Interpol El Pintor Matador / ホステス |
ニューヨークを代表するバンド、インターポールのデビュー・アルバム『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』が各メディアから絶賛され、時のアルバムとなったのが2002年。ロックンロール・リヴァイヴァルにポスト・パンク・リヴァイヴァルと、「リヴァイヴァル」からはじまったインディ・シーンのモードに先鞭をつけた作品のひとつだ。いまだにいわゆるバンド・サウンドというと、このころ出てきたアーティストたちの音の射程を抜け出せないところがあるというか、彼らはそもそも使い古した型である音楽のいちスタイルの、その半永久的な強度をもった部分だけを摘出してやすりをかけて、無限のリサイクルに耐えるものに鍛えたというようなところがあるから、フランツ・フェルディナンドにしろ、ザ・ストロークスにしろ、そうした作品の数々が途切れることなく後続を生むのは理屈にたがわない。2000年代を生きつづけてきた『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』は、当初「ジョイ・ディヴィジョンのような」と形容されまくったが、ジョイ・ディヴィジョンのようなバンド、あるいはジョイ・ディヴィジョンに影響を受けたバンドなら、その一点においてはもっと秀でた存在が他にももっといるだろう。しかし、インターポール以降の「そういった」バンドは、「インターポールのような」バンドである可能性も高い。彼らがやったこととは、おそらくそういうことではないかと思う。
そして、だからこそデビューから10何年を経たいまも、前線を走るというわけではないけれども彼らは良質なポップ・ミュージックとして息を継いでいける。インディ・バンドのようなたたずまいを崩さずに、メジャーな市場においてアルバム5枚と多くのシングルをリリースし、2000回を超えるというショーをこなし、メンバーによってはソロ活動なども並行して行いながら年齢を重ねてきたインターポールに、今作『エル・ピントール』について訊ねた。答えてくれたのはドラマーのサミュエル・フォガリーノ。グレッグ・ドルディに代わってデビュー作の頃からインターポールのサウンドを支えてきたメンバーだ。今作からはベースのカルロス・D脱退にともなって3ピースでの制作となったが、前作のツアーから参加している、ザ・シークレット・マシーンズのブランドン・カーティスや、ポップ職人、ロジャー・マニング・ジュニア、またアントニー・アンド・ザ・ジョンソンズなどにも参加するマルチ・インストゥルメンタリスト、ロブ・ムースなどさまざまなゲストを迎えており、音としてはむしろリッチに仕上がっている。
また、本文に入る前に、彼らが当時のニューヨークを代表するバンドとはいえ、その人気に火をつけたのがUKのポップ・シーンだったことを付言しておきたい。それは最初のシングル(「Fukd I.D. #3」、2003年)がスコットランドの名門〈ケミカル・アンダーグラウンド〉からリリースされていることにも顕著で、2001年には早々とジョン・ピール・セッションにも登場している。ギャング・ギャング・ダンスやブラック・ダイスのブルックリンとは異なるニューヨークの重要バンドとして、UKを刺激するロック・バンドだったということは、彼らを説明する上では外しがたい点だろう。
■Interpol / インターポール
1997年ニューヨークにて結成。2002年に〈マタドール〉よりデビュー・アルバム『ターン・オン・ザ・ブライト・ライツ』を発表。同年を代表するアルバムとして注目を浴び、大きなセールスを記録した。2007年のサード・アルバム『アワー・ラヴ・トゥ・アドマイヤー』(キャピトル)は、全米チャート第4位、全英チャート第2位。そして2014年、2010年の『インターポール』以来約4年ぶり通算5作めとなるスタジオ・アルバム『エル・ピントール』を発表。
ニューヨーク、あの街のエネルギーに駆り立てられるんだ。
■むかしからUKのアーティストと比較されることが多いと思います。いまさらながらにポストパンクという文脈と比較することは控えますが、実際のところ、UKのバンドと錯覚するような音の系譜にはあるかと思います。実際のところ、そのあたりのルーツをどのように考えておられますか?
Sam Fogarino(以下SF):俺には正直何とも言えないな……。人が何を感じるかは自分たちにはコントロールできないし。ロック・ミュージック、つまりギターが基本となっている音楽をやる中で、自分たちのアイデンティティを見つけようとしているのが俺たち。他のバンドもそれをやっていて、その中でいろいろな比較やカテゴライズがされているんだろうけど。自分たちのロックンロールを探求する、最初の時点ではそれが自分たちが音楽を作る理由だった。曲を作っているアーティストやバンドはみなそうだと思う。それでも人と比較されてしまうのは仕方のないこと。俺たちが気にしているのは、誰であれ俺たちの音楽を気に入ってくれる人がいるということ。俺たちは、自分たちがやりたいことをやっているだけなんだ。
■NYという場所から音楽を発することを意識しますか?
SF:どうだろうね。もちろん、NYに繋がる強いアイデンティティは持っていると思う。でも、やれと言われればどこでも音楽はできるよ。ニューヨークでの生活が長いから、思い出がたくさんあって曲にしやすいだけなんだ。長い時間を過ごしてるから、自分たちの一部みたいになってしまっていて(笑)。俺はもうニューヨークに住んでさえいないんだけどね。いまは南部、ジョージアに住んでるんだ。でもバンドのベースはニューヨークだから、しょっちゅうニューヨークにいるけどね。あと、あの街のエネルギーも関係あると思う。あのエネルギーに駆り立てられるんだ。でも、いつか他の国でレコードを作るのもおもしろいかもしれないね。
■文化的に非常に強い発信力を持った地域でもありますよね。そのカルチャーを引っ張るというような意識があったりしますか?
SF:あるかもね。その責任を負いたいとまでは思わないけど(笑)。でも同時に、ここまで自分たちと強く結びついているっていうのもすごくいいことだと思う。軽くは考えてない。名誉だと思ってるよ。
■“NYC”のニューヨークから10年ほど経ちますが、もっとも大きな変化だと感じられるのはどのようなものでしょう?
SF:実際には12年なんだ。時間が経つのは早いな。たくさんのことが変わらずそのままだと思うけど、やっぱり人生の中で前より経験を積んでいるから、いろいろなことがベターになってる。自分たちのやることすべてがね。もっと自信がついているし、ちゃんと考えて活動できるようになってる。若い頃って、多くのことが偶然起こってるって感じだった。だけどいまは、やりたいと思うことがちゃんと計画してできるようになったんだ。さまざまな場所を旅して、パフォーマンスを続けてきたから。計2000公演もやればベターになるよな(笑)。自然の流れや偶然に任せるんじゃなくて、もっと自分たちでいろいろと操れるようになってきたんだ。
■デビューの頃から、みずみずしさよりは達観したような物腰があったかと思うのですが、歳を重ねたこととバンドが生み出す音とはどのように影響しあったと思いますか?
SF:歳を重ねると、自分の周りのものや人生がそこまでミステリアスではなくなってくる。いろいろなことがより簡単になってくるんだ。自分を苛立たせていたものがそれほど気にならなくなったり。音楽も、それ以外のこともそうだね。
■ファンも年齢を重ねていると思いますが?
SF:ファンの年齢層は広いよ。ステージからは、18歳から50歳くらいのファンが見える。すごく幅広いんだ。
■なるほど。では、いまだからこそ、『エル・ピントール』だからこそ表現できたと思うところはどのようなところでしょうか?
SF:各レコードが、書いているそのときを反映していると思う。そのときの自分たちと強く関連しているんだ。活動をつづけていくにつれファンの年齢層も広がって、自分たちも経験を積んできた。だから、いまの俺たちはより人に語りかけることができるようになってきたと思う。より説得力が増してきたというか。あと、共感もしやすくなっていると思う。そうだな、説得力よりも共感という言葉のほうが適切かも。そこは歳をとることのプラスな部分だね(笑)。
いまの俺たちはより人に語りかけることができるようになってきたと思う。より説得力が増してきたというか。あと、共感もしやすくなっていると思う。そうだな、説得力よりも共感という言葉のほうが適切かも。
■このアルバムを通じてどのようなことを伝えたかったのでしょう?
SF:最初の時点では、メッセージを込めるというよりは、自分たちが作りたいレコードを作っていたんだ。より直接的な、ポイントをダイレクトに突いた作品を作りたかった。ありがたいことに、リスナーもそれを聴きたがっていたからうまくいったんだ。大切なのは、自分たちが作りたいものを、自分たちの手で作るということだと思う。それがあればこそ、自分の正直さや誠実さを伝えることができるんだと思うから。「俺たちが作った作品が聴きたい」それがみんなが求めていることだしね。
■今作もミックスがアラン・モウルダーということですが、前作よりさらにフィットするようになったのではないでしょうか? 楽曲もそうですが、落ち着いていて、かつどことなくセクシーな感触の音だと感じました。
SF:だよね。彼は最高なんだ。君の意見には俺も賛成。たしかに前作よりはフィットしていると思う。俺たちが、前よりベターなアルバムを書いたからね(笑)。元は大事だから。
■はは(笑)。元がよくなったのももちろんですが、彼自身の作業がより自分たちの作品にフィットするようになってきたとは感じますか?
SF:そうだね。彼は俺たちのことをより理解しているし、俺たちが何を求めているかもわかってる。あと、今回は彼とすごく親しいエンジニアといっしょにレコーディングしたんだ。だから、以前よりもさらにチームワークといった感じだった。みんながお互いを知っていたからね。それもよかったんだと思う。
■10年前にやっておけばよかったと思えるようなことはありますか? 音楽においてもそうしたことがあれば教えてください。
SF:ノー(笑)。なるだけ過去は振り返らないようにしてるから。前進しようと心がけてるんだ。いまを大事にすることもね。10年前の自分のよくなかったところは、過去を振り返って、ああしなければよかった、こうしなければよかったのかも、と考えていたこと。いま自分が置かれている瞬間のことは気にかけずにね。それではバンドはベターにならないのに。いま与えられているものが自分が持っているすべてなんだから、やっぱりそこにフォーカスするのが大事なんじゃないかな。いま自分がやっていることだけを気にかけるっていうのが、後悔を避けるいちばんの方法だと思うよ。
■毎度、ゲストとのよい緊張関係のなかでアルバムがつくられていますが、ロジャー・マニング・ジュニアやロブ・ムースとの仕事はいかがでしたか?
SF:誰だって? 彼らのことは知らないんだけど……(笑)。
■本当に? 知らないですか(笑)? ロジャー・マニング・ジュニアとロブ・ムース。
SF:からかっているんじゃなくて、本当にわからない(笑)。彼ら、アルバムで何をやったかわかる?
■楽器で参加したと思うのですが……。
SF:あー! やっとわかったよ。俺は彼らに会ってさえいないんだ。彼らは主にポールとダニエルと作業してたから。自分のパートの作業が終わったあと、俺は現場に残らず、あとの作業は彼らに任せてたからね。だから知らなかった(笑)。でもいい仕事はしてくれたと思う。完成した作品にはすごく満足してるんだ。この質問はポールに聞いて(笑)。
■そうなんですね。ではブランドン・カーティスさんについてなんですが、彼はバンドの音にサイケデリックな奥行きを加えていると感じます。3人体制となったことで音をしぼっていく方向もあったのではないかと思いますが、今後のバンドの向かう音としてはどのようなイメージをもっていらっしゃいますか?
SF:どうだろうね。自分たちでもわからない。いまのレコードから将来どう進んでいくかはまだ見えてないんだ。でもきっと、来年のツアーでいろいろ見えてくると思う。何かいいアイディアが思いつくんじゃないかな。でもそれまでは無理に捜そうとせずに、見つかるまで待っていようと思う。ブランドン・カーティスはインターポールにとってアシッドなんだ。欠かせない人物だね。
■3人体制になってからサウンドは変わったと思いますか?
SF:やっぱりダイレクトになったと思う。より核心を突いたサウンドに戻ったと思うね。
■音楽の作り手として、まだ見ぬ新しいフォームを見つけだしたいと思いますか? また、最近そうした新しい音楽のかたちが生み出されていると感じたアーティストや作品はありますか?
SF:最近はあまりそういった作品は聴いてないな。そういう作品が自分で聴きたいからと思って見つかるものでないように、そういうのはやっぱり見つけるものではなくて、自然と生まれるもの、見つかるものだと思う。気を張っていては生まれないものなんじゃないかな。だからいずれ見つかるかもしれない。それがいつになるかはわからないけど(笑)。見つかればいいな。
■曲作りでは、あらかじめアイディアを持って取り組んだりはしない方ですか?
SF:ダニエルが最初のアイディアをまずたくさん書くから、ちょっとした構成はあるよ。でもそこからお互いにアイディアを乗せていくから、その共同作業からいろいろと新しいものが生まれてくるんだ。プロセスの途中でどんどん変化していくんだよ。
■プレイすることの喜びと、曲が人々に浸透し愛されることの喜びとではどちらのほうが大きいですか?
SF:おもしろい質問だね(笑)。そのふたつを分けることはできないよ。どちらも重要だから。でも人を自分の音楽でハッピーにするには、演奏している上で自分自身がハッピーであることが前提だと思う。だから、自分自身の喜びがまず最初にくるかな。そこに人がついてくるんだと思うから。
■どんなときに、自分の音楽が人々に愛されているなと実感しますか?
SF:よくわからないけど、あるときふと自然にそういう瞬間がくるんだよね。でも、俺はあまり自分が愛されているという考え方はしないようにしてるんだ。そういう考えを持っていないほうが、それを感じたときにいいサプライズになるからね。世界の人々が俺たちの音楽を聴きたがっていること、ライヴを楽しみにしてくれていることを感じられる瞬間が。そういう状況は、当たり前と思うには最高すぎる。つねに控えめでいることが大切だと思うね。