「K A R Y Y N」と一致するもの

Conny Plank / Various - ele-king

 『TECHNO definitive』の文中に、結果、もっとも多く出てきた固有名がノイ!だったことは、何度か話したが、さらに言えば、結局のところこれは、テクノの誕生においてコニー・プランクがもっとも重要な人物であるという、当たり前にして当たり前な結論が導き出されたということでもある。クラウス・ディンガーが「誓って」言っているように、「コニーがいなければノイ!はありえなかった」のだ。
 言うまでもないことだが、コニー・プランクは、クラフトワークとクラスターという電子音楽宇宙の2大巨星の生みの親である。1963年からケルンのスタジオで働き、マレーネ・ディートリッヒやシュトックハウゼンの仕事を身近で見ながらフリーのサウンド・エンジニアとなった彼は、クラウトロックの音の創造の現場で能力を発揮したばかりではない。まだ若かったバンドの経済面の面倒まで見た。そして、彼の音への追求心は、初期のクラウトロック(クラフートワーク、ノイ!、ラ・デュッセルドルフ、クラスター、ミヒャエル・ローター、アシュ・ラ・テンペル、カン等々)やアンビエント(ブライアン・イーノ等々)からポスト・パンク(ウルトラヴォックス、DAF、ディーヴォ、Phew等々)まで素晴らしい成果を残している。コニー・プランクの名前を冠したコンピレーション盤が出るのは必然であり、喜ばしい限りである。

 この4枚組のボックスには、22曲のコニー・プランクのプロデュースによる楽曲、1枚のリミックス集、そして1枚のライヴ音源(クラスターのメビウスとの1986年のメキシコでの演奏)が収められている。僕が真っ先に聴いたのは、もちろんこのライヴ音源だ。プランク作品のファンにとって、メビウス&プランク名義の一連の作品は、もっとも高次な楽しみなのだが、そうした期待を裏切らないどころか、ふたりのテクノオヤジのホモルーデンスとしてのふざけっぷりに口元がゆるまずにはいられない。ドイツ語とスペイン語が飛び交うなか、ヨーデルの残響がこだましたかと思えば、腐敗した電子音とインダストリアル・ビートが飛び出す。録音が悪いのは仕方がないとはいえ、これは発表するに値する(ごくごく初期のDAFを彷彿させる)。

 2枚のプロデュース作品集は、あらためてコニー・プランクのスリルに満ちた電子サウンドを聴ける。いまや封印されているクラフトワークの初期の作品がここに入らなかったことは残念だが、ここには、ノイ!、ラ・デュッセルドルフ、ミヒャエル・ローター、DAF、Phew、ユーリズミックス、メビウス&プランク、イーノ/メビウス/レデウスといったお馴染みの名前から、なかなか手に入りづらい伝説のバンド、Ibliss(クラフトワークの前身のOrganisationのメンバーが在籍していたころで知られる)の音源、〈スカイ〉レーベル時代の音源でもなかなか手の届かないStreetmark、たった1枚の7インチしか残さなかったPsychotic Tanks、同じように、Fritz Müllerといったほとんど知られていないアーティストの音源が収録されている。〈ドラッグ・シティ〉から発表されたメイヨ・トンプソンとの共作も入っている。ポスト・パンクの感覚が強調されているように思うが、CD1の8曲目のメビウス&プランクの"Conditionierer"を楽しめない人は手を出さないほうがいい。
 逆に、"Conditionierer"のモータリック・サウンドがたまらなく気持ち良いと思える人にとっては、これは宝石箱である。ドイツで生まれたテクノの決定的なコンピレーション盤だ。CD3のリミックス集に関しては、リミキサーの名前だけ挙げておこう。Walls(コンパクトからの作品で知られる)、Automat (イタロ・ディスコ)、Justus Köhnke(コンパクトからの作品で知られる)、Fujiya & Miyagi、Eye、Crato(コンパクトからの作品で知られる)......、Eyeはノイ!の『2』の1曲目、Fujiya & Miyagiは"Conditionierer"、CratoはPhewの曲を手がけている。

 コニーズ・スタジオの貴重な写真で構成されたブックレットも素晴らしい。ドイツの田舎の当時のスタジオの雰囲気を垣間見れる。またブックレットには、ブライアン・イーノ、ホルガー・シューカイ、ミヒャエル・ローター、アニー・レノックスらが泣かせる文章を寄せている。とくに僕は、シューカイの文章がとても気に入った。彼は純粋な音楽バカだったコニー・プランクの人柄について書いている。デヴィッド・ボウイですらスタジオから追い返すほど、貨幣のためには動かなかった反商業主義的な一面を紹介して、深夜のラジオ番組でふたりで作った曲をかけたときのエピソードで話を結んでいる。あるリスナーがいますぐ気味の悪い音楽を止めて欲しいという苦情の電話してきたそうだ。シューカイはこう書いている。「だが、不安を感じているときこそ、もっとも音楽を楽しめるものだ。そうだろう、コニー?」
 しかし、いまさらこの音楽から不安を感じる人もいないだろう。むしろ、彼は人びとの悦びのためにやっていたとしか思えない。

interview with Unknown Mortal Orchestra - ele-king

 いったいいつからそこに洗いざらされていたのかわからない......何十年も風雨を凌いだようにも、またつい昨日そこに置かれたばかりのようにも感じられるUMOのサウンドは、タイムレスという表現ではなく、ロスト・タイムと形容するのがふさわしいかもしれない。
 オープンリール式のテープ・レコーダーやディクタフォンなどを用いながら、丹念に音を作っていくというルーバン・ニールセンは、アリエル・ピンクからえぐみをとったような、ヴィンテージだがトレンドを突いたローファイ感をトレード・マークに、サイケデリックなファンク・ロックを展開し10年代シーンに頭角を現した。今月リリースされたセカンド・アルバムでは、グラム・ロック風の楽曲などUKロック的なアプローチをさらに強め、ポップ・アルバムとしての幅を広げた印象だ。
 しかしUMOの音は、懐古趣味というにはあまりにいびつで、ニュー・スタイルだというにはあまりに時代掛かっている。どこに置いても少しずつ違和感を生んでしまうような、いつの時代からもロストされ、どの思い出にも安住できないような、微量の孤独を感じさせるところに筆者は無限の共感を抱くのだが、その心は実のところは如何ばかりか。

 今回、ホステス・クラブ・ウィークエンダーへの出演のため来日していたメンバーに話をきくことができた。中心人物であるルーバン・ニールセンと、ベースのジェイコブ・ポートレイト。ルーバンはよく知られるように、以前はニュージーランドの老舗インディ・レーベル〈フライング・ナン〉の重要バンド、ザ・ミント・チックスを率いて活躍していた人物でもある。場所をアメリカに移し、ひっそりとこのサイケ・プロジェクトをはじめていたわけだが、ルーバンのソングライティングの底にあるものは、自身が述べているように、どこにも属することなく渡り歩くブルースマンのそれに似通ったところがあるのかもしれない。古今東西の音が審級もなく膨大に蓄積されつづけるネットワークのなかを、静かな光を放ちながら漂泊するUMOの音楽に、そのイメージはいくばくか重なっている。われわれが惹きつけられ、共感を抱くのは、ルーバンのそのようなあり方に対してでもあるだろう。

古い機材にこだわっているわけでもないんだけど、いまの時代、きれいな音を出すほうが簡単だったりするからね。そうじゃないことをやろうとすると、やっぱり時間がかかるよ。でもそもそもそのままでおいしい肉がそこにあるのに、わざわざマヨネーズをつけたりいろいろな手を加えたりしてるだけかもしれないよね。

“ファニー・フレンズ”(ファースト・アルバム『アンノウン・モータル・オーケストラ』収録)が聴けて感激しましたよ。あの作品が出た頃はレコード屋で働いていたんですが、それはもう毎日店頭でかけて......

ルーバン:それは素敵だね!

はい(笑)。あの頃は〈ウッジスト〉とか〈メキシカン・サマー〉とかがまさに旬で、そのあたりと部分的に共振しながら、チルウェイヴというトレンドも爛熟期にありました。

ルーバン:そうだよね。

グレッグ:たしかに。

で、UMOのちょっとガレージーな感じ、ローファイな感じ、こもった感じ、リヴァービーな感じっていうのは、そうした当時のシーンの雰囲気ととてもシンクロしていた部分があると思うのですが、あなたがたのファンクネスは、ちょっとめずらしくて、際立っていました。UMOには、ミント・チックスの体験を引いている部分もあるかとは思うのですが、パンクからファンクへというリズムの変化があるのは、ミント・チックスやパンクに対するひとつの批評なのでしょうか?

ルーバン:基本的には、前のバンドのドラマーがあんまりファンクできる人じゃなかったんだよね(笑)。どっちかというとパワー・プレイが持ち味で。僕自身は、いまやっているような音に昔から興味があったし、父親がジャズ・ミュージシャンだったこともあって、馴染みもあったんだ。でもはじめたのはたまたまパンク・バンドだった。パンクのなかに徐々にファンキーな要素とかを入れていきたかったんだけど、なかなかああいうグルーヴは腕のある人じゃないと出せないんだよね。当時はまあ、無理だったんだ。だからバンドを離れてひとりで音楽を作ることになったときに、どうしてもちょっと古風なグルーヴを持ったものへと変わっちゃったんだよね。

なるほど、古風なグルーヴという認識なんですね。今作はちょっとグラムっぽいいうか、UKロック的な音楽性が特徴になってるかなと思います。〈ファット・ポッサム〉にはヤックとかロンドンのバンドもいますけど、アメリカでいまUKロックというのはどんなふうに聴かれているんですか?

ルーバン:ヤックとかはたしかに人気があるよね。バンドによると思うけど、「ブレイクした」って規模の話になると、アークティック・モンキーズくらいかな。

ジェイク:でも、イギリスのバンドがいまアメリカで人気を高めているかっていうと、それは疑問だね。いま「きてる」のは、やっぱりサンフランシスコのガレージ・ロック・シーンだと思うよ。ガールズとかタイ・セガールとか......。

ルーバン:アメリカでイギリスのバンドが成功するのは難しいよね。ビッグにはじけるのは、アデルとかエイミー・ワインハウスとかポップなものでさ。

そうですよね。ガールズやタイ・セガールなんかは、ちょっとヴィンテージな音づくりをしますね。UMOにも共通するところはあると思うんですが、そんなふうにレトロな音楽性に向かうのは、一種のノスタルジーからなんですか? それともいまの時代に疎外感のようなものがあったりするんでしょうか?

ルーバン:ノスタルジーっていうのはぜんぜんちがうかな。その昔を知っていないと感じられないものだからね。僕らがいま好きで聴いているサイケなものっていうのは、実際は僕らが知らない昔のものだ。ここ8年くらい、そういうものが気になってよく聴いてるんだ。僕にとってリアルにノスタルジックなのは、TLC、ブランディ(笑)、あのへんのR&Bだったら若い頃の思い出とともに懐かしむことができるよね。
 サイケデリックな音楽を聴き込めば聴き込むほど思うのは、たとえばピンク・フロイドの『夜明けの口笛吹き』とかが典型だけど、あれですべてが変わったなと思えるぐらいの衝撃度――新たなクオリティ、新たなスタンダードを設定したようなね――を伴っているところがすごいんだ。あの当時の作品のすばらしさはそこにあると思う。バンドとしての僕らのありかたは、機材だって新しいしモダンだと思うんだけど、好みのサウンドはたまたま60年代のものとかが多くなってしまうんだ。

なるほど。モダンだっていうのはすごくよくわかります。曲についてなんですが、前作も今作も、あなた(ルーバン)がとても優れたソングライターなのだなということがよくわかるのですが、プロダクションについてはどうなんでしょう? ローファイっぽさを大切にしながら、とてもこだわり抜かれた音作りがされていると思うんですね。実際のところどのくらいの時間をかけて、どんなふうにサウンド・メイキングを行っていらっしゃるんですか?

ルーバン:ドモ、アリガトウゴザイマス(笑)。すごく時間はかかるんだ。いっさい妥協しないから。古い機材にこだわっているわけでもないんだけど、いまの時代、きれいな音を出すほうが簡単だったりするからね。そうじゃないことをやろうとすると、やっぱり時間がかかるよ。そもそもそのままでおいしい肉がそこにあるのに、僕はわざわざマヨネーズをつけたりいろいろな手を加えたりしてるだけかもしれないよね。さらにはその料理の方法がすごくアナログだっていう。ローファイじゃなきゃいけないと思っているわけではないんだ。

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ゾンビーズの『オデッセイ・アンド・オラクル』はとっても好きなアルバムだけど、あれだとちょっとロックさが足りない。キャプテン・ビーフハートも好きだけど、そうするとちょっとプリティさが足りない。そのちょっとの足りなさを自分で補いながらアルバムを作っていくんだよ。

うーん、なるほどなあ。では曲についてなんですが、 “フェイデッド・イン・ザ・モーニング”などのブルージーなサイケ・ナンバーがある一方で、“ドーン”のようなシンセ・アンビエントが収録されていることは、この作品の持つサイケデリアが単純なものではないことを証明するようにも思います。“ドーン”はどのようにでき、どのような意図で収録されているのでしょうか?

ルーバン:いじりかけの曲を、すごくたくさんPCのフォルダにまとめてるんだけど“ドーン”はそのなかのひとつだったんだ。すごくいい感じにできてるから、もったいないし何かに使いたいって思ってた。今回はアルバムをぶっ通しで聴いてもらうんじゃなくて、何か箸休めというか、ブレイクがあるといいかなと考えてもいたんだよね。そんなときだよ、“フェイデッド・イン・ザ・モーニング”の詞のなかに「徹夜明けで日差しがまぶしい」って部分があるんだけど、あの時間で日がまぶしいってことは、その前に夜明けが来てなきゃおかしいよなって思って、いじりかけの曲に“ドーン”って名前をつけて、そこに入れることにしたんだ。ちょうどね(笑)。
 とにかく好きなレコードがたくさんあるから、それに触発されて作りたいと思った音を、自分のレコードのなかに落とし込んでいく、そういうやり方なんだ。ゾンビーズの『オデッセイ・アンド・オラクル』はとっても好きなアルバムだけど、あれだとちょっとロックさが足りない。キャプテン・ビーフハートも好きだけど、そうするとちょっとプリティさが足りない。そのちょっとの足りなさを自分で補いながらアルバムを作っていくんだよ。

ああー。プリティさは大事ですね。UMOにはありますよ。“ソー・グッド・アット・ビーイング・イン・トラブル”“ノー・ニード・フォー・ア・リーダー”などは、ダックテイルズやジェイムス・フェラーロなどともどこか共鳴するような、どろっとして白昼夢的な音作りがされていると思います。〈ウッジスト〉や〈ノット・ノット・ファン〉〈ヒッポス・イン・タンクス〉といったようなレーベルに共感する部分があったりしますか?

ルーバン:いやー、ほんとにいまは才能ある人々に囲まれている時代だなという気がして、いま言ってくれたようなレーベルとか、この時代の人たちといっしょに名前を語られるのはうれしいよ。ただ、新しく出るレコードをチェックしきれてない部分はあるから、ほんとに新しいものは追いきれてなかったりはするんだよ。で、ふと気がつくと友だちのレコードだったり。

友だちのレコード、教えてくださいよ。

ルーバン:ええとね、フォキシジェン(Foxygen)、彼らはレーベル・メイトでもあるけどね。あと、ワンパイア。ジェイクがプロデュースしたんだ。

ああ!

ジェイク:仲良しなんだよね。ポートランドのバンドなんだ。

うわあ、やっぱりポートランドはいいですね。

ルーバン:なんか力になれればなって思って、ツアーに連れて行ったりしてる。

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ある意味、自分のアイデンティティを目立たないように消していくのが、いまの僕のあり方なのかもしれないな......。でもアメリカに住むこともアメリカの音楽も大好きだから、問題はないよ。

ちょうどポートランドの話題が出ましたけど、ニュージーランドからポートランドに移住したというのは、日本人からすればまあけっこう大きな決断にも見えるんですが、実際のところなぜアメリカだったのか、そしてなぜポートランドだっだのか教えてもらえますか?

ルーバン:前のバンドのツアーで来たのがきっかけかな。たまたま叔父がポートランドに住んでたというのもあったんだけど、当時は例の『ポートランディア』っていうテレビ番組がはじまる前だったから、べつに有名でもなかったし、とくに何か特別な期待は抱いていなかったんだ。でも街を歩いてみるとみんな着ているものはオシャレだし、かっこいいし、バーに行けば好きなアルバムがかかっているし、ちょっとここに住んでみようかなって気持ちになったんだよね。ニュージーランドの友人たちからは「なんで?」って言われたよ、たしかに。ほんとにポートランドはいまみたいに有名じゃなかったんだもん。でも、いまはわかるんじゃないかな。

みんな住んでないけどよく知ってますよ。ニュージーランドのローカルな音楽シーンって、ポートランドのローカルなシーンと似てたりしますか?

ルーバン:まず、生活のペースは似てるかな。それから、ニュージーランド時代からインディ・シーンに興味があったから、ザ・クリーンとかザ・チルズとかはチェックしてたんだけど、彼らの雰囲気とこちらのインディ・シーンの感じも似ているといえば似ていると思う。〈K〉と〈フライング・ナン〉のノリとかね。ただ、ニュージーランドのほうが、バンド同士が競い合うムードが強かったと思う。ポートランドのほうが仲間意識やコミュニティ感覚が強いかな。

今作のように〈ジャグジャグウォー〉からリリースということになると、UMOも世界的にはUSインディの重要バンドとして認識されていくことになると思います。ご自身のアイデンティティの問題として、こうした点に何か思いはありますか? 

ルーバン:ある意味、自分のアイデンティティを目立たないように消していくのが、いまの僕のあり方なのかもしれないな......。でもアメリカに住むこともアメリカの音楽も大好きだから、問題はないよ。それがパーフェクトなあり方だとは思わないんだけどね。でも、アメリカはミュージシャンとしては活動しやすい国だし、そもそもニュージーランドは小さな国で、音楽をやっている人に限らず、いつかはそこを出ていくというのがカルチャーの一部としてあるんだよね。外に出ていろんなものを発見して、はじめて自国の良さにも気づくっていう(笑)。そういう、外側から国を見つめてその価値を再認識するという昔ながらのニュージーランドのやり方を、いま僕もやっているのかもしれないね。

なるほど、日本とは違いますね。UMOの曲って基本的にはすごくポップなんですけど、どことなく孤独とか諦念のようなものが漂うように感じます。暗いわけじゃないけど、けっしてハッピーというわけでもない。あなたには実際に「Swim and sleep like a shark does」(“スウィム・アンド・スリープ(ライク・ア・シャーク・ダズ)”)していた時期があるのでしょうか?

ルーバン:いまでもそういう気分になることがあるよ。でもそういう気持ちを曲に書くことでどうしたいかというと、みんなに「こういう思いをしている人が他にもいるんだよ」ってふうに共感してほしいってことなんだ。孤独や疎外感みたいなものを助長しようと思っているわけではなくてね。この気分にはまり込んでもらいたくはない。
昔からブルースのアーティストなんかが悩みを歌にしたりしているのは、悲しい音楽の役割として、悪い状況からの救いになる部分があるからだと思うんだ。同じような思いをしている人が他にいるってわかることで救われるというのが、悲しい音楽の役割のひとつだと僕は思っていて。基本的に、僕が曲を書く根本には音楽を通じてみんなとつながりたい、コミュニケートしたいという思いがあるんだ。ただ、自分の気持ちに正直であればあるほど、ダークなものが表に出てくる。けどそこで終わらずにどこか明るいところを見せたい、見てほしいって思ってるよ。

ああ、いいお話が聞けました。ありがとうございます。最後にひとつだけ、前作のジャケットの写真ってユーゴスラビアの建物なんですか?

ルーバン:あれはクロアチアだね。もともとああいうふうな写真をベルギーの写真家が撮っていて、いいなと思ってたんだ。だけどその写真を買わせてくれって言ったらあまりにも高い値段を提示されて(笑)。だから観光客の撮った写真をいくつか探して、それをフォトショップで作り直したんだ。もともとのものと似た感じのアングルにして、モニュメントの前に立ってる人間は、僕のまわりの人を撮って組み合わせたりしてね。

ムーンライズ・キングダム - ele-king

 ウェス・アンダーソンの新作『ムーンライズ・キングダム』の舞台の島を襲うハリケーンにはメイベリーンと名前がつけられていて、それはチャック・ベリーの"メイベリーン"であろうと、そのことに日本でもっとも反応していたのは僕の知る限り樋口泰人氏だが、とにかく、ウェスのほうのアンダーソン監督はつねにポップ・クラシックスへの憧憬を隠そうとしない。ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、ビーチ・ボーイズ、それにキャット・スティーヴンスやザ・フェイシズ、ザ・フー......がスクリーンを満たすとき、物語もエモーションもそれらの曲と不可分となってしまう。『ダージリン急行』などはスローモーションでカメラがパンするなかザ・キンクスを流すためだけの映画だと言ってよく、彼らの"ディス・タイム・トゥモロウ"を語る旅が3兄弟の未熟なインド旅行そのものであった。「明日のこの時間、僕らはどこにいるんだろう」......そんな少年性を、ウェスは彼が愛する黄金期のポップ・ミュージックに託してきた。
 ロアルド・ダールへの幼少期からの愛と再会した前作『ファンタスティックMr.FOX』が結局のところ、隅から隅までウェス・アンダーソン映画でしかなかったことからも証明されているように、彼は同じ主題を反復させながら子ども還りしているように見える。「厄介な息子」と「出来損ないの父親」の和解。それはアメリカ映画のクラシックからの反復でもあるだろう。

 『ムーンライズ・キングダム』では初めて年齢的な意味での「子ども」を主役に置きながら、しかし実際のところ少年サムの初恋と冒険はこれまでのウェスの映画で主人公たちが繰り広げてきたそれとまったく同質のものであろう。けれども、時代を65年と明示して政治の季節直前の「思春期」としているように、これまででもっとも子どもであることを真っ直ぐに謳歌している作品ではある。なんてことのない、かつてのポップ・ミュージックに登場する少年少女のラヴ・ソングのように、甘くてノスタルジックな逃避行。ウェス映画の様式がここでは完成を遂げている。少年少女が森を分け入るときにはハンク・ウィリアムスが歌い、ふたりがビーチでダンスするときにはフランソワーズ・アルディが彼らをキスへと誘う。そのスウィートな感覚を、身体的に味わうための映画である。
 僕が本作で惹かれたのは父親の描き方であった。『ファンタスティックMr.FOX』のダメな父親ギツネをジョージ・クルーニーが演じたときの「おや」という感覚を、この映画のブルース・ウィリスにも感じたのだ。これまでジーン・ハックマンやビル・マーレイが演じてきた父親から、少し世代が降りたこととも関係しているかもしれない。ここでのブルース・ウィリスは最近『ダイハード』などでタフガイとして復活を遂げている彼ではなくて、ただの「悲しい(sad)」中年男である。しかしながら映画はウィリスのアクション・スターとしてのキャリアも踏まえながら、彼をヒーローへと変貌させ、そしてたとえ出来損ないであろうとも、たしかに少年のたったひとりの父親へとしていく。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』や『ライフ・アクアティック』のように、身勝手な父親をいくらかの諦念でもって赦すというものでもなく、『ダージリン急行』のように父親を喪うわけでもない。『ファンタスティック~』の父親ギツネがか弱いコミュニティをそれでもどうにか統べたように、頼りないヒーローであることをささやかながらも祝福するような。

 ウェス・アンダーソンにとって父親でありヒーローであるのは、チャック・ベリーでありハンク・ウィリアムスでありザ・キンクスでありザ・ビートルズでありザ・フーでありビーチ・ボーイズであり、彼らのポップ・ソング・コレクションそのものなのだろう。本作で言えば、フランソワーズ・アルディのナンバーだってそうだ。ウェスは自らの「子ども」の部分へとさらに立ち返っていくことで、自分を育てた父親たちへの愛を包み隠さなくなっているように思える。だから、フィルモグラフィを「チャーミング」「キュート」「スウィート」という形容で彩ってきたウェス・アンダーソンの作品群のなかでも『ムーンライズ・キングダム』がその度合いをもっとも高めているのだとすれば、それはわたしたちが音楽を聴いて心躍るあの感覚を「ポップ」としか名づけようのない不思議に、少年ウェスがまた近づいているということだ。

予告編


Thee Oh Sees - ele-king

 ジ・オー・シーズは、USのライヴハウス・シーンではもっぱら愛され続けているバンドで、どのくらい愛されているかというのは、沢井陽子さんのレポートを読んでください
 ポジティヴな意味で、アメリカらしい足を使って、汗を流しているバンドである。東京公演には、ゲラーズ、そしてザ・ノーヴェンバーズも出るし、来週の月曜は渋谷〈O-nest〉、火曜日は名古屋〈KD JAPON 〉、そして、水曜日は大阪〈Conpass 〉で騒ごう。



[いいにおいのするThee Oh Sees JAPAN TOUR2013]

サンフランシスコ発世界中で大ブレイク中のアヴァンギャルドでpopなガレージ・サイケ・バンド、 Thee Oh Sees 、遂に日本に降臨!
なんと、大阪公演には、西宮の狂犬・KING BROTHERS(キングブラザーズ)が、東京公演には、トクマルシューゴ含むGellers、いまをときめくTHE NOVEMBERSが出演!

東京編 2/18@O-nest
Open/18:00 Start/19:00
adv/3.000 door/3,500
■Pコード:【191-065】,
■Lコード:【76462】,
e+
【出演】
Thee Oh Sees
Gellers
THE NOVEMBERS
Vampillia

名古屋編 2/19@KD JAPON
Open/18:00 Start/19:00
adv/2.500 door/3.000(+1drink )
■Pコード:【191-065】 ,
■Lコード:【46947】,
e+
【出演】
Thee Oh Sees
MILK
Nicfit
Vampillia

大阪編 2/20@Conpass
Open/18:00 Start/19:00
adv/3.000 door/3.500(+1drink )
■Pコード:191-314 ,
■Lコード:54081 ,
■e+
【出演】
Thee Oh Sees
KING BROTHERS
Vampillia


■Thee Oh Sees
Thee Oh Sees は、John Dwyer (Coachwhips, Pink and Brown, Landed, Yikes, Burmese, The Hospitals, Zeigenbock Kopf) の、インスト・エクスペリンタルな宅録作品をリリースするためのプロジェクトとして開始された。
その後、いくつかの作品を経て、フルバンドへと進化を遂げたのである。彼らのサイケデリックな作風は、一見するとレトロなものとして、とらえられるかもしれない。
だが、彼らは、数々の最先端のアレンジを細部に施すことで、サイケデリックでありながらもしつこさを感じさせない、スタイリッシュでキレの良い全く新しい音楽として、リスナーに強く印象づけているのである。
その作品群はPithforkをはじめとする数々のレビューサイト、音楽雑誌で軒並み高評価を獲得している。
だが、数々のメンバーたちと共に録音されたこれら作品群だけでなく、常軌を逸したエネルギッシュなライブパフォーマンスこそが、ライトニングボルトと同じベクトルにある彼らの本質ともいえる。

ツアー詳細:https://iinioi.com/news.html



Grouper - ele-king

 2008年の『死せる鹿を引きずりながら(Dragging A Dead Deer)』と同時に録音された未発表曲集が本作『帆船のなかで死んだ男(The Man Who Died In His Boat)』なので、厳密に言えば新作ではない。が、アルバムは、当時リリースされなかったことが理解できないほど圧倒的な魅力を携えている。アルバムのスリーヴにはリズ・ハリスではない女性の写真がスリーヴには使われているので、勘違いしないように。さらにもうひとつ、同様に、彼女の歌詞は英語を日常的に使っている人にも判読できないらしい。もちろん、歌詞を分析しなくても、彼女の音楽は伝わるのだけれど。
 とはいえ、『帆船のなかで死んだ男』は、『A I A』の2枚ほど抽象性が高いわけではない。この音楽をドローン・フォークとジャンル呼びした場合の「フォーク」の部分がわりとしっかり残されている。彼女のトレードマークである、あのくぐもった音響──フィールド・レコーディング、テープ・コラージュ、エフェクト、ある種沈痛なるダブ・サウンド──はこのときすでに深く鳴っているが、『A I A』以上に歌の要素がはっきりと残っているが大雑把な特徴である。

 作品は、彼女が10代のときのある経験にインスパイアされている、というようなことがレーベルのプレス・リリースに書かれている。

 彼女は波打ち際に打ち上げられた帆船を見つけた。数日間、それは、そのまま取り残されていた。あるとき、彼女は父親と一緒に帆船に近づき、なかを見た。地図やコーヒーカップや衣類が散らばっていた。彼女は自分が目撃者として侵入することに後ろめたさを感じた。新聞を見ても、ことの真相を知る手がかりはなかった。とにかく、帆船は転覆することなく陸にたどり着いた。男はどうにかして、そこを抜け出した。結局のところ帆船も、乗り手のない馬のごとく、家に帰った......

 僕が聴いたときに思い浮かべたのは、たとえばこうだ。海が広がっている。空は暗い雲で覆われている。一艘の帆船が揺れている。それから、ずっと、雨のなか、穏やかな風のなか、揺れている。舵を握りながら、男は死んでいるが、帆船は生き物のように揺れている。海流に動かされ、風に押されながら、決して、岸に着けない。太陽が出たところで、帆船はただ揺れている、たとえ夜空が満天の星空であろうと......

 帆船のなかの男がどうして死んだのか、理由を探索することは、もはや重要ではないだろう。それがいかなる理由であれ、帆船のなかで男は死んでいるのだ。彼女に取材したとき、彼女は『A I A』の2枚のコンセプトについて話してくれたが、繰り返そう、彼女の歌詞は英語を日常的に使っている人にも判読できないらしい。しかし、もちろん、歌詞を分析しなくても、我々には痛みを感じる自由がある。音楽が、慰めのためにだけにあるものではないことを、グルーパーはまたしても教えてくれる。

 ところで、ザ・バグ(UKのベース系のプロデューサー)が、グルーパーをフィーチャーして新作を出すという話はその後、どうなったんでしょう? (後述:2014年の『Angels & Devils』にインガ・コープランドとともにフィーチャーされた)

Supermaar (aka DJ MAAR) - ele-king

DEXPISTOLSのDJ MAARのソロプロジェクト。
あらゆる音楽を通過し、たどり着いた先、戻った先。
Deep HouseとTechnoを軸にしつつも、持ち前のヤンチャ心で、日々生まれるフレッシュな音源をグルーヴと低音をキープしながらMixしていく。もう一人のオレ。3番目のオレ。
Dope me, me from Madness.

Recently Play List


1
Barnt / Geffen
完全なるクラブサウンド。家で聴いても、その良さが1ミリも分からない最高な1曲。

2
Shlomi Aber / Foolish Games Feat Moggli
ズブズブしながらも歌い上げてる感じが、最高。Deep HouseとTechnoの程良い中間地点。

3
COS/MES / D.F.G. feat. Dr. Nishimura
こんなのが、あったとは、、、。日本が誇る最狂タッグ。西村さん、超リスペクト。

4
&ME / Everless 
所謂Houseマナーを完全に継承している、旬なHouse。ハマれるし、踊れる。

5
Raz Ohara / El Zahir (Acid Paul's Acid Dub)
理由は、無いけどグッとくる1枚。後半のAcidな展開が、アイディア賞もの。

6
Nu Zau / Pason
カッコイイ。クセは全くないけど、それこそが、今風の最大なクセなのかも。

7
Dark Sky / Hequon 
黒くて、太くて、危険なヤツ。レーベル50 Weaponsにハズレなし。

8
Heiko Laux & Alexander Lukat / Bleak
ド不良な音。激ワル、極悪。大好物だけど、上手く使いこなせるか心配。。。

9
Sis / Foxy (Butch's Raw Cut)
絶妙なバランス感が良い。あった様で無かった感じ。色んなジャンルを横断しそうな1曲。

10
Supernova / Last Night In NY
音は今っぽくないのに、ナゼか今っぽく聴こえる曲。ロケ地がニューヨークってのも不思議。
次点 wAFF / Ibiza
何だかんだで、こういう感じ嫌いじゃない。タイトル通り考える前に、踊れ!騒げ!!的なアンセム。

My Bloody Fuckin' Valentine Mixtape - ele-king

 1937年にリチャード・ロジャース&ロレンツ・ハートが作曲した"マイ・ファニー・ヴァレンタイン"は、チェット・ベイカーやフランク・シナトラからエルヴィス・コステロにいたるまで、幅広く歌われています。また、ザ・ビートルズは「僕が64歳になってもヴァレンタインにチョコをくれる?」と歌いました。
 というわけで、ヴァレンタインに乗りましょう。好きな人に捧げたい、ヴァレンタイン用DJミックステープ! 読んでくださっているみなさんも、どうぞリストをお送りください!


■木津 毅

1 尾崎紀世彦 - ラブ・ミー・トゥナイト
2 Rhye - The Fall
3 Antony and the Johnsons - Crazy in Love
4 Kylie Minogue - The One
5 Pet Shop Boys - Love Comes Quickly
6 Matmos - Semen Song For James Bidgood
7 Gayngs - Cry
8 Perfume Genius - Hood
9 The National - Slow Show
10 Wilco - On and On and On

■斎藤辰也(パブリック娘。)

1 Taken By Trees - My Boy
2 トクマルシューゴ - Decorate
3 Emitt Rhodes - Fresh As A Daisy
4 Knock Note Alien - 雪をとかして
5 Hot Chip - We're Looking For A Lot Of Love
6 AJICO - メリーゴーランド
7 Enon - Kanon
8 About Group - Plastic Man
9 About Group - Married To The Sea (b)
10 Syreeta - Cause We've Ended As Lovers

シークレット
11 The Beach Boys - Time To Get Alone (Acapella)

■中里 友

1 Outkast - Happy Valentine's Day
2 R.Kelly - Step In The Name Of Love(Remix)
3 D'Angelo - Lady (Remix) feat. AZ
4 Drake - Best I Ever Had
5 Breakbot - Baby I'm Yours
6 Best Coast & Wavves - Got Something For You
7 clammbon - sweet swinging
8 s.l.a.c.k. - I Can Take It (Bitchになった気分だぜ)
9 前野健太 - 病 (Yah! My Blues)
10 奇妙礼太郎 - オー・シャンゼリゼ

■野田 努

1 Carl Craig - Goodbye World
2 Chet Baker - My Funny Valentine
3 Beach House - Zebra
4 Ramones - Needles And Pins
5 The Velvet Underground and Nico - I'll Be Your Mirror
6 Scritti Politti - The Sweetest Girl
7 Massive Attack - Protection
8 Marcia Griffiths - The First Time I Saw Your Love
9 The Simths - I Want The One I Can't Have
10 RCサクセション - よごれた顔でこんにちわ
11 The Stylistics - You Make Me Feel Brand New
12 Nina Simone - My Baby Just Cares For Me
13 The Beatles - Here There and Everywhere
14 The Righteous Brothers ? You've Lost That Lovin' Feelin'
15 The Slits- Love and Romance

■橋元優歩

1 Baths - Apologetic Shoulder Blades
2 Airiel - Sugar Crystals
3 Clap Your Hands Say Yeah ? Let the Cool Goddess Rust Away
4 Atlas Sound - Shelia
5 Daedelus - LA Nocturn
6 Grouper - Heavy Water / I'd Rather Be Sleeping
7 Evangelicals - Midnight Vignette
8 Cloud Nothings - Strummin Whadya Wanna Know
9 Me Succeeds - The Screws Holding It Together
10 Our Brother The Native - Well Bred
11 How To Dress Well - Date of Birth
12 Twinsistermoon - Ghost That Was Your Life
13 Rehanna - S & M
14 Sleep ∞ Over - Romantic Streams
15 Jesse Harris - Pixote
16 Candy Claws - In The Deep Time

■DJ MAAR

1 The xx - Sun set
2 Herbert - I miss you
3 Francis Harris - Plays I play
4 Jesse Ware - Swan song
5 Frank Ocean - Thinking about you
6 Lil' Louis - Do you love me
7 Stevie Wonder - As
8 Grace Jones - La vie en rose
9 Edith Piaf - Hymne a l'mour
10 Louis Armstrong - What a wonderful world

■松村正人

A面

1 Barry White's Love Unlimited Orchestra - Love's Theme
2 Dan Penn - The Dark End Of The Street
3 Kevin Ayers - When Your Parents Go To Sleep
4 Red Crayola With Art & Language - If She Loves You
5 Frank Zappa - Harder Than Your Husband
6 Mayo Thompson - Fortune
7 Frank Zappa - Keep It Greasy
8 ゆらゆら帝国 - 貫通

B面

1 The Bryan Ferry Orchestra - Slave To Love
2 林直人 & MA-BOU - Can't Help Falling In Love
3 ZZ Top - Over You
4 Aaron Neville - My True Story
5 勝新太郎 - ヒゲ
6 Serge Gainsbourg - 手切れ(Je suis venu te dire que je m'en vais)
7 割礼 - こめんね女の子
8 Leonard Cohen - Hallelujah
9 Prince - I Wish U Heaven

Melody's Echo Chamber - ele-king

 メロディ・プロシェのようなお嬢さんを見ると、わたしのようなZ級ゴシップ・ライターが連想するのは、昨年ジョニデと離別したヴァネッサ・パラディとか、ラース・フォン・トリアー監督のミューズになって「衝撃の性描写!」(見出しにおける感嘆符の多用は、日本語ゴシップ・ライティングの基本だ。英文ゴシップでは一切使われないが)な話題の多いシャルロット・ゲンズブールとかだ。彼女らも、若い時分には、いまをときめく男たち(父親を含む)に愛され、バックアップされて君臨したポップ・プリンセスだった。
 『Lonerism』が2012年の『NME』のベスト・アルバムに選ばれたテーム・インパラのケヴィン・パーカーも、いまをときめく男には違いなく、彼の全面的バックアップのもとに昨年リリース!! された本作は、まるでLUSHかと思った。で、いやあ、でもこれなら当時のUKのほうが良かった。などという年寄りらしい偏狭な心持になり、卑屈な目つきでRIDEの『Nowhere』を聴きはじめたりしていたのだが、ちょっと待てよ。と思った。冷静に考えると、なぜに豪州人と仏国人が歩み寄ってブリテンで出会っているのだろう。

 フランス語は温かい響きを持つ言語だ。が、フレンチ訛りの英語というのは、その温かみが災いし、どことなく間抜けな響きになる。かわいい仏人娘に舌っ足らずの英語で歌わせて喜ぶのは英語圏の男にありがちな性癖だが、メロディ・プロシェは"Bisou Magique"や"Quand Vas Tu Rentrer?..."などのフランス語で歌っている曲のほうがずっと良い。
 そういえば、オーストラリア英語にも妙な温かみがあり、近年は、語尾がゆるーく伸びて必ず半音上がる、泥くさいような、すっとぼけているような、オーストラリア人独特の温かみのある喋り方がなぜか英国の若者のあいだで流行しているが、テーム・インパラの音楽も、語尾が上がる豪州英語のようだ。言語の特徴が人間の性質に影響を及ぼすとすれば、豪州と仏国の人間の体温は、明らかに英国人よりも高そうである。

 そんな豪州人サイケ・キングと仏人ポップ・プリンセスがコラボして出来た音楽は、80年代末から90年代初頭の寒い英国のインディ・バンドみたいでした。というのは、なんか釈然としない。いっそ、このぼやけたシューゲイズによるドリーミー感を取り除いたらどうだろう。LUSH&フランス・ギャルじゃなくて、レッド・ツェッペリン&エディット・ピアフみたいな、怒涛のサイケデリック・シャンソンをやってみたらどうだろう。と考えてしまうのは、このアルバムがその可能性の片鱗を見せているからだと思う。
 しかし、ふわふわドリーミーなのは恋愛初期の特色でもあろうから、怒涛のコラボなんてやりだしたら、彼らは突然炎のごとく電撃破局!!! しているかもしれないが。

    ***************

 とはいえ、今年に入って掲載された豪州メディア『TONEDEAF』の記事を読むと、メロディ・プロシェはさらっとこんなことを言っているのだった。
 「次の録音が待ちきれない。とてもハッピーだと思える地点にいるの。だけど、もしケヴィンからインスピレーションをもらえなくなって、彼やPondのメンバーと一緒に仕事できなくなったら、私は同じぐらいインスピレーションをくれる他の誰かを見つけるわ」

 個人的には、今年はStealing SheepやHaimのようなDIY色の濃い女の子バンドにこそ活躍して欲しい。(DIYレトロの括りなら、男の子デュオのFoxygenもクールだし)。
 37年の時を経て再び確認しておけば、DIYとは、自分でやれ。ということである。

Sports-Koide - ele-king

2/13(wed) @CAVE246
2/22(fri) @SOUL玉TOKYO 【B.A.D.Psychedelic】
3/16(sat) @GALAXY 【SLOWMOTION】
3/19(tue/祝前日) @EN-SOF TOKYO【Just Do It !】
6/22(sat) @旧グッゲンハイム邸 【SLOWMOTION】

インディポップチャート


1
cero / わたしのすがた (カクバリズム)

2
片想い / 踊る理由 (カクバリズム)
https://www.youtube.com/watch?v=y5LFv5-xWtU

3
藤井洋平&The VERY Sensitive Citizens of TOKYO / ママのおっぱいちゅーちゅーすって、パパのすねをかじっていたい (FUSHA RECORDS)
https://www.youtube.com/watch?v=E81MpqInSxI

4
あだち麗三郎 / ベルリンブルー
https://www.youtube.com/watch?v=f3O9f95SDc4

5
VIDEOTAPEMUSIC / Slumber Party Girl's Diary (ROSE RECORDS)
https://www.youtube.com/watch?v=5xhDysPUVyo

6
伴瀬朝彦 / 田園都市ソウル (MICROPHONE RECORD)
https://www.youtube.com/watch?v=uu3sBbcfUrE

7
倉林哲也 / kit
https://www.youtube.com/watch?v=A_HZ4XzePKM

8
mmm / 無題 (kiti)
https://www.youtube.com/watch?v=Se5WsIt7wzo

9
NRQ / The Indestructible Beat of NRQ (MY BEST! RECORDS)
https://www.youtube.com/watch?v=2ZBR0ssQ334

10
HESSLE AUDIO / 116 & RISING (hessle audio)
https://www.youtube.com/watch?v=7EcTFcr7Ygg

interview with Michael Gira - ele-king


Swans
The Seer

Young God Records

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 およそ22年ぶりの来日となるので、よほどのベテラン・リスナーでもないかぎり、スワンズの来日公演を観た方は、とくにele-kingの若い読者におかれましては、すくないだろう。一介のオッサンである私でさえそうなのだから。
 あのときスワンズは過渡期にあった。82年の結成以来、『Filth』『Cop』の初期作でノーウェイヴと共振し、ジャンク・ロックの旗頭として、ひしゃげた音塊を打ち鳴らし、押しも押されもせぬアンダーグラウンドの王の地位にあったスワンズは『Greed』(86年)以降、しだいにその殺伐とした音響をスローにひきのばし音の伽藍を築くにいたった。その空間で上演する音楽は儀式というより反・祝祭としての祝祭を思わせる昏い輝きを帯びていた。スワンズの名に、いまでも多くのリスナーが抱くイメージはそれだろう。しかしながらスワンズは不変ではなかった。一貫しながら変わり続けた。80年代の終わり、ビル・ラズウェルのプロデュースでメジャーから出した『The Burning World』など、賛否両論ある作品もあるが、それにしても、彼らが音楽を前に進めようとしてきたことの証にほかならない。やがて90年代に入り、スワンズはスローさに拍車がかかり、ブレーキをかけた機関車が重い車体を引きずるように、97年には活動も停止したが、そのとき表舞台にいたのは80年代末のニューヨークのインディ・シーンで彼らと表裏の関係だったソニック・ユースだった。それから10年あまり、スワンズは、というか、マイケル・ジラは眠っていたわけではなかった。エンジェルズ・オブ・ライトとしてスワンズで未消化だった歌もの路線を探求し、〈Young God〉のオーナーとして、デヴェンドラ・バンハート、アクロン/ファミリーからジェームス・ブラックショウといった、フリーフォークないしはウィアード(weird)な、そしてこの閉塞的な世界で反転した反・祝祭とさえなり得る音楽を送り出してきた。
 それらをひとつに集約するように、スワンズは2010年、『My Father Will Guide Me Up A Rope To The Sky』でふたたび活動を開始したが、2011年3月に予定していた来日公演は東日本大震災で中止になった。今回は2年越しの待望の再来日となるが、その間にスワンズは畢竟の大作『The Seer』をリリースしている。「予言者」「先見者」と題したこの黙示録的なアルバムをひっさげ、一夜かぎり(しかも400人限定!)のステージで何をみせるか、このインタヴューがその先触れとなれば。

スワンズの演奏はどこかスピリチュアルな面での影響力があると僕たちは思うし、同じように感じるひとも観客の中にはいるようだね。例えばタントラ・セックスのように、緊張と開放、つまり自己を失うと同時に発見する感覚なんだ。

復活したスワンズは2年前の3月に22年ぶりの来日公演を予定していいましたが、東日本大震災で延期になりました。そのニュースを耳にされたとき、あなたは最初、どう思われましたか?

マイケル・ジラ:誰もがそうであったと思うけれど、ひどくショックを受けた。悲しく、忘れられないできごとだった。僕たちはそのとき、オーストラリアにいて、ちょうど日本へ出発しようとしていたんだ。それでも行きたいとみな思ったけれど、プロモーターからそれはムリだと説明があった。しかもそのときは災害の規模がどれほどのものであったかを知る前だったしね。そう、ニュースを聞いてとても悲しかったよ。いまの日本の状況はどう? 復興作業は進んでいる?

表面的にはいくらかは進んだのでしょうけど、福島の原発の問題をふくめ、復興というにはほど遠いうえに、それを置き去りにして経済を優先することにしたらしいです。ところで、そのとき、私たちには復活したスワンズの音としては『My Father Will Guide Me Up A Rope To The Sky』だけでしたが、昨年の『The Seer』を聴いて、スワンズの音がさらに進化/深化していることに驚きました。この2作の間にバンドに訪れたもっと顕著な変化は何だったのでしょう?

マイケル・ジラ:それは一年間のツアーを経験したことだね。ライヴでの演奏を通して、音が変わっていったんだ。『The Seer』の曲も、演奏を繰り返すうちにずいぶん変化した。

自然に変化していったということですね。

マイケル・ジラ:そう、行ったり来たり。試行錯誤で、僕の場合メンバーをなだめながらやっていく必要もあった。良くも悪くも僕はバンド・リーダーだからね。ときには喜びと怒りでバンドに大声を出すことだってある。まさにライヴの作業だ。そうやって奮闘しているうちに少なくとも僕たちにとっては最高だと感じられるものができて、そのときやっと頂点に辿り着いたと実感できるんだ。

僕はミュージシャンとして正式な訓練を受けたわけでもないし作曲家でもないから、すべて直感で仕事をしている。そして何ごとも恐れず、ひとつの映画を制作するまでの映画作家のように試行錯誤しながら作業をする。

前作『My Father Will Guide Me Up A Rope To The Sky』もそうですが、『The Seer』には何らかの宗教的な主題が込められていると思われます。私たち日本人はからずしもすべての人間がそうであるとはかぎりませんが、宗教的に「曖昧」であり、スワンズの言葉の信仰的および背徳的な面がわかりにくいところもあります。今回、あたなは『The Seer』にどのようなコンセプトをもたせたのか、詳しく教えてください。

マイケル・ジラ:日本人にとって特別わかりがたいとは思わない。僕はあまり言葉のコンテンツについて語るのは好きじゃない。なぜなら誰もが自由にそれぞれの想像力を働かせ、何かを経験する機会を持つべきだと思うから。曲のコンテンツについて語ってしまうと、まるで大学の試験にでも答えるかのように終わってしまう。そういう意味ですべてを解放したままでいたい。音楽のスピリチュアルな面については、僕は特定の宗教に属しているわけではない。けれど、スワンズの演奏はどこかスピリチュアルな面での影響力があると僕たちは思うし、同じように感じるひとも観客の中にはいるようだね。例えばタントラ・セックスのように、緊張と開放、つまり自己を失うと同時に発見する感覚なんだ。それが僕たちが興味をもっていることのひとつ。日本の仏教の禅宗や瞑想にも通じるところがあるんじゃないかな? 自己を深く認識するのと同時に、すべてを解き放す感覚なんだ。

『The Seer』は2枚組2時間におよぶ大作(DVD付き3枚組もある)ですが、音楽作品のトレンドがLPサイズになってきている思しき昨今、このような作品をリリースすることに、レーベル・オーナーとしても、ためらいはありませんでしたか? 私は『The Seer』には一瞬たりとも退屈は瞬間はないと思いましたが。

マイケル・ジラ:(キッパリと)ためらいはまったくなかった。なぜなら僕はもうそういうことを気にしていないから。ひとがどう思おうが関係ないんだ。もちろん僕だって生きていくためにはレコードを売らなくてはいけないけど、僕と僕の仲間は音楽が導くところに迷いなく進もうと決めていた。このレコードの制作を始めたときも色々と録音し、僕がそれらを膨らませたり、アレンジしたりするうちに最初に録音したものが成長していったんだ。その時は4枚くらいのCDで4時間くらいの長さになるかと思っていたよ。結果的に2時間に収まったけれど、別に特別なフォーマットに収めようとムリしたのではなく、たまたま3枚のCD、2つのLPであったということ。とりあえずサウンドが誘導するところへ進んでいき、どうやってリスナーにそれを提供するかは後で考える。すでにもう一枚アルバムを制作できるくらいの素材があるけれど、それがどんな形になるかはまったくわからない。

『The Seer』の"The Seer""A Piece Of The Sky""Apostate"などは組曲的な構成ですが、これらの曲はどのような構想のもと生まれたのでしょう? またレコーディングでは、これらの曲は即興的な要素も含むライヴな手法で録音されたのでしょうか? スコア的なものに基づき、厳密に構成されているのでしょうか?

マイケル・ジラ:直感で構成していく。ほとんどがまずアコーステックギターから始まる。"The Seer" のように規模の大きい、長い曲もそう。バンド・メンバーと仕事をしていくうちに、だんだん成長し、新しい姿が形成されていく。誰かが僕をワクワクさせることをやった瞬間にはそれを追究してみて、それが新しいセクションになったりね。反対に誰かが僕の気に入らないことをすれば、それはカットしようと話す。すべてがそんな感じに育成されていくんだ。核となるミュージシャンたちと基本的な録音が終わった時点で、僕のいわゆるレコード・プロデユーサーという役割がはじまる。曲に何が必要かを想像して、たとえば曲そのものだけではなく、イントロダクションが必要だと判断したりする。"A Piece of the Sky" はまさにそうだった。曲の前半は僕と僕の友人たちが自然に曲を形成、そしてレコーディングして、後半部分に実際のバンド・メンバーが加わったんだ。僕はミュージシャンとして正式な訓練を受けたわけでもないし作曲家でもないから、すべて直感で仕事をしている。そして何ごとも恐れず、ひとつの映画を制作するまでの映画作家のように試行錯誤しながら作業をする。

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もちろんいまも昔もドローンやトーン・クラスターなどに惹かれるけれど、僕にとにかくコード チェンジは気が散ってしょうがないんだ。正直なところ、コードを一回チェンジするのだって気が散ることがある。


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サウンド面についてお訊きします。新生スワンズは通常のロック・バンドのスタイルに加え、ハンマー・ダルシマーやオーケストラ・ベル、ラップ・スティール、そのほか多楽器主義的な編成になっています。スワンズがこのようなスタイルをもつに至った経緯を教えてください。

マイケル・ジラ:友人たちがたまたま演奏している楽器だから取り入れたまでだよ(笑)。でも、特にハンマー・ダルシマーは、開放的な余韻がとても気に入っているし、ベルも同じだよ。どのようにレコードを編成していくかについては、スワンズの基本的なメンバーが演奏を終了してから、その曲が何を必要としているかを想像して、メンバーに声をかけるんだ。ときには楽器ではなくある特定の人物を思い描くこともある。この曲はビル(Bill Rieflin/ビル・リーフリン Honorary Swanとクレジットされているサイド・メンバー。元ミニストリーのマルチ・インストゥルメンタリスト)が必要だ、とかね。僕の親友のビルはこのレコードでおよそ十はくだらない楽器を演奏している。まだ彼がなにも聴いていないうちにスタジオへ飛行機できてもらって、そのときあるがままの曲を聴かせてどう思うかと訪ねてみた。すると彼はじゃあここはピアノの演奏を入れようとか、ここはベースを入れようとか何かしら提案するんだ。でも、すばらしい感受性を持っている彼の存在自体が大切で、僕は彼がどのように演奏しようとかまわなかった。ときには歌ってもくれたしね。

2000年代にアメリカのアンダーグラウンドで盛り上がったドローンはスワンズを雛形にしている部分があると思いました。この意見についてどう思われますか? またドローン、あるいはトーン・クラスター的な音響手法はスワンズにとって重要なものでしょうか?

マイケル・ジラ:たしかに雛形になっている部分はあるかもしれないけれど、審美的、または知的な意味では違う。もちろんいまも昔もドローンやトーン・クラスターなどに惹かれるけれど、僕にとにかくコード チェンジは気が散ってしょうがないんだ。正直なところ、コードを一回チェンジするのだって気が散ることがある。でも、きみが気づいてくれているようにひとつのサウンドは沢山のニュアンスと無限の可能性を秘めている。だからひとつの音をただ持続させているのではなく、僕たちのサウンドには常に動きがある。それは様々な楽器や、モジュレーションを駆使しているからだ。いつも何かが変化している。リズムが変化している。そういう方法をとったほうが効果的に波にのることができると思うんだ。

私はあなたが「The Quietus」というサイトに発表した、13枚のお気に入りのアルバムを拝見しました。ストゥージズ、ドアーズ、ボブ・ディラン、マイルス・デイヴィスらの作品に混じって、そのなかに、ヘンリク・グレツキ、アルヴォ・ペルトというふたりの作曲家の作品をみつけましたが、彼らがともに東欧系であるのは偶然でしょうか? あるいは、たとえば、バルトーク・ベラのような東欧的な作風に何か惹かれるポイントがあるのでしょうか?

マイケル・ジラ:ああ、あれは良いウェブ・サイトだね。そうだな、たぶん惹かれるところがあるんだと思う。昨夜ペンデレツキを聴いていたんだけれど、あれはとてつもない。ああいった感情に極限的なインパクトを与える音楽を好む傾向があるんだろうね。ひとはそれを音楽の暗い面というかもしれないけれど、僕はちっとも暗いと思はない。ただただ感動的だと思う。グレツキの"交響曲第2番"をはじめて聴いたとき、スワンズのサウンドにそっくりだと思ったんだ。でも彼は作曲家だから、もっとサウンドにバリエーションがある。それにあの曲はグレツキの作品の多くがそうであるように、最初はまるで世界の終わりを思い起こさせるようだけど、次第にとても穏やかで美しいものへと流れていく。彼の"交響曲第3番"を聴いたことがあるなら、とても美しい曲だとわかるだろう。あれはなぜか80年代に彼のポップ・ヒットとでもいえるようなものになっていたよね。とにかく、そういったサウンドに惹かれるのはたしかだ。

イスラエルに滞在していたとき、僕のヒッピー仲間が相当な量のハシシを残していった。バカでナイーブだった僕はエルサレムの地元のホステルでそれを売ろうとして、そこを現行犯で警察に捕まって、結果的に3ヶ月半拘留された。

スワンズ、エンジェルズ・オブ・ライト、あなたのソロ名義や〈Young God〉のヴィジュアル・アートワークは印象に残るものが多いのですが、『The Seer』のジャケットを手がけたサイモン・ヘンウッドや過去の作品の多くを手がけたデーリック・トーマスなど、彼らペインターとの関係性と作品に対する思い、またアート・ディレクターとしてのあなたのヴィジュアル・アートワークに対するこだわりを教えてください。

マイケル・ジラ:彼らは僕の友人。サイモンのアートは大好きだよ。ここ数年彼の作品はものすごく成長しているけれど、あらためてなんといったらいいかは......わからないな(笑)。僕は近日行われる彼の結婚式でベストマン(花婿の付添人)を務めるんだから。彼は僕の友人で、彼の仕事が僕は大好きだ。デーリックも僕の良い友だちだけれど、サイモンほどは親しくないかな。彼はちょっとしたアウトサイダーなんだ。アーテイストとして訓練も受けているけれど、アートの世界にはまったく従事していない。彼はブロードモア精神病院で患者にアートを教えているんだ。僕にとって彼はウォルト・デイズニーとヒエロニムス・ボスを組み合わせたような人間だね。

アートワークについてのこだわりはどうでしょう?

マイケル・ジラ:特にこだわりはないよ。でも、良いセンスは持っていると思う。通常イコン的な画像を探すけど、シニカルなことをいうとその作業も一種のブランド化だからね。明確かつ簡潔、即時に目がいくような画像をとにかく中央に配置するようにしている。レーベルとスワンズ両方にとってしっくりくる画像を探すんだ。

ウロおぼえなので勘違いであればお許しください。その昔、あなたのインタヴューで読んだ気がするのですが、あなたがローティーンの頃にヨーロッパをヒッチハイカーとして旅していて最終的にイスラエルでハシシを売った罪で半年も拘留されていたというのは本当ですか? この場をかりてあなたの少年時代の話を是非ともおききしたいです。

マイケル・ジラ:ほぼ本当だよ。子どもころ、家出したんだ。14~15歳だったかな。そのとき僕はドイツにいた。ヒッチハイクしながらヨーロッパを横断し、ユーゴスロビアからギリシャ、そこからトルコに渡った。イスタンブールに何週間か滞在していたんだけれど、お金が底をついてきて、そのころ僕と僕のヒッピー仲間たちが仕事を見つけられるようなところといったらイスラエルだったんだ。だからイスラエルへ彼らと行き、そこでしばらくいっしょに過ごした後、彼らが去って行くときに相当な量のハシシを僕に残していった。バカでナイーブだった僕はエルサレムの地元のホステルでそれを売ろうとして、そこを現行犯で警察に捕まって、結果的に3ヶ月半拘留された。でもイスラエルはトルコと違うし、もちろん恐ろしいことも目撃したし自分の世界観が変わるようなできごともあったけれど、それでもまあイスタンブール刑務所にいれられていたわけじゃないからまだ良かった。拘留されているときに学んだこともある。ひとの行き来が多少あったので独房とまではいかなかったけど、ひとりでいる時間がかなりあって時間というものの大切さと必要性について考えるようになったんだ。機械的な賃金奴隷のような生活に屈服せず、いかに自分の時間を想像力豊かな方法で活用することが大切か分かったんだ。もちろん、僕を含むどんなひとにとってもそうすることが難しいのはある程度は仕方がない。刑務所にいるときは刺激というものがとても制限されるから、とにかくその部屋にいる自分の体に意識が集中して、ときにはためになり、ときには気が狂ってしまいそうだった。ひとつよかったのはたくさん本を読むようになったこと。そういう意味で僕を助けてくれた経験でもあるね。

エンジェルズ・オブ・ライトのリリックはわりと物語的なのに対してスワンズは過去も現在も非常にシンプルな散文詩を唄っているように思われます。その象徴的な言葉を使いはスワンズの名を冠して活動することに対しての重要な要素でしょうか? また、そうであれば過去と現在のスワンズではリリックを書き上げるインスピレーションはどのように変化していますか?

マイケル・ジラ:正直なところ、まだ曲を書けること自体がありがたい。たくさんの曲を書いてきたからかもしれないけど、昔に比べて曲を書くのが難しくなってきた。それにとても忙しくて、刺激になるようなことに費やす時間がない。本を読んだり、映画をみたり、イマジネーションを活性化させる時間がないんだ。でも、スワンズの言葉がどう違うかといえば、断定的ではなくあくまでも一般的に、音楽が襲いかかるように盛り上がってしだいに強くなっていくとき、物語的なリリックを導入するとなんだかがっかりするし、音楽が小さく聴こえてしまうだろう? そういったリリックはなぜか歌い手が中心となってしまうしね。そうではなく、音楽にもう一層積み重ね、聴き手が抱く疑問に答えなくともイマジネーションを活性化させるイメージやフレーズを探すんだ。大きな曲の上に物語を語ろうとすると、音楽が小さく聴こえてしまう。そういう意味でゴスペル音楽に共感するところがある。ゴスペル音楽がどんどん登り詰めていき、最後には同じフレーズを連呼するあの感覚。あれに似たアプローチなんだ。

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もう昔のスワンズの形態には戻りたくないんだ。この新しい形で進んでいきたい。


Swans
The Seer

Young God Records

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私は〈Young God〉Recordsの多くのリリースに魅了されてきたのですが、あなたのプロジェクト以外で今後も新たなバンドのリリースは予定しているでしょうか?

マイケル・ジラ:今のところないな。しばらくはないと思う。スワンズの活動で忙しいから、レーベルの他のアーテイストに時間を費やすことができないし、音楽業界の経済状勢もご存知の通りだからね。残念だけど、あまり有利な仕事とはもういえないかもしれないね。

デヴェンドラ・バンハート、アクロン/ファミリーなどのアーティストから、あなたが影響を受けたことがあるとすれば、それは何ですか?

マイケル・ジラ:特にないな。でも、いろんな意味でインスピレーションを受けた。おもに彼らの魔法のような独創力、それに彼らの若さとやる気にね。いまは彼らも年を取ってしまったからそうでもないかもしれないけれど(笑)、シニカルなところが一切なく、音楽をつくってレコーディングすることを心から愛しているひとたちと仕事をすることは当時とてもインスピレーションを受けた。もちろん、いまあげたアーテイストたちは非常に才能があったし賢い人たちだったから、とても価値ある経験だったよ。

『The Seer』には、前作にひきつづき参加したマーキュリー・レヴのグラスホッパーのほかにも、ヤー・ヤー・ヤーズのカレン・O、ロウのアラン・スパーホウクとミミ・パーカーなどが参加しています。彼らが参加した経緯を教えてください。またスワンズの子どもたちともいえるミュージシャンが活躍する現状を、結成から30年経ったいま、あらためてふりかえって、どう思われますか?

マイケル・ジラ:先ほど話した通り、僕はレコード プロデユーサーなので音楽を客観的に見るように心がけているんだ。自分の作品だからうまくいってないかもしれないけど。スワンズの基本メンバーと僕以外の人材が必要だと思ったときは、彼らを招くようにしている。例えば、僕は"Song For A Warrior"を歌っているとき、自分の声がひどいと思ったんだよ。曲にまったく合っていない。良い曲だと思ったけれど、僕の声ではダメだった。この曲はある意味、僕の6歳半の幼い娘に向けたラヴレターであって、つまり僕が死んだ後娘に聴いてほしい曲なんだ。だから他のひと、あるいはどこか母性的な声の持ち主に歌ってほしかった。ソロで歌っているときのカレンの声は本当に温かくセンシュアル、セクシーではなくてセンシュアルな歌声だと思うんだよ。彼女ならぴったりだと思ったから歌うのをOKしてくれたときはとてもうれしかった。アランやミミもいうまでもなくすばらしい。彼らは造物主との直接的な繋がりがあるんじゃないかと思うほどだよ。アランは何年も知り合いだし、彼は僕が住んでいるここニューヨーク州北部の近所に住んでいるんだ。スワンズの子どもたちについては、彼らが心から愛していることを仕事にし、生活できているのを見るのはとても幸せだよ。おかしいけど、デヴェンドラに初めて逢ったとき、彼は文無しだったんだ。家もない状態だったけれど、一年、一年半経たないうちにミュージシャンとしてある程度の生活を維持できるようになって、それを見ているのはとてもうれしいことだったよ。

ジャーボーは『The Seer』にゲスト参加していますが、ライヴで共演することはないのでしょうか?

マイケル・ジラ:たぶんないな。ゲスト参加してくれたのはうれしかったけれど、もう昔のスワンズの形態には戻りたくないんだ。この新しい形で進んでいきたい。

ジャーボーといって思いだしたのですが、あたなと彼女はかつてスキンというユニットをやってましたよね? 「スキン」というのは、あなたの作品に頻出する単語でもあります。これはある種の身体と境界を意味すると思いますが、あなたはこの言葉に何を託されていますか?

マイケル・ジラ:フハハハ。僕は、Skin は脱ぎさる(脱皮する)ものだと強く信じているんだ。

現在のアメリカ政府の社会保障政策、とくに医療保険改革、銃規制に、あたなは賛成ですか反対ですか?

マイケル・ジラ:僕は(U2の)ボノではないから演説する気はいっさいないけど、個人的な意見としては、われわれは北欧をモデルとした社会主義を目指すべきだと思う。より穏健な世界へ繋がる道は、一種のリベラルな社会主義であると思う。この場でたしかなことはいえないが、(アメリカには)たぶん希望は持てないだろう。われわれは彼らほど聡明でないし、確実に国としての統一性(団結)もないからね。

オリジナルメンバーであるハリー・クロスビー氏に、心よりご冥福をお祈りいたします。何か彼との印象的な思い出があればお聞かせください。

マイケル・ジラ:ハリーには20年もの間逢っていなかったけれど、印象的な思い出といえばこの間ジャーボーも話していたことがある。ハリーはスワンズが活動しはじめたころはものすごい酒飲みで、メンバー全員そうだったけど彼はとくに過激でたくましい人間だった。80年代マンハッタンのアルファベット・シテイと呼ばれていた地域のアパートにいっしょに住んでいたころの話。ジャーボーと僕はベッド・ルームにいたんだけれど、廊下からものすごい音がしたと思うと、ドアが閉まって何かがぶつかる音がしたんだ。そのころ、近所には焼き尽くされた車があちらこちら路上に乗り捨てられていて、酔っぱらったハリーは笑いながら車の前方を取り外し、頭の上に持ち上げたままそれをアパートに持ってきて自分の部屋に放り投げたんだ。その後彼は酔いつぶれて、次の日目が覚めると「あれはなんだ?」と。ハリーは怪力だったから、なんだかムシャクシャしていたのかわからないけれど、あるとき酔っぱらって道路のマンホールカバーを持ち上げて窓に放り投げたこともあったよ。しかし同時に彼はとても知的なヤツで、賢いとても頭が切れて話し上手だった。よく移動中のバンの中でみんなでワード・ゲームをしたんだけれど、いつも彼が勝ってたのを憶えているよ。

あたながいまもっとも大切だと思うもの/ことは何ですか?

マイケル・ジラ:それはちょっと個人的な質問だけど、もちろん音楽と僕の子どもたちだよ。

2月19日の日本公演を楽しみにしております。来日公演にかける意気込みをお聞かせください。

マイケル・ジラ:日本に行くのがとても楽しみだ。最後に訪れたのはたしか20年前だったかな? ショウは独自の命をもっているから、あえて日本に合わせられるかはわからないけど、演奏する僕らと同じように、観客のみんなも純粋に心を動かされるショウになることを願っているよ。(了)

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