「K A R Y Y N」と一致するもの

少年ナイフ - ele-king

 ロックンロールはいつだって、なんて素敵なんだ。60代になってもこの真理は変わらないことはとても幸せなことだと思う。ライヴ・ツアーで世界をまわって過ごす60代のロック・バンドという存在はいまさらめずらしいものではないし、ライヴの最中にそんな “感慨” を噛み締めるなんてこともないのだけれど、それでもそれを感じることに胸が熱くなる瞬間のあるライヴというのもいいものだ。

 今年の春には、1981年の結成から40年を(コロナ・パンデミックのために2年遅れて)祝ったイギリスとヨーロッパのライヴ・ツアーを成功させてきた少年ナイフは、「過去を振り返ったこともないし、将来の計画を立てたこともなかった」という、彼女(たち)らしい緩めの時期設定で、少し早い年末ライヴが秋葉原の Club Goodman であった。


 フロアの一角には、10年ぶりくらいだという「フリーマーケット」で、ギターや古本や手作りアクセサリーなんかが並んでいる。そういえばいろんな年代物の少年ナイフTシャツを着ている客の率が非常に高い。つられて買いたくなるくらいだ。きっと昔からのファンもいて、半分くらいの年齢に見えるガールズもいるし、人種国籍たぶん幾分バラエティにとむ。そんなこんなで、開演に向かって、ゆっくりじわじわと、とてもあたたかいスペースになっていく。


 古い曲と新しい曲がかまうことなく続いていく。こういうことでもまた、時制が少年ナイフ世界のものになっていく。
 “Twist Barbie” は30年前の曲だけれど、30年後にフェミニズムの副読本みたいな『バービー』の映画を観た私には、バービーに投影される女の子や元女の子たちの愛の経過というか、愛憎にも似た、あの子どものおもちゃとしては過剰にセクシーな曲線美を持たされた塩ビの質感の、ピンクピンクのバービーハウスを知っていると同時に、その完全無欠なドリームランドですら、自分の老い(死)を見つめてしまったために追放されることになった最新の「バービー物語」も知っていて、そのランドの設定はさながら、寿司やアイスクリームやクッキーやバームクーヘンや、あるいはバイソンやセイウチやカッパやフジツボことなんかを歌い続けてきた少年ナイフの世界がふっと重なったりもする。食べ物や動物のことをロックに載せるこのバンドの、ミラクルでマジカルなワールドの床がやっぱり畳であるとは、最新アルバム『Our Best Place』のジャケットにある通りだし、このライヴでも披露されたその一曲目 “MUJINTO Rock” で紹介される無人島には王も女王も大統領も首相もいない、私を邪魔するものは誰もいない。「電車はありません、飛行機、車はありません、国境はありません、ロック、ロック、無人島ロック」という感じ。少年ナイフの「ロック」は同じ顔の仲間であふれた塩ビの町ではない、「私を邪魔するものは誰も住んでいない(でも動物はきっとたくさんいる)」島でじゃんじゃんかき鳴らされる。


 かっこいい。ロック・ツアーをしながら老いていく女が、21世紀にはじゃんじゃん現れるだろう。メンバーが変わったり、また戻ったりしながら、11月に年末ライヴをやったり、にこにこフレンドリーに「私の邪魔をする人はいない」と唯我独尊な世界を描いてみたり、バームクーヘンについて詳細に語ってみたりする、“男性社会” としての近代世界から、自分の「時間」というものを取り戻した、あるいはもともと手放さないでいた、「無人島ですら、自ら王にも女王にもなろうとしない女」のロック・ツアーだと思う。なんて考えてみたら、しかしそれはラストの “Daydream Believer” はそういう世界を、もう一周外からみている人のようにも浮かび上がらせるかのようで、それはもう夢心地の一夜となった。


様々な話題作・注目作が公開された2023年を振り返り、さらには公開が待たれる2024年の注目作の数々を情報通たちが厳選して紹介。

見逃してしまった2023年の重要作に改めて出会い、見逃せない2024年の注目作に備えよう!

目次

対談 ハリウッドの現在、そして映画の未来 町山智浩×宇野維正
Pick Up Review
 ただ走る映画――『レッド・ロケット』 上條葉月
 #MeToo ムーヴメントに連なる重要作――『私はモーリーン・カーニー 正義を殺すのは誰?』 児玉美月
 スクリーンの向こう側にも楽園などなかった――『Pearl パール』讃 高橋ヨシキ
 ハラスメント加害者の視点――『TAR ター』 戸田真琴
 配信で絶大な人気を保つアダム・サンドラー――『バト・ミツバにはゼッタイ呼ばないから』 長谷川町蔵
 令和のグラインドハウス映画―― 『プー あくまのくまさん』 ヒロシニコフ
 昼メロ世界が描き出す映画とドラマの複雑な隔たり――『別れる決心』 三田格

アンケート 2023年間ベスト&2024年の注目作
 伊東美和/宇野維正/大久保潤/大槻ケンヂ/片刃/上條葉月/カミヤマノリヒロ/川瀬陽太/北村紗衣/木津毅/児玉美月/堺三保/佐々木敦/佐々木勝己/侍功夫/品川亮/柴崎祐二/城定秀夫/高橋ターヤン/高橋ヨシキ/田野辺尚人/月永理絵/てらさわホーク/戸田真琴/Knights of Odessa/中沢俊介/夏目深雪/ナマニク(氏家譲寿)/西森路代/長谷川町蔵/はるひさ/樋口泰人/ヒロシニコフ/藤田直哉/古澤健/堀潤之/町山智浩/真魚八重子/三田格/三留まゆみ/森直人/森本在臣/柳下毅一郎/山崎圭司/吉川浩満/涌井次郎/渡邉大輔

鼎談 「観たい映画を観るだけだから」――2023年総括&2024年の展望 柳下毅一郎×高橋ヨシキ×てらさわホーク

2024年の注目作
 2024年注目アクション映画 高橋ターヤン
 2024年の注目ホラー映画 伊東美和
 2024年注目のSF映画 堺三保
 2024年注目のアメコミ映画 てらさわホーク
 2024年公開予定 ヨーロッパ映画注目作 渡邉大輔
 アジア映画2024年注目作 夏目深雪

対談 反=恋愛映画の2023年 佐々木敦×児玉美月

*レコード店およびアマゾンでは12月15日(金)に、書店では12月25日(月)に発売となります。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
12月15日発売
amazon
TOWER RECORDS
12月25日発売
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
honto
Yahoo!ショッピング
7net(セブンネットショッピング)
紀伊國屋書店
e-hon
Honya Club

【P-VINE OFFICIAL SHOP】
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
 ※書店での発売は12月25日です。
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
紀伊國屋書店
三省堂書店
旭屋書店
有隣堂
くまざわ書店
TSUTAYA
大垣書店
未来屋書店/アシーネ

interview with Lucy Railton - ele-king

 ルーシー・レイルトンのライヴではひとつの音を構成する複数の「聴こえない音」がある。それが突如可聴域にあらわれる。増幅されたバイオリンの旋律が会場の壁や床、観客の手元にあるビールグラスに共振することで、モノフォニックな音のハイフンが生まれ、不安定な声部連結が起こる。またあるときはノンビブラートで演奏する持続音から汽笛のようなハーモニクスがあらわれて空間と調和する——弦楽の特定帯域を加減すると別帯域にあった潜在的な音が幽霊のように漸進してくる現象と似ている——その西洋音楽の語彙だけではとらえきれないライヴの数ヶ月後、ルーシーから新作が届いた。

「実験音楽」という用語はまさに「市場」を目的としたものであり、カテゴリーとはそのためのものに過ぎないと思います。

TW:MODE(https://mode.exchange/)3日目のソロ・ライヴとても印象に残りました。まず、日本滞在中のことなどお伺いできればと思います。

LR:今回の日本での旅では、とても素晴らしい時間を過ごすことができました。フェスティヴァルの主催者であるロンドンの33-33と東京のBliss Network、そしてベアトリス・ディロンYPYカリ・マローンスティーヴン・オマリー、エイドリアン・コーカーという素晴らしい仲間たちと東京で過ごしました。それから、藤田さん(FUJI||||||||||TA)の田舎にある自宅を訪問し、自然のなかで彼の家族と静かな時間を過ごすことができました。日本に来たことはありましたが、今回は特別でした。

TW:新作『Corner Dancer』は何かしらのコンセプトに基づいているのでしょうか。それとも音楽的直感を起点として作られたのでしょうか。

LR:今回はさまざまなアプローチをとりました。私はときに構造、空間、美学について明確なアイデアを持っていて、多くの意味を持つ身近な素材から音のイメージを構築していくこともあれば、表現の衝動から自由に音楽を作ることもあります。また、私の音楽は自分がいま感じていることを表しているので、このアルバムは私が昨年経験してきた様々な状態をトレースしたものでもあります。

TW:作曲をするとき特定の音色または音響を想定していますか。その場合、演奏行為の結果を確認しながら進めていくのでしょうか。

LR:このアルバムを作りながら、私は音楽を作るときに様々なアプローチを取るのが心地よいことに気づきました。私の音楽家としての存在は多岐に渡るので、創作に対する方向性も興味も多様です。スタジオでもステージ上と同じように、アイデアや表現を即座に伝達するような演奏をすることもありますが、そういうときはあなたが言うように特定の音響を探求しているのかもしれません。アルバムの楽曲 “Rib Cage” や “Held in Paradise” では、私にとってまったく新しいプロセスで作業しています。新しい美学や形、色、アイデンティティに取り組んでいます。ほかの創作と同様、究極的には展開するイメージ、あらわれる声、形成される形への執着です。チェロだけを使って作業をすることもありますが、この楽器は私にとって非常に馴染みのある音で身体の経験です。チェロは私の血であり故郷であり古い友人と話しているようなものなので、創造性が別の意味を帯び、深く個人的で古いものと繋がろうとする試みになります。

TW:作曲をする際に典拠、文脈は重要ですか? 文脈は時代と共に再解釈されていく面もありますが。

LR:私は音の抽象的な同一性、音そのもの、そして音の由来となる歴史的、物語的背景双方に関心がありますが、どちらか一方が重要というわけではありません。私のチェロは所有している楽器の中で最も高価なものですが、今回のアルバムではiPhoneで録音した(チェロの)音も聴くことができます。日本製のBOSS SP-303デジタル・サンプラーとエフェクト、GRMのツール、壊れた弓の毛、Buchlaのサンプル、アーカイブ録音によるチーターの声などを使っています。私は音のエネルギーとキャラクターに夢中になっていて、それは私の創作方法の道標にもなります。ほとんどの場合、音そのものに直接心を奪われ、その音がどこから来たかよりも音自体の物語りに耳をかたむけています。

TW:超低周波音(周波数100Hz以下の音)を楽曲に使用することと、近年の音楽再生環境やエンジニアリングの変化は関係していますか?

LR:それらのトラックは再生システムに依存しているため、サブ周波数を聴くことができるのは一部の人だけかもしれません。なのでこれは少し意地悪なトリックです。私は音楽が大きな空間、劇場やクラブ、洞窟などで演奏されることを想像しているので、多くの人にとって聴こえない音であるにもかかわらず、サブ周波数を使用しています。私は、サブ周波数の物理的な影響と私たちの生理的な反応に興味があり、そういった感覚を呼び起こすためにサブ周波数を使用しています。そして、私のミックスダウンの方法は少々型破りで、ときに完全にアンバランスで奇妙なものですが、それによって挑戦的なリスニング体験を生み出すので、私にとっては非常に魅力的です。

Lucy Railton ‘Blush Study’ from album 'Corner Dancer'

チェロは私の血であり故郷であり古い友人と話しているようなものなので、創造性が別の意味を帯び、深く個人的で古いものと繋がろうとする試みになります。

TW:サブ周波数に関連してもう少しお伺いできればと思います。音の現象といいますか、聴こえない音が聴こえるというような音のパラドックスに関心があるのでしょうか? “Suzy In Spectrum ”では完全四度を繰りかえし聴いているうちに様々な倍音が聴こえてきました。

LR:もちろんチューニング・システムを扱う音楽家として、音の現象学は私がやっていることの大部分を占めています。『Suzy In Spectrum』では、和音(とその倍音)を分析しパラメーターの選択によって設計されたハーモニーを生成するスペクトル変換ツールを使っています。つまりある意味では、チェロの和音から自然な倍音(これを「現象」と呼ぶこともできますが)を聴いていることになるわけですが、それに加えて合成された和声素材を聴いていることにもなります。これを音の中のゴースト、背景のフェード、オーラのように扱っています。

TW:ライヴ・パフォーマンスでは演奏をする環境だけではなく、オーディエンスにも影響を受けますか。

LR:そうですね、ライヴでは空間にこだわります。ライヴ会場のWall&Wall(http://wallwall.tokyo/)はドライな音の四角い空間で、素晴らしい音響システムがあることは知っていました。とてもシャープで構造的なサウンドを会場に持ち込みたかったし、クラブスペースで予想される大音量に逆らうような音量を工夫しました。音のステレオイメージを美しくする一方、会場全体をとても静かにしなければなりませんでした。私はそのようにして人々を近づけるのが好きです。そうすることで自分がどこに誰といるのか、どのように聞いているのかを感じ取ることができます。

私は「巨匠」や「専門家」にはあまり興味がありません。伝統は厳格さや俗物主義につながるものであり、私は創造する上でこのふたつの要素にアレルギーがあります。

TW:主要楽器ではないツールやソフトウェアを使って作曲をする際に困難やジレンマを感じることはありますか。またどんな楽器であれその特性や性質を知っておく必要はありますか。

LR:私の楽器であるチェロに関しては、非常に規律ある技術的立場から取り組んできました。もう30年も演奏しているので、どのように音作りのツールとして使うかは熟知していますし、チェロの音の可能性を探求することはやめたというか、もう十分に知っていると思います! チェロに比べれば多くのことに関して私は初心者ですが、ほかの楽器の技術やプロセス、テクノロジーにおける新しさや好奇心が、私の創造性の多くを駆り立ててもいます。私は「巨匠」や「専門家」にはあまり興味がありません。伝統は厳格さや俗物主義につながるものであり、私は創造する上でこのふたつの要素にアレルギーがあります。私は慣れていない方法も自由であると感じる場合は採用しますし、創造の妨げになるようなことがあれば直ちにその道具を使うのをやめます。例えば“Held in Paradise”では、ヴァイオリンを膝の上に置き、チェロのような持ち方でシンプルなコードを弾いています。チェロであそこまで高い音域を弾くのは技術的に難しいので、ヴァイオリンという選択肢が高音域を自由に演奏することに役立ちました。これは私が困難にどのように対処しているかを示す好例です。私は苦労するのではなく、創造的になるための流動的な方法を見つけるようにしています。テクニカルで複雑なメソッドには興味ありませんが、そういったことも時間が経つと出来るようになったので、実際は簡単に作業できるものだけを使っていると思います。

TW:ジャンルというのは普段意識することがない一方で、音楽史上厄介かつ複雑な問題でもあります。そこであえてお伺いしたいのですが「実験音楽」がひとつのジャンルにもなった現在、音楽における実験とは.……?

LR:その用語はまさに「市場」を目的としたものであり、カテゴリーとはそのためのものに過ぎないと思います。私は、声を使ったりクラシック音楽の解釈を通じて実験しているオペラ歌手たちに会ったこともありますが、私はそれを文字通りなにか新しいものを探求しているという理由から「実験的」であると言います。ジャズのドラマーがシンバルで新しいサウンドを実験することも同じく重要です。民俗の伝統や古代の宮廷音楽に根ざす人びとも同様に実験していました。実験なしにはなにもはじまりません。問題なのは、ほとんどすべての音楽が実験的であるのに、なにがほかのジャンルと実験音楽を分けるのでしょうか? その質問には正確に答えることはできませんが、このラベルを付けられている私が知っている音楽家たちは、そのこと自体あまり気にしていないと思います。私たちは新しいことに挑戦し、自分を追い込む個人であるという考えがアーティストの特性だと思いますし、これをやっていないなら何をしているのでしょう?

TW:最近はどんな音楽を聴いていますか?

LR:今週は. . . . Tirzah『trip9love...??? 』、Wolfgang von Schweinitz『Plainsound Study No. 1, Op. 61a』、 Kendrik Lamar 『Mr. Morale & The Big Steppers』、Matana Roberts 『Coin Coin Chapter Five in the Garden』、Ellen Arkbro and Johan Graden『I get along without you very well』。

Alvvays - ele-king

「聞いたよ、帰ってきたんだって」フィードバックのノイズの上でモリー・ランキンがそうやって歌いはじめるとそこにあった時間の隔たりが消えたような感じがした。まるで子ども時代の友だちと久しぶりに会ったときみたいに思い出といまとがあっという間に繋がる。

 カナダのインディ・ポップ・バンド、オールウェイズの久しぶりの来日公演、エンヤの “The River Sings” を出囃子にちょっとかしこまって、だけどもリラックスしてステージに現れたオールウェイズはそんな風にライヴをはじめる。昨年、5年ぶりにリリースされた素晴らしい3rdアルバム『Blue Rev』のオープニング・トラック “Pharmacist”、この曲以上に今回のライヴをはじめるのにふさわしい曲はきっとないだろう。2018年以来のジャパン・ツアーだ。東京からはじまって名古屋、大阪、そしてまた東京、今日の追加公演の会場となった神田スクエアホールの空気もあっという間に暖かなものに変わっていく。その名の通りスクエアホールは四角く天井が高くて、それが体育館や地元の小さなホールを思わせなんだか余計にノスタルジックな気分になる。
 2分と少しで曲が終わってMCなんてなくバンドはちょっとぶっきらぼうに次の曲に入る。続くのは同じく3rdから “After The Earthquake”、最初のギターのフレーズできらめくように空気が揺れる。そうして “In Undertow”、“Many Mirrors” と2分台、3分台名曲たちが次々に繰り出されていく。ハンドマイクに持ち替えしゃがみこみエフェクトをかけながらモリーが歌う “Very Online Guy”、1stアルバムに戻って “Adult Diversion”(この曲を聞くといつも口元に手をやったあのジャケットが浮かんでくる)、全ての曲に心の奥底をなでるような力強くも美しいメロディがあって、ギターとシンセサイザーのフレーズと相まり目の前の光景がノスタルジックなものに変わって行く。そう、待ち望んでいたものがここにはあるのだ。

 それにしてもオールウェイズはイメージする以上に不思議なバンドだ。 およそインディ・ポップと呼ばれるバンドとは思えないくらいに、シェリダン・ライリーのドラムが力強く主張し、アレック・オハンリーのギターがかき鳴らされ、強度はあるのに1曲1曲が短くて、4分に到達することはほとんどない。曲が終わった後も軽いやりとりだけで余韻を残さずすぐに次の曲にいってそれもなんだかちょっとパンク・バンドみたいだなと思った。いままでまったく結びついていなかったけれど開演前にSEでバズコックスの “You Say You Don't Love Me” が流れていて、あぁ『Blue Rev』のオールウェイズにはこの要素が確かにあるなって思ったりもした。素晴らしいメロディを持っているというのは両者に共通していることだけど、オールウェイズは、さらにそこにシンセとコーラスがあってそれがインディ・ポップの部分を大きく担っているのかもしれない。確かに存在するパンク・スピリットを胸にシューゲイザーに寄せてキラキラと水面の光が反射するインディ・ポップを奏でたみたいなバンド、この日のオールウェイズはそんな印象で、まったく一筋縄ではいっていなかったけど、でも全体として出てくる音はとても優しく幸福感がまっすぐに入ってきた。それがなんとも不思議で淡々と幸せな時間がずっと流れていっているようなそんな感じがした。

 だが、やはり全ては曲の良さに集約されるのかもしれない。中盤の “Tom Verlaine”、“Belinda Says” の素晴らしい流れ、アーミング奏法でギターが鳴らされ、浮遊感が体を駆け巡る。モリー・ランキンのヴォーカルは地に足を着けその中心に存在し、ケリー、シェリダン、アビー、3人のコーラスが陶酔感をプラスする。楽曲の真ん中に歌があるからこそ、こんなにも輝きが拡散されていくのだろう。それは決して神秘的なものではなくて、とりとめなのない日常に接続しそれ自身を輝かせるようなもので、そこにきっと淡さと幸福感が宿っている。

 アンコール、リクエストに応えるみたいな形で “Next of Kin” が演奏される。そうして間を置き、ツアーの感謝の言葉が述べられた後に演奏された “Lottery Noises” は曲自体が美しい余韻のように思えて、心が満たされていくのを感じた。そうやってまた日常に帰っていく。明かりがついてパッツィー・クラインの “Always” に送り出されて会場を後にする。外はもちろん夜空だったけどそれもなんだか違って見えた。


Alvvays Japan Tour 2023 at Zepp Shinjuku Setlist 11/28/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Kanda Square Hall Setlist 12/01/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Zepp Shinjuku Setlist 11/28/23

Alvvays Japan Tour 2023 at Kanda Square Hall Setlist 12/01/23

Element - ele-king

 日本のダブ・レーベル〈Riddim Chango〉が、サブレーベルとして新たに〈Parallel Line(パラレル・ライン)〉を始動させる。より実験的な方向に寄ったダブをリリースしていくそうで、まずは第一弾、エレメントの12インチが発売される。すでにイギリスのNoodsラジオでプレイされたり、ドン・レッツから高い評価を得たりしているとのことだ。チェックしておきましょう。

Cat No: LINE001
Element “Nine Mall EP”
発売日: 2023 年12月13日
Format: 12 インチレコード & デジタルリリース
Tracks:
A-1 Element feat. I Jahbar “Chicken Gravy Shorts”
A-2 Element “Chicken Gravy Dub”
B-1 Element “Nine Mall”
B-2 Element “Martian Gravity”

過去13 作品に渡り、オルタナティブなダブ、ダンスホールをリリースし、世界中のDJ、サウンドシステムからサポートを受けてきたRiddim Chango Records がよりエクスペリメンタルなダブにフォーカスしたサブ・レーベルとしてParallel Line をスタート!

第1 作のNine Mall EP はレーベルを手がけるElement によるテクノ/エクスペリメンタルなダンスホール/ダブの4 曲を収録。2022 年にブリストルの前衛レーベルBokeh Versions と共同でリリースしたAndromeda EP に続きDuppy Gun MCs のI Jahbar を客演に迎え、アブストラクト/SF ダンスホールチューンのChicken Gravy Shorts とモジュレーション・ディレイを多用した強烈なダブワイズChicken Gravy Dub をA 面に収録。

B 面ではPulsar のインダストリアルなドラムサウンドを使用したテクノ・ダンスホールNine Mall とレゲトン/デムボウのリズムを取り入れたオブスキュアでメランコリーなダンスホールMarian Gravity を収録。

マスタリングには国内レゲエアーティストの多数を手がけるE-mura、レーベルのロゴは1-Drink(石黒景太)、アートワークはAki Yamamoto が担当。

忌野清志郎 - ele-king

 今年行ったトークショーで、ぼくよりも一回りも年上の人が、日本人が無理にブルースだのロックだのやることはない、日本には日本の素晴らしい音楽(音頭や民謡など)があるんだから、みたいなことを言った。話を面白くするための極論ではあったが、日本の音楽を語る上でこの勘違いはいまだにあるのかもしれない。というか、土着性への反動的な(過剰な)美化というのは、第二次大戦後にアメリカ文化の影響を受けた国なら多かれ少なかれあるのだろう。

 イギリスはアメリカと違って、ロックンロールとの有機的な文化的つながりがなかった。ジューク・ジョイントもダンスホールもなかった、ゆえに、ミュージックホールがその代わりとなった、という話がイギリスの文化研究にはあるとサイモン・レイノルズが書いていた。なるほど。たしかにイギリスにはアメリカと違ってソウル・ミュージックの背景のひとつである黒人教会もない。だが、しかし逆に言えば、アメリカのロックンロールからは “レディ・ジェーン” も “エリナー・リグビー” も生まれてはこない。ついでに言えば、“マザー・スカイ” も “アウトバーン” も生まれてはこない。アメリカのように、ロックとの有機的な文化的つながりがないからこそ、その接続部に彼の地の文化(トラッドやミュージックホール、あるいは戦後ドイツの反伝統主義など)が入り込んでいるわけだ。
 これと同じことが日本にも言えるのではないか。日本には、アメリカのような形でロックンロールが生まれる文化土壌などない。が、だからこそ、“ぼくの好きな先生” や “トランジスタ・ラジオ”が生まれたと。たとえこの論が、“トランジスタ・ラジオ” がではどれほど国際的に有名かという話に繋がったとしても、日本独自のロックのほうが、英米のパスティーシュを一生懸命目指してしまった和製ロックよりも結果国内では人気があり、いまも広く聴かれているのはひとつの事実である。(逆にこういうこともある。たとえばデイヴィッド・ボウイのヴォーカリゼーションにもっとも影響を与えたアンソニー・ニューリーは日本ではほとんど知られていない、とか。ただし、日本的になれば良いというものでもない。歌謡ロックのように毒にも薬にもならないスタイルもある。また、この議論の先には、K-POPとはその発想の逆転で、韓国的なものを徹底的に抜き取った上での西欧のR&B/ラップ/ユーロ・サウンドなどの組み替え……とか、どんどん話が逸れるので、以下、RCに戻りましょう)

 RCサクセションとは、分裂的なバンドだった。70年代末から80年代初頭のほんの数年間のことではあったが、彼らがローリング・ストーンズもどきを志向したとき、バンドのメンバーの年齢はもう30に差し掛かっていた。当時の感覚で言えばロックンロールをやるにはもうオーヴァーである。80年代初頭の人気絶頂期におけるファンの多くは10代だったが、演奏者たちは年が離れていたばかりか、村八分のようなバンドとは違って、若い頃から様式的なロックンロールを表現してきていたわけでもなかった。
 ところが、RC はそれを逆手に取った。主観的(本気)であり、大人であるがゆえに客観的(ユーモラス)にもなれたのだろう。メンバーは「ロックンロール・ショー」のためのキャラクターを演じ、じっさいライヴは演劇めいた要素も入ったエンターテイメントだった。しかもRCは、“現在”とノスタルジアをなかば強引に混同させもした。“トランジスタ・ラジオ”は1980年の曲だが、この時代、ラジオで60年代の西海岸ロックやリヴァプール・サウンドに耽っている高校生などまずいやしない。なのにこのバンドときたら、あたかも現在のものとして歌い、演奏した。高校生のぼくにとってそれはファンタジーだったわけだが、そのいっぽうでRCには現実との回路が間違いなくあった。
 いま思えばおかしなもので、時代のトレンドは「真実」の「ありのままの」自分たちを見せるパンク/ニューウェイヴだった。パンクのなかにはロックを演じるグラム的な要素がじつは多分にあったのだが、とにかくそんな時代のモードに混じって、ストーンズもどきのRCが超強力な磁石となって、ぼくのようなパンク信者の10代を惹きつけていったのも、このバンドは自ら作ったフィクションに内部反発するかのようなリアリズム、シニカルな社会批評をも同時に表現していたからだった( “ブン・ブン・ブン” がパンク・ソングでないわけがない)。これが「分裂的」と表現した根拠だ。もしRCが、ただのパロディだったらこんなにも熱狂しなかっただろう。リアリズム表現一辺倒だったら、高校生たちが笑ったり、踊ったりはしなかっただろう。
 話はそれだけじゃない。もうひとつの重要項目は、RCは、その時代、歌謡曲やニューミュージックなどで歌われていた作り物のラヴソングを嫌悪したパンク/ニューウェイヴ世代を前に、あろうことか「愛しあってるかい」などと(もっとも言われたくない言葉で)語りかけ、容赦なくラヴソングを演奏し、そして感情を鷲づかみにしたことだ。信じがたい話だが、彼らの音楽は不毛な人生を生きる無気力な10代を愛なしでは生きられない人間に変えてしまったのだ。そのマジックの中心にいたのが、忌野清志郎だった。

 分裂的なRCサクセションは『BEAT POPS』で頂点を迎えると、それ以降は、それまでの惰性と試行錯誤との絶え間なき衝突と融合の連続だった。それであれだけの枚数の、最低でも聴くべき曲をいくつかは収録したアルバムを作り続けたことは、本当にすごいことだと思うし、たいへんだったとも思う。1990年、『Baby a Go Go』が出たとき、CDを六本木WAVEで見つけると、もちろん迷うことなく買った。ジャケットに写っている、残った3人のメンバーの表情は明るくはない。もう、なんとなくムードは伝わっていた。ぼくは部屋のなかで、RCは終わるんだろうなと思いながら、“あふれる熱い涙” や“ 忠実な犬” を何回も繰り返し聴いたものだ。

 『Memphis』を買ったのは、レコード棚がクラブ・ミュージックの12インチ・シングルでいっぱいになりはじめた1992年のことだった。これはもう、リリースの詳細を知ってから聴くのが楽しみで仕方がなかった。アメリカのロック史においても黒人音楽史においても重要な、南部ソウルを創造した歴史的な一部=メンフィスのブッカー・T&ザ・MG'sのスティーヴ・クロッパー、ブッカー・T・ジョーンズ、ドナルド“ダック”ダンほか、メンフィス・ホーンも参加のメンフィス録音、夢のような布陣を配したアルバムだ。分裂的なことなどない、原理主義者も納得するであろう“本格的な”サウンドになっているはず、そう期待を寄せながらCDの再生ボタンを押し、そして数分後にぼくは笑った。歯切れの良いリズムの、思い切りスタックス・ソウルのパスティーシュである1曲目の “Boys” には、しかし曲の最後に、「坊主が屏風に上手に坊主の絵を描いたんだったな、ボーイズ」というむちゃくちゃ面白い言葉遊びが待っている。たったそれだけで、これはメンフィスでは生まれようがない、日本のソウル・ミュージックになってしまっているのだ。

 清志郎は、『Memphis』の前年には、細野晴臣、坂本冬美との『日本の人』という唯一無二の傑出したアルバムをリリースしている。この共作は、それこそ演歌や民謡などの「日本」に「ワールド・ミュージック」から得たアイデアを組み合わせたもので、じつを言えばもっとも過小評価されている1枚でもある。ただ『日本の人』はロッキストが首を傾げるような、ロックの文法から外れたいろんな表情をもった作品で、“パープル・ヘイズ音頭” や“渡り鳥”のようなコミカルな一面もありつつも、清志郎が手がけた名カヴァー曲のひとつ“500マイル” や “アンド・アイ・ラヴ・ハー”、“恋人はいない” や “セラピー” のような、人生の儚さや切なさを歌った曲も印象的だったりする。対して『Memphis』はシンプルなアルバムで、清志郎のなかのロックのエネルギーが、しばらくの休息を経て回復したかのように脈打っている。“高齢化社会”のようにそれが多少空回りしている曲もあるけれど最終的には気迫で押し切っているし、“カモナ・ベイビー” は “Boys” と同様に、言葉遊び(カモナ・ベイビー→カモナベ=鴨鍋)を相乗効果とする痛快なブルース・ロックだ。  

 さて、あらためて確認しておきたい。ソウル・ミュージックとは、そもそもアメリカの黒人がその真正性と深い感情をコミュニティに伝達するために、主にゴスペルとリズム・アンド・ブルースを融和させ、即興的で、じつに抑揚のあるヴォーカルをもって発展させたスタイルである。それはある特定の時代と場所の産物で、公民権運動にリンクした文化現象だったが、音楽的には何よりも感情を高めることに特徴を持っている。『Memphis』を特別なアルバムにしているのは、ここにはウルトラ級の名曲、“雪どけ” と “彼女の笑顔” があることだ。この2曲、まず前者は、南部ソウルの深く美しい感情表現が奇跡的といっていいほど鮮やかに日本の風景のなかに落とし込まれている。“スローバラード” の系譜にある曲で、ここではソウル・ミュージックにおけるもっとも重要な主題である「愛」が、最初は控えめに歌われつつも最終的には銀河系よりも大きく膨張する。後者の “彼女の笑顔” にいたっては、清志郎にしか書けない、ブルース調の曲のなかに一瞬の破壊力が巧妙に込められている。なにせこの曲は、「何でもかんでも 金で買えると思ってる馬鹿な奴らに/見せてあげたい 彼女の笑顔」という、たったこれだけの言葉で、反権力、反資本主義、そして愛という、すべてを語っているのだ。
 歌が、大衆の内面と共振しうる物語の形式として機能できるのなら、これら2曲には、我らが物語がある。70年代末に歌っていたギターケースひとつの小さな部屋からはじまる物語(それは経済復興を遂げた敗戦国が表面的には欧米化するなか、取り残された、貧しくも奔放な人生のいち場面でありメタファー)、清志郎のなかでその物語がぶれたことなどいちどもなかった。 “彼女の笑顔” には、清志郎がRCサクセションで作り上げたこうした物語のなかに、メンフィスで暗殺されたマーティン・ルーサー・キング的な理想も歌われている。その的確な歌詞と力強さは、1992年という、いまだロックも更新され続け、いまだ新しかったテクノやヒップホップは毎月のように話題作を出していた年の音楽作品においては完全なアナクロニズムでレトロなアルバムだった『Memphis』が、いや、レトロであったからこそかもしれないのだが、それから30年以上経ったいまも、いや、これはムカつく話だが、愛よりもカネが猛威を振るっているこんないまだからこそ輝きを失っていないことが証明している。

 この12月、『Memphis』がジャケットを新たにアナログ盤としてリイシューされる。さらに同時に、アルバム・リリース後の「忌野清志郎 with Booker T. & The M.G.'s Tour」における武道館でのライヴを収録した『HAVE MERCY!』もジャケットを新たに追加曲ありで再発される。このときのライヴも、ぼくは武道館の二階席で見た。その光景をいまでもなんとなく覚えているけれど、なにせ30年以上前のことなので、だいぶ忘れてもきている。が、すでにクラブ・ミュージックの定番となっていた “Green Onions ” にはじまるこのライヴ盤を久しぶりに聴いていると、いろいろ思い出してくる。ああ、そうだった、ライヴでは、それこそ日本の童謡 “からすの赤ちゃん” をメンフィス・サウンドに接続させてもいるし、最高の悪ふざけ “つ・き・あ・い・た・い” をザ・MG'sといっしょにやってもいるんだった。それから、なんということだろう、あの “トランジスタ・ラジオ” も。日本でしか生まれようがなかったロックの名曲が、ロックンロール/ソウルの母国、ことに南部ソウルのレジェンドたちに演奏されたというのは、それはそれでまたロマンティックな話ではないだろうか。

Robert Hood & Femi Kuti - ele-king

 強力なコラボレイションの登場だ。デトロイトのロバート・フッドとフェミ・クティによる共作がリリースされる。2019年11月27日、ジェイムズ・ブラウンへのトリビュートとして、フランスのTV番組のためにパリで共演した際に録音されたもので、フッドがエレクトロニクスを、クティがサックスを担当している。計30分ほどの7つのトラックを収録。180g重量盤、フッドの主宰する〈M-Plant〉から、明日12月8日リリースです。

ele-king vol.32 - ele-king

2010年代──音楽は何を感じ、どのように生まれ変わり、時代を予見したのか
いま聴くべき名盤たちを紹介しつつ、その爆発的な10年を俯瞰する

『ele-king vol.32』刊行のお知らせ

目次

ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー
インタヴュー再び「2010年代を振り返る」(小林拓音+野田努/坂本麻里子)

特集:2010年代という終わりとはじまり

2010年代の記憶──幽霊、そして新しきものたちの誕生(野田努)
 ・入眠状態、そしてアナログ盤やカセットのフェチ化
 ・OPNからヴェイパーウェイヴへ
 ・「未来は幽霊のものでしかありえない」とはジャック・デリダの言葉だが
 ・フットワークの衝撃
 ・ナルシズムの復権とアルカ革命
 ・シティポップは世界で大流行していない
 ・そしてみんなインターネットが嫌いになった
 ・アナログ盤がなぜ重要か
 ・音楽市場の変化
 ・巨匠たち、もしくは大衆運動と音楽
オバマ政権以降の、2010年代のブラック・カルチャー(緊那羅:Desi La/野田努訳)
カニエ・ウエストの預言──恩寵からの急降下(ジリアン・マーシャル/五井健太郎訳)
絶対に聴いておきたい2010年代のジャズ(小川充)
活気づくアフリカからのダンス・ミュージック(三田格)
坂本慎太郎──脱力したプロテスト・ミュージック(野田努)
ジェネレーションXの勝利と死──アイドルとともに霧散した日本のオルタナティヴ(イアン・F・マーティン/江口理恵訳)
あの頃、武蔵野が東京の中心だった──cero、森は生きている、音楽を友とした私たち(柴崎祐二)
ネットからストリートへ──ボカロ、〈Maltine〉、tofubeats、そしてMars89(小林拓音)
ポップスターという現代の神々──ファンダムにおける聖像のあり方とメディア(ジリアン・マーシャル/五井健太郎訳)
マンブルコア運動(三田格)
BLMはUKをどう変えたのか(坂本麻里子×野田努)

ライターが選ぶ いまこそ聴きたい2010年代の名盤/偏愛盤
(天野龍太郎、河村祐介、木津毅、小林拓音、野田努、橋本徹、三田格、渡辺志保)
2010年代、メディアはどんな音楽を評価してきたのか

2023年ベスト・アルバム30選
2023年ベスト・リイシュー23選
ジャンル別2023年ベスト10
テクノ(猪股恭哉)/インディ・ロック(天野龍太郎)/ジャズ(小川充)/ハウス(猪股恭哉)/USヒップホップ(高橋芳朗)/日本ラップ(つやちゃん)/アンビエント(三田格)

2023年わたしのお気に入りベスト10
──ライター/ミュージシャン/DJなど計17組による個人チャート
(天野龍太郎、荏開津広、小川充、小山田米呂、Casanova. S、河村祐介、木津毅、柴崎祐二、つやちゃん、デンシノオト、ジェイムズ・ハッドフィールド、二木信、Mars89、イアン・F・マーティン、松島広人、三田格、yukinoise)

VINYL GOES AROUND PRESENTS そこにレコードがあるから
第3回 新しいシーンは若い世代が作るもの(水谷聡男×山崎真央)

菊判218×152/160ページ
*レコード店およびアマゾンでは12月15日(金)に、書店では12月25日(月)に発売となります。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
12月15日発売
amazon
TOWER RECORDS
disk union
12月25日発売
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
honto
Yahoo!ショッピング
7net(セブンネットショッピング)
紀伊國屋書店
e-hon
Honya Club

【P-VINE OFFICIAL SHOP】
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
 ※書店での発売は12月25日です。
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
紀伊國屋書店
三省堂書店
旭屋書店
有隣堂
くまざわ書店
大垣書店
未来屋書店/アシーネ

TOKYO DUB ATTACK 2023 - ele-king

 戦争の年の年越しに、これほどジャストなパーティはない。サウンドシステムにこだわりつづけるBim One Production が、久しぶりに低音を鳴らします。ATTACKしていいのは、ここだけだ!

TOKYO DUB ATTACK 2023
TWO SOUNDS - ONE ARENA

2023/12/30 (土)
Open 24:00-5:00

-Line ups-
SCORCHER Hi Fi with Sound System
(STICKO & COJIE)

Bim One Production
feat. MC JA-GE
and Horns session with Hayami & Add (ORESKABAND)
East Audio Sound System

-VENUE-
duo MUSIC EXCHANGE

-CHARGE-
前売 4,000yen / 当日 4,500yen ※ 全てD代別

チケット一般発売 >>
Tokyo Dub Attack Ticket (ZAIKO) ーーー https://tokyodubattack.zaiko.io/e/TDA2023
e + ーーー https://eplus.jp/tokyo-dub-attack2023

-NOTES-
※ 再入場可能
※ 未成年者の入場不可・要顔写真付きID
※ 営利目的の転売禁止
※ 撮影機器、録音・録画機器のお持込みは御遠慮下さい。
INFO : info@dubattack.tokyo


THIS IS DUB!

 すべてのミュージック・ラヴァーズに注ぐ年末恒例の国内サウンドシステム・ダンス大一番、「TOKYO DUB ATTACK」がついに帰還!同じフロアのなかに2つのサウンドシステムを入れて交互に鳴らしあうゴマカシ効かないガチンコ・セッションが、東京渋谷のduo MUSIC EXCHANGEにて開催を迎える。
 レゲエ(Reggae)において、もっともタフでハードコアな要素にサウンドシステムがある。DIYに設計された独自のスピーカーの山、規格外の低音、1ターンテーブルに置かれる破壊力抜群のダブプレート、シャワーのように降り注ぐダブワイズ……あくまでもオリジナルな音を追求し、その場でしか生まれ得ない究極のサウンド体験。それがサウンドシステムにおける“Dub”である。
 今年10周年を迎えたダンスSteppars’ delightでおなじみScorcher Hi Fi (SHAKA D a.k.a. STICKO & COJIE of Mighty Crown)と、同じく東京ダブアタック・レジデントであるBim One Production + eastaudio SOUNDSYSTEMに加え、MCにJA-GE、そしてホーンセクションにORESKABANDからHAYAMIとADDが駆けつけ一同に介する。
 ピュアでタフ、そしてハートフルなスピーカーの鳴らし合い、日本におけるサウンドシステム・カルチャーの祭典。一度味わうと忘れられない超低音波動による強烈な“体感“と”体験“を約束しよう。

André 3000 - ele-king

 数ヶ月前、渋谷のど真んなかにある高いタワーで開催されたWeb3のイベントに参加していたとき、私は、そこにいた何人かの人びとのあいだの小さな騒ぎを感じた。目の前にはフルートを持った背の高い黒人の後ろ姿があった。世界各地において幽霊が訪れたかのごとき「目撃(sitting ) 」情報は何度か耳にしていたが、私は幸運にもアンドレ3000を目の当たりにすることができたわけだ。もっとも怖気づいた私は舌を噛むだけで、彼に何かしたわけではなかった。だいたい特段アウトキャストのファンではなかった私は、ノスタルジーからスターストラック(スターに夢中) になったわけではないのだ。彼のことを意識するようになったのは、アウトキャストの最後の2枚のリリースと、その後何年にもわたってアンドレがランダムに発表したゲスト作品がきっかけだ。まあ、いまとなってはファンかもしれない。みんなと同じように私も彼の精神状態を心配していたのだから。

 アンドレ3000の17年ぶりとなるアルバムが、パレスチナのガザで大虐殺が起こっているのとまったく同じ時期にリリースされたのは偶然の一致だろう。だが、ほんとうにそうなのだろうか? 宇宙はおかしなものだ。彼は「No Bars(小節はない)」とはっきり言っているので、この音楽のアクアティックな性質に驚く人はいないだろう。瞑想的、アンビエント、シンプル、リラックス、退屈などなど。誰も予想していなかったこのレフトフィールド作品を形容する形容詞はまこと多い。フランク・オーシャンの古典 (クラシック) 『Blonde』収録の“Solo (Reprise)”で、息もつかせぬ勢いを見せた男の作品だ。クラシック (古典) のさらにそのうえのクラシカル (古典的) なミュージシャン。

 2024年、文字通り指先ひとつでどんな音楽にもアクセスできるようになったいま、1970年代と聞いてもピンとこないかもしれない。ファラオ・サンダースの『Thembi』(1971)を彷彿させる緑色の服を着たジャケット写真は、多くの人が西洋社会の侵略に抗議するために着ていた、インドの影響を受けたスピリチュアルな服装に似ている。だが、そんなことをもう多くの人が理解しようとすることはないし、憶えていないかもしれない。フリー・ジャズやスピリチュアル・ジャズの伝説的なジャズの多くが、高次な意識に到達するためにフルートを演奏していたことを多くの人は理解していないし、憶えていないかもしれない。

 『ニュー・ブルー・サン』はラップの世界にとっては驚きだが、70年代のジャズの名人芸を排した黒人的伝統に完璧にフィットしている(インドから音楽的、精神的に影響を受けたことは注目に値する)。マイルス・デイヴィスの『In a Silent Way』を思い出せばいい。絹のようなメロディ、スローモーションのヴァイブ、リズムが飛び込んでくるまでのムーグ演奏によるゴージャスな地図。あるいは、コルトレーンの『A Love Supreme』における感情的な呪文。そして、数多のサン・ラー作品で聴ける、インストゥルメンタル神秘主義の奇妙な響き。アンドレは、経済的な状況を顧みることなく非商業的でエキセントリックな道を受け入れ、かれこれ50年以上にわたって継続されている、フォロワーたちにカーブボールを投げることを決めた黒人アーティストの系譜をたどっているのだ。

 各トラックに付けられた凝った皮肉たっぷりのタイトルは、誰もが面白がるだろう(*)。だけどジャズ・ヘッズは音楽のシンプルさにがっかりするかもしれない。しかし、それでいいのだ。皮肉屋は、この太陽の下に新しいものは何もないと言うだろう。しかし、そんなことはない。アンドレ3000のレフトフィールド・リリースは、いまのところ唯一、インスタグラムのストーリーやソーシャルメディア上で伝染していく実験的音楽だ。あたかもビートとフローがあるかのように、ほとんどビートのないニュー・アルバムにうなずくアトランタのヒップホップ・ファンのユーモアを反映したミームがインターネット上には溢れかえっているのだ。CD/レコード店の実験的ジャンルの売り場には足を踏み入れたこともない、つまりこのようなアルバムを手に取ることもないような人たちが、アンドレ3000が作ったこのチルな新世界について、友人たちに(私がそうだったように!)チェックしておくべきだと吹聴しているのは明らかな事実だ。

 ときに歴史は繰り返されるものだが、重要なのは文脈なのだ。セラピーの適切さが広く認識されるようになったいま、ブラック・ライヴス・マターであれガザ占領の終結であれ、人びとが抗議のために通りに飛び出す準備が整っているいま、自殺や深刻な精神疾患は治療や予防が可能だと多くの人が感じているいま、『ニュー・ブルー・サン』は、みんなの重たい心を休ませるために作られた、この戦争の年の最後の 鎮静剤 (レッド・チル・ピル**) であり目印である。


訳注 *たとえば1曲目は “本当に "Rap "アルバムを作りたかったんだけど、今回は文字通り風が吹いてきた”。2曲目“俗語であるプッシーは、正式表現であるヴァギナよりも遥かに簡単に舌を転がす。同意する?” /**レッド・ピル=『マトリックス』に出てくる現実が見える薬/チル・ビル=リラックス剤。


[[SplitPage]]

Andre 3000 - New Blue Sun

by Kinnara : Desi La

Several months ago, while attending a web3 event in a tall tower in the center of Shibuya, I felt a small commotion among some of the people there. In front of me was the back of a tall Black man carrying a flute. Having heard the stories numerous times of these “sitings” around the world, like a ghost visiting, I was lucky enough to witness Andre 3000 myself. Intimidated, I bit my tongue and let him be. Never an OutKast fan, I wasn’t star struck from nostalgia. I came to him late with their last 2 releases and then the scattered guest drops he popped up on randomly over the years. A fan, yes but also concerned of his mental state knowing other people had similar concerns.

The release of Andre 3000`s first album in 17 years at exactly the same time as a genocide is occurring in Gaza, Palestine is a coincidence. Is it? The universe is funny that way. He's said very clearly “No bars” so no one is surprised by the aquatic nature of the music. Meditative, ambient, simplistic, relaxing, boring, etc. There are numerous adjectives that could be used to describe this left-field work that no one was expecting. This from the man that killed “Solo (Reprise)” on Frank Ocean`s classic Blonde breathlessly. A classic musician upon a classic.

2024 with access to any type of music at ones finger tips literally, heads may not connect the dots to the 1970`s. Or the jacket photo`s resemblance to Thembi by Pharaoh Sanders with green clothing similar to the Indian influenced spiritual garb that many wore to protest the aggressions of western society. Many may not understand or remember that many Jazz legends of free jazz or spiritual jazz took on the flute to reach higher consciousness.

New Blue Sun is a surprise to the world of rap but fits perfectly in the Black tradition of 70`s out Jazz minus the virtuosity (which notably was influenced musically and spiritually by India). You only need to look back at Miles Davis` In a Silent Way. A gorgeous map of silky melodies, slow motion vibes and Moog vistas before the rhythms jumps in. Or the emotional incantations of Coltrane`s A Love Supreme. Numerous Sun Ra albums too many to mention evoke the quirky side of instrumental mysticism. Andre follows a lineage stretching over 50 years of Black artists who decided to throw curve balls to their followers embracing noncommercial eccentric pathways regardless of economic fallback.

The elaborate tongue in cheek titles of each track will amuse anyone. Jazz heads may be disappointed in the simplicity of the music. But that’s ok. The cynic will say there is nothing new here under the sun. But that’s not what is happening. Andre 3000`s left field release is probably the only experimental music that is viral across instagram stories and otters social media. Memes have flooded the internet reflecting humor of Atlanta hip hop fans nodding to the almost beatless new album as if there were beats and flows. Its a clear fact that people who would never venture into the experimental aisle of a music store (if there were one) and pick up such an album are dming their friends (as happened to me!) about this chill new world made by Andre 3000 which I should check out. Though history sometimes repeats itself, the context is most important. In a time of wider recognition of therapy’s relevance, in such a time when people are ready to run out into the street to protest, whether for Black Lives Matter or the end of occupation in Gaza, in such times that many feel that suicides and severe mental illness is treatable and preventable, A New Blue Sun is a red chill pill last earmark in this year of war made to lay everyone’s heavy heart to rest.

__ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727