「K A R Y Y N」と一致するもの

これ一冊で予習は万全!
MCU新作『マーベルズ』に備えるマーベル映画とマーベル・コミックの世界!

いまや世界最大の映画フランチャイズとなって久しいMCU(マーベル・シネマティック・ユニヴァース)。その最新作はマーベル史上最強のヒーロー、キャプテン・マーベルと新世代の仲間たちによる「マーベルズ」が登場! この公開に先駆け、ele-king cine seriesではMCUの15年を改めて振り返ります。

2008年の『アイアンマン』から25年。フェーズ1から現在のフェーズ5まで、30作以上にのぼる映画が制作され、近年ではドラマでの展開も開始。

いよいよ全貌を把握するのも難しくなってきた今こそあらためてMCUの25年を総まとめ、新作に備えてこれ一冊で予習も万全!

目次
イントロダクション
原作に見る『マーベルズ』登場人物たち 中沢俊介
対談 MCUを振り返る――奇跡の15年 光岡三ツ子 森直人

Filmography
■Phase1 前代未聞のプロジェクト胎動期 長谷川町蔵
■Phase2 騒ぎの前の静けさ 真魚八重子
■Phase3 時代と並走した爆発力 森直人
■Phase4
ワンダビジョン 光岡三ツ子
キャプテンの盾の行方――『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』 侍功夫
マルチバースでも魅せる愛されヴィラン――『ロキ』 真魚八重子
破竹の勢いの追憶――『ブラック・ウィドウ』 中沢俊介
ファン心をくすぐる「もしも」のショートストーリー――『ホワット・イフ…?』 侍功夫
香港映画へのオマージュに溢れたアクション見本市――『シャン・チー/テン・リングスの伝説』 高橋ターヤン
来たるべき「映画的世界(シネマティック・ユニバース)」――『エターナルズ』 佐々木敦
新旧ホークアイの逃走劇――『ホークアイ』 侍功夫
大人になったピーター・パーカー――『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』 長谷川町蔵
多重人格ヒーローの異色作――『ムーンナイト』 侍功夫
モックアップ・マッシュアップ・オール・アット・ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ――『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』 ヒロシニコフ
『ミズ・マーベル』 光岡三ツ子
父権の外で立ち上がるコメディ――『ソー:ラブ&サンダー』 木津毅
愛らしい小品――『アイ・アム・グルート』 侍功夫
メタなコメディ――『シー・ハルク:ザ・アトーニー』 侍功夫
よみがえる古典ホラーの世界――『ウェアウルフ・バイ・ナイト』 侍功夫
アフリカと中南米の激突『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 長谷川町蔵
心温まるクリスマス・ストーリー――『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル』 侍功夫
■Phase5
バカが量子にやって来る――『アントマン&ワスプ:クアントマニア』 ヒロシニコフ
爽快な大団円――『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』 てらさわホーク
ニック・フューリーとその苦境――『シークレット・インベイジョン』 てらさわホーク

対談
マーベル映画と「正義」――マルチバース・サーガが表す「弱さ」と「継承」 杉田俊介 藤田直哉
Column
MCU以前のアメコミ映画 中沢俊介
MCU映画のサントラ 長谷川町蔵
世界ヒーロー紀行 ヒロシニコフ
対談
マーベルとDC――混迷するアメコミ映画の現在地 柳下毅一郎 てらさわホーク

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* 発売日以降にリンク先を追加予定。

Róisín Murphy - ele-king

 数ヶ月前、ライヴ会場でたまたまGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーと会って、久しぶりに話すことができた。ぼくは彼の服装/ファッション・センスが好きで、いつも興味深く思っている。まずはそのことを彼に伝えたと思うけれど、これにはそれなりにちゃんとした理屈がある。
 この社会において「格好いい」とされるもの、「美しい」とされるものには、ふたつある。権力(ないしは企業)の側が提供するそれか、そうしたエスタブリッシュメントの外側で生まれたそれかのふたつだ。ビートルズも、ヒッピーも、グラムも、パンクも、あるいはジャズもラテンもファンクも、それらの音楽に付随したファッションは外側で生まれている。そしてそれら外側で生まれたセンスを「格好いい」「美しい」と認めたのは、権力(ないしは企業)の側ではなく、同じようにエスタブリッシュメントの外側にいる人たち(すなわち庶民)である。ヒップホップも最初はそうだったが、いまやスターたちはエスタブリッシュメントの側が提供するものを好んでいるように見えるときがある。インディと呼ばれる文化のライヴに行っても、同じような傾向を感じる。それに対して、マヒトゥは外側の価値のなかで動き、かなり目立っている。スーザン・ソンタグが『反解釈』で説いている批評的なスタイル論がそこには生きているのだ。ロイシン・マーフィーの目立つためのハイファッション志向も、目指すべきはおそらく外側なのだろう。その証拠になるのかどうかわからないが、いわゆる“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”などと括られるスタイルのなかで、彼女の新作のクオリティは抜きんでている。

 だいたいマーフィーは、日本ではずっと長いあいだあまりよく知られていない存在だった。彼女が最初にモロコで登場した1990年代のなかばといえば、“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なる道を切り拓いたビョークがその完成形『ポスト』を出した頃で、すでにマッシヴ・アタックの『プロテクション』もあったし、アンダーグラウンドではセイバース・オブ・パラダイスにナトメアズ・オン・ワックス、オーストリアからはクルーダー&ドーフマイスターも登場し……等々、日本で輸入盤を漁っているリスナーからしたらモロコに付き合っているどころの状況ではなかったのだ。
 日本でマーフィーが最初に注目されたのは、マシュー・ハーバートが全面協力した彼女のソロ・アルバム『Ruby Blue』(2005)だった。これは、ハーバートがもっとも人気のあった時期における、彼のヒット作のひとつ、スウィング・ジャズをIDMに融和させた『Goodbye Swingtime』(2003)から2年後の作品で、しかも彼のジャズ・バンドのメンバーがごっそりマーフィーにとって初めてのソロ・アルバムをバックアップしたことが、日本での彼女への注目を促したのだった。じっさい、『Ruby Blue』はいま聴いても古びない名盤であるのだが、では、マーフィーなる人物がどんな女性なのかというところまではよくわかっていなかった。ただ、先日の河村祐介のインタヴュー記事を読んでも明らかなように、彼女がダンス・ミュージックの目利きであることたしかで、今回のアルバムのパートナーがDJコッツェなのも間違っていない選択だ。
 『Ruby Blue』と同じ年にリリースされたDJコッツェのアルバム『Kosi Comes Around』は忘れがたい1枚で、テクノ・ファンであるならその年の年間ベスト級の作品だった。エレクトロニカ/IDMとフロア向けのテクノとに枝分かれしたテクノ・リスナーの耳をもういちど共有させたという点において、同作は重要作だったのだが(つまり、楽しく踊れて、実験的でもあった)、彼の卓越したセンスは、今回のマーフィーの『Hit Parade』でも惜しみなく注がれている。

 何度でも言うが、“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なるものはイギリスのお家芸である。古くはニュー・オーダー。ひとつの型を作ったのは初期のビョーク。その轍に、ホット・チップとか、最近ではジェシー・ランザケレラ、そしてロミーもいる。明るいとは言いがたいイギリス人気質のなかからダンス・ミュージックをベースとしたポップ・ミュージックがどうしてこうもう伝統的に生産されるのか、興味深くもある。というのも、UKのダンス・カルチャー自体が外側で生まれている文化であるからだ(ノーザン・ソウルしかり、レイヴ・カルチャーしかり)。

 マーフィーは本作のリリース直前に自身のフェイスブックで、Puberty blockersはクソで、製薬会社は笑いが止まらないだろう、まだ精神的に不安定な子どもたちは保護すべき、と書いた。Puberty blockersは、思春期における性ホルモンの分泌を抑えて、二次性徴の進行を抑える薬で、トランスを自覚している人の多くの若者が悩んだすえに自分の生物学的な性を抑えるために服用しているそうだ。私のことをトランス排外主義者と呼ばないで、とも書いてはいるものの、彼女のこの投稿は、瞬く間にLGBTQ+界隈に広まって、スキャンダルとなり、大いに批判されている。日本でいえば、yahooニュースのトップという感じだろうか(のちにマーフィーは謝罪をしている)。しかし、こうした失態があったにも関わらず、彼女のこのアルバムはキャンセルされることもなく、英語圏内のほとんどのメディアで、発言はまずかったがこの作品は良いと、好意的に取り上げられている。今年で50歳になったマーフィーは、愛されているのだ。

 テクノ・ファンであるなら、DJコッツェが全面プロデュースしていることから、だいたいどんなサウンドか想像できるだろう。コッツェの特徴は遊び心ある実験性とユーモアで、『Hit Parade』のアートワークもその趣向と相互関係にある。で、たしかにこれは面白い、河村が書いているように多彩なスタイルが楽しめる“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なるアルバムなのだ。そう、とくに“CooCool(最高に格好いい)”はサウンドも歌詞も素晴らしい曲である。

  魔法が帰ってきた
  温かい感じが溢れ出す
  愛の新時代、白熱の喜び
  理由も充分、理性を無視してやっちゃえ
  愚かな季節になって
  それは最高に格好いい
  
  私たちは暴動をやった
  自分のなかの子供を抱きしめて
  ワイルドでいこう
  それは最高に格好いい

  どんなパロディも人生の原動力だった
  ライフワークの背後でファンク化する
  自分のなかの子供を受け入れよう
  ワイルドになれ

  遊び心さえあれば
  私は、言いなり以上のことをやる
  それは最高に格好いい
“CooCool”

METAMORPHOSE ’23 - ele-king

 伝説のオールナイト野外パーティ。レイヴ・カルチャーの流れをくむ音楽フェス。ギャラクシー2ギャラクシーを筆頭に、これまで数々の名演が残されてきたという、個人的には一度も参加することのかなわなかったメタモルフォーゼが、11年ぶりの復活を果たした。
 静岡県御殿場市の遊RUNパーク玉穂に到着したのは20時半過ぎころ。すでに終了した SOLAR STAGE の入口で受付をすませ、来た道を引き返す。けして都市部では味わえない、自然の闇。

夜の部 LUNAR STAGE の入り口。

 しばらく歩くと、ポール棒がピラミッド型に組まれミラーボールがぶらさがっている。この小粋なゲートをくぐると右手に平地が広がり、先に大きな建造物が見える。雰囲気から推すに、たぶんもとは厩舎だろう。ここが夜の部、LUNAR STAGE の会場だ。なかをのぞくとダブリン出身ベルリン拠点のDJ/プロデューサー、マノ・レ・タフがプレイしている。バキッとしたテクノやダブっぽい曲がつぎつぎと繰りだされている。

外から見た LUNAR STAGE。漏れてくる照明に気持ちが高まる。

 ある程度堪能したのち、ビールをもとめて屋外へ。バーは高台に位置している。厩舎もとい LUNAR STAGE は片側の壁がとり払われているため、上から見下ろすかたちでなかの様子を楽しむことができる。この眺めがまたかなりいい感じなのだ。

バーへといたる坂道。中央奥がステージの建物。右端のラーメン屋に長い列ができている。

 22時前ころになると、ぽつぽつと雨が降りはじめる。ちょうどティミー・レジスフォードの出番ということもあり、坂をくだって屋内に避難。80年代から活動をつづけ、長らくNYのハウス・シーンを牽引してきたシェルターの設立者、今年3度目の来日となるレジスフォードによるアップリフティングなセットは、ざあざあ降りに突入した雨とは裏腹に、この日のピークのはじまりを告げていた。最前列には肩車をして盛り上がるオーディエンスの姿。

 つづいてステージに立ったのはカール・クレイグ。前日は札幌のプレシャス・ホールに出演していたらしい。キャップにタオル、黒いTシャツに赤いストールをまとっている。ダークな雰囲気でDJがスタート。曲をかけつつ、その場でドラム・マシンを叩いて重ねていくスタイルだ。序盤、ムーディマンの “I Can't Kick This Feelin When It Hits” が耳に飛びこんできて、一気にテンションが上がる(なんらかのリミックス・ヴァージョンか、あるいはほかの曲とかけあわせられている)。ソウルフルな曲やダビーなテック・ハウスなどを経て、中盤にはアン・サンダーソンのヴォーカルをフィーチャーしたオクタヴ・ワンのヒット曲 “Black Water” を投下。いちばん昂奮したのは終盤手前、クレイグ自身のヒット曲、ペイパークリップ・ピープル “Throw” が鳴り響いたときだ。あの強烈なドラム・パートにセクシーな男性ヴォーカルがかぶせられている。個人的には、この1時間半が LUNAR STAGE のハイライトだった。

最高にかっこよかったカール・クレイグ。

 むろん、出演者はみな歴史をつくってきた大ヴェテランたち。以降もすばらしい夜が継続していく。1時からはNYのジョー・クラウゼル。頻繁にミュートを駆使するプレイが印象に残る。2時半になるとダレン・エマーソンが登場、会場はぱきっとした音に包まれる。卓の後ろで応援するカール・クレイグ。最後はまさかの “Born Slippy” を投下。あのエコーを爆音で体験できたのは僥倖だった。そのままシームレスに主催者 MAYURI のDJへと移行、ハード寄りのテクノが厩舎を埋めつくす。気がつけば終演の5時。降りしきる雨のなか、大満足の一夜が終わりを迎えた。

 さすがに踊り疲れていたのだろう。前日もクラブに行っていたのが影響したのかもしれない。あくまで仮眠のつもりがぶっ倒れてしまい、気がついたときには午後になっていた。雨はやんでいる。慌てて再度遊RUNパーク玉穂を目指す。ぼくが到着したタイミングでは曇っていたので富士山は見られなかったけれど、芝生と林のバランスが絶妙な広場で、なんとも開放感のある空間だ。後方にはフットボールを楽しんでいる親子の姿。びしょびしょの地面が昨夜の昂奮を思い出させる。

昼の部 SOLAR STAGE で舞台の反対側を眺める。まったり楽しむ家族たちの姿。

 2日目の SOLAR STAGE では新進ロック・バンド、羊文学が演奏していた。宙へと抜けていくギターの残響が心地いい。つづいて登場したのはハイエイタス・カイヨーテのネイ・パーム。ブルージィな弾き語りで、ジミ・ヘンドリックスやプリンスのカヴァーも披露。ふだんそれほど入念にチェックしているとはいえないアーティストと出会えるのはフェスの醍醐味だ。それに、羊文学のような若手かつエレクトロニック・ミュージックの領域外で活動するアクトをブッキングすることは、世代の超越や趣味の横断の点で大いに意義のあることだと思う。

いま人気絶頂の若手バンド、羊文学。エフェクターの効果が開けた空間とみごとにマッチ。

 トリはジェラルド・ミッチェル率いるロス・ヘルマノス。ラテン・ミュージックを咀嚼し、独自のロマンティシズムを打ち立てたデトロイトのテクノ・バンドだ。ファースト・アルバム同様 “Welcome To Los Hermanos”、“The Very Existence”、“In Deeper Presence” の3曲ではじまる流れに、涙をこらえることが難しくなる。中盤の “Queztal” でサレンダーすることを決意。彼らの音楽はもちろんのこと、野外という状況がまたハマりすぎていてとにかく最高だった。最後は “Jaguar” で〆。かくして11年ぶりに開催されたメタモルフォーゼは、盛大な拍手喝采とともに幕を下ろした。

感涙のロス・ヘルマノス。

 後ろ髪を引かれながら、御殿場市をあとにする。晴れていればより一層すばらしい体験ができたのだろうけれど、天に文句をいってもしかたがない。キュレーションも会場もばっちりツボを押さえている。来年以降もまた開催されることをせつに願う。

べらぼうにうまかった焼き鳥屋。また食べたい。

Amnesia Scanner & Lorenzo Senni - ele-king

 2018年に出た『Another Life』は強烈だった。以降も実験的かつコンセプチュアルな電子音楽を送り出しつづけている〈PAN〉のデュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラから成るアムニージャ・スキャナーが初めての来日を果たす。今年出た最新作ではいま話題のNYのアーティスト、フリーカ・テット(OPN最新作収録曲の、あの印象的なMVも手がけていましたね)とコラボしていた彼らだが、今回の東京公演はハイマラとそのテットのコンビで敢行。
 また同時にミラノからネオ・トランスの先駆者、みずからを「レイヴ・シーンの覗き屋」だと称するロレンツォ・センニも来訪、東京と大阪の2か所をめぐる。東京では上記アムニージャ・スキャナーと、大阪ではSoft Couとの共演だ。エレクトロニック・ミュージックの前線に触れるまたとない機会。お見逃しなく。

WWW & WWW X Anniversaries

Local 25 World -FIESTA! 2023-
Amnesia Scanner & Lorenzo Senni

2023/11/17 FRI 18:00 at WWW X
早割 / Early Bird ¥3,900 (+1D) *LTD / 枚数限定
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

LIVE:
Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
Lorenzo Senni [IT / WARP]

+++

4F Exhibition: TBA

curated by ippaida storage / Soya Ito
artwork / painting: Nizika 虹賀
layout: pootee

https://www-shibuya.jp/schedule/017250.php

現代ポップ&レイヴ・アートの伝説2組、ベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えた世界を巡るサウンド・アドベンチャーLocal Worldが本編25回目となるWWWの周年パーティを開催。

2016年12月渋谷WWWを拠点に始動、本年7年目を迎えるイベント・シリーズ兼ディレクターLocal World本編第25回がベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えWWWの周年イベントとして開催。

10年代前期の元流通/レーベル業のmelting botからイベント業への変換機に生まれたLocal Worldはクラブとアートにおけるコンテンポラリーな電子音楽のモードを軸に立ち上げ当初の脱構築期(Deconstructed)から始まり、アジアやアフリカを念頭に多種多様なサウンドとリズムのキュレーションしながら世界各国のアーティストを招聘、並行してディレクションを務めるWWWの最深部”WWWβ”を基盤に新しいローカル・シーンを形成する担い手としてコロナ禍では下北沢SPREADを拠点にハイパーポップ期へと突入、都内のクラブにてメディアのAVYSSのイベント制作やアーティストのリリース・パーティのサポート含む断続的な活動を続け、本年からWWWにカムバックを果たす。下記のテキストとフライヤーのアーカイヴ・リンクから本パーティを始め前身のシリーズBONDAID、過去のブッキングやツアー・プロモーターとしての活動リストが確認出来る。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic -halloween nuts-
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX1 World DJ Sprinkles
Local XX2 World Oli XL
Local XX3 World Pelada
Local XX4 World Piezo & Liyo

Lorenzo Senni Japan Tour 2023

トランスのその先へ!〈Warp〉から最新アルバムをリリースするイタリアの鬼才、現代レイヴ・アートの始祖Lorenzo Senni待望の来日ツアー開催。

11/17 FRI 18:00 at WWW X Tokyo w/ Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

11/19 SUN 18:00 at CIRCUS Osaka w/ Soft Cou [IT]
https://eplus.jp/sf/detail/3980020001-P0030001

今回のテーマ”FIESTA!”は8年前の2015年11月にLorenzo SenniとInga Copelandを招いてWWWで開催したLocal Worldの前身イベントBONDAIDの記念パーティBONDAID#7 FIESTA!から踏襲し、10年代のエレクトロニック・ミュージックの文脈において最重要な現代ポップ&レイヴ・アートの伝説とも言える2組、ニューヨークのフリーカ・テトを迎えた新形態のオルタナティブ・エレクトロ・デュオAmnesia Scanner(本公演ではフリーカ・テトとヴィレ・ハイマラのみ出演)をベルリンから、トランス系脱構築レイヴの始祖Lorenzo Senniをイタリアから迎えた”祝祭”をコンサートと展示を通して表現する。

またLorenzo Senniは11/19日に大阪公演をCIRCUS OSAKAにて予定、両公演追加アクトの詳細は後日発表となっている。

[プロフィール]


Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]

Amnesia Scannerはベルリンを拠点とするフィンランド人デュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラ。2014年に結成されたグループの活動範囲は、作曲、プロデュース、パフォーマンス、そしてクリエイティブな演出と循環に及ぶ。システムの脆弱性、情報過多、感覚過多への深い憧憬を特徴とするAmnesia Scannerは、現在をカーニバル化する。ストリーミング・プラットフォームが主流となり、アーティストとファンの間のフィードバック・チャンネルがより直接的になるにつれて、音楽やライブ・パフォーマンスの聴き方がどのように進化しているかを含め、彼らの作品の中核には、現代の体験がどのように媒介されているかという関心がある。

2014年のミックステープ『AS Live [][][][][]』をベースに、グライム、トラップ、レイヴのデータ・リッチなメッシュと、2015年のオーディオ・プレイ『Angels Rig Hook』で絶賛された機械仕掛けのナレーターを織り交ぜた。その直後には、アーティストのハーム・ヴァン・デン・ドーペルとビル・クーリガス(PANの創設者)とのサイバードローム・オーディオ・ビジュアル・プロジェクト、Lexachastを発表した。純粋なAmnesia Scannerの領域に戻ると、Young Turksの2枚のEP(ASとAS Truth)が2017年に到着し、デュオがますます知られるようになった没入的な環境を、ダークなレイヴ・ツールの研磨されたコレクションに抽出した。Angels Rig Hookの実体のないヴォーカリストは、デュオ初のLP『Another Life』(2018年 PAN)で "オラクル "として姿を変えて戻ってきた。このアルバムは、ポップな曲構成とアヴァンギャルドなEDMをカップリングし、子守唄から過熱したドゥームバトンやニューメタル・ギャバまでスイングする。2021年、Amnesia Scannerはセカンド・フル・アルバム『Tearless』をリリースした。このアルバムは「地球との決別の記録」であり、サウンド的にもメロディ的にも、彼らの特徴であるオーヴァークロック・ポップという作品の幅を広げている。ラリータ、LYZZA、コード・オレンジがアムネシア・スキャナーに加わり、迫り来る崩壊へのボーダレスなサウンドトラックを作曲している。

Amnesia Scannerは、デンマークの大規模なRoskilde FestivalからベルリンのBerghain、ロンドンのSerpentine Galleriesまで、幅広い会場や環境でパフォーマンスを行ってきた。デザインとビジュアル・ディレクションは、PWRとコラボレーションしている。ヴィレ・ハイマラは、独立して、デヴィッド・バーン、FKAツイッグス、ホリー・ハーンドン、アン・イムホフなどのアーティストのために作曲し、プロデュースもしている。Amnesia Scannerでの活動以外にも、マルッティ・カリアラは建築家、文化批評家、クリエイティブ・シンクタンク「ネメシス」の共同設立者でもある。

https://pan.lnk.to/STROBE.RIP

https://www.youtube.com/watch?v=mgbSR7f4K-o&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=3MzBSV-_mjQ&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=N8mT3-YvmxE&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=5CEmVTzmzpw&t=143s


Lorenzo Senni [IT / WARP]

ダンス・ミュージックのメカニズムや動作部分のたゆまぬリサーチャーであり、尊敬されるエクスペリメンタル・レーベルPresto!!!の代表であるこのイタリア人ミュージシャンは、この10年で最もユニークなリリース『Persona』(Warp 2016年)、『Quantum Jelly』(Editions Mego 2012年)、『Superimpositions』(Boomkat Editions 2014年)を手がけている。

2016年にWarpと契約し、EP「Persona」は、デジタル・カルチャーと音楽の分野で最も有名で、最も長く続いている年間賞の1つであるプリ・アーツ・エレクトロニカで名誉ある「Honorary Mention」を受賞した。Pointillistic Trance(点描トランス)」や Rave Voyeurism(窃視レイヴ)という造語で自身のアプローチを表現するロレンツォ・センニは、トランスから脊髄を引き抜き、目の前にぶら下げるサディスティックな科学者のようである。

彼の作品は、90年代のサウンドとレイヴ・カルチャーを見事に解体し、その構成要素を注意深く分析して、まったく異なる文脈で再利用できるようにしたもので、反復と分離を重要なコンセプトとして、多幸感あふれるダンス・ミュージックに見られる”ビルドアップ”のアイデアを出発点として、高揚感はほどほどに、より内省的な作品を作り、暗黙のうちに感情の緊張とドラマを保っている。

Presto!!! レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に高く評価されているアーティストのアルバムをリリースしてきた。レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に評価の高いアーティストのアルバムをリリース。映画、演劇、映画音楽の作曲も手がけ、ユーリ・アンカラニの受賞作『ダ・ヴィンチ』や『ザ・チャレンジ』のサウンドトラック、ウェイン・マクレガーの『+/- Human』(コンピューター制御のドローンとロイヤル・ナショナル・バレエ団のダンサーによるダンス・パフォーマンス)などがある。また、アメリカの歌手ハウ・トゥ・ドレス・ウェル(How To Dress Well)の音楽も手がけ、テート・モダン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、MACBA(バルセロナ)、カサ・ダ・ムジカ(ポルト)、MACBA(バルセロナ)、Auditorium Nazionale Rai(トリノ)、Auditorium Parco della Musica(ローマ)、Zabludowicz Foundation(ロンドン)、ICA(ロンドン)などでLasers & CO2 Cannonsを含む作品を展示し、パフォーマンスを行っている。

https://linktr.ee/lorenzosenni

https://www.youtube.com/watch?v=qNlbN_YZHFY
https://www.youtube.com/watch?v=0UH2tqHTi_M&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=v_AjXH0xu4A&t=174s&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=X2Yh8zkC-0g&ab_channel=ka1eidoscopic2

インタビュー@eleking “パンデミックの中心で「音楽を研究したいだけ」と叫ぶ!”
https://www.ele-king.net/interviews/007574

インタビュー@SSENSE “ロレンツォ・センニ:情熱の規律”
https://www.ssense.com/ja-jp/editorial/music-ja/lorenzo-senni-discipline-of-enthusiasm?lang=ja

Japan Vibrations - ele-king

 パリに生まれ東京で育ったDJ、アレックス・フロム・トーキョーがこのたび、日本のエレクトロニック・ダンス・ミュージックに特化したコンピレーション・アルバムをリリースすることを発表した。細野晴臣からはじまり、Silent Poetsや横田進、オキヒデ、Mind DesignやC.T. Scan等々、ジャンルを横断しながら駆け抜ける。(トラックリストをチェックしましょう)この秋の注目の1枚ですね。

 また、このリリースに併せて、11月2日から13日までDJツアーも決定。(11/2 鶴岡 Titty Twister、3日 京都Metro、4日 大阪House Bar Muse、5日は東京で6年振りにGalleryを開催、8日 東京Tree@Aoyama Zero、9日 熊本Mellow Mellow、10日 福岡Sirocco、11日 旭川Bassment。なお、11月1日にはDOMMUNEにて特番も決定しております。

V/A
Alex from Tokyo presents Japan Vibrations Vol.1

world famous
アナログ盤は日本先行で2023年11月01日発売
CDは2023年11月22日発売

トラックリスト:
1. Haruomi Hosono - Ambient Meditation #3
2. Silent Poets - Meaning In The Tone (’95 Space & Oriental)
3. Mind Design - Sun
4. Quadra- Phantom
5. Yasuaki Shimizu - Tamare-Tamare
6. Ryuichi Sakamoto - Tibetan Dance (Version)
7. T.P.O. - Hiroshi's Dub (Tokyo Club Mix)
8. Okihide - Biskatta
9. Mondo Grosso - Vibe PM (Jazzy Mixed Roots) (Remixed by Yoshihiro Okino)
10. Prism - Velvet Nymph
11. C.T. Scan - Cold Sleep (The Door Into Summer)

 Alex From Tokyoが日本で重ねた25年以上の人生における音楽の回想録、第一章!

 『Japan Vibrations Vol.1』で、80年代半ばから90年代半ばまでの日本のエレクトロニック・ダンス・ミュージック・シーンの刺激的な時代に飛び込もう。東京でDJ活動をスタートした音楽の語り部でもあるアレックス・フロム・トーキョーが厳選したコレクションは、シーンを形作った先駆者たちや革新者たちにオマージュを捧げている。
 この秋にリリースされるこのコンピレーションは、日本の現代音楽史における活気に満ちた時期を記録したタイムカプセルとなる。また、その時代を生きた本人からのラヴレターでもある。
 アンビエント、ダウンテンポ、ダブ、ワールド・ビート、ディープ・ハウス、ニュー・ジャズ、テクノにまたがる11曲を新たにリマスター。国際的なサウンドに日本的な要素が融合した、楽園のような時代のクリエイティビティに満ちた創意工夫と、そのエネルギーを共に紹介する。
 シーンのパイオニアである細野晴臣、坂本龍一、清水靖晃、クラブ・カルチャーを形成した藤原ヒロシ、高木完、ススムヨコタ、Silent Poets、Mondo Grosso、Kyoto Jazz Massive、そして新世代アーティストのCMJK(C.T.Scan)、Mind Design、Okihide、Hiroshi Watanabeのヴァイブレーションを体験しょう。このクラブ・シーンの進化をDJセットの進行とともに展開します。

 本作はサウンドエンジニア熊野功氏(PHONON)による高音質なリマスタリングが施され、日高健によるライセンスコーディネート、アルバムアートワークは北原武彦。撮影は藤代冥砂とBeezer、と全員がアレックスと親交の深い友人達が担当。プレスはイタリアのMotherTongue Records。販売流通先はアムステルダムのRush Hour。サポートはCarhartt WIP。
 『Japan Vibrations Vol.1』は、リスナーを日本の伝説的なクラブで繰り広げられるエネルギッシュな夜にタイムスリップさせ、音楽の発見と内省の旅へといざないます。


Alex from Tokyo/アレックス・フロム・トーキョー
(Tokyo Black Star, world famous, Paris)
https://www.soundsfamiliar.it/roster/alex-from-tokyo

 パリ生まれ、東京育ち、現在はパリを拠点とする音楽家、DJ、音楽プロデューサー(Tokyo Black Star)、サウンドデザイナー(omotesound.com)&インタナショナル・コーディネータ。world famousレーベル主宰。
 彼のキャリアは約30年に及び、日本、フランス、ニューヨーク、ベルリンそして現在の拠点であるパリと、世界を股にかけて国際的に活躍中。
 アレックスを、限られた時空や芸術の連続体の中に閉じ込めてしまうのは、とても考えられないことであり、誰がそんなことをするというのだろう。
 4歳の頃から、東京に住んでいたアレックス・プラットは、地球最大の都市の音と光景の中で育つ。1991年9月に生まれ故郷のパリに帰国。当初は大学進学のためだったがパリのアンダーグラウンド・クラブ・シーンに飛び込み、1993年にパリでDj DeepとGregoryとのDJユニット「A Deep Groove」を設立してDJキャリアーをスタート。
 1995年に東京に戻ってきたAlexは、日本を目指した交流あるヨーロッパのレーベル、DJやアーティスト達の橋渡し役として活躍する事となる。Laurent GarnierのレーベルF Communicationsの日本大使になり、ロンドンのレコードショップ/レーベルMr. Bongoの渋谷店及びレーベルDisorientで働き、そしてフランスのYellow ProductionsとBossa Tres Jazz 「When East Meets West」の企画と日本側のコーディネートを行う。同時に東京のレーベルP-Vine, Flavour of Sound、Rush Productions、Flower RecordsやUltra VybeからミックスCDを製作。
 1990年代末にサウンドエンジニアの熊野功とTokyo Black Star名義でオリジナル楽曲やリミックスの制作を開始(2015年に高木健一が正式メンバーとして加入)。ベルリンのトップ・レーベルInnervisionsから2009年にファースト・フル・アルバム「Black Ships」を発表。
 クラブ・シーンを超えて、もうひとつのパッションである音楽デザイナーとしてAlexはインタナショナル・ファッション・ブランド(Y-3, Louis Vuitton, Mini, Li-Ning, wagyumafia)やセレクトされたクライアントのために音楽コンサルティングや制作を提供。2006年9月に日本の河出書房社から出版されたLaurent Garnierの自伝「Electrochoc」の日本語訳を担当。
 DJとしては日本と世界の音を吸収して「ディープ・ハッピー・ファンキー・ポジティブ」なサウンドを共有しています。
 2022年までの2年間ベルギー、ブリュッセルのKioskラジオで隔月に放送されている番組「ta bi bi to」(旅する人達のための音楽)では、世界中のリスナーに多彩な音楽の旅を提供。
 現在では、ベルリンのトップ・ゲイ・パーティCocktail D’Amoreでのレギュラー、そして日本ではDj Nori、Kenji HasegawaとFukubaと共に25年続けているSunday Afternoonパーティ「Gallery」のレジデントを務める。
 2019年にはベルリンからworld famousレーベルを再起動して、2023年の秋には日本のエレクトロニック・ダンスミュージックのコンピレーション企画シリーズ『Japan Vibrations Vol.1』を世界リリース。
 2023年9月1日にリリースされた所属のイタリアのDJエージェンシーSounds Familiar の10周年記念コンピレーション・アルバム『Familiar Sounds Vol.2 』に新曲 "Wa Galaxy "で参加。
 アレックスは、今も絶えることなく、音楽の旅を続けている。

 ゲーム音楽を追ってきた耳にとって、最初に大きなインパクトがあったのはLFOをはじめとするブリープ・ハウスでした。ものすごく音がそぎ落とされているところに、大昔のゲーム音楽や後のチップチューンに繋がるものを感じましたし、当時テクノ・ハウスと呼ばれていたものとも違う新しい波も感じていました。ただそのときはまだ〈Warp〉というレーベルを意識していたわけではなかったんです。

 90年代初頭はクラブ系のテクノの知名度が日本でも高まってきた時期ですが、その頃いわゆるハードコアが中心だったところに、正反対ともいえるアンビエント志向のものが出てきた。正直なところ最初はピンと来なかったんですが、それでも新しさに惹かれて追いかけていくなかで、最初に愛聴したのは〈Apollo〉から出ていたエイフェックス・ツインの『Selected Ambient Works 85-92』(92)だったかな。それを経て『Artificial Intelligence』(92)に辿り着きます。ここでやっと〈Warp〉というレーベルを意識するに至り、そのあとにLFOも同じレーベルだったのかと気づく。「なるほど、まだジャンルとして固まっていないものをいちはやく形にしていくレーベルなんだ」ということがわかってきて、〈Warp〉の先見性が見えてくる感じでしたね。

 93年~94年にかけて有名どころは一通り聴いていたと思います。ザ・ブラック・ドッグやエイフェックス・ツインといった『AI』の軸線上のものはもちろん、ケニー・ラーキンとかリッチー・ホウティンあたりのデトロイト系アーティストのものも好んで聴いていましたね。

 いい意味で想定外というか、予想を遥かに上回るものが出てきたなと感じたのは、特にオウテカ、セイバーズ・オブ・パラダイス、スクエアプッシャー。僕にとってはまさに先見性の塊という感じで、どれも「こういう音楽があっていいんだ」という衝撃がありましたね。オウテカで初めて聴いたのは『Amber』(94)でしたが、より衝撃だったのは大化けした『Tri Repetae』(95)以降。セイバーズ・オブ・パラダイス『Haunted Dancehall』(94)は、僕にトリップホップの醍醐味を教えてくれた大事な1枚です。

 スクエアプッシャーは、やはり『Hard Normal Daddy』のインパクトが大きかった。エレクトロニック・ミュージックとそうじゃないものの境界をこれまでにない感覚で攻めている印象があって、まさに僕にとっての〈Warp〉らしさ、つまり「ジャンルとして固まっていないもの」への貪欲さを感じました。

 〈Warp〉が繰り出してくるような音楽は、おなじエレクトロニック・ミュージックでもゲーム音楽とは相容れないというか、ゲーム音楽でやるには先進的すぎるシロモノという認識で、「こういうものがゲーム音楽にも入ってきたらいいなあ」と思う一方で、「まず入ってこないよね」みたいな感覚でした(笑)。でもゲームの外側でなら、そのふたつを接合できるのではないかというところで、チップチューンに意識が向いていったところもあります。当時はエレクトロニック・ミュージックとチップチューンを接合しうる領域としてエレクトロがあったのですが、そういえば〈Warp〉は一時期エレクトロ方面でも攻めていましたね。LINK、Jake Slazenger、ドレクシアなど。ダンス・ミュージックとしてチップサウンドを開拓することは可能か? ということに当時心を砕いていたので、そのあたりの音源や、〈Rephlex〉や〈Clear〉といったエレクトロのレーベルにより関心が向くようになりました。チープなエレクトロ、たとえばDMXクルーなどは非常に参考になりましたね。あるいはアタリ・ティーンエイジ・ライオット周辺とか、kid606の〈tigerbeat6〉とか。この時代にはハードコア寄りの音とチップチューンの距離が意外と近くて、〈tigerbeat6〉からコモドール64のコンピレーションが出たりしていたんですよ。

 そんな感じで00年代になると〈Warp〉からは耳が遠ざかっていくんですが、それでもプレフューズ73クリス・クラークなどは折に触れて聴いていましたね。なんだかんだで、ちょっと一筋縄ではいかない感じのエレクトロニカが結構好きなんですよ。「え、こんなのも〈Warp〉から出るの?」という意味では、バトルズにも驚かされました。

 2010年代になると〈Warp〉の動向には疎くなるんですが、日本のゲーム音楽のドキュメンタリー『Diggin' in the Carts』(2014)の企画で出演依頼などが来たときに、フライング・ロータスハドソン・モホークといったゲーム/ゲーム・サウンドに影響を受けたエレクトロニック・ミュージシャンがいることを知りました。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーも、そんな流れのなかで発見したアーティストです。

 既存のジャンルの枠組では表現できないなにかを持っているアーティスト、というのが最初の印象でしたね。そこはとても〈Warp〉らしいなと。2010年代の作品はどれも研ぎ澄まされていますが、個人的にはその前の、アナログ・シンセを主体にしている作品、特に『Rifts』に好きなところが詰まっています。

 彼の音楽を聴いて興味深かったのは、映画なども含め、かなりいろんな音楽・音響のありかたを「体験」として積み重ねてきたひとなのだろうなということです。それら多くの体験のひとつにゲーム・サウンドがあった。ゲーム音楽から直接的な影響を受けているというよりも、ゲームをひとつの音響的な体験として吸収しているのだろうなと感じます。

 彼は以前のインタヴュー(http://monchicon.jugem.jp/?eid=1891)でゲームの音について言及していました。そこで、ゲームの音楽それ自体についてはそれほど面白いとは思わないけれど、映像と音の(ミス)マッチングという面から独特な体験をゲーム音楽は与えてくれると言っています。普段ゲームにどっぷり浸っているわれわれのような人間からすると、すでに慣れてしまっているのでわかりにくい感覚ではあるのですが、たとえば弾幕シューティングの後ろでフュージョンが流れているというのは、よく考えてみると不思議な組み合わせではありますよね。OPNはそのギャップみたいなところも含めて面白いものとして受けとっているそうです。ゲーム音楽産業の内側からはできない形で、ゲームと音楽の関係の楽しみ方を広げてくれるアーティストとして、彼には注目していますね。

 ちなみに、今回の新作では音楽生成AIが使われているようです。ゲーム・サウンドにおけるAIの活用もいままさにスポットライトを浴びつつある領域ですが、実はゲーム音楽とAIの歴史には蓄積があります。古代祐三さんという作曲家がいて、ハドソン・モホークが影響を受けたことを公言している方ですが、彼がメガドライブのゲーム『ベアナックルIII』(1994)──海外で非常に人気のタイトルです──の音楽をつくる際に、早くもAIを利用しているのです。OPNを出発点に、そういった歴史を紐解いてみるのも面白いかもしれませんね。

※当記事は小冊子「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとエレクトロニック・ミュージックの現在」に掲載された文章の未発表ロング・ヴァージョンです。

interview with Ed Motta - ele-king

 人間ウーファーとでも言いたくなるようなダイナミックな歌声の巨漢、エヂ・モッタは1971年、ブラジル・リオ生まれ。ブラジルを代表するソウルマン、故チン・マイアの甥にあたり、子どもの頃からソウルやロックを聴いて育った。88年、17歳でファースト・アルバムを発表。ソウル~ファンク系のシンガー・ソングライターとして人気を確立した。
 97年、70~80年代のソウル、ファンクを散りばめた名盤『Manual Prático para Festas, Bailes e Afins Vol.1(パーティー・マニュアル)』が日本でも発売された。2000年代には Mondo Grosso の『MG4』、坂本龍一がジャキス&パウラ・モレレンバウム夫妻とのユニット、Morelenbaum2/Sakamoto でアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲をリオで録音した『Casa』にゲスト参加した。
 「俺がブラジル音楽を聴き出したのは1992年以降に過ぎない。でも聴き始めてからレコードをコレクションしまくり、今では全部持ってるぞ(笑)」と豪語。数万枚のレコード・ライブラリーはブルース、ソウル、ロック、ジャズ、映画音楽、クラシック、そしてブラジル音楽など広範囲に及び、日本のジャズ、シティ・ポップのコレクションも豊富だ。
 自身の音楽も2000年代以降、幅を広げてジャズや映画音楽などを取り入れ、2013年のアルバム『AOR』は日本でもヒット。同年の来日公演では山下達郎の「Windy lady」も歌った。
 50代を迎えたエヂ・モッタが10月20日、世界同時リリースした最新作が『Behind The Tea Chronicles』。全曲、エヂが作詞作曲し(歌詞は英語)、リオを中心にデトロイト、プラハでもレコーディングを行なった。彼の音楽の多彩なバックグラウンド、映画に対する愛と知識などを反映した、美食家エヂ・モッタの真髄ここにあり!と言える新作だ。メール・インタヴューで全曲についてコメントしてくれたので、鑑賞の参考にしてほしい。

レコード・コレクターとして、僕はこの数年間、実に多くのことをリサーチしてきた。この趣味は、毎日人生について教えてくれるんだ。

『Behind The Tea Chronicles』からは、R&B/ソウル、ジャズ、ブルース、フィルム・ミュージック、AOR、そしてスティーリー・ダンの音楽など、さまざまな要素が聴き取れる。君が書いた歌詞が映画のストーリーのようであることも含め、フィルム・ミュージックの要素が強いと感じた。コロナ禍で外出できずにいた期間、家で多くの映画を見ていたことの影響がある?

エヂ・モッタ(以下EM):音楽以外にも、僕はティーンの頃からずっと映画に夢中で、80年代後半には名作映画のファンジンを自主制作していたんだ。僕は妻のエヂナ(注:漫画家、イラストレイター)と一緒に、以前は毎晩、映画を2本、見ていた。だから映画は僕にたくさんの情報と感情を与えてくれるし、それは僕の音楽制作に繋がっているよね。レコード・コレクターとして、僕はこの数年間、実に多くのことをリサーチしてきた。この趣味は、毎日人生について教えてくれるんだ。

約3年に及ぶコロナ禍はあなたの音楽、そしてこのアルバムの制作プロセスに何か影響を与えた?

EM:もともと僕は、基本的に自宅にいるんだ。本当にたまにしか外出しないから、僕の生活はそもそもロックダウンのような感じでね。このアルバムのいくつかのパートを録音したスタジオも家の2階にあるし、本、映画、ピアノ、ワイン、僕の大好きなものは全部家の中にあるからね。

アルバムの制作プロセスについて聞きたい。まずベーシックなレコーディングをリオ郊外の自然に囲まれた環境にある、ホシナンチ・レーベルのスタジオで行なった理由は? ちなみにホシナンチ・レーベルは近年、レチエリス・レイチのアルバムなどを通じて日本でも注目されている。

EM:これは実務的な理由でホシナンチ・スタジオは、最近ではブラジルのベストのスタジオなんだ。僕はいつも、どうやったらベストのサウンドが録音できるのかを研究して、彼ら(注:ホシナンチのスタッフ)はオーディオ・マニアで、たくさんのマイクを所持していて、素晴らしい録音機材も揃っている。おかしな話だけど、都会のほうが好きな僕にとって、自然の中で過ごすのは結構おかしな気持ちになるのだけど、それでも良いサウンドで録音したいからね。

ストリングスの録音をプラハのスタジオで、ホーンズの録音をデトロイトで行なった理由と、手応えは?

EM:ミュージシャンがどこを起点に活動しているかってことだね。アメリカのビッグ・バンドの伝統とヨーロッパのクラシック音楽、それぞれのミュージシャンのサウンドから力を借りたかったんだ。

USAで行なったバッキング・ヴォーカルの録音に、ポーレット・マクウイリアムス、フィリップ・イングラムが参加したことが興味深い。彼(彼女)とは録音の前から知人だった? それともカマウ・ケニヤッタの紹介?

EM:私は彼らのことを、彼ら自身のプロジェクトで知ったんだ。ポーレットはたくさんの名作をレコーディングしているし、フィリップの Switch は素晴らしいバンドだよね。カマウはヴォーカルだけでなく、ホーン・セクションも手伝ってくれた。僕は彼らがとても複雑なハーモニーを驚くべき仕事の速さで録音してくれて感動したよ。素晴らしいね! とてつもないよ!

これから、各曲についてコメントしてほしい。まず “Newsroom customers” には、君が書いた歌詞にストーリーがあり、編曲は映画音楽を想像させる。参考にしたものは?

EM:音楽的にはブラジリアン・ミュージックらしいコード・チェンジとパーカッションが目立つ、ソウル・ミュージックとブラジル・ミュージックをブレンドした楽曲だと思っている。ストリングスは、僕が1990年にリリースしたセカンド・アルバムでとても重要な役割を果たしたんだけど、今回もストリングスを録音する機会を得たことが光栄だったし、楽しめたよ。この曲のストーリーは、偉大な作家になる才能を持っていたライターがマフィアとつるみ始めるようになる話だ。この曲でのマフィアは、アート・ビジネス、音楽、映画などのことを描写している。この曲を作るにあたって、僕が好きなふたつの映画、ビリー・ワイルダーの『地獄の英雄(Ace In The Hole)』、アレクサンダー・マッケンドリックの映画『成功の甘き香り(Sweet Smell Of Success)』(注:共に50年代のUSA映画)からも影響を受けていると思うよ。

歌詞がSF的な “Slumberland” の発想は?

EM:“Slumberland” の名前はアニメーション映画の創設者であるウィンザー・マッケイのコミック・ストリップ作品『夢の国のリトル・ニモ(Little Nemo In Slumberland)』から来ているんだ。「彼らはスウィートな妖精のように塔の中でタバコを吸って、毎日繰り返される悲痛な “善意の誇示”」という歌詞に、現実離れしていてシュールな雰囲気が漂っていてね。ミックスを終えたとき、チャールズ・ステップニーやボーンズ・ハウの気持ちになったよ。サンシャイン・ポップだ。

僕が音楽を制作するときに、スティーリー・ダンはいつも側にいるんだ。アレンジやミックスの段階でかなり影響を受けていると思う。

“Safety far” のファンキーなサウンドの参考にしたものは?

EM:ノーマン・コナーズ、スティーヴィー・ワンダー、リオン・ウェアらの、面白いコード・チェンジを使って洗練されたソウル・ミュージック。この曲は既に20万回以上、Spotify でプレイされていて、とても嬉しいね(注:再生回数は2023年10月初頭現在)。

“Gaslighting Nancy” のサウンドは、スティーリー・ダンへのオマージュ? それだけではなく別の音楽の要素もあるように思う。

EM:この曲は、かなりボサノヴァのコード・チェンジを利用しているんだ。特にブリッジでね。アントニオ・カルロス・ジョビン風だよ。でも僕が音楽を制作するときに、スティーリー・ダンはいつも側にいるんだ。アレンジやミックスの段階でかなり影響を受けていると思う。リリックについては、ジョージ・キューカーの映画『ガス燈(Gaslight)』に関係があるね。

ミシェル・リマ(ピアノ他)とふたりだけで録音した “Of Good Strain” が、アルバムの中で効果的だ。日本で言えば “ワビ” “サビ” のような。この曲のコンセプトは?

EM:「wabi」「sabi」という用語を知れて嬉しいよ! そうだね、これはミニマリズムだ。この曲はブロードウェイ・ワルツで、フランク・レッサー、サイ・コールマン、ハリー・ウォーレンといったレジェンドな作曲家たちから影響を受けたよ。曲のストーリーは、手塚治虫のアダルトなグラフィック・ノベルに関連しているかもしれないね。現実的でファンタスティックだ。

“Quatermass has told us” は歌詞もサウンドもSF的だ。この曲のコンセプトは?

EM:『クウェイターマス』は、BBCで最初に放送されたサイエンス・フィクションのテレビ・シリーズで、最終的にはカラー放送で3つの映画が公開されたんだ。アルバムの中で最もファンキーな曲で、いちばん複雑なコード・チェンジが繰り広げられる。僕の中ではジェネシスのアルバム『Wind And Wuthering』と、坂本龍一のコードが偶然、出会ったかのような曲だ。

“Buddy longway” でのエヂ・モッタは、ブルースマン?

EM:そうだよ! 田舎のブルースマンさ。僕はキャリアの最初の頃からブルースマンが大好きでね。サン・ハウス、ブッカ・ホワイト、スキップ・ジェイムスとか。“Buddy longway” は、70年代のフランスのコミックのキャラクターなんだ。

“Shot in the park” も、1本の映画を見ている想いにさせられる曲だ。コンセプトは?

EM:この曲は、不良のボーイフレンドにキャリアを台無しにされた歌手のことを歌った、とてもフィルムノワールな曲だ。音楽的にはドナルド・フェイゲンの『Nightfly』へのラヴ・レターだよ。このアルバムでのブルースの使われ方は本当に見事で、音楽に対する私のヴィジョンを変革させたんだ。

“Deluxe refuge” も映画のような歌詞と曲で、サウンドにはサンバ・ジャズの要素も感じる。この曲のコンセプトは?

EM:タブラを含んだエレクトリック・ジャズ・サンバで、『刑事コロンボ』に登場する宝石窃盗団の物語のように、冒険的なムードで楽曲を盛り上げているよ。

“Tolerance on high street” は “bluesy jazz cinema” な曲だ。コンセプトは?

EM:この曲もブロードウェイから影響を受けた。ホーギー・カーマイケルとハロルド・アーレンは僕のお気に入りの Blue-Jazzy コンポーザーで、ふだんからよく聴いている。彼らのクラシックである “Skylark” や “Blues In The Night” をよく歌っているよ。僕はこの曲に30s~40sのムードを感じるかな。

ピアノを弾きながら歌う “Confrere’s exile” の歌詞が印象的だ。この曲(歌詞)に、どんなメッセージを込めた?

EM:この曲は密度、感情、複雑さが詰まった、アルバムの中でいちばん奥深い曲だね。リリックはたぶん成熟についての僕の詩的なヴィジョンで、このリリックは中性的な雰囲気を作り出すのが狙いだったんだ。

アルバム・タイトル『Behind The Tea Chronicles』について。約10年前、リオの君の家を訪れたとき、君が「ワインのほかに最近、Tea をコレクションしている」と話していたことを覚えている。一口に Tea と言っても、日本の “お茶” を含め世界中にさまざまな種類の Tea があるが、中でも君の好きな Tea は、どの国のどんな Tea?

EM:ヴェージャ・オンライン(注:ブラジルの大手サイト)でお茶とワインについてのコラムを連載していたことがあって、エミリアーノという有名なホテルのために莫大なお茶のリストを作ったこともある。日本のものだと玉露がお気に入りで、eBay で複合されたヤツを見つけたこともある。他には台湾の Oolong High Mountain というお茶が大好きだね。

ブラジルを代表するレコード・コレクターとして、最近はどんな音楽を中心に dig している? 国籍、ジャンルを問わず、思いつくままにあげてほしい。

EM:数え切れないほどたくさん聞くよ。これが最近のベスト10かな。

1) Mariano Tito - Mariano Tito Y Su Orquestra De Jazz (ARGENTINA)
2) Lasse Färnlöf - The Chameleon (SWEDEN)
3) Ion Baciu Jr. - Jazz (ROMENIA)
4) Claudio Cartier - Claudio Cartier (BRASIL)
5) The Galapagos Duck - The Removalists OST (AUSTRALIA)
6) Michel Sardaby - Night Cap (MARTINIQUE)
7) Fernando Tordo - Tocata (PORTUGAL)
8) Pacific Salt - Jazz Canadiana (Canada)
9) Louis Banks - City Life (INDIA)
10) Heikki Sarmanto Sextet - Flowers In The Water (FINLAND)

最後に、日本のジャズ、シティ・ポップについて。最近、知って、気に入ってる音楽家・歌手は?

EM:日本の音楽はいつも僕のスピーカーから鳴ってるね。これがトップ5かな。

1) 鷺巣詩郎 with Something Special - Eyes
2) 松本弘&市川秀男カルテット - Megalopolis
3) 濱田金吾 - Midnight Cruisin'
4) 丸山繁雄 - Yu Yu
5) ゲルニカ - 電離層からの眼差し

Chihei Hatakeyama - ele-king

 畠山地平の『Hachir​ō​gata Lake』を毎日繰り返し聴いている。音を流すだけで、周辺の空気が変わり、「環境」について意識的になるし、その蕩けるような音の持続が心身のコリを解してくれる。個人的な感覚で恐縮だが、どこか良質なシューゲイザーのアルバムを聴いているような音の快楽があった。
 要するに日々の疲労のなか、自分を労わるように聴いてしまうのだが、秋田県にある「八郎潟」という湖を主題にしたアルバムが、なぜ聴き手の心身を癒すような、よりパーソナルな効能を持っているのだろうか。そこがとても重要に思えた。おそらくそこには90年代以降の「アンビエント・ミュージック」の大きな展開が内包されているのではないかと。

 90年代中期から00年代中期のあいだに「アンビエント・ミュージック」は、「環境のための音楽」から「環境についての音楽」という面が加わったという仮説を付け加えてみたい。かのブライアン・イーノが提唱したアンビエント・ミュージックの概念から離れつつ(拡張しつつ)、環境について問い直しつつ、「心身に効く」音楽の方へと接近していったように思えるのだ。いま思えば、この時期にアンビエントのニューエイジ化ともいえる事態が進行したのかもしれない。
 そうして生まれた00年代以降の「新しいアンビエント・ミュージック」は、環境音もドローンも環境それ自体を再考するような音楽であったとするべきだろうか。同時に音楽スタイルは、淡いドローンを基調としつつ、クラシカルからフォーク、ミニマル・ミュージックから電子音楽まで、さまざまな音楽が混合し溶け合っていくようなものとなっていった。上記のような意味でも、アンビエント・ミュージックにおいてスターズ・オブ・ザ・リッドは重要かつ偉大な存在であったといえる。加えてイックハル・イーラーズやシュテファン・マシューの初期作品もまた重要なアルバムである。

 そして畠山地平のアンビエント・ミュージックは、まさに「環境についてのアンビエント」ではないかと私は考える。彼の音楽には彼自身の旅の記憶、つまり環境への記憶が音楽のなかに溶け合っている印象があるのだ。これは畠山の多くのリリース作品に共通する傾向だが、本作はそれがさらに高みと深みを獲得しているように思えた。同時に彼の音には体のいたるところに届くような圧倒的なまでの心地よさがある。
 彼の活動歴は長く、作品も多岐に渡るが、なかでも本作は、そんな環境と心身に効く音楽として素晴らしい出来栄えを示していた。傑作といっても過言ではない。畠山は、これまで老舗〈Kranky〉やローレンス・イングリッシュが運営する〈Room40〉、自身が主宰の〈White Paddy Mountain〉などの国内外の電子音楽レーベルからアルバムを多くリリースしてきた。本作『Hachirogata Lake』は、そんな彼の作品の中でも一際、重要な指標になり得るアルバムである。

 『Hachirogata Lake』は、秋田県にある湖「八郎潟」、その草原保護区、尾形橋、排水路などでフィールド・レコーディングした音をモチーフに、彼ならではのドローンを交錯させていく実に美しい作品である。リリースは、オランダの電子音楽レーベル〈Field Records〉。このレーベルは Sugai Ken の「利根川」もリリースしており、日本の「湖」をテーマにしたシリーズの2作目だ。「日本とオランダが共同でおこなった水管理の歴史を探求するシリーズ」だという。
 じっさい八郎潟は、「第二次世界大戦後に、オランダ人技師 Pieter Jansen と Adriaan Volker の協力を得て、政府が大規模な干拓工事をおこない、1977年の工事完了後、周辺地域から植物が繁殖し、鳥類をはじめとする野生生物の種類も増え、新たな生態系が確立された」というのだ。オランダと日本の「水」をめぐるこんな素晴らしい歴史を知ることができただけでも、このアルバムを知る/聴く意味はあった。
 もちろん、先に書いたように畠山地平の音楽自体も大変素晴らしいものだ。畠山のギター・サウンドとドローンがレイヤーされ、ロマンティックな音世界が美麗に折り重なり、ずっと聴き込んでいくと、たとえようもないほどの心地よさを得ることができた。単にシネマティックというのではない。雄大・壮大であっても人の心に染み込むようなサウンドスケープなのである。身体に「効く」音なのだ。
 全9曲が収録されたアルバムだが、どの曲も環境音とギター、ドローンが溶け合うように交錯し、記憶の中に現実が溶け合っていくような感覚を得ることもできる。中でも二曲目 “水に鳥 / Water And Birds” に注目したい。水の音、鳥などの野生動物のフィールド・レコーディングされた音からはじまり、次第に音楽的な要素、アンビエントなドローンやギターなどがレイヤーされ、やがて環境音は消え去り、畠山のサウンドのみが時間を溶かすように流れ続ける。とにかく冒頭の水の音からしてアンビエントのムードを醸し出している。
 「八郎潟」という湖(の音)と、その歴史、その場所でフィールド・レコーディングした畠山の記憶が交錯し、融解し、ひとつの「アンビエント=音楽」に生成されていったとでもいうべきか。このアルバムに限らずだが、畠山地平の音楽にはいつもそういう溶け合っていく記憶のような音楽のような感覚がある。
 同時に畠山の音はとても気持ちが良い。聴いていると、あまりの心地よさに意識が遠のいてしまうそうになるほどである。この深い「癒しの感覚」は何か。彼の音楽が環境と身体という具体的なものからはじまっていることに起因するのだろうか。
 いずれにせよ『Hachirogata Lake』は、湖の「環境」を音として感じ、心と体に心地よさを与えてくれる最良のアンビエントである。
 じじつ、私はこのアルバムを聴いているとき、日常の疲れが溶けていくような感覚を得た。日々の暮らし、生活の中でも大切なアルバムになるだろう。

liQuid × CCCOLLECCTIVE 中野3会場回遊 - ele-king

 「死ぬまで遊ぼう!!!」

 AROW(fka Ken Truth)が最後に放った飾り気のない一言。それを受け彼を抱き締める拳(liQuid)。電池切れ寸前まで走り抜いたふたりの主催者の素の人間くささが表出して、音楽は鳴り止む……そんな実にありふれた幕切れを迎えたこのパーティは、ありふれているからこそ特別な一夜として記憶に焼き付いた。平日も休日も音楽について考えてばかりだと「あー楽しかった」で終われる日も次第に目減りしていってしまうものだけど、この日ばかりは100%の純度で、スカっとした感覚のまま走り切ることができた。まずはそこに純粋な感謝を。

 2021年に旗揚げされ、トレンドの潮流を汲みつつ独特の違和感をブレンドしたオーガナイズを続けるプロモーター・拳(こぶし)によるパーティ・シリーズ〈liQuid〉と、2010年代末にコレクティヴ〈XPEED〉を立ち上げ現行インディ・クラブ・シーンの潮流をいち早く築き上げた立役者・AROWが新たに始動したコミュニティ〈CCCOLLECCTIVE〉初の共同企画としておこなわれたのが、この「中野3会場回遊」だった。なお同日、世間ではTohji率いる〈u-ha〉とコラボレーション開催された「BOILER ROOM TOKYO」やゆるふわギャングによる「JOURNEY RAVE」などのビッグ・パーティが各地で開催されていたが、それらと一見同質のようで全くの異物である、人と人との有機的なつながりに基づく営みであったことも印象深い。

 総計30組以上が知名度やシーンを越境して混ざり合う特異点となったこの日、メインステージのheavysick ZEROではアンビエント~ノイズ~エレクトロニカ~デコンストラクテッド(脱構築)・クラブといった実験性の強い電子音楽や、トランス~ジャングル~ゲットー・テック~レフトフィールド・テクノなどの異質さを備えたクラブ・ミュージック、レゲトンやトラップ、ダブステップなどバウンシーな熱気に下支えされたストリート・ミュージックが2フロアで同時多発的にプレイされ(B1Fではマシン・ライヴも!)、サブ・フロアとなる2022年オープンの小箱・OPENSOURCEと〈Soundgram〉主催DJ・PortaL氏が営むバー・スミスではハウシーなクラブ・マナーを下地にしつつジャンルレスな音楽がスピンされ続けた。

 無論、出演者単位で切り取るべき素晴らしいアクト、素晴らしい瞬間はいくつもあった。国内Webレーベルの筆頭〈Maltine Records〉からのリリースも話題となったDJ・illequalの希少なライヴが見せた激情と繊細さのコントラスト、世界的に活躍しながらも日本のロードサイドの慕情をこよなく愛する電子音楽家・食品まつりa.k.a FOODMANが〈ishinoko 2023〉帰りの足で披露した戦慄の前衛サイケデリック・ドローン(これはかなり怖かった)、かつて2010年代後半にアンダーグラウンド電子音楽シーンを築いたDIYレーベル〈DARK JINJA〉を率いたShine of Ugly Jewelのゴシックなレイヴ・セットなど、副都心エリアの小箱というスケール感を大きく超えたギグが同時多発的に各ヴェニューで繰り広げられていた。知らない人は知らないが、知っている人には垂涎のラインナップ。いま、クラブ――けっしてビッグ・ブランドの支配下にない、人の息遣いがすぐそばに在るインディ・クラブ――を追いかけているすべてのユースは、このタイムテーブルを前に「他会場の様子を覗きに行きたくても行けない!」というアンビヴァレントな悩みに苛まれたことだろう。

 けれど、そういったアーティスト個々の表現にフォーカスするよりは、なんとなく全体を取り巻くムード自体の方にエポックな一時があったように思える。スミスでのオープニングDJをきっかり128BPMで果たしてからはひたすら3拠点を駆けずり回り、フロア・ゾンビとなって朝を迎えた身としては、羽休めに立ち寄ったヴェニューをソフトなサウンドでロックしていた初めて出会うDJの所作や、移動中偶然会った友人と公園で過ごす10分限りのチルタイム、夜明け前の空のあの群青色、フロアの熱狂を尻目に閑散としたバーで頼んだ鍛高譚(ソーダ割り)の味……そうした合間合間に訪れるエア・ポケット的な一時がただ愛おしかった。フロアの内にも外にも色濃くクラブ的な体験が根付いている、そんな極上の遊び場を20代の我々が自力で作り上げた、という実感も含め、忘れられない高揚感に包まれた。

ちなみに、朝7時近くまで続いたパーティの終盤には、前述した複数のイベントから流れてきたユース・クラバーもいつしか合流してきていた。「みんな」というのは実に恣意的な括りであり、現象を俯瞰するには適さない表現だが、そこには最後、たしかに「みんな」がいてくれた。その事実も、ただただ嬉しいことで。

 パーティの開放感はそのままに、各々が隠し持つ美意識がラフな形であけすけに表出してゆくような美しい一幕が、3つの拠点で同時多発的に展開されていく。それは市井の人々の暮らしを切り取って提示する群像劇のように。生活と地続きであり、音楽シーンを未来へと後押しするあらゆるインディペンデントな営みを「ハシゴ」という体験とともに凝縮する、というのがおそらく裏側にあるコンセプトなのだけど……そんな説明も野暮かもしれない。とにかくめちゃくちゃ楽しくて、めちゃくちゃ刺激的だった、みたいな。もう、それに尽きる。最高の夜だった。世のさまざまな不和を打ち破るには、アクチュアルに「死ぬまで遊ぶ」ことと本気で向き合い続けるしかないと改めて痛感した。

 たぶん、なにかを粛々と続けていけば、どこかで別のなにかが生まれて、潮目が変わっていく。そんな絵空事を馬鹿正直に信じて日々を紡ぐ覚悟を無意識のうちに持っている人々が、中野の小箱に(少なく見積もっても)160名以上が集まったというのだから、それは感動的な事実なのではないだろうか?(世代的にはやや外れた年頃の自分ではあるが)我々ユース層が大人たちに「Z」と十把一絡げに括られることへの抵抗感は、やはりこうした場を知らない層への反発から起こるものだろう。だって、そんな括りでは説明できない営みが、この国の各地で日々、ハレでもケでもない夜として確実に存在しているのだから。そう、遊び場に必要なのは純度のみ。いつの時代も人々が追い求めるのはピュアネスだろうと僕は信じている。フロアは暗く、クラブ文化の未来は明るい。

追記:本パーティについて一点だけ文句をつけるとしたら、それはフォトグラファーやビデオグラファーといった記録媒体を操るプロフェッショナル(ないしはプロを超越したアマチュアの才人たち)を迎え入れなかったことにある。本記事の執筆中、自身のカメラロールを見返してもそこにあったのは数本の動画のみで、写真の用意に窮する事態となった(オーガナイザーふたりの笑顔は、iPhoneのスクリーン・ショットで無理やり用意したもの)。

 そこで、InstagramやTwitter(現X)の各地に「なにかフロアの感じが伝わるような写真を送ってください!」と呼びかけてみたものの、寄せられたのはパーティの終わりごろに訪れた青年から送られてきた画素数の粗い1枚のみに留まった。つまり、そう、これは……「ナイス・パーティ」だったことを決定的に証明する事実でもある、ということ! アーカイヴという行為がここまでイージーとなったこの時代に、デバイスの存在を失念させるほどの体験を与えてくれたふたりに改めて謝辞を送る。
 AROW、拳、heavysick ZERO、OPENSOURCE、スミス、そしてすべての来場者と出演陣へ。過去/現在/未来を繋いでくれてありがとう。でも、あくまでここはスタート地点にすぎない。満足してなんかいられない。まだまだゴールしちゃいけない。そうでしょ?

※以下はパーティーと主催コレクティヴについての概要です

liQuid × Cccollective 中野3会場回遊

2023/09/30(sat) 22:00
at heavysick ZERO / OPENSOURCE / スミス

▼heavysick ZERO

B1F

LIVE:
Deep Throat
illequal
Misø
食品まつりa.k.a FOODMAN

DJ:
電気菩薩(teitei×Zoe×DIV⭐)
DJ GOD HATES SHRIMP
Hiroto Katoh
ippaida storage
PortaL
Shine of Ugly Jewel

B2F

AROW
Egomania

KYLE MIKASA
London, Paris
MELEETIME
Rosa
Sonia Lagoon

▼OPEN SOURCE

AI.U
ハナチャンバギー速報
Hue Ray
DJsareo
テンテンコ

▼スミス

かりん©
Hënkį
kasetakumi
kirin
kiyota
mitakatsu
NordOst
shiranaihana

『liQuid』
2021年より東京でプロジェクト開始。オーガナイザー・拳(こぶし)の音楽体験をもとにHIPHOPからElectronicまで幅広く取り込み、ジャンルやシーンに捉われない音楽イベントのあり方を模索している。PUREな音楽体験/感動を届けることに重きを置き、オーバーグラウンドからアンダーグラウンドまで幅広い層の支持を集めている。
Instagram : https://instagram.com/liquid.project_

『CCCOLLECTIVE』
2022年末に始動した〈CCCOLLECTIVE〉は、有機的な繋がりを持ったオープンな共同体を通して参加者に精神の自由をもたらすことを目標として掲げている、自由参加型のクリエイティヴ・プラットフォームである。これまで『Orgs』と題したパーティを下北沢SPREAD、代官山SALOONにて開催。また、2023年8月からは毎月最終水曜日の深夜に新宿SPACEにて同プラットフォーム名を冠したパーティを定期開催中。シーンを牽引するアーティストらを招き、実験と邂逅の場の構築を試みている。
Instagram : https://instagram.com/cccollective22

Speaker Music - ele-king

 また1人、ブラック・ミュージックの優れた才能が宇宙に向かっている。サン・ラーやURなど地上に公平なパラダイムが見出せないミュージシャンが宇宙に独自のヴィジョンを投影する系譜はさらに先へと伸びようとしている。アメリカの黒人たちを取り巻く状況が好転せず、ブラック・ライヴス・マターを頭から非難したキャンディス・オーウェンズのようなオピニオンが力を持つことでさらに悲観的になっているということだろうか。スピーカー・ミュージックことディフォレスト・ブラウン・ジュニアが4年前にケプラと組んだコラボレーション・アルバムのタイトルは『黒人であることの対価は死(The Wages of Being Black is Death)』(19)というもので、対価(Wage)は肉体労働に限定された報酬の意。それこそ『こき使われて死ぬだけ』というタイトルをつけたわけである。このことはさらに翌年からの新型コロナでエッセンシャル・ワーカーの死亡率という具体的な数字にも表れ、『別冊ele-king アンビエント・ジャパン』で取材したチヘイ・ハタケヤマもカリフォルニアに行くと「あちこちにブラック・ライヴス・マターのステッカーが貼ってあるけれど、エッセンシャル・ワーカーとして働いているのは黒人しかいない」という光景として認識できるという。スピーカー・ミュージックのセカンド・アルバム『Black Nationalist Sonic Weaponry』(20)はそうしたブラック・ライヴス・マターの動きをフィールド録音し、ドキュメンタリーとしての側面も併せ持っていたものの、21年にブラック・ライヴス・マターの幹部であるパトリッセ・カラーズらが寄付金を着服して豪邸を手に入れていたことが報道されてからは右派だけでなく左派からも風当たりが強くなり、評価はかなり流動的な様相を呈している。また、ブラック・ライヴス・マターの副作用として警官になろうという人が全米で減少傾向にあり、警官の数がどこも少なくなっているのをいいことにこのところブラック・ライヴス・マターのデモがある時を狙ってカリフォルニアやフィラデルフィアで不特定多数のフラッシュデモが商店の打ちこわしや略奪を繰り返していることは日本のニュース番組でも報道されている通り。店舗を閉めざるを得なくなった経営者からはブラック・ライヴス・マターのデモさえなければ……という逆恨みの声も。一方で昨秋、キャンディス・オーウェンズの知名度を引き上げることに一役買ったカニエ・ウエストは「ホワイト・ライヴス・マター」と書かれたTシャツを着てファッション・ショーに出たことでほんとに人気がなくなってしまった。最近のカニエ・ウエストはビアンカ・センソリと籍を入れたことも含め宗教的な話題ばかりになってしまった。

 『Black Nationalist Sonic Weaponry』はブラック・ライヴス・マターをメインに扱ったアルバムではなく、彼の政治的な主張はアメリカの産業構造やマルクス主義など歴史性を問うものが多く、それらが斬新なサウンドと組み合わせられることで初めて意味を持つアルバムだった。耳新しいと感じたサウンドのなかではハーフ・タイムとドラム・ファンクを組み合わせたような独特のドラミングが素晴らしく、これによってベース・ミュージックに新たな地平が切り開かれたことは確か。『Black Nationalist Sonic Weaponry』と前後してリリースされたディフォレスト・ブラウン・ジュニア名義『Further Expressions Of Hi-Tech Soul』(20)や4曲入りの『Soul-Making Theodicy』 (21)でもそのドラミングはさらに中心的な役割を果たし、シンコペーションの多用を存分に楽しませてくれた。そして、3年ぶりとなった3作目のフル・アルバム『Techxodus(テクノと大量脱出の合成語)』にももちろんこのフォーマットは受け継がれ、2曲目から4曲目は同系統の曲が並べられている。比較的、安心して楽しめるパートである。スピーカー・ミュージックのデビュー・アルバム『of desire, longing』(19)では、このドラミングはまだ大きな役割を与えられていず、サウンドの基調をなすのはゆらゆらとどこか幽霊めいたドローンだった。これが『Techxodus』ではオープニングと5、6、8、9曲目でパワフルなトーンを帯びて蘇り、単純に迫力を増したドラミングとドローンの組み合わせはスピーカー・ミュージックの新局面をなしている。ノイズともいえる攻撃的なドローンはURの登場を思い出させ、アルバム全体に漲る「怒り」を印象づける。そう、『Techxodus』はエルモア・ジェームズのブルーズ・ギターを思わせるほどパッショネイトで、同時にパブリック・エナミーのような恐怖の演出も試みる。フリーキーなトーンは曲を追うごとに激しくなり、最後に置かれた“Astro-Black Consciousness”ではあまりにも混沌としたウォール・オブ・ノイズが組み上げられる。もはやそれは地獄図に等しいものがある。僕はジャズにはあまり積極的な関心はないのでちょっと適当だけれど、この5曲はジョン・コルトレーン『Ascension』(66)の混沌としたアンサンブルを想起させるものがあり、思わず聞き直してしまったほど。『Techxodus』は彼がテクノやエレクトロニック・ミュージックの歴史について書いた著書『Assembling A Black Counter Culture』(未読)のエピローグの役割を果たし、また、ドレクシアの神話を語り直したものでもあるという。どの曲がどうそれに対応しているのかはわからないけれど、エピローグにあたるということは歴史の最先端を実践しているという意味に取れるし、ドレクシアの『Grava 4』や『Harnessed The Storm』といったアルバムに曲名として出てくる〝Ociya Syndor〟をそのまま曲名に使った“Our Starship To Ociya Syndor”は明らかにドレクシアの引用で、ドレクシアの「こんな星にいられるか」というメッセージと宇宙旅行を結びつけたロング・ドローンということなんだろう。この曲だけはドラミングがカットされている。そして、コンセプトが優先されたということなのか、それとも別に理由があるのか、これが7曲目に置かれてしまったことで、せっかくの流れが寸断されてしまい、どうも後半に入ると集中力を欠くアルバムとなってしまった。この曲はオープニングか最後に置かれた方がもっと活きたはず。あるいは、まとまりがよく感じられた『Black Nationalist Sonic Weaponry』に対して『Techxodus』はそのせいで重厚長大に過ぎて一気呵成に聴き通すのが少し面倒なアルバムになってしまったと僕は思う。なので、僕は“Our Starship To Ociya Syndor”は別で聴くか、『Ascension』系の5曲だけを繰り返し聴くことが多い。兵士たちの叫びをサンプリングしてオーディエンスが興奮しているかのように聞かせる“Dr Rock’s PowerNomics Vision”、レゲエ風のブラスがむちゃくちゃに貼り合わされた“Jes’ Grew”、あるいはJ・リンに影響を受けたらしき“Feenin”の奇妙なインプロヴィゼーションと、とにかく混沌としたヴィジョンがこの5曲は凄まじい。

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