「K A R Y Y N」と一致するもの

即興的最前線 - ele-king

 これはじつに興味深いイベントです。その名も「即興的最前線」。池田若菜、岡田拓郎、加藤綾子、時里充、野川菜つみ、山田光らの異才たちが「即興」をテーマに思い思いのパフォーマンスを繰り広げます。10年代の即興音楽の流れについては細田成嗣による入魂の記事「即興音楽の新しい波」を参照していただきたいですが、何を隠そう、今回のイベントはまさに彼の企画によるものなのです! 熱いステートメントも届いております。入場無料とのことなので、ぜひ会場まで足を運んで「即興」のいまを目撃しましょう。

即興的最前線
次世代の素描、あるいはイディオムの狭間に循環の機序を聴く

日時:11月24日(土)12:00~18:00
会場:EFAG East Factory Art Gallery/東葛西(東京)
住所:〒134-0084東京都江戸川区東葛西1-11-6
料金:無料(入退場自由)
出演:池田若菜、岡田拓郎、加藤綾子、時里充、野川菜つみ、山田光
企画:細田成嗣

12:00~15:00 ソロおよびデュオ
15:00~16:00 集団即興
16:00~16:30 休憩
16:30~18:00 トークセッション

出演者プロフィール:

池田若菜 / Wakana Ikeda
桐朋学園大フルート専攻卒。古楽と現代音楽について学ぶ。後にロックバンド「吉田ヨウヘイgroup」に加入/脱退。ロック、ポップスの中でフルート演奏の可能性を探る。現在は作曲作品を扱う室内楽グループ「Suidobashi Chamber Ensemble」を主宰するほか、ヨーロッパツアーなど海外でも精力的に演奏活動を行う。また、2018年3月より新たなバンド「THE RATEL」を始動。

岡田拓郎 / Takuro Okada
1991年生まれ。福生育ち。東京を拠点にギター、ペダルスティール、マンドリン、エレクトロニクスなどを扱うマルチ楽器奏者/作曲家。2012年にバンド「森は生きている」を結成。2枚のアルバムを残し15年に解散。17年にソロ・アルバム『ノスタルジア』、18年に『The Beach EP』をリリース。映画音楽、実験音楽などでも活動。

加藤綾子 / Ayako Kato
洗足学園音楽大学音楽学部弦楽器コース、および同大学院器楽研究科弦楽器コースをそれぞれ首席で卒業(修了)。同大学院グランプリ特別演奏会にてグランプリ(最優秀賞)及び審査員特別賞を受賞。市川市文化振興財団・即興オーディションにて『優秀賞』を受賞。ヴァイオリンを有馬玲子、佐近協子、瀬戸瑤子、沼田園子、安永徹、川田知子の各氏に、室内楽を沼田園子、安永徹、須田祥子の各氏に師事。

時里充 / Mitsuru Tokisato
画面やカメラに関する実験と観察を行い、認知や計量化といったデジタル性に関する作品を制作発表。展覧会に、「エマージェンシーズ!022『視点ユニット』」(東京/2014)、「見た目カウント」(東京/2016)、「見た目カウント トレーニング#2」(東京/2017)。小林椋とのバンド「正直」や、Tokisato Miztsuru(Miztとのユニット)などでライブ活動を行う。

野川菜つみ / Natsumi Nogawa
神奈川県横浜市出身。木、水、石、木の実などの自然物や様々な素材の音具、マリンバ等の音盤打楽器、エレクトロニクス、フィールドレコーディング等を主に用いた演奏・音楽制作を行う。 桐朋学園大学音楽学部打楽器専攻にてマリンバを安倍圭子、加藤訓子、中村友子、打楽器を塚田吉幸、各氏に師事。卒業後、同大学研究科を修了。現在、東京藝術大学大学院音楽研究科音楽音響創造領域に在籍中。

山田光 / Hikaru Yamada
サックスの内部/外部奏法を追求する即興演奏家にしてサンプリング・ポップ・ユニット「ライブラリアンズ」を率いるトラックメイカー。2010年から2年間ロシアのサンクトペテルブルグで活動、現地のフリー・ジャズ・シーンで多数のミュージシャンと共演を重ねる。帰国後の2012年からは都内の即興音楽シーンで活躍する傍ら、入江陽、毛玉、POWER、さとうもか、前野健太らの楽曲にも参加。

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「アポリア」の跳躍

 「即興演奏家は音楽創造における最古の方法を用いている」とデレク・ベイリーが述べたように、即興それ自体は先端的でも前衛的でもなくむしろ遥かに原初的な営みであり、だからそれをテーマに最前線を見出そうとすることは正しくないように思えるかもしれない。だが二〇世紀半ばを端緒とする即興それ自体に対する自覚——その契機には録音再生技術による記号化されざる音響の反復聴取という経験があっただろう——から紡がれてきた複数の系譜を考えるとき、そこでは「音に何ができるか」とでも言うべき問いに応えようとするいくつもの実践が歴史的に積み重ねられてきたということもたしかである。そしてまた少なくとも現在を眺めわたすならば、それらの複数の系譜が即興というテーマを介して交差し合う先端部のひとつとして、テン年代に台頭してきた東京の新しい世代の即興演奏家たちの試みを捉えることもできる。

 ここで留意しなければならないのは即興という用語がすでに辞書的な意味——現在に集中し、心に浮かぶ想いもしくは構想にそのまま従って、それを外に現実化してゆくこと——をのみ担っているわけではないということだ。そこには構想を現実化するための自由や制度的なるものに対する批判、あるいは未知なるものとの出会いといった様々な含みがまとわりついており、そしてかつては「即興すること」がそのままそれらの含みと互いに手と手を取り合いながら歩みゆくかのようにも思われていた。だがいまやこれら複数の要素を素朴に一括りにして即興に賭けることはできなくなっている。とりわけ即興の原理として抽出された「意想外であること」が、歴史的/個人的な記憶によって不可能である、すなわち「即興は原理的に非即興的たらざるを得ない」とされたテン年代以降、字義通りの即興に関わることはある種の反動であるかのようにさえ見做されてきた。あるいは「即興」を原理的に遂行するためには非即興的なものに、さらには非音楽的なものに賭けなければならないとされてきた。だが本当にそうだろうか?

 「即興」は原理的に矛盾を抱えている。しかしながらそれでもなお、いたるところで即興は実践されている。原理的矛盾など意に介することなく刺激的な演奏が繰り広げられ、ときには新鮮な響きを届けてくれる。わたしたちは思考のアポリアに突き当たるまえに、意識的にせよ無意識的にせよそれを軽々と飛び越えていく具体的な実践にまずは少なくない驚きとともに触れるべきだろう。彼ら/彼女らはどのように「アポリア」を跳躍しているのか。無論その跳躍の仕方は様々だ。「即興音楽」といえども一塊のものとしてあるのではなく、とりわけ都市部では交わることの少ない複数の流れが並走している。それぞれの文脈の最前線における個々別々のアプローチがもたらす跳躍、そしてそれらの実践が滲み交わるところにアンサンブルと言い得るものが生まれるのだとしたら、それもまた原理的不能とはまるで異なる姿をしたひとつの跳躍の実践であることだろう。わたしたちはおそらく「即興」の原理をあらためて設定し直すこと、あるいは原理には還元し得ない別の価値を聴き取ることへと、感覚と思考の配置編成を組み換えながら向かわなければならない。

細田成嗣(ライター/音楽批評)

Wen - ele-king

 ワイリーが起源だとされるウエイトレスはファティマ・アル・ケイディリシェベルなど応用編の方がどんどん突っ走っている印象が強いなか、さらにウエイトレスとニューエイジを結びつけたヤマネコ『Afterglow』やオルタナティヴ・ファンク風のスリム・ハッチンズ『C18230.5』など適用範囲がさらに裾野を広げ、原型がもはやどこかに埋もれてしまったなあと思っていたら、そうした流れに逆行するかのようにウエイトレス以外の何物でもないといえるアルバムをウェンことオーウェン・ダービーがつくってくれた(以前はもっとクワイトやダブステップに近いサウンドだった)。ファティマ・アル・ケイディリやスラック『Palm Tree Fire』からは4年が経過しているし、何をいまさらと言う人の方が多いだろうけれど、なんとなく中心が欠如したままシーンが動いているというのは気持ちが悪く感じられるもので、それこそデリック・メイが1992年あたりにデトロイト・テクノのアルバムを出してくれたような気分だといえば(ロートルなダンス・ミュージックのファンには)わかってもらえるだろうか。つまり、このアルバムが4~5年前にリリースされていれば、もっと大変なことになったかもしれないし、ボディ・ミュージックを意識したようなストリクト・フェイス『Rain Cuts』などの意図がもっとダイレクトに伝わったのではないかなどと考えてしまったのである。ウエイトレスが何をやりたい音楽なのかということを、そして『EPHEM:ERA』はあれこれと考えさせる。それはとんでもなくニュートラルなものに思えて仕方がなく、ファティマ・アル・ケイディリによるエキゾチシズムやシェベルによるアクセントの強いイタリア風味など、応用編と呼べるモード・チェンジが速やかに起きてしまった理由もそこらへんにあるような気がしてしまう。それともこれはアシッド・ハウスが大爆発した翌年にディープ・ハウスという揺り戻しが起きた時と同じ現象だったりするのだろうか。「レッツ・ゲット・スピリチュアル」という標語が掲げられたディープ・ハウス・リヴァイヴァルがとにかく猥雑さを遠ざけようとしたことと『EPHEM:ERA』が試みていることにもどこか共通の精神性は感じられる。悪くいえばそれは原理主義的であり、変化を認めないという姿勢にもつながってしまうかもしれない。いずれにしろウエイトレスが急速に変化を続けているジャンルであることはたしかで(〈ディフィレント・サークルズ〉を主宰するマムダンスは「ウエイトレスはジャンルではない。アティチュードだと発言していたけれど)、全体像を把握する上で『EPHEM:ERA』というアルバムがある種の拠り所になることは間違いない。

 思わせぶりなオープニングで『EPHEM:ERA』は始まる。そして、そのトーンは延々と続いていく。何かが始まりそうで何も始まらない。立ち止まるための音楽というのか、どっちにも踏み出せないという心情をすくい取っていくかのように曲は続く。うがっていえばいまだにブレクシット(これは反対派の表現、肯定派はブレグジット)の前で迷っているとでもいうような。“RAIN”はそうした躊躇を気象状況に投影したような曲に思えてくる。動けない。動かない。続く“BLIPS”あたりからそうした精神状態がだんだん恍惚としたものになり、停滞は美しいものに成り変わっていく。ここで“ VOID”が初期のアルカに特徴的なノイズを混入させ、美としての完成を思わせる。そこでようやく何かが動き始め、後半はウエイトレスとUKガラージが同根のサウンドだということを思い出させる展開に入っていく。それらを引っ張るのが、そして、“GRIT”である。「エフェメラ」とはフライヤーやチラシのように、役割を終えればすぐになくなってしまう小さな印刷物のことで、ポスターや手紙、パンフレットやマッチ箱などのことを言う。“GRIT”はさらにそれよりも儚いイメージを持つ「砂」のことで、『EPHEM:ERA』にはどこか「消えていくもの、失われていくもの」に対する愛着のようなものが表現されている。『EPHEM:ERA』のスペルをよく見ると、ERAの前がコロンで区切られており、「すぐになくなってしまう小さな印刷物の時代」という掛け言葉になっていることがわかる。それはまさにウエイトレス=無重力に舞うイメージであり、エフェメラに印刷されて次から次へと生み出される「情報」の多さやその運命を示唆しているのではないかという邪推も働いてしまう。膨大な量の情報が押し寄せ、誰もそのことを覚えていない時代。クロージングの美しさがまたとても際立っている。


栗原康 × 大谷能生 - ele-king

 この夏話題の対談本『文明の恐怖に直面したら読む本』を刊行した政治学者の栗原康と、同じく新刊『平岡正明論』を上梓した音楽家/批評家の大谷能生によるトーク・イベントが、11月27日、代官山 蔦屋書店にて開催されます。
 映画『菊とギロチン』のノベライズ(タバブックス)を担当したことでも注目を集めた栗原ですが、彼は熱心な平岡正明のファンでもあります。じっさい、彼が編んだアンソロジー『狂い咲け、フリーダム』(ちくま文庫)には平岡の「あらゆる犯罪は革命的である」が収録されていますが、となれば今年『平岡正明論』という快著を世に問うた大谷と語り合っていただくしかないでしょう! そんなわけで実現した今回のイベント、おそらくは平岡をめぐって熱いトークが繰り広げられるにちがいありません。予約方法などは下記をご参照ください。

代官山 蔦屋書店 イベント・ページ

[11月21日追記]
 昨日刊行されたばかりの栗原康の最新刊『アナキズム 一丸となってバラバラに生きろ』(岩波新書)付きチケットでも参加可能となりました。ふるってお申し込みください!

『文明の恐怖に直面したら読む本』(Pヴァイン)刊行記念
栗原康×大谷能生対談「文明社会と平岡正明」

混迷をきわめる政治、やりがいやコミュニケーションを押しつけられる社会、それらはすべて文明によってもたらされたものである。そのような生きづらい秩序から離脱するにはどうしたらいいのか?
ヒントは「民衆」や「遊び」、「歌」にある。
新刊『文明の恐怖に直面したら読む本』を上梓したばかりの政治学者・栗原康が、同じく初夏に『平岡正明論』を刊行した音楽家/批評家の大谷能生とともに語り合う。

2018年11月27日(火)
蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース

【参加条件】 ※11月21日更新
代官山 蔦屋書店にて以下のいずれかをご予約、ご購入の先着70名様にイベント参加券をお渡しいたします。
1. 『文明の恐怖に直面したら読む本』(Pヴァイン/1,944円)付イベント参加券 2,500円(税込)
2. 『平岡正明論』(Pヴァイン/2,592円)付イベント参加券 3,000円(税込)
3. 『アナキズム』(岩波書店/929円)付イベント参加券 2,000円(税込)
4. イベント参加券 1,500円

会期:2018年11月27日(火)
定員:70名
時間:19:00~21:00
場所:蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース
主催:代官山 蔦屋書店
共催・協力:Pヴァイン
問い合わせ先:03-3770-2525

【お申込み方法】
以下の方法でお申込みいただけます。
・店頭 (1号館1階 人文フロア)
・お電話 03-3770-2525 (人文フロア)
・オンラインストア

【対象商品】 ※11月21日更新
1. 『文明の恐怖に直面したら読む本』(Pヴァイン/1,944円)付イベント参加券 2,500円(税込)
2. 『平岡正明論』(Pヴァイン/2,592円)付イベント参加券 3,000円(税込)
3. 『アナキズム』(岩波書店/929円)付イベント参加券 2,000円(税込)
4. イベント参加券 1,500円

【ご注意事項】
*参加券1枚でお一人様にご参加いただけます。
*イベント会場はイベント開始の15分前から入場可能です。
*当日の座席は、先着順でお座りいただきます。
*参加券の再発行・キャンセル・払い戻しはお受けできませんのでご了承くださいませ。
*止むを得ずイベントが中止、内容変更になる場合があります。

【プロフィール】
栗原 康 (くりはら やすし)
1979年埼玉県生まれ。現在、東北芸術工科大学非常勤講師。専門はアナキズム研究。著書に、『大杉栄伝:永遠のアナキズム』(夜光社)、『はたらかないで、たらふく食べたい』(タバブックス)、『現代暴力論』(角川新書)、『村に火をつけ、白痴になれ:伊藤野枝伝』(岩波書店)、『死してなお踊れ:一遍上人伝』(河出書房新社)、『菊とギロチン:やるならいましかねぇ、いつだっていましかねぇ』(タバブックス)、『何ものにも縛られないための政治学:権力の脱構成』(KADOKAWA)などがある。ビール、ドラマ、詩吟、長渕剛が好き。

大谷 能生 (おおたに よしお)
1972年生まれ。横浜在住。
音楽(サックス・エレクトロニクス・作編曲・トラックメイキング)/批評(ジャズ史・20世紀音楽史・音楽理論)。96年~02年まで音楽批評誌「Espresso」を編集・執筆。菊地成孔との共著『憂鬱と官能を教えた学校』や、単著『貧しい音楽』『散文世界の散漫な散策 二〇世紀の批評を読む』『ジャズと自由は手をとって(地獄に)行く』など著作多数。
音楽家としてはsim、mas、JazzDommunisters、呑むズ、蓮沼執太フィルなど多くのグループやセッションに参加。ソロ・アルバム『「河岸忘日抄」より』、『舞台のための音楽2』をHEADZから、『Jazz Abstractions』をBlackSmokerからリリース。映画『乱暴と待機』の音楽および「相対性理論と大谷能生」名義で主題歌を担当。チェルフィッチュ、東京デスロック、中野茂樹+フランケンズ、岩渕貞太、鈴木ユキオ、大橋可也&ダンサーズ、室伏鴻、イデビアン・クルーなど、これまで50本以上の舞台作品に参加している。
また、吉田アミとの「吉田アミ、か、大谷能生」では、朗読/音楽/文学の越境実験を継続的に展開中。山縣太一作・演出・振付作品『海底で履く靴には紐がない』(2015)、『ドッグマンノーライフ』(2016/第61回岸田戯曲賞最終選考候補)では主演をつとめる。『ホールドミーおよしお』(2017/CoRich舞台芸術まつり!2017春演技賞受賞)。


Kankyō Ongaku - ele-king

 相変わらず再評価が活発ですね。なかでもこれは決定打になりそうな予感がひしひし。シアトルのレーベル〈Light In The Attic〉が、日本産アンビエントをテーマとしたコンピレイション『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990』をリリースします。編纂者は、昨今のニューエイジ・リヴァイヴァルとジャポネズリに火を点けたヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーラン。彼は昨年、自身のレーベル〈Empire Of Signs〉から吉村弘の代表作『Music For Nine Post Cards』をリイシューしていますが(『表徴の帝国』をレーベル名にした真意を尋ねたい)、今回のコンピにはその吉村をはじめ、久石譲や土取利行、清水靖晃、イノヤマランド、YMO、細野晴臣、さらにLP盤には高橋鮎生、坂本龍一と、錚々たる面子が居並んでおります。これを聴けば、いまあらためて日本の音楽が評価されているのはいったいどういう観点からなのか、その糸口がつかめるかもしれません(ドーランによるエッセイを含む詳細なライナーノーツも付属とのこと)。発売は来年2月15日。

Various Artists
Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music 1980-1990

Light In The Attic
LITA 167
3LP / 2CD / Digital
Available February 15

https://lightintheattic.net/releases/4088-kankyo-ongaku-japanese-ambient-environmental-new-age-music-1980-1990

[Tracklist]

01. Satoshi Ashikawa / Still Space
02. Yoshio Ojima / Glass Chattering
03. Hideki Matsutake / Nemureru Yoru (Karaoke Version)
04. Joe Hisaishi / Islander
05. Yoshiaki Ochi / Ear Dreamin'
06. Masashi Kitamura + Phonogenix / Variation III
07. Interior / Park
08. Yoichiro Yoshikawa / Nube
09. Yoshio Suzuki / Meet Me In The Sheep Meadow
10. Toshi Tsuchitori / Ishiura (abridged)
11. Shiho Yabuki / Tomoshibi (abridged)
12. Toshifumi Hinata / Chaconne
13. Yasuaki Shimizu / Seiko 3
14. Inoyama Land / Apple Star
15. Hiroshi Yoshimura / Blink
16. Fumio Miyashita / See The Light (abridged)
17. Akira Ito / Praying For Mother / Earth Part 1
18. Jun Fukamachi / Breathing New Life
19. Takashi Toyoda / Snow
20. Yellow Magic Orchestra / Loom
21. Takashi Kokubo / A Dream Sails Out To Sea - Scene 3
22. Masahiro Sugaya / Umi No Sunatsubu
23. Haruomi Hosono / Original BGM
24. Ayuo Takahashi / Nagareru (LP Only)
25. Ryuichi Sakamoto / Dolphins (LP Only)

God Said Give 'Em Drum Machines - ele-king

 これは興味深い。Resident Advisorの伝えるところによれば、デトロイト・テクノにかんする新たなドキュメンタリーの制作が開始されるようなのだけれど、どうもそれが「いかに音楽ビジネスがクリエイターを裏切ってきたか」という切り口のものらしいのである。『God Said Give 'Em Drum Machines: The Story Of Detroit Techno』と題されたそれは、ホアン・アトキンス、ケヴィン・サンダーソン、デリック・メイのビルヴィレ3を筆頭に、エディ・フォークスやブレイク・バクスター、サントニオ・エコルズらのキャリアを追いながら、ついつい見過ごされがちなダークな側面、巨大産業となったエレクトロニック・ダンス・ミュージックの暗部を探るものになるのだという。現在、制作者のジェニファー・ワシントンとクリスティアン・ヒルがクラウドファンディングを実施している。プロジェクトの詳細と彼らへのサポートは、こちらから。

HP: godsaidgiveemdrummachines.com

Elecktroids - ele-king

 先日素晴らしいドキュメンタリーが公開されたばかりのドレクシアですが、またもや驚きのニュースが舞い込んできました。彼らがエレクトロイズ名義で発表した唯一のアルバム『Elektroworld』が、鬼のようにドレクシア関連音源を発掘しつづけているロッテルダムの〈Clone〉傘下の〈Clone Classic Cuts〉から12月にリイシューされます。また11月には、同じく唯一のシングルである「Kilohertz EP」も再発。こちらは〈Clone Aqualung Series〉から(同レーベルはこの夏、トランスリュージョンの未発表音源集「A Moment Of Insanity」もリリースしています)。いずれも長いあいだ入手困難状態が続いていただけに、朗報です。

Elecktroids
Elektroworld

Clone Classic Cuts
C#CC035LP
December 2018

2LP: disk union
CD: disk union

Elecktroids
Kilohertz EP

Clone Aqualung Series
CAL014
November 2018

12": disk union

Eli Keszler - ele-king

 ニューヨークのドラム奏者/サウンド・アーティストであるイーライ・ケスラーは、2017年にローレル・ヘイローのアルバム『Dust』に全面参加し(実質上のコラボレーターともいえる)、2018年に『Age Of』をリリースしたワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのワールド・ツアーにドラマーとして参加したことで、その名を広く知らしめることになった。
 むろんイーライはそれ以前もドラム奏者/サウンド・アーティストとして充実した活動をおこなってきた。2006年以降、自身のレーベル〈R.E.L Records〉から精力的に多くのアルバムをリリースし、2011年にはベルリンの実験音楽レーベルの〈Pan〉から『Cold Pin』を、2012年に『Catching Net』を発表する。両作ともドラム演奏とインスタレーション的なコンセプトを音盤化したエクスペリメンタルな音響作品だ。この2作で彼にとって演奏/インスタレーションという極の融合を示してみせた。そして2016年には香港のフリー・ミュージック/実験音楽レーベル〈Empty Editions〉のリリース第1作として『Last Signs Of Speed』をリリースする。
 ソロ作品のリリースのほかに、コラボレーション作品の発表も盛んにおこなっており、2012年にイタリアはヴェニスのフリー・ジャズ・レーベル〈8mm Records〉からベテラン・サックス奏者のジョー・マクフィーとの『Ithaca』を、同年、アメリカ合衆国はバーリントンを拠点とするエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈NNA Tapes〉から電子音響/音楽家キース・フラートン・ウィットマンとの『Eli Keszler / Keith Fullerton Whitman』を、2014年にロンドンのフリー・ミュージック・レーベル〈Dancing Wayang〉からオーレン・アンバーチとの『Alps』などをリリースしている。私見ではこういったコラボレーションの成果が(あくまで音楽的方法論であって、人脈的なものではない)、ヘイローの傑作『Dust』に結実したのではないかと考えている。
 いずれにせよ、イーライのドラム演奏とサウンド・インスタレーションを融合させていく作品は観客/聴き手/アーティストに大きなインパクトを与えた。じっさい音源リリース以外でも作品展示(自身の演奏も含む)やアート作品の発表なども多くおこなっている。それは彼のサイトでも確認できる。

 本作『Stadium』は『Last Signs Of Speed』以来、2年ぶりとなるイーライのソロ・アルバムである。今回は電子音楽家フェリシア・アトキンソンとアート・ディレクター/デザイナーのバルトロメ・サンソンによって運営される注目のエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル/ブック・レーベル〈Shelter Press〉からのリリースだ。
 このアルバムの制作中にイーライはサウス・ブルックリンからマンハッタンへ拠点を移したようで、それに伴う意識の変化や、近年のツアー生活にともなう風景の変化が、楽曲の隅々にまで影響・反映しているようにも感じられる。トラックは意識の変容にように滑らかに変化し、光景/記憶の再生のように生成していく。私見では現時点におけるイーライの最高傑作ではないかと思う。音響の構成や構築度がこれまでの段違いにオリジナリティを獲得しているからである。

 ドラム、パーカッションのグルーヴのみならず、それらのテクスチャーをも精密に抽出し、細やかにスライスし、細やかな粒子のように電子音などとレイヤーさせる手法と手腕によって、ジャズ的/フリー・ミュージックな演奏イディオムをサウンド・アートやインスタレーション、エレクトロニクス音楽の中に分解していく。いわば音と音の関係性が複雑な音響空間の中で、音、音楽、演奏の関係性が、その都度「結び直されていく」かのごとき独自の音響と聴取感が生まれているわけだ。
 1曲め“Measurement Doesn't Change The System At All”や5曲め“Simple Act Of Inverting The Episode”のグリッチするような細やかでハイブリッドなドラミングと柔らかい電子音/サウンドのレイヤー、2曲め“Lotus Awnings”、4曲め“Flying Floor For U.S. Airways”などのズレとタメが多層的にコンポジションされる非常に現代的なリズム構造など、どの曲もハっとするような聴きどころに満ちており、一瞬たりとも聴き逃せない。
 中でも注目したいのが3曲め“We Live In Pathetic Temporal Urgency”だ。この曲は音響とアンビエンスとリズムの時間軸が伸縮するような構造と構成になっており、どこか意識と身体に浸透するようなサウンドを生成している。意識と風景。サウンドとミュージック。マテリアルとアブストラクト。それらの関係が別の地点から結び直されていくような感覚を覚えた。アルバムを代表する曲ではないかと思う。
 ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(ダニエル・ロパティン)はイーライのドラミング/サウンドを「バクテリアのよう」と彼らしい表現で語っているようだが、確かに、サウンドの中に粒子のように浸透する彼のサウンドと演奏は、微生物のような蠢きを持っているように思える。ドラム演奏の粒子化。そこから生まれる伸縮する時間軸を持った音響空間。知覚を拡張するという意味において、彼の音楽と演奏はそれ自体がアートであり、一種のインスタレーションでもある。

 となればフィジカル盤もまたそんな彼による最新のアートフォームといえよう。アートワークはレーベル主宰のひとりでもあるバルトロメ・サンソン。タイポグラフィと写真を効果的に活用したクールな出来栄えである。アナログ盤とCDのデザインを大きく変更している点も興味深い。アナログはタイポグラフィを効果的に使ったミニマルな仕上がりであり、CDはプラスチックケースに特殊印刷でタイポグラフィを印刷、盤面に写真をトリミングして印刷した仕様である。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの『Age Of』のCDデザインと同様に、CDだからこそ可能なアートワークといえよう。

DJ Sotofett - ele-king

 〈Honest Jon's〉からのアルバムで話題を集めたノルウェー出身のDJソトフェット、自身の主宰する〈Sex Tags〉などをとおしてロウファイ・サウンドを盛り上げている彼が来日します(紙エレ20号をお持ちの方は86頁をチェック)。今回は大阪、神奈川、東京、札幌の4都市をツアー。完全に未発表の作品のみをプレイするとのことですので(さらに pool の公演では限定7インチも販売予定とのこと)、お時間ある方はぜひ足を運びましょう。

異端ハウス/テクノ・レーベル〈Sex Tags Mania〉主催の DJ Sotofett が11月に来日ツアーを敢行。ツアー限定のスペシャル7”も同時リリース。

ノルウェーのモス出身で、現在はベルリンを拠点に活動中の〈Sex Tags Mania〉レーベルを DJ Fett Burger と共に主催する DJ Sotofett が、2018年11月に1年ぶりの再来日を果たす。
「Body Meta presents DJ Sotofett Japan Tour 2018」と題された今回のツアーでは、11/16(金)の NOON (大阪)を皮切りに全国4都市で5公演を行うことが決定している。
DJ Sotofett は、強烈にサイケデリックなディープ・ハウスからタフなテクノ・バンガー、はたまた捻れたダンスホール・レゲエや異形のジャングル、手作りエレクトロにヒプノティックなアンビエントまで、〈Sex Tags Mania〉に加え〈WANIA〉や〈Sex Tags Amfibia〉等のオフシュートを含む幾多のレーベルから、巧妙な変名を駆使しつつ多岐に渡るスタイルと一貫したサウンドデザインの元に大量リリースしている。
本年の日本巡業において、DJ Sotofett は自身の未発表作品“のみ”を使用してプレイするという新しい試みを行うこととなっており、全てのギグでこれまで貴方が耳にしたことのない未発表の作品及びリミックスの数々が披露される。
また、ツアーに併せて、DJ Sotofett feat. Osaruxo & Diskomo による限定7吋レコードが発売される予定で、こちらは11月18日のギグの会場である pool のみで販売される模様。
10代の大半をグラフィティ・ライター/B-Boyとして過ごした DJ Sotofett は、屈指のヴァイナル・ディガーとしても知られており、カルトな人気を誇る地下レーベルの首謀者ならではのミステリアスでトリッピーなプレイを堪能してほしい。
いくつかの会場では上記のレコードの他にもスペシャルなグッズ販売も行われる予定なので、ぜひ足を運んでみてほしい。

・レーベルサイト
https://sextags.com/
・RA:特集記事「Label of the month: Sex Tags Mania」
https://jp.residentadvisor.net/features/2599
・Discogs
https://www.discogs.com/artist/1158290-DJ-Sotofett
・Mix音源
https://www.mixcloud.com/CosmopolitanDance/cosmopolitan-dance-dj-sotofett-live-at-unit-20151017-part-1/

【ツアースケジュール】
MOLDIVE “5 Years Anniversary Special” feat. DJ Sotofett at NOON
11/16 (金) - 大阪

22:00 Open / Start
DJs: DJ Sotofett (Sex Tags Mania / WANIA), TAKE (Vibes), KAITO + g'n'b
VJ: HiraLion (BetaLand)
PA: yoko△uchuu
Advance: ¥2,000 | w/Flyer: ¥2,500 | Door: ¥3,000

DJ Sotofett at OPPA-LA - Special Sunset Session -
11/17 (土) - 神奈川

15:00 - 22:30
DJs: DJ Sotofett (Sex Tags Mania / WANIA), EYヨ (BOREDOMS), Changsie
Live: ifax!
Sound System: 松本音響
Door: ¥3,000
Info: 0466-54-5625
https://oppala.exblog.jp

Sex Tags Amfibia presents Sex Tags Set-Up Tokyo at pool
11/18 (金) - 東京

18:00 - 22:00
Live: DJ Sotofett & Osaruxo feat. Diskomo, Aonami
Door: ¥1,000
https://www.facebook.com/events/491861494630043/

Jetstream presents DJ Sotofett At PROVO
11/22 (木/祝前日) - 札幌

22:00 - 6:00
DJs: DJ Sotofett (Sex Tags Mania / WANIA), OCCA (Archiv / Jetstream), UMI (Jetstream)
Door: ¥1,500

Body Meta feat. DJ Sotofett at forestlimit
11/24 (土) - 東京

17:00 - 24:00
DJs:
DJ Sotofett (Sex Tags Mania / WANIA) - Exclusive 6 Hours Set
Akiram En B2B Diskomo - Warm Up DJ × Live Set
Advance: ¥2,000 | w/Flyer: ¥2,000 | Door: ¥2,500

https://www.residentadvisor.net/events/1176635
* Advance ticket available on RA (limited 30)

Body Meta SNS:
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Kode9 & Burial - ele-king

 たぶんその解釈は正しい。スポンサー付きの牙を抜かれたレイヴからは死んでも見えないところ。ぼくは見ている。1992年にその場所にいたから。いまは亡きもの、思い出として。だが、その場にいなかったひとたちも想像して継承する。多少オリジナルとは別モノになろうが、時間を経ている分、文化としての辛酸も舐めている分、より本質を際立たせることができるかもしれない。よりコントラストは上がるだろう。ベリアルがまさにそうだった。その解釈はある意味正しい。Jungle Buddhaによる初期ハードコア・ジャングル、“Drug Me”がドロップされるとき、ぼくはこのミックスCDが意図するところを理解したし、ぼくの記憶も巻き戻しされる。
 たとえばゴールディーの『タイムレス』というアルバムがある。ジャングル(ドラムンベース)の最高潮の瞬間を祝福するものとしてのあまたの賞賛によって見えづらくなっているが、この作品は光よりも影が多いアルバムだ。じつは暗い作品で、ジャングルが初期から抱えている拭いがたい暗さを継承しているアルバムだ。
 1992年〜1993年の時点で、ジャングルのシーンはメディから見下されていた。クラブ系メディアがちやほやしていたのはバレアリック/プログレッシヴ・ハウスのシーンだった。やたらハードで、やたらラガで、しかもダークで、洗練とはほど遠いジャングルはせいぜい警察の天敵になるのが関の山だった。“Drug Me”という曲は、まあ曲名も曲名だが、いわゆるパーティ・ピープルも真っ青な、ジャングルにおけるもっともダークな部分が露呈したトラックだ。そしてこれをいまあらためて聴くとベリアルの原型であることがわかる。

 極論を言えば、クラインもオーケーザープもフットワークも、あるいはなぜか2曲も入っているルーク・スレイターも、このミックスCDにおいてはツマミのようなものだろう。後半には、(三田格が大好きだった)Friends, Lovers & Familyによる“The Lift”というトラックが待っている。まだイリーガルなアンダーグラウンド・レイヴが生きていた時代のテクノ系ブレイクーツのヒット・シングルのB面曲だ。そのトラックの後には、BPMのピッチ合わせなどクソ食らえとでも言わんばかりの強引なぶっ込みでミックスされるAK1200によるラガ・ジャングル、ディジタルのリミックスによる戦闘的なハードコア・ヴァージョンが待っている。
 それでいい。そこはスマートなハウスがかかる小綺麗なクラブなんかじゃない。DJもMCもダンサーもレイヴァーも、そこにいるほぼ全員がすでに時間の感覚を失っているのだ。彼らは週末が待ち遠しいのではなく、週末という概念などなくなってしまえと思っている。
 このCDには、全体的にチリノイズがかかっている。中古レコードの目安で言えば、VGクラスのノイズ。あたかも古く亡霊じみた風景を想起させるかのようだし、これが現在ではないことを強調しているかのようだ。これがかつてあったものであること、これが録音物であること、絶対的に現在ではないということ。その果てしないメランコリー。まさにベリアルの音楽。あるいはまた、ジャック・デリダの『マルクスの亡霊たち』、サイモン・レイノルズの「レトロマニア」、マーク・フィッシャーの「ホーントロジー(憑在論)」……日本盤のライナーは髙橋勇人だし。

 ドクター・フーでも007でもなんでも、トニ・ブレア以降のロンドンの風景、とくにテムズ川沿い、とくにロンドン・ブリッヂのあたりの風景を映画で見る度に、ぼくはいまも悲しみで涙を抑えきれない。90年代初頭、とめどくな広がるレイヴ・カルチャーを鎮圧させるために、ときの政府は軍の力も借りたし、法律さえも改変した。が、レイヴ・カルチャーを本当に終わらせたのは戦車でも法でもなかった。都市の高級化(ジェントリフィケーション)という経済政策によって、都市における社会主義的空間は一掃されたのだった。かつて人気のなかった倉庫街にはイタリアンレストランや洒落たカフェが並んでいる。スクオッターや犬を連れたヒッピー・アナキストの姿は見事に街から消えたし、多くのひとが居場所を失ったことだろう。
 これと同じことが、ぼくが90年代後半に暮らしていた代官山というエリアでも起きている。ある時期までの代官山には、七尾旅人がいうところのおじいちゃんおばあちゃんのコミュニティがあり、銭湯もあった。売れない芸術家や活動家も住んでいた。が、21世紀に入って、東京もロンドンを追いかけるように都市の高級化に向かい、やがてあたりは一変した。住む人も店も街並みもすべてが激しく変えられた。そして途方もなく大きな何かが失われた。メランコリーの根源はこの喪失にある。音楽は予言的であるという、ジャック・アタリの有名な科白にならって言えば、ダークコア・ジャングルほど来るべきメランコリーを激しく直観していた音楽もそうそうない。

 これはリリース前にからニュースになっていたコード9とベリアルのふたりによるミックスCD。Fabricの100番目のリリースを飾るに申し分のない配役であるどころか、いわばメタ・レイヴ・カルチャー・ミュージックという観点からも興味深い1枚である。というか、まさに焦点はそこでしかない。それは、ある時期を境にあまり語られなくなった初期ジャングルのむき出しのダークさにある。ふたりはその亡霊をいまここに展開しているというわけだ。

 モノマネとは契約しない。〈Stones Throw〉で働いていた当時、若きフライング・ロータスはピーナッツ・バター・ウルフからそう告げられたのだという。それが転機となったにちがいない。J・ディラの影響下にあった彼は以降、大胆にノイズを取り入れるなど自らの手でオリジナリティを確立することでビート・ミュージックを刷新、ヒップホップに大いなる変革をもたらしたのだった。衝撃をもって迎え入れられた2作目『Los Angeles』から早10年。今年は彼の設立した〈Brainfeeder〉もまた10周年を迎える。首魁たるフライローの巧みな舵取りのもと、ヒップホップはもちろん、ジャズやテクノなど隣接する諸ジャンルにまで少なからぬ影響を与えた同レーベルは、いまやあのジョージ・クリントンを擁する存在にまで成長を遂げている。

 では、彼と彼らが成し遂げたこととはいったいなんだったのか? 『別冊ele-king』最新号では、フライング・ロータスと〈Brainfeeder〉を大特集、さまざまなコラムやインタヴューをとおしてその功績を振り返っている。ケンドリック・ラマーとのコラボも記憶に新しいフライロー、ジョージ・クリントン、サンダーキャットのビッグ3を筆頭に、ドリアン・コンセプトとジェイムスズーによる対談やジョージア・アン・マルドロウのインタヴューも掲載。また、映画監督としてのフライローにも着目し、渡辺信一郎・佐藤大・山岡晃の3人に『KUSO』の魅力について語りあってもらった。

 さらに同号では、彼と彼らが拠点にするロスアンジェルスという場所にも光を当てている。フライローも〈Brainfeeder〉もけっして突然変異のごとくぽっと湧き出てきたのではない。彼らのまえには〈Stones Throw〉やロウ・エンド・セオリーというムーヴメントが耕した豊饒なる大地が横たわっていたのであり、フライローも〈Brainfeeder〉もそれと並走するかたちで新たな歴史を紡いでいったのだ。いわば「先輩」にあたる彼らについては、じっさいに現地の様子を知る大前至やバルーチャ・ハシム廣太郎が丁寧に解説してくれている。また、TREKKIE TRAX のふたりには、若い世代から見たLAの音楽シーンについて語ってもらった。

 とまあこのように、SONICMANIA でのステージを目の当たりにした直後だったせいか、ずいぶんと熱のこもった特集になっているので、ぜひとも手にとっていただければ幸いである。

【寄稿者】
天野龍太郎、大前至、小川充、小熊俊哉、河村祐介、木津毅、小林拓音、小渕晃、野田努、原雅明、バルーチャ・ハシム廣太郎、三田格、吉田雅史

contents

Flying Lotus

preface ジャズにクソを投げろ!――フライング・ロータスに捧げる (吉田雅史)
interview フライング・ロータス (三田格/染谷和美/小原泰広)
column 音楽の細分化に抗って――フライング・ロータス小史 (原雅明)
Flying Lotus Selected Discography (小林拓音、三田格、吉田雅史)
column ドーナツの輪をめぐる旅――フライング・ロータスとJ・ディラ (吉田雅史/大前至)
column 崩壊したLAの心象風景――フライング・ロータスの映画『KUSO』が描きだすもの (三田格)
interview 渡辺信一郎×佐藤大×山岡晃 健康なクソをめぐる特別座談会 (小林拓音)

Brainfeeder 10th Anniversary

column ブレインフィーダーはどこから来て、どこへと向かうのか――レーベル前史とこれまでの歩み (三田格)
my favorite 私の好きなブレインフィーダー (大前至、小熊俊哉、河村祐介、天野龍太郎、吉田雅史、小川充、木津毅、小林拓音、三田格、野田努)
interview ジョージ・クリントン (野田努/染谷和美/小原泰広)
interview サンダーキャット (小川充/萩原麻里/小原泰広)
column ブレインフィーダーに影響を与えた音楽――ジャズ/フュージョンを中心に (小川充)
interview ドリアン・コンセプト×ジェイムスズー (小林拓音/川原真理子/小原泰広)
interview ジョージア・アン・マルドロウ (吉田雅史/バルーチャ・ハシム廣太郎)
Brainfeeder Selected Discography (小川充、小林拓音、野田努、三田格)

LA Beat

interview TREKKIE TRAX (Masayoshi Iimori & Seimei) (小林拓音/小原泰広)
correlation chart LAビート・シーン人物相関図 (吉田雅史)
column 世界を変えたムーヴメント――ロウ・エンド・セオリー盛衰記 (バルーチャ・ハシム廣太郎)
column LAビート・シーンの立役者――ストーンズ・スロウの物語 (大前至)
Stones Throw Selected Discography (大前至)
column ギャングスタ・ラップからLAが学んだもの――西海岸サウンドの系譜 (小渕晃)
LA Beat Selected Discography (大前至、小林拓音、野田努、三田格、吉田雅史)

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