じなかったようです。アーサーが好き嫌いの基準のマニフェストを作っていたとかそういうことではありませんが、私が拾い集めることができた基準はこんなところでしょうか。

アーサー・ラッセルの芸術は、言ってしまえば資本主義にとっては決して都合の良いものではありませんでしたが、逆に言えば商業主義の罠にはまっている現代の音楽シーンに対してのひとつの"批評"としてもこの本を書いたのではないかと思います。もしそうであるなら、いまいちど、今日の社会におけるアーサー・ラッセルの芸術 の重要性をその文脈で説明していただけないでしょうか?

ティム:アーサーの音楽には奇妙な緊張感があって、私はそこにも惹かれるんです。その緊張感というのは、アーサーは商業的に成功することを望んでいたけれど、その成功を手にするために自身の音楽的なヴィジョンで譲歩することは決してしたがらなかったという点です。私はこのスタンスが非常に興味深いと思うんですよ。まず、商業的に成功したいというアーサーの願望を私は評価しているんですが、それは彼がエリート主義者ではなかったことを表しています。簡単に言えば、アーサーは物質主義的だったからではなく、できるだけ多くの人に自分の音楽を聞いてもらいたかったから成功したかったのです。その姿勢は、人気が自分の名声に傷をつけたり、望むほど特徴的でいられなくなることを恐れる、自意識過剰的にアヴァンギャルドな作曲家やミュージシャンとは対照的です。つまり私はそんなまどろっこしいやり方には付き合っていられないんですよ。
 でもアーサーの魅力は、より多くの聴衆に聞いてもらいたいという彼のその願望にも関わらず、彼は何度もそのチャンスを逃しているんです。その原因のひとつはマネージャーやレコード会社、そしてときには友人までもがもっと認知されるために彼の守備範囲を狭めようとしたことで、自分の音楽的な自由を何よりも重んじていた彼は、そのアドヴァイスに従うことを頑なに拒否していました。もうひとつには、彼の美学は売り込みが難しいものだったということもあります。アーサーは脱線や予測不可能な要素の導入、それにハイブリッド的な組み合わせの作業を好み、それらはどれひとつとして営業マンを喜ばせる類いのものではありませんでした。アーサーは利益を出すために、もしくはレコード会社が利益を出せるように自身の自由を譲歩することを拒み、その結果困難な状況に陥り、彼が望んだほどの名声を得ることができなかったのですが、まさにそれこそが私たちが今彼の作品を振り返って、その幅と奥深さに感嘆することができる理由なのです。彼は商業的な横やり抜きで音楽を収録する権利を主張し、そのことは当時だけでなくいまも変わらず美しい行為だと思いますね。

インターネットの可能性をどのように考えていますか? 僕はWEBマガジンを主催しています。アクセス数がそれなりにありますし、まだはじめて半年くらいですが、インターネットによってアウトサイダー・ミュージックがより広く伝わる可能性が大きいことも実感しています。それでもアンヴィバレンツな気持ちになるのも事実です。たとえばクラブで踊りながらiPhoneを見ながらTwitterをしているような人たちがいます。すぐ目の前にいる人とコミュニケーションを持つのではなく、どこか遠くにネットで繋がっている人に「つぶやく」というのは、どうにもわからない感性です。あなたはこうした新しいネット時代の状況に関してどんな見解を持っていますか?

ティム:それは壮大な質問ですが、いくつか見解を挙げてみましょうか。本質的に進歩的、もしくは退行的な技術など存在しません。いつだって肝心なのは、いかに私たちがその技術を使うかと、その行為がもたらす影響は何なのか、という点です。私もインターネットは刺激的だと感じていますが、同時にいくつか疑問も抱いています。そもそも私はアーサー・ラッセルの音楽に対する関心の再燃は、多くの面でインターネットの台頭が原因だと考えています。それはファイル共有やダウンロードが人びとのリスニング習慣の大きな変化に貢献したからで、それまでひとつかふたつのジャンルしか聞いていなかったリスナーも、インターネットによってそれがあまりにも容易になったいまではさまざまなサウンドに耳を傾けることが当たり前になっています。同様にそういった幅広いリスニングは、それまでは非常に困難だったであろうやり方で私たちがアーサーの複雑さの全貌を把握する助けとなってくれました。要するに、私たちの鑑賞習慣はついにアーサーの複雑かつ理想主義的な音楽作りのヴィジョンに追いついたのです。
 こういったことは、すべてインターネット主導のいわゆる「ロングテール」の台頭、もしくはそれまで入手できなかったさまざまな無名のアーティストの音楽がアクセスできるようになったいっぽうで、人気の高いアーティストのレコードが以前ほど売れない現在の状況と時を同じくしています。しかしそのいっぽうで、私はリスナーがおよそ聴ける以上の音楽を一心不乱にiPodに詰め込み、その鑑賞体験が持つポテンシャルを損なう低音質のフォーマットでダウンロードするやり方には懐疑的だと言わざるをえません。

 インターネットを介して幅広いサンプルを見つける行為は、一見非常にオープンで進歩的に見えますが、私はこういった行為の根底にある社交性の乏しさにも衝撃を受けているんです。アーサーはハイブリッドなサウンドを作るとき、まず音楽的なコミュニティに入り、そこで人間関係を築きました。その結果、彼の産物はとても有機的で、ある程度の文化的な知識が染み込んだものでもあったのです。しかし手当たりしだいにサウンドに手を伸ばし、コンピュータで音楽を作るミュージシャンに対しては同じことは言えないでしょう。また音楽にアクセスすることとその曲を聴くことのプロセスがあまりにもかい離していて、その音楽の持つ歴史に対する関心も薄く、非社交的であることを考えると、リスナーが自分の聴いている音楽についてどれだけ理解しているのか疑問に思うこともあります。事実、iPodで音楽を聴くことは多くの点において孤立的な体験なのです。私は個人的には「オープン」で「空間を漂う」音楽を聴くほうが、物理的・社交的な相互作用を促すことができて好きですね。Facebookやなんかの交流も良いとは思いますが、友だちと同じ部屋で過ごすことの代わりにはなりませんよ。いちばん良いのは、一種のバランスが取れることでしょうか。インターネットが多くの人に音楽の興奮を伝え――これはもう明らかにそうなっていますが――そしてその人たちがそこから社交的な輪のなかで、良いオーディオを使って音楽を聴けるようになること、ですね。

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それまでアーティストやミュージシャンたちが片手間の仕事で生計を立てていたのに対して、1980年代中盤以降、彼らは自分の芸術でお金を稼ぐことをより真剣に考えざるを得なくなったんです。

東京もそうですが、いま都市は監視下におかれ、また、商業施設の増設や地上げにも遭い、70年代前半のダウンタウンのようなコミュニティは作りづらくなっていると思います。ニューヨークはジュリアーニ市長の浄化政策が有名ですが、東京も石原都知事以降、街には荷物検査をする警察が目に付くようになりました。それでも都市は、いまはまだ、さまざまな人びとが交錯する猥雑な場所としてあります。とはいえ、近い将来、さらに監視が厳しくなる可能性もあります。そういった現在の厳しさを踏まえたうえで、それでも70年代前半のダウンタウンのなかに"現在でも通用する希望"があるとしたら、それは何だと思いますか?

ティム:以前よりもパーティーやニッチな観客――もっと具体的に言えばあまりお金を持っていない観客――相手の音楽イヴェントが開催しにくくなっているという点は、まさにその通りだと思います。監視についても同意見で、ニューヨークやロンドン、東京といった大都市での地価の高騰がその状況をさらに悪化させている点も付け加えさせてください。
 ダウンタウン・ニューヨークは、1970年代から1980年代前半にかけて物価があまりにも安かったからこそ、社会的にも美学的にも進んだコミュニティを数多く生み出しました。軽工業の転出によってある集中的な期間に不要なスペースが山ほど出て、またほぼときを同じくして市が財政破たんしたことから、家賃や地価がさらに下がったのです。この流れのおかげでミュージシャン、芸術家、作家、映像作家、そして現代舞踊家たちはただ同然でこの地域で生活し、コラボレートできるようになり、同時にこのスペースをクリエイティヴに使うことに熱心だった実業家はこれまでにない機会を享受していました。音楽のことだけを考えて暮らせる、その結果は驚異的なものでした。この時代に現代ダンス音楽文化が台頭し、パンク、ニューウェイヴ、ノーウェイヴが出現し、そしてミニマル的な現代音楽も発展を遂げました。同時期にロフト・スペースではフリー・ジャズが繁栄し続け、ヒップホップはダウンタウンにおける重要な足がかりをロキシーに築きました。

 ニューヨークは1980年なかば以降生産的かつ創造的であり続けていますが、その生産性と創造性の度合いは、ウォール街の市場が飛躍的に上昇して以来、地価が天井知らずに高騰し、困窮しているアーティストが上がり続ける物価に折り合いをつけられなくなってきたことで著しく減退しています。それまでアーティストやミュージシャンたちが片手間の仕事で生計を立てていたのに対して、1980年代中盤以降、彼らは自分の芸術でお金を稼ぐことをより真剣に考えざるを得なくなったんです。そしてそれは芸術作品を作ることのコンテクスト、そして芸術そのもののコンテクストすら変化しはじめたことを意味しています。ですがデヴィッド・マンキューソ――わかりやすい例として――が実質的には非営利とはいえ、そしてそれ故にそれだけで生計を立てていけるわけではないパーティをいまでも市内で開催できていることを考えると興味深いですね。
 また多くのアーティストやミュージシャンがニューヨークやそれと同等に物価の高い都市から比較的安いスペースがあるベルリンに向けて去ったことも面白い点だと思います。その結果、この20年間ベルリンでは創作的なルネッサンスが到来していて、いまだ衰える兆しは見えません。物価は高いものの、ロンドンも力強いアートと音楽シーンを擁しています。ウェストエンドやロンドン西部には大して何もないのですが、ショアディッチやハックニー、ベスナル・グリーンにダルストンといった東側は活発に動いています。こういったエリアでも地価は上がっていますが、みんなどうにかしてやりたいことをやり続ける術をみつけているようです。その創作し、コミュニティを作るという決意は驚くほど柔軟であると同時に、楽観的な気持ちの源でもあります。

ザ・キッチンの素晴らしかった点について、あなたなりの意見を教えてください。

ティム:ザ・キッチンは芸術的・音楽的な自由のための重要なスペースであり、いろいろな意味で1960年代の終わりのカウンター・カルチャー運動の――公民権デモ参加者、ゲイやレズビアンの活動家、そして男女同権主義者や反戦運動家、ヒッピーや学生が多くの国の抑圧的な政策に抗議しはじめた時間の産物です。ザ・キッチンは、若い作曲家が彼らにセリー主義か新古典主義の枠組みの中で作曲することを強いた楽壇に対して反発する場となったんです。そういった狭い規範に反抗するために、作曲家たちはジョン・ケージのような作曲家の急進的な手法を基に成長することを試み、時代に合わせた形でそれを実行しました。いわく、新しい楽器編成を試し、聴衆に訴えかける音楽を作ろうとし、インド、アフリカ、インドネシアなどの民族音楽学的なサウンドに取り組んだのです。
 当初この運動から出現した音楽はミニマリズムと称されましたが、すぐにそこから生み出されるサウンドの幅にはミニマリズムという言葉は限定的すぎることが判明し、ザ・キッチンやエクスペリメンタル・インターメディア・ファウンデーションなどのスペースを中心に形成された作曲コミュニティは、その年代の終盤には自分たちの音楽を"ニュー・ミュージック"と称するようになりました。
 アーサー・ラッセルは自身の音楽監督としての任期中にプレパンク・バンドのモダン・ラヴァーズを招く決定を下し、その翌年にはトーキング・ヘッズにそこで演奏するよう手配したことでザ・キッチンの裾野を広げた非常に重要な人物です。音楽監督の椅子をアーサーから引き継いだガレット・リストは幅広いジャズ志向のグループにザ・キッチンで演奏させて同会場の人種的な間口を広げましたし、リストの後にはリース・チャタムがこのスペースで作曲的なノーウェイヴのサウンドを築く助けをしました。
 要するに、現代音楽の構成要素の定義は極めて短期間で引っかき回されてもっとずっと幅広い音楽が入ってきたんです。とはいえザ・キッチンの寛容さにも限界がありましたし、アーサーの管弦楽的なディスコがそれほど熱狂的な反応をえられなかった時には彼も動揺していたと聞きましたが、それでもあの曲があそこで演奏され、その後間もなくヒップホップも舞台に上がったという事実そのものが、ザ・キッチンが他の現代音楽や非現代音楽系のヴェニューに比べて音の実験やハイブリッド性に寛容だったことを証明していると思います。

『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』や『アーサー・ラッセル』のような本を出してみて、あなたにとってどんな嬉しいリアクションがありましたか?

ティム:反響はかなり大きく、非常に実り多いものでした。たくさんの好意的なレヴューもいただきましたし、何よりもこの本が学術的な読者とそうでない読者のどちらにも等しく訴えかけたことが嬉しかったです。最初からそういう本にしたいと思っていたので。なんだかんだ言っても私はジャーナリズムの出身で、昔からできるだけ多くの人びとに伝えたいと思っていたのですが、それと同時に一般的なジャーナリズムの形式には完全に満たされた気がしなくて、それで前々からもっと発展的かつ専門的で分析的な仕事をしてみたいと考えていたんです。
 個人の読者の反応は書評よりもさらに嬉しいものでした。何人もの方々が『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』や『アーサー・ラッセル』が彼らの初めてまともに読んだ本で、しかも1週間かそこらで読破してしまったという話をメールに書いてくれたり、直接伝えてくれたりしたんです。これには思わず息をのみましたね。何せどちらも普通の本ではありませんから――重くて、ひどく分析的な部分もある、相当に長い本じゃないですか。ですがあの2冊はどちらも多くの人びとが本当に熱中し、今でも大切にしたいと願い続ける文化的瞬間に強く訴えかけたんです。この2冊の取材をして、そのシーンの数々を支えた多くの素晴らしい人たちに出会えたことを非常に光栄に思います。彼らの物語は語られるべきものでしたが、その物語の語り手になれた私は本当に幸運です。

あなた個人がもっとも好きなアーサー・ラッセルの曲はなんですか? またはその理由も教えてください。


Dinosaur L /
24-24 Music

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ティム:それは間違いなく"Go Bang"でしょう。あとは"Platform on the Ocean"に、『World of Echo』のアルバム、"This Is How We Walk On the Moon"もですし、"Kiss Me Again"も......。正直たくさんありすぎてきりがありませんし、アーサーのいちばん重要な要素は彼が複数の美学をまたいで活動したことだと考えると、1枚のレコードだけを選び出すのはほとんど不適切だとすら感じられます。ですが1枚だけを選ばなければならないとしたら、それは絶対に"Go Bang"、もしくは"Go Bang"のふたつの主だったヴァージョン――アルバム・ヴァージョンとフランソワ・ケヴォーキアンによる12インチ・リミックス――でしょう。私にアーサー・ラッセルについて書きたいと思わせたのはこのレコードで、初めてこの曲を聴いたときには内心で「こんなレコードを作れるなんていったい何者なんだ?」と考えましたよ。このレコードには無数の要素が含まれていて――現代音楽、ロック、R&B、ジャズ、そしてもちろんディスコ――それらがすべてひとつにより合わされた後に接続された二台の24トラック・テープレコーダーを介して細切れにされているんです。
 またこのレコードには素晴らしい演奏家たちが参加しているじゃないですか。トロンボーンにピーター・ズモ、サックスにピーター・ゴードン、キーボードとヴォーカルにジュリアス・イーストマン、同じくヴォーカルにジル・クレセン(アルバム・ヴァージョン)、そしてドラム、ベース、リズム・ギターにはイングラム兄弟。アーサーは彼らがジャムして自由に表現するよう背中を押し、また大胆にもリスクを冒して普段は決してしないことをするよう推奨しました――ですからローラ・ブランクはクレイジーな声で、ジュリアス・イーストマンはまるでオルガズムを経験しているような声で歌うなど、枚挙に暇がないわけです。〈ザ・ロフト〉のダンサーたちに歌手やパーカッションとして参加するよう誘うという決定も同じく抜きん出ていて、トラックの世俗的なエネルギーにひと役買っています。
 それに加えてあの不朽のヴォーカル、「I want to see all my friends at once go bang」ですよ。これほど的確に私たちが踊りに行く理由を言い当てた人間は他にいないのではないでしょうか。リミックスに関して言えば、見事のひと言に尽きると思います――フランソワは曲のダイナミクスを簡略化して、最高潮の瞬間を強調しています。デヴィッド・マンキューソはいまでもこのレコードのどちらものヴァージョンをかけていますし、ラリー・レヴァンはこのトラックが彼のいちばんのお気に入りだと言っていたそうです。何の不思議もないと思いますよ。

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アーサーは、世界を簡単に変えられる方法など存在しないということに気づき、さほど壮大ではない目標を掲げ、それに応じて人びとがコラボレートし、お互いを求めあい、創造的であれる一端を築こうとしました。

アーサー・ラッセルが海辺でフィールド・レコーディングしている写真がとても印象的です。海は彼にとって特別な場所だったのでしょうね。彼の音楽のほとんどが都会的ですが、あなたが彼の音楽のなかに海を感じる作品があるとしたらどの曲ですか?

ティム:伝記でもかなり詳細にわたって書いたように、アーサーは水辺を愛していました。彼は海なし州のアイオワで育ち、その結果彼にとって水はとても魅惑的なものだったんです。なかには「Let's Go Swimming」や「Platform on the Ocean」のように直接的に水に言及しているレコードもありますが、流れや逆流による流動的な美学を作り上げているレコードはもっとたくさんあるんですよ。ですがアーサーの音楽の多くがとても都会的に聞こえるとおっしゃるのはまさにその通りで、彼自身ボーイフレンドのひとりに、ジョン・ケージの作品も都会で生活しながら作曲されていればまったく違うものになっていただろうと話していたそうです。究極的には、アーサーはさまざまな環境に影響を受けた音楽家でした。彼の音楽からはアイオワ州のなだらかな平原も聞き取れますし、サンフランシスコに住んでいたときには、彼と友人たちはギターやその他の楽器を携えて何日も山のなかでハイキングして過ごしたそうです。アーサーはこの世界の多種多様な神秘を体験し、その素晴らしさを自身の音楽に表現しようとしていたんです。

いま世界はとても不安定な状態になっています。とくにここ10年は、さまざまな都市でデモや抗議運動が起きています。また、いまや国家よりも大企業のほうが力を持つようになってしまいました。こうした新しい世界においても音楽は貴重な気休めや娯楽として機能すると思いますが、もし音楽に娯楽以上のものを望むとしたら、あなたは願わくば音楽にどうなって欲しいと思いますか?

ティム:まずはじめに、「たんなる娯楽」はさほど悪いスタートラインではないと私は思うんですよ。音楽が厳しい環境のなかでの楽しみや気休めを与えてくれるのであれば、それはとてつもなく重要なことです。でも私は音楽にはそれ以上のことが――人と人を結びつけて、進歩する新しいコミュニティを作ることができるとも思っています。1970年代のニューヨークではそれが非常に顕著で、それはいまでも続いています。緊密で進歩的なコミュニティの形成では不充分だと言われる方もいるでしょうが、アーサーはカウンター・カルチャー運動の時代を生き、それが掲げた途方もなく野心的な目標の多くを達成し損ねた様をその目で見ているんです。アーサーとその友人たちは、世界を簡単に変えられる方法など存在しないということに気づき、さほど壮大ではない目標を掲げ、それに応じて単純に進歩主義の重要な一端を――人びとがコラボレートし、お互いを求めあい、創造的であれる一端を築こうとしました。私はそういう一端が後にそれに触れる人びとに大きな影響を与え、より進歩主義的な未来の礎を築いてくれるものだと固く信じています。
 押し潰されたい人間なんてどこにもいません、みんな喜びや機会に溢れた人生を生きたいと願っているのです。そして人間は音楽のなかにこそ他の社会の面影を見出すことができるのだと思います。

ちなみにあなた個人は、どのようにクラブ・カルチャーと出会い、どのようにその世界の思索者となったのですか?

ティム:私は小さな子供のころから踊るのが好きでした。大学時代は政治にのめりこんでいたのですが、ある夏地元に帰らずにアルバイトをして過ごしたことがあって、その年が偶然にもセカンド・サマー・オブ・ラヴだったんです。私はマンチェスターでハウス・ミュージックが爆発していたときに、幸運にも水曜日の夜に〈ハシエンダ〉に行く機会に恵まれ、その体験は一生忘れられないものとなりました。それが私が初めてハウス・ミュージックを聴いたときだったんですが、私が以前から聞きたいと願っていた音楽――濃厚なまでにリズミカルで肉体的でありながら、同時に知的で概念的な音楽であるように響きました。結局私はその瞬間からダンス・シーンにはまったわけではないんですけどね。私は結構世間知らずで、夜遊びにはまっていた友人もなかったんですよ。
 ですがロンドンに戻って記者として働くようになると、政治家の友だちがレイヴ・カルチャーを紹介してくれて、少しのあいだそっちに激しく熱中していたのですが、その後同じ友人がDJがニューヨーク発のダブっぽい、ジャズっぽい、ソウルフルなハウス・ミュージックを流す〈ガーデニング・クラブ〉のフィール・リアル・ナイトに連れていってくれたんです。〈ガーデニング・クラブ〉でルイ・ヴェガの演奏を聴いたそのときが、私がニューヨークに移住したいと思った瞬間だったと思います。
 結局私は1994年に向こうに移り住み、2年間ほどルイが毎週水曜日の夜にサウンド・ファクトリー・バーでプレイするのを聴いた後に、『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』を書きはじめました。当初私は1985年から現在に至るまでについての本を書く予定だったんですが、その後紹介されたデヴィッド・マンキューソに、1970年まで遡る必要があると言われてしまって。当時私はそこまで遡ることに消極的だったのですが、すぐに〈スタジオ54〉と『サタデー・ナイト・フィーヴァー』を中心とした1970年代の主流な記述をおさらいする必要があることが判明しました。結局私はデヴィッドと〈ザ・ロフト〉、そして多くの刺激的なDJやヴェニューの物語に夢中になって丸々一冊を1970年代に割いてしまいましたが、それについては欠片ほども後悔していません。

いまでもクラブに踊りに行くんですか?

ティム:ええ、最近は少し足が遠のいてしまっていますけどね。正直言って、私はいまでもニューヨークで踊るのが他のどこで踊るよりも好きで、あちらに取材に行ったときには集中的に踊りに行きます。〈ザ・ロフト〉、〈シエロ〉のフランソワ・ケヴォーキアン・ディープ・スペース・ナイト、ダニー・クリヴィットの718セッション、〈サリヴァン・ルーム〉のリベーション、他にもいろいろな場所に顔を出します。
 ロンドンでは、デヴィッド・マンキューソに協力している関係で縁のある〈ザ・ライト〉のお世話になりっぱなしです。ここのサウンドシステムは本当にずば抜けていて、音楽も多彩で雰囲気もものすごく力強いから、他の店に行ってまったくがっかりしないというのはちょっと難しいんですよ。でも頻繁に素晴らしいパーティをやってくれる〈プラスティック・ピープル〉の近くに住んでいられたのは幸運だと思っていますし、ドラムンベースとダブステップの夜をもっと覗いてみたいですね。私には幼い娘がふたりいて、あの子たちのために朝起きてあげたいと思っているのですが、ふたりともぐんぐん育っていますし、私の踊りたい病もまだ治まってはいないので、近い将来にはまた頻繁に踊りに行くようになるんじゃないかと思います。

緻密に設計されたサウンドシステム、素晴らしいDJ、ぶっ飛んだ客......ただそれだけでクラブ・カルチャーを評価してしまう風潮にあなたは逆らっているとも言えますよね? いまクラブ・カルチャーから失われているモノがあるとしたら、あなたの言葉で言えば"愛"だと思います。なんで"愛"は失われてしまったのでしょうか? そして私たちはどのようにして"愛"を回復したらのいいのだと思いますか?

ティム:愛で満たされるには社交的な環境が整っていないから、踊りに行ってもバウンサーに凄まれたり、水を1本買うためだけに法外な価格を要求されたりするじゃないですか。それは思いやりのある環境ではないから、人がダンスフロアで横柄に、身勝手に、そして強引に振る舞うことを助長するのです。この風潮を変えるのは容易なことではないでしょうが、デヴィッドとともに仕事をした経験は、かなりのお手頃価格でも進歩的かつオープンでフレンドリーなセットアップを作れることを教えてくれました。
 ロンドンのパーティで、私たちは素晴らしいビュッフェを用意し、ドアも歓迎してくれる入りやすい場所であるように気をつけ、パーティの最初の2時間は子供やその保護者も無料で入れるようにして部屋を風船で飾り、サウンドシステムには最大限の予算を割き、フロアも清潔で濡れていないよう注意し、デヴィッドが多様な音楽をかける後押しをし、音量を100dB強に抑えることで社交的交流を促しながら人びとの耳にも配慮しています。その成果は、私たちのところで踊ったことのある人間なら誰の目にも明らかです。雰囲気は非常にフレンドリーでオープンで、誰もが信じられないくらい激しく踊り、ダンサーはその夜の終わりには変容的な何かの体験した感覚とともに残されるのです。こういったパーティには相当量の労力と極めて高いやる気が必要ですが、それが普通ではいけない理由なんてどこにもないじゃないですか。もしそれができるなら、あなたが"愛"と呼ぶものも自然に流れるようになるでしょう。

次に書きたいと思っているテーマがあれば教えてください。

ティム:実はもう次の本に着手していて、『Life and Death on the New York Dance Floor: A History, 1980-84(ニューヨーク・ダンスフロアにおける生と死 1980-84年の歴史)』と仮題された内容になっています。実質的に、この本はアーサーの伝記というプリズムを通して振り返る『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』の延長線上にあると言えます。それというのも、ダウンタウンのダンスシーンは1980年から84年にかけて、明らかにより折衷的になるからです。〈ザ・ロフト〉や〈パラダイス・ガラージ〉などのパーティは1980年から84年の間もまだまだ繁盛していましたが、同時期にロック、ダブ、それにヒップホップもダンスシーンと相互作用しはじめたことで、当時の状況は非常に複雑で、ぶっちゃけとても素晴らしく、刺激的になったんです。
 当初私はこの本を〈ガラージ〉が廃業した1987年、もしくは〈ザ・セイント〉が閉店した1988年まで進めるつもりだったのですが、1980年から84年はあまりにも豊かで難解であることが判明したので、1987年/88年まで持って行くことは無理だと諦めざるを得なかったんです。現時点では、この本はそれ自体がすでに膨大な『ラヴ・セイヴス・ザ・デイ』の倍の長さになりつつあるので、今後かなり真剣に編集しなければいけなくなりそうです。ですがもっとも大切なことは、あの歴史的な瞬間が本当に圧倒的なものであったという点なので、その時代について書くネタがないよりは多すぎる情報に四苦八苦する状況のほうを私は選びますね。自分が信じていない時代について本を書けるとは思えないんですよ。正直言って、このプロジェクトには本当に興奮しています。たまにこの本の作業がまったくできない日もあるんですが、そんなときは本当に辛いですよ。

Chart by JETSET 2010.06.21 - ele-king

Shop Chart


1

DAICHI

DAICHI MBILITE EP »COMMENT GET MUSIC
エレクトロニクスとジャズ・ファンクを高レヴェルで融合させたダンス・トラックが到着!SoftやBased On Kyotoの一員として活動を行い、アンダーグラウンド・ダンスミュージック・シーンを中心に熱い指示を受けるDaichiのソロ作がついにリリース!

2

WILD NOTHING

WILD NOTHING GEMINI »COMMENT GET MUSIC
ひとりRadio Dept.あるいはPainsなネオアコ・シンセ・ポップの爆裂感動アルバム!!メチャクチャ最高です。。。Captured Tracksの新星、ヴァージニア在住の天才Jack Tatumによるソロ・ユニット、Wild Nothing。2枚のシングルを経て、初のアルバム到着しました!!

3

RANKIN TAXI

RANKIN TAXI チンチンピンピン »COMMENT GET MUSIC
遂に7"で出ました!B面にはサイプレス上野参加のBuzzer Beats Remixも収録!ジャパニーズ・レゲエのオリジネイター、ランキンキン・タクシー!!昨年末から配信限定でリリースされ話題炸裂の超ビッグ・チューン(通称"CCPP")が遂にアナログ盤で登場です。これは絶対マストです!!スプリット・カラー・ヴァイナル。CCPPオリジナル・コンドーム付。

4

ALLO DARLIN'

ALLO DARLIN' S.T. »COMMENT GET MUSIC
無条件降伏しかありません。正統派UKキューティー・バンドの超感動ファースト・アルバム!!LPも到着しました!!大人気爆発のロンドンの4ピース、Allo Darlin'。瑞々しいヴォーカルと、躍動感溢れる爽やかなサウンド、愛らしく儚げな雰囲気、全てがスペシャルです!!

5

REBOOT

REBOOT SHUNYYATA »COMMENT GET MUSIC
パーティー・ピープルから注目度はピカイチの旬なクリエイターReboot!!Lucianoによるリミックスが話題となった先行シングル"Rambon"も只今ヒット中、Ricardo VillalobosやLucianoが認める才能の持ち主、Rebbotによるファースト・オリジナル・アルバムが遂に登場です!!

6

INFINITE BODY

INFINITE BODY CARVE OUT THE FACE OF MY GOD »COMMENT GET MUSIC
めちゃくちゃイイ・・・戻ってこれない・・・快楽指数マックスのドリーミー・ドローン・アルバム!!No Age主宰P.P.M.から、西海岸のKyle ParkerによるユニットInfinite Bodyの大傑作ファースト・アルバムが登場。これは参りました。

7

V.A.(DJ KIYO A.K.A DULO, DJ KEN, AKT THE JN, DJ HAL)

V.A.(DJ KIYO A.K.A DULO, DJ KEN, AKT THE JN, DJ HAL) TIGHTBOOTH PRODUCTION PRESENTS LENZ EP »COMMENT GET MUSIC
スケーター目線で日本のアングラ・シーンを切り取るドキュメンタリーからの12"がコチラ!日本が誇るクリエーター/トラックメイカー達がスケートボードの既痣哀楽をイメージし作り上げた音源を収録した映像作品『LENZ』から待望のアナログ・カットが実現!

8

MARK SEVEN

MARK SEVEN SWEPT AWAY »COMMENT GET MUSIC
スウェディッシュ・バレアリック大注目プロデューサーが早くもMule Musiq系列からデヴュー!!前作"Travelogue"の爆発的な売れ行きにも驚かされたスウェーデンのディープ・ディガー/DJ、Mark Sevenが国内Mule Musiqにフックアップされ、Endless Flightから2nd.シングルをリリース!!

9

DJ SPRINKLES VS K-S.H.E.

DJ SPRINKLES VS K-S.H.E. A SHORT INTRODUCTION TO THE HOUSE SOUNDS OF TERRE THAEMLITZ »COMMENT GET MUSIC
テーリ・テムリッツさんがSkylaxから初登場!!DJ Sprinkles名義での未発表曲"Hush Now"と、"上作延ハウス・エクスプロージョン"ことK-S.H.E.名義での'06年度アルバム『Routes Not Roots』から"B2B"をカップリング。

10

BOBMO

BOBMO FALLING FROM THE CRESSENT MOON »COMMENT GET MUSIC
師匠Oizo直系の痙攣エディテッド・ハウスへと仕上げられたFeadzリミックスB2も!!☆特大推薦☆盟友SurikinとのデュオHigh Powered Boysとしても大人気、Institubesが誇る若き精鋭Bobmoが2年振りにぶっ放す特大ボムがこちらっ!!

iLL - ele-king

 スーパーカーが結成された青森の港町で僕は育った。この町でテクノやエレクトロニカに傾倒していた思春期の頃の僕にとってスーパーカーそして中村弘二は、近いような遠いような、つかみどころがあるような無いような。言ってみれば遭難者が砂漠で見るオアシスの蜃気楼。そういう存在だった。

 地方都市でアンダーグラウンドな音楽にどっぷり傾倒するということは、やはり孤独との戦いという部分が大きい。情報を入手するのもひと苦労だし、発信者になろうとしても受け手の絶対数が限りなく少ない。田舎独特の閉塞感もある。ダンス・ミュージックに関しては素晴らしいレコード店とクラブ、そしてそれらの店を中心としたコミュニティがあった。が、しかし音響系だとか古いジャーマン・ロックだとかそういう音楽に関しては、当時高校生だった僕はやはり同好の士をなかなか見つけられずにいた。そんな状態だったので、スーパーカーやニャントラの活動を通してポップとアヴァンギャルド、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの境界線をヒョイヒョイと軽やかに飛び越えて活動し、熱い支持を集めていたこの同郷の才人には共感と羨望と......、そしていま思うと希望のようなものすら感じていたのだと思う。ほんと、砂漠でオアシスを見つけたみたいに。

 ナカコーこと中村弘二がiLL名義でリリースする5枚目のアルバムとなる今作は、各曲がいろいろなミュージシャンやDJとのコラボレートによって作られている......とひと言で書くと「あー、そういうアルバムあるよね」という感じかもしれないが、参加しているミュージシャン/DJのラインナップはやっぱり何度見ても圧倒される。なにせ、(これはやっぱり名前が並んでいることに意味があると思うで全員列挙すると)山本精一+勝井祐二、向井秀徳、POLYSICS、ALTZ、Base Ball Bear、DAZZ Y DJ NOBU、the telephones、MEG、RYUKYUDISKO、moodman、ABRAHAM CROSS、aco、ASIAN KUNG-FU GENERATION、clammbonである。このラインナップのなかのいくつかの組み合わせであれば同時にチェックしているという人も少なくないだろう。とは言っても、少なくとも現状ではアブラハム・クロスとMEGを同列に並べる人はそうそういないんじゃないだろうか。それこそ、本人を除いては。この時点で充分"中村弘二ならではのアルバム"だと思う。でも、これ音的にはどうやって纏めるのだろう? というのがこのアルバムを聴く前の最大の関心事だった。

 「相手がワルツを踊れば私もワルツを、ジルバを踊れば私もジルバを踊る」、これは、20世紀を代表するアメリカのプロレスラー、ニック・ボックウィンクルの言葉だ。このアルバムにおけるナカコーのスタンスは、まさにこういう感じだ。相手のファイティング・スタイルに合わせて柔軟に立ち回りながら要所要所で自分の持ち味の技を繰り出していく。それが例えば電子音のテクスチャーであったり、その声とメロディ・ラインであったり、ギターのトーンであったりする。自分の色は必ず出していくが、それはすべてをナカコー色に染め上げるような安易な統一感ではない。フラットな視点で相手を理解して、コミュニケーションが取れていなければなかなかできない芸当だ。このラインナップが決して、ある種の悪戯心だけで選ばれたわけでないという事が窺える。

 なんというか、iLLという存在そのものがひとつのメディアとして機能しているようだ。しばしば語られるDJのメディア性にも似たそれは、さながらガラージにおけるラリー・レヴァンのようだ。サルソウル・オーケストラのようなフィリーソウルだけではなくザ・クラッシュから島田奈美まで、ラリーの手によって、ときに自らリミックスを施してプレイされた楽曲は一様にガラージクラシックスとして扱われている。それはひとつのジャンルであり、ラリー・レヴァンというメディアを通して参照されるひとつの時代のドキュメントでもある。じゃあ、iLLをフィルターとしていまの日本の音楽を参照する行為ってどうなんだろう? ちょっぴりフリーキー? やっぱり"iLL"なんだろうか? いや、ひとつの入り口からこんなにフラットにいろいろな音楽文化圏にアクセスできるというのはむしろヘルシーなことだろう。もしいま、文化的孤独に悩む地方の高校生がこのアルバムを聴いて、誰かと関心を共有できる音楽がひとつでも増えたとしたらそれはとても素晴らしいことだと思うし、やっぱりそれは希望なんだと思う。

Chart by ZERO 2010.06.18 - ele-king

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1

UNTOLD

UNTOLD I CAN'T STOP THIS FEELING / ANACONDA HESSLE AUDIO / UK / 2009.05 »COMMENT GET MUSIC
番外編:POST-DUBSTEPチャート #01
5月のDBSプレゼンツDUBSTEP WARZに出演したLOEFAHが口にしていた(『ele-king』掲載のインタヴューも必読!)"POST-DUBSTEP"を、ZEROの視点を交えて10枚だけ紹介します。"GET MUSIC"リンク先からコメントを読むこともできます。6月22日の「DUBSTEP会議#2@DOMMUE」に向けて、サラリと予習的に......。

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ADDISON GROOVE

ADDISON GROOVE FOOTCRAB / DUMBSH*T SWAMP81 / UK / 2010.03 »COMMENT GET MUSIC
番外編:POST-DUBSTEPチャート #01
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RAMADANMAN

RAMADANMAN GLUT / TEMPEST HEMLOCK / UK / 2010.05 »COMMENT GET MUSIC
番外編:POST-DUBSTEPチャート #01
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INSTRA:MENTAL / SKREAM

INSTRA:MENTAL / SKREAM NO FUTURE (SKREAMIX) / MINIMALISTIX NONPLUS / UK / 2009.12 »COMMENT GET MUSIC
番外編:POST-DUBSTEPチャート #01
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COSMIN TRG

COSMIN TRG NOW YOU KNOW TEMPA / UK / 2010.03 »COMMENT GET MUSIC
番外編:POST-DUBSTEPチャート #01
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HYETAL & SHORTSTUFF

HYETAL & SHORTSTUFF DON'T SLEEP / ICE CREAM PUNCH DRUNK / UK / 2010.01 »COMMENT GET MUSIC
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BRACKLES

BRACKLES 6AM EL GORDOS BRAINMATH / UK / 2010.05 »COMMENT GET MUSIC
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GREENA - TENZADO

GREENA - TENZADO ACTUAL PAIN APPLE PIPS / UK / 2009.12 »COMMENT GET MUSIC
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MOUNT KIMBIE

MOUNT KIMBIE SKETCH ON GLASS HOTFLUSH / UK / 2009.08 »COMMENT GET MUSIC
番外編:POST-DUBSTEPチャート #01
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D1

D1 JUS BUSINESS / PITCHER DUB POLICE / UK / 2010.02 »COMMENT GET MUSIC
番外編:POST-DUBSTEPチャート #01
5月のDBSプレゼンツDUBSTEP WARZに出演したLOEFAHが口にしていた(『ele-king』掲載のインタヴューも必読!)"POST-DUBSTEP"を、ZEROの視点を交えて10枚だけ紹介します。"GET MUSIC"リンク先からコメントを読むこともできます。6月22日の「DUBSTEP会議#2@DOMMUE」に向けて、サラリと予習的に......。

#5:チューリップと自由 - ele-king


こだま和文
空をあおいで
K&Bパブリッシャーズ

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 「だめになるものは、だめになればいい、というのは、だめなもの、だめな関係、嘘なものを取りつくろいながら先送りして、結果だめになるまでの時間を引きのばして生きていてもつまらないから、思い切ることだ」――こだま和文は最近上梓した著書『空をあおいで』のなかで、興味深い勇気づけ方をしている。「とにかく、ひとつひとつあきらめることだ。(中略)とことん自由になるためにもっとあきらめることだ」
 「あきらめる」を「削ぎ落とす」という言葉に置き換えると、この希代のダブ・トランペッターの思想がジャマイカの音楽とリンクしていることがわかる。削ぎ落とす美学はダブである。
 
 こだま和文において、とにかく僕が最初に強烈に引きこまれたのは、ミュート・ビートのデビュー・アルバム『Flower』(1987年)のアートワークだった。それはレゲエのアルバムらしからぬ写真とデザインで、部屋に飾って何度眺めても飽きることのない不思議な力を持ったアートワークだ。滲んだように鮮烈な赤、深く沈んだ濃い緑、それはレゲエが好む色彩感覚とはどこか違う。
 何よりもチューリップだ。この花は言うまでもなく魅惑的であるが、キングストンのサウンドシステムと似合うとは思えない。が、こだま和文はカリブ海の熱帯気候においてはどこか場違いに見えるチューリップを差し出すのである。
 レゲエに何かほかのイメージを重ねる表現者は他にもいる。ザ・クラッシュやアンドリュー・ウェザオールはロンドンの不良少年の夢をオフビートに重ね合わせ、ベルリンのベーシック・チャンネルはダブにおけるミニマリズムの美学を極端なまでに強調した。どちらも当初は画期的だった。が、いまとなってはだが......わかりやすいと言えばわかりやすい。ルードボーイとパンクとのコンビネーションにいたっては、もはや定番のひとつである。
 それを思えばこだま和文は、レゲエから連想されるであろう"美"において、控え目に、しかし実は大胆な提案をしているように見える。チューリップの似合うレゲエ、いまだ新鮮な組み合わせである。なんというか、チューリップとレゲエが出会うとき、愛だけがとめどなく溢れだし、そして世界はいっきに広がるようだ。あるいはまた、こだま和文のチューリップは、輸入文化であるレゲエをこの国の土壌に落とし込もうとする最初の衝動でもあった。そう考えれば、チューリップはフィッシュマンズやリトル・テンポといったこの国の"レゲエ"独自の抒情性を準備したとも言える。
 
 どうしても知りたいことがあった。なぜこだま和文がレゲエを選んだのかという理由だ。彼の尽き果てることのないペシミズム(もしくは酒飲みの愚痴とも言う)が、ジャズやロックではなくなぜレゲエと接続したのかという理由である。『空をあおいで』を読みながら、あらためてそれを知る。
 答えは"自由"だ。こだま和文は、レゲエという音楽のなかにラディカルな"自由"を聴き取っている。幸いなことにその感覚をわれわれ――日本という名で呼ばれる国で生まれその文化圏内で暮らすわれわれは理解できる。レゲエから聴こえる"自由"とは、制度(ジャマイカ人の言葉を使えば"システム")からの自由でもあり、場合によっては法からの自由でもある(ジャマイカにおいて大麻は非合法である)。またルーツ・レゲエがよく使う「I & I」という主語からも見える自由である。「私と私」――主語が複数であることの素晴らしさ、松村正人の文体とは正反対の、「私」の否定。

 およそ1ヶ月ほど前、『アンチ・オイディプスの使用マニュアル』(水声社)という本を読んだ。冒頭において著者であるステファヌ・ナドーはアルチュール・ランボーの有名な言葉「私とはひとりの他者である」――を持ち出す。「私とは実はいないのである」という発想だ。なぜなら「私」とは誰かによって勝手に作られたモノだからである。「私」はレゲエ好きだからドレッドにしてラスタカラーを着込んで田舎に住む、という「私」――まあ、いまどき本当にそんな人がいたらギャグか本気ですごいかのどっちかだろうけれど。
 要するに、サラリーマンという「私」のためのライフスタイル。主婦という「私」のための服装。いつの間にかコースが決められている「私」。「私」が「私」を意識したときの息苦しさ――19世紀の詩人は「私」の窮屈から解放されたいという願いを、「酩酊船」なる長い詩に託している。実際の話、「私」なんていない――と想像すると気が楽になった気になる。酒をたんまり飲んで喋りすぎた翌朝の、世にも地獄の鬱状態においては、ひたすら繰り返すことだ。「私」などいないと。
 こだま和文は「私」からの自由を目論む者のひとりでもある。旅行に行ったところで「自分」がなくなるわけではない。彼はそう考える。
 
 『空をあおいで』の装丁には携帯電話が描かれている。素晴らしい自由を与えられたかのように、人はコンピュータを所有し、携帯電話を肩身はなさずに歩いている。牢獄のように小綺麗な部屋から一歩も出ることなく、せこい話かもしれないが、携帯電話の料金を気にしながら生きている。なんだか巧妙な手口で自由が奪われているように思うことがある。
 こだま和文は本書において自由になるために繰り返し思索する。そしてところどころで彼なりの考えをぶつける。「がまんするのではなく、あきらめるのだ。ただし自分や他人を傷つけることなく、息苦しくなる原因をひとつずつあきらめて、自由を獲得したいものだ。自由を得るため不必要ながまんをせずに、持てあます情報を見極めて、あきらめる。あきらめても、あきらめても、あきらめきれない強いものがみえてくるはずだ」
 『空をあおいで』はいくつもの短いエッセイで構成されている。『すばる』での連載をはじめ、いくつかの雑誌に寄稿した原稿、1996年に出版されたエッセイ集『ノート・その日その日』からも何本か選ばれ、1993年に出版された幼少期の自伝『スティルエコー』も再収録されている。
 
 こだま和文は僕の世代にとってヒーローのひとりである。若い頃、僕たちはじゃがたらと同じようにミュート・ビートに憧れた。彼は英雄で、憧れだった。いや、もちろんいまでも......そうである。
 こだま和文に対して「こだまさ~ん、飲みましょうよ!」などと軽口をきけるような関係ではなかった頃、というかまだ口をきいたことすらなかった頃、僕は銀座線の青山一丁目の駅構内でその後ろ姿を見ている。まるでゲリラ兵士のような出で立ちで(どう考えても目立つよな、あれは)、肩からさげていたトランペットのケースは迷彩模様だった。「うぉ、やべー、こだま和文じゃん、どうしよう、声かけようか」――結局、僕は声をかける勇気が持てなかったのだが、あとになってそのときのトランペットのケースの迷彩模様がビニールテープを丁寧に貼り合わせた手製のものであったことがわかって、僕はひとしきり感動したものだった。「さすがこだまさんだ」、そう思った。手作りの器用にデザインされたそのケースは、僕のなかでは『Flower』のチューリップに繋がるのである。それらは豊かさのなかでゆっくりと衰弱していくわれわれの生活に釘を刺す。
 
 こだま和文の作品ではいちばん好きなのは『Quiet Reggae』(1992年)、続いて『Stars』(2000年)、その次が『Dread Beat In Tokyo』(1996年)で、近作では『IN THE STUDIO』(2005年)が気に入っている。そして今回の『空をあおいで』では、「あり合わせ、日々の暮らし」というエッセイがいちばん好きだ。
 「好きな食べ物は何ですか」と聞かれたら「あり合わせの飯」と答えようか――こんな書き出しではじまるこの文章をこれ以上引用するのは止めておこう。こだま和文の"自由"の思想はこの「あり合わせ、日々の暮らし」で実にうまく表現されている。もし、まわりに元気のない友だちがいたらこれを読ませてあげるとよい。仕事がなかなか決まらずに、持つ必要のない劣等感を持たされている友だちがいたら、人生のどん底でもがき苦しんでいる友だちがいたら読んで聴かせてあげよう。できれば平日の昼間、青空の下が望ましい。この手に負えないペシミストの話は、おかしなくらいわれわれを勇気づけるのである。

Chart by UNION 2010.06.17 - ele-king

Shop Chart


1

MALIK PITTMAN

MALIK PITTMAN From Jzz To Jlb WHITE / JPN / »COMMENT GET MUSIC
RE-STOCK!!! THEO PARRISH、MOODYMANN、RICK WILHITEに続く3 CHAIRSのメンバー、MALIK PITTMANNによるMIX-CD!! トラック・メイカーとしては、実験的でアングラテイストのDEEP BEATDOWNをプロデュースしますが、こちらのMIX CDは、彼のバックボーンの一つでもある80'Sのメロウ・フュージョンををMIXしたリスニング仕様のMIX CD!

2

INNER SCIENCE

INNER SCIENCE Theme of the Transitions BLACK SMOKER RECORDS / JPN / »COMMENT GET MUSIC
毎回、こちら側を飽きさせない、深いMIX CDをリリースし続けるBLACK SMOKERから、INNER SCIENCEが2年振りに再登場!! 大幅にダンスミュージックにアプローチした快作の流れをそのままに、MINIMAL、DUB、DISCO RE-EDITなど、ハメ+アゲのMIX CDになってます!!

3

CV313

CV313 Infiniti-1 ECHOSPACE / US / »COMMENT GET MUSIC
KING OF MINIMAL DUB、DUB TECHNOのトップ・レーベル「ECHOSPACE」の中心的アーティスト、CV313による新作!! 年内リリースのアルバムの先行12"との事。常に変わらない、深スギル、リヴァーヴ&ディレイの世界。REMIXERに、これまた独自のセンスを貫くSTLが参加。ECHOSPACE的アトモスフィック処理とインダストリアルな四つ打ちで素晴らしくハマる。

4

ROUND TWO

ROUND TWO New Day MAIN STREET / GER / »COMMENT GET MUSIC
RE-STOCK発見!!! BASIC CHANNEL傘下「MAIN STREET」レーベル!!2番は、今も現場でフルに活用されて、中古でも毎回即売れです。A面は、ソウルフルに歌い上げるNY HOUSE系のVOCALを活かしたDEEP HOUSE。B1がクラシック!! 渋いほどに、展開なしで、ねちっこいGROOVEのみで踊らせるTECH DUB。

5

ROUND THREE

ROUND THREE Acting Crazy Feat. Tikiman MAIN STREET / GER / »COMMENT GET MUSIC
RE-STOCK発見!!! BASIC CHANNEL傘下「MAIN STREET」レーベル!! 1番2番は、DEEP HOUSE的要素が強めでしたが、ここら辺からMAURIZIO節が効きはじめます!! TIKIMANをフューチャーし、トビ要素も高まり、ウラ打ちのハイハットと、おなじみのディレイの利いたリフは永遠に飽きない名曲です!!!

6

VARIOUS PRODUCTION

VARIOUS PRODUCTION Keep Her Keen VARIOUS PRODUCTION / UK / »COMMENT GET MUSIC
THEO PARRISH MIX CD" Suggested Use Pt.2"収録、FRANCOIS K WANT!! ACTRES REMIX!! 一度聴いたら忘れない、悪夢的なコーラスと、初期THEO PARRISH、OMARS あたりのLOW-FIなリズム。真っ暗なフロアで聴いたら、酩酊間違いない危険極まるダークな変態HOUSE。レコメンド!!!!

7

SLAM MODE FEAT.THE BAULS OF BENGAL

SLAM MODE FEAT.THE BAULS OF BENGAL Apreketa (Black Vinyl) SPIRITUAL LIFE MUSIC / US / »COMMENT GET MUSIC
SPIRITUAL LIFEが2003年にリリースしたコンピ「NEW BIRTH」に収録されていたSLAM MODEのJEFF MILLS REMIXが初のヴァイナル化!! JEFFらしい、ミステリアスなウワモノと、トライバルはリズム、浮遊するアフロ・チャント。異常なまでのトランス感を漂わせた三次元トライバル・ハウス!!

8

ALTZ VS DJ NOBU

ALTZ VS DJ NOBU Mariana JAPONICA / JPN / »COMMENT GET MUSIC
アフロジャズ・トライバルチューン傑作!!! ALTZとDJ NOBUによる脅威のジャパンアングラ合戦!!! フリーキーでアクティヴなトランペット、ファンキーなVOICEサンプル、ススペーシーで密林ジャングル系のリズムを擁するアッパートラック!! DJ NOBUによるREMIXは、チャント要素とミニマル要素をより強化し、クラップも気持ちいいRICARDO、LUCIANOラインのTOPチューン!!!

9

BRENDON MOELLER

BRENDON MOELLER Mainline EP ECHOCORD COLOUR / DEN / »COMMENT GET MUSIC
ヨーロッパにおける、DUB TECHNOの中心的レーベル「ECHOCORD」から、ベテランのBRENDON MOELLER A.K.A. ECHOLOGISTがリリース!! 曇りガラスの向こう側から鳴るような独特のキックと、NEW WAVE的なシンセのリフが気持ちいいDUB TRACK。逆面に、最近好調のROBAG WRUHMEがREMIXERとして参加。ぶっ壊れたビートと演説っぽいスポークン・ワードを使った流石の内容!!

10

CLAUDIO FABRIANESI & DONATO DOZZY

CLAUDIO FABRIANESI & DONATO DOZZY Disco Infecta MULE ELECTRONIC / JPN / »COMMENT GET MUSIC
PETER VAN HOESENはじめ数々のコラボーレーションを成功させてきた鬼才・DONATO DOZZYが今回タッグを組んだのは、同郷イタリアの新鋭・CLAUDIO FABRIANESI! ウォーミーなシンセと緩やかな打ち込みが身体に浸透していくタイトルトラックも良い出来ですが、ヘビーなキックが静かに変化していくドローンの海を切り裂くB面"Fade Out"が秀逸!

Chart by JETSET 2010.06.17 - ele-king

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1

TODD TERJE

TODD TERJE REMASTER OF THE UNIVERSE »COMMENT GET MUSIC
Remaster Of The Universeからのシングル・カット!!ニュー・ディスコ・シーンに新風を巻き起こしたリエディット職人"Todd Terje"のリミックス/エディット・ワークをコンパイル/ミックスした"Remaster Of The Universe"から、文句なしの選曲で12"カットをドロップ!!

2

BULLJUN

BULLJUN BULLJUN & FUNKY PRESIDENTS 2029 »COMMENT GET MUSIC
コレこそヴァイナルで欲しかった!2ndアルバムが遂にジャケ付2LPで登場!A.Y.B. イズムをクレイツに詰め込み、NY~東京~宮崎とさすらう中でかすかに覚えたゼロ年代への違和感と、無関係に加速するソウル~ファンク~ジャズ~ラテンへの愛情。それら全てを16パッドに込めることで自らのBボーイ美学を表明した、正に【Mo' Music, Less Talk】な2枚組です!

3

JOHN TALABOT

JOHN TALABOT SUNSHINE REMIXES »COMMENT GET MUSIC
トロピカル・フロウティン・サマー・ディスコ最高曲!!Delorean Remixもグレイトです。Permanent Vacationからの12"でオナジミのバルセロナの新鋭、John Talabot。地元レーベルHivern Discsからの超限定カラー・ヴァイナル!!

4

BINGO PLAYERS / EDWARD'S WORLD

BINGO PLAYERS / EDWARD'S WORLD TOM'S DINER / SOUL & ROOTS »COMMENT GET MUSIC
永遠のカフェラテ・アンセム"Tom's Diner"をダーティ・ダッチ・リミックス!!☆特大推薦☆Suzanne Vega feat. DNAによる歴史的アンセムを、大人気のダッチ・リミキサー・デュオBingo Playersがリミックスした特大ボムが登場っ!!

5

BIZ MARKIE

BIZ MARKIE TRIBUTE TO SCRATCH »COMMENT GET MUSIC
JET SET独占入荷!昨年以降噂になっていた垂涎の一枚・・・緊急入荷しました!Bizの1st収録曲ながら、12"化は勿論初!しかもインストやアカペラ、更にJackson 5やMarvin Gaye楽曲をふんだんに盛り込んだ危険過ぎるお蔵入りバージョンまで収録!

6

DVS1 (ZAK KHUTORETSKY)

DVS1 (ZAK KHUTORETSKY) LOVE UNDER PRESSURE EP »COMMENT GET MUSIC
Derrick May氏率いるTramsmat復活第2弾が早くも登場です!!Greg Gowの"Pilgrimage EP"でドラマティックな復活を果たしたTransmatがまたもや新作をリリース!!間もなくリリースが予定されているベルリン最高峰のクラブ BarghainからのBen Klockによる最新ミックスCD『Berghain 04』にも収録予定と話題です。

7

MYLES COOPER

MYLES COOPER GONNA FIND BOYFRIENDS TODAY »COMMENT GET MUSIC
超オススメです★スーパー・カラフルなベッドルーム・トロピカル・エレポップのニュー・ジーニアス!!快調リリースが続くTransparentから、またもや新しい才能が登場!!カリフォルニアの宅録シンガー、Myles Cooperのデビュー・シングル。今年のサマー・ポップ定番はコレです!!

8

DUBBEL DUTCH

DUBBEL DUTCH THROWBACK EP »COMMENT GET MUSIC
☆特大推薦☆ダーティ・ビーツをルーツに持つUKファンキー超新星が遂に正規デビュー!!ダーティ・ビーツ系US最強ブログが主宰する同名レーベルからのヴァイナル・リリース第2弾。Girl UnitのFactミックス収録で話題を集めたキラーA1を搭載ですっ!!

9

ERIC COPELAND

ERIC COPELAND DOO DOO RUN »COMMENT GET MUSIC
Gary Warを超える衝撃のグニャグニャ不定形サイコ・ポップ。これは普通じゃ作れません。ブルックリン最重要バンドのひとつBlack Diceの中心メンバーEric Copelandのソロ7"が、No Age主宰P.P.M.より!!大判ポスター・スリーヴの限定盤!!

10

1000NAMES

1000NAMES ILLUMINATED MAN LP »COMMENT GET MUSIC
得意の壮絶カットアップに加え、明滅アルペジオ・シンセも組み込まれた大傑作!!Team AcreからのEP"Paradise"も当店ヒットしたブルガリアンDJデュオが、ウォンキー/ブロークンヒップホップ大人気レーベルBlack Acreからアルバム・リリース!!

interview with iLL - ele-king

 広尾の〈DOMMUNE〉のうえにある〈SUPERCORE〉という、このエリアに似つかわしくない怪しげなカフェで(入口にはスターリンの『虫』とプライマルの『スクリーマデリカ』が飾られている)、ここ最近はよくビールを飲んでいる。オーナーご自慢のカップに注がれた生ビールは格別に美味しい。

 明るい店内にはつねに音楽が流れているが、それは実はナカコーの選曲によるものだそうだ。実際、そのカフェで何度かナカコーを姿を見かけている。この、青森からやって来たサイケデリック・ロックの使者は、いわゆる猫背なので、すこしばかり酔っていると、ホントにネコと見間違えてしまう。彼の実験的なエレクトロニック・ミュージックのプロジェクトの名前を思いだそう。ニャントラ――である。

 これだけ世のなかが"健康"と"明るさ"ですべてを包み込もうとしている時代において、青森からやって来たニャントラは、その真逆の"iLL"なる言葉を自分のプロジェクトの名前に選んで、しぶとく活動している。かつてスーパーカーとして宇宙誕生の瞬間まで見てしまったであろうこの男は......iLLとして試行錯誤を繰り返しながら、彼のロック・サウンドを探求している。カフェから流れる音楽――ミニマル・テクノ、ヴェルヴェッツ、ザ・XX、あるいはビートルズやロキシー・ミュージック等々――は、ニャントラの毎日のサウンドトラックようである。


iLL / Turn a
Ki/oon

Amazon

 iLLは今回、ある意味では無茶なことをやっている。アルバム1枚をいろんなミュージシャン/DJとのコラボレーションによって作るというものだ。アルバムには、山本精一+勝井祐二、向井秀徳、POLYSICS、ALTZ、Base Ball Bear、DAZZ Y DJ NOBU、the telephones、MEG、RYUKYUDISKO、moodman、ABRAHAM CROSS、aco、ASIAN KUNG-FU GENERATION、clammbon......が参加している。このリストを見ても、ほとんどすべての人がいったい何のことなのか想像がつかないだろう。サイケデリックなニャントラは、いったい何を考えているのだろうか。

 〈SUPERCORE〉でナカコーと会った。

聴く前から、もうイメージで聴かないという人が多いでしょ。まずは聴いて欲しい......というのがありますけどね。知らないっていうだけで、価値のないモノとされるような感じはあんま好きじゃないので。ああいうモノもあるけど、別のモノもある、それは面白いけどな。

じゃあ、今日は夢のある話をしてもらいましょうか。

ナカコー:はははは。

やっぱ夢がないとね(笑)。

ナカコー:はははは。

何度も訊かれているだろうけど......、なんでこんな企画を考えたの?

ナカコー:段階があるんだけど、まずはやったことがないことをやろうと。それで、コラボ・アルバムはやったことがないと。最初はそこ。

なんでコラボ・アルバムを?

ナカコー:自分と日本のミュージシャンとの距離感というのがずっとあったから。てか、自分のなかにそれがあったから。一歩引いた目で見ていたというか。だから、コラボをやれば、逆にお客さん的な目線で作品を作れる。

そうなんだ?

ナカコー:それは面白いかなと。新鮮だし。

言い方悪いけど、他力本願というか。

ナカコー:はははは。そうだね(笑)。

DJ的とも言えるよね(笑)。

ナカコー:はははは、そうだね。

なるほどねー。自分がいままで距離を感じていたっていうのは、どういうこと?

ナカコー:いや、もともと邦楽あんまり聴かないから。アンダーグラウンドなものやオルタナなものは聴いてたけど、日本のポップスとかロックはそんなに聴いていないからね。バンド付き合いもあるわけじゃないし。だから、それを実際に経験してみようと。自分はやっぱ、日本の音楽の場所にいるわけだし、だけど、そこをいままであんまり見てなかったからね。自分と同じところでやっている人たちがどんな風に考えているのか知りたかったというのもあるし......そこは大きかったかな。

で、知ることはできた?

ナカコー:うん、できたかも。ある程度は。

それは夢のある話だった?

ナカコー:夢があるかどうか知らないけど、良い経験だったけど。良い気分転換だったし。

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会ったこともない人といっしょにやるのがスリリングなんですよ。向井くんとも会ったことなかったし、ポリシックスにも会ったことなかったし。ベースボールベアーも、ノブくんも、アジカンも、クラムボンも......ほとんど会ったことがなかった。

いろんな日本のミュージシャンやDJとコラボして、良かったところは何ですか?

ナカコー:やる前に、自分はきっと柔軟に違いないと思っていたんだけど、実際にやってみて柔軟だった。

はははは。なにそれ?

ナカコー:ちゃんと相手に合わせることができる。チューニングができる。それはコミュニケーションが取れるってことだから。

なるほどねー。最初にこの企画の話を聞いたときに思ったことがあるのね。たとえばDJやクラブというのはシーンがあると思うのね。DJだけではなく、オーガナイザーやクラバーをふくめて、自分はこのシーンのいちぶであることを自覚していると思うのね。多少の音楽性は違ってもだよ。やはりそこには風営法だったり、社会的に自分たちの"シーン"ということを自覚しなければやっていけないところがあると思うのね。翻ってロックはどうかと言うと、シーンという意識がすごく希薄に思えるんだよね。日本のロック・シーンと言われても、もうわけわからないでしょ? 

ナカコー:まあ、でも、下北のシーンとかありますけどね。秋葉とか。

ああ、そうか。ハードコアのシーンもあるよね。でも、UKやUSなんかと比較すると、この国のロックは何が最良であって、どんなバンドに未来が託されているのかよくわからないし、どのシーンにいま注目したらいいのかっていうのもない。向こうはロラパルーザとかさ、あるいはビースティーのチベット支援とかさ、なにか理想があってそれでバンドが集まるじゃん。日本でそういうのって知らないし......。だから、ナカコーが持っていた"距離感"は他のバンドも持っていたかもしれないなと思うの。だって、これだけたくさんのロック・バンドがいて、そして、言ってしまえばバラバラなわけでさ。だからね、そういう意味で、ナカコーが今回やっている試みは、極論すればシーンがないなかでやっているわけだからさ......すごいことだよ(笑)。

ナカコー:はははは。

甘くはないというか、そう簡単に理解されるものじゃないと思うんだよね。

ナカコー:ただ、今回ここにいるのが日本の音楽のすべてじゃないからね。これが日本の音楽シーンだとも思っていないし。

そうだよね。ナカコーがキュレーターを務めたプチ・フェスティヴァルみたいな。

ナカコー:そうですね。それはあるかも。海外の人に、これはいまの日本の音楽のひとつの姿ですって、そういう感じでは出せるかな。

iLLやっていて、対バンに困ることはある?

ナカコー:まあ。

正直なところ、仲間が欲しいって気持ちはあったのかな?

ナカコー:仲間というか......、まず何を考えているかわからないし、だけど、いっしょに音を出してみて、で、何を考えているかわかったという(笑)。

なるほど(笑)。あのー、今回の企画は、本当に冒険的なことをやっていると思うんだよ。こんなこといまどき誰もやらないし、自分が興味のない外の世界とはまったく関わりたくないというのがいまの日本社会だから、すごく世のなかに逆らっているとも思うんだよ。だけどさ......ポリシックス聴いている子がDJノブに興味を持つかな? アブラハム・クロスを聴いている子がアジカンを聴くかな? おたがいはなっから「自分とは違う」という意識でいるのがいまなんじゃない?

ナカコー:うーん、そうなんだけど、そこは聴いている人の感性によるし、ひょっとしたら"アリ"かもしれないし。うん、たしかにそうなんだけど、聴いてみないとわからない。

それはたしかにそうだね。

ナカコー:聴く前から、もうイメージで聴かないという人が多いでしょ。まずは聴いて欲しい......というのがありますけどね。知らないっていうだけで、価値のないモノとされるような感じはあんま好きじゃないので。ああいうモノもあるけど、別のモノもある、それは面白いけどな、それにどっぷり浸からなくても......。

そうだよね。やってみて、このコラボした人たち全員に共通しているモノって何だと思う?

ナカコー:うーん。

DJノブからベースボールベアーまで。

ナカコー::「すげー、わからない」ということと「すげー、わかる」ということが共存している。なんて言うか......「聴けばわかる、でも、聴かないとどうやって作っているのかわからない」、そういうところがあって。ベースボールベアーの音楽も何かをやろうとしていることはわかる。みんなに「わかる」と「わからない」がある。

"分断化された10年"という言葉があるんだけど、いまはとにかくみんなバラバラだと。たとえばアブラハム・クロスの小さなシーンとアジカンのシーンには回路がないでしょ。ナカコーはそこを繋げたいと思っているの?

ナカコー:できれば繋げたいと思っている。

それは夢のある話だね(笑)。

ナカコー:はははは。フェスとかで......、ロッキングオンのフェスでもなんでもいいんですけど、このメンツでやったらお客は揺れ動くよなーとは思うんですけどね。

揺れ動くって?

ナカコー:まあ、それが良いか悪いか別にして、こっちのほうが健全というか、同じようなバンドばかりが続くよりは、むしろこっちのほうが繋がるんじゃないかなと思うんですけどね。

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ナカコーはなんで日本の音楽を聴かないの?

ナカコー:なんでだろ? それわかんないですけどね。

僕があんま日本の音楽を聴かない理由は音が魅力的じゃないからで、やっぱ歌詞が重要だったりするんでしょ。で、その歌詞がさ......『脳内革命』ってわかる? いわゆる自己啓発本ってヤツなんですけど、「あなたは偉い」「あなたは間違ってない」「あなたは輝いている」とか書いてあるのね。それを読んでサラリーマンは前向きになるんだけど、で、だから売れているんだけど、音がつまらない歌詞重視の日本の音楽の言葉って、ほとんど自己啓発じゃない。それがすごくイヤなんだよね。

ナカコー:はははは。

ねぇ(笑)。「言われたくないぜ、お前には」、って(笑)。だから......ナカコーも「君は世界でいちばん輝いている」とか歌えば売れるよ(笑)。

ナカコー:はははは。そうかな(笑)。

もちろん歌詞も重要だけどさ。iLLもそういう意味では、まずは、たぶん音が好きなわけでしょ?

ナカコー:まあね。

だからね、今回のコラボ・アルバムはたぶん、純粋に面白い作品を生みたいことだと思うし、意外なほど音にまとまりを感じたんだよね。もっと支離滅裂になるかと思っていたけど、意外なほど整合性があったね。

ナカコー:そうっすね。自分が現場にいるし、どんな音を出されても自分がまとめるみたいな気持ちがあったから、最後の仕上げみたいのは自分でやるから、まあ、統一感は出るだろうなって思ってました。それはあったほうがいいと思っていたし、あるだろうなと思っていた。

いっしょにスタジオに入ったのは誰?

ナカコー:山本(精一)さん、勝井(祐二)さん、ポリシックス、ベースボールベアー、テレフォンズ、アブラハム・クロス、クラムボン......。

向井秀徳は?

ナカコー:データのやり取りだけだったね。忙しかったから。オレがリズムトラックとかオケを作って、それで向井くんが歌とシンセを入れてきて。

ミニマル・テクノだったもんね。

ナカコー:向井くんと話したときに、お互いムードマンが好きだということで、そこで「よく、わかった」と。作りやすかったですけどね。

たしかにインパクトがある曲だよね(笑)。

ナカコー:はははは。

DJに関してはみんなリミックスだよね?

ナカコー:頼んだのはオレが大好きなDJですね。

ノブくん、ムードマン、アルツ、みんな良かったんだけど、なかでもアルツのミックスがちょっと素晴らしいと思ったな。よりサイケデリックなクラウトロックというか。

ナカコー:そうですね。原曲は3コードのロックなんですけどね。

ムードマンはクラスターがミニマルやったみたいな音だったね。ノブくんはダビーでアシッディなエレクトロニック・ダブ......。

ナカコー:どっちも格好いいですよね。

ハルカっていうのは?

ナカコー:それは曲名(笑)。

はははは。

ナカコー:はははは。

アジカンの"新世紀のラブソング"はiLLがミックスしたの?

ナカコー:そうそう。

それもアリなんだ。出たばかりのシングルなのに、よく許可してくれたね。

ナカコー:そうですよね。びっくりしました。

アジカンがいちばん浮いているよね。

ナカコー:それはまあ。

悪い意味じゃないよ。やっぱ歌詞がしっかりあるし。

ナカコー:たしかにアジカンがいちばん難しかった。

メッセージがあるというか、言葉が強いからね。

ナカコー:そう、それを消しちゃうと曲の意味もなくなっちゃうしと思って。最初はぶつぶつ切っちゃおうって思っていたっだけど、それだとアジカンをやる意味がないなと。しかもアジカンと自分がいちばん接点がないようにも思っていたし。それはわかっていたんです。でも、接点がない同士でやるのもいいかと。リミックスは、あと琉球ディスコもやりましたね。

それがMEGちゃんが歌っている"遙"という曲だね!

ナカコー:はははは。そうっす。

失礼しました(笑)。でもさ......ダンス色が強くない?

ナカコー:それは意識したわけないんですよ。やったらそうなっちゃった。なんかね、気がついたら4つ打ち聴いているみたいな、それが自分のモードでもあったし。

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自分が自分のことをやっているよりも、こうやって人と広がっていくほうの面白さというのもあるんですよね。参加してくれた人たちもみんなそういう感性を持っている人たちだと思うんです。だから参加してくれたと思うし......。

今回は実現できなかったけど、やりたかった人っていますか?

ナカコー:七尾旅人くん、瀧さんとか......。

ピエール瀧?

ナカコー:はははは。

はははは。

ナカコー:やっぱ電気グルーヴは巨大なんで(笑)。

たしかに。

ナカコー:影響も大きいし、日本の音楽の重要な要素だから。でも、ちょうど忙しかったみたいで。

残念だったね。それこそ彼の歌詞は聴きたかったかもしれない(笑)。ちなみにリミックス以外はぜんぶナカコーが曲を書いているの?

ナカコー:いや、ベースボールベアー、テレフォンズは彼らの曲ですね。

テレフォンズとはどういう関わりがあるの?

ナカコー:彼らのアルバムをプロデュースしたんで、今回はもっと深くプロデュースしてみたいなと思って。

AC/DCがディスコやったみたいなバンドだなという印象なんだけど。

ナカコー:いや、いろいろ考えていると思いますよ。

そのアイデア自体は面白いと思うんだけど。

ナカコー:もっと幅広く音楽を聴いているし。

じゃあ、この先もっと変化していくかもしれないんだね?

ナカコー:たぶん、そうだと思います。海外からの影響もあるし、ダンス・ミュージックとロックということの組み合わせを考えているし。

僕は唯一、このベースボールベアーっていうバンドを知らなかったな。どんなバンドなの?

ナカコー:『ロッキングオン・ジャパン』とかでよく見るバンドというか......すごく乱暴な説明ですけど。

なるほど。

ナカコー:20代半ばのバンドで、すごく人気ありますよ。前から名前は知っていたんだけど、自分のなかではさっき言った「わかる/わからない」の共存の度合いが強いバンドだったから、頼んでみようって。

「わかる」部分って?

ナカコー:やっぱバンドとしての結束力ですね。そこはオレもずっとバンドやってたからわかる。バンドとしての生き方......みたいなの。

じゃあ「わからない」ところは?

ナカコー:うーん。......「なんでそこまでバンドにこだわるの?」っていう。

はははは。

ナカコー:バンドを解散したオレからみると(笑)。

分裂しているものがあるんだね。

ナカコー:そうかも(笑)。

まあ、じゃあ、これは......とにかく作ったからあとは聴いてくれた人がどう思うか、というところに賭けているアルバムなんだね。

ナカコー:たぶん。きっと邦楽メインで聴いている人たちにいくと思うから。

そうだろうね。DJノブが千葉を拠点にどんな音楽活動をしているのか初めて知るとっかかりになるかもしれないしね。これを聴いてアブラハム・クロスのファンになる人がいてもおかしくないものね。

ナカコー:そうだね。そうなったら、すごく良いですよね。

ILLがいま見ている......でっちあげかもしれないけど、シーンのようなモノが見えればね。

ナカコー:うん、ただシーンというのが、まったく繋がっていないのがもったいない気がします。

ここ1年、何回かオム二バスのライヴに行ったんですよ。そうすると、自分の目当てのバンドが終わると多くのファンが帰ってしまう。そういう状況が僕はずっと不健全だなと思っていたのね。相対性理論のライヴが終われば客は帰る......とかね。でも、それってよく考えてみれば、シーンがないってことなんだよね。シーンがあれば、パンクでもテクノでもラップでも、オム二バスのライヴの最後まで見ようとするじゃない。でも、シーンがないから単体のアーティストにしか興味が集まらない。そういう意味では、まあ、勇気ある挑戦でもあったね。

ナカコー:はははは、そうかもしれないですね。

良くやったなーと思いますよ。

ナカコー:よく参加してくれたなーと思いますね。

そうだね。

ナカコー:参加した人たちも「これどうなるの?」って思いがあったと思いますよ。

それはそうだよね。

ナカコー:でもきっと、面白いものになると信じてくれたんだと思うんですよ。

中村くんの人徳でしょうね。

ナカコー:いや、これで初めて会う人ばっかだったし(笑)。

会ったこともない人とよくいっしょにやったね。

ナカコー:会ったこともない人といっしょにやるのがスリリングなんですよ。向井くんとも会ったことなかったし、ポリシックスにも会ったことなかったし。ベースボールベアーも、ノブくんも、アジカンも、クラムボンも......ほとんど会ったことがなかった。

そうかー。

ナカコー:音楽があるから、知らない人とも話せるからね。

なるほどね。ナカコーはこのアルバムで、たしかに他の人たちがやらない"努力"をしたんだろうなとは思いますよ。

ナカコー:努力というか、自分が自分のことをやっているよりも、こうやって人と広がっていくほうの面白さというのもあるんですよね。参加してくれた人たちもみんなそういう感性を持っている人たちだと思うんです。だから参加してくれたと思うし......。それをリスナーの人も共有してもらえたらいいんですけど。

大きく言えば、分断された島宇宙を繋げたかったんだろうし、そういう努力はもう日本では誰もしなくなったからね。ただし、ここまで努力してみても、誰もこっちを振り向かないかもしればいし、空振りするかもしれないでしょ。知らなかった音楽を知りたくない、そんなこと求めてないって人だっているわけだし。その覚悟はある?

ナカコー:もちろん。まったく空振りするかもしれないって覚悟はありますよ。

できれば夢のほうに話が進んで欲しいけどね。

ナカコー:はははは。ですねー。夢は夢だから(笑)。

最後のクラムボンとの曲が、なんかそんな感じだね。淡く終わっていくような......。

ナカコー:まあ(笑)。

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