「K A R Y Y N」と一致するもの

Ryuichi Sakamoto, Taylor Deupree, Illuha. - ele-king

 2月、坂本龍一、テイラー・デュプリー、イルハ(伊達伯欣+コーリー・フラー)の共作が〈12K〉よりリリースされる。
 これは、2013年の7月、山口県のYCAMホワイエにて坂本龍一をディレクターに迎えて開催された「アートと環境の未来・山口 YCAM10周年記念祭」におけるライヴ音源。

 以下、〈12K〉のレーベル・サイトから。

 「糧や会話や探求のためにアーティストたちはコンサートの日々に集った。有意義で、打ち解けた情調があり、彼を共演へと導いていった。ピアノ、ギター、パンプオルガンやシンセサイザーによる即興演奏は結果的にアーティストたちに深いところで影響をもたらしたのだった。
 4人はそれまで一度も共演したことがなかったが、徐々に彼らを取り巻いた節度や聴力のレヴェルにあっけを取られてしまった。息をのむほどの静寂に腰をおろしたオーディンスたち。音楽は7月の空気に満ちた束の間の休息を彼らに与える。
 最後に奏でられた静かな一音が暗闇に消え入るとき、アーティストたちは自らが深い旅に出ていたのだと気づくのだった。このような瞬間が捉えられたときこそ幸運な出来事であり、コンサートはまさにそうであった(その様子は良質なDSDによって録音された)。
 不変で齢を重ねることとは無縁な音楽の性質を指す永久性が、シンセサイザーや加工されたギターにはじまり、開放的で空気感のあるプリペアド・ピアノと無音の連続性や、果ては寂寥なピアノ、ひび割れた既製品やフィールド・レコーディングの音声、そして霧のように宙に浮遊する音による、限りなく忘れがたい繊細な子守り歌の緩やかな層を横断する3楽章に存している。
 永久性とは我々と時間の伸張を囲い込むだけではなく、単一の記憶や、時間が静止し4人の音楽家が合一する刹那の記録への広がりをも包括するのである」

Ryuichi Sakamoto, Taylor Deupree, Illha
Perpetual
12k


以下、イルハからのコメントです。

「この日の演奏は、坂本さんのプリペアドピアノ、テイラーがモジュラーシンセ、僕らはパンプオルガンとギターを中心にコンタクトマイクなどで坂本さんの音をプロセッシングしたりしました。
 演奏前の二日間も演奏者でゆっくり食事ができ、企画のタッツを始め、YCAMスタッフも素晴らしく、良い演奏に繋がりました。
音源を聴いて改めて驚かされたのはPAのzAkさんのミックスと音質の良さです。当日はテイラーとILULHAのトリオの演奏の後に、数十秒のインターバルを挟んで坂本さんとのカルテットでしたが、音楽的な連続性があったので1曲にしました。各チャンネルごとの録音もあったのですが、結局zAkさんの2mixを使うことになりました。
 山口という場所に、あれだけの施設があるということは不思議なことですが、山口だからこそYCAMが存在しているんだと思います。
またいつか演奏出来たらと思っています」 ── ILLUHA

※なお、TaylorDeupree, ILLUHAの参加したStephan Mathieu, Federico Durandとのツアー音源が ハイレゾで1ヶ月限定で以下で販売されている。 https://kualauktable.limitedrun.com/

映像をBaconが、音楽はRezzettが再編集! - ele-king

 スケートシング、トビー・フェルトウェルらによる東京発のアパレル・ブランド〈C.E〉より2015 Spring/Summerのルックムービーが公開された。

 これは、昨年末〈Tokyo Fashion Week VERSUS TOKYO〉にて披露されたプレゼンテーションの模様を俯瞰カメラでシュートし、このルックムービー用にBacon(足下から視界までコントロールする方々)が映像をエディット。

 そして、当日もライヴをこなしたRezzett(英国より現れた謎に満ちたニューカマー、しかし一聴してソレとわかる電子音を司る2人組)によって新たにマスタリングを施された内容は一見の価値あり。もちろん当日のライヴ音源を使用している。

 ムービー公開に合わせて、今回もニューヨークのSplay/がC.Eのウェブサイト・リニューアルを担当(www.cavempt.com)。
 New York / London / Tokyoと張り巡らされるC.Eネットワークが、オンライン上にて結実した世界は2015年も増殖膨張をつづける。

Rae Sremmurd - ele-king

 2014年を12インチ・シングルで振り返ろうと思ったらニッキー・ミナージュ「アナコンダ」は配信しかなかった。前作『ローマン・リローデッド』(2012年)はつまんねーアルバムだったけど、「ビーズ・イン・ザ・トラップ」はチョー好みだったので、これだけでも12インチがあればなーと思っていたのに、ジェイ・Z『ブループリント』へのアンサーだったという『ピンクプリント』からの先行ヒットまで12インチがないとは……。USヒップホップとの距離が遠ざかるわけだよなー。二木もぜんぜん原稿、書かないしなー(最近、顔見ないけど、また留置場にいるのかなー)。

 こうなったら意地でも12インチで切ってほしい2015年のUSヒップホップを先に探し出すしかありません。そしてこうして……出会ったのがイアー・ドラマーズを逆から読んだレイ・シュリマー(Rae Sremmurd)による「アンロック・ザ・スワッグ」。これは絶対に切られないでしょう。

 ミシシッピ出身、現在はトラップを生み出したアトランタからいささかクリシェに聞こえる「ノー・フレックス・ゾーン」のヒットで注目を集めたスウェイ・リーとスリム・ジミーのデビュー・アルバムは“マイX”や“アップ・ライク・トランプ”など、野々村竜太郎の号泣釈明会見を思わせるヘンな溜めのあるラップがちょっと癖になる。トラップとしてはそんなにヒネりはないのかもしれないけれど、アクセントを最初に置くか、どこにもアクセントを置かずに全体をフラットにしようとするフローとはちがって、ドレミファソファミレのような音階をつけてラップするときがだんぜんおもしろい。それだけなんですけどね(半分以上は普通)。この兄弟に関して「声変わりしないでほしい」というコメントをいくつか見かけましたけど、19歳と20歳なので、もう声変わりはしないと思うんだけど……(“スロウ・サム・モー”にはニッキー・ミナージュも参加)。

 フローがおもしろいといえば、1年前に……新人にもかかわらず、すでに3000万人もこれを見ているとは……

 やっぱり、これはなにかの勘違いなんだろうか。2014年は再発の帝王と化したルイス(Lewis Baloue)のラップ・ヴァージョンといいたいところだけど、時代がちがうとはいえ、本人が真面目なのは同じだろうし。しかも、自分でコメント欄に「僕、まだ生きてる?」と書いて500もリプがある。これを読む勇気はないなー。日本のおたくもかつてのように、もっと気持ち悪くならないといけないのではとさえ思う。

 勘違いといえばナズの変名だと思われて一気に知名度を上げてしまったのがユア・オールド・ドルーグ。コニーアイランド出身で、本人に取材を敢行した人たちが相次いで「ナズではなかった!」とリポートするほど声が似ている。曲が似ていると犯罪になってしまうこともあるけれど、声は……う~ん。

 ポスト・モータウンでは最高の瞬間といえるシルヴィア&モーメンツ(誰かアナログ再発してくださいよ)をサンプリングした“U47”など70年代のサンプリングが多いのかな(?)、サウスに漲る緊張感がまったくない生硬な14曲を聴かせる。それにしても、まったりしてしまう……。正月気分に引き戻される……。戻りたい……あの頃(20日ぐらい前)に……。

 最後に、もう1曲。この展開は誰も予想できないっしょ。

声の束、光の束 - ele-king

 2006年、『サングイン(Sanguine)』がもたらした清新な驚き、そして、やがてめぐってくるアンビエントの一大潮流を予見するかのようなたたずまいは、いまもなお鮮やかに記憶されている。あれから知らぬうちに時が経っているが、彼女の方法論にはさして大きな転換もなく、かといってまったく古びない。トレンドではなく彼女自身の固有性として、その方法がいかに際立ち、インパクトのあるものであったか、いまさらにして認識を深めさせられる。バーウィックの音楽を教会という願ってもない環境で聴ける(東京公演)という来日公演の意趣に敬意を表するとともに、10年代のインディ・ミュージック最高の存在のひとつとしてぜひとも目撃したい。
 売れ行き好調とのことなので、お急ぎを。

■FOUNDLAND feat. Julianna Barwick
https://foundland.us/archives/956

1/23(金)
東京・品川教会グローリア・チャペル(品川区北品川4-7-40)
adv./door 4,000/4,500yen
open 18:00/start 19:00
w. 石橋英子
shop: Linus Records
ご予約・お問い合わせ:FOUNDLAND

1/24(土)
新潟・新潟県政記念館(新潟市中央区一番堀通町3-3)*SOLD OUT!
adv./door 3,500/4,000yen(県外3,000yen/18歳以下無料)
open: 16:30 / start 17:00
w.福島諭+濱地潤一、青葉市子
ご予約・お問い合わせ:experimental rooms
*現在新潟公演は定員のため、ご予約受付を終了しております。たくさんのご予約ありがとうございました。

1/25(日)
神戸・旧グッゲンハイム邸(神戸市垂水区塩屋町3-5-17)
adv./door 3,500/4,000yen
open 17:30/start 18:00
w. Cuushe
ご予約・お問い合わせ:FOUNDLAND

1/26(月)
大阪・島之内教会(大阪市中央区東心斎橋1-6-7)
adv./door 3,500/4,000yen
open 18:30/start 19:00
ご予約・お問い合わせ:FOUNDLAND

前売メール予約:件名を「FOUNDLAND vol.22」とし、
本文に「お名前/人数/希望公演日/ご連絡先」を記入の上、foundlandjp(at)gmail.comまでメールをご送信ください。
メールの返信をもってご予約とさせていただきます。
3日以内に返信が無かった場合、恐れ入りますが、ご再送をお願いいたします。


あらべぇ - ele-king

去年よく聴いてた10作品

去年よく聴いてた10作品です。順不同です。
ちなみに、去年のベストレーベル(?)は「psalmus diuersae」です。(僕も密かにゴニョゴニョ……)
https://soundcloud.com/wlowlodub

“告知です”
2/8に恵比寿のKATAにてD/P/I(Alex Gray)の来日公演があります。僕はDJさせていただきます。ぜひ!
https://www.kata-gallery.net/events/BONDAID4/

interview with Sherwood & Pinch - ele-king


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

0N-U SOUND / TECTONIC / ビート

DubWorldBass MusicSoulReggae

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 『レイト・ナイト・エンドレス』には姿勢がある。音楽は、時代と関連づけて語られるものであると同時に、何度も繰り返し体験できる楽しみなのだ。ふたりのベース探求者は、アルバムを通して、そう主張している。
 実際、これはクオリティの高いアルバムだ。話題性のみで終わらせないぞと、意地でも良い作品にするんだという気概を感じる。ヴァリエーションも豊かで、ロマンティックな側面もある。以下のインタヴューで本人たちが言っているように、これは、「クラブとリヴィングを繋げる音楽」だ。

 簡単に、ふたりの紹介をしておこう。
 エイドリアン・シャーウッドという人物の名前は、少なくとも5年音楽を聴いたら覚えることになる。それほど彼は、コンスタントに、ポストパンク時代から延々と、スタジオの卓の前に座って、フェーダーやつまみをいじりながらダブ・ミキシングをし続けている。
 音の電気的な加工、あるいはミックスを変えることがひとつの創造行為として広く認識される前から、彼はその技術をジャマイカの一流ミュージシャンに囲まれながら磨いてきた。ジャマイカ大衆音楽、すなわちレゲエは、音のバランスにおいてベースの音量を上げたことで知られている。ことレゲエから派生したダブは、ベース・ミュージックという言葉が生まれる前からの低音の音楽で、ベースの扱いに関しては歴史があり、研究の成果がある。
 シャーウッドは〈On-U Sound〉という主にレゲエ/ダブを出しているレーベルの主宰者としても知られている。いまでこそ白人や日本人がレゲエ/ダブをやったところで文句を言われることはないが、シャーウッドが活動をしはじめた時代は、白人が関わっているだけでレゲエ・ファンから「偽物」と言われていた時代だった。つまり、文化的な観点においても、シャーウッドは先駆者のひとりである。

 いっぽうのピンチ(ロバート・エリス)は、ダブステップ世代を代表するDJ/プロデューサー。人気と実力を兼ね備えたひとりだ。〈Tectonic〉を主宰し、最近では新レーベルの〈コールド〉が話題になった。ちなみに、ピンチがブリストルに生まれた1980年は、シャーウッドが〈On-U Sound〉をスタートさせた年でもある。それは、1958年生まれのシャーウッドが22歳の年で、彼が初期ブリストル・シーンのゴッドファーザー、マーク・スチュワートらと交流をはじめた頃だ。

 まさに親子ほど年が離れ、世代の異なるふたりだが、『レイト・ナイト・エンドレス』には、しっかりそれぞれの長所が出ている。ダブステップ系のグルーヴもあれば、いかにもシャーウッドらしいダブの宇宙とルーツの香気も広がっている。ふたりの調和が取れているのだ。
 それは時代の風向きとも合っている。細分化するダブステップ以降のダンス・ミュージック/商業化されたレイヴ全盛の現代において、足元を見つめる慎重なプロデューサーたちは、自分たちの立ち帰る場所を求めている。ある者はハウスへ、ある者はテクノへ、ある者はジャングルへ、そしてある者はダブへと向かっている。ハウスが来ているように、長いあいだ埃をかぶっていたダブもいま、たしかに来ているのだ。
 が、まあとにかく、今作においてなによりも重要なのは、この作品を家で聴いたときに気分良くなれること。アルバムのなかばあたりのメロウな雰囲気は、とくに素晴らしい。
 力作と呼ぶに相応しい作品を完成させたふたりに、昨年末、スカイプで取材した。

“ムード”を描写してるんだ。このレコードを聴いたら、真夜中のダンスやまったりした雰囲気、そういうのが延々と続くようなムードが反映されてるのがわかると思う。だよな?

通訳:こんにちは。今日は宜しくお願いします。

ピンチ(以下、P):こちらこそ。いま、エイドリアンを呼ぶから待ってね。(スカイプで招待)

エイドリアン・シャーウッド(以下、A):ハロー!

通訳:部屋のクリスマス・デコレーションが素敵ですね。(※取材は昨年のクリスマス前におこなわれた)

A:娘が飾ってくれたんだ。いいだろ?

P:ツリーも光ってるしね。

さっそくいくつか質問させて下さい。「Music Killer」のスリーヴアートは誰のアイデアだったんですか? あのキミドリのスマイリー(の逆の表情)ですが。

P:あれはスポティファイ(※欧米では有名だが、インディ・シーンでは不評の配信サービス)のマークをイメージしたんだ。周りはあんまり気に入ってなかったけどな……

A:でも俺たちは気に入ったから使うことにしたんだ。

P:だね。アンハッピーなスポティファイ・フェイス。

A:ロブとチャットしてて……

P:で、その会話の中であのアイディアが出て来たんだ。

A:そうそう。

P:俺は面白いと思ったんだよね。

A:基本、俺はスポティファイとかそういったものが好きじゃないんだ。それを表現したのがあのマークなんだよ。

P:当時、スポティファイが話題になってたからね。まあ、スポティファイはスポティファイ。好きな人はそれでいいとは思うけど。

通訳:日本って、まだスポティファイがそこまで普及してないんですよ。

A:それはいい。さすが日本だ。先進国だからスポティファイがないのさ(笑)。日本人はいまだにCDやヴァイナルを買うし。

P:デジタル時代になって、音楽は使い捨てになってきてしまってるからね。危険だと思う。CDやヴァイナルを買えば、それを聴こうとする気持ちが強くなると思うんだ。デジタルだと、音楽のチョイスが無限になってしまう。でも形として手元にあれば、それをもっと聴こうとするんじゃないかな。

A:最近は情報が飛び交いすぎてる。音楽もそうだし、だからハイプがすごいんだ。もう誰を信用していいのかわからない。昔はレコード店に行ってオススメを聞いたりしてたのにね。他のアーティストとの交流も前より減ったと思う。俺はプロモーションのために流された情報は信じたくないし、そういういまの時代だからこそ、人の信頼を得ることが大切だと思ってるんだ。ロブと俺のCDは信用できる内容だよ。是非聴いて欲しいね。

『Late Night Endless』というタイトルは、ふたりのセッションのことを喩えているんですか? それとも、この音楽の性質のようなものを表しているのですか?

A:あれは、“ムード”を描写してるんだ。このレコードを聴いたら、真夜中のダンスやまったりした雰囲気、そういうのが延々と続くようなムードが反映されてるのがわかると思う。だよな?

P:だね。本当にそう。あと、俺が音楽を作るのも大抵深夜だし。

通訳:クリエイティヴ・タイムってよくいいますもんね。

P:静かでピースフルだからね。メールを返さなくてもいいし、電話もならないし。夜中って好きなんだ。そういう時間だとマジックも生まれやすいし。

A:このレコードを作ったときも、深夜の作業が多かったよな。

通訳:作業はどうでした?

A:かなり楽しかったよ。自分たちの創造力を探求したんだ。そこからマジックが生まれたし、いつもと違うムードで作れたのがよかったね。

通訳:ロブ、あなたはどうですか?

P:エイドリアンと夜中の2時とか3時まで作業するのは楽しかった。作業する度にどんどん楽しくなっていったんだ。

先に出たふたつのシングルがわりとダブステップ(ベース系)のマナーで作られていましたが、今回のアルバムで予想以上に音楽性が幅広くて驚きました。ピンチにしたらフロア向けの曲はたくさん作っているわけで、このプロジェクトでのアルバムにおいては、クラブ・リスナー以外の人たちにも届けたいという気持ちがあらかじめあったのだと思いますが、いかがでしょうか?

P:2枚のシングルは、もう少しダンスフロアを意識して作ったんだ。でも今回のはアルバムだから、リスナーをさまざまなエナジーへと誘い込む音楽の旅を作る事ができた。だから、いろいろな幅広いサウンドを取り込むことを意識したんだ。それが出来るのがアルバムの特権だからね。

A:このレコードを聴いたら、完璧な真夜中のレコードっていうのがわかると思うよ。家でも楽しめるし、すごく瞑想的であると同時に、クラブでプレイすることも出来る。そんなレコードなんだ。

P:だね。

A:クラブとリヴィングを繋ぎたいんだ。俺が作って来たレゲエのレコードもそう。サウンドシステムでもスピーカーでも楽しめる作品。僕とロブは、ダンス・フロアのムードを持ちつつ家でも楽しめる作品を完成させることが出来たと思う。

P:エンジニアが、ダンスフロアでもプレイしたくなるインパクトを音に加えてくれたと思う。それもあって、ベースのフィジカルなインパクトを持っていながら、音の深さや緻密さも持ったレコードが出来たんじゃないかな。そのふたつのレベルを兼ね備えてる。だからサウンドシステムでも楽しめるし、ヘッドフォンや家で注意して聴きながら音の細かさを楽しむことも出来るんだ。

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クラブとリビングを繋ぎたいんだ。俺が作って来たレゲエのレコードもそう。サウンドシステムでもスピーカーでも楽しめる作品。僕とロブは、ダンス・フロアのムードを持ちつつ家でも楽しめる作品を完成させることが出来たと思う。


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

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今回エンジニアにベルリンのダブプレート&マスタリング(のラシャド・ベッカー)を起用していますね。

P:俺はラシャドの大ファン。彼は俺がシャックルトンとやったアルバムを手掛けてくれたんだけど、そのときにすごく良いエンジニアだなと思って。忙しすぎてなかなかつかまらないけどね(笑)。

通訳:じゃあ、ピンチが彼にオファーしたんですね?

P:そうだよ。今回もすごく良い仕事をしてくれたと思う。

A:かなりね。

通訳:制作中に会うことは?

A:俺は会ってない。

P:彼はベルリンに住んでるから、こっちに呼んだり会いに行くよりデータを送った方が安いんだ(笑)。

1曲目の“Shadowrun”のビート、細かいエフェクトは、まさにシャーウッド&ピンチですね。お互いの特徴がうまく混ざっている曲のひとつですが、これを1曲目にすることに迷いはなかったですか?

P:トラックの順番がすんなり決まるってことはまずない。でも“Shadowrun”に関しては、最初に持ってくるのがいいんじゃないかって、しっくりきたんだよね。曲の順序ってすごく大事なんだ。音楽の“旅”を作るのにはそれがすごく重要だから。
(エイドリアンがクリスマスの飾りの人形をカメラの前で左右にいったり来たりさせる)

通訳:何してるんですか(笑)?

A:いや、旅っていうから漂わせてみたんだ(笑)。……このトラックは、他のトラックと比べてもっとS&Pっぽい自然なトラックだったからね。まずそこから入っていって、期待以上のものに入っていくっていうのが良いと思った。今回は、境界線を越えて、たくさんの面での可能性を探求したんだ。もっとお決まりのこともやろうと思えば出来たけど、でも、自分たち自身もいつも以上のことに挑戦したかったんだよね。“Bring Me Weed”や“Music Killer”みたいな(フロア向けの)曲だらけのアルバムは作りたくなかったんだ。
 例えば、俺の前回のアルバム『Survival & Resistance』と比べると、このアルバムには全く違うフレイヴァーが詰まってる。このアルバムでは、俺とロブのアイディアや音の調和が探求されてるんだ。それが出来たことをすごく誇りに思う。妥協することなく、ふたりの融合によって新しいものを作り出すことが出来た。だから新鮮なサウンドでもあるし、10年経っても飽きないレコードが完成したと思うよ。

P:本当にタイムレスな作品だと思う。未来的とかそういうのでもなくて、特定の時期に当てはまらない作品を作りたかったんだ。ある意味、参考となっているのは〈On-U Sound〉や俺のダブステップの背景だけど、同時にそのどのサウンドでもない。その要素の間を自由に動き回ることが出来るというか。そういう作品がこのアルバムなんだよ。

まさにその通りで、曲ごとに趣向が違っていて、聴き応えのあるアルバムですよね。たとえば、“Wild Birds”みたいなエレガントな曲は、アルバムの目玉のひとつだと思うんですが、この曲に関してコメントください。

P:そういってもらえると嬉しいね。

A:どのトラックだって?

P:“Wild Birds”だよ。

A:ああ、あれか。

P:俺はあのトラックが大好きなんだ。

A:あれはアシッド・トリップみたいな音楽だな。ダブ・チューンだと思う。セットの最初に流す、みたいな感じだな。

P:だな。ムードを変える曲だね。1年くらい、自分のDJセットの最初に、この曲の初期のヴァージョンを流してたんだけど、すごく良かったんだ。その部屋にどんなエナジーやムードが出来ていても、この曲をプレイするとパッと雰囲気が変わる。リセットボタンを押してる感じ。いちから新しいエナジーを生み出していくんだ。大好きなトラックだね。トリッピーなヴァイブがあって。

“Wild Birds”におけるふたりの役割をそれぞれ教えて下さい。

P:俺が自分で作ったリズムやサウンドをエイドリアンに持っていって、そこから何を乗せることが出来るかを探していったんだ。スキットを入れたり、ピアノやサンプルを加えたり。で、それをアレンジした。で、そのあとエイドリアンがデスクでボタンをいじりながら魔法をかけてくれたんだ(笑)。

A:ははは(笑)

“Stand Strong”も素晴らしい曲ですね。メロウでエキゾティックな歌とパーカッションが魅力的だと思いました。歌っているのではどなたですか? 

P:あれはTemi(テミ)だよ。

通訳:『Ten Cities』(※〈サウンドウェイ〉からのコンピレーション)で一緒にやったTemi?

P:そう。俺がラゴスに行って、テミと何曲か作業してたんだけど、そのときたまたまこの曲の初期のヴァーコンのインストが手元にあって、それにヴォーカルを乗せてみれくれないかと彼女に頼んだんだ。そしたらそれが最高でね。ふたりとも結果に大満足で。彼女はナイジェリアのヨルバ語で歌ってるんだ。
 先にインストのアイディアがあって、彼女がその上から歌って、そこからまた音を変えていって。声やムードがインストにフィットしたんだ。嬉しかったね。君がパーカッションを魅力的と言ってくれてよかったよ。あのバランスをとるのにすごく時間をかけたから(笑)。

A:ははは(笑)、かな~り長く(笑)。

通訳:どれくらいかかったんですか(笑)?

P:思い出したくもないよ(笑)。エンドレスだったから(笑)。

通訳:今後、共演するヴォーカリストは増やしていきたいのでしょうか?

A:イエス。ロブはこれまでに俺と同じくらい様々なアーティストと作業してきたし、彼はテミを始めとするいろいろなヴォーカリストとの作業を楽しんで来た。既に共演したことのあるヴォーカリストももちろんいいけど、他のヴォーカリストも含め、いるかロブとヴォーカル・アルバムを作れたらいいなとは思うね。可能性はあるかも。

P:だね。

通訳:どんなヴォーカリストとコラボしたいですか?

A:マイケル・ジャクソン。

P:エルヴィス。

A:エルヴィスいいな。

P:ジョン・レノン、ジミ・ヘンドリックス(笑)。

通訳:亡くなってないとダメなんですか(笑)?

A:ははは。世の中には素晴らしいヴォーカリストがたくさんいるからね。このアルバムにはテミやビム・シャーマンなんかが参加してくれているけど、彼らとまた作業したいとも思う。やっぱり、内面でも繋がりを持てる人間とコラボしないと。今回も、だからこそチームとして良い仕事が出来たと思うし。

P:たしかにそうだ。

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本当にタイムレスな作品だと思う。未来的とかそういうのでもなくて、特定の時期に当てはまらない作品を作りたかったんだ。ある意味、参考となっているのはON-U Soundや俺のダブステップの背景だけど、同時にそのどのサウンドでもない。その要素の間を自由に動き回ることが出来るというか。


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

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このアルバムの「アフリカ」について訊きます。“Africa 138”という曲がありますよね。ピンチには、2009年の“カッワーリー(Qawwali)”という、アフリカンなリズムを披露した人気曲があります。

P:あれは、アフリカンというより、スーフィーが参考になっているんだ。スーフィーっていうのはスピリチュアルな音楽のフォームで、“カッワーリー”はヴォーカル・ベースの音楽なんだけど、“カッワーリー”全体のポイントが意識なんだ。スピリチュアル・メディテーションみたいな。そのアイディアやムードが好きで、自分と音楽のスピリチュアルな繋がり、みたいなものを元にしてヴォーカルなしで書いたのがあのトラックなんだよ。

通訳:そうなんですね。で、質問なんですけど、エイドリアンには『スターシップ・アフリカ』というクラシックがありますよね? つまり、お互いの音楽に「アフリカ」はこれまでもあったと思いますが、今作においても“Africa 138”があります。

A:すべてのリズムはアフリカから来てるんだよ。ロブはラゴスに行ってたくさんの若手アーティストたちと出会ってるし、テミもそのひとり。ロブのパーカッションのほとんどもアフリカンだし、興味深いビートのほとんどはアフリカから来てるんだと思う。あそこが起源なんだよ。

P:俺はポリリズムが好きなんだけど、ダンス・ミュージックの面白い面の多くがアフリカのパーカッションに通じてると思う。ローランド808を見てみても、あのサウンドのほとんどがアフリカのパーカッションを基に作られてるしね。モダンなものとして受け入れてるけど、実はアフリカの伝統的なフォームが基になってる。ダンス・ミュージックに限らず、音楽におけるアフリカのパーカッションの影響はすごく深くて浸透してる。それと離れて音楽を作る方が無理ってくらいさ。

通訳:あの曲はどのようにして生まれたんですか?

P:“Africa 138”は最初の方に作った品のひとつ。そこから変わっていったんだ。いろいろな面白いリズムさサウンドのコラージュみたいな作品だと思う。

A:あれは、元々は俺がビム・シャーマンと一緒に何年も前に作っていたトラックなんだ。

P:だから最初に作りはじめて、時間があったからこそどんどん変化していった。

では、“Run Them Away”はどうでしょう? これはもう、エイドリアンらしいルーツ・レゲエを基調にした曲ですが、この曲にはメッセージも込められていますよね? 

A:あの歌詞は、最近世界を操ってるバカな奴らを排除しようっていう内容なんだ。彼らが何をやってるかとか。

ベース・ミュージックとルーツ・ダブとのミックスということについては、かなり意識的に取り組んだのでしょうか?

A:俺たちは、あまりそのふたつを違うものとして捉えてないから……ダブステップがシーンに来たとき、すでに好きな音楽だったから、俺にとってはすごく良かったんだ。ジャングルもそうだし、すぐに繋がりを感じることが出来たんだ。ロブもそうだと思う。ルーツを辿ると同じだから、ダブステップやベース・ミュージックは好きだね。俺にとっては、すべてが調和してるんだ。トーンやパワー、マイナーコード、それが全部重なった音楽が好きなんだ。同じだから、1972年~1973年のルーツ・ミュージックとコンテンポラリーなベース・チューンのバック・トゥ・バックは自然なんだよ。“Run Them Away"も、すごく自然に出来たしね。

“Gimme Some More”はベース系のリズムで、とくにダブの強度が強い曲ですが。

A:君が言うように、ダブの強度が強いトラックではある。ロブが最初にリズムを作って、そこから俺たちで色を加えていったんだ。このトラックは、どちらかというとロブが率いた作品で、そこに俺がアイディアやオーバーダブを加えていった。

P:俺が作ったものはすべてデスクに行って、エイドリアンの魔法の手にかかる。だから、必ずダブの要素は入る。このトラックには、ダンスフロアの良いグルーヴが入ってると思う。だからそこまでルーツは感じないけど、ダブとのコネクションは確実にあるトラックだと思うよ。

“Different Eyes”も面白いリズムなんですけど、この曲のメロディラインは、ルーツ・レゲエ的で、しかしビートがハイブリッドですよね。

P:このトラックは、90年代初期のブリストルを感じさせるんだ。俺が昔から聴いてきた音楽でもあるし、ルーツっぽさももちろんあるけど、この曲はもっとヒップホップ・クオリティが強い。

A:これは、アルバムのなかでも一番ダブステップなトラックだね。

“Precinct Of Sound”のような、敢えてクラシックなダブステップ・スタイルを使いつつ、エイドリアンのスペーシーなダブ・ミキシングが活きている曲も面白いですね。

P:Andy Fairley(※かつてON-Uからアルバムを出している)のヴォーカルが少し入ってるんだ。彼は多分、クラシックなON-U Soundのヴォーカルだから、それをもっとコンテンポラリーな環境におとしこむのことは意識したね。自分の初期のダブステップの作品とか。すごくパワフルな作品が出来上がったと思う。

ああいうミキシングはスタジオで一発録りなんですか?

A:ノー(笑)。完璧な作品を作りたくて、何度もミックスしたんだ。たくさんのアイディアを何度も試したんだよ。

P:アルバムには、オンもオフも含めて制作に2年かかったんだ。だから、書いたけどアルバムに使わなかったトラックもたくさんある。出来が悪かったからじゃなくて、アルバムのムードにフィットしなかったからっていう理由でだよ。トラックとトラックの繋がりは大事だから。最終的には269くらいミックスがあった(笑)。

A:ははは(笑)。

P:ムードを繋げるっていうのがチャレンジだったし、かなりの時間を費やしたから、皆にはそれを評価して欲しいな(笑)。

通訳:是非、CDを買って何度も聴いて欲しいですね(笑)。

P:2枚買って、1枚は母親にあげて(笑)クリスマスだから(笑)。

「Bucketman」とか、「マリワナ」とか「スモーキング!」とか、笑える声ネタもありますが、こういうのはエイドリアンが集めて来るんですか?

P:あれはダディ・フレディだったよな?

A:そう。いつも人がスタジオに出入りするから、そういうレコーディングを録リためておいているんだ。あれは2、3ヶ月前に録ったダディのヴォーカル。最近のなんだよ。かなり前に録ったものもいくつかあるけどな。ダディのヴォーカルは使ったことがなかったから、今回使ってみることにしたんだ。アルバムにすごくフィットするだろうと思ってね。

絶対に笑いながら作っていたと思うんですね。

A:毎回笑いが耐えなかった。レコーディングのプロセスは、クリエイティヴでありつつ、マジックでありつつ、そして何より楽しくないといけない。だから仕事と思わずに楽しめるのさ。スタジオの時間は楽しい時間でなきゃ。ロブとはそれが出来てる。彼と作る作品だけじゃなくて、制作過程にも感謝してるんだ。

通訳:どんな風にリスナーには楽しんで欲しいですか?

P:聴くにふさわしいシチュエーションはたくさんあるよ。夜中に聴くのがいいかもね。ムードがいいから。でも、どこで聴いていてもそういうムードに導いてくれると思う。とにかく、あまり先入観をもたずに耳をすまして欲しい。少なくとも、2~3回は聴いて欲しいな。

A:ロブが言ったように、毎回プレイするたびに違う何かを発見して欲しいね。たくさんレコーディングしたし、ミックスしたり、いろいろなものが詰まってるから。だから家でも楽しめるし、クラブでも楽しめるんだよ。

ピンチにとって、このアルバム制作はどのような意味を持つのでしょう? 

P:たくさんある。自分が昔から聴いてきたエイドリアンの素晴らしい音楽でもあるし、そこからさらに音を探求するっていう素晴らしい経験だった。これは彼との作業という経験のシンボルだし。楽しい時間も含め、すべてがポジティヴな経験だよ。

ダブを長年作ってきたエイドリアンとの作業は、ピンチのダブステップの解釈にも影響を与えましたか?

P:エイドリアンが俺のダブステップの見方を変えたとは思わない。俺たちは、自分それぞれが持つ要素を使って音楽を作ってるだけだから。

〈コールド〉で試みているテクノ・サウンドとこの作品とはどのように関連づけられますか? 

P:うーん……関連はとくにないよ。“Shadowrun”にはちょっとその要素が見られるかもしれないけど、他のトラックはとくにそういうのはないと思うな。

エイドリアンにとってこのプロジェクトは、どのような意味を持ち、今後、どのようにご自身のキャリアに活かされるものなのでしょう?

A:ロブに出会えたことは本当に嬉しいんだ。俺は常に自分が共感出来る何か新しいもの、新しい才能を探しているからね。彼はまさにそういう存在なんだ。世の中、才能のある人間はたくさんいるけど、メンタリティが合わないことも多い。でもロブとは共感が出来るから作業が楽しいんだ。共通点もあるし、互いの創造力をエンジョイしてる。ロブは若くて才能があるから、一緒にいてプラスだらけなんだよ。良い人間と働けば、それが作品に反映される。ロブでもプリンス・ファーライでも(笑)、良い環境で作ることが大事だからね。それ以上のものはない。だから本当に彼と作業が出来てハッピーなんだ。ギグも、レコーディングも、ただ飲みにいくだけでも、彼と一緒ならすべてが楽しみになるんだよ。

P:たしかに。

客観的に見て、『Late Night Endless』はダブ・ミュージックを更新できたと思いますか? 

P:更新とか、あまりそういうのは考えてない。未来に進もうとか、未来のことを考えたりはしてないんだ。俺たちは、ただ昔からのサウンドのインスピレーションを使って、いま自分たちが楽しめるものを作ってるだけだから。

通訳:もし、『Late Night Endless』のライバルがいるとしたら、何(作品名/アーティスト名)だと思いますか?

A:『サージェント・ペッパー』だな(笑)。

P:同じだったり似たレコードは他にはない。2015年に買うべき唯一のアルバムさ(笑)。

Kaitlyn Aurelia Smith - ele-king

 2014年はディズニーの年だった。世界歴代5位の興行収入となった『アナと雪~』はもちろん、メアリー・ポピンズの作者を主役としたジョン・リー・ハンコック監督『ウォルトディズニーとの約束』もディズニー自身の夢を描くという骨子はけして悪いものではなく、アドラーの流行を尻目にフロイトの底力を思い知らされる面もあった。さらにはブラック・ユーモアを全開にしたランディ・ムーア監督『エスケープ・フロム・トゥモロー』である。ディスニーランドのダークサイド(とされるもの)をここまでがっつり見せてくれた作品も珍しく、上映中止にもDVDの回収処分にもならなかったことがかえってディズニーの度量を感じさせる作品ともいえる。ファンタジーの王道と、それを作り出す人、そして、それを裏側から叩きのめす3本が出揃っただけでなく、どこから見てもファンタジーには価値があるということを認めさせた年だったのではないかと。まあ、そういうことにしてケイトリン・アウレリア・スミスのデビュー・アルバムを再生してみよう。そうしよう。

 オーカス島というリゾート地で育ったからということが説明になるとは思えないけれど、なるほどテリー・ライリーのミニマル・ミュージックに影響を受けたというケイトリン・アウレリア・スミスはこれをニュー・エイジ風の幻想的なアレンジのなかに解き放ってしまう。あるいはタイトル通り、前半の6曲はユークリッド幾何学を用いて作曲されたと解説され、どこがどうしてそうなのかはわからないけれど、その響きは柔らかい布を積み重ねていったようなしなやかさと可愛らしい質感に満ちている。ふわふわとこちょこちょ、キラキラとさらさらという感じだろうか。シンセサイザーと出会う前はムビラ(親指ピアノ)に凝っていたそうで、高音が多用されるアフリカ音楽のテクスチャーを思わせる面も多い。ローリー・シュピーゲルやスザンヌ・チアーニ(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.96)といった70年代の先駆的な女性作曲家たちに、ヒッチコック映画の音響効果を担当していたオスカー・サラ(『アンビエント・ディフィニティヴ』P.36』)にも多大な影響を受けたそうで、あらゆるところからファンタジーを集めてきたようなニュアンスはそれで説明されてしまうような気も。マスタリングはマシューデイヴィッド。

 後半は12パートに分かれた組曲形式の“ラビリンス”。それこそテリー・ライリーのフェミニンな変奏である。もともと、シュトックハウゼンと袂を分かつことがテリー・ライリーの出発点だったことを思うと、アカデミックな要素がまるでなく、むしろニュー・エイジへと接近させることはライリーの本意にかなうことなのかもしれない。寄せては返す主題の変奏と穏やかな質感の持続はスティーヴ・ライヒを取り入れたティム・ヘッカーやアレックス・グレイ(DPI)でさえマッチョに感じさせなくはないものがあり、ドローンだけでなく、ミニマル・ミュージックにも女性によって書き換えられる面があったとことに気づかされる。12パートは、そして、あっという間に終わる。

 ディズニーが本気だなと思わせたのは、『アナと雪~』の4ヶ月後に公開されたロバート・ストロンバーグ監督『マレフィセント』も「男性を必要としないフェミニズム」を同じように打ち出していたから……かもしれない。『眠れる森の美女』を魔女の視点から捉え直した同作は、エルザがさらに心の醜い存在へと成り果てた状態といえ、子どもにもわかりやすいゴシック・ファンタジーとして仕上げられた。『アナと雪~』とは正反対に突き進んでもなお、「男を必要としない」女性像が子どもたちの心に刷り込まれたのである。結果が楽しみだなーと思いつつ、ガゼル・ツインことエリザベス・バーンホルツのセカンド・アルバムを再生してみよう。そうしよう。

 ブライトンというリゾート地で育ったからということがまったく説明にはならないように、フードで顔を隠し、ヴォーカルは時に男の声に変調させ、絶望的なダーク・ウェイヴを聞かせる『アンフレッシュ』は、早くも『キッドA』(レイディオヘッド)を書き換えたという評が飛び出るほどガキどもの心には染み通っているらしい。明らかに気持ち悪さを強調したようなシンセサイザーはインダストリアル・ヴァージョンのポーティスヘッド、ないしはホラー・ヴァージョンのFKAツイッグスといった感触を最後まで貫き、暴力性を自己へと向けざるを得ない女性の姿を浮かび上がらせる。体の線を覆い尽くしていることやアルバム・タイトルもそうだし、シングル・カットされた「アンチ・ボディ」など肉体嫌悪がその根底をなしていることは想像にかたくなく、フランケンシュタインが子どもを生みたくなかった女性のファンタジーであり、ゲイの監督が映画化したものだという構図がここにはまだ生きていることを思わせる。


Arca - ele-king

 昨年リリースした『ゼン(Zen)』が好調のアルカの、ファッション・ショーのために書き下ろした新曲11曲が無料でダウンロードできる!
 ゼンは急げ、ダウンロード・イット!


■『Sheep (Hood By Air FW15)』

Tracklist:
1. Mothered
2. Pity
3. Drowning
4. En
5. Faggot
6. Submissive
7. Umbilical
8. Hymn
9. Don't / Else
10. At Last I Am Free (interlude)
11. Immortal

■ビョークの3月に発売されるニュー・アルバムに共同プロデューサーとして参加! カニエ・ウェスト、FKAツイッグス作品のプロデュースを行ってきたアルカが、3月に発売されるビョークのニュー・アルバム『Vulnicura』に、2曲の共作曲、7曲の共同プロデューサーで参加している。

■1stシングル 'Thievery' MV 視聴リンク (Created by Jesse Kanda )

​■2ndシングル 'Now You Know' MV 視聴リンク (Created by Jesse Kanda )

■3rdシングル 'Xen' MV 視聴リンク (Created by Jesse Kanda )

一夜限りの貴重ライヴ - ele-king

 結成31年。ザ・ウォーターボーイズが新作を携えて来日、初となる単独来日公演を行う。アイリッシュ・トラッドへの傾倒をひたむきに作品化してきたマイク・スコットの仕事は、ニューウェイヴ世代ばかりでなく、あまねく音楽ファンに愛されるべき。ele-kingでもインタヴューを公開予定です。ぜひ彼の音と言葉に触れ、来日までの時間を豊かにふくらませてみてください──。

PEALOUTの近藤智洋も参加した、ウォーターボーイズの約4年ぶりとなる新作がリリース!
4月には東京にて初の単独公演が決定!
期間限定で全曲試聴も!

 今年で結成31年を迎える大御所バンド、ウォーターボーイズ。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどからの影響を受けたその独自の音楽性、そしてスコットランドの吟遊詩人とも評される歌詞は国内外で高い評価を受けている。

 今年のフジロックではバンドとして念願の初来日も果たした彼らの4年ぶりとなる新作『モダン・ブルース』が、1月14日(水)に発売を迎える。国内盤は1週間先行リリースのうえ、2曲のボーナストラックを収録。
 また今作には、PEALOUT時代に「フィッシャーマンズ・ブルース」のカヴァーを演ったことでマイク自身とも親交のある近藤智洋の演奏が使用されている。

 そんな中、アルバム発売に先駆けてさらに嬉しい情報が入ってきた! なんとウォーターボーイズにとって初となる単独来日公演が東京にて4月に開催されることが決定したのだ。1夜限りの貴重なライヴとなっているので、この機会をお見逃しなく!

 また、現在期間限定でニュー・アルバム『モダン・ブルース』の全曲試聴を実施しているので要チェック!

ウォーターボーイズアルバム全曲試聴はこちら:


■公演情報
2015/4/6 (月) 渋谷クラブクアトロ
open18:30/ start 19:30 ¥8,000(前売/1ドリンク別)
お問い合わせ:03-3444-6751(SMASH)
※未就学児童の入場は出来ません。

チケット情報
主催者先行予約:1/27(火)スタート予定
2/7(土)プレイガイド発売開始予定
※共に詳細は1/20(火)に発表


Amazon Tower Amazon

■アルバム情報
アーティスト名:The Waterboys(ウォーターボーイズ)
タイトル:Modern Blues(モダン・ブルース)
レーベル:Kobalt
品番: HSE-60200
発売日:2015年1月14日(水)
※日本先行発売、ボーナストラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ 付

<トラックリスト>
1.Destinies Entwined
2.November Tale
3.Still A Freak
4.I Can See Elvis
5.The Girl Who Slept For Scotland
6.Rosalind You Married The Wrong Girl
7.Beautiful Now
8.Nearest Thing To Hip
9.Long Strange Golden Road
10. Louie's Dead Body (Is Lying Right There)*
11. Colonel Parker's Ascent Into Heaven*
*日本盤ボーナストラック

※新曲「Destinies Entwined」iTunes配信中&アルバム予約受付中!(高音質Mastered For iTunes仕様)
https://itunes.apple.com/jp/album/modern-blues/id946840347?at=11lwRX

■ショートバイオグラフィー
1983年結成、英国エジンバラ出身のマイク・スコットを中心としたUKロック・バンド。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどの影響を受けている。バンド名はルー・リードの曲の歌詞から名付けられる。初期はNYパンクの影響を受けたニューウェーブバンドとしてスタートし、U2フォロワー的な扱われ方もされていた。2014年にフジロックで初来日を果たし、2015年1月に約4年ぶりとなるニュー・アルバム『モダン・ブルース』をリリース。
同年4月には初の単独来日公演が決定。


TV On The Radio - ele-king

 We can’t breathe――ニューヨークで黒人青年が課税対象外のタバコを販売した容疑で逮捕された際に警官に首を絞めて殺害された事件に抗議するデモで(殺害した白人警官は不起訴)、一斉に叫ばれた言葉がこれだったそうだ。それは、殺害されたエリック・ガーナー青年が「息ができない!」と繰り返したことから来ているそうだが、そこには何か、ニューヨークという磁場が生み出す雑多な民衆の声が含まれているように思える。バリバリの左翼活動家だったというビル・デブラシオ現市長もデモを支持しているそうだが、彼の治世で街の空気はどれくらい変わったのだろうか。それは外から見ているぶんにはわからないが、しかし「息ができない」という悲痛な叫びは、声を合わせて放たれることで、何かメッセージとして前向きな力を得ていることが伝わってくる。「He」can’t breatheではなく、「We」なのだから。

 もしそのデモにサウンドトラックをつけるのならば、TV・オン・ザ・レディオの3年ぶりのアルバム『シーズ』はどうだろうか。それぞれのソロ活動や客演を経て、前作につづきLA録音となったことが話題になっているが、しかしこれは彼らが相変わらずニューヨークという街から切り離せないことを示している作品だと思える。いや、彼らが生み出したニューヨーク……と言おうか、そのマルチ・カルチュラルな佇まいと音、飽くことのない実験主義とそれでいてソウルフルな熱は、TV・オン・ザ・レディオがバンドとバンドの頭脳であるデヴィッド・シーテックのプロデュース・ワークによってゼロ年代を通してかの街に振りまいてきたものだ。

 つまり逆に言えば、音としては特別新しい何かが植え付けられているわけではない。前作『ナイン・タイプス・オブ・ライト』のリリース直後に他界したジェラード・スミスの不在を悼みつつ、バンドのアイデンティティをゆっくりと確かめあうようなアルバムだ。変化といえば演奏はラフになり、リズムはシンプルになり(8ビートのトラックも目立つ)、メロディはキャッチーになり……要するに、ちょっと拍子抜けするぐらいに気軽に聴けるポップネスに満ちている。

 ではゆるいアルバムかと問われればけっしてそんなことはなく、むしろ前作でやや削がれたエネルギーが帰ってきているように聞こえる。“ケアフル・ユー”、“ラヴ・ステインド”のようにエレクトロニクスをまぶすことでカラフルな印象が増していることもあるし、パンキッシュなギターが聴ける“ハッピー・イディオット”や“ウィンター”、“レーザーレイ”によるところもある。近作において得意のブラス・アンサンブルによる勇壮な味付けも腹に響く。

 しかしこのアルバムにさらなるパワフルさを与えているのは、僕のような英語のリスニング能力に難のある人間の耳にもポンポンと迷いなく入ってくる言葉たちだ。たとえばアコースティック・ギターの穏やかな演奏とともに「ああ トラブルがやってきた」とはじまる“トラブル”はやがて、「Everything’s gonna be OK」というコーラスを導いてくる。「すべてうまくいくさ」……それはかつて、そうたとえば、公民権運動の時代にソウルの歌唱に何度となくこめられた言葉であったはずだ。TV・オン・ザ・レディオはそんなふうな力強い言葉と音を備えたバンドであったことをこのアルバムを聴いていると思い出す。バンドは激動のゼロ年代のニューヨークを駆け抜けてきたが、転換点であった2008年の『ディア・サイエンス』では「黄金時代がやってくる!」と時代の高揚感を代弁していた。その宣言が正しかったのかどうかはそのつづきを生きるわたしたちにはまだわからないが、しかしいままた彼らは「言うんだ、今すぐに! 楽しむんだ、今すぐに!」(“ライト・ナウ”)と繰り返す。もし「We can’t breathe」に匹敵する言葉がこのアルバムにあるとすればそれは、もっとも明るい輝きに満ちた“クッド・ユー”だろう。「誰かを愛してくれないか? その心を開いてくれないか?」……息ができない「わたしたち」はべつに、何か敵と闘って打ち負かしたいわけではなく、その心を開いてほしいだけなのだ。

 「雨はいつものように降ってくる/今回は地面に種を植えてみた(“シーズ”)」。ブルックリンの熱狂が去った現在においてTV・オン・ザ・レディオの旬もまた過ぎたのかもしれないが、しかしそれがどうしたというのだろう。ここには変わらず、ハイブリッドであることへのプライドと情熱があり、そして苦境を知りながら前を向くための力が躍動している。

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