「K A R Y Y N」と一致するもの

New Order - ele-king

 先日お伝えした石野卓球によるニュー・オーダーのリミックス、詳細が明らかになった。
 その曲「Tutti Frutti - Takkyu Ishino Remix」は、もちろんピーター・サヴィルのデザイン、そしてMUTE品番が付けられ、デジタル配信で12月11日、アナログ(12インチ)は来年3月16日にリリース。デジタル配信、アナログともに本日より予約が開始。まさかこんな未来が待っていたとは……アナログ盤はすぐに売り切れるので、くれぐれもお早めに。

 ちなみに本リミックス音源は、ニュー・オーダーからの影響をテーマにした作品サイト「シンギュラリティ」にて、石野卓球セレクトの「インストゥルメンタル・トラック・ベスト10」と共に全世界に向けて公開されている。本サイトには、石野卓球と並んでロバート・スミス(ザ・キュアー)、ショーン・ライダー(ハッピー・マンデーズ)、アーヴィン・ウェルシュ(映画『トレインスポッティング』原作者)、ザ・ホラーズ、808 ステイト、ラ・ルー、インターポール、ホット・チップ等、錚々たるアーティストが作品を寄せている。


Yasuyuki Suda (inception records) - ele-king

2015.11.29

 今年もっとも輝いた顔のひとつである。ハープを抱いた歌姫、フリーフォークのアイコン、確実にUSインディの一時代を築いたこのシンガー・ソングライターは、しかし同じところにはとどまっていない。ディヴェンドラ・バンハート『クリップル・クロウ』から10年、アニマル・コレクティヴ『フィールズ』からも10年だ。はやすぎて恐ろしい。

いま彼女は街に両足をつけ、ひとりの女として、歌うたいとして、そのなかに渦巻く感情のドラマツルギーでこそわたしたちを魅了する
(木津毅によるレヴュー、ご一読をお奨めしたい! )

 そう、新しいジョアンナは新しい歌をうたっている。それは今作を支えた編成とともに見るときもっとも鮮やかに、そしてもっとも直接的に感じられるだろう。東京はグローリア・チャペルでの公演も楽しみだ。

■Joanna Newsom Japan Tour 2016
ジョアンナ・ニューサム ジャパン・ツアー2016

 2015年秋にリリースされた最新アルバム『ダイヴァーズ』の興奮冷めやらぬ中、その歌声とハープで世界を魅了しつづけるジョアンナ・ニューサム6年ぶりのジャパン・ツアーが決まりました。彼女の歌とグランド・ハープ、ピアノを囲む今回の演奏家はライアン・フランチェスコーニ、ミラバイ・パート、ピーター・ニューサム、そしてヴェロニク・セレットの4人。もちろん『ダイヴァーズ』の大きな音楽世界を支えた選り抜きのメンバーたちです。さて、手を伸ばせば、世界でもっとも鮮やかなユートピアがそこで待ち受けています。息を吐き、足で蹴り、浮かび上がるダイヴァーたちの群れ。もちろん次はあなたが飛び込む番!

■ジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)
米カリフォルニア州ネヴァダ・シティ生まれのハープ奏者/シンガー・ソングライター。グランド・ハープの弾き語りというユニークなスタイルで2000年代音楽シーン最大の「発見」のひとりでもある。これまでに『ミルク・アンド・メンダー』(2004年)、『Ys』(2006年)、『ハヴ・ワン・オン・ミー』(2010年)、『ダイヴァーズ』(2015年)と4枚のアルバムを米ドラッグ・シティ(国内盤はPヴァインから)より発表し、その世界観を大きく拡張。その音楽要素をジャンル名で回収することはおろか、もはや大きな「音楽」としか名づけられない唯一無二の個性となった。近年は2014年のアカデミー賞2部門にノミネートされた映画『インヒアレント・ヴァイス』に女優として出演、ナレーションも手がけるなど活躍の場を広げている。

公演

1月26日(火)
大阪 大阪倶楽部 4階 大ホール(06-6231-8361)
大阪府大阪市中央区今橋4-4-11
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/5,500円(当日)*全席自由席
予約受付は12月7日正午より開始します。
予約:Cow and Mouse(cowandmouse1110@gmail.com)
予約方法:件名に「ジョアンナ・ニューサム大阪公演」と明記の上、お名前(フルネーム)、お電話番号、チケット枚数をご記入いただき、上記メール・アドレスまでご送信ください。確認後、購入方法を折り返しお知らせいたします。なお、携帯電話から申し込まれる方は、PCメールの拒否設定をされていませんようご確認ください。また、会場内はすべて自由席、ご来場順でのご入場となります。
大阪公演問い合わせ先:ハルモニア(080-3136-2673)、
Cow and Mouse
cowandmouse.blogspot.jpwww.facebook.com/cowandmouse

1月27日(水)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:30pm/開演 7:30pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

1月28日(木)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

東京公演前売りチケット:
スウィート・ドリームス・プレス・ストア(sweetdreams.shop-pro.jp
*12月7日正午より、上記ウェブサイトにて特製チケットの販売を開始します。なお、送料として一律200円がかかりますので、あらかじめご了承ください。また、会場内はすべて自由席、チケットの整理番号順でのご入場となります。

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
招聘:Ourworks合同会社
協賛:株式会社P-VINE
共催:Cow and Mouse(大阪公演)
音響:Fly-sound(東京公演)

Sweet Dreams Press
www.sweetdreamspress.com
info.sweetdreams@gmail.com

JOANNA NEWSOM: Divers
ジョアンナ・ニューサム/ダイヴァーズ
発売日:2015年10月23日
品番:PCD-18803
価格:定価:¥2,480+税

TRACK LISTING:
1. Anecdotes
2. Sapokanikan
3. Leaving the City
4. Goose Eggs
5. Waltz of the 101st Lightborne
6. The Things I Say
7. Divers
8. Same Old Man
9. You Will Not Take My Heart Alive
10. A Pin-Light Bent
11. Time, As a Symptom


 いまや『ローリング・ストーン』誌も「いまや新しいブルックリン」と評価するアイスランドのエアウェイヴスに今年も行って来た(最近では、ジョン・グラントも引っ越した!)。たしかにレイキャヴィック(アイスランドの首都)のサイズは、ブルックリンのウィリアムスバーグぐらい。
 で、今年、ローカルで良かったバンドを思うがままに挙げてみると……


dj. flugvél og geimskip


bo ningen

 グライムスやコンピュータ・マジックのアイスランド版とも言えるdj. flugvél og geimskip(DJエアロプレインとロケットシップ)に、レイキャヴィッカダートゥア(発音できない……)は革命を起こしたい女の子10人のラップ・グループで、とにかくかわいい。2、3本のマイクを10人で次々にパスして行くのですが、間違えて違う人に渡したりしないのかなぁ、と素朴な疑問を抱いてみたり。ピンク・ストリート・ボーイズは今時珍しい、トラッシーなパンク・バンド。ヴォックは3年連続で見ているが、ドラマーが増え、よりバンドらしくなり、大御所の風格さえあった。シュガー・キューブスのリード・シンガーだった、エイナーのヒップホップ・プロジェクト、ゴースト・デジタルの大人気っぷりは流石、レコード屋から人が溢れ、道を渡ったところにも人が盛りだくさん。
 レイキャビックの『ヴィレッジ・ヴォイス』とも言われる、情報紙『grapevine』のライターのポールさんによると、ダークで、奇妙で、突拍子もない、Kælan Miklaが今年のエアウエイズのベスト1だと言っていた。私は、世にも美しい音を奏でるMr. sillaに一票。


pink street boys

 エアウエイヴスは、ニューヨークのCMJやオースティンのSXSWのアイスランド版と言った所だが、より個人が主張し、インディ感覚を忘れていない。リストバンドの種類がアーティスト、プレス、フォト以外にダーリンというVIPパスかあり、ダーリンを持っていると、長い列に並ばなくても良い。人気のショーはリストバンドがあっても列に並ばないとだめで、このダーリン・パスは大活躍だった。
 今年のハイライトは、ホット・チップ、ビーチ・ハウス、ファーザー・ジョン・ミスティ、バトルズ、アリエル・ピンク、パフューム・ジニアス、ボー・ニンゲン、グスグスなどで、私のハイライトは、断然ボー・ニンゲン。ブルックリンでも見て親近感が湧いたが、オフ・ステージでの腰の低さも好かれるポイントなのだろう。
 Samarisやkimonoのメンバーとアイスランド、ロンドン、日本、そして音楽に関しての対談が『grapevine』に掲載されている。
 今年のCMJではアイスランド・エアウエイヴスもショーケースを出し(dj. flugvél og geimskip, fufanu, mammútが出演)、アイスランドとブルックリンの位置はどんどん近くなっている気がする。

 昨年と比べて、街は少しだが変わっていた。空き地が取り壊され、新しいホテルができ、コーポレート企業が少ないアイスランドにダンキン・ドーナツができていた。と思えば、フリーマーケットに行くと、シガーロスのオリジナルのポスターが普通に売られていたり、道を跨ぐと壁にグラフィティが満載だったり、街には文化の匂いがする。ご飯は魚が新鮮で、何を食べても美味しいが、羊の頭、というギョッとするものがスーパーマーケットに売っていたりもする。名物は、パフィン(=ニシツノメドリ)とクジラですから。
 エアウエィヴスHQ近くのハーパ(窓のステンドグラスは光によって色が変わる!)と自然の美しさは相変わらずで、まるで他の惑星にいるような感覚に陥る。近くの水辺でまったりしていると、何処からともなく人が現れ、この最高の景色を共有出来る偶然と贅沢を、改めて堪能。こんな景色を毎日見ていたら、創作欲もどんどん湧く、と羨ましくも納得していた。


シガー・ロスのポスター


ニューヨークから直航便で6時間、時差は5時間。


 そしてニューオリンズ。今回はバンドのツアーで来たが、町も音楽も想像以上に素晴らしかった。ニューオリンズといえば、ブルースやジャズのイメージだが、インディ・ロックも、エレクトロ、ダンス・ミュージック、ヒップホップも何でも見ることができる。音楽会場がたくさん並ぶエリア(フレンチ・クオーター)では、バー、レストランなどがズラーッと並び、バーホップを楽しめる。ロック、ブルース、ジャズ、ホーン隊が10人以上いるビッグバンドや、2ピースのエレクトロ・ダンシング・バンド等、ミュージシャンはさすがに上手く、観光地になるに連れてカバーバンドが多かった。お客さん同士仲良くなるなどノリも良く、こちらは毎日がCMJやSXSWな感じ。
エレキング読者には、フレンチ・クオーターからは少し離れるが、私たちがショーをしたサターン・バーがオススメ。ここは元ボクシングを観戦する会場で、バルコニーが四方をグルっと囲み、バンドを180度何処からでも上から眺められる。何気に天井がプラネタリウムの様になっていたり、サターン(土星)が壁に、ドーンと描かれ、場末な感じが最高だった。
 今回お世話になったのは、ビッグ・フリーダ、シシー・バウンスなどでDJをしているDJ Rasty Lazer。ニューオリンズ・エアリフトも主催するニューオリンズのキーパーソンである。

www.neworleansairlift.org
https://en.wikipedia.org/wiki/Bounce_music

 エア・リフトが今年2015年夏に開催したアート/音楽・プロジェクト、「ミュージック・ボックス」の映像を見せてくれた。



 大きなフィールドに、多様なアートピースを創り、ミュージシャンが音楽を奏でるのだが、ディーキン(アニマル・コレクティブ)やイアン(ジャパンサー)、ニルス・クライン、ウィリアム・パーカーなど、面白いほどに、ブルックリン他のなじみある顔のミュージシャンが参加していた。

 このプロジェクトにも参加していたラバーナ・ババロンは、4年ほど前にブシュウィックで知り合ったアーティストだが、いつの間にかブルックリンからベルリンを経由し、ニューオリンズに引っ越していた。彼女曰く、ブルックリンより、こちらの方がアート制作に時間を費やせるし、露出する場がたくさんあると。たしかに彼女のようなパフォーマーは、あたたかい気候が合っているのかもしれない。
 そのDJ Rusty Lazerがキュレートするパーティにも遊びに行ったが、規模がブルックリンとまったく違うことに驚く。会場の大きなウエアハウスは南国雰囲気。手前にバー、真ん中にはトロピカルな藁のバー、回転車輪(ネズミの様にクルクル回る)、ポップコーンバス(中で男の子がポップコーンをホップし続けている)、ダンスホール(バウンス・ミュージック)、映像部屋(自分がライトの中に入っていける)、ライト&ペーパーダンスホール(上から紙のリボンが垂れ下がり、ブラック・ライトが照らされた部屋)、野外映画、仮装部屋(いろんなコスチュームが揃い、みんなで写真が撮れる)など、もりもりたくさんのエンターテイメントが用意されていた。人も今日はハロウィン? と思うくらいドレスアップ(仮装)している人ばかりで、こちらは毎日ハロウィン。

ニューヨークからは直行便で3時間半と。時差は1時間。

 全く違う2都市だが、空港に降り立った時から、違う空気を感じ、気候が音楽に与える影響も感じる。この2都市のパーティにかけるピュアな姿勢と気合は、ブルックリンは断然負けている。ブルックリンはパーティしつつも、頭は何処かで冷静だったりもする。さらに人びとが次々繋がっていくのが面白い。小さなインディ・ワールドにいるからか、今回もニューオリンズやレイキャビクからブルックリンの知り合いが繋がっていった。ブルックリンのエッセンスは、何処かで継がれていくのだろう。

ダニエル・クオン - ele-king

Ha Ha, Just notes 増村和彦

 ──『ノーツ』というアルバム・タイトルが象徴する掌編的小曲は、集合体となって、永遠に未完のまま無限に続く可能性を燻らせている。

 Pヴァインのオフィシャル・インフォにも「ポピュラーミュージック症の重篤患者」とある通り、彼の音楽的な素養には驚くばかり。アルバムに収録された小曲はトラック数の数倍に及ぶというメロディ・メイカーぶりはビートルズを彷彿させるほどであるし、奇抜でありながら普遍性を身に纏うアレンジやミックスにキース・オルセンやカート・ベッチャーを重ね合わせるかもしれない。その手のことは、枚挙に暇がないが、裏側から対象を眺めるような観察観の鋭さは、言わば「aに対するa´」を勝ち得ている。作品からaを探し出すことは簡単かもしれないが、さまざまな音楽遺産の中から彼のa´を見出した時一つの幸福感を味わえるに違いない。それは同時に、音楽遺産の上に新たな視点を提示してくれる。
 そのような経験的な音楽の領域に説得力を持たせているのが、詩的な領域だ。何もコンセプトや歌詞のことではない。各曲は物語としては掌編的に完結していくが、そこにカタルシスはない。不満なき完結はある意味では死を意味する。はちきれんばかりのリビドーが(#5“mr.kimono”の頭のローズ・ピアノなんて手で掴めそうだ)、浄化されることなくアルバム全体を流れつづけることによって、長編のようないつ終わるとも知れない味わいを持たせている。タイトルの「note」と「複数形」の意味をそこに見た気がした。

 彼にそんなことを言ってもきっと「haha, just notes」と言うはずだ。それはそうにちがいない。矛盾するように同居するムードの気楽さが作品をしてベタつかせていない。各所に散りばめられたフィールド・レコーディングが、自己の中に入り込もうとするものでなく、映画の1コマのような効果を与えていることも象徴的だ。時に顔を出すシニカルな側面にも深刻さはない。これもタイトルが示すところであろう。

 たしかに、このアルバムにハイライトやメッセージ性はないかもしれない。彼の場合は、さまzまな倒錯や幻想の形態化自体がユーモアや物語を帯びながら音楽をなしていくところがあるように思う。それは、自己満足の空しい作業かもしれないが、閉ざされた空間で日曜日にしか愛好されない音楽の中にあって、稀有な存在であり、われわれはそのようなものに心酔するはずだ。

 ……なんだか難しいように書いてしまったかもしれないが、最後に一つ。ここまで歌が聴けるアルバムもなかなかないだろう。

増村和彦

» NEXT 「呪われたようにポップ」松村正人

[[SplitPage]]

呪われたようにポップ 松村正人

 さきほど『ele-king』本誌にジム・オルークの原稿を書き終えた勢いというか熱さめぬままというか惰性というか、そういうもののまま、ジョン・フェイヒィの“Requiem For Molly”を聴いていたとき、それとアイヴズの交響曲4番と異同にあらためて慄然とし、本稿でそれをもちこんだのはそこに書き漏らしたためなのだが、この傾向を、かつて私たちはジムの音楽を述べるにあたりアメリカーナと呼びならわしたものの、ことばの深いところでそのことを考えてはこなかった。不在あるいは架空のルーツといい条、語りの構造を語らないことで片手落ちになっており、これは保坂和志が『遠い触覚』でリンチ(のおもに『インランド・エンパイア』)を語るさいのフィクションがたちあがるときの「遠さ」とも重なるが、このことについては別稿に譲るとして、私たちは音楽にドリームないしドリーミィの単語を被せるときその形容詞を甘くみすぎている。

 もっとも私は夢をほとんど見ないし、見たとしても脈絡のないものばかりなので実感はないが世の中にはどうも楽しい夢もあるらしい。願うだけであるものが手に入る万能感、おしよせる多幸感──それを音楽にこじつけると、いや、音楽はいまや思うことのすべてをだれもがひとりでたやすく実現できる、まさに夢の世界だが、想像できる範疇でできた音楽などとるにたらない。私はなにがいいたいかというと、夢の力学とはガタリがカフカを述べるにあたりもちだした「夢の臍」から来るもので、それはほとんど受動的な万能感といえるほどのある種の恐慌状態を指すとものであり、万能なのは夢そのものであり見る側ではない。というと付け焼き刃のフロイト派のようであり、しかも音楽をふくむフィクション全般を語るにそれをもちいることの、ジジェクめいたあやうさももちろんあるのだけど、なんかしっくり来ないのよ、柳沢慎吾に「いい夢見ろよ」といわれるたびに、うーむとなってしまう私としては。いい夢見たことないし。

 私はシンガー・ソングライター、ダニエル・クオンを知ったのは、このレヴューを引き受けてからという、はずかしながらクオンさんヴァージンの私だが『ノーツ』には巷間のドリーム・ポップに私の抱いてきたどこか食えない感じとは似ても似つかないものをもっている。略歴そのほかは健筆な著者の別稿をご参照いただきたいが、森は生きているの岡田拓郎、増村和彦はじめ、牛山健、小林うてなといった、数年前の日本移住後、東京インディ界隈で培った人脈を投入した『ノーツ』は、私は浅学ぶりをさしひいても確実にポップ度は増した。私が空手形を切っていると思われる方もおられようが断言します、『ノーツ』以上にポップな作品がおいそれとつくれるわけがない。それほどこのアルバムは呪われたようにポップだ。作者ではなく音楽がそうなっている。

 幕開けの“fruit, not apple”の果実(リンゴではない)を囓る音のほのめかすもの、つづく“hop into the love van”でダニエル・クオンは私たちをトリップに誘い出す。飛び乗るのはラヴ・ヴァン。ケン・キージーのバスを思わせるところもあるがあれほどトリッピーではない。行く先々には見知った顔も見える。ある停留所ではポール・マッカートニー卿のまわりをパイロットとエミット・ローズをはじめ、その音楽的遺伝子を受け継いだ無数の子どもたちがとりまき、たがいのポップ・センスの捻れぶりを競い合っている、人垣をかきわけるとジョンストンのほうのダニエルと鉢合わせして意気投合しないともかぎらない。どこを切っても、口ずさめそうなほど耳なじみがいいのに、場面はくるくる展開する。飛躍するというほどではないのに、全体的には断片の集積の印象を残す。『ノーツ』の表題はそこに由来するのかもしれないが、そこにはキース・オルセンやロイ・トーマス・ベイカーといった彼の偏愛の対象だというプロデューサーの手がけた作品名がメモってあるだろう。前者はフリートウッド・マックとかフォリナー、後者となるとクイーンであり、前述のパイロットもサードはロイのプロデュースだった。これだけ見ると音楽性はさておき、先日のレヴューされたジェームス・フェラーロに通じるガジェット感があり、クオンはそれをある種の付随音楽──というと即座に映画音楽を想起される方がいるかもしれないが、私がいいたいのは部分と全体のかかわりであり、クオンの『ノーツ』は全体がすべてに先行する。ところがそれはテーマとかコンセプトとかではない。まっしろなノートがまっさきにあるのである。ソフト・ロックにせよ、ロウファイであれラウンジであれ、そこには自由に書き込む余白がある。ブライアン・メイの亡霊さえ召還可能だろう(まだ死んでないが)。フィールド録音の多様は音楽と外との流通をはかる。そうすると音楽はフェイヒィにかすかに似た歪みをともなうが、特異なソングライティング・センスは埋もれないどころか、ますます際だっていく。このような作品はバンドではなかなか難しい。ゆえに『ノーツ』は東京のアンダーグラウンドの若い住人たちにも新風を吹きこむ作品として歓迎されるにちがいない。お年を召した方のなかにはモンドを想起される御仁もおられよう。しかもメロディが中心にしっかりあるから、訴えかけるのは好事家にとどまらない。肌ざわりから、カセットを出すのもひとつの手だとも思いました。

松村正人

 ダニエル・クオンを知ったのは3年か4年前のこと。都内の小さなライヴ・スペースで行われたイヴェントで、出演者のひとりがたまたま彼だった、という些細なきっかけだった。詳細は曖昧だが、ギターを抱えて椅子に腰かけ、少し訛りを含んだような英語詞で――時おり日本語も織り交ぜながらゆったりと歌い上げる、といった調子で、あくまで印象は典型的なシンガー・ソングライターのそれだったはずと記憶している。そして、そんな彼のインティメートな弾き語りに当時の自分が重ねて見ていたのは、たとえば王舟やアルフレッド・ビーチ・サンダルの北里彰久、あるいはパワフル・パワーの野村和孝といった、これもちょうどその頃に近い圏内でたびたび演奏を見る機会に恵まれた同じシンガー・ソングライターたちの音楽だった。

 もっとも、その時すでに彼は日本でのレコーディングを経験済みで、さらにこの少し前(2010年)にはファースト・アルバム『ダニエル・クオン』を日本でもリリースしていたことを自分は後になって知るわけだが。ともあれ、そんな彼の音楽が、あの頃の東京の――あえて言えば東京のインディ・シーンの風景にとてもよく馴染んで聴こえたことを思い出す。


ダニエル・クオン『ダニエル・クオン』
(Motel Bleu / 2010)

 といったダニエル・クオンについての個人的な原体験を記憶に留めていたこともあり、その数年後に次作の『Rくん』(2013年)を最初に聴いたときはすっかり意表を突かれた。かたや、ひとつ前の『ダニエル・クオン』は、ざっくりと言えばいわゆる弾き語りがメインで、ギターとピアノを中心に練られた演奏とウォーミーな歌声に、彼自身が敬愛するというエミット・ローズやポール・マッカートニーはおそらくもちろんのこと、ランディ・ニューマンやハリー・ニルソン、トッド・ラングレン等々の耳慣れた名前を連想したくなる一枚、というのが順番を前後して後日聴いたところの雑感。いまだったらトバイアス・ジェッソ・Jrなんかとも並べて聴きたい、70年代のシンガー・ソングライターの系譜を窺わせるグッド・メロディとグッド・ソングが詰まったアルバムだったが、対して、『Rくん』も基本的には弾き語りがベースではあるものの、その冒頭いきなり飛び込んでくるのは、ジョン・フェイヒィも思わせる緩やかなギター・アルペジオではじまる『ダニエル・クオン』のオープニングからは想像外の、ハーシュ・ノイズのように耳を劈く雨音(?)のサンプル。そして以降、ナレーション、館内放送、逆再生したような効果音、自然音や生活音の類、はたまた「AMSR」風の細かいブツ音が曲のいたる箇所で顔を覗かせ、なにやら奇想めいた気配が醸し出されていくのだった。


ダニエル・クオン『Rくん』
(R / 2013)
Amazon

もっとも、その手の演出は『ダニエル・クオン』でも一部に散見でき、相俟ってそこには初期のデヴェンドラ・バンハートにも通じる仄暗さ、あるいはフリー・フォークが幻視したサイモン・フィンやティム・バックリーへの愛着、さらにはピーター・アイヴァースやロイ・モンゴメリーのウィアードなサイケデリアに対する好奇心さえ聴き取れなかったわけではない。が、『Rくん』においてはそうした、一見ジェントリーな歌いぶりの裏にある種の衒いのようなものとして見え隠れしていたアウトサイダーな嗜好が横溢していて、その深い綾のように刻まれたツイステッドなポップ・センスはさながら、〈ポー・トラックス〉に発掘された頃のアリエル・ピンクかその師匠筋にあたるR・スティーヴ・ムーア、いやいやジョー・ミークやレイモンド・スコット、ブルース・ハックあたりのカートゥーン趣味も思わせる感触に近い、と言ったらさすがに印象論で解釈を広げすぎだろうか。エレクトロニックな音色が増えてループも活用されたテクスチャーは、それこそフォークとアンビエントやニュー・エイジとの間、言うなればノスタルジアとヒプナゴジアとの間を揺れ動くようで、それが2013年の作品であるという理由から強引に何かに紐付けさせてもらうとするなら、ジェームズ・フェラーロと〈ビア・オン・ザ・ラグ(Beer On The Rug)〉のYYUを両隣に置いて鑑賞したくなる代物――というのが、はなはだ一方的だが『Rくん』に対する個人的な評価だったりする。


ダニエル・クオン『ノーツ』
(Pヴァイン / 2015)
Amazon

 そんな驚きが先立った『Rくん』と比べると、まずはより歌にフォーカスが当てられた、という印象も受ける新作の『ノーツ』。ケレン味たっぷりのファルセットやスキャット。旋回するコーラス。いろんな種類の楽器がにぎやかなアンサンブルを奏でるなか、時おり主張するエレキ・ギターが妙に可笑しい。けれどもちろん、『ノーツ』にはそうした歌や演奏以外の音も相変わらずたくさん詰め込まれている。遠くで聞こえる吹奏楽や子どもの合唱。果実をかじったり葉物を切ったりする音。ぐつぐつと沸騰した鍋。踏切の警笛音や商店のブザーといった雑踏のBGM。そうして音楽と多様な具体音が織りなすレイヤーを聴きながら、ふと、ある高名な音楽家の「ミュージサーカス」という作品のことを思った。それは、大きな建物のなかだったり公園のようなひとつの空間を舞台に、異なる音楽やパフォーマンス、多くの出来事が同時に行われるという、一種の演劇的なイヴェント。まあ、そこまで大掛かりではないまでも、しかし、ダニエル・クオンの音楽もまた聴いていると、さまざまな場所から音が立ち上り、互いに無関係であるようなそれらが結ばれることで、縁日的とでも言いたい愉快な光景が姿を現し目の前に迫ってくるような感覚に襲われるのだ。あるいは、試しに『ノーツ』を聴きながら近所を散策してみてもいい。すると、身の周りの環境音や具体音とさらに混じり合うことで聴取は拡散し、その瞬間、そもそも私たちは「音楽」だけを純粋に聴くことはできない、なんてことに気づかされるかもしれない――と。たとえばそんなふうにもダニエル・クオンの音楽は私を楽しませてくれるのである。

ダニエル・クオン - Judy


当日会場にて対象書籍(※)ご購入のお客様は、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント! サイン会にもご参加いただけます!

※『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ISBN 978-4-907276-35-5)が対象となります
※先着70名様までのご参加となります。

福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践されている、
ネイチャーライター、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

そして、野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍の一方、
音楽的なこだわりの深いライブ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開しておられる野島健児さん。

職業も生活スタイルも異なるお二人ですが、
そのバックボーンにはとってもユニーク&クリエイティヴな子ども時代のご経験が。

この度開催されるのは、
その驚くほど豊かな遊びの記憶をたどりながら、
現在の多彩な活動や、
それを支える考え方、ものの見方について、
いっしょに思考をめぐらせるトークライブです。

何かにはっとする瞬間が必ずあるはず。
トークのあとは“兄弟セッション”もいっしょに楽しみましょう!

***

チケットについてはこちらから
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833
注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

***

福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践している、
ネイチャーライター/ものづくり作家、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

会員制でも教育施設でもない、
野島さん自身のための“ただの遊び場”を開放して、
まず自分がいちばんに遊びながらも、
「あそんでいる人の存在が、誰かのあそびをひらく」瞬間について、考えつづけています。
絵を描いたり、自然の素材やがらくたで何かをつくったり、
猫やトカゲと遊んだり、
そうしているうちに今日もいろんな子どもがやってきて──

ときおりは“ヘンテコどうぶつ”づくりや“こうもり探検”などのワークショップも開催、
そのほかにもお手製の絵はがきや“ナゾマイマイ”(磁石のかたつむり)などの製作、
写真や日々の取り組みを書きつづったりと、
「マイマイ計画」の活動は、ささやかだけどとっても多彩。
その活動のスタイルとともに
小さいままに、でも人から人へ、ゆっくりと広がりつづけています。

そんな野島さんは、
じつは小中高校に通わずに、自給自足を試みる一家とともに山中で育ち、
大学では動物学や教育学などを数々の研究室で学ばれたという、
珍しいご経験の持ち主でもあります。

自然と遊びに彩られ、
遊びからつながる学びにあふれた、
驚くほど豊かな体験の数々、
そして、そんな環境を根っことした現在の多彩な活動や、
思いがけない考え方、
やさしくて時間をかけたものの見方──

そんな野島さんの半生と活動が、一冊の本になりました。

『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ele-king books、2015)

そして今回開催されるのは、
この本の中、
とくに野島さんの子ども時代について書かれた第2章について、
じっくりと読み解くトークライヴ。

野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍中の野島健児さんをお迎えして、
その驚くばかりにクリエイティヴィティあふれる、
子ども時代の遊びのエピソードを掘り下げます。

うーん、もういっかい子どもに戻ったら、
自分もぜったいこんなふうに過ごしてみたい……!

音楽的なこだわりの深いライヴ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開されるお兄さん・健児さんからも、
そうした豊かなバックボーンについて、
インスピレーションあふれるお話がきけるはず。

あそぶこと、学ぶこと、
自然のこと、
そして、マイマイ計画の活動を支える
「あそびらき」という考え方について、
さまざまな角度からお話をうかがいます。
トークの後は「兄弟セッション」も!?

21世紀日本のための“遊ぶ”哲学、ライブ編!



■『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』詳細
https://www.ele-king.net/books/004598/

マイマイ計画 (野島智司) × 野島健児 presentsマイマイセッション!

野島智司・著 『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』刊行記念トークライブ@ HMV&BOOKS TOKYO

開催日:
2015年12月11日(金)
19:00開演(18:00整列開始、18:30開場)

場所:
HMV & BOOKS TOKYO 6Fイベントスペース

内容:
トークショー

出演:
野島智司さん(著者/弟) ゲスト:野島健児さん(声優/兄)

プログラム:
Chapter1 talk!「やまの生活」
Chapter2 think!「世界はあそぶとこだらけ」
Chapter3 play!「マイマイセッション」

チケット:
3500円(+ローチケ手数料)
HMV&BOOKS TOKYO6Fローチケカウンターおよび全国のローチケ・Loppiにてチケットをご購入ください
詳細ページ
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833

注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

限定特典:
当日会場にて書籍ご購入のお客様限定で、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント&サイン会へのご参加

注意事項:
※トークショーはチケットをお持ちの方のみ参加できます。
※当日のご入場は、整理番号順になります。
※イベント当日は、チケットを忘れずに必ずお持ち下さい。
※イベント内容・出演者は予告なく変更する場合がございます。ご了承ください。
※イベント参加券は紛失/盗難/破損等、いかなる理由でも再発行は致しませんのでご注意下さい。
※イベント実施中の撮影/録音/録画は一切禁止とさせて頂きます。
※会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願い致します。

【お問い合わせ】HMV&BOOKS TOKYO 電話番号:03-5784-3270(11:00~23:00)

書籍情報:
https://www.ele-king.net/books/004598/

出演者プロフィール:

■野島智司 のじま・さとし
1979年東京生まれ。東京農業大学農学部卒。北海道大学大学院地球環境科学研究科修士課程修了。同大学院教育学研究科修士課程修了。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程中途退学。自然と人との関わりについて、動物生態学、社会教育学、環境心理学など、さまざまな角度からフィールドワークを行う。マイマイ計画(https://maimaikeikaku.net)主宰。著書に『ヒトの見ている世界蝶の見ている世界』(青春出版社)『カタツムリの謎』(誠文堂新光社)など。


■野島健児 のじま・けんじ
声優・朗読・ライブ
主な出演作品
PSYCHO-PASSシリーズ 宜野座伸元役
干物妹!うまるちゃん 土間タイヘイ役
スターウォーズ反乱者たち エズラ・ブリッジャー役



書籍売り場ではおふたりによる選書コーナーも!
いまを“あそびらく”30冊

野島智司さん、野島健児さんご兄弟が選ぶ、30の“わくわく”

マンガ、絵本から、自然科学まで。
現在の生活の中に“あそび”のスキマをひらいてくれる本を、
野島智司さん×野島健児さんが選んでくれました!
売り場ではコメントカードつきでご紹介しています。

忙しい人も時間がたっぷりの人も、
今日からわくわくするための一冊を見つけてくださいね!

James Ferraro - ele-king

 ダーク・アメリカ。超高層ビル。喧騒。ビジネス。エリート。キャデラック。金。路上。貧困。犯罪。夜。喧騒。人工的な光。広告。サイレン。孤独。インターネット。不穏。ジェイムス・フェラーロの前作『NYC, Hell 3:00 AM』(2013)は、監視カメラで捉えたような現代の状況/現実を、富裕層から略奪したかのごときフェイクなR&Bスタイルによってアルバムに封じ込めた傑作であった。新作『スキッド・ロウ』もまた同系列の作品といえるのだが、圧縮された音楽情報は世界そのもののように、よりいっそう錯綜している。デジタル・エディットされるヴォイス、アタックの強いシンセ・ベース、ストレンジな電子音、人工的なシンセストリングス、硬いビートと、現代アメリカの断片を切り取るような環境音が、まるで映画のサウンド・トラックのように交錯する。その情報量は前作を軽く超えている。音楽であると同時に、ディストピアなムードを放つ社会的ポップ・アートといった趣だ(※1)。

 高層ビルがひしめく都市空間。地上から虚栄の光の塔を見上げるような彼のフェイクR&Bトラックは、陶酔感や浮遊感がまるでない。フェラーロの音楽は重力に引っ張れるように下へ下へと下降する。オープニング的なサウンド・コラージュ・トラックである1曲め“バーニング・プラス”からシームレスに繋がる2曲め“ホワイト・ブランコなどに象徴的だが、R&B的なトラックは、突如、挿入されるユーチューブの動画から聞こえてくるような環境音のコラージュ・トラックによって断片化され、虚飾を剥がされていく。ボーカルはデジタル加工・劣化・圧縮され、スマートフォンのスピーカーから流れる声のように聴こえるだろう。繰り返すが、セレブリティな拝金主義などR&B的な記号はない。むしろ、手に入らないであろうそれらを嘲笑すらしている。ここにあるのは24 時間体制で監視されるようなポスト・インターネット社会の嫌悪と嘲笑に充ちた寒々しいリアリティなのである。虚飾を剥ぎ取ったミニマルなメタR&Bと電子音は、そんな私たちの現実=世界を鏡のように映し出している。たとえば“1992”で展開されるクラシカルな弦と会話のモンタージュは、21世紀の都市における空虚そのものだ(モニターのホワイト・ノイズのようなアートワークは、24時間監視世界の空白を表象しているのか)。そう、ジェイムス・フェラーロの音楽もまたOPNやアルカと同じく、ポスト・インターネット的世界における環境音楽であり実存的な哲学でありアートなのである(そこにおいて音楽の形式上の新しさ/古さなど宙吊りにされる)。不平と不安。一瞬と快楽。孤独と嘲笑。監視と不眠。本作には、21世紀特有のディストピア社会をめぐる鋭い考察が、その音楽の中に内包されているのだ。

 私はこのアルバムを聴くと、ジャン・ボードリヤールの1976年の書物『象徴交換と死』を思い出してしまう。 同書には「クール・キラー、または記号による反乱」というグラフティを扱った論文が収録されているのだが、これを39年後の現在「ジェームス・フェラーロ論」として「読み変える」ことは可能だろう。最後にボードリヤールの言葉を引用しよう。「……匿名性をひっくりかえすこの呪文、白人社会の首都の只中で象徴的爆発をくりかえすこの変容の響きに、今こそ耳を傾ける必要があるのだ。」。

※1 ジェイムス・フェラーロは、現在、東京都現代美術館で開催中の「東京アートミーティングⅥ "TOKYO"-見えない都市を見せる。」において作品が「展示」されている。キュレーターはインターネット上でポスト・インターネット・アートを「展示」するというサイト「EBM(T)」(=ナイル・ケティング&松本望睦)による。1989年生まれと1990年生まれの彼らの感覚と感性は時代の今を鋭く切り取っている。現在、注目のユニット、人物。https://ebm-t.org/)。

MONK.T (Well-def Lab.) - ele-king

SWEET SOUL45 10選

Khalife Schumacher Tristano - ele-king

 ルクセンブルグの旗手にして、エレクトロニック、クラシックとジャズの音楽界で旋風を巻き起こし、カール・クレイグやモリッツィオとの共 演で世界にその名を知らしめた若き天才ピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ。ヨーロッパ・ジャズ界の代表選 手の一人であるヴィブラフォン奏者、パスカル・シューマッハ。そして、この二人の演奏に補完するリズム の礎を築き、このトリオの斬新なライヴを新たな音楽領域に導かすレバノン出身のパーカッションの最高峰、バシャール・カリフェ。このトリ オのライヴには魅惑的な音楽オーラが満ち溢れ、歓喜の静穏が浮かび上がり、円熟さが感じられる。彼等の新スタンダード・ミュージックの真骨頂を遂げようとする、壮絶なライヴが、 遂に日本初上陸! 今回のトリオのライヴで手厚いDJサポートするのは、何と松浦俊夫と、フランチェスコ・トリスターノと海外で共演したHIROSHI WATANABEだ!

2015年12月4日(金)
Dec. 4th, 2015 (FRI)
At CAY

開場:19:00時/開演:20:00時
Open: 19:00pm / Start: 20:00pm

前売:¥4、500 当日:¥5、500
Advance: 4,500 Yen Door: 5,500 Yen

〒107-0062 東京都港区南青山5丁目6-23 SPIRAL B1
Address: Spiral B1F, 5-6-23, Minami-Aoyama, Minato-Ku, Tokyo

For More Info: 03-3498-7840
https://www.spiral.co.jp/shop_restaurant/cay/
https://www.giginjapan.jp

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443 444 445 446 447 448 449 450 451 452 453 454 455 456 457 458 459 460 461 462 463 464 465 466 467 468 469 470 471 472 473 474 475 476 477 478 479 480 481 482 483 484 485 486 487 488 489 490 491 492 493 494 495 496 497 498 499 500 501 502 503 504 505 506 507 508 509 510 511 512 513 514 515 516 517 518 519 520 521 522 523 524 525 526 527 528 529 530 531 532 533 534 535 536 537 538 539 540 541 542 543 544 545 546 547 548 549 550 551 552 553 554 555 556 557 558 559 560 561 562 563 564 565 566 567 568 569 570 571 572 573 574 575 576 577 578 579 580 581 582 583 584 585 586 587 588 589 590 591 592 593 594 595 596 597 598 599 600 601 602 603 604 605 606 607 608 609 610 611 612 613 614 615 616 617 618 619 620 621 622 623 624 625 626 627 628 629 630 631 632 633 634 635 636 637 638 639 640 641 642 643 644 645 646 647 648 649 650 651 652 653 654 655 656 657 658 659 660 661 662 663 664 665 666 667 668 669 670 671 672 673 674 675 676 677 678 679 680 681 682 683 684 685 686 687 688 689 690 691 692 693 694 695 696 697 698 699 700 701 702 703 704 705 706 707 708 709 710 711 712 713 714 715 716 717 718 719 720 721 722 723 724 725 726 727