入りとしてはヒップホップだったけど、スケボーやりながら、ルーツ・レゲエとかハードコアを聴いたり、吉田拓郎のアナーキーさに惹かれたりもしましたね。フィッシュマンズとかハナレグミを聴きまくってた時期もあるし、銀杏ボーイズも聴いてた。めちゃめちゃですね。PJハーヴィーとかモルディー・ピーチーズとか......。
Love Music Love Skate
これから先もずっと
No Busy No Money
これから先もきっと
- "SMG"
ピーターパンのようにスケート
友だち、Family、Honey
ラヴ・ソング作ってMoneyっていうかHobby
- "That's Me"
S.L.A.C.K. Whalabout? DOGEAR RECORDS |
素晴らしい才能だ。東京板橋地区(Skate Board Bridge)から登場した弱冠22歳のラッパー/トラックメイカー/スケーター、スラック。
2008年、100枚限定で自主制作で発表した『I'm Serious(好きにやってみた)』は一部のマニアックなヒップホップ・リスナーのあいだで話題を呼んだ。評価を決定付けたのは、今年2月、下北沢を結成地とするヒップホップ・クルー、ダウン・ノース・キャンプ主宰のレーベル〈DOGEAR RECORDS〉からリリースしたデビュー・アルバム『My Space』だ。ジェイ・ディー、マッドリブ、クリプス、ネプチューンズ、MFドゥーム......を彷彿とさせるラップとサウンド・プロダクション。それは時間をかけて、より多くのリスナーのもとに届いている。
言葉が曖昧になるほど日本語と英語を織り交ぜた、囁くような、ときに呟くようなフロウとライム。チープなビート。もたつきながら前に進むグルーヴィーなシークエンス。ソウルやジャズ、ブルースなどブラック・ミュージックからのサンプリング。それらによって構成された彼の音楽性は、『My Space』の時点でほぼ完成されている。そして、9ヶ月という短いスパンでリリースされたセカンド・アルバム『WHALABOUT』。ちなみにその間、実兄のパンピー、ガッパー、スラックから成るPSGのデビュー・アルバム『David』も出ている。スラック本人はPSGのアルバムは「兄貴の趣味」だと言うが、いずれにせよ、この3枚をいま、このとき、しっかり聴いておかない手はない。
『WHALABOUT』で言えば、ソウルフルなヴォーカルのサンプリングからはじまる"That's Me"、R&Bシンガーのように、ファルセット・ヴォイスとフェイクを巧みに操り、溶けてしまいそうなほど甘く切ない世界を描き出す "Another Lonely Day"は出色の出来だが、僕がスラックの音楽に強く惹かれる理由は、音楽に感じる甘ったるい感傷やときめきを呼び起こす瑞々しさと無邪気さ、そしてそれらを響かせながら音楽や人生に対するシリアスな哲学を表現している点にある。最高に晴れた日に余計な悩みをすべて忘れて聴きたくなるような音楽でありながら、そこには切実な想いが込められているのだ。
■ラップはいつからはじめたんですか?
スラック:12歳ぐらいですね。兄貴(PSGのパンピー)は中3ぐらいからトラックを作り出して。スペシャ(スペースシャワーTV)とかで洋楽のPVを観て、ベースボール・キャップを被る感じを知って。当時は、リンプ・ビスキットとナズがどう違うのかも、ジャンルの違いもわからなかった。キッド・ロックもヒップホップだと思ってたぐらいだから。スケボーを同じぐらいのときにはじめて、「じゃあ、何聴く?」みたいなノリで、ロックとかパンクとかレゲエとかヒップホップを聴きはじめましたね。授業中に適当に暇つぶしにリリックを書いたりしてた。ラッパーは人のことを馬鹿にしたり、やっちゃいけないことをやるのかなって思ってたから、酷いことばっかり書いてた。
■例えば?
スラック:批判ばっかっすね。アイドルをディスしたり、それがはじまりだった。スケボーやってる知らないお兄さんたちからもいろんな音楽を教えてもらいましたね。
■お父さんがかなりのレコード・コレクターらしいですね。
スラック:親からの影響もありますけど、ヒップホップ自体は親の影響ではないっすね。俺がまだヒップホップを知らない頃から、家でブラック・ミュージックとかヒップホップが当たり前のようにかかってはいたけど。親父はストーンズとかの世代だから、白人がやってるブラック・ミュージックもかかってました。だいたいこういう感じに歌うとかは気づかないうちにしみ込んでいったのかもしれない。
■日本の音楽は?
スラック:はっぴいえんどにハマたりしましたね。親父に「レコード、ある?」って訊いたら、もうごっそり出てきて。スケボーのヴィデオでかかってる曲を「これ、何?」って訊くと、ツェッペリンのレコードが出てきたり。
■じゃあ、10代の頃、ポップ・チャートに入るようなJポップは聴いてなかった?
スラック:一時期、俺も普通の子たちと一緒に仲良くしたいと思って、そういうのも聴いてみたけど、何が良いのかわからなかった。
■小学生の頃、まわりの人と話が合わなかったんじゃないですか?
スラック:そうっすね。小6からスケボーとか音楽にはまったから。それぐらいの子供ってカード・ゲームがばりばり楽しいみたいな感じじゃないですか。
■まあ、そうですよね。いまの独特なラップ・スタイルも最初から?
スラック:いや、そんなことはないですね。日本語ラップをばりばり聴いて日本語でやってたし。ニップスさんのラップとか好きでした。俺は英語を喋れないんですけど、昔からまわりが多国籍な感じで、帰国子女のラッパーたちがいっぱいいるなかで動いたりしてましたね。小学校で初めてできた親友も外人だったし。いまもまわりに外人がいますね。
■ダウン・ノース・キャンプにもいるんですか?
スラック:ひとりだけ、OYGっていう、Budamunky(『WHALABOUT』で2曲トラックを制作している日本人トラックメイカー)と一緒にやってるLAのラッパーがいますね。
[[SplitPage]]■12歳でラップをやりはじめたとき何年でした?
スラック:いま22歳で10年前だから......
■ということは、小6で99年かー。その頃だと、ウータン・クランとか?
スラック:ウータンのPV真っ盛りでしたね。あと、ナズの"Nas Is Like"とか。
■ティンバランドとか?
スラック:ネプチューンズがPVにちょっと写ってるぐらいのときですね。まだ、こいつら誰だ? みたいな時期。コーンみたいなミクスチャーも流行ってましたね。だから、ヒップホップは中途半端な時代だったのかもしれませんね。
■当時は楽しかった?
スラック:なんでも良かったですからね。スケボーやって、無駄に反抗したり、適当に音楽を突っ込んだラジカセをママチャリに入れて遊び出かけたり。
■遊び方はいまも昔も変わらない?
スラック:変わってないけど、ちょっと人に知られてきたから、少し(まわりの目を)意識するようになりました。
■ぶっちゃけ、不良だった?
スラック:不良の奴らとかやんちゃな奴らと学校では一緒にいたけど、そもそも趣味がずれてた。俺は学校終わったら、すぐに家に帰ってスケボー持ってちょっと遠い公園行って、そこのローカルなお兄さんとスケボーしてた。みんな金髪でピアスを開けてるときに、俺だけ坊主でラインを入れてましたね。『Up In Smoke』とか観て、悪い黒人の奴らがかっこいいなって。
■ヒップホップ好きの不良の友だちもいたわけですよね?
スラック:ヒップホップの人たちは悪いことを悪いことだと思ってやる人が多いけど、スケーターは自分たちがやってることが悪いのに悪いと思ってなかったりする。ワルに憧れたりしない子供でしたね。兄貴にくっついて、兄ちゃんの友だちと遊ぶって感じだった。つねに兄貴の年齢の友だちが多かった。ワルよりも自由の方が好きでしたね。
■ワルより自由か......なるほど。10代の頃に不自由だと感じていたことは?
スラック:やっぱり子供だから舐められますよね。板橋は田舎が近いんで、特攻服着たような人たちもいたし。でも俺はそういうのには関わらなかった。小6の頃から、頑張って原宿とかにヒップホップの店を探しに行ったりして、黒人に呼び込みされて怖えー、みたいな(笑)。
■まわりにいた外国人はどこの人だったんですか?
スラック:アメリカ人とかスペイン人とかコロンビア人とかですね。スケボーやってる友だちは何人かわからないような奴がいっぱいいましたね。町でスケボーしてると、日本に来たんだけど、日本語も全然わからないから、つまらねーみたいな奴が声をかけてきて仲良くなるっていう。どこでもすぐに友だちはできた。普通の日本の環境だと、外国人からしたら、なんでこんなことを守らなきゃいけないのってことが多くて。そういうのもこっち側はけっこう自由にやってたから。
■いろんな音楽を聴く中で最初からヒップホップにはまった感じなの?
スラック:入りとしてはヒップホップだったけど、スケボーやりながら、ルーツ・レゲエとかハードコアを聴いたり、吉田拓郎のアナーキーさに惹かれたりもしましたね。フィッシュマンズとかハナレグミを聴きまくってた時期もあるし、銀杏ボーイズも聴いてた。めちゃめちゃですね。PJハーヴィーとかモルディー・ピーチーズとか、一度サブカルっぽいところに行って、ヒップホップはダサいんじゃないかって思ってたときもある。それが高校の頃ですね。かっこつけて、型にはまり過ぎてる感じがダサいなって。でも、ベスくんやシーダくんが出てきたぐらいから、日本語なのにラップがヤベェなって。俺も英語のラップに日本語をはめるっていうのはずっとやってたんですけど、それをうまくやってる人がまわりにいなかったから。
■あ、そうなんですね?! 真面目にヒップホップを作ろうと思ったのはいつぐらいから?
スラック:『My Space』を今年2月に発売して、その1年前ぐらいから作りはじめたから、2年前ぐらいからですね。かっこつけてるけど、やり切ってるヒップホップのダサいかっこ良さがわかって。解放し切っている感じがわかった。
■トラックはサクサクできちゃう?
スラック:めちゃくちゃ作りますね。『My Space』を作ったときに『WHALABOUT』は7割ぐらいできてた。1日1曲ぐらい作ってた時期もあったし。
■大雑把に言うと、『My Space』はソウルフルで『WHALABOUT』の方がビートの組み方がラフだし、ファンキーですよね。
スラック:まだ日本語のヒップホップで表現できてない重要な部分をやりたかったんです。
■重要な部分というのは?
スラック:感覚なんですけど、遅れ方とかですね。ビートの鳴ってるところを完全に理解して、めちゃくちゃにずらしてもはまるみたいな。みんな昔からフロウ、フロウって言うけど、そうじゃなくて、なんかあるんですよ。耳で聴いて良いとかじゃなくて、感覚的な、音的な声の強弱の角とかが英語のラップには当たり前のようにあって、そこがヤバさの判断基準だったりする。
■外国人で好きなラッパーは誰ですか?
スラック:いろいろです、特定の人はいま思い浮かびません。
■カジモトやMFドゥームなんかはどうですか?
スラック:あー、そういうラップも好きっすね。BudamunkyはLAで10年間ぐらいトラックを作ってたんですけど、Budamunkyに向こうのラッパーのかっこいい奴を教えてもらったりしてますね。インフェイマスMCとか。まだそこら辺はリスナーとしては初心者ですね。
■パンピーくんとかイスギ(ダウン・ノース・キャンプ)とか、最近周りの人たちがワッと出てきたじゃないですか。それはスラックくんひとりが頑張ったっていうよりも状況が整ってきたんじゃないかなと想像したんだけど......どうですか?
スラック:でも、板橋レペゼンとかはどうでもよくて。地元愛とかも正直ないし。そんなのよりスキルとか音楽の良さだから。
■ある種のコミュニティとか仲間が形作られたのはいつ頃なんですか?
スラック:ダウン・ノースに「入れてください」って言ったことはあるんですけど(笑)、「入れるとかそういうんじゃないから」って言われて。「気が合っているだけの奴らだから」って。だから、「ダウン・ノースのメンバーですか?」って訊かれてもわからないです。そう言ってくれる人もいるけど、単純に気が合ってやりやすい友だちが集まってるだけなんで。俺らで勝ち取ってやろうぜ、やってやろうぜ、みたいのは全然どうでもいい。単純に良い音楽を作るために活動してて、かっこいいラッパーと間違いねぇって奴と仕事してたら、こういう風に絞れてきたし。......まあ、バビロン(無駄な要素)はとりあえず嫌いですけどね。
■クルーにいるからとりあえずフィーチャリングで参加したり、アルバム出すみたいな文化がヒップホップにはあるじゃないですか。そういうのは違うなと?
スラック:ヒップホップ的にはそれもあるし、ある意味ではかっこいいやり方でもあると思う。こいつは俺らの仲間だからフィーチャリングで入れるみたいな。リスナーが聴きたくないなら聴かなければいいだけだから。それを批判してる時間がもったいない。俺がやるならかっこいい友だちをフックアップして、音楽がかっこいいほうが満足いきますね。
■ちなみに、いま、ダウン・ノースの人たちと遊ぶときは何するんですか?
スラック:リラックスしてますね。スケボーしたり、酒飲んだり、飲まなかったり......いろいろっすね(笑)。暇があったら、出さない作品も無駄に作ってるし。安定剤ばりにビート作ってないと病んだり、スケボーしてないとストレス溜まったりしちゃいますね。
[[SplitPage]]■バイトとかは?
スラック:最近、バイト辞めちゃって。やっといた方がよかったかなーって。そういう生活のリズムみたいのがあって、それがむちゃくちゃになると怖くなりますね。地に足着いてない感じになって。
■アルバムを出す前からライヴはしてました?
スラック:ライヴはかなりやってましたね。音楽のことばっかでしたからね。かっこ悪りーものはかっこ悪いだろって感じで、くそ生意気な少年でしたね。
■ところで、「slack」という言葉には「ゆるい」とか「いい加減な」とかいう意味があるわけだけど、この名前にした理由はなんですか?
スラック:辞書で言葉を探してて、「ゆるい」とか、そういう意味があったから選びました。適当に名前の響きもいい気がするって感じだった。後々、外国人の友だちに「スラックって名前をよく見つけたな。ホントお前そのものだよ」って言われて。後から気に入り出した感じですね。最近、雑誌とかでも「ゆるキャラ」とか「適当」とかが使われ過ぎてて、逆にちょっと使いたくなくなってきたけど(笑)。
S.L.A.C.K. Whalabout? DOGEAR RECORDS |
■『WHALABOUT』には"適当"って曲があって、「適当に敬意を」ってラップしてますしね。
スラック:適当は口癖なんですよ。それを意識して使ってるんじゃないかって思われるのは、めんどくせぇなって(笑)。
■デビュー・アルバムを出すときは、自分のことを誰も知らないわけじゃないですか。緊張感や力みみたいのはありました?
スラック:ないっすね。小6ぐらいからアルバムを作ることばっかやってたんですよ。通算どんだけ作ってるんだぐらいアルバムありますよ。実際、いまから『My Space』と『WHALABOUT』よりもヤバいのを作れって言われたら、1ヶ月で作る自信ありますね(笑)。『My Space』を出すときは、赤(字)にならないかなって心配はあったけど。最初は自主で刷って売ろうとしてたんですよ。全部手続きが終わって、8万円、母ちゃんに借りて、それを振り込みに行く途中に落としたんですよ。神隠しなんですよ。「へ?!」って(笑)。そしたら、〈DOGEAR RECORDS〉から出さないかってモンジュ(ダウン・ノース・キャンプ)に言われて、一か八かで、ここ(〈ウルトラ・ヴァイヴ〉)で審査通って出せたからラッキーかなって。
■初回は何枚?
スラック:100とか300ぐらいですね。完全なる無名だったから。兄貴はマスタリングみたいのはやってくれましたけど、兄貴のフックアップで出せたわけでもないし。
■『WHALABOUT』は?
スラック:PSGのアルバムを出して得た兄貴サイドのリスナーもいるから。
■PSGはひとりでやるのとはまったく違う?
スラック:全然違いますね。俺の音楽を超聴いてる人は、PSGのアルバムは「なんでやったんだろう?」ぐらいの感じだと思いますね。そういう人もいました。音楽自体は優れてると思うけど、俺の趣味じゃないものもあって。あれは兄貴の趣味ですね。でも兄貴のセンスは信じてます。やりたくない曲はリリックでもやりたくないって言うし、実際"Yes."って曲でこのトラック大嫌いだって言ってる。俺のビートも兄貴が選んで、曲順を決めたのも兄貴ですね。でも最終的にはいいアルバムなんじゃないかって思ってます。
■でも、ソロもPSGも楽しんでるのが伝わってきますよ。とくにサンプリングを本当に楽しんでるなーって。ソウルやジャズやブルースをサンプリングして新しい音楽を創造する感覚は、〈ストーンズ・スロウ〉のセンスに近いものを感じますね。
スラック:〈ストーンズ・スロウ〉から出すのは夢っすね。それはずっと昔から言ってる。ダム・ファンクが来日したときに、Budamunkyと一緒に声をかけたら、Budamunkyが〈ジャジー・スポート〉から出してるレコードをLAでかけてて超調子良いよって言われて。
■いい話ですねぇ。〈ストーンズ・スロウ〉から出すのが夢ということだけど、アーティストとしての目標みたいなのはありますか?
スラック:ちゃんとヒップホップのかっこ良さがわかっている人に評価されたいっすね。
■曲ごとにテーマは決めてから作るんですか?
スラック:あったりなかったり。意味なんてない曲はいっぱいありますね。"適当"とかは意味はないですし。
■『WHALABOUT』には"意味なんてないさ"って曲がありますよね。でも僕は逆にそこに主張を感じたんです。"That's Me"の「Musicのみ」という言葉にも強い決意を感じるし、『My Space』のちょっとハウスっぽい"Think So"の「普通の生活して楽しくできればいいと思うんだよ」ってリリックにも「意味なんてない」っていう言葉の裏側にある信念が垣間見える。
スラック:ヒップホップはもっとお手軽な遊びの延長線上じゃないですか。それなのに日本のシーンはアメリカのヒップホップのビジネス化に影響を受けて、なんか知らないけど、良くない部分で目立つことを真似してる奴も多い気がする。贅沢は別にしなくていいんで、ただ最低限の金と良い音楽を作るための環境が欲しいだけなんですよ。旨い飯は食いたいけど、その分働かなくちゃいけないならいいよって(笑)。
■「その分働かなくちゃいけないならいいよって」のは僕もよくわかるんだけど、それは......世代的な感覚だと思います? 2001年に小泉純一郎が出てきて、まあ、たぶん板橋も格差社会の餌食になっただろうし(笑)。
スラック:うちのマンションとか中流階級ぐらいの感じなんですけど、ベンツとかBMWとか多かったりして......、う~ん、でも、みんなビビって大学無理やり入って後悔したりして、俺はそういうのが嫌で。
■ビビって入るっていうのは?
スラック:就職とか時間稼ぎっすね。俺らはぎりぎりゆとり教育触れたぐらいなんですよ(笑)。
■というと?
スラック:好きなことを完全にやり切りたいなって。ビビっちゃって時 間を無駄にしてる友達を見て苛立ってリリック書いたりはしますね。もっと動いて言いたいことも言ったほうがいいと思うんですけどね。
■何にビビってるんだろう?
スラック:わかんない(笑)。環境っすかね。友だちを失うのが怖かったりとか。
■ということは、スラックくんはやはり異端ということだ。
スラック:でもPSGでよく話すんですけど、俺らがど真ん中だと思ってやってたことが、いろんなリスナーから変わってるとか癖があるとか言われて、それにいままで気づいてなかった。ちょっと変わったことをやるのは好きだったんですけど、いちばんかっこいいと思うことをやって来たつもりなんで。
■サウンド的にはアメリカのメインストリームのヒップホップからの影響も強いですよね。
スラック:けっこう聴きますね。アメリカのメインストリームのヒップホップを俺らなりに舐めた感じでやってる。でも、最近はどちらかと言えば嫌いっすね。なんか音が高い。車で自分のアルバムを聴いた後に、向こうの新譜を聴くとシャリシャリしてて。低音なしで聴くとホントにひどくて。
■MP3で聴くのを想定した音になってますよね。アナログへの拘りがあったりはする?
スラック:パソコンのなかに曲がたくさんありますよ。友たちがくれたりするから。アナログはサンプリング・ネタばっかり買ってますね。レコードプレーヤーは生まれたときからあるから、逆に執着心がないですね。
■なるほど。ちなみに歌詞カードを付けないのには理由があるんですか?
スラック:歌詞を付けちゃうとラップのやり方がわかっちゃうかなって。こういう日本語をこういうフロウでラップすればいいんだって。英語に聴こえるけど、実は日本語だって部分がかなりあると思うんですよ。聴き取れるところだけ聴いて欲しい。ベスくんとかシーダくんとかもそうだけど、リリックは何回も聴いてればわかってくるから。
[[SplitPage]]S.L.A.C.K. My Space DOGEAR RECORDS |
S.L.A.C.K. Whalabout? DOGEAR RECORDS |
■『My Space』と『WHALABOUT』の違いを本人が分析すると、どうなんですか?
スラック:『My Space』のときに気づかなかった部分が『WHALABOUT』にはありますね。俺、ディアンジェロとかめちゃくちゃ好きなんですよ。例えば、久保田利伸さんはJポップとして聴かれてるけど、R&B風のJポップとして聴かれてるじゃないですか。キャッチーだったり、さわやかだったり、いい印象の裏にある渋い煙たいかっこ良さを雰囲気で感じさせられればいいなって。俺も出し過ぎぐらいの黒さを出して、法律とかモラルとかでははかれない、本当の良し悪しだったりを知ってもらいたい。
■それは作品を世に出してリスナーに音楽で何かを伝えたいって気持ちが芽生えてきたってことですか?
スラック:でも、正直伝えたいことはなくて、ただ俺がやりたいことを完全に出し切って、「こんなのはどう?」って感じですね。そういう単純な一連の流れなんです。
■なるほど。
スラック:そのなかでシーン......じゃないですけど、音楽に対して歯痒いような気持ちも出てきますね。
■シーンという言葉で思い出したんだけど、さっきレペゼンという意識はないって話してたけど、ダウン・ノースは下北沢が拠点ですよね?
スラック:俺はそんなに下北に関わってないけど、ダウン・ノースで遊ぶときの家が下北にあったりしますね。あと、床屋が好きな感じなんですよ。
■どういうこと?(笑)
スラック:下北の床屋によく行くんですよ。刈り上げがすごくうまくて。だから、床屋に行く感じのヒップホップですね、美容院というよりは。無理してでも金払って床屋行って、かっこつけるっていう。そういうヒップホップの感じが出せたらいいなって。反メインストリーム主義というか反抗精神がつねにあるべきものが、無闇にタレント化したり、ブログを頻繁に書いてみたり、そういうのが目立ってて。なんでそこを頑張ってんだよって。もっと違うところ頑張れよって。最終的に批判はないんですけど、俺がいちばん良いと思ってるものは行動で示してるんで。自己アピールっすね。
俺は自分の足でクラブに行き
自分でフレンズを選び
自分で曲を作る
シーンのルールには興味もない
Musicのみ Musicのみ
"That's Me"
馬鹿みたいに夢語って
大人なんて馬鹿に見えた
"Another Lonely Day"
自分の言葉がある。ナンセンスもある。それは落ち着きや諦念とはまったく逆のベクトルにある。彼は、大人の熾烈な生存競争から積極的に降りてしまっているように見える。上を目指すために「めんどくせぇ」ことに関わるよりも、スケボーや音楽を無邪気に楽しむほうを好む。好きな娘や気の合う仲間たちと過ごすことを選ぶ。ある友人は「フィッシュマンズみたいだね」と言ったけれど......そう、たぶん。
それは頭の固い頑固オヤジからはモラトリアムだとか、軟弱だとか揶揄されるような......しかしいまや首相さえもこの国の成長そのものを否定する時代に突入してしまったのだから......若者は成熟のあり方を自分たちで作り出すしかないのだ。それはある意味幸運な時代なのかもしれない。
スラックのCDを気軽に手に取って欲しい。君の時間や金が無駄にならないことを僕が約束する。まあ、万が一少しぐらい無駄になったとしてもいいじゃないか。それもひとつの冒険だ。「適当に敬意を」――