「K A R Y Y N」と一致するもの

Masahiko Takeda - ele-king

in the bag


1
V.A. - First Recitation [Récit Records]

2
Takashi Himeoka - Francis [Croisiere Musique]

3
Yudai Tamura - Subterranean [The Rabbit Hole]

4
Sepp - Basorelief Edict [Uvar]

5
Cristi Cons - Nutatia [[a:rpia:r]]

6
Mayday - TicTicTic [Pheerce Citi]

7
Farben - the sampling matter ep [Farben]

8
Philipp Priebe - The Being of the Beautiful [IL Y A]

9
Rick Wade - Waveheart [Harmonie Park]

10
Pantha Du Prince & The Bell Laboratory - Elements of Light [Rough Trade]

https://masahikotakeda.com/


1
HOLDEN - The Illuminations (Arpsolo) - border community recordings

2
Commodity Place - Ahura Mazda’ - électronique.it records

3
SHOCKS - PULSE - ESP

4
CRUISE FAMILY - BE PART OF IT(CLUB MIX) - not not fun records

5
PANACUSTICA - loto a : rat’s poem.cosmic metal mother - food & music lab,rama

6
COSMIC HANDSHAKES - the delicate details - M1S-SESSIONS

7
PRINS THOMAS’ - Bobletekno (DJ Sotofett’s Ride-On-411-Disco-Mix) - FULL PUPP

8
LEISURE CONNECTION - WAVE RIDING - NO SOUND IN SPACE

9
COLDFEET - IN MY LUCID DREAMSKARMA RMX - SPECTRUM WORKS

10
Kim Brown - People’s Republic - just another beat

blog : https://djkazushi.blogspot.jp
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DJ Schedule
14.9.27(sat) MAJIO EXHIBITION CLOSING PARTY@仙台PANGAEA
14.9.28(sun)寺フェス&神社フェス@仙台 徳泉寺&榴ヶ岡天満宮
14.10.1(wed) TRAVESSIA@神宮前bonobo
14.10.3(fri) @阿佐ヶ谷Cafein
14.10.4(sat) immix@東高円寺GRASSROOTS
14.10.24(fri) BASED ON KYOTO Releace Party@仙台PANGAEA
14.11.1-3 FLOWER CAMP@長崎 トリカブト生活科学研究所
14.11.29(sat) @鹿児島

interview with Hokuto Asami - ele-king

 浅見北斗はいい男である。情熱的で、反抗的で、ファニーで、色気があり、自分が「かっこいい!」と感じたバンドやミュージシャン、音楽にすさまじい熱量の高さで対峙する。この、Have A Nice Day!というオルタナ・ロック・バンドのリーダーにして、〈SCUM PARK〉という東京のアンダーグラウンド・パーティの首謀者が、このインタヴューで「インディペンデント」「コミュニティ」「ムーヴメント」といった、これまでの人生で何百回目にし、耳にし、口にしてきたかわからない手垢のついた、ときとして空虚さをはらむことばを迷いなく発語するとき、それらのことばが瑞々しい生気を与えられ、キラキラと輝き出すように思えた。

 筆者は、〈SCUM PARK〉と、音楽クルー〈音楽前夜社〉の主宰者であり、そのクルーのメイン・バンド、GORO GOLOのリーダーであるスガナミユウが〈新宿ロフト〉で主催する入場無料パーティ〈歌舞伎町Forever Free!!!〉でHave A Nice Day!のライヴを何度か目撃している。ステージ上で汗だくの、意外にも筋肉隆々の浅見は、パンキッシュなニューウェーブ・サウンドに乗せて、「フォーエバーヤング!」という歌詞を、ダンスフロアで巻き起こるモッシュピットの渦にガソリンを注ぐようにくり返し放り込んでいた。

 パーティ全体のクラウドの熱狂とそれぞれの出演者の個性的なライヴの風景とともに、とくに筆者の脳裏に焼きついたのは、浅見の、クレイジーでありながらもクールなステージ・パフォーマンスだった。混沌とした集団のなかで、このヴォーカリストは静かに異彩を放ち、その姿は美しくもあった。そうか、あの踊りはゴリラステップというのか……。ともあれ、直感的に、「この男に話を訊いてみたい」と思い立ち、あるライヴ後、機会があればインタヴューをさせてほしいと依頼したのだった。筆者が、浅見が『FRESH EVIL DEAD』というコンピレーションの監修をしていると知ったのは、その数週間後である。


V.A.
Fresh Evil Dead

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HardcoreJuke/FootworkElectronicPunk

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 ここで紹介する『FRESH EVIL DEAD』は、〈SCUM PARK〉、〈歌舞伎町Forever Free!!!〉、そしてそのふたつのパーティの起源となっている、ジューク/フットワークのパーティ〈SHIN-JUKE〉周辺のバンド、トラックメイカー、DJ、ラッパー、パフォーマーらの楽曲を集めたものだ。監修者は浅見とスガナミユウと、〈SHIN-JUKE〉の主催者という顔の他に〈オモチレコード〉のCEO/新宿ロフトの副店主という顔を持つ望月慎之輔である。

 『FRESH EVIL DEAD』には、現在の東京で、局地的に異様な熱気を帯びているアンダーグラウンド・パーティ・シーンの記録としての意味合いも付与されているものの、すべての収録曲が楽曲そのものとしてユニークでおもしろい。その詳細については、浅見がインタヴューのなかで、凄まじい情報量とともに酔狂に語ってくれている(この男は酒を飲まないのだが、それもまた興味深い)。このコンピは、浅見の情熱の結晶のようなものなのだろう。リンクをあれこれと貼りたい衝動にも駆られたが、濃密さが薄れると判断して、あえて最小限におさえた。この記事を読むみなさんは、独自にディグる方たちだと思う。

 前半はコンピの楽曲について、そして後半は、〈SCUM PARK〉を通じて浅見が考えるパーティやインディペンデント、コミュニティやムーヴメントとは何なのか? ということが浮き彫りになってくるようなグルーヴィーなトークとなった。スガナミユウも同席しておこなった、浅見北斗のロング・インタヴューをお送りしよう。

これまでの〈SCUM PARK〉フライヤー・デザインには、2010年以降のインターネット・アンダーグラウンドと、まさに“SCUM PARK”としか呼びようのない彼らのパーティのリアリティが象徴的に表れている。


われわれのシーンはべつに新しくはないし、新しい音楽をやっているわけでもないんです。だから、“新鮮な死霊のはらわた”というタイトルは“腐敗している新鮮な状態”という意味合いを込めてつけた。

やはり最初は『FRESH EVIL DEAD』の中身の話から訊いていきたいと思うんですけど、まず、このタイトルにしたのはなぜですか?

浅見北斗(以下、浅見):最初はタイトルにすげぇ悩んだんですけど、『死霊のはらわた』から取ったんですよ。われわれのシーンはべつに新しくはないし、新しい音楽をやっているわけでもないんです。いわゆる最先端なことをやっているとかではない。ジュークの人たちともやっているけれど、〈SCUM PARK〉そのものは新しくはなくて、だから、“新鮮な死霊のはらわた”というタイトルは“腐敗している新鮮な状態”という意味合いを込めてつけた。すげぇ矛盾してるんだけどね。それと、あの映画は、サム・ライミがインディペンデントで撮った映画というのもあった。さらには〈SCUM PARK〉に集まるクラウドやフロアを指してるタイトルでもあります。オール・ピーク・タイムな不死身のフロア。〈SCUM PARK〉は出演者だけじゃなくてそこに集まるクラウドが作る強烈な雰囲気がめちゃくちゃ重要なパーティーなんで。
 最初はいまの東京のベース・ミュージックとかオルタナのいちばん新しいものって感じでまとめようとしたんだけど、そんなことをわれわれがやって意味があるのかな? っていうのも若干あって、コンピがうまくいくかさえ不安だったんですよ。そういうことをやってる人たちは他にいるだろうし。最終的に〈SCUM PARK〉をそのまま音源化した格好になりましたね。〈SCUM PARK〉で人気のある曲を選んだりしました。

たとえば、NATURE DANGER GANG(以下NDG)の“BIG BOOTY BITCH”とかですか?

浅見:あの曲を俺たちは“デカケツ”って呼んでるんですけど(笑)。あとは、ハバナイ(Have A Nice Day!)の“フォーエバーヤング”。

“フォーエバーヤング”は〈SCUM PARK〉のアンサムでしょ!

浅見:アンサムでしょ! って(笑)。あとはチミドロの“わんにゃんパーク”とか、実際にそんなにライヴでやったりはしないけど、Gnyonpixの“Dive to The Bass (remix) feat. Y.I.M & Have a Nice Day!”とかね。昨年、〈オモチレコード〉でGnyonpixがCDを出すときに、俺とGnyonpixでボーナス・トラックをつけようってなって、ラップのところだけY.I.Mにやってもらった。リリースしたとき、わりかし評判がよかったし。

ということは、既発曲がかなりある?

浅見:既発曲がかなり多い。新しく曲をちょうだいって言ってもらったのは、Glocal PussysとHarley&Quinかな。あとはRAP BRAINS。RAP BRAINSは彼らの大量にある未発表曲のなかから選んだ感じだけど。だから、〈SCUM PARK〉とか〈SHIN-JUKE〉に遊び来ていて、音源もチェックしている人は知ってる曲が多いと思う。Bandcampやフリーで落とせるヤツもたくさんあるから。チミドロの“わんにゃんパーク”はフリーで落とせるし、いくつかそういう曲がある。要するにマスターピースを集めたんですよ(キリッとした表情で)。

おおおぉ。

浅見:みんなが知っている「あの曲ね」っていう曲のなかでも、「俺がこの曲がほしい」って曲を集めてる。だから、みんなの印象はそれぞれ違うかもしれないけど、このコンピのトラックリストが出たときに、よく遊びに来ている人は、「これはわれわれのアンセムだ」って言ってくれたし、俺もそういうつもりで作った。

スガナミさんはコンピの制作に関して、ディレクションをしました?

スガナミユウ(以下、スガナミ):基本、浅見さんに一任しましたね。相談や微調整はしたけど、決めるのは浅見さん。監修者が3人いるんで、マインドはひとりが持っていないと力強さが出ないと思った。

このコンピでジュークがひとつの要になってますよね。異なるジャンルを結びつける重要な媒体になっているというか。

浅見:NDGの“Legacy Horns (JINNIKUMAN JUKE EDIT)”とかね。この曲はシカゴのDJ Torchのアルバム(『Legacy Horn EP』)を〈Booty Tune〉が出すときに、D.J.APRILがNDGにリミックスを依頼したんですよ。完成したのを聴いたら、ラップまで乗っかっていたというね(笑)。リミックスって普通、歌までは乗っけないでしょ! それをヤツらは勝手にラップまで乗っけてきたんだけど、DJ Torchのアルバムに入って無事にリリースされた。

よく遊びに来ている人は、「これはわれわれのアンセムだ」って言ってくれたし、俺もそういうつもりで作った。(浅見)

監修者が3人いるんで、マインドはひとりが持っていないと力強さが出ないと思った。(スガナミ)

すごいいい話じゃないですか。Have A Nice Day!(以下ハバナイ)の“Kill Me Tonight Remix (Feat. EQ Why)”もジュークですね。

浅見:そう!! これについてはぜひここで語りたい!!

思いっきり語ってください!

浅見:EQはシカゴのヤツで、トラックスマンの弟子かRP・ブーの弟子でさ。

『Bangs & Works vol.2』にも彼の曲が3曲収録されてますよね。

浅見:そう。そのときはたしかT-Whyって名義だった。ヤツはトラックスマンの次世代として期待されていたんだけど、TEKLIFEクルーのなかでいろいろあったらしく。よくわからないけど、なにか問題を起こして、鼻つまみ者になったらしいの。まあそれはいいんだけど、要はシカゴのローカルの若手みたいなヤツで、俺もEQの存在は知ってた。で、俺は去年の4月か5月に“Kill Me Tonight”の原曲をSoundCloudにアップしたんですよ。そうしたら、すんげぇ評判が悪かった。メンバーから、「ぜんぜんこの曲よくない」って言われて。みんなはいつも、俺が曲を作ると、だいたい持ち上げてくれるんだけど、そのときは誰も持ち上げてくれなくて。

それはショックだ。

浅見:そうしたら、EQが「この曲いいね! データちょうだい!」って、SoundCloud上でコンタクトしてきて。日本人が誰も反応してくれないのに、シカゴのヤツが反応してくれて、「マジかよ!」って、すげぇうれしくなって。それで、「データをあげるから、リミックスしてくれ」って頼んだら、最初は「リミックスすると金がかかるけど、大丈夫か?」って感じだったんだけど、なんやかんやで作ってくれた。タダで。

そのやり取りは、お互いを直接知らない状態で、誰かを介してとかでもなくおこなわれたんですか?

浅見:そう! だから、シカゴのフットワークと東京が邂逅したんだって、すっげぇ感動した。EQがなにに反応したのかはわからないけど……、「Kill Me Tonight」ってフレーズに反応したのかな。

これはなかなかキザなフレーズですねぇ。

浅見:「今夜、俺を殺せ!」ってことなんだけどね。

わかります(笑)。

浅見:アルファベッツに“今夜殺せ”って曲がありますけどね。「今夜殺せ/鳥の餌になれ」ってね。まあ、そこから来たわけではないけどね。

で、GORO GOLO の“SUMMER HITS Boogie Mann Remix” には、ジュークの日本独自のポップな展開というか、多様性を感じますよね。

浅見:この曲をリミックスした Boogie Mannは〈SHINKARON〉っていう横浜のジュークのレーベルのトラックメイカーで、〈SHINKARON〉にはFRUITYってヤツもいて、みんな若くて、お洒落で、生意気(笑)。FRUITYに“フォーエバーヤング”のリミックスを作ってもらったんだけど、ほら、リミックスって原曲を超えてなくて、「原曲のほうがいいじゃん」っていうのが多々あるけど、そのリミックスはちがった。FRUITYはバランス感覚が良くて、優秀なんですよ。〈SHINKARON〉ってみんな優秀なのよ。キャッチーなところを残して、ポップ・ミュージックとして楽しめるラインで上手いことできる。ジュークのなかの若い世代で、そういうことが自然にできる人たちだね。

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パーティのあとに、「髪が緑色の変なヤツがいたな」とか「いつもと違うヤツがいたね」とか「なんなんだろうね」ってみんなで話したりしてて。「なんかいい顔してるな」って(笑)。(浅見)


V.A.
Fresh Evil Dead

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なるほど。コンピの冒頭を飾るFat Fox Fanclub(以下FFF)の “Laugh Song (Laugh Gorge Laugh Song by Takaakirah Ishii with Gorge Clooney)”は、ダンサンブルで、パンキッシュですよね。

浅見:この曲は俺のなかで90年代みたいなイメージなんですよ。〈グランド・ロイヤル〉みたいなイメージなの。ジョン・スペンサーとかビースティー(・ボーイズ)とかチボ・マットって感じ。

ああ、なるほど。

浅見:この曲は〈Terminal Explosion〉ってレーベルがゴルジェ・リミックスでやってくれたんですよ。ゴルジェとFFFをつなげようという異種格闘技的な感じで。〈Terminal Explosion〉は、京都のインダストリアルとかゴルジェのレーベルなんですけど、ジュークの人ともつながってて、この曲はBandcampでリリースされてるコンピに入ってる。FFFは〈SCUM PARK〉にとってすげぇ重要で、彼女たちとNDGがいたから、〈SCUM PARK〉はここまで持続できたというのはある。これだけかっこいいバンドなのに、これだけ知られていないバンドが東京に存在するんだぞって。俺は、そういうヤツらがちゃんと評価されるフィールドでライヴをさせたいというモチヴェージョンがあったから。ヴォーカルのペリカンにはファンキーな感じがあって、しかもヒップホップの雰囲気を漂わせるロックンロールを女の子4人でちゃんと成立させてる。彼女たちみたいなバンドはいないよ。

いま、NATURE DANGER GANGの名前も出ましたけど、浅見さんのNDGへの熱い思いも聞きたいですね。

浅見:NDGのSEKIくんは、最初〈SHIN-JUKE vol.2〉に遊びに来てたんですよ。ジュークが好きで、ただの客として。そのときは彼と話さなかったんだけど、パーティのあとに、「髪が緑色の変なヤツがいたな」とか「いつもと違うヤツがいたね」とか「なんなんだろうね」ってみんなで話したりしてて。「なんかいい顔してるな」って(笑)。
 で、SEKIくんがまた別の日のイヴェントに遊びに来てくれて、いろいろ話したの。SEKIくんはそのときすでに、SoundCloudにたくさん曲をアップしてたから、たしかモチ(望月慎之輔)さんが「今度、イヴェントやるからDJやってよ」って頼んだんだと思う。そうしたら、「いや、バンドやります!」って話になって、そこではじめてNDGが発生したんですよ。というか、SEKIくんが、〈SHIN-JUKE vol.2〉でどついたるねんのライヴを観てて、「どついたるねんみたいなバンドをやります」って言ってはじめたのが、NDGだった。

そこからはじまったけど、どついたるねんとはまったく違う方向性の異色のバンドになっていくわけですね。

浅見:とんでもないのができたなって。俺はNDGに関しては、すごい考えることが多い。NDGは音楽じゃなくて、アートなんですよ。あれは音楽とかじゃない。NDGの歌詞ってまったく意味がないんです。無意味なんです。この前、チミドロのリーダーのナオくんと話していたのが、「NDGの歌詞はすごい」と。俺たちが歌詞を作るときは、意味のないことを考えてんだけど、どうしても意味を持たせちゃう。でも、NDGはまったく意味を持たせない。そのいちばん極端な例が、LEF!!! CREW!!!とNDGがいっしょにやった、アタリ・ティーンエイジ・ライオットの“スピード”のカヴァーなんです! このカヴァーはアタリの曲を空耳でカヴァーしてるんだけど、ほら、アタリってめちゃめちゃ政治的メッセージを持ったグループじゃないですか、その歌を空耳で、音だけで、表面的にカヴァーして中身がまったくない。
 じゃあ、NDGの中身にはなにがあるのか? そこには人間がいるんですよ。NDGの各メンバーの生き様があるんです。悪口でもなんでもなくて、NDGのメンバーでセンスが良いヤツはひとりもいないんです。センスが悪いヤツばっかりなの。そいつらが、NATURE DANGER GANGに入ったことによって、NATURE DANGER GANG化するんですよ。自分と自分の美意識のすべてをつめこんだ自分の形をライヴでぶつけるわけですよ。だから、われわれは人間の塊を観てるんです。共感するとかではなくて、暴走族とかヤンキーを観てるようなものなんです。そういうことに近い。
 だからNDGっていうのは、バンドよりはアイドルに近くて、つまり、偶像化されているんです。NDGのことがすごい好きな、オルタナ・シーンのライヴ・ジャンキーって言われる人たちがいて、そのなかのひとりが、「アイドルは理解できないけど、アイドルが好きな人の心持ちは、自分がNDGを好きな心持ちと近いのかもしれない」って言ってた。要するに成長を見守るってところが似てる。NDGはそういうことを狙ったわけじゃないけど、結果的にそういう形になってる。あれだけまったく意味がないことの理由が、そこにあるのかなって俺は考えてる。

うんうん。

NDGのメンバーでセンスが良いヤツはひとりもいないんです。そいつらが、NATURE DANGER GANGに入ったことによって、NATURE DANGER GANG化するんですよ。だから、われわれは人間の塊を観てるんです。(浅見)

浅見:で、次は、§✝§(サス)とmirrorball infernoとHarley&Quinについて語りたいんだけど、彼らはガチンコで〈SCUM PARK〉のシーンのものではないんですよ。§✝§のメンバーがやってたde!nialってバンドを〈SCUM PARK〉に1回呼んだことがあるし、§✝§はGnyonpixのレコ発のときに呼んで、ライヴもすごい盛りあがったけど、そこまでメンバーと仲が良かったり、つながりがあるわけではないんです。
 ウィッチハウスはアメリカ本国では廃れて、廃墟と化したムーヴメントになってるけど、いま流行ってるか否かとか関係なく、自分たちがやりたいことをやりたいときにやる§?§のスタンスが好きですね。§✝§は4人組で、中心人物のswaptvくんがけっこう前からやってるグループで、いまはセーラーかんな子ちゃんがヴォーカルをやってて、彼女が加入して、ある種アイドルじゃないけど、インターネットを偶像化したところが§✝§のすごいところなんですよ。インターネットは概念じゃないですか。でも、そのインターネットをひとつのグループにしたのがすごい。

そう考えると、『FRESH EVIL DEAD』は、リアルな〈SCAM PARK〉のパーティそのものの範疇を超えたところにあるコンピと言えますよね。

浅見:そうですね。Harley&Quinは4人組なんだけど、メンバーのラスベガスさんこそアンダーレイテッドな人だと俺は思ってますね。“J.E.F.F.”は新録で、ビートが日本刀で、編曲がラスベさんですね。

Harley&Quinのトラックはむっちゃファンキーなテクノですよね。

浅見:うん。Harley&Quinとmirrorball infernoは新宿の〈BE-WAVE〉で〈TECHNOPARTY〉っていうパーティを不定期にやってるんですよ。ちなみにラスベさんとmirrorball infernoは、〈Maltine〉からも作品をリリースしてますね。で、NDGのやってる〈ハイテンションパーティー〉にmirrorball infernoが出てて、かっこよかったから〈SCUM PARK〉にも出てもらった。mirrorball infernoの曲はライヴのいちばん最後のほうにやる曲で、俺のなかではアゲアゲのディスコ・ダブのイメージだったんだけど、本人たちいわくトランスなんだって。とにかく、mirrorball infernoは音楽的に俺のツボ!

その一方で、このコンピはヒップホップ色やラップ・ミュージックの要素も強いでしょ。RAP BRAINSみたいな大所帯のヒップホップ・グループもいますし。

浅見:RAP BRAINSは、〈SCUM PARK〉のメンツのなかではかなり初期からいて、NDG、FFF、RAP BRAINSぐらいの順番なんですよ。RAP BRAINSに関しては、MCひとりひとりのラップというよりは、ベース・ミュージック、ダンス・ミュージックとしておもしろいと思ってて。

オールドスクール・ヒップホップやエレクトロのノリもあるでしょ。

浅見:そうですね。最初のころは、イヴェントにうまくはまらないと思ったこともあったんだけど、去年の8月に新宿の〈LOFT〉でやった〈SCUM PARK〉のときにステージじゃなくて、フロアでやったんですよ。低音もかなり鳴ってて、人がいっぱい入り乱れて、ラッパーと観客の境がなくなって、誰がラップしてるのかさえわからないぐらいだった。そのときに、モッシュみたいなフィジカルな部分が出てくるのがおもしろくて、われわれオルタナのステージとか、パンクスのモッシュピットに近いものがあるって思った。RAP BRAINSは来年2月ぐらいに〈オモチレコード〉からCDを出すから、それまでにいまのノリをもっと拡張してほしいね!

ラップ・ミュージックとして聴いたときに、大所帯な、クルー感のあるRAP BRAINSと対照的なのが、ALchinBondとSOCCERBOYですよね。

浅見:ALchinは日本のジューク・コミュニティの人は全員知ってて、いわゆるヒップホップ・シーンの人には知られてないだろうけど、ジューク・コミュニティでは圧倒的に支持されてるんですよ。たとえば、九州の小倉とか佐世保でジュークをやってる人たちがいて、彼らのパーティではALchinの曲が一晩で2、3回ぐらいかかるらしいんですよ。それぐらい局地的にめちゃくちゃ支持されている。はじめてライヴを観たのが、RAP BRAINSの〈Brainspotting〉ってパーティだったんだけど、そのときのALchinのライヴがあまりによくてさ。背が高くて、手足も長いから見た目も映えるの。単純にラップがかっこいいし、1MC2DJでライヴするんだけど、ジュークのビートが間断なくかかる上で、フリースタイルなのか、既存の曲なのかわからない感じで進んでいくの。

イル・ボスティーノを彷彿させる重量感を感じますよね。

浅見:そう! リリシストなんだよね!

ビートはトリッキーなジュークだけど、ラップのフロウもリリックもどっしりしてて、そのギャップが個性的で、おもしろい。ライヴ、観たくなりますね。

浅見:ハードボイルドな感じがいいんですよ。ALchinはもっと大きなステージで活躍してもらいたい存在なんだけど、どうしてもライヴにむらがあって、ひどいライヴもあるし、お酒を飲んじゃうとヤバい(笑)。
 で、SOCCERBOYくんとは少し話したことがある程度で俺はそんなに詳しくないんだけど、モチさんが〈SHIN-JUKE〉に呼んでて、そのときのライヴがかっこよかったんですよ。いわゆるヒップホップ、ラップというのではなくて、キング牧師の演説みたいなところがある。

俺はLKJのダブ・ポエトリーを思い出した。

浅見:うんうん。DJ MAYAKUとやってる“DANCE WITH WOLVES”が好きだったから、その曲を入れたかったんだけど、今回収録した“Message in a Battle (DJ MAYAKU Remix)”もすごくかっこいい。MCの個の力で聴かせられるのが、ALchinとSOCCERBOYだと思う。

MCといえば、Glocal PussysのMC RyNのパーティMCとダンスフロアの煽り芸はリアルにプロ級なわけだけど、DJのAscalypsoがトラックを作って、MC RyNが歌う“Burning Up”は彼女たちにとっての初のオリジナル音源で、彼女たちらしいセクシーでワイルドな歌モノのベース・ミュージックですよね。

浅見:Glocalは俺が言うことがないほどかっこいい! 

語ってください!

浅見:うん。チミドロが〈ゲットー酒場〉っていうイヴェントを池袋の〈ミュージック・オルグ〉でやってるんだけど、それをシモキタの〈SHELTER〉で〈ゲットー墓場〉ってタイトルにしてやったんですよ。〈SCUM PARK〉とジューク、ベース・ミュージックがいっしょにやるってコンセプトで。そのときにGlocalをはじめて観て、すげぇかっこよかったの。Glocalはイロモノ的なフォーマットに乗っけられかねないけど、俺はGlocalこそかっこいいグループだと思ってる。

女性2人組のラップ・デュオ、Y.I.Mについてはどうですか?

浅見:Y.I.Mは去年の8月にはじめて〈SCUM PARK〉に出たんだけど、俺はもともと、ああいうバランス感覚がいいヤツらがそんなに好きじゃないんですよ(笑)。

身内ディスか!

浅見:いや、最初、鎮座DOPENESSがサポートで来てて、「こいつら、なんかむかつくな。有名人出せばいいのかよ」って思ったんだけど、よく聴いたらかっこいいんだ! ふたりはバカそうに見せて、じつはすごい頭がよくて、賢いんだよね。Y.I.Mは賢い!

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──ということは、トラックスマンの来日は超重要なんだ?
超重要でしょ! あそこには七尾旅人もいたし、デラシネの風間コレヒコもいたし、あの日はやっぱり重要ですよ。(浅見)


V.A.
Fresh Evil Dead

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HardcoreJuke/FootworkElectronicPunk

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浅見さんから『FRESH EVIL DEAD』の内容について聞いてると、やっぱり興味がわいてくるのが、どうやって浅見さんたち周辺の風変わりで、エネルギッシュなパーティ・シーンができあがってきたのかってことなんですよね。当然、単純な音楽ジャンル云々の話じゃないわけでしょ。自分は、〈SHIN-JUKE〉と〈SCUM PARK〉と〈歌舞伎町Forever Free!!!〉にまったく異なるルートでたまたま遊びに行っていて、あるとき、そこにシーンらしきものがあるんだってことを知ったんですよ。そもそも監修者である浅見さんとスガナミさんと望月さんはどうやって出会って、いっしょに活動するようになったんですか?

浅見:最初に俺がモチさんからイヴェントに誘われたんですよ。モチさんがブッキングするんじゃなくて、他の人にブッキングを頼むっていう、そういうコンセプトのイヴェントがあった。そのとき、内田るんちゃんといっしょに企画したんです。

るんちゃんと!

浅見:そう。内田るんちゃんがやっているバンドとうちら(Have A Nice Day!)がいっしょにイヴェントをやったことがあって。るんちゃんとはめっちゃ仲良いんですよ。なんで、二木くんはるんちゃん知ってるの?

高円寺の〈素人の乱〉で知り合ってるんですよ。ハバナイの名前を最初に教えてくれたのもるんちゃんだったし。

浅見:ああ、そうなんだ! まじか! 〈SCUM PARK〉をやるぜんぜん前にそういうイヴェントがあって、そのときにはじめてモチさんと会ったんですよ。

ちなみに何年ぐらいか憶えてますか?

スガナミ:震災後でしょ。

浅見:そうそうそう。

スガナミ:望月さんが〈ロフト〉に入るのが震災後なんで。

浅見:2011年12月ですね。そのイヴェントのあとに、映画の『アメリカン・ハードコア』の話をして、「すごいいいですよね」って盛り上がって。モチさんは、ハバナイのドラムがやってたマリリンモンローズってバンドの面倒を見てたんですよ。CDを作ったり、流通したり、ライヴのブッキングをしたり、手伝ってたんですよ。そのとき、モチさんは〈オモチレコード〉をすでにやってて、存在を知ってはいたけど、会ったことはなかった。その後、けっこう仲良くなったから、ハバナイのCDを一般流通したいから、面倒を見てもらったのが2012年の夏くらいかな。6曲入りのEP(『BLACK EMMANUELLE EP』)を〈オモチレコーズ〉からリリースしたんですよ。

ブログにいろんなレコード屋に委託販売を断られたって書いてた作品?

浅見:あ、それは、そのEPのひとつ前の作品。でも、じつはいまだにけっこう断られる(笑)。わりかしどこも置いてくれないんだよね。だから、モチさんとは最初はイヴェントっていうよりも〈オモチレコード〉を通しての付き合いで、イヴェントやパーティをやるのはレコ発ぐらいで、いまみたいにイヴェントをしょっちゅうやるなんて考えられなかった。〈新宿LOFT〉の平日の深夜がいつでも空いているから、「月に1回ぐらいはイヴェントやりたいね」みたいな話はしてたけど、「集客がね。いやいや、無理っしょ」って感じでやらなかった。
 ただ、『BLACK EMMANUELLE EP』を出して、ちょっと経ったころに、モチさんが〈SHIN-JUKE〉をはじめてるんですよ。トラックスマンの初来日が2012年10月だから、〈SHIN-JUKE〉の一発めは2012年なんです。そのころに〈十代暴動社〉の長州(ちから)くんとかと仲良くなりはじめて。だから、リリースがきっかけなんですよ、いろいろ。で、ライヴも増えてきて、最初の〈SHIN-JUKE〉の少しあとに〈SCUM PARK〉がはじまってるんです。2012年11月ですね。だから、時間軸で言うと、『BLACK EMMANUELLE EP』のリリース、トラックスマン初来日、〈SHIN-JUKE〉、〈SCUM PARK〉って感じですね。

ということは、トラックスマンの来日は超重要なんだ。

浅見:超重要でしょ! あそこには七尾旅人もいたし、デラシネの風間コレヒコもいたし、あの日はやっぱり重要ですよ。で、1回めの〈SCUM PARK〉は〈下北沢SHELTER〉が平日に空いてたから、「じゃあやろうか」ぐらいの感じでやったの。どついたるねん、ハバナイ、アンダーボーイズがライヴで、転換のDJをD.J.APRILにお願いしようと。そこではじめてD.J.APRILとちゃんと話して、トラックスマンを観に行ったって話をしたんだよね。

ほおお。スガナミさんとはまだ出会ってないんですか?

浅見:まだまだ! この1年後ぐらいにならないと登場しない!

俺はストレートですけど、惚れた男のためなら、みたいなところがあるんですよ。(スガナミ)

ははは。すいません、ちょっと話を飛ばしますけど、スガナミさんは〈SCUM PARK〉と〈SHIN-JUKE〉に触発されて、〈歌舞伎町Forever Free!!!〉をスタートさせたんですか?

スガナミ:いまの話を聞いていて思い出したのが、俺は毎月〈新宿LOFT〉で〈新宿ロフト飲み会〉ってイヴェントをやってるんですよ。新宿の〈LOFT〉はホールのほうの営業とバーのほうの営業で、ふたつ同時に公演を打つときがあるんです。進行も別々で。で、俺らが〈新宿ロフト飲み会〉をやってるときに、隣で〈SCUM PARK〉をやってたんですよ。

浅見:あったね! 2013年8月15日だ!

スガナミ:いや、憶えてないです……。

ははは。

スガナミ:それで、空いた時間に〈SCUM PARK〉を観に行ったんです。ハバナイの“ゾンビパーティー”って曲があるんですけど、そのときにその曲をやってて、お客さんがモッシュっていうよりは、ゴロゴロぶつかり合うみたいな感じだったんですよ(笑)。それがすげぇおもしろくて。あれはむちゃディスコティックな曲で……、いや、ディスコティックでもあるけど、ドドタッ、ドドタッみたいなパンキッシュなノリもあって、それが「ヤベェ! かっこいい」って思って。〈SCUM PARK〉の噂は聞いてはいたんですけど、こんなパーティがあるんだ! って感動して。その流れで、2013年末の〈SCUM PARK〉にGORO GOLOを呼んでもらったんですよ。

じゃあ、ふたりはここ最近、急接近なんですね。

浅見:そうだね、そうかもしれない。突然急接近しちゃって。

スガナミ:俺は自分がメインを張ることもやるんですけど、バディ役というか、バディ・タイプなところもあるんです。

裏方タイプでもあると。

浅見:スガナミくんのそこはすごい助かる。

スガナミ:モチさんもそういうタイプなんですよ。

浅見:そう。スガナミくんとモチさんはそのことに関してはめちゃくちゃ優秀だと思う。こいつらがいると、めっちゃ円滑に物事が進むわけ。ふたりみたいなつなぎ役がいないと、ほんとにただグダグダしちゃうし、下手したら他の人とケンカになっちゃうから。

スガナミ:俺はストレートですけど、惚れた男のためなら、みたいなところがあるんですよ。裏で自分のプロップスを上げてるって、いやらしいところもあるんですけどね。

スガナミさんは浅見さんのどこに男惚れしたんですか?

スガナミ:やっぱり浅見さんのブログなんですよ!

浅見:まじで! そうなんだ。

わかる。浅見さんの文章を読んでると、自分が忘れかけていた情熱が呼び覚まされる。

スガナミ:ざらざらしてて。

浅見:なんだ、俺、顔じゃないのか?!

スガナミ:30代になってから俺は完全にトゲがなくなっちゃったから、「この人はどこまでもこれで行くのかな!?」って超興味を持ったんです。

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そもそも俺のはじまりは25歳ぐらいだから、すげぇ遅いんだよね。だって、下手したら、みんなが大学卒業して、遊ぶのをやめてる年齢でしょ。(浅見)

ああ、それはすごいわかります。じつはそれは今日のインタヴューのテーマのひとつにもしたかったことで、〈SCUM PARK〉でハバナイのライヴやパーティのノリを体感して、最初俺はなにも知らなかったから、25歳ぐらいの人たちが中心のパーティかと思ったんですよ。浅見さんのその若さとエネルギーとパワーと反骨精神がどこから来てるのかってすごい知りたくなりましたよ。

スガナミ:そうですよね。

浅見:俺がイヴェントに行ったりしてたのは20代のはじめぐらいだから、そのころ遊んでたノリの感じを頭に持ったままずっといままできていて。だから、30代ぐらいの適齢のノリがよくわからないし、想定できない。

浅見さんは20代に〈RAW LIFE〉や〈less than TV〉のパーティやイヴェントに遊びに行ってたんですよね。それで、いま自分がオーガナイズできるパワーがついたってことですかね?

浅見:そう、そういうことですね。それが結局30代になっちゃったってことですね(笑)。だいぶ遅れちゃったってこと。そもそも俺のはじまりは25歳ぐらいだから、すげぇ遅いんだよね。だって、下手したら、みんなが大学卒業して、遊ぶのをやめてる年齢でしょ。

浅見さんの〈RAW LIFE〉のインパクトや思い出ってどういうものですか?

浅見:〈RAW LIFE〉と言えば、やっぱり君津の廃墟でやった〈RAW LIFE〉(2005年)ですよね。

スガナミ:あの日はすごかった。ロケーションもヤバかった。

浅見:あのとき、にせんねんもんだいをはじめて観たりして、こんなかっこいいバンドがいるんだって知ったし、BUTTHEAD SUNGLASSとかSTRUGGLE FOR PRIDEとかABRAHAM CROSSを観て、〈CHAOS PARK〉にも何度か行って。だから、〈CHAOS PARK〉と〈less than TV〉の〈HOLLYWOOD JUSTICE〉のインパクトがすげぇある。じつは〈SCUM PARK〉はそういうイメージなんですよね。

今年の7月4日のブログに、「スカムパークはモッシュピットを作ることが一つの目的ではあるんだけど、しかしそれはハードコアのモッシュピットのそれとは違って限りなくダンスに近い。それはバイオレンスや緊張感よりも快楽を優先するわれわれのアティチュードのせいだろう」って書いてるじゃないですか。〈SCUM PARK〉のパーティの個性を上手く書いているなと思って。

浅見:そうそう、ダンスに近いんですよ。でも、俺はハードコアのモッシュピットもすごい好きなんですよ。〈SCUM PARK〉は女性の出演者も多くて、Glocal Pussys、FFF、NDGだって半分近く女の人だし、RAP BRAINSもそうだし、GORO GOLOもはるかさんがいるし、ハバナイだってシンセのさわちゃんがいる。完全に男ばっかりのバンドってそんなにいなくて、そうなるといわゆるハードコアのモッシュピットって現実感がないというか、むしろそれを俺らがやるのは嘘じゃないかなって。

いわゆるパーティ・ピープルがワイワイしてるのもなんかちがうんじゃないかなって。純粋にロックにおけるモッシュピットをダンスとして機能させるというか。

 もうちょっとみんなダンスしたいというか、NDGしかりハバナイしかり、ダンス・ミュージックとして機能する音楽をやりたいんですね。ゲスバンドとか、でぶコーネリアスも出てるけど、彼らの音楽もダンス・ミュージックとして機能している。でも、すべての音楽はダンス・ミュージックとも言えますよね。ただ、われわれの〈SCUM PARK〉で、一般的なクラブ……って言い方がいいのかはわからないけれど、クラブみたいなノリも求められないと思うんですよ。ある種、オルタナのお客さんが多いから、オルタナのお客さんにそういうダンスって求められないと思うから。

つまり、ひとりで陶酔して踊りつづけるダンスとかですか。

浅見:うん。それとか、いわゆるパーティ・ピープルがワイワイしてるのもなんかちがうんじゃないかなって。そうなると、純粋にロックにおけるモッシュピットをダンスとして機能させるというか。

さっきのモッシュピットについて書いたのと同じブログのエントリーで、〈SCUM PARK〉は、『アメリカン・ハードコア』を観たことに端を発してるって書いてるじゃないですか。それで、2、3日前にはじめてあの映画を観て、自分も熱くなって、いろいろ考えさせられもしたんですけど、浅見さんはどういうところに触発されたんですか?

浅見:「ブラック・フラッグ、ヤベエな!」とか「バッド・ブレインズもヤバいな」って(笑)。まずはそこがありますよ。それから、大きなレコード・レーベルがついたりってことじゃなしにはじまった音楽が、ひとつのムーヴメントになっていく、その美しさ、おもしろさがあるでしょ。ギグが普通に家やガレージのなかであって、そこにモッシュピットがあって、エネルギーがあるじゃないですか。音楽を聴いて、単純にこの曲いいなあっていうのはほぼなくて。いま聴くとけっこうよい曲だなってのはあるけれど、はじめて観たときはどの曲も同じに聴こえると思ったから。やっぱりエネルギーですよね、人間の。それが渦巻いてる。

レーガン政権下のアメリカで不満を抱いていた若者たちが暴れはじめるって時代背景も興味深いけど、全米各地に急速な勢いでムーヴメントがアンダーグラウンドで波及していく、その広がり方というか、その過程や人間関係がすごいじゃない。

浅見:そうそう。あのネットワークが広がっていく感じね。しかも、あれだけでかかったムーヴメントが5、6年という短命で終わるじゃないですか。その、エネルギーだけでやって終わる刹那的な感じもわかるんです。流通のルートに乗っけることやプロモーションのための動きじゃなくて、ライヴをやって、遊びに来ている人たちが本当に楽しんで、ドワッとなることが目的で、それを形に残そうとかはあんまり考えてない。俺もそういうものがおもしろいんじゃねえかなって思うんですよね。

俺は、「たとえ3人しかいなくても、モッシュしろ!」ってクラウドに指示を出すから。「3人しかいないんだから、お前らが盛り上げなかったら誰が盛り上げんだ」ってやるよ。(浅見)

 でも、いまの日本のアンダーグラウンドで……、そう言っていいのかわからないんですけど……、いや、言っていいんだけど、シーンってものを考えている人間がわれわれの世代で何人いるのかと。単純に自分たちが有名になるためだけの行動パターンがあって、それこそバンドの紹介を書くときに、「誰々とライヴした」とか「誰々と曲を作った」とかさ、「お前の説明は誰々と共演したことしかねーじゃねーか!」って。そういうプロモーションのためだけの動きが非常に多いなって気がしていて、はたして「それがおもしろいの?」って。だから、〈SCUM PARK〉に関しては、その場のノリを求めてる。俺は、「たとえ3人しかいなくても、モッシュしろ!」ってクラウドに指示を出すから。「3人しかいないんだから、お前らが盛り上げなかったら誰が盛り上げんだ」ってやるよ。

いやあ、素晴らしい。

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音楽を流通させる側に男が多いから、女の人の音楽を流通させるときに、女性の音楽がフラットな視点で評価されてきてないんじゃないかなって思う。(浅見)

浅見:〈CHAOS PARK〉や〈less than TV〉、〈RAW LIFE〉にだって、そうやってシーンのことを考えている人はいたと思うんですよ。たまたまわれわれの世代にあまりいなかっただけで。とにかく、俺はそのときのエネルギーだけを求めて〈SCUM PARK〉をやってるんですよ。

〈SCUM PARK〉には女性の出演者が多いって話が出ましたけど、ふたりは数日前に、「シーンにおける女性の重要性とセクシャルマイノリティについて」ってテーマでユーストリームでトークをやってましたよね。浅見さんはこの点に関してどんな問題意識があるんですか?

浅見:トークはちょっとグダグダになっちゃったんだけどね。うーん、当たってるかはわからないけれど、音楽を流通させる側に男が多いから、女の人の音楽を流通させるときに、女性の音楽がフラットな視点で評価されてきてないんじゃないかなって思う。仮にFFFとかGlocal Pussysを流通させるときとかに、男性的なフォーマットでやると、どうしてもある種“女の子”みたいな感じになる。
 ちょっと上手く言えないけど……、なんだろう、そうじゃなくて、そもそも〈SCUM PARK〉って、俺とモチさんのむちゃくちゃ個人的な遊びなんですよ。こうやってコンピまで作っていただいて、ありがたい状況にはなりつつあるけど、主要なネットのニュース・サイトとかはこのコンピや〈SCUM PARK〉にまったく興味を示してないよ。だから、めちゃくちゃ個人的にやってるし、広げようって感覚もあんまりない。規模としては80人ぐらいがちょうどいいかなって思ってる。それ以上増えると、なんかねー、ちょっとねー、全体のユニティが薄れるねーって(笑)。

ははは。しかもかなり局地的ですしね。

浅見:そう。なんで俺らが下北沢の〈three〉とか〈SHELTER〉とか〈新宿LOFT〉でやるかって言うと、単純にそこが空くって情報が入ってくるから、「とりあえず、そこでよくないか」って感じなんです。価値基準がインディペンデントなんですよ。だから、わかりやすさとかいらないわけですよ。たとえば、“セクシーな女の子のグループ”とか、そういうわかりやすさをまったく必要としない。単純に俺らがかっこいいなって思ったグループを入れる。ただそれだけなんですよ。わかりやすい言葉で説明する必要なんてないんですよ。だからこそ、広がらないんだろうし、フラットなフォーマットを保てるんですよ。

価値基準がインディペンデントなんですよ。だから、わかりやすさとかいらないわけですよ。だからこそ、広がらないんだろうし、フラットなフォーマットを保てるんですよ。(浅見)

あと、浅見さんは、たとえば“むこう側のやつら”とか、そういう言い方で、特定の人というか、ある特定の考え方や価値観と自分たちのやってることにはっきりと線を引いてるところがあるじゃないですか。その、“むこう側のやつら”ってなんなのかなっていうのも興味があって。

浅見:ハバナイは、最初のころからノリを強要するみたいなところがあったし、50人ぐらいのお客さんのほとんどが静かに観てるなかで、前の5、6人がものすげぇ暴れてるみたいな状況があったんですよ。「こいつらのエネルギーはすげぇ!」って、やってる俺らが圧倒されるぐらいのお客さんがいたの。ただ、FFFが静かに観る客ばかりのライヴハウスでいきなり演奏したとして、音楽としてはかっこいいのに、正当に評価されないんじゃないかって疑問はあった。だから、いい感じのグループが正当に評価されるフォーマットを作ろうとは思ってた。

浅見さんがかっこいいと思うバンドが表現できる場を作りたかった?

浅見:あと、そういうコミュニティですよね。そういうのがなぜ皆無なんだろう? って、そこに関してはずっと不満だった。〈SCUM PARK〉をやるにあたって、そのことはすごい考えてましたね。いまだにそのことは考えてる。あのクソだけは絶対に呼ばないっていうヤツらもいますもん。「ああいうクソを呼ぶとまじで寒くなるからな~」って。あはははははっ!
 だから、そう、シーンっていうより、コミュニティって言ったほうがいいと思う。シーンっていうとちょっと規模が広くなり過ぎちゃう感じがあるけど、コミュニティだから、もう少し規模の小さいものなんだよね。だから、俺らがやってるのはコミュニティ・ミュージックなんですよ。ジュークもシーンっていうより、俺はコミュニティに感じちゃんですよ。ジュークが大好きな人たちがいて、コミュニティが存在してる。そういう人がどこに行っても、いつもいる。「こいつがいるとこっちも気合いが入っちゃうな。こいつをなんとかして盛り上げてーな」って人がいるんですよ。「今日はこいつを脱がせたいな」ぐらいの気持ちになる、ふははははっ!

だから、モッシュピットって、そういうコミュニティの熱量やノリや性格がぶわっと表に出てくる、コミュニティの反映なのかなってことを考えたりしましたね。

浅見:そう。だから、〈SCUM PARK〉や〈SHIN-JUKE〉は、その場に行ったことがない人はなんのことやらわからないんですよ。

ぶっちゃけ俺も実際に行くまではいろんな偏見があったし。

浅見:はははははっ。それはコミュニティの音楽だから、そういうもんだと思うんですよ。「もう少しそういうのを広げないと」って言われたりしますね。

〈SCUM PARK〉のコミュニティを広げたほうがいいという意見があるということ?

浅見:そう。ちょっとみんな急ぎ過ぎてるんじゃないかとは思うけど、〈SCUM PARK〉の間口をもうちょっと広げたのが、〈歌舞伎町Forever Free!!!〉なんですよね。まあ、そこがモチさんやスガナミくんがつなぎ役としてめちゃくちゃ優秀なところなんですよ。でも俺は最初、スガナミくんから「〈歌舞伎町Forever Free!!!〉を無料でやる」って聞いて、「それって意味あるのかな?」って疑問に思った。「それだったら、あんまり乗り気じゃないわ。なんで無料にしなきゃいけないの?」ぐらいだった(笑)。でも、実際にスガナミくんがやってくれて、すごい上手く行ったし、モチさんやスガナミくんが言いたい、「無料だったら、ふらっと立ち寄りたい人も観に来れるよ」ってのがわかったんです。
 じつは、〈SCUM PARK〉はチケットの値段を高く設定してるんですよ。当日だと3000円ぐらいするから、超高いの。なぜかというと、俺はちょっと顔を出すとか、そういうヤツはいらないと思ってるし、「ふらっと立ち寄ってるんじゃねえ!」って気持ちがある。ひとつ、ふたつのバンドのライヴに顔出しに来ましたとか、ちょっと挨拶しに来ました、みたいなヤツが俺は大っ嫌いなんで! そういうヤツは来なくていい! って思ってる。最初から最後までいないと、ちょっと高いなって値段設定にしてて、ほんとに来たいヤツしか来れない感じにしてるんですよ。だから、ほんとにスガナミくんは偉いんです!

一同:アハハハハハッ。

この閉鎖的な男(浅見)を、この閉鎖性のまま冷凍保存して世のなかにぶち当てたい。俺はいまの濃さのまま2千人規模でパーティをやりたいって考えてますね。(スガナミ)

スガナミさんは、〈SCUM PARK〉と浅見北斗の、ある種の閉鎖性って言ってもいいと思うんですけど……

浅見:うん、閉鎖性だと思うな。

そこをどうとらえてますか?

スガナミ:2013年は、自分の〈音楽前夜社〉での活動があって、〈SCUM PARK〉があって、イヴェントを乱発してる谷ぐち(順。〈less thanTV〉主宰)さんの〈less thanTV〉があって、〈Booty Tune〉のD.J.APRILさんがいて、それぞれ活発に活動してたと思うんですね。で、そういうパーティをやってるいくつかのクルーで一回いっしょにやってみましょうって話を持ちかけたんです。「今回は俺がケツをもつんでやりましょう」と。〈SCUM PARK〉に出ている人たちがやってる音楽は、フィジカル度の高い音楽だし、酒は出るなってずっと思ってたんですよ。

俺は5月26日の〈歌舞伎町Forever Free!!!〉に行きましたけど、たしか2千円飲み放題でしたよね。

スガナミ:2千円4時間飲み放題みたいなプランもぶち込んだりして、ライヴハウスの構造自体を変えたいという欲求もあるんです。まあ、その話は今日はいいんですけど、逆に言うと、〈SCUM PARK〉を使わせてもらってるんですよ(笑)。

浅見:上手いこと使われちゃったな! って感じですね。悪い意味じゃなくてね。

スガナミ:自分はこの1年で浅見北斗をバズらせるっていう目標を立てて、このコンピレーションは、そのひとつの柱なんです。この閉鎖的な男を、この閉鎖性のまま冷凍保存して世のなかにぶち当てたい。俺はいまの濃さのまま2千人規模でパーティをやりたいって考えてますね。

そう、だから、これまで〈SCUM PARK〉は閉じてたけど、この強力なコミュニティが別の強力なコミュニティとぶつかって、サヴァイブして、新たなビッグバンを起こす。

なるほど。やはりここまで来たら、いま浅見さんに訊いておきたいのは、〈SCUM PARK〉のこの先をどう考えてるか、ということになりますね。

浅見:俺たちが飽きたら止めればいいし、続けたければ続ければいいと思ってますね。すでに目標はいろんなところで達成してはいるんですよ。自分たちのパーティを開いて、クラウドを集めて、自分たちの音楽でモッシュを起こす。そういう、非常にシンプルな目標はある程度達成した。だから、これから同じペースで続けていくことに意味があるかはわからないし、同じメンツで続けていても意味はないかなと思う。身内だけで固まっていてもしょうがないからね。
 いままでだったら、ハバナイを知らない人もたくさんいたから、自分が何者かを説明しなければならなかったけど、いまは〈SCUM PARK〉に遊びに来る人たちはみんな俺たちのことを知っているし、いまから新しいなにかをやるとしてもやりやすい状況にはなってると思うんですよ。最近は、〈less than TV〉や〈Booty Tune〉とも新しいつながりができたし、〈SCUM PARK〉とは違ったことをやりたいという気持ちもある。それこそ3日後に〈ぐるぐる回る2014〉で〈less than TV〉といっしょにやるんですよね。われわれのコミュニティが、われわれがヒーローとしてきたコミュニティとぶつかるわけです。なにが起こるかわからないけど、自分たちは絶対負けたくないし、新しいなにかを起こしたいと思ってますね。
 そう、だから、これまで〈SCUM PARK〉は閉じてたけど、この強力なコミュニティが別の強力なコミュニティとぶつかって、サヴァイブして、新たなビッグバンを起こす。それぞれのコミュニティ・ミュージックがそうやって衝突して、新しいムーヴメントが生まれていけばおもしろいと俺は考えてますね。

SATOL(MADBERLIN / STRUCT) - ele-king

 あのO.N.O[THA BLUE HERB/STRUCT]が新たに設立した最新鋭レーベル〈STRUCT〉に逸速く主力メンバーとして加入したドイツ、ベルリンからの逆輸入、雑食型ハイブリッド・サウンド・スナイパー。ベルリンをはじめスペインのマッドリッドからゆくはイビザまで拠点にするレーベル〈MADBERLIN〉の正式メンバーでもある彼は現時点で5枚ものCDをリリースしその中の1枚は〈P-VINE〉から全国にリリースされている(2014年4月にはO.N.Oとの合曲“LIBIDO”struct-001がバイナルでリリースされ、5月には自身のミニアルバム『Enhance Cell Survival』が全国リリースとなった)。
 ジャンルのタームを毛嫌いする彼のサウンドは新しいムーヴメント、"Future Garage"だけにすでにとどまらず、二重、三重とかさなり合うビートの上にありとあらゆるミュージックからブリコラージュされた断片やメロディーをさらに摘出しオートマティスムに重さねてゆく。そして重なりあったその音の構造体は異境のハードミニマル化を遂げ自由構造に集まりだした音たちが聞くものにネクスト・レベルの快楽性を付加させる。
 雨に濡れる路上、宴が聞こえる深夜の一人、そしてさまざまな白黒の過去の囁きからいまのその映像と光景でさえも祝福する叙情的なメロディライン。
 それはまるで無惨にモデリングされ消費してゆく惨めな姿に成り果てたクラブ・ミュージック・シーンのレクイエムにも聞こえる。
 現在はO.N.Oと何十都市もの共演ツアーを敢行し『Enhance Cell Survival』リリースツアーを浸食中。

SATOL : https://colddarkcreators.tumblr.com/
STRUCT 公式HP : https://struct-sound.jp
MADBERLIN 公式HP : https://madberlin.com

be dead gone


1
SATOL - Hi Sasebo,I'll show you what I mean

2
O.N.O - Signa

3
THRIVE - In Confusion

4
Yano Keita - Dear Pina

5
Arca & Jesse Kanda - TRAUMA Scene 1

6
Burial - Ghost Hardware

7
Oscar Mcclure - Grass Cuttings

8
Ioan Gamboa - Atlas

9
Takaaki Itoh - Plus 1

10
Shai Hulud - Set Your Body Ablaze

Goth-Trad in Mexico - ele-king

チョルーラのレコード屋ディスコフレニアを訪れたGoth-Trad (Photo by Karenillo)
チョルーラのレコード屋
ディスコフレニアを訪れたGoth-Trad
(Photo by Karenillo)

 日本のDJ、プロデューサーのゴストラッドが、メキシコに来るというニュースを知ったのは、プエブラ州都プエブラの郊外の町、チョルーラのレコード屋、ディスコフレニアを経営するリカルド・グスマン(通称ニック)のフェイスブックの書き込みだった。何でも、ディスコフレニアの1周年記念と、彼が所属するプエブラのベース・ミュージック・コレクティヴ、アンダーベースのパーティで、ゴストラッドを呼ぶというのだ。
 ゴストラッドは2014年8月に初のラテンアメリカ・ツアーで、ブラジル(リオ・デ・ジャネイロ、サンパウロ)、アルゼンチン(コルドバ)、米国(デンバー)、メキシコ(カンクン、メリダ、グアナファト、メキシコシティ)をまわり、それを締めくくるのが、プエブラ州都プエブラとなったわけだ。
 私が住む首都メキシコシティの電子音楽シーンは、業界人のたまり場となるだけで盛り上がりに欠けるので、車で片道3時間かけても、ニックの仕切るプエブラのイヴェントへ行くと決めた。ニックはジャイアンのようなキャラで、突っ走り過ぎるのがタマにキズなのだが、その強引さと頼もしさでパーティを確実に成功させる。私はメキシコ在住8年目だが、記憶に残るほど楽しいイヴェントには、ニックが関わるものが多い。
 ところで、ゴストラッドとメキシコというのに違和感を覚える人もいるかもしれないが、メキシコとベースミュージックは相性がいいと思う。たとえば、メキシコでは1970年代から存在するゲットーの路上サウンドシステム=ソニデロの発展により、低音を効かせたメキシコ独自のクンビアが根強い人気を誇っている。若者の間ではルーツやダブのレゲエ・イヴェントも頻繁に行われているし、ドラムンベースやダブステップも好まれている。日本の某音響メーカーの人がメキシコで売れるスピーカーは、音質よりもとにかく低音が響くものだと言っていて、その確信を深めたものだ。

プエブラのイベント風景


 イヴェント当日の8月30日。メキシコ人の私の夫を運転手に、メキシコ人の友人たち3人と、日本人の友人1人を含める計6人が、無理矢理自家用車に乗り込んで、プエブラへ向かった。
 高速道路へ入るときに、メキシコ人たちは皆一斉に胸の前で十字を切って、道中の無事を祈る。かつてはその仕草に「大げさだな」と驚いたけど、カトリック教徒が人口の8割以上のメキシコでは一般的だ。物騒な話だが、メキシコの人びとは、いつ死んでもおかしくないと常に自覚している気がする。山間部では大雨でスリップして横転した車も見て、夫が再び十字を切った。
 プエブラに着いたのは夜11時ごろ。会場の「アコピオ・ブラボー」は、世界遺産に登録される華やかなプエブラ中心部から少し離れた住宅街に位置するが、今回のイベントが、なぜかロードレースのゴール地点となっていて、たくさんの自転車乗りたちが入り口にたむろっていたので、すぐにわかった。

 入場の際にガタイのいい警備員からボディチェックが入り、銃刀や、ドラッグ、酒を所持していないかチェックされる。だいたい、どの場所でもこのチェックは怠らないので、メキシコの夜遊びはハコに入ってしまえば意外と安全だ。
 中に入ると、そこはクラブではなく、民家の中庭のようだった。ステージは、コンクリートの土台に簡素なテーブルが置かれているだけ。照明やスモーク、音響などは完備し、頭上には雨よけの大きなシート屋根も張ってあった。ドリンクを売るスペースでは、カクテルも販売している。ちょっと村祭りっぽい雰囲気だ。
 すでにニックがDJをはじめていて、ルーツ・レゲエを中心にかけていた。音響もいい感じだ。続いてアンダーベースの代表のケインスターBが、ダブやダブステップをかける。ふたりともアナログを使っているのがいい。その後、地元のブレイクビーツのアーティスト、ルイドがライヴを披露する。彼は足下もおぼつかないほどラリっていたのだが、信じられないほど機敏に観客の反応を汲み取って、ラテン、レゲエ、ヒップホップ、ゲームミュージックを盛り込んだ演奏で楽しませてくれた。深夜1時をまわった頃には入場者数はさらに増えて、ゆうに500人は居る。

 そして、いよいよゴストラッドの登場だ。前半はダブステップでもかなりノリのいい曲をかけていた。10年ほど前にゴストラッドの演奏を日本で見たが、当時はインダストリアルな轟音を操る印象があったので、そのギャップにちょっと戸惑う。
 しかし、次第に、硬質な音が耳を刺激してきた。複雑なビートと、変化する太いベースで、みるみるうちに音像を作り上げる。この闇を求めていたんだ! と、私は心で叫んだ。数日前に行われたグアダラハラ公演の現地メディアのレポートでは、「骨や脳味噌をシャッフルする音響体験」と書かれていたほどの、ゴストラッドの奏でる強いうねりに合わせて、皆が身体を揺らしている。
 会場には、学生も、おっさんも、おばちゃんも、ヘルメットを被った自転車乗りたちも、外国人も、金持ちのボンボンやピンヒールでこけそうになってる女も、フラフープのダンサーも、火を操るヒッピーな曲芸師たちもいて、ありとあらゆる人たちがごちゃ混ぜになって踊っている。一緒に来た夫や友人たちも心から楽しんでいるようだ。ジャンルや嗜好はもはや関係なく、この空間に響く闇を共有する人たちがいた。

 会場内の写真を撮っていたら、スティーヴ青木みたいな男が、声をかけてきた。「ここの場所の名前知ってる? ここはアコピオ・ブラボー(日本語だと“歓喜の集積所”)っていって、いろんないいパーティやってるよ。へへ、実は俺ここに住んでるの。え? 取材しにきたの? 俺の家が日本のメディアに載るの? ヒャッホ〜!」......やっぱり、人の家だったのか。でも、メキシコシティのハイプなクラブより、確実に多くの人を満足させてるのだから、この民家パーティは凄い。

プエブラのイベント風景


Goth-Trad   (Photo by Miho Nagaya)
Goth-Trad
(Photo by Miho Nagaya)

 ゴストラッドの出演後には、米国のダブステップ・シーンを牽引するジョー・ナイスのDJがはじまり、フロア(というか庭)は歓喜の渦に包まれていた。ゴストラッドが、しばらくジョーのDJを楽しんでいたところを割り込んで申し訳なかったが、ラテンアメリカ・ツアーを終えての感想を語ってもらった。今回なぜツアーが決まったのだろうか?

 「ブラジルのサンパウロのオーガナイザーから最初にやりたいという声が上がって、それからアメリカのエージェントがラテンアメリカ周辺に声をかけて、10本公演が決まった。サンパウロでは、俺がやっているような、プログレッシヴなベースミュージックのシーンは小さいみたい。他の国と同様に、コマーシャル寄りなブロステップやトラップは人気がある。
ダブステップを7、8年やってきて、その集大成的なアルバム『New Epoch』を2年前に出したけど、現在は自分が昔やってたノイズやインダストリアル寄りの音を振り返っている。今日の後半でやったような、インダストリアルとエクストリームなベース・サウンドとをミックスした音は最近の傾向。このところ以前に比べて米国からの依頼が多くて、ここ3年間は、年に2回ツアーを回って来た。米国ってブロステップのイメージが強いかもしれないけど、アンダーグラウンドのお客さんは、より新しい音を求めていると感じる。実際、今アメリカには、TriangleやType、Ghostlyなど面白いレーベルもたくさんあるしね。しかし、ラテンアメリカは初めてだから、ダブステップのDJという印象を持たれているだろうし、実験的な方向性を露にするときは、大丈夫かなーと思うんだけどね。でも今日は盛り上がって嬉しかった! ブラジルでも実験的なことやると、なんだ? 面白い! って反応があったし、皆新しいものを求めている気がする」

 今回のツアーでは、メキシコでの公演が最も多く、計5都市を巡るものだった。

 「メキシコは、まずリゾート地のカンクンへ行って、オーガナイザーはダブステップに興味はあるけれど、普段野外でサイケトランスのパーティをやってる子たちで。そんな感じだったから少々不安ではあったし、全然ダメなサウンドシステムだったけど、やれることはやった。客層はサイケトランスのイベントに来ている子たちだったと思うけど、結果的に盛り上がって良かったな。
 メリダはアートギャラリーcvのクルーで、彼らは音楽に詳しくて、いわゆるベース・ミュージックだけじゃなく、日本のバンドやノイズ・シーン、GodfleshとかSunn O)))みたいなバンドの話でも盛り上がって、ダブステップ以外の新しいアプローチも受け入れられる。ただカンクン同様にシーンははじまったばかりで、サウンドシステムは不十分だったね。
 グアダラハラはメキシコで2番目の都市だから、木曜だったけど300人くらい集まった。会場は昨年できたハコで、サウンドシステムはイマイチだったけど、他の場所よりは良かった。  
 しかし、首都メキシコシティは、ハコのサウンドシステムがモニターも外の音も全くダメで、フロアは埋まってたけど、基本的に自分が楽しめなかった。音がクソだったとオーガナイザーに伝えたけどね。メキシコシティよりも、グアダラハラのほうが盛り上がったのには、音質の問題がある。いいプレイしても音がショボかったら何にもならない。
たとえば、リオ(ブラジル)は千人以上、コルドバ(アルゼンチン)は800人以上のお客さんが入ったけど、両方とも良いサウンドシステム(のクラブ)を使ってるから人が集まってると思うんだ。
 そこまでお金をかけれる事情もあるのかもしれないけど、音の設備は自分がやってるような音楽の要だから、ちゃんとしてほしい。
 今回に限ってってわけじゃないけど、イベントをオーガナイズしてくれたプロモーターに対して、こういうネガティヴなことは正直あんまり言いたくないんだよね。ただ、自分の音のためにも言わなきゃいけないし、何よりシーンの発達には一番重要なことだから、過去の自分の経験して感じたことは素直に伝えるようにしている。
 あとメキシコは、時間にとてもレイジー(苦笑)。アルゼンチン、ブラジル、デンバー(米国)はちゃんとしてた。でもメキシコは本当にユルい! メリダ、グアダラハラはしっかりしてたけど、メキシコシティはとくにひどくて、まず、約束時間から30分遅れそうって連絡がきた後に、そこから2時間近く待たされた。で、理由は『交通渋滞がすごくて』とか。それ言い訳にならないから(笑)。そういやカンクンの人たちも、メキシコ人の(あと5分)は30分の意味だから、って言ってたな(笑)。俺はそこでブチ切れたり、もうギグやらないとか言わないけど、なかには遅刻に厳しいアーティストだっているわけだしね」

 欧米や日本で活躍しているアーティストにとったら、やはりメキシコの全般的ないい加減さは、ハンパないのだろう。では、良かった面はあったのか?

 「お客さんの反応が良かった。とくにグアダラハラとメリダ 、そして今日のプエブラは本当に面白かった! しかし、この会場って、人の家らしいよね。なんか、それもよくわからないというか.....(笑)。今日のギグが良かったのは、後半の実験的な音の方で盛り上がったから。わかりやすいDJやるのは、パーティ的には無難でいいかもしれない。でも、その場所の音楽の偏差値を伺いながら、それに合わせてDJやるのは、見に来てる人たちに対して、すごく失礼だから。"GOTH-TRADがいわゆる「DUBSTEP」をプレーする"と期待されてるのは自分でもよくわかってるんだけど、やはり、自分が今一番新しくて最高だと感じるセットを、どんな場所でもやらなきゃ。今回のツアーでは、全部その姿勢でやりきった。新しい試みに対して受けがよかったり、反応がなかったりする場所もあったけど、今回10箇所ギグできて、強い手応えがあった。
 総括したら、メキシコは良かったよ。ダメだな〜嫌だな〜ってことも全部含めて、すごく楽しい経験だった。あと、実際に訪れたことで、ラテンアメリカの見方が変わったね。ラテンだから陽気っていうよりも、ラテンだからこそ暗い部分が結構あると気づいた。意外に意外にエクスペリメンタルでダークな音/アートが好きな層も多いし。ラテンアメリカがヨーロッパとは違うのは、やはり侵略された歴史があるからかもなと思う。本当にまた、ぜひ来たいね」

 今回のプエブラのイベントを仕切ったアンダーベースの代表のケインスターBと、ディスコフレニアのニックにも今日の感想をきいた。ゴストラッドの作品をリリースするUKのレーベル、〈ディープ・ミディ〉のことは好きだが、ゴストラッドのことはイベントをブッキングするまで知らなかったそうだ。プエブラは大学都市で、若者の熱気が常にある場所だ。音楽のイベントも頻繁に行われていて、レゲエやアフロビート、ベースミュージックのシーンもあり、ふたりはその中心にいる。
 「ゴストラッドが才能あるアーティストだと理解していたけど、メキシコで認知度の低いアーティストを呼ぶのは大きな課題だった。でも俺たちはよくやったと思ってる。彼は凄いよ。とてもエネルギーにあふれ、観客をカタルシスへ誘いながら、自由に実験する術も知っている」(ニック)
 「僕たちクルーは懸命に働いていたので、あまり楽しめなかったけど、ゴストラッドのセットは、素晴らしかったよ。皆を瞬発的にトランス状態へ導き、踊らせた。そのビートで魔法にかけたんだ。それが観客ひとりひとりの顔にも表れていたよ。ゴストラッドは最高の夜を作り上げていた」(ケインスターB)

 宴は続いていたが、私たちメキシコシティ組は長旅のために、プエブラを後にした。運転手である夫は、また高速道路に入る前に十字を切り、車をかっ飛ばした。メキシコシティに着いたら、台風の接近でバケツをひっくり返したような大雨が降っていた。にも関わらず、町は目を覚まし、活発に蠢いている。メキシコシティは東京と同様に町のスピードが速い(時間にかなりユルいが)。ふと、東京の空気を懐かしく感じた。友人たちを家へ送り届けた後に、私たちは自宅のあるダウンタウンへ着いた。奇しくもメキシコシティ国際マラソン大会の開催日で、無数のランナーたちが、どしゃ降りのなかスタートを切ったところだった。「朝早くから、ずぶ濡れになって無茶するよなあ」と言ったあとに、「うちらも楽しむために相当無茶したよな」と、夫と笑いあった。疲れた身体を引きずりながらも、こんな充足感に満ちた朝を迎えたのは久々だった。

Agradecimiento a: Acopio Bravo,Underbass (https://www.facebook.com/underbasspuebla)y Discofrenia(https://www.facebook.com/Discofrenia

メリダのギャラリーresonanteでのゴストラッドのDJ

RESONANT - GOTH TRAD from Resonant on Vimeo.

interview with Perfume Genius - ele-king

 わたしたちはあるドキュメントに立ち会っている。それは、自らを傷つけていた過度に内向的なゲイ青年が、何も持たず、内側に湧き上がる音楽だけを頼りに外界に立ち向かっていくという……。と、書けば一種典型的なストーリーのようだが、自らをパフューム・ジーニアスと名づけたマイク・ハッドレアスの足取りは非常にドラマティックなものだ。そしてそれは、現代に生きるゲイたちが置かれた状況と無関係であるとは、僕にはどうしても思えないのだ。

E王
Perfume Genius
Too Bright

Matador/ホステス

Indie Rock

Tower HMV Amazon iTunes

 まるでボロボロの自分をそのまま差し出すかのようなローファイさ自体が衝撃的だった『ラーニング』、ミュージシャンとしてのハッドレアスの覚醒を印象づけた『プット・ユア・バック・イントゥ・イット』を経て、3作めとなる『トゥー・ブライト』においてパフューム・ジーニアスは華麗にドレスアップし、そしてサウンド面において大胆に変身を遂げている。ピアノの弾き語りを基調としたトーチ・ソングめいたバラッドという骨格は変わらないが、アリ・チャントとポーティスヘッドのエイドリアン・アトリーという玄人肌のプロデューサーを迎えバンド・サウンドやシンセを大部分で導入し、よりゴージャスで、よりダークで実験的で、より挑発的な態度を晒しているのだ。ドゥーム・メタルすら連想させる不穏な3拍子のナンバー“マイ・ボディ”や、アブストラクトなシンセ・ポップ“ロングピッグ(人肉)”など、これまでのパフューム・ジーニアスにはまったくなかったものだ。“アイム・ア・マザー”のようにおそろしくヘヴィなダーク・アンビエントもあり、感情の振れ幅においても手加減していない。

 以下のインタヴューは先日の〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉のライヴ後に行ったものであり、この時点でまだテクストとして歌詞は目にしていなかったが、いくつか耳に残ったフレーズについて尋ねることができた。その言葉の強さゆえである。歌詞において自己嫌悪や劣等感を隠そうとしないその痛ましいまでの姿はこれまでと変わらないが、しかしながら、その正直さゆえに彼は作品を重ねるごとに、歌をひとつ歌うたびにタフになっていったように思える。“クィーン”は自らを女王と……すなわち、この世界における異物だと宣言し、だからこそ誇り高く振る舞おうとするアルバムを象徴する一曲だ。

 ジョン・グラントでもルーファス・ウェインライトでもアントニー・ハガティでも……フランク・オーシャンでもいいが、いまゲイやトランスジェンダーのシンガーソングライターたちは異端者としての生をその表現において隠そうとしない。それは、社会が無視してきた「クィーン」たちからの逆襲のようだ。マイク・ハッドレアスはつねに自分へのセラピーとしてその歌を紡いできたと言うが、しかし同じように悩みを抱える誰かに自分の音楽が届くことも確信している。だからアルバムのラスト2曲……“トゥー・ブライト”から“オール・アロング”へと至るじつにパフューム・ジーニアスらしいスウィートでフラジャイル、そして美しいピアノ・バラッドは、その力強い眼差しに貫かれているように感じられる。

Perfume Genius/パフューム・ジーニアス
シアトル出身のシンガー・ソングライター。2010年にファースト・フル・アルバム『ラーニング』を、2012年にセカンド・フル・アルバム『プット・ユア・バック・イントゥ・イット』をリリースし、多くのメディアやアーティストから高い評価を受け、注目を集めた。3作めとなる今作にはプロデューサーの一人にポーティスヘッドのギタリスト、エイドリアン・アトリーが参加している。


敵対心とか、そういうものはないよ。ひとを傷つけたくはないしね(笑)。

(〈ホステス・クラブ・ウィークエンダー〉の会場にて)今日はお疲れのところすいません。

マイク・ハッドレアス(以下MH):だいじょうぶだよ。

今回は新作について訊きたいんですけど、その前にいくつか違う話題をさせてください。2年前にお会いしたとき、YouTubeから削除された“フッド”のヴィデオの話をしましたよね。あのヴィデオに出演していたポルノ俳優のアルパッド・ミクロスが亡くなってしまって、ゲイ・コミュニティにも衝撃が走りましたし、僕もすごくショックでした。もしあなたがつらくなければ、彼の話を聞かせてくれませんか。

MH:彼とはあのPVの撮影のときに会っただけだから、思い出を語ること自体が申し訳ないなって感じるんだけど……でも、亡くなったことはほんとに悲しかったよ。

その前に発表された“テイク・ミー・ホーム”のヴィデオも印象的でした。あなたがアメフトか何かのユニフォームを着て、ハイヒールを履いて夜の街を闊歩するという。あれはどういうところから出てきたアイデアだったんでしょうか?

MH:あれは自分のクローゼットにあったものを選んできちゃったんだけど(笑)。ちょっとシリアスさもあって、でもジョークっぽさもあって、悪っぽさもあって、そのバランスを取るようにして。アメフトのジャージっていうのはヒップホップのヴィデオなんかでもよく使われてて……リアーナなんかも着てるし、おもしろいかなって思って。

ヒップホップのヴィデオっていうのは、ああいうマッチョさに逆らいたい気持ちもありました?

MH:敵対心とか、そういうものはないよ。ひとを傷つけたくはないしね(笑)。もっと感覚的な部分での表現なんだよ。

じゃあ、ちょっと話題を変えて。フランク・オーシャンのカミングアウトとアルバムについてはどう思いましたか? というのは、あの正直さやセンチメントっていうのに、僕は少しあなたのことを連想したんですよ。

MH:フランク・オーシャンのカミングアウトは、本当に勇敢だったと思う。クリエイティヴな仕事をしていると、そうやってオープンにすることでファン・ベースを狭めてしまう可能性もあるんだよね。ただ、ゲイだからと言ってゲイの音楽だけを聴くわけじゃないし(笑)、フランク・オーシャンもR&Bやヒップホップのフィメール・アーティストの音楽も聴くけど女性じゃないよね。だからそういう意味で、100パーセント共感できなくても音楽は聴いてもらえると思うんだ。(カムアウトすることで)ファンを狭めるって意見もあるけど、僕は必ずしもそうは思わないんだ。彼にはいま音楽しかないし、それを取ってしまったら何もなくなってしまうだろうから、カミングアウトすることはすごく怖かったと思うし、周りも勧めなかっただろうけど、自分を表現するってことはとても大切なことだから、それは正しかったと思う。

もっとこだわらず、自分の好きなようにやればいいと思ったときから自分らしい音楽が書けるようになってきて……

なるほど。では新作『トゥー・ブライト』について訊かせてください。アルバムを聴きましたが、すごく驚きました。録音も違うし、演奏もアレンジも違うし、アルバム全体のトーンも違います。アルバムを作る上で最初にテーマは何か設けていたんでしょうか?

MH:音楽をはじめてこの世界に入ったときっていうのは、もう何もわかってなかったんだけど、セカンド・アルバムからはより真剣にプロ意識を持って、チャンスを生かすようにしてきたんだ。あと、2枚めまではサウンドよりも歌詞に重点を置いてたんだ。で、そこについてはだんだん自信がついてきたんで、今回はサウンドのほうに重心を置きたかった。
 アルバムのトーンや内容が変わったことに関してなんだけど、曲作り自体はいままでと変わらなかったんだよ。曲を書いて作りはじめてから少しずつ変化が出てきたんだけど。3枚めだから周りからのプレッシャーも感じたし、家族や友だちを喜ばせたいって気持ちもあって、最初少し萎縮してしまってたんだ。だけどある時点でそれが弾けて。もっとこだわらず、自分の好きなようにやればいいと思ったときから自分らしい音楽が書けるようになってきて……で、前2作のセラピー的な感じで、より暗く、ワイルドで、怒りがこもった曲が仕上がっていったんだ。

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周りからはゲイ的な歌詞を入れるべきじゃないって意見もあったんだけど、それに反抗するために逆にもっと入れてみたんだ(笑)。もっと声を出して言うぞってね。

なるほど。今日のライヴでも、“マイ・ボディ”みたいな曲はすごくダークでみんなビックリしていましたね。ああいうすごく実験的な曲っていうのは、何か影響元があったんですか?

MH:さっき言ったようにまわりの意見を気にせず自分の作りたいものを作ろう、って切り替えたときに何を大切にすべきかを考えたんだ。たとえばPJハーヴェイ。彼女は秘密にしておきたいことを表現しながらも、とても力強く自信を持って表現しているから、そういう感覚を見習って曲を書きたいと思ったんだ。だから彼女には影響を受けたね。自分の見た目で恥ずかしいと思っているところを、自信を持ってパワフルに歌うっていうことが自分にとってのセラピーになっているんだよ。

前のアルバムのときでもそういった、自分に正直であることっていう話をしましたね。そうした感覚がさらに押し進められているのかなと思います。ただ、歌詞がまだ届いていなくて見られてないので、そこについてもいまから訊いていきたいと思うんですけど。全体を通しての歌詞のテーマはありますか?

MH:そうだね、前作からは自分の生活環境はよくなって、自分で家賃も払ってるし自立してる。ドラッグやアルコールもやめたし。だけどいまでもいつも何かを心配してるし、落ち込むし、自意識過剰になったりするし、急に悲しくなったりする。状況がよくなっても気持ちは昔と変わらない、自分は周りよりも劣っていると思ってしまうときがあるんだ。だけど、それに対して闘っている、周りにも尊重されて、自分自身でも尊重できるように意識できるようにはなってきたから……それが全体のテーマなんだ。音楽的なテーマでもあり、僕自身の人生のテーマでもあるんだよ。

 僕が気取って歩くのは
 ファミリー向けじゃないんだって 
(“クィーン”)

では曲単位でいくつか訊きたいと思います。2曲めの“クィーン”は新しいアルバムの新しいサウンドを印象づけるバンド・サウンドのナンバーですね。「No family is safe」という歌詞が聞こえてきますが、これはひょっとしたら“フッド”のヴィデオがリジェクトされた件と関係あると思ったんですが、どうでしょうか。
(※ヴィデオが削除されたとき、その理由は「not family safe」であると説明された)

MH:直接関係したわけじゃないけど、いろいろなことがインスピレーションになってるんだよね。
アメリカでは家族の価値を守ること、イコール、同性結婚に反対する運動っていうところがあるんだけど、僕にはまったく理解できない。ストレートの夫婦でも離婚率はじゅうぶんに高いし……その恐怖心がどこから来ているか、どうしてゲイのひとたちをそんなに怖がるのか、理解できないんだよ。僕がそんなに害を与えることもないし、サンドイッチを食べたりして普通に暮らしてるだけなのに。周りのひとをみんなゲイにできるんだったらすぐにやっちゃうけど(笑)、そんなことできるわけないんだよ。そういう考え方に対する怒りが、その言葉に反映されているんだ。
 周りからはゲイ的な歌詞を入れるべきじゃないって意見もあったんだけど、それに反抗するために逆にもっと入れてみたんだ(笑)。もっと声を出して言うぞってね。

クール!

MH:(笑)

僕はいままで、いかにまわりに大切にされるか、まわりに尊重されるかってことを考えてきたんだけど、でも大人になるにつれてそんなことは必要ないってことに気づいたんだ。その意識を自分に向ければよかったのに。

ヴィデオがリジェクトされたとき僕もすごく怒りを感じたので、あなたのそういう姿勢は本当にカッコいいですね。“クィーン”っていうタイトルにはクィアネスに対する誇りが込められているんでしょうか?

MH:いろんな意味はあるんだけど、ちょっと自意識過剰になってるときに自分のなかにロイヤル・ファミリーが登場するんだ(笑)。周りから自分を守るために高貴に振る舞うっていう意味もあるし、ゲイを指す意味での「クィーン」でもあるし、すごくパワフルな女性を指しているときもあるし、いろんな意味が混ざってるタイトルなんだ。
 ……なんでいま、ロイヤル・ファミリーみたいに振る舞うって言っちゃたんだろう(笑)!

(笑)いやいや、意味するところはわかりますよ。

やってみるよ
このままでいるよ
首をくくられ 腸をとられ
高いところに横たえられていても
(“トゥー・ブライト”)

E王
Perfume Genius
Too Bright

Matador/ホステス

Indie Rock

Tower HMV Amazon iTunes

では、アルバム・タイトルの『トゥー・ブライト』はどうでしょう。「トゥー」が入ることで「ブライト」の印象が変わってくるんですが、このタイトル・トラックはどういうことを歌ったもので、なぜこのタイトルになったのでしょうか。

MH:ひとっていうのは物事に対して希望も見えるしダークな部分も見えるんだけど、ダークな部分もほうがより複雑なんだ。だけど、希望を見るほうがより努力が必要で、僕自身正しくないほうを選んでしまう。好きじゃないのにね。それがこの曲のテーマなんだ。

僕がとくに好きな曲が最後の“オール・アロング”という曲なんですけど、そこで「きみは僕の時間を無駄にした」と繰り返されるのが印象的です。複雑なリレーションシップを歌っているのかなと想像していたのですが、これはどういうところから出てきた曲なんでしょうか。

MH:僕はいままで、いかにまわりに大切にされるか、まわりに尊重されるかってことを考えてきたんだけど、でも大人になるにつれてそんなことは必要ないってことに気づいたんだ。その意識を自分に向ければよかったのに、っていう意味で、それだけ時間の無駄だったって歌詞なんだ。愛情を自分に向ければよかったって、聴き手にも言っているし、自分自身にも言ってるんだ。

なるほど。前回のインタヴューでもまさに、「悩んでもいいんだ」って話してくれたので、あなたにとってすごく一貫したテーマなんですね。そこに心を動かされました。

MH:そうだね、ありがとう。

OGRE YOU ASSHOLE vs森は生きている - ele-king

 今年のベスト・ソングのひとつは、オウガ・ユー・アスホールの「見えないルール」でしょう。間違いない。ポップ・ソングとしてもよくできているので、最近は、会話に何かと「目ないルール」が使われています。「ばかやろう、いいか、ここには見ないルールってもんがあるんだよ!」と悪用されることもあるのです。つーか、10月2日って、もう間近じゃないすか。

 待望の新作(初回はカセットテープ付き)『ペーパークラフト』のリリースを10月なかばに控えたオウガ・ユー・アスホール、年内に待望のセカンド・アルバムのリリースを控えている森は生きている。10月2日木曜日、恵比寿リキッドルーム、夜7時から、このふたつの素晴らしいバンドのライヴがあります。来て下さいよ~。
 ライヴを見ている方は、このふたつのバンドのぶっ飛び方をよくご存じでしょう。森は生きているはピースなトリップ、最近のオウガは、ややディープなサイケデリックかもしれませんが、ふたバンドともにリズムがしっかりしていて、実はけっこう踊れます。ひとつひとつのライヴにこだわりのあるバンドですから、当日になってどうなるのかわかりませんが、最高に気持ち良い体験は約束できるでしょう

 編集部は、滅多にありえないこの組み合わせのライヴを記録すべく、当日Tシャツを販売します。気鋭のデザイナー、鈴木聖デザインの、アブストラクトで、けっこう格好いいデザインになったと思います。当日会場で現物を見てください! (値段は未定ですが、高くはしないつもりです)
 それでは10月2日、会場でお会いしましょう。


■OPEN / START 18:00 / 19:00
■ADV ¥3,500(税込・ドリンクチャージ別)
■LINE UP:OGRE YOU ASSHOLE/森は生きている
■DJ:ALTZ
■TICKET チケットぴあ [232-675] ローソンチケット [79610] e+ LIQUIDROOM 7/13 ON SALE
■INFO  LIQUIDROOM 03(5464)0800
https://www.liquidroom.net/schedule/20141002/19248/

Syro 2014 西島大介 - ele-king


西島大介
1974年東京都生まれ、広島県在住。2004年に『凹村戦争』でデビュー。代表作に『世界の終わりの魔法使い』、『ディエンビエンフー』などがある。2012年に刊行した『すべてがちょっとずつ優しい世界』で第三回広島本大賞を受賞、第17回文化庁メディア芸術祭推薦作に選出。装幀画を多く手掛け、「DJ まほうつかい」名義で音楽活動も行う。映画『世界の終わりのいずこねこ』脚本&出演など、活動は多岐に渡る。初の作品集『くらやみ村のこどもたち』を刊行。ワタリウム美術館地下オンサンデーズで「くらやみ村のこどもたち」展開催中。

Aphex Twin - ele-king

 彼の前に道は無し、とは言わないが、彼のうしろに道ができたのは事実だろう。エイフェックス・ツインとは、ポップにおける重要な分岐点である。クラフトワークやNYのガラージ・ハウスは理解できたとしても、92年のコースティック・ウィンドウの諸作や160bpmのハードコア・アシッドの「Digeridoo」、青いレーベル面にTHE APHEX TWINというスタンプが押されただけの12インチに関してはさっぱりだった、という人は少なくなかった。いや、その前にそんなものチェックもしてないか。ディスコの文脈では到底聴けたものではなかったろうし、一種の権威たちから評価されなかったものの代表格が、シカゴのアシッド・ハウス、デトロイトのUR、UKのジャングル(あるいはガバ)、そしてエイフェックス・ツインなのである。
 ことAFXに関しては、公に聴かせる音質としては掟破りなまでに歪んだTR606とTB303、それまでの宅録文化の標準クオリティからすればありえない音質……この点に関しては初期シカゴ・ハウス/デトロイト・テクノが先だが、しかしAFXのそれは、退行的な、機械をいじりながらほくそ笑んでいる、ただの子供のいずらに感じられなくもなかった。
 が、しかし、ある世代以降になると、そしてある人たちにとっては、彼の荒削りなテクノ・サウンドは悦び以外の何ものでもなかった。それは来るべき時代のはじまりを意味したのだから(で、実際にそうなった)。
 AFXが、それ以前のUKテクノ(ハウス)──ア・ガイ・コールド・ジェラルドや808ステイト、ベイビー・フォードやLFO──とは異質の存在感をはなっていたことは、デビュー当時の彼が、メディアから天才児扱いされるいっぽうで、「bedroom bores(こもり系)」、「ゲームボーイ世代」などと揶揄されていたことからもうかがい知れる。彼からは、旧来のポップスター文化がよくは思っていなかったパーソナリティー──恋人を誘って外に出かけるようなことはなく、部屋にこもってマニュアル片手に機材をいじり続けるような、ある種のオタク性──が前面に匂ってはいたが、ウケ狙いのDJをすることはなかったし、人に媚びることもなかった。リチャード・D・ジェイムスには、人が求めるようなロックのイディオムというものがなかったし、話題のロック・バンドからのリミックス依頼に関しても「そんなバンド、知らないし」と言う始末だった。

 だからこそ彼は歴史の起点に、ポップに新たな流れをもたらす起爆剤になりえたのだ。彼はメディアから賞賛され、顔が売れてからも、匿名性を捨てず、基本ひとりで作り、作品それ自体においてはアンダーグラウンドな姿勢を崩さなかった(『 ...I Care Because You Do 』以降の露悪的自己パロディも反ポップスター的な性格のねじ曲がった表出とも言えなくはない)。
 彼は、初期アシッド・ハウスやURの過剰さ、アホらしいジャングル(ときにはガバ)とコネクトしながら、最高にいかれた曲を作り、最高にロマンティックな曲を作った。こと90年代前半のエイフェックス・ツイン名義の作品には、無邪気で、彼のドリーミーな気質が録音されているわけだが、僕が『サイロ』の1曲目の“Minipops 67”を最初に聴いて思ったのは、「これって“Analogue Bubblebath”(92)じゃん」、だった。

 冒頭のドラムに続いて入る太いシンセ音とメロディは、間違いなくあの頃の「サウンド」だ。目隠しで聴かされても誰の曲かわかる。録音の良さや緻密に変化する曲のディテールには20年以上の経験が反映されてはいるものの、その出だしが暗示するように、『サイロ』には誰もが思い抱いているであろうAFXテイストが通底している。驚きはないが、親しみやすい作品である。ユーモアはあっても、聴き手を困惑させるような意地悪さもない。「あ、AFXだ」と、20年ぶりにケレンミのない、まとまりの良いアルバムになったと言えるだろう。
 1曲目が“Analogue Bubblebath”なら、2曲目の“Xmas_Evet10”は、『Surfing On Sine Waves』(92)を彷彿させる曲で、当時の言葉で言えば「リスニング系テクノ」だ。美しいメロディは、ある世代にとってレイヴのオプティミズムがいっぱい詰まったあの時代の空気を思い出させるかもしれない。今回のスリーヴ・デザインに使用されているAマークも、『Chosen Lords』(06)のときよりもはるかに、1周まわったからなのか、新鮮に感じられる。リチャード・D・ジェイムスは、「On」(94)以前の、自由気ままに作っていた頃の自分に戻っているんじゃないだろうか……そう思わせなくもないし、実際それは少しあるだろう。

 20年以上前の、機材で埋め尽くされた彼のベッドルームは、クラブのダンスフロアと田舎の牧草地帯の両方に通じていたものだが、『サイロ』にもそのふたつの側面がある。リチャード・D・ジェイムスはエレクロニカ/IDMの起点にもなった人なので、年齢を考えても、そちら側に大きく振れるということも予測されたわけだが、結果、そうはならなかった。
 ひとつ驚きがあったとすれば、『サイロ』ではファンク、ダンス・ビート/ジャングルにこだわっているということである。“4 Bit 9d Api+e+6”なる曲は、アシッディなシンセのうねりとドレクシア直系のマシン・ファンクとの結合だ。ストリングスの入り方はAFXらしいドリーミーな響きを有しているが、ドライで硬質な質感は、クラウトロッカーのメビウス&プランクの一連の作品とも似てなくはない。
 相変わらずよくわからない曲名の“Circlont6a”や“Circlont14”は、コースティック・ウィンドウ名義で試みていたような、悪戯っぽく、コミカルなトラックで、『サイロ』が楽しみながら作られた作品であることをほのめかしている。とくに高速ブレイクビートの“Circlont14”には、リチャード坊(©三田格)の子供っぽさが、あまりにも真っ直ぐ出ている。曲の細部において暴れまわる電子音は、玩具を持ってドタバタ騒ぎまくる幼児そのもので、ふたりの子供がいながらも自身もここまで子供でいられるのは、ある意味すごいとしか言いようがない(笑)。紙エレキングのインタヴューでは、「自分は成熟することを拒否していると言えるだろう」「シニカルな大人になりたくないから」と答えているリチャード・D・ジェイムスだが、『サイロ』を3回目に聴いたとき、僕はこの音楽のあまりの無心さに涙したことを告白しよう。

 実を言えば、『サイロ』を聴きながら「そーいやー、リチャード・D・ジェイムスって、デビュー当時はURのファンだったよなー」と思い出したのは、“Syro U473t8+e”のリズムがURの“Moor Horseman On Bolarus 5“”に似ているからだ。もちろんAFXにあのような勇敢な突進力はない。その代わりに何があるのかは、もう繰り返して述べる必要もないだろうけれど、たとえば、クライマックスとして配置された2曲のドラムンベース、“Papat4”と“S950tx16wasr10”には、彼の「ガール/ボーイ」哲学、いわばシャルル・クロス的ナンセンスが猛スピードで炸裂している。
 ダンスを意識していたとしても、いかんせんガキなので、セクシーに踊っているのではない(やはり、どうがんばっても、グルーヴィーには踊れないだろう)。ただただ身体を動かし、ぎゃーすかと騒いでいる、風に感じられる。試しに、まず覚えられない曲名の“S950tx16wasr10”を僕は5歳の娘に聴かせることにした。反応は予想通りで、AFXの最高作のひとつ、“Girl/Boy Song”の系譜の小刻みなブレイクビートに合わせて彼女は身体をガタガタと震わせた。サブベースが部屋に響くなかで、「ヘンな音楽ー」と感想をもらしたが、良かった、そう言われなければAFXではないのである。

 とはいえ、オリジナル・アルバムでは最後の曲になる“Aisatsana”は、クラスター&イーノ/レデリアスのソロ作品並みにロマンティックな曲だ。彼にとっては異例とも言える、とても真っ当なピアノの独奏によるアンビエントで、13年ぶりの新作を締めるには充分なほど美しい曲である。

 ひとつ種明かしをすれば、あわててスペシャル・リクエストのアルバムをレヴューしたのも、音楽的に『サイロ』と重なるところが多々感じられたからである。『Selected Ambient Works 85-92』(92)がそうだったように『サイロ』も時代と切り離される作品ではない……なんて書きながらも、ここしばらくのあいだAFXばかり聴いていたのですっかり洗脳されてしまったですよ。まずいよなぁ……。

 10月はエレキング月間! いや、正確にはフライング・ロータスを表紙に据えた『別冊ele-king プログレッシヴ・ジャズ 進化するソウル──フライング・ロータスとジャズの現在地』が発売となる9月30日がその皮切りとなります。10月15日には『ele-king』の新刊(エイフェックス・ツイン号!)が登場。そう、10月は“別冊”と“最新号”が揃う特別な月なのです。そして久々のele-king TVも企画進行中。毎度のことながらどちらの内容もウェブでは読めないのですが、お見せできないのがほんとにもったいなくてたまらない……という記事が目白押し。ぜひご購読くださいね!

 では本日は「別冊ele-king」のお知らせから!

■別冊ele-king プログレッシヴ・ジャズ
進化するソウル──フライング・ロータスとジャズの現在地


別冊ele-king
『プログレッシヴ・ジャズ』

Tower HMV Amazon

監修:松村正人
価格:本体 1,700円+税
仕様:152ページ、菊判
ISBN:978-4-907276-20-1
発売日:2014年9月30日

ele-king 別冊第一弾!
ジャズはどこまでジャズか?
ソウル~R&B、ヒップホップ、インディ・ロック、音響、即興、世界と日本、あるいは90年代とゼロ年代に2010年代……いま考えるべきジャズの命題を網羅し、ジャズを逆照射する、一冊まるごとの「ジャズ」号が登場。

●新譜を控えたフライング・ロータスの最新ロング・インタヴュー
●ディスクガイド、ブックガイド100
●FLYING LOTUS、SANABAGUN、Thundercat、Robert Glasper、菊地成孔、SUN RA、スガダイロー、Elizabeth Shepherd、Daniel Crawford、市野元彦×藤原大輔×田中徳崇、大島輝之×大谷能生、中尾勘二×牧野琢磨

 いま欧米のストリートで、ダンス・カルチャーで、エレクトロニック・ミュージックのシーンで、もっともクールなトレンドが「ジャズ」。ロンドンのレコード店に入れば大音量で「ジャズ」が鳴り、ラジオをつければジャズが流れる。DJカルチャーはジャズを堀り、インディ・リスナーはアヴァンギャルドを探求する。テクノにもダブステップにもヒップホップにもジャズが大量に注がれはじめている。
 周知のように、ロバート・グラスパーのグラミー賞受賞をきっかけに、ソウル~R&B~ヒップホップのなかでジャズが再解釈されている。が、現在の「ジャズ」には、さらにもっと自由な風が吹いている!

 プログレッシヴ・ロックのアフリカ・ヴァージョンとも呼べるジャズの新局面。シュギー・オーティスの流れを引く俗称「プログ&B」(プログレ+R&Bの略)。デトロイト新世代のカイル・ホールがうながすブロークン・ビーツ・リヴァイヴァル、サン・ラー生誕100周年で再燃するコズミック・ジャズ、デレク・ベイリー再評価のなか広がるアヴァンギャルドへの情熱、そして大友良英の上昇、シカゴ音響派の再評価、ワールド・ミュージックとしてのジャズ、吉田ヨウヘイgroupやサナバガンなど日本の新世代に見るジャズへの偏愛……。
 活況あるジャズの現状を分類しながら、新旧交えて「いま聴くべき」ディスク・カタログ100枚も収録。
 表紙&カバーストーリーは、近々待望の新作リリースが噂されるフライング・ロータス!


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