「K A R Y Y N」と一致するもの

Gary Bartz & Maisha - ele-king

 長くジャズを聴いてきた者としては、いま現在の注目の若手アーティストを聴くことからはもちろん新たな興奮を得られるのだが、一方でかつて素晴らしい作品を残してきたベテラン・アーティストの新作が出れば、やはりチェックせずにはいられない。そして、そんな新旧アーティストが共演したとなれば黙ってはいられないものだ。こうした新旧アーティストの共演は、たとえばロザンゼルスなどで結構盛んに行なわれており、ハーヴィー・メイソンのバンドにカマシ・ワシントンマーク・ド・クライヴ・ロウが参加したことがあったし、昨年のフィリップ・ベイリーの『ラヴ・ウィル・ファインド・ア・ウェイ』もそうした新旧の力が組み合わさって作られたアルバムだ。最近ではエイドリアン・ヤングとアリ・シャヒード・ムハマドの『ジャズ・イズ・デッド 001』で、ロイ・エアーズ、ダグ・カーン、アジムス、マルコス・ヴァーリらレジェンド級ミュージシャンとのコラボも実現した。

 その『ジャズ・イズ・デッド 001』に参加したひとりのゲイリー・バーツは、以前にもザ・ロンゲッツ・ファウンデーションの『キッス・キッス・ダブル・ジャブ』(2015年)に参加するなど、若手ミュージシャンとのセッションに積極的なアーティストのひとりである。1960年代にアート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズでプロ・デビューし、マイルス・デイヴィスのグループへ参加したほか、マックス・ローチ、スタンリー・カウエル、マッコイ・タイナー、アリス・コルトレーンらと共演してきたゲイリー・バーツは、ポスト・コルトレーン的なスピリチュアル・ジャズから、マイゼル・ブラザーズをプロデューサーに迎えたジャズ・ファンク、さらにはルーカス=エムトゥーメイによるブギー~フュージョン路線と、長きに渡って活躍してきたサックス奏者だ。レア・グルーヴやクラブ・ジャズ世代からも人気が高く、ザ・ロンゲッツ・ファウンデーションやエイドリアン・ヤングもそんなところからラヴ・コールし、共演へと繋がったのだろう。

 そして、今回はロンドンのジェイク・ロング率いるマイシャがラヴ・コールを送って共演が実現した。マイシャはアフリカ色の強いスピリチュアル・ジャズを指向していて、ちょうどバーツの〈マイルストーン〉や〈プレスティッジ〉時代のサウンドやコンセプトと共通項がある。バーツは1970年にウントゥー・トゥループというグループを率いて、『タイファ』と『ウフル』という連作からなる『ハーレム・ブッシュ・ミュージック』を発表している。マルコムXとコルトレーンに捧げられたアフロ・フューチャリズムに富む『ハーレム・ブッシュ・ミュージック』は、現在のブラック・ライヴズ・マター運動にも繋がる作品なのだが、その中の “ウフル・ササ” を取り上げている。原曲はアンディ・ベイが歌うジャズ・ファンク調のナンバーだが、今回はヴォーカルが入らないぶんバーツ本人のサックス・ソロがより引き立てられるものとなっている。もう1曲バーツのナンバーをやっていて、“ドクター・フォローズ・ダンス” は『フォロー・ザ・メディシン・マン』(1973年)の収録曲。こちらもジャズ・ファンクだが、アフロ・リズムにブロークンビーツのエッセンスを加えたジェイク・ロングのドラムと楽曲が見事に合致している。そのほかの “ハーレム・トゥ・ハーレム” や “ザ・スタンク” は今回のセッションのための新曲だが、どちらも『ハーレム・ブッシュ・ミュージック』あたりに入っていても違和感のない楽曲で、マイシャがバーツの音楽をいかに研究し、理解してきたかがわかる。“レッツ・ダンス” はマイシャのカラーが強いアフロ・ジャズで、ダンサブルなリズムと牧歌性に満ちたバーツのサックスが素晴らしいコンビネーションを見せる。

 ゲイリー・バーツと同時期にデビューして活躍してきたアーチー・シェップも、コルトレーンとの共演を経て開花していったサックス奏者である。ドン・チェリーやセシル・テイラーなどとのフリー・ジャズから、ゴスペルやソウルなどを取り入れたジャズ・ファンク~スピリチュアル・ジャズなど幅広く演奏し、1980年代以降はバラード奏者としても高い評価を得ている。ジャズ・ファンク期の作品はバーツ同様にクラブ・ジャズ・ファンから人気が高く、『アッティカ・ブルース』(1972年)はじめカヴァーやサンプリング・ソースとしても愛されてきた。そんなアーチー・シェップが、ワシントンDCのヒップホップ・プロデューサーであるダム・ザ・ファッジマンクの新作にフィーチャーされている。ロウ・ポエティックとK・マードックとのデュオであるパナセアをトラックメイカーとして支え、MCインサイトとのユニットのY・ソサエティでの活動やMFドゥームやブルーなどとのコラボにより、ジャジーでソウルフルなトラック作りに定評のあったダム・ザ・ファッジマンク。今回のアルバムは彼にとって初めてのジャズ・プロジェクトとのことで、自身でドラムスやヴィブラフォンを演奏し、ミュージシャンと組んだバンド形態のプロジェクトとなっている。エイドリアン・ヤングとのコラボでア・トライブ・コールド・クエストが完全にミュージシャンとして組んでいるのと同じことだろう。そしてアーチー・シェップはサックスのほかにピアノ演奏でも参加し、ロウ・ポエティックがシンガー/ラッパーとして加わっている。

 基本的にジャズの即興演奏にヒップホップのエッセンスやラップ・パフォーマンスを交えたもので、“ラーニング・トゥ・ブレス” や “チューリップ” のようにクールでソリッドな楽曲が収められている。1970年前後のエッジの立ったシェップの諸作に通じる匂いを感じさせるもので、ジャズとヒップホップが底辺で繋がっていることを改めて感じさせる。そしてバーツとマイシャの場合もそうだが、このコラボもダム・ザ・ファッジマンクからのシェップに対するリスペクトの念が滲み出たものとなっている。

KOTA The Friend - ele-king

 NY・ブルックリンを拠点に活動し、自主リリースでありながら、2018年リリースの 1st アルバム『Anything.』や昨年リリースの 2nd アルバム『FOTO』が一部のヒップホップ・リスナーの間で話題となった、現在27歳のラッパー、KOTA The Friend。自らプロデュースも行ない、メローでレイドバックしたビートに、自らの家族や日常生活に根ざしたテーマで、万人に届くピースフルなメッセージを込めたラップを乗せるという彼のスタイルは、いま現在のメインストリームなヒップホップ・シーンのトレンドとも異なる。しかし、あくまでもストリートに根付いた上でのオーガニックな彼の楽曲は、殺伐としたいまの時代だからこそ求められているのも事実で、特にコロナ禍かつ BLM (Black Lives Matter)ムーヴメントが世界中に広がっている最中の5月下旬に、今回のアルバム『EVERYTHING』がリリースされたことは大きな意味を持ち、人びとの心に寄り添うような視線で語られる彼のポジティヴなメッセージや音楽性に救われる人もきっと多いに違いない。

 彼の音楽的な特徴は、ギターやシンセサイザー、ホーンなどを多用した生っぽい感覚のあるサンプリング・トラックと、そのサウンドに対して実にマッチしている心地良いフロウとのコンビネーションにある。ある意味、曲によってはローファイ・ヒップホップなどにも通じる部分もあった彼のいままでの楽曲に対して、今回の『EVERYTHING』はビートの面で明らかな変化が生じているのだが、それはドラムの部分だ。ハイハットやキックを連打するパターンであったり、リズムマシン的なドラムの音質は、まさにトラップそのもの。実際、このビート感はすでに 1st アルバムでも一部で導入されており、2nd でさらに強化されていたのだが、本作ではアルバム一枚を通して、ほとんどの曲でこのスタイルが貫かれており、さらに言えば彼自身のラップもトラップ色が非常に濃くなっている。軸にあるメローな部分は変わらないまま、トラップの要素が足された彼のサウンドは、素直に格好良いし、個人的にはめちゃくちゃ好みだ。このスタイルが彼の専売特許ということではないと思うが、完璧とも言えるバランス感によって、強固なオリジナリティが貫かれている。

 同郷ブルックリンの Joey Bada$$ とクイーンズ出身の Bas がゲスト参加した “B.Q.E” は、そんな本作の魅力が詰まった一曲であり、彼らの地元を通るフリーウェイを掲げたタイトルの通り、実にスタイリッシュなニューヨーク・アンセム(=賛歌)になっている。また、前作での “Hollywood”、“Sedona” のように、これまでも国内外の様々な地名をタイトルに付けた曲を発表してきた KOTA The Friend だが、今回は “Long Beach” と “Morocco” という2曲を披露しており、数少ない非トラップ・ビートの “Long Beach” は歌のパートも心地良く、非常に開放感ある一曲で、一方の “Morocco” は透明感ある美しいトラックに乗った tobi lou とのコンビネーションがタイトに響く。他にもアルバム冒頭の “Summerhouse” から “Mi Casa” への気持ち良すぎる流れであったり、Joey Bada$$ と並ぶ大物ゲストの KYLE がゲスト参加した “Always” など聞きどころは多数あり、俳優の Lupita Nyong’o と Lakeith Standfield がそれぞれメッセージを寄せるインタールードなども含めて、アルバムの構成という面でも隙はない。ラスト・チューンの “Everything” では彼の息子=Lil Kota も参加しており、ふたりの掛け合いによるラストの部分から得られる幸福感は何ものにも代え難い。こんな気持ちで聞き終えるヒップホップ・アルバムは本当に希であろうし、この作品に出会えたことを幸せに思う。

RILLA - ele-king

 リラ? 誰よそれ? リラとは関西に生息しているオモロイ男(DJ)です。長年、DJブースと動物園を往復していた彼がついにデビュー作「First Drop / Just A Second」を発表しました。ライヒとシャックルトンをミックスしたようなアプローチで、じつにピースな、アンビエント・タッチのミニマル・ダンス・ミュージックです。2つのリミックス・ヴァージョン(ジャングル・ミックス、ダンスホール・ミックス)もじつにクール。ちなみにレーベルを主宰するToreiは期待の若手DJでもあります。
 以下、編集部に送られてきたメールのコピペです。(アー写変えて欲しい)
  ↓

 東京を拠点に活動するDJ/プロデューサーToreiが主宰するレーベル〈Set Fire To Me〉の第2弾は、KEIHINと共にパーティーALMADELLAを主催してきたDJのRILLAが登場。
 長年のキャリアで培われたセンスと初期衝動を融合した“First Drop”、架空の民族の儀式とサウンドシステムの邂逅を表現した“Just A Second”に加え、ObjektやYaejiなど気鋭アーティストらよりサポートを受ける、英レーベル〈Scuffed〉からのリリースも好評なStones Taroによるジャングル・リミックス、新宿のレコードストアReggae Shop NATのレーベル・ラインより発表したDJミックス「Strange Addiction」も話題の、本レーベル主宰のToreiによるサイケデリックなダンスホール・リミックスを収録。
 ジャケットはレーベル第1弾に引き続き、東京拠点のアーティストDavid Yutoが手掛けている。

RILLA -『SFTM002』

1. First Drop
2. First Drop (Stones Taro's Jungle Remix)
3. Just A Second
4. Just A Second (Torei's Psy-Hall Remix)
Bandcamp
Soundcloud

RILLA(プロフィール)

嗚呼、人情とベースライン。福岡より上京した、あの屈強な霊長類(学名:ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ)を思わせる特徴的な風貌を持ったその男とダンス・ミュージックを出会わせたのは専門学校時代の友人という縁、DJをはじめたのも友人の「お前レコ ード持ってるならやってみろよ」という言葉、そして現在のDJの基礎、いわゆる“やられた音”としてその後のその男の趣向を決めたのは、そのDJ練習の音に嫌気 がさした、隣人の保母が差し出してくれたDJ KENSEI氏のミックステープであった。ここでも縁、いやそれは言い換えれば人情でもある。そこでヒップホップに衝撃を受け、そしてブレイクビーツ、エレクトロニカへと開眼していく。2002年、名門CISCOテクノ店への入店とともにバイヤーとして働くうちに、ジャングル、テクノ、ダブステップと、そのサウンドの趣味を広げた。いつしかその名前がRILLA と定着しはじめた頃、東高円寺の名店GRASSROOTSに出入りするうちにさらに耳が深く、広がることでいまのDJスタイルへと日々進化していく。それもこれも人との出会い人情であった。ヒップホップもレゲエもダブステップもテクノもハウスも、その男がかける音は基本的にベースラインのグルーヴがある(聴こえずとも)、そしてどこか遠くが温かい(聴こえずとも)。5年間務めたGRASSROOTSでのレギュ ラー・パーティ「GUERILLA」~「LOCUS」、KEIHINとのテクノとダブステップ、そして未知の体験を提 供する不定期開催の"ALMADELLA"を経て現在京都在住。今宵もどこかで、人情とベースラインでスピーカーと身体を揺らしている。嗚呼。(※家庭の都合でDJを休止していたが、現在復帰に向け準備中)
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interview with Baauer - ele-king

 いま、地球が怒っている。46億年の歴史上、いちばん怒っている。

 Baauer のニュー・アルバム『PLANET’S MAD』はもともと、素晴らしい生命体が住む汚れなき星(この星とは大ちがいだ!)についてのストーリーを語るためのコンセプト・アルバムだったという。けれども、リアル・ワールドはフィクションよりも奇なり。人類を未曽有のパンデミックが襲った結果、Baauer の激しく跳ね回るビートとうねるベース、自由に飛び回るヴォーカル・サンプルは、気候変動と疫病に見舞われたこの星がぶちぎれていることを表現しているようにしか思えない。

 2013年に一大ミームとなった “Harlem Shake” の生みの親である Baauer は、ファースト・アルバム『Aa』(2016年)でプッシャ・Tやフューチャー、M.I.A.、G-DRAGON といったヴォーカリストとともに、ど派手なトラップ・エレクトロとベース・ミュージックを交配したパーティーを表現していた。引き続き〈LuckyMe〉からのリリースとなるこの『PLANET’S MAD』では、インストゥルメンタルに集中した上で、ひずんだ電子音とトライバルなパーカッションが前作以上にアッパーに舞い踊る。狂ったようにテンションを上げていくこのダンス・アルバムは、ダンス・ミュージックの現場から遠ざけられているひとびとのわだかまりを、多少は打ち砕いてくれるはずだ。

 一方、ここで Baauer はアゲるだけではなく、これまでになくシリアスな、内省的な表現もしている。それは『PLANET’S MAD』の10曲め、“REMINA” 以降の後半部分を聞いてもらえればわかるだろう。『PLANET’S MAD』のメランコリックなパートは、故郷である母なる地球について私たちが思いを巡らせるための時間であるのかもしれない。

『PLANET’S MAD』について、ハリー・バウアー・ロドリゲスが語る。


Listen Out Festival

直接顔を合わせられないからこそ、かえって人とのつながりを大切にできるようになったというかね。コミュニティが逆に活発になってきていて、すごくいい変化が生まれてるなと思ってるよ。

NYCの状況は、ここ東京よりもずっと厳しいと思います。いま、どんな状況ですか?

ハリー・ロドリゲス(Harry Rodrigues、以下HR):実際には何も変わっていないんだけど、ニュースが騒ぎ立てている感じだね。外を歩いたりしても、意外といつも通りの景色が広がっているんだよね。でもニュース番組が怖がらせてくるから、家にいるようにしている。部屋にこもって、オンラインで自分の音楽をうまく配信していこうと画策してるね。それはそれですごく楽しいよ。この状況をうまく乗り越えていくためにも、いい方法を見つけたなと思う。

Twitch(ゲームの実況プレイをライヴ配信するプラットフォームで、音楽ライヴも増えている)での配信やゲーム「Animal Crossing (どうぶつの森)」を楽しんでいますよね。拝見しています。そんな状況でいま、どのように音楽に向き合っていますか?

HR:最初の頃はこの状況にうまく適応できなくて、どうすればいいかよく分からなかったんだよ。でも Twitch をはじめてから変わってきた。オンラインでいつも聴いてくれるファンも増えてきて、曲作りの新しい方法を見つけたって感じだね。オンラインでも人とつながることはできるし、Twitch をはじめたのは本当によかった。ただ俺の音楽はライヴありきだから、その点は厳しいよね。全部キャンセルになってしまったし、ライヴがない音楽生活っていうのはすごく違和感がある。他のアーティストも同じだと思うんだけどね。まあいまは、音楽を作る方を楽しんでる。それはそれで、いい変化でもあるしね。

なるほど。いきなりシリアスな質問で恐縮ですが、新型コロナウイルスが人びとの生活を脅かし、クラブの営業も不可能な現在の状況で、エレクトロニック・ダンス・ミュージックが持ちうる意味やパワーとはどんなものだと考えますか?

HR:そうだね。直接的には人が集まれない状況になったからこそ、俺たちが音楽を通して、オンラインでポジティヴな流れを作るいい機会になっていると思う。コミュニティを作るちょうどいい機会だし、直接顔を合わせられないからこそ、かえって人とのつながりを大切にできるようになったというかね。同じ畑のアーティストとかフェスティバルも、オンラインでどんどん配信してるしね。コミュニティが逆に活発になってきていて、すごくいい変化が生まれてるなと思ってるよ。

たしかに、ダンス・ミュージックはコミュニティのためのものですよね。あなたは Baauer として、数多くのヴォーカリストたちとコラボレーションをしています。コラボレーションしたいと思うポイントはなんでしょうか?

HR:いつも、気になったアーティストには俺から声をかける。ポイントというよりは、純粋にかっこいいことやってるなと思ったアーティストとか、前からファンだったアーティストとかに連絡してみるんだ。それでまぁ、返答が返ってくるのと返ってこないのと半々って感じかな。承諾してもらったとしても、その相手が別のプロジェクトに取り掛かっちゃって、うやむやになることとかも往々にしてあるし。だから、もともと俺から連絡をしてみてるアーティストは本当にたくさんいるんだよ。でも不思議と、タイミングが合って最終的にコラボレーションすることになったアーティストとは、何もかもがうまくいくことが多い。すごく満足のいく曲ができるんだよね。

そのコラボレーションも、越境的だと思います。たとえば、幼い頃からドイツやイギリスなど、さまざまな土地で暮らしてきたことは、あなたの音楽に対する考え方に関係していますか?

HR:特に、7歳から14歳まで住んでたイギリスはそうだね。当時は音楽を聴くといったらラジオだったんだけど、間違いなく、あの時代が俺の音楽の嗜好を決めたね。UKガレージにはまってて、クレイグ・デイヴィッドが好きだった。もともとはUKポップから入って、そこからUKガレージが好きになったんだ。


Nick Melons

アルバムを通してフィクションのストーリーを伝えるのって、すごく楽しいんだってことに気づいてね。ただ自分の新曲を集めるタイプのアルバムよりも、ひとつの作品をつくり上げている感覚で楽しかった。

クレイグ・デイヴィッドがUKガラージをポップに広げたのは事実だと思います。コラボレーションに話を戻すと、あなたと日本のミュージシャンたちとのコラボレーションは、注目すべきことだと思っているんです。前作『Aa』の “Pinku” に参加した PETZ、“Night Out” に参加した YENTOWN クルー、“Open It Up”をプロデュースした Awich。彼らとのコラボレーションはいかがでしたか?

HR:みんな本当にかっこいいよね。スタイルが独特で、他の国とは一線を画してる。最初のきっかけは PETZ で、そこからつながっていった。東京にすごく仲がいい友だちがいるんだ。すごくいい奴で、東京に行くときには彼が色んなクールな場所を案内してくれるんだけど、一度東京に遊びに行ったときに彼が連れて行ってくれたのが、当時 PETZ が働いてた店だった。そこで PETZ のみんなと話して、SNSでつながって、やり取りしたりしてた。それで YENTOWN のことを知ったんだよね。まずは PETZ とコラボして、そのあと YENTOWN、そして、YENTOWN のクルーから Awich のことを聞いて、Awich の曲をプロデュースすることになった。ここ数年間彼らのコミュニティのアーティストたちと仕事をしたことになるけど、どれもすごくいいコラボレーションになって良かったよ。

いい関係性ですね。あなたの新しいレコードについて聞きたいと思います。本当に素晴らしいアルバムでした。いつから制作をはじめ、どのようなコンセプトでつくったのでしょうか? また、前作と比較して、まず気づいたのはヴォーカリストがフィーチャーされていないことでした。これはどうして?

HR:制作をはじめたのは1年半前。そろそろ次のアルバムを出すころだなと思ってね。それで〈LuckyMe〉のドム(Dominic Sum Flannigan)と話して、フィーチャリングなしのインスト・アルバムにするのがいいんじゃないかってことになった。前回は色んなアーティストとコラボしたアルバムだったから、今回は全部自分だけの曲にしてみるのがちょうどいいだろうってことで。それを前提にして、コンセプト・アルバムにするのが面白そうだっていう話になった。それで、自分の中でSF的なストーリーを作ってドムに説明したら、最初は「頭おかしいんじゃない?」って言われたんだよ(笑)。でもストーリーに沿った曲をどんどん作っていくうちに、アルバムを通してフィクションのストーリーを伝えるのって、すごく楽しいんだってことに気づいてね。ただ自分の新曲を集めるタイプのアルバムよりも、ひとつの作品を作り上げている感覚で楽しかった。他のアーティストとコラボレーションするのも、もちろん楽しいんだけどね。違う面白さがある。

なるほど。そのかわり、あなたの音楽における重要なエレメントであるヴォーカルのサンプルが様々なかたちで使われています。どうしてヴォーカル・サンプルを使うのでしょう?

HR:サンプルは断トツで何よりも、いちばん大事な要素だね。さっきも話したイギリス時代、UKガレージを聴いていたときから、色んなアーティストのヴォーカルサンプルの使い方が気になっていたんだ。別の曲からサンプルを取って、自分の曲に落とし込むって面白いなと思って。それがずっと自分の中に残ってるね。だから、自分で音楽を作りはじめてからもずっと、別の場所からサンプルを取ってきて、自分の音楽に変えるっていう作業がいちばん好きなんだ。人が作ったものからさらに新しいものを作る。音楽作りでいちばん楽しいと思う工程だね。

プレスリリースではファットボーイ・スリム、ケミカル・ブラザーズ、ベースメント・ジャックス、ダフト・パンクなど、90年代のダンス・ミュージックが引き合いに出されています。たしかにそれも感じますが、曲ごとにアプローチはさまざまです。新作では音楽的にどんなところをめざしましたか?


HR:ちょうどこの前、Twitch の配信でこの話をしていたな。曲を作るときに気にしているのが、色々なスタイルの音楽を作るっていうことなんだよね。テンポとかサウンドに幅を持たせたい。その上で、どれも俺らしいものにするっていう。全然違うスタイルの曲なのに、聴くだけで「Baauer だな」って分かるものにしたいんだ。それが俺の音楽的な目標なんだよね。色んなジャンルの音楽が好きだから、自分が作る音楽に関しても、テンポやスタイルを固定してしまいたくない。色んなアプローチをしながら、Baauerらしい音楽を作っていきたいんだ。


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「惑星が危険な目に遭っている」っていうコンセプトで他の曲の制作を進めていった。そしたら、このパンデミックが起こった。「地球が怒ってる(PLANET'S MAD)!」って思ったよ(笑)。

1曲めの “PLANCK” のアウトロでは、日本語が聞こえてきました。これは気温と電力についてのニュース音声ですよね。気候変動はこのアルバムと関係していますか?

HR:その名も「PLANET'S MAD」だからね(笑)。ただ実は、最初は冗談で仮に付けたタイトルだったんだけど。でも制作を進めていくうちに、俺とドムの中でこのタイトルがしっくりくるようになった。ストーリーとしては、汚れのない惑星がどこかにあって、そこには素晴らしい生命体が住んでて……っていうものなんだ。あんまり説明しすぎると面白くなくなってしまうんだけど、自分が住んでいる惑星に対して、自分の生活がどんな影響を及ぼしているのかを考えたり、新しい綺麗な惑星で、その環境を大切にしながら生きていくことを想像することって、地球への考え方を変えることにもつながると思ってるから。

繰り返しになりますが、「HOT 44」や「PLANET’S MAD」といったフレーズは、気候変動に代表されるこの星の危機を指しているのではないかと思うんです。2曲めの “PLANET’S MAD” で表現していることを教えてください。アートワークやヴィデオが表現している宇宙のイメージは、それと関係していますか?

HR:最初に作った曲が “PLANET'S MAD” で、そこからタイトルを取ったんだ。1年半前にアルバムを作りはじめたときにはさっき言ったストーリーがすでに頭の中にあったから、惑星とエイリアンのストーリーにするっていうのは最初から決めてた。だから “PLANET'S MAD” はすぐに出来上がって、そこをスタート地点にして、「惑星が危険な目に遭っている」っていうコンセプトで他の曲を進めていった。もともとのアイディアとしては、架空の惑星だけが舞台だったんだ。そこから、暗に地球についての話をしているようなコンセプトに変わっていった。だからMVでは地球が軸になっているし。そしたら、このパンデミックが起こった。「地球が怒ってる(PLANET'S MAD)!」って思ったよ(笑)。だから、リリースを延期にする話も出たんだ。ドムに、「不謹慎な気がするから延期にした方がいいかな?」って相談した。でも彼は「今だからこそ出そう」って。こんなタイミングになるとは思っていなかったから、驚きだよね。

アルバムの後半、“REMINA” から “HOME” へ、という2曲の流れが素晴らしかったです。このメランコリックでチルアウトした2曲は、どのようにしてつくられたのでしょう?

HR:その2曲は最後の方で作った曲で、当初はちょっとアルバムに合わないかなと思って、外そうとしてたんだ。でも流れがよかったって言ってもらえて嬉しいな。最終的に収録することにしたのは、この2曲の流れがそれまでの緊張感とかとげとげしい雰囲気を中和してくれると思ってのことだったから。ここで一旦リラックスできる、静かな曲を入れるのがちょうどいいと思って。結果的に、全体のバランスを取り持つ2曲になったね。

エンディングである “GROUP” には、“REMINA” “HOME”のメランコリーと、Baauer らしいヘヴィなビートが同居しているかのように感じました。この曲についても教えてください。

HR:この曲をクロージングにするのは、最後の方で決めたことだったんだよね。いま言ってくれたみたいに、ハードなビートとメランコリーが同居していて、作ったときからずっとお気に入りの曲だった。最後の曲にすることにしたのは、制作を進めていくうちに、この曲にアルバム全体のストーリーのエンディング感を感じるようになったから。ストーリーの中では、最終的には惑星はどこかに行ってしまうんだ。新しい惑星が出現したとき、最初はみんな怖がっているけどだんだん正体がわかって、その惑星のことを好きになっていくんだけど、結局はどこかに消えていってしまってみんな悲しむ。その消えていく惑星の様子をいちばん表現しているのが “GROUP” なんだよね。

ストーリーとの兼ね合い、ということで腑に落ちました。ところで、“HOME” で歌っているのは、英国のシンガーソングライターである Bipolar Sunshine さんですね。ヴォーカリストがほとんどフィーチャーされていないこのアルバムに彼が参加した理由や経緯を教えてください。

HR:“HOME” が持っているような雰囲気の曲をアルバムに入れたいっていうのはずっと頭にあったけど、最初は全部インストにするつもりだった。でもとりあえず Bipolar Sunshine のヴォーカルでレコーディングしてみたら、ものすごく良い曲になった。アルバムに入れざるを得ないぐらいにね。そこに言葉にできる理由はなくて、1曲だけヴォーカル曲を入れるっていうのがベストだと思った。それに、彼の声は素晴らしいから。唯一のヴォーカル曲を彼にお願いできてよかった。

感動的な曲だと思います。“HOME” で歌われる「home」や「mama」といった言葉は、なにを表しているのでしょうか?

HR:歌詞を書いたのは Bipolar Sunshine なんだよ。このアルバムのストーリーも伝えていない状況で、彼の信条とか経験をもとにしたこの歌詞を書いて、それが見事アルバムにぴったりな曲になったっていう。すごいよね。「home」や「mama」は故郷としての地球や母なる地球って意味にも取れるし、幸せを感じさせながら、俺たちの「home」である地球について顧みさせられるというか。もともとは Bipolar の中での「home」や「mama」だったものが、俺たちにも通じる意味を包含してるんだ。


Jake Michaels

新しい惑星が出現したとき、最初はみんな怖がっているけどだんだん正体がわかって、その惑星のことを好きになっていくんだけど、結局はどこかに消えていってしまってみんな悲しむ。

“HOME” にはハドソン・モホークが参加しています。モホークとあなたは〈LuckyMe〉の同僚であり、トラップとEDMをけん引してきたふたりだと思います。あなたから見て、ハドソン・モホークはどんな音楽家でしょうか?

HR:彼のことはもう本当に、いちばん尊敬してる。特にインスピレーションを受けているアーティストのうちのひとりで、それこそ音楽をやる前から尊敬しているアーティストだね。人間的にも。だから今回手伝ってくれることになって、こんなに嬉しいことはないなって。幸せだよ。

大半の曲に参加している Holly という方は、どんな音楽家ですか?

HR:彼はポルトガル出身のプロデューサーなんだけど、曲の作り方が独特ですごく勉強になるんだよね。もともと名前だけは知っていて。最初は1曲だけお願いするつもりで依頼をしたんだけど、出来上がったものに度肝を抜かれて(笑)、本当にすごくてね。それで2曲目をお願いして、それもやばいぐらい最高で、3曲目、4曲目……ってお願いして。自分が作った曲を新しい次元に連れて行ってくれる人に出会えたって感じだね。

他にクレジットで気になったのは、“MAGIC” のチド・リムです。彼はドラムで参加したのでしょうか?

HR:どうだったかな……。コードだけ依頼したんだったと思う。そうだ、それで、あんなに素晴らしいドラマーなのに、本当にコードだけ書いて送ってくれて贅沢なことをしたなと思ったんだ(笑)。彼も〈LuckyMe〉に所属しているからそもそも知り合いだったんだけど、個人的に結構仲が良くてね。プライベートでも会うミュージシャンの中でも、特に面白い人で。初対面はロンドンだったな。彼の出身地のオーストリアでも遊んだりして、年々仲良くなっていってるね。でも仕事で一緒になったのは今回が初めてだったから、新鮮で楽しかったな。

ところで、〈Lucky Me〉の Twitter アカウントが「PLANET’S MAD (A. G. mix)」とつぶやいています(https://twitter.com/LuckyMe/status/1257326129280684032)。これは、あの〈PC Music〉の A・G・クックがリミックスをするということ?

HR:そうだよ(笑)。まじでやばいやつが出来たから。本当にすごい。いつリリースするかはまだ決まってないけど、遠くはない。実はもう、彼が Sky Festival(『Porter Robinson’s SECRET SKY MUSIC FESTIVAL』、5月9日(土)(現地時間)配信)に出演したときにプレイしたんだけどね。

それは聞き逃してしまいました……。リリースを心待ちにしています。今日は本当にありがとうございました。早くあなたの音楽をクラブやフェスで、低音が効いた大音量で聞きたいものです。

HR:日本にも本当に本当に行きたい。ライヴはもう、待ちきれないよね。

「戸川純の人生相談 令和弐年」がますます面白くなっています! 深夜に営業している歯医者情報から戸川純の本名である「戸川順」がどのような経緯でつけられたかなど、初めて聞く話がまだまだ出てきます! 何を隠そう『疾風怒濤ときどき晴れ』のインタヴューは、かなりの部分が脱線でした! ありがち! その話ともまったくかぶっていない。どこにどれだけエピソードが詰まってるんでしょうか。そして、毎回、エンディングで歌われる曲も素晴らしく、個人的には「夏は来ぬ」のバックトラックにもやられてしまいました。これ、レコーディングしないのかな~。


戸川純の人生相談 令和弐年 第五回

戸川純の人生相談 令和弐年 第四回

戸川純の人生相談 令和弐年 第三回

戸川純の人生相談 令和弐年 第二回

A Certain Ratio - ele-king

 今年の1月、まだ世界がコロナを知らなかった時代の最後の月、ア・サートゥン・レシオの来日ライヴに行ってきました。マンチェスターの〈ファクトリー〉の看板バンドのひとつで、“ジョイ・ディヴィジョンがジョイムズ・ブラウンをカヴァーしたかのような”という評価の通りの、強力なリズムを擁したファンク・バンド(当時としては極めて珍しい黒人ドラマーだった)でありながら、しかし音楽が発する空気は〈ファクトリー〉系のそれなのでした。お若い世代は『To Each... 』(81)もしくは『Sextet』(82)を聴いてくだされ。あまりの格好良さに腰を抜かすでしょう。また、レイヴ世代には、忘れがたい「the big E」(89)なんて12インチもありました。
 とくにその初期においては〈ファクトリー〉系では、かの三田さんも一目置くほどのお洒落さんバンドだった彼らも、今年の1月に見たときには当たり前の話それなりに年季の入った姿を披露してくれたものですが、演奏はACR印の冷たいファンクで、まったくクールでした。否応なしに12年ぶりの新作への期待も高まるし、そしてじっさい新作はACRのファンク&ソウルが極まっているといえるような素晴らしい出来です。発売は9/25なので当分先ですが、まずは新曲とそのリリック・ビデオを公開しましょう。


■新曲「Always In Love」リリック・ビデオ

https://youtu.be/

■Listen & Pre-Order
https://smarturl.it/acrloco

【A Certain Ratio】
ACRのメンバーは、ジェズ・カー、マーティン・モスクロップ、ドナルド・ジョンソンの3人組。マンチェスターで1977年に結成され、伝説のファクトリー・レーベルにとって最初のシングルは彼らのシングルであった。すぐさまポスト・パンクのパイオニアとして世界に知られるところとなるが、ファンク、ジャズ、エレクトロ、テープ・ループなどのアヴァンギャルド要素をポップソングの世界に持ち込み、それをポスト・パンクの美学で包み込んだのだった。その影響は、トーキング・ヘッズ、LCD サウンドシステム、ハッピー・マンデイズ、フランツ・フェルディナンド、ESG、ファクトリー・フロアー、アンドリュー・ウェザーオールに至るまで及んでいる。ガーディアン紙のデイヴ・シンプソンはこのバンドに敬意を払い「ひとたびARCを聞き始めたら、その音楽を止めことは難しい」と記事にして、「アシッド界のジェイズム・ブラウン」と評している。

このアルバムはこれまでの40年間、彼らの嗜好や表現してきたものを完璧なまでに一気に詰め込んだものとなった。「先日リリースしたボックスセットのために過去を掘っていったことが我々を目覚めさせ、今回のアルバムに影響したのは間違いないね」と語るマーティン・モスクロップ。「そのことが我々のイマジネーションに火をつけてくれたんだ。過去のことも上手くやろうという気になったのは、未来に向けて前に進もうとしたからだ」と。このことがジェズ・カーとこのバンドの歴史をも再びつなげることになったのであるが、それは文字通り単なる過去の栄光の焼き直しではなく、このバンド独特の大胆で風変わりなスタイルでスタートすることであった。「我々はこのバンドの初期において存在した“全能感”をようやく取り戻すことができたんだ」と彼が語る。「自分か参加しているバンドや自分が作っている音楽以外他に全く何も考えられないあの感覚なんだ」。


ア・サートゥン・レシオ (A Certain Ratio)
ACR ロコ (ACR Loco)

Mute /トラフィック
2020年9月25日(金)

Tracklist
1. Friends Around Us
2. Bouncy Bouncy
3. Yo Yo Gi
4. Supafreak
5. Always In Love
6. Family
7. Get A Grip
8. Berlin
9. What’s Wrong
10. Taxi Guy
11. Fat Ratio *
12. SupaFreaky *

*ボーナス・トラック

Listen & Pre-Order
https://smarturl.it/acrloco

LINK
https://www.acrmcr.com/
www.mute.com
www.trafficjpn.com

TSUBAKI FM - ele-king

 めでたいお知らせです。新しい視点でさまざまな音楽を紹介してきた注目のインターネット・ラジオ TSUBAKI FM がウェブサイトをリニューアルしています。過去のアーカイヴも聴けたり、検索機能も強化、さらに、毎週日曜だった放送枠も日~水の週4日放送に拡大! すばらしい音楽に出会うためのすばらしいプラットフォーム、ぜひチェックしましょう。

 https://tsubakifm.com

インディペンデントミュージックを発信する音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』がウェブサイトをリニューアル。7月から京都、名古屋を含むレギュラー番組も新たに始動

ローカルからワールドワイドまでクオリティーの高いアーティスト/DJをキュレーションしながら日本のシーンに対して新しい風を送りつづける TSUBAKI FM。コロナウィルスの影響で無念の延期となった3月のアニバーサリーイベントを乗り越え、新しいウェブサイトと共に次のステージへ。

日本を拠点にするクリエイティブデジタルスタジオの Garden Eight が制作に携わり、過去のアーカイブがいつでも聴ける「RADIO」ページや、アーティストやジャンル毎のタグを追って検索できる「SEARCH」機能。そして「NEWS」ページで TSUBAKI FM の最新のニュースをチェック。もちろん今まで通りライブ放送も試聴可能に。

そして毎週日曜の放送枠から一気に拡大し、日曜日から水曜日まで週4日連続放送が決定。
日曜日は昨年の MUTEK.JP にも出演した Mayu Amano、そして新進気鋭のミュージックコレクティブ No Nations クルーが登場。月曜日は TSUBAKI FM のファウンダーでもある Midori Aoyama が毎週ホストを務め、翌日の火曜日は Souta Raw が自身のホームグラウンドである Tunnel を舞台にレギュラー放送を実施。そして水曜日はFMとの強い絆のある京都、そして名古屋は club GOODWEATHER を舞台に隔週で放送。他にも毎月スペシャルなプログラムや様々な都市での放送も予定しており、コロナ禍で変化した生活様式に向けて TSUBAKI FM が新たな音楽体験を提供する。

各番組ホストと放送日程は以下の通り

//No Nations//
毎月第1, 第3日曜日 19:00-21:00 (しぶや花魁)

//Mayu Amano//
毎月第2日曜日 19:00-21:00 (しぶや花魁)

//TFM Monday by Midori Aoyama//
毎週月曜日 19:00-21:00 (しぶや花魁)

//Tunnel Tuesday by Souta Raw//
毎週火曜日 21:00-23:00 (Aoyama Tunnel)

//Tsubaki fm Kyoto by Yoshito Kimura, Keisuke Dance, Masaki Tamura//
毎月第1, 第3水曜日 20:00-22:00 (会場は随時アナウンス予定)

//Tsubaki fm Nagoya by AGO, MUSICMAN, SAMMY the RIOT, S.O.N.E.//
毎月第2水曜日 20:00-22:00 (club GOODWEATHER)

KATE NV - ele-king

 80年代の煌めきのようなエクスペリメンタル/ポップ。それは未知とノスタルジアの結晶か。ポップ、環境音楽、アンビエント、ポップ。そう、この音は空気のように環境に効く。そう、ケイト エヌヴィー=ケイト・シロノソヴァの音は、自由で透明だ。

 彼女の新譜『Room for the Moon』はまさにそのようなアルバムに思えた。水滴のように透明でミニマル・ポップだった前作『для FOR』から2年ぶりの作品だが、制作自体は以前から進められていたという。まさに満を持してのアルバムといえよう。リリース・レーベルは前作と同様に現代のニューエイジ/エクスペリメンタルの総本山〈RVNGIntl.〉。 

 シロノソヴァはファースト・アルバムを『Binasu』を、ジャイアント・クローなどで知られる〈Orange Milk Records〉から2016年にリリースして以降、ほぼ2年ごとにアルバムを発表してきた。本作はサード・アルバムとなっている。
 〈Orange Milk Records〉からリリースされた『Binasu』は、2010年代中期のヴェイパーウェイヴ的な作品の中に位置づけられていたように思えるが、セカンドの『для FOR』以降、ニューエイジ・リヴァイヴァル的なものともつながっていく。そして2020年代最初のリリース作である本作は、そんなケイト エヌヴィーの音楽的な嗜好/思考が全面的に展開されていた。最高傑作」と言っても過言ではない。

 まず、全体に非常に洗練されたサウンドだ。音と音のかさなりはナチュラルでありながらも、フツーではない。制作には苦労したようだか、じじつトラックに横溢する音色の選別からミックスまで、細やかな部分にまで気を使ったしあがりである。くわえてベースやサックスなど生楽器の効果的な導入がオーガニックなグルーヴを生んでいた。やわらかなシンセサイザーとのアンサンブルも抜群。
 とくにサウンドの面で深化に注目したい。それは80年代的なサウンドの追求という意味でもある。ここ数年、細野晴臣から吉村弘まで、80年代から90年代初期の日本環境音楽が世界的に再評価が進んだことはよく知られている。そのムーブメントを牽引する存在としてヴィジブル・クロークスの存在と作品が重要だが、彼らのサウンドは80年代型の環境音楽を、00年代・10年代以降の緻密なサウンド・レイヤーに置き換えることを主軸している。
 いっぽう『Room for the Moon』のサウンドは、まるで80年代のフェアライトのような絶妙な音の硬さとタイミングをはなっているのだ。たとえば1曲め“Not Not Not”の軽やかなリズミックなシーケンスからして、どこか『エスペラント』などの80年代の坂本龍一のサウンドのようだし、その瀟洒なアンビエンスには『花と水』など80年代の細野晴臣の音楽を思わせもする。つづく2曲め“Du Na”は、80年代の清水靖晃を思わせる環境音楽とジャズの融合のごとき曲だ。そして3曲め“Sayonara”は日本語の「さよなら」が反復され、80年代日本への不思議なノスタルジアすら感じさせる名曲である(私は日本盤ボーナストラックとして収録された“Arogato song“にも深く感動した)。

 この『Room for the Moon』冒頭の3曲だけで、このアルバムがめざす方向性がわかる。80年代の環境音楽やアンビエントの質感を、そのまま再現することではないか。過去の再解釈の解像度を上げて、「それそのもの」であること、とでもいうべきか。
 なかでも8曲め“Plans”は、80年代中期~末期のムードが濃厚で、本作を象徴する1曲である。彼女なりのポップミュージックの理想形ともいうべき曲だ。往年のVHS的な質感のヴィジュアルを展開する凝りに凝ったMVにも注目したい。

 ロシアはモスクワ出身のシロノソヴァは、モスクワを深く愛しているという。そんな彼女が遠く離れた異国である日本、それも現在から数えて30年から40年前の日本の環境音楽や電子音楽に惹かれ、自身の音楽の重要な参照点としている。
 ロシアと日本、ふたつ国が「80年代の音楽」をとおしてつながっていくという感覚。それはもしかすると「失われた20世紀/80年代ヨーロッパ」への郷愁ではないか。その意味で本作を細野晴臣が主宰したレーベル〈ノンスタンダード〉からリリースされたミカド『MIKADO』のパスティーシュと位置付けることは可能だろう。つまりは距離と時間をこえる未知のノスタルアジアの生成。これこそがケイト エヌヴィー=ケイト・シロノソヴァの音楽の不思議な魅力である。

interview with Trickfinger (John Frusciante) - ele-king

 バンドを脱退していた時期でさえ多くのひとにとって彼は「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(以下 RHCP)のジョン・フルシアンテ」だっただろうし、バンドの最高傑作との呼び声も高い『Californication』に豊かな叙情をもたらしたギタリストであっただろう。だからこそ、先日発表されたバンドへの復帰のニュースは古くからのファンを中心として熱狂的に受け止められたし、やはりスタジアム・バンドのメンバーとして再びギターを鳴らす彼の姿を見たいというのが人情だ。
 けれども彼のソロ活動をつぶさに追っていたリスナーは、フルシアンテが優れたエレクトロニック・ミュージックの作り手であることを知っている。過去のソロ作ではギター・ミュージックにエレクトロニックの要素を導入することもあったが、とくにトリックフィンガー名義を使ってからは、アシッド・ハウスやIDMのような純然たるエレクトロニック・ミュージックに集中している。彼の作るマシーン・ミュージックは新しいわけではないがとても端正で、そこからこぼれてくる叙情が何とも味わい深いものだ。

 トリックフィンガーとしては3年ぶりとなるアルバム『She Smiles Because She Presses The Button』も彼の長所がよく表れた作品だ。初期オウテカのようなIDMあり、途中ジャングルの要素が飛び出してくるトラックあり、メロディアスなアシッド・ハウスあり。そのどれもがとても丹念に作られていることが聴いているとわかる。リズム・パターンや細かい音の配置はこれまでよりも洗練されていて、それは本人が言うように絶え間ない努力がもたらしたものなのだろう。ギタリストとしてもエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーとしても、その過剰なほどストイックな姿勢が彼の個性を生み出してきた。
 それにしても、マシーンへのマニアックなこだわりや音楽に対する学究的な考察、エレクトロニック・ミュージックへの愛情(とくにオウテカへのとめどないリスペクト)などなど……を話し出すと止まらない、彼のチャーミングな音楽オタクぶりが発揮されるインタヴューとなった。本文にある通り、本作のあとには(本人曰く)ジャングル寄りのソロ・アルバムも用意されているそうなので、RHCP での活動のみならず、そちらも併せて楽しみにしたいところ。
 それでは1万字超え、エレキング独占インタヴューをお届けしよう。

ロックスター扱いされることへの反動ではなくて、僕は頭のなかでも創作活動でも自由でいたいから、自分が関心あることを追求したいんだ。2007年の時点ではエンジニアでありたいって強く思ったし、自分で音楽を作りたかったし、ロックばかりを作り続けたくなかった。

2000年代なかばにエレクトロニック・ミュージックの制作を本格的にスタートされたと思うのですが、当時はバンドのステージでロックスター扱いされることへの反動もあったのでしょうか?

ジョン:長い間エレクトロニック・ミュージックを愛していて、時期としてはレッド・ホット・チリ・ペッパーズで『Californication』を書き出したころからいちばん好きで聴いていた音楽はエレクトロニック・ミュージックだった。サンプル、ドラムマシーン、シンセサイザーらに魅了され、いろいろと遊んでみたりしたけど、2007年ごろに80年代初期の機材を発見して、しっくりきたというか自分に合っているものを見つけた。303、909、707とかね。そこから一度にいろいろな機材を一度にミキサーを通して録音できることを知って、そこからカセットテープの録音機やCDへ焼くこともできて……音楽をオーヴァー・ダブせずに作れることを知った。僕は4トラックでオーヴァー・ダブすることに慣れていたから、一度に1曲を丸ごとステレオで作れて、オーヴァー・ダブせずに作っている音楽がステレオから流れてきたことにすごく興奮したのを覚えている。ここでやっと自分が愛聴していたモノへの理解ができたよ。だからそれがトリックフィンガーの始まりといってもいいかな。
 今回のアルバムは2018年にレコーディングされて、前作とは同じやり方でまったく同じ機材ではないといえ、同じようなCDバーナーだし、小さな Mackie のミキサーで同期した。音楽性は前作とは違うし、もっと機材を使っていた。今回のアルバムは、4つ以下かな。最後の曲 “Sea YX6” は、ドラムマシーン RY30 でしか使っていないし、シンセサイザー DX100 だけを使っている。だからこの曲では、これが最小数かな。ほかの曲では、平均的に3つ、4つ以上の機材は使っている。これらの Elektron Monomachine、Analog Four、Analog Rhythm らはとてもパワフルなんだ。だから YAMAHA RY30 ドラムマシーン、Analog Four ドラムマシーンを使った。あ! 1曲だけ ROLAND606 ドラムマシーン機材を使っている。“Plane” でね。いろいろな方法でエレクトロニック・ミュージックを作ってきたよ。でもライヴでこうやって作るのは、すごく楽しい方法だったよ。課題は、数少ない機材から最大限のものを作り出すことだけど、その挑戦すら楽しめたよ。最後の曲で1つのドラムマシーンから1曲を完成させることは、とても満足したし、いろいろとやりながら学べたし、あの機材がどれだけ有能かもわかったよ。
 だからバンドのロックスター扱いされることへの反動ではなくて、僕は頭のなかでも創作活動でも自由でいたいから、自分が関心あることを追求したいんだ。2007年の時点では自分自身がエンジニアでありたいって強く思ったし、自分で音楽を作りたかったし、ロックばかりを作り続けたくなかったし、それらをやったことでこの音楽を作ることへたどり着いたんだ。

エレクトロニック・ミュージックを制作し始めたころを振り返って、あなたはエレクトロニック・ミュージックを「学んでいた」と表現していました。いまもエレクトロニック・ミュージックを「学んでいる」という感覚ですか? それとももう少し別のものに変化しましたでしょうか。

ジョン:エレクトロニック・ミュージックに限らず、音楽全般に対して僕は「学ぶ」姿勢でいるんだよね。RHCP で制作してきた音楽もだけど、愛聴していたレコードやCDを聴きながらいっしょにギターを弾くんだ。60年代、70年代で他のミュージシャンがやってきたことを暗譜するんだよ。これをやることによって、曲をかいて、自分がどんなスタイルの音楽を作りたいかわかる。だから僕にとっては、ほかのひとが過去にやったことを知ることで自分への成長にもつながるし、音楽を作ることと学ぶことはイコールだと思う。
 だからエレクトロニック・ミュージックも同じで、ヴェネチアン・スネアズといっしょに音楽をやったことで良いことを学んだし、この過去12年間はリリースしていない音楽をたくさん作ることができた。彼といっしょに仕事することで学ぶことがたくさんあった。たくさん曲を作って、ライヴからそのままステレオでレコーディングして、ふたりで同時に多数の機材を使って、自分たちでミックスもして。そのやり方でたくさん学んだ。あと、いつもエレクトロニック・ミュージックの歴史に着目しているのはいちばん気になる音楽だし、ほかのひとの作品を聴くことでどうやって作っていいか発見があるからなんだ。真似から始まって最終的には僕っぽいと言われる音楽になると思うけど。ほかのひとがやってきたことをなぞることで、もっと高いところへいけるんじゃないかって思う。なんかすごく性格もよくて、ひとから好かれていて、楽器を弾きだしたらそこから人間性が表現されるひとっているよね。みんなはそういうひとに引きこまれるよね。僕はそういうタイプじゃないんだよ。僕は本当に努力を積み重ねないとダメだし、クリエイティヴな部分を頭のなかで活性化させて、柔軟性をもって、頭の回転も早くしないとダメなんだ。いつも何かにインスパイアされてないとダメなんだ。十代のとき、僕の友だちのなかで全然練習してなくても素晴らしいものをすぐにできちゃうタイプのひとがいて、僕も真似しようと思ったけど難しかった(笑)。だから早い段階で僕はひとに気にいってもらえるような音楽を作るためには、何倍も努力をしなくてはならないということに気づけたよ。ひとに好かれようが好かれまいが、僕はとにかく頑張らなくてはいけないんだ。

あなたにとって、トリックフィンガーの楽曲はあなたのパーソナリティをどの程度反映したものだと感じますか?

ジョン:僕のパーソナリティそのものが反映されているよ! さっきも言ったようにまずは、ほかのひとがやっていることを聴いたりすることから始まる。このアルバムで言ったら “Noice” では、ドラムンベースのプロデューサーAMIT (エイミット)からのインスパイアだった。彼は、半分ドラムンベースでやるんだけど。そのアイデアを気に入って、R-130 だけでやってみたんだ。あと、ほかにふたつ機材を使って。あのリズムは彼からインスパイアされたものなんだ。“Sea YX6” は、オウテカが作ったEPで RY30 だけを使ったものがあって、彼らのインタヴューでひとつの機材だけを使うことに対する価値観とかも読んだ。そのアイデアにインスパイアされた。“Brise” は、Elektron の Analog Four や Analog Rhythm を使った。これらは、ジェネレイティヴな音楽をシンプルに作れて、楽しいやり方だと思う。機材にプログラミングして、それらが機材から出てきて、次はどんなものが出てくるかわからないからワクワクする。メロディは毎回リズムとともに変わるし、ドラムやメロディは、この “Brise” ではジェネレイティヴ。“Plane” のメロディもジェネレイティヴで、“Amb” は、メロディとベースラインはジェネレイティヴだし、“Rhyme Four” は特有のメロディがある。だから時と場合によってランダムなものが出てくる。とくに “Plane” と “Brise”。ジェネレイティヴな音楽は、マーク・フェルにとくに影響されている。“Brise”は彼や彼がいたグループの SND でやっていたことに感化されたよ。サウンドを聴いていると機材へ命令するのではなく、機材とコミュニケーションを取っている感じがするんだ。それでそこから出てくる結果に驚いたりするんだよね。そういった過程が楽しいよ。
 だから全部僕っぽいと思うよ! メロディ、リズムのセンスは全部僕らしいと思うし。ここで使っている言語──あらゆる機材の使い方やプログラミングは、確実にほかのひとたちからの影響を受けているね。ギターを演奏しているときも同じだよ。僕のギターは、僕っぽいんだけれど、僕自身はだれかを真似しようとしているんだ。

コンピューターに制限のプログラミングをすることによって、ジェネレイティヴ音楽が生まれている。だからジェネレイティヴ・ミュージックとAI音楽の区別がつかないな。コンピューターは結局人間がプログラミングしなきゃならないし。

今回の『She Smiles Because She Presses The Button』はいつごろ制作した楽曲を収録しているのでしょうか?

ジョン:2018年にレコーディングしたね。収録した楽曲たちの経緯は不思議な形で出てきたんだよね。できるだけ簡潔に答えられるようにするね。
 数年、音楽をあまり作らない時期があったんだ。2015年ごろかな。自分のメインとしている家に住んでなくて、違うところに住んでいたんだよね。それでメインにしている家に帰ってからスタジオを立ち上げて、いままでやったことのないやり方で音楽へアプローチしはじめたんだ。出来が悪くても気にしなかった。結果が良くなくても気にしないことにした。何かをやり遂げたかなんかどうでもよかった。僕自身が高いところまでチャレンジしてさえいればよかったんだ。そうやって持っている機材でやったことのないことにトライしたことで、新たな発見もあったんだ。音楽を作っていくことでいちばん大切なことに着目していたし、曲の完成とかアルバムを完成することが目標ではないなか、一年間それを続けたんだ。だから今作と9月に出るものは、一年間丸ごと曲作りに時間を費やせた結果なんだ。ゴミみたいなものをたくさん生産したけど、そこからたくさんのことを学んだよ。前はFMシンセも DX7、DX100 の使い方すらわからなかった。だからその時期に使い方を覚えた。Analog Four や Analog Rhythm の使いこなし方も努力した。やれるだけの実験をこの機材らで試したよ。あんなひどい音楽を作って我慢できたのが不思議で仕方がないよ(笑)。でも本当にいい結果を願い続ける自分に疲れたんだ。オーヴァー・ダブもやらなかったよ、スタジオでもリビングでも。僕は一度もコンピューターからドラムマシーンをプログラミングしたことがないんだ。ドラムマシーン自体からやるから。とにかく自分の首をしめることをやめたんだ。最終的に自分が聴きたい音楽が生まれたらいいって決心したんだ。でもその怠けてた時期があったからこそ、「こんなのやってられない。ちゃんと始まり、中間、終わりという点を考えて曲を作ろう」って考えたんだ。そのときに今作の曲や9月にリリースされるものが出てきたんだよ。

先にリリースされたEP「Look Down, See Us」と今回のアルバムはどのような関係にあるのでしょうか?

ジョン:「Look Down, See Us」は、リリースされる数か月前に作られたんだよね。だから僕にとっての最新の音楽はあのアルバムに入っている。あれは僕の大きなスタジオで制作されたんだ。もっとギアもあるし、コンピューターもあったりで。だからあれは、今年の9月に出るアルバムとは違うことをやったものなんだ。あのジャングルにこだわった一年があったからこそ、2019年は違うアプローチで柔軟性をもって、自分へ課題を与えるようにしたんだ。楽して、ただ同じパターンを続けないようにね。「Look Down, See Us」は、僕がいろいろな場所へ行ってから新たな場所へ行こうとしたものかな。

アルバムのリリース元となる〈Acid Test〉は 303 へのこだわりがあるユニークなレーベルですが、〈Acid Test〉、あるいはそのサブレーベルの〈Avenue66〉からアルバムをリリースすることは、どのような意味を持ちますか?

ジョン:〈Acid Test〉はそうだね。303 へのこだわりのあるレーベルだから、303 を使用している音楽しかリリースしないんだよね。今回は 303 を使用していないんだよ。だからこそ〈Avenue66〉に上手くハマったんだ。

アルバム・タイトルはエレクトロニック・ミュージックを作ることの純粋な喜びが表現されているように感じたのですが、一人称が「She」なのはなぜですか?

ジョン:僕自身、ボタンを押して音楽を作ることが好きだからね。でも正直に話すと僕の彼女 Aura-TO9 (アーティスト名)のパソコンのログイン画面に彼女の写真が出てくるんだ。それは彼女自身の写真で、彼女が笑顔でカメラのシャッターを押そうとしている姿の写真が出てくるんだ。だから僕が、彼女はボタンを押すことによって笑顔になるって言ったら、彼女が「それは素敵なアルバムのタイトルになるね」って言った流れからなんだよ(笑)。

1曲目の “Amp” からそうですが、あなたの楽曲はとてもメロディックだと感じます。エレクトロニック・ミュージックにおけるメロディの要素をどのように捉えていますか?

ジョン:ポップ・ミュージックでメロディを作るのとは違うものだよね。ロックでもね。ポップでもロックでも、(メロディは)音楽の要素のなかでいちばんメインであってその他はメロディに合わせる形だけど、エレクトロニック・ミュージックでは、ドラムがリードしていて、メロディがドラムに合わせるし、たとえドラムがシンプルでも僕にはそう聴こえる。だからじょじょにやっていくうちに繊細なメロディを生み出さなければならなくなった。エレクトロニック・ミュージックを始めたとき、サビばっかり出てきたんだ。MPC3000 とかでプログラミングしようとしていて、途中でサビみたいなところが出てきちゃって、頭を悩ませたよ。そういう書き方に慣れていたからなんだろうけど。だからもっとリズミカルで繊細なメロディが書けるように勉強したんだ。あとは、いろんな方法でメロディへアプローチするやり方を考えたんだ。ポップではキャッチーなメロディを作ることを目指すけど、エレクトロニック・ミュージックでメロディはいろいろな役割を果たせる。メロディは、半分効果音、半分メロディでいられるし、音符であったと思ったら次から聞こえる音は、音符というより効果音みたいな。それかハーモニーであったり、一音ではなくどんな音でもいいんだ。そこから音とサウンドのコンセプトのなじませ方というのが分かっていくんだ。スムーズな物語のように。だからこれらにはすごく時間をかけたし、発展していったものと言えるかな。
 アーロン・ファンクと僕が普段音楽を作るときは、僕がドラム、メロディを担当して、じょじょに僕はメロディ担当、彼はドラム担当になり、たまにベースを僕がやったり、彼がやったり……。それでたまにメロディ自体ドラムみたいに聴こえたものを僕が作ったり、彼が小さなドラムマシーンでメロディを作ったり……いろいろ。でも僕にとって彼は世界のなかでも好きなドラマーで、だから彼のドラムをサポートするためのメロディを考えたりもした。それが大きな影響を与えたとも言える。こういうやり取りを誰かとやったことはなかったからね。RHCP にいるときもドラムはメロディに沿って作られているし、ギターもそうだし、ベースもだし。だからリードを取るドラマーがいて、僕はメロディだけど、そのドラムをサポートすることによってメロディの要素に対する捉え方が変わったね。メロディを生産することやメロディを機材で作っているときにサウンドに対して焦点を当てているから、メロディはどちらかというとそのサウンドに向けて存在している、サウンドを強調させる要素だと思う。だからデジタル機材で音を作ることにすごく時間をかけるんだ。そこからそのサウンドに合った一音を見つけるんだ。CだからとかDだからとかEだからとかではなくて。いいサウンドを仕上げて、そこにあった一音を見つけなかったら台無しになるからね。ギターの演奏とは全然違うことだね。

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9月に〈Planet Mu〉からリリースするものは全部ブレイクビーツだよ。今作や〈Planet Mu〉から出すアルバムは、ギターは一切入れてないし、歌ってもいない。その方法で自分を表現するのが好きなんだ。

“Noice” は反復するリズム・パターンとヴォーカル・サンプルの重なりが印象的なトラックです。初期レイヴのようなムードもあり、アルバムのなかではほかの楽曲と際立って個性が異なるように感じるのですが、このトラックの課題は何だったのでしょうか?

ジョン:ノイズ音楽から始まった。僕はピタやファーマーズ・マニュアルみたいなひとたちが好きで。リズムやメロディに重点を置いてないものが好きだから。ただサウンドだけっていうところが好き。で、僕のサウンドクラウドに聴けるものを1曲載せたんだけど、それは “A3t1ip” っていうんだ。ピタ(Pita)と A3 をもじった。だからこの曲は、ノイズ音楽から始まって、そこからさっき話した半分ドラムンベースのスタイルにしていって、そこでノイズに対して音量エンベロープをつけた。だから冒頭、音量が上がる感じあるよね。もともとはそれぞれ別々のノイズ音楽をくっつけたものなんだ。ヴォーカル・サンプルが終わりのほうで出てきたりするしね。最後のほうはすごく人工的なドラムマシーンの音で、ロボットっぽいんだよね。でもクラシックなジェームズ・ブラウンのブレイクビーツのビートを刻んでいるんだ。あのアイデアは、トランス・ミュージックのアーティスト Komakino (コマキノ)からもらったんだ。具体的に言うと、彼らのEP「Energy Trancemission」に収録されている曲 “Outface(G60 Mix)” のなかのサンプル・ヴォイスが「マザー・ファッキンなブレイクビーツをくれ!」って言うんだけど、そこから始まるのはブレイクビーツではないリズムなんだよね。で、それがすごく人工的なサウンドなんだ。それにインスパイアされたよ。コンピューターで作るときは何千ものサンプルを選べるけど、ヴィンテージな機材を使うときはそうはいかない。どれがこのサウンドに合っているかっていうやり方だよ。
 基本的にサンプル・ミュージックのファンで、女性ヴォーカルの入ったサンプルが好き。シンガーが参加するのと全然違うんだ。サンプルのヴォーカルは機材に生かされるから誰かがその音楽に向かって歌っているわけではない。どんな風にそのヴォーカルが使われることも知らないわけだから。そのサウンドがすごく好きだよ。

リズム・パターンは一聴してシンプルな部分もありますが、注意して聴くと非常に緻密で複雑なプログラミングがなされています。以前、リズムのプログラミングにはけっこうな時間をかけると聞いたのですが、このアルバムのトラックもリズムは時間をかけて作ったのでしょうか。それとも以前より早くなった?

ジョン:前よりは確実に早くはなったけど、プログラミングに時間を要すことで価値を見出せることがあるよね。ほかのエレクトロニック・ミュージシャンですぐに音楽が作れるように機材を全部準備したり、機材をどこにでも持って行って、5分もしたら1曲が生成されるような方法を聞くけど、僕はそれはやらない。僕はまっさらな状態から始めるんだ。今作に収録されたすべての曲は、それぞれ違うグループの機材が使われていて、一曲ずつセットアップが違った。(次に発表されるアルバムの)『MAYA』を作っていたときは、2、3週間かけてブレイクビーツを作ったり、DX7 の音を作ったり、それぞれの要素を作って、最終的に音楽として成り立つようにしていた。でもどんな風に仕上がるかもわからない上、テンポぐらいしかわからない状態なんだ。2、3週間……いや、もしかしたら1か月ぐらいかけて、ブレイクビーツや DX7 の音だけを作っていた。それは幸せなことだよ。僕は音楽を作るとき、早く仕上げることは求めてないから。DX7 で音を作ることだけでも僕は満たされるんだ。ブレイクビーツを作るときも。そのほかにもデジタル・マルチ・エフェクトをいろいろ試しているときも楽しい。その過程が済んだら音楽を作る段階へ入るんだ。早く作っても僕の場合、1週間はかかる。あんなに時間をかけて作ったものを一切使わないということもあるんだ。
 時間の効率は確かに悪いよ。でもすごく人生のなかで幸せなひとときでもあるからね。話は戻るけど、今作はさっきも言ったように丸一年あってからの制作段階に入ったからね。アーロン・ファンクと音楽を作るときは、とにかくプレッシャーがかかるよ。彼ぐらい早くプログラミングしなきゃって思うからね。でも幸運にも彼は機材に対する準備をかけるからね。だからプログラミングは僕より早くても時間をかける長さは僕と同じぐらい。彼に追いつくまで数年はかかったし、当初は足を引っ張っているんじゃないかって思ったし、彼に待ってもらうことも多くて。でもその課題をこなしたことで、お互い3、4日プログラミングにかけて、それが過ぎたらレコーディングに入れるようになったよ。だから早くなったけど、時間をかけることが好きだよ。これが質問の答えだね(笑)。

あなたは初期のアシッド・ハウスやテクノなどに、純粋に音楽的な関心を長く寄せてきたと思うのですが、いっぽうで当時の80年代末ごろから90年代初頭ごろのレイヴ・カルチャーに思い入れや憧憬はありますか?

ジョン:エレクトロニック・ミュージックに関しては90年代初期かな。あと、その後の90年代末ごろと2000年代初期。それらの時期に思い入れがあるかな。レイヴ・カルチャーに関しては、2000年代末ごろかな、いちばん思い入れがあるのは。僕のガールフレンド、マルシーのアーティスト名である Aura T-09 が、ここLAのレイヴで長年プロモーターをやっていて、ウェアハウスのパーティーとかも催行していたんだ。彼女は新しい音楽にすごくアンテナを張っていた。僕は彼女に2009年だったか2010年に出会って、それで付き合う前から彼女からレイヴ・ミュージックを教わったんだ。レイヴ好きの友だちがいながらも2008年ごろまで興味がわかなかったかな。本当にこの12年の間で変わったことではあるよね。あらゆることをその前から見てきたけど、90年代にいちばん好きなレイヴ・ミュージックが出てきたころ、僕は麻薬中毒者でそれどころじゃなかったからね(笑)。何が周りで起きているかもわからなかったし、薬にハマってしまっていた(笑)。どこにも行ってなかったよ。
 ジャンルでいったらジャングルが好きだよ。9月にリリースするアルバムがあるんだけど、それはジャングルなんだ。今作とは違ってコンピューターで作ったんだ。9月のは、Renoise で作って、他にもいろんなハードウェアを使ったよ。DX7 とか。だからこれはジャンルでいったら僕にとってのジャングル、IDMというところかな。ジャングルからインスパイアされているけど、僕特有のものでもある。ジャングルよりIDMっぽいとは思うけど、ジャングルに影響されているし、好きな音楽のテイストだよ。あとゲットー・ハウス・ミュージックも好き。シカゴの〈Dance Mania〉レーベルから出てるDJディーオンとか。シンプルなエレクトロニック・ミュージックならDJファンクやポール・ジョンソンとかもすごく好きだな。IDMだったらエイフェックス・ツイン、ヴェネチアン・スネアズ、 オウテカ、スクエアプッシャーとか。1999年ごろに発見してから彼らには影響されたし、大好きなアーティストたちだよ。あとジャンルでいったらフットワークも好きだからDJラシャドも好きなんだ。彼女のマルシーのおかげでDJラシャドの音楽は、フットワークが世界的に認知される前や〈Planet Mu〉に入る前から知っていたんだ。この10年の間だったら、ベリアルの音楽も好きだね。彼のメロディへのアプローチからはとてもインスパイアされているし、彼の音楽全般的に魅了されるんだ。それでテクノもジャングルもドラムンベースも好きだけど、UKガレージも好きで……わりといろんなジャンルが好きで、ハウス・ミュージックもいろいろ好きだな。ダブステップの初期もいいよね。でもとくにジャングル、ブレイクビート・ハードコアが好きで掘り下げれば、サンプルやブレイクビーツが好き。だから9月に〈Planet Mu〉からリリースするものは全部ブレイクビーツだよ。今作(『She Smiles~』)は全部ドラムマシーンで作ったからね。9月のは、ドラムマシーンもあるけどメインはブレイクビーツですごくテンポが速いんだ。

万人受けするものではなかったとしても数百人のひとが好きになってくれるかもっていう部分を楽しんだ。それにレッド・ホット・チリ・ペッパーズへ復帰して、たくさんのひとに愛されるような音楽を制作する楽しさも同時に味わっているんだ。

あなたは以前からAIについて考えを巡らせているとのことでしたが、以前よりもさらに人工知能が発達する現在、AIが作る音楽と人間が作る音楽を分けるポイントはどこにあると考えていますか?

ジョン:ジャンルでいったらジェネレイティヴ・ミュージックがある意味AIが作る音楽っぽいけど、厳密に言ったらAIが作った音楽ではないしね。誰かが昔、AIが作る音楽であったらジェネレイティヴしかないんじゃないかって言っていたんだけど……。音楽の要素で忘れてはいけないのが、制限をかけること。誰かがまず制限をかけることをプログラミングしないとね。コンピューターに制限のプログラミングをすることによって、ジェネレイティヴ音楽が生まれている。だからジェネレイティヴ・ミュージックとAI音楽の区別がつかないな。コンピューターは結局人間がプログラミングしなきゃならないし、いろんな計算、選択、判断はできるかもしれないけど、それは人間がプログラミングした範囲内だし。それが重要なところじゃないかな。オウテカが何年か前にリリースしたCD10枚組のボックスセット『NTS Sessions』があるんだけど(註:正しくはCD8枚組、LPだと12枚組)、あれらの音楽は自分たちが作ったプログラムから生産したはず。何年かかけて作ったプログラムだとか。あのプログラムは、たしか短時間で音楽を作ることができるって見解でいる。ボタンを押したら出てくるものすべてが全部オウテカみたいなサウンドを生産するプログラムなんだ。で、彼らは何が出てくるかもわからない状態ではあるんだけど、コンピューターがプロデュースしている間に彼らはそれを操縦することができる。そこでいらないものを省いたり、必要なものを増やすことができる。再生が始まったら操縦できるとはいえ、もし彼らがいなくなってしまったらあのプログラムは人類が生存する限り、ずっとオウテカみたいなサウンドを生み出せるということだ。だから僕のなかでは、AI音楽といったらそれがいちばん近いのかなって。そのプログラムを作っていく過程でやれることよりもやれないことをプログラミングしていくことの方が重要だったわけで……。だからコンピューターがどんなものを生み出すかというよりも、制限されているということが重要だよね。だから繰り返すけど、ジェネレイティヴ音楽とAI音楽を見分けるポイントの違いはわからないな。それに音楽を生み出すには、自由というより制限をかけることが重要だからね。制限のなかでの自由は生まれるけどね。

トリックフィンガーはエレクトロニック・ミュージックにフォーカスしたプロジェクトだと思うのですが、ひとりのミュージシャンとして、ギタリストのアイデンティティとエレクトロニック・ミュージックのプロデューサーのアイデンティティが今後融合していく可能性は感じていますか?

ジョン:まずアーティスト名について整理したいんだけど、9月に出すアルバムはジョン・フルシアンテの名前で出すんだ。僕名義でエレクトロニック・ミュージックのものは過去にわりとリリースしているから、トリックフィンガーがエレクトロニック・ミュージックのときの名前とは限らないんだ。でもたしかにトリックフィンガーではインストのみだし、一切僕がギターも演奏しなければヴォーカルもいれてないものではあるね。
 あとどれだけのひとが知っているかわからないけど、僕名義で出したアルバム『Enclosure』こそヴォーカル、ギター、エレクトロニック・ミュージックが融合されてるね。あれこそ僕自身がエレクトロニック・ミュージシャンでありながらソングライターでもあり、ギタリスト、シンガーでもあることが融合した作品だね。あのようなアルバムはすごく好きだけど、エレクトロニック・ミュージック好きにとってはポップすぎるって言われるし、ロックが好きなひとにとってはエレクトロニック・ミュージックすぎるって言われるし……。あのころは、ひとに自分の音楽をどう思われようとも自分が挑戦するものを作りたかったんだ。僕のコンセプトは、いい曲を書いて、それを崩壊するっていう考えだった。コードを抜いては、それをねじって、合わなくても同じようなヴォーカルのメロディにして……なんてことをやっていた。万人受けするものではなかったとしても数百人のひとが好きになってくれるかもっていう部分を楽しんだ。変なものを作っても、それを好んでくれるひとたちが現れることをね。それに RHCP へ復帰して、たくさんのひとに愛されるような音楽を制作する楽しさも同時に味わっているんだ。これもまた別の課題ではあるけどね。
 RHCP で作っている音楽と自分のソロ・プロジェクトに関して大きく違うのは、エンジニアリングの部分だね。僕はもう13年も自分自身がエンジニアをやっているから、ギターをレコーディングしていても何していてもこだわるんだろうな。RHCP で90年代末や2000年代に使用していたシンセはずっと使っている。でもエレクトロニック・ミュージックをやるときは、ギターもヴォーカルも入れない。ギターで曲作りをするときは、ベースやドラムセット、シンガーと何ができるかってことに着目している。それをいまもリハーサルしているよ。リハーサルのあとや週末にリハーサルをしていないときは、ずっとドラムマシーンで遊んでるんだ。いいインストゥルメンタルの音楽ができないかなって。いちばん好きな音楽ではあるからね。だから『Enclosure』や『PDX』でやったようなアルバムを作るとは思えないな。言い切れないけど、今作や〈Planet Mu〉から出すアルバムは、ギターは一切入れてないし、歌ってもいない。その方法で自分を表現するのが好きなんだ。もともと60年代、70年代のオールド・ソウルやファンクが好きでそれのサンプルの大ファンだった僕だけど、いままで以上に研究して、リズムやセンスをそこからもらってギターを演奏しているよ。だからいまの RHCP での僕のギターの演奏はそれらの影響が大きいし、ギターの練習をしたことによって、エレクトロニック・ミュージックの方面でもいい音楽が生まれたと思っているんだ。ギターでの曲作りはこの数年やっていなくて、練習に徹した。でもそれが、エレクトロニック・ミュージックのほうへもうまくいい影響になったと思っている。

いまちょうど話が出ましたが、レッド・ホット・チリ・ペッパーズへの復帰が発表され、いまはパンデミックでライヴができないとはいえ、今後バンド活動も活発になっていくだろうと思います。ただ、そのなかでもソロの楽曲制作は続けられますよね?

ジョン:その通りだね。バンドに復帰したのはエレクトロニック・ミュージックを続けられることがわかっていたからだし、両立できる余裕もあるしね。夏にライヴをやる予定だったんだけど、全部来年へ延期になった。だから来年の夏には RHCP のライヴ活動が実現できることを願っている。いまは曲の制作中だよ。目標は今年の終わりにはスタジオに入ってアルバムの制作に入るか、もしくはアルバムを作り終えることなんだ。復帰したらすぐに曲作りが始まって、新曲が出せるようにしようという話だったし。バンドのメンバーとして1998年に戻ったときからエレクトロニック・ミュージックを作らせてもらっていて、時間に余裕があるのもありがたい。僕はロック・ミュージシャンとして、エレクトロニック・ミュージシャンとして、ふたつの表現がしたいし、自由でいたい。9月に出すアルバム『MAYA』は僕の愛猫の名前なんだ。昨年癌が見つかって、最近亡くなってしまったんだ……。RHCP の『Stadium Arcadium』の制作に入る寸前に飼いはじめて、そこからずっと僕が音楽を作るときも音楽を聴いているときも練習しているときもずっと僕の隣にいたんだ。だから彼女の名前をアルバムのタイトルにつけたかったんだ。

Speaker Music - ele-king

三田格

 ニューヨークのアパレル・メーカー「HECHA / 做」が攻めまくっている。プロジェクト1は2018年の9月にウェブ上で行ったオール・デイ・ストリーミング。プロジェクト2は2019年のベルリン国際映画祭でジェシー・ジェフリー・ダン・ロヴィネリ(Jessie Jeffrey Dunn Rovinell)によるクィアー映画『ソー・プリティ』の上映。プロジェクト3は「黒いテクノを取り戻す(Make Techno Black Again)」(トランプのパロディです、念のため)というキャンペーン用キャップの発売。この時にテーマ曲をつくったのがスピーカー・ミュージックことディフォーレスト・ブラウン・ジュニア(以下、DBJ)という音楽ライター。プロジェクト4はオンライン・ショップの開設とポップ・アップ・イヴェントと続き、これらはすべて共感によってドライヴされるビジネス・モデル(Empathy-driven business model)を標榜するルス・アンジェリカ・フェルナンデスとティン・ディンという2人の女性が企画・推進している。プロジェクト7は「テクノは誰のもの?(Who Does Techno Belong to?)」と題された討論会の開催で、商品化され、商業化したテクノについてゲストを交えて語り合うなど、テクノに対するこだわりがハンパない。彼らの頭にあるのはとにかくデトロイト・テクノの継承と発展である。EDMのかけらもない。そして、Project10として〈プラネット・ミュー〉からリリースされたスピーカー・ミュージックのセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』はまさに「黒いテクノを取り戻」し、「HECHA / 做」の主張を具体化した素晴らしい内容となった。〈プラネット・ミュー〉も今年、最も重要なリリースになると大きな声を上げている。何も知らずに1曲目を聴いた僕も叫びそうになった。すごい。すごいよ!!マサルさん。セクシーコマンドー。いやいや。

 ベース・ミュージックとフリー・ジャズの出会い。そんな生易しい次元ではないかもしれない。1曲目にフィーチャーされているのは詩人のマイア・サナア(Maia Sanaa)で、付録としてついている45ページのブックレットは彼女の書いた理論や詩を集めたものらしい(これは未見)。DBJ自身もアミリ・バラカが提唱し、黒人音楽の歴史をまったく新しい視点で読み直したとされる批評家ツィツィ・エラ・ジャジ(Tsitsi Ella JajiI)が連帯のために提唱したステレオモダニズム理論をアルバム全体に応用したそうで、それはアメリカ産のブラック・ミュージックを読み解くためにセネガルとガーナと南アフリカの音楽を研究した成果らしい。どこがどうだかはもちろんよくわからない。わかるのは躓くように叩かれるスタッタリング・ドラムがとにかくカッコいいということと、3曲目の“Techno Is A Liberation Technology(テクノは解放のテクノロジー)”でジョン・ハッセルばりのトランペットが最初のピークをつくり出すこと。この緊張感には圧倒される。ドリルン・ベースなんて子どもの遊びだったじゃん……(いや、それはそれでいいんだけど)。続いて“Black Secret Technology Is A Traumatically Manufactured And Exported Good Necessitated By 300 Years Of Unaccounted For White Supremacist Savagery In The Founding Of The United State(野蛮な白人至上主義の上に築かれたアメリカのために300年も輸出が必要とされ、精神的な外傷を負わされてきた黒い秘密景気)”で同じく極端なスタッタリング・ドラムの背後で粒子の細かい電子音が縦横無尽に飛び回り、“A Genre Study Of Black Male Death And Dying(黒人男性の「死んだ」と「死んでいる」の調査)”ではドラムがトライバルな響きにガラッと変わり、延々と警察無線がサンプリングされる。複数のパーカッションが入り乱れる瞬間はまさしく何かが起きた感じ。

 不協和音を連打するピアノにリードされた“Of Our Spiritual Strivings(私たちの精神的努力)”はザ・ポップ・グループをベース・ミュージックに変換したかのようであり、メロウなサックスとノイズで構成された“Black Industrial Complex - Automation Repress Revolution In The Process Of Production, And Intercontinental Missiles Represent A Revolution In The Process Of Warfare(黒い複合産業 - オートメイションは生産方法を劇的に変えることを抑止し、大陸間弾道ミサイルは戦争を進化させていく)”でようやく一息つける(つけないかな)。“Super Predator(他人を犠牲にして利益を得る者)”で再び強烈なスタッタリング・ドラムが復活し、“American Marxists Have Tended To Fall Into The Trap Of Thinking Of The Negroes As Negroes, i.​e. In Race Terms, When In Fact The Negroes Have Been And Are Today The Most Oppressed And Submerged Sections Of The Workers​.​.​.(アメリカのマルクス主義者たちは黒人のことを人種的タームとして考える罠に陥りやすく、実際に黒人たちはかつても、そして、いまも抑圧され、労働者としてどっぷり社会の底に沈められている)”ではストイックなドラミングに不穏なシンセサイザーの波が押しては返すスリリングな展開。ラストはアルバム全体の余韻を先取りするようにジェフ・ミルズのコード進行を思わせるクールな“It Is The Negro Who Represents The Revolutionary Struggles For A Classless Society(階級なき社会のための革命の闘争を象徴するのはニグロである)”。物悲しいサックスの響きはマッド・マイクのそれとはあまりに対照的。デトロイト・テクノの優美なメロディやパワフルな面しか見えていないフォロワーは思いっきり反省すべきだろう。

 深南部からニューヨークに出てきたというDBJは、以前は本人名義で実験音楽に多くの時間を割いてきた。どちらかというと活動はアート寄りで、2017年にスザンヌ・フィオール・キュレイトリアル・フェローシップの奨励を得るとMoMAの別館など様々な場所で作品を発表し、ヒートシックなどの名義で〈パン〉からリリースがあるスティーヴ・ウォーウィックとの共作「E-M」などですぐにも知名度を上げていく。DJなどではヒップホップやテクノを扱うこともあったDBJは、しかし、自分で作曲するとなるとフィールド・レコーディングや延々とスピーチを続けているものがメインで、昨年末に〈プラネット・ミュー〉からリリースされたスピーカー・ミュージックとしてのデビュー作『Of Desire, Longing』もゴソゴソとしたドローンの変形サウンドが46分36秒にわたって持続するだけ。いわゆるダンス・ミュージックではまったくない(あ、安倍晋三の言い回しがうつった!)。『Black Nationalist Sonic Weaponry』の前哨戦となったのはケプラ(Kepla)とのコラボレイト・アルバム『The Wages Of Being Black Is Death』(19)で、控え目だけれど、パーカッション・サウンドが取り入れられ、『Black Nationalist Sonic Weaponry』の青写真がここには確実に描かれている。言葉とサウンドの比重が逆転し、「メイク・テクノ・ブラック・アゲイン」を自らが実行に移した感じだろう。“Sunken Place in Reverse...a Cancelled Future, a Horizon of a Pipe Dream(逆さに沈没した場所……キャンセルされた未来、空想の地平線)”から『Black Nationalist Sonic Weaponry』まではあと一歩である。“Sophisticated Genocide - American Industrialized Culture is Designed to Flush Out Non-performing/Non-conforming Black Male Bodies(洗練された大量虐殺 - アメリカの産業文化は役に立たない黒人男性の肉体を追い出すようにつくられている)”で組み合わされたリズムとドローンのコンビネイションもDBJが助走段階に入っていることを告げ知らせている。さらに『Black Nationalist Sonic Weaponry』と2日違いでリリースされたDBJ名義『Further Expressions Of Hi-Tech Soul』は1時間に及ぶスタッタリング・ドラムにマッド・マイクを思わせる雄大なシンセサイザーがやや重々しく被せられていくスタイルで、彼の作品にしては言葉がまったく使用されず、この試みもまたテクノを新たな次元に持ち上げたものといえる。タイトルはマッド・マイクを意識したものではなく、耐久と適応を強いられてきた黒人の歴史とその肉体を表すものだという。

 シリアからオマール・スレイマンが飛び出し、ウクライナからヴァクラが頭角を現したように、紛争が起きることを察知して優れた音楽がその予兆を奏でることはままあることだろう。アメリカでブラックライヴズマターが再び拡大する直前、僕はピンク・シイフ(Pink Siifu)によるパンク・ラップにいささか慄いていた。ここまでアナーキーなヒップホップ・サウンドはそうそうない。しかし、録音時期から考えて、それをも上回る音楽的な爆発を起こしていたのはDBJだった。19日に配信が開始されたということは、各曲のタイトルはブラックライヴズマターを受けて考えられたものに違いない。厳密にいうとブラックライヴズマター以後につくられた最初の作品とは言えないだろうけれど、そのような時間的な境界線上にあったことを考えれば、『Black Nationalist Sonic Weaponry』をブラックライヴズマター後に現れた最初の音楽作品として考えてかまわないのではないだろうか。〈プラネット・ミュー〉からのステートメントは「(『Black Nationalist Sonic Weaponry』は)野蛮な新自由主義を超克し、白人のテクノ・ユートピアが描き出す架空の経済成長に負うことがない未来へと歩み出す作品だ」と結ばれている。また、『Black Nationalist Sonic Weaponry』の収益はすべて「Black Emotional and Mental Health (BEAM) 」と「the Movement 4 Black Lives」に寄付される。

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野田努

デトロイト・テクノはアメリカのポップ・カルチャーから欠落し、反メディア的であるために、国のスキャン・システムから完全に抜け落ちてしまっている。(略)アメリカのメディア風景全体を補強しているエンパワーメントの論理からテクノは脱退する。それらすべての指令から逃れて可視化するために、あるいは人びとの声を聞くために、人びとの歴史を語るために。──コドウォ・エシュン『More Brilliant Than The Sun』(高橋勇人訳)

 娘がまだ幼稚園に通っていたとき、いっしょに近所を歩いていたら、自転車に乗った警官が2名ぼくたちの前を通り過ぎた。傍らにいた娘を見ると、思い切り敬礼している。「なにやってんだよ?」と訊くと「おまわりさんと仲良くなれれば、何かあったときに助けてくれるじゃん」と答えた。たしかにこの社会では最初、そう教えられるものである。おまわりさんはみんなを守ってくれると。
 その娘もいま11歳となって、アメリカで警官が黒人をとっちめている映像をいっしょに見ている。このリアルは、彼女が学校では教えられていないリアルだ。時間はかかるだろうが、これから彼女に“黒い物語”を話さなければならない。すなわち信じ込まされていた話が必ずも正しくはなかったということを。ブラックライヴズマターに若い白人が多いのは、彼ら・彼女らが子どもの頃に教えられたリアル(歴史、社会)が欺瞞的だったことに腹を立てているからだろう。

 「地球人を飼いならす平凡な視聴覚プログラムは、人びとの心を濁らせて人種間に壁を作る」とはかつての、30年前のデトロイトのURなるアーティストがレコードに印刷した言葉だが、時代が変わるときはいっきに変わるものだ。NYのスピーカー・ミュージック(ディフォレスト・ブラウン・ジュニア)なる黒人青年は、いま、山頂で空気で肺をめいっぱい膨らませるかのようにデトロイト・テクノとフリー・ジャズを我が身に吸い込み、そして更新しようとしている。ディフォレスト・ブラウン・ジュニア(DeForrest Brown Jr.)名義でリリースしたアルバム『Further Expressions Of Hi-Tech Soul(ハイテック・ソウルのさらなる表現)』のアートワークは、エシュンの『More Brilliant Than The Sun』を読んでいる彼自身の姿である。そして、“Hi-Tech Soul”とはデリック・メイの造語であり、そのコンセプトの重要性をDBJは1週間前に出たばかりのスピーカー・ミュージック名義のアルバムに併せて作ったブックレット(フリーでDLできる)のなかで解説している。
 ブックレットにおいては、URの『インターステラー・フュージティヴ』のアルバムのアートワークが紹介され、そしてドレクシアの『ザ・クエスト』のCD版に掲載された奴隷貿易という西欧社会の歴史(学校では教えられることのない)が再掲されている。それがこれからスピーカー・ミュージック(DBJ)を聴こうとする人たちへのひとつヒントだが、しかし、彼のサウンドには、21世紀のフットワークやベース・ミュージックを通過した斬新なリズム──ディスコとは切り離されたエレクトロニック・アフリカン・パーカッション──がある。リズムは彼の武器だが、さらにフリー・ジャズのエッセンスを融合させ、そう、URの“ファイナル・フロンティア”を30年分のアップデートに成功させている。それが、スピーカー・ミュージックのセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』の最後の曲、“It Is The Negro Who Represents The Revolutionary Struggles For A Classless Society (階級なき社会のための革命の闘争を象徴するのはニグロである)”だ。ちなみにニグロとは、黒人が主体的に自らを呼んだ言葉ではない、植民主義における白人が彼らをそう呼んだのであって、問題の根源は植民主義を生んでしまった思想なり文明なりにあると。
 スピーカー・ミュージックはサウンドの発展のさせ方もさることながら、コンセプトの研磨においても抜かりがない。今回の抗議運動は歴史的モニュメントの破壊にまでことが及んでいるが、ブラックライヴズターが反人種人差別にとどまらず、それ(=奴隷制度や植民主義)が黒人ではなく白人の歴史から来ていることを若い世代の白人が声を出していることに未来があるとは言えないだろうか。人びとの声は、DBJがブックレットの最初に引用したアミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)の1967年の言葉「我々はポスト・アメリカの形態を欲する」とリンクしている。そして、連帯(solidarity)を呼びかけているこの音楽は、パブリック・エナミー〜UR以来の、確信的なポリティカル・ブラック・ミュージックと言えよう。(彼はいま『黒いカウンター・カルチャーの結集』なる著書を準備中だとか)

 ディフォレスト・ブラウン・ジュニアは、革命前史として、サン・ラ、アーチー・シェップ、アルバート・アイラー、ミルフォード・グレイヴス、ノア・ハワード、クリフォード・ソーントンといったアーティストたちの作品をリストアップしている。そう、ジャズなのである。これら60年代末〜70年代前半のフリー・ジャズと90年代のデトロイト・テクノとの溝を埋めようというのがDBJの企みであろう。
 また、インスピレーションのひとつに状況主義にも影響を与えたフランスの思想家アンリ・ルフェーヴルの名も挙げているが、大それた固有名詞が並んでいるからといって、身構える必要はない。テクノは、音を感じるところからはじまる。まずは何よりも、ここにはサウンドの強度がある。能書きをすっ飛ばして聴いても充分にカッコいい。アーチー・シェップのアルバムのように。ただひとつだけ言いたいのは、世のなかには「いま聴かなくていつ聴くのよ」という音楽があり、これはまさにいま聴く音楽だ、ということ。世界が“黒い物語”を必要としているまさにいまこのときに、である。

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