去る3月3日、現代音楽家であり、電子音楽の開拓者のひとり、ロバート・アシュリーが肝硬変のために他界した。
1930年、ミシガン州アナーバーに生まれたロバート・アシュリーは、大学卒業後、ミシガン大学スピーチ研究所(音響心理学と文化的なスピーチ・パターン)に勤務しながら、1958年にゴードン・ムンマと電子音楽スタジオを共同創立。機材が市販される以前から、エレクトロニクスに作曲の可能性を見たふたりは、機材環境を自分たちの手で作りあげ、実験した。1969年にはサンフランシスコ・テープ・ミュージックセンターの責任者に就任、1970年代は現代音楽のためのミルズ・カレッジ・センターで教鞭をとっている。
昨今、声を機械で変調することはごく普通におこなわれているが、ロバート・アシュリーは音声合成を試みた先駆者として知られている。無意識の言語と意識不明状態への関心を膨らませた彼が1979年に発表した『Autmatic Writing』は、もっとも有名な作品のひとつで、言葉と電子音が織りなす実に奇妙な音楽だ。無意識に呟かれる言葉、フランス語の朗読(トゥーレット障害に関する論文)、ムーグ・シンセサイザーの音、オルガン──これらのミックスは、極限的なフリースタイルだったと言えるかもしれない。リル・Bの催眠的ラップの青写真かもしれない。スティーヴ・ステイプルトン(ナース・ウィズ・ウーンド)がLSDを摂取してこの作品に感動した話は有名で、NHKコーヘイも大好きなアルバムとして『Autmatic Writing』を挙げているが、しかしロバート・アシュリーの実験が本当に再評価されるにはもう少し時間が必要なのだろう。合掌。(野田努)
「K A R Y Y Nã€ã¨ä¸€è‡´ã™ã‚‹ã‚‚ã®
静かに雨が降っている。道の脇にふとしゃがみこんで草むらの水たまりを覗き込めば、透き通った水のなかを緑の色彩が揺れている。雨粒が歌っている……。
子どものころに幾度となく過ごしたそんな時間の贅沢さを、ビビオの音楽によってふと思い起こすことがある。スティーヴン・ウィルキンソンことビビオの最高傑作がいまでも『アンビヴァレンス・アヴェニュー』であるのは、あのアルバムで彼の風景画家としての才能がもっとも発揮されているからだ。フィールド・レコーディングも駆使して描写されたのは、街や身近な自然がざわめく音と、それを感じ取る心の反響音であった。IDMやヒップホップのビートと実験主義の影響を往復しながらビビオは、しかしあくまでもフォーキーな音質でもって柔和に、クロード・モネのように目に映る色彩の変化を丹念に捕らえてきたように思える。そういう意味でエレクトロニックな意匠を強調していた『マインド・ボケー』は、サウンド・クリエイションとしての冒険はじゅうぶんに認めた上で、しかし、少しばかり「らしくない」……無理をした作品だったと言いたくなってしまう。
そうした声が多かったのかは知らないが、自分の名を冠したその次作『シルヴァー・ウィルキンソン』は、ウィルキンソンらしい徴がよく出た、真新しくはないけれどもバランスの取れたアルバムだったと言えよう。よりソング・オリエンテッドな、フォーキーなビビオが好きなリスナーには“ア・トゥ・ア・ルール”が用意されていたし、ヒップホップよりのファンキーなビートを鳴らすビビオがお気に入りのファンには“ユー”がちゃんとあった。そしてそんななかでも、アルバムを貫いているのは生音を効かせた心地よい耳障りであり、何よりも、彼が作る音が好きな誰もが微笑むその牧歌性であった。
だから本EP『ザ・グリーンEP』のリード曲を、『シルヴァー・ウィルキンソン』のなかでももっともアンニュイな風合いの“ダイ・ザ・ウォーター・グリーン”としたのはやや意外な選択である。それ以外の5曲(日本盤にはボーナス・トラックが加えて1曲用意されている)は古いトラックから選んで再録したそうだが、結果として非常にフォーキーで、そしてメロウなムードで統一されている。“ダイ・ザ・ウォーター・グリーン”……「水を緑に染める」は、雨の日に自宅のガレージで録音したとわざわざ説明されているが、そんな雨天の薄暗い情景がありありと浮かび上がってくるようなEPである。牧歌的だと言えなくもないが、そう言い切ってしまうにはあまりに陰影に富んでいる。その部分では〈マッシュ〉時代を彷彿とさせる部分もあるが単純にそれだけでもなく、たとえば『シルヴァー・ウィルキンソン』収録曲の“ウルフ”の一発録りヴァージョンという“カーボン・ウルフ”はアンビエント/ドローンに近接しているし、“ア・サウザンド・シラブルス”のはじめ2分のオーケストレーションは現代音楽風ですらあり、僕はティム・ヘッカーを連想したほどだ(これがベスト・トラックでしょう)。ラストの“ザ・スピニー・ヴュー・オブ・ヒンクレー・ポイント”の温かな物悲しさなども、ビビオとしては異質な部類ではないか。
これは『シルヴァー・ウィルキンソン』よりも聴く時間を限定する小さな作品であるように僕には感じられ、だから何もしたくない日に……もしそんな時間が許されるのならば、ゆっくりと沈み込みたいレコードである。春の訪れが遠く思えるこんな寒い夜にすら、生暖かい雨の日の心地よい倦怠を呼び起こしてくれるだろう。
2013年、世界的なメディア・アートの祭典〈アルス・エレクトロニカ〉において「デジタル・ミュージックス・アンド・サウンド・アート」を受賞したアーティストがモントリオールのニコラス・ベルニエである。作品の名は「フリークエンシーズ (a)」。「音叉」の震動を音響的に拡張させる装置/テクノロジーを用いたサウンド・アートだ。
音叉の物質的な震動によって生成する響きは、既存の(90年代後半以降、PCのHD内での音色生成・エディットや、エラーによる偶然性の活用=グリッチを用いた)ポスト・デジタル・ミュージック作品と似て非なる魅力の音を生み出すことに成功している。氷のようなクールなビジュアルと、透明なガラスに反射する光のようなクリスタルな音の生成と持続は、観るものに静かな衝撃を与えるだろう。インターネットでダイジェスト映像が公開されているので、そちらをご覧になっていただきたい。この装置の概要がわかるはずだ。
frequencies (a) | nicolas bernier from Nicolas Bernier
本盤は「フリークエンシーズ (a)」の音源化である。リリースはリチャード・シェルティエが主宰するサウンド・アート・レーベル〈ライン〉。タイトルに「フラグメンツ」とついていることからも、実際のインスタレーションの音をエディットしたものと思われる。
ニコラ・ベルニエは、この作品を「純と不純の二分法に関するシリーズ」と述べている。この「純」とは何か。音叉によって生まれる響きのことか。事実、彼は「音叉は純粋な正弦波に近いサウンドを生成するオブジェクト」と語ってもいる。では「不純」とは何か。それが人間によるエディット・コンポジション、もしくはコンピューターによるフリーケンシーな音色の生成のことであろうか。純=音叉とアナログ、不純=コントロールとマシンとは、いささか粗雑な解釈だろうが、ひとつの補助線を引くことくらいはできるだろう(それにしても音叉という本来、調律を行う器具を用いて、このような非平均律的なノイズを生み出すというコンセプトがユニークだ)。
私見だが、「純と不純の二分法」という概念は、本シリーズ作品のテーマでもあるようにも思える。そう「フリークエンシーズ」はシリーズ作品なのだ。アルス・エレクトロニカ受賞作品「フリークエンシーズ (a)」は、音叉による震動を音に変換する独自のシステムを用いたインスタレーション/サウンド・アート作品。そしてシリーズ2作め「フリークエンシーズ(シンセティック・バージョン)」は、同じシステムを用いたラップトップによるデジタル・ミュージック作品。こちらも動画がある。
frequencies (synthetic variations) | nicolas bernier from Nicolas Bernier
本シリーズの音源化は、まずは、2013年に、フランスの実験音楽レーベル〈エントラクト〉から「フリークエンシーズ(シンセティック・バージョン)」がリリースされたことにはじまる。〈ラスター・ノトン〉的な律動感に満ちたトラックばかりの傑作で、コンピューター制御されたトラックが脳髄をバキバキに刺激していくアディクティヴなアルバムである。そして2014年、〈ライン〉から『フリークエンシーズ (a / フラグメンツ)』も発表された。これでまだ発表されていない第3部を除き、第1部「(a)」と第2部「(シンセティック・バージョン)」が音盤/音源化されたことになる。
個人的には、ニコラス・ベルニエの新作が〈ライン〉から出るというアナウンスを知ったときは軽い驚きを感じたものだが、同時に納得もした。ベルニエは〈ホーム・ノーマル〉などからポストクラシカル/アンビエントな、可憐なアルバム『Music For A Piano / Music For A Book』(2012)などもリリースしていたので、〈ライン〉からのリリースは意外に感じるものの、彼のライヴやインスタレーションの動画を観ると、エクスペリメンタルな楽曲をコンスタントに発表していたし(こちらにいくつかの動画がまとまっている。https://vimeo.com/nicolasbernier)、そのうえ13年のアルス・エレクトロニカ受賞が追い風にもなったであろう。さらに〈エントラクト〉からの本シリーズの別バージョン音源の完成度の高さを考えると、〈ライン〉のラインナップに加わることは納得がいく。そして〈ライン〉としても、そのレーベル・カラーに大きな変革をもたらす重要なアルバムになるのではないかとも思えるのだ。
では〈ライン〉的なるものとは何か。それは音響の建築的(アーキテクチャー)設計によるサウンド/アートの再設定というものではなかったか。聴こえないほどの微音=震えを、建築的な音の構造論から設定し、新たな音環境を構築すること。それがレーベル初期の思想であったように思われる。それらは主宰リチャード・シェルティエらの作品のようにロウワーケース・サウンドなどと呼ばれもした。
そのブームのようなものが去った後も〈ライン〉はいくつもの方法論を模索しながら、やはり「音/響のアーキテクト的な再設定の思考」を進めてきた。00年代中盤以降〈ライン〉はもはや微音量にこだわってはいなかった。彼らが、その時期以降に実践してきたことは、「音楽的ではないドローン」の環境的・美学的な音響生成であったように思う。12kが「音楽的なドローン」=アンビエントへと向かっていたこととは対照的であった。
しかしこの2014年最初のリリースにおいて、〈ライン〉は、非音楽的ドローンをエステティックなレベルに持っていくという一連の実験・実践とは異なるコンセプトをプレゼンテーションしてきたように思う。それはどのような変化なのか。一言で言うならば、音の物質的な震動を再生成することではないか。同時リリースされたディスクが、環境音からほとんど鳴っていないような静寂と震えを生み出すフランシスコ・ロペスの音源データ(7時間分)を収録したクロニクルDVDであったことも示唆的だ。そう、2014年、〈ライン〉は、音の「震動」に焦点を当ててきた。
となると、ベルニエのこの作品のどこが「震動」的なのか。いうまでもなく、音叉の震えから純粋な電子音響を生成しているところである。この作品は、一聴したところ透明な電子音が持続と変化と切断の中でコンポジションされるポスト・デジタル・ミュージック作品に聴こえるし、たしかに、コンピューターによって制御されてもいるのだが、しかし、その音は、音叉とその装置の接触による物質的な震動なのだ。それこそが、ほか(の電子音響作品)にはない、新しさに思える。事実、本盤の響きをよく聴いてみると、そのトラックを満たしている震動には、微細なアナログ感があり、それがフェティッシュな音の快楽を生んでいる。デジタルな音の生成とアナログで物質的な音の震動の交錯とでもいうべきか。
アルバムは33分程の1トラックだが、音は変化を繰り返すので飽きることはない。冒頭からガラスを弾くような響きが間をおいて繰り返され、残響から別の音の層が空気のように生まれ出ていく。さらに打撃音が持続の中に打ち込まれ、光のようなアンビエンスの層と融合する。透明な打撃と持続。微細なノイズの粒。微かなノイズから生まれるクリッキーなリズム。パチパチとした細かいリズムに、ガラスのカーテンのような音の交錯。それらはまたも非反復的な打撃音ともに消え去っていくのだが、そこからさらに氷のように冷たく透明なサウンド・カーテンやマイクロ・ノイズが幾層にも生まれ出る……。
個人的には、やはり9分から12分あたりで展開されるクリッキーなリズムと、砂時計のような微細なノイズと空間を揺らすような透明な音が交錯するあたりが好みだが、全33分、どの瞬間も、透きとおっていて、美しい緊張感がある。そのクリスタルな音の持続は電子音楽と非電子音楽の間を越境し、音の磁場・震動・環境は、マシニックな緊張と官能性の中で見事に刷新されている。まさに2014年、ポスト・デジタル・ミュージックの最前線。必聴のアルバムである。
最後になったが、ニコラ・ベルニエは、ボールドというインプロ・ノイズ・ユニットとしても活動しており、昨年はカセット作品『FMV/SHR』を発表した。こちらもインターネットにパフォーマンス動画がアップされている。まるでボードゲームをプレイするかのように3人向かい合ってのラップトップでパフォーマンス。ユニーク極まりない。
自分がSound System/Lightingを担当しているSunday Afternoon Party「ギャラリー」を3/9青山CAYで開催します。
皆さんお誘い合わせの上お越しください!
■3/9 (Sun) Sunday Afternoon Session "Gallery" at Cay
Open: 17:00~24:00
Admisson Fee: 2,000yen
Music by DJ Nori, Fukuba, Alex from Tokyo, Kenji Hasegawa
Food: Rico Curry (カレー), Cacao∞Magic (ローチョコ), 玄米おむすび
https://www.facebook.com/RestaurantCAY
■3/5 (Wed) "Tree - Smoker Edition" at Aoyama Zero
OPEN :22:00
Door:2000yen (1d) W/F:1500yen(1d)
Special Guest DJ: DJ FUKUBA
DJ: DJ NORI, YUKI TERADA
■3/7 (Fri) "3on3" at Bonobo
60min of f**k match by MASUO x G.O.N. x DJ BAJA aka 元カレー屋まーくん
Special foods "のぐち亭" by Yukancois [ROOM FULL OF RECORDS]
Welcome Ladies: YUKIKO & CHIE
Fee: 1,000yen
https://bonobo.jp/
■3/26 (Wed) "MASUO 5hours Exclusive Set" at Kieth Flack (福岡)
OPEN: 20:00 - 25:00
https://www.kiethflack.net/
■3/29 (Sat) "World Invader" at SHeLTeR (八王子)
GUEST INVADER: イケダマスオ aka MASANORI IKEDA & MASUO
WORLD INVADER: MR.KEI (SAL), FUJINO▼ (feel), SANCHE☆
INVADER MIXER: SHO-DEN (Surprise Audio Lab)
https://www.at-shelter.com/
=== 2014 Early Spring Chart ===
1 |
Grandbrothers - Ezra Was Right - Film |
---|---|
2 |
Fat Freddy's Drop - Mother Mother (Cosmodelica Remix) - The Drop |
3 |
Africaine 808 - Lagos, New York - Golf Channel Recordings |
4 |
Whilst - Everything That Was Was There - Optimo Music |
5 |
David Bowie - Love Is Lost (Hello Steve Reich Mix By James Murphy For The DFA) - Columbia |
6 |
Paqua - Late Train (Emperor Machine Mix) - Claremont 56 |
7 |
Bah Samba - Here For Now - Village Again |
8 |
Wild Rumpus - Musical Blaze-Up - Bitches Brew |
9 |
Mantis - Yoru no Tobari feat. Mahina Apple - 3rd Stone |
10 |
Kuniyuki - Precious Hall (Secret Street Mix) - Natural Resource |
昨年、デビュー・シングルをセオ・パリッシュ(今日のハウス・シーンにおいて、おそらくもっとも影響力のある人)のレーベルから発表、そして来週にはデビューアルバムをカイル・ホールのレーベルから出す予定の、若干23歳、ジェイ・ダニエルが初来日する。まずはこのボイラールームでのDJを見てくださいよ。ちゃんとレコードとターンテーブル使っているし。
お母さんが、カール・クレイグが作ったガラージ・ハウスの傑作、“スターズ”で歌っていたナオミ・ダニエルだって事実だけで、往年のファンには大受けだったジェイ・ダニエルだが、そのバイオに相応しく、DJの腕もたしかだ。90年代後半のムーディーマンとセオ・パリッシュのタッグのように、2010年代、彼とカイル・ホールが、シーンに新しい風を送る。渋谷モジュールでの1回キリのDJ。 伝説の夜に、GO THERE!
■2014.3.15(土) module
Dope Dive -JAY DANIEL-
23:00~
2000 (with flyer) | 2500/(door)
Jay Daniel (Fundamentals / Sound Signature)
Tommy (Technique/V.)
DJ MUCKY (Vinylists)
Shota Tanaka (Beaten Space Probe/Disco Deviance)
Ryo Nakahara (Ranamusica / Lighthouse Records)
Masashi Matsu i(L.S.S TRAXX / Loudspeaker Survey)
DJ STOCK (World Spin / JMC)
時代が動くときはいっきに動くもの。ゆっくりと予兆があって、いきなりどかっと変化する。ハウス・ミュージックが90年代リヴァイヴァルという華やかなトレンドとなったその裏側では……レフトフィールドな事態になっている。カッセム・モッセは、ロンドンの野心的な〈ノンプラス〉(アクトレスのリリースなどで知られるボディカのレーベル)、ベルリンのハーワックス系の〈ワークショップ〉、オマー・Sの〈FXHE〉など、カッティング・エッジなレーベルからの作品で知られる。彼のライヴセットが3月22日の代官山UNITでおこなわれる。
これ、代官山UNITと格好いいTシャツで知られる〈THE TRILOGY TAPES〉、そして我らがスケシンがデザインするファッション・ブランド、C.Eとの共同企画。メインには、DJノブも出演する。下の階では、C.EのスタッフもDJ。音楽が変化する、この瞬間に出会おう。
〈WORKSHOP〉からのリリースによりブレイクしたKASSEM MOSSE(カッセム・モッセ)がライヴ・セットで再来日! 先述した〈WORKSHOP〉をはじめ、〈FXHE〉、〈Laid〉、〈nonplus〉など多数のレーベルからエレクトロ~ディープ・ハウス~テクノの境界線を横断するオリジナリティ溢れるトラックを発表し、その存在を揺るぎ無きものとしているKASSEM MOSSE。待望のニュー・アルバム『Workshop 19』のリリースもアナウンスされた異才の、まさに絶好のタイミングでの再来日に注目してほしい。
さらに、KASSEM MOSSEもカタログに名を連ねるUKのレーベル、〈THE TRILOGY TAPES〉を主宰し、古くは〈Mo’Wax〉のヴィジュアル・ディレクションを手掛け、最近では〈THE TRILOGY TAPES〉はもちろん〈Honest Jon's Records〉など名だたるミュージックレーベルへデザインを提供するWILL BANKHEADの出演も決定。そして日本からはKASSEM MOSSEの過去2回にわたる来日時にも競演を果たしているDJ NOBUが3時間のDJセットで参戦。確固たる存在感を放つ3者の競演が果たしてどのような空間を生み出すか、興味は尽きない。
なお、この日はSk8thingが手掛けるストリート・ウエアブランド〈C.E〉と〈THE TRILOGY TAPES〉が〈UNIT〉とタッグを組み開催するパーティであり、階下のSALOONには〈C.E〉ディレクターのTOBY FELTWELLをはじめ同ブランドと馴染み深いキャストが名を連ねる他、〈C.E〉×〈THE TRILOGY TAPES〉によるTシャツも会場限定で発売。
2014/03/22(SAT)
@ DAIKANYAMA UNIT & SALOON
[UNIT]
LIVE:
KASSEM MOSSE (WORKSHOP, THE TRILOGY TAPE, FXHE)
DJs:
WILL BANKHEAD (THE TRILOGY TAPES)
DJ NOBU (Future Terror, Bitta)
GENKI (Yuk, UV)
[SALOON]
DJs:
CLOAK DAGGER(Stray form the path)
TOBY FELTWELL
KOKO MIYAGI
1-DRINK
LIL' MOFO
OPEN/START 23:00
ADV.3,000yen DOOR 3,500yen
TICKET OUTLETS: e+ / diskunion 渋谷 Club Music Shop / diskunion 新宿 Club Music Shop / diskunion 下北沢 Club Music Shop / diskunion 吉祥寺 / JET SET TOKYO / TECHNIQUE / Clubberia / RA / UNIT
MORE INFORMATION : UNIT 03-5459-8630
https://www.unit-tokyo.com
団地を切り取ったミニマルなカヴァー・アートが目を引く。規則正しく等間隔で並んだベランダには、それぞれ洗濯物、室外機、あるいは植物なんかが見えている。これはたとえば、この『ささやき』に収められた“公園”や“ボート”、“3年”の曲調のようなほほんとした単調さを持った生活感や、『eye』までのカヴァー・アートの少々感傷的でノスタルジックな感覚を想起させる。
あるいは。アンドレアス・グルスキーがスーパーマーケットを切り取ったあの冷たいミニマリズム(そういえば、ポール・トーマス・アンダーソンは『パンチドランク・ラブ』のなかでグルスキーへのオマージュを捧げていた)のような居心地の悪さや気味悪さも感じられる。それは昨年のザ・ストレンジャーのアルバム・カヴァーのようなディストピックな閉塞感とも地続きにある、のだろう(大友克洋の『憧夢』も思い出される。「団地」というものはあまりにも多くの意味を孕んでいる)。
『ささやき』のジャケットをLPサイズで眺めていると、微笑ましい生活感と悪夢のような冷たい反復との間で引き裂かれそうになり、くらくらと目眩がする。
ミツメの3作めとなる『ささやき』はそういった両価性を持ったアルバムで、ミツメはここで弛緩と緊張とがともに存するような音楽を奏でている。
“公園”や“ボート”にはふにゃふにゃと緩みきった気怠い反復があり、たとえば“ボート”には楽天的でトロピカルな感覚すらあるが、「ずっと前から 気にしてたけど/いいよ」「道連れにして うやむやになる」と諦めきった倦怠感が充満している。そして、“停滞夜”や“テレポート”などに特徴的だが、川辺のクルーナー・ヴォイスには深く深くリヴァーブがかけられ、口を開ききっていないようなそれこそささやくような──歌唱法でもって、ますますゴーストリーでこの世ならざる繊細さが表現され、空気へと分散し溶け込もうとしているかに感じられる。
昨年のシングル『うつろ』について僕は「虚無感」「妙に重たくて気怠く、隙間だらけだが粘っこいグルーヴ」「ダーティでルーズで未整理な音」と書いたが、『ささやき』ではそういった感覚や方向性をさらに深化させているようだ。先の“ボート”などの他に“コース”や“クラーク”といったシンプルでルーズなロック・チューンでは(とくに後者で)ペイヴメントのようなだらけたグルーヴを展開しており──つまりこういった演奏ができるということは、ミツメの4人のアンサンブルはいまもっとも息があっているということなのだろう。
一方、“いらだち”では『BGM』や『テクノデリック』の頃のYMOのドラム・サウンドを、“ささやき”では『青空百景』の頃のムーンライダーズのギター・サウンドをそれぞれ思い起こさせ、他にも“停滞夜”や“number”といった曲ではニューウェイヴへの指向性を一層深めている。ギター、ベース、ドラムスないしドラム・マシンが刻むミニマルなリズムがこういった楽曲の中心を占め、抑制や禁欲の美意識がゆき届いた緊張感、緊迫感を放っている。
『ささやき』はどの曲も短く、収まりのいいエンディングを迎えないまま唐突に終わる。いくつかのインタヴューでは、プリプロ段階で録音したデモに残された偶発的なミスやフレーズをレコーディングにおいて再現した、ということが語られていたが、『ささやき』にはリハーサルを録音したプライヴェート・テープといった趣すらある(“ささやき”のドラムスを聴いてみよう。タムの捌き方やハイハットの開閉にはまるで演奏中に叩き方を考えながら叩いているかのような不安定さがある)。だけれども、だからこそ、ここには異様な緊張感と弛緩とが奇妙に同居している。
アルバムを聴き終えたあとには、カヴァー・アートから感じるそれと相同の居心地悪さ、薄気味悪さが残るだろう。『うつろ』で踏み出したニュートラルでフラットでどっちつかずのグレーゾーンのその先で、霧と煙に取り巻かれて、ミツメは茫漠とした奇妙な像を結んでいる。
Asusuが3月29日に-Flower War- Life Forceで初来日する。彼はPeverelistとKowtonと同じレーベルでライブユニットである”Livity Sound”のメンバーで、UKブリストルから、ベースミュージック以降のシーンにテクノやハウスの実験精神を持って、ダブステップやダブの最良の部分を組み合わせたサウンドを追求し続けている。昨年はLivity Soundのセルフタイトルアルバムや、Pevとの共作シングルといった傑作をリリースし、2013年のRA Pollではレーベル部門で見事1位に輝いた。Asusuは3月28日(金)に豊橋Quark、29日(土)原宿The Sad Cafe STUDIOでは、90年代初頭より20年以上にも渡り、国内でオープンエアパーティー、ウェアハウスパーティーのカルチャーを根付かせてきたLife Forceに登場する。3月26日(水)にはDOMMUNEへの出演も予定されている。Asusuによるテクノとハウス、ガラージュ、ダブステップが融合した現行ブリストルサウンドをAsadaのサウンドデザインで是非体感してみてほしい。
Asusu Tour Dates
3/26 (水) Life Force Presents BROADJ at DOMMUNE, 渋谷
3/28 (金) Paranoid at Grand Space Quark, 豊橋
3/29 (土) -Flower War- Life Force at The Sad Cafe STUDIO, 原宿
限定前売りチケット発売中 -Flower War- Life Force 3/29 (土)
Feelgood Shop
Asusu
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a top 10 of old and new bits I'm playing at the moment...
1 |
Zenker Brothers - Vamp Like - Tresor |
---|---|
2 |
Iori - Wave - Phonica White |
3 |
Kobosil - Aggregate - Unterton |
4 |
Photek - Glamourama - Science |
5 |
Hodge - Renegades - Ytivil Dnuos |
6 |
Batu - Spooked / Clarity(Dismantled) - Ytivil Dnuos |
7 |
Skudge - Wonder Stories - Skudge |
8 |
DJ Dozia - Pop Culture #1 - Ovum Recordings |
9 |
Elgato - We Dream Electric - Elgato |
10 |
Rashad Becker - Traditional Music of Notional Species - PAN |
ミニマルやダブステップ、ブレイクビーツなどベースラインが心地よく、
重心低めに、様々なテンションで踊れる10曲をセレクト。
音攻めパーティ「S」@KOARAを不定期開催でオーガナイズ。
次回は春の舞、3/29(土)にDJ Kabutoを迎えて開催。
S blog https://ameblo.jp/s-3djs/
重心低め10曲 2014/03/01
1 |
SAMUEL L SESSION - Rhodes Island - Arts |
---|---|
2 |
Adam Beyer - Never Really Left Home - Drumcode |
3 |
NAUTILUSS - Spidercrawl - Turbo |
4 |
IPMAN - Aight (Killawatt Remix) - Pressed |
5 |
NOMINE - Nomine's Sound - Tempa |
6 |
MALA - NOCHES SUENOS (MALA & SIMBAD SUPER DUB) - BROWNSWOOD |
7 |
SQUAREWAVE - Heartbeat Feat Dutty Ranks (Dub) - Boka |
8 |
Iron Curtis - Super Sorry - Retreat |
9 |
Khaki - Magic Hour - wiowio sounds |
10 |
HB - HBHP - 残響レコード |
世界各国のDIYレーベルから息つく暇もなく刺激的なドローン/アンビエント作品をリリースし続けるHakobuneこと依藤貴大。ある種の音響に耳のピントが合うものには、その名前はそこかしこで見聞きしたことがあるはずだ。2007年に京都を拠点に活動を開始。さまざまな手法で膨大なヴァリエーションのドローンを制作するほか、自身のレーベル〈トビラ・レコード〉を主宰。さらに四谷の文化サロン喫茶茶会記にて、東京で日々更新される実験音楽の現在を切り取ったイヴェント「音ほぐし」を冷泉、笹島裕樹と共同企画するなど、その影響はいまこの瞬間もゆるやかに広がり、美しい波紋様を描きながら世界の隅々にまで浸透している。
そんなHakobuneがカリフォルニアのカセット・レーベル〈Constellation Tatsu〉からリリースした通算47作め(!)となるアルバム『Looping Around The Forest I Thought I Remembered』についてものする前に、ドローンがポップ・ミュージックの一要素として認知されはじめたころを回想してみる。それはSNSの普及により誰もが世界と接続可能になった時代よりも前のことであり、カセット・メディアへの再注目も手伝い、世界中に心あるスモール・レーベルが誕生した「テン年代以降」のノイズ/ドローン・シーンが形成される前の話。
個人的音楽体験と照らし合わせてしまうが、その隆盛のきっかけはジム・オルークとデヴィッド・グラブスによるアンチ・ロック・アヴァン・デュオ=ガスター・デル・ソルの存在にあると考える。シカゴ音響派と呼ばれた彼らが実験音楽の老舗〈テーブル・オブ・ジ・エレメンツ〉からガスター史上もっとも緊張を強いられる問題作『ザ・ハープ・ファクトリー・オン・レイク・ストリート』をリリースしたのが95年(そこではヒステリックなドローン、けたたましい室内楽、調和しないピアノ、グラブスの歌、打楽器のような鍵盤が次々と連続する)。また、ヴァイオリン・ドローン〜ミニマルの巨匠トニー・コンラッドとのスプリット7インチをリリースし、さらに、同レーベルからオルークがプロデュース、グラブスがギターで参加したトニー・コンラッド至宝の名盤『スラッピング・ピタゴラス』がリリースされたのもこの年。ここでインディー・ミュージックとアヴァンギャルドの間でなにがしかの橋渡しがなされたことは間違いないだろう。それまでは現代音楽用語でしかなく、せいぜいザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドにおけるジョン・ケイルやその周辺(永久音楽劇場など)の所業を語る際に使われていたドローンがじわじわと地下から浮上し、エクスペリメンタル・ミュージックの名の下に地表に姿を現し、じりじりとポップ・シーンににじり寄りはじめたのだ。
さて、このドローン。もともとは間断することなく永久に続くかのような持続低音を指していたが、いまやその定義もあいまいとなり、一部のアンビエント同様、ある種のムードをたたえた、またそれに支えられた音楽になってしまっているような気もするが、いかがだろう?
しかし、しっかりと耳の折り目を正して音と対峙してほしい。明らかに中凡なものとは異なる確固たる内面性をもった、ただのスノビズムに終わらない趣深い実験に出会えるはずだから。
そこでHakobuneだ。86年生まれということなのでシカゴ音響云々なんて過去のもの。まさに身の周りにはテン年代以降の音響がすでにある世代。そして彼のドローン原体験がいったい何だったのかは不詳だが、Hakobuneが鳴らす豊かな音を聴くかぎり、新旧問わず世に漏れ落ちた潤沢なドローン/アンビエントを耳に留めては吸収し、自分のものにしているのは間違いないだろう。そして彼の出自が(シカゴ音響派の連中の多くがそうであったように)ハードコアにあることも興味深い事実だ。途切れることのないクリエイティヴィティ、静かに燃え立つDIY精神。時にストイックでハードボイルドな音を奏でるHakobuneだが、今作ではじつにまろやかな耳触りの音を鳴らし、四辺の空間をギタリストならではの美しいハーモニクスでまるごと包みこむ。
直訳するならば「記憶していたはずの森を彷徨うこと」と名づけられたこの作品。ご本人に話を訊くと、昔祖父とよく行った地元・兵庫の森にインスパイアされた作品だという。なんでも、帰省した折、ふと思い立って20年ぶりにその森に入ったものの道に迷い、数時間彷徨ったあげくようやく入った場所とは別のところから出てこられたという。そのまま帰宅し、ギターとエフェクターを用意して制作された6曲。そこには彼が彷徨い(ループし)ながら目にしたいつまでも続く同じような森の景色があり、迷いこんだ不安とは異なる精神の昂揚があり、そこはかとなく浮流する郷愁がある。ミズナラ、ブナ、モチノキ、ボダイジュ、ニレ、クスノキと、その森にあった木々から採られた曲名も味わい深く、すべての曲がジャスト5分で収まっているところにもドラマを感じて何だかざわざわと動揺してしまう。わずかに変化するギターフレーズ。その重なり合いのはざまに生じる陰影や色調。深いリヴァーブに包まれたロマンチックな旋律。森の中で体験した静かな昂揚と少しの不安が音となり、光となり、眩しく甘美なサンライト・ドローンとなって木立からカーテン状に降り注ぐ。濃くがあるのに淡味であり、淡味であるのに濃くがある。それはたどる記憶とゆらぐ時間を繋ぎとめて結晶化した永遠の30分を約束する。