「K A R Y Y N」と一致するもの

interview with Purity Ring - ele-king


Another Eternity - Purity Ring

ElectronicR&BDream Pop

Tower HMV Amazon iTunes

 デビュー・アルバムがリリースされ、フェス出演のためにはじめて来日したとき、彼らは近所の若い人か職場の後輩のような親しみやすさと素朴さをあふれさせていて、コリン・ロディックは「この服はミーガンの手作りなんだ」と黄色いズボンを示してみせた。このふたりがこの後〈フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)〉のステージに立つなど想像できない──つねにツアーの途上、というようなUSのインディ・アーティストたちのような活動とも異なり、本ユニットにおいてはベッドルームがとつぜんステージに直結してしまったというようなピュリティ・リングのたたずまいには、当時のドリーム・ポップの盛り上がりや、あるいはインターネットを前提とした音楽コミュニケーションを象徴するようなところがあった。

 ピュリティ・リング。カナダの男女デュオ。ネットで公開した音源が話題を集め、2012年に名門〈4AD〉からフル・アルバム『シュラインズ』をリリース。その後はレディ・ガガのオフィシャル・リミックスなど活動の幅が大きく広がった。同じくカナダのプロデューサーで〈4AD〉のレーベル・メイトでもあるグライムス(Grimes)にやや遅れるかたちで、しかしチルウェイヴやシューゲイズなど新しいサイケデリック・ミュージックの盛り上がりともシンクロしながら、同レーベルがふたたび輝いた時代を体現したユニットだ。
 それから約3年、今回取材に応じてくれたコリンの回答からは、純朴さや音楽に対する生真面目さは残しながらも、少しタフになった印象を受ける。新譜もまさにそんな印象だ。経験値の上がった無垢をどのように評価するか筆者には悩ましいところだが、『アナザー・エタニティ(Another Eternity)』はより多くの人に聴かれることになるだろう。

■Purity Ring / ピュリティ・リング
コリン・ロディック (Corin Roddick) とミーガン・ジェイムズ (Megan James)、カナダはハリファックス/モントリオールを拠点に活動する男女デュオ。ゴブル・ゴブル(現ボーン・ゴールド)のドラムとヴォーカルとして活動し、のちに独立して曲作りをはじめる。11年1月にインターネットで発表した音源が世界的な注目を浴び、英老舗レーベル〈4AD〉と契約、2012年7月『シュラインズ』で世界デビューを果たし、フジロック'12に出演のため初来日。ダニー・ブラウンやジョン・ホプキンスとの共演や、レディー・ガガの楽曲のオフィシャル・リミックスを行うなど精力的に活動。2015年3月にセカンド・アルバム『アナザー・エタニティ』がリリースされた。


俺もミーガンも映画を見たり本を読んだりはよくするし、テレビ・ゲームもする。あと、音楽を作る環境もよく変える(笑)。

ぐっとR&B色が強まりましたね。これは誰のアイディアなのでしょう?

コリン・ロディック(以下コリン):自分ではそんなこと考えなかったからさっぱり(笑)。最初のアルバムも、ドラムやプログラミング、使ったリズムのタイプとか、ヒップホップの要素はたくさんあったと思う。それとまったく同じリズムを使ったわけではないけど、今回のアルバムでもそういったリズムを使ってるから、そこかな? ニュー・アルバムではサウンドがもっとクリアになっているから、ヒップホップやR&Bの要素が前回よりもわかりやすくなっているんだと思う。自ら意識してR&B色を強めようとしたわけではないんだ。

あなたはもともとR&Bが好きでもあるんですよね。

コリン:そう。いろいろなタイプの音楽が好きだけど、その中でもR&Bはたくさん聴くよ。

その中でも自分の原点にあるような音楽とは?

コリン:うーん……難しい質問だな(苦笑)。パッとは思いつかないけど、お気に入りはジャネット・ジャクソン。だけってわけではないけど、彼女は王道だと思うし、素晴らしい作品をたくさん持ったアーティストだと思うから。

では次は、最近のR&Bで気になるものを教えてください。

コリン:そうだな……、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)のアルバムはいいと思った。前よりもポップになってはいたけど、まだまだR&Bだと思うし、去年の俺のお気に入りのアルバムのひとつ。今年はいいR&Bのアルバムがもっとたくさん出てくるんじゃないかな。

また、とくに今作についてつよい影響を与えるような体験や音楽、表現などはありましたか?

コリン:俺もミーガンも映画を見たり本を読んだりはよくするし、テレビ・ゲームもする。あと、音楽を作る環境もよく変える(笑)。だから、そういったいろいろなものから影響や刺激を自然と受けてるんだ。どうやってかはわからないけど、そのすべてが自然と自分たちの音楽に入ってくる。この音楽とかこの映画とか、ピンポイントでこれっていうのは説明できないけどね。意識はけっしてしてなくて、そういった日々のまわりにあるものが、自分の脳というフィルターを通して音に出てくるんだよ。

レディ・ガガのリミックスは、ガガさん本人があなたたちの音楽を気に入られたからですよね? 

コリン:ははは(笑)。そう思いたいけどね。俺たちのリミックスを気に入ったっていうのは実際に聴いたけど。あの経験はクールだった。リミックスのオファーが来たのは光栄だった。彼女は尊敬すべきアーティストだし、おもしろい音楽をたくさん作ってる。関わることができてハッピーだったね。

あなたたちのドリーミーで抽象的な音と、レディ・ガガさんのある意味では直接的な表現や音では、真逆ともいえる性質を持っていると思いますが、彼女の音楽を料理するにあたってどんなことを考えましたか?

コリン:俺のアプローチは、とにかく彼女のヴォーカルだけはキープして、そのまわりのものを剥ぎ取っていくというやり方だった。そこからまた自分で曲を再構築していきたいと思ったんだ。リミックスというより、自分のオリジナル・ヴァージョンを作る、みたいな感じ。新曲を作るみたいにね。それだけは取り掛かる前から決めていた。DJがプレイしたいような作品とか、普通のリミックスとか、そんなのはぜんぜん頭になかったんだ。だからあのリミックスは、レディ・ガガの作品にも聴こえるし、ピュリティ・リングのトラックにも聴こえると思う。

ご自分たちにはどんなことが求められていると思いましたか?

コリン:ぜんぜんわからなかった。何も言われなかったし、頼まれたってことは俺たちの音楽を気に入ってくれてるからなのかなってことくらいしかわからなかったね。彼女の音楽と俺たちの音楽に何か通じるものがあったのかもしれないし。いま振り返るとおもしろいな。あのリミックスをやったのは、『シュラインズ(Shrines)』(2012年、ファースト・アルバム)を完成させて、『アナザー・エタニティー(Another Eternity)』を作る前、つまりその二つの作品の中間地点だった。『シュラインズ』のサウンドには戻りたくないけど、同時にどんなサウンドを作りたいのかもわからないっていう、変な時期だったんだよね。自分の中で、いろいろと模索している時期だったんだ。

レディ・ガガの音楽は聴きます?

コリン:彼女の音楽は好きだよ。全曲ってわけではないけど。これはポップ・スター全員に言えることだと思う。いいヒットもあるし、あまり魅力的ではない曲もある。レディ・ガガのようなビッグなポップ・スターたちは、本当にたくさんの人たちと作業しているから、音楽がアルバムごとに、もっと言えばアルバムの中の曲ごとに変わってくる。サウンドの形が、誰と作業するかで変化するんだよね。だから、自分好みの曲とそうでないものが出てくるんだけど、俺自身が好きな彼女の曲は何度も聴いてるよ。

ジョン・ホプキンスとのコラボレーションもありました。こうした他のアーティストたちとの仕事や関わりは、あなたたちの存在感ばかりでなく、音にも影響を及ぼしたのではないかと思いますが、いかがでしょう?

コリン:ジョン・ホプキンスに関しては、最初に彼と仕事したのは『シュラインズ』の中の“Saltkin”っていう曲。あの曲のミックスをやっていたときに困ってしまって、彼に連絡をとって協力を頼んだら、彼も興味をもってくれていたからお願いすることにした。だから、あの曲だけが『シュラインズ』の中で自分がミックスしなかった曲なんだ。彼はあの曲におもしろい要素を加えてくれた。だからそこから彼と近くなって、またいっしょにやろうということになったんだ。ショーもいくつかいっしょにやったし、リミックスもしてくれたし、ミーガンも彼の曲で歌ったりして、彼とはけっこう関わってる。彼と俺たちっていうのは、クールなコンビネーションだと思うんだよね。彼のサウンドへの取り組み方は自分たちに合ってるし、これからも彼といろいろ作業していきたいと思ってる。彼は確実に俺たちのお気に入りのアーティストだし、メロディとサウンドデザイン両方で素晴らしい才能を持ったアーティストだから。

中にはインディをジャンルだと思ってる人もいるみたいだけど、俺はインディっていうサウンドはないと思う。サウンドはサウンドだから。

また、かつてふたりで小さな空間で作っていたような音楽といまの音楽の間にどのような差を感じますか?

コリン:どうだろう……。音楽がどこから来てるかっていう根本は変わらないと思う。前はベッドルームで、いまはビッグなスタジオで他のアーティストたちと共演したりしているけど、俺たちにとっては全部同じに感じるんだよね。サウンドがいまと昔でちがうのは当たり前だと思うし。アーティストとして自分たち自身も成長するし、自分たちをさまざまなやり方でより表現できるようになる。でも、結局それがどこから出てきているかっていうのは変わらないんだ。ファーストとセカンドでサウンドがちがっていたとしても、どちらが良くてどちらが良くないとか、そういうことは思わない。それは、自然な変化だと思うから。

「インディらしさ」というものをどんなものだと考えますか?

コリン:それは難しい質問だね。インディ=インディペンデントだから、やっぱり誰の力も借りず、全部自分たちでやるっていうことじゃない(笑)? そういう意味では、俺たちはインディじゃないと思う。レーベルもマネージャーもいるからね。俺たちのためにがんばってくれているチームがいるし、たくさんの人たちに協力してもらってるから。その中でも自分たちのやりたいことはやらせてもらっているけどね。でもおもしろいのは、俺たちのレーベルはメジャー・レーベルと見なされていないし、俺たちもインディ・アーティストと思われてるということ。でも俺自身は、自分たちをインディ・アーティストだとは思ってない(笑)。結局、あまりちがいはないんだと思うよ。中にはインディをジャンルだと思ってる人もいるみたいだけど、俺はインディっていうサウンドはないと思う。サウンドはサウンドだから。世の中には、本当に自分たちだけで何でもやっている真のインディ・アーティストもいるよね。俺が最初にバンドにいたときは、全部自分たちでやっていたから、当時は自分たちをインディ・アーティストって言ってた。でも、言葉そのものの意味を考えたらもうちがう(笑)。インディやメジャーかなんて、いまの時代誰も気にしてないんじゃない(笑)?

以前〈フジロック・フェスティヴァル〉で来日されたときは、手製のランタン型のシンセサイザーのようなものを使用されていたと思うのですが、そうしたD.I.Y.な方法は今作に何か反映されていますか?

コリン:DIYはつねに可能だと思うし、大切だと思う。前の『シュラインズ』のライヴ・ショーでは、照明とかカスタム楽器とか、すべてを自分たちで作った。あのランタンもそう。オンラインでオーダーして自分で作ったんだ(笑)。あれはかなりやりがいがあった。当時は自分たちしかいなかったからね。そういったDIY精神はつねに大切。いまはニュー・アルバムのショーを構成しているところなんだけど、ビッグ・スケールだから他の人たちにも手伝ってもらってるんだ。以前よりも忙しいのと、スケールが大きいぶん、自分たちよりもスキルがある人に任せたくて。それでもDIY精神はまだあって、すべてのプロセスに俺たちも関わっているし、アイディアは全部自分たちのもの。すべてを把握してるっていうのもDIYのひとつだと思うし、これからもずっと大切だと思う。今回のライヴは、また一から作ってるんだ。前回とコンセプトは似てるけど、スケールがこれまでにないくらい大きくなってる。いまはまだ準備中だけどね。

録音環境で前作ともっとも異なっていると感じるのはどのようなところですか?

コリン:録音環境ではあまりちがいは感じないけど、いちばんのちがいは音楽の書き方。前回はお互い別々の街に住んでたから、音を何度も送り合ってたんだ。でも新作では、ほとんど同じ部屋で作業することができた。だから、もっと結束力が強くなってる。その場ですぐにフィードバックを与え合ったり、いっしょに曲を書いたり。そのプロセスの変化は、ライティングへの意識を確実に変えたね。

次回もそのプロセスで?

コリン:同じスペースで仕事をするほうが確実に得だと思う。簡単だし、何かエキサイティングなことが起これば、それをそのまま捉えることができる。それって重要なことだと思うんだよね。もう遠距離で曲は作らないと思う。

リスナーとして他の音楽を聴いているときも、俺はあまり歌詞の内容に耳を傾けてない。気になるのは、音のトーンなんだよね。

“ビギン・アゲイン(begin again)”には月と地球の比喩が出てきますね。地球が女性側のことであるように感じられますが、地球=大地に母性のイメージをみているのでしょうか?

コリン:これはミーガンに訊いてくれる(笑)? 歌詞はすべて彼女が書いてるから。

わかりました(笑)。今作では何度か「地球」のモチーフがあらわれますし、前作にも共通することですが、あなたがたの詞には「世界」を歌う、スケールの大きいものが多いですね。そしてそうでありながらも、歌われているのは「あなた」と「わたし」の愛についてだけだとも言えるように思います。こうしたテーマはあなたがたの音楽にとって不可欠なものでしょうか? ……というのもミーガンにお訊ねしたほうがよさそうですね。

コリン:俺にはわからないな(笑)。これもミーガンに訊いた方がいい。

歌詞に関して、あなたが意見するときもあるんですか?

コリン:内容に関してはノー。でも、メロディに対して意見は言うよ。あと、歌詞の「サウンド」。この言葉の音はこのメロディには合わないんじゃない? とか。歌詞の内容じゃなくて、俺は言葉の音を気にするんだ。歌詞の意味に関しては、すべてミーガンの仕事だからね。

なるほど。歌詞の聴こえ方ということですよね? おもしろい。

コリン:そうそう。気づいたんだけど、リスナーとして他の音楽を聴いているときも、俺はあまり歌詞の内容に耳を傾けてない。気になるのは、音のトーンなんだよね。ヴォーカルと歌詞に関しては、そこにフォーカスするんだ。

今回の収録曲のそれぞれの長さについて、とくに意図したところはありますか?

コリン:曲はなるべく短くするようにしてる。4分以上の曲は個人的にあまり好きじゃなくて。自分が音楽を聴くときもそうなんだ。早くポイントに達する曲が好きだし、ずっとダラダラした音楽はあまり好きじゃない。だから、ベストは3、4分。それが俺にとっては自然なんだよね。作る時点で、長いものを編集して3、4分にするというよりは、いろいろな音を集めて一つにした時点でそれくらいの長さになってることのほうが多いんだ。

“アナザー・エタニティ”というのは現世を否定するような意味合いがありますか?

コリン:このアルバム・タイトルはアルバム内の“ビギン・アゲイン”っていう曲から来てるんだけど、その曲はアルバムの中間に収録された曲で、ある意味アルバムの中心なんだ。歌詞から来てるから、これもミーガンに訊いたほうがいい(笑)。俺にとっては、いろいろなことに対してオープンになって、ひとつひとつを冷静に考えると、物事はサイクルになっていて、あることが起これば次に何かが起こって、それがまた繰り返し起こるって感じがするんだけど……説明が難しいな。言葉では無理(笑)。

物事はサイクルになっていて、あることが起これば次に何かが起こって、それがまた繰り返し起こるって感じがする。

あなたがたの音楽は、非常にドラマチックでシネマティックなものだと思うのですが、この作品に音をつけてみたいというような映像作品はありますか?

コリン:実現できたらすっごくクールだね! 俺はSFや未来的な映画を見るのが好きだから、そういった作品のために音楽を作れたら最高。あとはヴィデオ・ゲームかな。俺の音楽の書き方もシネマティックだし、可能ではあると思う。俺たちの音楽は、3分間の音の旅みたいな、聴いていていろいろなエリアにワープできるような作品だから。いままで一度もそういう(映像に音をつける)経験をしたことがないから、いつか経験できるのがすごく楽しみ。

カナダではいまどんな音楽がおもしろいでしょう? また、あなた方自身は、UKとUSではどちらの音楽シーンに親和性を感じますか?

コリン:わからないな(笑)。ロックでも、メインストリームでも、ポップでも、アメリカで流行ってるものがカナダでも流行ってると思うよ。最近よく言われてるけど、俺もあまり場所で音楽を考えないタイプ。ジャンルもそう。シーンとかは意識してないし、いまはいろいろな場所の音楽をどこでも聴くことができるから、そういう見方はしてないんだ。

今日はありがとうございました。

コリン:ありがとう! また日本にいけるのを楽しみにしているよ。

SUBMARINE - ele-king

 TBSラジオ系『伊集院光 深夜の馬鹿力』を聴いていたら、番組の途中、おもしろいヒップホップの曲が流れていた。SUBMARINE“Midnight Tour Guide”である。すごくポップな曲だが、よく聴くとヘンテコでもある。「ここんとこほんともうトホホと声に出しちゃうほど脱力モード」という印象的なリリックではじまるこの曲は、その「脱力」な感じに、スチャダラパーなんかを思い出すが、声の感じやリリックの抒情性には、「あの小説の中に集まろう」(TOKYO NO.1 SOUL SET“More Big Party”)とラップするBIKKEを連想したりもする。フックでは、女性ヴォーカルがかわいらしく歌い上げており、エレピとギターとの絡み合いが爽やかで気持ちいい。そのフック部分が終わると、エレピとギターのループが細かくなって、ビートも少し変則的になり、トラックの展開がめまぐるしくなる。ポップで美しい曲だが、トラックに緊張感があって刺激的だ。ふいに前面に押し出されるベースにもドキッとする。

 そんな“Midnight Tour Guide”をリード・トラックに据えたのが、SUBMARINE『島唄』というアルバムだ。SUBMARINEは、MCの日渡正朗とトラックメイカーの新城賢一によって1999年に沖縄で結成されたグループである。本作は、以前から交流があったという□□□の三浦康嗣をプロデューサーとして迎えた、約8年ぶりの作品だ。ヒップホップ的なビート感は強く残しつつ、同時にヒップホップ的な様式美からかなり自由になったサウンドと構成が、とても新鮮に響く。そのあたり、□□□の感覚とも通ずるか。サウンド・プロダクションはけっして一筋縄ではいかないが、ポップでカラフルな音色に仕上がっているぶん、広いリスナー層にアピールする。とくに、歌モノやシンガーソングライターのファンには、ぜひ本作をチェックしてほしいと思う。本作を貫くメロディーラインやコーラス、アコースティック色を残したサンプルの数々などは、とてもSSW的な温かみがある。実際アルバムには、三浦によるピアノ弾き語りの“Midnaight Tour Guide”のヴァージョンまで収録されている。ビート・ミュージック的な側面からアコースティック的な側面まで見事に共存しているのが、本作の最大の魅力だ。
 このような作品世界を考えたとき、特筆すべきはやはり、7分半にも及ぶ大作“導かれし者たち”である。三浦以外にも、西尾大介(ALOHA)、小島ケイタニーラブ(ANIMA)、夙川アトム、伊藤豊(カズとアマンダ)を客演に迎えたこの曲は、サビでのケイタニーの唯一無二の歌声を中心に、ドタバタした生ドラムのサンプルやキーボードが響いて、温かく美しいサウンドが広がっている。ケイタニー含め、その他のゲスト陣もラップのようなヴォーカルのようなものを披露しており、ポッセカットのようになっているのが楽しい(ちなみに、ANIMAのファーストアルバムを聴いたとき、いつか小島ケイタニーラブのラップが聴いてみたい、と強く思っていたので、それが実現したのが個人的には嬉しい)。その他、“Angel”とその姉妹編のような“Beauty × Beauty”、あるいは“深海魚”など、温かみのあるトラックと日渡ののびやかなラップが、全編にわたって聴きどころである。

 とはいえ、このアルバム、やはりヘンテコなところもあって、先の“導かれし者たち”も、歌詞はひどい下ネタだったりする。あるいは、アルバム冒頭の“VAMPIRE EMPIRE”は、吸血鬼の立場からラップをした曲で、トラック自体もヴァンパイアをモティーフにしたものになっている。さらによくわからないのは“道”という曲で、ビズ・マーキーばりの(?)ヘタウマな歌声で行進曲のパロディが歌われている。うーむ、底知れない。冒頭にも書いたように本作のリリックは、「脱力」系で笑ってしまうものが多いのだが、それがしっかりと作り込まれたサウンドに乗せられているのが、またおもしろい。ポップに聴き流しているつもりでも、よく聴くと、「なんだ、この歌詞!?」みたいな。それは、SUBMARINEというグループが持つイタズラ心のようなものにも思える。心地よく美しいサウンドのなかに、チクリと刺激的。これがやけに中毒性があって、やめられない。本当に温かみのあるアルバムなのだが、温かいだけでは終わらない不穏さもしっかりと抱え込まれている。

KiliKiliVIlla - ele-king

 ここ数年、全国の各地域それぞれのスタイルで育っているシーンが独自のネットワークで活動を広げている。そこに集う新しい価値観とユニークなサウンドを持ったアーティストを書き下ろしの新曲でコンパイル。数年後に振り返った時、このコンピレーションがその時代にとっての『C86』や『Pillows & Prayers』になるかもしれない。
 1970年代後半から1980年代前半、多くの自主レーベルが活動を開始したこの時期、新しく、しかしマイナーな音楽を愛好する同志が情報を交換し、コミュニケーションの場として機能していたのがファンジンだった。インターネット経由でどんな情報にもアクセスできるいまだからこそ、音楽をテーマに志しを同じくする者が集える場所をファンジンとして作ってみようという試みだ。
 80年代から90年代、シャープな絵柄と巧みな人物造形でロック・バンドを描いた名作『緑茶夢』、『おんなのこ物語』の作者、森脇真末味へのメール・インタヴューが実現!
 いまアメリカで最も注目されてカセット・レーベル、〈バーガー・レコーズ〉の創設者のインタヴューも収録!

 レーベル・コンピレーション第一弾、4月22日発売決定!
 1,000部限定、KiliKIliVilla初のファンジン付きレーベル・コンピレーション
 ファンジン、CDを豪華ケースに収納の特殊パッケージ
 タイトル:「While We're Dead.」~ The First Year ~
 品番:KKV-004FN
 値段:2,500税抜
 安孫子真哉プロデュース、全13バンド書き下ろし新曲を収録。

 収録アーティスト
 01.Laughing Nerds And A Wallflower/NOT WONK
 02.リプレイスメンツ/SEVENTEEN AGAiN
 03.SILENT MAN/THE SLEEPING AIDS & RAZORBLADES
 04.Littleman/SUMMERMAN
 05.The sunrise for me/over head kick girl
 06.FINE/Homecomings
 07.Tornade Musashi/CAR10
 08.I ALWAYS/MILK
 09.それはそれとして/Hi,how are you?
 10.All Time Favorite/odd eyes
 11.レイシズム/Killerpass
 12.The Sun Wind In Summer Zeal/SUSPENDED GIRLS
 13.Douglas/LINK

 ファンジン著者一覧
 インタヴュー
 ショーン・ボーマン(バーガー・レコーズ)インタヴュー
 森脇真末味インタヴュー

 レヴュー
 下地 康太(DiSGUSTEENS, Suspended Girls)
 オニギリギリオ(WATERSLIDE)
 与田太郎(KiliKiliVIlla)

 対談
 安孫子真哉&角張渉(カクバリズム)

 エッセイ
 安孫子真哉(KiliKiliVIlla)
 中村明珍
 snuffy smiles
 卓洋輔(Anorak citylights)
 庄司信也(YOUTH RECORDS・factory1994)
 谷ぐち順(Less Than TV)
 よこちん(DYENAMiTE CREW)
 五味秀明(THE ACT WE ACT)
 伊藤 祐樹(THE FULL TEENZ)
 久保 勉(A Page Of Punk)
 橋本康平(over head kick girl)
 しばた(FÖRTVIVLAN)
 山崎周吾(DEBAUCHMOOD)
 林 隆司(Killerpass)
 藪 雄太(SEVENTEEN AGAiN)
 はっとりたけし
 SUMMER OF FUN

 https://kilikilivilla.com/post/114722201604/news-2015-03-27

 https://kilikilivilla.com/

DJ Yama - ele-king

April Fool "DisqClash" Techno 10

DJ Shufflemaster - ele-king

スタンダードナンバー

Chesterbeatty - ele-king

Often imitated never duplicated

※Shout out to "The Nation of HIPHOUSE(website)"
https://maesaka1991.blog.fc2.com/blog-entry-42.html

写真:CHESTERBEATTY

Jazzy Couscous - ele-king

 東京滞在フランス人2人に創始された〈Jazzy Couscous〉の初リリースが発表されました。〈Jazzy Couscous〉のコアメンバーは、AlixkunとKlodioです。
 Alixkunは、もうみなさまにはお馴染みですね。ハウスや和物DJであり、ele-kingのライターであり、『House Definitive』にも寄稿しています。はっきり言って、日本の中古市場においてジャパニーズ・ハウスの値を上げたひとりです。余計なことしないで欲しいです。DOMMUNEにも90年代和ハウスのDJミックスで出演したことがあります。
 Klodioはハウスシーンの新プロデューサーであり、デトロイト・ハウス、ジャズ、ソウル、とにかく黒い音に影響されたプロデューサーです。今回の「Toktroit」EPでは、彼の影響元であるデトロイトと東京の雰囲気を交えて、ソウルフールなバイブを提供しています。ele-kingとしては、初期URハウスの色も多少あって、ハイウェイでフールスピードなナイトドライブをイメージした“First Car”と“Futako Tamagawa”がおすすめです!
 今後Hugo LX, Brawther、寺田創一などの曲もリリースされる予定です。Toktroit EPは4月10日リリースされます。ヨロシクね。

https://www.facebook.com/jazzycouscous

Dasha Rush - ele-king

 水滴のような電子音楽。〈ラスター・ノートン〉からリリースされたダーシャ・ラッシュのアルバムを聴いたとき、そのようなことを感じた。彼女はロシア人のエレクトロニクス・ミュージックのプロデューサーである。モスクワで育ち、現在、フランスで暮らしている。同時に世界中を飛び回る人気DJでもある。
 ダーシャ・ラッシュのサウンド・コンポジションは、ダンス・ミュージックとエクスペリメンタル・ミュージックの境界線を曖昧にする。このアルバムも同様だ。聴く人をはぐらかし、夢の回廊へと誘うサウンドが16曲も収録されている。音の光と音の水滴を、その肌に感じさせてくれる音楽/音響とでもいうべきか。ロシアで水とくれば、どこかタルコフスキー的なイメージだが、ことはそう安易ではない。聴くことと無意識が混然一体となり、イメージとサウンドが融解する。そんなリスニング体験が本作にはあるのだ。

 まずはダーシャ・ラッシュの音楽的経歴を振り返っておこう。最初の公式リリースは2004年に自身のレーベル〈ハンガー・トゥー・クリエイト〉から発表した12インチ・シングル「アンタイトルド・ハンガー」である。2004年暮れには、ダンス・ミュージックにフォーカスを当てた〈フルパンダ〉を〈ハンガー・トゥー・クリエイト〉のサブ・レーベルとして設立。同レーベルから2005年に12インチ・シングル「フルパンダ」を、2006年にファースト・アルバム『フォームス・アイント・フォーマット』をリリースした。いくつかのシングル・リリースを挟み、2009年に〈ハンガー・トゥー・クリエイト〉からセカンド・アルバム『アイ・ラン・アイロン・アイ・ラン・アイロニック』を発表。どの作品もテクノの機能性とエクスペリメンタルな音響処理が融合した作品であった。
 ダーシャ・ラッシュのルーツはテクノにあるという。じじつ彼女は、世界中で人気DJとして活躍している(日本のドミューンでも見事なプレイを披露したことを覚えている人も多いはず)。12インチ・シングルのリリースも活発である。しかし、その音が機能的なダンス・ミュージックのクリシェに陥っていない点が重要なのだ。トラックの中心が水の流れのように流れ、はぐらかされ(歯車の流れを内側から変えていくように)、音の深層は官能的な表面性へと転換される(音のカーテンに触れているように)。リズムとサウンドは構造的に分断せずに空気のように融解していくのだ。それはビートの効いたトラックでも、エクスペリメンタルな作風の曲も変わらない彼女の強い個性に思える。
 近年でもLars Hemmerlingとのユニット・ラダ(LADA)においては、ダーク・アンビエントな音を展開し、〈ソニック・グルーヴ〉や〈ディープ・サウンド・チャンネル〉からリリースされたソロ・シングルでは、インダストリアル/アンビエントなトラックをリリースしている。
 2015年にネット上にアップされている彼女のスタジオ・ライヴを観てみよう。テクノを基調にしつつも、そのアンビンエンスな音響美学にさらに磨きがかかっているのがわかるはずだ。

 そして、〈ラスター・ノートン〉からリリースされた待望の新作は、エクスペリメンタルな作風とレーベル・カラーのマリアージュが実現している傑作に仕上がっている。これまでのアルバムやトラック以上にテクノ的機能性は控えめで、サウンド・デザイナー、ダーシャ・ラッシュの個性が全面に出ているのだ。アルバムのテーマは不眠と眠りがテーマという。CD盤には豪華なブックレットが付属され、そこにダーシャによる世界各地の写真に詩が添えられている。音とヴィジュアルと言葉によって、自身のアートや思想を表現しているように思える。

 同時に、これほどに音の温度・色彩・光の濃度が変化していくような不定形な感覚に満ちた音楽も稀だ。ピアノ、ビート、電子音、微かなノイズ、アンビエント、そして彼女のポエトリー・リーディングなどが霧のように交錯し、不可思議な浮遊感を漂わせている。何回聴いても聴ききった気がしない。夢に宙吊りにされる感覚。それゆえ思わず繰り返し聴いてしまう悦楽。
 最初に書いたように、そのサウンドは水滴のようだ。ピアノのアルペジオもビートも電子音のアンビエンスも滴り落ちる水滴のように透明で不安定な優雅さがある。また、深海から光を見上げるような感覚もある。さらにはビートには、闇の中のバレエのステップのようなリズムも感じる。

 私は、そんな彼女の音を聴いていると20世紀初頭の芸術運動を想起してしまう。ダーシャ・ラッシュは形式の安定性を揺るがし、言葉や表現の意味をずらしていく。そうしてフォームとフォームを結合させていく。ダダ、未来派、シュールリアリズムのように。じっさいダーシャ・ラッシュは教会や劇場などでジャンルを越境するようなコンサートのプレゼンテーションを行っているという。本作のために作られたティーザー映像にもどこか無声映画時代の映像を感じる。

 2015年。20世紀が終わり、21世紀に突入し、既に15年が経過した。いよいよもって20世紀的な経済構造や社会構造が限界と終局を迎えつつある時代である。それは終わりの始まりの時代といえる。
 インダストリアル/テクノ以降のエクスペリメンタル・ミュージックは、そのような時代の無意識を敏感に察知し、20世紀初頭のモダニズムへと回帰している。それが円環的な回帰なのか、終局の反復なのかはわからないが、20世紀の総括を無意識に求めているという点は事実だろう。世界中でリミテッド・リリースされているエクスペリメンタル・ミュージックは、その無意識を敏感に察知している。たとえば、〈エントラクト〉からリリースされているカフカの病床での手紙やメモを即興演奏で音響化したジョセフ・クレイトン・ミルズ『ザ・ペイシェント』は、カフカと即興演奏を接続させていくことで、ドイツ/文学/無声映画/音響と20世紀の芸術の歴史を越境させている傑作であった。また。AGFのエレクトロニクス・ミュージックにおけるダダイズム的な旺盛創作なども例に上げていいだろう。もちろんアンディ・ストット=〈モダン・ラヴ〉のサウンド/ヴィジュアル運動も、である。

 ダーシャ・ラッシュの新作も同様だ。彼女はシュールリアリズム的なイメージを援用することで、20世紀の芸術運動を21世紀の音楽に内包させている。これは反復やノスタルジアではない(じじつ、だれもその時代に生きていたわけではない)。文化・芸術を、ここで総括させるという無意識の発露であり、終わりからの始まりを示す重要な兆候といえる。そしてその本質にあるのは不安の発露だ(彼女は形式の円滑な作動を内側から優雅に壊す)。このダーシャ・ラッシュの新作は、そんな私たちの無意識=不安に作用するアルバムなのである。だからこそ水滴のような音で私たちの不眠と夢の領域を曖昧にするのだ。睡眠へのステップ。不安。闇。光。水滴。まさに夢の回廊のような稀有な作品である。

Jam City - ele-king

「雑草は、静かにその庭に乱入するのだ」
ジャック・ラザム

 彼らがあらかじめ悲観的だったことを君がまだわからないと言うのなら、僕は君の首根っこをつかまえて、目の前にOPNの『レプリカ』のジャケを叩きつけてあげよう。終わりなき複製空間のなかで君が手にした鏡に映る骸骨こそ、そう、君自身の姿だ。2012年にジャック・ラザムがジャム・シティ名義で発表した『Classical Curve』を思い出して欲しい。君はあのとき、J.G.バラードの小説の主人公のように、都会の夜の、大企業のビルの巨大なエントランスのぶ厚いガラスにバイクごと突っ込んだ。中庭の植物が暗闇のなかの不気味な生き物のように見える。ジャンクメール、ジャンクフード、ジャンクワールド、ジャンク・ミュージック……カーテンを閉めて無料のオンライン・ポルノ動画を見ている、ピンク色の空の下……

 エレキングのvol.16の巻頭ページに、僕はどうしてもジャック・ラザムの最新写真を載せなければならなかった。トレンチコートを着て、彼は墓場の真ん中につっ立っている。いわばゴスだ。コートには、彼自身の手製のパッチワークが見える。腕には「 LOVE IS RESISTANCE(愛は抵抗)」という言葉が巻かれている。胸には「PROTEST & SURVIVE(抗議して生き残れ)」と書かれている。僕は思わず笑ってしまった。
 笑って、そして押し黙ったまま、ジャム・シティのセカンド・アルバムを聴き続けた。タイトルは『庭を夢見る』。ヒプナゴジックなイントロダクションを経て、ノイズとビートとシンセ音と、アンビエントとベースと、さまざまなものが混じり合い、やがてラザムの物憂げな歌が入って来る。

 この世界には狼が入り込んでいて
 その牙を午後の布団カバーに食い込ませてる
 でもこれは彼には初めてのことじゃない 
“A Walk Down Chapel”

 チルウェイヴと呼ばれるものもインダストリアルと呼ばれるものも、逃避主義であることに変わりはない。ダーク・サウンドもまた然り。EDMも、テクノも、ハウスも、ダブステップも、ダンスを通じてエクスタシーを得るという体験においては同じものであるように。
 もともとポップ・ミュージックそれ自体が夢の劇場だ。過酷な現実から逃れたいがために人は音楽を聴く。それを政治的無関心と括るのは乱暴だろう。
 『庭を夢見る』は、そういう意味で掟破りの1枚だ。ここには、逃避でも快楽でもなく、「ステイトメント」がある。それはパンク・アティチュードと呼ばれうるものかもしれない。『Classical Curve』は音響/ビートの作品だったが、ラザムは今作においてそこに言葉と歌を加えている。
 それが望まれたものだったのかどうかはわからない。バイクごと突っ込まれて粉々になったガラスのように、衝突して、砕け散ったUKガラージの、インダストリアル・シンセ・ファンクを期待していたかもしれない。『庭を夢見る』はクラブ・フレンドリーなアルバムとは言えない。
 しかし、ここには望みはしなかったが逃れがたい感動があるのだ。



 歌のなかでラザムは「僕らはアンハッピー(不幸)なのか?」と繰り返す。vol.16のインタヴューで、「これはファレル・ウィリアムスの“ハッピー”への回答なのか」という問いに対して、「そうではない」と彼は答えた。そう捉えてもかまわないけど、僕はファレルが大好きだとラザムは語っている(このインタヴュー記事はぜひ読んでいただきたい。階級社会について、ブレイディみかこと同じ意見を彼は述べている)。
 アルバムは、しかしアンハッピーではない。僕の大きな間違いは、ビートインクからコメントを急かされたとき、深く聴き込みもせずに、これを「メランコリー」などと表現してしまったことだ。

 少し前まで僕はコンピュータを操る子供だった
“Today”

 ハイパー大量消費社会がディストピアにしか見えなくなったとき、ドリーム・ポップと政治的抗議は、不可分になりうるのだろうか。チルウェイヴと路上での直接行動は適合しうるのだろうか。部屋のカーテンに火をともせと彼は歌う。矛盾を受け入れろ。アルバムの言葉は彼と同世代、つまり若者に向けられている。“Crisis”は、おそらく4年前の暴動に関する歌だ。

 君はマイ・ガール
 君を破壊者と呼ぶ人もいるだろう
 だけど悲しみだけじゃ君は満足できないんだ
“Crisis”

 シニシズムというものがここにはない。望みはしなかったが逃れがたい感動と僕は先述したが、アホみたいな言葉に言い換えれば、それは彼の純真さである。僕がぼんやりとしている間に、こうして君は、空からひとつそしてまたひとつ星が消えていくことを知った。壊されて、砕け散ったコンクリートがジャケットの上に散らかっている。何を取り戻すべきかは、ラザムにはわかっている。庭だ。美しい心が絶え間なく悲鳴を上げている。星々が消えていくのを見るためだけに生きているのではないと、この夢想家は歌っている。このアルバムは新しい商品ではない。論理的なネクストだ。
 庭を夢見る──なんて暗示的なタイトルだろう。

interview with The Wedding Mistakes - ele-king


Wedding Mistakes
Virgin Road

ElectronicaDream PopBreakcore

Amazon

 音楽をやることがけっしてイケてることにはならない時代に、それはむしろ本来的な自由さを取り戻しているともいえるかもしれない。格好よかろうが悪かろうが、カネになろうがなるまいが、やりたいからやるというあり方がデフォルトになった世界のほうが、音楽に多様性を生むという意味ではすぐれている。音楽不況というが、それは旧来的な産業システムにおける話であって、いまインディの層はかつてなく豊かだと言うこともできる。
 音楽の自由さを広げている要素はそればかりではない。情報環境の変化もある。ここに登場するような彼らにとって、そもそもアルバムをつくるということは盤をプレスすることではなくなっている。いまとなっては目新しいことではないが、彼らが「ファーストが出て……」などと語るときの「出る」というのは、ネット上にまとまった音源がアップされるというだけのことだ。それが「ジャケ」を持ったアルバム作品として当然のように認識されるようになったのが2000年代なかば、いわゆる「ネットレーベル」の流行以降。なんら資本の影響を受けることなく、かつレーベルというかたちを通してキュレーションされることで、シーンをもつくり得る力を持った作品たちが山のように登場し、主役になる時代の幕開けである。そして、それこそがThe Wedding Mistakesたちが生まれてきた場所でもある。MiiiとLASTorder、それぞれ独立してキャリアを持つふたりのプロデューサーによって結成されたこのユニットの背景には、ネットレーベルの風雲児たる〈Maltine Records(マルチネ・レコーズ)〉などの存在がある。同レーベルの古参であるMiiiはもちろんだが、今作のアートワークを手掛けたおじぎちゃん(セーラーかんな子とのDJユニット、ぇゎモゐとしても活動)を彼らに結びつけたのも〈マルチネ〉のtomadだという。そして、すこし離れたシーンで活動しながらも、それらに寄せるシンパシーはLASTorderも変わらない。社会全体としていい時代かどうか知らないけれど、世知辛くはあっても音楽的には二重に自由な環境を彼らはのびのびと泳いでまわっている。

 配信のみで昨年発表されたThe Wedding Mistakesのアルバム『Virgin Road』がフィジカル・リリースされた。そう、商業性のあるステージやフィジカルが流通する場所との行き来も自由である。インタヴュー中、ふたりの口から洩れた「逆にっていうのが嫌い」という考え方が印象的だった。過剰な情報空間において、メタなふるまいによってではなくまっすぐに喜びを得たいという気持ちには、切実に共感を抱く。ポスト・インターネットの感性だからこそつかめる純真さが、そこには顔をのぞかせている。Miiiのギークなブレイクコア、LASTorderの正統派にして抒情系の「ニカ」、音楽的にはさまざまな対照を持っているが、彼らはそうした地平に生まれたドリーミーなミュータントとして、ミューテイトするウエディングとして、明るい音響を築き上げている。

インタヴューのラストでティーザー音源をお聴きいただけます

■The Wedding Mistakes / ウエディング・ミステイクス
MiiiとLASTorderにより2013年に結成されたユニット。2014年11月にリリースされたデビュー作「Midnight Searchlight EP」はiTuensエレクトロニックチャート1位を記録。2015年2月にファースト・アルバム『Virgin Road』をリリース。
https://theweddingmistakes.com/virginroad/

LASTorder
2013年に発表したファースト・アルバム『Bliss in the loss』はタワーレコードでも大きく展開されロングセラーを記録。今年の7月には〈PROGRESSIVE FOrM〉よりセカンド・アルバム『Allure』をリリース。数々のリミックス制作も行う。

Miii
10代から楽曲制作を行い、〈Maltine Records〉の古参としてイベントには毎回出演、2枚のソロ作品を残す。日本屈指のハードコア/ベースミュージック・レーベル〈Murder Channel〉からファースト・アルバムを6月にリリース。東京女子流、夢見ねむ(でんぱ組inc.)等の公式リミックスも手がける。

中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって。(Miii)

(『ele-king vol.15』を差し出しながら)お若いおふたりですが、紙の音楽雑誌を読んでいた記憶とかってあったりするんですか?

Miii(以下、M):『DTMマガジン』を買って読むくらいですね。

おお、本当に実用的な読み方というか。

M:そうですね。音楽専門誌みたいなものを読んでいなくて。

LASTorderさんはどうですか?

LASTorder(以下、L):『サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)』。

やっぱりおふたりとも機材よりなんですね(笑)。

M:機材を眺めて、「コレめっちゃほしい!」みたいなことを、ずっとやっていましたね。

ははは、いまは「今月このアルバムを聴かなきゃ」ってことを紙で確認するような感じはないですかねー。

M:でも、ディスク・レヴューのコーナーがいちばん好きなんですよね。

なるほど、それはわかりますね。興味はどっちかというと邦楽よりでした? 洋楽よりでした? ……まあ、そういうふうに括ることの是非はおいといて。

L:俺は邦楽よりだったかな。

M:中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって、そういうのを見るのが好きでした。

それはアマゾン・レヴューみたいなものの黎明にあたるようなものですかね?

M:そうですね。新譜情報もインターネットで探していました。

あー。やっぱりそこは隔世の感が(笑)。だから、隣は何を聴く人ぞってね、「今月聴くべきアルバム」というような認識を、みんなで共有してるわけじゃないですよね。「今月はレディオヘッドの新譜がある」とか(笑)。

M:じゃないですね。

なるほど。それでは雑談はこのあたりにしまして。おふたりはそれぞれソロ活動がスタートなわけですけれども、そもそも畑違いなアーティストであるという印象があるんですよね。The Wedding Mistakesって名義は、「ふたりのウェディングがミステイクだ」というような意図があるとか?

M:名前は雰囲気というか語感でつけたものなんですが、最終的にそういうものだったのかと思わなくもないですね。ふたりでやろうとなったのも、そもそもは僕がLASTorderに声をかけたんですけど、かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜんちがうところにいたので。

L:あとジャンル的にも。

M:そうそう。だからそこをくっつけたらおもしろいなというのはありましたね。

かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜん違うところにいたので。(Miii)

「異なったものの出会い」という認識はあったわけですね。LASTorderさんはどうでしょう?

L:エレクトロニカで同い年くらいのトラックメイカーって俺のまわりにすくないので、ネット・レーベル周辺には若いひとが多いから、友だちになってみようという感じで。ツイッターで近づいたりとかイヴェントに行っていたりしていたら、「いっしょに作ろう」って急に言われた感じですかね。

なるほど。それぞれのジャンルに固有の文法があると思うんですけど、おふたりは互いにそれほど共有してはいないと思うんですよね。それで、自然と制作上の役割もちがってくるような気がするんですが、ふたりの役割分担というと、LASTorderさんがウワモノ、Miiiさんがリズムみたいにすごくザックリで考えていいんですかね?

M:まさにその通りですかね。

お互いの役割について、何か話し合いみたいなものはあったんですか?

M:デモが送られてきて、それに展開をつけたり、ドラムをこっちで足したり変えたりして返して、それにまたレスポンスがくるみたいな形もある。初めから上とビート、つまり僕がビートを送って、それにメロディを付けて戻してくるみたいなパターンもありますね。最初はデモがあって、ふたりでそれを伸ばしていくことがメインでした。

それぞれに対して期待した役があると思うんですが。

M:僕は綺麗だけれど割れている……エレクトロニカというか、ノイズよりの音楽がすごく好きでした。それを自分でやるには限界があったので、LASTorderに打ち込みとかウワモノとかで耽美な雰囲気を出してもらって、そこに僕が壊れたビートをのっけたいという願望がありました。それから、LASTorderはちゃんとメロディが書けるひとなので、そういうところも求めていますね。

メロディね! 特徴ですよね。あと、“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”とかではヴォイス・サンプルがフィーチャーされているじゃないですか? ああいうのってLASTorderさんなんですか?

L:そうですね。

とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。(LASTorder)

へえー。HMVさんの無人島に持っていく俺の10枚、みたいな企画(無人島 ~俺の10枚~)を覚えていらっしゃいます? おふたりがそれぞれアルバムを挙げていらっしゃいますよね。あれをちらっと拝見しまして。LASTorderさんご自身の曲は、全体としてはエレクトロ・アコースティック志向というか。

L:はい、そうですね。

で、この無人島リストを見ますと、ジュディ・シル(Judee Sill)からはじまって、ベン・フォールズ(Ben Folds)からモリコーネ(Ennio Morricone)、Shing02さんにテリー・ライリー(Terry Riley)まで入っていますね。まずポップ職人的なものに惹かれてるんだなって思ったんですよ。そしてそういうものを志向しつつもミニマルなものに引き裂かれるという。

L:その通りです。全部言われちゃいました(笑)。

ハハハハ。そのポップ職人というところをもうちょっと訊きたいんですけれども。さっきの、メロディが強いという話とも重なってくると思います。目指しているようなアーティスト像もそのへんに?

L:目指しているアーティスト像はぼんやりしていますが、とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。

無意識的な感覚なんですか?

M:それ、わかる。彼からは、どんな曲にも何かしら主旋律っぽいのがついて返ってくるんですよね。

なるほど。ポップ・ソングってフォームを、コンポーザーとして作っていきたいという意識なんですか?

L:たぶんそうだと思います。

そうすると、エレクトロニカという流れのなかだと、また少し変わっているというか。

L:エレクトロニカと言わせていただいているんですけど、そこまでエレクトロニカをやっていることでもないっていうか。

そういう感じもしますけどね。コキユ(cokiyu)さんとも親和性があるのがわかりますし、活動されている領域もそういうところなんだなっていう。ところで、ジュディ・シルなんて本当に深くて知性的な声だったりしますけど、ここでの“ハー・ミステイクス”のヴォーカル・トラックって、ある意味その真逆みたいな、薄さを持った音だと思うんですね。そういう声や音に対する憧れはあるんですか? ジュディ・シルが好きなら本来逆なような気もしますけど。

L:憧れはたしかにあるんですよね……そういう薄い感じには。でもそういうやり方や、ピッチを上げて散らす感じの音は、やり飽きているというか。ちゃんとした声を入れたいと思っていたりはするんですよ。

へぇー!

L:けっこう手持ちのものがないというか、機材とかが少なかったりとかしてなかなかできないんですけど……。自分で声をかけて誰かの歌を録るということもあまりないですし。

肉声ヴォーカルへの、一種のアンチというわけではなく? 

L:そうなんです。アンチとかではないですね。

なるほど、正直でいらっしゃいますね。では、ボカロとかはどうですか?

L:ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。最近はそんな気もしてきた。でも偶然、ぜんぜん聴かなかっただけっていう。

ははは、素通りしちゃったわけですね。

ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。(LASTorder)

L:どこかで避けていたのかもしれないですけど。

M:僕もボカロはぜんぜん通ってないんですよ。やっぱり、意外と流行っているといえば流行っているけれど、触れないでいいといえば触れないでいいというか。聴かなくても意外となんとかなるという感じですね。

すごくフラットに考えてみれば、ボーカロイドっていうのはただの音声ソフトというか、シンセサイザーなわけじゃないですか? しかもけっこう魅力的で使いやすい。でも、それを通らないっていうときには、暗にその奥にある何かを否定しているんじゃないですか?

M:ニコニコ動画のボカロPのカルチャーとして、ということですよね、たとえば。

そうそう(笑)、ちょっと意地悪な質問ですみません。一概には括れませんけれども、彼ら「P」のようなプロデューサーの音やあり方に対するおふたりの感想や評価がどんなものなのか、すごく興味があります。どうでしょう?

僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。(Miii)

M:いろいろありますけど、僕のイメージ的には、RPGとかで別の大陸に行くともっと強いモンスターがいるという感じですかね。物語を進めて行くと強いモンスターが出てくるという感じ……同人とかボカロの界隈ってそういうイメージがあります。僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。それぞれが別の島だけど、それぞれに大ボスというか、めちゃくちゃ強い、上手いひとがいて。で、その奥にも上手いひとがたくさんいる。 だけど、自分がそこまでたどり着くために経験値が足りないし、パワーもないという自覚もあって。避けているというとあれなんですけど、あまり交わらないようにしています。だからアーティストとして尊敬しているひとはいます。同年代にかめりあって子がいるんですけど、彼は同人とかボカロとかの流れのひとで、メロディも作れるし、過激でとんがっているもの作れるみたいな。そういう人材が、あっちにはいっぱいいるんですよ。そういうのは向こうのカルチャーにいないと得られないのかな、というのはあります。

なるほどなあ、“あっち”は分母がでかいし、エネルギーもあると。あと、音っていうよりも歌詞だったりイラストだったりも重要だし、それがいわゆる集合知ってやつでできあがるという、時代性としての鋭さもありますよね。LASTorderさんは、あちらの界隈を音楽というよりもカルチャーとして見ている感じですか? L:僕はそっちの界隈とも繋がりがなくはなくて、初音ミクのリミックスをやってみたりもするんですけど、みんなやっぱり……、言っていいのかわからないけれど……

言うだけいっときましょう。

L:お手軽に曲がひとつできるじゃないですか? 歌があって歌詞があってって。だからもっと手間をかければよくなるものがいっぱいあると思います。サウンド面ですぐれたひともいれば、ソング・ライティング面で優れているひともいたり、歌詞はそんなに詳しくないですけど上手いひともいるんでしょうね。ソング・ライティングが上手いひとが、サウンドも歌も全部お手軽に自分でできちゃうからそれですぐに作品を出せちゃう。いろんな可能性がいっぱいあります。ニコニコ動画を見たりしていると、ぜんぜん再生数が少ないやつでも歌がよかったりすることもあったりするし。

聴いているところは「生のヴォイスか」とか、そういう音質みたいなものじゃなくて、メロディとかですか? 

L:そうですね。

だったら必ずしも人格があり、美しい深みを持った人間の声である必要もない、と……ジュディ・シルとか書かれていると、声とか人間の歌礼賛なひとなのかなってちょっと思ってしまうので。

L:聴くぶんにはって感じですね。作っているときに、そうやって意識することはまったくないです。

なるほど。LASTorderさんとかが、ひとの声をどういうふうに考えているかに興味があったんです。

L:じつはそんなに……。何か考えるようにします。

M:ハハハハ!

子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。(Miii)

いやいや。逆に興味深かったです! いろんな思いがあって、生の声を避けているのかなと思ってたものですから。しかるに、Miiiさんのほうもおうかがいしたいと思うんですけれども、Miiiさんはもうなんというか、ブレイクビーツですよね(笑)。

M:そうなんですよ。

おふたりともルーツがはっきりとわかる。そういう意味でもおもしろいです。たとえば、同じようにMiiiさんの「無人島~」のリストを参照させていただくと、ヴェネチアン・スネアズ(Venetian Snares)はもちろんとしてナース(Nurse with Wound)とかworld's end girlfriend(ワールズエンド・ガールフレンド)も入ってましたよね。だからノイズ志向もあるんですけど、かといって、中村一義とか七尾旅人なんかはすぐれたポップ・ソングの作り手でもある。だから、ドリーミーなものやメロディ的なものにも憧れがありそう。

M:そうですね。楽器ができないので、そういうアーティストさんには純粋に憧れがあるし、中村一義とか七尾人は中学高校時代にめっちゃ聴いていたので、普通に大好きなんですよ。やっぱりメロディもすごいし、歌詞もめちゃくちゃいいし。

そしたら、いかにもバンドとかはじめそうですけれども?

M:あー、なんか……

L:ひと付き合いができないんでしょう?

M:ハハハハ。

そんな(笑)。ドライなツッコミが入りましたね。

M:その通りです。

なるほど。ひとりベッドルームでプロデューサーをやることを選んだと。

M:あと、バンドとかをやる以前にパソコンがあって、それで調べてなんとなく曲も作っていたから、「それでよくない?」みたいな感じでしたね。

なるほど。あと、やっぱり音ゲー的なものってブレイクビーツだったり、ブレイクコアだったりっていうものとの親和性が高いですよね?

M:そうだと思いますよ。曲が1分とか2分とか短いじゃないですか? そのなかで、ひとをどれだけ惹きつけるかという要素を考えなくちゃいけないし、だからこそ展開が突拍子もなくなるというか、変な感じになっていくんだろうなと思います。

音楽メディアがカバーしている範囲の外に独特のシーンがあって、独特の進化をしていますよね。ところでブレイクビーツってなんであんなに死なないんですかね? ずーっとありますよね。

M:ブレイクコアが全盛期だった2006年くらいってちょうど中学生だったんですけど、日本人でもいいアーティストがたくさん出ていて、そのへんがいちばんおもしろかったです。それこそヴェネチアン・スネアズみたいなちゃんとした音楽というか、レヴューの対象となるようなヤバいアーティストから、著作権完全無視のマッシュアップとか、本当にヒドいアーティストもたくさんいたけど、その全体がかっこいなという感じがあって。とくに〈マルチネ〉の初期も、いまでは「スカム」期みたいに言われるけれど、当時は「すげぇかっこいいことをやってる」と思って聴いていたので。自分にとってはそういうルーツというか、子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。

そういうカオスみたいなものに若い心が共鳴してシーンが盛り上がっていた感じはよくわかりますけどね。

M:いま聴いてみても、変なドラムンベースを入れていたりとか、BPMが200のものとかを普通にやっているんですよね。なんだかんだカッコいいなと思っていまも見てます。

メロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。(LASTorder)

なるほど。LASTorderさんはどうでした?

L:僕はシーンに憧れたりとかっていうことが逆になかったんですよ。

淡々とひとりで?

L:だからメロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。小中高なんて、友だちとは音楽の話なんてまったくしていませんでしたからね。自分が不勉強で周りの状況に疎いということもあるので、最近はひとから教えてもらって勉強させてもらってます。

最近はツイッターのタイムラインで音楽を聴くという感じで、スピードや情報の広がり方・受け取り方が以前とは大きくちがっていると思うんですが、2005年とかってまだそういうものが出てきているわけでもないですよね。当時、情報へはどうやってアクセスしていったんですか?

M:何をやってたかな……。IRCチャットっていう……

やっぱり、みんなちょっとしたオタクなんですね。

M:そうそう。僕は完全にそっちでした(笑)。

L:そういうのあったよね(笑)。

M:だから、いまでいうラインみたいな感じですかね? チャンネルっていう部屋みたいなものが用意されていて。

L:疎いけど、さすがにチャットはわかるよ!

M:そういうチャットがギークっぽくなったものがあって、周りでチームを組んだりして、たわむれたりって感じでしたね。

年齢層は若いひとばっかりなんですか?

M:多いのは20代とかでしたよ。

じゃあ、Miiiさんはちょっと早熟な感じ?

M:そうですね。僕が12、13歳のときでそのなかではいちばん若かったと思います。

ちなみに部活は(笑)?

M:部活は……、中学のときは吹奏楽部でした(笑)。

おっと! 楽器ができるじゃないですか!

M:それが、チューバだったんですよ(笑)。

L:ハハハハ!

それは潰しがきかねぇ(笑)。

M:「チューバをやっていました」って言っても、周りは「チューバ……?」みたいな感じなので(笑)。

LASTorderさんは何部だったんですか?

L:バスケ部でした。

そうなんですか? じゃあリアルが充実していらっしゃる?

L:バスケってそんなにイケてないですよ。普通に運動しているくらい。高校は帰宅部でした。

音楽を作りはじめたのはいつぐらいなんですか?

L:ピアノを4歳くらいのときにはじめて、なんか鍵盤で曲を作っていた記憶はボヤッとあるんですけど、ちゃんとDTMをはじめたのは高2くらいです。

おお、クラシックの素養もあると。ピアノで弾いて好きなった作曲家というとどんなあたりですか?

L:ピアノを弾いているときはぜんぜんおもしろくなかったんですよ。なんでこんな難しいのを弾かなきゃいけないんだって感じで。“ラ・カンパネラ”(フランツ・リスト)とか練習してたんですよね。そこからあまり好きになれずに、10歳から12歳のときはロック系が好きでした。でも、自分で曲を作るようになってから、あのときに練習していた曲がどんなだけすごかったってわかったんですよ。雰囲気的にはドビュッシーとかサティとかに魅かれますね。

じゃあ何というか、ギークと……

M:ギークとメインストリームでしょう? だってコピバンとかやってたんでしょう?

L:コピバンやってたね。

M:僕はやってないからさ。

へぇー! それって素敵なウェディングじゃないですか。ストーリーとしても、いいですね。

M:最初はバックグラウンドとか何も知らなくて、ただ「いい曲だね」って思っているだけだったんですよ。ふたを開けてみて、普段は絶対に出会うことのない遭遇だったんだとわかりました(笑)。 [[SplitPage]]

極端にポップになるか、わかりづらくなっちゃうかばかりで。そうじゃない「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかった。(Miii)



ハハハハ。なるほど。いろいろと見えてきたようですごくうれしいんですが、ではこのアルバムについて。今回はフィジカルで出るということですが、バンドキャンプでのリリースが2014年ということでいいですかね?

M:そうですね。

実際の制作年でいうといつぐらいの曲から入っているんですか?

M:2013年の6月くらいからの音源ですね。

じゃあ出会ったタイミングくらいにできた曲もあるんですね。以前から温めていたそれぞれのネタみたいなものもあるんですか?

M:それもあるんですけど、最終的にお互いでちょっとずつ手を加えてウェディング~の曲にしました。

その頃というと、ダンス・ミュージック界隈で盛り上がっていたのは……ジュークとか?

M:そうですね、旬のてっぺんみたいな感じですかね。僕はずっとダブステップとかブローステップとかが好きで、自分でもつくったりしてましたけど、ジュークは進んでやることはなかったです。でも、たとえばウエディングで曲をつくるときに、「試しにジュークっぽいことやってみようか」っていうようなやりとりはありましたし、そのくらいの距離では時流についていっていましたね。

なんか、自分たちの趣味をひたすらかたちにしましたっていうよりも、ある程度2013年っていう時代性のようなものも意識しているように感じるんですが。このころどんなものを聴いてました? あるいは、このアルバムでこんなことをやりたかったという目的なんかがありましたら教えてください。

M:僕がやりたかったのは、world's end girlfriendがいま僕らの年代だったとしたらどんなことをやるだろう……ってことですかね。あんなバランスのアーティストっていまあまりいないような気がするんですよ。もっと極端にポップになるか、もっとわかりづらくなっちゃうかで。それこそ〈ロムズ(ROMZ)〉系の存在もいないですし。そういう「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかったということは、なんとなくあるかもしれません。

へえ、なるほど。

M:なので、当時聴いていたダブステップだったりの要素はちょこちょこ入れていたりしますし、ポストロックっぽいものも入れてみたり──

おお?

M:当時は下火だったとは思いますけど。

そう思いますよ。へえー! なんでだろ、ウエディングを紹介する文章で、ときどき「ポストロック」って言葉を見かけるんですけど、わたしそこだけはよくわからないんですよね。

L:それは、君の責任だよね。最初にポストロックみたいなこともやりたいとかって言ってたから、それがプロフィールとかに残っちゃって。

いや、突っ込んでるんじゃなくて、そんなルーツがあるんならおもしろいなと。だって、この10年もっともダサい音楽だったわけじゃないですか……その、個々のバンドの話じゃなくて、一時代前のものがいつだっていちばんダサいみたいなとこがあるから。

M:ははは! いや、でもたしかにこの10年間下火だったから出してきたかったっていうような気持ちはあったんですよ。

L:でも結局、やってみたらとくにポストロックにならなかった。

ははは! いや、そうですよ。どこまでをポストロックと呼ぶかですけど、去年は10年選手たちがけっこういい新譜を出してきたり、シガー・ロスも幻のファーストが国内盤で出たりね。また見直されて、カッコよくなるんじゃないかと思いますから。

M:僕はゴッドスピード(Godspeed You! Black Emperor)とか好きだったんです。

おお、なるほど。復活してますね。

M:2012年の新譜(『'Allelujah! Don't Bend! Ascend!』)はあんまりピンとこなかったですけど……。

L:まあそうやってポストロックだなんだ、って言ってて最初につくったのが、このアルバムの1曲め(“Preface”)なんですけどね。次につくったのが5曲め(“So Hot”)。それで俺は、ポストロック……やんなきゃいけないの? って思って、“Her Mistakes(ハーミステイクス)”のもとを渡したんです。「ぽい」やつを渡そうと思って。で、これで好きにやって、って。

M:そうだねー。

L:それで、無理やりギター入れたりして。

ああ! ギター入ってますよね。そういうことだったんだ。

M:そういうことじゃないっては思いつつ(笑)、でもポストロックって言葉は入れたくて、でもしばらくして消えていきましたね。僕たちのなかで関係なくなった(笑)。生音でやるという意味でなら、いまでも興味なくはないんですが。

なるほど(笑)。謎が解けました。ではもとの質問に戻ると、LASTorderさんは2013年に何を聴いていました?

L:僕は坂本慎太郎さんとか──、あれ? 2013年じゃないですかね? ずーっと聴いていました。 (※ソロ1作めは『幻とのつきあい方』2011年、2013年リリース作はシングル「まともがわからない」)

へえー、そうなんですか。

L:僕自身はまだあまりクラブ・ミュージックに接近してはいない時期でした。

たとえばTofubeatsさんだったりSeihoさんだったりは「対日本のポップ・シーン」っていうようなわりとデカいスタンスがありますよね。〈マルチネ〉という共通項もあるので、とくにトーフさんなんかはそれほど縁遠いアーティストではないと思うんですが、そういうスタンスはあまりThe Wedding Mistakesにはなさそうですね。この作品はどんなところに向かって放たれたものだと思います?

M:うーん、それこそ、僕が中学生当時エレクトロニカとかを聴いて衝撃を受けた、あのインパクトを持ったものになればいいなと思いました。10年経ったいまでもその頃の影響がみんなにウケたらすごくおもしろい……というか、いまその頃の音とか記憶ってウケるのか? みたいな。

ははは、リヴァイヴァルっていうより、自分的にはルネッサンスみたいな?

M:はは、そうかもしれないですね(笑)。

彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。(Miii)

LASTorderさんは? そのへんの感覚はふたりのあいだで共有されているものなんですか?

L:そう……かもしれない。

M:彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。そのほうがおもしろくなるんだろうなって思っていました。

L:できちゃったものを、ずらっと並べていくという感じもやっぱりあったので、どんな相手に向かって投げかけたものかというと、あまり顔は浮かばなくて。

わりとカジュアルなものなんですね。いつかふたりでつくったものがアルバムになるんだろうなっていう思いはありました?

L:あまり思っていなかったかもしれない。

M:曲がたまったからそろそろ出そうかという部分もあったと思います。そこもアルバムのおもしろさではありますよね。貯まってきたからそろそろ出そうか、といってパッケージしただけでもそれなりのものに見えてしまったりする。だからこそ、CD盤と同じように、ジャケットをおじぎちゃんにお願いしたりとか、リミックスを入れたりとか、しっかりと外枠を固めるようなことはやりました。

ああ、フィジカルはないけどフィジカルの盤みたいに、っていうのは意識されたわけですね。ところで、曲名は後づけかもしれないですけど、全体をとおして眺めると、なんとなく「ウエディング」ってコンセプトを立てているようにも感じられるんですね。そういうテーマ性はどうです? 意識してました?

L:文字、タイトル部分は僕が担当しました。僕としては、(この作品における)音についての方向性がまだもうひとつ見えてきていない気がしていたので、目に見える部分だけでも統一感を出したいなと思って。

M:アルバム・タイトルはすごく悩んだんです。そのとき「ヴァージン・ロード」ってすごくおもしろくない? って話になって。ウエディング・ミステイクスでヴァージン・ロードって、なかばギャグですよね。

ははは、ミステイクなのにねーって(笑)。

M:そうそう、そんなノリですよ。

なるほど、では曲名も、曲ひとつひとつにあらかじめ付与されていたものじゃないんですね。できたあとに加えられた物語というか。

M:そう……ですね。

「結婚」って、近代以降は自由恋愛とセットで考えられてきたものだったりもするじゃないですか。でも、いま必ずしも憧れるような響きは持っていないというか、そうロマンチックなものではないと思うんですね。「婚活」とか少子化問題とかいろいろ出てきて。だから「The Wedding Mistakes」ってその意味でもちょっと批評的にきこえるというか。なんなんですか、「ウェディング」って?

M:うーん、そうですね。「永遠の愛」とかって、めっちゃ誓いづらいと思うんですよ。結婚式とか神父さんまでいたりして、いちおう儀式的にやったりしますけど、しんどいものでもあると思うんですよね。恋愛は3年しかつづかないとかも言うし。結婚って、僕個人としてはロマンチックなものだと思うし、好きな制度ではあるんですけど、正直、矛盾したものもいっぱい抱えているよなとも感じます。「結婚は人生の墓場」なんていう人もいるわけで。だから、僕的には理想だったりするけど、そううまくはいかないよなっていう皮肉が含まれているかもしれません。

L:……。

ははは! Miiiさん、質問に対して噛み砕いて考えてくださったんですよね? ありがとうございます。LASTorderさんの沈黙は、Miiiさんの見解への違和感?

L:いえ、そんなに重く考えていたのねという……驚きです。 (一同笑)

L:僕にとっては結婚ってまだまだ遠いことで。

M:それは、そうだけど。

L:「永遠の愛」って口から出てくるとは思わなかった。ノリかなって……。

M:ああ、そう、ほんとには誓えないから、儀式として誓っておいて、じつのところはノリみたいな。でも、まだ当事者じゃないからあんまり言えないけど。だからユニット名に「ウエディング」って単語を入れるのはおもしろいというか意外というか、言葉選びとして気にした部分ではあります。

「逆に」っていうのが嫌い。(LASTorder)

はい、はい。その、結婚なにかヘンだなってところが一般的に共有されているから気になる名前なんでしょうね。でも最初に名前きいたときは、それこそウエディング・プレゼント(Wedding Present)とかから来てたりするのかなって思って。ギター・ポップ寄りなユニットなのかと思いました。ぜんぜんちがいましたね。

L:そうですね。ギター・ポップ……。あと、それこそ渋谷系みたいなものはあまり知らないというか、聴かないよね?

M:そうだねえ。

L:それから、シティ・ポップとか。

おお、トレンドじゃないですか。でも、いま渋谷系を標榜する人たちはむしろ90年代のJポップを掘ったりしてるんじゃないですか? まあ、標榜してるわけじゃないかもしれないですけど、それに当たるような人は。

L:僕は90年代のJポップなら大好きですよ。

あ、そうなんですか?

M:僕も、最近のちょっとアーバンな感じのノリのものとかはあんまり聴かないかもしれません。シティ・ラップとか。

えっと、「シティ・ポップ」って言葉でどういうものを指してます? そもそもが曖昧な言葉のようですけど、でも荒井由実とか、あるいははっぴいえんどとかを指しているのか、いまのバンドを指しているのか、よくわからなくて。

M:そうですね、最近のバンドとかのことですかね。もともとのシティ・ポップとか、アーバンな感じのものに憧れて、それが音になっているんだろうなって思うんですが、僕自身は東京生まれだけど「アーバン」な生活圏ではなかったので、そのへんの憧れにはそもそも疑いがあるというか。最終的には田舎に住みたい思いもあるし……。僕らくらいの年齢だと、そもそもその時代のこと知らないじゃないですか?

なるほど。いまの人は、その見たこともないなかば架空の都会性を、逆におもしろがるようなところがあるんだと思いますけどね。昔はもっとベタに憧れたかもしれないですけど。

L:その「逆に」っていうのが嫌い。

おおっ。

L:ヴェイパーウェイヴとかもそういうところありますよね。「逆におもしろがる」って……それって……なんなの。

M:それは、僕もわかるなあ。「逆に」っていうのは、いっこ上に立とうとしてるわけでしょ? そんなふうに考えなくても、90年代なら90年代で、いいものがあればそれは聴けると思うんですよ。それこそ中村一義とか僕は大好きですし。僕も、そういう感覚を無視した掘り返し方はしたくないですね。

中村一義は、「逆に」の思考をすべて吹き飛ばしてきた人だと言えるでしょうね。

M:ああ、そうかもしれません。

「逆に」っていうのは修羅の道で、いちどそれを言いだすとさらに上の「逆に」が際限なく出てくるから、超頭がいいか、それをはね飛ばす強さがないと死んじゃいますね。それでも行ってやろうというのもまたひとつの極道かなって思いますけど。ただ、「逆に」が嫌いだって言えるのは……ちょっと感動しました。

L:僕が普段から90年代の後半のJポップが好きって言っているのは、それは、実際に体験しているからなんです。幼稚園とか小学校の低学年の頃とかに、月に2回レンタル屋さんに連れていってもらって、ランキングの上位10位を借りてきて、それをダビングしてずっと聴くっていう毎日だったんです。本当に心から鈴木亜美とか好きなのに、いま同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。そう言っている目線が。

同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。(LASTorder)

M:あー! わかった。言ってることしっくりきた。

なるほどー。

L:「あー、亜美ね!」って言われるときの……。たぶんそのときに「逆に」の感じが働いているんだと思うんです。

M:あー! うんうん。

L:こっちは逆もなにも……

ははは! マジだっていう。

L:そう。バカなの、俺? って思っちゃう……。

(一同笑)

L:ちょっと、共有できてるのにできてないみたいなところがすごくあるし。単純に、トラックがよくできてるとかっていうような見方をしてたりもするんだろうけど。それに、……まあ、いいや。

(笑)いやいや、話しましょうよ。

L:僕、あゆ(浜崎あゆみ)と宇多田(ヒカル)の同時発売の日とか、ちゃんと並んでますから。 (※浜崎あゆみ『A BEST』、宇多田ヒカル『Distance』の同時発売。2001年)

ああ、えっと……、ふたり同学年ですよね。Miiiさん何歳ですか?

M:13、4年くらい前ですかね? 8歳とかですね。

おお。そのころ何がいちばん熱かったです?

M:うーん、Jポップとかは聴いてなかったですね。ゲームやってました。

なるほどね。音ゲーとかも。

M:そうですね、いろいろやりましたけど、『beatmania(ビートマニア)』を買って。それが原体験といえば原体験ですね。

うーん、Miiさんはじつにルーツがはっきりしてますね。

L:俺は原体験はポケビ(ポケットビスケッツ)だよ。

M:それはさすがに、僕もテレビは観てた。

ああ、音楽というか芸能というか、テレビから出てきたものですね。そういう記憶は少なからず影響しているんでしょうね。

そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。(Miii)

さて、先ほどもちょっと話題に上がりましたが、ジャケットのデザインがおじぎちゃんさんなんですよね。とても素敵なんですが、おふたりともアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)とか好きだったりします?

M:いや、好きっていえるほどはわからないですね。

なるほど。初期の作品のアートワークをアグネス・モンゴメリ(agnes montgomery)という人がやっているんですが、その人の作品のポスト・ヴェイパーウェイヴ・ヴァージョンって感じがするんですよね、おじぎちゃんさんのジャケは。

M:へえー。

コラージュなんですが。感性にも似たものがあるなと思うんですよ。

M:当時おじぎちゃんが自分のタンブラー(Tumblr)にどんどん画像を上げていたんですよ。コラージュでした。そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。統一感というか、テーマみたいなものがあって、そのなかで色調とかも合わせてくる感じ。そこに自分たちの音に合ったイメージを持っていたんです。〈ROMZ〉のジョゼフ・ナッシング(Joseph Nothing)の、目の切り抜きがたくさん散りばめられているジャケット、あの気持ち悪いけど美しいという感じに衝撃を受けたんですけど、あれを見たときのことを思い出したんですよ。そういう、僕の源流にあったイメージとかインパクトが刺激されたというか……。それでお願いしました。

へえー。それこそコラージュはメタな編集作業でもあると思うんですけど、おじぎちゃんさんのとかアグネスのとかは、もっと肉そのものというか、そういうものを信じている感性なのかなと思いました。

M:やっぱり、ちゃんと考えられていたり、まとまっているものが好きなので、「できるだけ意味をなくそう」みたいなものとか、そういう感じのコラージュにはピンとこないというのが正直なところですかね。

なるほど、イルカとか、ヘンな塑像とかね(笑)。

M:あー。シーパンク(Seapunk)は……、嫌いじゃないですけども。

L:俺、髪を青くしてたことある。

え?

L:なんか、Seihoさんのイヴェントで、髪を青くしていったら安くなるやつがあったから。

(一同笑)

M:あー! あったかも。ウルトラデーモン(ULTRADEMON)のリリパとかかな。

ははは! 懐かしい。動機が安いなあ。LASTorderさんはジャケットとかアートワークについてディレクションした部分はあるんですか?

L:俺は……、ないかなあ。でも俺は俺でおじぎちゃんを見つけていたんですよ。それで、よくよくきいたらけっこう近いところで活動していて。それで、何かいっしょにできないかなと思っていたら、なんとなくあちらも似たことを思っていたみたいで。

へえ。

L:だから、だいたいさっきの説明と同じなんですけど、ちゃんと意味のあるものを感じるなと思って、共感するというか。

ふたりはけっこうバラバラなんだなと思いましたけど、同じようなところもあって、おじぎちゃんというのはそれを理解する補助線のような気もしてきました(笑)。

L:「こうしてください」ってふうにとくに注文していないんです。

M:そう、音源を送ったくらいで。

L:ウエディング・ドレスじゃないけど、そういう雰囲気の花のイメージがきて、あらためて、「ああ、自分たちはThe Wedding Mistakesなんだな」って思いました。

わたしもこの感じ、とても好きですね。

ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。(LASTorder)

さて、このユニットは一時的なものなんでしょうか? 期間限定のコラボみたいな。

M:えっと、正直な話、僕らが出会ったのが大学2年か3年のときで、もう卒業になるんですね。だからこの先忙しくなるだろうし、とりあえず1年半くらいやって、1枚2枚作品をつくって、楽しかったねって感じで終わろうと思ってたんです。だけど、こんなふうにリリースしてくれるところも見つかって、いまはちょっと長期的にやろうかというふうに思ってます。

L:俺も……、続けたいし、次はもっと作り込んだものをつくりたい。もっと、さらにいいものをって思える感触がいまのところあるので、まだやっていくつもりですね。

自分ひとりだとやれない部分が相手の中に見えているということですかね。

L:それがはっきりしたし、それを言いやすくなりました。

お互い評をもっと訊きたいですね。相手から盗んだ能力とかないんですか?

L:盗んだ能力は……ないですね。

M:(笑)

でも、データをもらってるわけだから、ある意味では盗み放題ですけども。

L:いや、データはこちらから渡すだけで、それを全部あっちが加工するんで……。

M:でも、たまにあげてんじゃん。こっちのも。

ははは!

L:でも、わざわざそれを解体したいという感じではないです。ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、取り入れるということはなくて、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。

Miiさんは?

M:僕も押しつけられているということに関してはとくに何も、というかもっとやってくれって思ってるし、彼には自分の世界観がしっかりとありますから。僕は知識を体系的に取り入れて、それをどう生かしてブレイクコアとかの方程式で壊すかっていうようなことをやっていたので、LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。だから彼から送られてきたものについては全面的に信頼しているし、もし何かやろうとするなら、彼に言うんじゃなくて、自分で解体してどうかしたいって思います。  このアルバムでいえば、2曲め“ドラマティック・ビヘイビア(Dramatic Behavior)”とかは展開が突拍子もないんですけど。これははじめの1分半くらいの音をもらって、それをどう壊したらおもしろいかなって考えて、ジュークぽい低音を入れたりとか、最終的にゆがんだブレイクビーツを突っ込んでみたりとかしました。それはこっちで全部やったことなんですけど、そしたらすごく喜んでくれたし、ライヴでやってもすごくハマる曲になって。

LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。(Miii)

ああー!

M:そのときくらいから、こっちでどうやるかというスタンスができあがっていった気がします。

たしかに2曲めは、ふたりともの個性がケンカするわけじゃないけどはっきり出てきてぶつかり合ってますよね。ほか、手ごたえのあった曲はどのへんです?

M:“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”とかもそうですかね。好き勝手やっている感じです。

ああ! Miiiさんの面目躍如! って感じの曲ですね。

M:そうそう、そうです!

で、LASTorderさんのメロディ性がより効いてくる。

M:当時はまだサウンドクラウド(SoundCloud)に曲を上げつつ、ライヴもやりつつっていう感じだったので、1曲めがまずサンクラに上がっていて、次に“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”が上がって、次、急にベースが入ったらおもしろいと思って。それで“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”を作ったんです。だから、特異点でもあります。

なるほど。では、この中にヴォーカルが入ったりなんて展開は今後考えられますか? すでにふたりともそれぞれのやり方で“歌っている”人たちではありますが。

M:歌は……考えてます(笑)。でも、そっちはまた別の方法論になりますから。デジタルでアルバムを出した後に『ミッドナイト・サーチライト・EP(Midnight Searchlight EP)』っていうEPをつくったんですけど、そっちは1曲だけがっつり歌ものが入ってるんですよ。でもそれはわりと僕らのいつものスタイルじゃなくて、僕が歌詞とかもつくって、編曲をふたりでやったっていう曲なんです。それで、ちょっと色合いとしては今回のアルバムとちがうものになってるんですね。だから歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。

歌ものって……R&B寄りなものとか?

L:というよりは、Jポップというか。

M:Jポップだけど、ちょっと毒というか、エグみのあるものを混ぜるので、おもしろい感じになるかとは思います。

L:そうですね……。でも、そういうものもやりつつ、また今度アルバムをやるとなったら、それはそれでちゃんとやりたい。歌ものかどうかというより、もっとちゃんとつくったものをやる。

ああ、ポジティヴな展開が期待できそうで、素晴らしいです。

歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。(Miii)

ライヴはどんなふうにやってます? バースとウワモノで分かれて、けっこう即興的なかたちでふたりがセッションするんですか?

M:そこは僕の力不足もあって……、即興的に合わせるっていうのはまだできていないんですよ。鍛えたいところなんですけど。

おお、じゃそんなふうにやってきたいなって思いはあるんですね。……チューバ、やったらいいじゃないですか(笑)。

M:チューバかあ……!

(一同笑)

そこからすでにベースだったんですね。

M:いま思えば(笑)。

どうですか? ライヴについては。

L:いまライヴで悩んでいるような部分が大きいのはたしかですね。僕ひとりではそれほどライヴをしないので……。

M:月1回くらいがちょうどいいペースかと思いますけどね。

L:月1より、もうちょっとやったほうがいいんじゃない? CDを出したことで、CDを手に取ってくれた人がライヴに来たらいいなと思うし。

ちなみに、CDはタワレコさん渋谷だったら何階に置かれたいです?

M:いまは4階(クラブ系など)に置いていただいているんですよね。希望するとしたら……そうだなぁ、たとえばJポップのフロアとかにも置かれたいですね。

L:Jポップって、邦楽のロックのバンドとかも同じフロアにある? 

M:うん、いっしょなフロア。

L:じゃあ、ちょっと置かれたいです。でも4階に置いてくれるのはうれしい。

6階(エレクトロニカなど)とかは?

M:ああ、それもうれしいです。多義的なというか、ハードコアっぽい要素すら入っている作品なので、いろんな聴かれ方をしてほしいし、いろんなひとに聴いていただきたいですけどね。

もちろんそうだと思うんですけども、たとえばインターナショナルな展開は考えていないのかなと思いまして。べつにウエディングは特殊なキャラクターで売っているというわけではなくて、普通に国内外関係ない音楽のつくり方、発信をしてるように感じるので、海外レーベルから出したいみたいな気持ちがないのかなと。

M:海外でも認められればうれしいなというくらいで。あんまり詳しくはないんです。

L:海外でウケるのかどうかっていうのは知りたい。でも、海外の人たちにウケそうなもの、って思って作ってないから……。

なるほど。今日は意外にドメスティックな一面というか実像を見れてよかったです。なんか、とても自然なスタンスでいまという時代に音楽をつくっているなって思って。

M:そうですね、でも自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。

自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。(Miii)

ああー。抒情性みたいな部分とか?

M:海外の音楽って、もっと音とかリズムとか一個一個の要素が太くて、それ全体でグルーヴをつくったりするところがあるという感じがします。こっちは、いろんな情報を配置するだけで、あとは聴くほうがその中から何を聴くのかを選んでいるというか……。だから、叙情みたいなものもそこから選んで聴き取るのかもしれないし。そういう意味ではメッセージといえるようなメッセージはないかもしれないというか。そこには多義的な、いろんな情報の層があるだけで。

ああー、たくさん神様がいる国、みたいな。八百万の。仏様もいっしょくたみたいな。

M:歌詞とかの情報量も多いし、情報の海があるだけって感じ……。つくる側の目線で言えば、自分は「この音だ」っていうのをドーンと出すのは正直なところ得意じゃないし、どんな音を足していったのかということもわりと感覚的で、理屈にもとづいたものではないし。

なるほど。

M:感覚的な話になってしまいましたが……。

いえいえ、音楽ですからね。言葉で言えれば音楽である必要もないし。ではリミキサーのHercelot(ハースロット)さんついておうかがいして終わりましょうか。

M:そうですね、もう、すごく好きなアーティストで、高校のころから崇拝していて。この曲(“Marriage for Dance”)については、トイポップみたいな可愛い要素をたくさん入れていただきましたけど、ご自身は「ロムズ・チルドレンだ」って言ってるくらい〈ROMZ〉が好きな方で、このリミックスはそういう人にお願いしなきゃ収まらないっていう思いはありました。

LASTorderさんは?

L:俺は……、というか、Hercelotさんにお願いしようと言い出したのは俺で。

M:そうですね。それを聴いて、たしかにそうだって思ったんです。

不思議ですね(笑)、ほんとにふたりは、バラバラで凸凹で、でも妙にシンクロしてる。ヘンなウエディングですよ。


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