「K A R Y Y N」と一致するもの

interview with TOYOMU - ele-king


TOYOMU
ZEKKEI

トラフィック

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 ヴェイパーウェイヴは、レトロなコンピュータや日本語をデザイン要素としながら80年代のCM音楽やエレヴェーター音楽の遅いループそしてカセット・リリースによって資本主義ディストピアのムードを描いている。しかしその前にスクリューがあった。これは既存の曲をただ遅めに再生すると気持ち良く聴こえるという、じつに単純な、そして再生装置もひとつの楽器と認識するようになってからの、究極的なサンプリング・ミュージックと言える。だが、しかし、音楽は常にリサイクルされてきた。100年前のストラヴィンスキーがそうであったように、メロディやリズム、音の断片は、過去から借用され、使い回しされ続けているものだが、現代ではそれがより簡単に、初期のヒップホップの時代よりも、ずっとずっと簡単にできるようになった。
 サンプリングは、それが商用で使われた場合、著作権侵害となり、クリアランスが必要になるが、しかし商業リリースではない場合は、いや、インターネット空間そのものがどこからどこまでが商用で、どこまでが個人の趣味かという境界線を曖昧なものにしてしまったため、そのグレーゾーンではフィジカルでは聴けない(買えない)ユニークなサンプリング・ミュージックが突如アップされる。
 京都で暮らすTOYOMUも、基本的には“リスペクトありき”のサンプリングで作品をアップロードしてきた。ネット空間においてサンプリングがどこまで自由なのかを試すかのように。それで今年、カニエ・ウエストの『ザ・ライフ・オブ・パブロ』をまだ聴く前に告知されていた曲名と情報公開されていたその作品のサンプリング・ネタをたよりに、TOYOMUはそれを想像して作り上げ、そしてヴェイパーウェイヴよろしくすべての曲名を日本語で表記し、『印象 III : なんとなく、パブロ(imaging”The Life of Pablo”)』として自身のサイトにアップしたのだった。
 すると、一夜にして海外リスナーからのリアクションが彼の元に届き、その痛快さ──そのアイデアおよび曲のクオリティ、そしておそらくは日本人自らやったヴェイパーウェイヴ的ミステリー効果──を『Billboard』、『BBC Radio』、『Pitchfork』、『The Fader』、『FACT』といったメディがセンセーショナルに報じた。言うなれば彼は、カニエ・ウエストの知名度に便乗しながら、自分の作品を売り込むことに成功したわけだが、計らずともこのパブロ騒ぎは、今日の音楽を取り巻く環境を反映している。つまり、引用(カットアップ)とスピードである。
 
 そこへいくと今回リリースされる彼の初の公式フィジカル・リリースのEP「ZEKKEI」は、サンプリングやコンセプトで楽しませるものではない。むしろ、俺は戦略家ではないとでも言わんばかりの、聴き応え充分のエレクトロニック・ミュージックなのだ。素っ頓狂さを装いながら、リズミックな妙味を展開したかと思えば、かつて京都を拠点に活動したレイ・ハラカミを彷彿させるかのような、ロマンティックな叙情性もある。言うなれば真っ向からの作品で、『なんとなくパブロ』で使ったアイデアはいっさいない。きわどいサンプリングはナシ、曲名はすべて英語、捻りの効いたファンク、OPNとミュータント・ジャズとの出会い、美しいアンビエント、このように言葉で説明する以上に凝った展開。
 彼の“絶景”はシュールであり、いったいどこに着くのか、ときとして音の迷路のようでもある。いや、実際、彼がこれからどこに行き着くのかまったく読めない。ただ、何にせよ、ここにトーフビーツらと同じ世代(20代半ば)のユニークな才能が躍り出たのである。彼は間違いなく僕たちの耳を楽しませてくれるだろう。もしこの『ZEKKEI』に先祖がいるとしたら、クラフトワークの『ラルフ&フローリアン』とクラスターの『ツッカーツァイト』である。わかったよね、そう、ぜひ、楽しんで欲しい。

ツイッターとかフェイスブックとかどこを見てもカニエの話題ばっかりで、いまこれをやったら絶対みんな聴いてくれるやろうなと思ったのでカニエを選びました。

なぜカニエ・ウエストだったんでしょうか?

TOYOMU:あれは『印象』という名前のシリーズでやっているんですけど、去年の10月くらいに自分でビート・テープを出して、ポンポンと出していきたいと思っていて、なおかつ過激で、エキセントリックで、実験的な内容をどんどん出していきたかったんですよ。ただそれをやるだけだったら誰も聴いてくれないので、(ビート・テープを)周知させるためになにか大きくてわかりやすいテーマがいるなと思って、まず1月に星野源を選んだんです。その次の2月はわりと地味なやつで、ソウル・ミュージックをソフト・プラグインのシンセでサンプリングしました。そして3回目をやろうとした1ヶ月前にカニエのアルバムが出て、ツイッターとかフェイスブックとかどこを見てもカニエの話題ばっかりで、いまこれをやったら絶対みんな聴いてくれるやろうなと思ったので(カニエを選びました)。あとはあのアルバムの弄りがいがあったというのが大きいですね。僕は不完全さがあるほうがアレンジしやすいんですよね。

確信犯としてやったんですね。

TOYOMU:いや、でもここまで大きな反響になるとは全然わからなかったんで。ぼんやりと海外向きやなとは思っていましたけど、こんなに海外向けになっているとは思ってなかったですね。

カニエが好きなんですか?

TOYOMU:好きですけど、それはみんなが普通に好きというくらいのレベルですね。

カニエのどこが好きなのか、すごく興味があるんですけど、ぜひ教えてください。

TOYOMU:サンプリングの良さじゃないですか? 言っていることとかそういうことじゃなくて、音楽的な面としてこういう変遷を辿ってきた人がいないから面白いという。最初はファレルやティンバランドがやっていたときにサンプリングの早回しで出てきて、それで一時代を作ったあとにだんだん変になっていって、『イーザス』という突然あんなのを作ったと思ったら、今度は『ライフ・オブ・パブロ』で「またなんのアルバムなん?」という感じで、ラップというよりかは音楽面ですね。
 変遷が大きいじゃないですか。ガラッと変わっていきますよね。あんなに変えてやっている人は、メインストリームではなかなかいないですよね。ファレルは最初から器用だから、なにをやったって驚かないじゃないですか。でもカニエは毎回驚くことをやってくるんですよね。そもそもヒップホップ自体がそういうありえへんことをできる音楽だと思うし、渋くやるというのが凝り固まった時点でもう違うと思うんですよね。最初はレコードが回っているのを(手で)止めてはじまったわけですから、それを考えたら最初からありえへんことをやるというのが基本としてあるかなと思っていますね。

カニエの前には、星野源(『イエロー・ダンサー』リリースから1ヶ月に『印象I:黄色の踊り』をアップ)もやったんですよね?

TOYOMU:あれはサンプリングをしたビート・テープを作るというのが半分と、あとはちょうどあのときに自分でドロドロのアンビエントを作ってみたかったんですよね。

星野源を選んだのは人気者だから?

TOYOMU:人気者だからというのがひとつと、あとはあのアルバム(『イエロー・ダンサー』)自体がディスコというかブラック・ミュージックだし、やっぱりバンド・サウンドというのがいちばんサンプリングしがいがあるなと思いますね。アレンジしがいがあるというのはやっぱり音楽的に補完できる余地が残っているからだと思いますね。最近でいったらフランク・オーシャンはもう弄りようがなくて、じつに完璧で、僕のつけ入る隙がいっさいないというか。でもカニエや星野源はそれぞれに不完全さがあると思うんですよね。

当然クレームは来たでしょう?

TOYOMU:僕に(クレームがきたん)じゃないんです。サウンド・クラウドやバンドキャンプ側にクレームが行ったらそちら側が判断して削除したりできるんですけど、それでバンドキャンプにクレームが行って。サウンド・クラウドにもティーザーとして1曲あげていたんですけど、それもビクターによって消されましたね。次はもうやらないでくださいねという警告もきたので、あと2回やったらアカウントを消しますということになりました(笑)。サウンド・クラウドにBANという機能があるんですよ。バンドキャンプももうこんなのやめてくださいね、と消されたときにメッセージが来ましたね。

リスナーからはどのようなリアクションがありましたか?

TOYOMU:「Sampling-Love」というブログがあるじゃないですか。元々はネタ集なんですけど、いまはかなり人気で、記事を書いたらリツイートが50~100くらいされるようなサイトなんです。国内やったらサンプリングの音源を取り上げてくれるかなと思って、そのブログの人に毎回メールをしていたんですね。『黄色の踊り』もメールしたらブログに載っけてくださって、それがきっかけで国内のみんなが聴いてくれたんですよね。ツイッターでは、「こんなアレンジもあるんだ。おもしろーい」みたいなことを言っている星野源のピュアなファンはわりといました。

サンプリングは、商業リリースでは著作権侵害で、クリアランスが必要なわけですが、欧米では、アンダーグラウンドに関しては文化として大目に見ているところもあるんですよね。例えばシカゴのフットワークはかなり大ネタ使ってます。あるいは、ジェイムス・ブレイクの最初のヒット作の「CMYK」は、ケリスとアリーヤという大物の曲をサンプリングして、誰かわからなように変調させて使っていました。その盗用の仕方も含めて、メディアは賞賛したわけです。そういうアート性の高いもの以外でも、インターネットが普及した現代のネット世界では、音源はいくらでもあるし、これを使わない手はないくらいの勢いで、サンプリング・ミュージックは拡大していますよね。

TOYOMU:使わない手はないですね。正直言って個人レベルでやっている以上は文句を言われたって(音源を)消されて終いだし、むしろ発見されること自体が珍しいんですよね。だから個人レベルだったら好き勝手やったっていいんじゃないかと思いますよ。それを大目に見てくれればいいのに、なんでわざわざ消したのかは謎ですね。

いや、それはしょうがないでしょう(笑)?

TOYOMU:僕はむしろそれをプロモーションに使ってほしいくらいなんですけどね。そういう度量はなかったみたいですね。

とにかく、サンプリング・ミュージックという手法に関心があるんですね。

TOYOMU:まさしくそうですね。

もっとiPhoneでワーッと録って、なんならインストもiPhoneで録って「どや!」といって出すくらい……、それはさすがにクオリティが低すぎるんですけど、ラップだけiPhoneで録ってPCに入れて、インストは「これ使ったらええやん」といってやるというノリがなくて、「なんでみんなこんなに便利な世のなかなのにそうせえへんのかな」とすごく不思議ですね。

サンプリング・ミュージックはたしかにいますごく議論のしがいのあるテーマなんですよね。じつはいまサンプリングの時代だから。TOYOMU君はサンプリング・ミュージックのどこを面白く思っているんですか?

TOYOMU:突き詰めていったら編集している良さかなあ。最初は音の質感でしたね。古い質感が好きになったきっかけじゃないかな。

知っている曲が違う文脈で使われることの驚きみたいなものはあります?

TOYOMU:それはだんだん詳しくなっていく過程でそう思った。でも、初期衝動としては、それ(音の質感)でしたね。中学生、高校生だった自分にとっては、テープ録音されたものを切って並べていくというのは、ポルノグラフティやバンプ・オブ・チキンが演奏しているのとは明らかに違っていた。

ずっと家で作っていたんですよね?

TOYOMU:そうですね。レコードを買ってきて(それをサンプリングして作る)、というのをやっていました。レコードじゃないとダメという風潮がありますけど、ストーンズ・スロウのナレッジというビート・メイカーはサンプリングの音がめちゃくちゃ悪くて、どう考えてもYouTubeから音を録っているようなのを毎月何本もバンドキャンプにビート・テープとして出したりしていたので、「もう作るんだったら手段関係ないやん」と思いました。レコードを買いにいく時間で(音を)作れますよね。だからある意味で合理化ではありますよね。

いつから作っているのですか?

TOYOMU:MPCを買ったのは2009年なので6年くらい前ですね。

憧れのような人はいました?

TOYOMU:KREVAですね。あとはマミーDですね。最初に日本語ラップから入ったので。あの人らって「MPCをまず買え」という人じゃないですか。それで「MPCを買ってやったらああいう感じができるんや」と思ってMPCを買って、KREVAのソロとかを聴きながら「なるほどな、こういう構造か」って分析したり、あの人がスタジオでMPCを使って解説している動画を見たりしていました。

だとしたら、普通に、真っ当なJラップの道にいってもよさそうなのに。

TOYOMU:そうなんですよ。僕は最初はラップもやっていて、KREVAやマミーDはトラックメイカー兼ラッパーで、自分で曲を作って自分でラップもできるみたいなことに憧れていたので、最初はそれでいこうと思っていたんですよ。でもリスナー目線で考えてみると周りにラップでむちゃくちゃカッコいい人が多すぎて、「これは自分で全然無理やわ」と思って、そこでラップは断念したんですよ。「こんなにカッコいいのできへんし、全然歌詞も思いつかへんし、音楽作るのは好きなんやけどなあ」という思いがずっとあって、「じゃあもうラッパーのためにビートを作る」ということでビート・メイカーという役職があることがわかったからはじめたんですよね。

誰か他のラッパーとユニットを組んでみたりしたことはありますか?

TOYOMU:それはありましたよ。地元の同い年くらいの何人かで集まってクルーを作ったりしたことはありました。1回ミックスCDを出しましたけど、どうしてもラップがパッと返ってこなくて「インストはどれがいい?」とか言っていたら時間が経ってしまって、それがだんだん「はよ返せよ!」とイライラしはじめて。
 京都に限った話じゃないんですけど、もっとみんなラフにラップをやればいいのにな、と実感するんですね。さっき来てはった人(この前の取材者=JAPAN TIMESの記者)も「日本のアンダーグラウンドのラップを探しているけど、なにを見ていいかわからん」みたいなことを言ってはって、それは日本でミックス・テープ文化が全然根づかなかったということじゃないですか。まとまっているところが全然なくて、結局僕は「タワレコの『bounce』とか『ele-king』のチャートを見るしかないんじゃないですか?」と言うしかなかったんですね。日本のヒップホップのなかでみんなが「作品を作る=CDを出す」ということになってしまっていて、CDを出すということはスタジオでちゃんとレコーディングをしてというように真面目なんですよね。「なんでヒップホップをやっているのにそんなに真面目なんだ」と思ってしまって。
 もっとiPhoneでワーッと録って、なんならインストもiPhoneで録って「どや!」といって出すくらい……、それはさすがにクオリティが低すぎるんですけど、ラップだけiPhoneで録ってPCに入れて、インストは「これ使ったらええやん」といってやるというノリがなくて、「なんでみんなこんなに便利な世のなかなのにそうせえへんのかな」とすごく不思議ですね。僕がラッパーやったらガンガン人の曲を使いまくって、アップロードしまくってハイプをやるほうが早いと思うんですけどね。ライヴでかますというよりかは、それをやったほうが絶対にヒップホップ的に成りあがれるというか。KOHHとかリル・ウェインとかああいう人がいるのに、なんでそういうやりかたをやらんのかなあと思いますね。というのもあって僕の『印象』シリーズは毎月出そうとしていて、そういうミックス・テープのノリでみんなもどんどん作ればいいやんと思うんですけど、腰が重いというのが謎ですね。

現代の、次から次へと作品がアップロードされるその速度感はすごいものですが、それでは音楽がビジネスとして成り立たなくなるということ、そして作るという行為そのものがまったく意味が違ってきてしまうということに対する恐怖心も日本にはあるのかなと思うんですけど。

TOYOMU:なるほど。でも僕はそれがなぜ作る側にあるのかがわからなくて、作る側は自由にやって、それをどう思うかは企業や会社の問題じゃないですか。

カニエ・ウエストのリアクションというのは予想以上だったと思うのですが、海外でおもしろかったリアクションはありますか?

TOYOMU:おもしろかったのは向こうの「レディット」というちょっと明るい2ちゃんねるのようなサイトでカニエ・フォーラムみたいなのがあって、そこの「カニエのアルバムを妄想で作ってみたらしい」というスレッドに「小説としてはおもしろいと思うけど、妄想で作ってない。全部聴いてから作っている」と書いてあったのがおもしろかったですね(笑)。「こんなに似ているわけないし、絶対コイツ聴いている」からみたいな(笑)。

しかし「レディット」って、すごいところまで見ていますね。

TOYOMU:それはなんでかと言えば、どこでバズが起きているかがバンドキャンプのアクセス解析でわかるんですよね。「バズ」という項目があって、もちろんエレキングだって出ますよ。それで変遷を見ていたら「レディット」というのがやたらと書いてあって、見にいったら「2ちゃんか……」と思いましたけど(笑)。

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もっと欲をかいたというか、自分ですべて作ったものを出したいと思ってきたんです。だからサンプリングで一音だけ録ってきて音階にわけて弾いていても、やっぱりどこかで借り物感に満足しきれなくて、今回はそういうことに頼らずにできたと思っているんです。

なるほど(笑)。TOYOMU君って、物静かな外見とは裏腹に、けっこう大胆な行為をやっているんですけど(笑)。ニコニコしながら言っていますが、普通こんなことはビビってできないと思います(笑)。

TOYOMU:それは「日本に住んでいるとただでさえアンテナが低いのに、出さなかったら知られていない、やっていないのと一緒だ」と思ったからなんですよね。せっかく作っているのに聴いてもらえないのがほんまに悲しいと思ってきて、だからそれだったら方法なんて選んでられへんよねという話で。しかもヒップホップ自体が手段を選ばずに新しいことをやるという音楽であるはずだと思うので、その考えからいったら怖いものはなにもないですよね。あとは個人レベルでやって怒られることなんてまずないから、なんでもやったらええやんと思うんです。

でも、今回の『ZEKKEI』がそうですが、商業流通を前提で作っているから、人騒がせなサンプリングもないわけで、自分の音をサンプリングしたんですよね。そういうときにどうやって自分のやり方を調整していくのですか?

TOYOMU:それはYMOとかを聴いてきた僕自身にミュージシャン気質みたいなものが入ったから、自分で作曲してメロディを作り出すということ自体がもしかしたら自分がもっとも目指していたところなんじゃないかと思います。最初はサンプリングとシンセの融合でうまいことやって、サンプリングに聴こえないものを作り出すというのが当初の目標でしたけど、もっと欲をかいたというか、自分ですべて作ったものを出したいと思ってきたんです。だからサンプリングで一音だけ録ってきて音階にわけて弾いていても、やっぱりどこかで借り物感に満足しきれなくて、今回はそういうことに頼らずにできたと思っているんです。今回はそういう欲求でしたね。そもそも欲求としてあったというのはあります。

サンプリング・ミュージックというのはある意味でコンセプチュアル・アートのようなもので、発想を楽しむというのがあるじゃないですか。それに対していま言ったような作り方というのは、自分で実際に絵を描くというような行為ですよね。

TOYOMU:だからコンセプチュアル・アートだけやっていた人が、自分で絵を描くのをやりはじめたという段階がいまですね。

それはやっていて面白かったですか?

TOYOMU:そうですね。いままで自分が挑戦していなかったことをやるんで、やっぱり無類に楽しいですね。僕はメロディやコードの勉強はいっさいしていないですけど、理論って……理論化して可視化しているだけなんで別に(感覚で)理解できればいらないと思うんですよね。サンプリングでコードを合わせたりするのをやっていて感覚として身についてきたので、サンプリングを外してメロディだけを作ってみたりするのがだんだんできるようになってきたということが大きいですね。
 今回はとりあえずの足がかりを作って、それをアルバムの基軸に繋げていきたいと思っていましたし、アルバムを作ることになってからあまりにも時間がないということもあったので、先にジャブ的な感じでひとつ出そうかという感じでしたね。カニエに一区切りするために、というのも一つありました。あれをいつまでも引きずるのは嫌だし、KOHHも「昔のことを忘れたらいい」「過去にしがみつくなんてダサい」と言っているじゃないですか。その感覚ですね。

なるほど。もう次に行こうということですね。

TOYOMU:新しいことのほうがしたいんで、いつまでも一緒のことをやっているのも単純に面白くないし、飽きてきますよね。

『なんとなく、パブロ』のようなギャグをもないですよね。

TOYOMU:そうですね。ギャグはタダでいっぱいやればいいし、それをやる一方でアルバムは超真剣に作ればいいんじゃないかなと思っていますね。別に(ギャグの)入れがいがあるんだったらアルバムに入れてもいいと思うんですけど、100まで振りきってやるというのはやらなくてもいいかなと。

ダンス・ミュージックなどといった縛りはなかったのですか?

TOYOMU:ジャンルということだけは定義づけてやりたくない、という考えは通してありました。「これはトラップですよ、これはハウスですよ、ヒップホップですよ」と最初から冠づけずに、「音楽ですよ」と言って出したかったので定義づけしないでやりましたね。ジャンルがあるからジャンルに従って作ったというのがそもそも嫌だし、「これがビートの作り方ですよ。これがカッコいいですよ」となっている状況が嫌だったから、その(ジャンルの)メソッドが確立したら絶対それをやらずに新しいものを作るということを前からずっとやっていますね。

それでなぜ『ZEKKEI』なのでしょうか?


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TOYOMU:フィールド・レコーディングの曲も京都の音ですし、『印象』の5番目で『そうだ、京都。(Kyoto Music)』というのを作って人から感想を言われたりして、自分が好きな京都が祇園祭とかクール・ジャパン的な京都じゃなくて、落ち着いたアンビエントの方向の京都なのかなと思ったんですね。京都自体がそういうイメージであることを再認識して、曲を作るときにもそういうのを意識して作ったりしていたので、その延長で今回のEPの制作に取りかかったんですよね。だから『ZEKKEI』というタイトルにしたのは普通絶景と言ったら歌舞伎の石川五右衛門ですよね。あれは南禅寺じゃないですか。

なるほど。そっちから来たのですね。

TOYOMU:日本語のタイトルをつけたいというのがまずあったんですよ。カニエのときは全部邦題的なノリの日本語で書いて今回もやろうと思ったんですけど、それをちゃんとしたCD作品としてやっちゃうと勘違いされるんですよね。

ヴェイパーウェイヴなんかは、相変わらずグーグル翻訳したような日本語をそのままタイトルにしていたり。

TOYOMU:でもそれを僕がやったらヴェイパーウェイヴの人になっちゃう。それが嫌だったんですよ。そこは僕もものすごく悩みましたよ。全曲のタイトルが日本語でもよかったんですけど、やっぱりそれをオフィシャルでやって理解してもらえるまでの周知度はないと思って、嫌だったんですけど日本語の言葉で英語タイトルをつける、ということをなるべく心がけてやったんですよ。だから2曲目に“Incline”という曲があるんですけど、これも英語ではあるんですが、琵琶湖から京都まで引っ張ってきている水路があって、その水路に滑車をつけて荷物を運んでいた「インクライン」という輸送用の台があったんですよ。その線路とかを含めて「インクライン」と呼んでいたんですけど、京都の人はそういうのを小学生の頃から習ったりして知っているから、僕にとって「インクライン」という言葉は英語というより蹴上にあるものが先に思い浮かぶんですよね。もし日本語タイトルでやっていたなら、カタカナで“インクライン”にしていましたし。あと1曲目の“Atrium Jobo”というのも、「条坊制」から取っていて日本語的な意味がありますね。

それは曲のイメージと関係があるのでしょうか?

TOYOMU:曲のイメージからです。EPを作ってからも自分のなかで京都の印象が強かったので、全部曲ができてからタイトルを考えるときも、京都のどこかしらの場所がそれぞれ点在していると考えるとうまく解釈できたんですよ。例えば1曲目は京都駅で、2曲目はさっき言ったインクラインで、5曲目のフィールド・レコーディングは嵐山のほうで、そう考えていくと(京都の)俯瞰になっているんです。そういうふうに俯瞰で眺め見ている+日本語タイトルをなんとかしてつけたいということを考えて、それを理解するのに正しい言葉は『ZEKKEI』だと思ったんです。

当たり前といえば当たり前なのかもしれませんが、TOYOMU君のなかで京都というのは大きいのですね。

TOYOMU:そうですね。ただ音楽に国境は関係ないという話がよくあると思うんですけど、どこに住んでいたとしても住んでいる場所から生まれ出たものが絶対大きく影響しているはずなんですよ。それは京都に住んでいるから京都をレペゼンしたいということじゃなくて、もう少し俯瞰してみると自分が京都に生まれてからずっと住んでいて(その状況で)音楽を作ったらどうなるのか、ということを考えたうえでの京都なんですよ。もちろん京都愛はありますけど、そうじゃなくてもう少し冷静な見かたの京都であるということを言いたいですね。

アルバムは来年になるのでしょうか?

TOYOMU:来年の2月くらいかな。タイト・スケジュールですね。

ハイペースだね。『印象』シリーズもそうですが、作るのが好きですよね。

TOYOMU:パッと出したいので、時間かけて煮詰まってああだこうだ言うんじゃなくて、『印象』シリーズに関しては最初のインパクトだけで短期間で終わるものをどんどん出していったほうがいいかなと思って。それがあるのであんまりもったいぶっても忘れ去られるだけだなと思いますね。

やはり消費の速度は早いと思いますか?

TOYOMU:思います。それは星野源のリミックスがそうだったし、カニエのやつも3月に出して「Sampling-Love」に載ったあとワーッと盛り上がってスッと消えたので。突然もう聴かれなくなって「はあ、じゃあ次作るか」と思っていたところやったんですね。タダのものしか聴かないという状況は大きいと思いますね。みんな本当にそれしか聴かないですしね。

そういう状況のなかで音楽家はどうやっていくか、というのもテーマとしては大きいですよね。

TOYOMU:タダのものはお金を出して買って頂けるもののオマケというか、プロモーションとしてやるつもりではいるので、今回のカニエくらい実験的だったりギャグ的なことだったりしてやれることはこれからもやっていくとは思うんですよね。

それはそれで楽しみにしつつという考えなのですね。

TOYOMU:そうですね。けっこう早いペースですけど、おそらくEPが出るまでにやると思います(笑)。(※『印象』シリーズの最新作は宇多田ヒカルだった)そうやって動いていきたい感じはありますね。とにかく「あの人は音楽を作り続けているな」というふうに(言われるように)はなりたいですね。実際にやっていて「もうアイデアがない」みたいな状態もないので。

Goldie × Lee Bannon - ele-king

 10月にコンゴ・ナッティとマーラを迎えて開催された「Drum & Bass Sessions」こと「DBS」の20周年記念パーティ。なんと、その続報が届けられました。2016年を締めくくる「DBS20TH」第2弾は、ドラムンベース/ジャングルの帝王ゴールディと、〈ニンジャ・チューン〉などからのリリースで知られるリー・バノンの夢の共演です(リー・バノンは今月Dedekind Cut名義で新作『$uccessor』をリリースしたばかり)。相変わらず豪華な面子でございます。12月17日(土)は代官山UNITにて、一夜限りの「THE DARK KNIGHT BEFORE CHRISTMAS!!!」を体験しましょう。

★GOLDIE (aka RUFIGE KRU, Metalheadz, UK)

"KING OF DRUM & BASS"、ゴールディー。80年代にUK屈指のグラフィティ・アーティストとして名を馳せ、92年に4ヒーローの〈Reinforced〉からRUFIGE KRU名義でリリースを開始、ダークコアと呼ばれたハードコア・ブレイクビーツの新潮流を築く。94年にはレーベル〈Metalheadz〉を始動。95年に1stアルバム『TIMELESS』〈FFRR〉を発表、ドラムンベースの金字塔となる。98年の『SATURNZ RETURN』はKRSワン、ノエル・ギャラガーらをゲストに迎え、ヒップホップ、ロックとのクロスオーヴァーを示す。その後はレーベル運営、DJ活動、俳優業に多忙を極めるが07年、RUFIGE KRU名義で『MALICE IN WONDERLAND』を発表、08年に自伝的映画のサウンドトラックとなるアルバム『SINE TEMPUS』をデジタル・リリース。09年にはRUFIGE KRU名義の『MEMOIRS OF AN AFTERLIFE』を発表、またアートの分野でも個展を開催するなど、英国が生んだ現代希有のアーティストとして精力的な活動を続ける。12年、〈Metalheadz〉の通算100リリースにシングル「Freedom」を発表。13年には新曲を含む初のコンピレーション『THE ALCHEMIST: THE BEST OF 1992-2012』をCD3枚組でリリース。14年、〈Ministry of Sound〉からのヴィンテージMIXシリーズ『MASTERPIECE』を発表、ヘリテージ・オーケストラとのTIMELESS LIVEが好評を博す。16年、音楽とアートの功績を称えられ大英帝国勲章MBEを授与される。15年の「Broken Man」以降リリースはないが、フライング・ロータス、ブリアル、フォーテックらが参加した新作のリリースが待たれる!

★LEE BANNON aka DEDEKIND CUT (Ninja Tune, NON WORLDWIDE, USA)

カリフォルニア州サクラメント出身、現在はNY在住のビートメイカー/プロデューサー。映画からインスピレーションを得ることも多く、フィールド・レコーディングを多用した自由なプロダクションが賞賛を浴びた1stアルバム『FANTASTIC PLASTIC』を2012年にFLYING LOTUSの作品で名高い〈Plug Research〉からリリース。またブルックリンの若手ヒップホップ・クルー、PRO ERAとの交流を経て、代表格のJOEY BADA$$のプロダクションや彼らのツアーDJとして注目を集める。13年にはダーク&エクスペリメンタルな『CALIGULA THEME MUSIC 2.7.5』、『NEVER/MIND/THE/DARKNESS/OF/IT...』の2作のデジタル・アルバムのリリースを経て〈Ninja Tune〉と契約、ダウンテンポの「Place/Crusher」を発表。14年、〈Ninja Tune〉からアルバム『ALTERNATE/ENDINGS』を発表、90'sジャングル/ドラム&ベースのヴァイブを独自のサイファイ音響&漆黒ビーツで表現し、『Rolling Stone』誌のBest Electronic and Dance Albumの15位となる。15年には前作とは趣を異にするドープなドローン/アンビエント色の濃厚な怪作『PATTERN OF EXCEL』をリリース。その後、突然改名を宣言し、新たにDEDEKIND CUTの名前でEP「Thot eNhançer」をセルフ・リリース。LEE BANNONと決別したDEDEKIND CUTはエクスペリメンタルなノイズ、ニューエイジ、アンビエントの現代的なアプローチを標榜し、16年に「LAST」、「American Zen」を発表、11月には注目のアルバム『$UCCESSOR』がリリースされる。

R.I.P David Mancuso - ele-king

 目と目を合わせるだけでチカラが湧いてきて元気をくれる人というのが稀にいます。最初に会ったときからDavid Mancusoは自分にとってそういう人でした。深く誠実な眼差し。そして握手を交わしたときの優しい笑顔と伝わってくるポジティヴなエネルギーは一生忘れられません。
 2016年11月14日。そのDavid Mancusoが亡くなったと聞いて、とても残念で、悲しく、寂しい気持ちです。

 私は仲間とはじめたパーティ、Sunday Afternoon Session “gallery”をやっていくなかで、札幌の“Precious Hall / Filmore North”の力を借りて、1999年~2011年まで年に1回くらいのペースでDavidを東京に招き“Music is Love”というパーティを開催してきました。David Mancusoが長年かけて積み上げて来たものをなるべくアウトプットできるように心がけて。

 Davidは常にパーティに来てくれる人のために生きていたように思います。音楽が好きなすべての私たちのために。そしてそれはおなじように音楽そのもののために私たちにパーティを開いていたとも言えるでしょう。
 音楽のために。私たちのために。常に音響を追求し、皆がベストな状況で音楽を感じられるようにと優しく細やかな配慮がパーティーには溢れてました。彼はアナログ・レコードにこだわり、ターンテーブル、カートリッジ、アンプ、スピーカーを選び抜き、サウンドシステムのセッテングに注力していました。
 ドライヴ感のある締まった低音。抜けの良い中高音域。そして特筆すべきはフロアの天井の辺りで、その音楽と皆の発するヴァイブレーションとがミックスされて、常に反復され響いているマジカルでものすごく心地よい倍音。それはまさにミュージック・マジックでした。

 彼の音楽に対する深いリスペクト。そして音楽を愛する人たちへのホスピタリティー。これが何よりあの素晴らしいミュージック・マジックを創り出していたのでしょう。音楽の持つメッセージとその気持ち良い音で最高の瞬間を何度もシェアしてくれました! そして私たちにポジティヴなエネルギーを与えてくれました。
 45年以上に渡りパーティ本来の在り方を実践し続け、音楽をプレイし続けてくれた彼の愛とスピリットに感謝します。
 そして、彼が伝えてくれたこれらの大切なものを未来に繋げていきたいと思います。

 Thank you David.
 Rest in Peace.
 Music is Love.

2016.11.19
Kenji Hasegawa (gallery)

 毎年恒例でアイスランド・エア・ウエイブスのレポート。18回目のエアウエイズで、私にとっては4回目の参加。滞在期間は2日と短かったが、中身は濃かった。
 いったい、この国の良いバイブがどこから来るのだろう。アイスランドは、2008年に経済破綻したというが、初めてアイスランドに行った2013年にも、そんな様子はまったく見えなかった。レコード屋に行ったらエスプレッソが出て来るし、バーは夜中の3時でも列が出来ているし、高級レストランにも多くの人がいる。若くして子供を持っている人が多く、町は綺麗で、ホームレスもいない。どう言うこと?
 たしかに、オーロラは日常的に見れるし、ブルーラグーンや、この世の物とは思えない美しい自然が目の当たりに見れるから、観光客もエア・ウエイブスに関わらず多い。レイキャビックの町は小さく、NYで言うとベッドフォードくらいで、端から端まで歩いても1時間ぐらいなので、自転車に乗っている人が多い。町の中心にある、ミュージック・ホールのハーパ周辺の港と景色は、何処を写真撮っても絵になり(ピンク色の空)、歩くのがとても楽しい町である。
 どのようにアイスランドが、経済復興したのかと、地元の人に聞いたところ、やっぱり観光業のお陰だと言う。ただ、この小さな国にとって、クローナの価値が上がり過ぎて、またバブルが弾けるだろうと言う。エアbnbなどで、観光業が調整されず、アイスランド人にとっては家賃はどんどん高騰しているし、クローナがこのまま上がり、上がらないところまで達したら、後は下がるしかないので、政府が次にどんな対策に出るかがキーだと言う。それが資本主義だけど、もし政府が、観光業を調節しはじめ、家賃レートを守れるなら、滅茶苦茶な状態は避けることができるはず、と。とにかく2016年、アイスランドはバブリーな状態にある。因みに、NYから来た身としては、アイスランドは何でも高い。ビールが大体$9、サンドイッチを買ったら$15など。

   

 さて、私のメインの目的は、オフ・べニューと呼ばれる、昼間行われるイベント。日本やアメリカでは見れない、地元のアーティストからツアーバンドまでが、レイキャヴィックのバー、レストラン、洋服屋、洗濯屋、レコード屋、ホテル、銀行など、音楽をプレイできるところなら何処でもライヴをしている。バンドによっては1日3ステージこなし、エアウエイブス期間に10以上のライヴをこなすこともあるし、新しいバンドに出会うのに、こんなに良い機会はない。何となく予定は立てるが、もちろん予定通りにいかない。偶然良いバンドに出会ったり、知り合いに出くわしたり、人が親切なので、心地の良い所にずーっと居てしまったりする。エア・ウエイブスのいい点は、時間にきっちりしているので、何かをミスっても、すぐ予定を立てやすい。

 今回の新しい会場ベスト2は、港近くのbryggjan brugghúsとBar Ananas。どちらも、レストラン・バーで、普通のお客さんもいながら、オープン・スペースでバンドがプレイしてる。bryggjan brugghúsはビストロ風、Bar Ananasは常夏風でトロピカルなサーフ気分が味わえる。ハングアウトも出来、バンドも見れ、ご飯も食べれ、来た誰もが楽しめるようになっているのが、アイスランド風。

 新しいバンドで印象に残ったのは、Skrattar , GANGLY, GKRで、リピートとしてはSamaris, Mammút, Hermigervill, Fufanu, Mr.Sillaが良かった。キー人物がいろんなバンドでプレイしているので、それを追いかけると、だいたい良いバンドに出会える。例えば、SamarisのJofridurは、Samaris以外に、 Pascal Pinon, GANGLY,そしてソロのJFDRをやっていて、どれも彼女の個性で成り立っている。GANGLYはまったく知識がなく、感で見に行ったのですが、見てすぐに彼女がシンガーだと気づいた。何か、引き寄せられる物がある。
 見れなくて残念だったのは、やっぱりビョーク。私はDARLINGリストバンドをもっていたが(列に並ばず入れるVIPリストバンド)、それでも入れず、会場のハーパで雰囲気だけを味わっていた。見れた人は本当にラッキー。アメリカのバンドはNYでも見れるので、ことごとくスキップしたが、Santogold, Warpaint, Frankie cosmosは見たかった。
 2日の滞在だったが、新しいバンド、新しいものごと、上から下まで十分にインスパイアされた。気候がどんどん温暖化して、今年は軽装で行ったのだが、難なく快適に過ごせた。
 アイスランドは本当に、何を食べても美味しいし、人びとは、朝まで普通にパーティしているが、モラルがあり、嫌な目にあったことがない。何処でもクレジットカードが使え、Wi-Fiがあり、英語が通じる。そして、アイスランドは安全、親切。朝6時にバスを待っていると、シリアから来たという男の子と簡単に友だちになったり、バスの乗り場を間違えて待っていたら、ホテルの男の子スタッフが、わざわざ正解のバス停まで連れて行ってくれ、バス会社に電話して、私がミスっていないかを確認してくれ、バスが来たら、わざわざ止めて、そのバスがあってるかどうか確認してくれたうえで「良い旅を!」と、送り出してくれる。これが平均的なアイスランド人。涙が出そうになった(とくにNYにいると)、マジカルなアイスランド体験だった。

 

最後に今回見たバンドのリスト。

Fri 11/4
Just another snake cult @bio Paradis
Samaris @bryggjan brugghús
Mammút @bryggjan brugghús
Kótt grà pje @bryggjan brugghús
SiGRUN @12 tonar
THROWS (UK) @12 tonar
Gruska Babuska @ Bar 12
GKR @ American bar
Dolores Haze (Sweden) @gaukurinn
IDLES (UK) @gaukurinn
Hermigervill @ gamla bíó

Sat 11/5
asdfhg. @ Hlemmur Square
Kaelan Mikla @ Hlemmur Square
Fufanu @ Bar Ananas
Mr.Silla @ NASA
Skrattar @ Gaukurinn
GANGLY @ Gamla Bio
Chinah (DK) @ Gamla Bio

公式サイト
https://icelandairwaves.is/

エアウエイブス・サバイバルガイド
https://grapevine.is/culture/music/airwaves/2016/10/31/iceland-airwaves-survival-guide/?=rcar

Yoko Sawai
11/12/2016

RYOTA OPP(Meda Fury / R&S) - ele-king

ロンドンのツアーに持って行くレコード Best 10

interview with Romare - ele-king


Romare
Love Songs: Part Two

Ninja Tune/ビート

HouseDisco

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 ロメアーが昨年リリースしたアルバム『Projections』は、この日本でもじわじわと、時間をかけながら受け入れられている。その音楽はデトロイトのアンドレスのディープ・ハウスのムードに近く、ムーディーマンやマッドリブの“古きブラック・ミュージック愛”とも連なる。コラージュ的で、しかもそのセンスはアフリカン・アメリカンへの愛情と強く共振する。
 そんなわけで、ハウスやヒップホップのリスナーは、この1年のあいだそれぞれゆっくりとロメアーと出会い、いまではたくさんの人が聴いている……のだが、ロメアーはブリストルの〈ブラック・エイカー〉からデビューしたイギリス人で、アメリカの貧民街に暮らしているわけではない。
 話は変わるが、PC前の妄想もぼくは好きだが、こうして取材をすることは、その人の作品を理解するうえではものすごく大切な行為である。ロメアーに関して、ぼくは大きな誤謬を犯していたので、今回の取材はひじょうにためになった。
 2012年のデビュー・シングルに「Afrocentrism(アフリカ中心主義)」という言葉を冠したロメアーは、続く2013年の「Love Songs」においても、シカゴのフットワークの影響を取り入れていた。こうなるとこの人は、UKの音楽シーンに昔からいる、いわゆる“ブラック・ミュージック・フリーク”かと思ってしまっても無理もないだろう……と自己弁護めいて嫌な気分になるが、じつは彼の本質はそこではなかった……とういことが明らかになった取材だった。
 新作の『ラヴ・ソングス:パート2』は、前作同様クオリティの高い作品であり、ロマンティックなダンス音楽でもある。カリブーのような最良のUKダンス・ミュージックともリンクする。照れることなく「ラヴ・ソング」と言ってしまう純な心意気、ぜひ聴いて欲しい。

今回のアルバムはもっとヨーロピアンやブリティッシュ・フォークからの影響が強いね。他にもディスコやアイリッシュ音楽とかの影響もあったんだけど、僕はいろいろな違う場所の文化の音楽を取り入れたいんだ。

ロメアー・ベアーデンといえば、ハーレムにおけるさまざまな場面のアフリカ系アメリカ人を描いた芸術家です。彼の何があなたをそこまで強く捉えたのですか?

ロメアー:もともとあるものに自分が作ったものをはめ込んでいくという手法にとても惹かれたんだ。新聞や雑誌という従来からあるもののコラージュに自分のペインティングを加えて新しい作品として出すという形にとても興味を惹かれた。僕がやりたいのはこれの音楽ヴァージョンだったし、まさしくこの手法だと思ったね。

音楽とは別のところで、あなたはアフリカ史、アフリカン・アメリカン史を学んでいたのでしょうか?

ロメアー:学校では勉強したけど、いつも音楽をやりたいと思ってたし、そのときは興味があって勉強してたけど、いまはいろいろなことに興味を持っているよ。

アフリカン・アメリカンの文化全般に興味があるのでしょうか?

ロメアー:アフリカン・アメリカン音楽シーンに興味があるんだ。彼らが生んできたジャズ、ブルースやゴスペル、ディスコ、ヒップホップなどの音楽は、今日のメジャー音楽へとても影響を与えているからね。だから僕は、彼らの生んできたものにとてもリスペクトを払っているんだ。
 ただ『Projections』に比べたら今回の作品への影響は少ないかな。今回のアルバムはもっとヨーロピアンやブリティッシュ・フォークからの影響が強いね。他にもディスコやアイリッシュ音楽とかの影響もあったんだけど、僕はいろいろな違う場所の文化の音楽を取り入れたいんだ。

こんな現在だからこそ、新作は、『Love Songs』シリーズの『Part Two』になったのではないかと邪推してみたのですが。

ロメアー:『Part Two』は、世界に向けたラヴ・ソングだよ。結構サンプリングの素材が多かったしね。基本的に僕は、自分のリリースするものに毎回テーマを設けるようにしているんだけど、今回のテーマはサンプリングの楽曲のなかの歌詞によるところが大きい。テーマを設けるとサンプリングするときの選曲がわりとスムーズなのとまとめやすいという利点があるんだ。というのも、僕はあらゆる感情をアルバムに詰め込みたいから、そうなるとわりと膨大の量のサンプルが必要になってくる。でもテーマがあればその膨大な量のサンプルもまとめることができるからとてもいいんだよ。

「Part One」はまだジュークやアフリカのエレクトロの影響下にあり、しかし『Part Two』の音楽性はより寛容で、洗練されています。ということは、音楽的には『Projections』を発展させたもので、コンセプト的に「Part One」を継承するものだと考えられます。あなたが托した「Love Songs」の意味について話してください。

ロメアー:うん、それはとても的確にとらえていると思う。たしかに僕が使ってるリズムやサンプルの使い方とかその通りだと思う。“Part Two”はトラックの数も10あるから、そういう意味では言ってる通り寛容だと思うし、洗練もされていると思う。最初の曲はジミ・ヘンドリックスと彼のガールフレンドについての関係性を描いたものなんだけど、テーマはひとつだけど形が違うっていうものを表したかったんだ。

曲名からも今回が“LOVE”で統一されていることが伺えるのですが、ここには啓発的な意図もあるのでしょうか?

ロメアー:いま言ったことと同じなんだけど、「LOVE」ってとても大きなテーマだし、どの音楽ジャンルでも取り上げているもっとも大きなテーマだと思うんだよね。人間として永遠に考えて、乗り越えなくちゃいけない問題だと思うんだ。それに興味深い歌詞が一番多いテーマでもあるしね。

“L.U.V”のような曲には、ある種のニューエイジ的なセンス(たとえば最近のマシューデイヴィッドが試みているような)も感じるのですが、そう言われるのは心外ですか?

ロメアー:えーっと、まずマシューデイヴィッドが誰なのかちょっとわからないんだけど……まずこのタイトルは、歌ってる歌詞のなかから選んだんだ。僕はサンプルを使う時にサンプルのなかで歌ってる歌詞のなかから歌詞をつけることが多いんだ。

その“L.U.V”でサンプリングしている声について教えてもらえますか? 

ロメアー:サンプルだから誰が歌ってるかは明かせないんだ、ごめん。

“New Love”なんかはいわゆるスピリチュアルで、瞑想的なんですが、ここにも啓発的なものを感じるんですよね。この曲に込めたあなたの思いとは?

ロメアー:テクノのパーティに行って影響されて作った曲なんだけど、あんまり7分の曲って作らないんだけど、トランスな感じにしたかったんだよね。それがたぶんスピリチュアルな感じを生んでいるんだと思う。

世界に向けたラヴ・ソングだよ。結構サンプリングの素材が多かったしね。基本的に僕は、自分のリリースするものに毎回テーマを設けるようにしているんだけど、今回のテーマはサンプリングの楽曲のなかの歌詞によるところが大きい。

「Love Songs: Part One」は2013年にEPとしてリリースされましたが、『Part Two』は当初からアルバムになる予定だったのでしょうか?

ロメアー:いや、最初はアルバムを作ろうとは思ってなかったんだ。最初に「Love Songs」を“Part One”としたのは、テーマが大きすぎておさまりきれなかったから、シリーズ化するためにわざと“Part One”とつけたんだ。そうすれば色んな形でまたLove Songsを捉えることも出来るし次につなげられると思ったんだ。正直“Part Two”はアルバムにしようと考えてたわけじゃないんだけど、いまはアルバムとしてリリースしたいと思ってたからこの形にできて良かったと思ってる。

デビュー・シングルに“Afrocentrism(アフリカ中心主義)”とまで謳っていますが、それはいまのあなたにも継承されているコンセプトなのでしょうか? 

ロメアー:僕はいろいろな国のいろいろな文化に興味があってひとつのことに捉われていたくないというのもある。だからいまはもっとイギリスやヨーロッパの歴史やカルチャーに興味があるね。

〈ブラック・エーカー〉時代はいろいろなリズムを試していたと思うんですけど、『Projections』で、ハウス・ミュージックというフォーマットのなかにそれらを組み込みましたね。その経緯について話してください。

ロメアー:ハウス・ミュージックについてはよく知らないんだ。ディスコの方がずっと興味はあるけど。もしかして僕の音楽をどこかにあてはめるには、ハウスのところにはめるしかないのかもしれないけど、僕はディスコ音楽を取り入れているし、みんなが踊れるダンス・ミュージックがいいなって。DJしてて楽しい音楽の方がいいしね。

逆に、〈ブラック・エーカー〉時代はレーベルのカラーに合わせて、ジュークやエレクトロをやったフシもあったんですか?

ロメアー:いや、そういうわけじゃないよ。かなり昔にジュークやフットワークに熱心だった時もあったんだけど、そこで感じたのは、ダンスっていうジャンルは必ずその音楽に合わせないといけないってことだった。だから僕は、音楽をやっている者としてもっと違うこともやってみたいなって思ったから興味の先が移ったっていうのがあるね。

ムーディーマンやセオ・パリッシュについて訊きますが、彼らのどこを評価してますか?

ロメアー:好きなのは断然ムーディーマンなんだけど、彼の音楽にはソウルを感じるんだよね。それに限界を押し上げる力があるというか。

「Meditations On Afrocentrism」から今作まで、あなたのアートワークがあなた自身の手によるコラージュ作品であるように、あなたはサンプリングを扱い、音楽を作っています。あなたのサンプリングは、なんでもいいわけではなく、サンプリング・ソースそのものにも意味がありますよね? 今回は、サンプリングにおいて前作までとどのような変化がありましたか?

ロメアー:前作との違いはサンプリングの数が減ってることだね。今回はサンプリングを減らして楽器をもっと使ってるのがいちばんの違いだね。前よりもっとキーボードやシンセイサイザーを使いたくて取り入れているんだ。

“Je T'aime”とか、“All Night”とか。こういう曲はクラブ・フレンドリーの典型的な曲だと思うんですけど、あなたはクラブ・カルチャーのどんなところを良きものと思うんですか?

ロメアー:音楽って自分が音から受ける影響だと思うんだよね。クラブ・カルチャーって新しい音楽に出会える場でもあると思う。そこでまたレコードにも興味を持ったりね。いろんな垣根を越えられる空間じゃないかな。

USのヒップホップやUKのグライムからインスパイアされることはありますか?

ロメアー:グライムからはまったくインスパイアされたことはないね。ヒップホップは多分にあると思う。結局はサンプルだけど、ウータン・クランとかは、なんていうかダスティーだけど温かみがあって、ナチュラルでオーガニックな音楽だと思う。

interview with POWELL - ele-king

 俺は間違っても君がやっている音楽のリスナーではない。俺は機械化されたダンス・ミュージックが大嫌いなんだ。それがプレイされるクラブも、クラブに行くような連中も、連中が摂っているドラッグも、話している内容も、着ている服装も、やつらのなかのいざこざも、基本的に、100パーセント、そのすべてを憎んでいる。
 俺が好きなエレクトロニック・ミュージックは、ラディカルで他と違ったもの──ホワイト・ノイズ、クセナキス、スーサイド、クラフトワーク、それから初期のキャバレー・ヴォルテール、SPKやDAFみたいな連中だ。そういうシーンや人たちが/クラブに吸収されたとき、俺は敗北感すら覚えたものだ。俺はダンスこの地球上の何よりも深くクラブ・カルチャーを憎んでいる。そう、俺は君がやっていることに反対しているし、君の敵なんだ。 

──パウウェルがビッグ・ブラッグをサンプリングしたことを
スティーヴ・アルビニに知らせたところ、
本人から返信されたメールより

 いや、だからこっちはそれどころじゃないんだって。日曜日のサッカーの時間がはじまる1時間前からもうほかのことは考えられない。時間がずれていたらライヴァルたちの試合も見なければならない。試合後は、監督インタヴュー/選手コメントを3回以上は読み返す。ホント、応援するほうもたいへんだよ。J1昇格、すなわち人生がかかっているんだから。
 もちろん某君にとってはどうでもいいことだった。アレックス・スモークもゾンビーも、アルバム、いまひとつだったな、と彼はぶっきらぼうにつぶやいたのだ。それから、彼はこういう。もっとできたはず。
 もっとできたはず? いや、いまはどんなに泥臭くてもいいから勝って欲しいし、こう言ってはナンだが、連中はまだずっとマシな部類に入る。多くのクラブ・ミュージックがいま見失っているものはアティチュードにほかならない。テクノというジャンル名は、ホアン・アトキンスによってアルビン・トフラーの『第三の波』の“テクノ・レベル”から取られたという話は有名だが、早い話、その“レベル”の部分が欠落している。つまり、スリーフォード・モッズと〈Editions Mego〉との溝を埋める存在はおらんのかと。パウウェルが注目されなければならない理由はまずここにある。
 「絶え間なく新たな難題に直面しているような感覚……」と、パウウェルは説明する。台頭する右翼勢力、シリア内戦と難民、あるいはブリグジットにトランプ、いまやネットで世界中のニュースにアクセスできる。この10年で、未来/フューチャーという、80年代~90年代のハウス/テクノの楽天的な合言葉も喪失したわけだが、パウウェルときたら、まさに日々更新される恐怖のなかで、それでもぼくたちは楽しくやっているんだと言わんばかりだ。笑いがあるんだな。ここにもうひとつ、パウウェルに惹かれる理由がある。
 ジョン・サヴェージの『イングランズ・ドリーミング』によれば、否定者とは時代を切り拓くものであるから、期待しましょう。『スポート』は、パンク40周年の2016年にリリースされたテクノ界のブライテスト・ホープの最初のアルバム、アンダーグラウンド・ロックンロールの声明である。
 え、もっとできたはず? 

エレクトロニック・ミュージックにはもっとアティテュードが必要だ。極端に味気なく(flat)になってるし、政治性も閃きもアイデンティティも欠落しきっている。あまりにも無難で刺激がない。いまや、フェスティヴァルが音楽界の風景をコントロールしているような気分になってるどこかのエージェントがつまらない出演者ばっかりブッキングして悦に入っているが、ぼくは音楽でエンターテイナーになるのはごめんだ。


Powell
Sport

XL Recordings/ホステス

Techno not TechnoUnderground Rock'n'Roll

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最初の質問はちょっとファニーに聞こえるかも、ですが、なぜスイカ(https://www.youtube.com/watch?v=8bYsnJfRcdA)なんですか?

パウウェル:えぇと……、全部は話せないな、ちょっと汚い話なんで。その……どうしよう、誰にも裏話は教えられないな、ちょっと恥ずかしいから。ただ、14才のとき、ぼくの身にあるおかしな出来事が起こった、とだけ言っておく(笑)

それだと余計に興味を持たれそうだけど(笑)、とにかく何かを象徴してはいるんですね、スイカは。

P:象徴するものはあるよ。ただ、メロン自体はぼくが自分のラジオ番組をメロン・マジックにしたり、ちょこちょこ使ってるうちにぼくのファニーなアイデンティティのようになっていたんで、今回はそれを茶化したってとこだね、ほんとのところ。

なるほど。じゃあ、こちらで

P:うん。

さて、あなたは作っているヴィデオもおかしくて興味深くて行間を読みたくなるという……

P:うん、もちろん。

観る人に「これはどういうこと?」と考えさせようという意図もあるんでしょうか。

P:いや、そんなことないよ。なんだろう……ぼくがやることはみんな、音楽もそうだし、音楽について語るときも、自分の見せ方にしても、ありのままの自分を可能な限り真実で正直な姿で表現しようとしているだけなんで、ヴィデオも……あのメロンにしても、ぼくが友だちとツアー先でメロンで遊んでるっていう、それだけのこと。ぼくが作るヴィデオはどれも自分自身を反映しているにすぎない。みんなに、何がぼくの動機付けになっていて、ぼくがどういう人なのかをわかってもらいたいだけで、わざとらしいものを作ろとしてるわけじゃない。そういう意味じゃ、推測すべきことなんて何もないんだよね。すべてはぼくなんであって、これが真実ってこと、基本的に。

“ジョニー”のヴィデオもそうだし、“アンダーグラウンド・ロックンロール”(https://www.youtube.com/watch?v=bamMBFc8AtU)も……

P:あぁ、“アンダーグラウンド・ロックンロール”のヴィデオはぼくも好きで、何が好きかっていうと……ぼくはポピュラー・カルチャーの搾取が大好きなんだよ。アンダーグラウンドのどん底あたりにいるアーティストがポピュラー・カルチャーを利用して、搾取して、それで遊んでしまうというのが面白い。ぼくは前からその手のものが大好きだった。ポップ・アートが好きだから、アンディ・ウォーホルを真似て自分の顔を描く、なんてことも、もっと若い頃にはやってみたし。そうやってカルチャーを搾取することには、前々から関心があったんだ。そういうのって、やっていることに注目してもらう手段として面白いし、そこに周囲とのインタラクションを生み出すのもまた面白い。
 ぼくはけっこう肯定派なんだよね、その……、マーケティングとかプロモーションとかいう言葉を使うのは好きじゃないけど、ぼくがアートとしてやっていることと別物だとは思っていなくて、実は同じことだと考えているんだ。ぼくは自分の音楽をみんなに聴いてもらう術を探し出すこともまた楽しいと思ってる。だって、結局のところぼくはこれを生涯ずっとやっていきたいんだから、みんなに聴いてもらいたいよ。じゃないと、作り続けていけないし。

アクセスしやすさ、というのもアートの一環、ということでしょうか。祭り上げるのではなく。

P:そうだね。ただ、アクセスしやすい、という言い方は間違いかも。というのも、ぼくはとっつきやすいものを創ろうとしたことはないんで。出来たものに対して人びとを呼び込もうとはするけど、わかりやすい音楽を作って気に入ってもらおうとしているわけじゃない。ぼくはぼくのやることをやって、その上でみんなに入ってきてもらうための方法を模索する、ということ。入って来ずらいようにはしたくない。

同じことがタイトルにも言えますか。『スポーツ(SPORT)』というのは、どう解釈したらいいのか。

P:“SPORT”って、ぼくは素敵な概念だと思うんだ。人びとが競い、闘い、苦しみ、努力し……スポーツにはそういうのがみんな詰まってる。精神的なものも、肉体的なことも、そして難しくもあり、楽しくもあり。そこがぼくにはすごく重要なんだよね。ぼくにとってこのレコードは心と体と両方に働きかけるものだ。いまのダンス・ミュージックは体だけ……になっているとぼくは思うんだけど……じゃなくて、もっと全方向的な体験……ゲームみたいな感じかな。多角的で、進んだ先々で予想もつかない楽しみが待っている。ぼくとしては、レコードを中心にゲーム的な感覚を生み出す、という発想が気に入っていて、作りながら自分でもそんな感覚を味わっていたんだ。だから、この言葉がいちばん相応しいように感じた。それに、なかなか素敵な言葉だと思うよ、スポーツって。人によって意味するものがいくらでも変わってくるだろうから、好きに解釈してもらえるのもいいところだ。

スポーツって、アートとは対極のイメージがありますが。

P:ぼくも子供の頃はスポーツやってたけど、いまはスポーツが得意なタイプじゃない。いまでも観るのは好きだけどね。とはいえ、POWELLのショウを持ちこたえるには、かなり運動能力が必要だから、ね、その意味でも相応しいかも。

ダンス・ミュージックはおっしゃるとおりフィジカルだし。

P:そう。

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いま、悪いことばっかりあるだろ? シリアもそうだし、ドナルド・トランプも、BREXITも、経済もそう。常にこう、カオスの淵に立たされているような感じがする。落ちてしまったらすべてがダメになる、と。でも、実際にそうなってしまう気配はない。その感じがぼくの音楽に表れている。絶え間なく新たな難題に直面しているような感覚……。

ところで、質問者はあなたのやっていることのパンクな側面に注目しているようで、このアルバムも幕開けはあなたのトレードマークでもあるノイズで始まりますが、ペル・ウブやザ・フォールやフガジをサンプリングしているあたりなど……

P:うん。

あなたの音楽はシカゴのハウスとかではなく、スロビング・グリッスルズやコイルなど、もっと政治性のある音楽と比較できるのではないか、と。もっとも、あなたのやっていることはまったく政治的ではありませんが……。

うん。

そういった側面と関わることは避けているのか……。

P:ぼくの音楽は常に、ある意味政治的だと自分では思ってる。自分の信じるものを目指して本気で闘っているから。わかる? ぼくはそう思うんだ。狙いとしては、反発なり、行動なりをぼくが思うところの非常に退屈なエレクトロニック・ミュージックに対して起こしているつもりだ。過去20年、リサイクルばかりで同じことしかやっていないからね、ああいう音楽は。
 あと、質問者の指摘はまったくそのとおりで、ぼくの育ちは、DIYクラブに通ったりギターをブッ壊したりボトルを人の顔に投げつけたりするタイプのパンクではなかったけど、やっていることにはたしかにパンクな側面がある。なぜかというと、パンクって必ずしもパンク・ミュージックを聴いていることをいうんじゃなくて、姿勢に表れるものだから。あと、意思を持って……刺激を与えることで何かを変えようとする姿勢、それがぼくの音楽の根本にあることは間違いない。いま、名前が挙がったようなバンドの方が、物事との対峙を迫るというか、音楽に限らずアートや世界や色んなものに対する見方を変えてしまうというか、そういう点でワクワクさせられるんだ。こうやって、ちゃんとしたレコード会社で作品をつくれるようになっても、その発想を固持できているというのは、ぼくとしてはすごく恵まれていると思う。エクセルみたいなレコード会社が、こういう音楽と、こういう音楽を作る人間をそこまで信じてくれているんだから本当にありがたい。
 ぼくは、エレクトロニック・ミュージックにはもっとアティテュードが必要だと思ってる。最近、極端に味気なく(flat)になってるし、政治性も閃きもアイデンティティも欠落しきっているからね。あまりにも無難で刺激がない(dull)。いまや、フェスティヴァルが音楽界の風景をコントロールしているような気分になってるどこかのエージェントがつまらない出演者ばっかりブッキングして悦に入っているが、ぼくは音楽でエンターテイナーになるのはごめんだ。レコードの冒頭に残虐なノイズを持ってくるのも、そこに理由がある。「あんたを楽しませるつもりはない、ぼくなりに音楽に大切だと思うものを届けにきただけだ」という、ぼくからの宣言さ。だから、取りようによっては警告、だね。でも、それを理解しないバカなやつをそこで排除する策でもある。

ただ、そういうのを直球で深刻にぶつけてくるだけではなく、そこはかとなくおかしいユーモアに包んでいる感じもあなたの音楽にはありますよね。前述のパンクなバンドにもあった要素です。それもまた、あなたがパンクに共感する部分ですか。

P:ユーモアはぼくにはすごく重要だよ、うん。ただ、やっぱり意図的なものではない。さっきも言ったように誠実に、正直にやっていれば人間性が滲み出るんだと思う。世のなかにはシリアスな音楽がいっぱいあるよね、実験音楽の世界とか、まあ、名称は何でもいいけど。でも、そこにも楽しんでしまう隙間はあるんじゃないか、とぼくは感じてる。自分も楽しんで、聴く人を笑わせてしまう余地が。ぼくは前から、カオス&ノイズと遊び心&ノリ(groove)の狭間の微妙な境界線がすごく好きで、そのギリギリのところに佇んで、いつどっち側に転がるかわからない、みたいな感じを楽しんでいる。カオスの方に落ち込んでいくのか、はたまた遊び心に誘われてパーティに行ってしまうのか。ね? その感覚が、ぼくはすごく興味深いと思ってる。そんな感覚で音楽を体験することが。先を読み切れないっていうのは、最高に興奮するよ。

どっちかに転がり落ちてしまうこと、あるんですか。

P:曲によると思う。難解だったりカオスだったり、それだけのモーメントは作りたくないけど、そうなってしまうときはあるね。でも、カオスがあったら、それに対してもっとこう……グルーヴ主体のものとか、コントラストがあるのがぼくは好きだから、ぼくの音楽は基本、そういうふたつの対照のあいだを行ったり来たりしてるんじゃないかな。それも、できるだけ普通じゃない、ヘンなやり方で。

世界的にそうですが、特に英国では BREXIT以降、ユーモアが失われて緊張感が高まっているように思えます。そんな現状に対するひとつの答として、こういう音楽を提示している、という意識はありますか。

P:夕べ、ガールフレンドと一緒にぼくの音楽について話をしてたんだけど、まあ、ぼくら、よく音楽論議をするんだけどね、昨日は特に、あるインタヴュアーからこのレコードは時代を興味深く反映していると言われたんで、そのことについて……、いま、悪いことばっかりあるだろ? シリアもそうだし、ドナルド・トランプも、BREXITも、経済もそう。常にこう、カオスの淵に立たされているような感じがする。落ちてしまったらすべてがダメになる、と。でも、実際にそうなってしまう気配はない。その感じがぼくの音楽に表れている、と指摘されたんだ。自分では考えたことがなかったんだけど。絶え間なく新たな難題に直面しているような感覚……。でも、それは注意力欠陥というふうにも捉えられるのかな、とぼくは思った。
 ぼくの音楽って、どんどん跳ね回って跳ね返されて変化しながら聴いている人をどこかへ引っ張って行っては何か珍しいものを見せていく、というような。なんでそうなるのかは自分でもよくわからないけど、何もかもがこう……短くて、早くて、シャープで、どんどん変化して、常に何もかもが変わっていく世のなかの動きと繋がっているところは確かにあるのかも。

ある意味ではぼくの音楽もたしかにテクノだとは思うけどね、アルビン・トフラーがその言葉を使ったときの、未来を意味するものだったテクノという本質的な意味においては。ぼくの音楽にとって“未来”はとても大切だ。過去を引き合いに出して語ろうとする人は多いけど、ぼくの希望としては、みんなにこれを古い音楽ではなく新しい音楽として見てもらいたい。


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ところで、あなたは自身のレーベル〈Diagonal〉を持っていますが、その立ち上げから「The Ongoing Significance Of Steel & Flesh」(2011)のリリースに至るまでの経緯を教えてもらえますか。

P:うん、といっても別に経緯ってほどのことはなくて、15年間ずっと作ってきた音楽をリリースしたいと思ったのがきっかけなんだ。それで、色んな人に相談して実現させた。いまの時代、レコード・レーベルを始動させるのは実に簡単なことだからね。ただ、レコード1枚だけ出して終わるレーベルにはしたくない、という思いはあった。で、2作目を出して、気が付いたら35作になってた。ぼくは音楽をプレイするのも大好きだけど、同じくらい自分のレーベルを愛してるんで、もっとそっちに費やす時間があったら、と思う。ここ1年は本当に異常に忙しかったから。

ここでいくつか既存のレーベルの名前をあげますので、あなたがそのレーベルや出している作品についてどう思うかコメントしてもらえますか。まずは〈Blackest Ever Black〉と〈Modern Love〉。

P:うん、〈Blackest Ever Black〉を運営してるキーランのことはよく知ってるよ。20年~10年だったか、ぼくの最初のレコードが出る前、〈Blackest Ever Black〉もはじまる前に会ったことがある。その時、キーランはレインの連中と一緒で、みんなで自分たちのレコードをリリースする話で盛り上がった。その後、〈Blackest Ever Black〉がやるようになったパーティの、最初の2回ぐらいはぼくも参加してプレイしたし、キーランの活動とはぼくは何かと繋がりを持ってきた。〈Modern Love〉も同じで、運営してるシュロム・アブンカはぼくの友だちで〈Diagonal〉のディストリビューションをやってくれてるんだ。だから、すごく近い関係だよ。音楽的には当然、違いがあるけどね。それぞれのアイデンティティがあるし、重要視するものも、提示の仕方もそれぞれだから、音楽的にはそのふたつのレーベルと必ずしも親近感を持ってはいない。でも、姿勢の面では間違いなく共感する。

ふたつ目のグループは〈Pan〉、〈Editions Mego〉、〈Raster-Noton〉.

P:うん、〈Pan〉と〈Mego〉はぼくも大好きだ。理由はやっぱり、〈Pan〉をやってるビルも〈Mego〉をやってるピーターも友だちだからね。音楽に関してぼくがいちばんワクワクするのは、好きなことをやっているなかで出会ったそういう友だちができることなんだ。音楽をやっているから行けるような場所へ旅して、人生や音楽やアートについて素晴らしい考えを追っている人たちと出会って話をしてパーティをして楽しむことができる。そういうレーベルはどれもリスペクトしてるよ。大変な努力と献身が必要だということはぼくもよくわかっているからね。しかも、結局のところそれでほとんど儲かるわけでもない。この手のレーベルを運営している人はみんな尊敬に値する。

そして、いきなりなんですがスリーフォード・モッズは好きですか。

P:あぁ、好きだよ。最高だ。演奏しているところを実際に見たことはないけど、レコードはけっこう持ってる。音は好きだし、すごくいいと思う。いまの時代にすごく必要だ。

必要というのは、メッセージの面で?

P:うん、というか……要は声(voice)、だよね。代表する声……、イングランドの状況を描き出しつつ、それを極めて新しい、独創的でスタイリッシュで革新的なやり方で提示している。だから人は耳を傾ける。そこが素晴らしいとぼくは思う。

彼らが伝えているいまのUK社会は、あなたも同意するところですか。

P:正直、あんまり歌詞には注目していないんだ。いつも音楽の方に耳がいってしまうから。ぼくが感じとっているのは感覚的な……、いや、もちろん言葉は聞こえているし、めちゃめちゃおかしいから印象にも残るけど、具体的にここがこう、というのは必ずしもないな。彼らは自分たちの暮らしを題材にして、その暮らしが自分たちの目にどう映っているか、を表現しているんだと思う。だから、怒りとか、募る不満とか、そういうのは感覚的に伝わってくる。いまこの国で暮らす人の生活が浮き彫りになってくるんだ。別に攻撃的な言葉を使わなうても、敵意みたいなものが伝わってくる彼の声がぼくは好きだな。ああいう音楽にああいう言葉、という組み合わせから伝わるフィーリングが多くを伝えてくる。そこがぼくにはエキサイティングだ。なんかこう、エネルギーが炸裂している感じがする。あと、やってる人の姿勢が伝わってくる。ぼくはそういう音楽が好きだ。

話は戻りますが、あなたがテクノ・ミュージックを好きになったきっかけは何ですか。

P:っていうか、ぼくはテクノ・ミュージックに入れ込んだこと、ないよ。

あら……

P:(苦笑)、正直テクノはすごく退屈だと思ってるから。とはいって、18歳から25歳ぐらまではそれなりにテクノも聴いていて、レコードもずいぶん買った。ただ、テクノの大ファンだったことはなくて、いまとなってはもう、テクノのクラブで一晩中をテクノを聴くなんて無理。退屈しきってしまう。良質なテクノなら好きだけどね。かつてのテクノの本質とか、その成り立ちなんかは興味があって、つまりは音楽を未来へと方向づけよう、そのためにマシーンを使って何か新しいものを創ろうとしていたわけだけど、いまのテクノにそういう意味合いはないと思う。いまのテクノの意味するものは、4拍子のキックドラムさ。あとハイハット。
 まあ、ある意味ではぼくの音楽もたしかにテクノだとは思うけどね、アルビン・トフラーがその言葉を使ったときの、未来を意味するものだったテクノという本質的な意味においては。ぼくの音楽にとって“未来”はとても大切だ。過去を引き合いに出して語ろうとする人は多いけど、ぼくの希望としては、みんなにこれを古い音楽ではなく新しい音楽として見てもらいたい。

たしかに、出始めのテクノにはパンクに通じる姿勢がよく指摘されましたが、その部分は失われているかも。

P:同じ感じはしないよね、もう。

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セックス・ピストルズとぼくが共有するものがあるとすれば唯一、彼らが登場したときの状況ぐらいかな。興味深い時代ではあったよね。そこで彼らはガラリと方向転換をはかった。音楽の可能性における別の選択肢を示したわけだ。ああいう姿勢を、もっとみんな示すべきだとぼくは思うな。何でもそうだけど、何か違うことをやろうとするのなら、ジワジワと違う方向へ押していくんじゃなくて、過激なまでに違うものをいきなり提示するのがいい。


Powell
Sport

XL Recordings/ホステス

Techno not TechnoUnderground Rock'n'Roll

Amazon

じゃあ、パンク・ミュージックとの出会いについて教えてもらえますか。

P:さっきも言ったように、いわゆるパンクスだったことはないんだ。聴いてたのはジャングルとかドラムンベースだから。それからテクノ・ミュージックを知って、その後は2004年、2005年あたりにダブステップが出てきてからは2年ぐらい、本気で入れ込んだ。でも、それでエレクトロニック・ミュージックに飽きてしまって、あらためてパンクやポストパンク、インダストリアル・ミュージックを聴いたり、本で読んだりするようになった。ノイズとか、実験音楽、コンピュータ音楽も含めて、そこから5年ぐらいかけていろいろ消化していったんだ。後追い、だよね。「ジーザス、なんでこんなに色んなのをぼくは知らずに来てしまったんだろう!」って感じで。
 なんで、ずっと音楽の旅を続けていて、どこか特定の場所に沈没することはなかったんだ。その代わり、あらゆる音楽を楽しんでこられた。とくに……、なんだろう、それぞれ理由があって何でも好きなんだよな、明瞭な姿勢があるやつ、とか、そういう条件はあるけど……、まあ、願わくばぼくの音楽に、何か特定のひとつからの影響だけでなく、あらゆるものから受けた影響が組み合わさった何かが聞こえていてほしい。だからこそのPOWELLミュージックだと思ってるんで。

たしかに折衷的な音楽性で、いったいどこから作りはじめるんだろう、何がヒントになるんだろうと考えてしまうわけですが、例えばアルバム冒頭の不快にも思えるノイズとか。多幸感溢れるクラブ・ミュージックとは対極ですよね。

P:うん、だけど、自分ではあれが不快だとは思っていない。まあ、ある意味そうなのはわかるけどね。アルバムの冒頭であれが鳴るのは不快ではあるかもしれない。でも自分ではそうは思わないし、耳障りな音だから使った、というのでは決してない。気に入ったから使ったんだ。だから、あの音楽をクラブでプレイするときは、やっぱりみんなを不快な気持ちにさせたいからじゃなくて、純粋にその音がいいと信じているからで。

はい。

P:イライラさせるのが狙いではなく、ぼく自身は大好きで、すごくいい音だと思って使っているわけ。あと、ぼくが使う音って、けっこうブライトでプラスチックなんだよね。歪んでるって言う人が多いんだけど、そんなことはない、かなりのハイディフィニションだ。そういう高周波がぼくは大好きで、脳みそに聴いている音楽について考えさせる効力があるように思う。いつもベースとキックドラムとサブベースにばかり依存するんじゃなくて。そういう低音は伝統的に体に訴えてくるものとされているけど、ぼくは頭のど真んなかと胸の真んなかと、両方にドリルをねじ込んでくるような音のコンビネーションが好ましいと思ってる。

さっき名前を挙げたレーベルの作品は、とても知的だけれどもときにシリアスでオタクっぽさもあるのに対して、あなたのレーベルの作品はそれもありつつ、実験的で、すでに話に出たようにユーモアが必ず含まれている。そこがあなたやあなたのレーベルの作品の好きなところだ、と質問者は言っています。

P:それはまったくその通りだし、ぼくらの見解そのものだよ。ぼくらはみんな、背景は似ていて、音楽的にも……クレイジーで意外性があってファニーで美しくて……というのが好きだし、そういうのをライヴでも、リリースするレコードを通じても届けたいと思ってやっているのも同じだけど、要は自分らしさ、だね。

あなたのクラブ・ミュージックEPをフランケンシュタインのモンスター・サウンドと称した人がいるそうですが……

P:うん。

それは認めます?

P:あぁ。

わかりました。ところで、その後、スティーヴ・アルビニから折り返しの連絡はありましたか。

P:Yeah yeah yeah!  Eメールで話してるよ。あれはぼくが彼を攻撃する意味合いじゃなかったんだ。彼が言っていることをぼくもその通りだと思ったから、発言を引用したんだよ。コミュニケーションの機微ってやつをみんなわかってないんだな、と思った。ぼく自身は間違いなく、スティーヴと同じ考えだ。あのEメールに名前が出たバンドをぼくも大好きなんで、スティーヴ・アルビニの声を借りてぼくがしゃべっている、という主旨だったんだけど……。彼は理解してくれている。
 でもま、あれがきっかけで興味深い会話があちこちで生まれて、みんなが音楽の状況について語り合うようになったらしいから、ね。ロック・シーンからパンク、エレクトロニックからEDMに至るまで、色んなジャンルの人を巻き込んで、あの一風変わった広告から議論が巻き起こったんだから面白い。ヘンな広告ではあったけど、あれはぼくがスティーヴの言うことに賛同したから出したんであって、反論の意味ではなかった。

みんな誤解してますね。しかし、ホワイト・ノイズ、ゼネキス、スーサイド、クラフトワーク……とくれば、あなたのやっていることと共通点は多いですもんね。

P:まったく、その通り。

では、ここでNHKのコーヘイ・マツナがの話を。あなたのレーベルから出していますが、彼の作品についてはどう感じていますか。

P:コーヘイはスゴイよね。たしか2008年に彼はラスター・ノートンから1枚、「アヌミニアム(Unununium)」ってレコードを出している。黄色と白のやつ。〈Raster-Noton〉がやってたシリーズの一環だったと思う。あれで俺が考えていた音楽の可能性が、ガラリと変わったのを覚えてる。ぼくは最初のレコードをやるにあたってコーヘイに 「ハイ! ロンドンのオスカーっていいます……」 みたいな手紙を書いたことがあったんだけど、それからまたたまに話しをするようになったり……って感じで、割と自然な流れでリリースが決まったんだ。それってスゴくない? ヒーローだったコーヘイと5年ぐらいしたら一緒に仕事してるんだから。最高だよ。すごく感謝してる、彼に対しても、だけど音楽というものに対して。音楽のおかげでぼくは彼に信頼して任せてもらえるようになったんだから。音楽ってスゴイよ。

イーロン・キャッツは?

P:イーロンもだけど、みんな経緯は似たり寄ったりで、自然と出会った人たちなんだ。知らない人のレコードをリリースしたことはない。決まって、家族なり友だちなりってのが先にある。インターネットの中だけに存在する実体のないレコード・レーベルを作るのなんて、お安い御用さ。ただ、それがどういう方向へ進んでいくか、となるとレーベルに関わる人間どうしのつながりがすごく重要になってくるからね。

ふたつ名前をあげます、まずはセックス・ピストルズ。彼らと音楽的に、あるいはメッセージなど姿勢の上で、何か自分と共通するものはありますか。

P:う~ん、ないな、別に。パンクを踏まえてるって意味では通じるところはあるけど、う~ん……、セックス・ピストルズとぼくが共有するものがあるとすれば唯一、彼らが登場したときの状況ぐらいかな。興味深い時代ではあったよね。そこで彼らはガラリと方向転換をはかった。音楽の可能性における別の選択肢を示したわけだ。ああいう姿勢を、もっとみんな示すべきだとぼくは思うな。何でもそうだけど、何か違うことをやろうとするのなら、ジワジワと違う方向へ押していくんじゃなくて、過激なまでに違うものをいきなり提示するのがいい。

もうひとつの名前はアンドリュー・ウェザオール。知っていますか?

P:もちろん! 会ったことあるし。

あ、面識もあるんですね。

P:うん、一度だけ、あれは……スイスか、去年の夏に。すごい人だよね。イギリスの音楽界ではアイコンのような存在だから、みんなリスペクトしてるよ彼のことを。ぼく自身はあんまり彼の活動をフォローしてなくて、長年追いかけてますって感じじゃないけど、英国の音楽に大きく貢献した人だから当然のようにリスペクトしている。

ありがとうございます。最後に、POWELLという自身の苗字でレコードを出すことにしたのはどうしてですか。

P:ほかに名前を思いつかなかったから。

(笑)

P:いや、他にも名前は山ほど考えた。でも、どれもピンとこなかったから本名にしたんだよ。

(以上)

Brian Eno - ele-king

 なんということだ。前作『The Ship』がリリースされてからまだ7ヶ月も経っていないというのに、そしてその『The Ship』を映像として発展させた「The Ship - A Generative Film」が公開されてからまだ2ヶ月しか経っていないというのに、もう新たなアルバムのリリースがアナウンスされるとは。
 老いては益々壮んなるべし――この言葉はブライアン・イーノにこそふさわしい。2017年1月1日、イーノの最新作『Reflection』が世界同時にリリースされる。
前作『The Ship』はそれまでのイーノ自身のスタイルとは異なる方向性を模索した野心作だったけれど、今回アナウンスとともに届けられた彼自身の言葉によれば、来る『Reflection』はこれまでの彼のスタイルをストレートに継承した作品になっているようだ。すなわち、「アンビエント」と「ジェネレイティヴ」。
 たしかに、ただ踊ることに特化したダンス・チューンも必要だ。たしかに、怒りのメッセージの込められたプロテスト・ソングも必要だ。でも、あまりに混迷を極めるいまのような時代だからこそ、聴くという行為そのものについて考えたり、偶然性について考えたりすることも必要なんじゃないか――
この正月、われわれは「考えるための音楽」の尖端を聴き取ることになる。それは、ブライアン・イーノという知性による長きにわたる実験の、最新の成果である。

『Reflection』は、長きに渡って取り組んできたシリーズの最新作である。
あくまでもリリース作品という観点で言えば、
その起源は1975年の『Discreet Music』にまで遡るだろう。
――ブライアン・イーノ


ブライアン・イーノが新たに完成させたアンビエント作品『Reflection』を2017年1月1日(日)にリリースすることを発表した。以下ブライアン・イーノより。


『Reflection』は、長きに渡って取り組んできたシリーズの最新作である。あくまでもリリース作品という観点で言えば、その起源は1975年の『Discreet Music』にまで遡るだろう(もしくは1973年のフリップ&イーノ作品だろうか? それとも1965年にイプスウィッチ・アート・スクールで、私が最初に制作した作品――金属のランプシェードの音を録音し、1/2倍速と1/4倍速のスピードで再生させた音源を重ねて録音したもの――だったろうか?)。

何れにしても、これは後に私が“アンビエント”と呼び始めるものである。もはや私自身も、この言葉の意味を理解しているとは言い難い。想定外の範囲にまで適応するよう、言葉が一人歩きしているように思えるからだ。それでも私は、同じ時間の中で、律動的に結びつき、一つにまとまる要素を備えた音楽作品を識別するために、この言葉を今でも使用している。

この系譜には『Thursday Afternoon』『Neroli』(サブタイトルは『Thinking Music IV』)、そして『LUX』が含まれる。“Thinking Music”をコンセプトにした音楽は数多く作ってきたが、そのほとんどは自分自身のために留めてきた。しかし今、人々は、私の初期作品を、当時私が活用してきたように――考える行為に最適な環境を作るために――活用していることに気がついた。だからこそ、皆さんに共有したい気持ちが芽生えたのだ。

このような作品には別の名前もある。これらは“自動生成的”なのだ。つまり自らが自らを作り出す。作曲家としての私の役割は、一つの場所に、複数のサウンドやフレーズを集め、それらに何が起こるのかというルールを設けること。それから全体のシステムを作動させ、何が生じるかを確認し、満足がいくまで、サウンドやフレーズ、ルールを調整する。そのようなルールは確率論的であるため(ほとんどの場合、それらは、Xという働きを、Yのタイミングで行う、というようなものである)、生み出される音楽は、システムを作動させる度に異なる結果をもたらす。あなたが手にすることになる作品は、それらの結果の一つなのだ。

『Reflection』と名付けたのは、今作が私に過去を振り返らせ、物事を熟考するように働きかけるからだ。自分自身との内在的な会話を促す心理的空間を誘発するように感じるのだ。その一方で、他者との会話をするときの背景音としても機能すると感じる人もいるようだ。このような作品を作る際、私の時間のほとんどは、聴く行為に費やされる。時には何日間にも渡って聴き込むことになる。異なるシチュエーションでどのようなことが生じるのか、またそれらによって、私がどのような気持ちになるのかを観察する。まず観察し、ルールを調整する。これらの作品を構成する要素は確率論的であり、様々な確率が積み重なるため、起こり得るすべてのバリエーションを理解するのに時間がかかるのだ。例えばルールの一つを「100音毎に音程を半音階5つ分上げる」というものとする。そしてまた別のルールを「50音毎に、音程を半音階7つ分上げる」というものとする。それら二つのルールを同時に走らせると、非常に稀だが、ある時点で二つが全く同じ音階を奏でることになる。つまり5000音毎に音程が半音階12個分上がるからだ。ただし、どの時点からの5000音がそれを生じさせるかどうかはわからない。なぜなら、あらゆる操作が、異なる形で並行して同時に行われているからである。ゆえに最終形は複雑かつ予測不可能なものになる。

アーティストという存在は、おそらく二つのカテゴリーに分類できるだろう。農耕民族と狩猟民族である。農耕民族は、一つの土地に定着し、そこを丁寧に耕し、その場所に多くの価値を見出す。狩猟民族は、新しい土地を探し求め、発見する行為自体や、まだ多くが踏み入れたことのない地に身を置く自由に喜びを見出す。私は、自分の気質上、農耕民族的であるよりかは、狩猟民族的であると以前は考えていた。しかし、この作品が属するプロジェクトがすでに40年以上に渡って続いてきたという事実は、自分の中に農耕民族的資質が多く存在していることを考えさせてくれる。

Brian Eno, November 2016


ブライアン・イーノ最新作『Reflection』は、2017年1月1日(日)世界同時でリリースされる。国内盤CDには、セルフライナーノーツと解説書が封入され、初回生産盤は特殊パッケージとなる。

Labels: Warp Records / Beat Records
artist: BRIAN ENO
title: Reflection

ブライアン・イーノ『リフレクション』

release date: 2017/01/01 SUN ON SALE
国内盤CD: ¥2,400+tax
BRC-538 初回生産特殊パッケージ

商品情報はこちら:https://www.beatink.com/Labels/Warp-Records/Brian-Eno/BRC-538

ご予約はこちら:
beatkart: https://shop.beatink.com/shopdetail/000000002121
amazon: https://amzn.asia/iWse0UP
iTunes Store: https://apple.co/2f015Xf

Ishan Sound & Rider Shafiqu - ele-king

 尖ったサウンドの伝統を持つブリストルで現在もっとも尖っているポッセ、ヤング・エコーのメンバーでもあるIshan Sound(アイシャン・サウンド)とRider Shafique(ライダー・シャフィーク)の2人が来日する。
 アイシャン・サウンドは、〈Peng! Sound〉や〈Hotline Recordings〉、〈Tectonic〉などからもリリースする、現在20代半ばのプロデューサー。マーラやザ・バグなどからもイヴェントに招かれ、またリリースされる曲はレゲエ系サウンドシステムでも好評を得ている。ルーツへの興味を示しつつ、ダブステップ~グライム~トラップ~ダンスホールを折衷する、まさに新世代感覚。
 もうひとりのライダー・シャフィークは、もっか注目もMC。ヒップホップ~ジャングル~ダブステップなど多くのDJやプロデューサーに招かれ、そのラップを披露している。Kahn、Sam Binga、Epoch、Gantz、Submotion Orchestraなどなどの作品に参加している。
 最近Young Echoはレーベルを立ち上げたが、その第1弾は、El KidとJabuがトラックを提供した、ライダー・シャフィークのスポークン・ワード作品(https://bs0jukebox.tumblr.com/post/152601400294/i-dentity-rider-shafique-official-video
 詩の邦訳: https://dsz-instagram.tumblr.com/tagged/ye001

 とにかく、ブリストルのアンダーグラウンド・ミュージックの気鋭の2人の来日、ぜひ生で体験してほしい。11月22日から、東京、名古屋、京都、福岡、金沢、宇都宮をまわります。

■Ishan Sound & Rider Shafique Japan Tour Nov/Dec 2016

矢吹申彦音楽図鑑 nov.music magazine - ele-king

『ニュー・ミュージック・マガジン』の70年創刊当初から6年間表紙を飾った、
湯村輝彦、河村要助と並ぶニッポンのイラストレーターの重要人物=矢吹申彦氏の
音楽モノに絞った初となる画集!!
柔らかくて奥深くて暖かくて心安らぎ“音楽も聴こえる”描写は
アーティストにも見る方にも優しい。
特に氏がこよなく愛するボブ・ディランやザ・バンドは力も入る屈指の名作。

レコジャケでは岡林信康、中川五郎、小坂忠、
はっぴいえんど、葡萄畑、山下洋輔トリオ、
松任谷由美、TIN PAN ALLEY、LIVINGSON TAYLOR、MFQ等が有名。
近年は森山直太朗の3 Wでも知られる。
そのほか、異質の傑作「サザエさんの微笑」?や「ペコちゃん」?も掲載!

ボブ・ディランの公式ボックスセットの中、矢吹申彦さんの絵を見つけた時、嬉しかったなあ。このたくさんのミュージシャンの絵も、見てるとニッコリしてしまう。 ――鈴木慶一

ほんのりと歪な感覚が端正な光と影の中にある。 ――湯浅学

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