「K A R Y Y N」と一致するもの

Afrikan Sciences - ele-king

 フラング・ロータス、さもなければシカゴのディープ・ハウスおける最重要プロデューサー、90年代後半のロン・トレント──、アフリカン・サイエンスのアルバム『Circuitous』を聴いたとき、そのように感じました。アフロで、コズミックで、スピっているようです。
 とはいえ、こちらは、ベルリンのもっともクールなレーベル〈PAN〉からのリリースです。アフリカン・サイエンスはよりモダンで、実験的で、フリーキーです。音楽の向こう側には、ブラック・サイエンス・フィクションが広がっているかもしれません。ケオティックです。何かが起きているようです。アクトレスを思い出して下さい。この音楽は、どきどきします。
 まったく……これは注目の初来日です。

AFRIKAN SCIENCES Japan Tour 2015

Afrikan Sciences x DE DE MOUSE
4.24 fri @ 大阪 心斎橋 CONPASS
Live Acts: Afrikan Sciences(PAN, Deepblak - New York), DE DE MOUSE
DJs: T.B.A.
Open/ Start 19:00
¥ 3,000(Advance), ¥ 3,500(Door)plus 1 drink charged @ door
前売りメール予約: https://www.conpass.jp/mail/contact_ticket/
Ticket Outlets: PIA, LAWSON, e+(eplus.jp)
Information: 06-6243-1666(CONPASS)
www.conpass.jp

UBIK
4.25 sat @ 東京 代官山 UNIT
Live Acts: Afrikan Sciences(PAN, Deepblak - New York), N'gaho Ta'quia a.k.a. sauce81(disques corde)
DJs: Shhhhh(SUNHOUSE), MAMAZU(HOLE AND HOLLAND)
Open/ Start 23:30
¥3,000(Advance), ¥3,500(Door)
Ticket Outlets: LAWSON(L: 76745), e+(eplus.jp), disk union CMS(渋谷, 新宿, 下北沢), TECHNIQUE, Clubberia Store, RA Japan and UNIT.
Information: 03-5459-8630(UNIT)
www.unit-tokyo.com


Afrikan Sciences(PAN, Deepblak - New York) https://soundcloud.com/afrikan-sciences
オークランド出身、 NY拠点のエリック・ポーター・ダグラスのソロ・プロジェクト。DJとして80年代のヒップホップをルーツに持ち、90年代後期の電子音楽のプロダクションに自身のサウンドを見い出し、2007年にオークランドの盟友 Aybee主宰の〈Deepblak〉からデビュー、同レーベルからEPとアルバムをリリース、 Gilles Peterson主宰の〈Brownswood〉のコンピレーションにも参加。Afrika Bambaataaの私生児、SF作家Octavia Butler、 Sun Raの孫息子とも言及され、90年代の東海岸のハウス、40年代のジャズ、 西ロンドンのブロークン・ビーツ、土着的なアフリカやラテンのリズムから掻き集め、蓄積されたビートの感性は様々な音楽のフォームとサイファイ・ビジョンと結びつきながら独創的なプロダクションへと発展。AybeeとのMile Davisトリビュート・プロジェクト『Sketches Of Space』ではアシッド・ハウス先駆者Ron Hardyとアフロ・ビートかけあわせたような作品を披露。 長年先人達によって育まれ、更新されて来たアフロ・フューチャリズムの前衛としても異彩を放つ電子音楽家である。

N'gaho Ta'quia a.k.a. sauce81(disques corde) https://soundcloud.com/sauce81
プロデューサーsauce81の変名プロジェクト。sauce81としては、2008年、バルセロナにて開催されたRed Bull Music Academyに招待され、Sonar Sound Tokyoなどの国内フェス、海外でのライヴパフォーマンスも行っている。生々しいマシン・グルーヴとラフで温かみのあるシンセ使い。雑味たっぷりの楽器演奏と時折表すファジーでメローなボーカルワーク。ディープなソウルとファンクネスをマシンに宿すプロダクション・スタイルで、数々のリミックス、コンピへの楽曲提供を重ねてきた。これまでに『Fade Away』EP、『All In Line / I See It』EP、77 Karat Gold(grooveman Spot & sauce81)『Love / Memories In The Rain』7inch、『It's About Time』EP などのオリジナル作に加え、Shing02脚本・監督のショートフィルム『BUSTIN’』のために書き下ろした楽曲が、UKの〈Eglo Records〉から『Natural Thing / Bustin'』7inch レコードとしてリリース。N'gaho Ta'quia(ンガホ・タキーア)では、自身のルーツである 70's ジャズ、ファンク、ソウル・ミュージックをヒップホップ/ビート・ミュージックのフィルターを通してアウトプットすると共に、アルバム制作へと繋がるコンセプチュアルな世界観を表現している。

Shhhhh(SUNHOUSE) https://twitter.com/shhhhhsunhouse https://shhhhhsunhouse.tumblr.com/
DJ/東京出身。オリジナルなワールドミュージック/伝統伝承の発掘活動。フロアでは民族音楽から最新の電子音楽全般を操るフリースタイル・グルーヴを発明。オフィシャルミックスCD、『EL FOLCLORE PARADOX』のほかに『ウニコリスモ』ら2作品のアルゼンチン音楽を中心とした、DJ視点での南米音楽コンピレーションの編集/監修。ライナーノーツ、ディスクレビューなど執筆活動やジャンルを跨いだ海外アーティストとの共演や招聘活動のサポート。 全国各地のカルト野外パーティー/奇祭からフェス。はたまた町の酒場で幅広く活動中。

Mamazu(HOLE AND HOLLAND)https://mamazu.tumblr.com/
SUPER X 主催。90年代中期頃からDJとして活動を始める。今は無きclub青山MIXの洗礼を浴び、音と人、空間に触発され多種多様な音を吸収。小箱から大箱、野外まで独自の視点で形成される有機的なプレイを続け、国内外数多くのDJ、アーティストとの共演を果たす。トラック制作ではSkateDVDの『007』や『LIGHT HILL ISM』、雑誌『TRANSWORLDJAPAN』付録DVD、代々木公園にて行われる伝統ダンスパーティー『春風』のPVなどに楽曲を提供。2011年HOLE AND HOLLANDから発売されたV.A『RIDE MUSIC』の収録曲「ANTENA」ではInterFMなどでも放送され、日本が宇宙に誇るALTZもPLAY!、BOREDOMSのEYEもMETAMORPHOSE 2012でPLAYし、REDBULL主宰の RBMA RADIO にて公開され大きな話題となる。2012年5月には『RIDE MUSIC』から待望のアナログ・カット、MAMAZU - ANTENA - YO.AN EP EDITをリリースしこちらもALTZ、INSIDEMAN aka Q(Grassroots)、箭内健一(Slow Motion Replay)、YAZI(Blacksmoker)などなど様々なDJがPLAY中!2013年は自身初となるMIXCD『BREATH』をリリースし、最近ではアパレルブランドSON OF THE CHEESEの2015F/WのイメージMIXを提供。HOLE AND HOLLANDからリリースが予定されている。またCOGEEとのB2Bユニット『COZU』やSUNGAを加えたライヴユニット『DELTA THREE』ではBLACK SHEEPによるコンピレーションLP『ANTHOLOGY』に曲を提供するなど、活動は多義に渡る。

ADRIAN SHERWOOD - ele-king

 いや、実際に震えたんですよね。芝浦のGOLDっていう伝説的なクラブにエイドリアン・シャーウッドが来たとき、もう、どんな風に彼がDJしたのかと言えば、カセットテープを使ってて。マッサージのように、音が床から全身に響く。その低域の迫力たるや、さすがだと思いました。
 俺はエイドリアン・シャーウッドになりたい。こう言ったのはアンドリュー・ウェザオールでしたが、UKのDJ/プロデューサーにとってシャーウッドはヒーローです。彼はジャマイカで生まれたダブの技法を、ロック、ヒップホップ、インダストリアル、テクノ、ベース・ミュージックに応用して、道無き場所に道をつくりました。最近では、ピンチと組んで、ダブステップとUKダブとの華麗な結合に成功しました(https://www.ele-king.net/interviews/004243/)。
 4月18日(土)、代官山ユニットにて、エイドリアン・シャーウッドの生ミックス・ショーがあります。クラシック・セット(DJ)、最新セット(マルチトラック)、そしてにせんねんもんだいのライヴを生ダブ・ミックスという3本立てです。
 今週末は、エイドリアン・シャーウッドのライヴ・ミキシングに震えろ!

ADRIAN SHERWOOD
"AT THE CONTROLS" X 3

4/18 (Sat) @ 代官山 UNIT
Open / Start 18:00 Ticket : 前売 ¥4,500 当日 ¥5,000

MIX 1:’79 ~ ’89 クラシック DJ Set !
MIX 2:対決!Nisennenmondai 生DUBミックス!
MIX 3:マルチ・トラック最新セット!

UNIT: https://www.unit-tokyo.com

OSAKA
4/16(Thu) @ CONPASS
more info: www.conpass.jp

NAGOYA
4/17(Fri) @ CLUB MAGO
more info: club-mago.co.jp

katsuhiro chiba - ele-king

 美しい音とは何か。主観的な相違などがあるかもしれないが、しかしそこに客観を持ち込んで判断できるものでもあるまい。だからあえて断言してしまおう。美しさとは「透明さ」のことである。
 美しさの領域においては、残響であっても(いや、それこそ)いっさいの妥協は許されないはずだ。光の反射のようにクリスタルに交錯していなければならない。それは、われわれがデジタルに求める思想に限りなく近い。では、その思想とはいかなるものか。これも断言しよう。未来へのピュアな希求であり希望である、と。
 
 カツヒロ・チバ(katsuhiro chiba)の4年ぶりのフィジカル・リリース・アルバムにして、セカンド・アルバム『キコエル』(KICOEL)は、まさに、いっさいの濁りのないクリアでピュアなエレクトロニック・ミュージックである。ここには彼が追い求めた響きのみがある。まるで仮想現実の夏の夜に高解像度に輝く星空のような音の粒と連鎖。そこに煌めく純度の高いポップネス。私はこのアルバムを聴いて、新しい時代のポップ電子音楽を感じた。

 まずカツヒロ・チバの経歴を簡単に振り返っておこう。2011年にファースト・アルバム『サイレント・リバーブ(Silent Reverb)』を〈トーン・オン・トーン(tone on tone)〉から発表し、翌2012年にEP『パーク.EP(PERC.EP)』を、〈Hz-レコーズ〉からフリー・ダウンロードでリリースした。これらのアルバムには、本作へと至る電子音とポップネスのエレメントがあり、まずは必聴である。
 そして、カツヒロ・チバは音楽プログラミング言語Max/MSPのスペシャリストとしても知られている。2003年に、サンプル・ループを主体とするラップトップ・インプロヴィゼーション用ソフトウェア「cyan/n」を発表し(現在はフリーウェアとして公開されている→ https://audiooo.com/cyann)している。このシステムを用いたライヴ・パフォーマンスも展開した。
 また、彼はアイ・フォーン・アプリの「hibiku」の開発者でもある。このアプリはデジタル合成技術によって、特別なイヤフォンやマイクを用いることなく、美しい残響音を生成するというものだ。本アプリはリリース時、大きな話題を呼び、2013年リリース時にはApp有料アプリ・ランキング1位を獲得したほど。そのほか専門誌への寄稿・連載なども行っており、まさに電子音のスペシャリストといってもいいだろう。まさに一流のプログラマーなのである。
 じじつ、彼の出す音はすべてコンピューターから生成されている。それは本作でも同様だ。シンセサイザーやサンプリングやフィールド・レコーディング音などをいっさい使わず、すべての音を「Cycling'74 Max」を中心としたプログラミング技術によって生成しているのだ。本作の大きな魅力でもある残響も独自のアルゴリズム・リヴァーブ「Chiverb」によって生まれているという。まさに一流のプログラマーによって生まれたサウンドなのだ。

 しかし、私が注目したいのは、その数学的/工学的ともいえる知性から生まれた音は、たしかに明晰な数式のようにクリアであるにも関わらず、誰もが楽しめるポップネスを獲得している点なのである。エクスペリメンタルな過激さよりも、深い叙情すら兼ね備えた音楽とでもいうべきか。完璧にクリアな電子音によって鳴らされるポップネスは、私たちの感情の奥深い場所を刺激する。それは懐かしさといってもいいかもしれない。
 電子音楽にノスタルジア? だが、それは不思議なことではない。本作に横溢しているドリーミーな感覚は、まるで夢をみている感覚に近いからだ。それも幸福な夢、幼少期の夢だ。それを実現させるためにカツヒロ・チバは自分が追いとめる音色だけを追求しているのだ。この知性とポエティックな感覚の共存にこそ、作曲家カツヒロ・チバの真骨頂がある。本作は、ノスタルジック・ポップネスが前2作よりも、よりいっそう追求されているのだ。

 1曲め“クラフツマン(Craftsman)”の冒頭、透明な持続音からすべての雰囲気は決まる。キラキラと煌く電子音たちは、どれも耳に優しくも聴きやすいのだが、しかし徹底的に磨き上げられている。まるで工芸品のようなコンピュータ・ミュージックだ。
 2曲め“パーフェクト・マン(Perfect World)”の軽やかな電子音のアルペジオと軽やかに耳をくすぐるハイハットやビートの音色が、私たちを音の旅へと一気に連れていく。まるで47分のファンタジー・トラヴェル。そうして行き着いたラスト曲“ザ・ランプ(The Ramp)”はひと時の旅の終わりを告げる曲だ。まるでオルゴール的な音色と光のカーテンを思わせる電子音で、アルバムは静かに夢の終わりを告げるように優しく幕を下ろすだろう。どこか宮沢賢治的な電子音楽。いわば「銀河鉄道の夜2015」か(本作を細野晴臣氏に聴いてほしいものだ)。マンガ家タナカカツキによるアートワークも本作の雰囲気をとてもよく捉えている。もちろん、これまでのカツヒロ・チバ作品に共通する深い青/緑の色彩も健在だ。

 私は本作を聴きながら、子どものころに遊んだコンピュータ・ゲームを思い出した。むろん30年前のゲームなのでテクノロジー的には拙いものだ。だが大切なのは技術の問題「ではない」。そのテクノロジーを用いて、夢というイマジネーションを生みだしているのか、という点こそ重要なのである。
 テクノロジーが描く未来の世界と、懐かしい世界の創造。現代最先端の音楽プログラマーであるカツヒロ・チバの音楽に純粋なポエジーが満ち溢れているのは、ミライへの夢とノスタルジアへの想いに一点の濁りもないからではないか。
 仮想現実が見せてくれた美しい星空の饗宴がここにある。テクノポップならぬ「テクノロジー・ポップ」の誕生だ。

interview with Kikuchi Kazuya - ele-king


菊地一谷
CONCRETE CLEAN 千秋楽

Pヴァイン

Hip Hop

Tower HMV Amazon iTunes

 アニマル・コレクティヴ、ムー、ヤー・ヤー・ヤーズ、マイク・オールドフィールド、ジ・エックス・エックス、トーキング・ヘッズ、プリンス……、QN改め菊地一谷の口からは年代もジャンルも雑多なミュージシャン、バンドの名前が出てくる。人騒がせな行動のおかげで、筆者が彼に出会ったときの大切な第一印象を忘れそうになっていたことに気づく。菊地一谷は音楽好きのラッパー/プロデューサーで、レコードを掘るのも大好きな男だった。一時は音楽への情熱が薄れたのかと思わせる発言も耳にしていただけに、再び音楽への情熱を取り戻したと聞けてうれしかった。

 菊地一谷はQN名義で昨年リリースした『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』からMPCとトライトンでの制作へ移行している。そこで彼は、スウィズ・ビーツのミニマリズムとエッジの効いたコールド・ファンクが合体したようなヒップホップ・サウンドを展開した。菊地一谷名義のファースト・アルバム『CONCRETE CLEAN 千秋楽』のサウンドはその深化形であり、さらに本作にはプリンスやトラップ・ミュージックや90年代ブーム・バップの要素も多分に含まれている。ちょっと未来的な感じだ。
 また、SEEDA、NORIKIYO、菊地成孔、田我流、北島、高島、MARIA、RAU DEF、菊丸、GIVVN(LowPass)といったゲスト陣が参加しているものの、菊地一谷が彼らに食われていない、というのがもうひとつのポイント。ゲスト・ラッパーに頼りっぱなしでお茶を濁したような作品ではない。謙虚に見せつつも主役は俺だというエゴを出しているのがいい。さらにさらにこの男、どこか放っておけないという気分にさせるさびしげな詩情を持っているからズルイ。

 取材場所へ登場した彼は筆者にドトールのコーヒーと茶菓子を手渡し、「どうぞよろしくお願いします」と言った。ん? あれだけ拒絶していた大人になったのだろうか。仕事をして、飯を食って、仲間とチルして、音楽を作る。そういう日常のサイクル、菊地一谷流のヒップホップ的ライフ・スタイルからこの最新作はできあがっている。そのように菊地は語った。さて、その真意とは?

■菊地一谷 / きくちかずや
またの名をQN。2012年までヒップホップ・クルーSIMI LABに在籍。数多くのストリート・ネームを持ち、楽曲も多数手掛けてきた異才にして、理解され難い行動や言動でも記憶されるプロデューサー/ラッパー。前作『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』リリース後、菊地成孔プロデュースによる女優・菊地凛子の「Rinbjö」名義でのデビュー・アルバム『戒厳令』へも参加。2015年、音楽活動を再スタートさせることを宣言し、客演にSEEDA、菊地成孔、NORIKIYO、MARIA、RAU DEF、GIVVN(from LowPass)、田我流、菊丸、高島、北島などを迎えてのアルバム『CONCRETE CLEAN 千秋楽』をリリースした。

“CLEAN”という言葉が出てきたのは、これまでのちょっとイリーガル感のある作品じゃなくて、ヒップホップであっても若い世代に悪影響のない音楽を作りたかったからなんです。

まずやはり『CONCRETE CLEAN 千秋楽』というタイトルですよね。

菊地一谷(以下、菊地):最初からシンプルかつライトな聴きやすい音楽を作ろうというコンセプトがあって、タイトルも菊地一谷の頭文字を取って『KK』にしようと考えてたぐらいなんです。でも、客演を集めていくなかでSEEDAくんのフィーチャリングが決まって、俺がふざけて『CONCRETE GREEN』をもじったりしていたら、『CONCRETE CLEAN』にたどりついた。“CLEAN”という言葉が出てきたのは、これまでのちょっとイリーガル感のある作品じゃなくて、ヒップホップであっても若い世代に悪影響のない音楽を作りたかったからなんです。

“イリーガル感”のある作品とは、『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』のこと?

菊地:それもそうですけど、僕自身がいま普通に働いてクリーンな生活をしていたから、そこからもきてますね。あとなにより、『CONCRETE GREEN』は僕の憧れのアルバムだったんですよ。僕らの世代にとってあのコンピはすごく大きい。『CONCRETE GREEN 5』以降、とくに『CONCRETE GREEN 8』や『CONCRETE GREEN 9』ぐらいになると、若い世代もかなり収録されていたから、「俺にもいつかオファーがくるんじゃないか」と思ってたんです(笑)。でも自分は入ることができないまま終わってしまった。だったらもう自分で作るしかないなと。だから、このアルバムは『CONCRETE GREEN』のパロディと思っていただきたいです。

ということは、『CONCRETE GREEN』監修者であるSEEDAと“神奈川ハザード”で共演できたのは感無量なんじゃないですか?

菊地:それはめっちゃありますね。SEEDAくんとNORIKIYOさんといっしょに曲を作れたのは大きいです。“神奈川ハザード”は、SEEDAくんが川崎出身で僕が相模原出身なんで、神奈川つながりで曲を作りましたね。

実際いっしょに制作してみてどうでしたか?

菊地:SEEDAくんのヴァースはフリースタイルなんですよ。じつは僕が半分騙したんです(笑)。

どういうこと?

菊地:最初はレコーディングと言わないで、「家に遊びに来てください」って誘ったんです。それで自分の部屋やリヴィングで遊びながらいい感じになってきたところで、「フリースタイルでいいんで俺のアルバムに入ってほしいです」ってお願いしたんです。SEEDAくんには、「お前、ハメたっしょ?」って言われました(笑)。そう言いながらもSEEDAくんは、30分ぐらいフリースタイルしてパリッと作ってくれました。

だからなんですね。SEEDAのリラックスした、隙間の多いフロウがすごい気になってたんですよ。“神奈川ハザード”の2人のラップには中毒性がありますね。

菊地:そうですね。でも僕はリリックを書きましたね。

NORIKIYOとの共作はどうでしたか? NORIKIYOをディスした曲以降、2人の関係について気にしているファンやヘッズもだいぶいますよね。

菊地:自分のいまの考えではビーフはよくないです。自分がNORIKIYOさんをディスったことを振り返ると、自分のやり方は間違っていたと思いますね。ああいうディスやビーフにヒートアップしてくれた人もいますけど、人のことをおとしめる音楽はやっぱりよくないなと。とはいえ、NORIKIYOさんをディスったのには理由があって、相模原の地元でずっと憧れ続けてた存在だったからなんです。単に営業妨害や邪魔をしたかったわけではなくて、音楽的に勝負したかったんです。だけど、それがああいう形になってしまった。そういうことを今回NORIKIYOさんに話したら理解していただけて、あらためて音楽的な部分で勝負させてもらいましたね。


人のことをおとしめる音楽はやっぱりよくないなと。

今回の作品で僕がまず素晴らしいと思ったのは、豪華なゲスト陣に菊地一谷が食われていないところなんです。フィーチャリングの多い作品の場合、聴く側からすると主役のラッパーがゲストのラッパーに負けていないかというのはいちばん気になるポイントでもあるじゃないですか。そこは考えてアルバムを構成したんじゃないんですか? ヴァースをラップしてる人たちに食われてないだけではなくて、菊地成孔や田我流はフックで歌ってもらうだけにとどめてますよね。

菊地:そこはゲストのみんなに無理のない程度に際立ってもらうようにお願いしたんです。それもありますし、僕がキチキチに気張った音楽が好みじゃないのもあって、さっぱり作ってほしいって依頼したんです。田我流くんは、「ヴァースも書きたいしフックもやる」と言ってくれたんですけど、フックで歌ってもらうだけにしました。田我流くん、SEEDAくん、NORIKIYOさん、それに菊地(成孔)さんはみんな大御所ですし、そのほうが高級感も出ると思ったんです。だからメインの役割は僕がやって、ゲストの人たちにはちょっと食べてもおいしいキャビアみたいな感じになってもらいましたね。ただ、MARIAにはヴァースまで書いてもらった曲(“続BETTER”)とフックだけの曲(“SLAVE ROCK”)をそれぞれ作ってもらって、RAU DEFにもかなり協力してもらってますね。

菊地一谷 feat. 菊地成孔“成功までの道のり”

菊地一谷 feat. MARIA“SLAVE ROCK”


名前に頼らないで自分の音楽とスタイルが評価されればいいし、それで存在感を示せればおもしろい展開が作れるんじゃないかと思って名前を変えました。

ところで、このタイミングでまた名前を変えたのはどうしてですか? 

菊地:QNっていう名前にいろんなバックグラウンドがついてしまったから、それに収拾をつけるために名前を変更したのがまずありますね。それと、しょっちゅう名前を変える人間が作品をポンポン出して、その上で注目されるのはそれなりのハードルだと思うんです。だから、自分への試練ですね。名前に頼らないで自分の音楽とスタイルが評価されればいいし、それで存在感を示せればおもしろい展開が作れるんじゃないかと思って名前を変えました。

それでなぜ菊地一谷?

菊地:菊地凛子さんからオファーが来たときに(菊地一谷はRinbjö『戒厳令』に参加)、「ハリウッド女優からオファー来た!」ともう舞い上がってしまって、しかも菊地成孔さんからもオファーが来てるし、もう菊地一派に入れてもらおうと完全な独りよがりでこの名前にしました。

なんだそれ……(苦笑)。

菊地:菊地一派に入りたいがためだけにこの名前にしましたね。

おふたりは何か言ってましたか?

菊地:いや、複雑な顔してたっすね。「ま、いいよ。勝手にやれば」みたいな感じだったと思います(笑)。

そりゃ反応のしようがないですよね。ぜったいまた名前変えるでしょ?

菊地:ファッションでも大人ラインと自由度の強いキッズのラインがあったりするじゃないですか。菊地一谷はそういう意味では大人路線ですね。

ただ少し前に話したときは、音楽への情熱が薄れているような発言をしていたけど、音楽への興味や探求心も復活してきたんじゃないですか?

菊地:そのとき言ったことは撤回したいですね。

それはよかった!

菊地:いまは音楽は宇宙の世界で、キリがないほどいろんな構成が作れると思ってますね。あとけっきょくレコーディングがすべてなんです。ただ日々ダラダラと生活してる人間がレコーディングのときだけ急にちゃんとできるはずがないんです。毎日の生活があってはじめてレコーディングがあるということにようやく気づいたんです。たしかに音楽への興味がなくなったときはあって、そのときはファッションに興味が行ってましたね。そういう時期があったのもいまはよかったと思ってますね。


ただ日々ダラダラと生活してる人間がレコーディングのときだけ急にちゃんとできるはずがないんです。毎日の生活があってはじめてレコーディングがあるということにようやく気づいたんです。

たしかに服は超持ってそうだよね。見るたびにちがうファッションだもんね。

菊地:服や靴の量はヤバいですね。(取材場所のP-VINEの会議室を見回して)ここが埋まるぐらいありますね(笑)。


トラップ・ミュージックをヒップホップでクラシックとされてる90年代のサウンドに混ぜたような音が作りたかったですね。

なるほど。もう少しアルバムの話をしたいんですけど、『CONCRETE CLEAN 千秋楽』は『DQN忠臣蔵~どっきゅんペチンス海物語~』の延長線上にありますよね。サウンドのひとつの核は電子ファンクですよね。

菊地:それもあるし、グッチ・メインのプロデューサーだったり、ウェスト・コーストのヒップホップだったりにけっこうハマってたので、そういう要素もあると思いますね。それと自分としてはわりとクラシック路線を狙っていきましたね。

たしかに菊丸との“菊エキシビション”とか菊地流のGファンクですよね。クラシックな路線を狙ったというのはもう少し具体的に言うとどういうこと?

菊地:最近のトラップ・ミュージックも聴き慣れると悪くないなっていう感じがあって、そういうトラップ・ミュージックをヒップホップでクラシックとされてる90年代のサウンドに混ぜたような音が作りたかったですね。

『NEW COUNTRY』を出したあとのインタヴューでは、トーキング・ヘッズの『ストップ・メイキング・センス』にインスピレーションを受けたと話してましたけど、そこに関していまはどうですか?

菊地:トーキング・ヘッズはいまも好きですけど、当時ほどは熱が入っていないですね。どちらかと言えば、最近は新しい音楽を聴いてる感じですね。

たとえば?

菊地:最近はプリンスのアルバム(『Art Official Age』)がおもしろいと思いましたね。

Prince“Breakfast Can Wait”

あのアルバムはよかったよねー。

菊地:あと、昔はレコードで音楽をかなり聴いてたんですけど、いまはMixcloudを再生したりしてさっぱりした感じで音楽を聴いていますね。音楽を聴くのもそうだし、音楽の制作もさっぱりやってますね。午前中に仕事して、夜は友だちとお酒飲んだりしてチルして、その流れで音楽をさくっと作ると。だから、今回はパラデータのやり取りもしてなくて、ミキシングもマスタリングも自分でやってますね。スタジオに入ってレコーディングするっていう気張った制作の仕方ではなくて、ライフ・スタイルの一環として音楽を作るようになりましたね。

生活の流れで作ってパッと出すと。そういう制作がいまの菊地一谷の考えるヒップホップらしさなんですか?

菊地:そういうふうに思ってますね。

ラテンにはラテン、ジャズにはジャズのコード感があるのもなんとなくわかってきていて、もちろん専門的なことを言いはじめたらちゃんと勉強した人にはかなわないけど、独学ミュージックでそのあたりも追及していきたいですね。

いまもMPCとトライトンで制作してますか?

菊地:『DQN』からトライトンを導入しましたね。

しかしマスタリングまで自分でやったんですね。

菊地:全部〈ミュータント・エンパイア・スタジオ〉っていう自宅スタジオで作ったっすね。MARIA、RAU DEF、SEEDAさん、菊丸、GIVVNもそこレコーディングしてます。やっぱりお金をかけてスタジオを借りて作業して、毎回パラデータを作って制作すると、どうしても1、2年に1枚のペースが限界になる。もっとはやいスパンで僕の音楽を聴きたい人に自分の音楽を提供したいと考えたときに、今回のようなスタイルがいちばんでした。

そうすると、これからだいぶ制作のペースが上がる感じですか?

菊地:いちおうペースは上がる予定です(笑)。『CONCRETE CLEAN』のシリーズは今年中に最低でももう2作完成させようと思ってます。

へええ。音楽にたいして再びピュアになってきたんじゃないですか?

菊地:そうですね。そう言っていただけたらありがたいです。

“コンクリート・ピュア”なんじゃないですか?(笑)。

菊地:はははは。だと思いますね(笑)。

ところで、今回作りたい理想の音というのはありました?

菊地:作りたい理想の音はたしかにあるんですけど、言葉で説明するのは難しいし、今回はあんまりそういうことを考えなかったですね。今回のトラックはここ1年ぐらいで作ったもののなかから選んでいて、このアルバムのために新しく作ったのは“アチチチ”と“SLAVE ROCK”ぐらいです。今回の菊地一谷のファーストはこれまで作ってきたビートがメインで、次の作品で自分の理想に近づけたいですね。個人的にはMARIAとの“続BETTER”のビートや“アチチチ”のラテンっぽい感じが気に入ってますね。

“アチチチ”はラテンだよね。

菊地:意外とラテン音楽とか好きなんですよ。

そうなんだ。レコードを掘ってる?

菊地:ラテン系の音楽はかなり掘って聴いてます。ラテンにはラテン、ジャズにはジャズのコード感があるのもなんとなくわかってきていて、もちろん専門的なことを言いはじめたらちゃんと勉強した人にはかなわないけど、独学ミュージックでそのあたりも追及していきたいですね。

なるほどー。なんか話をきいてると、大人になってきた感じですか?

菊地:はははは。やっぱりバレてるんすね、そういうこと(笑)。自分のライフ・スタイルって考えたときに、こだわりを持っていくうちにいまの形に近づいていますね。

2012年のインタヴューでは大人になりたくないと言っていましたもんね。

菊地:いまもずっとキッズでいたいと思ってるし、僕の音楽を聴いてくれるリスナーのことも考えてますけど、ただ好き勝手やるだけでは意味がないと思うんです。菊地一谷はファッションで言う大人ラインとして、音楽を大事にしていきたいと思いますね。




本インタヴューにつながる“QN”時代のお蔵出しインタヴューを公開中!

Courtney Barnett - ele-king

 思い出して欲しいんだよな。君がどこから来たのかを。“インディ”と呼ばれるものの意味をさ。
 最初はUKだった。ラフトレードやファクトリー、チェリー・レッドといったレーベル……ジョイ・ディヴィジョン、エコー&ザ・バニーメン、ザ・スミス、それからマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン……。
 インディは、ビートルズよりもヴェルヴェット・アンダーグラウンドを支持したが、マイナー・バンドのTシャツを着ているだけの物好きな連中ではなかった。バンドは自分たちの悲観的な内面を露わにした。自分たちの経済的な貧困さも隠さなかった。ヴィヴィアン・ウェストウッドの洋服をありがたがらずに、フリーマーケットに行けば500円で売っているような服を着たってこと。自分のサイズよりも微妙に違った服。大きめのコート、ごてごてのブーツ、安っぽいチェックのシャツ。ぼさぼさの髪。基本、アンチ・エレガントかつユニセックスだった。彼らは世間並みの夢を裏切り、貧しい者が夢見る夢を見た。
 その流れを汲んでいるのが、たとえばグランジやライオット・ガールだ。考えてみよう。カート・コバーンの外見はセックス・ピストルズに近かったのか、ビート/ヒッピーに近かったのか。そのどちらでもあり、そのどちらでもない。だからレイヴ・カルチャーとも正反対の文化ってわけでもなかった。あからさまなドレスダウンだった。ダボダボのセーター、ルーズフィットなズボンの男女は、90年代初頭の野外フェスにもごろごろいたしな。

彼はちゃんと気づいてる 大豆と亜麻のベジマイトのくずを そこらじゅうにまき散らしてること コンピュータを見て吐き気をもよおし スワントンの通勤の人混みを押しのけ ネクタイをはずし メトロバスの停留所の隅で寝ているホームレスの男に渡す 彼は叫ぶ 「今日は仕事に行かないぞ! どの電車が何分遅れるかチェックしながら 草むらに座ってコーラの缶でピラミッドを作るんだ」 コートニー・バーネット“Elevator Operator”

 もったいぶったイントロはない。いきなり歌とギターが入る。“スウィート・ジェーン”の頃のヴェルヴェット・アンダーグラウンドのようだ。そうとう格好いい。曲も歌詞も。
 声は、ときおり涙を含みながら乾いている。観察力のある言葉もクールな音もリズミックで、颯爽している。グルーヴもある。キャット・パワーの『ムーン・ピックス』を忘れよう。本当に忘れなくてもいいんだけど、この音楽はブルースも歌っているが、泣いて聴くアルバムではないのだ。ユーモアもある。声は大きくはないが、歌の存在感は大きい。躍動的で、同時に艶めかしいギター・サウンド。素晴らしいドラムとベースもある。このアルバムの隣にテレヴィジョンやオンリー・ワンズを並べてやってもいい。
 いまどきこんな音楽をやるのは、いったいどんな女だろう。僕は我慢できなかった。高橋のように、インターネットで画像検索した。セックス・ピストルズのポスターが貼られた彼女のベッドルームの写真を発見した。こうして、1988年生まれのこの女性がいかにわかっているのかを確信した。言っておくが、1980年にインディ・キッズだった人間が長いあいだ冷凍保存されて、現代に解凍されたときに共感できるのは、ノスタルジーってことではない。その音楽に芯があるってことだ。
 彼女の歌に描かれる若者は、陰鬱だが、おおよそ間違っていない。人生に戸惑いを覚えないほうがどうにかしている。木津毅がどうしてこの音楽にひっかからなかったのかが僕にはわからないんだよね。

「飛び降りたいのはあなたのほうでしょう 僕は自殺なんてしない ただボーッとしたいだけ ここに来るのは空想を楽しむため シムシティで遊んでるっていう想像するのが好きなんです ここから見ると みんながアリに見えて 風の音しか聞こえない」と彼は言う。 コートニー・バーネット“Elevator Operator”

 インディ・キッズっていうのはね、いまでは、ときとしてシニカルな言葉なんだよと、実際にUSインディ・シーンに属していた人が僕に教えてくれた。お決まりの服装のおきまりの髪型の、ちょっとナイーヴな子たちへの皮肉も込められているんだと。けど、それを言ったらなんでもそうだからね。クラバーなんて言葉もそれなりに滑稽だろ。インディ・キッズっていうのは、ミュージシャンとお友だちであることを自慢することでも、異性関係を自慢することでも、ele-kingに数えるほどのレヴューを書くことでもない。コートニー・バーネットが歌っているように、平日ひとりで屋上に上がることだ。
 ほんのわずかな期間だったとはいえ、人生でインディ・キッズだったことがある僕は、コートニー・バーネットのデビュー・アルバムをちょっと大きめのヴォリュームで聴いている。ビルの谷間の長く暗い通路を歩きながらこれを聴いたら泣いちゃうかもな。我ながら矛盾している。そもそもイヤフォンもiPodも捨てた頑固ジジイにそれはない。まあ、とにかく、屋上でひとりで過ごしたことがある人は、年齢性別問わずに、必聴。

 スペシャルなニュースと、スペシャルな告知! 
 1999年にリリースされ、まさに世紀を画する大傑作となった『Eureka(ユリイカ)』を代表作として、数々のプロデュース仕事や映画音楽など幅広い活動を通じ、いまや音楽史上の偉人として一層のリスペクトを集めるプロデューサー、ジム・オルーク。2009年の『ザ・ヴィジター』以来、約6年ぶりとなるオリジナル・アルバムのリリースが発表された。これはまた、2001年の『インシグニフィカンス』以来じつに13年半ぶりのヴォーカル・アルバムとなる。日本盤先行で、発売日は5月15日。待ちきれない。

 そしてele-kingでは、この発売にあわせて、ジム・オルークのすべてを解き明かす永久保存版『別冊ele-kingジム・オルーク完全読本』を同時刊行! 膨大なリリース・カタログを総ざらいする、“世界でもっとも完全に近い”ディスコグラフィ(本人監修)も収録。本人監修にもかかわらず「完全に近い」というところがミソである。加えて、超ロング・インタヴューや関係者が語るジム・オルーク評、レヴューに論考、過去記事の収録など、全キャリアとともに90年代~2000年代の時代精神までもを振り返る。1冊まるごとジム・オルークづくしの別冊ele-kingの登場だッ!
 また、あのフジオプロ様のご協力により、フジオプロ描き下ろしのジム・オルーク・ポストカードが綴じ込み付録でついてくる。絵柄がまた……ジム・オルーク氏も喜ぶすばらしい仕上がりなのだ! こちらも発売は5月15日。みなさまよろしくおねがいしますなのだ。

《アルバム情報》
【アーティスト】ジム・オルーク(Jim O’Rourke)
【タイトル】シンプル・ソングズ(Simple Songs)
【フォーマット】CD
【品番】PCD-18787
【価格】定価:¥2,495+税
【発売日】2015年5月15日

【収録曲】
1. Friends With Benefits
2. That Weekend
3. Half Life Crisis
4. Hotel Blue
5. These Hands
6. Last Year
7. End Of The Road
8. All Your Love

これぞまさしく待望。ジム・オルーク、2009年の『ザ・ヴィジター』以来、約6年ぶりのオリジナル・アルバムにして、2001年の『インシグニフィカンス』以来、じつに13年半ぶりとなるヴォーカル・アルバムがついに完成! 毎度のことながら、ジム・オルーク以外の誰にも作り得ない、さらに『ユリイカ』(1999年)、『インシグニフィカンス』を凌駕する、正しく圧倒的な最高傑作!

■すべての楽器を自身で演奏した、全一曲の衝撃のインストゥルメンタル・アルバム『ザ・ヴィジター』を2009年にリリースして以降、細野晴臣やカヒミカリィらが参加したバート・バカラックのカヴァー・アルバム、『オール・カインド・オブ・ピープル~ラヴ・バート・バカラック』や、石橋英子や長谷川健一、前野健太といったアーティストのプロデュース、復活したクリスチャン・フェネスとピーター・レーバーグ(ピタ)とのユニット、フェノバーグや、石橋英子と山本達久と結成したバンド、カフカ鼾としての活動、敬愛する故・若松孝二監督の『海燕ホテル・ブルー』をはじめとする映画音楽の制作、多岐にわたるアーティストとのコラボレーションやゲスト参加等、相変わらずのワーカホリックぶりを見せている東京在住の音楽家ジム・オルーク。2013年6月の、東京、六本木のスーパー・デラックスにおける6日間すべて違う演目という驚異のライヴ企画『ジムO六デイズ』も大きな話題となった彼が約6年ぶりにリリースするニュー・アルバム『シンプル・ソングズ』!

■本作の最大のトピックは、ジム・オルークが2001年の『インシグニフィカンス』以来、じつに13年半ぶりに発表するヴォーカル・アルバムだということだろう。まさに待望のアルバムである。しかしジム・オルークは、我々の期待をはるかに上回るものを届けてくれた! ジム・オルークの音楽的ヴォキャブラリーを凝縮したかのような、丹念に練り上げられたメロディを備えた、細部まで緻密にアレンジされた起伏に富んだ楽曲のクオリティの高さはもはやおそろしいほど。アコースティック・ギターの爪弾きからバンドが一体となった演奏まで、静と動を行き来する、計り知れないほど奥行きのある楽曲がじつに感動的だ。より渋みを増した歌声もなんとも味わい深い。

■『シンプル・ソングズ』はまた、ジム・オルークとって初の日本で録音した歌もの楽曲のアルバムである。ここ数年、活動を共にしている石橋英子、須藤俊明、山本達久、波多野敦子の4人に加え、高田漣らがゲストで参加している。ジム・オルークと丁々発止の演奏を繰り広げる日本のミュージシャンたちにも注目してほしい。

■ギタリスト、ジム・オルークがたっぷりと堪能できることもまた、『シンプル・ソングズ』の魅力のひとつである。デレク・ベイリーやジョン・フェイヒィ、ヘンリー・カイザー、レッド・ツェッペリン、ジェネシス……、さまざまなアーティストからの影響、その要素を吸収して独自のスタイルにした唯一無二のギター・プレイがぎっしりと詰まっている。

■サウンド・クオリティについてはもはや言わずもがな。いつもながら、見事な工芸品のような丁寧に作り上げられた音響空間は幻想的ですらある。

■徹頭徹尾ジム・オルーク、なにもかもが破格の傑作がここに誕生した!

《書籍情報》
【書名】別冊ele-king ジム・オルーク完全読本 ~All About Jim O’Rourke~
【ISBN】978-4-907276-32-4
【Release】5月15日(金)
【判型】A5判
【ページ数】160頁(予定)
【著者】監修:松村正人
【価格】本体1,700円+税(予価)

永久保存版。
ジム・オルークを知るならばこの一冊から。

本人監修の“世界でもっとも完全に近い”ディスコグラフィも収録!
全キャリアとともに90年代~2000年代の時代精神までもを振り返る

1999年にリリースした『Eureka(ユリイカ)』は先鋭化と細分化きわまった90年代音楽の粋を集めた作品であっただけでなく、その実験とポップの相克のなかにつづく2000~2010年代のヒントを散りばめた、まさに世紀を劃す大傑作だった。
このアルバムでジム・オルークはシーンの中央に躍り出た。多面的なソロワーク、秀逸なプロデュースワークに他バンドへの参加、映画音楽にゆるがない実験性を披露した電子音楽の傑作群、さらに2006年来日して以降の石橋英子や前野健太とのコラボレーション――以降の活躍はだれもが知るとおりだ。
そして2015年5月、ジム・オルークは個人名義の「歌ものアルバム」を発表する。そこには『ユリイカ』以後の年月に磨かれた何かが凝縮しているにちがいない。
それについて訊きたいことは山ほどある、というより、このアルバムを聴き尽くすこと、ジム・オルークを多面的に知ることは音楽の現在地を知ることにほからない、のみならず、おしきせの90年代回顧を覆す問題意識さえあきらかになるはずだ。

ジム・オルーク、新作『シンプル・ソングス』を語り尽くす~超ロング・インタビュー
気鋭の批評家たちによる新作大合評
石橋英子、山本達久はじめ、バンドメンバーおよび関係者が語るジム・オルーク
どこまで行けるか! ジム・オルーク「完全」ディスコグラフィ
ジム・オルークを多面的に考察する論考集
ジム・オルークを語った過去記事の再録も
一冊まるごと、ジム・オルークづくし!


interview with Awesome City Club - ele-king


Awesome City Club
Awesome City Tracks

CONNECTONE

PopsIndie RockSoul

Tower HMV Amazon

 Awesome City Clubというバンドを最初に聴いたとき、極力演奏者としてのエゴを外に出さないようにした、言葉は良くないかもしれないけれど、BGM、もしくはスーパーマーケット・ミュージック的な音楽を作ろうとしているのではないか、と感じた。そこで聴いている人たちの行動の背景に寄り添った、奥ゆかしいポップ・ミュージック。それはともすれば職人的な作業のようにも思えたし、だからこそ、最初はライヴ活動ではなく、自主でCDをリリースするでもなく、ネット上に音源をひたすらアップロードしてその存在を認知させていくような手法をとっているのだろうと納得していたものだった。彼らの作品から、いわゆるシティ・ポップ然としたものだけではなく、60年代のラウンジも70年代のノーザン・ソウルも80年代のエレ・ポップも90年代のブリット・ポップも00年代のチルウェイヴも2010年代のシンセ・ポップも……と、あらゆる心地良いポップスのツボを闇雲に探しまくっているひたむきな姿が伝わってきたことも職人の第一歩を思わせるものだったと言っていい。

 だが、ここに届いたファースト・アルバム『Awesome City Club』を聴いて、そういう耳に心地良いBGMのようなポップスを作る職人的な自分たち、という在り方を今度は明らかに武器にするようになったんだということに気づかされた。00年代以降の感覚で気持ち良い音を作ることに腐心する若き職人たちである自分たちが表舞台に立ったらこうなるんだよ、とでもいうような主張なき主張。プロデュースとミックスを担当するのがトラックメイカーとして活躍するmabanuaということもそういう意味では象徴的だ。メンバー5人揃っての取材でその作り手の心理を問うてみた。

■Awesome City Club / オーサム・シティ・クラブ
東京を拠点として活動する男女混成5人組バンド。2013年、それぞれ別のバンドで活動していたatagi、モリシー、マツザカタクミ、ユキエにより結成され、2014年、サポートメンバーだったPORINが正式加入して現在のメンバーとなる。「架空の街Awesome Cityのサウンドトラック」をテーマに楽曲を制作・発信。CDを一切リリースせず、音源は全てSoundcloudやYoutubeにアップしており、再生数は10万回を超える。ライブ活動においては海外アーティストのサポートアクトも多数。『Guardian』(UK)/『MTV IGGY』(USA)など海外メディアでもピックアップされるなど、ウェブを中心に幅広く注目を集めている。
atagi(Vocal/Guitar)、PORIN(Vocal/Synthesizer)、モリシー(Guitar/Synthesizer/Vocal)、マツザカタクミ(Bass/Synthesizer/Rap)、ユキエ(Drums/Vocal)

時代性があるような、ないような……どの時代でも自分のメロディをちゃんと作れるような方々が好きですね。(ユキエ)

一般的にAwesome City Clubが紹介される際、「シティ・ポップ」という言葉でまとめられてしまうことに少し疑問を感じていまして。

マツザカタクミ:ええ、ええ。

逆に言えば、どこにルーツの起点があるのかわかりにくいから、「シティ・ポップ」なる言い方にとりあえず置き換えているようにも思えるんです。で、それは、最終的に音に対する感覚を示した言葉なんだろうと。そこで、まず、Awesome City Clubが他のどういう作品と並べられたら本意だったりするか、から訊きたいんですが。

PORIN:私は岡村(靖幸)ちゃんですね。この間、ライヴを観に行ったんですけど、そこにきているあらゆる世代の人を巻き込むようなエネルギーがすごいなあって思いました。人間力みたいなところですね。

マツザカ:僕はペトロールズとceroの間かな。というか、最初、HAPPYとかthe finのような洋楽っぽいバンドと、細野晴臣さんをルーツにしたような、もう少し文系寄りのバンドの中間をやりたいなと思っていたんです。

モリシー:僕もペトロールズと……あとフォスター・ザ・ピープルかな。このバンドで最初に曲を作っていた時に、リファレンスとしてフォスター・ザ・ピープルを聴いていたりしたんです。この感じを日本語でやれたらいいな、とか。バンドとしてもいいけど、音像がとてもよくて……。

ユキエ:私はユーミンさんとか山下達郎さんとか桑田佳祐さんとか……時代性があるような、ないような……どの時代でも自分のメロディをちゃんと作れるような方々が好きですね。もともと私、歌がやりたくて音楽をはじめたんですけど、音楽に関わる方法として最終的に選んだのがドラムだったんです。いろいろやってみたんですよ。ギターもやってみたけど楽しくなかった。でも、ドラムだったら楽しいしやっていけるって思えたんですよね。それでもリズムっていうよりも歌、メロディを聴いてしまうんですけどね。

僕らスタジオにいる時間が多いんですよ。とくに曲を作るわけでもなく、ライヴのための練習というわけではなくても──。(モリシー)

atagi:僕は平沢進と宇多田ヒカル。その間に並べられるようなのだとうれしいなと。どっちも強烈にメロディに個性があるのと、平沢さんの曲なんて変態とも思えるような曲作りだけど、ちゃんと音楽愛があって一つ一つの音に必然があるんです。それは宇多田ヒカルの曲にも感じるんですよね。

なるほど。それぞれが好きなアーティストに、良いと思えるアングルがかなり明確なんですね。岡村靖幸の持つライヴでのエネルギーとか、ユーミンや達郎のメロディとか。パーツ、パーツでリファレンスが分かれるというか。

マツザカ:ああ、たしかに。フォスター・ザ・ピープルはミックスが良かったりするんですよね。

いま名前が出たアーティストの作品はメンバーみんなで共有していますか?

マツザカ:そうですね。わりと共通して聴くようにはしてるかな。

モリシー:曲作りをしているときに名前が出ることもあるし、普段“こんないいの見つけたぜ”みたいに会話して共有することもありますね……僕らスタジオにいる時間が多いんですよ。とくに曲を作るわけでもなく、ライヴのための練習というわけではなくても──。

マツザカ:最近は他にやることが増えてきましたけど、基本は週にどのくらいはスタジオに入る、というようなことは決めていますね。

ユキエ:すごいときは昼から翌日の朝までずーっと入っていたり……(笑)。

モリシー:そういうときは、昼から練習をして、夜になったらそのまま朝までレコーディングをする、みたいな感じですね。で、曲を録音し終えたらSoundcloudにすぐアップして。だから、最初はネット上で曲を発表することが多かったんです。

スタジオでの作業が好きということですか。ライヴをするよりも。

全員:(口々に)うん、そうですね。

マツザカ:絶対そうだと思います。

スタジオが好き、という感覚は誰からの影響、どこから養った感覚なんですか?

マツザカ:このバンドがはじまる前、メンバーそれぞれ別のバンドで、そのときはライヴ中心の活動をしていたんですけど、思うような結果が出なかったんです。ただライヴをやって曲を演奏して……というのではダメなんだと。それで、もっと作為的に曲を作って、発表していくようにしてみたらどうだろう? って思うようになったんです。つまり、最初は無料で聴いてもらって、自分たちのことを知ってもらって……っていうような順序ですね。

つまり、無料試聴をプロモーション・ツールとして生かすために曲が必要だった。だからスタジオでどんどん曲を作っていくことにした。おのずとスタジオにいることが多くなった……という流れがこのバンドの出発点だったということですか。

マツザカ:そうです。もちろん集中しているし、頑張っているんです。頑張ってるベクトルを他のライヴ中心のバンドと少し変えてみた、ということだと思います。

こういう音が欲しいよね、みたいな座組を最初に考えているからこそ、スタジオでの作業時間が長くなるし、そこでの作業が増えていく、という感じですね。(マツザカ)

なるほど。そこには、単に曲を作って、まずは無料で聴いて自分たちを知ってもらいたいという側面以外の醍醐味、たとえば、スタジオでしっかりと曲を作り込むことの楽しさ、カタルシスもあると思うんですよ。

マツザカ:あ、それは絶対ありますね。

モリシー:個人的には細野晴臣さんみたいに、狭山のスタジオで時間を気にせず録音したりするようなのには憧れるんですよ。そういうのが僕らの活動の根っこにあるのは間違いないですね。

マツザカ:こういう音が欲しいよね、みたいな座組を最初に考えているからこそ、スタジオでの作業時間が長くなるし、そこでの作業が増えていく、という感じですね。でも、自分たちでも納得した作品を作ることが目標になっているから、やっていて楽しいし、みんなでスタジオに入ることも苦じゃないですね。

そういう活動の中からでも優れたポップ・ミュージックは生まれるんだということを伝えることができる。

マツザカ:そうですね。それは大きいと思います。

こういう活動方針でいいんだ、と自信を持つことができたきっかけはありました?

atagi:Gotchさん(ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文)が背中を押してくれたのが大きかったですね。

モリシー:音楽的にはけっして近いわけでもないし、僕らにしてみればもちろん大先輩だし。そんなGotchさんに届いて、しかも、どうやら気に入ってくれてるぞ、というのがとにかく嬉しくて。もちろん、好きなことをちゃんとやる、というのを大前提にしていたわけですけど、認められたくてウズウズしていたときにGotchさんに届いたっていうのはやっぱり大きかったですね。これでいいんだって。

Gotchの去年のソロ・アルバムも最初は一人で音を出すことからはじまって、スタジオ制作に集中しながら作り上げたものでしたからね。実際に、そういう先輩たちの作品の音作りを具体的に検証したり、研究したりしたようなことはしました?

atagi:エンジニア的な作業もふくめて、僕ら、最初は見よう見まねだったんです。でも、あるときから別のスタジオで知り合ったエンジニアの方にいろいろと伝授してもらって実地で教わって。こういう音はこうやって出すんだよ、みたいなふうに言われたことを試してみるようになって……。いまは作品を聴きながら“どうやってこの音は出すんだろう?”みたいなことは考えて学んだりしていますね。

ということは、これまで外部のプロデューサーに頼って制作したことはなかったと。

マツザカ:そうですね。これまでは全部自分たちで録音していました。音決めのジャッジも自分たちで。ただ、今回のアルバムはプロデューサー(mabanua)さんやエンジニアさんをお迎えしました。

PORIN:レコーディング前に必ず音の価値観みたいなのを確認し合うんです。誰かの作品を聴きながら“こういう感じの音がいいよね”みたいにして。だから、いざ作業が始まってから迷ったり意見が分かれることはほとんどないですね。

atagi:感覚的に、ドラムの音もギターの音も、“カッコいい”より“気持ちいい”の成分を大事にしたいっていうところとか。バンドとして共通してそこをちゃんと全員が理解しているっていうのはありますね。

ドラムの音もギターの音も、“カッコいい”より“気持ちいい”の成分を大事にしたいっていうところとか。(atagi)

モリシー:それがどうやったら音で出せるのか、というのもだんだんとわかってきて。5人で音を出して合わせたときに、“あ、これメッチャ気持ちいいじゃん”って感じるような瞬間が掴めるようになってきましたね。

なるほど。私が新作を聴かせてもらって感じたのは、どれか一つの音が突出してその楽器の音色として主張するのではなく、むしろプレイヤーとしてのエゴみたいなものを意識的に押さえ込んで、意識的に平板にしているのではないか、ということなんです。シンセサイザーの音だと思ったらよく聴けばギターだった、ギターだと思ったらベースだった、というようにも聴こえる。つまり、あくまでメロディと歌、歌詞のために背景作りに演奏自体は専念するべく、そのために各パートが様々な音を演じている、というような。

モリシー:たしかに、僕ら全員それぞれのパートの特徴に固着はしていないですね。

マツザカ:逆に、プレイヤーとしてこう弾きたい、というより、編曲を意識して、その曲の中で、こういう音を出そう、こういう音が必要だからこうしよう、というようにそれぞれが考えて音を出している感じですね。それぞれのパートに任せる、というようなやり方をしないというか。

atagi:それはありますね。たとえば僕はリズムが好きなんですよ。でも、僕はギタリストだから関係がないということではなく、ギタリストとしてどう気持ちのいいリズムを作れるのか、ということを常に考えているし、他のみんなもそういう意識で統一されていると思うんですね。

でも、Awesome City Clubはリズムがガツンと出るようなサウンド・プロダクションではないですよね? むしろ、ベースもドラムも低音としての主張をほとんどしていない。にも関わらずリズミックな作風が貫かれているわけです。ここにはどういう創作の工夫があったと言えますか?

atagi:あ、それこそが“気持ちよさ”というのを追求した結果なんだと思いますね。僕はエンジニアとしての知識はないですけど、今回、mabanuaさんといっしょに作業をどうしてもしたくてミックスまでお願いしたんです。そしたらやっぱり思っていた通りの音像を作り出してくれた。現場では、こういう感じの音でいきたいんです、みたいなことは伝えていたんですけど、ちゃんとこっちの希望を理解してくれた。mabanuaさんの力は大きかったと思います。

たとえば、ニュー・オーダーを思わせるような、無機質なんだけどバウンシーな音の質感が感じられたりしますね。つまり、すごく無機質な音の感触を狙っても、フィジカルなバンドとしての有機的なものが自然と出てしまう。でも、最終的には熱くなり過ぎない。音の縦のレンジも広くない。限られたレンジの中に、コンフォタブルな感触を封じ込める作業に没頭したように聴こえるんですね。

モリシー:ああ、ニュー・オーダーは僕も個人的に大好きで。あらかじめ設定していなくても、レコーディングをしていて自然とエッセンスが出てしまうというのはあったかもしれないです。あのバンドには鍵盤もいればベースもドラムもいるけど、プレイヤーとしての主張が、少なくとも作品の中ではほとんど強調されていない。ギターもさりげなく居場所をキープしてアンサンブルの中で役割を果たしている、みたいな。そういうのがいいなと思って。たとえば僕は宅録の音作りが好きなんですけど、それをバンドでやるときにも生かしたいというか、必要な音を必要なときに鳴らすような感じであればいいかなと。

メンバー全員はプロデューサー的な第3の眼を持っているということですか。

モリシー:あ、そうかもしれないですね。たぶん、atagiなんかはメイン・ソングライターだから余計にそういうことを考えているんじゃないかと思いますけど。

atagi:このバンドを最初にはじめたときに、宅録のように音が整理されていて、有機的な音にはならないのかな、と思っていたんです。でも、実際に5人で音を出してみると、どうしても有機的な膨らみが出てきたんです。でも、それがイヤなものではけっしてなくて。個人的には宅録のあの感じが好きではあるんです。でも、バンドでやるときに心地良い音像っていうのをみんなで作り上げていくことにも喜びを感じたりするんですよね。

演奏者として主張が出ちゃうと、みんなあんまり楽しくなさそうなんですよ(笑)。不思議なもので、顔に出るんですよね。(PORIN)

では、なぜそういう“心地良い”音を求めるようになったんだと思っていますか?

atagi:歌詞や演奏で主張をし過ぎるようなバンドやアーティストがすごく多くて。それがトゥー・マッチに思えたんですね。で、自分たちで音楽をやるときに、そういうのはやりたくないな、とみんなで潜在的に感じていたんじゃないかと思います。

となると、ある種のBGM、何かをやるときに背後で流れている音楽でありたい、というようにも思われる可能性もあると思います。そこは本意ですか?

全員:あ、もう、まさに。

PORIN:その通りです。

atagi:僕らの音楽に対して、“架空の町のサウンドトラック”ってテーマを設けているのもまさにその通りで。やっぱりデイリーに聴ける音楽でありたいと思っていて。低音がバンバン前に出る音楽だと、好きではあるけど、毎日は聴けない。だから、さきほどおっしゃった、音のレンジが狭いというのも、その限られたレンジの中で心地良い音を作り上げていった結果なんだと思います。もちろん、曲のムードや風景を描くことは大事なんですけど、そこが過剰に主張しちゃうとダメなんじゃないかなって。

あくまで曲を作り上げていく一人になる目線を持ち続けていくということですね。でも、そこで作り手としてのエゴってどうしても出てくると思うんです。キャリアを重ねれば重ねるほど。これは自分の言葉だ、これは自分の音だ、というような。そことの戦い、折り合いはどうされているのですか?

PORIN:でも、演奏者として主張が出ちゃうと、みんなあんまり楽しくなさそうなんですよ(笑)。不思議なもので、顔に出るんですよね。他のメンバーもそうだし、肌に合ってないなっていうのが自分でもわかるんです。

奥ゆかしい音を出すことが主張である、と。

マツザカ:そうですね。こだわりがあるとすれば、まさにそこだと思います。メッセージがないところがメッセージだ、というのをコンセプトにしていたところがありましたからね。たとえば、僕はシャムキャッツが大好きなんですけど、彼らは東京郊外の町にいる人をフィーチュアして歌詞を書いたりしているし、ceroも東京に住んでいる人が描くパラレルな東京がテーマみたいになっているじゃないですか。それぞれちょっとずつ違う目線で東京という町を切り取っていて、それが一つ一つ形になっている。で、自分もなるべく同じものを観て、自分なりの見解を描ければいいなと思っていますね。でも、それを伝えなきゃ、というふうには強く思ってはいないんです。

atagi:気持ちじゃなく風景を歌うアーティストたちが最近増えてきているじゃないですか。とくに東京のインディーズのバンドとかって。でも、それって、自然としっくりきたスタイルが集約されたってだけだと思うんです。音に対してもそうで、「こういうのがいいと思うんだけど、どうかな?」みたいな感覚をなんとなく共有していくことを日々つづけているようなところがある。「これでオッケー?」「オッケーだよね?」みたいな。

つきつめていくと、ブラック・ミュージックにたどり着くと思うんですよ。そこに新しい感覚を与えることができるといいなと思っています。(atagi)

気持ち良い感覚をひたすら追求していくそれぞれの気持ちが一つに集約されていくことのスリル、みたいな感じですかね。

atagi:そうですね。つきつめていくと、ブラック・ミュージックにたどり着くと思うんですよ。でも、僕らは、そういうルーツを堀りさげていくというよりも、そのルーツに影響された音楽に興味があるし、今度は僕らがそういう音楽を作っていきたいという思いがある。バリバリの黒人音楽も好きだけど、ブルーアイド・ソウルだったり、黒人音楽のエッセンスを取り入れた音楽の中にある気持ちよさみたいなものですね。そこに新しい感覚を与えることができるといいなと思っています。

気持ちよさっていうのは、ある一定の経験に基づいた既視感、安心感によってもたらされるところがあるじゃないですか。それはともすれば、すでに出来上がっている価値観を再体験する、言わば保守的な作業かもしれない。でも、Awesome City Clubはそこに新しい感覚を与えようとしている。そこのバランスをどう意識していますか?

atagi:たとえば新作の中の最後の曲“涙の上海ナイト”、気持ちよくてラグジュアリーな曲を作りたいって意識のバンドがああいう曲は作らないだろうと思うんですよ。

歌詞も曲調もナンセンスな面白さがある曲ですね。

atagi:気持ちいい音楽として僕らが追求するジャズやソウルのマナーというか様式美にハマらないような、ハミ出る部分が出た曲だと思うんです。でも、ああいうイビツな曲でもグッド・ミュージックとして釣り合いのとれるものにすることができると思っていて。そこはかなり自覚的にやっていますね。でも、こういう音楽をやってシュッとカッコつけているということも自覚しているんです(笑)。

Black Zone Myth Chant - ele-king

 昨年11月にヒッソリと再来日を果たしていた流浪のフレンチ・サイケ・クラウト・ドローン・ドリフター、ハイウルフ(High Wolf)の公演に行かれた方はおられるだろうか。もはや遥か昔のようだが、初来日ツアーでのサポートにてさんざんタカられたトラウマから僕は彼ことマックスに顔を合わせていない……というのは半分ウソで、多忙にかまけて彼の今回のライヴ・セットをすべて見逃してしまったのを悔やんでいる。オフの日は普通にいっしょに遊んでいたのだが……。

 そもそものハイウルフのコンセプトはアマゾン出身の謎のミュージシャンという設定で、当初は仮面なんか付けちゃって、出来もしないライヴ・パフォーマンスをデッチ上げて強引なツアーを敢行していた完全なベッドルーム・ミュージシャンであった彼は、しかしその圧倒的な量のツアーをこなすことによって次第にリアルなスキルを身につけ、てか仮面とか被ってたら演奏しづらいしってことでコンセプトが有耶無耶になりながらもミュージシャンとしてめざましい成長を遂げたと言っていい。アナプルナ・イリュージョン(Annapurna illusion)と、このブラック・ゾーン・ミス・チャント(Black Zone Myth Chant)は異なるコンセプトの下に活動する彼の変名プロジェクトである。これも本人的に当初は別の誰かがやってるってことにしてほしかったと思うのだけれども、もはや完全にバレバレってのも彼らしい。

 BZMC名義としては2011年にリリースされた『ストレート・カセット(Straight Cassette)』以来、およそ4年ぶりとなる今回の『メーン・セセル・ファーレス(Mane Thecel Phares)』もまた彼が長年に渡ってワールドワイドなアンダーグラウンド・ミュージック・シーンにてドリフトを経た進化を充分に感じさせる内容である。胡散臭いエセ・エキゾ感は彼のその他のプロジェクトと同様だが、BZMCは彼のミュージシャンとしての出発点でもあるヒップホップ的ビートメイキングへの回帰でもある。時にインダストリアルな鉄槌感はあれど暴力的にはけっして展開せず、無意味に極彩色のアシッド・トリップに走ることを抑えてあくまで上品なサイケデリックを聴かせ、レトロなメロディによるリードが洗練されたトライバル・ビートを締めてくれる。同時代の変テコ電子音楽家たちに比しても見事にストイックな差別化を果たしていると言えるだろう。

 ちなみにリリース元である〈エディションズ・グラヴァッツ(Editions Gravats)〉はマックスと同郷で親交を深めるロウ・ジャック(Low Jack)によるレーベルである。噂によると、ていうか飲みながら本人が言っていただけなんだけども現在この二人によるバンド編成による新たなプロジェクトが水面下で進行中とのことでこちらもじつに楽しみだ。そしてマックスのハイウルフの新譜、グローイング・ワイルド(Growing Wild)は間もなくマシュー・デイヴィッドの〈リーヴィング・レコーズ〉より発売される。

 こっちもいっしょにレヴュー書こうかと思ってたけど、まぁ、いろいろお前には貸しもあるし、気分が向いたら書いてやんよバーカ、マックス、愛してるぜ。

ele-king限定公開〈4AD〉ミックス! - ele-king

〈4AD〉といえば、最近はバウハウスでもコクトー・ツインズでも『ディス・モータル・コイル』でもない。それはすでにディアハンターであり、アリエル・ピンクであり、セント・ヴィンセントであり、グライムスであり、インクのレーベルである......というのは引用だけれども、そのアップデートはさらに途切れることなくつづいているようだ。レーベルとしてのカラーをまったく色あせさせないまま、しかしそこに加わっていく音とアーティストたちはより多彩により新鮮に変化している。
先日もピュリティ・リングの新譜が発表されたが、これを祝して〈4AD〉のA&R、サミュエル・ストラング(Samuel Strang)氏がレーベルのいまを伝えるミックス音源を届けてくれた。ele-kingのために提供してくれたもので、もちろんピュリティ・リングからはじまるセット。ギャング・ギャング・ダンスやチューンヤーズのエクスペリメンタリズムもくすまないが、グライムスピュリティ・リングドーターなど〈4AD〉らしい幽玄のヴェールをまとうエレクトロニック勢、アリエル・ピンクディアハンターらのアウトサイダー・ロック、ソーンのインディR&B、ホリー・ハーンドンのテクノ、そして昨年大きな話題となったスコット・ウォーカー+サンのコラボレーションまで、未発表はないものの、「そういえば聴いていなかった」作品に気軽に触れて楽しめるいい機会なのではないだろうか。


Purity Ring - push pull
Gang Gang Dance - MindKilla
Ariel Pink - Dayzed Inn Daydreams
Deerhunter - Sleepwalking
Daughter - Youth
Grimes - RealiTi
Tune-Yards - Real Thing
SOHN - Artifice
Scott Walker + Sunn o))) - Brando
Holly Herndon – Interference

Selected by Samuel Strang(4AD)


interview with Lapalux - ele-king


Lapalux
Lustmore

Brainfeeder / ビート

ElectronicSoulDowntempo

Tower HMV Amazon iTunes

 今作制作中、ラパラックスはスタンリー・キューブリックの『シャイニング』に登場するバーのイメージが頭を離れなかったという。「昔のバーとか、ちょっと変わった仲間が集まって遊ぶような場所。あと、意識の中の煉獄というか、地獄の辺土というか……」。バーと煉獄は順接しないけれども、言わんとすることはなんとなく伝わるのではないだろうか。彼の音楽はいつもそうした「意識の煉獄」へと──切り離されずにわだかまる、精神や衝動や欲求のほうを向き、混沌と渦を巻くその中へと浸透していこうとする。けっして感情などを表現しすくいとるものではなく、その下にあるもの、それになる前の肉や生理と、それを統べようとする精神のかたまりへ向かって、しかし感情的にせまっていく。彼の音がただスムースでないのはそういうことだろう。それは、それがしばしば艶めかしいと評されながらもただセクシーでないのと同様である。

 デモ音源がフライング・ロータスの目に留まり、〈ブレインフィーダー〉との契約にいたったというラパラックスことスチュワート・ハワード。同レーベルからのデビュー・アルバムとなった『ノスタルシック』(2013年)には、たとえばジェイムス・ブレイクのように抽象化されたR&Bが、たとえばパテンのようにとらえどころのないビーメイクが、マシューデイヴィッドに通じるアンビエント・マナーが、あるいはテープ録音へのこだわりが、そして前後数年のあらゆるシーンに散見されたベッドルーム・プロデューサーたちのドリーミーで内向的なエクスペリメンタリズムが溶け込み、しかしそれらの一部としてシーンに回収されるには異質な個性として、このレーベルの独特なキャラクターとも相似した評価と称賛をえた。さて今作はというと、以下の回答を読みながらぜひ聴いてみていただきたい。ファースト・アルバム──名刺としての鮮やかさよりも、もっとぐっと踏み込んだラパラックス(lap of luxury=富と快適さの状態)らしさが取りだされている作品ではないかと思う。

 さて、ある意味では問答によって迫った以上の答えを導いているともいえる章末の余興にもご注目いただきたい。急なフリに応じてくれたラパラックス氏、ヴィーナス木津氏に感謝です。

■Lapalux / ラパラックス
UKを拠点に活動するプロデューサー、ラパラックスことスチュワート・ハワード。フライング・ロータスから称賛され、2010年に〈ブレインフィーダー〉とサイン、2013年にデビュー・フル・アルバム『ノスタルシック(Nostalchic)』をリリース。ボノボやアンドレア・トリアーナなど数々のリミックスでも注目を集め、時のプロデューサーとして活躍をつづける。

個人的にはソウルフルで心のこもった音楽を意図していて、それは過剰なセックス・アピールとはまったく別なものだ。

直接的に性愛が表現されているわけではないですが、あなたの音楽には奥深い官能性を感じます。これは意識して出てきているものでしょうか? また官能はあなたの音楽にとって重要なものですか?

Lapalux:もちろん重要だね。僕のサウンドは、“艶かしい”、“性愛”といった言葉といっしょに表現されることが多い。だけど、間違った文脈でとらえられてほしくはないな。べつにセクシーをアピールしてるわけじゃないんだ(笑)。自分が作る音楽がそういう響きを持っているだけだ。個人的にはソウルフルで心のこもった音楽を意図していて、それは過剰なセックス・アピールとはまったく別なものだ。官能的で艶かしいヴァイブズという表現がうまくまとまっていると思う。スムース・ジャズみたいな感じだけどジャズじゃない、変わったサウンド。そのサウンドには、僕が使っているさまざまな手法も貢献している。荒々しさが緩和され、デジタルっぽさもあまりなく、ガリガリしていない音。僕が音楽を作るときは、ソフトな面を表現するし、今回のアルバムでも、たとえば“パズル(Puzzle)”では、艶かしい感覚が表現されている。ずっとそれが自分らしい音楽だと思ってきた。僕はデリケートな人間だし、官能的だと思う。そういった雰囲気をアルバムやすべての作品に込めるようにしているよ。

テープ録音によるプロダクションにこだわってこられましたが、新作ではそれが可能なかぎりクリアになるよう工夫されているように感じました。あなたの理想の音像はどのようなものなのでしょう。何を基準にして音作りを行っているのでしょうか?

Lapalux:僕が音楽をつくるとき、つまり作曲して、パソコンに取り込んで、ミックスダウンするとき、すべてをその場の判断でやる。プロダクション、インストゥルメンテーション、ミキシングなどすべて自分でやる。大事なのは、音楽をパレットに見立てて作業するということ。さまざまなサウンドが載ったパレット。すべての要素がどのように交わってブレンドするか──そこを非常に真剣に考える。サウンドプロダクションの際に重点を置くのはその部分だ。それから、音がどのように作用しあうかということも大切だね。
そういうことを若い頃から長年やってきたおかげで、いまではどんなサウンドが、どんなサウンドに合うのかという理解が深まってきたと思う。反響してしまうような、まったくちがったサウンド同士でも、対比させるために並列させたりするかもしれない。理想の音像として答えらるのはそんなところかな。絵描きがたくさんある色を見て、どの色がどの色と合うかって、やっているようなものだよ。オーディオ的な体験であると同時に、ヴィジュアル的な体験でもあるんだ。

アナログ的な音へのこだわりという点ではどうでしょう?

Lapalux:いまでもオープンリールの機材や、不安定なテープデッキなんかを使っているよ。サンプルやサウンドバイトなどはいろいろな元から採っているけど。僕は音楽制作の方法をつねに変えながら音楽を作っていきたいと思っているから、楽器を買って使っては、また売ったりして、そのサウンドは二度と使えないようにする。ちょっと変わったプロセスだけど、個人的にはうまくいっている。当然のことながら、アナログとデジタル両方のサウンドを組み合わせている。僕は、機材をたくさん買い込んで、すべてがアナログであるべきと決めつけるタイプの人間じゃない。すべてアナログでなければ本物じゃない、なんて思っていないし。そうなると、ただの機材中毒だものね。たくさん機材を買っても、それを正しく使っていないかったり、正しく使っていてもあんまりサウンドが良くなかったりする。機材を買い込むのに夢中になる人はたくさんいる。僕はそうじゃない。僕は、機材をたくさん買えば買うほど、機材の技術的なことに気がまぎれてしまって、創造性が低下する方だ。それよりは、最小限のセットアップで自分らしい音楽を作りたい。僕は、エディティングにより重点を置く方だと思う。アナログの音をソースとして使って、パソコンに取り込み、加工して音を変える。音を曲げたり、音にフィルターをかけたり、デジタル化させる。僕は、初めから素晴らしいものを録音してエディットをしないタイプというよりも、悪い音に磨きをかけていくタイプなんだ。ローファイで劣化した音を磨いて良く聴こえるものにしていくのが好きなんだ。その過程に楽しみを感じるね。


ローファイで劣化した音を磨いて良く聴こえるものにしていくのが好きなんだ。その過程に楽しみを感じるね。

ヴォーカル入りの曲も、今作ではよりリッチで艶やかな質感になっていて、とても丁寧にヴォーカルそのものが生かされていますが、一方で“ミッドナイト・ピーラーズ(Midnight Peelers)”のヴォーカル・サンプルなどには著しく変調を加えていますね。声や歌というものに対してとくに神秘的な思いを抱かれているわけではないのですか?

Lapalux:(笑)神秘的な思い! もしも、ポップ・ミュージックで求められるようなクリーンでクリアなヴォーカルを録音しようと思ったら、もちろん可能なことだ。これは以前もインタヴューで話したことがあるけど、僕はヴォーカルもひとつの楽器として扱うようにしている。だから、その音を曲げたり、部分的に変えたりする。曲の中で、ヴォーカルのメッセージがどのように響くかということのほうが、ヴォーカルの音質の明確さや、ラジオでどう映えていっしょに歌えるかということよりも、はるかに大切だと思っている。だからヴォーカルの音も加工するし、さまざまなエフェクトをかけてみて実験する。とにかく新鮮なサウンドを生み出すことが大事なんだ。これはすべて僕の実験だ。でなければ、僕は同じようなサウンドを繰り返し作っているということになってしまう。それは僕をアーティストとして駆り立てない。だが、自分のトラックで、ヴォーカルはとても大切に取り扱っているつもりだ。僕の音楽の中で、ヴォーカルは音楽を引き立て、音楽はヴォーカルを引き立てる。このふたつを僕は平等に扱っている。


もっともラグジュアリーじゃないものか……。絶望、空腹かな(笑)。僕はその経験がある。ラグジュアリーからかけ離れた生活をして育った。

『ラストモア(Lustmore)』とはあなたの音楽についてとてもしっくりくる表現です。求めても求めてもどこか空腹感が残って、さらに欲しくなるような中毒性があると思います。これは、あなたご自身の性質にも当てはまることですか?

Lapalux:たしかにそうだね。プライヴェートでも、つねに変化を望んでいるし、居場所も変えたいと思っている。完璧を求めているという面も大きい。いつも、過去の自分を越えようとしている。そういった意味では競争心が強い。今回のアルバムの多くの曲は、過去の自分よりも上を行こうとして、つねに上を目指していたから、すごく辛かったし、思っていたよりも時間がかかってしまった。結果としてできたアルバムには、音楽を作るたびに上達しなければいけないと思う性格や、プライヴェートでも前進しなければいけないという思いが詰まっている。

音やジャケットのアートワークを通して、あなたの目指す「ラグジュアリー」の観念がだいぶわかってきたように思うのですが、さらに理解を深めるために、あなたが考えるもっともラグジュアリーじゃないものを挙げてみていただけませんか?

Lapalux:もっともラグジュアリーじゃないものか……。絶望、空腹かな(笑)。変な質問だな。完全に切羽詰まった感じや失敗。よくわからないよ。裕福な人生は、誰もが目指すところだと思う。みんな快適な生活を求めている。その逆といえば、不快な状況。選択肢がまったくない、金もない、家もない、何もない状況。そんな状況に陥ったことがある人はあまりいないかもしれないが、僕はその経験がある。ラグジュアリーからかけ離れた生活をして育った。僕たちの背景はさまざまだが、みんな成功しようと頑張っている。自分の人生を有意義なものにしようとしている。僕もそうしているし、昔、自分がいた状況からなるべく遠いところに行こうとしている。

なるほど、ところで前作から約2年の間、制作環境に大きな変化はありましたか?

Lapalux:かなりね。ファースト・アルバムのときはもうすでに何曲か曲ができていたし、あと数曲作ればよかった。EPとしてリリースすることもできたんだけど、デビュー・アルバムとしてリリースしたかったから曲を足したんだ。あれはあれでいいアルバムだったし、いまでも満足はしてる。でも変わったのは、このアルバムはより完璧さが増していること。ファースト・アルバムには、「あ、ここもう少し時間をかけてやればよかった」と思うところが数カ所あるんだ。でも、新作ではそういう部分がないし、やれるだけのことはやったと思う。だから2年もかかったんだよ。1曲に何度も何度も取り組んで、完璧にしようとしたから。自分が心から納得がいくまで作業したくてね。

なるほど。セカンド・アルバムは、やはり作るのが難しかった?

Lapalux:本当に大変だったよ。セカンド・アルバムがいちばん手こずるっていうのは事実。ずーっと集中しないといけなかった。ファーストよりもベターにもしたいし、でも同時に違うものも作りたいし……、新しいやり方も試したいし、でも自分らしさも残したいし……、そんな中でツアーにも出ないといけないから時間はないし。本当にてんてこ舞いだったんだ。とくにツアーはノンストップだったから、スタジオで過ごす時間がまったく取れなかった。ちょっとパニックになって、どうやって音楽を作ったらいいのか血迷ってしまったこともあったし。でも結果的にはその感覚は戻ってくる。だんだんコツをつかんで、作れるようになっていったんだ。


セカンド・アルバムがいちばん手こずるっていうのは事実。

ヴォーカルで参加したアンドレア・トリアーナ(Andreya Triana)とジャーディーン(Szjerdene)についてはどう思いますか?

Lapalux:ふたりとも素晴らしいと思う。個性的でユニークな声を持っていると思うし、そういうヴォーカルって見つけるのがすごく大変だと思うんだ。アンドレアの声はハスキーでトーンが崩れた感じがいいし、ジャーディーンは音と音の間にクレイジーなイントネーションがある。それが曲におもしろい流れを作るんだ。二人とも、すごくいい声をしていると思うよ。

作業はどんな感じでした?

Lapalux:ふたりとも、同じ空間て作業できたからよかった。メールを何度も送り合わなくてよかったし、いいものが生まれれば、それをそのまま捉えてつづけることができたからね。

ところで、音楽をはじめた当初はラップもやったりアコギの多重録音にも凝ったりしたそうですが、ラパラックス名義で活動をはじめたのは何年で、どのようなきっかけだったのでしょう?

Lapalux:自分でもハッキリとはわからなくて。自然な流れだったんだ。ギターを弾いたりいろいろやってて、たぶん18歳とか19歳くらいのときにコンピューターで音を作りはじめた。あ、もしかしたらそれよりもう少し若かったかもな。音を作ったり、レコーディングしたサウンドを編集したり……それと同時期にプログラムとかも勉強するようになったんだ。とにかく、何かをリリースするためとかじゃなくて、ただ好きで音を作ってた。で、大学になるともっとテープとかビート・ミュージックにフォーカスするようになって、その一年後に「フォレスト(Forest)」のEPを出したんだ。それが自分が初めてリリースした作品だね。そういう流れで進んでいって〈ブレインフィーダー〉と契約して……そんな感じだよ。

〈ブレインフィーダー〉には直接デモを送ったということですが、どんな音源だったのでしょう?

Lapalux:「Many Faces Out Of Focus」をプロデュースしている頃に同時に作っていた作品で、〈ブレインフィーダー〉から最初に出したEP「When You're Gone」の下書きみたいなものを作ってたんだ。あのEPにはすでに取り掛かっていたから、その中からのデモを彼らに送った。あとは、自分がどんなアーティストで、いままで何をやってきたかを軽く説明したんだ。そしたらすぐに返事が来たんだよ。

なるほど、音楽以外の道を考えたこともありますか?

Lapalux:スタジオ・エンジニアとかコンピュータ関係の仕事かな。というのも、小さいころから、たとえばラジカセを直すとか、家のオーディオ関係の配線とかそういうものに興味を持ってて、けっこういじったりしてたんだよね。きっとこの仕事してなかったら一日中電気工事とかしてるかもね(笑)。

ははは。映画のスコアを書いてみたいということでしたが、最近ご覧になった作品で心に残ったものや、音をつけてみたいと思った作品を教えていただけませんか?

Lapalux:最近は『バードマン』を観た。すごく格好よかった。映画のスコアもすごくいいと思った。映画全体に響いていた、ドラムやパーカッションの音がよかった。あるシーンでは、インストゥルメンテーションが素晴らしい部分があって、非常にパワフルだった。あと、けっこう前の映画だけど、ジェニファー・ロペス主演の『ザ・セル』を最近観た。ヴィジュアルがいい映画だったよ。彼女が特殊な能力を持っていて、他人の精神状態に入り込めるんだ。あの映画のスコアはぜひ書いてみたいと思った。


僕はいまでもギターを弾いているし、アコースティック音楽にも興味があるから、その可能性もなきにしもあらずということだ。

ギター・バンドのご経験もあるということでしたが、アコースティックな表現や生音のセッションでラパラックスの音楽をつくりたいと思うことはありますか?

Lapalux:まあね。僕はアルバムを作るとき、いままでとはちがったことをやりたいと毎回思っているし、友人にも今後、アコースティック寄りなものを作るという話はしているから、奇妙でくだらない(=trashy)フォーク音楽みたいのをやるかもしれない。未来はどうなるかわからないもんだ。僕はいまでもギターを弾いているし、アコースティック音楽にも興味があるから、その可能性もなきにしもあらずということだ。

知り合いの音楽ライターに占星術に詳しい人間がいるのですが、あなたの星座(と可能なら血液型)を教えていただけませんか? 今年の運勢や相性のよい星座をたずねてみたいと思います。

Lapalux:(爆笑)オーマイゴッド! まず、僕は自分の血液型を知らない。あと、自分の星座も定かではない。牡羊座だったかな。

誕生日はいつですか?

Lapalux:3月21日。

では魚座か牡羊座ですね。詳しくは調べてもらいましょう。

Lapalux:いや、牡羊座だと思う。血液型はまったくわからない。それって変かな?

日本で血液型占いは人気ですが、べつに知らなくても変じゃないですよ。血液型も4タイプしかないから一般論だと思います。あなたの運勢と相性の良い星座をお伝えしますね。

Lapalux:ドープだ! 待ちきれないよ(笑)。絶対教えてね!


ヴィーナス木津の星にきいて

ご依頼ありがとうございます。
3月21日でございますね。その日はちょうど魚座と牡羊座の境目にあたります(春分の日から牡羊座となります)。
星占いは太陽がその星座の領域に移動したタイミングで決まるのですが、年によって、あるいは生まれた場所によって、わずかに異なってまいります。
生年とその時間までわかると確実でございますが、イギリスでお生まれだということを考慮いたしますと、おそらく牡羊座かと思われます。
ということで、火の星座、牡羊座の占いで進めさせていただきますね。


☆牡羊座のあなた☆

生まれついて正義感が強く、闘いの星・火星の下に生まれた情熱の人です。
やや突っ走ってしまうこともありますが、その勢いでは人に負けることはありません。
開拓精神が旺盛ですので、誰もやったことのないことに果敢に挑むことができるでしょう。

さて、昨年の夏ごろから牡羊座は恋愛運が急上昇しています。
恋愛運と同時に、創作活動にも最高のときです。(星占いでは恋愛と創作を近いものだと考えるのです。)
まず自分が心からエンジョイできること、そんな自己表現に力を注ぐといいでしょう。
この運気は今年の夏まで続きますので、自分のなかで湧き出る創作への情熱を絶やさないことをおすすめします。
アルバムのタイミング、バッチリだったのではないでしょうか。
もちろん、意中の人へのアプローチにもいい時期です!
今年後半は、健康やルーティンワークの改善に適した時期ですので、何か日常的な運動を始めるといいかもしれません。

相性占いなんですが、
わたしとしましては、星が相性の「良い・悪い」を決めるのではなく、
星が生み出すマジックを個人がどのように受け止めるかが大切だと考えています。
そのことを踏まえた上で、
牡羊座と気が合う、感性が近いなと感じられるのは同じ火の星座に属する獅子座と射手座です。「熱い仲間」が結成できるでしょう。
また、機知に富む双子座も、あなたには魅力的に映ることでしょう。

(ヴィーナス木津)

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727