「K A R Y Y N」と一致するもの

Tohji - ele-king

 先日リリースされた初のミックステープ『angel』が話題の Tohji が、同作収録曲“Snowboarding”(prod. by MURVSAKI)のMVを公開した。監督を務めているのは、『angel』のアートワークを担当した Anton Reva で、Tohji の属する Mall Boyz のプロダクション・チームによって制作されており、ダークなトラックとリンクした独特の雰囲気を携えている。要チェックです。

Tohji による話題の 1st Mixtape 『angel』から、カバーアートを担当した Anton Reva ディレクションによる “Snowboarding” のミュージック・ビデオがリリース

8月7日にリリースされ、シーンを超えて大きな話題を呼んでいる Tohji の1st Mixtape 『angel』から、“Snowboarding” のミュージック・ビデオが9月1日19時に公開される。

Mixtape のティーザー時点から高い注目を集めていた、カバーアートを担当したアートディレクター Anton Reva によるディレクション、Mall Boyz のプロダクションチームによって本MVは制作。

日本を代表するトラックメーカーである MURVSAKI によって作られた、不気味ながらもハードなトラックに Tohji ならではのフローが加えられているこの楽曲。ミュージック・ビデオでは我々には馴染んだよくある景色がディレクター独自の解釈で切り取られ、Tohji の姿と共にデジタルとアナログ両方の手法で再構築されることにより、他のアーティストでは表現できない唯一無二の雰囲気を醸し出している。

ベトナム・ハノイを拠点とする気鋭の映像制作チーム、ANTIANTIART による「HI-CHEW」のミュージック・ビデオに続き、Post Malone や Rejjie Snow を手がけるロシア人アートディレクター Anton Reva による2つ目のビデオ公開となったが、この後も何曲か収録曲のビデオ公開が予定されているため、今後もグローバルにクリエイティビティの幅を広げ続ける Tohji と Mall Boyz の動きから目が離せない。

“Snowboarding” MV
https://youtu.be/oeZUDIRPl6M

クレジット
Director/Editor: Anton Reva https://www.instagram.com/savemymind
Producer: Keiichi Toyama
Production Assistant: Yaona Sui https://www.instagram.com/llllllll.llllllll.llllllll

Ellen Arkbro - ele-king

 これはドローンのハードコアとでもいうべきアルバムだ。静謐だが硬質。しかしまったく軟弱ではない。サウンドのコアというべき音が選び抜かれ、そして持続する。いわば21世紀的なミニマリズムの追求とでもいうべき楽曲たち。そう、エレン・アークブロの2年ぶりのアルバムのことである。

 エレン・アークブロ(Ellen Arkbro)は、スウェーデンはストックホルム出身のサウンドアーティスト/作曲家/パフォーマーである。彼女は主に楽器のドローンを基調とする音楽作品・楽曲を制作し、エンプティセットのアルバムなどで知られる〈Subtext〉からアルバム『For Organ And Brass』(2017)をリリースしている。パイプオルガン、コンピューター、ギターなどを演奏するマルチプレイヤーでもある。

 2017年のアルバム『For Organ And Brass』は名前のとおりオルガンと管楽器によるドローン作品だった。ミニマルな音階の変化も作曲され、牧歌的な雰囲気を醸し出していた。しかし決して軟弱な楽曲ではない。一切の余剰と雑味を排除したような音響は、楽器の特性の本質を抽出したような響きを放っており、聴覚の遠近法が拡張するような感覚を得ることができたのだ。ラ・モンテ・ヤングから影響を受けているということも納得の出来であった。

 前作から2年の歳月をかけてリリースされた新作アルバム『CHORDS』は、音楽の痕跡をさらに極限までミニマルに削ぎ落とした長尺のドローン/ミニマルな楽曲が2曲収録されている。今回、用いられた楽器はオルガンとギターのみで、それぞれの楽曲を聴くことができる。おそらくアルバム名どおり「コード」をテーマにしているのだろうが、2曲とも単に和音を演奏しているだけのような安易な真似はしていない。そうではなくて「コード」そのものを解体するような音響を作曲/構築していた。
 選び抜かれたトーンで構築されたドローン/楽曲は、前作に微かに残存していたモダン・クラシカルなムードも消し去られ、オルガンとギターの音響のコアを抽出したようなミニマルアート的な音響作品に仕上がっていた。

 1曲め“CHORDS for organ ”はオルガンをノイズ生成装置のように用いる。倍音も控えめであり、あらゆる感傷を排したオルガンが発するハードコアな持続音が鳴らされていく。聴き込んでいくにつれ響きのテクスチャーに耳が敏感になる。それゆえ不意に音が変化するときの響きの変化が耳に鮮烈な驚きを与えてくれもするのだ。
 2曲め“CHORDS for guitar”はギターのための楽曲だが、ここでもコードは分散和音的に解体される。“CHORDS for organ”とは異なり、ギター特有の豊かな倍音も鳴り響いており、その結果、分解されたコードのむこうに、透明なカーテンのような別の音の集合体が聴き取ることができた。この曲はそんなギターの音が17分弱ほど持続し反復する。時間の融解、分解、拡張。反復の極限としての持続とでもいうべきか。

 現代のドローン/エクスペリメンタル・シーンの重要作家カリ・マローン、サラ・ダヴァチー(Sarah Davachi)、エミリー・A・スプレイグ(Emily A. Sprague)、カテリーナ・バルビエリ(Caterina Barbieri)、フェリシア・アトキンソン(Felicia Atkinson)らは今年、揃って傑作アルバムをリリースしたが、どれも「時が溶けるような持続を持ちながらも、それでいて音じたいは明晰でもある」という極めて現代的な音響作品であった。
 この『CHORDS』も同様である。しかも彼女の音はそのなかでも、もっともミニマルな仕上がりだ。あまりにミニマルなドローンは苦手という方も、ぜひいちど雑念を払いのけるように、これらのサウンドに耳を全開にして、いわば無になって本作を聴いて(摂取?)してほしい。音の快楽が拡張するような新しい聴取体験が生まれるのではないかと思う。

Mika Vainio Tribute - ele-king

 電子音楽の前進に多大なる貢献を果たしながら、惜しくも2017年に亡くなってしまったミカ・ヴァイニオ。きたる10月19日に、怒濤の《WWW & WWW X Anniversaries》シリーズの一環として、彼のトリビュート公演が開催されることとなった。会場は WWW X で、発案者は池田亮司。彼とカールステン・ニコライのユニット cyclo. や、行松陽介、Haruka など、そうそうたる面子が出演する。パン・ソニックをはじめ、さまざまなプロジェクト/名義でエレクトロニック・ミュージックの最前線を切り開いてきたミカの面影をしのびつつ、出演者による音の追悼を体験しよう。

WWW & WWW X Anniversaries "Mika Vainio Tribute"

極北の中の極北、電子音楽史に名を残すフィンランドの巨星 Mika Vainio (Pan Sonic) のトリビュート・イベントが Ryoji Ikeda 発案の元、WWW X にて開催。Mika Vainio とコラボレーション・ライブも行った同世代の Ryoji Ikeda と Alva Noto とのユニット cyclo. の8年ぶりの東京公演が実現、欧州やアジアでも活躍中の行松陽介と Haruka 等が出演。

テクノイズ、接触不良音楽、ピュア・テクノ、ミニマルとハードコアの融合、といった形容をされながら、90年代初期に Ilpo Väisänen (イルポ・ヴァイサネン)とのデュオ Pan Sonic の結成と同時に自身のレーベル〈Sähkö〉を立ち上げ、本名名義の他、Ø や Philus といった名義で、インダストリアル、パワー・エレクトロニクス、グリッチ、テクノ、ドローン、アンビエント等の作品を多数リリース、アートとクラブ・ミュージックのシーンをクロスオーバーした実験電子音楽のパイオニアとして、2017年の逝去後も再発や発掘音源のリリースが続き、新旧の世代から未だ敬愛され、後世に絶大な影響を与える故・Mika Vainio (ミカ・ヴァイニオ)。本公演では昨年音源化が実現し、〈noton〉よりリリースされた Mika Vainio とコラボレーション・ライブも行った Ryoji Ikeda の発案の元、Mika Vainio のトリビュート企画が実現。同じくそのコラボレーション・ライブに参加し、〈noton〉主宰の Carsten Nicolai (Alva Noto) が来日し、2人のユニット cyclo. で出演が決定。DJにはここ数年欧州やアジア圏でもツアーを行い、ベルリン新世代による実験電子音楽の祭典《Atonal》にも所属する行松陽介と、DJ Nobu 率いる〈Future Terror〉のレジデント/オーガナイザーであり、プロデューサーでもある Haruka が各々のトリビュート・セットを披露する。 ピュアなエレクトロニクスによる星空のように美しい静閑なサウンドス・ケープから荘厳なノイズと不穏なドローンによる死の気配まで、サウンドそのものによって圧倒的な個性を際立たせる Mika Vainio が描く“極限”の世界が実現する。追加ラインナップは後日発表。

WWW & WWW X Anniversaries "Mika Vainio Tribute"
日程:2019/10/19(土・深夜)
会場:WWW X
出演:cyclo. / Yousuke Yukimatsu / Haruka and more
時間:OPEN 24:00 / START 24:00
料金:ADV¥4,300(税込 / オールスタンディング)
チケット:
先行予約:9/7(土)12:00 〜 9/16(月祝)23:59 @ e+
一般発売:9/21(土)
e+ / ローソンチケット / チケットぴあ / Resident Advisor
※20歳未満入場不可・入場時要顔写真付ID / ※You must be 20 or over with Photo ID to enter.

公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011593.php

Mika Vainio (1963 - 2017)

フィンランド生まれ。本名名義の他、Ø や Philus など様々な別名義でのソロ・プロジェクトで〈Editions Mego〉、〈Touch〉、〈Wavetrap〉、〈Sähkö〉など様々なレーベルからリリースを行う。80年代初頭にフィンランドの初期インダストリアル・ノイズ・シーンで電子楽器やドラムを演奏しはじめ、昨今のソロ作品はアナログの暖かさやエレクトロニックで耳障りなほどノイジーなサウンドで知られているが、アブストラクトなドローンであろうと、ミニマルなアヴァン・テクノであろうと、常にユニークでフィジカルなサウンドを生み出している。また、Ilpo Väisänen とのデュオ Pan Sonic として活動。Pan Sonic は自作・改造した電子楽器を用いた全て生演奏によるレコーディングで知られ、世界中の著名な美術館やギャラリーでパフォーマンスやサウンド・イスタレーションを行う。中でもロンドンのイーストエンドで行った警察が暴動者を鎮圧する時に使う装置に似た、5000ワットのサウンドシステムを積んだ装甲車でのギグは伝説となっている。ソロや Pan Sonic 以外にも、Suicide の Alan Vega と Ilpo Väisänen とのユニット VVV、Vladislav Delay、Sean Booth (Autechre)、John Duncun、灰野敬二、Cristian Vogel、Fennesz、Sunn O)))、 Merzbow、Bruce Gilbert など、多数のアーティストとのコラボレーション、Björk のリミックスも行う。2017年4月13日に53歳の若さで永眠。Holly Heldon、Animal Collective、NHK yx Koyxen、Nicholas Jaar、Bill Kouligas (PAN) など世界中の世代を超えたアーティストたちから、彼の類稀なる才能へ賛辞が贈られた。
https://www.mikavainio.com/


Photo: YCAM Yamaguchi Center for Arts and Media

cyclo.

1999年に結成された、日本とドイツを代表するヴィジュアル/サウンド・アーティスト、池田亮司とカールステン・ニコライ(Alva Noto)のユニット cyclo.。「サウンドの視覚化」に焦点を当て、パフォーマンス、CD、書籍を通して、ヴィジュアル・アートと音楽の新たなハイブリッドを探求する現在進行形のプロジェクト。2001年にドイツ〈raster-noton〉レーベルより1stアルバム『. (ドット)』を発表。2011年には前作より10年振りとなる2ndアルバム『id』、そして同年、ドイツのゲシュタルテン出版より cyclo. が長年リサーチしてきた基本波形の可視化の膨大なコレクションを体系化した書籍『id』を出版。
https://youtu.be/lk_38sywJ6U

Ryoji Ikeda

1966年岐阜生まれ、パリ、京都を拠点に活動。 日本を代表する電子音楽作曲家/アーティストとして、音そのものの持つ本質的な特性とその視覚化を、数学的精度と徹底した美学で追及している。視覚メディアとサウンド・メディアの領域を横断して活動する数少ないアーティストとして、その活動は世界中から注目されている。音楽活動に加え、「datamatics」シリーズ(2006-)、「test pattern」プロジェクト(2008-)、「spectra」シリーズ(2001-)、カールステン・ニコライとのコラボレーション・プロジェクト「cyclo.」(2000-)、「superposition」(2012-)、「supersymmetry」(2014-)、「micro | macro」(2015-)など、音/イメージ/物質/物理的現象/数学的概念を素材に、見る者/聞く者の存在を包みこむ様なライブとインスタレーションを展開する。これまで、世界中の美術館や劇場、芸術祭などで作品を発表している。2016年には、スイスのパーカッション集団「Eklekto」と共に電子音源や映像を用いないアコースティック楽器の曲を作曲した新たな音楽プロジェクト「music for percussion」を手がけ、2018年に自主レーベル〈codex | edition〉からCDをリリース。2001年アルス・エレクトロニカのデジタル音楽部門にてゴールデン・ニカ賞を受賞。2014年にはアルス・エレクトロニカがCERN(欧州原子核研究機構)と共同創設した Collide @ CERN Award 受賞。
https://www.ryojiikeda.com/

Carsten Nicolai (Alva Noto)

本名カールステン・ニコライ。1965年、旧東ドイツのカールマルクスシュタット生まれ。ベルリンを拠点にワールドワイドな活動を行うサウンド/ビジュアル・アーティスト。音楽、アート、科学をハイブリッドした作品で、エレクトロニック・ミュージックからメディア・アートまで多彩な領域を横断する独自のポジションを確立し、国際的に非常に高い評価を得ている。彼のサウンド・アーティストとしての名義がアルヴァ・ノトである。ソロ活動の他、Pan Sonic、池田亮司との「cyclo.」、ブリクサ・バーゲルトなど注目すべきアーティストたちとのコラボレーションを行い、その中でも、坂本龍一とのコラボレーション3部作『Vrioon』『Insen』『Revep』により、ここ日本でも一躍その名を広めた。2016年には映画『レヴェナント:蘇りし者』(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督)の音楽を坂本龍一、ブライス・デスナーと共同作曲し、グラミー賞やゴールデン・グローブ賞などにノミネートされた。また、1996年に自主レーベル〈Noton〉をByetone 主宰の〈Rastermusic〉と合併し〈Raster-Noton〉として共に運営してきたが、2017年に再解体し、Alva Noto 関連の作品をリリースする〈Noton〉を再始動。
https://www.alvanoto.com/

行松陽介 (Yousuke Yukimatsu)

2008年 SPINNUTS と MITSUKI 主催 KUHIO PANIC に飛び入りして以降DJとして活動。〈naminohana records〉主催 THE NAMINOHANA SPECIAL での KEIHIN、DJ NOBU との共演を経て親交を深める。2014年春、千葉 FUTURE TERROR メインフロアのオープンを務める。2015年、goat のサポートを数多く務め、DOMMUNE にも出演。PAN showcase では Lee Gamble と BTOB。Oneohtrix Point Never 大阪公演の前座を務める。2016年 ZONE UNKNOWN を始動し、Shapednoise、Imaginary Forces、Kamixlo、Aïsha Devi、Palmistry、Endgame、Equiknoxx、Rabit を関西に招聘。Arca 大阪公演では Arca が彼の DJ set の上で歌った。2017年、2018年と2年続けて Berlin Atonal に出演。2018年から WWW にて新たな主催パーティー『TRNS-』を始動。Tasmania で開催された DARK MOFO festival に出演。〈BLACK SMOKER〉からMIX CD『Lazy Rouse』『Remember Your Dream』を、イギリスのレーベル〈Houndstooth〉のA&Rを手掛ける Rob Booth によるMIXシリーズ Electronic Explorations にMIXを、フランスのレーベル〈Latency〉の RINSE RADIO の show に MIX を、CVN 主催 Grey Matter Archives に Autechre only mix を、NPLGNN 主催 MBE series に MIX TAPE『MBE003』を、それぞれ提供している。
https://soundcloud.com/yousukeyukimatsu
https://soundcloud.com/ausschussradio/loose-wires-w-ausschuss-yousuke-yukimatsu

Haruka

近年、Haruka は日本の次世代におけるテクノDJの中心的存在として活動を続けている。26歳で東京へ活動の拠点を移して以来、DJ Nobu 主催のパーティ、かの「Future Terror」のレジデントDJおよび共同オーガナイザーとして、DJスキルに磨きをかけてきた。彼は Unit や Contact Tokyo、Dommune など東京のメジャーなクラブをはじめ、日本中でプレイを続けている。また、フジロックや Labyrinth などのフェスでのプレイも経験。Haruka は、緻密に構成されたオープニング・セットからピークタイムのパワフルで躍動感のあるテクノ・セット、またアフターアワーズや、よりエクスペリメンタルなセットへの探求を続ける多才さで、幅広いパーティで活躍するDJだ。このような彼特有の持ち味は、Juno Plus へ提供したDJミックスや Resident Advisor、Clubberia のポッドキャスト・シリーズにも表れている。ここ数年都内で開催されている Future Terror ニューイヤー・パーティでは長時間のクロージングセットを披露、2017年にはロンドン・ベルリン・ミュンヘン・ソウル・台北・ホーチミン・ハノイへDJツアーを行なうなど、着実に活動の場を広げている。
https://soundcloud.com/haruka_ft
https://soundcloud.com/paragraph/slamradio-301-haruka

Klein - ele-king

 2016年の『Only』で一気に頭角を現した、エレクトロニック・ミュージックの次世代を担うタレントのひとり、クラインが新たなアルバムを送り出す。2017年に〈Hyperdub〉からEP「Tommy」を、翌2018年には手ずから「CC」をリリースし、同年にはミュージカル『Care』のスコアも手がけていた彼女だけれど、今回の新作は18ヶ月かけて制作されたという。彼女自身が新たに起ち上げたレーベル〈ijn inc.〉からのリリースで、ゴスペル歌手のジェイムズ・クリーヴランドや作曲家のスペンサー・ウィリアムズ、18世紀の調性音楽などからインスパイアされたものになっているとのこと。注目すべきは収録曲“For What Worth”において、NYの前衛派サキソフォニスト、マタナ・ロバーツとコラボレイトしている点だろう。なお、発売とおなじ9月6日にクラインは、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーにてパフォーマンスをおこなうことも決定している。紙エレ22号には彼女のインタヴューが掲載されているので、そちらもチェック。

artist: Klein
title: Lifetime
label: ijn inc.
catalog #: IJNINC001
release date: September 6, 2019

Tracklist:
01. Lifetime
02. Claim It
03. Listen And See As They Take
04. Silent
05. For What Worth feat. Matana Roberts
06. Enough Is Enough
07. We Are Almost There
08. Never Will I Disobey
09. Honour
10. Camelot Is Coming
11. 99
12. Protect My Blood

https://klein1997.bandcamp.com/album/lifetime

Boomkat

Telefon Tel Aviv - ele-king

 2001年のファーストと2004年のセカンドでエレクトロニカの歴史に大きな足跡を残したシカゴのテレフォン・テル・アヴィヴ。片割れのチャールズ・クーパーの死により活動休止状態にあった同プロジェクトが、もうひとりのヨシュア・ユースティスによって再始動させられたのが2016年で、同年あらためて〈Ghostly〉から再発されたファーストは異例のヒットを飛ばし、ヴィジブル・クロークスなどが台頭する下地を用意したとも言える。そして活動20周年を迎える今年、ついにテレフォン・テル・アヴィヴの新たなアルバムがリリースされる運びとなった(ちなみにこの間、ヨシュアはセカンド・ウーマンとして2枚のアルバムを発表)。現在、新曲“a younger version of myself,”のMVが公開中。

Telefon Tel Aviv の 9/27 リリースの10年ぶりのニュー・アルバムから“a younger version of myself,”のMVが公開

Telefon Tel Aviv が活動20周年となる今年、実に10年ぶりにリリースする通算4作目にして Joshua Eustis 1人となってからは初のアルバム『Dreams Are Not Enough』からセカンド・シングルとなる「a younger version of myself,」のMVを公開致しました。

Telefon Tel Aviv – “a younger version of myself,” (Official Video)

Director – Lance Drake
Executive Producer – Austin Simons
Producer – David Ledwith
Cinematographer – Joshua Zucker-Pluda
AC – Nobuyoshi Sakurai
Gaffer – Drew Valenti
PA – David Stokes
Editor – Jeremiah Mayhew
AI Artist – Michail Rybakov (https://rybakov.com/)
Colorist – Bryan Smaller at Co3
Production Company – Wrong Creative

圧倒的なセンスでゼロ年代のエレクトロニカ・シーンを牽引し、今日においてもその評価を高め続け、2017年に行われた来日公演(東京公演はソールドアウト)ではそのアップデートしたサウンドで衝撃を走らせた Telefon Tel Aviv が、活動20周年となる2019年、実に10年ぶりとなる通算4作目にして Joshua Eustis 1人となってからは初のアルバムを完成!!

今は無き名門〈Hefty〉から『Fahrenheit Fair Enough』『Map Of What Is Effortless』をリリースして、USのエレクトロニカを代表する存在となり、2009年にベルリンのDJ/プロデューサー、Ellen Allien 主宰のレーベル、〈Bpitch Control〉から3作目『Immolate Yourself』をリリース。しかしその直後に Charles Cooper が突然他界。1人となった Josh Eustis は Telefon Tel Aviv としての活動を停止する。その後は Nine Inch Nails や Puscifer のライヴのサポート・メンバーとしての活動や、ソロ・プロジェクト、Sons of Magdalene、Belong の Turk Dietrich とのユニット、Second Woman、Vatican Shadow や Drab Majesty、Tropic Of Cancer などの作品への参加など、メジャーからアンダーグラウンドまで多岐に渡る活動をしてきた。

そういった活動を経て、2016年に遂に Joshua 1人で Telefon Telefon Aviv を再始動。廃盤となっていたファースト・アルバムを〈Ghostly〉から再発。2017年にはセカンドの再発に加え、およそ8年ぶりとなる新曲も披露し、同年9月にはおよそ11年ぶり2度目の来日にして、初の国内ヘッドライン公演を行い、東京公演はソールド・アウト。その漆黒の衝撃的なパフォーマンスでオーディスンスを震撼させた。

そして活動20周年となる2019年、遂に10年ぶりとなる4作目にして Joshua 1人となってからは初となるアルバム『Dreams Are Not Enough』を完成。もちろんこれまでの作品の延長線上であるが、10年間の経験を経て、よりアップグレードした作風をみせている。本作は損失、怒り、そして年齢についてのストーリーについて書かれており、Telefon Tel Aviv らしいハイパーモダンなサウンド・デザインとスモーキーで夜を想起させるエモーションは、より鮮やかになった印象。

ダークでメランコリックなムードが漂う中、アブストラクト且つ瞑想的な世界観にミステリアスなモダンポップ・テイスト~インダストリアルが融合し、蒸気のようなメロディとヴォーカル、そして複雑なリズムと反復を操りながら構築される、最新の Telefon Tel Aviv サウンドに固唾を呑むこと必至。
図太く重厚でありながら、無駄が削ぎ落とされたストイックで孤高のサウンド。その美しくエモーショナルな音像に否応なしに引き込まれる。

Artist: Telefon Tel Aviv
Title: Dreams Are Not Enough
Cat #: ARTPL-118
Format: CD / Digital
Release Date: 2019.09.27
Price (CD): 2,000 yen +税
解説: 小野島 大
※ 歌詞・対訳付き
※ 正方形紙ジャケット仕様
※ 特典〈Ghostly〉レーベル・ロゴ・ステッカー付き

TRACK LIST:
01. I dream of it often:
02. a younger version of myself,
03. standing at the bottom of the ocean;
04. arms aloft,
05. mouth agape,
06. eyes glaring,
07. not seeing,
08. not breathing,
09. still as stone in a watery fane.

interview with !!! (Nic Offer) - ele-king

 ぶん殴る。それがタイトル『Wallop』の意味だ。直球である。アティテュードにかんしていえば当時のニューヨーク市長、ジュリアーニを痛烈に批判した2003年の出世作「Me And Giuliani Down By The School Yard (A True Story)」のころから何も変わっていない。
 とはいえもちろん、チック・チック・チックはもう20年以上活動を続けているバンドである。細部のサウンドは幾度も変化を重ねてきた。もろにディスコに傾斜した前作『Shake The Shudder』から2年、今回の新作はだいぶヴァラエティに富んだ内容に仕上がっている。不穏でいかめしげな1曲目から、アコースティックなギターとエディットされた音声のかけ合いが最高の快楽をもたらすハウス調の“Couldn't Have Known”を経て、先行シングル曲“Off The Grid”へといたる序盤の流れや、80年代の歌謡曲のような主旋律とアレンジに、それとは正反対の強烈なドラムスが覆いかぶさる“Serbia Drums”もおもしろいのだけれど、このアルバムの醍醐味はそれ以降の展開にある。もの憂げな“Slow Motion”も新鮮だし、「5万ドルでは俺の心は変えられない」と歌われる“$50 Million”では、ベースがなんとも不思議な動きを見せている。あるいは、チャイルディッシュな電子音が特徴の“Domino”も、チック流ダーク・エレクトロを聴かせる“Rhythm Of The Gravity”も、ともに加工された音声が印象的で、いつもとはちょっと異なる彼らの表情を垣間見させてくれる。1枚のなかにこれほどさまざまなアプローチが同居しているのは、彼ら史上初めてのことではないだろうか。
 それら種々の試みすべてに共通しているのはそして、やはりダンスである。どれほど細部に趣向を凝らそうとも、彼らがダンスを忘れることは絶対にない。どんなに社会や政治の状況が絶望的であろうとも、彼らは踊り狂うことでそれを笑い飛ばす。それこそがチック・チック・チックというバンドの本懐であり、また今回の「ぶん殴る」という「反撃」の支柱でもあるのだろう。どこまでもほとばしる熱いパッション……いやはや、秋の来日公演が楽しみでしかたない。

前回の大統領選挙では、共和党からびっくりするようなパンチをくらった気がした。このアルバムは俺たちの反撃を意味している。俺たちもやつらにたいして「Wallop」をお見舞いしたいと思ったんだ。

今回の新作のアートワークでは、ネコが目を光らせて境界を渡っています。これは、ネコはヒトが決めた境界を軽々と越えていく、というようなメッセージなのでしょうか?

ニック・オファー(Nic Offer、以下NC):(笑)。そうじゃないけれど、その解釈は最高だね。俺のお隣さんが引っ越して出ていったんだけど、俺はその部屋の開け方を知っていたからドアを開けて入った。俺はパーシーという名の子猫を飼っていて、パーシーは基本的には俺の家の部屋という世界しかいままで知らなかった。そのとき、パーシーも隣の家に入ってきて、突然パーシーにまったく新しい世界が開けた。パーシーはとても昂奮して、全神経を研ぎ澄ましていたよ。パーシーが隣のアパートメントに入ったところの瞬間の写真を撮ったんだ。アートを作るとき、俺はそういう感覚でいたい。まったく新しい世界に入り込んだ子猫のような感覚。

ちなみに、ネコ好きですか?

NC:(笑)。好きかどうかがわからない、というのが問題だよね。ネコは、人間の脳をおかす病気を持っていて、その病気にかかると人間はネコの中毒になってしまうという。そうなるんだよね? よくわからないけど、俺もその病気に感染していることはたしかだ(笑)。俺は初めて会ったときからネコが大好きだ。今回のアルバム・カヴァーの主役となったパーシーも大好きだ。ちょうどこのアルバムの制作に入るときに、子ネコのパーシーをもらってきたから、パーシーは今作に本質的に関連していたのさ。

今回の新作はチック・チック・チックにとって8枚目のアルバムとなります。もうそろそろヴェテランの仲間入りと言ってもいいかと思うのですが、これまでの歩みを振り返ってみてどう思いますか?

NC:苦労の連続だったよ。でもこれは、つねに俺がやりたかったことなんだ。これに勝る重要なことはいままでに一度もなかった。他のバンド活動をしていたときも、アウト・ハッドを同時進行していたときも、このふたつのバンドは俺たちの子どもみたいなもので、両方ともいちばん大事だった。いままでずっと、この活動は、俺がいつもやりたいと思っていたことだから、あまり立ち止まって考えるということはしなかったね。俺がやってきたことは、つねに、バンドにとって最高のアルバムを次も出せるようにしてきた準備だった。チック・チック・チックというバンドの枠のなかで、俺たちがうまくなって、より良いバンドになっていくというのがつねに課題としてある。

5枚目の『Thr!!!er』でパトリック・フォードとスプーンのジム・イーノをプロデューサーに迎えて、音が変わりました。その後パトリックとはずっと組んできて、今回も参加しています。彼のどういうところがあなたたちと合うのでしょう? ジムとの違いは?

NC:ジムは昔からいる典型的なプロデューサーという感じで、パトリックは新しいタイプのプロデューサーという感じだね。パトリックは単刀直入にものを言うから、俺たちをムカつかせるときもあるが、そこが俺たちと合っているんだと思う。でも冗談を言い合ったりできる関係性だから、彼は何かが良くないと「それは良くない」と言い、同時に俺たちのことをバカにできる。それは良いことだと思う。核心に触れることができるから。俺たちにたいしてなんでも言えるような人が欲しいからね。彼はその役に適している。パトリックは、俺たちが尊敬できるような、素晴らしい耳を持っている。それに彼とスタジオにいるのは楽しいから、彼と一緒に時間を過ごすのが俺たちはたんに好きなんだ。

今作にはホーリー・ファックのグラハム・ウォルシュも多くプロデュースで参加していますね。彼が今回あなたたちにもたらしたものとは?

NC:グラハムはホーリー・ファックのメンバーで、そこで彼はホーリー・ファックのやり方で活動している。今回は彼がチック・チック・チックのメンバーとして何週間か加わったような感じだったからクールだった。だから俺たちとはちがうキャラクターやアイデアをバンドにもたらしてくれたよ。俺たちが提案しないようなことを提案してくれる人が好きなんだ。彼の活動しているシーンは俺たちと近いけれど、俺たちとはべつのことを提案してくれる人だったからそれが良かったな。

“Couldn't Have Known”や“Domino”、“Rhythm Of The Gravity”などでは声が加工されたりチョップされたりしています。あなたたちの音楽において「声」はどのような位置を占めるのでしょう? 特別なものなのか、数あるサウンドのなかの1種類にすぎないのか。

NC:ヴォーカルは特別なものだと思うね。ヴォーカルは映画で言うとスクリーンの中央を占めているものだ。まわりでいろいろなことが起こっていて、メインとなるアクション。だが同時に、サウンドの1種類として扱うのも好きだ。俺たちが好きなダンス・チューンで聞こえるヴォーカルは、リズム楽器のように使われている場合が多い。そういう使い方も好きだね。だからヴォーカルでもなんでも、柔軟性を持って取り組むやり方が良いと思う。

今後オートチューンを使う予定はありますか?

NC:過去に使ったことはあるよ。オートチューンは俺にとって、フルートやピアノと同じ、ひとつの楽器にすぎない。ピアノも、これから先のアルバム6作に使うかもしれないし、もう二度と使わないかもしれない。オートチューンもそれと同じ考え方だよ。

“Serbia Drums”の上モノは80年代のポップスを想起させるのですが、それとは対照的にドラムが強烈です。歌詞もビジネスのダーティな側面を暗示させる内容ですが、なぜ「セルビア」なのでしょう?

NC:曲が、セルビアでおこなわれたサウンドチェックの音をもとに作られたからだよ。とても独特に響く空間で、ドラマーのクリス(・イーガン)が「この部屋の響き方は最高だ」と思い、あのビートをドラムで演奏して「これを使って曲にできないか?」と俺たちにファイルを送ってくれた。それは携帯電話で録ったビートだったんだけど、それを使ってラファエル(・コーエン)がこの曲にしたのさ。最初からこの曲は“Serbia Drums”というファイル名で、曲を完成させたときも、「それが曲名だな」と思った。ドラムの響きが特有なのを聴いてもらいたかったからこの曲名にしたというのもあるね。

西洋の世界において昔は、 聖書だけが人びとにとってのエンターテインメントだった。いまの時代はポップ・カルチャーやニュースがエンターテインメントになった。クレイジーな人たちはそれにインスピレイションを受けてクレイジーな行動に出ている。

7曲目の“Slow Motion”からアルバムの雰囲気ががらりと変わり、“Domino”や“Rhythm Of The Gravity”と、いろんなタイプの曲が続きます。後半はかなりヴァラエティに富んでいると思うのですが、全体をこのような構成にした理由は?

NC:俺たちはアルバムを通しで聴くという世代の人間だ。最近はプレイリストなんかが人気で、音楽の聴き方が、アルバムよりも曲のほうが大事にされていて、シングルや45 rpmの時代に戻ったようで、それはそれでエキサイティングだと思うし、俺たちも気に入っているけれど、同時に俺たちはアルバムを聴いて育ってきた。だからアルバムをつくるというのは、俺たちにとっては夢が叶ったのと同じことだから、アルバムはリスナーが存分に体験できるものにしたいと思っている。映画のように山があり谷があり、サスペンスを感じる瞬間があるようにしたい。だから俺たちは、豊かで、バランスの良いアルバムを作ろうとしている。

“$50 Million”は、「5万ドルでは僕の心は変えられない/でも、5000万ドル積めば変わるかも」「4900万ドルで手を打つ」というフレーズが印象的です。もし私が「4900万ドルあげるから、トランプ支持者になれ」と言ったら、なりますか?

NC:(爆笑)。たぶんならないだろうね。俺が寝返ると思ったかもしれないけど、俺はそんなことはしないよ。

素朴に、お金は欲しいですか? ちなみに私は欲しいです。

NC:(爆笑)。いらないよ。ただバンド活動を続けられればいい。“$50 Million”は、「俺は絶対に寝返らないぜ」とやけに聖人ぶった感覚について歌っている曲で、寝返ったやつらを非難している内容なんだけど、同時に自分は絶対に寝返らない、とも言っている。だって絶対にもらえない額を提示しているからね。だから両方の意味があって俺は気に入っている。誰にでも、自分が手を打つ金額というものがある。歌詞にもあるけど、俺は誘惑されたこともあるけど、そんなに頻繁にじゃない。5万ドルでは俺の心は変えられない。
 また、チック・チック・チックにとって「寝返る」ということがなんなのか俺にはよくわからない。俺たちはべつに寝返らない。自分たちに合わないと感じたCMの依頼は断ってきたけど、そんなに悪くないなと思ったCMの依頼は受けてきた。複雑で微妙なテーマではあるけれど、俺たちはまだ自分たちのパンクのルーツを主張して、そういう曲を書いてもいいと思っている。

先週はテキサスとオハイオで立て続けに銃の乱射事件がありました。エルパソの方の事件は、移民にたいするヘイト・クライムだったとも言われています。トランプは自分は差別主義者ではないと言っているようですが、これはトランプが大統領になったことで引き起こされた事件だと思いますか? それとも彼はとくに関係なく、合衆国では以前からずっとそういうレイシズムにもとづく犯罪が多かった?

NC:その両方だと思う。レイシズムにもとづく犯罪はアメリカの歴史の一部として昔からあったことだ。だが、アメリカに住んでいる人なら誰でも明確に感じているのが、ここ数年でアメリカの雰囲気は変わったということ。レイシズムがアメリカに前からあったのはたしかだけど、トランプはそのレイシズムという火に油を注いでいる。その火をかき立てて、より大きなものにしている。あの乱射事件を起こしたやつは狂っていて、精神が病んでいることは間違いない。西洋の世界において昔は、 聖書だけが人びとにとってのエンターテインメントだったから、それをもとにクレイジーなことをするやつがいた。クレイジーなヴィジョンを持って、それをやる必要があると思って実行するやつがいた。いまの時代には、クレイジーなことをするためのインスピレイション源が聖書以外にもたくさんある。ポップ・カルチャーやニュース、そういうものが人びとのエンターテインメントになった。クレイジーな人たちはそういうものにインスピレイションを受けてクレイジーな行動に出ている。

アルバム・タイトルの『Wallop』には、そういう暗い状況を打ちのめしたい、という想いが込められているのでしょうか?

NC:もちろんだよ。タイトルにはいろいろな意味があるんだけど、「Wallop」という言葉を調べたときに、まずはその言葉じたいに惹かれた。「なんておもしろい言葉だろう!」と思った。少し古臭い言葉で、最近はあまり使われない。でも使うときは、独特な意味を持って使う。「Wallop」という特有の打たれ方として使う。調べたら、「簡潔明瞭で、相手を驚かせる打ち方」とあった。このアルバムも簡潔明瞭に響くものにしたかった。そして驚かせるようなパンチのあるものにもしたかった。前回の大統領選挙では、共和党からびっくりするようなパンチをくらった気がした。俺たちはみんな驚いたよ。このアルバムは俺たちの反撃を意味している。俺たちもやつらにたいして「Wallop」をお見舞いしたいと思ったんだ。

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ジェントリフィケイションは悪で、俺たちはそれを嫌っているけど、同時にジェントリフィケイションによって治安は良くなるし、街もきれいになる。だからどういう意見を持つべきなのか、よくわからなくなる。

いまオカシオ=コルテスの名が日本でも広まってきていますが、やはりすでに合衆国では多くの支持を集めているのでしょうか? まわりのアーティストたちの反応はどうですか?

NC:彼女はアイコン的人物になりつつあるよ。いままで民主党があまり上手にはやってこなかったことを彼女はやれていると思う。トランプがヒラリーに勝利したのは、トランプのほうが芸能人として上だったからだと俺は思っている。トランプのほうが、人びとの想像力を掻き立てるのがうまかったんだ。トランプの方がヒラリーより興味深い人物だとみんなは思ったんだろう。民主党は、人びとが共感できないような人ばかりを候補者に立てている。だが、人びとはオカシオ=コルテスのことを英雄のように見ている。彼女にたいしては、多くの人が強い共感を持てて、インスピレイションを感じることができる。それはエキサイティングなことだ。彼女は過激なヴィジョンを持っていて、俺は個人的にそこが好きで魅力を感じる。でも彼女が人気である理由は、彼女の気の強い性格と、早い対応や、いまの時代に合っているというところだと思う。

10曲目の“Domino”は今回のアルバムのなかでもとくに異色です。IDMっぽくもありますし、昔の電子音楽のようでもあり、どこか子ども向けの音楽のような雰囲気もあります。なぜこのような曲を入れようと思ったのでしょうか?

NC:俺たちはつねにちがうスタイルの音楽をつくってみたいと思うし、いろんなものからインスピレイションを得ている。この曲は、さまざまなパーツが徐々に集まっていってできあがった。ラファエルはキーボードでフルートの音を出して実験していて、「このフルートの音でどうやって曲を作るんだろう?」って言って、あのメロディの部分を俺に送ってくれた。それを聴いて、ビートなどを加えたりしていじっていたら、そこに遊び心を感じた。それがドミノみたいだと思った。そこから「ドミノ・シュガー」という砂糖会社の工場を連想して、ここ15年間、その工場がブルックリンで物議を醸していることを思い出した。そこには嬉しさと悲しさが同時に感じられた。そして遊び心も。まるであの砂糖のパッケージを見たときに感じるように。ドミノ・シュガーの、黄色い紙パック。それはセンティメンタルな気持ちと悲劇の両方を感じさせる。ドミノ・シュガーの象徴だった工場、そしてブルックリンの象徴だった工場が消えてしまったんだ。

歌詞にある「1917年の工場」というのがそれですか?

NC:(笑)。俺たちは、じっさいの曲に入りきらないくらいの歌詞を書いていたんだ。言いたいことがたくさんあったからね。リリック・シートを提出するときに、思いついた歌詞のすべてを気に入っていたから、ぜんぶ提出した。「1917年の工場」の部分は、曲では歌われていない部分なんだけど、気に入っているから残した。当時の事件をウィキペディアで調べたんだけど、あの歌詞の部分は、ほぼウィキペディアからの受け売りだよ。でもあの文章は、ブルックリンで物事が変化していく様子を、うまく捉えていると思ったから引用した。1917年に工場で火災が発生したとき、5万人が、工場が燃え尽きるのを見物していたという。それがすごく魅惑的なイメージだと思った。その瞬間のエンターテインメントはそれだったんだよ。テレビより前の時代、映画が生まれて間もないころ、人びとはストリートに出て、出来事を見物していた。ニューヨーカーたちが巨大な火災を見物して、砂糖工場が崩壊するのを見ている、というシーンを想像するのが楽しかった。とてもパワフルなイメージだったから、歌詞として残したいと思った。俺たちが現在見ている景色を象徴していると思ったから。

その出来事がドミノのように、現在まで繋がっていると。

NC:もちろんあるよ。物事が倒れて、変化していくという意味だから。それは、原因と結果という自然なことなのかもしれないし、自然現象なのかもしれない。ただ遊び心があるだけなのかもしれない。

いま東京はオリンピックのせいで再開発が尋常ではないペースで進み、数週間単位で道が変わったりしているところもあるのですが、この曲はジェントリフィケイションの問題とも関係しているのでしょうか?

NC:そうだね。でもこの曲では、ジェントリフィケイションにたいして批判しているわけではないんだ。ただ、そういう変化に混乱している、と歌っている。工場は資本主義を意味する。資本主義の象徴だったものが、「公園」という人びとの象徴になるというのは、フェアじゃないかもしれない。クソみたいな工場だったから、閉鎖されて当たり前だったかもしれない。このような土地開発が意味することはすべてを理解できない、という意味合いの内容なんだ。ジェントリフィケイションは悪で、俺たちはそれを嫌っているけど、同時にジェントリフィケイションによって治安は良くなるし、街もきれいになる。だからどういう意見を持つべきなのか、よくわからなくなる。

人びとが集まり、考えを共有する。孤立していた人たち同士が、互いを見つける。ダンス・ミュージックには今後もそうであってほしい。

今回のアルバムを作るうえで、とくに意識したり参照したりしたアーティストや作品はありますか?

NC:今回のアルバムのインスピレイションとなった音楽のプレイリストを今度出す予定だけど、俺たちは聴くものすべてにいつも影響されているし、新しい音楽をつねに聴いている。じっさいに新しい音楽と、俺たちにとって新しい音楽という意味でね。でも今回のアルバムはほか作品と比べると、さまざまな機材に影響を受け、その機材を使っているうちに発見したことなんかがインスピレイションのもとになっている。

今年は〈Warp〉の30周年です。あなたたちが契約してからおよそ15年が経ちますけれど、あなたから見てレーベルの変わったところと、逆に変わっていないところを教えてください。

NC:変わっていないのは、エキサイティングで新しいと感じる作品をリリースし続けている点だと思う。俺たちが〈Warp〉と契約したとき、〈Warp〉はIDMから離れはじめていて、それは俺も変だなと思ったけれど、IDMは当時、勢いがなくなってきていて、あまりおもしろいものではなくなっていた。俺たちのほうが、よりおもしろいグループだった。〈Warp〉は、古いIDMのような音楽ばかりを出しているレーベルではなく、おもしろくて、新しいグループと契約するレーベルなところが良い。 だってIDMは、同じことを繰り返しやっていたら、インテリジェントじゃないだろ? 〈Warp〉は新しい音楽に傾倒しているからそれはエキサイティングだと思う。

では変わったところは?

NC:レコード業界全体が変わったから、その影響で変わった点はある。アルバムをリリースするたびに、レコード業界は変わっていく。今回リリースするアルバムのためには何をしないといけないんだろう、と考える。マイスペースでこれをやって……とか、そういうトゥールが毎回ちがったりする。だから、〈Warp〉の何が具体的に変わったかというのを答えるのは難しいけれど、レコード業界が変わったからその変化が〈Warp〉にも反映されたとは思う。〈Warp〉の反映のさせ方は間違っていなかったと思うよ。俺たちが初期に関わっていたレーベルの多くはもう店じまいしてしまったからね。その一方で〈Warp〉は、いまでも時代を先どりして新しい音楽をリリースし続けているしね。

〈Warp〉のタイトルでベストだと思う作品を3つ挙げるなら?

NC:おもしろいことに、俺たちにもっとも影響を与えたのは、〈Warp〉が10周年を記念してリリースした『Warp 10: Influences, Classics, Remixes』だった。俺たちは当時、ダフト・パンクや初期のシカゴ・ハウスなんかを知ったばかりで、それまではエレクトロニックな音楽やハウス・ミュージックをいっさい知らなかった。だから、あのアルバムが出たときはいつもそれを聴いていたよ。あのアルバムがハウス・ミュージックを知るきっかけになった。
 それから、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの『R Plus Seven』。あのアルバムは大好きだね。俺がよく聴くアルバムだ。彼はとてもユニークなことをあの作品でやったと思うし、アルバムを聴いて、その世界に迷い込むことができる。すごく気に入っているアルバムだよ。
 あとは、オウテカの「Peel Session」。俺たちがまだサクラメントに住んでいた初期に、俺たちが所有している数少ないエレクトロニック・ミュージックのレコードだった。すごく大好きで何回も聴いていたね。

NTS で放送された〈Warp〉30周年の番組で、チック・チック・チックは「Why Can't All DJs be as Exc!!!ting as Nic & Mario?」というミックスを提供していましたよね。とにかくずっとダンサブルな曲が続くミックスでしたが、最近もっとも打ちのめされた曲を教えてください。

NC:最近は、スワンズをたくさん聴いているね。最近もっとも打ちのめされた曲の名前は“In My Garden”だよ(註:1987年のアルバム『Children Of God』に収録)。

あなたたちの音楽はとにかくダンスを忘れません。それは2000年のファースト・アルバムのころからそうですし、ヴァラエティに富んだ今回のアルバムでもそうです。なぜ私たちにはダンスというものが必要なのでしょう? それは人間にとってどのような意味を持つのでしょうか?

NC:ヴィヴィアン・ウェストウッドのインタヴューを読んでいたとき、彼女はパンクについて文句を言っていて、こんなことを言っていた。「パンクは、ただみんなが集まって走り回るための口実だった」と。それは馬鹿げた見方だなと思ったよ。だって、それこそが、すべての芸術運動のエキサイティングなところだと思うから。人びとが集まり、考えを共有する。いままでは孤立していたかもしれない人たちが、似たような考えの人たちと集まる。ダンス・ミュージックには、そのようなアンダーグランドとの繋がりがつねにあったと思う。孤立していた人たち同士が、互いを見つける。ダンス・ミュージックには今後もそうであってほしい。人びとが集まる方法のひとつとしてね。

あなたにとって史上最高のダンス・レコードを教えてください。

NC:ザップの「More Bounce To The Ounce」だね。


!!! - WALLOP JAPAN TOUR -

東京公演:2019年11月1日(金) O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277 / www.beatink.com

京都公演:2019年10月30日(水) METRO
OPEN 19:00 / START 20:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:METRO 075-752-2787 / info@metro.ne.jp / www.metro.ne.jp

大阪公演:2019年10月31日(木) LIVE HOUSE ANIMA
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

[チケット詳細]
一般発売:7月13日(土)~

!!! (Chk Chk Chk) - ele-king

 たとえば『ミス・テイクス』(2007)やEPの「テイク・エクスタシー・ウィズ・ミー」(2005年)のジャケットを思い出してほしい。ニューヨークの地下から頭角を現し始めたころの !!! は、得体のしれない猥雑さ、不気味さ、ダーティさが何よりの魅力だった。それは音もそうだ。『ミス・テイクス』などはいま聴くと、ごった煮のジャム・セッションの跡がかなりの部分で残っており、ぐちゃぐちゃと言えばぐちゃぐちゃなのだけど、世界にはまだいろいろなところにワイルドな連中がいるのだと感じさせてくれた。何かと知性派揃いの〈Warp〉のイメージのなか、より現場感を持っていたのが彼らだった。
 その後もバンドはパーティを続けたわけだが、そのなかで、より音の洗練を目指していったというのが基本的な方向性だろう。いかに「ダンス」への忠誠を保ちつつ、また反骨精神を失わないまま、サウンドを整えていくか。モダンな感覚を持ったプロデューサーを迎えたり(『スリラー』)、妙に爽やかなギター・ポップを取り入れたり(『アズ・イフ』)して、変革は続けられた。そのどこかで、初期のいかがわしさが失われた部分はある。が、音をよりポップに開かれたものにしつつ、どちらかと言うとメッセージで自分たちのアウトサイダー性を誇示してきたと言える。

 トランプ・ショックに対するかなり直接的なリアクションだった『シェイク・ザ・シャダー』を経て――ダンスをすることで飼いならされることに抵抗する――、8作めとなる『ワロップ』は !!! 史上もっとも音のヴァラエティに富んだアルバムとなった。元アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティのコール・M・グライフ・ニール、ホーリー・ファックのグラハム・ウォルシュ、そしてこれまでもともに作業してきたパトリック・フォードといった複数のプロデューサーを迎えていることもあるだろう。インダストリアル的な高圧的なビートを持つ“Let It Change U”から始まり、カッティング・ギターとシンセ・リフのコンビネーションで聴かせるファンク・チューン“Couldn't Have Known”、ノイジーなテクノ・トラックでダークなトーンとなる“Off The Grid”と、!!! らしさを覗かせながらも序盤から様々な展開を見せる。プロダクションはやはり整っている。
 だが、とりわけ驚くのは5曲め“Serbia Drums”以降の流れだ。キラキラしたシンセ・フレーズと切ないメロディのギター・ポップが合体したこの曲では、独特のワイルドなドラムとチャーミングなパーカッションが聴けるし、どこかR&B的なグルーヴを感じさせる“My Fault”を過ぎて、音数を絞った“Slow Motion”はぐっとアダルトなムードのミドルテンポだ。!!! がこれほど大人びた横顔を見せたことはかつてなかった。ずっと踊り続けながら、そしてひとは年を取っていくのだ。
 洗練と成熟はある。しかしそのなかで耳を引くのが、初期のテクノやハウス、初期エレクトロやオールドスクール・ヒップホップといったそのジャンルの生まれたときの原初的な感触だ。アルバム中もっとも抽象的なトラックとなっている“Domino”のシンセやサンプリングのフレーズにしてもそうだし、“Rhythm Of The Gravity”の声ネタなどもそうだろう。ストリートで新しいダンス・ミュージックが誕生するときの高揚、その猥雑なムードを彼らはいま、思い出しているのではないだろうか。結局、何度でもそこからやり直すしかないのだと。軽やかなハウス・トラック“This Is The Door”からダブ・ハウスへとそのまま突入する“This Is The Dub”で迎えるエンディングも洒落ている。アレンジを変えながら進化してきたダンス・ミュージックの歴史を愛でるようだ。

もしも余裕があるのなら
このリズムで自分を変えてみないか
アレンジし直すんだ
一つ、二つ、三つ、四つ、もっといっぱい
(“Let It Change U”)

 個人的なことを書くと、ディスコ・パンクは高校とか大学のときによく聴いていた音楽で、なかでも !!! は、何ともいえず不潔な佇まいが感じられて好きだった。いまや !!! は音のほうでは不潔とは言えないけれど、姿を変えながらも地下の空気を忘れていないことに僕はいまでも勇気づけられる。アレンジを変化させ続け何度でも生まれ変わり、ときどき自分がどこから来たかを思い出して、そして、死ぬまで踊り続ける。

Shapednoise - ele-king

 イタリア出身で現在はベルリンを拠点に活動しているシェイプドノイズことニーノ・ペドーネが、2015年以来となるフルレングス『Aesthesisis』をリリースする。レーベルはラスティソフィーなどの作品で知られるグラスゴーの〈Numbers〉で、マーク・フィッシャーの言う「ハードコア連続体」を意識した作品になっているようだ。〈NON〉のマイシャや、ここ数週間しょっちゅう名前を見かけるジャスティン・ブロードリック、ラビットや元コイルのドリュー・マクドウォールも参加している。
 なお、シェイプドノイズはこれまで〈Opal Tapes〉や〈Type〉といったレーベルから作品を発表してきており、マムダンスロゴス(彼も今年『TMT』のインタヴューで「ハードコア連続体」について語っている)、マイルズ・ウィテカーとのコラボ経験もある。他方で彼はエイフェックス・ツインのお気に入りアーティストでもあり、リチャードは最近の《Field Day Festival》などのフェスで彼の曲をかけている。さらに付け加えるなら、ニーノは〈Repitch〉というレーベルの運営にも関わっており、スリープアーカイヴやソートなどの12インチを送り出してもいる(そのサブレーベルの〈Cosmo Rhythmatic〉からは今度、シャックルトンの新プロジェクトがリリース)。
 とまあこのように、アンダーグラウンドで陰日向なく重要な活動を続けている彼だけに、今回の新作も要注目です。

artist: SHAPEDNOISE
title: AESTHESIS
label: Numbers
catalog #: NMBRS62
release date: 8 October 2019

Tracklist:
01. Intriguing In The End feat. Mhysa
02. Blaze feat. Justin K Broadrick
03. Elevation
04. Rayleigh Scattering
05. The Foolishness Of Human Endeavour
06. CRx Aureal
07. Blasting Super Melt
08. Unflinching
09. Moby Dick feat. Drew McDowall & Rabit

https://nmbrs.net/releases/shapednoise-aesthesis/

Boomkat / Bandcamp

Sote - ele-king

 音楽はプレイリストで聴く時代──そう主張されるようになってからしばらく経つけれど、でもじっさいは Spotify や Apple Music に加入していればぜんぜん良いほうで、そもそもストリーミング・サーヴィスにお金を払う気などない人たちのほうが圧倒的に多いのではないだろうか。だって、ちょいちょいっと YouTube を漁るだけで滝のように音楽が流れてくるんだから。ふと思いついた単語を検索窓にぶち込んだり、アルゴリズムによってはじき出された「次の動画」を延々と辿っていったり……。おそらくそれこそが今日、もっとも支持されている音楽の聴き方だろう。それが良いことなのか悪いことなのか、現時点ではよくわからない。体系的な聴取が廃れることによって、新たに革命的な何かが生まれてくる可能性だってある……にはある、のだけれど、基本的にはただ文脈や歴史が消失していくだけ、のような気もする。わからない。

 そんな時代にレーベルというものを意識して聴いているリスナーがどれほどいるのか不安だけれど、たとえば〈PAN〉や〈Planet Mu〉や〈RVNG〉や〈Hyperdub〉といった以前から名のあるレーベルは、しっかりと自分たちのカラーを維持しつつ新しい動きにも対応し、「なるほど」と唸らされるようなディレクションをねばり強く続けている。もう少し最近だと、〈Arcola〉や〈Whities〉あたりが芯のある展開を見せている好例と言えよう。パウウェルとジェイミー・ウィリアムズによって設立された〈Diagonal〉も、そうした健闘を続けているレーベルのひとつだ。彼らが今年リリースした作品がどれも良かったので、まとめて紹介しておきたい。

 まずはテヘランのアタ・エブテカールによるソート名義の新作を。いや、これがほんとうに素晴らしい内容で、個人的には今年のベスト3に入るアルバムだ。丁寧に爪弾かれる弦楽器を前面に押し出しつつ、その背後でうっすらとシンセ・ドローンが自己主張する“Modality Transporter”や、細やかなノイズが徐々に絡み合っていく“Brass Tacks”も惹き込まれるが、圧巻なのは“Atomic Hypocrisy”だろう。種々の電子音とイランの民族楽器がこれでもかというくらい暴れまわる様はまさに狂宴といったあんばいで、何度聴いても飽きが来ない。エスニックな音階と加工された音声、呪文のような言葉の反復がトランス状態を生み出す“Pipe Dreams”や、トラディショナルとインダストリアルを両立させてしまう“Pseudo Scholastic”もおもしろい。
 生楽器とエレクトロニクスの融合だとか、西洋とオリエントの出会いだとか、そういった皮相なレヴェルをはるかに超えたところで生み出されるこの複雑さと混沌は、それこそ幼いころに初めて音楽と出会ったときのような、音同士の戯れそれじたいを聴くことの歓びを、ありありと思い出させてくれる。イランでは音楽が統制下に置かれていることを考えると、このあまりに冒険的で特異な試みは、表現規制にたいするエブテカールの、全身全霊の抵抗なのかもしれない。

 もう1枚は、かつて〈Kompakt〉からリリースしていたウォールズの片割れであり、ノット・ウェイヴィング名義で多くの作品を発表している、イタリアはヴァスト出身のアレッシオ・ナタリーツィアと、ご存じジム・オルークによるコラボレイション。アレッシオが用意した素材をジムがいじるかたちで制作されたらしい。軸となる高音ドローンにさまざまな電子ノイズが絡み合い、次第にきらびやかさを帯びていく“Side A”は、00年代後半から10年代にかけて勃興した寂寥的ノイズ・ドローンの文脈に乗っかりつつも、感傷には寄りすぎない絶妙なバランスで実験を展開していく。よりアグレッシヴな“Side B”も秀逸で、ラフなビートとノイズが戯れ合う序盤、種々の電子音の乱舞をとおしてかろうじてメロディらしきものが形成される後半、いずれもなかなかに聴き応えがある。

 そして最後は、これまでプロスティテューツ(売春婦)名義で〈Diagonal〉や〈Spectrum Spools〉からコンスタントに良質なテクノを送り出してきたクリーヴランドのヴェテラン、ジェイムス・ドナディオによるスタブユーダウン名義のアルバム。“Wizard Upholstery”や“Neu Ogre”のウェイトレスなシンセによくあらわれているように、大枠としては90年代、カール・クレイグ以降のデトロイトやUKのテクノがベースになっているのだけれど、良い意味でどこか嘘っぽいというか、トムジェリないしバッグス・バニーのごとき動物のキャラ(ウサギ?)がばらばらに解体されて再配置されたアートワーク同様、サウンドのほうもコラージュ感が漂っていて、ストレートにリヴァイヴァルとして消費するのをためらわせるところがある。音同士の間隙やドラムの微妙な遠さなんかはむしろ、それこそパウウェルのポストパンクに近いかも。

 以上3枚、それぞれ方向性は異なれど、〈Diagonal〉というレーベルの底力を教えてくれる、優れた作品たちである。

Floating Points - ele-king

 これまた2019年の重要作となりそうなタイトルの登場だ。フローティング・ポインツが待望のニュー・アルバム『Crush』を10月18日にリリースする。4年前のファースト・アルバム『Elaenia』以降、「Kuiper」や『Reflections』ではバンドを結成し、ロック的なアプローチに取り組んできたフローティング・ポインツだけれど、この7月にリリースされたシングル「LesAlpx / Coorabell」で彼は一気にダンスへと回帰している。今回公開された新曲“Last Bloom”もエレクトロのビートが効いている。ベリアルやテンダーロニアスがそうであったように、UKのアンダーグラウンドはいまテクノへの傾斜を強めている感があるが、フローティング・ポインツのこの新作はその流れを決定づけるものになりそうだ。それに、トラックリストを眺めていると、何やら意味深な言葉が並んでいる。タイトルも「粉砕」だし、テーマも深く練られているにちがいない。この秋最大の注目作である。

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