「K A R Y Y N」と一致するもの

DJ NOBU - ele-king

 パンデミック以降、海外のDJやアーティストの入国が困難になっているが、逆に言えば、国内の良いDJやアーティストのライヴを見れたりもする。コロナがなければ世界を飛び回っていたであろうDJ NOBUもそのひとり。1月の毎週金曜日はDJ NOBUのスペシャルな夜が待っています。

1/14(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 1
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_buy/1rWT:Rx:70e21
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
Occa (Archive)

Contact:
Tasoko (DRED Records)
Yuzo Iwata (Butter Sessions | Sound Metaphors)
machìna
Qmico (QUALIA)
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『盟友との相乗効果が誘う次の深淵』

DJ Nobuが自身のパーティFuture TerrorやGONG、NTS Radioのプログラムで度々招いていたOccaがシリーズ第1回、Studio Xでの共演に決定した。札幌に拠点を置くOccaからも、自身のPrecious HallでのパーティArchivにDJ Nobuを招致しており、お互いに音楽の交差を重要視する関係にある。その相乗効果は、互いの刺激を深化から深化へと発展させる、エレクトロニックミュージックの更新と最深部の模索であり、オーディエンスの観点からみると、最高から次の最高への移行の連続が起こる狂気的なまでの高揚を目の当たりにすることになる。Contactフロアでも電子音楽の深化は絶え間なく、昨年、同じく沖縄をルーツにもつIORIが立ち上げた〈VISIONARY〉からのEPや、John Osbornが主宰する〈DRED Records〉からのアルバムなど制作面でも注目されるTasokoや、ベルリンでの滞在や海外レーベルからのリリース、Cocktail d’Amore等の著名なヴェニューに出演してきたYuzo Iwata。さらに、Bicepのトラック「Hawk」への参加や〈Tresor〉のコンピレーションへの楽曲提供をする、世界的なプロデューサーとなったmachìna、QUALIAを主催するQmicoなど、クリエイター気質のラインナップがメインフロアとは異なる色鮮やかさと疾走感をともなう緻密さでデザインされる。
Trilogies DJ Nobuは、モダンなサウンドと、アーバンなグルーヴが交錯する、ハイクオリティのダンスで開幕される。

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1/21(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 2
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_item/345829
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
YAMA

Contact:
悪魔の沼
AKIRAM EN
0120
Torei (Set Fire To Me)
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『ダンスミュージックの理想郷の幻影』

第2夜の共演は、BOREDOMSの∈Y∋とともに伝説パーティeepのオーガナイズや、語り継がれるレジェンダリーパーティFLOWER OF LIFEへの出演、大阪のクラブ、聖地MACAOのクロージングパーティのトリを務めるなど、拠点の大阪はもちろん全国のパーティフリークスに、カルト的な人気を博すYAMAの登壇が決まった。Future Terrorを始め、CDリリース時のコメントの提供などDJ Nobuとは度々活動を共にしている。DJ Nobuとともにハウスセットでの共演というまたとない今回の機会は、紛れもなく何かが起こる儀式的なまでの危険で甘美な予感をほのめかしている。そのカルティックなフロアメイクはもう一方のフロアでも徹底されており、Contactに久しぶりの登場となる悪魔の沼や、AKIRAM ENによる、知覚とダンスの活性を誘う深いリスニング・デバイス。AI.UとEMARLE、双方の高い音楽性が深層で交わるDJユニット0120、そして、ビートや展開に対して他とは全く異なるイマジネーションを持つToreiなど、高い次元でのエクレクティックなサウンドの交錯が、アヴァンギャルドな情景を描く。
Trilogies DJ Nobu episode2はシリーズで最も現実から離れ、ダンスミュージック・ファンの理想に最も近づく可能性を秘めている。

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1/28(金)
Trilogies - DJ NOBU - episode 3
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Open 10PM
¥1000 Under 23 / Before 11PM ¥2000 Advance ¥3000 Door
【前売】 https://contacttokyo.zaiko.io/_item/345828
【お得な3日通し券】https://eplus.jp/sf/detail/3555380001-P0030001P021001?P1=1221
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Studio:
DJ Nobu (Future Terror | Bitta)
Kotsu (CYK | UNTITILED)

Contact:
Kabuto (DAZE OF PHAZE)
k_yam
Akie
discopants
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『DJ Nobuによる音楽の歓喜の解放』

シリーズ最終章、ワンフロア、ツーマンでは初となるCYK Kotsuとの共演は音楽の快楽を余すことなく味わう祝宴になりそうだ。2020年、拠点を京都に移してからもその活躍は全国に響いており、昨年末までに国内14都市からの招致を受けている。本来主体としていたハウスを概念として膨らませながらオーディエンスのハートに確実にヒットさせる卓越したスキルと発想は、DJ Nobuとのどのような化学反応を起こすか期待を抱かざるをえない。
Contactフロアには、スペシャリストKabutoを筆頭に繰り広げられる、国内テクノ/ハウスの、進化形でシーンの現到達点とも呼べるフロアデザインが施された。さらに、自身のパーティのREMEDYの卓越したキュレーションや、トラックのクオリティの高さ、DJでのイマジネーションの飛躍など層の厚い世代の中でも際立つk_yamがラインナップ。discopantsのハウスとエレクトロニクスの刺激的なクロスオーバーや、Akieのオルタナティブなハウスサウンドも、大阪の聖地newtone recordsの出身を感じさせる情感とエレクトロニクスの複層的な交わりをみせる。人の熱をもったファンクネスやUKマナーを独自のイメージで鳴らしてきたオリジナリティが、ダンスミュージックのハードリスナーをもノンストップで踊らせうるエレクトロニック・ジャーニーを展開させる。
Trilogies DJ Nobu 最終章は、episode 1, 2とはさらに違う面でのDJ Nobuの解放を味わう、音楽桃源郷で幕を閉じる。

どんぐりず - ele-king

 いまどんどん注目を集めている群馬は桐生の2人組、どんぐりず。その独創的な音楽を堪能する絶好の機会がやってきた。
 1月27日(木)東京・恵比寿 LIQUIDROOM と2月5日(土)大阪・味園ユニバースにて、「どんぐりず Presents "COME ON"」と題したライヴ・イヴェントが開催。福岡の新世代バンド yonawo と 神戸のラップ・デュオ Neibiss も出演する。これはマッチョな現行ラップ・シーンに風穴を開けるイヴェントになるかも!? 期待大です。

■東京
2022/1/27(木)
恵比寿LIQUIDROOM
OPEN 18:00 / START 19:00
出演:どんぐりず / yonawo / Neibiss

■大阪
2022/2/5(土)
味園ユニバース
OPEN 17:00 / START 18:00
どんぐりず / yonawo / Neibiss

TICKET INFORMATION
https://www.creativeman.co.jp/event/dongurizu_2022/



どんぐりず
ラッパー森、トラックメイカー・プロデューサーのチョモからなる二人組ユニット。音源、映像、アートワークに至るまでセルフプロデュースを一貫。ウィットにあふれるグルーヴとディープなサウンドで中毒者を続出させている。



yonawo
荒谷翔大(Vo)、田中慧(Ba)、斉藤雄哉(Gt)、野元喬文(Dr)による福岡で結成された新世代バンド。
2018年に自主制作した2枚のEP「ijo」、「SHRIMP」はCDパッケージが入荷即完売。地元のカレッジチャートにもランクインし、早耳リスナーの間で謎の新アーティストとして話題に。2019年11月にAtlantic Japanよりメジャーデビュー。
2020年4月に初の全国流通盤となる6曲入りのミニアルバム「LOBSTER」をリリース。
そして、11月には、Paraviオリジナルドラマ「love⇄distance」主題歌オープニング曲「トキメキ」や、史上初となる福岡FM3局で同時パワープレイを獲得した「天神」を収録した待望の1stフルアルバム「明日は当然来ないでしょ」をリリース、全国5都市で開催された初のワンマンツアーは全公演チケット即完売。
2021年1月に配信シングル「ごきげんよう さようなら」、3月に配信シングル「浪漫」、5月に冨田恵一(冨田ラボ)プロデュースによる配信シングル「哀してる」を、7月に亀田誠治プロデュースによる「闇燦々」をリリース。そして、8月11日(水)には2ndフルアルバム「遙かいま」をリリースし、直後に「FUJI ROCK FESTIVAL ‘21」へ出演。また、メガネブランド「Zoff」の「Zoff CLASSIC Summer Collection」のモデルも務める。



Neibiss
兵庫・神戸を中心に活動するラッパー・hyunis1000とビートメイカー / DJ / ラッパー・ratiffによるヒップホップユニット

Makaya McCraven - ele-king

 〈ブルーノート〉はジャズの名門レーベルであるが、まだサンプリングが社会的に認知の薄かった時代からサンプリングを認め、またそれを自社音源のPRにも積極的に利用してきたレーベルだ。最初に〈ブルーノート〉が音源の使用を許可してアルバム制作をおこなったのがUs3(アス・スリー)の『ハンド・オン・ザ・トーチ』(1993年)で、当時は『ブルー・ブレイク・ビーツ』などDJ向けのサンプリングに特化したコンピも多数リリースしていた。その後もいろいろなアーティストたちによって〈ブルーノート〉音源のリミックスも作られ、その中でも傑作に挙げられるのがマッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』(2003年)である。これなどはまさに『ブルー・ブレイク・ビーツ』に収められた楽曲が多数使われているのだが、マッドリブの場合は単にビートなどをサンプリングするのではなく、そこに自身で演奏した素材をミックスし、一種のカヴァーやリメイクのようにしていたことも評価を高めた要因である。また、その中にはアンドリュー・ヒルの “イルージョン” を用いた “アンドリュー・ヒル・ブレイクス” という楽曲があって、そこでは〈ブルーノート〉創始者であるアルフレッド・ライオンの夫人のルースのインタヴューも交えていた。マッドリブはたびたびこうした試みをおこなっているが、それはサンプリングに込められた彼のジャズに対する造詣の深さや愛情を物語る。

 マカヤ・マクレイヴンによる『ディサイファリング・ザ・メッセージ』も、マッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』に近い形でのリミックス/カヴァー・アルバムだ。『メッセージの解読』というタイトルどおりマカヤ・マクレイヴンが〈ブルーノート〉音源を読み解いたもので、単純に素材としてサンプリングするのではなく、自身で過去の〈ブルーノート〉の楽曲を研究し、それを自身の解釈を交えながら現在に再構築したものとなっている。
 マカヤと言えばギル・スコット・ヘロンをリミックス/リコンストラクトした『ウィ・アー・ニュー・アゲイン』(2020年)があるが、これはギル・スコット・ヘロンのヴォーカル・パートや元々の演奏などのテープ素材をもとに、サンプリングやエレクトロニック処理と自身によるインプロヴィゼイションを交えて再構築していったもので、ある意味でギル・スコット・ヘロン以上にギル・スコット・ヘロンらしい楽曲もあった。単なる楽曲のカヴァーやサンプリングを超え、ギル・スコット・ヘロンの精神性や世界観を表現した素晴らしい作品集であったが、『ディサイファリング・ザ・メッセージ』はそれを〈ブルーノート〉に置き換えたものとなっている。
 今回はマカヤひとりではなく、ジェフ・パーカー(ギター)を筆頭にジョエル・ロス(ビブラフォン)、マーキス・ヒル(トランペット)、グレッグ・ワード(アルト・サックス)、マット・ゴールド(ギター)、ジュニアス・ポール(ベース)、デシーン・ジョーンズ(テナー・サックス、フルート)が参加し、ときにバンド演奏に近い形で新たに弾き直したパートも交えている。マカヤはドラムのほかキーボード、ギター、ベース、パーカッションを演奏し、そしてサンプリングやビート・メイクをおこなう。

 タイトルにメッセージがあるように、アート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズの作品もやっていて、それに代表されるように1950年代後半から1960年代半ばくらいまでのハード・バップが中心となる構成だ。この時代はジャズ、そして〈ブルーノート〉にとっても黄金時代で、ホレス・シルヴァー、クリフォード・ブラウン、ケニー・ドーハム、ハンク・モブレー、デクスター・ゴードンといったスター・プレーヤーが活躍し、彼らの楽曲をマカヤは再構築している。主に1970年代のジャズ・ファンクが中心となっていたマッドリブの『シェイズ・オブ・ブルー』に対し、マカヤの『ディサイファリング・ザ・メッセージ』の相違性はこのあたりにあるだろう。ジャズ・ファンクはグルーヴ感のあるファンク・ビートを軸に、楽曲そのものが既にサンプリング向けの素材であるのだが、ハード・バップはプレイヤーのアドリブがより多く、インプロヴィゼイションやインタープレイに演奏の焦点があり、どちらかと言えばサンプリング向けの素材ではない。こうしたところからも、マカヤがありきたりの〈ブルーノート〉のカヴァー/リミックス・アルバムを作ろうとするのではなく、1950年代後半から1960年代半ば頃のジャズ・ミュージシャンの立場となり、当時彼らが何を想い、どのように感じて演奏していたか、それを自身に置き換えて表現したアルバムになっていると言える。

 たとえばアルバムの冒頭を飾る “ア・スライス・オブ・ザ・トップ” はもともとハンク・モブレーの音源なのだが、サンプリングや演奏そのものは比較的原曲に忠実で、音のバランスやミキシングを変えてエッジを際立たせている。そして、カフェ・ボヘミアでのアート・ブレイキーのMCをピッチを上げてサンプリングし、ライヴ感を創出している。マカヤならではの現代ジャズ的なセンスが感じられると共に、ハンク・モブレーやアート・ブレイキーの息吹がそのまま伝わってくるような楽曲で、そしてハード・バップの時代のジャズが持つライヴ感が込められている。観客の拍手が交えられたケニー・ドーハムの “サンセット” にしてもそうだが、当時のジャズの主流な鑑賞はジャズ・クラブで聴くもので、実際にレコードもそのライヴを実況録音したものが多かった。時代は変わって、いまのジャズのアルバムはスタジオに入って録音することが主流となっているが、こうしたライヴ仕立ての仕掛けも当時の時代背景を反映しており、細かなところも練り込んで作られていることがわかる。

Ian Wellman - ele-king

 イアン・ウェルマンは、カリフォルニア州ロサンゼルスを拠点とするサウンド・アーティスト、プロダクション・サウンド・ミキサー、フィールド・レコーディング・アーティストである。
 この『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、2021年12月に〈Room40〉からリリースされたウェルマンの新作だ。同レーベルからリリースされたロバート・ジェラルド・ピエトルスコ『Elegiya』と同じく薄暗い空気と微かな光のようなアンビエント・ドローン作品に仕上がっている。
 もちろん『Elegiya』と『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は異なる作品だ。シネマティックなムードは共通しているが、『Elegiya』は幽玄な質感のドローンであり、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、ノイズ音楽や生体音響学などに影響を受けたというイアン・ウェルマンらしいノイジーなうごめきに満ちたアンビエント/ドローンである。
 ウェルマン本人のライナーによると「怒り、不安、希望の間で揺れ動き、通常はディストーションやノイズに変化し」「世界中で起きている出来事に意味を見出そうとする試み」であったという。加えて「行き詰まった人生に対する私自身のフラストレーションを癒す方法」でもあったとも書いている(https://ianwellman.bandcamp.com/album/on-the-darkest-day-you-took-my-hand-and-swore-it-will-be-okay)。不穏な社会や不安定な個人を反映するかのようなサウンドであるのはこういった背景があるからだろうか。
 インターネットや現実で引き起こされる多くの社会問題や社会情勢はアンビエント・ドローン作品のような抽象的な音楽にも深く影響を与える。つまり時代が暗ければサウンドの質感にダークなものが増えるというわけだ(反対に過剰に癒しを放つものも増えてくる)。社会の無意識を写す鏡のような現代アンビエントだ。ちなみに現代アンビエント・ドローンの名手とはいえばヤン・ノヴァクであり、彼の霧のような美麗ドローンをまず思い出すが(彼の音響は本当に美しい。まるで空気を浄化するようなアンビエントなのだ)、イアン・ウェルマンの諸作品は、ヤン・ノヴァクのアンビエントとは異なる魅力を発している。
 イアン・ウェルマンのアルバムを聴いていると、世界の不安や不穏をスキャンしたサウンズの波を感じてしまうのだ。彼は社会/世界、世界の変化や状況にとても敏感かつ鋭敏な感性を持っている音楽家なのだ。尖っていて不安定な感覚があるのだ。音もセンシティヴである。この感覚は精神の沈静を追求するアンビエントの音楽家の中では稀だ。不意にリリース・レーベル〈Room40〉を主宰するローレンス・イングリッシュの音楽性を思わせもする。
 2018年にヤン・ノヴァクが主宰する現代アンビエント・レーベルの名門〈Dragon's Eye Recordings〉からリリースした『Susan's Last Breath Became the Chill in the Air and the Fog Over the City's Night Sky』、2019年に同じく〈Room40〉からリリースした『Bioaccumulation』もそのような世界の不穏さを反映していたように思う。
 2021年にリリースした本作『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』では、これまで以上に、不穏なアンビエンスに聴こえた。やはりコロナ以降の世界の反映だからだろうか。

 アルバムには全13曲が収録されている。どの曲も微かなノイズが刺すように鳴り、一方で溶け合っていくような持続音を聴かせてくれる。しかもトラックには4分台の曲多い(1分ほどの曲もある)。この種のアンビエント作品は一曲が長いものが多いのだが、その点からしても異質な作風である。
 本作は長い音の持続にじっくりと耳を澄ますタイプの作品はなく、ノイズのフラグメンツ(断片の数々)を摂取するようなアルバムなのだ。この断片性は聴く物に独特の不安感(と心地よさ)を与えてくれる。
 じじつ、このアルバムを聴くと気候変化や社会問題、事件、事故などが混じり合った、いまこの時代特有の集合的無意識を聴取するような独特の不安感があるのだ。ほぼ同時期にリリースされた『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』と合わせて聴くと、さらなる孤立感や時代の無意識を感じることができる。いわば「社会」「世界」に抵抗しつつ溶け合っていくような聴取体験があるのだ(『I Watched The World Burn Without Leaving My Home』はどうやら世界各地の火災問題を扱っているようだ)。ノイズという厳しい現実と平穏というアンビエントが交錯し、彼の音楽として総体を形作っている、とでもいうべきか。
 そう、『On The Darkest Day, You took My Hand and Swore It Will Be Okay』は、まさに心と体と世界の境界が融解/溶解するようなアンビエント/ドローンなのだ。1年のはじまりに(でなくとも良いのだが)心身を調律するように聴き込みたい。

Trilogies - Mars89 episode 1 - ele-king

 レコード店「Disc Shop Zero」の店主、飯島直樹氏が永眠してはや2年、今年の2月で3回忌を迎える。彼の功績に敬意を表しつつ、彼が志した低音の美学とその広大なヴィジョンを継承すべく、2月11日(金)渋谷のContact Tokyoにて、飯島氏がオーガナイーザーでもあったポッセ〈BS0〉がパーティを企画する。「Disc Shop Zero」に行ったことがない人も、ぜんぜんウェルカム。足を運んで、力強いベースを感じて欲しい。

年明けのダンス・ミュージック5枚 - ele-king

 新年あけましておめでとうございます! 2022年も音楽についてたくさん書いていきたいと思います。2021年は、僕の力量不足ゆえ(単に怠けている日もある)に書けなかった作品がいくつもあった。今年は全て書く勢いでやるということで、そこを抱負に精進します。ということで新年一発目のサウンドパトロール、よろしくお願いします。


SW2 & Friends - Hither Green Glide / For The People | GD4YA

 EL-B の運営する〈GD4YA〉は、UKガラージのダークな側面を好む人ならチェックすべきレーベル。彼自身、90年代からいくつかのレーベル(Not On Label のホワイト盤も多数)からアングラでダークなUKガラージを提供してきたDJ。もちろん、〈GD4YA〉のサウンドはその焼き回しではなく、現代版へきちんとアップデートされており、さらにハズレもあまりないときた。今作は、〈Rhythm Section International〉などからリリースを重ねる FYIクリス、エズラ・コレクティヴの鍵盤奏者として知られるジョー・アーモン=ジョーンズなどが参加。あのダークなUKガラージの音(〈Tempa〉の『The Roots Of Dubstep』を聴くと良し)を踏襲しつつ、南ロンドンにおけるハウスとジャズの視点も加えている。かなり面白い。

Instinct – PAUSE LP | Instinct

 「UKガラージのダークな側面」なんて書いたので、こっちも紹介しないわけにはいかない。バーンスキ(Burnski)による、UKガラージ専用のインスティンクト名義でリリースされたフルレングス。連番でいくつかの12インチを出しており、それらをまとめたのが『PAUSE LP』。5番に当たる「Pstolwhip」は最高にオシャレなUKガラージで大好きだけど、今作には未収録……。流行り(?)の音数少なめでカラッと乾いた質感のUKガラージ・ビートがずっと続く、素敵な10曲入りLP。ベースは効いていてダークさはあるけど、なぜか凄くオシャレに聴こえる。個人的ベスト・トラックの “Apache” はサンプリングかと思うが、実弟によるヴォーカルのピッチをいじったもの。12インチの集成なのでそれぞれのツール感は否めないが、それでも聴きやすくまとまっていると感じた。

WILFY D & K–LONE - VITD004 | Vitamin D Records

 K-ローンといえば、ファクタと運営するロンドンは〈Wisdom Teeth〉でよく知られている。が、Wilfy D とコラボレーションした今作は、言ってしまえばらしくない、スイートでソウルフルなUKガラージに仕上がっている。“Str8 Up” なんて最高なチャラ系UKガラージでかなりのお気に入り。そもそも、90年代におけるUKガラージというジャンルにはかなり売れ線の曲もあって、そこそこチャラい側面があることを思い出させられる。ちなみに Wilfy D のほうは、自身の〈Vitamin D Records〉や〈Dansu Discs〉などでリリースしつつ、ブリストルのレコード店&レーベルの〈Idle Hands〉のスタッフとしても働いている模様。いま挙がったのは全てUKにおける現行のレーベルで、全てかっこいいので合わせてチェックしよう。

Joy Orbison - red velve7 | TOSS PORTAL

 2021年の個人的なハイライトのひとつ、それはジョイ・オービソンの『Still Slipping Vol.1』だった。本当にカッコ良かった。サウンドがカッコ良いのは当たり前だけど、何よりも「そこにい続けて……、もちろんいまもそこにいる」その姿勢がカッコ良いのだ。この曲は、ジョイ・Oによって突如ドロップされた未発表曲のうちのひとつ。ジャケは彼の祖母で、西ロンドンで音楽系のパブを祖父とふたりで経営していた方なのだそう。曲のリリースに際したインスタのポストによれば、「まだ始まったばかり」だと。これからも彼の動向には目が離せない。

Blawan - Woke Up Right Handed | XL Recordings

 相変わらず、〈XL〉のこのシリーズは良いリリースが多い。去年は LSDXOXO による猥雑なゲットー・ハウス「Dedicated 2 Disrespect」が最高だったし、その前だとジョンFMの「American Spirit EP」も良かった。そしてブラワンからの「Woke Up Right Handed」も、これまた半端じゃない一撃だった。数あるフライト(2019年は340回もあったそう!)に嫌気がさし、いまは拠点とするドイツで酪農により多くの時間を割いているそう。このEPから出てくる音がそんな生活から生み出されたものなんて……。“Under Belly” のホラーめいた異様なサウンドが酪農生活によるものだとは、にわかには信じかたいよね。

Ross From Friends - ele-king

 ローファイ・ハウス(≒ロウ・ハウス)なるタームが隆盛したのが 2010 年代。ハウスの四つ打ちは有しているものの、それはクラブでの使用を念頭に置いたものではなく、主なテリトリーはインターネット──とりわけ YouTube であった。そのメランコリックかつノスタルジックな雰囲気を携えた音楽は、どちらかといえばクラブに通いつめるパーティ・アニマルよりも、ベッドルームでひとり夜な夜な音楽をディグるナードたちを喜ばせた(そのどちらの属性にも当てはまる変わり者は別として)。90 年代におけるIDMがそうであったように、ローファイ・ハウスもダンスを契機としながら、機能性のみを追求したジャンルではなかったのだ。やがてときは経ち、そこに括られていた才能溢れる面々も、近年では、YouTube の縦横1280×720のサムネイル画像なんかには収まらない躍動を見せている。

 USの人気シットコム『フレンズ』の主要キャラクターからネーミングを拝借した、エセックス生まれのロス・フロム・フレンズことフェリックス・クラリー・ウェザオールもまた、そのひとりだろう。「ダーク、ムーディ、ノスタルジック&ヴァイヴスなクラブ・マテリアル」(実にローファイ・ハウスらしいワードが並ぶ、レーベル説明文による)に焦点を当てた、〈Lobster Thermin〉のサブ・レーベル〈Distant Hawaii〉からの “Talk To Me, You’ll Understand” の YouTube 再生回数はすでに800万を超える。聴けばおわかりの通り、背後にはノイズが流れ、ハイハットやスネアにはわずかな歪みが掛かり、そしてチョップされたヴォーカル・サンプルを主体とする、反復的な四つ打ちを有する構造……まさにローファイ・ハウスのお手本のような曲である。いやしかし同時に、このリリースからすでに何年もの月日が流れてもいるのだ。その間、彼はいくつかのEPをリリースしているし、フライング・ロータスと出会い〈Brainfeeder〉と契約し、1枚目のフルレングス・アルバム『Family Portrait』をドロップ。そしてブレイクした “Talk To Me, You’ll Understand” から数えておよそ5年。めくるめく変化し続け、それが今作の『Tread』に結実した。

 〈Brainfeeder〉からの2枚目のアルバムということもあり、過去にあったあのローファイ・ハウスの感触はすでに影を潜めている。まず感じたのは圧倒的に音が良い。もはや、ローファイではなくハイファイになっている。オープナーの “The Daisy” から早くもベスト・トラックと言いたくなってしまうクオリティで、近年のトレンドといえるUKガラージを拝借したサウンドに、ロス・フロム・フレンズによる複雑かつ緻密なアレンジメントが冴え渡る好トラックに。続く “Love Divide” や “Revellers” を聴けばより明らかに感じるが、リズム面ではダンス/クラブの作法を感じさせるものの、明らかに空間が広く感じられる奥行きと立体感を伴ったサウンド・デザインが施されており、これはゴリゴリの低音が効いたクラブのサウンドシステムよりも、質の良いスピーカーないしは細部まで聴き取れるヘッドホンで、じっくりゆっくり味わいたくなるような音楽だ。

 また、マッドリブにインスパイアされたという “A Brand New Start” は、クラシックなソウル/ジャズとモダンなエレクトロニックの邂逅といったところで、過去のサンプリングに新たな息吹がもたらされるこの上ない好例に思える。“Life In A Mind” は、パティ・レベルのヴォーカルをサンプリングした一発勝負かつアイデア勝利の面白い曲で、こちらも同様に彼の緻密なサウンドの調理が施されている。前者に関しては、一聴したとき、ふとカリブーの “Home” なんかを思い出した。そういう意味でも『Tread』において、彼の作る音楽はそれらUKのヴェテランたちにすら迫りつつあるとも感じさせる瞬間がある。

 ロス・フロム・フレンズは録音物としてのクオリティにとことんこだわり続けたのだろう。その絶え間ないプロセスの大きな一助となったのが、彼お手製の「Thresho」というプラグインで、これによって彼は Ableton 上で演奏したあらゆるものを簡単に保存できるようになり、より自由に音楽制作に没頭できたと語る。そのプラグインは無料で公開(https://thresho.rossfromfriends.net/)されており、それと合わせて、『Tread』の制作中に彼自身が録音した50GB(!)にも及ぶ使われなかった音の素材もダウンロード可能になっている。使われなかったものだけでも2000以上もの音の素材があるのだ。その事実だけで、彼が『Tread』を制作するべく、どれだけのスタジオ・ワークを積み重ねたのかは想像に難しくない。

 『Tread』はロス・フロム・フレンズの次の段階を示している。彼がローファイ・ハウスとタグ付けされたあの頃から比べると、その鳴っている音をはじめとしてあらゆることが変わっている(ちなみに、彼は父親になったそうです)。しかし彼が YouTube のサムネイルから飛び出そうとも、音がとんでもなくハイファイになろうとも、ヒップホップばりのサンプル・ヘヴィーな音楽を作ろうとも……色々なことが変わろうとも、あの頃、ロス・フロム・フレンズの音楽に興奮できたひとなら、このアルバムは必ず楽しめるに違いない。

You'll Never Get To Heaven - ele-king

 なぜ私たちが来たのか
 いつだってうまく思い出せない
 わからない
 私たちはなぜ来たのだろう
ブライアン・イーノ“バイ・ディス・リヴァー”

 “バイ・ディス・リヴァー”は、曲もいいが歌詞もいい。人生の真理だ。イーノが1977年にリリースした『ビフォア・アンド・アフター・サイエンス』の収録曲で、ドイツの電子音楽デュオ、クラスターとの共作としても知られているこの名曲をカヴァーしていのがアルヴァ・ノト&坂本龍一、マーティン・ゴア(デペッシュ・モード)、それからエレキングでお馴染みのイアン・F・マーティンと、ユール・ネヴァー・ゲット・トゥ・ヘヴン(以下、YNGTH)というシニカルな名前で活動するカナダの電子音楽デュオである。
 YNGTHは、2012年にデビューして以来、2014年にくだんのカヴァーをふくむシングルを1枚、それから2017年にセカンド・アルバムを出しているだけで、だからこの10年で本作を入れてわずか4作品しかないのだが寡作家というわけではない。メンバーのチャック・ブレイゼヴィックは、ドリームスプロテイション、スロー・アタック・アンサンブルというふたつのプロジェクトでも活動している。前者はエレクトロニック、後者はクラシカルで、両者ともに音数は少なく、ともに空間があり、とにかくドリーミーだ。要するにサウンドの指向性は、YNGTHとさほど変わらなかったりする。スタイルがアンビエントであろうとシンセポップであろうとクラシカルであろうと、彼らの音楽は蒸気であり、綿であり、夢のなか。「You'll Never Get To Heaven=決して天国へは行けない」というバンド名は、反語なのである。
 
 あてどなく歩き、ふと気がついたら川辺にいる。前に進めず立ち止まり、空を仰いで、どうしてここに来たのか理由が思い出せないことをそのとき知る——カフカめいた人生観を彷彿させるこれがイーノによるオリジナル版“バイ・ディス・リヴァー”だと言うのなら、YNGTHによるカヴァーは、川辺で立ち往生しながら別次元に入って気持ちよくなってしまっている。思い出せないことは快楽とでも言うかのように。そう、天国にしか行けない。
 もっとも、ドリーミーではあるが潔癖症的で、なるほど日本の「環境音楽」に影響を受けたという話も頷けなくもないのだが、かつては、彼らのサウンドからレイランド・カービー(ケアテイカー)めいた“幽霊たちのボールルーム”を引き出した人もいたのだった。たしかに、少し手を伸ばせばボーズ・オブ・カナダやブロードキャストにも届くのかもしれない。が、他方ではエリック・サティのカヴァーもしている彼らのアンビエントには上品な静寂があり、癒やしもあり、滲むように広がるアリス・ハンセンのささやき声は、彼らの美しい空間を演出する一要素として機能している。『降雪列車にあなたの月光帽子を振る』というタイトルはノスタルジーというよりはシュールであって、じっさいこれは詩的な音楽でもある。
 まあ、好きなように解釈すればいいだけの話だ。1年の終わりというのはとかく感傷的になりがちで、ひとりでこの音楽に浸るにはもってこいの時期だったりもする。いやー、なにかと疲れました。我々はyahooニュースやそのコメント欄や新聞の見出しのなかに生きているのではない。ときには休息、川辺に佇むことが必要なのだ。

断片化された生活のための音楽 - ele-king

※以下のイアン・F・マーティンによるコラム原稿は、web掲載した〈ラフトレード〉インタヴューと同様、別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』のなかの小特集「UKインディー・ロック/ポスト・パンク新世代」のために寄稿されたものである。今日の状況を知るうえでもシェアすべき原稿なので、ここに再掲載します。

Music for fragmented lives
断片化された生活のための音楽
イアン・F・マーティン(江口理恵・訳)
written by Ian F. Martin / translated by Rie Eguchi


ザ・スミスの再来とも言われ文学性が評価されているフォンテインズ D.C. by Vinters Pooneh Ghana

 UKは混乱した、幸せではない場所だ。貧困の拡大、ナショナリズムの高まり、ブレグジットから、選挙民が絶望しながら受け入れた狭量な保守主義まで、大量の新聞の見出しは何かがとんでもなく間違っていること、つまり、孤独な国がパニックに陥って自分自身を抱きしめ、粉々になり、断片となって崩れて行く様子をはっきりと示している。
 しかし、このような目に見える衰えの兆候の裏には、目に見えにくいたくさんの不安が隠れている。とくに若者にとっては劇場型のブレグジットによる玄関払いを喰らって、様々な機会が閉ざされるという感覚は、緊縮財政や21世紀の資本主義の不安定な労働条件のなかでもう長いこと続いてきたことだ。ミュージシャンたちにとっては業界が少数のデジタル・インフラの所有者たちのまわりで合体し、音楽がプレイリストのための、哀れなほどの報酬のコンテンツになり下がり、ブレグジットによって引き起こされた欧州ツアーへの財政的、官僚的な障壁もまた、閉ざされた扉のひとつだ。
 2019年9月、私はUKをエンド・オブ・ザ・ロード・フェスティヴァルのために訪れた。エンド・オブ・ザ・ロードは英国のインディーズ・フェスティヴァルの最高峰で、爽やかな、またはメランコリックなシンガーソングライターからアフロビート・オーケストラ、ジェンダーフルイドなグラム・エレクトロニカまで、様々なアーティストが出演する混沌とした世界のなかの芸術的でリベラルなバブルのような心地よさがある。しかし、2019年に印象に残ったのは様々なテントやステージから聴こえる音から立ち昇る怒りと、激しい無秩序ぶりだった。カナダのクラック・クラウド、アイルランドのフォンテインズD.C.から、ワイヤーのようなヴェテラン勢がエネルギーに満ちた音を立て、ビルジ・ポンプの粗い、惑わせるように旋回するリフ、Beak>のクラウトロック的なミニマリズム、そしてスリーフォード・モッズの意気揚々とした凱旋のヘッドライナー・セットなど、これらの、またこれ以外のアーティストたちの演奏もポスト・パンク的な緊張感と角のあるスレッド(糸)のようなものに貫かれていた。
 この日ラインナップされていた若手の有望株のなかでも、斜めからのポスト・パンク的なアプローチをする4つのバンド、ゴート・ガール、スクイッド、ブラック・ミディとブラック・カントリー・ニュー・ロードが話題になっていた。2年後、彼らが代表する奇妙で興味深い世代の新しいブリティッシュ・ミュージックが育ってきているが、彼らが実際に何を代表しているのかを特定するのは難しい。
 音楽史のなかで特定の時代に結びついたタームである、レンズの役割のようなポスト・パンクは、ここで起こっていることの幅を説明するには充分ではないように感じる。これらのバンドは少なくともブレヒトやワイルの伝統にまで遡る部分を持ち、エクスペリメンタル・ロック、No Wave、カンタベリーのサイケデリック・シーン、クラウトロックなど、すべての〝ポスト~〟のジャンル(ポスト・パンク、ポスト・ハードコア、ポスト・ロック)にまで貫かれ、同時にキャプテン・ビーフハート、ジズ・ヒート、ザ・カーディアックス、ライフ・ウィズアウト・ビルディングス他の挑戦的なインディヴィジュアルに活動するアーティストたちにも及んでいるのだ。
 しかし、ポスト・パンクをより抽象的に、パンクがイヤー・ゼロの基点からの短い爆発で残した断片をくし刺しにして繋ぎあわせる、音楽を取り戻すプロセスだと考えるならば、今の若いバンドたちは文化的な瓦礫をふるいにかけて規範を過激に覆された後にそれを理解しようとする点で、同じような立場にあるようだ。しかし、パンクの時代とは違い21世紀の文化的な混乱は、若者のカルチャーからではなく、政府と資本主義の構造そのものから来ており、ポスト・パンクや、〝ポスト・パンクド(嵌められた)〟の若いミュージシャンたちは、切断され、断片化された自分たちの置かれている環境下で、扇動者ではなく、犠牲者となっている。
 断片化された、断絶的な感覚は、多くの新しいブリティッシュ・ミュージックのなかから聴こえてくる。
 ブラック・ミディの音楽の突然の停止や開始、トーン・シフトの多用、1920年代から直近にいたるまでの100年にわたる時間軸から受けた影響などから、それを聴きとることができる。彼らは音楽業界が資金援助をするパフォーミング・アーツの専門学校、ブリット・スクールの卒業生で、学校が提供する施設で実験ができただけでなく、音楽史を学んだことで広い視野にたって音楽を探究する恩恵を受けている。バンド自身もこの背景が与えてくれた特権を痛感しているようで、自分たちが受けた音楽教育を遊び心と小さな喜びを感じながら活用している。
 ロンドンのバンド、ドライ・クリーニングの素晴らしいデビュー・アルバム『New Long Leg』には断絶を意味するような、もっとダウンビート(陰気)な感覚がある。控えめだが、微妙にゴツゴツした音をバックに、ヴォーカルのフローレンス・ショーが毎日を無為に過ごしている人の日常の疲れて断絶した、サンドイッチを食べる気力もない、何かを経験することに意義が感じられないという一連のスナップショットをため息交じりに歌う。シニフィアン(意味しているもの)とシニフィエ(意味されているもの)の間にある皮肉なギャップ──「あなたは、あれほど汚い裏庭をもつ歯医者を選ぶか?」とアルバムのタイトル・トラックで問いかけ、「選ばないと思う」と応えている。
 ブラック・ミディの折衷主義とドライ・クリーニングの倦怠感はまったくの別物に見えるかもしれないが、根無し草のような感覚を共有している。それは、どんなに教育を受けて意識を高めても、自分のしていることでは何も変わらないという無力感や権利の剥奪といった形をとることがあり、敗北の雰囲気のなかにも解放感が感じられたりする。誰も自分のしていることに関心がないのなら、やりたいことを好き勝手にやっていいという免罪符を持っているという感覚だ。
 やたらと個々のバンドの意図を決めつけたりするのは危険だが、リスナーとしてはこの世代のバンドの音楽の多くが英国の生活を貫く断絶感と共鳴しているように感じる。ゴート・ガールは政治的なものと生活での体験をさりげなく結び付け、スクイッドは無数の方向にむかって半狂乱で爆発し、シェイムは「自分のものではない世界」に向かって怒りを燃やし、優れたザ・クール・グリーンハウスは皮肉たっぷりの不条理な物語を延々と反復される2音のみのギター・ラインに乗せて表現している。それぞれのやり方で、世界を前にして笑ったらいいのか、泣いた方がいいのかがわからないリスナーの不安と心の急所に触れているのだ。


2021年はセカンド・アルバム『Drunk Tank Pink』も出したユーモアと勢いのシェイム by Sam Gregg

 これらのバンドはすべて、何らかの方法で自分たちを取り巻く断片的な世界を理解しようとしている。たとえ、その不条理さに浸って楽しむためだけであったとしても。多くの批評家がザ・フォールの影響の高まりを指摘しているが、それはある意味、ザ・クール・グリーンハウスのトム・グリーンハウスが2020年のDIY誌のインタビューで指摘したように、安易な比較ともいえる。「みんな自分たちをザ・フォールと比較するし、その理由もわからなくはない。それは妥当な比較だとは思うけれど、ザ・フォールはあまりにも多くのバンドに影響を与えてきた存在で、まるでラップのレコードをグランドマスター・フラッシュと比較するようなものだ。彼らはその道のゴッドファーザーだけど、ラップはとても豊潤な世界で、いまはみんながラップの要素を使ってたくさんのことをしているのが現実だ」
 彼の言うとおり、ザ・フォールの語りかけるようなヴォーカルと反復するクラウト=パンクのリズムは、本当にあらゆるクリエイティヴな方法で用いることのできるシンプルなツールである。ドライ・クリーニングやヤード・アクト、ドゥ・ナッシング、ガッド・ホイップとビリー・ノーメイツは皆、インディー系の言語を様々な方法で表現している。そしてこのラップとの比較が面白いのは、最近のインディー・ギター・バンドが注力していること、つまりヒップホップが伝統的に得意としてきた──人生における混乱を物語に織り交ぜて意味を持たせる──ことを表現するため、このゆるいヴォーカルの構造がじつにパワフルな方法になりうるからだ。ザ・クール・グリーンハウスはこれらの物語を音楽の中心に据えている。ブラック・カントリー・ニュー・ロードは、道にはぐれた生活のスナップショットを話し言葉による物語として、複雑で騒々しいマリアッチとスリント風のアレンジに織り込んでいるのだ。正式な意味での物語とは言えないかもしれないが、我々は皆、このような断片的な物語をソーシャル・メディアで創造し、フィードに流れてくるノイズを構造化された物語としてではなく、本能的に、感情の質感を読み取っている。
 物語は空間のなかにも存在する。「ブラック・ミディの前で、君に愛していると告げた」と、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのアイザック・ウッドは〝Track X〟のなかで情景を描写するように言っているが、冗談のようでありながら、おそらくライヴ会場などの物理的な空間の重要性についても言及しているのだ。断片的な命を一か所に集めて観客がシェアできる経験を創りだすと同時に、バンドたちが共に発展して繋がっていく場所のことを。ブラック・ミディやスクイッドの曲の多くは長尺で、8分強あるものが多い。これらのバンドは、分割してSPOTIFYのプレイリストに組み込まれるための最適さは持ち合わせていない。彼らは、一度の機会にすべてを体験するためにあるバンドなのだ。
 独立系の会場がバンドの成長に欠かせないインフラであるとすれば、レーベルもまた役割を担っている。ブラック・ミディ、ゴート・ガール、スクイッドにブラック・カントリー・ニュー・ロードは皆、〈Speedy Wunderground〉レーベルのプロデューサー、ダン・キャリーとの繋がりを持つ。自宅のスタジオで、1日で7インチ・レコードを録音し、ミキシングしてマスタリングするキャリーの作業工程は、自発的でエネルギーにあふれた時代感覚を捉えているし、シングルを非常に限定的にしかプレスしないというレーベルの抜け目のないポリシー(フラストレーションはたまりそうだが)が、〈Speedy Wunderground〉のリリースを期待の高まるイベントにしているのだ。キャリーのような人びとの重要性はカルチャーのなかのノイズをふるいにかけ、新しい、エキサイティングなものに焦点を当て、我々が断片的なもののまわりに物語を組み立てることが可能になることにある。〈Rough Trade〉、〈Warp〉、〈Ninja Tune〉や〈4AD〉のような、影響力があって、いまも独立系であり続けるレーベルの存在がこれらのバンドを次のレヴェルに押し上げて、彼らの物語をさらに幅広いところへ届けることを確約するのだ。
 これらのバンドはいずれも、いま、UKで騒がれている豊富な人材のそろった幅広いポスト・パンク層の表面をなぞっているに過ぎない。ガールズ・イン・シンセシスやEsの怒りに満ちたスラッシュから、ハンドル、スティル・ハウス・プランツの実験的ミニマリズム、薄汚れたインディ・アート・パンクのカレント・アフェアーズとウィッチング・ウェイヴズ、心にとり憑く崇高なナイトシフトまで、周囲の混乱や断絶、断片化にもかかわらず、いや、だからこそ、UKから驚くほど豊かな音楽的なクリエイティヴィティが生まれているのだ。
(初出:別冊エレキング『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの世界』2021年7月刊行)

Parris - ele-king

 まさに新機軸といった感じで、ここからいくつものビートの可能性が解き放たれ、新たなフロアの景色を見せてくれそうな、そんな気分になるエレクトロニック・ミュージックのアルバムだ。もしかしたら数年後に「あの曲が」というような感覚の作品になるかもしれない。DJカルチャー的な「流れ」も意識しながら、そのサウンドはツールの枠には収まらないオリジナリティに溢れている。ポスト・コロナにリリースされた多くのDJたちによる、レイドバックした「リスニング向け」のサウンドとは少々距離感のある、攻めたダンス・グルーヴの遊び心を隅々まで満足させてくれる、それでいて刺激的なリスニング体験を用意した、そんなアルバムでもある。

 ロンドン生まれ、ハックニーとトッテナムを行き来し育ったというドウェイン・パリス・ロビンソンのプロジェクト。ダブステップ~ベース・ミュージックのシーンに衝撃を受け、しかしシーンへの参入の当初は、どちらかといえば裏方で、2010年前後は、レコード店、BM Soho で働きながら、ベース・ミュージックの新たな波を用意したロンドンのレジェンダリーなパーティ《FWD>>》に足繁く通っていたそうだ。そのうちにダブステップの最重要レーベル〈TEMPA〉のスタッフとして2013年から4年間働きはじめる。スタッフをしながらも、WEN とともに〈TEMPA〉からのシングルでデビュー。その後はその折衷的なDJと決して多くないリリースながら、まさに旬の、テクノとベース・ミュージックにまたがる名門レーベルから作品をリリースすることによって評価をモノにしてきた。具体的に言えば〈Hemlock〉、〈The Trilogy Tapes〉、〈Idle Hands〉、〈Wisdom Teeth〉など、2010年代後半のUKを象徴するレーベルばかりだ。ダブのベースラインを基礎に、リズムの冒険によってシンプルにエレクトロニック・ミュージックとしてのうまみを追求しているといった印象がある。DJツールとしての、フォーマットによるある種の機能美と実験性と、ダンス・サウンドのふたつの側面から言えば、やはりジャンルに帰属しがちな前者よりは、折衷的かつ多様なスタイルで、後者に重きがある作品を作り続けている。だからといってDJカルチャーと距離を取った作品はほとんどないのも事実だ。そのへんもあり、それぞれのシングルはひとりの人間が作っているとは思えないほど多種多様な音楽性を持ち、それゆえにどこかミステリアスな魅力に溢れてさえいる。そしてそれは本作の多彩なサウンドと同様、根底で共鳴しながらバラバラながらもパリスというアーティスト象を作っているともいえる。

 最近のトピックでは、本作リリース・レーベルとなる〈can you feel the sun〉の立ち上げではないだろうか。共同設立人は、ファブリックのミックスCDのリリースやセカンド・アルバム『Arpo』の高い評価、同様のベース・ミュージックとテクノやハウスの汽水域から出てきた同世代のスター、コール・スーパーである。本作でもコラボレーターとして、そして彼のサポートも大きな要素となったようだ。

 こうしてベース・ミュージック・シーンの注目株として、じわりじわりとその評価をあげてきたパリスがリリースした『Soaked In Indigo Moonlight』。いや、しかし冒頭に書いたように新機軸の塊といった感じでとにかく刺激的な楽曲が続く。ポスト・ポスト・ダブステップなジェネレーションらしく、分厚いサブべースこそ、その世界の基底を定めるがごとくアルバム1枚を通して鳴り響いているがそのリズムは恐ろしく多様だ。Carmen Villain をフィーチャーした “Movements” では、ウェイトレスなグライムをどこかディープ・ハウス化したようなトラック、そして本作の外側でも一気にブレイクしそうなキラー・ポップ・トラック “Skater's World with Eden Samara” では、女性ヴォーカルを使ったアフロ・スウィングなダンスホールを、続く “Contorted Rubber”、もしくはIDM的な質感の “Sleepless Comfort” ではつんのめったジュークのグルーヴを、ジャングルを解体した “Crimson Kano” “Poison Pudding” といった楽曲たちが続く。こうした刺激的にもほどがあるリズムに対して、テクノ的な繊細なメロディを重ねていく。またリズム・アプローチ以外にもモンド~イージー・リスニング的な感覚をベース・ミュージックに落とし混んだ “Laufen in Birkencrocs” などなど、いやいちいち突っ込んでいると無限に書けてしまいそうなアイディアがそこかしこに点在している。

 本作を聴いて思い出したのは〈リフレックス〉の作品群だ。彼らが1990年代後半から2000年に用意した、テクノの可能性──アートでグリッジなエレクトロニカでも、ストイシズムが貫くミニマルなテクノでもない、ある種のポップさも内包し、DJカルチャーに刺激されたグルーヴを持ちつつ、それでいてベッドルームの自由さを謳歌するスタイルたち。それによって持ち込まれたテクノの多様さの可能性は後に考えれば非常に大きなものだったが、あの感覚と同じものが本作には息づいていると言えるのではないだろうか。と、書いていながら、“Poison Pudding” がプラグ(ルーク・ヴァイバート)の初期作に、“Laufen in Birkencrocs” はマイク&リッチーあたりの作品に聞こえて………。しかし、もちろん、そのサウンドはオマージュというには過ぎるほど、アップデートされた音像と刺激がある。本作にはエレクトロニック・ミュージックの遊戯性とDJカルチャーが生んだグルーヴの喜悦、その間で生き生きと作られたベッドルーム・テクノの新たな姿が描かれていると言えるだろう。


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