「K A R Y Y N」と一致するもの

Chikashi Ishizuka (Nice&Slow) - ele-king

自身のレーベル、Nice & Slow より
Chikashi Ishizuka - Step Forward / Boogie Man
リリースされました。

www.chikashi.ishizuka@facebook.com

can you feel it 2013/08/09


1
George Duke - Feel - Mps

2
Chateau Flight - La Pregunta - Permanent Vacation

3
Pacific Horizons - Witches Of Castaneda - Pacipic Horizon

4
Claudio Passivanti - Fantasy - Sunlight

5
Mat Anthony - Lune Afrique - Aficionado

6
Finis Africae - Last Discovery - Em

7
Michael Booth Man - Waiting For Your Love - Invisible Touch

8
Manu Dibango - Kusini - Lpk

9
Missa Luba - Les Troubadours Du Roi Baudouin - Philips

10
Chikashi Ishizuka - Boogie Man - Nice&Slow

Detroit Report - ele-king

 廃墟、破綻、暴動、モーター・シティ。デトロイトと聞いてテクノ以外に対となる言葉はこんなとこだろう。愛、暖かい光、力強さ。そしてその間にある荒廃。眩しいぐらい前進する言葉が並ぶが、わたしが見たデトロイトは、まさにそれだった。乱反射する輝きに、荒廃する街は少し滲んで見えた。
 「デトロイト市財政破綻」のニュースが流れた直後の、7月31日から8月5日までのあいだデトロイトに滞在した。そんなにすぐに街に何か変化が出るわけではないとわかってはいたが、わたしは少々ナイーヴな時間を成田からデトロイトに到着するまでのあいだ過ごした。到着後、滞在予定のモーテルに向かう車内から外を眺めていると、瞬きをするように目に廃墟が飛び込んでくる。生気がなくなっている街には夏が似合わないな、と思いながら車に揺られた。しかし、この日からの毎日は報道されている「危険な街デトロイト」とはほど遠いものだった。
 水面が輝くデトロイト・リヴァー沿いを家族連れが散歩し、対岸に見えるカナダのウィンザーを眺めながらカップルは穏やかな休日を過ごしている。朝食を食べるダイナーは朝から賑わいを見せ、これから仕事に向かうであろう男性は隣の席に座る知らない青年に「おはよう」を投げかける。わたしはたくさんの人に抱きしめられ、「ようこそデトロイトへ!」と、そう、誇りに満ちた声で何度も歓迎を受けた。失礼かもしれないと思いつつ、わたしは出会った人たちに聞いてみた。「財政破綻で何か変わりそう?」と。「何も変わらない。ここでいつも通りの生活をするのみだよ」誰もがそう答えた。

 最終日の深夜、マイク・バンクスの案内により、この数日のあいだに感じたものと対極にあるデトロイトを見せつけられることになる。「廃墟は美しい」なんて軽い言葉は出ない、車の製造を辞め直視ができないぐらい朽ち果てたフィッシャー・ボディ社のビル。東側にある"リッチな"白人が住むエリア。ここは黒人が車で通ることさえも許されず、警察に見つかれば事情を聞かれる。黒人と白人が住む、ふたつのエリアを分ける光──。
 全体がオレンジ色に光る大きな家が並ぶエリアを通りぬけると、突然やってくる街灯はもちろん、店の明かりも何ひとつない闇の世界。輝く月さえも敵に回したようなこの闇から、あの空が明るく見えるほどの暖かい光はどんな風に見えていたのだろうか。
 4時間ほどかけた深夜のガイド・ツアーを終え、その夜に見たすべての景色を飲み込むようにマイク・バンクスは言った、「ここは素晴らしい人とたくさんの愛がある場所だ」と。それはありきたりだけど、この街には十分な言葉だった。
 綯い交ざる6日間の風景をうまく消化できないまま、数時間後には帰りの飛行機に乗り、きっとこれからもここデトロイトからたくさんの音楽が生まれ続けるのだろうと考えていた。

 さて、デトロイトのネクスト・ジェネレーションといえば、今年自身のレーベル〈Wild Outs〉からファースト・アルバム『The Boat Paty』をリリースしたカイル・ホールがいる。そのカイル・ホールとデトロイトで活動を共にしているジェイ・ダニエルは3年前にDJをはじめた。
 今回、デトロイトのBelle Isle Park で開催された「Backpack Music Festival」でジェイ・ダニエルのDJを聞くことができたが、わたしが見たデトロイトの風景とオーバーラップしたそのストーリーは、美しさと荒さが気持ち良いぐらいに混ざり合っていた。スモーキーなディープ・ハウスで空気を暖めたかと思ったら、乾いたパーカッションのみが青空の下で鳴り響いている。ときにはデトロイト・エレクトロや荒削りのシカゴ・ハウス、そしてそこに追い打ちをかけるようにトライバルなアフロリズムが投下される。縦横無人に行き来しながらも途切れないファンキーなグルーヴの力強さに、現在進行形のデトロイトを感じることができた。

 ジェイ・ダニエルとカイル・ホールはふたりで「Fundamentals」というパーティを定期的に開催している。2年程続いている、"基本"とか"根源"とかの意味をもつこのパーティでは90年代のテクノやハウスも惜しみなくプレイされる。それは客層が10代~20代の若めのパーティということもある。もちろん、この地で生まれた音楽を紹介する意味も込められている。
 ハウス・ミュージックを聴く年齢層が高いデトロイトでは、このようにキッズが集まるパーティは少ない。本来、音楽というものは外側と内側、両者からの受容を繰り返し、その土地の人びとの魂とともに生きながらえているものだ。先人が作り上げたものを次の世代にへ伝えていくという彼らの意識の高さに、デトロイト・テクノやハウスにある種の伝統芸術を見ているような気がした。

 インタヴュー当日、彼は「オススメのレコード屋があるんだ」とデトロイトの街案内もかねて連れて行ってくれた。そこはジェイ・ダニエルが以前働いていたデトロイト西側にある〈Hello Record〉。主にファンク/ジャズ/ソウルを揃えているお店だ。テクノ/ハウスのコーナーはとても少ない。
 途中、彼の友人たちも合流し、その場はアニメや映画の話で盛り上がりを見せていた。ひとり寡言なジェイ・ダニエルに友人は「彼は音楽にしか興味がないのよ」と柔らかい表情で笑った。
 そんなジェイ・ダニエルにとっての初めてのEPがセオ・パリッシュのレーベル〈Sound Signature〉から発売される。その新曲についても話してもらいました。

ジェイ・ダニエル

このデトロイトで、エレクトロニック・ミュージック・シーンを先駆してきたアーティストたちはもう少しデトロイトの音楽シーンに貢献できたんじゃないかなって僕は思うんだ。デトロイトに1ヶ月滞在しても自分たちが観たいと思っているデトロイトのDJを観ることができないことだってあるからね。

デトロイト生まれですか?

ジェイ・ダニエル(JD):ワシントンDCで生まれて、2歳のときに母親とデトロイトに移り住んだ。いま22歳。DJをはじめてから3年かな。高校はメリーランドの高校に通っていたけれど、2009年に再びデトロイトに戻ってきて、後にDJをはじめたんだ。そこから1年後、カイル・ホールに出会ってすぐに打ち解けた。デトロイトにはいいレコードもたくさんあって、いつも何か新しいものが生まれている場所なんだ。

どういう音楽に影響を受けてきましたか?

JD:僕の母親もシンガーなんだ。1993年にカール・クレイグとレコードもリリースしてるよ(なんとあの名曲、"Stars"と"Feel the Fire"で歌っているナオミ・ダニエル!)。彼女の影響は大きかったね。幼少時代にハウス・ミュージック、オルタナティヴ・ミュージックもたくさん聴いていたよ。ジャズもね。WJLBっていう、地元のジャズのラジオ番組なんだけど、それをよく聴いていたよ。いろんな音楽を聴いて育って、折衷してきたものがいま僕のサウンドに反映されているんだ。

いつからDJはじめたのですか?

JD:DJをはじめたのは2010年。それ以前にはDJソフトをラップトップのなかにインストールしていて、「DJ」はかじっていたんだ。そのあとmp3で使っていたけれど、ターンテープルを持ったのは2010年だった。

デトロイトの音楽シーンをどう思っていますか?

JD:このデトロイトで、エレクトロニック・ミュージック・シーンを先駆してきたアーティストたちはもう少しデトロイトの音楽シーンに貢献できたんじゃないかなって僕は思うんだ。デトロイトに1ヶ月滞在しても自分たちが観たいと思っているデトロイトのDJを観ることができないことだってあるからね。ビジネス的なことを考えると、海外でDJをすることが多くなるのは自然なことだとわかっているけれど、ここデトロイトには他の場所にはない音楽のルーツ、基盤が存在するんだ。その基盤をもっと呼び起こしていきたいと、カイル・ホールと僕はここでの活動に力を入れているんだ。

「バックパック・ミュージック・フェスティヴァル」で他のDJたちはCDやPCでプレイをしていたのに対して、あなたが誰よりも若いDJなのにアナログを使ってたのが印象的でした。いつもアナログですか? アナログにこだわる理由があれば教えてください。

JD:そう、いつもレコードでプレイするよ。たまにCDも使うけどね、大抵はレコードだね。ラップトップは壊れたらそれっきりだけど、レコードはレコードをなくさない限りプレイできる。より強く音楽性を感じられるし、フィジカルに音楽と触れ合えるレコードにやっぱり魅力を感じるんだ。ラップトップのテクニカルな面だったり、DJコントローラーのことを気にする必要もない。レコードでしかみつけられない曲もあるしね。アナログがなによりも一番だと僕は思うんだ。

好きなDJや影響を受けたDJは誰ですか?

JD:デリック・メイとセオ・パリッシュ、リック・ウィルハイトかな。僕をはじめ、彼らから影響を受けたDJたちはたくさんいるよ。

デリック・メイとセオ・パリッシュのDJスタイルは違いますが、どちらがあなたのDJスタイルに影響していますか?

JD:おそらく、セオ・パリッシュのほうかな。ジャズやフュージョンをDJに多く取り込んでいる彼のスタイルに影響を受けていると思う。デリック・メイはもっとテクノ色が強いDJスタイルでビッグ・オーディエンス向けだよね。DJをはじめた当初、自分のスタイルを模索していたときに言われたことは、自分のセンス、音楽性で、自らの手で作り上げてくことでDJのスタイルは確立されるということ。僕のDJスタイルはリズムなんだ。

いつもレコードでプレイするよ。たまにCDも使うけどね、大抵はレコードだね。ラップトップは壊れたらそれっきりだけど、レコードはレコードをなくさない限りプレイできる。より強く音楽性を感じられるし、フィジカルに音楽と触れ合えるレコードにやっぱり魅力を感じるんだ。

新譜について訊かせてください。何故〈Sound Signature〉からリリースすることになったのでしょうか?

JD:ディープ・ハウスにテクノが融合しているトラックだよ。テープでレコーディングしたから独特の音色に仕上がっているんだ。あまり機材を持っていないから持っているものでできる限りのことをしたよ。セオ・パリッシュがデトロイトでDJをしているときに彼に僕の曲を手渡したんだ。その夜彼は僕の曲をプレイしなかったけれど、その後海外でプレイしてとても気に入ってくれて、〈Sound Signature〉からのリリースが決まった。

曲作りにおいてあなたのイマジネーションはどこからきてますか?

JD:どこからかな。過去の経験かな。人はひとりひとりそれぞれの人生を歩んで、それぞれの経験をするよね。アーティストの表現、イマジネーションにはそんなそれぞれが経験してきた良い出来事も、辛い出来事もすべてが糧になってアーティストの表現するものに投影されているんじゃないかな。僕は無口なほうなんだけど、僕が感じることを音楽を通して表現しているんだ。

もうその次の新譜も制作していますか? もし予定があるなら教えてください。

JD:作っているよ。〈Wild Out〉から年内にリリースを予定しているよ。いつも制作には取り組んでいるし、ミックスも手がけている。新しい機材も増やそうとしているんだ。もちろん音楽をつくるときに大事なのは機材を増やすことで音が良くなることよりも、どれだけクリエイティヴに自分のアイディアを作品に投入できるかだと考えているけどね。

ちなみに、どのような機材を使って曲作りをしていますか?

JD:使っている機材は、MPC1000、JUNO106、KORG DW-8000 テープを収録するミキサーをひとつ。 ドラムマシンはMPC、たくさんサンプルが入っているんだ。僕自身ドラムを演奏するんだよ。

これからDJと曲作り、どっちをメインにやっていきたいですか?

JD:もっと曲作りをやっていきたいと思っているよ。作曲をはじめてから自分のDJスタイルも変わってきたんだ。リズムが大事なんだ。いい楽曲があってのDJだから曲作りに力を入れていきたいと考えてるんだ。

デトロイト出身のアーティストは、海外に拠点を移し活動している人もいれば、絶対にデトロイトから離れない人もいますが、制作活動するにおいてデトロイトを拠点にするということは、あなたにとって重要ですか?

JD:制作する場所に関しては、どこに住んでいるかは関係ないと思うんだ。たしかにデトロイトはアーティストにとって、創作するスペースが十分にあるのではないかと感じる。ニューヨークや他のアメリカの都市はアーティストで混み過ぎているからね。とはいってもやっぱりどこに住んでいるかはあまり問題ではないと思う。自分の表現したいこと、クリエイティヴな発想が自分にしっかりある限りね。僕はおそらく、しばらくはデトロイトを拠点にすると思う。もし拠点を移すとすればロンドンかな。アメリカ国内ではないね。

続く

Lil Ugly Mane - ele-king

 僕のようなラップ・ミュージックのバッグ・グラウンドの乏しい人間がレヴューを書くべきでないのは重々承知の上であるが、本国での盛り上がりをよそに誰も書いてくれないので書きます。もう我慢できなかったんですよ!

 オッド・フューチャーをスケート・パンクとすれば、リル・アグリー・メーン(Lil Ugly Mane)はバンダナ・スラッシュであろうか。どちらも現在のUSを象徴するラップ・ミュージックだ。

 ショーン・ケンプ(Shawn Kemp)ことリル・アグリー・メーンはどうやら彗星のごとくシーンに現れたわけでもないようだ。現在もアクティヴなのかは定かでないが、ヘッド・モルト(Head Molt)という一聴するところのどうしようもないノイズ/パワエレ・バンドで活動していたトラヴィス・ミラー(本名)は、どうしようもないノイズ/パワエレを炸裂させる片手間、ショーン・ケンプとしてMCとビートを制作していたらしい。故郷のリッチモンドからフィリー、そしてウェスト・ボルチモアとマウントバーノンでこの『ミスタ・サグ・アイソレーション』を完成させ、再びリッチモンドで暮らす彼のドリフト生活遍歴。これらの土地から想起されるここ10年のUSインディー・シーンを照らし合わせば、なるほど彼の音楽遍歴がおのずと見えるではないか。ページ99(PG99)世代のヴァージニアの激情ハードコア・シーンで思春期を過ごした歪んだ美意識は、時を経て当時ドロ沼化していたであろうボルチモアの変態シーンで洗礼を受け、ある種のポップネスを開花させた。ピクチャープレーン(Pictureplane)やDJドッグディック(DJ Dogdick)、ソーン・レザー(Sewn Leather)らとの絡みも共鳴ゆえのものなわけだ。

 満を持してドラキュラ・ルイス(Dracula Lewis)率いる〈ハンデビス〉からの豪華極まるフィジカル・ヴァイナル盤がリリース。近年のUSアンダーグラウンド(でもイタリアのレーベルなんですけど......)発のトレンドを並べたレーベルから出ることは必然ともいえよう。

『ミスタ・サグ・アイソレーション』に捨て曲はない。ウィッチハウス、ヴェイパーウェーヴ、インダストリアルと昨今のキーワードがブラウン管に発光しながらもスクリュードされ、シンプルで野太いビートが際立った極上のトラック、偏執的サグ思考のリリック、これって何? ニューエイジ・ギャングスタラップ? あがるわー。

オン・ザ・ロード - ele-king

 学生時代にアレン・ギンズバーグの詩集を読んでいたら、同級生の友人に笑われたことがある。要するにビート文学をいま読むことに意義はあるのか、ということで、当時そのことに腹が立ったのは図星だったからだろう。いまではいい思い出だ。ポスト・インターネット時代にこの国で生活をしていると、カウンター・カルチャーもビートもはるか遠い世界のことのように思えてくる。

 ジャック・ケルアックの『路上/オン・ザ・ロード』の映画化にいま、喜ぶのは誰なのだろう。......いや、そのような問いは不毛なのかもしれない。「ビート文学の不朽の名作」を、「フランシス・フォード・コッポラが長年の苦難の末に実現した」ものなのだから、それだけでありがたいものなのだろう。が、どうしても気にかかってしまうのは、いまこれが、若者のための映画となり得るかどうかだ。「おっさんたちのノスタルジー」だと若者に言われたら、誰がどんな風に反論するのだろう。

 実際、監督ウォルター・サレス、撮影エリック・ゴーティエの『モーターサイクル・ダイアリーズ』タッグによる風景映像はどこまでも瑞々しく、美しい。そしてその瑞々しさ、美しさがこの映画の最大の魅力であり、最大の問題点であるだろう。主人公サル、すなわちケルアックを『コントロール』でイアン・カーティスを演じたサム・ライリーにやらせるというのも、何だか周到すぎるように思える。絵に描いたような青春映画、ロード・ムーヴィーとして『オン・ザ・ロード』はあり、しかしこれ以外に映画化の着地点が思いつかないという点で、製作総指揮のコッポラは何も間違ってはいないだろう。全編にわたって生命力に満ちたジャズが流れ、インターネットが若者を部屋に閉じ込めてしまうはるか以前の物語が、「路上」に自由を求めた魂たちが活写される。結局このノスタルジックな輝きにどうしても抗えない僕は、同世代の連中に笑われても仕方ないのだろう。(そしてこれは、現在の洋楽受容問題とどこか似ている。)
 映画は断片的なエピソードの積み重ねであった小説を再構築し、サルと破天荒なディーンとの関係を中心に据えることで、一種のブロマンス的側面をかなり前に出しているように見える。ここは今回の映画化では現代的なところで、自由を求めて旅に出るようなことが過去の遺産になったのだとしたら、当時の彼らの青春を観客と近いものにするために、そこにあるきわめて緊密な関係性を見せることは理に適っている。ただそれゆえに、ジャズ文体と言われた即興的な原作の持ち味はここにはあまりなく、ふたりの友情と愛憎の物語に回収されてしまう面もある。

 だから、非常にアンビヴァレントな気持ちで映画を......ふたりの出会いと別れの物語を僕は観ていたのだが、映画の終わりでこの映画化の意義を「耳にする」。3週間でこの小説を書き上げたというケルアックによる、タイプライターの激しい打音。それ自体が、この映画の鼓動になっていくようだった。普遍的、なんて言葉は簡単に使いたくはない。なぜなら、ここにある「自由への渇望」も「路上」も、「魂の開放」も、過去の遺産になってしまった時代にわたしたちは生きているからである。けれども、タイプライターのその音は、おそらくいまもまだどこかで鳴っているものだ。
 いまビート文学を回顧することは、ノスタルジーか、さもなければたんに歴史の確認なのかもしれない。しかしこの映画には、そのことを理解した上で、先達の創作欲求を深くリスペクトする。現代の路上はもはやインターネット上にあるのかもしれない、が、そこから何かを生み出す若い才能はきっと似た目をしている。

予告編


PRIMAL - ele-king

 前作『眠る男』の"1week feat. Watashi"が大好きでいまでも年がら年中聴いているせいか、あまり時が経ったように感じない。自分が中年になったせいか。いや、しかし。6年といえば小1が小6に、中1が高3になるわけで。やはり長い。PRIMALはいったい6年も何をやっていたのだろうか?

「バンドでアルバムやろうとしてたけど、ベースができないって言いはじめてポシャって、クルーでアルバムって話もあったけどそれもダメで。2009年の夏から1年ぐらいはラップはもうフィーチャリングとライヴ言ってくれたのをやるだけでした。ラップやめる気はありませんでしたけど、病んだり、働いたりの繰り返しでしたね。その生活の打破を目指したのがこのアルバム製作です」(『Proletariat』資料より)

 なるほど。この話を聞くとリード曲"Proletariat feat. PONY"の「働き蜂 磨く己の暮らし 勝ち取る価値 親から巣立ち 猫からタチ」というパンチラインが素直に頭に入ってくる。――まったくうまくいかない。生活の歯車が噛み合ない。空回る。だけど気合い入れなきゃいけない。

 そんなおのれを鼓舞する表現に「猫からタチ」って言葉を選ぶあたりはさすがの一言。「てめえがマグロじゃオンナはイカせらんねえぞ」と。PRIMALも悶々としてたんだなあ。でもそんななかからひねり出したきた言葉だから強い。ラッパーのリリックにおいて最も重要なのはリアルだ。

 たとえばKOHEI JAPANのアルバム『Family』。このアルバムでKOHEI JAPANは、リアルの定義を文字通りの意味に置き換えた。つまり、当時の彼のとってのリアルは、ドラッグディールでも、デカい車でも、セクシーな女でもなく、小さな子どもとの生活、そして家族との日常だった。たとえ刺激的ではないトピックであっても、それを自分にとってウソのない言葉でおもしろく表現することこそがリアルなのだと宣言した。

 この『Family』がリリースされたのは奇しくもPRIMALのファースト・アルバム『眠る男』が発売される3カ月前、2007年6月。『Proletariat』には表現の方向性こそ違うが、『Family』と同じベクトルのリアルが込められている。子どもができて以前よりも自由になる金も少なくなり、おまけに景気はどんどん悪くなっていく。「IQ高くてもThank You 言えぬ奴」(「Proletariat feat. PONY」)が跋扈し、生きるだけでストレスが溜まる。だが「ぶっちゃけ病んでるRapperのパパ」は「必死にやってる一児のママ」と息子のために、「働き蜂 磨く己の暮らし 勝ち取る価値 親から巣立ち 猫からタチ」と『眠る男』とは違う意味での武闘宣言、"武闘宣言 2.0"を叫ぶのだ。

 最後に。最終曲"岐路 feat. TABOO1, 漢, RUMI"について。この曲はThe Anticipation Illicit Tsuboiがプロデュースしたもので、Theo Parrishの"Friendly Children"を思わせる子どもの歌声がサンプリングされた、メランコリックなナンバーだ。この曲の冒頭でPRIMALは先日急逝したMAKI THE MAGICへの弔辞ともいえるフリースタイルを披露する。本編のリリックでは、TABOO1、漢、RUMIとともに友情をテーマにしたラップを聴かせてくれる。そして最後の最後に収められているIllicit Tsuboiの約1分以上におよぶスクラッチはクレイジーで美しく、悲しい。

 今後どんな作品がリリースされるかわからないが、俺はこのアルバムが2013年最高のアルバムだと断言する。

ele-king presents PARAKEET Japan Tour 2013 - ele-king

 いよいよ9月5日(木)から初ジャパン・ツアーがスタートするパラキート(PARAKEET)! UK産ロック・バンド、ヤック(YUCK)のメンバーである日本人ベーシスト、マリコ・ドイと、同じくUKで活動し、今年リリースのデビュー・アルバムが絶賛を浴びている若手注目バンド、ザ・ヒストリー・オブ・アップル・パイ(THE HISTORY OF APPLE PIE)のジェームス・トーマスによって結成されたこのバンドは、ピクシーズ(PIXIES)からディアフーフ(DEERHOOF)、ポルヴォ(POLVO)などにも通じるミラクルでユニークなギター・サウンドがとってもス・テ・キ。ぜひこの目でこの肌でヒリヒリと感じ取って欲しいものです。
 そしてこのツアーにスペシャル・ゲストとしてお付き合いしていただくのがTHE GIRL!! シンプルでキッチュなガレージ・ロックンロール・テイストにニューウェイヴィーなポップ・アプローチが絡まって、これまた超ス・テ・キ。夢のドリーム・マッチですな! そんな二組から来日直前インタヴュー......っちゅーかアンケートに答えていただきました。さぁ、タッチ&ゴーしてそのまま会場にお越し下さい!



PARAKEET

■最初に買った(買ってもらった)レコード(CD)は?

PARAKEETジェームス:ニルヴァーナ(NIRVANA)の『ネヴァーマインド』。

THE GIRL:ザ・モンキーズ(THE MONKEES)のベスト。

■バンドをやろう! というきっかけになったアーティストは?

PARAKEETマリコ:単に音楽が好きだったから。13歳のときにギターを弾きはじめて洋楽への道がどかっと開かれました。それからバンドを組むようになって、そのままズルズルとイギリスまで来てしまいました。

PARAKEETジェームス:10歳のとき、ニルヴァーナの『MTVライヴ&ラウド』を見てから。

THE GIRL:特にこれといったアーティストは最初いなかったけど、ソニック・ユース(SONIC YOUTH)かな。

■最初に結成したバンドの名前は?

PARAKEETジェームス:ミラージュ(MIRAGE)というバンドを弟と、10歳、8歳のときに。父の親友がベースを弾きました。

THE GIRL(日暮愛葉):Seagull Screaming Kiss Her Kiss Her。

THE GIRL(おかもとなおこ):free alud

■それはどんなサウンドでした?

PARAKEETジェームス:最悪。TOTOのコピーを。

THE GIRL(日暮愛葉):いまで言うオルタナティヴ。

THE GIRL(おかもとなおこ):ファンク・ロック。

■初めて人前でライヴをやったときの思い出を。

PARAKEETジェームス:両親がハウス・パーティーをしたときに居間で演奏しました。両親の友だちが見ていて当然奇妙でした。そのときはレディオヘッド(RADIOHEAD)のコピーをしました。

THE GIRL(日暮愛葉):ギターウルフとジャッキー&ザ・セドリックスが対バンだったことです。

THE GIRL(おかもとなおこ):機材トラブルばかりだった。

■PARAKEET/THE GIRL結成のいきさつを。

PARAKEETマリコ:レヴェルロード(LEVELLOAD)というバンドをやっていて、アルバムを出してからその後解散しました。それでそのときドラムを叩いていたジェームスとツー・ピースでパラキートの原型ができあがって、曲を作りはじめたときにヤックへの参加のオファーがありました。ツー・ピースも面白かったんですが、ギター・バンドもやっぱり好きなので、浮気をした訳です。パラキートがはじまった頃はトランザム(TRANS AM)の赤ちゃんみたいな感じで、ベース・リフとドラムの絡みがタイトな楽曲ばっかりで、それが今回のEPの軸みたいになってます。
 いまの形になったのはBO NINGENのコウヘイ君と1枚目のシングルにギターを付けてもらうようになってから。他の曲はわたしがギターを弾いたりして、楽曲上スリー・ピースになりました。

THE GIRL:日暮はLOVES.を経て、おかもとも男性とばかり組んでいたのでガールズ・バンドをやってみたくなったのです。

■PARAKEET/THE GIRLをはじめるにあたりコンセプトなどありましたか?

PARAKEETジェームス:ふたりだけでとてもうるさい感じで......だったんですが、何か足りない、何か完成されてないと思い、BO NINGENのコウヘイとしばらくいっしょにやって、去年はジョンといっしょに、そしていまはトムがギターを弾くようになりました。

THE GIRL:特に無いけど、華奢な女の子が芯のあるソリッドな音を出すということをやりたかったかも?

■PARAKEET/THE GIRLの長所や武器みたいなものを教えてください。

PARAKEETジェームス:音を作ることにしても、その他すべてのことに関しても、自分たちでコントロールできるので、すごく満足している。そういうところです。

THE GIRL:かっこいいこと、信じてることをちゃんと表現できているところ。あと曲の短さです。

■逆に短所・マイナス点は?

PARAKEETジェームス:いまの段階でパラキートはサイド・プロジェクトと見られていて、そのためにあまりちゃんとしたバンドとは認識されていないところです。そして他の自分たちのバンドを優先しなくちゃいけなくって、自分たちが好きなだけ時間を費やせていないところです。次にアルバムをリリースするときにはその状況が変わっていればいいと思います。

THE GIRL:とくにありません。

■現在いいなぁ〜と思えるアーティスト/バンドはいますか?

PARAKEETマリコ:コロコロ変わります。最近はマック・デマルコ(Mac DeMarco)です。いまいちばん会いたくて、彼のセカンドをずっと聴いています。きっとそのうち会うと思いますが、そのとき何を話そうかぼんやり考えています。とりあえず彼の化粧をわたしがするという感じでいこうかな。しかしながら、自分のなかでずっとヒーローでいる人は作家の方が強いかもしれません。それを考えたら松本隆さんがヒーロー的な存在かもしれないです。バンド・マンとしても、あと詩人としても尊敬しています。いま、彼の本『風街詩人』を読んでいて、面白くて、たまりません。

PARAKEETジェームス:ロンドンに拠点を置いているバンドのなかでもザ・ホラーズ(THE HORRORS)は、素晴らしいレーベル(〈XL〉)に所属して、自分たちのスタジオも持っている。彼らはそこで自分たちの好きなように曲を書いてレコーディングしていて、そういう環境があるというのはいいなあと思います。

THE GIRL:バンドであることも大切だけれど、そのなかでどれだけ自由にオリジナルを表現できるかが重要だから、ソニック・ユースやザ・キルズ(THE KILLS)、ザ・ホワイト・ストライプス(THE WHITE STRIPES)、ドーター(DAUGHTER)などの秀逸なバンドが支えになってます。

■そうはなりたくないけど、アイドル的アーティストはいますか?

PARAKEETジェームス:たぶんほとんどのバンド......。

THE GIRL:マドンナ(なれるならなってみたいけど)。

■お互いの音楽性についてどのような点が魅力だと思いますか?

PARAKEETマリコ:シンプルで即効性のある楽曲と、脱力ボーカルがいいなと思いました。

PARAKEETジェームス:オンラインで聴いてみていいなと思いました。いっしょにツアーできることを楽しみにしています。

THE GIRL:COOL でありつづけているところです。

■それぞれの国で活動したいとは思いませんか? だとしたらその理由は?

PARAKEETマリコ:日本はやっぱり生まれ育った場所だし、なんでもかんでも直接自分に入ってくる。そのへんは創造性やらも掻き立てられるし、反面プレッシャーも倍に感じる。日本は何においてもやりやすいようにすべてが上手に整った国だと思うので、バンド活動もやりやすいかなと思います。

PARAKEETジェームス:日本大好きです。日本はイギリスよりもとってもリラックスしていて、友好的だと思います。

THE GIRL:いつでもどこの国でもやってみたいとは思ってます。

■それぞれの国で活動する際、注意すべき点、素敵だと思える点をお互いに教えてあげてください。

PARAKEETマリコ:イギリスは不便な面が多いぶん、人間がゆるいのです。だから平均や常識から外れないことをしろというプレッシャーがなく、個性が生かせる国ではないかと思います。日本に比べて、変わった人が多いというか、個人差があるのが歓迎されていると思います。ハコの環境やら質やら、そんなのは日本のハコの細やかさとかと比べると雲泥の差ですが、とりあえずみな遊び上手なので、お客さんも楽しんでいるということが日本に比べてわかりやすいかなと思います。

PARAKEETジェームス:あんまりいいところはないです。イギリス、特にロンドンはライヴをするには最悪なところです。一般的に待遇も悪いし、ギャラも低い。まあ例外もあって、UKには数カ所素晴らしいハコもありますが。しかし他のヨーロッパの国の方が断然いいです。

THE GIRL:素敵なことしか思いつかない。素敵なバンドとライヴすることです。

■このツアーでいちばん楽しみにしていることは何ですか?

PARAKEETマリコ:THE GIRLをはじめ、たくさんのバンドと共演することで、また新しい音楽や人間に会えることです。

PARAKEETジェームス:マリコと4年前に別のバンドでツアーをしたことがあって、そのときが自分にとって人生で最高の時間でした。だから今回も楽しみで待てないです。日本の文化も、人も食べ物も大好きです。そして日本のハコも最高です。機材もいいし、待遇もすごくいい。まったくイギリスとは逆です。

THE GIRL:パラキートをいろんな角度から見られることと、ツアーそのものが楽しみ。

■では心配していることは?

PARAKEETマリコ:楽しすぎて二日酔いですかね。

PARAKEETジェームス:Gejigeji(ゲジゲジ)。

THE GIRL:ホテルでよく眠れるか、パラキートのメンバーに日本食のおいしいところを紹介できるか。

■お互いに一言お願いします。

PARAKEETマリコ:飲みましょう!

PARAKEETジェームス:ハローーーー!!

THE GIRL:パラキートみたいなかっこいいバンドとツアーできることがほんとうに光栄です。パラキートにもTHE GIRLの良さを見てもらいたい、そしていっしょにおいしいものを食べて飲みたいです。

■最後にファンにひと言お願いします。

PARAKEETジェームス:ハローーーー!!

PARAKEETマリコ:飲みましょう!

THE GIRL:おかもとなおこと二人組になった新生THE GIRLとイギリスのパラキートとの初日本ツアーなのでスペシャルなライヴをお見せできると思います。ぜひ皆さん足を運んでいただいて楽しんでほしいです! 新生THE GIRLは新曲満載です! お楽しみに!


THE GIRL

ele-king presents
PARAKEET Japan Tour 2013
special guest : THE GIRL

詳細はこちらです!
https://www.ele-king.net/event/003112/

■9/5 (木) 渋谷O-nest (03-3462-4420)
PARAKEET / THE GIRL
special guest : uri gagarn
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 18:30 start 19:00
チケットぴあ(Pコード:205-168)
ローソンチケット(Lコード:74729)
e+

■9/6 (金) 名古屋APOLLO THEATER (052-261-5308)
PARAKEET / THE GIRL
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 19:00 start 19:30
チケットぴあ(Pコード:205-387)
ローソンチケット(Lコード:42027)
e+

■9/7 (土) 心斎橋CONPASS (06-6243-1666)
PARAKEET / THE GIRL
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 18:30 start 19:00
チケットぴあ(Pコード:205-168)
ローソンチケット(Lコード:56704)
e+

■9/8 (日)「BON VOYAGE ! 〜渡る渡船は音楽ばかり〜」
尾道JOHN burger & cafe(0848-25-2688)、 福本渡船渡場沖船上
PARAKEET / THE GIRL / NAGAN SERVER with 韻シスト BAND / ウサギバニーボーイ他
adv ¥3,500 door ¥4,000 (渡船1day pass付 / +1drink)
open / start 12:00
ローソンチケット(Lコード:66873)*7/6よりチケット発売
主催:二◯一四(にせんじゅうよん)
共催:Buono!Musica!実行委員会
後援:尾道市、世羅町、尾道観光協会、世羅町観光協会、ひろしまジン大学、三原テレビ放送、中国放送
協力:福本渡船、ユニオン音楽事務所
INFO : 二◯一四(にせんじゅうよん)080-4559-6880
www.bon-voyage.jp

【追加公演】
9/10 (火) 渋谷O-nest (03-3462-4420)
PARAKEET / toddle / TADZIO (この日のTHE GIRLの出演はございません)
adv ¥3,800 door ¥4,300 (+1drink)
open 18:30 start 19:00
チケットぴあ(Pコード:209-089)
ローソンチケット(Lコード:71161)
e+

*尾道公演を除く各公演のチケット予約は希望公演前日までevent@ele-king.netでも受け付けております。お名前・電話番号・希望枚数をメールにてお知らせください。当日、会場受付にて予約(前売り)料金でのご精算/ご入場とさせていただきます。

主催・制作:ele-king / P-VINE RECORDS
協力:シブヤテレビジョン ジェイルハウス 二◯一四(にせんじゅうよん)
TOTAL INFO:ele-king 03-5766-1335
event@ele-king.net
www.ele-king.net


interview with Jackson and His Computerband - ele-king


Jackson and His Computerband
Glow

Warp Records /ビート

Amazon iTunes

 最近のおすすめは?

 「う~ん......ジャクソン・アンド・ヒズ・コンピューターバンドかな。知ってる?」

 森は生きているを観ながら、ダークスターのジェームス・ヤングは僕にそう言った。え~、さすがにそれは意外っすね~......しかし、なるほど、ジャクソンの8年ぶりの新作『グロウ』(Lなので「白熱」とか「幸福感」の意)を聴いて腑に落ちた。〈ウォープ〉のレーベルメイトというだけでなく、両者には古楽(バロック音楽)へのアプローチがある。ジェームスはディーズ・ニュー・ピューリタンズの新作も褒めていたし。
 フレンチ・エレクトロとくればアゲでダンスのサウンド......というわけでもなく、『グロウ』は落ち着き払っている。耳をすましていると、楽器の音が無音のなかから静かに立ち上がってくるのがわかる。とはいえ、やっぱりアゲなサウンドにもなったりするが、そこからいきなりプログレのような展開を見せたりもする。それらがあまり不自然じゃないのは、ジャクソンの音楽に、ちゃんと通奏しているムードがあるからだろう。ダンスそのものというより、ダンスへの予感だ。多彩な色をサウンド・パレットに用意していながら、闇雲に絵の具をキャンヴァスに乗せて訳の分からない画を描いてしまうことなく、最終的にはエレクトロとして仕上げている。
 ダンスへの予感。それは少々体力を要する場面もあるけども、シンフォニックで聴きごたえがあり、随所でチルウェイヴも吸収されている。リヴィング・ルームでも流していて苦しくない。僕はそういう音楽が好きだ。

いまだにEDMが何なのかわかってないんだよね(笑)。そういうのを聞くと、いつも90年代を思い出すんだ。90年代のある時期、4ヶ月ごとくらいに毎回新しい名前が出て来てた。トランスコアとかアシッドトランス、それが出て来たと思ったらハードテクノと呼ばれるようになったり、プログレッシブ・ハウスにトライバル・テクノに...(笑)。

日本の好きなところと違和感のあるところを教えてください。日本に以前きたことがあれば、そのときとの違いも教えてください。

ジャクソン:日本のグラフィック・カルチャーが好きなんだ。看板とか、すごく魅力的だと思う。伝統とモダンが混ざり合ってるところも好きだね。違和感があるところは......違和感とは言えないけど、フランス語とは全然違うから、言語はやっぱり変な感じがする。予測出来ない未知のものって感じ(笑)。あとは、味覚でビックリすることもある。もしかしたら、日本人もフランス料理を食べて、え? と思うことがあるのかもしれないけど、俺にとっては、寿司とか焼き鳥は大丈夫なんだけど、たまにまるで革命かのように驚かされる食べ物もある(笑)。何かは覚えてないけど。日本食を食べる時は、それを口にするまでに本当にファーストステップから始めないといけない時があるね(笑)。あと、これも違和感じゃなくてビックリのほうだけど、トイレのシャワーは驚いたよ(笑)。前回と今回の違いは...まだ特には感じてない。まだ着いて2日だからね。

前作から今作をリリースするまでの8年間、あなたはエレクトロのシーンをどのように見てきましたか?

ジャクソン:いろいろな進化を見て来たよ。パリではSound PellegrinoやMarbelの人たちと一緒にスペースをシェアしてるんだけど、彼らは最新のものが大好きだから刺激になった。彼らが新しいものを俺に聴かせてきたりして。俺は色んなものを吸収しようと思ってるし、素晴らしい創造力を持っている作品なら全てに興味があるし、発見が好きなんだ。でも同時に、そういうトレンドをベースにレコードを作ったりはしない。その時その時の新しいものとか、そういうのにあまり興味がないんだ。だから、とくにシーンを追ってきたわけではないんだよ。

では、なんとなくでもいいので、この8年でエレクトロのシーンはどのように変化したと思いますか?

ジャクソン:うーん、プロダクションや、音のクオリティのなかに進化した部分があると思う。でも、やっぱり基盤は変わらないと思うんだよね。ヒップホップやドラムンベースと同じさ。同じものがリピートしてる。音楽自体というより、どうやってそれを使うか、取入れるかっていうほうが変化してるんじゃないかな。でもいまの時代、みんなプロデューサーになれるし、かなり簡単にトラックが作れる。だからたくさんのアイディアを見ることができて面白くもあるよね。本当に多くの人たちがトラックを作ってる。前に比べて、かなりの人たちがエレクトロ・ミュージックを作ってるっていう人口の爆発も変化のひとつだと思うよ。敢えて言うなら、メインの変化は音楽そのものよりそこだと思う。

前作から今作をリリースするまでの8年間、ライヴ・ショーなどを行っていたと思いますが、ライヴからレコーディングに与える影響や、レコーディングからライヴに与える影響などあれば教えてください。

ジャクソン:そうだな......もちろん影響はし合ってると思う。ステージにいると、実際オーディエンスとコンタクトをとることになるから、その音へのみんなのリアクションがわかる。それはやっぱり自分の曲作りに影響してると思うよ。でも今回のレコードでは、ライヴとレコーディングがふたつ同時進行って感じだったんだ。スタジオではこれ、ツアーではこれ、という感じにわけて考えるんじゃなくて、ライヴで実際にパフォーマンスできる、ステージで即興が出来るリアルサウンドを意識して作ったから。オーデェンスがサウンドと同時にそれをプレイしてる俺の動きも楽しめるっていうのも大切な要素だった。レコーディングとライヴは、なるだけ近くしたいと思ってる。リアルタイムで音楽を作るっていう方向性を心がけてるんだ。『スマッシュ』では、ちょっとインスタントさが足りなかったからね。

『グロウ』では、それが達成できたと思いますか?

ジャクソン:近づけたとは思う。このアルバムを完成させることが出来たし、いまはコンピューターバンドも存在する。だから、いまはその方向性への扉を開けたって感じかな。これをステップにもっとリアルタイムな音楽を作っていけたらと思ってるんだ。

前作から今作をリリースするまでの8年間、あなたを支えていた音楽があれば教えてください。

ジャクソン:ありすぎて選べないよ(苦笑)。本当に色んな音楽を聴いてたから。

では、このレコードを作るにあたって影響や刺激を受けた、またはパワーをもらった音楽はありますか?

ジャクソン:音楽というより、レコード作りに関して刺激や影響を受けるのは俺の場合は経験なんだ。俺はサウンドを特定するっていうプロセスを避けてるから、自分の意識に自然と従って音楽が出来るって感じでね。だから、自分でもそのうちのどの経験が実際に影響してるのかわからないんだ。何に近づきたいとか、そういうのはあまり考えたことがない。全てが勝手に起こるんだよ。動物的本能みたいなプロセスなんだ(笑)。

もともと、子どもの頃にハービー・ハンコックの曲で電子楽器の音を聞いたとのことですが、そこからジャズへいかなかったのは、当時どういう音楽をつくるかのイメージがすでにあったのでしょうか?

ジャクソン:10代の自分にかなりのインパクトを与えたレコードのなかの1枚が『ヘッド・ハンターズ』だった。これは、俺にとって本当に驚きのフュージョンだったんだ。エレクトロサウンドを使ってるけど、すごくファンキーで変わってて......美しいサウンドと型破りなサウンドの間を行く作品だった。普通の心地いいサウンドを聴いてるかと思ったら、いきなり超ビッグなサウンドが鳴りはじめたり。ワイルドになったり、すごくエレクトロになったり。それがすごくテクノっぽく聴こえたり。それでもファンクへの愛はキープされたまま。そこに魅力を感じた。

そういったたくさんの要素が混ざった音楽を作りたいというヴィジョンは10代の頃から持っていたのでしょうか?

ジャクソン:そうだね。でも、みんな10代のときは自分が好きな音楽をいかに上手くリメイクできるかに執着するけど、それは実際不可能(笑)。俺は、自分のアイドルをコピーしようと思ったことは一度もない。どうせできなくて、フラストレーションが溜まりまくってしまうから(笑)。でも、彼らをそうさせているエッセンスや、彼らの作品の何を自分が好きなのかは理解しようとしてた。他の人間にはなれないから、ヒーローをコピーしようとしたことは一度もないね。それを理解した上で、自分が自分なりの作品を作れればいいと思う。

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トラップ・ミュージックが急激につまらなくなったと思った時期はあったな。すごく面白かったけど、それが長続きしなかった。6ヶ月くらいですぐに形式的になってしまって。トレンドになりすぎたんだと思う。

あなたはジャクソン名義で1995年に〈パンプキン〉からハウス/テクノのミュージシャンとしてデビューしていますね。レイヴ・カルチャー(セカンド・サマー・オブ・ラヴ)への憧憬はいまもありますか?

ジャクソン:もちろん。俺のライヴ・ショーをプロデュースしてくれてる人がいるんだけど、彼は昔フリーパーティなんかをオーガナイズしてたんだ。すごくアクティヴでドリーミーな時代。俺がMCやDJをフォローしてた時代だね。だから、彼といるといまでもその時代が周りにある感じがする。俺は、いまだにテクノ・ラヴァーだよ。

フランスを代表するテクノのDJ=ローラン・ガルニエと、今年の9月に共演を果たしますね。彼からあなたに受け継がれたもの、また、あなたが発展させたものはなんでしょう?

ジャクソン:そうなの? 共演するなんて知らなかった(笑)。彼は、俺にテクノを発掘させた世代のアーティストのひとり。15歳くらいのときに彼のDJを見に行ったのを覚えてるよ。それに、彼は俺の音楽を初めてラジオでプレイしてくれたDJなんだ。だから、俺にとっては本当に大きな存在。学ぶというよりは、感謝することの方が多いね。俺にとっては、シンボルとして大きな存在だから。あと、2年前にManu le Malinと2、3回ショーをやったんだけど、彼は確実に俺のハードコア・テクノ・ヒーロー。彼と共演できるなんて最高だった。彼に、このトラック聴いたことある? とか聞いてみたり、このトラックをイントロでかけるべきだよ! なんて興奮して盛り上がっちゃって(笑)。彼は、覚えてくれてるんだな、みたいな感じで笑ってたけどね(笑)。だから、ローランと共演できるんだとしたら、それは本当に楽しみだよ。

90年代には「Sense Juice EP」のようなハウス・トラックを作っていましたが、『スマッシュ』ではオーケストラを取り入れた壮大なエレクトロへと作風を変えています。そこにはどのような経緯があったのでしょうか?

ジャクソン:さっきも少し話したけど、高校のとき、自分自身がどんなサウンドを融合したいかを考えてたんだ。で、ある時点で軽やかなものとファンキーなもの、そしてアグレッシヴなものをブレンドしたいなと思った。それが自分が組み合わせてみたい要素だと思ったんだ。で、俺はウェンディ・カルロスのファンだったから、彼女の要素も取入れてみたくなって。シネマ音楽というか、そういう音楽のスコアを入れるのは、ヒップホップでもよく取入れられてるしね。当時はあまりエレクトロでは御馴染みではなかったけど。

イギリスではダブステップの隆盛が起き、それはアメリカでスクリレックスなどのブロステップ(EDM)にとなり、レイヴに発展しています。ボーイズ・ノイズは「EDM」というタームについてネガティヴですが、あなたはどのようにお考えでしょうか?

ジャクソン:いまだにEDMが何なのかわかってないんだよね(笑)。そういうのを聞くと、いつも90年代を思い出すんだ。90年代のある時期、4ヶ月ごとくらいに毎回新しい名前が出て来てた。トランスコアとかアシッドトランス、それが出て来たと思ったらハードテクノと呼ばれるようになったり、プログレッシブ・ハウスにトライバル・テクノに......(笑)。あれはおかしかったな(笑)。当時はみんなデトロイトにハマって影響を受けてたから、ヨーロッパでは名前を付けたりしてみんながそういった音楽を色々分類しようとしてた。でも実際デトロイトDJのショーを見に行くと、彼らの殆どがその1セットの中で本当に色んな音楽をかけまくってたね。ハードなアシッド・トラックとか、ヴォーカル・ハウスとか、ガレージとか。テレンス・パーカーとかポール・ジョンソン、デリック・メイたちは、アシッドやガレージ、とにかく全てを行き来してたよ。アンダーグランド・レジスタンスもそう。彼ら自身は、名前なんて全然気にしてなかったんだ。長くなったけどつまりは(笑)、EDMなんてその分類の単なるひとつってことさ(笑)。俺はあまり気にしてない。何が最近起こってるのか、そもそも俺はあまり把握できてないしね。

ダフト・パンクの新作でのノスタルジアについてはどのようにお考えでしょうか?

ジャクソン:彼らは、毎回じゃないけどそれをよくやるよね。『ホームワーク』を聴いたら、彼らがオールドスクールの音楽を再解釈したトラックがいくつかあることがわかる。最新の作品では、彼らは大々的にそれをやってると思うんだ。70年代に既に作られたような音楽を再解釈してる。それでもモダンなディテールも入ってるんだ。面白いのは、ファースト・レコードをリリースしたとき、彼らはノン・テクノ・リスナーたちに向けてテクノをプレイしていたけど、いまはその逆をやってること。エレクトロ・キッズたちにディスコを聴かせてる。それだけじゃないけど、作品でみんなを教育してる感じがするね。『ホームワーク』は、ロック・オーディエンスやそれまでにテクノを全然聴いたことのない人の注目を得たけど、今回もそれと同じ。ジョルジオ・モロダーが誰かを全然知らない人が新しいダフト・パンクの作品を買ってるからね。そういう意味では、彼らの前と同じプロセスがリバースされてるんじゃないかな。

1曲目はビートルズ風のテイストがありながら、サーフポップ風にも展開します。他にも霊妙なオーケストラや、ハードなテクノもあります。あなたの曲の展開は、曲自身がそれを望んでいるのか、あるいはあなたが操っているのか、見解をお聞かせください。

ジャクソン:さっきも言ったように、曲の展開は、幸運な偶然や自意識の流れを活かした結果がそうなる。でも操った部分も少しはあるよ。60年代のポップの要素をブレンドして、それを他のものに見せかけたかったんだ。その形式を取入れて、それを壊して他のものにする、みたいな。その見解や内容を変えたかった。ちょっとしたゴーストのような存在のリファレンスだね。薄く存在してるけど、ハッキリとはしてない。あとは、そういったサウンドに対するちょっとしたオマージュとしても取入れてもいるんだ。

いまUKではハウスが流行っているときいています。〈キツネ〉や〈ビコーズ・レーベル〉も以前より落ち着いていますが、あなたから見たフランスのシーンはいかがでしょうか?

ジャクソン:どうだろうね。『DJ Mag』っていうイギリスの有名な雑誌に記事が載ってたけど、それにはフランスのシーンがいまアツいって書いてあった。たくさんの新しい才能やレーベルが出て来てるから。UKでハウスが流行ってるっていうのは、多分ディスクロージャーとかその辺のハウスサウンドのことだよね?いつだってサイクルがあるから、いま何が流行って流行ってないかはよくわからないな。

『DJ Mag』が言ってる、フランスのミュージック・シーンがいまアツいというのには同意しますか?

ジャクソン:ダイナミックな何かがあるとは思う。世界中でパフォーマンスしてるフレンチ・エレクトロ・アーティストのグループがいるし、彼らは成功してるしね。でも、フランスだけが特別ってわけじゃないからな......いまの時代、素晴らしい才能は世界のどこからでも発掘されてるし。

ここ最近で、もっともすばらしかった音楽と、もっともひどいと感じた音楽をおしえてください。

ジャクソン:音楽というか、俺が大好きなアーティストがいるんだ。ロサンゼルスのアーティストのジョン・マウス。ひどいと感じたのは......嫌いなわけじゃないんだけど、トラップ・ミュージックが急激につまらなくなったと思った時期はあったな。すごく面白かったけど、それが長続きしなかった。6ヶ月くらいですぐに形式的になってしまって。トレンドになりすぎたんだと思う。でもさっきも言ったように、俺は全てのフォーマットに常に惹かれてるから、その音楽自体があまり好きじゃなくても、それを人がどう聴いてるかに興味をもったり、どんな人がそれを好きなのか、何故好きなのかにはいつだって興味がある。それがどう彼らのライヴに影響するのか、とかね。だから、関心が全くなくなったわけではないんだ。

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俺はただ、〈ワープ〉というレーベルが大好きなだけ。彼らと良い関係が持てればそれでいいんだ。彼らはクールな作品をたくさんリリーすしてるからね。

"G.I. Jane"という曲は映画「G.I. Jane」からの影響でしょうか?

ジャクソン:あの映画自体はちょっと安っぽいけど、基本的にG.I.Janeはジェンダーに対する全ての問題に対するアイコンだと思うんだよね。そこからも影響を受けてるけど、同時にパロディでもある。支配とか服従とか、ジェンダー問題ではお決まりの強い女性の居場所とか、そういうことに対するパロディ。でも、愛の宣言の曲でもあるんだ。

あなたのオーケストラサウンドはホラーめいています。あなた自身の恐怖を表しているとすれば、なにに恐怖することがあるのでしょうか?

ジャクソン:恐怖を表してるわけじゃない。怖いものはあまりないよ(笑)。

そういうサウンドを使って、恐怖ではない自分のフィーリングを表現しようとするのは何故?

ジャクソン:自分でもわからない(笑)。ただ、なんか楽しいと思うんだよね。ホラー映画って、なんとなく楽しい要素がない?俺は好きなんだ。例えば、俺は70年代~80年代のイタリアのホラームービーのジャッロが好き。60年代の監督のMario Bavaの大ファンなんだよ。あの血の虜になったような感じとか、ダサいバイオレンスとかが好きなんだよね。」

オーケストラサウンドはなにから影響を受けたものですか? 好きなクラシックの作家はいますか?

ジャクソン:影響されてはいると思う。映画を見るときはいつもインスパイアされているから。クラシックの作家は、Anna Meredithっていうすごくクールなアーティストがいるんだよ。まだ若いんだけど、彼女は本当に面白いオーケストラの作品を作ってるんだ。

新曲"Vista"で歌っているのは前作に引き続き母親Paula Mooreですよね。お母さんはフォークシンガーですが、あなたの音楽をどのように評価していますか?

ジャクソン:いや、今回歌ってるのは母親じゃなくて、これもまたAnnaなんだけど、Anna Jeanっていうフランス人のアーティストが歌ってくれてるんだ。母親は、俺の音楽を気に入ってくれてるよ。

新しいアルバムはもう聴かれたんですか? また一緒に共演することはあるのでしょうか?

ジャクソン:いや、アルバムはまだ聴かせてないんだ。共演は...あるかもね。今回はしなかったけど、またやってもいいな、とは思う。でも、家族と仕事するのってやっぱりなんかちょっと(笑)。でも彼女は本当にクールなミュージシャンなんだ。

いまでもクラブに遊びにでかけますか?

ジャクソン:もちろん(笑)! 環境がそうだから、行かざるを得ないしね。ツアー中もクラブに行くし。

週何回くらい行ってます(笑)?

ジャクソン:わからない(笑)。機会があればいってるから。成り行きでそうなっちゃうこともある。一杯飲むつもりで行ったら、5時間後にはパーティにいたり(笑)。あれ、どうやってここに来たんだろう?みたいな(笑)。

自分のエモーションを音楽で表現するとき、実際のエモーションと曲のあいだに齟齬が生まれることはありますか? 

ジャクソン:あるある。だから面白いんだ。マルセル・デュシャンがクリエイティヴ・プロセスについて書いてる本があるんだけど、計画されず、プログラムされずに出て来たものが、それが良いものであっても悪いものであってもそのアーティストの価値を表すっていうセオリーが書かれてる。計画されていないクレイジーなものが加わることで、作品にその価値が与えられるんだ。だから俺は、自分が作ったものに対して迷いや驚きを感じる時は、逆に嬉しいんだよね。

また、自分のエモーションを音楽で発表するときに、気恥ずかしさはありませんか?

ジャクソン:もちろんあるよ(笑)。それは仕方がない。自分の感情を音楽で表現しようとする限りは。

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実は俺レコードを持ってないんだよ。何度も引っ越ししたり、色んな所に行ってるから、その度にいつもレコードを処分しないといけなくなって。いまはデジタルで保存できるしね。

先日、あなたのレーベルメイトでもあるダークスターにあなたの音楽をおすすめされました。『Vice』マガジンの紹介で〈WARP〉と契約し、8年前の前作からすでに〈WARP〉でのリリースでしたが、あなた自身、意外なレーベルと契約しているとは思いませんか? 

ジャクソン:ダークスターに? それは嬉しいね。〈ワープ〉は本当にたくさんの種類の音楽を扱ってるから、彼らがどんな音楽をリリースしようとしてるのかを無理矢理理解したり、分析したりしようとは思わない。俺はただ、〈ワープ〉というレーベルが大好きなだけ。彼らと良い関係が持てればそれでいいんだ。彼らはクールな作品をたくさんリリーすしてるからね。俺が〈ワープ〉っぽいレコードを作ったとは思わないけど、同時に、それが彼らが求めてることだとも思うし。

〈WARP〉で好きなアーティストやリリースを教えてください。

ジャクソン:ハドソン・モホークとラスティ。あとは、ダークスターも好きだし、オウテカも。それに新しいボーズ・オブ・カナダの作品も最高だったね。俺はとにかくワープの作品のファンなんだ。言い出したらきりがないよ。

あなたのレコードを棚にしまうとき、両隣は誰のレコードになるでしょうか?

ジャクソン:面白い質問だな。でもびっくりことに、実は俺レコードを持ってないんだよ。何度も引っ越ししたり、色んな所に行ってるから、その度にいつもレコードを処分しないといけなくなって。いまはデジタルで保存できるしね。でも持ってたとしたら......わからないな。分類するのってどうせつまらないし(笑)。

もしあなたから「コンピューター・バンド」がなくなったら、どんな楽器でどんな音楽をつくりますか?

ジャクソン:やっぱりピアノかな。ピアノはベスト。色んなことが出来るから。あとはダブルベースも使うかも。あの楽器は面白いからね。どんな音楽かはわからないけど、使うならそのふたつ。アコースティックで大きな役割を果たす楽器だからね。あとピアノは、身体が全部入るあの大きさが好きなんだ(笑)。

仮に、世界を強者と弱者に大別できるとします。あなたはどちらですか? 理由も教えてください。

ジャクソン:おいおい、自分が弱いなんて言ったらおわりだよ(笑)。強いか弱いか、そんなふうには機能しない。強いと言ってる人たちは、守り方や隠し方、対処の仕方を知らないんだよ。だから、彼らの方が所詮弱かったりもする。強さをわざと増やそうしてるからね。弱さと強さはいつだってバランスがとれてるんだ。精神的強さもあれば、身体的強さもあるわけだし。

情勢的なことも含め、フランスという国についてあなたが思うことを教えてください。

ジャクソン:正直、情勢のことはあまり考えない。実は、俺テレビを持ってないんだ。もう10年くらい。新聞も読まないし、ラジオも聴かない。だから、情報社会から離れてるんだよね。でも街に出れば人と話すから、国が大変な時期にいることはわかってはいる。でも自分の国は好きだよ。

では情勢と関係なく、フランスのいいところと、ださいところを教えてください。

ジャクソン:好きなのはワイン、女性、食(笑)。ダサいのは...わからないな。ステレオタイプ的なものは言いたくないし。他のものを見つけようとしても......ドイツにも住んでたし、イギリス人や日本人も見てるけど、やっぱり国というより人によるよね。

古いレコードを好んで聴きますか? また、それはなんのレコードでしょうか?レコードを持ってないとおっしゃってましたので、デジタルでも。

ジャクソン:フィリップ・グラス、ジェームズ・ブラウン、ウェンディ・カルロスの作品はよく聴いてるよ。

vol.53:サマー・エスケープ - ele-king

 ニューヨークは過ごしやすい涼しい日が続き、このまま秋突入かと思える。平日は、サマーステージ(@セントラルパーク)、ウォームアップ(@モマPS1)、リバー・ロックス(@ハドソン・リバー・ピア84)、セレブレート・ブルックリン(@プロスペクト・パーク)、サマースクリーン(@マカレンパーク)などの野外コンサートへ通っているが、週末は、ニュージャージー、コネチカット、プロヴィデンス、フィラデルフィアと、ニューヨークからの遠征を試みた。

 ニュージャージーは、マクロバイオティックのコンファレンス。大学、ブティック時代の知り合いが、デザートシェフをしていて、遊びにこないかと誘って頂いた。「マクロバイオティックとは」の講義を受けたり、エクササイズ、クッキングクラスなど、至れり尽くせりの授業を体験する。コンファレンスの会場のホテル以外にそこには何もなく、ひたすら勉強のみ。ニュージャージーと言えば、ヨ・ラ・テンゴが毎年11月にハヌカショーをしていたマックスウェルズという老舗の音楽会場が7月末にクローズ。CBGBがクローズした時ぐらいのショックだが、ニューヨークの図書館が、22,000枚のレコードの在庫を一斉放出(1枚1ドル!)するなど、ひとつの時代が終わった空虚感。

 コネチカットは、スピーク・イージー・ドールハウスという劇団の夏イヴェントに参加した。テーマはサーカスで、主催者のシンシア(トリコロールの水着の女の子)のコネチカットの別荘にはメリーゴーラウンドが回り、湖がすぐ横にある。キャンプに来るのは劇団に属するアーティストがほとんどで、日中は、湖で泳ぐ人、絵を書く人、アコーディオンを弾く人、フラフープなど、自分のやりたい事をする。著者は知り合いのアーティスに誘って頂いたのだが、自然と戯れ、行動をともにしていると、最初はよそよそしかった人も、キャンプが終わる頃には、大きな家族のようになっていた。さすがアーティスト、と思ったのは、料理でも、メイクでも、音楽でもなんでも器用にこなす事。ひとつの発想がどんどん転換して、形が作られていく。

 プロヴィデンスはバンドのツアー。ウーリー・フェアという3日間のアート・コミュニティのイヴェントに参加した。
https://woolytown.com/wooly-town-events/wooly-townfair-2013/

 フェスは、スティール・ヤードという一角で行われ、人びとが仮装し、カラフルな風船が飛び、木からぶら下がったブランコがあり、露店が並んでいる。Tシャツを印刷してくれたり、アンティーク機械でコーヒーを淹れてくれるダンディがいたり、ファンタジーの世界。ヒッピーのコミュニティに紛れ込んだようである。ダウンタイムの昼はビーチでまったりし、夜はライトニングボルトのメンバー宅でキャンプ・ファイアーをする。
 ライトニングボルトのDVD「パワー・オブ・サラダ」を監修したピーター・グランツhttps://imaginarycompany.org)にも会い、近況報告をうける。ピーターがアート・ディレクションをする、ラベンダー・ダイアモンドのベッキーとのプロジェクト「ウィ・キャン・ドゥ・イット」が興味深い。豪華なゲストも登場している。ライトニング・ボルトのブライアン・ギブソンがやっているバークレイズ・バーンヤード・クリッターズと言い、最近はアニメーションが面白そうだ。

 ニューヨークの話題としては、3年ぶりに復活したAa (ビッグAリトルa)を見に、この夏最後のサマー・スクリーンに行った。
 トッド・Pがキュレートする共演バンドは、ラットキング、アモン・デューンズ、チョタ・マドル。ラットキングは、ヒップホップ・アーティスト男の子3人組、XLのアーティスト。
 XLといえば、キング・クルールの新作も待ち遠しい。ターンテーブルの男子はバックパックを背負ったまま演奏していた。下ろす暇はなかったのか(暗くて写真とれず)?

 ビッグ・エー・リトル・エーAaは、ライトニング・ボルトや、ブラック・ダイス辺りのノイズ、エクスペリメンタル系バンドが活発だった頃(2006〜9?)によく見ていた。ドラム3人、シンセひとりというラインナップは当時は珍しかったが、今回は、メンバーひとりを除いて総変わりしていた。曲も新しかったが、Aa音はそのままで、メンバーが変わっても、音は受け継がれていた。周りを見るとラットキングの若いオーディエンスと変わって、ぐっと年配になっていた。その後見た映画は「ネヴァー・エンディング・ストーリー」。懐かしい。夏の終わりだ。

 カフェで働いていた頃は、昼も夜も週末も関係なく、ニューヨークから遠征することなどほとんどなかった。周りの音楽関係者が、週末はアップステートに、夏はヨーロッパへなどいろんな所に行っているのを見ていたが、実際自分がそれを体験すると、オンとオフを切り替えることができて良い。頭がリセットされ、いろんなヒントが見えるようだ。

 来週は、フェミニスト・アートガレージ・ポップ・パンク・バンドのプリティ・グリーンズから招待を受け(メンバーのふたりがグリーンという名字を名乗る)、フィラデルフィアへ遠征予定。みなさんの夏はいかがでしたか?

K. Locke - ele-king

 3年以内にリリースされた新譜しか聴かないことを目標にしよう。20世紀の音楽のようなファナティックな物語を持たない音楽ばかりを聴こう。音楽への幻想のないこの街で新しい音楽ばかりを聴いていれば自分の音楽へのアプローチも変わるかもしれない。ナイトライフとは無縁の人間となった僕がシカゴのジューク/フットワークのCDを家で聴いているのは単純に音が面白いからだが、夜には聴かない。小心者の僕は、近所からの苦情を恐れて昼に聴くのである。そんな生活をこの2年続けていたら、自分にとってジューク/フットワークは休日の音楽となった。日本の〈BOOTY TUNE〉からリリースされたケーロックのアルバム『The Abstract View』には、いまもっともしっくりくる音が録音されているが、しかも、この方はトラックスマンの愛弟子だそうで、しかも、ジェイディラやフライング・ロータスを愛しているらしく、いまにも襲撃されてしまいそうなジューク/フットワークとはひと味違った、エモーショナルな感覚に特徴を持っている。
 たとえば"Muy Bien"や"The Barrio Sun"のような曲を聴いたら、クラブ・ジャズが好きな人も「何これ?」と訊いてくるだろう。とくに"The Barrio Sun"。これはとんでもない名曲で、90年代半ばのロン・トレントのディープ・ハウスとスピリチュアル・ジャズとジュークが合わさったような......と書いていると、結局は、20世紀の音楽と地続きのものを自分は聴いているのだとわかる。"Roll Sum Weed"のサンプリングとルーピングはジェイディラをジュークで再現したようだし、"The Piano's House"なんかは80年代のピアノ・ハウスの再解釈だし、音感が良い人なのだろう、サンプリング音楽でもハーモニーがしっかりある。
 下品でクズで、同時にエレガントで崇高なるものという対極の往復がシカゴにはあって、それがいまも受け継がれている。ディストピアとユートピア、大げさにいえば死と生。ただ生きているだけではつまらないからと見つけた楽しみ。ちんぴらもちんぴらじゃない人も、成績の良い子も悪い子もいっしょに楽しめる音楽。こうしたゲットー・ミュージックが資本のない日本の小さなレーベルと共振して、たんなるライセンスではなく、歴然とした新作を出すことは20世紀にはなかった。90年代、そういうことはヨーロッパのレーベルがやることだった。
 ケーロックは「若干21歳にしてすでに200曲を超えるジューク・トラックを制作」だそうで、『The Abstract View』が〈プラネット・ミュー〉や〈ハイパーダブ〉から出ていないだけで遠慮している人がいたらもったいない話だ。なお、アートワークはシミラボでお馴染みのMA1LL。〈BOOTY TUNE〉、グッドジョブ。

The Haxan Cloak - ele-king

 一昨日のイヴェントの際、友人がフロアをガン無視したアヴァンDJっぷりを発揮するなか、殊のほかひどかったのはコレであった。いやしかしまったく気づかなかった。いつの間にハクサン・クロークはここまでヒップな存在になっていたのか。やはりここで改めてUKの暗黒オブスキュア・ミュージック・レーベル、〈オーロラ・ボレアリス(Aurora Borealis)〉の実力を再認識させられている。

 ドゥーム・メタルやワンマン・ブラックメタルが絶賛ドローン化していた2004年頃産声をあげたこのレーベルは同郷の〈ブラッケスト・レインボー(Blackest Rainbow)〉と並び、時代へ一石を投じるサウンドの発掘に貢献してきたのだ。とりわけ文字通り多くのリスナーの耳に極端に響くエクストリーム・ミュージックからの精鋭的なリリースという点においては、なんせ最初のリリースが〈インテグリティ(Integrity)〉であるオーロラ・ボレアリスは常に最速であった。モス(Moss)、KTL、シルヴェスター・アンファン(Silvester Anfang)、ヘヴィ・ウィングド(Heavy Winged)、ラセファル(L'Acephale)、ブリアル・ヘックス(Burial Hex)、どれも僕にとっては感慨深いバンドばかりだ。

 ハクサン・クローク(魔女のマント)ことボビー・ケリックがセルフ・タイトルのファースト・アルバムを最初に聴いたとき、僕は同レーベルのデッド・ライヴン・コイアー(Dead Raven Choir)を洗練させたようなバンドといった程度の認識であったが、つづく即完売したEP、オブサーヴァトリー(Observatory)を一聴して吹き飛ばされた。ヴァイオリンやチェロやパーカッションの生音レコーディングで大切に創りあげたダーク・アンビエントとゴスな旋律が整然とつづく曲構成。そこでダレることなく展開される彼のオリジナリティーは、このEPでの明快なシーケンスの下、完全に昇華されたと言えよう。

『エクスカヴェイション(Excavation)』は、これまで以上に電子音のザラつきをフィーチャーし、ジェイムス・プロトキン(James Plotkin)のソロ・ワークやミック・ハリス(Mick Harris)のスコーン(Scorn)を彷彿させ、彼の音楽的嗜好の背景にあるものを強く感じ取らせる。素晴らしいアルバムだ。脈々と流れる暗黒音響派のDNAと、〈Tri Angle(トライ・アングル)〉からのリリースが意味するウィッチ・ハウス・ムーヴメント、そしてニューエイジ・インダストリアル、それらの納得のゆく着地点。そういった意味でも2013年度の重要な一枚といえる。あえてこのアルバムに対してはインダストリアルを唱えるよりも、松村さんリスペクトでドゥーム・エレクトロニカ(byスタジオボイス)と呼びたい。

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