「K A R Y Y N」と一致するもの

RIKI HIDAKA - ele-king

 巷では天才か、奇人か、魔人か、などと噂され、ここ1~2年で着実に関心を高めている期待のアシッド・ローファイ・フォーク・ロッカー、リキヒダカ情報です。
 6月上旬、広島と愛媛でジム・オルーク × 石橋英子との共演あります。これは見たい、聴きたい。行ける人羨ましいです。
 もうひとつ、Giorgio Givvnのレーベルから、2014年に制作された幻のアルバムの発売となりました。2枚組の透明紫色のヴァイナル。ジャケも音もヤヴァイです。

日時:6月6日 (火)
会場:広島クラブクアトロ
OPEN:18:00
START:19:00
料金:前売¥4.000 / 当日¥4.500 (+1drink order)
出演:ジム・オルーク × 石橋英子 × 日高理樹
*取り扱い:ローソンチケット、チケットぴあ、e+(イープラス)、エディオン広島本店プレイガイド、タワーレコード広島店、STEREO RECORDS

日時:6月8日 (木)
会場:愛媛どうごや
OPEN:18:00
START:19:00
料金:前売¥4.000 / 当日¥4.500 (+1drink order)
出演:ジム・オルーク × 石橋英子 × 日高理樹
*取り扱い:どうごや 089-934-0661、more music 089-932-3344、まるいレコード 089-945-0132、RICO SWEETS & SUPLLY CO.089-947-0125、ふるぎやきっかけや”肉”

★問い合わせ

STEREO RECORDS
info@stereo-records.com


Riki Hidaka
Lucky Purple Mystery Circle
QQQQQQQQQ
9QLP-0001
2LP (PURPLE VINYL)
2017年5月17日(水)発売

【組曲ゲノム】
https://www.youtube.com/watch?v=wrqhrv0C41k

【夜の街】
https://www.youtube.com/watch?v=Ey6J7eBRfE0

【私の頭の中のロックンロール音楽】
https://www.youtube.com/watch?v=G3e6Cm8JG08

NEO TOKAI ON THE LINE - ele-king

 YUKSTA-ILLというMCはいつも驚きと感動をくれる。YUKSTA-ILLを知る15年以上も前に、先輩がL.L.COOL Jが、「OLD SCHOOLっていうのは敬意を込めて人が言う事なんだ。HIP HOPは常にNEW SCHOOLであり続ける事なんだ」ってインタビューで言っていた。そう教えてくれた。この発言は何に載ってたかも分からないし、確認もできてないから、本当にそんな事言ってるのか分かんないんだけど、凄く感銘を受けた。進化していくものがHIP HOPだと思う。もうOLD SCHOOLとかNEW SCHOOLなんて言葉もあまり使わないし。YUKSTA-ILLが敬愛するPAPOOSEの“ALPHABETICAL SLAUGHTER”は1より2の方が圧倒的に凄まじい。ALPHABETの頭文字でA to Zで順番にライムする1と2があるその曲は、YUKSTA-ILLの作るHIP HOPを理解するのに重要だと思う。是非聴いて欲しい。2が出た時、ちょうどYUKSTA-ILLと一緒にいたことはYUKSTA-ILLの作るHIP HOPに自分をよりのめり込ませてくれたものだ。


YUKSTA-ILL
NEO TOKAI ON THE LINE

Pヴァイン

Hip Hop

Amazon Tower HMV iTunes

 コアなヘッズと変わることなく、YUKSTA-ILLという名前を聞いたのはUMBに出ている頃だった。今作品でも重要なSKITとして収録されているFACECARZという三重のHARD CORE BANDを介してその名前を聞いたと記憶してる。決勝でバトルに出ている数回のタイミングはいつも予定があって見に行けてないのだけれど。映像になっている、ERONEとのUMB決勝大会でのバトルはお互いのラップが進化していく瞬間と歴史が収められている。勝ち負け以上の側面を当事者以外が感じることができる数少ない貴重な資料だと言い切れる。バトルへの肯定も否定も超えたものがそこに存在してる。2ndアルバムになる『NEO TOKAI ON THE LINE』に収録されているMCバトルに関して言及した、“GIFT & CURSE”では今のバトル・ブームへの辛辣な意見をラップしている。それは一般的に軽くなった「DIS」って言葉への「DIS」。美学のない消費をHIP HOPは否定する。KRS-ONEの『SCIENCE OF RAP』にある「朝起きたら鏡を見て俺はラッパーだって言う」。ラッパー十ヶ条のようなものを信じること。飲み会でのバトルの真似事を同列にする事は違うと、改めて公言する。その意味を『NEO TOKAI ON THE LINE』は教えてくれる。

 また、自分が敬愛するラッパーの言葉を引用させてもらう。RAKIMは「自分の友達の話を、有名でもない自分の友達の話をRAPをして曲を作れば、まるで近くにある話のように聴いてる人が思うことができる。それがHIP HOPだ」というようなことを言っていた。これは、出典は忘れたけど、自分が2016年に読んだRAKIMのインタビューか何かで言っていた事だ。凄く分かりやすく言えば、有名なラッパーだけれど、BIG Lを誰もが知ったのはGANG STARRの“FULL CLIP”だ。名もなき黒人の声を今もラッパーは歌っている。#BLACKLIVESMATTER という問題をHIP HOPを通して聞く。TOKAIの話を、HIRAGENというラッパーの事をYUKSTA-ILLを通して知る。パーソナルなストーリーに落とし込めば“RIPJOB”というこのアルバムに入ってる曲でYUKSTA-ILLがどんな仕事をしていて、どんな事をして、今、何をして何を考えてるかを知れる。自分はその話を前から知っていたんだけど、この曲の方が、情報量は多い。

 最初に名前を挙げた三重、鈴鹿のHARD CORE BAND 「FACECARZ」。アルバムの中の地元のことを歌った“STILL T”、“HOOD BOND”。その間にFACECARZのライヴ中のMCを収録したSKITが入る。自分は、東京や名古屋や彼らの地元である鈴鹿でもなく、関東の郊外にあるライヴハウスでFACECARZのライヴを見たことがある。その話をする前に言うけど、FACECRAZは日本を代表するHARD CORE BANDで地元の三重県鈴鹿でも、東海地方の中心地である名古屋でも、日本の首都である東京でも、日本でも、NYでも世界を相手にしてもトップのHARD CORE BANDだ。そのFACECARZが関東郊外の国道沿いのライヴハウスでMCで鈴鹿の事を、誇ってライヴ中に話していた。それは地元とHARD COREそのもので、それが繋がる話。このアルバムのその部分や、全体に流れるYUKSTA-ILLのラップは、その土地にいないものに対して、その土地への興味と強さを感じさせてくれる。DETROITにCOLD AS LIFEってHARD CORE BANDがいるんだけど、その1stアルバムのTHANKS LISTが頭に浮かぶ。まだかっこよかった頃のURのMAD MIKE、そして、J DILLAやSLUM VILLAGEが載っていたTHANKS LIST。

 音楽は音楽そのもの。HIP HOPはHIP HOPそのもの。それだけの強さと魅力が全て。それは勿論だと思う。でも、それ以上のものを感じられたら、それを否定するより肯定した方が最高だって言った方が楽しめるし、いい事あるに決まってる。このアルバムの“LET'S GET DIRTY”はPUNPEEのトラックに、featで参加するSOCKSの炸裂するパンチラインは「KEITH MURRAYみたいにセットアップジャージ」だって。最高にHIP HOPで楽しんだもん勝ちだと思う。今まで書いてきたこの文章放棄できそうだもん。でも、YUKSTA-ILLのラップなYUKSTA-ILLは何も変わってない。

 DIVERSITYって2016年からよく聞く。実際、多様性なんて無かったりするものがあふれてる。ただ肯定しても、ただ否定しても単一性も多様性のどちらも感じられない。ラッパーとしてステージに立つ生活、仕事や家庭の生活。ラージとスモール。派手と堅実。矛盾してるものが普通に存在するのが現実。それをYUKSTA-ILLは、YUKSTA-ILLとして、本名のONE OF THEMではなく、このアルバムでRAPする。『NEO TOKAI ON THE LINE』というタイトルの2枚目のアルバムは、だからこそ独立することができる。YUKSTA-ILLというラッパーがここで語るストーリーは、過去、未来、現在を鈴鹿という場所を純然たるファクトとして存在させる。

 「最初にYUKSTA-ILLは感動と驚きをくれる」と書いた。YUKSTA-ILLが作ってきた音楽、地元のグループであるB-ZIK、TOKAIを席巻したTYRANT、ソロとしてのファースト・アルバム、『QUESTIONABLE THOUGHT』、その中で産まれた「TOKYO ILL METHOD」、多くのフィーチャリング・ワークス、2016年末にリリースされた『NEO TOKAI ON THE LINE』。それらはどれもが繋がっていて、どの方向にも辿ることができる、「点が線になる」を綺麗に感じることができると思う。でも、そう思った瞬間に、YUKSTA-ILLの新たな側面があらわれる。このアルバムの最後に唐突に始まる“CLOSED DEAL”のように。掻き乱される。

 NETFLIXで、MARVERLの『LUKE CAGE』でMETHOD MANがラップしてる事って街の事で、それって世論とは相反するし、細かい事は矛盾してるけど、強くて最強で感動したんだけど。そこに出てくる看護婦がいて。RZAが監修してる『IRON FIST』に看護婦として出てきて、「この人、看護婦役で流行ってるのかな?」って思ったら、話が繋がってるっぽくて。そういう、そこまで細かくないけど、説明ないのがエンターテイメントでいいなって、うなづくような納得が最高だなって思った。WU-TANGとMARVERLとNETFLIXが繋がってる事には感動しないし、いまだにKUNG FUUとHIP HOPの関連性とか分かりたいとも思わないんだけど。特に『IRON FIST』で、唐突にHIP HOPかけながら修行してるのとか、理解を超えてるって思うけど。「うわっ」って思いながらも、手を引けないような。受け取る側の許容量を超えた感動って確実に存在すると思う。その許容量を超えたっていう時の一線って意識してない一線だから、定義しようとしたらできないものだけど、確実にある存在を感じることのできる一線だと根拠なく言えるものだって、俺は人に言える。

 YUKSTA-ILLの『NEO TOKAI ON THE LINE』は、そういう一線を超えた作品。最初に、何曲かを聴いた時に、漠然とした感動と、凄まじい衝動を覚えた。けれどもすごく普遍的で。でも、その普遍的な一線はどこにあるのか分からないとも思う。だから、聴くたびに、新たな何かを感じるんだけど、アルバムが幕を閉じた時に、それをいつまでたってもつかめない。聴いてる時はすごくその輪郭を感じられる。このアルバムを作るトラックもゲストも自由にその色を描いてるんだけれど、合わせることも打ち消すこともなくYUKSTA-ILLが存在している現実的だけれど、何か違う世界なのか、次元なのか?気になるんだけど、自然すぎて、再生されている時にその場所にいる。聴き終わって帰ってきた時に、頭に何かが残る。

 今日出たアルバムを、確信して「クラッシック」と言い切る。3本マイクだったアルバムが「クラッシック」として今、存在している。中古盤の棚に¥100で売ってる「クラッシック」がある。買うことのできないクラッシックがある。誰かだけのプライベートな「クラッシック」の存在を知ってる。YUKSTA-ILLの『NEO TOKAI ON THE LINE』は今出ているものが廃盤になっても、REMASTERING盤や廉価版が出る「クラッシック」になるだろう。新たな価値が発見される日が来る日をYUKSTA-ILLは何度迎えるだろうか? YUKSTA-ILLはその日が来る事を知っている。

Kelly Lee Owens - ele-king

 セルフ・タイトル、そしてセルフ・ポートレイトとなるジャケットの色はグレー。このグレー、という感覚がケリー・リー・オーウェンスのエレクトロニック・ミュージックである。すでに「テクノの白昼夢」、あるいは「ドリーム・ポップとアンビエント・テクノのミックス」などと評されているが、彼女が作り出す夢はいろいろなものが混じり合いながら変幻していく。

 ケリー・リー・オーウェンスはウェールズ出身のプロデューサーで、かつてヒストリー・オブ・アップル・パイというインディ・バンドでベースを弾いていたが、のちにダニエル・エイヴリーのデビュー・アルバムにヴォーカルで参加するという少しばかり変わった経歴の持ち主だ。シンプルながらよくデザインされたアンビエント・テクノを収めたいくつかのシングルで注目を集め、そして何と言ってもジェニー・ヴァルの“Kingsize”のフロアライクなリミックスで話題となり、ノルウェーはオスロの〈スモールタウン・スーパーサウンド〉とサイン。本作がデビュー作だ。
 初期ビョークに比較する向きもあるようだが、それよりも近年活躍する女性プロデューサー陣とのリンクを連想させる部分が大きい。『エクスタシス』以前のジュリア・ホルター、ジュリアナ・バーウィック、あるいはローレル・ヘイロー……といった、自身の声や歌をどのように電子音楽に絡めるかという命題に非常に意識的な作家と同期しているように聞こえるのである。女声というのは楽曲のなかでよくも悪くもアイコニックに変換されがちで、エモーショナルに歌ってしまうといわゆる「ディーヴァ」のようにすぐに見なされてしまう。そうした罠から逃れるように、オーウェンスも先述のプロデューサー陣の慎重さに習うように自らの歌声にリヴァーブを施したり重ねてループさせたりすることによって声を音響化し、異化している。アーサー・ラッセルにオマージュを捧げるその名も“Arthur”はその最たる例で、まさにラッセルを連想させる水中のような音響のなかで断片化した彼女の声がこだまするアンビエント・テクノだ。だがいっぽうで、たとえばジュリアナ・バーウィック辺りの徹底ぶりに比べるとオーウェンスの場合は比較的輪郭を伴いながら「歌」の形を取っているトラックも多く、“S.O”、“Lucid”、“Throwing Lines”などはディーヴァ化を周到に避けながらも、聴き手の意識をメロディに預けることも許している。ジェニー・ヴァルを迎えた“Anxi.”がその方向性ではもっとも秀逸なトラックで、音響化された声と歌とが交互に立ち現れ、ミニマルな風景を柔らかく変貌させていく。やはりもっともあり方として共振しているのはジェニー・ヴァルなのだろう。

 対して硬質なビートとブリーピーなサウンドで聴かせる“Evolution”や“CBM”、フォークトロニカ期のフォー・テットを連想する簡素な反復とチャーミングな音色が特徴の“Bird”など、そもそも声の問題を度外視したトラックも興味深い。彼女自身の音のコア――それに一貫した態度――は、このアルバムではそれほど強調されていない。全編通してサイケデリックに心地いいのは違いないが、フワフワとsomewhere betweenという表現がずっと続いている感じなのだ。
 単音のベースとシンセが効果的に重なっていく“Keep Walking”は、タイトルと音で彼女の表現をよく言い表していると思う。白黒はっきりつけないある種の保留状態を保ったまま、とりあえず「歩き続ける」こと。ベッドルームとフロアの間のどこかでウロウロすること。彼女の音楽が優れて逃避的なのはたんに心地いいだけでなく、聴き手にグラデーションのなかで浮遊することを許しているからだ。このデビュー作だけではこの先どのような地点を目指していくのかはまだわからないが、その、未定であること自体の魅力を湛えた1枚である。

Spoko & Aguayo - ele-king

 2016年の音楽シーンを特徴づけたトレンドのひとつに、ゴムがあった。南アフリカのダーバンで生み出されたその音楽はクワイトの影響を受けているとも言われるが、いわゆるハウスの文脈よりもむしろベース・ミュージックの文脈に位置づけた方がしっくりくるサウンドで、うなり続ける低音ドローンやダビーな音響、グライム的な間の使い方、それらによってもたらされる奇妙なもたつき感など、なるほどコード9が興味を持つのも頷けるというか、そこにはたしかに「これこそが新しいトレンドだ」と騒がれるに足るじゅうぶんな要素が具わっていた。その潮流の一端は、コンピレイション『Gqom Oh! The Sound Of Durban Vol. 1』にまとめられている。

 そんなゴムの盛り上がりに触発されたのだろうか。昨年リリースされたDJスポコとDJムジャヴァによるEP「Intelligent Mental Institution」は、まるで「ゴムの前には俺たちがいたんだぜ」と宣言しているかのような、自信に満ち溢れた1枚だった。自らの音楽を「バカルディ(=酒)・ハウス」と呼称するスポコは南アフリカのプロデューサーで、近年は〈True Panther Sounds〉やJクッシュの主宰する〈Lit City Trax〉といった米英のレーベルからも作品を発表している。興味深いことに彼は、シャンガーン・エレクトロのドンであるノジンジャとも親交があったらしい(なんでも彼からエンジニアリングを学んだそうだ)。そのスポコの相棒を務めたムジャヴァの方も同じく南アフリカ出身のプロデューサーで、10年ほど前に“Township Funk”で世界中にその名を轟かせたハウス・レジェンドである。『RA』によれば、その“Township Funk”でパーカッションを担当していたのがスポコだったそうだから、彼らの交流はかなり古くまで遡ることができるのだろう。そのふたりが久しぶりにがっつりと手を組んだ「I.M.I」は、強烈なドラムとメロディアスなシンセが絡み合う最高にダンサブルな1枚で(“King Of Bacardi”や“Sgubhu Dance”の昂揚感といったら!)、王者の貫禄とでも言うべきか、とにかく矜持にあふれたEPだった。
 そのスポコが次にパートナーに選んだのがマティアス・アグアーヨである。アグアーヨは、自身のアルバム『Ay Ay Ay』が出たのと同じ2009年に、ムジャヴァの“Township Funk”のリミックスを手掛けているので、今回のコラボには前兆があったということになるが、スポコと共同作業をおこなうのはこの「Dirty Dancing」が初めてのはずだ。〈Kompakt〉というブランドの名を耳にすると、ある特定のミニマル・サウンドを思い浮かべてしまう人もいるかもしれないが、アグアーヨはそういうイメージの束縛から自由なアーティストで、チリ出身ということもあってか、彼の作品からは独特の「辺境」性を感じ取ることができる。したがってわれわれは、スポコの「バカルディ・ハウス」がアグアーヨのその「辺境」性と衝突したときにいったいどのような化学反応が起こるのか、という期待に胸を膨らませて本作を手に取ることになる。

 結論から言ってしまえば、この「Dirty Dancing」では何か特別なミラクルが起こっているわけではない。“Something About The Groove”におけるエルビー・バッドの参加が如実に物語っているが、良くも悪くも本作は、「バカルディ・ハウス」と欧米のハウス/テクノとの「出会い直し」(あるいは「再会」)といった趣に落ち着いている。そりゃまあ奇蹟なんてそんなに頻繁に起こるものではないから、しかたがないといえばそうなのだけれど、とはいえタイトル曲“Dirty Dancing”で繰り広げられるふたりのシンセの応酬や、あるいは“Taxi Rank”の不思議な疾走感からは、まだ見ぬ新天地の雄大な景色を想像することができる。
 成功するかしないかはひとまず脇に置いておいて、こういう特異なもの同士の接続それ自体はこれからもどんどん為されていくべきだろう。周縁的なものと周縁的なものとが出会ったときに奇蹟的に発生するかもしれない、豊穣なる余剰を夢想すること――それは音楽を享受する愉悦のひとつである。きっとゴムの次に到来するトレンドも、そういう刺戟的な出会いのなかから生み出されるに違いない。

 昨秋〈Honest Jon's〉からリリースされたアルバム『Disclosure』は、ダンスの機能性と音響のフェティシズムとを兼ね備えた佳作で、作り手のセンスの良さが伝わってくる素敵なアルバムだった(これもレヴューを書く機を逃してしまった1枚)。
 カッセム・モッセことグンナー・ヴェンデルはライプツィヒのテクノ・プロデューサーで、これまで〈Workshop〉や〈The Trilogy Tapes〉といった尖ったレーベルから作品を発表してきている。なんでも、ウータン・クランとペイヴメントとURを同時に愛す変わり者だとか。この俊英の出演するオールナイトのクラブ・イベントが5月19日に開催される。会場は代官山ユニット/サルーン。他の出演者も豪華だし、いやこれは行きたいね。

Millennium People presents
KASSEM MOSSE, RESOM, DJ NOBU, KABUTO

アンダーグラウンド・ヒーロー KASSEM MOSSE (カッセム・モッセ)による2年振りとなる東京でのライヴ、DJ NOBU と KABUTO による一夜限りの B2B セット、カッセムの盟友 RESOM (レゾム)が出演する刺激的なクラブ・ナイト。

開催日:2017年5月19日(金)
開場/開演時間:open / start: 23:30
入場料金:early bird: 2,000yen | adv: 2,500yen | with flyer: 3,000yen | door: 3,500yen
出演者:Line Up /

KASSEM MOSSE [Live]
RESOM
DJ NOBU (Future Terror) B2B KABUTO (DAZE OF FAZE)

HARUKA
1-DRINK
S-LEE

https://www.m-people-agent.com/millennium-people-presents-kassem-mosse-resom-dj-nobu-kabuto/

東京・代官山の UNIT/Saloon にて “Millennium People presents KASSEM MOSSE, RESOM, DJ NOBU, KABUTO” が開催

UNIT Floor は、ハードウェアを駆使したリアルかつ生命感あふれるライヴでクラウドを魅了し続けるアンダーグラウンド・ヒーロー KASSEM MOSSE (カッセム・モッセ)と、KASSEM MOSSE の地元ライプツィヒ時代からの友人で、「反ナショナリズム/反差別主義」を掲げるベルリンのクラブ〈:// about bank〉のレジデントDJであり、オブスキュアでレフトフィールドな選曲によるストレンジなプレイに定評のあるフィメールDJ、RESOM (レゾム)のふたりをドイツから招聘。対するは〈Future Terror〉主宰 DJ NOBU と、元〈Future Terror〉、現〈DAZE OF PHAZE〉主宰の KABUTO による一夜限りの B2B セット。

Saloon Floor は、6月に初の欧州ギグを予定している〈Future Terror〉の Haruka、Disco / House / Techno / Bass の境界を彷徨いながら、最近は更にピッチダウンした Electro Funk から Digital Dancehall まで展開する DJ 1-DRINK、DJ NOBU の新パーティ GONG の第1回にも出演した〈Riddim Noir〉主宰、新星 S-LEE の3組。

シーンきっての異才たちが結集して織りなすファットなグルーヴとユニークなリズム、アヴァンギャルドなエレクトロニック・サウンドが交錯する刺激的な一夜となるだろう。


【出演者紹介】

■ Kassem Mosse (Workshop, Honest Jon's, Ominira)

〈workshop〉からのリリースによりブレイクしたライプツィヒが誇る若手プロデューサー、グナー・ヴェンデル aka カッセム・モッセは、いまドイツで最も熱い実力派アーティストのひとりである。オマー・S の〈FXHE〉、ドイツの〈Laid〉や〈Mikrodisko〉、UKの〈nonplus+〉などからもアヴァンギャルドながら、ファンキーな魅力も併せ持つエレクトロ~ディープ・ハウス~テクノの傑作トラックを多数発表、カルト的人気を得ているアンダーグラウンド・ヒーローだ。同郷の盟友 Mix Mup とのユニット、MM/KM として〈The Trilogy Tapes〉からのリリースも評判になっており、自身のレーベル〈Ominira〉からも多様なスタイルの作品を発表、昨年は名門〈Honest Jon’s〉から実験的なアルバムを出し話題になるなど、非常に精力的ながら独自のスタンスで活動を続けているユニークな存在。また、パフォーマンスにおいても一点に留まることがない。つねにセッティングや内容を変え、2回と同じことはしない、まさに「ライヴ」感満点なセットだ。特に Kassem Mosse 名義ではヒップホップにも通じるラフなビート感、自然と身体が動いてしまうグルーヴを備え、何度見ても新しさを発見させてくれる。

https://ominiraisfullofnoises.org
https://osresonance.net
https://www.facebook.com/kassemmosse
https://twitter.com/KareemMoser

■ Resom (:// about bank)

この1~2年で急に頭角を現してきたように見える(かもしれない) Resom (レゾム)は、ベルリンではよく知られた存在だ。反ナショナリズム、反差別主義を掲げる、ベルリンの中でも特にリベラルなスタンスのクラブ、〈:// about bank〉のレジデントDJを長年務め、ライプツィヒでの学生時代からの友人であるカッセム・モッセや Mix Mup (ミックス・マップ)らを陰で支えるブッキング・エージェントとしての顔も持ち、それ以外にもつねに様々なイベントのオーガナイズや、制作に関わってきた。音楽業界における女性の地位向上のためにも行動する、フェミニストでありアクティヴィストでもある。そのDJスタイルは一言では形容しがたい、非常に独特なもので、ジャンルで言えばアンビエントからエレクトロ、歌物からミニマルまで非常に幅広く縦横無尽にミックスしていくのだが、ただ色々かけているというのではなく、彼女の中で明確なイメージやテーマがあり、それをもっともオブスキュアでレフトフィールドな選曲によって紡ぎ出していくような、まったく予測不可能ながら、いつも彼女らしいちょっぴりストレンジな高揚感に到達させてくれるのである。Ben UFO や DJ NOBU も絶賛する彼女の個性を、ぜひ一度体験してみて欲しい。

https://www.residentadvisor.net/dj/resom
https://soundcloud.com/resi-resom
https://www.facebook.com/resom


【リリース情報】

アーティスト: Kassem Mosse / カッセム・モッセ
タイトル: Disclosure / ディスクロージャー
レーベル: Honest Jon's / Pヴァイン
品番: PCD-24562
発売日: 2016.10.19
価格: 2,400円+税
解説: Yusaku Shigeyasu

[Tracklist]
01. Stepping On Salt
02. Phoenicia Wireless
03. Drift Model
04. Galaxy Series 7
05. Collapsing Dual Core
06. Monomer
07. Galaxy Series 5
08. Aluminosilicate Mirrors
09. Long Term Evolution
10. Molecular Memories
11. Purple Graphene

https://p-vine.jp/music/pcd-24562


Laurel Halo - ele-king

 もし「近年のエレクトロニック・ミュージックの担い手たちのなかで、OPNやアルカと肩を並べるくらいのタレントは誰か」と問われたなら、僕は迷わずローレル・ヘイローの名を挙げる。『Quarantine』『Chance Of Rain』『In Situ』と、作品ごとにスタイルを変えながらしかしつねに唯一無二のサウンドを響かせてきた彼女が、この初夏にニュー・アルバム『Dust』をリリースする。いま彼女が鳴らそうとしているのはいったいどんなサウンドなのか? 彼女は今年の1月に初音ミクにインスパイアされたプロジェクトの新曲も発表しているが、来るべき新作にはそれと関連した要素も含まれているのだろうか? いろいろと疑問は尽きないけれど、クラインラファウンダも参加していると聞いては、期待しないでいるほうが難しい。『Dust』は6月23日に〈ハイパーダブ〉よりリリース。

 ところで、「宅録女子」という言葉、いい加減なんとかならんのだろうか……

宅録女子から唯一無二の気鋭音楽家へ
〈Hyperdub〉に復帰し完成させた待望の新作『Dust』のリリースを発表!
ジュリア・ホルターやイーライ・ケスラーなど注目の才能が多数参加した注目作から
新曲“Jelly”のミュージック・ビデオを公開!

いきなり英『WIRE』誌のアルバム・オブ・ザ・イヤーを獲得し、主要メディアが絶賛したデビュー・アルバム『Quarantine』やエクスペリメンタル・テクノ作『Chance of Rain』などのアルバムを通し、高度なスキルと独創性を兼ね備えたポスト・インターネット世代の代表的アーティストとして注目を集めるローレル・ヘイローが、2015年に〈Honest Jon’s〉からリリースされたアルバム『In Situ』を経て、再び〈Hyperdub〉に復帰! 会田誠の『切腹女子高生』をアートワークに使用したことも話題となった『Quarantine』以来となるヴォーカル作『Dust』を完成させた。

今回の発表と同時に、昨年〈Warp〉からデビューを果たしたLafawndahとサウス・ロンドンのシンガー兼プロデューサー、Kleinがヴォーカル参加した新曲“Jelly”を公開した。

Laurel Halo - Jelly (Hyperdub 2017)
https://youtu.be/IrjeMN_U1hw

本作の作曲作業は、実験的な科学技術を使った作品、電子音楽やパフォーミング・アーツの発表/研究/作品制作のほか、ワークショップやトークなどをおこなう施設として設立されたメディア&パフォーミング・アーツ・センター(Experimental Media and Performing Arts Center)、通称EMPACでおこなわれている。そこで様々な機材へアクセスを得たローレル・ヘイローは、制作初期段階をひとりでの作業に費やし、終盤では前述のLafawndahと、ニューヨークを拠点にパーカッショニスト兼画家としても知られるEli Keszlerを招き、セッションを重ね、2年間の制作期間を経て完成させた。

より洗練されたソング・ライティングとカットアップ手法、即興を取り入れた電子音が特徴的な本作には、そのほか、Julia Holterや$hit and $hineのCraig Clouse、Zsのメンバーであるサックス奏者、Sam Hillmerのソロ名義Diamond Terrifierなどが参加し、そのハイセンスな人選にも要注目。

参加アーティスト:
Klein
Lafawndah
Michael Salu
Eli Keszler
Craig Clouse ($hit and $hine)
Julia Holter
Max D
Michael Beharie
Diamond Terrifier

ローレル・ヘイローの最新アルバム『Dust』は、6月23日(金)に世界同時リリース! 国内盤にはボーナストラックが追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。iTunesでアルバムを予約すると、公開された“Jelly”がいちはやくダウンロードできる。

label: HYPERDUB / BEAT RECORDS
artist: LAUREL HALO
title: DUST
release date: 2017/06/23 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-551 定価 ¥2,200(+税)
ボーナストラック追加収録 / 解説書・歌詞対訳封入

iTunes: https://apple.co/2pVIFwG

[TRACKLISTING]
01. Sun to Solar
02. Jelly
03. Koinos
04. Arschkriecher
05. Moontalk
06. Nicht Ohne Risiko
07. Who Won?
08. Like an L
09. Syzygy
10. Do U Ever Happen
11. Buh-bye
+ Bonus Tracks for Japan

Chihei Hatakeyama + Federico Durand - ele-king

 いまや日本のアンビエント・ミュージック・シーンを牽引する存在といっても過言ではない畠山地平。彼は2006年に米〈クランキー〉からデビューして以降、〈ルーム40〉、〈ホーム・ノーマル〉、〈オウン・レコード〉など国内外のレーベルから素晴らしいアンビエント・ミュージックを多くリリースしてきたアーティストである。
 また、マスタリング・エンジニアとしれも知られる畠山は、レーベル〈ホワイト・パディ・マウンテン〉を主宰し、自身のソロ・ワークやコラボレーション・ワークのみならず、シェリング(新作リリース!)、岡田拓郎+ダエン、ハコブネ、ファミリー・ベーシック、フェデリコ・デュランドなど、数多くのアーティストたちの素晴らしいアルバムを送り出してきた。このラインナップを見るだけでも分かるが、〈ホワイト・パディ・マウンテン〉がリリースする作品は、いわゆるアンビエントだけに留まらず、シューゲイザーからドリーミーなポップまで実に幅広い。しかし、そこには共通するトーンがあるようにも思える。
 マスタリング・エンジニアでもある畠山らしいサウンドのトリートメントかもしれないが、それだけではない。どの作品からも濃厚な「アンビエント/アンビエンス」の空気が醸し出されているのだ。清冽で、濃厚な、空気=時間の深い感覚。それが〈ホワイト・パディ・マウンテン〉の魅力に思える。そして、これは畠山地平のアンビエント作品にも共通する感覚である。

 この春、〈ホワイト・パディ・マウンテン〉から2枚のアンビエント・アルバムがリリースされた。ひとつは、畠山地平+フェデリコ・デュランドによる『ソラ』。もうひとつは伊達伯欣(イルハ)とフェデリコ・デュランドのデュオ・ユニット、メロディアの新作『スモール・カンバセーションズ』である。
 フェデリコ・デュランドはアルゼンチン出身で1976年生まれのアンビエント・アーティスト。〈ホワイト・パディ・マウンテン〉、〈スペック〉、〈12k〉、〈プードゥ〉など錚々たるレーベルからアルバムを発表してきたことでも知られ、この2017年は、すでに〈12k〉からソロ・アルバム『ラ・ニーニャ・ジュンコ(La Niña Junco)』を発表している。『ラ・ニーニャ・ジュンコ』もまた彼らしい優雅な時間と深い記憶の交錯、純朴な音と繊細なサウンド・トリートメントによって、「音楽」が溶け合うようなアンビエント・アルバムに仕上がっていた。聴いていると耳がゆっくりと洗われるような気分にもなってくる。ちなみにローレンス・イングリッシュが主宰する〈ルーム40〉からの新作も控えている。

 そう考えると、フェデリコと畠山地平とのコラボレーションの相性の良さも分かってくるだろう(彼らは新作『ソラ』以前もコラボレーション作品をリリースしている)。畠山のアンビエンスもまた身体の記憶から生まれるような濃厚な時間、繊細さを称えたアンビエントなのである。ゆえに彼らの音は体に「効く」。聴き終わったあとに心身ともに浄化された気分になる。
 本作『ソラ』もまた同様である。1曲め“アナ”の密やかなノイズの蠢きと細やかな音の揺らぎ、音楽と音響の境界線が溶け合うアンビエンス。2曲め“ナツ”の深い響きと繊細な音量の変化によって生まれる透明なドローン。3曲め“ルイザ”の星の光のような音の瞬きの清冽さ。4曲め“キサ”の冬の厳しさのようなノイジーな音。5曲め“イルセ”の春の息吹のようなアンビエント/アンビエンス。
 全5曲、どのトラックも、ふたりのアンビエント・アーティスト特有の「時間・記憶・音意識」が繊細な空間意識と音響感覚で見事に融合している。記憶と時間の結晶? まるで異国の地への郷愁のような、不思議な旅情を称えたアンビエント・アルバムのようにも思えた。

 一方、伊達伯欣とフェデリコ・デュランドのデュオ、メロディアのサード・アルバム『スモール・カンバセーションズ』は、音数を限りなく減らしたミニマムな音世界を展開する。ふたりのギター、ピアノ、僅かな環境音。このミニマムな編成のなか、伊達とフェデリコは、非反復的に、点描のようにポツポツと素朴な響きを落としていく。まるで小さな会話のように。とても少ない音数だからこそ、聴き手との「あいだ」にもイマジネーションゆたかな「会話」=「音楽」が立ち現われてくる。それは慎ましやかな「音楽」だが、同時に、聴き手を深く信頼しているような音楽/アンビエンスである。
 1曲め“ア・ブルー・プレイス”と2曲め“ア・ラスト・メッセージ・オブ・ア・レイニー・デイ”は、ふたりのギターによる点描的で乾いた音の連鎖。3曲め“レヴェリー”では淡いピアノが断続的に鳴り、朝霧のようなドローンが生まれては消えていく。4曲めにして最後の曲“ア・ライラック・ネーム・リィトゥン・オン・ウォーター”は楽器が消え去り、透明なアンビエント/ドローンを展開する。その透明な空気のカーテンのようなドローンに、微かなノイズがレイヤーされ、音楽・記憶・時間の融解するような感覚が生まれているのだ……。

 以上、2作とも作風の違うアンビエント作品だが、濃厚で繊細な時間の生成という意味では共通する。美しく、儚く、優しく、心と体に効く。そんなアンビエント/アンビエンスのタペストリーがここにあるのだ。新しいアンビエント・ミュージックを聴きたい方に、心からおすすめしたいアルバムである。

TOYOMU - ele-king

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Jeff Parker - ele-king

 去る4月に最新ソロ作『The New Breed』の日本盤がリリースされたジャズ・ギタリスト、ジェフ・パーカー。彼はトータスのメンバーとして有名ですが、ソロとしても魅力的な活動を継続しています。その彼の来日公演が来週から始まります。スコット・アメンドラ・バンドやトータスのステージも含めると、なんと14公演もプレイする予定です。詳細を以下にまとめましたので、ぜひチェックしてください!



■SCOTT AMENDOLA BAND featuring
 NELS CLINE, JEFF PARKER, JENNY SCHEINMAN & CHRIS LIGHTCAP

会場:COTTON CLUB
日程:2017年5月11日(木)~5月13日(土)
時刻:
●5.11 (thu) & 5.12 (fri)
[1st. show] open 5:00pm / start 6:30pm
[2nd. show] open 8:00pm / start 9:00pm
●5.13 (sat)
[1st. show] open 4:00pm / start 5:00pm
[2nd. show] open 6:30pm / start 8:00pm
出演:Scott Amendola (ds), Nels Cline (g), Jeff Parker (g), Jenny Scheinman (vln), Chris Lightcap (b)

* ウィルコのネルス・クラインとともにスコット・アメンドラ・バンドの公演に出演。

https://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/scott-amendola/


■Jeff Parker『The New Breed』発売記念ミニ・ライヴ、トーク&サイン会

会場:タワーレコード 渋谷店 6F
日時:2017年5月14日(日) 16:00 start
出演:Jeff Parker (Jeff Parker & The New Breed, TORTOISE), 柳樂光隆 (Jazz The New Chapter) ※インタヴュアー

* 〈HEADZ〉主催のインストア・イベントに出演。今回の来日公演のなかでは唯一のソロ・ライヴ。

https://towershibuya.jp/2017/05/01/95261


■TORTOISE

会場:Billboard LIVE TOKYO
日程:2017年5月15日(月) & 2017年5月17日(水)
時刻:[1st] 開場 17:30 開演 19:00 / [2nd] 開場 20:45 開演 21:30

会場:Billboard LIVE OSAKA
日程:2017年5月19日(金)
時刻:[1st] 開場 17:30 開演 18:30 / [2nd] 開場 20:30 開演 21:30

* ビルボードライブ東京およびビルボードライブ大阪にてトータスの単独公演が開催。

PC: www.billboard-live.com
Mobile: www.billboard-live.com/m/


■GREENROOM FESTIVAL ‘17

会場:横浜赤レンガ地区野外特設会場
日程:2017年5月21日(日)

* GREENROOM FESTIVAL ‘17の2日目、〈GOOD WAVE〉ステージにトータスとして出演。

https://greenroom.jp

【リリース情報】

アーティスト: Jeff Parker / ジェフ・パーカー
タイトル: The New Breed / ザ・ニュー・ブリード
レーベル: International Anthem Recording Company / HEADZ
品番: IARCJ009 / HEADZ 218
発売日: 2017.4.12
価格: 2,000円+税
日本盤ライナーノーツ: 柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
※日本盤のみのボーナス・トラック Makaya McCraven Remix 収録

[Tracklist]
01. Executive Life
02. Para Ha Tay
03. Here Comes Ezra
04. Visions
05. Jrifted
06. How Fun It Is To Year Whip
07. Get Dressed
08. Cliche
09. Logan Hardware Remix (produced by Makaya McCraven)

https://www.faderbyheadz.com/release/headz218.html


【関連盤ご紹介】

アーティスト: Jamire Williams / ジャマイア・ウィリアムス
タイトル: Effectual / エフェクチュアル
レーベル: Leaving Records / Pヴァイン
品番: PCD-24617
発売日: 2017.4.19
価格: 2,400円+税
解説: 柳楽光隆(Jazz The New Chapter)
※日本盤限定ボーナス・トラック2曲収録

[Tracklist]
01. Who Will Stand?
02. The Fire Next Time
03. Selectric
04. Truth Remains Constant
05. Dos Au Soleil
06. Chase The Ghost
07. Wash Me Over (Pollock's Pulse)
08. In Retrospect
09. Futurism
10. [ Selah ]
11. Children Of The Supernatural
12. Illuminations
13. The Art Of Losing Yourself
14. Collaborate With God
15. Collaborate With God (Drums and Strings Mix)
16. Triumphant's Return

* ジェフ・パーカー『The New Breed』にも参加するドラマー、ジャマイア・ウィリアムスによるデビュー・アルバム。

https://p-vine.jp/music/pcd-24617

interview with Arca - ele-king

自分は100%プロデューサーだとも、あるいは自分は100%シンガー・ソングライターだとも感じていないんだよ。僕が「自分は中間にいる、どっちつかずだ」と感じる。そんなわけで、僕のこれまでの人生というのはずっとこう、思うに……「中間に存在する」っていう瞬間の集積なんじゃないかな。


Arca - Arca
XL Recordings/ビート

ExperimentalArca

Amazon

 無性の生命体である「ゼン」、あるいはその名の通りの「ミュータント」と、これまでのアルカの表現は自画像を極端なまでに奇形化したものとして出現していた。それは彼、アレハンドロ・ゲルシのルーツであるヴェネズエラにおいて同性愛を隠さねばならなかったことと密接に関わっていることはすでに明らかにされており、彼が描く官能はひどく禍々しくグロテスクなものだ。それはヴェネズエラ時代の彼にとってセクシュアリティ自体が端的に異物だったからだ。
 さらに過剰に断片化したビートやノイズが吹き荒れる攻撃的なミックステープ『Entrañas』を通過して、しかし、彼の新作『アルカ』はゲルシ自身の声と歌を中心に据えたもっとも甘美な一枚となった。そこではたしかにインダストリアルな音色や複雑怪奇な打撃音の応酬も聞こえはするが、それ以上に引きずりこまれるように誘惑的な旋律が響いている。それはかつて自分が話していた言葉であるスペイン語で歌うことを通して、自身の内面と過去の痛ましい記憶にさらに潜行し、そこにたんなる悲しみや苦しみで終わらない美しい何かを見出したことによるものだ。『アルカ』はだから、ゲルシが異物としての自分を柔らかく受容するアルバムである。
 
 以下のインタヴューでアルカは、自らのメランコリーやセクシュアリティ、歌うことやあるいは彼だけの「美」について驚くほど率直に語っている。隠蔽されていたものが解放される瞬間に沸き起こるエロス、その眩しさをアルカはわたしたちに余すことなく体感させようとする。 (木津)

このレコードで何が起きたかと言うと――たまたまなんだけれど、自分の取り組んでいたテーマ群そのものが、僕に自分のヴォイスを用いることを欲してきたんだ。だから、ある特定の類の……「傷つきやすさ」を現す、その必要が僕にはあった、と。それからまた、ある種の……「生々しさ」を体現する、その必要もあった。

坂本(以下、□):もしもし、アルカでしょうか?

アルカ:うん、アルカだよ。(日本語で)ハジメマシテー!

(笑)わぁ……ハジメマシテ! す、すごいな(笑)。えーと、電話インタヴューをやる予定なんですけども、始めてかまわないでしょうか?

アルカ:(児童が答えるように元気な日本語で)ハイッ!!

(笑)このまま、日本語でインタヴューしましょうか?

アルカ:いやいやいや、それはなし(笑)! どうなるか、想像してごらんよ(笑)……ヨロシクオネガイシマース!

(笑)ヨロシクオネガイシマース。にしても、アルカさん、日本語お上手ですね。

アルカ:日本に行ったことがあるし、日本は大好きだからね。フフフッ!

いつ、日本に行かれたんですか? 

アルカ:日本には何度も行ったよ。たしかもう4回、いや、5回くらい行ったことがあるんじゃないかな。

それは、ライヴをやるために、ですか?

アルカ:最初の3回は、旅行だったね。僕は……とても若い頃から、日本のカルチャーと強いつながりを感じていてね。だから、大学では日本映画と日本文学について学んだんだよ。

ああ、そうだったんですか! それは素晴らしい。

『アルカ』はとても独創的な音響を持ち、メランコリックで、しかもパワフルで、強く訴える何かを持った作品です。まず、アルカにとってはじめてのヴォーカル作品であり、ある意味ではシンガー・ソングライターとしてのアルバムだと言えます。高校生当時ニューロ(NUURO)名義で歌っていたとはいえ、やはりそれとは意味合いがかなり異なると思えますが、アルカというプロジェクトにおいて歌とは何を意味するのでしょうか? 

アルカ:フム……そうだな……君の言わんとしていることは理解できるけれども……そうだな、この点をもっとも簡単に説明するとすれば、思うに……ミュージシャンとして、自分が音楽を作る際に、僕は……ある種の「ゴーストたち」を、人間として、自分の人生のその時々の中に捜し求めているんだよ。で、僕はたいてい、いつも音楽を作っているわけだよね。だから……「これをやろう」と決めると言うよりも、むしろ「受け入れる」ってことなんだ。ときに、直観は僕にとある響きを持つひとつのレコードを作りなさいと言ってくるし、また、その次の作品はそれとはまったく違う音のものになることもある。ただ、そういう経験は僕にとってはべつに目新しいものでもなんでもなくてね。思うに、自分がつねに追い求めているのはそれなんじゃないか、と。
 というわけで……そうだな、今回はある意味、自分にとって楽ではないことをやろうと仕向けた、みたいな感じかな。自分自身にチャレンジしようと、とても努力したよ。というのも……もしも自分が挑戦を受けたら……そうやって、自分自身の内面で何かと闘おうとする、あるいは、自分でもこれまであまりよく知らなかった自分のとある側面にコネクトすべく奮闘すれば……おそらく、自分は自分の「正直さ」を見つけられるんじゃないか? と。コミュニケートするときの誠実さ、ということだよね。で、このレコードで何が起きたかと言うと――たまたまなんだけれど、自分の取り組んでいたテーマ群そのものが、僕に自分のヴォイスを用いることを欲してきたんだ。だから、ある特定の類の……「傷つきやすさ」を現す、その必要が僕にはあった、と。それからまた、ある種の……「生々しさ」を体現する、その必要もあった。だから、純粋に必然、だったんだ。なんというか、ほとんどもう自分の口が勝手に開いて声を出していた、みたいなね。というわけで、僕としては自然に声が出てくるのならそうさせようじゃないか、そう、意識的に決断するしかなかった、という。

なるほど。

アルカ:で……うん、これを「ある意味でのシンガー・ソングライター•アルバム」と呼ぶのはアリだろ? 僕もそう思うんだよ。ただ、僕は……自分のこれまでの過去が非常に……複雑なものであったこと、その点については本当に感謝している、というかな。だから、僕というのは……人生のじつに多くの面において、僕は「自分は“中間点(in between)”にいる」、そんな風に感じていてね。だから、僕はヴェネズエラで生まれたけれど、いまこうして話していてもお分かりのように、ヴェネズエラの訛りなしで英語で話している。だから、僕はふたつの言語をアクセントなしで喋っている、ということ。で、それがどういうことかと言えば、アメリカ、ヴェネズエラの両国でそれぞれ暮らしていたときも、僕はいつだって「自分はアメリカ人だ」とも、あるいは「ヴェネズエラ人だ」とも感じたためしがなかった、という。だから、その意味で、僕には「自分はどこにも属することがなかった」みたいなフィーリングがあるんだよ。で……おそらく僕のセクシュアリティ、それから……僕の装いを通じての自己表現の仕方について、それらを……「アルカは、彼の抱いている“自分は(「あちら」でも「こちら」でもない)中間点に存在する”という感覚を、ああして外に見える形で出している」と評することはできると思う。セクシュアリティ、そしてジェンダーの双方の意味合いでね。

はい。

アルカ:で……だから、僕はそれと同じように、自分は100%プロデューサーだとも、あるいは自分は100%シンガー・ソングライターだとも感じていないんだよ。思うにそれもまた、僕が「自分は中間にいる、どっちつかずだ」と感じる、そういう場所のひとつなんだろうね。そんなわけで、僕のこれまでの人生というのはずっとこう、思うに……「中間に存在する」っていう瞬間の集積なんじゃないかな。で、「中間点」っていうのは、普通はみんなが避ける場所なんだよ。というのも、ものすごく居心地の悪い状態だから。

(笑)たしかに。

アルカ:そういう状態にいるなと自分が感じていると、まず、他者とのコミュニケーションが難しくなる。それに……自分自身に対しても楽でいにくくなる。というのも、「自分はどこにも属せないんだ」って風に感じているわけだからね。だから、たぶん、僕のこれまでの人生というのはすべてそうした「中間点/どっちつかず」の連続だったんだろうし、そんな空間に存在することで自分の感じている苦痛を、僕は……美しいものとして見ようとしている、あるいは、その苦痛から何かしら美しいものを作り出そうとトライしているんだ。おそらく、それがある意味、人間としての僕がたどる人生における旅路なんだろうね。ということは、それらは僕の作る音楽の中にも反映されることになる、という。

なるほど。ある意味、音楽作りを通じて、あなたはあなた自身が快適に感じられる「自分の空間」をクリエイトしようとしてきた、とも言えますか?

アルカ:まあ、そういう風に言うことも可能だろうね。ただ、僕だったらべつの言い方をするだろうね。だから、自分だったら、それをこう言うんじゃないかな……「僕は、自らの弱さの数々を“パワー”に変えようとしている」と。

ああ、分かります。

アルカ:だから、たとえば僕が自ら「恥だ」と感じるような物事、それらを僕は……祝福しようとトライする、というか。自分を悲しくさせてきた色んな物事、それらの中に、僕は……美を見出そうとする、と。だから単純に公平でニュートラルというのではないし、ただたんに「自分が楽に存在できる空間を作ろうとする」ではないんだよ。そうではなく、自分が自分のままで輝けるスペースみたいなものであり、かつ……自分は愛情を受けるに値するんだ、そんな風に感じられる空間、ということなんだ。

はい。

アルカ:だから……ただ「自分のことを許容し、大目に見てもらえる」程度の場ではなくて……愛を見つけることのできる、そういう空間を作ろうとしているんだよ。

と同時に、そこは「あなたがありのままのあなた自身でいられる場所」、でもあるんでしょうね。

アルカ:うん、そうだね。ただし……そう言いつつ、僕はいまのこの回答もややこしくしたいな、と思ってしまうんだけど。

(苦笑)はい。

アルカ:だから、ただたんに「自分自身のままでいることを許す」だけではなくて、同時に自分自身に「変化」も許す、という。

ああ、なるほど。

アルカ:だから思うに、ある意味……「自己」というのはそもそも存在しないんだよ。僕にとっては、そうだね。そう思うのは、もしかしたら僕の生まれ育ちのせいかもしれないけれども。だから僕はこれまで数々の「中間点」に存在する経験を経てきたわけだし、それもあって……僕たちはみんな、ちょっとばかり役を演じているところがあるんじゃないか? そう僕は思っていてね。だからたとえばの話、Tシャツにどうってことのないただのショーツ姿の男性を見かけた、としようか。気取りはいっさいなしだし、とても普通な見てくれの男性。ところが、そんな格好にしたって、やっぱりひとつの選択であることに変わりはない、みたいなね。要するに、ごく普通の格好をするってのは、その人は「目立ちたくない」と思ってるってことだよね。ただ、その「目立ちたくない」という想い自体、その人間が何らかの決定を下した結果だ、という。
 そんなわけで僕からすれば、自分たちの内面世界を、それがどんなやり方であれ、外に見える形で現した表現というのはすべて……とにかく、そこには「リアル」も「フェイク」も存在しないんだ、と。だから、僕たちはたまに自分たち自身で「自分は何かにすごく捕われている」と感じる状態に追い込んでしまうんじゃないか、僕はそう思っていて。ひとは「わたしはこういう人間です、これがわたしなんです」、「わたしはこうじゃなくちゃいけない」などと言うことによって自らを閉じ込めてしまう。そんなわけで、きみに「あなたの音楽は、あなたが自分自身であるためのプロセスということでしょうか?」と問われたら、僕は「イエス」と答えるわけだけど、と同時に「だけど、それ以上に大切なのは、僕自身が変化することのできる、そういう場所を見つけることだ」と言うだろうね。だからそのときどきの僕の感じ方次第で、あるいはその日に自分の感じた「僕はこんな人間なんだな」というフィーリング次第で変われる、そういう場所。だから……たんに「どちらか一方」という話ではなくて、その両方を切り替えることのできる状態、という。それって……より自由に自らを表現させてくれる、そういう何か、なんじゃないかな?

何に対してもコメントがくっついてくる、という。だから、あらゆるものがインターネットによって消費されている時代だし、少なくとも西洋社会のウェブサイト群においては、そこにかならず「ユーザーのコメント欄」みたいなものが添えてあるじゃない?

あなたのアルバム作品はこれまでもセルフ・ポートレイト的な意味合いが大きかったと思うのですが――

アルカ:ああ、うん。

本作『アルカ』ではさらに踏み込んであなたの内面の愛や欲望、性愛といったモチーフが赤裸々に言葉で歌われています。アルバム・タイトルを『アルカ』にしたのも、自身の正体もしくはトラウマを明かすという意味があるのでしょうか?

アルカ:んー……僕としては……「さらに踏み込んだ」、以前よりもその度合いが増したとも、減った、とも言わないね。正直なとこ、そうだな。思うに……僕の中には……人々とコネクトする、それだけの強さを充分に備えた部分もあるからね。

ええ。

アルカ:だから、僕は……自分の音楽において「正直であろう」、そう非常に努力しトライしてきたんだよ。で……ただ、今回のアルバムについては、たまにこんな風に感じもしたんだ。「もしもここで自分を誤解されても、僕としてはオーケイ、かまわない。けれど、僕はより無防備で傷つきやすい何かを、自分自身にもっと近い何かを聴き手とシェアしたいんだ」、とね。で、それをやるのは本当に難しかったんだよ。というのも、とてもおっかないことだからね。そうやって自分の内面を明かすのは、とても恐ろしいことだ。というのも、思うにいまみたいな時代、この2017年という年は、何もかもがこう、ものすごく「即座」なわけじゃない? 僕たちが音楽を消費する、そのやり方にしても一瞬なわけで。

はい。

アルカ:そんなわけで、何に対してもコメントがくっついてくる、という。だから、あらゆるものがインターネットによって消費されている時代だし、少なくとも西洋社会のウェブサイト群においては、そこにかならず「ユーザーのコメント欄」みたいなものが添えてあるじゃない?

ええ。

アルカ:で、そういう2017年の社会に対し自分自身を開いて明かすってのは、かなり……なんというか……フム……だから「危険な行為だ」ってフィーリングがある、という。ゆえにそれをやるには、自分は本当に強いんだ、自らを明かすだけの確信が自分にはちゃんとある、そう強く感じる必要があるんだよ。でも僕にとっては、自分をもっとクリアなやり方で人びとから理解してもらうべくトライすること、それはとても重要だったし、かつ「自分はどちらでもない“中間点”にいる」という風に強く感じている、そういう他の人びととコネクトしようと努めることは非常に大切だったから、(たとえ危険な行為であっても)これはやるに値することだ、そう感じた、みたいな。

なるほど。

アルカ:きっと、それなんだろうね、ひとりの人間としての僕にとって重要なことというのは。だから、人びとから「あなたの音楽を聴いたおかげで、『自分はひとりじゃない』と感じて、孤独感が薄れました」と声をかけられたときだとか……あるいは、「自分は異形の者だ」とか、「自分はミュータントだ」なんて風に感じている誰かのことを、たぶん僕は自分の活動を通じて……ただたんにそのひとに「自分はこのままでかまわない、オーケイなんだ」って感じさせるだけではなくて、彼らを彼らたらしめている「他との違い」を、彼ら自身に祝福させることができるんじゃないかな。あるいは、彼らが自ら恥だと感じているような物事を、そうではなく美しいものとして眺めようとすること、というか。だから、さっききみが言っていたような「自らの内面を明かそう、自分自身の内面における対話をもっと表そう」っていう勇気を僕に与えてくれたのは、たぶん、そうした想いだったんだろうね。意味、通じるかな?

はい、分かります。で、自分自身でこれは重たい作品だと思いますか?

アルカ:(軽く、「ハーッ」と息をついて)……うん、たしかにヘヴィな作品だと感じるけれど……なんというか、その重さというのはある意味……重いんだけど、でも、同時にほとんどもう「祝福」みたいなものでもある重さ、というか。で、これって、以前に友だちに説明しようとしたことと同じ話なんだけど……僕たちのレコードというのは……そうだな、まあ、ここでは、自分が毎回使うおなじみのメタファーにまた戻らせてもらうけれども――まず、「自分はドロドロの沼地の中に立っている」、そういう図を想像してみてほしい。

はい。

アルカ:で……そこは何やら暗い場所で、しかも沼は毒を含んだ有害なもので。その水に、きみは膝まで浸かっている。いや、もっとひどくて、胸までその水に浸かった状態、としよう。

(苦笑)うーん、嫌ですねぇ。

アルカ:ところが、そんな君の頭上には、白い光のようなものが差している、と。だから、その有毒な水というのは、きっと……深淵(abyss。地獄の意味もある)や罪、そして悲しみすら表現しているんだよ。対して頭上にある光というのは、ある種の……希望だ、と。だから、そんな毒性のある水に浸かってきたとしても、その人間がいまだに頭上にある光に目を向け続けているとしたら……それはある意味、ただただ楽しいだけのレコード、「FUN」について歌っただけのレコードよりも、もっとオプティミスティックなものなんじゃないのかな? そうやって重さに敬意を表し讃えるのは、自分が楽しい状態になるための、そして「生」を祝福するための、僕なりのやり方なんだ。というのも、あらゆるものというのは……同じコインの裏/表みたいなものじゃないか、僕はそんな風に思っているからね。たとえば苦痛と歓喜とは、何らかの意味を持つためにそれぞれお互いを必要としているわけだし……そうだね、イエス! だから、僕はこれを「重いレコード」と呼ぶだろうけど、なぜヘヴィな方向に向かったのか? と言えば、それはある意味において、僕が光を信じているからなんだよ。

なるほど。

アルカ:もしも光を信じていなければ、これほど重く感じられる何かを作る、それだけの強さが僕には備わらなかっただろうからね。

そう言われると、これは個人的な印象に過ぎませんけど、アルバムの最後のトラックである“Child”は特に、聴いていると心の中に光を感じる、そういう美しい曲だと思います。

アルカ:それは、とても……(軽く感極まったような口調で)きみがそこを僕と分かち合ってくれたのは、本当に嬉しいよ!

いやいや、こちらこそ、ありがとうございます。

» アルカ、ロング・ロング・インタヴュー(2)

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