「K A R Y Y N」と一致するもの

Richard H. Kirk - ele-king

野田努(9/22)

 日本時間の昨晩、キャバレー・ヴォルテール(通称ザ・キャブス)の活動で知られるリチャード・H・カークが9月21日、65歳で亡くなったことを〈ミュート〉が発表した。昨年11月はキャバレー・ヴォルテールとしては26年ぶりのアルバム『Shadow of Fear』を発表し、エレキングの取材も快く答えてくれたカークだが、いまあらためてその記事を読み返してみると、すでに体調に問題があったのだろうか、取材中に何度か咳き込む様子が記されている。いずれにせよ悲しいことだ。各国の主要メディアが報じているように、偉大な音楽家/アーティストがまたひとりいなくなってしまった。

 1973年のイギリスのシェフィールドという地方都市で、リチャード・H・カークを中心に、クリス・ワトソンにスティーヴン・マリンダーという3人の“ダダ中毒”によって結成されたキャバレー・ヴォルテールは、パンク以降の音楽シーンにおいて未来を切り開いた重要なバンドのひとつだった。ブライアン・イーノが提唱した「non-musician」(音楽を作るのに音楽家である必要はない)という考え方に感化され、アブストラクトなテープコラージュから出発した彼らは、自らを「ミュジーク・コンクレートのガレージ版」と呼んだように、いわばアヴァンギャルドとパンクとの融合を実現させた第一人者でもあった。(初期の音源は2019年に〈ミュート〉から再発された『1974-76 (1974-76)』で聴ける)

 個人的な話で恐縮だが、彼らの初期の代表作“Nag Nag Nag”で見せた原始的なドラムマシンとテープ操作による反復、シンセサイザーと電子ノイズにスポークンワードめいた声といったキャブスのスタイルは、それが出たとき高校生だったぼくには、音楽に対する感受の仕方をいきなり押し広げられたような、相当な衝撃があった。また、彼らは政治的でもあり、予見的でもあった。ヴェルヴェッツのカヴァーを収録し、“バーダー・マインホフ”で締める『Live At The Y.M.C.A.』(1980)をはじめ、レーガン政権下で右傾化するアメリカを題材とした『The Voice Of America』、そしてイスラム主義の台頭を主題とした「Three Mantras」(1980)という、アメリカと中東における原理主義や宗教の政治介入に対する彼らの関心はその後のアルバム『Red Mecca』(1981)にも集約されている。こうしたコンセプトはリアルタイムで聴いていた10代の頃には何のことかさっぱりだったけれど。(ちなみに高校1年生の石野卓球が静岡のぼくの実家に遊びに来たときにぼくのまだわずかながらのレコード・コレクションを見て最初に反応したのがキャブスだった。いまでもその場面を鮮明に憶えている。お互い初めて会ったそのとき、「それ俺も好きです」とかなんとか、そんなようなことを彼は言った)
 1981年にクリス・ワトソンが脱退し、カークとマリンダーのふたりになってからの第二期は、レーベルも〈ラフトレード〉から〈サム・ビザール〉またはメジャーの〈パーロフォン〉へと変わって、音楽も実験色の強いコラージュ的なものからダンス・ミュージックへと路線変更された。80年代のキャブスは、“Just Fascination”(1983)や“Sensoria”(1984)、“I Want You”(1985)などポップ・チャートに入っても不自然ではないような曲をいくつか発表している。もちろんこうした彼らのエレクトロニック・ダンス・ミュージックは、同時代のアメリカのアンダーグラウンドなブラック・コミュニティで始動したダンス・カルチャーと併走し、そしてやがて合流した。カークは1989年から数年のあいだ地元のハウスDJ、パロットと結成したスウィート・エクソシストを介して〈Warp〉を拠点にブリープ・テクノ・ダンス・トラックの 12インチを切り、1990年のキャブスの12インチ「キープ・オン」においてはデリック・メイによるリミックス・ヴァージョンを収録している。それまでの方向性を考えれば必然だったと言えるかもしれないが、ポスト・パンク世代ではハウス‏/テクノに対してのダントツに素早い反応だった。あの当時はカークのその行動に痺れたし、自分たちの選んだ道は間違っていないとずいぶん勇気づけられもした。

 ハウスやテクノといったクラブ・ミュージックとの出会いを機に、リチャード・カークとキャバレー・ヴォルテールは、いっきにアンダーグラウンドヘと潜っていった。1990年代以降のカークは〈Warp〉や〈R&S〉、〈Touch〉といった先鋭的なインディペンデント・レーベルからソロ名義のほか、サンドズ名義をはじめとする数々の名義で作品を発表するようになる。90年代半ばにはキャブスからマリンダーも離れてしまうが、結果ひとりになってからもカークはひたすら作品を制作し、彼自身の〈Intone〉レーベルなどから、カーク本人でさえもとてもすべてを覚えられなかったのではないかと思われるほどのたくさんの名義を使ってテクノ‏/アンビエントの作品のリリースを停止することなく続けた。
 その数はあまりに多く、彼のすべての作品をチェックしている人がどれほどいるのだろうかと思う。ぼくは1994年のサンドズ名義の『Intensely Radioactive』と同年のソロ名義による〈Warp〉からの『Virtual State』、そしてマリンダー在籍時のキャブスの最後のアルバム〈Apollo〉からの『The Conversation』の3枚がお店で購入した最後のレコードだった。それは以降は、2000年代初頭のポスト・パンク・リヴァイヴァル時にいっしゅん初期の音源を聴き直したことはあったかもしれないが、2010年代に〈ミュート〉が80年代のキャブス作品を中心に再発するまでは、キャバレー・ヴォルテールもカークも自分のリスニング生活とはほとんど無関係だったことは否めない。それは個人的ではあるが、1979年/1980年のキャブスに心底震えた世代にとってありがちなコースだったのではないだろうか。(ゆにえ、まだ聴いていない彼の作品はあまりにも多くあるとは言える)

 2020年11月にキャバレー・ヴォルテール名義としては26年振りにリリースした『Shadow of Fear』は、カークのなかの“ファンク”が噴出した生命力ある力作で、そしてまた、初期の作品を彷彿させる言葉のカットアップを効果的に使った作品でありディストピックで暗示的なアルバムでもあった。その破壊的な迫力と否定の力に、カークの芸術的始祖のひとりであるトリスタン・ツァラもさぞかし歓喜したことだろう。が、しかし65歳とは、やはり早すぎた。今年に入ってからは3月にキャバレー・ヴォルテール名義での1曲およそ50分の『Dekadrone』と1時間にわたる『BN9Drone』という2枚のドローン作品をリリースしているが、彼は結局、ぶっ倒れるまで作り続けたのだろう。「彼は最後まで、ハングリーでアングリーでファンキーだった」とは『ガーディアン』の追悼記事の見出しだが、いやまったく、本当にその通りだ。

野田努

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三田格(9/24)

 ele-king臨時増刊号メタヴァース特集のために原稿を書きながらキャバレー・ヴォルテールがこの春にリリースした『Dekadrone』を聴き直し、漠然と初期のインダストリアル・テイストをロング・ドローンでやり直している感じかなあと思っていたら、深夜になってリチャード・H・カークの訃報を目にした。第一報では死因は不明とあった。亡くなったことを知って聴くのとそうでないのとでは聴き方がまったく変わってしまう。え、死んじゃったの!と思って、もう一度『Dekadrone』を再生すると、今度はなんともオプティミスティックで、近年のデッドロックな気分を反映したドローンとは正反対の高揚感がダイレクトに耳を打ってきた。「デカドロン」というのはステロイドの一種であるデキサメタゾンとドローンを足して、イタリアの古典文学「デカメロン」と掛けた造語のようで、おそらくはカークが最後まで服用していた抗炎症薬を題材としたものなのだろう。LSDを開発した製薬会社サントスの名義で10枚以上のアルバムを残した男である。デカドロンという薬にも大きな希望を見出していたのかもしれない。

 訃報を目にして最初に思い出したのはなぜかメジャーフォースの工藤(昌之)さんに聞いた話だった。キャブスが初めて来日し、新宿のツバキハウスでライヴを行なった後、彼らは工藤さんがDJを務めていた六本木クライマックスに遊びに来たというのである。そして、キャブスの3人はナンパをはじめたんだよと工藤さんは笑いながら言った。僕もつられて笑い、旧ベイシング・エイプのスタジオは俗っぽい雰囲気でいっぱいになってしまった。工藤さんが言いたかったことはこうだろう。インダストリアル・ミュージックの急先鋒として喧伝されていたキャバレー・ヴォルテールは当時、神格化ではないけれど、どこか恐れ多い雰囲気に包まれていた。でも、そんなことはなくて、当時から彼らは人間味のある人たちだったんだよと。クライマックスは狭いハコで客がすし詰めになっているようなこともなかったから、ナンパなんかしていれば、ほぼ全員に何をやっているかわかってしまうクラブである。チーク・タイムという習慣を最初に辞めたハコであり、陰湿な性格には似合うスペースではなかった。ちなみにツバキハウスのライヴを収めた『Hai!』は名作ながらマスター・テープを紛失し、〈Mute〉の復刻版はアナログ起こしだという。

 〈Rough Trade〉の3枚目ということもあり、キャブスはデビューEPから聴いていた。正直、ピタッと来る感じではなく、いま聴いてもカンの粗雑なコピーみたいに聞こえてしまう曲も多い(それでも全部買っていたのは『ロック・マガジン』がプッシュしていたから)。それが先行シングルもなく、ふいに2枚組でリリースされた4thアルバム『2X45』で僕は彼らの編み出したインダストリアル・ファンクにめろめろになってしまった。『2X45』はインダストリアル・ミュージックとファンクの官能性をものの見事に融合させ、ボディ・ミュージックや遠くはハード・ミニマルに至るまでダンス・ミュージックのアンダーグラウンド化に多大な導線を示した作品である。それこそヴァージン・プルーンズのギャビン・フライデーは『2X45』を聴いて「自分たちはもっといいディスコ・レコードをつくれる」とコメントしていたけれど、カークによればそれまでもダンス・ミュージックをやっているつもりはあったようで、クリス・ワトスンが脱退したことで思いっきり舵を切ることができた結果が『2X45』だったという。しかし、さらに驚かされたのは、続く『The Crackdown』だった。『2X45』以前のインダストリアル・テイストを大幅に回復させ、有象無象のブリティッシュ・ファンク・ブームとは一線を画すオルタナティヴ・ファンクの流れがここに確立される。『The Crackdown』がなければそれこそフロント242もタックヘッドもなかったかもしれない。

 キャバレー・ヴォルテールとフラ、そして、フォン・フォースがシェフィールドをダンス・カルチャーに引きずり込み、やがて〈Warp〉が設立される。〈Warp〉ではただひとりの創設メンバーとなってしまったスティーヴ・ベケットは早くからキャバレー・ヴォルテールのアルバムを出したがっていたけれど、彼の思いはかなり歪んだかたちで実現する。シェフィールドでは逸早くアシッド・ハウスに手を出し、現在もクルックド・マンなどの名義でアシッド・ハウスの改良に余念がないDJパロットがカークを誘って二人はスウィート・イクソシストを結成、設立当初の〈Warp〉に“Testone”を吹き込み、「ブリープ」と呼ばれるタームを引き起こす。LFOのビッグ・ヒットもあって「ブリープ」は〈Warp〉を認知させる大きな要因となるも、ここからが少しややこしい。〈Warp〉の創設メンバーのひとり、ロブ・ゴードンはイギリス人がハウスやテクノをやるならアメリカとは違ってレゲエのリズムを取り入れなければならないと主張し、もうひとりの創設メンバー、ロブ・ミッチェルと対立、レーベルから離脱してユニーク3のプロデュースに専念する。この対立を受けてカークは〈Warp〉ではなく、ロブ・ゴードンとゼノン(XON)というユニットを組み、さらに「ブリープ」を推し進める。その本質は「信号音」ではなくレゲエのリズムにあることが明らかとなり、これはスウィート・イクソシストのアルバムがいまでもグローバル・ミュージックの文脈で聴くことができる土台にも通じている(カークはレゲエをメインとしたサントスもほぼ同時にスタートさせる)。

 以後は、スウィート・イクソシストの新作もカークが新設した〈Plastex〉からのリリースとなり、キャバレー・ヴォルテールの新作も同レーベルを通じて〈R&S〉傘下の〈Apollo〉にライセンスされることに。リチャード・H・カークが〈Warp〉からソロ・アルバムをリリースするのは〈Plastex〉を閉鎖した1994年を待ってからであり、カークがテクノというタームと格闘を続けた91~93年を〈Warp〉が共有できなかったことは〈Factory〉とニュー・オーダーの関係とは異なる気分を浮上させ、できれば本人からもっと詳しい事情を聞いてみたかったところでもある。〈Apollo〉にライセンスされた『The Conversation』は、そして、ようやくレイヴ・カルチャーと距離が取れるようになった作品として完成度も高く、2020年に復活を果たすまでカークにとっても超えられない壁となってしまった感もなくはない。アシッド・ハウスの波に飲み込まれてしまい、自分でもキャバレー・ヴォルテールの作品らしくなかったと述懐していた『Groovy, Laidback And Nasty』やアシッド・ハウスに対抗してミニストリーと組んだアシッド・ホース、あるいはテクノにオリジナリティを見いだすことができなかった『Plasticity』とは異なり、『2X45』や『The Crackdown』をテクノで再構築した『The Conversation』はゆったりとした官能性を呼び戻し、ようやくオルタナティヴ・ファンクの本流に返り咲くことができた傑作だった。2時間を超える大作にもかかわらず、まったく飽きさせないのはさすがとしか言いようがない。

 リチャード・H・カークがさらにスゴいと思うのは自分の音楽を先入観をもって聞かれたくないために40以上の名義を使い分けたことである。『Red Mecca』や『Three Mantras』など早くから西欧とイスラムの衝突に関心があったというカークは、ジョージ・ブッシュがイラクに戦争を仕掛けた際はバイオケミカル・ドレッドの名義で『Bush Doctrine』をリリースして奇天烈なレゲエを聞かせ、ヴァスコ・ドゥ・メント名義ではさらにインダストリアル・ダブをこじらせていく。イクステンディッド・ファミリー(拡大家族)とかニトロジェン(窒素)とか気になるネーミングはたくさんあるけれど、さすがにすべてはフォローできない。どの名義だったか忘れてしまったけれど、ある時、石野卓球とカークのソロ作を聴いていて、卓球が「いまどきダダダッてプリセット音をそのまま使うのは彼だけだよ」と笑っていたことを思い出す。そう言われるまで僕は気がつかなくて、以降、ダダダッというプリセットのスネア音を聴くとリチャード・H・カークのことを思い出すようになってしまった。それこそダダイズムだし。R.I.P.

三田格

Riki Hidaka + Jim O' Rourke + Eiko IshibashiI - ele-king

 日高理樹(リキ・ヒダカ)は、彼の音楽がそうであるように、生粋のボヘミアンなのだろう。いまの日本では絶滅に近い、社会の規範に囚われることがないいわば自由人。いったい彼は何のために音楽を作っているのだろうか。崩壊したフォークソング、解体されたギター、無調と調性とを超えた響き、アマチュアリズムと実験……。
 ぼくが彼の音楽を初めて聴いたのは2016年の『Abandoned Like Old Memories』だったが、当時もいまも、彼はエスタブリッシュな音楽シーンにはいない。それはこの世界の秘密の入り口から下っていく地下室においてのみ演奏され、そこに遙々やって来た者たちのみが耳にすることができると、まあそんなところだ。

 しかしながら彼の彷徨にも、どうやら拠点と呼べる場所があるらしい。2005年10月に広島の中区にオープンしたレコード店〈Stereo Records〉である。LAで生まれ東京で育ち、NYでも数年ほど暮らしていたこの旅人がどうして広島なのか。2012年の夏、彼が貧乏旅行で日本を横断していたとき、ちょうど広島に着いたところで出会ったのが同店の店長、神鳥孝昭だったのである。風来坊というよりも浮浪者然とした日高に風呂場を教えて夕食をともにした神鳥が今夜はどこに泊まるのか訊いたところ日高は公園のベンチで寝るというので、だったらうちに泊まれと、こうしてふたりの関係ははじまったという。
 とはいえ、最初の出会いの時点では、神鳥にとって日高はただのおかしな若者である。神鳥が、日高が音楽をやっていることを知ったのはその出会いから1年後のことだった。2013年5月、広島でライヴを企画した際、友人づてにミュージシャンとして紹介されたのである。
 こうして日高と再会した神鳥だが、初めて聴いた彼の音に震えを覚えたという。そして、神鳥がレーベルをはじめようとしたときに、最初のリリースを日高理樹のアルバムにすることに迷いはなかった。2014年4月に、彼の『POETRACKS』のアナログ盤がRECORD STORE DAYに合わせて発売された。ぼくが最初に聴いた日高のソロ作品『Abandoned Like Old Memories』も〈Stereo Records〉からで、これはレーベルにとって3番目のリリースだった。(2番目のリリースはJan and Naomiでの活動で知られるJanと日高の共作によるサイケデリック・フォークの『Double Happiness in Lonesome China』)
 
 この頃神鳥は、人伝いではあったが石橋英子が日高を面白いと思っているという話を耳にし、アイデアが閃いた。2017年6月に広島の〈CLUB QUATTRO〉と愛媛の〈どうごや〉で神鳥が企画したライヴ公演にまず石橋英子とジム・オルークに声をかけた。それからふたりに当時はNY在住だった日高理樹のことを話し、ジョイント・ライヴを提案した。このアイデアに石橋とオルークは協力的だった。神鳥と石橋は話し合い、その結果公演は三部構成となって、最後を3人によるセッションで締めることにした。
 結果、6月6日の広島公演がこのトリオの最初の演奏になったわけだが、それがプロジェクトのはじまりとなった。3人は、2017年12月には、再度〈Stereo Records〉主催で東京と山梨でのライヴも実現させた。その山梨でのライヴのための滞在中、〈八ヶ岳星と虹レコーディングスタジオ〉においてセッションした記録をもとにオルークがエディットして、ミキシングを施した結果が本作『置大石』である。楽器は日高がギター、石橋がフルートとピアノ、オルークがシンセサイザーを担当している。
 
 “置_置_置”と“置___置___置”という謎めいた曲名の2曲が収録されている本作『置大石』(おきおおいし、と読むのだろうか)は、透明で美しいが抽象的で途方もなく、つかみ所がないかもしれない。しかも極めて静的なこの音色とテクスチュアの冒険は、外側だけ聴けばほとんど変化がないように感じられるかもしれないが、じつはその内部で変化している。ひょっとしたら、滲んだ水彩画さもなければ水墨画のように視覚的に再生されるかもしれない。
 レコードで言うA面の“置_置_置”では、抽象性の高いトーンが呼吸しているかのように途切れては鳴り、その幽妙な広がりの遠くからギターのドローンが響いている。曲のなかば過ぎから音は空間を包囲するように広がり、この空間は終盤に向け密度を増し、そして消えていく。
 石橋英子のピアノからはじまるB面の“置___置___置”は、その魅惑的な旋律にオルークのシンセサイザーと日高のギターがテクスチュアを描きながら展開する。ドローンのなかに石橋のフルートが加わると、音楽の背後からは平穏な気配がスローモーションで立ち上がり、やがてわずかな旋律はギターにゆだねられる。
 先述したようにこの2曲のミキシングはジム・オルークによるもので、彼はこの日常でも非日常でもない、いわば完結なきひとつの連続体のような曲における音のひとつひとつを調整し、静的で不規則的だが循環性のあるこれらの音響に輪郭を与えている。おそらくはオルーク自身もこの音楽のリスナーのひとりとして再構築したことだろう。
 また、レコード盤のレーベル面には〈Stereo Records〉の神鳥孝昭と〈八ヶ岳星と虹レコーディングスタジオ〉のオーナー、藤森義昭への感謝が記されている。この音楽は彼らとの出会いによって生まれているわけだが、ぼくがこのreviewの前半で書いているのは、日高と神鳥との出会いを軸にした話であって、山梨からやってきた石橋とオルークのふたり──音楽における静かな川の流れの深みのようなアーティスト──を軸にすればまたもうひとつの物語がある。そのふたつの物語の出会いが、このレコード(ないしはCD)に記録されている音楽と化したと。
 リスナーがこの音楽を聴いていてなにか胸のすく思いを感じられるとしたら、それはきっと彼らの出会いによって創出された感覚であり、そしてまた、リスナーが朝靄のかかったかのような、この空間にまでたどり着けたことへの喜びゆえであろう。(敬称略)

映画の歴史を変えた男、ジョージ・A・ロメロとは何者だったのか

『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)、『ゾンビ』(1978年)、『死霊のえじき』(1985年)の「ゾンビ」三部作により、映画の世界に「ゾンビ映画」という映画史に残る大発明をした男、ジョージ・A・ロメロ。

このたび、お蔵入りとなっていた幻の非ゾンビ映画『アミューズメント・パーク』が発掘され、一般公開されることに。デビュー作『ナイト~』とブレイク作『ゾンビ』の間をつなぐ時期にあたる1973年に撮影された本作を基点に、改めてロメロという映画作家の本質に迫ります!

内容
・ジョージ・A・ロメロ伝
・スザンヌ・ロメロ(ジョージ・A・ロメロ財団)インタヴュー
・パオロ・ゼラティ(「Twilght of the Deat」脚本家)インタヴュー
・大槻ケンヂ、ロメロの魅力を語る
・幻の未公開作『アミューズメント・パーク』
・全作品レヴュー
・ロメロの遺伝子──ロメロの影響下にある作品紹介

執筆者
伊東美和、稲継美保、ノーマン・イングランド、氏家譲寿(ナマニク)、宇波拓、恵木大(ヒロシニコフ)、上條葉月、木津毅、キヒト、児嶋都、児玉美月、後藤護、高橋ヨシキ、てらさわホーク、とみさわ昭仁、麓隆次、真魚八重子、森本在臣、山崎圭司、山崎朋

目次

●レポート Living Dead Museum(ノーマン・イングランド)
●アミューズメント・パーク
 イラスト 児嶋都
 雇われ仕事でもやるなら徹底的に。アミューズメント・パークという名の地獄の楽園(ナマニク)
●クロスレビュー『ザ・クレイジーズ』&『マーティン』
 何ひとつ噛み合わない人びとの営み、ひたすら拡大し続ける混沌。そこに不気味なリアリティがある(てらさわホーク)
 連鎖する赤と狂気(木津毅)
 居場所のない絶望(キヒト)
 散種されたクィアな “ヴァンパイア” の魂(児玉美月)
●ジョージ・A・ロメロ バイオグラフィー(伊東美和)
●インタヴュー
 スザンヌ・デスロチャー・ロメロ「ホラーというジャンルもリスペクトされるべき」(ノーマン・イングランド/翻訳 児嶋都)
 パオロ・ゼラティ「ジョージがゾンビ・サーガの決着をどうつけるつもりだったのか伝えたい」(ノーマン・イングランド/翻訳 児嶋都)
 大槻ケンヂ、ロメロの魅力を語る
●作品レヴュー
 68年のインディペンデント映画としての『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(上條葉月)
 ホラーの巨匠が若き日に挑んだ異色のロマンティック・コメディ『There's Always Vanilla』(児玉美月)
 『悪魔の儀式』と「ルーシー・ジョーダンのバラード」(高橋ヨシキ)
 熱力学と人間嫌悪に抗して──『ゾンビ』(後藤護)
 ゴブリンによる音楽がアルジェント版『ゾンビ』に与えたもの(てらさわホーク)
 ドラゴンと戦い続けるために──『ナイトライダーズ』は走り続ける(高橋ヨシキ)
 ロメロとキングのECコミック偏愛──『クリープショー』(森本在臣)
 製作過程の紆余曲折が生んだポリティカルな寓話──死霊のえじき(ヒロシニコフ)
 異常心理の世界に挑む──『モンキー・シャイン』(山崎圭司)
 ロメロのアンビバレンツを内包した映画『ダーク・ハーフ』(麓隆次)
 「お呼びとあれば!」メジャーに牙剥く、ロメロの頑固な恨み節──『URAMI~怨み~』(ナマニク)
 ロメロのゾンビが帰ってきた!──『ランド・オブ・ザ・デッド』(てらさわホーク)
 失われることのないプロトタイプの強靭さ──『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』(真魚八重子)
 インディペンデント映画の雄による白鳥の歌──『サバイバル・オブ・ザ・デッド』(宇波拓)
 短編・CM・MV──ロメロのお仕事アラカルト(山崎圭司)
 ロメロの素顔とホラー映画への理解が深まるドキュメンタリー4作(山崎圭司)
 玉石混交? リメイク作品の数々(伊東美和)
●論考
 ロメロ以前のゾンビ映画からみるロメロの革新性(キヒト)
 ライブラリ音楽と創造性(宇波拓)
 ゾンビウォークからゾンビハンドへ──ゾンビの左手、人間の右手(後藤護)
 ゾンビを演じる(稲継美保+山崎朋)
●ロメロの遺伝子
●プロフィール

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SHAKKAZOMBIE - ele-king

 タイトルからもわかる通り、今年1月に亡くなった BIG-O ことオオスミタケシ氏へのトリビュートとして制作された、SHAKKAZOMBIE の〈cutting edge〉期の楽曲をリミックス/リメイクした6曲入りのEP。BIG-O および SHAKKAZOMBIE とも関わりの深いアーティスト、あるいは彼らに影響を受けた若い世代のプロデューサーやラッパーが参加し、時代的には90年代後半から2000年代前半に作られた楽曲を、いまのサウンドへとアップデートさせながら、同時に制作サイドの強い思いが滲み出る、非常に意義深い作品にもなっている。

 日本のヒップホップ・シーンの黎明期とも言える90年代半ばにデビューした SHAKKAZOMBIE であるが、同時代の様々なアーティストが日本人としてのヒップホップの表現方法というものを模索する中、彼らもまた独自のオリジナリティを築き上げていき、その結晶とも言えるのが、〈cutting edge〉からリリースした3枚のアルバム『Hero The S.Z.』(1997年)、『Journey Of Foresight』(1999年)、『The Goodfellaz』(2002年)だ。非常に繊細かつセンシティヴな感覚であったり、あるいは当時としては真っ直ぐすぎるほどのポジティヴな一面など、それまで他のアーティストがやっていなかったようなリリックの世界観を打ち出し、さらに音楽的には様々なジャンルの要素も貪欲に吸収しながら、最先端のヒップホップ・サウンドを追求していた彼ら。彼らが目指していた高いクリエイティヴィティの先にいまの日本のヒップホップ・シーンが存在しているのは間違いなく、このEPもまたその延長上にある。

 90年代の SHAKKAZOMBIE をリアルタイムに知っているファンであれば、“共に行こう CDS Version Pure 2021” は最も心が揺れる一曲だろう。ここではオリジナル・ヴァージョン以上に人気の高かった “共に行こう (Version Pure)” のトラックがそのまま使用されているが、当時は NITRO MICROPHONE UNDERGROUND 人気が爆発する以前の GORE-TEX、SUIKEN、DABO、MACKA-CHIN が参加していた代わりに、本作では Creative Drug Store の VaVa、JUBEE、BIM、in-d をフィーチャ。世代は全く違えど、SHAKKAZOMBIE と新しい才能との融合という20年以上前のコンセプトがそのまま踏襲され、日本のヒップホップ・シーンの時代の継承と進化を同時に感じることができる。

 本作中、最もチャレンジングなのが “5o tight So deep” だろう。5lack と PUNPEE が手がけたこの曲は、アルバム『The Goodfellaz』収録の “So Tight, So Deep” が元となっているわけだが、ラテンなテイストの原曲とは全く異なるグルーヴ感で、SHAKKAZOMBIE のラップやコーラスをそのまま使うのではなく、最小限が素材として取り込まれているのみ。そんなトラックの上で 5lack と PUNPEE が単なるリスナーであった時代に一ファンとして聞いた SHAKKAZOMBIE に対する思いがリリックで綴られており、実に美しいトリビュート・ソングに仕上がっている。個人的には Chaki Zulu がリミックスを手がけた “虹” も非常に好きな一曲だ。これもまたオリジナルは20年以上前の曲であるが、Chaki Zulu による現在進行形のサウンドを纏いながら、BIG-O と IGNITION MAN のラッパーとしてのふたりの普遍的な魅力が強く伝わってくる。

 『The Goodfellaz』以降はファッション・シーンでの活動に完全に軸を移し、おそらくオオスミ氏が SHAKKAZOMBIE というグループで活躍していたことを知らない人たちも多いだろう。このEPによってラッパーとしてのオオスミ氏の偉大さや SHAKKAZOMBIE というヒップホップ・グループの存在が若い世代に少しでも伝わると嬉しい。

David Sylvian - ele-king

 徹底的に音を探究する稀代の音楽家、デイヴィッド・シルヴィアン。ひさしぶりに嬉しいニュースの到着だ。これまでも多く彼の作品を送り出してきた現ベルリンのレーベル〈Grönland〉から、最新フォト・エッセイ本『– ERR –』がリリース。全世界550部限定とのことで、本人直筆サイン入りのエディションも販売される。なくなる前に、お早めに。

あくなき音の探究を続ける孤高の音楽家 "David Sylvian" の最新フォトエッセイ本が Grönland Records よりリリース! 全世界550部限定、本人直筆サイン入りの数量限定スペシャルエディション!

あくなき音の探究を続ける孤高の音楽家 "David Sylvian" の最新フォトエッセイ本が全世界550部限定で Grönland Records よりリリース、日本でも超数量限定で販売される。

「タワーレコードオンライン」、「HMVオンライン」、「ディスクユニオン」、P-VINEオフィシャルオンラインショップ「P-VINE SPECIAL DELIVERY」での取り扱いが決定。

本人直筆サイン入りとなり、「P-VINE SPECIAL DELIVERY」では特典として本書に寄せたデイヴィッド・シルヴィアンよるコメント(日本語訳)が付属する。写真家や文筆家、画家としても知られる藤原新也からのコメントも到着した。

それが都市であれ、砂漠であれ、アメリカの道の15センチ下には荒野が眠る。そして多くの写真家がそのアメリカの道の寂寥感を車の窓越しに撮ってきた。だが本書の写真の中では、1と0という永遠に中間値の失われたジャギーの暴力によってそのアメリカの道伝説があたかもクラッカーのようにとつぜん砕け散る。それはデジタルという空虚が与える新しい美学だと言える。 ──藤原新也

[本書に寄せたデイヴィッド・シルヴィアンよるコメント(日本語訳)付き通販ページ]
https://anywherestore.p-vine.jp/products/bookgron-200

[商品情報]
アーティスト:David Sylvian
タイトル:– ERR – limited edition
フォーマット:Book
発売日:2021年11月19日(金)
品番:BOOKGRON200
ISBN:978-3-00-069573-5
サイズ:38 x 28 x 8 cm
ページ数:216
価格:¥25,300(税込)(税抜:¥23,000)

Nic TVG - ele-king

 ここ数年続いているジャングルの発掘音源はほとんどが1993年に集中していてドラムンベースというフォーマットが確立されてからのトレンドはまったくといっていいほど素通りされている。ダークステップやニューロファンクなど90年代後半の熱狂はなんだったのかという感じで、そのようにして細分化していったなかには当時から注目度の低かった「ドラムファンク」というサブジャンルもあった。ドラムファンクというのはジャズステップが本腰を入れたというか、ドラムをライヴ演奏のように聞かせることを主眼とし、ドラムンベースをジャズの演奏に近づけようとした傾向のことで、オリジネイターはパラドックスことデヴ・パンディアだとされている。シーンの代表格だったブレイケージがダブステップに乗り換えてしまったこともあって、2010年を待たずしてドラムファンクは姿を消し、復興五輪のように風化したと思っていたものの、しかし、ドラムファンクはいつのまにかアメリカに主軸を移し、ポートランドの〈パインコーン・ムーンシャイン〉をベースにじりじりと音楽性を変化させることに。同レーベルを主宰するニック・TVGのセカンド・アルバムはそれこそ「ドラムをライヴ演奏のように聞かせ」るという部分が過剰に肥大し、ほとんどフリー・ジャズかと思うようなサウンドへと変形が進んでいる。いっそのことフリー・ジャズとして聴いた方が早いのかもしれないけれど、それにしてはドラムンベースやミニマル・テクノの要素が耳についてしまうので、やはりこれは「ドラムファンク」というべきなのだろう。



 7年前(!)のファースト・アルバムに比べてグリッチなどエレクトロニカ度が増し、ドラム以外の要素もかなり複雑になっている。短いイントロダクションを経て最初からドラミングは激しく、あまりにも乱れ打ちで、いくつのドラム・パターンが重ねられているのかもよくわからない。これだけドラムを畳み掛けてアフロっぽくならないのも時流的には珍しく、ファンクではあってもファンキーにはならない。ジェームズ・ブラウンをサンプリングしてるのかなあと思う曲もあるけれど、少し間延びさせて他のドラム・サンプルと組み合わせてるのか、そう簡単にリズムにのせてくれるわけでもない。緊張感に次ぐ緊張感。予定調和なリズムは片端から崩れていく。中盤の “Tamukeyama” ではいったんドラムが後退し、トータスノイ!が出会ったようなベース・ドローンにモードが変わる。もともとドラムンベースにはアトモスフェリックなイントロダクションを過剰に配する傾向があるとはいえ、続く “Nika Sees” でもアブストラクトな感触は持続し、異常なテンションはキープされたまま。マウス・オン・マースを思わせる “Er Ist Immer Mude I” やBPMが早くなったり遅くなったりする “One Record” も新機軸で面白い。とにかくこの人の音楽は誰にも似ていない(感性という意味ではかつてフォテックが “七人の侍” をやろうとしたことに近いのかも?)。

 アメリカで起きた国会突入こそ失敗だったものの、今年はミャンマーの軍事クーデターといい、アフガニスタンが武装勢力に国家主権を奪取されるなど、教科書でしか読んだことがないような国家規模の事件が次々と起きている年であり、客観的に見ればヘンにダラダラした音楽よりも『I Know Where the Vultures Live(=ハゲタカがどこにいるのか知っている)』のように不穏で緊張感みなぎる音楽が時代のサウンドトラックにふさわしいのではないかと。否定されているのはそのことごとくが西欧近代で、世界がどんどん『ゲーム・オブ・スローン』化しているみたいだけど。

メシアTHEフライ - ele-king

 先日お伝えしたように、JUSWANNA のMC、メシアTHEフライの2010年のソロ・アルバム『MESS - KING OF DOPE-』が本日9/15にCDでリイシューされる。そのタイミングにあわせ、同作のストリーミングでの配信も解禁となった。ジャケをあしらったTシャツも限定で販売されるとのことで、あわせてチェックです。

JUSWANNAのブッ飛んだ救世主ことメシアTHEフライが2010年にリリースした傑作ファースト・ソロ『MESS -KING OF DOPE-』の復刻CDリリースに合わせて待望のストリーミング配信も解禁! またそのジャケットを用いたTシャツが完全限定で発売&予約受付開始!

 メッセージ性の強いパンチラインを最大の武器に独自のスタンスで常に斜め45度から世間を騒がす反逆者であり、MEGA-G、DJ MUTAとのユニット、JUSWANNAのブッ飛んだ救世主ことMESS a.k.a. メシアTHEフライ。そのメシアがJUSWANNAとしての活動休止後の2020年12月に発表した傑作ファースト・ソロ『MESS -KING OF DOPE-』の復刻CDが本日リリースされたのに合わせ、本日より各ストリーミング・サービスにて同作の配信も開始!
 また本日よりその『MESS -KING OF DOPE-』のジャケットを用いたTシャツの予約受付が開始! ボディはGILDAN T2000 6oz ウルトラコットンヘビーウェイトTシャツを使用し、カラーはホワイトとブラック、ロイヤルブルーの3パターン。本日9/15(水)からP-VINE OFFICIAL SHOPのみの完全限定生産での予約受付となり、受注期間は9/28(火)正午まで、発送は10月下旬頃を予定しております。
 その『MESS -KING OF DOPE-』は同時に帯付き2枚組/完全限定プレスでのアナログ盤も12月にリリースを予定しております。こちらも完全限定生産となりますのでご予約はお早めに!

*メシアTHEフライ 『MESS -KING OF DOPE-』 Tシャツ 販売サイト
https://anywherestore.p-vine.jp/products/mtf-messt

★『MESS -KING OF DOPE-』Tシャツに関する注意事項
※新型コロナウィルスによる状況によっては、発送期間が大幅に遅れる可能性がございます。あらかじめご了承ください。
※オーダー後のキャンセル・変更は不可となります。
※配送の日付指定・時間指定は出来ません。


[CD情報]
アーティスト:メシアTHEフライ
タイトル:MESS -KING OF DOPE-
レーベル:Libra Records / P-VINE, Inc.
発売日:2021年9月15日(水)
仕様:CD
品番:LIBPCD-013
定価:2.640円(税抜2.400円)
Stream/Download/Purchase:
https://p-vine.lnk.to/bT6jlsZm

[LP情報]
アーティスト:メシアTHEフライ
タイトル:MESS -KING OF DOPE-
レーベル:Libra Records / P-VINE, Inc.
発売日:2021年12月2日(木)
仕様:帯付き2枚組LP(完全限定生産)
品番:LIBPLP-001/2
定価:4.950円(税抜4.500円)

Li Yilei - ele-king

 古い中国の絵画の中に描かれる花や鳥たちのような電子音楽である。

 中国出身、現在ロンドンを拠点とするサウンド・アーティストの Li Yilei のアルバム『之 / OF』を聴いたとき、まずそう思った(Li Yilei はアジアとイギリスを拠点とするアート・コレクティヴ〈NON DUAL無二行動〉のメンバーでもある)。じじつ、宋王朝の芸術がインスピレーションの源だったようだ。特に宋王朝時代の絵画、特に花や鳥の絵画は、曲やトラック全体で共通のテーマだという。

 それにしてもなんと優雅な電子音楽だろうか。ミニマルでいて絵画的。空間的にして無時間的。瀟洒にして美麗。この「無時間的な感覚」は、やはりコロナ禍の状況からの影響か。前作とはサウンドの質感やムードが異なるのだ。
 じじつ、コロナ禍の初期に中国・上海に戻った Li Yilei は、検疫のために二週間ホテルに滞在することになったという。ここで Li Yilei は時間に対する意識が高まった。この『之 / OF』の制作自体はコロナ以前からはじまっていたとのことだが、やはりコロナは本作の制作に大きな影響を与えることになった。

 ちなみにコロナ禍で生まれたアンビエント的な電子音楽といえば KRMU『Peel』やイーライ・ケスラー『icons』がある。『Peel』は不安の中の癒しを鳴らし、『icons』は都市の静寂と変化を表現していた。対して『之 / OF』はコロナ禍によって生まれた停止するような無時間的な感覚を音によって表現しているように感じられた。いわば1曲1曲が詩や短歌のように、時を凍結していくような感覚が濃厚なのである。

 同時により浮き彫りになったのがより「個」的なサウンドでもある。アスペルガー症候群でありノンバイナリーのアジア人でもある Li Yilei 自身が以前から自身のアイデンティティに対して誠実に向かいあって作品を制作していたことと無縁ではないだろう。先の二作も同様だが、コロナ禍でなくとも、アーティストたちは、やがてこれらのような「個」を濃厚に感じる傑作を作り上げたはずだ。よって聴き手側が、社会と作品を結びつけるのは、卵が先か鶏が先か程度の戯言とすべきかもしれない。だが、われわれが世界という大きな状況の中に生きている以上、世界の変動から無縁に生きられるわけではない。互いに相関しているのだ。

 ともあれ本作には、ミニチュアールな感覚と無時間性、有限と無限が横溢している。小さなものに宿る永遠性の感覚がある。ミニマルで室内楽的な音楽性の中に東アジア的な時間感覚があるとでもいうべきかもしれない。2020年にリリースされた前作『Unabled Form』は電子音とノイズが交錯する作風でこのようなアジア的な要素が希薄だった。やはり『之 / OF』は自身のルーツへと遡行する中で生まれた作品なのでないかと考えてしまう。

 リリースは Meitei / 冥丁のアルバムを送り出してきたUKの〈Métron Records〉である。アルバムには全12曲が収録されているが、どの曲にも「TAN / 潭」「CHU / 處 」「HUO / 惑」「WEI / 未」「HAI / 海」などの漢字一文字が用いられていて、これまた無時間的な感覚を表しているように思えた。
 じっさい『之 / OF』には、ミニマルな電子音楽、フィールド・レコーディング、アンビエント、テクノ、ドローン、現代音楽的な要素など、さまざまな音のエレメントが交錯している。しかしそれらは、ただ雑然とまとめ上げられたような印象はまるでない。
 時を超えるような永遠性のなかで、まるで中国の古い絵画のように、静寂と音の「あいだ」で慎ましく音楽が鳴っているように私には感じられた。1曲1曲がまるで小さな詩のように、有限と無限をあいだを往復しているような感覚を発しているとでもいうべきか(「之 / OF」という前置詞を用いたタイトルも「部分と全体」を意味しているという)。
 加えて『之 / OF』を聴いていると近年再評価が続いた吉村弘、芦川聡、廣瀬豊などの日本の「環境音楽」からも影響を受けていることも想像できる。しかし彼らの音楽にもミニマルな無時間的な、あえていえば東アジア的な時間感覚があったと思う。となればこれは「影響」というよりも30年以上の時を経た繋がったアーティスト同士の「共振」といえるのではないか。音楽は時代も国境も世代も超えるのである。

 ちなみに本作は、レコード、CD、データで販売されているが、Li Yilei が自ら制作した中国版オカリナにダウンロード・コードを付属したものも販売されている。音楽とアートフォームの新たなあり方を提案してもいるといえよう。

KM - ele-king

 KM の特徴は何かと考える。まず思いつくのはユニークなメロディライン。次はさまざまな音楽のエレメントを感じること。仮にヒップホップのトラックでも、同時にレゲエやハウス、ディスコなどを感じる。だから予測がつかない。同じことがビートにも言える。細かい要素が複雑に絡み合ってグルーヴを作っている。そして最後はメロディとビートを裏から支える分厚いベースだろう。単純なものがひとつもない。これが1曲の中に落としこまれる。ビート提供の場合は相手の個性に合わせるが、自分の名義だと KM の個性は全開になる。

 僕は音楽に驚きを求めている。別に根本から概念を変えるようなものでなくてもいい。ちょっとしたアイデア。言葉の響き、選び方、言い方、並び方、歌い方。音でも同じ。どこか似てるものより、どこか違うものがいい。アメリカっぽい音楽だったらアメリカの音楽を聴く。例えば、K-POP はいろんな国のトラックメーカーたちが共作していることが多くて、大枠はアメリカのトレンドに沿っているけど、あのビビンパのような雑な混ざり方は韓国ならでは。しかもそれがかっこいい。だから驚くし、面白い。グローバル化してるからこそ、ローカルに意味があると思う。いまの時代はサンプリングが当たり前。だけどアウトプットの段階では絶対的な個性が必要だ。最近 Black Sherif の “Second Sermon” というMV を見た。何言ってるかさっぱりわからなかったが、どうやらガーナのラッパーらしく、謎の凶暴さがあって最高だった。ネットで世界中はつながってはいるが、結局現地に行かないとわからないことはたくさんある。音楽はそのストリートの息づかいみたいなものを如実に感じることができる。

 さて私は神奈川で生まれ、神奈川で育って、なんなら神奈川以外には住んだことがないので、海外の人が KM をどう聴くのか検討もつかない。だが彼の音の精緻さ、混ざり方の緻密さ、つまり偏執的なまでにコツコツと丁寧に作られた音は日本的なのではないだろうか。

 正直『EVERYTHING INSIDE』は全曲好きだ。Daichi YamamotoJJJCampanella田我流、C.O.S.A.、SPARTA といった大好きなラッパーが最高のスピットを聴かせてくれているし、Lil’ Leise But Gold、HNC&MANON、NTsKi はプロデューサーとして個性を引き出す力を感じさせる。(sic)boy、LEX、Kvi baba、Taeyoung Boy(現:TAEYO)といった若手が歌う楽曲はポップ・ソングとして非常に優れている。

 だがこの1曲と言われれば、迷うことなく “Filter (feat. JJJ & Campanella)” を挙げる。

 実を言うと、今年の頭くらいまでは多すぎる情報量の中から自分に合う音楽を見つけられなくて、それが自分のシングルタスクの脳みそと感性の劣化によるものだと思って、結構凹んでいたのだ。だけど “Filter” を聴いた瞬間に拳を握った。「俺が聴きたかった音楽はこれだ!」と。

 世界中のダンス・ミュージックに影響を受けていながらも世界中のここにしかない日本語の曲。イントロではUKファンキーを想起させるアフロなリズムに四つ打ちが重なる。そこに Campanella の「吸い込む空気 緑色」というかっこよすぎるラップと不思議と頭に残るメロディが絡み合った瞬間、胸が締め付けられた。

 そこから深いキックにマーチング・バンドのようなスネアと、規則的に刻むクラップなどがエネルギーを増幅させていく。Campanella と JJJ が掛け合うブリッジでは、それまで控えめだったベースにエフェクトがかかってメロディに呼応する。さらにフックでは裏に入るレゲエ的なリフレインと噛み合って楽曲をドライヴさせる。しかもこの曲は単に足し算しているのではなく、基本要素はほぼループで、抜き差しと強弱、エフェクトで曲を展開させているのだ。

 ちなみに私は “Filter” の実演を Campanella のワンマンで目撃した。その高揚感は想像以上に凄まじいものだった。爆音で鳴る KM のビートでラップする Campanella と JJJ を見て、ちょっと凹んでた時期もあったけど、もはや理屈じゃなくて「俺、やっぱラップが大好きだ」と思った。

 “Filter” で特に好きなのはフックのリリック。「世界は壮大らしい」。そう。世界は壮大なのだ。驚きを求めているにもかかわらず、僕はあまりに圧倒的な情報量の前に、どうすることもできず途方に暮れてしまっていたのだ。だがそれも捉え方で変わる。ネットに溢れかえる聴きれないほどの新譜は喜びなのだ。『EVERYTHING INSIDE』。解釈は全然間違ってるかもしれないけど、僕はそう捉えた。もしもまだこのアルバムを聴いてない人がいるなら、騙されたと思っていますぐ聴いたほうがいい。というか聴け。

Tomorrow’s People - ele-king

 アナログ・レコードにまつわる新しい試みとして〈Pヴァイン〉が取り組んでいるプロジェクト「VINYL GOES AROUND」からニュー・アイテムの登場だ。
 今回のタイトルは、シカゴのソウル・グループ、トゥモロウズ・ピープルの1976年作『Open Soul』のテスト・プレス。1枚ずつ手づくりで制作されたシルクスクリーン・ジャケット仕様。今回も超限定商品のため、お早めに。

Tomorrow's People「Open Soul」LPのテストプレスがハンドメイドのシルクスクリーン・ジャケットでVINYL GOES AROUNDから超限定発売。

Tomorrow's People「Open Soul」LPのテストプレスを株式会社Pヴァインの新規事業「VINYL GOES AROUND」限定で9/15(水)午前10時より販売する。

ハンドメイドのシルクスクリーン・ジャケットは、青みを含んだグリーンの女性のポートレートと、鮮やかな赤の文字でデザインし一枚ずつ丁寧にプリント。

本作はバートン4兄弟を中心としたシカゴのソウルグループの1976年に制作されたアルバムで、DJやソウルマニアの間で究極のコレクターズアイテムとなっている作品。中でも一際光る存在の20分を越える壮大かつグルーヴィなファンク「OPEN SOUL」は、永遠と繰り返されるフレーズがドープなダンストラック。またディープなソウル曲「Lovers to friends」や極上のファンキー・チューン「Let’s Get With The Beat」、疾走感のあるインストゥルメンタルファンク「Hurt Perversion」などを収録。また当アイテムは先日eBayにて先行販売をしてUS $132で落札された。

[購入ページリンク]
https://vga.p-vine.jp/exclusive/
※9/15(水)午前10時より販売開始


[商品情報]
アーティスト:Tomorrow's People
タイトル:Open Soul (Test Press)
品番:VGA-5001
フォーマット:LP(シルクスクリーン・ジャケット/シリアルナンバー入り)
価格:¥7,700(税込)(税抜:¥7,000)
★VINYL GOES AROUND限定販売
★9月15日(水)午前10時より販売開始

[TRACK LIST]
A1. Lovers To Friends
A2. It Ain't Fair
A3. Hurt Perversion
A4. Hurry On Up Tomorrow
A5. Let's Get Down With The Beat
B1. Open Soul


[VINYL GOES AROUND]
株式会社Pヴァインが立ち上げたアナログ・レコードにまつわる新しい試みを中心としたプロジェクト。
https://vga.p-vine.jp/

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