「K A R Y Y N」と一致するもの

Holy Fuck - ele-king

 6年ぶりの復帰作『コングラッツ』で、これまでのように様々な音楽の要素を貪欲に混ぜ合わせながら、これまでとは異なって大胆に「歌」を導入しつつ、それでもやはりゆるぎないダンスへの意志を見せつけたホーリー・ファック。話題沸騰中のかれらが、このたび初となるヘッドライン・ツアーを敢行、来日する運びとなった。

 エクスペリメンタルでありながらダンサブル。エレクトロニックでありながらも生アンサンブルを重視し、理論や理屈よりも感覚や演奏をこそ自らの拠りどころとしてきたバンドだけに、今回のライヴはアルバム以上に熱狂度の高いものとなるだろう。
 注目のツアーは、東京・WWW X(9月26日)と大阪・CONPASS(9月27日)の2か所でおこなわれる。この機会に、トロントから届けられたダンス・パンク・サウンドの最新形を生で目撃しよう。

ホーリー・ファック、遂に初のヘッドライン・ツアーで来日決定!

ラウドでハードコアな音塊! めくるめく浮遊メロディ!
人力とエレクトロニクスが織りなす混沌と恍惚の先鋭サウンドで踊り狂え!
ハードコア、クラウト・ロック、エレクトロニカ、ハウス、インダストリアルからアヴァンギャルドまで様々な音楽要素を飲み込み、ブラック・ダイスやバトルスなどのブルックリン勢に比肩する先鋭的サウンドで、ルー・リードやレディオヘッドをも魅了して来たホーリー・ファック。
既に話題になっている6年ぶりの最新アルバム『コングラッツ』のブッ飛び具合が実に凄まじい。人力とエレクトロニクス、ハードコアな音塊と歌心溢れる浮遊メロディの融合がお見事過ぎて、もはや笑える程にライブが待ち遠しい!
まだその名が広く知られる前に、SXSWで彼らのライブを見たルー・リードをして、「全出演者の中で彼らが一番最高だった」と言わしめたホーリー・ファックだが、さらにスケールアップした今の彼らのライブは見逃せるわけない!

HOLY FUCK ヘッドライン・ツアー

2016年9月26日(月)
WWW X Opening Series
渋谷 WWW X

OPEN 19:00 / START 20:00
前売 ¥5,500 (税込/ドリンク代別)

チケット詳細
一般発売:8月6日(土)~
e+ ( イープラス )
チケットぴあ ( Pコード 306-556 )
ローソンチケット ( Lコード 70077 )

2016年9月27日(火)
大阪 CONPASS

OPEN 19:00 / START 20:00
前売 ¥5,000 (税込/ドリンク代別)
DOOR. ¥5,500 (税込/ドリンク代別)

チケット詳細
一般発売:8月13日(土)~
チケットぴあ ( Pコード 307-148 )
ローソンチケット ( Lコード 55488 )
e+ ( イープラス )
FLAKE RECORDS店頭

主催:WWW X
企画制作:WWW X / BEATINK
お問合せ:WWW X 03-5458-7688

NxWorries - ele-king

 次世代のモクモク・ユニットは、2016年に何を残すのか。
 アンダーソン・パークとノレッジからなる、ノー・ウォーリーズがファースト・アルバム『Yes Lawd!』を10月21日にリリースすることを発表した。
 昨年12月にノー・ウォーリーズとして初のEPとなる『Link Up & Suede』を発表し、話題となったが、2016年はアンダーソン・パークが自身名義のソロ・アルバム『Malibu』をリリースしたことも重なり、ノー・ウォーリーズとしての表だった活動はほぼ見られなかった。
 しかし今年6月にはアンダーソン・パークがツイッター上で、ノー・ウォーリーズのスタジオ・アルバムが完成したことを発言し、期待が高まっていた矢先でのリリース発表となった。
 本日9月20日は、WWW Xのオープニング・シリーズとしてアンダーソン・パークの単独公演が開催される。残念ながらチケットは売り切れてしまったようだが、このタイミングでの単独公演となると何か期待したくなるもの。新曲は披露されるのか、淡い期待を抱きながら、今夜は楽しもう。


ノー・ウォーリーズによる「Suede」のライブ映像


また、今回の発表に合わせて、アルバム収録曲の中から「Lyk Dis」が公開された。こちらもマスト・チェック。


『Yes Lawd!』:トラックリスト

1. Intro
2. Livvin
3. Wngs
4. Best One
5. What More Can I Say
6. Kutless
7. Lyk Dis
8. Can’t Stop
9. Get Bigger / Do U Luv
10. Khadijah
11. H.A.N.
12. Scared Money
13. Suede
14. Starlite
15. Sidepiece
16. Jodi
17. Link Up
18. Another Time
19. Fkku
https://www.stonesthrow.com/store/album/nxworries/yes-lawd

Masters At Work - ele-king

 90年代からハウス・ミュージックに多大な影響を与え続けてきたマスターズ・アット・ワーク。ルイ・ヴェガとケニー・ドープからなるこのヴェテラン・ユニットが、なんと10年ぶりに来日を果たすこととなった。
 今回の来日公演は、PRIMITIVE INC.の10周年およびageHaの14周年を記念して、11月19日(土)に東京は新木場・ageHaにて開催される。また、今回のアニヴァーサリーを祝うため、他にも多くのアーティストが出演することになっている(詳細は後日アナウンスされる予定)。
 週末の昼間から開催される同イベントは、こだわりのフードやワークショップなどが楽しめるキッズ・エリアも併設されることになっており、子どもも一緒に楽しめるフェスティヴァルとなるだろう。

Louie VegaとKenny Dopeからなる最強ユニット
“MASTERS AT WORK”
10年振り!! 奇跡の来日公演!!!

PRIMITIVE INC. 10th Anniversary × ageHa 14th Anniversary
MASTERS AT WORK in JAPAN
- It’s Alright, I Feel It! -
2016.11.19 (Sat) 14:00 - 21:00 at ageHa
OFFICIAL HP : https://mawinjapan.com

MASTERS AT WORK。その存在は世界でも唯一無二。ハウス・ミュージックを軸に音楽の可能性を強力に拡げた史上最強のユニットである。サルサやラテンを背景に持ちグラミー賞も獲得しているLouie Vegaと、ヒップホップやレゲエなどのサウンドで、ストリートから強烈な支持を受けているKenny Dope。それぞれの持ち味を落とし込んだMAWの音楽は90年代のデビューから現在に至るまで、ダンス・ミュージック・シーンに与えた影響は凄まじく、既に音楽界の至宝と言われている。日本での公演はNuyorican Soul名義でのアルバムを控えた1996年に実現。その後、個々で来日公演は定期的におこなわれつつもMAWとしての来日は、多忙なLouie VegaとKenny Dopeのスケジュールを合わせることも、また提示される条件をクリアすることも困難な為、10年を経た2006年のPRIMITIEV INC.設立記念パーティーまで待つことになる。今でも語られる熱狂的な盛りあがりをみせた伝説の日から更に10年、MAWとして3度目の来日公演が遂に現実のものに。世界的に見てもMASTERS AT WORKでパフォーマンスは年に数える程しかなく非常にプレミアムな機会。全てのダンス・ミュージック・ファンが歓喜する日となるだろう。

PRIMITIVE INC.の10周年とageHaの14周年という特別な日だからこそ実現できる10年に一度の物語が結実する。今後はアニヴァーサリーを祝うべく多くのアーティストの出演がアナウンスされていく予定。ageHaの昼間という特別な環境の中で屋内と屋外のエリアをつなぎVIPからキッズ・エリアまで併設する充実のホスピタリティー。大人から子供まで楽しめるダンス・ミュージックのフェスティヴァルとも言えるだろう。

MASTERS AT WORK in JAPAN - It’s Alright, I Feel It! -
PRIMITIVE INC. 10th Anniversary × ageHa 14th Anniversary

日時 : 2016年11月19日(土)14 : 00 ‒ 21 : 00
会場 : ageHa@STUDIO COAST www.ageha.com
出演 : MASTERS AT WORK (Louie Vega & Kenny Dope), and much more!!!
料金 : 前売りチケット
Category 0 : ¥3,800- ▶ 9/19 (月) ~ 9/26 (月) 限定100枚!
Category 1 : ¥4,300- ▶ 9/27 (火) ~ 10/4 (火) 限定100枚!
Category 2 : ¥4,800- ▶ 10/5 (水) ~ 10/31 (月)
Category 3 : ¥5,300- ▶ 11/1 (火) ~ 11/18 (金)
 当日券 ¥5,800-
 VIPシート ¥30,000- ~ 
公式HP : https://mawinjapan.com


Masters At Work (Louie Vega & Kenny Dope)

Louie VegaとKenny Dopeによる史上最高のユニットMasters At Work。あらゆる音楽スタイルを吸収してダンス・ミュージックの最先端を走り続けてきたDJ、そしてプロデューサー・チームである。ラテンやアフリカン、ジャズやダンス・クラシックを背景に持つLouie Vega、ヒップホップやレゲエなどストリート・ミュージックがアイデンティティーのKenny Dope。この両者の持ち味をハウス・ミュージックに、たっぷりと注入したサウンドこそがMasters At Work最大の魅力だろう。93年に1stアルバム『Masters At Work』を発表後、ヴォーカリストにLuther Vandrossを迎えた「Are You Using Me」、そして「Beautiful People」や「Love & Happiness」などMAW初期の代表曲とも言える作品を立て続けにリリース。96年にはセルフ・レーベル〈MAW Records〉を設立。翌97年には彼らの多才ぶりを遺憾なく発揮した集大成とも言えるNuyorican Soul名義での『Nuyorican Soul』を発表。大御所Roy AyersやJocelyn Brownなど豪華なゲスト陣の参加も大きな話題を呼んだが、R&Bやソウルに、ラテンやジャズを大胆に吸収した豊潤なサウンドはダンス・ミュージック・シーンに多大な影響を与え、名盤として愛されている。圧倒的な評価を得たMAWのもとにはリミックスの依頼が絶えまなく届き、Madonna、Michael Jackson、Janet Jackson、Jamiroquai、Björk、Daft Punk、Misia、Tei Towaなどを含め、数え切れないほどの作品を手掛けている。02年にリリースされたMAW名義での2ndアルバム『Our Time Is Coming』は世界中で大ヒットを記録している。ソロ活動も精力的で、06年にはLouie Vegaが過去幾度となくノミネートされた第48回グラミーでベスト・リミキサー賞を受賞。トップ・オブ・トップへと登り詰める快挙を成し遂げた。Kenny Dopeは全編インストゥルメンタルのオリジナル・アルバムを発表。ストリートのカリスマとして君臨し続けている。2014年と2015年にはMAWとして2年連続でUKトップ・レーベルの人気コンピレーション『House Masters』を手掛け、計8枚のディスクにクリエイションを詰め込んだ。その内容は永久保存盤とも言える内容で、輝かしいNYハウスの調べを奏でている。90年代のデビューから今も天頂で光を放ち続けるMasters At Work。既に音楽界の至宝と言える存在だろう。

THIS IS JAPAN──英国保育士が見た日本 - ele-king

貧乏人は日本をほろぼす

 まいった。あいもかわらず、カネがない。さいきん、たくさん文章を書かせていただいたおかげで、年収が200万になり、やばいオレ、ブルジョアかもしれないとおもっていたのだが、ぜんぜんそうではなかった。この年収になると、急に税金があがって、所得税だの、住民税だのを、50万くらいとられるのだ。それに国民年金や国民健康保険をあわせると、80万、90万くらいぶんどられたことになる。収奪だ。けっきょく、手元にのこるのは、100万ちょい。しょうじき、年収100万で親の扶養にはいっていたほうが、生活的にはだんぜんらくだった気がする。はたらけど、はたらけど、カネはなし。こりゃもう、はたらけない。
 というかこれ、わたしがまだ実家暮らしだからいいものの、都内で一人暮らしだったら、死ぬレベルなんじゃないだろうか。やったぜ、金持ちになったとおもって、一日三食ちゃんと食べたり、本を借りるんじゃなくて買ったりしていたら、年明けになって、とつぜん借金みたいに多額の税をとりたてられるのである。地獄だ。いつの時代も、国家というのは、やることなすこと殺人的である。はたらけ、はたらけ、カネ稼げ、とにかく税を支払うために。人間が数字にしかみえていない。だから、国家はカネをぶんどることで、そのひとの生活がどうなるかなんておかまいなしだ。そして体をこわしたり、仕事をクビになったりして、支払い能力がなくなったら、税金ドロボウとかなんとかいって、ダメあつかいする。ほんとうは、なんの同意もしていないのに。強制的にカネをぶんどられるほうがおかしいのに。ドロボウはおまえだ、日本死ね。
 ちょっと長々と、自分のうさをはらすようなことを書いてしまったが、それは本書で、ブレイディみかこさんがいっていることと、おなじだとおもったからだ。ブレイディさんは、イギリス在住の保育士。この間、ライターの仕事を精力的にやっていて、書いている内容は、音楽、芸能ネタから、海外の政治情勢まで、とても幅広い。さいきんだと『ヨーロッパ・コーリング』(岩波書店)という著作が出版されていて、この本に所収されている「Yahoo!ニュース」の記事なんかが、たくさん読まれているんじゃないかとおもう。でも、なによりすばらしいのは文章そのものだ。ブレイディさんは大のパンク好き。心はアナキストということもあって、たとえば、ヨーロッパの政治情勢にふれて、左派政権に貧困の解決を期待するみたいなことが書いてあったとしても、そのことばのふしぶしに、政権がいいかげんなことをやったら、庶民がだまっちゃいないぞ、ぶちかましてやるぜというおもいが伝わってくる。そういう心意気にあふれた文章なのだ。ぜひ、インターネットでも読めるので、まずはいちど文章をみてもらえたらとおもう。ぞっこんだ。
 さて、本書はブレイディさんの日本滞在記である。今年の年明け、日本にやってきて、労働組合のストライキから、反安保法制のデモ、反貧困の集会、ホームレス支援の現場まで、いろんなところをまわっている。そのレポートだ。まず前半、ブレイディさんはフリーター全般労組の人たちと、キャバクラユニオンのストライキ支援にいく。キャバクラではたらくお姉さんの待遇改善を訴えにいったのだが、現場はもうど緊張だったそうだ。なにせ、黒服の男性従業員たちが、「敵が来たら、全員でぶっ潰す」つもりでかかってくるのだから。でも、ブレイディさんがほんとうにびっくりしたのは、そのおっかなそうなお兄さんたちじゃない。そうじゃなくて、おなじようにひどい条件ではたらかされている客引きのお姉さんが、味方をするどころか、敵意をむきだしにして食ってかかってきたことであった。そのお姉さんは、こちらにむかってずっとこうさけんでいたそうだ。「はたらけ! はたらけ!」。しみることばだ。
 そのことばをきいて、ブレイディさんは考える。なんで、そんなことを言われるのだろう。イギリスだったら、貧乏人は貧乏人の味方をしてくれるのがあたりまえなのにと。で、ブレイディさんがおもったのは、一億総中流主義が問題なんじゃないかということだ。みんながみんな、自分は中流だとおもっている、それが問題なんだと。ちなみに、ここでブレイディさんが言っている中流というのは、高度成長のときのような、終身雇用が保障されていて、マイカー、マイホームをもっている人たちのことではない。そうではなくて、自分よりも下の人たちがいる、もっと貧しい人たちがいる、だから自分はまだマシなほうなんだ、めぐまれているんだとおもってしまうということだ。それなのに、自分の待遇がわるいとかいって、会社にやいやいと文句をいってくるのは筋ちがいなんじゃないのか、あまえてんじゃないよ、はたらけと。客引きのお姉さんが、敵意をむきだしにしてきたのは、そういうことなんじゃないかというのである。
 じゃあ、その中流主義の根っこにはなにがあるのか。本の後半、ブレイディさんは、ホームレス支援の現場にいったりするのだが、そのなかでおもったのは、人間が支払い能力ではかりにかけられていること自体が問題なんだということだ。たくさん稼いで、たくさん買うことができるかどうか、あるいはたくさん借りてたくさん返すことができるかどうか。マイホームをたてるために、35年ローンをくむとか。そういうことができるひとが立派だといわれて、それができなかったり、かんぜんにドロップアウトしてしまうと、おまえは人間失格だ、ダメなやつなんだといってディスられる。すげえブラックな仕事でも歯をくいしばってはたらいている連中がいるんだから、自分もなんとしてでも支払い能力を維持しなくちゃいけない。みんなそうおもっているのに、ホームレスになったり、労働組合にたよったりするのは、あまえなんだ、世のなかにものもうしたければ、まともに稼いでから言えよと。ゼニだ、ゼニだと、損か得かで日が暮れてゆく。
 ようするにこれ、国家が徴税のために、わたしたちを数字とみなしているのとおなじことだ。それで、ひとがどんなにつらいおもいをしたのかとか、どうして支払えなかったのかとか、そんなことはおかまいなしだ。カネをとれればいいのである。しかも、そうおもっているのは、お上ばかりじゃない。みんなが上から目線でこう言ってくる。税金をはらうのはあたりまえ。それができなきゃドロボウだ。おまえらみたいのがいるから、国の借金が増えるんだと。奴隷のくせして、主人のマネごと。はたらけ、買うために。はたらけ、返すために。はらえ、はらえ、はらえ。それが中流主義ということだ。どうしたらいいか。ブレイディさんは、まずは自分が貧乏であることを恥ずかしがらない、というところからはじめようと言っている。貧乏にひらきなおれ、カネじゃ買えねえものもある。カネなし、さきなし、こわいものなし。どうせおさき真っ暗ならば、どんなことでもやれるはずだ。闘争に花束を。中流に石つぶてを。いくらでもやれることはある。たとえば、いま金持ちだけがタックスヘイブンだのなんだのといっているが、もともと徴税逃れというのは貧乏人の得意技であった。逃散だ。そろそろ、人間を数字ではかるのはやめにしよう。群れるな、バラけろ、トンズラだ。貧乏人は日本をほろぼす。

The Birthday × THA BLUE HERB - ele-king

 さる8月24日恵比寿リキッドルームにて、The Birthday×THA BLUE HERBのライヴが開催された。リキッドルーム12周年を祝うスペシャルイベント、もちろんソールドアウトだ。
 この日は奇しくもTHA BLUE HERBの2015年12月30日リキッドルームでのワンマンの模様を収めたDVD『ラッパーの一分』のリリース日でもあった。偶然なのだが、リキッドルームでのTHA BLUE HERBのライヴは、この12月30日以来。年末足を運べなかった身としては、おのずとテンションが高まるというものだ。対バンはThe Birthday。90年代後半、ミッシェルとブルー・ハーブを並行して聴いていた身の上としては、この並びが既にミラクルである。
 この夜、先陣を切ったのはTHA BLUE HERB。
「2月から今も毎週ずっとライヴをやっているんだけど、例えば深夜のクラブと、この日(12月30日)のリキッドルームくらいの時間のライブハウスでは、攻め方も違うし、お客も違う。それ以外にフェスも入ってくるからね。それだってヒップホップのフィーリングがわかる人たちのフェスと、まったく違うフィーリングのフェスがある。真っ昼間と真夜中でも、室内と室外でも違う。それが毎週金土とか、常に待ったなしに来る。その都度MCもどんどん変化していくし、曲順もちょっと変えるだけで全然世界が変わる。だから一夜一夜がすごい大事な仕事だよね。12月30日のリキッドルームに関して言えば、チケットがソールドアウト、『IN THE NAME OF HIPHOP』リリース・ツアーのワンマン・ファイナル……いろんな条件が重ならないと商品にはならないし、そういう意味では、この夜のライヴは作品にするにはマッチしていた。ただライヴ自体に関しては今の方が良くなっている部分もあるよ」
 これは、『ラッパーの一分』のリリース・インタヴューのILL-BOSSTINOの言葉だ。ナマで12月30日のライヴを観ていない以上比べようもないし、もちろん比べる必要はないのだが、それでも8ヵ月ぶりのリキッドルームでのこのライヴは、ここでILL-BOSSTINOが言う意味を実感できる精度の高いものだった。
 70分のタイトな構成で(「ラッパーの一分」はフル尺ノーカットで2時間40分)、後半の「The Birthday」の名をMCの随所に織り込みながら、THA BLUE HERBならではの言葉をフロアに残していく。言うまでもなくTHA BLUE HERBは生半可なグループではないし百戦錬磨だ。フロアからも絶え間なく「ボス!」という熱い声が上がる(「そりゃそうでしょ」と思うだろうか? はっきり言ってどアウェイである)。そのフロアで印象的だったのは、絶対多数のThe Birthdayを観に来たであろうオーディエンス(皆The BirthdayのTシャツを着ているのだ)が身体を揺らしながら、リリックに聴き入っている様子だった。

自信がない奴ほど争う。 あらそう 横目で見ながら続けるマラソン“I PAY BACK”

 ILL-BOSSTINOはライヴ中のMCで「一言でも耳に残ればいい」というようなことを言っていたのだが、筆者に残ったのはHIMUKIのビートによる、このリリックだった。緊張感が張りつめたフロア、ILL-BOSSTINOの言葉に必要な沈黙が厳かに守られている。それを乱すものはフロアにはいない。音楽にルールなどない。だが、真のミュージック・ジャンキーにはミュージック・ジャンキーのマナーがある。さすがにTHA BLUE HERBとThe Birthdayクラスのライヴともなると、ジャンルやスタイルの違いなど意味を持たない。そんな当たり前のことを改めて思わされた。

                *****

 そして、The Birthday。黒づくめの4人組。首にバンダナを巻いたチバユウスケが、ノーブルなドーベルマンのような雰囲気でステージに入ってくる。クハラカズユキの超硬質なドラム、弦楽器と言うより打楽器のようなヒライハルキのベース。そして、前作『I’M JUST A DOG』から加入し、最新作『BLOOD AND LOVE CIRCUS』でいよいよ本領を発揮した感のあるフジイケンジのギターと、フロントマン・チバユウスケのボーカル&セミアコが渾然一体の轟音となってフロアを沸かせる。もっと言えば、沸かせるなんてものではない。オーディエンスそのものが、The Birthdayの鳴らす「音」のひとつの形のようだ。先ほどのフロアで守られていた沈黙が嘘のように、フロアの隅々まで身体を揺らすオーディエンスが雷の轟のようだった。

とんでもない歌が 鳴り響く予感がする
そんな朝が来て俺

冬の景色が それだけで何か好きでさ
クリスマスはさ どことなく 血の匂いがするから “くそったれの世界”

 Coool!!!
 ILL-BOSSTINOがMCまで含めフロアに数多の言葉を残したのに比べ、チバユウスケはほとんど何もしゃべらない。

 チバ「まだ雨降ってた?」
 客「降ってなーい」
 チバ「最近雨に祟られててさ。でも、雨降らなかったらお米も育たないからね」

 正確ではないかもしれない。だが、でも確かにこんな感じの「なんだそれ?(苦笑)」というMCがわずかに挟まれる程度。ミッシェルのほうが云々といった感傷を許さない(それは、もっともロックから離れたジジイの物言いだろう)美意識に貫かれた狂気、チバユウスケのリリシズム、そしてのたうつリズム……ライヴを構成するのは極めて純粋な音楽、クソドープなリアルロックンロール。最後まで一度もフロアの高揚は日和り揺らぐことなく、The Birthdayのライヴは幕を閉じた。
 もちろんどっちがどうではないが、リキッドルームの12周年アニヴァーサリー(誕生12年を祝うイベント)となれば、The Birthdayが立役者であるのは然るべきというものだろう。
 それにしても、アンコールでThe BirthdayをバックにILL-BOSSTINOがラップしている景色は最高だった。

Jake Bugg - ele-king

 EU離脱を決める国民投票で、英国の若者たちの約75%が残留に票を投じたことは世界中で報道された。貧しい北部の労働者階級が離脱に、豊かな南部のミドルクラスが残留に多く票を投じていたことも話題になった。
 つまり、こういうことだな。と世界の人々は考えた。
 下層のバカな中高年が、ありもしない「英国の栄光」みたいなものにすがって、右翼のプロパガンダに騙されて排外主義に走ってしまったのだ。だが、彼らの愚行の最大の被害者は若者たちである。バカな大人たちが若者たちの未来を奪ったのだ。と。

 しかし、英国ではその後、もう一つのファクトも明るみに出ている。
 全国における18歳から24歳の若者の投票率はわずか36%だった。「投票に行った若者たち」の約75%が残留に票を投じたのは事実だが、それは36%のうちの75%に過ぎない(つまり、若者全体の26%が残留派という計算になる)。

 18歳から24歳までの英国の若者たちの64%は、投票にさえ行かなかった。
 北部の貧しい地域では、若年層の投票率が特に低かったこともわかっている。

             ******

 わたしがジェイク・バグを初めて見たのは、2011年、BBC「News Night」のカルチャー・レビューで彼が歌ったときだった。最近アーカイヴを見ていてわかったのだが、それは識者たちが「ロンドン暴動とユース・カルチャー」についてディベートした回だった。
 評論家や学者の議論が終わった後で、まるでうちの近所にいるティーンの一人のような少年がギターを抱えて出てきて、妙に醒めた目つきで弾き語りを始めた。「公営住宅地のボブ・ディランだ」と思った。

 ロンドン暴動の特集なら、どうしてラッパーを出さなかったのだろう。とも思う。
 が、その疑問を解決するのが、昨年発表されて話題を呼んだカナダの大学教授の研究結果で、それによれば、いまやロック(インディー含む)やレゲエはソーシャル・エリートの聴く音楽になり果て、下層民の御用達ミュージックはラップやカントリーになっているという。
 なるほど。公営住宅地にディランが出てくるわけだ。

             ******

 今年6月リリースのジェイクの3枚目『On My One』は、すこぶる評判が悪かった。あまりにも鮮烈だったファースト、賛否両論だったセカンドの後で、満を持して発表したセルフ・プロデュースの3作目だ。期待は大きかった。が、はずれ感も大きかった。
 「がんばり過ぎた。ラップに挑戦したのはレコード会社の干渉があったからではないか」と『NME』は評し、「『On My One』は、若い青年が暗闇の中で必死で自分のアイデンティティを掴もうとしているような印象で、近年の音楽界で最も不可解な楽曲のセレクション」と『ピッチフォーク』は首をひねった。「愛すべき曲もあるが、いくつかの曲は聴いているほうが恥ずかしくなる」と、本物のワーキングクラス・ヒーローとジェイクを讃え続けてきた左派紙『ガーディアン』も手厳しい。
 各方面からこきおろされている“Ain’t No Rhyme”ではジェイクがラップをやってみた。“Bitter Salt”はボン・ジョヴィで、“Gimme the Love”はカサビアンじゃないかと言われた。“Never Wanna Dance”に至っては、マーヴィン・ゲイのしょぼい田舎のコミュニティセンター・ヴァージョンとまで茶化された。
 正直、わたしも一聴したときには感心しなかった。が、6月17日に発売されたこのアルバムの聴こえ方が、23日のEU離脱投票を経た1週間後にはまったく変わっていた。

             ******

 いまやミドルクラストンベリーと呼ばれるようになったグラストンベリー・フェスティヴァルで、ドラマ俳優夫婦の息子が率いるThe 1975というバンドが、「大人たちが俺たちから未来を奪った」と発言し、貧民街のガキにはとても手の届かない金額のチケットを買って集まった若者たちを沸かせた。
 彼らは英国の若者の代弁者だと新聞に書かれていた。
 わずか26%の声を代表する者がどうして代弁者と表現されうるのか、メディアの偏向はいつだってローカルな真実を黒く塗り潰す。

 むしろ投票に行かなかった者たちこそが英国の若者のマジョリティーであり、その声を代弁するアーティストこそが時代のサウンドを奏でられるのだ。本当はそれができる若きポップスターが何人もいるべきなのに、たった一人しかいないということが、階級が絶望的なほど固定化した現代の英国を象徴している。

 英語圏で暮らす人なら一日に何度も口にしているだろう言葉「On My Own」は、「自分で」「たった一人で」という意味だ。
 英国で最も失業率の高い地域の一つである北部の町、ノッティンガムの方言では、それが「On My One」になるという。

僕はただの貧しい少年
ノッティンガム出身の
夢は持っていた
だけどこの世界では 消えてしまった 消えてしまった
僕はたった一人で こんなにも孤独
“On My One”

 ブレグジット後の英国の若者の歌を一曲あげろと言われたら、わたしは迷うことなくこのアルバムのタイトル曲を選ぶ。


追記:余談になるが、モリッシーは長い沈黙のあとで、ブレグジットについてこう語った。「BBCが離脱票を投じた人々を執拗に侮辱したのは衝撃だった。彼らは離脱派をレイシストで酔っ払いで無責任だと責め、裁いて、有罪にした。その一方で、BBCが残留派の決断を問題視した報道は僕は見なかった」。彼ならこう言うだろうと思っていた。アーティストは風紀委員じゃないということを知っている人の言葉だ。

Kyle Hall & Jay Daniel - ele-king

 ともに90年代生まれのデトロイトの新世代アーティスト、カイル・ホールジェイ・ダニエルが来日する。神戸(9月23日)と東京(9月24日)をまわる今回のツアーは、ふたりがデトロイトで主催しているレギュラー・パーティー「FUNDAMENTALS」の名を冠しておこなわれる。

 カイル・ホールは昨年末に、LP3枚組のセカンド・アルバム『From Joy』を自身のレーベル〈Wild Oats〉よりリリース(今年の春には国内流通盤CDも発売)。また、ジェイ・ダニエルは近々待望のファースト・アルバムをリリースする予定とのこと。

 なお、ツアー用のイラストは、カイル・ホール『From Joy』やByron The Aquariusの12インチ「Gone Today Here Tomorrow」のアートワークを担当したMichio Jamesが手掛けている。

■ KYLE HALL (Wild Oats / from Detroit)

■ JAY DANIEL (Watusi High / Wild Oats / from Detroit)

DJ Shadow - ele-king

 DJシャドウが彼のデビュー作『Endtroducing.....』(1996年)を出した頃には「トリップ・ホップ」であるとか「アブストラクト・ヒップホップ」といった言葉がふわふわとその周りを取り巻いていた。あれから20年くらい経って今年、新作『The Mountein will Fall』(メルト・ユアセルフ・ダウンがやはり今年に出した『Last Evenings on Earth』とジャケットが妙に“同じ”)を出したシャドウの音は果たして何と呼ばれるのか、正味のところはよく判らない。その場限りでも(キーワードさえ憶えていられれば)誰に訊かなくても情報に辿り着けてしまう世のなかになり、「ジャンル」というのはもはや「好きな音楽は何ですか」「えっと、ロックとか」などといったやる気のない会話の取っ掛かりでしか無いのかもしれない。

 『Endtroducing.....』前後に〈Mo’ Wax〉で発表された彼の音を初めて耳にした時の、何というか鼻づまりが一気に抜けたときのような感覚はいまだに自分のなかにある。透明度の低いガラス戸を1枚隔てた向こう側で得体の知れない音が鳴っているのに気づいてしまった経験、とでも言ったらいいのか、ラジオのチューニングが合ったり合わなかったりするじれったさに似た磁力がそこにはあり、「ラップ……ねぇ、でも何言ってんのか判んないからまあいいか」程度の認識しかなかった自分の耳に「(これも)ヒップホップだけど」と届いたシャドウの音は「ヒップホップ=ラップ(ヤングな不良の与太話)」という自分の認識を解説抜きに打ち砕いてくれた。そういった経験を無くして20年の間、常にその名前が自分の意識に残り続けることは(とりわけ情報と作品の触りだけが濁流のように流れていく現在では)もう無理だろう、と思っている。

 デビュー作が必要以上に「マスターピース」だの「金字塔」だのという言葉を冠して流通してしまっている事態の不自由さは、シャドウのセカンド・アルバム『The Private Press』以降のアルバムよりも時折ふと届けられる(DJとしての)ミックス音源がの方が遥かに伸び伸びと音を鳴らしている辺りからも窺えたし、彼自身もそんなことをインタヴューで言及していたように思いますが今作『The Mountein will Fall』からは何故かふと、そこから逃れたかのような音が断続的に聞こえてくる。

 しかし(個人的な知り合いであればまだしも)聴き手にとっては作り手のそんな「オレとの闘い」は本来どうでもいいものであるし、そのときに聴いた音の何かに引っ掛かるかどうか、が全てではありますが、あらためて過去から現在までの音源を通して聴いてみれば、自分が毎回シャドウに引っ掛けられるのは「声」の使い方で、この人はいつも一体どっから持ってきたんだか(ナレーションなのかテレビドラマの台詞なんだかドラムの教則ヴィデオなんだか)由来不明な「非音楽的な声」をここぞというポイントで「音楽」に嵌め込んでしまうのですがそれが一番のフック、と言うことが判る。これは「歌(要はヴォーカル)が無い音楽は売れない」といった類いのわかったようなわからんような見識(まあ処世術、とでも言いますか)とは相当ずれた地点で組み上げられた音楽なのである。

 正直に白状すれば、往年のファンとしてはデビュー作で聴かせてくれたあの音の感触が嬉しい、と言うことでもあるのですが、ただそれはそんな「固定客」に向けたサービスでは全くなくて、今年このアルバムで初めてシャドウの音楽に触れる誰かのためにこんな感じでチューンナップしてみたけど、どう? ということなのだろうと思う。最初の頃から聴いていた人間にとっては「またコレか……(悪くないけど)」程度であるかも知れないものも、別の誰かにとっては「うわ何だコレ」になり得ることを知っている音楽家にとって「必要なのは、常に新しい聴き手(耳)」という正解に辿り着くための方法はひとつでは無いからだ。

 そして初めてDJシャドウを知った幸運な誰かがこの国の何処かにいるとすれば、ひとつ遡って2012年に出たベスト盤『Reconstructed』を聴いてみるのもいいかもしれない。このアルバムで初収録された『Listen Feat. Terry Reid』は映像も含めてちょっと物凄い。


BADBADNOTGOOD - ele-king

 トボけた顔して、最先端の音楽をやってのける、アノ4人組がまた日本にやってくる。しかも、今回はWWW Xでの単独公演だ。アノ4人組とは、もちろんバッドバッドノットグッドのこと。どこか憎みきれない、不思議なバンドである。
 8月にサマー・ソニック2016の出演のために来日したばかりの彼らであるが、単独来日公演は2014年以来の約2年ぶりだ。最新作『Ⅳ』は今のところ彼らの最高傑作であるし(これが更新される可能性は大いにある)、前回の単独公演ではまだ正式に参加していなかったリーランド・ウッティの存在は、今回の公演においての重要なポイントになるだろう。実際にサマー・ソニックのステージでは、彼のアグレッシヴなプレイが炸裂していたようで、これには期待せざるをえない。
 もっとも、バッドバッドノットグッドのメンバーでアグレッシヴなプレイをするのは、なにも彼だけではない。言ってしまえば、全員アグレッシヴそのものである。音源を聴くだけでも、彼らの勢いのあるプレイを感じることが出来るが、ライヴにおいては繊細さを犠牲にしてまでも、勢いに乗り続けるような演奏を繰り広げる。『Ⅲ』を出した頃には、まだその勢いが空回りしているような印象も否めなかったが、ここ最近のライヴ映像をチェックしてみると、荒々しさはそのままに勢いに乗り続けることを体得したことがよくわかる。おそらく、数多くのライヴをこなしてきたからだとか、リーランドの加入によってバランスが取れたからだとか、諸々の理由があるのだろうけど、そんなことはどうでもいいと思ってしまうほどの、勢いが感じられる。あえて言ってしまうならば、ライヴにおいての彼らはより「ロック」なのである。

バルセロナで開催されたソナー・フェスティバル2016でのBBNG。


 また、今回の来日公演の発表に合わせて、「スピーキング・ジェントリー」のミュージック・ビデオが公開された。この映像は、日本のクリエイティヴ・スタジオ「オッドジョブ」が制作しており、シンセ・サウンドとドラム、ベースのフレーズの絡み方がたまらなく気持ちいい楽曲に、爽やかサイケなアニメーションが手がけられている。

BADBADNOTGOOD - Speaking Gently (OFFICIAL VIDEO)


 今回の公演において気がかりなことは、彼らの演奏を爆音で聴けるのか、ということである。アレックス・ソウィンスキーのドラムと、チェスター・ハンセンのベースが生み出す走り気味のグルーヴを、全身で感じたいのだ。マット・タヴァレスのシンセと、リーランド・ウッティのサックスの音で頭をクラクラさせたいのだ。
 彼らの音を体感出来るのは、11月18日。まだ2ヶ月先ではあるが、爆音を期待しながら、時が来るのを待とう。(菅澤捷太郎)

Pan Sonic - ele-king

 パンソニックの「新作」がリリースされた。チェルノブイリ事故以降に初めて建設されたフィンランドの原子力発電所を巡るドキュメンタリー映画『リターン・オブ・ジ・アトム(Atomin Paluu)』のサウンドトラックである。監督はパンソニックのふたりとも交流のあるミカ・ターニラとユッシ・エロール。
 その内容からして現代文明社会への警告ともいえるドキュメンタリー映画だろうが、ここ日本でも(エンターテインメント映画であっても)『シン・ゴジラ』や『君の名は。』など、「3.11以降の表現」を模索した作品が相次いで公開されているので、ぜひとも公開を期待したいところである。

 パンソニックのオリジナル・アルバムとしても、2010年のラスト・アルバム『グラヴィトニ』から、じつに6年ぶりのリリースとなる(お馴染み〈ブラスト・ファースト〉から)。もっとも制作自体は2005年からスタートしていたらしく、工事中の原子力発電所でミカ・ヴァイニオとイルポ・ヴァイサネンがフィールド・レコーディングした音素材をベースにしつつ、昨年2015年にミカ・ヴァイニオが単独で最終編集作業をおこなったという。
 このタイムラグは諸般の事情で映画の制作と公開が遅れていたことも原因だったらしい。その結果として、ラスト・アルバム「以降」の新作であり、同時に、ラスト・アルバム「以前」から制作が始められていた未発表アルバムという、いささか複雑な成立過程の作品となったのだろう(ちなみに本サウンドトラックは2016年「フィンランド・アカデミー賞」の音楽部門受賞作品である。このようなエクスペリメンタルな作風の音楽が、国民的な映画賞において受賞をしたというのは素晴らしいことに思える)。

 だが、私としては、本作を彼らの「2016年新作」と称しても、まったく差し支えないと思っている。音響の質感が『グラヴィトニ』以前の脳内に直接アジャストするようなバキバキとしたサウンドから、「霞んだ音色のダークな質感」へと変化を遂げていたからだ。これは1曲め“パート1”のイントロの音響的質感からして明白である。
 むろん、その「変化」は、映画のテーマ性を反映してのことかもしれないし、工事中の原子力発電所で録音した音素材の質感ゆえの変化かもしれない。また、ミカのソロ作品『キロ』(2013年)のダークなサウンドに近い印象でもあり、ミカ・ヴァイニオ単独作業の影響かもしれない。だが、2曲め“パート2”や3曲め“パート3”など、あのヘビー&メタリックなビートも炸裂するのだから、まぎれもなく「パンソニックの音」なのだ。
 となれば、5曲め“パート5”以降のアルバム中盤で展開される霞んだ質感のドローンと不穏な環境音の交錯などは、2010年代以降のインダストリアル/テクノなどの「先端音楽」へのパンソニックからの応答といえなくもない。同時に4曲め“パート4”の冒頭など、どこか武満徹の「秋庭歌一具」を思わせるタイムレスな響きの持続も生成されてもいた(たしかミカは武満ファンでもあったはず)。
 聴覚にアディクションする強烈なノイズから空気を震わすような淡く不穏な音響へ。そう、本作においてパンソニックは音響と空間のあいだに、これまでにない「空気」を生成している。そして、その空気は、工事中の原子力発電所から採取された音素材がベースになっている。となれば、本作特有の「不穏さ」は、やはり原子力発電という制御不能な「力」への畏怖なのではないか?

 「力への畏怖としての電子音楽」。このダークなサウンドは、「われわれ」への警告なのかもしれない。3曲め“パート3”冒頭に鳴り響く、あの暗い雷鳴のように……。さまざまな領域から「資本主義の終わり」を感じつつある現在だからこそ、深く聴くべき問題作といえよう。

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