「K A R Y Y N」と一致するもの

 6月29日土曜日、DUM DUM LLP(高円寺にお店を構えながら、ギターウルフからきのこ帝国まで、数多くの日本のすごいロック・バンドのライヴをサポートしている気さくな会社)とele-king(追放者による、世を忍ぶ両性具有者に人気の自己満足音楽メディア)は、この度、一緒にイヴェントをやることにした。
 もちろん、最近のele-king(いまだ律儀にもレコードとカセットとCDを大量に買っている古典派)が偏愛する、快速東京、きのこ帝国、SIMI LAB、砂原良徳、OORUTAICHI、ミツメ......、この半年でele-king(アシッド漬けの季刊誌)と愛人関係ではないかと噂されている下津光史(踊ってばかりの国)、そして、これから好きになりそうなgroup_inouやスカート、森は生きている、そして、ドイツからは、20年前から大好きなマウス・オン・マーズ、韓国からは、我らが英雄YAMAGATA TWEAKSTERの出演も決まっている。
 DUM DUM LLP(日本で一番のジーザス&メリー・チェインのコレクターであると自負する会社)との会議によって、当日はバーベキューも計画中である(量に限りアリ)。また、ディスクユニオン(世界でもっとも多種なレコードのビニール袋を売っているお店)が当日出店、掘り出し物アリの100円市開催ほか、橋元のフリマ、長州のMCなどいろいろ考えているので、疲れたときの暇つぶしには事欠かさないでしょう。

 それで場所、なんと、渋谷(20年前の若者の街)のO-WEST BUILDING(O-WEST・O-nest・7th FLOOR 三会場同時開催です)。午後3時からはじめて夜の10時までやる。出入り自由なので、腹が減ったら、好きなところで好きなだけディナーをどうぞ。飲み物の持ち込みだけは止めて欲しい。安く済ませたい人は、先行予約しよう。およそ1700円お得。
 出演者とDJはもうちょっと増える予定。ele-king(ロック魂を欠いた、尻尾と角を持った半身獣)でも何かやります。

【DUM-DUM PARTY 2013】
Curated by ele-king & DUM-DUM LLP

日時:2013年6月29日(土)
会場:渋谷O-WEST BUILDING(O-WEST・O-nest・7th FLOOR 三会場同時開催)
開場/開演:15:00(22時終演予定)
出演:
Mouse on Mars(ドイツ)
OORUTAICHI
快速東京
きのこ帝国
group_inou
SIMI LAB
下津光史(踊ってばかりの国)
スカート
砂原良徳(DJ)
ミツメ
森は生きている
YAMAGATA TWEAKSTER(韓国)
...and more!

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チケット:¥6,300(税込 / 全自由 /1ドリンク代別)
※3才以上有料
来場者全員特典:特製ZINE
チケット:5/11(土)発売
チケットぴあ(0570-02-9999)
LAWSON TICKET(0570-084-003)
イープラス(https://eplus.jp/
※ディスクユニオン、高円寺DUM-DUM OFFICE店頭でもお求め頂けます。

◎最速最安値先行予約
2013年4月15日(月)~4/26(金)(平日のみ12時~18時)
高円寺DUM-DUM店頭とweb予約販売¥4,649(税込/D別)
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『DUM-DUM PARTY 2013』

イベント特設サイト
https://party.dum-dum.tv/
※タイムテーブルや最新情報を随時発表していきます。

ル・トン・ミテ - クモコクド(雲国土)
SWEET DREAMS PRESS amazon

昨年末に『クモコクド』という、とてもカラフルでキュートでエレガンスでチャカポコでトタパタなアヴァン・ポップ・アルバムをリリースしたル・トン・ミテことマクラウド・ズィクミューズおじさんと、メンバーであり、奥様でもあるアン・ブルーニさんが来日を果たします。

マクラウドおじさんはアメリカ・アーカンソー州生まれ。その後ワシントン州オリンピアに移って、『シンプソンズ』のマット・グローニングや〈Kレコーズ〉のキャルヴィン・ジョンソン、スリーター・キニーやビキニ・キルといったバンドを輩出したことでも知られる名門エバーグリーン・カレッジに入学。そこで活版印刷と音楽を身につけました。

現在はベルギーのブリュッセルを拠点にし、クラムド・ディスクで働いたり、オケ(Hoquet)というバンドを率いたり、奥様のアンさんとゲスト・ハウス兼ギャラリー兼活版印刷工房のホテル・ラスティックを運営したり......と、マルチ・タレントぶりを発揮。そんな活動はディアフーフやフィル・エルヴラム(マウント・イアリ)、アールトやロンリー・ドリフター・カレン、マヘル・シャラル・ハシュ・バズ、テニスコーツ、yumboに野村和孝(PWFR Power)......と、素敵な出会いをさまざまに誕生させてきました。

そんなマクラウドおじさんのポップスはストレンジだけど本当に優しくて温かい――。オリンピア発祥のインターナショナル・ポップ・アンダーグラウンド、そのなかでもとびきり洒落てて妙ちきりんなル・トン・ミテのジャパン・ツアーをぜひお見逃しなく!

■Le Ton Mité Japan Tour 2013
ル・トン・ミテのジャパン・ツアー2013

■4月20日(土)東京・八丁堀 七針(070-5082-7581)
東京都中央区新川2-7-1オリエンタルビル地下
出演:マクラウド・ズィクミューズ(ル・トン・ミテ)、Che'-SHIZU(向井千惠+西村卓也+工藤冬里+高橋朝)
開場 7:00pm/開演 7:30pm 料金 2,200円(予約)/2,500円(当日)
予約:会場

■逆まわりの音楽 その5
4月21日(日)東京・立川 ギャラリー・セプチマ
東京都立川市柏町3-8-2/多摩都市モノレール砂川七番駅より徒歩2分
出演:ル・トン・ミテ、秋山徹次+Amephone's attc、スッパマイクロパンチョップ+野中太久磨、人形劇団銀座擬人座(クラモトイッセイ+酒井泰明 from moools)、河野祐子
開場 4:30pm/開演 5:00pm 料金 2,000円
予約:会場、スウィート・ドリームス・プレス、安永哲郎事務室

■4月22日(月)岐阜 本田(058-264-2980)
岐阜県岐阜市金屋横町5
出演:ル・トン・ミテ、マヘル・シャラル・ハシュ・バズ
開場 6:30pm/開演 7:00pm
料金 2,000円(予約制/定員になり次第締め切りとさせていただきます)
予約:会場(058-264-2980)

■4月23日(火)名古屋 パルル(052-262-3629 *当日の案内のみ)
愛知県名古屋市中区新栄2-2-19
出演:ル・トン・ミテ、夕食、葉っぱの裏側シスターズ
開場 7:00pm/開演 7:30pm 料金:2,000円(一般)/1,500円(住民)*ドリンク代別
予約:会場(新見)、スウィート・ドリームス・プレス

■4月24日(水)金沢 オヨヨ書林・タテマチ店(076-261-8339)
石川県金沢市竪町14-1
出演:ル・トン・ミテ、工藤冬里、工藤礼子
開場 7:00pm/開演 7:30pm 料金:2,000円
予約:会場、主催、スウィート・ドリームス・プレス

■4月25日(木)京都 喫茶ゆすらご(075-201-9461)
京都市上京区仁和寺街道七本松西入二番町199-1
出演:ル・トン・ミテ、川手直人、CRAZY POKYU
開場 7:00pm/開場 7:30pm 料金:2,000円 *ドリンク代別
予約:会場、スウィート・ドリームス・プレス

■4月26日(金)鳥取 ボルゾイ・レコード(0857-25-3785)
鳥取県鳥取市新町201上田ビル2F
出演:ル・トン・ミテ、川手直人、tanaka sings empty orchestra、ロンサム・パイロット
開場 7:00pm/開場 7:30pm 料金:2,000円
予約:会場、スウィート・ドリームス・プレス

■コンサートクモコクド
4月27日(土)松江 清光院下ギャラリー
島根県松江市外中原町清光院下198-1
出演:ル・トン・ミテ、ダルガリーズ、村上ゴンゾ、川手直人
開場 4:00pm/開演 5:30pm 料金:1,500円(予約)/2,000円(当日)
予約・問い合わせ:北殿町CARRÉ(0852-23-5767/carre.matsue@gmail.com)

■マルティチュードにおけるコモンのオレンジ
5月1日(水)広島 ふらんす座(082-295-1553)
広島県広島市中区十日市町1-4-3
出演:ル・トン・ミテ、祝島ヘル
時間・料金未定 予約・問い合わせ:会場

■5月2日(木)松山・三津 アジとサバ
*アジとサバ周辺で行われているレジデンシーの作品を見ながら回るアート・ツアー
出演:ル・トン・ミテ、マツヤマヘル
時間:田中戸に2:00pm集合

■5月3日(金)松山・道後 ワニとサイ(080-3319-2765)
愛媛県松山市道後湯之町1-39
出演:ル・トン・ミテ、マツヤマヘル
開場/開演 7:00pm

■5月4日(土)神戸 のらまる食堂(090-1240-0442)
兵庫県神戸市中央区元町通5-8-12
出演:ル・トン・ミテ、若尾久美、光永惟行、Les nico、宮西淳、倉本高弘
開場/開演 4:00pm 料金:カンパ *ドリンク代別
終演後に鍋会あり(参加者は鍋代として1,000円を申し受けます)。

■FIELD UPSETTERS
5月5日(日)大阪 FLOAT(090-9860-2784)
大阪市西区安治川2-1-28 安治川倉庫
出演:ル・トン・ミテ+ダルガリーズ、bonnounomukuro、YPY(bonanzas、goat)、Song Sloth Giantize、buffalomckee
フード:たかさきっちん
開場 4:00pm/開演 4:30pm
料金:1,500円(小学生以下のお子様は同伴者がいる場合無料)

■家宴 vol.12 フェス!!
5月6日(月)奈良 sonihouse(0742-87-0670)
奈良県奈良市学園朝日元町1-499-3
出演:ル・トン・ミテ、テニスコーツ、梅田哲也、米子匡司 *音の部(3:30pm~)
フード:山フーズ *食の部(6:30pm~)
開場 2:30pm/開演 3:30pm
料金:6,500円(フリー・ドリンク)*定員:25名
予約:「info@sonihouse.net」(参加希望日、お名前、人数、ご連絡先をお知らせください)

■HOTEL MOTEL TIME -avec Hôtel Rustique-
5月8日(水)京都 ユーゲ(075-723-4707)
京都府京都市左京区下鴨松原町4-5
出演:ホテル・ラステック(マクラウド・ズィクミューズとアン・ブルーニ)、ミッチー(ダルガリーズ)と山路知恵子
特別展示:アン・ブルーニ
開場 7:00pm/開演 8:00pm 料金:888円

■5月10日(金)仙台 book cafe 火星の庭(022-716-5335)
宮城県仙台市青葉区本町1-14-30-1F
出演:ル・トン・ミテ、le quatre du yumbo、人形劇団ポンコレラ
開場 7:00pm/開場 7:30pm
料金:1,800円 *ドリンク代別/定員30名
予約・問い合わせ:yumbo.shibuya@gmail.com(澁谷)

■ジャド・フェア&ノーマン・ブレイクとテニスコーツのジャパン・ツアー2013
5月11日(土)東京・渋谷 オ・ネスト(03-3462-4420)
東京都渋谷区円山町2-3-6F
出演:ル・トン・ミテ、ジャド・フェア&ノーマン・ブレイク(ティーンエイジ・ファンクラブ)、テニスコーツ
開場 7:00pm/開演 7:30pm 料金 3,800円(前売)/4,300円(当日)*ドリンク代別
チケット:会場、チケットぴあ(Pコード:195-926)、ローソン・チケット(Lコード:73154)、e+、スウィート・ドリームス・プレス

TOTAL INFO : スウィート・ドリームス・プレス

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・アルバム『クモコクド』についてはこちら
https://www.sweetdreamspress.com/2012/12/le-ton-mite-kumokokudo.html

・最新ビデオ「I Grec」
https://vimeo.com/63110669

なお、今回のツアーに合わせてグラフィック・アーティストとして活躍する奥様アン・ブルーニの作品展「m e t a m o r p h o s i s」が島根県松江市の清光院下ギャラリーで開催されます。また、彼女の作品の一部は立川公演(4月21日)と京都公演(5月8日)にも展示されるようですので、こちらも併せてお楽しみください。詳しくは以下に。
https://www.sweetdreamspress.com/2013/04/
ann-brugni-exhibition-m-e-t-m-o-r-p-h-o.html

The Lions - ele-king

 ザ・ライオンズは、2007年頃、米西海岸はLAのレゲエ、スカ、ファンク、ヒップホップなどのフィールドの精鋭ミュージシャンが集結して誕生した企画性の高いユニットだ。その2008年の初作『Jungle Struttin'』(Ubiquity Records)を覚えている人も多いだろう。レゲエ、USファンク、エチオ・ファンク、クンビアなどのリズムが混在し、ダブ・ミックスが施されたりする音作りが話題を集めた。そこには、レコード・マニア然とした演奏家たちが集い、曲によって欲しいゲスト・ミュージシャンやヴォーカリストを仲間に加えながらやりたいようにやる、自由度の高いセッション・グループ的雰囲気が濃厚だった。そしてそのアプローチは、このところ世界中で興隆している、"レア・グルーヴ"を極めて現代的に実演再生するミクスチャー・インスト・バンドの系譜に置かれるタイプのものだった。

 そのメンバーには、西海岸を代表するスカ~ロックステディ・グループ:ヘップ・キャットのヴォーカルで、俳優としても活躍するアレックス・デザートや、同じくヘップ・キャットの歌手兼鍵盤奏者デストン・ベリー、デ・ラ・ソウルやメイシー・グレイらのサポート・ギタリストでもあるコニー・プライス、ビッグ・ダディー・ケインやトーン・ロックのエンジニアでもあったスティーヴ・ケイがダブ・ミキサーとして参加するなど、その布陣を見ても趣味人たちのセッションという趣がプンプンしていたものだ。

 しかし今回の5年ぶりの新作では、グループの印象は随分変化していて、まさしく彼らの自由度の高さが実証されている。上述の4名は継続して中心構成員であり続けているものの、インスト曲主体の前作と打って変わって、今回は1曲以外すべてヴォーカル・チューン。さらに、新たにヴォーカリスト、DJとして参加した2名が、"先輩"のアレックス・デザートよりも多くの曲でマイクを握っている。
 ひとりはカリフォルニアの伝説的スカ・バンド:オーシャン11のヴォーカリスト:マリック・ムーア、もうひとりはI&Iサウンド・システムのMCで、スライ&ロビーのロビー・シェイクスピアーのいとこ、ブラック・シェイクスピアー。オーソドックスなロックステディ・マナーの歌唱を得意とするアレックス・デザートに対し、この2名がかなり"ロッカーズ"なムードを導入しているのだ。さらに1曲、スタジオ・ワン・レジェンド:ヘプトーンズのリロイ・シブルズが、同輩の名歌手フレディ・マッケイの「Picture on the Wall」でシビれる名唱を聴かせる。つまり全12曲のうち、11曲を4人のヴォーカリストで歌いまくる作品になっているわけだ。

 プロデューサーとしてクレジットされているのは、前掲のコニー・プライスとスティーヴ・ケイ、そして、数々のレゲエ・レジェンドの後ろでドラムを叩いてきたブレイク・コリーという3名のインスト・ミュージシャン。つまりここまでの流れから見る限り、要するにザ・ライオンズとはインスト・ミュージシャン主導のユニットであり、そのときどきの作品によってヴォーカリストを呼び寄せる。そして今作のコンセプトが"ロッカーズ"・レゲエ、ということなのだろう。コア・メンバーとして一定の演奏家を固定する以外はプロジェクトごとにミュージシャン、シンガー、DJを迎え入れるスタイルは、NYのイージー・スター・オール・スターズでもすっかりおなじみだが、こうした1回の企画ごとに仕切り直す集団の自由なあり方もかなり現代的なように思う。

 音の方では、徹底してヴィンテージ・レゲエのフィーリングを追求している。リズム・トラックはすべて往年の流儀でテープ録音され、ハモンド・オルガンなどの古い楽器に起因する"幸せな"ノイズは基本そのまま放置してある。アルバムは未発表ミックス等も加えた7インチ盤ボックス・セットでも発売されたが、アナログ盤用にはマスタリングも変えている。こうした、新録作品でヴィンテージ・サウンドを真剣に追求するというトレンドも、欧米の(特に比較的若い)レゲエやファンクのバンドの間ではかなり一般化してきており、その点からも、このライオンズは実に今風のレゲエ集団であると言えるだろう。

 まして、本作はブレイケストラ(Breakestra)、アロー・ブラック(Aloe Blacc)、マッドヴィレイン(Madvillain)らの誉れ高い作品を世に送り出した、ファンク、ジャズ、ソウル、アフロ・ビートなどのルーツ&ヴィンテージな感覚を30~40年の時空を超えてニュー・サウンドに再生させるスペシャリスト:カリフォルニアの〈ストーンズ・スロウ〉レーベルがレゲエに手を出す最初の作品でもある。そうした過去のストーンズ・スロウの作品に顕著だった、新しく、鮮やかな懐古趣味でもって、2013年のアメリカ西海岸よりヴィンテージ・ロッカーズ・サウンドを世に問うわけである。

MP3でスプリフは巻けないだろ
33回転の音の方がずっといい
だけど一層ナイスなのは 12インチのサウンド
トップは激しく ボトムはたっぷりしてる
このジェネレイションは ルーツに立ち返ろうとしてるのさ......
"This Generation"

 このアルバムのあちこちから、70年代中期にバーニング・スピアーの伴奏をしたブラック・ディサイプルズ・バンドのアンサンブルが、そのドラマーで映画『ロッカーズ』の主演だったホースマウスのシンコペイションが、聴こえてくる。ヴィデオを観れば、デイヴ・ワイルダーの弾くベイス・ギターも、ホースマウスの相棒だった当時のロビー・シェイクスピアーが弾いていたヴァイオリン・ベイスだ。あるいは Mr. レゲエ・ドラム=スライ・ダンバーのドラミング・スタイルだって、その激しさを強調して引用されている。
 全篇、オーセンティックなルーツ・ロック・レゲエに、ひとつまみの、それぞれに異なるオリジナルな新味を振りかけた仕上がり。そしてメロウネスが支配するヴォーカル・ラインからは、アルトン・エリスが、ケン・ブースが、フレディ・マクレガーが聴こえてきたりもする。

 マニアックさ極まって少々衒学的な瞬間もあるが、レゲエはかように豊かなレファレンスの集積であり、いまルーツ・ロック・レゲエを志向するということ自体、大なり小なり啓蒙なのだ。聴く人の世代や、これまでのレゲエ体験の多寡によって聴こえ方は大きく変わるだろうし、耳を澄ますポイントも違ってくるだろう。そのことも含め、とても奥深く、楽しいアルバムだ。
 全然イケてないように見えるかもしれないが、このジャケットのアイス・クリーム・ワゴンを改造したような車と、地べたに置かれたスピーカー。これこそが、そもそもの"サウンド・システム"なのだ! これは I&Iサウンド・システムの持ち物で、ブラック・シェイクスピアーが西海岸で実際に、このいにしえのスタイルの"移動ディスコ"を稼働させているらしい。つまり今回のザ・ライオンズは、このスピーカーから流れ出るのが似合う音の世界、ってことだ。

〈This Generation〉

〈This Generation (Dub Version)〉

〈Roll It Round〉

vol.49:ミネアポリスの思い出 - ele-king

 先週土曜日は、ミネアポリスのバンド、バースディ・スーツのライヴをローアー・イースト・サイドのピアノスに見に行った。
 https://www.facebook.com/birthdaysuits
 https://birthdaysuitsshows.tumblr.com
 https://www.pianosnyc.com

 ミネアポリスは、プリンスやリプレイスメンツなどのバンドを生み出した音楽の盛んなクリーンな都市で、10000以上の湖があるとも言われる湖の都市である。日本の茨城市とはシスター・シティである。

 この土曜日、会場ピアノスは、ブリッジ・アンド・トンネル(ニュージャージやロングアイランドなど、マンハッタンにブリッジやトンネルを使って来る人を指すスラング)が集うことで有名な場所。ヒップ・スターのいない人の群れを抜け、奥の会場へ。バースディ・スーツの前はエレクトロなバンドがプレイし、お客さんもそこそこ入っている。バースディ・スーツとは、生まれたままの姿、裸の男の子などの意味があるらしいのだが、今日のバースディ・スーツは日本人男子2人組、ギターとドラム。著者とは、2年前にハード・ニップスとSXSWで共演して以来である。
 パンクでバズなギターのディストーションと、癖のないヴォーカルの夢心地と対象に、ドラムの野生的ドラミング(+蛍光ピンクテープ)のパフォーマンスは、他のバンドの観客をグイグイ惹きつけていた。イギリスで活躍しているボー・ニンゲンやエッジの効いたジャパンドロイズにイメージが被る。

 著者は10年前ぐらい前にミネアポリスに滞在し、毎日のようにライヴに通って、バンドと交流を深め、ミネアポリスのコンピレーション『10,000 レイク・ストーリー』をリリースするなど、ミネアポリスは、思い入れのある都市である。会場では、懐かしい人に再会した。

 先手のミネアポリス・コンピレーションにも参加している、ハーマー・スーパースター。
 ハーマー・スーパースターことショーン・ティルマンは、セイントポール(ミネアポリスのツインシティ)出身で、バースディ・スーツとは地元友だち。現在はブルックリン在住で、ただいまツアー真っ最中だが、合間をぬって顔を出してくれた。彼は、ストロークスのジュリアン・カサブランカのレーベル、〈カルト・レコーズ〉から『Bye Bye 17』というアルバムを4月23日にリリースする。
 https://harmarsuperstar.com/
 https://www.cultrecords.com/

 もうひとり、田中ヒロくんは、ショーンと同じ頃にミネアポリスで出会って以来、10年ほど顔見知りで、最近はSXSWやLAで偶然遭遇していた。現在LA在住の彼は、全身一体ウエルカム! な、すばらしいキャラの持ち主で、カーシヴ、ロウレンス・アームス、マイナス・ザ・ベアなどのバンドとツアーをともにし、写真を撮って、最近〈アジアンマン・レコーズ〉から初の写真集『Dew Dew, Dew Its』を発売した。現在では、彼がまわるバンドのツアー会場と、東京のある美術館の売店で買えるそうだ。写真は自然な状態を、生々しく写している。そして、それらが人を警戒心を解き、瞬間を際立たせているが、そこは彼の才能。まったく素晴らしい。
 https://www.asianmanrecords.com/hiro/

 バースディ・スーツを見に行ったのだが、ミネアポリス繋がりで、バンドと人の新たな一面を発見できた。この後、みんなで飲みに行くのだが、誰ひとり最後まで帰らない。バースデー・スーツはこの後も休みなしでイースト・コースト~ミッド・ウエストと4月中旬まで旅を続ける。

Mala@ele-king TV - ele-king

 今月の20日に東京でのDJを控えているダブステップのカリスマ、マーラが、ドミューンに生出演します。DJプレイは、本番でしかやらないという彼の主義のため、現場に行ってもらうしかないようですが、18日は公開インタヴューということで、喋ってくれます。盟友ゴス・トラッドも同席しての、ディープ・メディ・ミーティングといった感じになりそうです。夜7時から9時まで、お見逃しなく。ele-kingもサポートさせていただきます。たまにはdommuneにも来て下さいね。
 それで、予習。『マーラ・イン・キューバ』の素晴らしいPVを見つけたので、まだの人、ご覧下さいませ。そしてDBSに行こう。

Mala - Cuba Electronic


"Noches Sueños"--Mala featuring Danay Suárez [Official Video]


タイトル:ele-king TV Presents "MALA IN DOMMUNE"
出演:MALA、GOTH-TRAD、野田努(司会)、チクヒコウイチ(通訳)
内容:UKダブステップ界の最重要人物MALAがDOMMNEに登場! アルバム『MALA IN CUBA』で新たなる新境地を開拓! 音楽革命家MALAが主宰するレーベルdeep mediを解説!

Foxygen - ele-king

 なんか、PEACEというバンドがキテいるらしい。「いやー、いい」と職場の若い子たちも言うし、『NME』で彼らのレヴューを読むと、「この曲はキュアーで、あの部分はシャーラタンだし、ここはブラーじゃないか。でも所詮コピーはオリジナルには勝てない。みたいな偏狭なリスナーになってはいけない。この世に若者がいる限り、彼らは目を輝かせながら"ディスカヴァリー"という経験をし続ける」という主旨の長文だったので、この偏狭きわまりないばばあもちょっと聴いてみることにした。
 が、聴いてみると、UKのPEACEではなく、USのFoxygenのレヴューが書きたくなった。

 Foxygenのほうは、そもそもタイトルがふざけている。何が『We Are the 21st Ambassadors of Peace and Magic』だ。まるで思春期のギークの内輪ギャグのような、或いはドサ回りのヒッピー系手品師のフライヤーに書かれた文句みたいである。
 しかも、「過去の"ディスカヴァリー"をしている」点では、Foxygenのコピー量のほうが恥知らずなほど膨大だ。キンクス、ドアーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ピンク・フロイド、ビートルズ、ストーンズ、ボウイ、ディラン、T.レックス、プリンス、ザ・クランプス、ピクシーズ。いったいこれはロック史図鑑なのか。と思うほどである。
 「この道はアリエル・ピンクやMGMTも探求している。が、Foxygenは、全部ぶち込んでやれという熱意が新しい」と『Pitchfolk』が書いていたが、これだけの総括的なぶち込みは、高度な編集の技が無ければできるもんではない。例えば、"On Blue Mountain"という曲である。ドアーズを歌うブラック・フランシスではじまったなあ、と思っているとヴェルヴェット・アンダーグランドになり、ストーンズも入って来た、なかなか変化に富んだ助走じゃねえか。と思っていると、いきなり白いジャンプ・スーツのエルヴィスが出て来て腰を振りながら"We can't go on together with suspicious mind"のメロディを歌い出すもんだから、なんだこの人たちはふざけていたのか。と、大笑いしてしまうのである。ここまで、1分30秒だ。めまぐるしい。めまぐるしいんだが、実に巧妙に繋がっている。
 "Oh Year"ではT.レックスとプリンスがせつなく喘いで情交しながらスタンダップ・コメディをやっているし、"Shuggie"はスペシャルズを歌うセルジュ・ゲンズブールではじまりながら、何故か中盤はアンドリュー・ロイド・ウェーバーの『オペラ座の怪人』になっている。

 この過剰に盛りたくさんな感じで思い出すのは、英国チャンネル4の名作コメディ『SPACED ~俺たちルームシェアリング~』だ。この番組を作ったメンツが、後に『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』や『宇宙人ポール』などの映画を世に送りだしたわけだが、彼らが世に出るきっかけとなった『SPACED』と、Foxygenの音楽は似ている。あのドラマも過去の映画へのオマージュが短いスパンで次から次に出てきた。しかも、そのめまぐるしいカットがシュールなほど芸術的に繋がっていて、巧いが故に妙におかしい。というところがあった。
 また、Foxygenは、さまざまなジャンルの音楽を交尾させて見事なハイブリッド・ミュージックを創造したAlt-Jのレトロ版なのかという気もしている。この両者には、多種多様な音楽をディスカヴァーして目を輝かせて模倣しているだけでなく、それらを弄んでやろうというアロガンスが感じられる。

 わたしは市井の労働者なので何のムーヴメントにも乗る必要ないからはっきり書くが、この歳になるとべとべとにロマンティックな懐古ロックはどうでも良い。こちらのノスタルジアを、けけけ、と嘲笑ってくれるような、そんな若者の才気が、腰を押さえて「オー・マイ・バック」とか言って働いている年寄りの生活にビタミンをくれるのだ。んなわけで、インフルと腰痛に苦しんだ今年の冬(はまだ続いているが)、もっとも頻繁に聴いたのはこのふざけたアルバムだった。
 ちなみに、サッチャーが亡くなった英国でも、ヒット・チャートに返り咲いているのはザ・スミスではない。『オズの魔法使い』の"ディンドン! 悪い魔女は死んだ"がiTunesチャートでトップ10入りしているというから、こちらもまたふざけている。

interview with DJ Nobu, Shhhhh, Moodman - ele-king

この度、『Crustal Movement』なる3枚のミックスCDがエイヴェックスから同時にリリースされた。DJノブによる『Dream Into Dream』、Shhhhhによる『EL FOLCLORE PARADOX』、ムードマンによる『SF』。3人のDJのそれぞれの個性が反映されているばかりか、今日のクラブ・ミュージックの魅力を切り取った、3枚とも実にドープな仕上がり。クラブ・ミュージックの「いま」がしっかりあって、しかもミキシングの「いま」もある。

interview with DJ Nobu

キラー・テクノ ──DJノブ、インタヴュー

取材:小野田 雄

DJ NOBU
Crustal Movement Volume 01 - Dream Into Dream

tearbridge

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 ちょうど10年近く前になるだろうか。噂を聞きつけて、不案内な千葉へと初めて出掛け、デトロイト・ハウスのドン、テレンス・パーカーと盟友のスティーヴ・クロフォードをフィーチャーしたFuture Terrorで味わったのは濃厚なハウス・ミュージックだったと記憶している。その当時の片鱗は〈MOODS & GROOVES〉の音源をエディット、ミックスした2008年のミックスCD『CREEP INTO SHADOWS』で追体験出来るものの、Future Terror主宰のDJ NOBUは気が付けば、いつからか、テクノをプレイするようになっていて、2010年に日本人で初めてドイツ・ベルリンのベルクハインでプレイするまでの傑出したDJになっていた。
 そのあいだの自分はといえば、彼のプレイするパーティやFuture Terrorに足繁く通っていたわけではなかったけれど、それゆえに、4作目となる最新ミックスCD『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』は成功を収めてなお、変わらずに変わり続ける彼の音楽性とそのスタンスに大きな衝撃を受けた。そして、テクノやハウスがインダストリアルやノイズ、ドローン、ミュージック・コンクレート、ヴィンテージな電子音楽などと共振しながら描き出す美しくも危ういサウンドスケープに驚き、魅せられると同時に、久しぶりに彼の話をゆっくり聞いてみたいと思った。

はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。

2006年の『NO WAY BACK』から最新作の『Crustal Movement Vol.01:Dream Into Dream』まで、これまでリリースした4作のミックスCDを紐解くと、NOBUくんの音楽遍歴がはっきりわかりますよね。

DJノブ:その変遷はわかりやすいですよね(笑)。90年代、テクノが好きだったにも関わらず、出会いに恵まれていなかったり、面白さを感じられなくなって、一時期、DJの現場から離れるんですけど、その時期にいままで通ってこなかったハウスに触れて。もともと、ブラック・ミュージックが好きだったこともあって、その流れからハウスもすごく好きになって。DJを再開してからはハウスをプレイするなかで、スパイスとしてテクノを使うようになるんですけど、どうしてそうなっていったかというと、デカかったのは「濡れ牧場」だったりして。

「濡れ牧場」というのは、CMT、Shhhhh、UNIVERSAL INDIANNという3人のDJが東高円寺GRASSROOTSで主宰していた伝説的なアシッド・パーティですね。

DJノブ:彼らはDJを通じて、人に驚きを与えることをやってたじゃないですか。僕はおそらくもっとも濡れ牧場にゲストで呼ばれてプレイしてるDJだと思うんですが、僕も負けず嫌いなんで、例えば、ノイズを混ぜてみたり、「どうしたら面白いことが出来るか?」っていう試行錯誤をしながら、みんなで遊ぶなかで、当時の時代性もあってか、面白い作品がどんどんリリースされるようになったテクノに惹きつけられて、気づいたら、テクノが中心になっていたっていう。もちろん、いまでもハウスはプレイするんですけど、自分はテクノに完全に取りつかれてしまっているので、流れとしてはそういう感じなんですよね.

NOBUくんを魅了してやまないテクノはどこに魅力があるんでしょうね?

DJノブ:テクノという音楽はDJの力量によって、最高のものにも、最低のものにもなると思うんですね。そういう意味で、テクノはひりひりした緊張感をもって、自分がプレイヤーでいられる音楽、自分の世界を作りやすい音楽だと思うんですよ。しかも、エレクトロニック・ミュージック全般で考えた時、テクノは進化の速度も早いので、自分も飽きずに接していられる......飽きないというか、ホントに自分が頑張らないと、置いていかれちゃう世界だと思うので。

2010年にプレイしたベルクハインでの体験を振り返ってみて、いかがですか?

DJノブ:いま、思い出すと、そこで繰り広げられているスタイルを日本でやってる人と出会えてなかったんですよね。もちろん、ベルグハインのような環境がないなかで、「このレコードはこうやって使うんじゃないか?」って自分なりに考えてきた経験は、それはそれで重要だったりはするんですけど、2009年に初来日したマルセル・デットマンと一緒にやったとき、「テクノってこういうことでもあったのか。知らなかった。すみません」って感じの衝撃を受けて。さらに翌年呼ばれたベルクハインでは自分の出番が終わった後、午後4時くらいまでずっと踊って、彼らがやっていることに真剣に向き合ったことで、本当にたくさんの発見があったんです。でも、もう3年前の話なんで。

ベルクハインで目から鱗だった発見というのは、例えば、グルーヴの作り方とか?

DJノブ:いちばんデカかったのはグルーヴの作り方ですね。そのグルーヴにしても、「ベルクハインのスタイルは変わらず一貫している」って言う人も多いんですけど、去年、感じたのは、彼らは彼らで実はさり気なく変わっていて、根っこにあるグルーヴも最近は丸くなったり、変化し続けていますね。

自分は行ったことがないんですけど、世界最高峰の音響だったり、あるいは快楽追求が半端じゃないゲイ・クラウドだったり、ベルグハインのエクストリームな環境は日本には存在しないわけで、向こうのスタイルをそのまま日本で再現するのは難しいというか。

DJノブ:日本は日本で別の意味でのエクストリームな現場が存在するし、状況もシーンのあり方も全然違いますからね。とはいえ先ほどの話じゃないですけど、テクノをかける手法は学ぶ事も当時はありましたし、もちろんたくさんの刺激を受けましたね。

2010年末にリリースした前作『ON』は、そうしたベルクハインでの経験が反映されたミックスCDだったと思うんですけど、その後、2年以上に渡って、全国各地でいろんな夜、いろんなフロアを経験するなかでどんなことをよく考えます?

DJノブ:例えば、海外から来て、来日したときのDJやライヴがまったく良くなかったアーティストでも、ただ来日アーティストってことだけで、良いと思っちゃう人は相変わらず多いのかなって。もちろん、こんな人がいたんだって驚くような海外のアーティストが出てきたりもしていますけど。こないだも某来日アーティストがやってた全然面白くないライヴが盛り上がってて、そうかと思えば、UNITのDEMDIKE STAREで一緒になった京都のSTEVEN PORTERとか、KEIHINがAIRで新しくはじめたパーティ「Maktub」にライヴで出たRYO MURAKAMIくんのライヴを見たら、相当にクオリティが高いことをやっているのにそこに気づいてない人が多かったり。まぁ、それは最終的に俺の好みの問題になっちゃうんですけど、「この人は光るもの持ってるな」って思う人は日本にもいるのに知らないままでいるのは、もったいないと思うんですよ。みんな、まわりの評判やメディアの情報をただ受けるだけじゃなく、自分の感覚を信じて、能動的に面白いものを見つけられるようになったらいいんじゃないかって思うんですけどね。

ここ最近、音楽の進化のスピードがあまりに速いから、その動きに付いていくのは大変だったりもするでしょうし、まずはその夜をどう楽しむか、楽しませるかっていうのが夜遊びの基本だったりもするでしょうから、そう簡単な話ではないと思うんですけどね。

DJノブ:でも、ときには多少リスクを侵してでも、いままでの楽しみ方とは違った新しい試みを取り入れていかないと面白くないじゃないですか。だから、そのバランスはホントに難しいし、悩み続けているポイントだったりもして。新しいことをやるのと聴きやすさ、なじみ易さのバランスはつねに意識してます。

今回のミックスCDにしても、ここ最近のピークタイムを切り取った内容にするという選択肢もあったと思うんですよ。でも、そうせずに、広義の電子音楽に立ち返りながら、進化しているテクノのカッティング・エッジな流れに共鳴したところがNOBUくんらしいなと思いました。

DJノブ:いまはSOUNDCLOUDを掘れば、その辺のミックスCDよりもいい音源なんて、いっぱいあるんですよ。だからこそ、新しい感覚のものを提示していかないとなって思ったんですよね。しかも、いま、日本のテクノでそういうことをやろうとしている人も少ないですし、そう考えたら、自分はチャレンジしていかないとなって。世界のトップ・レヴェルでやってる人もいたりはしますけど、はっきり言って、全体的に見たらいまの日本は出遅れちゃってるんですよ。もちろんそうでない人もいますけど。だから、マズいっていうか、「日本なんてたいしたことねえよ」って思われるのもイヤだし、負けたくないじゃないですか(笑)。だから、面白いことを考えていきたいなって気持ちが強かったというか。

今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。

テクノという枠組みにとらわれず、広く電子音楽を意識するようになった具体的な作品やアーティストは?

DJノブ:前作『ON』でも使っていましたけど、振り返ると、ダブステップの枠をはみ出したShackletonやインダストリアルな、あるいはアブストラクトなベクトルで発展していったSandwell District、Silent Servantなんかの登場がデカかったと思いますね。その流れでRegisを聴き直したら、90年代にはわからなかった感覚がわかったり、そうやってあれこれ掘るようになったんですよね。後はSvrecaのような表現者。IORIと遊ぶようになったのも大きいです。MnmlssgsのChrisと交流を持つようになったことも大きいです。

例えば、2曲目のTod Dockstaderは昔のライブラリー音源だったり、16曲目のFrancis Dhomontもミュージック・コンクレートだったり、ダンス・ミュージック用に作られていない曲が多数使われていますよね。

DJノブ:その辺のレコードは家で聴くのが面白くて買うようになったんですけど、よくよく考えると、初めて、dommuneに出たときもターンテーブルが壊れたときにかけたのもそういう現代音楽のレコードだったんですよね。何年か前なので忘れちゃいましたけど、Chee(Shimizu:DISCOSSESSION)さんのORGANIC MUSICで買ったものだったんですよね。それ以前にも「濡れ牧場」でオブスキュアなレコードを使って、変な時間を作ったりすることはやったりしていたから、その流れが歳月を経て、洗練されたということもあるんじゃないかと思いますね。

ミックスCDの構成に関しては、どんなことを考えました? 例えば、MOODMANのミックスは、USBを差したCDJ-2000を使ったからこそ、クイック・ミックスを通じて、独自のグルーヴが出てると思うんですね。

DJノブ:今回はヴァイナルをデータ化にしたもの、それからデータで買ったものがちょうど半々くらい。ここ最近は僕もUSBを差したCDJ-2000を使ったりもしているんですけど、今回に関しては、「ライヴ・ミックスはパーティで聴いて欲しい」って感じで(笑)、Abletonで作り込みました。作り込んだものじゃなければ、自分としては売れるものにならないなって。
 だから、今回はいままででいちばん曲数を多く使って、コラージュしながら、映画を観るような、ある種のストーリーが感じられるものにしました。そういう意味では普段のDJとは頭の使い方も違いますよね。ただ、いちばん最初に作ったテイクがあまりにマニアックすぎたというか、あまりにも度が過ぎたものになってしまったので(笑)、キックが入ってくる7曲目のADMX-71あたりから自分なりに聴きやすい入口を設けたんです。

あと、ここ最近のトラックは解像度が飛躍的に上がっていると思うんですね。そういう最新のトラックとリイシューものの電子音楽が上手く混ざってるところにも、NOBUくんの上手さや鋭さを実感しました。

DJノブ:後半、2曲使ってるL.I.E.S.のロウなトラックはさておき、今回は古いものも新しいものも音がいいトラックを選びましたからね。だから、当初使おうと思っていたThe Trilogy Tapesのトラックも、もともとがカセットだったり、音質が独特なので、混ぜた時に浮いてしまって。そういう曲を省いていって、最終的にいまの形に落ち着いたんですよ。

今挙がったL.I.E.S.にしても、ハウスの領域をはみ出して、ダブステップや広い意味での電子音楽に歩み寄ってる面白いレーベルだったりしますしね。

DJノブ:L.I.E.S.のトラックは、今回、2曲使ってますけど、海外ではあれだけ話題になっているのに、日本ではいち部のDJしか使ってないし、多くの人には聴かれてもいないじゃないですか。好みの問題でもあるとは思うんですけど、何で面白いものに飛びつかないのか、自分にはよくわからないんですけどね。

だからこそ、今回のミックスCDは、カッティング・エッジなエレクトロニック・ミュージックに触れる最高のきっかけになるんじゃないかと。

DJノブ:それと同時に今回のミックスCDは長く聴き続けられる普遍性も自分なりに追求したつもりです。今回のようなアプローチのプレイもイケるところはイケるというか、土地によっては、テクノについて全く知らないキャバ嬢がガンガン踊ってくれたり(笑)。でも、それは能動的に楽しもうと捉えてくれてるからだと思うんですよ。例えば、こないだ、8年振りに徳島へ行ったんですけど、テクノ・シーンがないに等しいような土地なのに、「ここまでやっちゃっていい?」ってところまでプレイしても、付いてきてくれたし。もちろん、そのときのプレイの良し悪しにもよるんでしょうけど、チャレンジできるところではやっていきたいと思っているんですけどね。

かたや、2001年にスタートしたFuture Terrorも2011年に10周年を迎えたわけですけど、3月9日の最新回はいかがでした?

DJノブ:こないだ久しぶりにやってびっくりしたのは、あのパーティは、自分がコントロールするんじゃなく、お客さんがコントロールしてて(笑)、俺がお客さんに付いていくって感覚がいままでDJしてきて初めてのことだったんですよ。もちろん、それは不快なことではなかったし、むしろ、何のトラブルもなければ、ストレスもなかったし、すごく楽だったんですね。そう考えると、お客さんも遊び方が上手くなったり、音楽の聴き方も変化しているんだろうし、成長しながら、俺たちがやってることについてきて、さらにはDJをコントロールするわけですから、スゴい話ですよ(笑)。

はははは。そういう意味で、回数は減っても、NOBUくんにとって、進化の起点はFuture Terrorにある、と。

DJノブ:いや、例えば去年の話ですけど、進化の起点になったと感じる機会はmnmlssgsのパーティに誘ってもらって自分なりに何を表現するか悩んだり、Labyrinthで体験したBee Maskのライヴが衝撃だったり、他のパーティに、きっかけがあります。自分にとってFuture Terrorは帰る場所っていうか、俺の原点ですよね。集中力があれだけすごいお客さんが集まるパーティはほかになかなかないと思うし、自分ではじめたパーティながら、「ああ、こんな盛り上がり方してるんだ」って、他人事のように驚きましたからね(笑)。

取材:小野田雄

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interview with Shhhhh

音のうしろのフォークロア──Shhhhh、インタヴュー

取材:松村正人
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Shhhhh
Crustal Movement Volume 02 - EL FOLCLORE PARADOX

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 "Crustal Movement"シリーズは花も実もあるDJの仕業だけあって、音楽にどこかに運ばれていく感じを、ひさしぶりに味わったすばらしいミックスばかりだったが、なかでもShhhhhの『エル・フォルクローレ・パラドックス』はワールド・ミュージックという確たる言葉はあっても、それが具体的に何を指しているのかわかりかねる音楽をあつかいながら、既知の体系知に寄りかからないShhhhhのものとしかいえない「ワールド」を築いている。リズム、和声、装飾があり、トラッドとダンス・ミュージックからなるこの世界地図を、Shhhhhは上から目線ののっぺりした俯瞰図ではなく、あくまで彼の視野にうつる水平の風景として描き、国境線の画す音楽の分布ではなく、等高線のつながりがほのめかすつながりを聴く。ゆえにそこから、〈Sublime Frequencies〉から〈Honeset Jon's〉まで、クワイトと東欧のポリフォニック・コーラスとが、あるいはボアダムスと(ホワイトハウスのウィリアム・ベネットの別名義である)カット・ハンズが犇めきあうロールシャッハ・テストで反転したような世界地図がうかびあがる。ラテン・アメリカでは「民族音楽」のほかに「伝承」全般を意味する"Folclore(フォルクローレ)"とは、1978年生まれのDJにしてワールドミュージックのディストリビューターにとって、では具体的に何を指すのか。「フリー(クド)・フォーク」と呼ぶべきミックスCDをリリースしたShhhhhに話を訊いた。

緯度ではなくて標高差。海抜が低くなる海のそばの地域では声のソロが多くなるとか、つきつめると傾向があるんじゃないかという、完全に妄想なんですけど、そういうことを考えているうちにイメージが広がって曲がつながって世界が変わっていく感じがありました。

トラベル感がありながらもちっとも長さを感じさせないミックスだと思いました。

Shhhhh:最初はもうちょっとワールドミュージックっぽくて、ヨーロッパのフォークみたいな曲が多かったんですけど。

トラッドということですか?

Shhhhh:そうですね。トラッドで四つ打ちっぽい曲。途中ちょっと入っているじゃないですか? そういった曲を含めたおもしろいセットが最初できたので、それをパッケージングしてみようかと思ったんですが、権利がとれなくて流れが変わっていくにつれて、シャックルトンやボアダムスを入れることでふだん自分がやっていることに近いシンプルなものに着地した感じでした。

シンプルというのは?

Shhhhh:ヨーロッパのフォークだろうが、いまのダンス・ミュージックのおもしろい曲とまぜてひとつの世界観を提示するのが僕のDJの目標のひとつでもあるんです。短く感じるというのは成功というか、最初のヴァージョンだといろんな国をまたいで、あっちいったりこっちいったりするので、それをおもしろがってくれるひとももしかしたらいたかもしれなんですけど、これはエキゾチックなコンピレーションじゃないんですよ。DJがつくるということはひとつの世界観を聴かせることだとも思うんです。だからワールドミュージックの紹介というよりもダンス・ミュージックをまぜたものに落としこみたかったんです。

今回のミックスCDはShhhhhくんにとってのワールドミュージックの現在の見取り図を提示しているといえますか?

Shhhhh:現在の見取り図かといわれるとどうなのかという気がしますけどね(笑)。

たとえば、私が雑誌でこういうテーマで特集をするとしたら、こういう風に編集すると思うんですね。

Shhhhh:雑誌というより、もうちょっとシネマティックというか映像的なのかもしれませんね。妄想の物語かもしれないですが(笑)。一回このなかの解説にも書いたんですけど、「標高差」がテーマというか。

標高差というのを具体的に教えてほしかったんですよ。

Shhhhh:ワールドのトラッドのいろんなところを行き来するみたいなところからダンス・ミュージックに近づけるなかで、後半に行くにしたがって、自分のなかでどんどん空気が薄くなっていく気がしたんです(笑)。録音したスタジオの標高をクレジットしたらおもしろいんじゃないか、というくらい(笑)。国別、地域別の括りはいまはあたりまえじゃないですか? 標高別というのは新しいかもしれない、空気の薄さで音楽性ってつなげられるんじゃないかとか(笑)。

たしかに屋久島なんか、緯度は低いけど、高い山があるから寒冷地の植生もあるもんね。

Shhhhh:そういう感じです。緯度ではなくて標高差。海抜が低くなる海のそばの地域では声のソロが多くなるとか、つきつめると傾向があるんじゃないかという、完全に妄想なんですけど、そういうことを考えているうちにイメージが広がって曲がつながって世界が変わっていく感じがありました。雑誌の編集というのは僕はわからないですが、映画を撮っていくというか、こういう場面、こういう場面、というのでシーンがどんどん変わっていくというのを変わっていくのを考えるのは好きですね。

場面は変わっていくんだけど、全体のつながりはある。そういった動性がある、と。

Shhhhh:僕はいきなり流れを変えるようなDJをするのも好きなんですけど、CDということもあって、世界観を壊さす集中しつつ、細かい変化が起こって標高だけ微妙に高くなっていく感じでやろうと思っていました。CDというので、ふだんのDJよりも世界観をつくるのは意識したかもしれないですね。

Shhhhhくんの作品だと、『ウニコリスモ』があって、〈ZZK〉のコンピ(『ZZK Records Presents... The DigitalI Cumbia Explosion』)があったわけですが、それはアルゼンチン音響派やデジタル・クンビアといったテーマがありましたよね。『エル・フォルクローレ・パラドックス』はそういうものがないところがはじまっていますよね。

Shhhhh:『エル・フォルクローレ・パラドックス』は『ウニコリスモ』の続編的なニュアンスもあるんですよ。多くのリズムやダンスでDJミックスをつくるというのが完全に一致しています。じつは南米の曲は今回、レオナルド・マルティネッリ1曲しか使っていないんですが、ほんとうは使わないつもりでした。僕は南米の音楽に関する仕事もしているし、紹介役を自認してもいるんですが、もうちょっと拡大した方向で考えたいというのもあったんです。それとやっぱり、ワールド系のライセンス系の問題があって――

ライセンスとるって難しいですか?

Shhhhh:音源をもっているレーベルがなくなっていたり、そもそもレーベルが歌っているひとに連絡がとれないということもありました(笑)。

それをわざわざ探してくれるとも思えないもんね。

Shhhhh:そうなんですよ。ワールドミュージックってとても植民地音楽で、民族衣装を着せてエキゾチシズムを売る世界でもあると思うんですよ。そういうところもつくっているうちに見えてきたところはありますね。

植民地音楽というのはいままでもShhhhhくんのなかにありましたか? 仕事してもワールドミュージックに携わっているでしょう。そうすると搾取するというか、やましい気持ちにならないですか?

Shhhhh:搾取するというよりも僕は完全に紹介する立場だと思っています。こういうのがあるという立場、それはDJであっても、ふだんの輸入の仕事でもまったくいっしょです。まったくというと語弊はありますけど、こういう音楽がありますよ、こういうダンスがあってこういう聴かせ方がありますよ、ということの一方で権利ってなんだろうと、今回は思いました。

ビッグネームの曲を使うのは単純にお金の問題だけど、こういうひとたちの曲を使うのは地政学ともいえますからね。

Shhhhh:そうなんですよ(笑)。それで果たして現地のひとたちにお金が渡るかといえば、そうも思えない。だからメールの返事もないかもしれない。勘ぐっているだけかもしれないですけど、でもまあその可能性はゼロじゃない。そういうのが見えてくると、DJというものとワールドミュージック、音楽の権利というものを考えさせられました。

ワールドミュージックはフランスとか、ヨーロッパを経由した非西洋音楽という側面がありますからね。

Shhhhh:まさにそのフランスの某名門レーベルがまったく返事くれなかったですね(笑)。僕なんかも、フランスのレーベルや研究者によって、いろんな音楽を知ることができたので、簡単に批判することもできませんが。

枠をとっぱらって、レーベルやジャンルを限定せず、それこそワールド・ワイドなミックスにしようとしたからこそ、そのような問題も出てきたといえますね。

Shhhhh:そうですね。

『エル・フォルクローレ・パラドックス』は好きな曲が多かったからおもしろかったですよ。

Shhhhh:〈Fonal Records〉とか、松村さん好きそうですもんね(笑)。

ご名答(笑)。レオナルド・マルティネッリもね。

Shhhhh:レオナルドは『ウニコリスモ』のときもとりあげたんですが、〈Los Anos Luz Discos〉というレーベルから出していたトレモロというバンドもやっているひとなんですよ。

目のつけどころがさすがだと思いました(笑)。ほかの雑誌はわからないけど、すくなくとも「ele-king」の読者にとってワールドミュージックの入り口としては最適だと思いますよ。

Shhhhh:そういってもられるとうれしいです(笑)。僕はワールドミュージックといっても、民族音楽だけをDJでかけるというのはできないんですよ。もちろんそういうひとをディスっているわけじゃないですよ。でもやっぱり、僕は1978年生まれですが、アメリカの影響下にある日本に生まれ育って、オルタナティヴ・ロックが好きで、ボアダムスに行きついて、というのがあって、そういったものが自然に出てくると思うんですよ。世界中にそういうヤツが増えてきていると僕は思っていて、レオナルドもフォルクローレと不思議なエレクトロニカみたいなものをやるじゃないですか? 彼はたぶんどっちも好きなんですよ。僕もそうなんです。
 一昨年バルセロナに行ったんですけど、それはルンバ・カタラーナというキューバのルンバがカタルーニャ地方、バルセロナに渡ってきて、ジプシー音楽と結びついた庶民の音楽の現場を取材だったんですが、DJでルンバ・カタラーナをかけたり、エディットしたりしている現地のクルーに訊いたところ、「俺も最初はテクノはまわしていたんだけど、いろいろ考えるうちに自分たちの国にルーツのかっこいい音楽があることに気づいたんだよ」といっていたんですね。グローバリズムで90年代からみんないろんな音楽を聴くようになったのがいまは自分の国の音楽を考えるようになっていきている。みんながみんな、同じ12インチを買うのではなくて混ぜ合わせる、そういったミクスチャーが僕らが考える以上に世界中で多発してきていると思うんですよ。それは『ウニコリスモ』をつくったときにも明確に思いました。それこそ、ふつうのヤツがフォルクローレみたいな音楽をリスペクトしているというんですね。
 で、僕にとってのルーツは彼らなんです(資料に書いてあるボアダムスを指さす)。このひとたちは、僕にとっての気分としてのスタンダードというか......うまくいえないな。ボアダムスってなにかしらトライバルな要素をとりいれるじゃないですか、それは無意識にとりいれているというか。今回、ボアのトライバルな部分も抽出したかったし、それをほかの音楽と並列に提示するのはやりたかったことでもあります。本人たちにしてみれば、「そんなこと知らんわ」といわれるかもしれないですけど(笑)。

"Rereler"をリミックスしているCoswampって誰なの?

Shhhhh:EYEさんです。

だよね(笑)。名義何個目なんだろうね?

Shhhhh:ハハハ。その場で決めたんでしょうね。サンフランシスコの2枚組(『Boredoms Live At Sunflancisco』)の収録曲を12インチで出したときのリミックスです。

Shhhhhくんは最初に聴いたボアは何ですか?

Shhhhh:中学か高校か。僕は最初、ソニック・ユースがすごい好きだったんですよ。問答無用でかっこいいと思ったんですよ。テレビで観て。

MTV?

Shhhhh:「ビートUK」だったかも(笑)。サーストン(・ムーア)がジャンプしてギターをグギャーとやっているのをみて一発でやられたんです。その流れで、ボアダムスを知って、そういう音楽をやるひとが日本にもいるんだ、と思ったんですよ。僕はクラブ・チッタのソニック・ユースが人生初ライヴで、前座がOOIOOだった憶えがあります。ボアダムスの渋谷のライヴに行ったのは17〜18歳のときでした。

私はShhhhhくんの六つ上ですけど、私にとっても90年代はボアダムスでしたからね。

Shhhhh:それをフォーク的な要素で解釈するというのは大胆不敵だという気もしますけど(笑)。

でもここしばらくのOOIOOのヴォーカル・アンサンブルなどは『エル・フォルクローレ・パラドックス』に収録したヨーロッパのポリフォリックな音楽の影響もありますよね。

Shhhhh:Shhhhh:僕が7年前に今のワールドミュージックのディストリビューションの会社に入ったときから、たまに面白いのをお勧めしたりしてますよ。

Shhhhhくんとの関係が影響している気もしますけどね。

Shhhhh:逆に僕が彼らがこういうのが好きなんじゃないかということで聴きこんだりしているので、僕のほうが影響を受けていますよ。

たがいに影響しあっている?

Shhhhh:それは僭越すぎます(笑)。僕はDJ一直線というタイプではないし、輸入の仕事も好きだし、こういった音楽を紹介したりといったフィクサー的なことも好きなんです。今回のCDもワールドなんだかテクノなのかダンスなのか、バランスとるのが好きなんですね。

そのバランス感覚がShhhhhくんの特徴だと思います。

Shhhhh:バランスという意味で真ん中に立つのがすごくしっくりくるんですね。それは僕だけじゃなくて、すべてのDJがそうなんじゃないんですかね。

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interview with Shhhhh

音のうしろのフォークロア──Shhhhh、インタヴュー

取材:松村正人
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世界の別天地

グローバリズムで90年代からみんないろんな音楽を聴くようになったのがいまは自分の国の音楽を考えるようになっていきている。みんながみんな、同じ12インチを買うのではなくて混ぜ合わせる、そういったミクスチャーが僕らが考える以上に世界中で多発してきていると思うんですよ。


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Crustal Movement Volume 02 - EL FOLCLORE PARADOX

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今回幕開けは〈Sublime Frequencies〉の音源ですが、これはアラン・ビッショップのやっていることに敬意を表したということですか?

Shhhhh:これには裏話があって、タンザニアのすごい声ネタのトラックがあって、じつはそれをオープニングにしようと思っていたんです。

それはどこから出ているの?

Shhhhh:現地ものでエル・スールの原田(尊志)さんが仕入れてきて、これはすごいと(一部で)話題になった曲です。大人数の合唱曲なんですけど、これが頭だったら、僕が最近やっているワールド・フォーク・セットをパッケージングできるだろうというきっかけの曲だったんですよ。それがライセンスできなかった(笑)。このCDをつくるにあたって、最初にあげていた曲だったので、あれがダメなんですよ、といわれて、エーッって(笑)。

レーベルはどこなんですか?

Shhhhh:現地のレーベルで、連絡先はgmail。いま考えると、よくそんなところからライセンスしようとしたとも思うんですが、でもやっぱり途方に暮れて、声ネタのオープニング曲を探していたら、これ(Borana Tribe"Borana Singing Wells")にたどりついたんです。これなら最初にもいいし、中盤のヴォーカル曲のパートが生きてくるかな、と。で、〈Sublime Frequencies〉からは半日くらいで返事もらえたんですね。フランスのレーベルはダメだったけど。それで、結局オレはオルタナっ子なんだと思いました(笑)。カット・ハンズと〈Fonal Record〉も返事すごく早かったですもん(笑)。安心とも諦めともつかない宿命を感じました(笑)。オチがついたというか。制作中それで一回楽になりました。

オルタナティヴとしてのワールドミュージックといことではウォーマッド(WOMAD)的な見本市としての提示方法もあれば、ロス・アプソンの山辺(圭司)さんみたいなプレゼンテーションもあって、Shhhhhくんはその最新型だと思うんですよ。

Shhhhh:ロス・アプソンでルーベン・ラダとエドゥワルド・マテオのCDを「お尻から声が出てる」といって紹介しているのを知ったらウルグアイのひとは怒るかもしれないですけど(笑)、愛があり、誠実に解釈すればいいんだというのは山辺さんから学んだことかもしれないですね。

「辺境」という形容にも逆説的な価値観がかいまみえますから。

Shhhhh:でも僕はマージナルというよりはもうちょっとわかりやすいポップなものを今回はやりかったですね。

それこそバランスだ、と。

Shhhhh:山辺さんとか虹釜(太郎)さんの探求は横目で見つつも、わりとふうつに買える12インチを入れるというのも、バランスですよね。

すでに知っている曲、それこそシャックルトンであっても、Shhhhhくんのつくる流れのなかで聴くとまた違う顔つきになると思いましたよ。

Shhhhh:それがDJの役割じゃないかと思います。だから今回のCDはDJの作品だとすごく思いますね。コンパイラーとしてではなく。

今回ほかに使いたくて使えなかった曲はありますか?

Shhhhh:ニューカレドニアの音楽ですかね。〈POWWOW〉が終わった後、CMTの家ではじめて聴いたんですが、これ山辺さんの葬式で流れていたらヤバイね、って話になって、なぜか葬式という言葉がCMTの口から出てきたんですよ。

湿っぽい曲なの?

Shhhhh:そんな感じじゃないですよ。ゴスペルっぽい、とはいえ、ゴスペルじゃなくて、昇華していく感じもあり、海の感じもあるというか、しかも美しいんですよ。カナック族の音楽らしんですが、ジャンルとして存在しているかはわかりません。それもライセンスしようと思ったんですけど、連絡がつかず(笑)。そのかわりといってはなんですが、スヴェン・カシレックさんの曲を最後に入れられたからよかったですけどね。スヴェンさんはハンブルグのひとで、ケニアのヴォーカリストとエレクトロニカみたいなトラックをつくっているんですよね。結局現地ものじゃなくて、クラブよりの音楽ですね。このひとも返事早かったです(笑)。

アルゼンチン音響派にしろ、伝統的なものをワンクッション置いてアレンジした音楽に、Shhhhhくんは惹かれるところがあるのかな?

Shhhhh:音楽のうしろにある「フォーク」を考えるのが楽しいんです。90年代にレゲエ/ダブってわりと紹介されていたじゃないですか? それはUKからだと思うんです。それと同じで、2000年代に入って、イギリスの〈Soundway〉がコロンビアのコンピを出したのが僕にとっては大きかったんですよ。レゲエを聴いていたひとでもクンビアに流れたひとは多かっただろうし、それはすごくおもしろかった。僕と山辺さんが大好きなチーチャっていうペルーのサーフ・ギター・クンビアみたいな音楽があって、そのコンピもニューヨークから出ていました。2006〜2007年は全体的にラテンものの再発が多くではじめたんです。ニューヨークやイギリスのレーベルが最初だったりするんですが。でも不思議なことにそれはコロンビアとかアフロ・ペルーの音楽のコンピはあるんですけど、白人をコンパイルしたものはなかったんです。『ウニコリスモ』はアルゼンチンの白人の音楽中心ですが、あのミックスCDをつくる前はそんなことも考えていました。アフロ・ラテンのコンピはいっぱいあっても、アルゼンチンの音楽、たとえば(アタウアルパ・)ユパンキなんかは「ど」のつくフォルクローレですが、そういう音楽をまとめたものはないと思ったんですよね。

ユパンキはよく知られているんじゃない?

Shhhhh:でもクラブ/レア・グルーブ的解釈ではけっしてないじゃないですか? だからブエノスアイレスって僕にとってのポコッと残された場所だった、というのはいま思えばありますね。〈Honest Jons〉とかでもトラディショナルなアルゼンチンものって1作も出していないんじゃないですかね。〈Soundway〉などの再発ものであまりないんですよね。

いわれてみればそうかもしれないね。

Shhhhh:あとアルゼンチンは黒くないんですよ。南のほうだとカンドンベが出てきて、マテオみたいになるんですが。

黒っぽさ、白っぽさは気にするほうなの?

Shhhhh:後づけですけどね。

聴く前にそれで選ぶことは?

Shhhhh:ないです。でも僕は白いほうが合っているかなとは思いますね。

Shhhhhくんの軽快さはリズムを溜める方向ではないからね。

Shhhhh:そうかもしれないですね。たとえば黒人のテクノ、デトロイト・テクノを僕はいっさい通っていないんですよ。それよりも、四つ打ちならトランス、あるいはハウスやディスコ・ダブなんですね。ヒップホップなんかも好きでしたけど、トライブでしたから。

トライブは黒さはあまりないですね。

Shhhhh:そうですね。フリージャズはすごく聴いていましたけど、それも黒さというよりはドン・チェリーのあの感じでしたから。

アイラーとかコルトレーンではなくてね。

Shhhhh:もっとインターナショナルものですよね。

『ブラウン・ライス』みたいな?

Shhhhh:どちかといえば『Mu』のファースト・パートですね。『Mu』のファーストに針を落としたときの衝撃は忘れられないです。知らない国のお祭りというか、それこそ、カット・ハンズ"Black Mamba"と同じようなショックを受けました。これをジャズっていっていいの?! と思いつつ、やっぱりジャズだな、と。何かしらフォークな要素に惹かれるはそのときからあったんでしょうね。あとあれが好きでした、〈off note〉。ご存じですか?

もちろん知っていますよ。

Shhhhh:大好きなんですよ。コンポステラとか、聴きまくっていました。

コンポステラはボアダムスと並んで日本の90年代を代表するグループだと思いますよ。

Shhhhh:それは僕と同じですね(笑)。トランスのパーティとか、若いからタイパン(タイパンツ)履いて行くじゃないですか? その次の日は寝ないで吉祥寺曼荼羅の篠田昌已13回忌のライヴに行ったこともあります。あれは西東京のフォークじゃないですか(笑)。篠田さんのチンドンの要素と、あとはクレツマーですよね。じつはアルゼンチンってユダヤ移民が多くてクレツマーが盛んなんですよ。ルーツをたどるとユダヤ系の名前が多いんですよね。『ウニコリスモ』のときも、クラリネットの感じがコンポステラを思いだすな、と思ったこともありますから。それでアルゼンチンの音楽に入りやすかったというのはあります。そう考えると全部つながっている気がしますね。

音楽のある要素を聴きとって拡大する耳がShhhhhくんはある気がしますね。つなげていくというかつながっていくというか。いまの世の中では、どんな音楽にもたどりつけるけど、情報がありすぎることでさらにその先に踏みだそうとすると迷っちゃったりするじゃない?

Shhhhh:文脈だったり妄想の映像だったり国籍だったり、そういうものは重要だと思います。この前、つなげるとき、どういうことを考えているんですかってお客さんに訊かれたんですけど、単に自分のなかの文脈を勝手につくっているんですよ、とそのときは答えたんですけどね。DJはみんなそうだと思いますよって。

じゃあDJするときは何に一番留意するの?

Shhhhh:DJのときは低音とグルーヴをキープしないと場が成り立たないというのはあります。抽象的なコラージュもやりたいと思うんですけど、結局酒場というかひとが集まるとみんながみんな、そんな音を求めているわけではないので、普遍的なグルーヴは必要だというところに、何度も戻りますもん。最大公約数が四つ打ち、イーヴン・キックなのかそうじゃないのかというのもすごく考えていて、この前もEYEさんとそういう話になって、人類のダンス・ミュージックの最大公約数は四つ打ちじゃないか、とEYEさんはそのときいっていて、『エル・フォルクローレ・パラドックス』では自分なりの解釈を提示したつもりです。四つ打ちじゃなくても普遍的なビートを出す、誰にもわかるものをやろうと思いました。(了)

取材:松村正人

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interview with Moodman

聴くことコレ即ち魔道なり──ムードマン、インタヴュー

取材:野田 努
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Crustal Movement Volume 03 - SF mixed by MOODMAN

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 年齢を重ねてみて、わかることのひとつに、新しいモノってあまりないということがある。25歳の頃は「新しい」と思っていた音楽も、それより以前に似たものがあることや、いま「新しい」と思われがちなことも、すでに似たものがあることがわかる。そういう意味で、「リヴァイヴァル」という言い方はフェアでない。それは時代のモードの説明のひとつに過ぎない。
 新しければ良いというものではない。そういうスリルは、ときにたしかに目を眩ませるが、同時に疲れることでもある。逆に、新しくないモノが人の心を奪うこともある。それは、よく磨かれていることを意味する。
 ムードマンのミックスCD『SF』は1996年の曲ではじまり、1994年に繋がれるが、それ以外の29曲は、ほとんどがこの3年に発表された曲。その多くがダブステップ系だ。しかし『SF』は、大雑把に言えば、僕にはテクノのミックスCDに聴こえる。美しいアンビエントと温かいソウル、多少の遊び心の入ったリズミックで、柔らかいテクノの連続体......。
 僕がこのミックスCDを好きなのは言うまでもないところではあるが、年季の入った耳が選んだ31曲を使ったミキシングを、機会あらば、25歳の君にも聴いて欲しい。

ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。

選曲はすぐ決まった?

ムードマン:選曲自体は、わりと早かった方かな?

1曲目も? 最後の曲も?

ムードマン:まず、ばーっと曲を出して、曲順とかつなぎ方は組んでいく作業のなかで決めていきましたね。そこは悩みましたけど(笑)。

あー、そうか。

ムードマン:1曲目(ジョン・ベルトランの1996年の曲)は、もともと別のアプローチで使うことを考えていたんだけど、やっていくうちに「ここかな」という。

1曲目がジョン・ベルトランで、2曲目がステファン・ロバーズでしょう。1990年代初頭のテクノで、ムードマンの原点なんだけど、31曲の収録曲のほとんどがここ3年ぐらいに出た曲なんだよね。

ムードマン:ですね。今回、作っているうちに大きくふたつのテーマが、ぼんやりと浮かび上がってきたんです。まずは最近、90年代初頭にインテリジェント・テクノの系譜で活動していたオリジネーターたちの動きがまた活発なんですよね。

カーク・ディジョージオの曲も入っているよね?

ムードマン:カーク・ディジョージオこそ、その代表かもしれないんですが、自身のレーベルを含めてここにきてまたすごく精力的に動いている。BPM130前後の、実にいい湯加減のピュアテクノを頻発しています。ここ2~3年、あまり語られていないかもしれないけど、ものすごい曲の量と質なんですよね。ステファン・ロバーズもそう。原点回帰という意味でも、そのあたりの動きが面白いと思っていた、これがまずひとつあった。あともうひとつは、ここ数年のダブステップの感じを眺めていて、当時のインテリジェント・テクノに近い拡散のベクトルを感じていたんです。

本当にそうだよね。

ムードマン:当時は大きくレイヴ・カルチャーというのがあって、そこへのアンチまでとは言わないけど、それを異化する形で生まれたアート・フォームがインテリジェント・テクノだったと考えてみると、ここ10年、ベース・ミュージックが世界中で広まっていくなかで、その変化球みたいなものが、インテリジェント・テクノの時代に近いような感覚でぽこぽこ生まれている。それがやっぱり面白いなと。単純に、BPMもいろいろなことになっていますよね。GPRとか、irdialとかの雰囲気を思い出したりしながら追っかけてました。これがもうひとつの思いで。いろいろ他にも考えたんですけど、今回は、基本的にはそのふたつの気分を結びつけるような選曲でできないかなと。

だとしたら、その意図はパーフェクトに伝わる内容になっていると思うよ。

ムードマン:曲の流れで言うと、新しいものからはじめて古いものに落とす方がその気分は伝わるのか、逆の方がいいのかとか。オリジネイターの作品をもっと入れたらどう聞こえるかとか......構成は50パターンぐらい作ったんだけど(笑)、最終的にはわりと素直にジョン・ベルトランから......というのがしっくり来るかなと。彼とはずいぶん前に一度だけ一緒にDJをさせてもらったことがあるんですが、そのとき、とても喜んでくれて、すごく自分的には支えになったんで(笑)。感謝もこめて1曲目に(笑)。

ジョン・ベルトランの久しぶりに新作出すんだけど、スゲー良かったし。ところで、31曲も入っているのが驚いたんだけど(笑)。ムードマンにしては詰め込んだなと思って。で、20曲目前後、10曲目台の後半からダブステップ系の曲が続くんだけど、トラックリストを見なければ、ダブステップって気がつかないもん。

ムードマン:「気がつかれないこと」は目指した要素の重要なひとつです、とか言ってみたりして(笑)。

ほぉ。

ムードマン:カットが早いのは、ここ10年ぐらい僕はデータを意識的に使っていて、もちろんいまでもアナログ盤もいまでもかけるんですけど、データを使う時に限っては、僕の身体感覚では、曲がより素材っぽく感じるというか。いわゆるバトルDJのカットイン/カットアウトとは性質がことなるクイックさというか。ミニマルをかけるときもそうなんですけど、データを使うようになってから素材として音源を使うことの楽しみを知ってしまったというか。この感覚を記録しておきたくて、過去2作のミックスCDはアナログ盤を使ってやってるんだけど、今回はあえてCDJを使ってデータのみでやってみたんです。過渡期のデータでの遊び方みたいなものを残しておこうかと。

だいたい3分弱で、短いと1分も使ってないものね。

ムードマン:そこは強弱を付けてやったかな。長く使うものと短く使うやつと。曲によっては、バッサリとキーフレーズを抜いてますよ。

今回はすべてデータなんだね。

ムードマン:今回はそう。

俺は、いまだにムードマンというと、どうしてもアナログ盤というイメージが払拭しきれないからな(笑)。ヴァイナル・ジャンキーじゃない。

ムードマン:そこからは抜けられないですね。約10年前にデータと両刀になったんですけど、いまでもヴァイナルは......(笑)。

買ってるでしょう!

ムードマン:ですね。ただ、僕の世代だとやっぱりアナログにこだわる人が多いんですけど、過渡期ではあるけど、データもまたかわいいんですよ。

ヴァイナルで買ったものは、CDRとかに落としているの?

ムードマン:ヴァイナルはヴァイナルでプレイしますね。ヴァイナルをデータ化するときは、自分でマスタリング的なこともするけど、今回の収録曲はすべてデータで手にいれたものですよ。レアな音源かどうかよりも、かけ方の提案がしたかったということも大きいんです。他ジャンルをと思われる音源を、ディープ・ハウスとしてかける。

20年前とかさ、土曜日日曜日によく渋谷で会ったよね。ムードマンは決まって両腕で買ったばかりの大量のレコードを抱えていてさ、持ちきれないからタクシーで帰るわとか言って(笑)。

ムードマン:あの頃は、100円レコード棚の主でしたね。ヴァイナルの救出が自分の使命だと思っていた(笑)。まぁ、そこはいまでも変わらないですかね。最近、いい喫茶店が減ってるでしょ。なので、街中で時間が空いても、他に行くところも無いので、レコード店にいくしかないんですよ。まぁ、あとは居酒屋ぐらいかな、居場所は(笑)。以前に比べてプラスされたのは、通販ですよね。毎日、10枚から20枚のレコードが届く始末で......(笑)。

狂ってるねー(笑)。

ムードマン:いやぁ......(笑)。

レコード屋さんはものすごく重要だし、レコード屋さんがある街に住みながらアマゾンでしか買ってないヤツはわかってないと思うのね。レコード屋さんは、まず情報が整理されているでしょう。お店のセンスもあって、面だしできる枚数も限られているから、選びやすいというのがあるじゃない。

ムードマン:日本にはいいセレクト・ショップがたくさんありますからね。

そう、セレクト・ショップなのよ。しかも親切なレコード屋さんだと自分が持っている情報を分け与えてくれるからさ、「こういうのもあるよ」って教えてくれて、自分が知らなかった音も知ることができるじゃない。それはアマゾンにはできないからさ。だから、逆にデータで音源を探すのって......。

ムードマン:そう、難しい。

難しいよね。

ムードマン:しかもぜんぶよく聴こえるし。

そうなの?

ムードマン:それはそれでけっこうサヴァイヴァルで、逆に言えば、面白いんですよ。

今回のムードマンのミックスCDで初めて知った曲がかなり多いんだけど、たとえば、20何曲目かな(笑)、〈スモーキン・セッションズ〉っていうレーベルの曲で、ハーフステップになる曲があるじゃない?

ムードマン:はいはい、ジャズっぽくなる展開のね。

そう、あれとか、「良いナー」って思ったんだけど、どうやって探すのよ?

ムードマン:もうね、試聴につぐ試聴ですよ。

おー。

ムードマン:ひとり「良いナー」と思ったら、ずっとそこを追いかける。もうどんどん追いかけるっていう。

プロデューサーを?

ムードマン:プロデューサーでも、レーベルでも、そのまわりをぜんぶ聴く。今って、ぜんぶ聴ける状態にあるから、それをぜんぶ視聴する。むしろ、テキストはほとんど読まないんです、すみません(笑)。

はははは。

ムードマン:はははは。いまって、恵まれてますよ。視聴できるんだから。

寝る時間がないね。

ムードマン:ないない(笑)。嘘、寝てますよ。でも、レコードと同じですよ、掘り方は。僕はセレクト・ショップも好きだけど、値段均一のお店のえさ箱も好きなんですよね。誰かのお薦めももちろんいいんですけど、僕は誰も薦めていないものに愛しさと切なさと心強さを感じるんです(笑)。よくわからないものを買うって、自己が崩壊するいいチャンスなんですよ。

なるほど。

ムードマン:メディアのあり方としては、いま、過渡期だとは思うんですが、自分としてはアナログでいま掘りたいモノと、データで掘りたいものとがそれぞれ明確にあるんですよ、わりと。ただ、それを日々続けてるっていう(苦笑)。

(笑)。

ムードマン:今回入っている曲でもアナログで出ているのも多いし、まぁ、どっちで手に入れようかなっていうのは迷いますよね。でも、いまって早く買わないとなくなっちゃうでしょ。そこに参加するよりは、単純にもっと多くの曲を聴きたいだけなんですよ。

あー、なるほどね。

ムードマン:例えば、地図を書くときに、GPSとかで俯瞰して書く人もいれば、伊能忠敬じゃないけど、歩いて書く人もいる。僕は歩いて書いて、測量するほうが好きなんです。

それはいい喩えだね。

ムードマン:俯瞰する誰かの目を、まったく信じてないんです(笑)。

しかし、伊能忠敬としてデジタルの世界を歩くのって、相当な根気がいるんじゃない?

ムードマン:そこまでたいへんではないけど(笑)、まず、周辺というか、ヘリがわからないんですね。どこが崖だか分からない。

それはそうだよね。

ムードマン:ヴァイナルは100年ちょいの歴史ですが、もう掘り尽くせないくらいの量があるでしょ。2010年頃には地球上のアナログって、すべてアーカイブ化されちゃうかなぁと妄想していたんですが、ダメでしたね(笑)。まだまだ深い森のような感じですよね。しかも、新しい音楽はどんどん出てきている。狂いそうです(笑)。

でも、いまほど情報が氾濫している時代もないというか、ホントに情報過多じゃない。情報サイトとか見ると、誰がこれだけの情報を消化するんだよって感じで更新されるでしょ。そういうカオスのなかで、情報をセレクトするのって重要だよね。いかに削除していくかっていうか。

ムードマン:それはひとつコツがあって、ほとんどの情報がコピペなんですよ。だから、コピペをまず無視すること。日々発信されている情報は、誰かのコピペばかりで、オリジナルに当たっていないですよ。はっと気づくと、コピペに洗脳されてる自分がいませんか、と。

リツイートの文化だよね。

ムードマン:リツイートはまだ誰が拡散したか主体が見えるけど、ニュースとか、評論とかが、コピペの場合も多いですからね。デジタルの世のなかになって、意外と感覚が閉じたかなとしばしば思うのは、そういうことです。コピペが大きな障壁になっていると思う。コピペ、コピペって、何度も口にするとなんだがかわいいですが(笑)。まぁ、でも、そこのたかを外しちゃえば面白い世界が広がっているのでは(笑)。

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聴くことコレ即ち魔道なり──ムードマン、インタヴュー

取材:野田 努
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例えば、地図を書くときに、GPSとかで俯瞰して書く人もいれば、伊能忠敬じゃないけど、歩いて書く人もいる。僕は歩いて書いて、測量するほうが好きなんです。俯瞰する誰かの目を、まったく信じてないんです(笑)。


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Crustal Movement Volume 03 - SF mixed by MOODMAN

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今回の選曲見せてさ、まあ〈アップル・パイプス〉とか〈ヘッスル・オーディオ〉とか〈パンチ・ドランク〉とか、ダブステップ系の人気レーベルの楽曲があるんだけど、でも、ダブステップの系譜で聴いていったら出会えないようなレーベルも入っているんで、そこが「らしい」と思った。

ムードマン:自分にとっての良い湯加減を探しただけです(笑)。ただ、今回は楽曲的にはわりと現時点でポピュラーなものを選んだつもりで、むしろ、ダブステップの定番的な楽曲を違った感じで聞こえさせることに気持ちを注いだんです。ダブステップに関しては、本道ももちろん、好きなんですよ。ただ、自分がかけても説得力がないのでね。

結果論なのかもしれなけど。

ムードマン:良い湯加減の曲を見つけたときは嬉しいですよ。そのときは、つい、その周辺をぐるぐるとまわっちゃう。テクノ創世記の話で言えば、例えばハウスのコーナーの片隅に、〈トランスマット〉の12インチが1枚混ざっていたりして、「なんだこの妙なイラストは?」と思って、そこからその周辺を探したのと同じことをしているだけですよ。あの頃、「ヌード・フォト」に針を落としたときの衝撃はいまでも覚えてますね。

デジタルの世界でもそれが可能なんだね。

ムードマン:もちろん。

アナログ盤は、やっぱモノとして愛でることができるけど、データは......、否定するわけじゃないけど、集めても充実感がなくない(笑)?

ムードマン:いや、モノを愛でる感覚は重要だけど、そこに引っ張られるといろんなことを見失うと思いますよ。音楽はモノじゃないから。空気の振動だから。

クラシックの時代は楽譜だったわけだしね。

ムードマン:パッケージングされて音楽を聴くのって、たかだかここ100年の歴史ですよね。データはアルバム単位じゃなくて曲単位なんだけど、アルバム文化なんていうものは、これもまた古くなくて。SP盤、EP盤、そしてLP盤っていうね。

『サージェント・ペパー~』以降なわけだしね。

ムードマン:アルバム単位で作家性を出すって言うのは、『サージェント・ペパー~』以降といわれてますよね。って、今日はこういう話で良かったんでしたっけ?

でも好きでしょ?

ムードマン:大好き(笑)。愛でる感覚は大好き。レコードを開けたときの匂いが、まず好き(笑)。ただ、いまの作家がいまのスタイルで作っている音楽を、軽視するのは良くないと思う。良くないというか、もったいないと思うんです。データとヴァイナルと二項対立で語られがちですが、グラデーションで様々なメディアがあるわけで。ポンチャックはカセットでかけたいとか、エキゾチックサウンドを8トラックで聴いたらびっくりしたとか。オープンリールで聴くディスコって凄みがあるなとか。いろいろね。愛でる感覚はメディアに関係なく伝えたいとは思っています。

デジタルをディグるときの快楽ってどんなもの?

ムードマン:僕はそもそもあいだにあるものが好きで、ヒップホップでもなく、レゲエでもない、ラガマフィンヒップホップに萌える感覚というか(笑)。

ムードマンは本当にそうだよね。今回のミックスCDなんか、「あいだ」だよね。

ムードマン:で、デジタルは僕にとっては、「あいだ」を探しやすいんですよ。

へー、そうなんだ。

ムードマン:これまでおいそれとは聴けなかった地域の音源とか、「この辺くさいぞ」ってディグすると、あるんですよね。今回のミックスCDではそこまで広い地域の音楽をピックアップしませんでしたけどね。

AでもなくBでもなく、AとBのあいだにあるもの。

ムードマン:3つ以上かもしれないし、それらが混ざり合っているもの。混ざり合いそうだという雰囲気。なにか妙なものが生まれてきそうだぞという躍動感もふくめて、そういった音楽が好きなんですよ。ロウな感じっていうか。食感で言うと、グミっぽい感じと言うか。ちょっと違うか。

そう考えると、2013年に出したというのも結果論なんだけど、必然にも思えるんだよね。何故ならいまはその「あいだ」で良いのがたくさんあるから。

ムードマン:ミックスCDって、ドキュメンタリーかなと思ってるんです。

最初のミックスCD(2002年の『Weekender』)はポスト・パンクっぽい感じがあったりね。

ムードマン:ミックスCDに関しては、収録している曲が新しいとか古いとかいうことではなくて、「いま」の空気がどうやっても染み込む。「いま」を封印する能力に長けてるとおもっているんです、ミックスCDという型式自体が。なので、映像で言うならば、映画というよりは、ドキュメンタリーを撮る感覚に近い感じというか。客観性の限界としての個性と言うか。

噂では、ムードマンはいまシカゴのフットワークにハマってるっていう。

ムードマン:ああ、よく言われるんですけど、パーティでがっつりかけたのは数回です(笑)。新参者です。ハマっているということでは、ゴルジェ(GORGE)のほうがハマっているかも(笑)。まぁどちらも、ときどき、隙あらば混ぜてはいますけど、僕の場合はもともと、広義のダブとともに、広義のベース・ミュージックが好きなだけなんです。マイアミベースの頃から、ずーっと。マイアミというと、2ライヴ・クルーに端を発するお尻系のイメージが強いけれど、もっとクルマ系とか、スピーカー系とか、宇宙系とか。マイアミでもダークな系譜のトラックはいまのベース・ミュージックに近いんですよ。昔、エイヴェックスからリリースさせていただいたコンピ『インテリジェント・ベース』にも少しだけその要素は入れたんですが。

そうだよね。フットワークって言葉が新しくなっただけで、やっていることは、シカゴ・ハウスとオールドスクール・エレクトロのアップデート版というか。

ムードマン:そのなかでも際立って、オリジナルですけどね。オールドスクール・エレクトロの系譜への関心は、もちろんずーっとあって。もっというと、その前段階の、エレクトリックなブギーからエレクトロに帰結する流れがいちばん自分のツボなんですけどね、地味だしクラブではなかなかかけるチャンスが無いんですが。先週たまたま、DJ APRILさんとか、PAISLEY PARKSのKENTさんと一緒だったんですが、彼らはストリクトリーにシカゴのストリートのフットワークをかけていて、やっぱりかっこ良かったなぁ。半端ないですよ。僕はどうしても、先人への尊敬が前提なんだけど、「あいだ」ぐらいのジュークをかけたくなってしまう(笑)。

なに、その「あいだ」ぐらいのジュークって(笑)?

ムードマン:ジュークの影響を受けてるとおぼしき世界中の音(笑)。あるいは、単に同時多発的な、類似性を感じるビート。

アジソン・グルーヴみたいな?

ムードマン:「あいだ」のまた「あいだ」もあるんですよ(笑)。デトロイトっぽいヤツとか、アンビエントっぽいヤツとか。同時多発的というか、近いビートでまた違った表現をしている人たちがたくさんいる。もっとR&Bっぽいとかね。オリジネイターに敬意を払いながら、その拡散というか拡大というか、そこをかけるのが僕の担当かなと思って(笑)。王道ではないですよね。

まあそれ言ったら何が王道なのかと思うけど、DJラシャドの最近出た2枚組とか聴いた?

ムードマン:うん、聴いた。

最高だよね。

ムードマン:最高。こないだトラックスマンが来日したときに、自分はジュークという以前にシカゴ・ハウスのDJだというような発言があったんだけど、なるほどなぁと。プレイもシカゴハウスのクラッシックを新しい観点でかけていてかっこよかったなぁ。感慨深かったです。

そういえば、フットワークが入ってないなと思って。

ムードマン:今回は聞き心地として、平坦な感じにしたかったの。フットワークは自分的にまだまだ完全に消化できてはいないので、平坦にできないのです(笑)。

ピッチが合うの?

ムードマン:ピッチの面では、たぶん、やりようはある......はず(笑)。

あの辺、本当に面白いよね。聴いててワクワクするよ。

ムードマン:僕がいちばん好きなのは、スネアの音が優しいところ。中音から上が良いんですよ。

えー、そう? アグレッシヴな感じあるじゃん。

ムードマン:いや、フットワークって、ベース・ミュージックのなかでは非常に高音が優しくなっている。もちろんきついの一発入れてくるパターンもあるけど、シカゴハウスの系譜のなかでは、とくにスネアの鳴りが希有ですよ。

なるほどね。

ムードマン:昔、マイアミ・ベースにハマった頃、よくローライダーが集まるモーターショーに行ってたんですよ。会場の一角に、ウーファーを何十個も積んだクルマが死ぬほど並んでいてね、けっこう遠くから、低音の固まりを感じるんです。で、近づいていくとベースの沼というか、低音が身の回りをぼわーっと包んでいて、高音は蚊の鳴くような音で、小さく鳴っている感じなんですね。ああいう感じが好きなんです。そういう音の配置っていうのかな。レゲエのサウンドシステムでも好きなのは、上(高音)が天の声のように微かに聞こえる感じ。つま先から首ぐらいまでが低音で、低音浴というか、いい湯加減のベースにずっと包まれている感じ。そのポテンシャルがあるベースミュージックが本来的には好きですね。

なるほどね。フットワークにしてもダブステップ系にしても、ミニマルやダブにしても、ここ数年で、ダンス・ミュージックがまた更新された感じがあって。

ムードマン:全部、続いているんですけどね、急に変わった訳ではなくて。さっきのインテリジェント・テクノのオリジネーターの話じゃないけど、新しいムーヴメントだけではないんです。例えば、ディープなヴォーカルハウスも地味ながらアップデートされていたり。バズの起こりようがないので、話題になりにくいだけなんです。なんというか、いまの「更新された」っぽい空気って、新しい音楽のリリースの形態、流れが整ってきたことも大きいのかもしれないですね。

ミックスCDを「平坦な感じ」にしたかったっていうのは何で?

ムードマン:これは僕の習性なんだけど、ミックスCDって、なんかしながら聴くでしょ。

「さあ、聴くか!」っていうよりも、家で、なんとなくかけるって感じだよね。

ムードマン:だから、一定のテンションが保たれているものの方が、個人的には使用頻度が高いんです(笑)。

実用性を考えればそうだね。

ムードマン:そう、テンションは一定しているんだけど、ふと気がつくと変な音が入っているみたいな。「あれ?」っこんな曲、入ってたっけ?とか。そのくらいの変化を、小出しにまぶしているものが好きなんです。主張せず、引っ込みもせず。甘からず、辛からず、美味からず(笑)。だから、過去の2作もそうなんですけど、キーとか、ヤマは、作らないんです。

そうだね。

ムードマン:自分がよく聴くのが、そういうものなだけなのですが。どの曲も他の曲を引っ張らない感じ。ムード音楽志向なんですかね、やっぱり。ゆきゆきてディープ・ハウスというか。

貫禄だね(笑)。

ムードマン:本当はもっと出したいんですけどね、ミックスCD(笑)。いろんなスタイルで出したい。

でも、今回3枚同時発売されたけど、3枚とも面白かったな。ダンス・ミュージックがいま面白いんだなってよくわかる感じで。

ムードマン:3枚とも、キャラクターが出ましたよね。Nobuくん、Shhhhhくんと一緒に出せて、良かったな。

Nobu君のが尖ってて、Shhhhh君は、ワールドな感覚を捉えていて、ムードマンのが安定感があるっていうね。

ムードマン:今度は、ゴルジェ(GORGE)で1枚作りたいな(笑)。やらせてくれないかな。

最近はDJはどんなペースでやってるの?

ムードマン:週に2回ぐらいかな。

それは己の体力の限界に挑戦しているの(笑)。

ムードマン:いや、単純に音が聴きたくなるんですよ。でかい音で。結局、DJやってなくても遊びに行ってしまうから(笑)。同じなんですよ、体力的には。しかも、ふだん音楽をずーっと聴いているから、曲のかけ方なんかも考えてしまったりして。もともと分裂気味なので、いろんな方がDJで呼んでくれるのでホントありがたいです。
 あと、僕は毎回、オーガナイザーからお題をもらうんです。今回は、こんな感じでお願いします。はい、がんばります。という感じで。結果、毎週のように悩んでいるけど、それが楽しいんですよ(笑)。大喜利というか、ボケ防止にはいいですよ。

最近は、若い子のあいだで、ムードマン・スタイルがスタンダードになっちゃってるんだよ。働きながら音楽やるっていうのが(笑)。

ムードマン:ちゃんとかどうかは分からないけど、海外の人にとってはそれが普通ですよ(笑)。よく両立していられるねって言われるんだけど、そういうことでもなくて。僕の場合は、一生のうちどれだけ音楽を聴けるかっていうことが一番大きくて、あとはどうでもいい。どうでもいいというほど、破天荒なキャラじゃないですけど(笑)。ライフ・イズ・ワンスですから。

最初からそこは思ってないもんね。

ムードマン:まず聴きたいんですよ。その代価として身銭を切る。データでも同じ。

そこは作り手へのリスペクトでしょ?

ムードマン:そう。作り手がもっと作れるように。芸で食うべき人が芸で食えることが大切。で、僕はただとにかく、聴きたいんですよね(笑)。音楽のかけ方に関しては、自分のスタイルがどうこうではなくて、そうやって自分が聴いた曲を、どうやったら他人によく聴かせられるか......なんですよね。

しかしムードマンもいい歳だから、いままでのように突っ走り続けられない領域に近づいてきているよ。

ムードマン:もう、そうなってますよ(笑)。

週2でもすごいよ。

ムードマン:なので、普段、気がつかれないように、ぼーっとしてますよ(笑)。リビング・デッドですよ。トオルさんとかノリさんとかワダさんをずーっと見てきて、いつまでも若い衆気取りでいたけど。野田さんにずいぶん前に「いずれ来るよ」って言われてた通りに来てますよ(笑)。

ムードマンが最初にDJをやったのって?

ムードマン:10代の後半。ちゃんとしたところでは、〈ZOO〉が初めてだったと思います。

そのときは何をかけたの?

ムードマン:〈ON-U〉(笑)。当時は面白い音楽を聴くためには、クラブに潜入するしかなかったんですよ。毎日のように、日常では耳にできない音楽がかかっていた。スカ、カリプソから、テクノまで。で、出会った音楽を少しずつ集め始めたんですね。最初は、友だちの主宰する身内のパーティだったんですよね。レコードもってそうだから出てという感じで。〈ON-U〉ばっかりかけてたら、店長から「良いねー」みたいに言われて、調子にのったという。

俺、ムードマンがまだ大学生だった頃に家まで行って取材したじゃん。あのとき、レコードは家にたくさんあったけど、まだ部屋にDJ機材とかなかったような気がするもん。

ムードマン:あのときは、ボロボロの家具調ステレオしかなかったかも。あのずいぶん後ですね、DJの機材を買ったのは。つなぎとかは、ミックスとかは、当時、働いていたお店のオープン前の時間を使わせてもらったりして練習しましたね。

いま、25年ぐらい?

ムードマン:そうです。好きだと言うだけで来てしまったというか、正直、こんなに長くやれてると思ってなかったです(笑)。

レコードどうしてる?

ムードマン:カミさんのレコードも加わったので、XX万枚ぐらいかな......。

ハハハハ、それ酷いね。

ムードマン:7インチが多いんで、場所はとらないんですけど....嘘、食卓の周囲以外は、音盤です(笑)。

ジャンルで言うと?

ムードマン:いや、もういろいろ。ここのところは50年代の音源を探ってることが多いですかね。どんなジャンルでも、例えばジャケットの裏を見て、面白い楽器の編成だとつい買っちゃうんですよね。そもそも、シンセものも、リズムボックスものも、その観点で好きなんです。

編成?

ムードマン:3ピースなのにアコーディオンが入っていたり。アレンジが面白いものが好きなんですかね。今回の選曲にも結局、その要素は出ているかもしれないです。地味なんだけどひと癖あるものっていうか。大衆小説でいうところの「奇妙な味」というやつです。

はははは、そうだよね。それ、〈ON-U〉にはじまっているのかもね(笑)。ところでさ、〈ダブスレストラン〉のコンピレーションを再発したいんだけど、ライセンスしてもらえない? 聴きたい人は多いと思うんだよ。

ムードマン:赤岩君と連絡が取れればいいんだけど......僕だけがやっていた訳ではないので。ちょうど、20年前ですよね。当時、〈ダブスレストラン〉に送られてきたデモテープは、ぜんぶ取ってあるんですよ。段ボール、数箱分かな。いま聴いても、どれもクオリティ高いし、面白いんですよ。
 なにが面白いかというと、ガチリアルな、ベッドルーム・テクノの音源というか。明確なフロアが無かった時代に、みんなが仮想のフロアを夢想して制作したクラブ・ミュージックである点です。ありえたかもしれない90年代。メタフィクションですよね。いずれなんかのカタチで公の場で共有できればと思っているんだけど、さすがに当時の作り手は、もういい大人だろうし、住所も違っているだろうし、連絡付けようがないだろうからな。海外の音源を買うよりも、送られてくるデモテープの方が面白かったんですよ、当時。あの時代でしか生まれなかった、すごく良い音がたくさん眠ってるんですよ。聴いてみたいでしょ。

むちゃくちゃ聴いてみたいから出そうよ。

取材:野田 努

interview with Yakenohara - ele-king


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

felicity/SPACE SHOWER MUSIC

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 太陽、新しい、リラックス、幸せ、未来、夢、光、希望、大切なこと......言っておくけど、これは啓発本ではない。やけのはらの2年半ぶりのセカンド・アルバム『SUNNY NEW LIFE』から聴こえる言葉だ。CDのケースには、明るいリゾート地のような写真がデザインされている。ジャケには青空が見える。

 やけのはらは、ゼロ年代、さまよえる世代の代弁者として登場した。小洒落たリゾート・ミュージックとは、ある意味真逆の存在で、ささやかな、汚れた日常をロマンティックに描こうとするリリシストだ。彼の初期のレパートリー、"Summer Never Ends"(SFPのリミックス)、"Rollin' Rollin' "(七尾旅人との共作)、"DAY DREAMING"(BUSHMINDとの共作)、あるいは"GOOD MORNING BABY"といった曲は、空しい日々の、しかし小さく甘い、そして美しい物語だった。結果、2010年の真夏にリリースされた彼の『ディス・ナイト・イズ・スティル・ヤング』は、派手な宣伝もないのに関わらず、多くの人たちに聴かれることになった。
 地下より野外、夜より朝、冬より夏を、やけのはらは、好んでいる。猥雑俗悪なものより潔癖な表現を選ぶ。そのように僕には見える。『SUNNY NEW LIFE』は、それに輪をかけてドリーミーなサウンドに特徴を持つ。曲によっては、トロピカルなムードさえある。近年稀に見る脱力感もあるし、そうした軽やかさが『SUNNY NEW LIFE』の魅力だが、口当たりの良い言葉ばかりが並んでいるわけではない。春の日差しのようにうららかで、温かい音楽の背後にあるやけのはらの「思い」をお届けしよう。

僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。

ジェフ・ミルズのときに久しぶりに会ったんだよね。

やけのはら:あー、はいはい。ていうか、ジェフ・ミルズが音楽を担当した、麿赤児さんの大駱駝艦の公演ですよね。それから次の日にも何かで野田さんに会ったんですよ。

寺尾沙穂さんのライヴじゃない?

やけ:そうです、そうです。

ジェフ・ミルズのときに行って、「あれ、やけのはらに似てるひとがいるなー」と思って。あまりにも似てるなーと。そしたら本人だった(笑)。

やけ:あれは、友だちが劇に出てたから。

「何でここにいるの?」って。

やけ:野田さんはおかしくないですよね、ジェフ・ミルズだから。僕はジェフ・ミルズだから行ったんじゃなくて、友だちが出るのに興味があるから行ったんですけど。

しかも2日連続で会ったからね。びっくりしたよね。ずっと会ってなかったから。実際、前のアルバムから今回のアルバムまで長い年月が経ったんだけれど。

やけ:そんな、そこまでは(笑)。10年とかじゃないんで(笑)。えっと、前が夏なんで2年半。

2年半かぁ......。そうだよね。なんか、『THIS NIGHT IS STILL YOUNG』の頃がすごく昔に思えない?

やけ:それは僕もあります。いろんなひとたちにとっても3.11があったんで、やっぱりそれ前後っていう考えがあるんだろうし。自分のなかでも、同じ世界の同じ時間のつながりのなかですけど、そのときの雰囲気というか感情ってまた違うものとしてあるイメージがありますね。

今回の『SUNNY NEW LIFE』は、『THIS NIGHT~』を出した後から考えられていたものなの?

やけ:考えてました。なんていうか、ラッパーとしてガツガツとアルバムを出していこうって感じじゃないんですけど、『THIS NIGHT~』で自分なりのラップ・アルバムを1枚作れて、やっと作り方がわかったというか、いちおうできるってなって。ただ、早く作れるタイプでもないので、そのうちできればいいやっていうのだと、5年か10年かわからないけど、なかなかできないだろうなっていうのもあったし。
 もともとの気持ちとしても、DJのほうが自分の性格には向いてると思っていて、そういうのは自分のライフ・ワークとしてずっとできるかもしれないし。でも声出してラップして、っていうことはいろんな状況や自分の体力とか気持ちとかにしろ、できるタイミングにできるだけやりたいなっていうのもあったので。気持ち的にはすぐ作りたいぐらいの感じで思ってたというか、最初は「2011年に出します」って言ってましたね。
 そこに震災があって、いろんな面でドタバタしたりっていうのがあって、作業も止まるわっていうか、2011年は早かったっていうか。思うようにできず。まあ、なんやかんやで多少時間経ったなっていうか。イヴェントにはいろいろ出たのはあるんですけど。そんななかで2年半経ちましたが、気持ち的には早く出したいっていうのはありましたね。

サンダルはいつやめたの?

やけ:30歳ぐらいじゃないですか。大人になったんじゃないですか。

あれはやめようと思ってやめたの?

やけ:うーん、覚えてないですけど、なんですかねえ。ある日、「この靴キレイだしいいなー」と思って、わらしべ長者的に。靴をいっぺん履き出すと、現代人は恐ろしいもので、もう靴のない生活には戻れないですよ。

なんで(笑)?

やけ:いやいやいやいや、ちょっともうそういうのは。

逆に、あの頃ってなんでつねサンダル履きだったの?

やけ:よくわかんないです。ラクだったんじゃないですか?

最初会ったときのインパクトっていうのがサンダルに集約されているところがあって。だって、真冬に、横浜から渋谷までサンダル履いたまま来てラップするひとって、それまで知らなかったからね。

やけ:そういう感じで書いてましたよね。そのときに「スポーツシューズではなく、サンダルを履く彼の......」っていう風に書かれていたのを覚えています。

やけのはらと言えば、冬でもサンダルっていうイメージだったのにね。

やけ:そこまでいくと極端じゃないですか(笑)?

上はダウン着ているのに、足がサンダルというね(笑)。でも、今回のアルバムもそういう意味では、変わらないというか、やけのはららしいなっていう風には思ったけど。もちろん変化はあるけど、「彼ならこういうときこういうこと言うだろうな」っていう。

やけ:そう言ってもらえるのは嬉しいですね。

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だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。


やけのはら
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それにしても最初のアルバムは完成まで時間がかかったね。

やけ:大きな問題は、ライヴを当時はまだできなかったことですね。DJをバックにラップするっていうのがなんか、まずしっくり来なかったっていうか。それがドリアンくんに出会って、キーボードとだったら1DJ1MCぐらいの人数で、音楽的にもイヴェントとしても自分にとってやりやすかったし、自分なりのライヴができるって。それが、すごく大きいですね。モチベーションとかいろんな意味とかでも。そのことに気がつくのが、すごい遅いんですけど(笑)。
 で、いまはライヴができる楽しさがあって。DJも楽しいんですけど、それとはまた別の、新しい曲を作りたいとかアルバムを作りたいとか意欲が湧いてく来るというか......、自分が好きなレーベルで、楽しくコミュニケーションしながらできているので、普通に次のアルバムを作りたいなと思いました。僕が野田さんにはじめて会ったときから6年ぐらい経ちますよね。そのとき僕にはライヴの手段がなかったから。

DJしかやってなかったもんね。

やけ:ライヴがない状態で、日々の仕事っていうとヘンですけど、DJとかリミックスとか日々の時間でやることもいろいろあるなかで、なんか行くアテのないラップ曲を10曲作るとかってなかなか難しかったというか、機会があるときしかできないというか。

温かい作風だとは思うんだけど、今回のアルバムには、他方では、やけちゃんの問題提起や主張がより際立っているようにも感じたのね。その辺をひとつひとつ話していければなっていう風に思ってます。

やけ:こういう感じがもともとの自分の素っていうか。いまの感じが素に近いっていうのは、僕も思ってる し。野田さんは最初から俺のサンダルを気にしてるようなひとだったから。サンダル感はこのアルバムとは違うかもしれないけど(笑)。物質に対する考え方とか世のなかの情報とか、物事に対する僕の感覚みたいなものをサンダルってタームで野田さんが捉えてくれたんだと解釈して(笑)、そういうのはこっちのほうが入ったりしてるっていうか、そういうのを僕らしいって言ってくれたのなら、自分もそうだと思う。

もう、とにかく、何とか、ある種の前向きさみたいなものを打ち出したいわけでしょう?

やけ:そうですね。ぜんぶそうですけどね。

思春期な感じを残しつつ。

やけ:思春期? あー、そこはちょっと違います。言ってる意味はわかるんですけど。たしかに、ファーストのときは青春を意図的に入れてますが、このアルバムではそういうところを排除したつもりなんですよね。大人になっていくっていうことが裏テーマだったので。

でも大人になってもYOUNGでいたいっていうのじゃないの?

やけ:いや、このアルバムに関しては、なんだろう、大人を受け入れるみたいなものが裏テーマなんですよ。

今回のアルバムっていうのはさ、結果的には、すごくポジティヴな雰囲気を前に出しているじゃない?

やけ:うーん、僕が自分で作っててこういうのはヘンかもしれないですけど、ポジティヴに無理矢理なろうとか、ポジティヴにしていこうよみたいなこととか、強迫観念的 に、狂ってるぐらい前向きになろうということを言い方を換えて言ってるような気がしますね(笑)。
 今回は、新しさとか生活とか、統一したテーマで作りました。そして、「年を取っていく」とか「暮らしていく」とか、「大人になる」......。「暮らしていく」っていうのは時間が経過していくから当然年を取るわけで。そこが裏テーマだったんですけど、それは誰にも指摘されてないですね。「大人になりましょう」っていうのを言ってるんです。

それにしても、何故、ここまでムキになって前向きさを打ち出したの?

やけ:やっぱり震災は大きかったですし、震災だけじゃなくて原発だったり、そういう3.11で起こったこと以外の経済や、それによって気にするようになった社会のシステムだ ったりとか。たとえば僕がもともと感じていた資本主義社会やグローバリゼーションに対する違和感みたいなものが、よりいっそう気になったり。さらには自分が知っている範囲よりも広い、社会や世界の構造だったり。
 で、世界の構造を生む、貨幣の制度に対する個人ひとりひとりの気持ち。たとえばそんなに紙幣をいっぱい集める満足感を、市民はそこまで憎しみ合いながらも得る必要があるのか、とか。物質なんかにしても、そういうものが本当に必要なのか、とか。自分にもともとあった、ダサイ言葉だけど(笑)、消費社会に対する距離感や違和感みたいなものが、よりいっそう震災を経た社会や世界では自分が知りたいと思ったりとか。
 で、よりいっそう違和感であったり、豊かさの形だったり、何に喜ぶべき??「べき」っていうのもおかしいんですけど、たとえばこういうものを得てこういう暮らしをするのが幸せだっていうことに対 して、ひとりひとりの多様性がもっとあっていいんじゃないか、とか。
 そういう意味で、「新しさ」は、自分に対して言ってるっていうのもあるし、リスナーのきっかけになってくれたら嬉しいみたいな意図もあるし。なんですかね......あれ、僕、何言おうとしてたんだっけ(笑)?

(笑)今回が明るいアルバムになった理由は3.11にあるっていう話かな。

やけ:そう、それで社会のシステムがその前に戻ろうみたいになっているけど、変えようよっていう。何が本当に必要でどういうものを美しいと思うかなんかを、もう一度ちゃんと捉え直したりしようと。みんなが思わされている世界の認識も、デッサンし直して新しいのにしようと。そういう意味での「新しい」。戻るんじゃなくて、流れをリセットしたほうがいいんじゃないかって。リセットっていうか、新しい発想。たとえば音楽産業なんかで言っても、「あの時代のああいうのに戻ろう」とかそういうことよりも、新しい形を模索しようって。

「90年代をもう一度」ではなくて......。

やけ:社会には意外とそういうムードがある気がするんですよね。3.11を経ても。

いまは、むしろ「明るくなれ」って言うほうが難しいことだと思うのね。

やけ:「SUNNY」っていうのは「明るくなれ」って感じでもないんですけど......、なんだろうなあ。

『SUNNY NEW LIFE』っていうのはさ、言葉としては空振りしかねないというか。世のなかの絶望感に対して、もっと希望を持とうと言ってるわけでしょう?

やけ:まあそうですね。

イチかバチか、でも言ってみるか、みたいな感じなの?

やけ:そんなでもなかったですけどね。だって"RELAXIN'"とかも「リラックスしていこうよ」だから。

「リラックスしろ」なんて言われたらさ、「ふざけるな」って怒るひともいるかもしれないじゃない?

やけ:いやいやだから、わざとリラックスしようって言ってるんです。

ははははは。

やけ:みんながリラックスしてたら言わないですから。そういうムードじゃないから、リラックスしようって言ってるわけです。あとなんか、ギスギスした空気感よりは、抜けた軽やかなものにしたい。

ギスギスした空気感っていうのはどこから感じるの?

やけ:いろいろですね。僕が愛する文化も落ち込んできてるし......。それがどんどんコンビニエンスになってたり、文化的なものっていうものが利便性や消費のなかでどんどん求められなくなっているというか、切り捨てられていっているように感じますけどね。

"JUSTICE against JUSTICE"という曲には憤りがあるんだけど、これは何についての曲?

やけ:これは去年の12月の選挙のときに書いたもので、まあ石原慎太郎ですね、はっきり言うと。尖閣問題。
 マチズモみたいなこととか男性性・女性性とかもいろいろ気になっていた時期で。戦争だったり、あらゆるとこにも通じると思いますし、だからべつに石原だけのことじゃないけど。もうひとつ言うならアメリカ。近年のアメリカ、というかアメリカの侵略の歴史、アメリカ人的なマッチョな発想だったり支配の歴史だったり。アメリカのこともちょっと考えてたかな、9.11とか。なんだっけ「次々と作る敵」とかは、アメリカがいろんなところを次々と侵略したり、大義名分を作って侵略するみたいなイメージで。
 これはガンジーの言葉の引用ですけど、「目には目を歯には歯をってことをしてると、ぜんぶなくなってしまうよ」と。人類の知恵は科学で核兵器を作れるんだから、このまま戦い合っていても取り返しがつかないことになっちゃうんじゃないかなって。日本人でももちろん、99.9パーセントのひとたちが戦争反対って言うと思いますよ。だけど、「中国人ってアレだよね」とか言っちゃうひともいたりとか。北朝鮮は気持ち悪いって言ったりとか。北朝鮮にいつ攻撃されるかわからないんだったら、「そこはもうやっちゃいましょうよ」みたいな、とか。そういう空気って普通にあるような気がして。

アルバムではこういう、ある意味では、すごく際立った言い方、前向きさもふくめて単刀直入に言ってるよね。

やけ:それはだから、大人になってきたり??。良くも悪くも年を取ってきて、それを受け入れるっていうのが裏テーマなんですけど。30超えた大人で、3.11で社会と日本が大変なことになってるなかで、やっぱり考えざるを得 ないですよね、それは。そういう社会構造だったり、いろんなことを。クラブとかDJとか、そういうみんなが楽しむ物事に関わることとしても。

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激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。


やけのはら
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いまでもクラブDJやってる?

やけ:基本的に、もちろん。

どれくらいやってるの?

やけ:ここ3、4ヶ月はアルバム制作でほとんど入れてなかったですけど、基本的にけっこうやってますね。性格的にもほんとはそっちのほうが合うんですけどね。元から世界に何かを伝えたいから音楽をやる、俺が声を出すって言うよりは、何かを作りたいっていう感じで音楽を作り出しただけなんで。単純に音楽を聴くのが好きで、自分が前に出たい欲求で音楽をやってるわけでもないので。だからDJっていう距離感であったりコミュニケーションの仕方っていうのは自分の性格に合ってるなと思いますけどね。

そして、本人いわく大人になったという......

やけ:いや、なってないんですけど。その話をもっと言うと、ずっといつまでも子どもでいることがいいというか、大雑把に言うとアンチ・エイジングな風潮ってあるじゃないですか。ロリコン嗜好とか。そういうのに対するちょっとしたアンチがあるっていうか。なんか全体的に年を取ることがいけないみたいな風潮がある気がして。若いのがいい、みたいな。自分がファースト・アルバムで言いたかった「YOUNG」はそういうことでもないし。

共感できるけど、でも、そういうのもいいなあと思うときもあるし、ダメだなと思うときもあるし(笑)。

やけ:でもそれはいいんじゃないですか。なんていうか、振る舞いですね。直接的な、服とかそういうことよりも、精神構造、世界認識とか、そこが誤解されたイヤな子どもっぽさみたいなものまでもアリみたいになっ ちゃってるような気がするというか。そういうのに対する対する違和感とか。大人っていうのも象徴的な概念ですけど、それがじつは裏テーマであったんですよね。

去年やけちゃんと飲んだときに、1枚CDをくれたよね。『7泊8日』ってやつ。

やけ:あー、はい、友だちです。VIDEOTAPEMUSIC。僕も曲に参加してますね。それが出たぐらいのときで、たまたま持ってたんで。

やけちゃんのアルバムにも似たような感覚があると思ったんだよね。コンセプトとしてはさ、虚構でもいいからユートピアみたいな感じがあるじゃない?

やけ:ユートピアというのはちょっと違うけど。

やけのはらがディストピアを表現するとは思えないから。

やけ:それはそうですよ。自分のテーマはずっと「SUNNY」だし、内に行くエネルギーより外に行くエネルギーだし、ヴェルヴェッツよりビーチ・ボーイズなんですけど。なんだろうな、VIDEOTAPEMUSICの音楽はそこが良さですけど、フィクションじゃないですか。そういうところよりは、もうちょっ と地に足つけて、僕は本当の生活のことを言ってるんですけどね。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドも生活のことを言ってると思うんだけど。

やけ:でもさっきの話で言うディストピア志向じゃないですか。僕のいちばん好きだったり、僕がやりたいことは、ヴェルヴェッツではなくてビーチ・ボーイズなんです。ビーチ・ボーイズのほうがファンタジーなんですけど。

いまビーチ・ボーイズをやるっていうのは、どうなんだろうね。それ相応の気持ちが必要じゃない?

やけ:なるほど、そういう意味での空振りってことだ。

何故ビーチ・ボーイズなの?

やけ:それはだから難しいですよ。それはたぶん、自分がいちばん最初に音楽を好きになったときから、音楽の聴き方でどういうとこ ろを聴いてたかっていうと、反抗とか興奮というよりも楽しくなりたいとかだったと思うんで。

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドもビーチ・ボーイズも両方好きっていう風にはならないんだ?

やけ:いや、音楽で言ったらヴェルヴェッツも好きですよ。だけど、自分の素でそういうトーンのアルバムには行かない。ジャケットが黒一色にはやっぱりならないっていうか。

まあ、そりゃそうだよねえ。

やけ:いや、そりゃそうかはわかんないですよ。次のアルバムは意外とゴシックな感じで(笑)。

わはははは。だったら、そもそも、やけのはらって名前が矛盾してるよね。

やけ:ビーチ・ボーイズみたいなものが好きなひとがいるとして、そういうのをいま風にやってますみたいなひととは、たぶんまた全然違います、それは。

ワイルドサイドのビーチ・ボーイズ(笑)。

やけ:砂糖だけしか入ってないのは、やっぱヤなんですけど、ドリーミー・ミュージックっていうのは、ちょっとありました。磯部(涼)さんなんかは「けっこうエキゾだね」って言ってて、自分はラウンジ・ミュージックっていうのはもちろんあったけど、エキゾっていうのはまったくそういう認識を持っていなかったから、それは意外だったんですけど。自分のなかではラウンジ・ミュージック、ドリーミー・ミュージックっていうイメージっていうか。

やっぱり『7泊8日』とも近いと言えるんだね?

やけ:元々好きなラインだし、友だちだし、会う前から彼は僕の音楽を聴いてくれてたり、音楽に求めているものが近かったんで、けっこうすぐ仲良くなって、今回のアルバムに参加してもらって、大事な役割を果たしてくれてますね。
 ただ、僕としても、こういう音楽のトーンっていうのは昔から地で普通に好きだったっていうか。だから新機軸って言うよりは、逆にバック・トゥ・ベーシックっていうか。
 これを作ってる2、3年はUSインディとかにも興味なくなったし、新譜で興味あるラインとかもほとんどなく、逆に世界や歴史のことなんかに興味があったり、音楽でも古いほうに遡ったり。新譜もまったく聴いてないわけではもちろんないですけど。
 前のアルバムのほうが、そのときのトレンドなんかをちょっとぐらい取り入れようかなとか、そういうのがあったから、今回はもうちょっと素ですね。最後の最後になってトラップに興味持って、何曲かドラムがちょっとトラップ風なんですけど。かなり何でもないオールド・ミュージックだったり、自分の素で好きなトーンって感じ、かなあ。

アルバムの冒頭は、ウクレレか何かを弾いてるの?

やけ:あれはただのサンプリングです。簡単なコード弾きのやつを、ちょっとピッチ変えて2コードにして。だからこの曲は、自分の思うドリーミー・ミュージックの好きな音をぜんぶ集めて。これは頭でけっこう作って、コーラス、ウクレレ、かわいいシンセとか、ハープの音とか。自分の好きなドリーミー・ミュージックで、こういうのが入ってるのが好きだなっていう要素を箇条書きにしていって、ぜんぶ集めたんですよ。

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つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないっていうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。


やけのはら
SUNNY NEW LIFE

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やけちゃんが言うラウンジ・ミュージックっていうのはどういうイメージ?

やけ:部屋で鳴ってて気持ちよくなるってことですかね。それ以上にも以下にも最終的には着地しないっていうか、あんまり意味性を持たせてもわからないし。

具体的に言うとたとえばどんなの?

やけ:うーん、なんですかねえ。それこそ、アンド・ヒズ・オーケストラとか名前に入っているような古いものとか。ジェントル・ピープルの元ネタみたいなものとかですよね。やっぱりレコード世代なんで、古いよくわからないラウンジっていうか「その他」とか買ってましたね。だから音楽を聴いて高揚したいとかより、自分の中でもいろんな耳のチューニングはもちろんありますけど、たぶん音楽聴いて楽しくなりたいんじゃないですか、自分は。
 僕、起きてから寝るまでずっと音楽聴いてるんですよ。気候とか自分の気持ちとかに合わせて、うちでひとりDJをずっとしてるんです。ひとによっては「聴くぞ」っていうときにだけヘッドフォンで聴いたりするじゃないですか。でも僕は、なんだろう、つねにぜんぶムード・ミュージックとして捉えてると言えば捉えてるっていうか。言葉が入っちゃってはいますけど、自分が昼に聴きたいトーンはこんな、っていうか。

"HELTER-SKELTER"も曲名とは裏腹な......。

やけ:"HELTER-SKELTER"って「混乱してる」って意味ですよ。ジェット・コースター。

のんびりしてるじゃん。

やけ:ああ、まあまあ。でもジェット・コースターの名前ですけど、元々の意味は「混乱してる」って意味ですよ、これは。これが震災のあとの曲ですよ。「どうしよう」っていう。

でも、音楽がけっこうのどかに感じたんだよね。

やけ:いや、これ全然のどかじゃないですよ! いちばんリリカルな曲ですよ。感情がいちばん入ってるというか。もうだって、「このまま あのときのままではいられないよ」「この夢の続きは一体どんな風?/フキダシの中の言葉をなんにする?」ですよ。君は何を思うんだってことですよ。フキダシのなかの言葉っていうのは比喩で、漫画のひとの横にこうフキダシがあるみたいなイメージで、それに対して何を思うんだっていう。
 こんな日々をどうやって受け入れるんだ、どう消化するんだ、それを「混乱している」、"HELTER-SKELTER"って言ってるんですよ。消化できないっていう。

でも聴いた感じはまったくそういう風に思わなかったので、逆に言えばそれはやけのはらの狙い通りっていうことでもあるわけでしょう?

やけ:まあたしかにそうですね。この曲は、このアルバムのなかではヴェルヴェット・アンダーグラウンドみたいなアレンジでも成り立つような歌詞というか、意味の曲であるわけだから。ちなみに、もちろん沢尻エリカとは何の関係もないですってことは、書いといてください。

とにかく、ドリーミーなものを心がけたっていうのはいい話だね。

やけ:心がけてもいるし、元々好きだし、気分的にもそういう......あ、震災の後にけっこう思ったことですね。それがさっきのマチズモとかインスタントなんかの話に繋がるんですけど、年齢もあるのかもしれないけど、激しいキックであったりとか、派手なシンセ、エッジの強い音っていうのは受け付けなくなってて。アンビエントみたいなものとか、ドリーミーなものとか、ラウンジーなものをすごく聴きたい気分だったっていうのもありますね。
 とくに震災の後とかは、直接的にその後にやったリミックスはぜんぶノンビートにしちゃって。ほとんど低音入ってない曲とか。気分的にもそういうムードだったっていうのはありますね。まだこれ(アルバム)は、揺り戻しがあってビートをそれなりに入れたっていう。でもノンビートの曲もあるし、けっこう一時期のノリだと危なかったですね。声入ってるのに1曲ぐらいしかリズムがない、みたいな(笑)。

おおー、それも聴きたかった。クラウド・ ラップみたいな(笑)。

やけ:いや、それだとさらに素なんで、そういうのはもっと年取ったときに取っときます。そこまで行っちゃうともう戻せないんで。

最後から3番目の曲("BLOW IN THE WIND")でさ、「普通じゃないものにいまも夢中さ」ってあるけど、その「普通じゃないもの」って何のこと?

やけ:いや、それはだから難しいんですよね。わざと危ない言葉だからそのままで言ってるんですけど。多様性ってことですね。

難しいことを言うねー。

やけ:いや、ぜんぶで一貫して言ってるんですけど、「小さな声をなかったことにするな」みたいなこととか、「はみ出る感情や生き方を楽しもうよ」とかだったり。自分が聴きたいのは誰かの代理ではなくて。まあこれも安易な言い方にまとまっちゃいますけど、誰かの思惑で決められた何かに流されるんじゃなくて、自分の好きなものを自分で決めたりとか。こういう言い方をするとカッコいい風に聞こえてしっくり来ないな。 うまく言えないけど、つねに一貫したテーマとしてあるというか。
 たとえばその時代の大多数の感情や音楽がこうだからって言って作るんじゃなくて、そこからやっぱり零れ落ちるそのひとなりのエネルギーであったり形であったり、表現だったり。そういうのに対する愛着っていうのはすごくあるし、そういうのが聴きたい、したい。っていうのはあると思いますね。

やけのはらって、家のなかで考えて作るって言うよりは出かけて行って作るようなイメージをずっと持っててさ。前作のときのPVでも、江ノ島の海辺でみんなで遊んでるのを使ったじゃない? イヤミったらしいぐらい楽しそうな映像をさ(笑)。

やけ:なんですか、「イヤミったらしいぐら楽しそう」って(笑)。パンチラインですね。言葉としてエッジが効いてた(笑)。でも、いまの気分だったらあんなことはできない。

でも、「外に出よう」って感じはまだあるでしょう?

やけ:それはでも、実際のことでも観念的なことでも、もっと世界を知ろうってことは言ってるんですけど。最後の("where have you been all your life?")がまさにそういう曲ですよ。最後の曲のことがあんまり言及されないんだよなあ。

いや、話がまだそこまで行ってないから(笑)。じゃあさ、アルバムの後半、"JUSTICE against JUSTICE"以降っていうのがさ、希望を見ようとしているよね?

やけ:それはでも、"D.A.I.S.Y."って曲ですかね。"BLOW IN THE
WIND"って曲は文化のことを歌ってるんですけど、これはむしろ寂しさを伴ってる感じがしますけどね。「普通じゃない」っていうのも、これは不毛さを愛していくってことで、だからこの曲は、そういう意味では意外とブルーなんですよね。

なるほどね。まあメランコリックな曲でもあるからね。でもこの"D.A.I.S.Y."はさ、「やけのはら、どうしちゃったんだろう」ぐらいのさ、人生肯定感じゃない(笑)?

やけ:え、でもそんなこと言ったら"GOOD MORNING BABY"とかもそうじゃないですか! 曲名は、デ・ラ・ソウルの"デイジー・エイジ"が何かの言葉の頭文字になっていて、その法則を踏襲したというか。だから、"D.A.I.S.Y."は"DAYS AFTER INOSENT SWEET YEARS"の頭文字ってことにしたんですけど。だから、これもじつはブルーだからこそ、ですよ。
 あと、"D.A.I.S.Y."って、いろんな意味がありますよね。『2001年宇宙の旅』でコンピュータが歌った"デイジー・ベル"っていうのは、はじめて電子合成のロボットが歌った曲だし。でも、映画だとあのコンピュータが最後に歌った曲なんですよね。それで壊れてなくなっちゃって。希望の象徴だったり、でもアンビヴァレントなブルーな匂いもするじゃないですか。『2001年宇宙の旅』での使われ方なんか。

あるいは、ヒッピーというかフラワー・チルドレンというか。20世紀的な理想主義だよね。

やけ:そうですね。でも「デイジー」みたいなこととか、ヒッピー的なタームでそういう物事の象徴となってた時代、60年代、70年代のほうが未来に対しての希望みたいなものが、何て言うか、無邪気だった感じがあるじゃないですか。無邪気に本当に希望を信じていたような。僕はもちろん生まれてないんで、後から触れての印象ですけど、未来に対して希望があった時代の象徴って気がして。そういうのが気分にあったというか。

それを敢えていま言ってみたかったっていう感じ?

やけ:いや、難しいっす。いろんな自分の知ってる情報やニュアンスのなかでしっくり来たっていうか。ニュアンスや感覚の捉え方の話なのでうまくは言えないですが。でも前のアルバムも音ができてないときからPVは"GOOD MORNING BABY"って決めてたし、このアルバムもじつは前からこの曲になるんだろうな、って1、2年前からそう思ってました。

新しい恋をしたとか(笑)?

やけ:恋は関係ないです。ラヴ・ソングはできないっすよねえ。タイトルだけ"I LOVE YOU"って曲入れましたけど。観念的なラヴ・ソングだったらいいですけど、本当に女性との直接的なラヴ・ソングっていうのは人生で一度も作れたことがないかもしれないですね。そういうのはちょっと、今後のテーマに取っておいて。昔、野田さんが「やけちゃんはラヴ・ソングやったらいいよ」って言ってくれて、心のなかにはラヴ・ソングに対する想いはいろいろあって。

やけのはらは場面の描写が好きだよね。なんか、男と女というよりも、もっとがやがやしている感じがする。

やけ:それは性格ってことになっちゃうと思うんですけど、つねに一貫してグッド・タイムは描きたい。人生にグッド・タイムしかないっていう嘘はつきたくないけど、グッド・タイムしか表現したくないって いうのはありますね。バッド・タイムの何かを曲にしたいっていうのはないし。

これがやけのはら人気の秘密なんだよ(笑)。

やけ:いや、これが性格なんですよ。映画なんかでも、あんまり楽しくない映画とかイヤなんですよね。それはDJで培ったものがあるのかもしれないのと、自分も人間なんでそういうのがゼロとは言えないですけど、自己陶酔してるタイプのミュージシャンじゃないと思うので、例えば「苦労してるオレを見てもらう」みたいなことって発想としてないっていう。

だからっていうか、"デイジー"は、今回のアルバムの象徴的な曲なわけだよね?

やけ:この曲は大事でしたね。ぜんぶの曲で同じことを言ってるとも言えますが、この曲では、ぜんぶまとめて言ってるってとこもあるので。結局ひと言でまとめると、「楽しく生きましょう」とかそういうことなんですけど(笑)。

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絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、夜中4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。


やけのはら
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やけのはらは、決して順風満帆にここまで来ているわけじゃないよね。

やけ:まず、ファースト・アルバムが30歳とかですからね。

ある意味では苦労人というか。

やけ:まあ、生活的に貧しかった20代前半とかもありますが。ただ、べつに苦労って気はなかったですよ。苦労っていう実感はないですね。

絶望を味わったことはあるわけでしょう?

やけ:わかんないです。そのころは、絶望っていうかまあ、音楽やりながらもどうしようってときに、午前4時ぐらいに近所の公園でタバコ吸いながら「うーん、だいじょうぶかな、20年後ぐらいに野垂れ死んじゃうかなー」とか(笑)、けっこうマジメに思って泣きそうになったりとか。
 それはいまでもそうですけど、そういうところを何かに合わせてしまうんだったら、野垂れ死ぬわ、ぐらいの感じがやっぱりあったんで。けっこう現実面でそう思ったっていうか、笑い話じゃなくて、ガチで浮浪者みたいな生き方も視野に入れつつぐらいの感じっていうか。べつにいいです、もうなんか。それだったらもう死にます、野垂れ死にます、みたいな。

説得力のある話だね。午前4時にさ、何もやることのない青春っていうのが良いよね。

やけ:何もやることがなかったわけではないけど(笑)。

そういう未来の見えなさのなかで生まれた前向きさなわけだね。

やけ:それはそうだと思いますけどね。だから、いちおう知恵を練ったんじゃないですか。性格的に月から金の普通の仕事はできないと。CDとか出しつつも音楽はやってる。じゃあ音楽でもっと収入を上げようとか、DJやるにしろ何やるにしろ、もっと細かいところから積み重ねる、もっとこうして良くしていこう、楽しんでもらおう、とかだったり。ここをもっとこうできるようになって、音楽のクオリティを上げよう、とか。

知り合った頃は、DJとしてはすでに人気あったからなあ。

やけ:DJはひとりでできたから。なんとなくやれてしまったというか。
 同い年の旅人くんとかを見ると僕なんか全然遅いなと思いますよ。上京してきて18、19で音楽で身を立てるみたいな思いがあって。すごい偉いなと思いますよ。僕にはそういう気持ちがぼんやりしかなくて、性格もあるし、横浜っていう都内近郊が地元だったので、音楽はしたいけどガツガツとミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。僕はそういうところで判断が遅くて、ボンヤリしてましたね。ファースト・アルバムが30歳ですからね。

素晴らしいじゃない、それは(笑 )。

やけ:性格なんですよ。ひとつひとつのことを、こういうのがいいらしいって言われても、「ほんとっすか?」みたいな感じでつねに疑ってかかるタイプなんで(笑)。だからひとつひとつがすごい時間かかって。

じゃあ、最後の曲("where have you been all your life?")について、なぜこの曲を最後にして、そしてどうしてこの曲が生まれたのかを。

やけ:うーん......まず直接的に言うとタイトルからできたんですけど。年上の友だちの結婚式で、引出物のトート・バッグに「where have you been all your life?」って書いてあって。なんかいい言葉だなと思って。オールディーズの曲名なんですが、なんかこの言葉が引っかかってて、そこから連想してできたというか。街を歩いているときにふっとフレーズが出てきて、あのタイトルで「あなたは何したいの」みたいなことを問いかけるっていうのが面白いかなと思って作ってた感じですね。
 でもどっちだったかな、「your」か「my」かどっちか忘れたんですけど、英語で「やっと会えましたね」みたいな意味になるんですよね(註:「where have you been all my life?」で「どうして君ともっと早く巡り会わなかったの?」の意)。そこらへんが面白いな、と思って。だからいろんなことがあったり、世界や生活のなかで自分にしっくり来る楽しいことをやっていきましょう(笑)、それのために知恵を絞って街に出たり、いろんな世界と友だちになろう、街に出よう、そういう曲ですね。

リスナーに呼びかけるっていうか、こういう直接的に語りかける曲っていうのも、俺久しぶりに聴いたような気がしたんだよなあ。

やけ:マジですか。まあ自分に言ってる的なところもあるんですけどね。なんかボンヤリしたりするじゃないですか、生きてるなかで。まわりから望まれていることと違ったりとかね、そういうこともありますし。自分がいちばんやりたいこと 、好きなこと、いちばん大事なひとを考えるとか、そういうのがいいんじゃないかって。暮らしっていう意味で見ても、物質面で見ても、いろいろなひとつの作法、もの。どこに住んで何をする、そうしたことひとつひとつもある種思想ですし、自分ももう一度しっくり来るものを見つけたいですし。みんな本来のしっくり来るものを見つけるのがいちばんいいんじゃないかと思うので。
 それは前も言ったんですけど、答が出る前に「こういうのがしっくり来ますよねー」みたいな押し売りの波とかがやっぱりすごく多いような気がするので。生き方、場所、ものとか、いろんなことですけど。

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音楽はしたいけどガツガツミュージシャンになるためにデモ・テープを送るとかそういうのもできずに。デモ・テープとか絶対送りたくないとか思ってたんで。誰かに出させてくれって言わせたい、自分からデモ・テープを送るなんてそういうことはダサいって思ってたんで。


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今回さ、アルバムのジャケットにひとを載せなかったのはなんで?

やけ:うーん......具体的にひとを載せたくなかったわけではないですが、たとえばまた同じような感じで女のひとが載るっていうのは続編っぽくなるので絶対ヤだなっていうのはありつつ、まあ流れですね。信藤三雄さんの写真なんですが??〈トラットリア〉とかピチカート・ファイヴで信藤さんがやってたことっていうのは好きだったし。で、大人になって、〈トラットリア〉や信藤さんがやって来たことが当時よりも見えてきて。
 そうしたら、僕の前のアルバムをなぜだか信藤さんが気に入ってくれてて。それでお会いする機会もあって、面識もできた流れもあって、今回のアルバムを作ったスタジオが信藤さんの事務所の近所で、スタジオに遊びに来てくださって。で、世間話のなかで見せてもらった信藤さんがiPhoneで撮った写真なんです よ。これはただの記録みたいな感じで信藤さんが撮った写真なんだけど、なんかピンと来て、写真をお借りして使わせてもらったっていう。

どこにピンと来たの? 青空?

やけ:雰囲気です。ムードですね。

これはどこなの?

やけ:沖縄です。

沖縄なんだ。いいねぇ。やけちゃんは間違っても沖縄なんか住めないからね。

やけ:え、なんで?

俺と同じように、東京で生きて東京で死のうぜ。

やけ;僕は意外とレイドバックしたところで死んでいくつもりです。

どこで(笑)?

やけ:いや、わかんないですけど。

そんな~、やけのはらのクセに。

やけ:いやでも、都市生活に対するアンビヴァレントな気持ちは感じ取れるんじゃないです か、このアルバムからは。

はい、むちゃむちゃ感じ取れますね。じゃあ、そろそろ最後の質問にしたいんだけど。"SUNNY NEW DAYS"みたいな曲は、どういうときに作ったの?

やけ:これはアルバムの最後で、「もう作るぞ」と思って作ったっていうか。近所の公園で歌詞を書きました。

シンプルな歌詞だけどさ、これはアルバムのコンセプトが固まってから?

やけ:完全にそうですね。ちなみに「新しいニュースペーパー」って言葉はSAKANAの曲から引用してるんですが。えーっと何て曲でしたっけ? ......、"ロンリーメロディ"。

へえー、そうなんだ。

やけ:あの曲ほんっと最高ですよね。あの曲の歌詞はほんとにすごい。なんでしたっけ、「わたしの歩き方が遅すぎるのなら/どうぞ置いていってください」。その「歩き方が遅すぎるのなら、どうぞ置いていってください」っていうようなラインは、ほんと文明社会に対する違和感みたいなところもある曲なんですけど。あの曲はほんと素晴らしい。あの曲の影響はあるかも。あの曲とアルバムでやろうとしてたことの感じは近い。

ああ、SAKANAとやけのはらの共通する感覚ってあるかもね。

やけ:厭世観みたいな意味で近いところはあると思いますよ。世界に希望を求めてるけど、じつはあんまり信じてない、みたいな。

ああー、なるほどね、厭世観。都会のなかで暮らしながらの厭世観みたいな。

やけ:だから諸手挙げてキレイな世界、先へ進んでいこうみたいなカラっとした感じは実は全然なくて。だからこそ無理矢理そうしてるっていうか。

(笑)たしかにブライアン・ウィルソンも、彼の複雑な人生を考えるとね。あの明るさっていうのは。

やけ:しかもあれだけグチャチャな人生を生きているブライアン・ウィルソンがいまでも一応元気で音楽やりながら生きてるっていう。

interview with Jesse Ruins - ele-king


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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 「日本人ということはわかっているが、 女の子か男の子かは定かではない。ただ、彼らの音楽は圧倒的に素晴らしい」──『ガーディアン』はジェシー・ルインズのデビューにそのような賛辞を送っている。同紙いわく「性のサインを持たない、不定形で、中性的な音楽」、ゆらめくジェンダー、そのドリーム・ポップは、想像癖のあるリスナーの関心を集めている。
 顔の見えない男女の写真もミステリアスなイメージを膨らませた。彼らは東京にこだわってはいるが、トゥーマッチな情報世界からは静かに身を引いている。いまごろはモノレールに揺られながら夕日を眺めていることだろう。ちょっとしたファンタジーだ。言葉を主張しない歌が、黄昏に響く。

 以下のインタヴューを読めば、チルウェイヴとは何だったのかがよくわかる。その正体、その真の姿、それはブロガー文化が最初に純粋な高まりを見せた2009年の、ほとんど瞬間的に成立したデジタル民主主義がもたらしたひとつの成果だった。ジェシー・ルインズはその恩恵を受けた日本人のひとりである。
 僕がジェシー・ルインズを好きな理由のひとつは、彼らがインディ・シーンの動きに敏感で、自分たちでもDIYでやっているところにある。
 彼らは、とくにUSのインディ・シーンに触発されている。3年前はチルウェイヴにどっぷりハマって、そしていまがある。彼らはそういう自分たちの経験や気持ちを決して隠さず、いつでもざっくばらんに話してくれる。ジェシー・ルインズが生まれる土台となった〈コズ・ミー・ペイン〉は、カセットテープとアナログ盤しか出さない。日本では、おそらくその手では、唯一のレーベルだ。

 ジェシー・ルインズは、2011年に〈コズ・ミー・ペイン〉からカセット作品を出すと、2011年12月、ロンドンの〈ダブル・デニム〉から7インチ、2012年にはブルックリンの〈キャプチャード・トラックス〉からミニ・アルバム「ドリーム・アナライシス」をリリースしている。
 このたび、西海岸の〈レフス〉から出る『ア・フィルム』が正式なファースト・アルバムというわけだ。バンドのメンバーはサクマ(Nobuyuki Sakuma)、ヨッケ(YYOKKE)、ナー(Nah)の3人だが、ほとんどはサクマがコントロールしている。

 3人は、物静かで、シャイだが、わりと気さくな人たちである。週末の夜、下北沢のレコード店で待ち合わせをした我々は、店を出ると人通りの少ない通りの、若者で賑わっている値段の安いカフェに入った。生ビールを注文して、それからスパゲッティー、フラインドポテト......。

「Gorilla vs Bear」という『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。最初は〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。

ジェシー・ルインズはどうやって結成されたの?

ヨッケ:もともとは完全に佐久間君のソロでしたね。〈コズ・ミー・ペイン〉を立ち上げたときに、ファロン・スクエア(Faron Square)、エープス(AAPS)、そして、佐久間君のナイツ(Nites)があったんですね。最初はその3組でスプリットを作ろうと思ったんですけど、それでは面白くないからコンピレーションにしようと。でも、コンピレーションを作るには曲数が足りない。で、それぞれがソロを作れば2倍になるから、なんとかなるだろうと(笑)。

はははは、その話憶えているよ。

ヨッケ:そのときに佐久間がジェシー・ルインズという名義を作ったんです。そのときは......、なんて言うんだろう、アンビエント、ドローンじゃないけど、ディスコ・パンクも混じって、雑多なものでしたね。

いま流行のインダストリアル調な感じもあったよね。

サクマ:最初は、別名義の名前を考えただけで、インダストリアルもそんなに意識してないけど、作ったらあんな感じなったんです。

"If Your Funk"という曲ですね。

サクマ:メロディもなにもない曲ですよね。

サクマ君のなかには新しいアイデアがあったの?

サクマ:いや、何もない。ただ、コンピのために名前を作っただけ。どちらの曲もナイツ名義で良かったんです。コンピのときは、名前を考えただけです。

『CUZ ME PAIN COMPILATION #1』だよね。

サクマ:はい。2010年ですね。

ヨッケ:6月? 8月? 夏ぐらいだったよね。

サクマ:2010年の年末に、ザ・ビューティとスプリットでカセットを出そうとなって、「じゃあ、ジェシー・ルインズでやろうかな」と。ザ・ビューティにとってもそのときのメインは、ファロン・スクエアだったんですね。その次にアトラス・ヤング名義でもやってて......ややこしいんですけど、ザ・ビューティという名義は優先順位で言えば、いちばん下だったんですよね。僕は、ナイツ名義だったから。だから、自分たちのメインではない名義で何かをやろうという、単純な発想ですね。俺はその頃は、DJやるのもナイツ名義だったし。

なるほど。

サクマ:で、そのカセットを出したのが2011年の1月だったんです。それを瀧見(憲司)さんが買って、そこからザ・ビューティが出てくる。そのあと、僕も、春ぐらいかな、"ドリーム・アナライシス"という曲を作って、それが「Gorilla vs Bear」とか、海外のサイトに載って、そこからですね、海外のレーベルからオファーがやたらたくさん来るようになったのは。

どうして載ったんですか?

サクマ:僕が送ったんです。「Gorilla vs Bear」に。mp3のサイトで、〈フォレスト・ファミリー〉というレーベルもやっているんですけど、そのときは『ピッチフォーク』の次ぐらいに影響力があったサイトでしたね。テニスを発掘したのもそのレーベルでした。最初は、〈フォレスト・ファミリー〉から連絡がありましたね。「すぐに出したい」って。それから、多いときは毎週違うレーベルからオファーが来てました。

それはすごいね(笑)。

サクマ:すごかったですね。毎日違う話が来るので、ジェシー・ルインズのメールアドレスを載せるのは止めましたね。それで、〈レフス(Lefse)〉からアルバムを出したいというオファーをもらったんですけど、曲数がぜんぜんなかったので、「いますぐに出せない」と言ったら「マネジメントをやりたい」と言われて。海外事情もわからないので、手助けしてもらえたら嬉しいということで、マネジメント契約を交わしました。UKの〈ダブル・デニム〉から7インチを出すのはそのあとですね。

そのEP、「A Bookshelf Sinks Into The Sand / In Icarus」が出たのは?

サクマ:2011年の12月です。

そのときに『ガーディアン』が新人コーナーで取りあげたんだ。

サクマ:ちょうどリリースのときですね。〈ダブル・デニム〉の人から「来週ぐらいに『ガーディアン』に載るから」って言われて。

あれはびっくりしたよね。あのアー写が良かった。NAHちゃんも格好良かったよ。

ナー:梅ヶ丘で撮ったヤツ(笑)?

顔が写ってないの。あれは想像力を掻き立てられるものがあったと思うよ。

サクマ:そこまで考えていないけど、そのときは顔は出さないほうが良いなとは思った。何人だってわからないほうが面白いだろうし、受け手に勝手に想像してほしかった。

ジェシー・ルインズという名前が良かったよね。音楽と合っているというか。女の子の名前でしょう?

サクマ:男の子の名前です。

ナー:女の子は、JESSIEなんです。

ああ、そうか。海外からのメールって、オファー以外ではどんなメールがあった?

ヨッケ:amazingが多かったよね。

サクマ:あとは、brilliantとか。そういう単純な感想ですね。でも、やっぱ、そういう感想よりも、業者みたいな人から「ツアーを組みたい」とか、「曲を使いたい」とか、それが異様に多かった。

ヨッケ:個人ブログへの掲載許可みたいな内容のメールも多かったよね。

それそれ、それがまさにチルウェイヴというムーヴメントの正体だよね。インディ・ミュージックをブログで紹介するということのピークがチルウェイヴだったんだよね。

サクマ:そうですよね。

ヨッケ:それは無茶苦茶あったと思います。

だから、コズ・ミー・ペインが日本のチルウェイヴの代表みたいな言い方は当たっているんだけど、それはどういう意味かと言うと、そうした、2010年ぐらいのインディとブログ文化との連動にアクセスしていたっていう意味で、チルウェイヴなんだよね。音楽性で言えば、ウォッシュト・アウトとコズ・ミー・ペインがそこまで重なっているとは思えないし......。そもそもサクマ君の音楽的なルーツって何なの?

サクマ:ハードコアや、ポスト・ロック。

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とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。だから、描きたいのは、雰囲気ですね。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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自分の音楽制作に影響を与えたものってある?

サクマ:いまでも昔の音楽に影響を受けているわけではないんですよね。常に新しい音楽のほうが好きなんで、新しい音楽に影響受けてます。

音楽を意識的に聴きはじめた当時の影響は?

ヨッケ:それ、俺も知りたい(笑)。

サクマ:とくに何かひとつのアーティストがすごい好きだったという感じではないんですよね。あー、ジョン・オブ・アークは好きだった。シカゴ音響派は好きでした。20歳とか、大学時代でしたね。でも、いまもハードコアは聴いてます。高校生のときは好きだったから。

ヨッケ:コズ・ミー・ペインはみんな趣味がバラバラなんですよ。僕はアヴァランチーズが好きだった。レモン・ジェリーとか。サンプリング・ミュージックが好きでしたね。

ナー:私は、2004年~5年にイギリスに留学してたんですよね。

ま、まさかリバティーンズ・ギャルだった!?

ナー:その世代の後のもっとアングラなバンドばかり観ていました。ただ、私は、UKロックからの影響のほうが大きかったですね。日本に帰ってきたらは、どんどん古いほうに興味がいって、ゴシック・パンクとか、ポジパンとか......ヴァージン・プルーンズとか、80年代の音を探したり。

すごい(笑)!?

ナー:クリスチャン・デスとか。

はははは。

ヨッケ:ホント、みんな趣味が違っているんですよね。

UKから帰ってくると、何かやらなきゃっていう気になるよね(笑)。

ナー:ホントにそう。私も、帰ってすぐにイヴェントはじめた(笑)。

はははは。ところで、〈ダブル・デニム〉から出たときには、ジェシー・ルインズの音楽の方向性は固まっていたの?

サクマ:「Gorilla vs Bear」に音源を送ったときには、もう「これだ」という感触はありましたね。

〈ダブル・デニム〉の次は、2012年2月の〈キャプチャード・トラックス〉からの12インチ『ドリーム・アナライシス』だよね。

サクマ:〈ダブル・デニム〉からのリリース前に、〈キャプチャード・トラックス〉からオファーがあったんです。同時に3つのオファーがあったんですよね。そのなかで〈キャプチャード・トラックス〉はインディのレコードを買ってる人間からしたら特別なレーベルだったんです。

『ドリーム・アナライシス』のときはもう3人だった?

サクマ:ライヴは3人でした。ただ、ヨッケはまだサポートだったので、メンバーは最初は2人でしたけど。ライヴをやりたかったんですよね。

ナー:コズ・ミー・ペインが梅ヶ丘でやっていたパーティに友だちに連れて行かれたんですよね。それで知り合って。

サクマ:ナーは僕がこういう人がいいなって考えてた理想像に近い人だった。あと、メンバーにするなら、もともと友だちじゃないほうが良いなというのもあったんです。コズ・ミー・ペインの周辺じゃないところにいる人が良いと思っていた。

共通する趣味は何だったんですか?

サクマ:わからなかったですね。2~3回会ってから、誘った。

ヨッケ:2011年の夏前ぐらいだったね。

サクマ:初ライヴは2011年の12月でしたね。〈ダブル・デニム〉からシングルが出て、すぐぐらいでしたね。渋谷のラッシュというところでした。夏前から半年弱くらい3人でスタジオ入ってひたすら練習してました。

ヨッケはドラム経験者?

ヨッケ:いや、それが初めてでした(笑)。

サクマ:俺もぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。

サクマ君とナーちゃんの2人で録音した最初の曲は何だったんですか?

ヨッケ:『CUZ ME PAIN compilation #2』の曲(Hera)じゃない?

サクマ:基本的には僕が曲を作っているんですが、一緒に作っているってことはないですね。曲を作って、ヴォーカルを入れてもらう。だから......これは言っていいのかな......。

ナー:はははは。

ヨッケ:ああ、そういうことか。

ええ、意味ありげな、なにが「そういうことか?」なの(笑)?

サクマ:どうしようかな......。

ナー:はははは。

サクマ:正直に話すと、彼女のヴォーカルを入れたのは今回のアルバムが初めてです。〈ダブル・デニム〉や〈キャプチャード・トラックス〉からの音源は、実は僕が曲も作ってヴォーカルをやって完パケまでやっている。女の人の声になっていますが、実は僕の声を加工して、編集したものなんです。ただ、そこをずっと隠していたんです。あたかも彼女が歌っているように。

『ガーディアン』でも「androgynous(中性的)」とか、「we have no idea whether Jesse Ruins is a boy or a girl(ジェシー・ルインズが男の子なのか女の子なのは我々は知らないが)」って紹介されていて、やっぱそこは、すごく引っかかるところだったんでしょうね。

サクマ:まあ、わかる人にはわかったと思いますけどね。ただ、その編集した声と、実際の彼女の声が似ているんですね。すごい偶然なんですけど。だから、ライヴを聴いている人には、本当に彼女が歌っていたんだと思っている人もいたと思います。

へー、面白い話だね。それでは、今回の『ア・フィルム』は3人のジェシー・ルインズにとっての最初の作品でもあるんだね。

ヨッケ:とはいえ、ほとんどがサクマ君が作っていますけどね。僕は録音を手伝ったり、1曲だけアレンジを担当して、マスタリングを手伝った。

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ぜんぜんバンド経験がなかったし、彼もドラム経験ないし、彼女だけがバンド経験があった。でも、彼女もヴォーカルは初めてだった。だからもう、素人バンド(笑)。


ジェシー・ルインズ
A Film

Lefse Records / Pヴァイン/ Tugboat Records

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ジェシー・ルインズが描きたいものは何でしょう? 何らかのムードやアトモスフィアを描きたいのかなと思っているんだけど。

サクマ:海外のサイトでは、よくM83と比較されるんですけど、好きですけど、ぜんぜん意識したことない。モデルにしているようなアーティストがいるわけでもないんです。最初のイメージとしてあったのは、ソフィア・コッポラの映画と『ツイン・ピークス』の雰囲気が混ざった感じでしたね。

ヨッケ:ソフィア・コッポラは音楽の使い方がうまいですからね。ニュー・オーダーとかストロークスとか。

エールとか?

サクマ:『ヴァージン・スーサイド』ってよく言われるけど、『ロスト・イン・トレンスレーション』です。「Gorilla vs Bear」に送った音源は、あの斜陽な感じと、それから『ツイン・ピークス』のダークな感じを出したくて作りましたね。

ヨッケ:インダストリアルなM83みたいなことを言われたんですけど、ニュー・オーダーの影響を受けているのがM83なんで。

ああ、そうか、ニュー・オーダーって映画から知っているんだね。

サクマ:とにかく退廃的で、ずっと夕方みたいな感じの音楽をやろうと思ったんです。

はははは。

サクマ:だから、描きたいのは、雰囲気ですね。

そうだよね。歌はあっても、言葉がないもんね。そこはすごく徹底しているというか。

ナー:ライヴをやっているときも、自分でも無茶苦茶エフェクトをかけていますからね。

アルバム最後の曲なんかは、ヴェルヴェットみたいだけど、もっと抽象的だよね。ああいう文学性はないしね。

サクマ:もともと歌い上げている音楽は好きじゃないんで。歌が中心にある音楽が好きじゃない。音が部分としてあるほう好きなんで。シンセと歌メロは同じなんです。

声も楽器のひとつという言い方は昔からあるんだけど、それとも違っているかなーと思うんだけど。あと、8ビートじゃない。ほとんど8ビートだよね。

サクマ:そこは気にしていない。わからないから。僕がそれしかできないってだけなんです。打ち込み能力がないんです(笑)。ただ、もし能力があったとしても複雑なことはやらないかと思いますね。

ニュー・オーダーの"ブルー・マンデー"よりもジョイ・ディヴィジョンのほうが好きなんでしょ?

サクマ:ああ、そうですね。僕はジョイ・ディヴィジョンのほうが好きです。意識してなかったけど。

ヨッケ:8ビートだから僕が叩けたっていうのもあるね(笑)。

はははは。

サクマ:中学生用のバンドスコアですね。

いま日本のロック・バンドって、なんであんなにみんなうまいの?

ヨッケ:真面目なんだと思います(笑)。ドラムは過去にやったことがまったくなくて、YMOの"CUE"という曲があるんですけど、最初はあの曲の坂本龍一の叩くストイックなドラムのコピーからはいりました(笑)。

ナー:初めて知りました(笑)。

はははは、練習した?

ヨッケ:練習はしませんでしたが、研究はしました。

サクマ:うまくなくても良いんですよ、僕は。自分たちがスタジオ・ミュージシャンみたいにうまかったら、面白くないと思うんです。

『ア・フィルム』というタイトルにしたのは?

サクマ:収録曲が、映画のタイトルや登場人物の役目などを文字って付けているんですよ。完全に自己満足の世界ですね(笑)。最初は、タイトルは「ジェシー・ルインズ」でいこうと思っていたんですけど。

それいいじゃん!

サクマ:でも、『ア・フィルム』のほうがリスナーが勝手に想像できるかなと。曲もそんな作り込んでないんです。もう、ばーっと作った感じ。作り込んでしまうのが嫌なんです。

ヨッケ:2ヶ月以内でぜんぶ作ってましたからね。

海外ツアーの予定は?

サクマ:今年はそれが目標ですね。『ドリーム・アナライシス』のとき、ツアーの話は2回くらいあったんですけど、中止になりましたから。アルバムが出るんで、今年はやりたいな。日本国内のツアーはします。

ライヴはいまのところ何本くらいやってるの

ヨッケ:20本ぐらいかな。多いときは月に2回はやっています。

サクマ:次のライヴでは4人組になるかもしれないね。

新メンバーが?

ヨッケ:ドラマーが入って、僕がギターその他を担当するっていう。

レーベル的には新しい動きはある?

ヨッケ:コズ・ミー・ペインの新しいコンピレーション、『#3』を出します。

良いですね。コズ・ミー・ペインは、さっきのチルウェイヴの話じゃないけど、ブログ文化で支えられながら、フィジカルではアナログ盤とカセットのみという、そこもチルウェイヴの人たちと同じだったよね。

ヨッケ:そこは自分もひとりのリスナーとして、そうでないと嬉しくないというか、残るものにしていというのがありましたね。ネット・レーベルが全盛ですけど、僕らがそれやったらすぐ終わっちゃう気がするんですよね(笑)。やっぱ、アナログやカセットみたいに、手間暇かけてやるからこそ、続ける気になるというか。そういうのが単純に好きなんです。

サクマ:お金ないんですけど(笑)。

ヨッケ:お金ないんですけど(笑)。

 サクマは、コールド・ネーム名義でも最近、カセット・レーベルの〈Living Tapes〉から作品を出したばかり。また、ジェシー・ルインズの視聴はココ→https://soundcloud.com/lefse-records/jesse-ruins-laura-is-fading

■5月26日『ア・フィルム』リリース記念のパーティがあります!5/26(sun) at 渋谷Home
Cuz Me Pain
-Jesse Ruins "A Film" Release Party-

OPEN 18:00予定

Live
Jesse Ruins
Naliza Moo
and more...

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Chart - JET SET 2013.04.08 - ele-king

Shop Chart


1

Poolside - Only Everything (Scion Audio Visual)
アルバム『Pacific Standard Time』には未収録の2曲!!昨年夏にフリーデータ配信されていた大人気音源が10インチ・リリース。

2

Haim - Falling (Polydor)
人気爆裂L.a.3姉妹バンドのUkメジャー第2弾。オリジナルに加えて、Psychemagik、Duke Dumontによるリミックスも収録!!

3

Sign Of Four - Hammer, Anvil, Stirrup (Jazzman)
大人気Greg Foat Groupに続きJazzmanから登場した脅威の新人。電子音が飛び交うサイケデリック・ファンクからエレクトリック・サンバまで、凄すぎます!!

4

Suff Daddy x Ta-ku - Bricks & Mortar (Melting Pot Music)
Melting Potでも随一の人気を誇るSuff Daddyと、J Dilla追悼ビート集が話題を席巻/即完売も記憶に新しいオージー・ビートメイカーのTa-kuによる奇跡的コラボ!

5

Sweatson Klank - You, Me, Temporary (Project Mooncircle)
名門Alpha Pupからのリリースでもお馴染み、西海岸ビーツ・シーンのパイオニアTakeによるベース通過以降の新プロジェクトSweatson KlankがメガヒットEpに続く1st.アルバムを完成です!!

6

Tame Impala - Mind Mischief (Modular)
2012年ベストの声も高かった傑作アルバム『Lonerism』収録のドファンキー・サイケ・ポップを、DucktailsとFieldという間違いなしの2組がリミックス!!

7

Justin Timberlake - 20/20 Experience (Rca)
先行シングル"Suit & Tie"や"Mirror"が世界的なヒットを記録しているJustin Timberlakeですが、約7年ぶりとなるスタジオ・アルバムが遂にヴァイナルで登場! ※ゲートフォールド・ジャケット仕様。

8

Disclosure - White Noise Feat Alunageorge (Pmr)
ご存じ『Face Ep』と『Latch』が連発メガヒットしたベース・ハウス最強人気デュオDisclosureがなんと、Tri Angleの新星デュオAlunageorgeのAluna FrancisをFeatした話題盤です!

9

Owiny Sigoma Band - Power Punch (Brownswood)
Brownswoodからのハイブリッド・アフロ・プロジェクト!!高い評価を受けた2011年のファーストに続く2枚目のアルバムが到着です。

10

A Tribe Called Quest - Beats, Rhymes And Life -ア・トライブ・コールド・クエストの旅- (Transformer)
結成秘話から各メンバーの現在の心境まで綴った貴重な映像も多数含むB-boyのみならず全ミュージック・フリーク必携の1枚! セル版のみの豪華特典満載! 本編97min.+特典映像78分のフル・ボリューム映像作品!
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