「K A R Y Y N」と一致するもの

YUKSTA-ILL - ele-king

 すでに3枚のフル・アルバムを送り出している三重は鈴鹿のラッパー、YUKSTA-ILL。これまで名古屋を拠点とするレーベル〈RCSLUM〉で培った経験をもとに、先日自身のレーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を設立することになった彼だが、早速同レーベルより彼自身のニュー・アルバム『MONKEY OFF MY BACK』のリリースがアナウンスされた。
 セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』のときのインタヴューで「アタマからケツまで構成があって起承転結がある作品を作りたかった」との発言を残している YUKSTA-ILL は、単曲でのリリースがスタンダードになった昨今、1曲単位よりもフル・アルバムに強い思いを抱くラッパーである。レーベル設立の告知と同時に公開された新曲 “FIVE COUNT (WAVELENGTH PLANT ver.)” がまたべらぼうにかっこいい一発だっただけに、ひさびさのフルレングスにも期待大だ。新作『MONKEY OFF MY BACK』は4月5日(水)にリリース。フィジカル盤には盟友 DJ 2SHAN によるミックスCDが付属するとのこと。確実にゲットしておきたい。

三重鈴鹿を代表する東海の雄YUKSTA-ILLが4年ぶり4作目のフルアルバムリリースへ
自身の新レーベル「WAVELENGTH PLANT」からTEASER動画&トラックリストを公開

東海地方から全国へ発信を続ける名古屋の名門レーベル「RCSLUM RECORDINGS」で15年間培った経験・知識を地元三重に還元すべく、今月1日に自らのレーベル「WAVELENGTH PLANT」の設立を発表したばかりのYUKSTA-ILL。
同日より配信されている彼のローカルエリアを題材にしたシングル「FIVE COUNT」から間髪入れず、4年ぶり4作目となるフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」を4/5(水)にリリースする。
全13曲からなる今作にはBUPPON、Campanella、WELL-DONE、ALCI、GINMENが客演参加、トラックのプロデュースをMASS-HOLE、OWLBEATS、Kojoe、ISAZ、UCbeatsが担当。
ブレないスタンスをしっかりと維持しつつ、これまでリリースしてきたフルアルバムとはまたひと味違った世界観、アーティストとしての新境地を感じさせる内容の仕上がりとなっている。
尚、配信と同タイミングでリリースされるフィジカル盤には、YUKSTA-ILL自らホストを務めた地元の盟友DJ 2SHANによる白煙に包まれた工業地帯をイメージしたMIXCD「BLUE COLOR STATE OF MIND」が購入特典として付属される。
レーベルより公開されたTeaser動画、及びアルバム情報は以下の通り。

MONKEY OFF MY BACK Album Teaser
https://youtu.be/dpeE46hW7bU

【アルバム情報】
YUKSTA-ILL 4th FULL ALBUM
「MONKEY OFF MY BACK」

Label: WAVELENGTH PLANT
Release: 2023.4.5
Price: 3,000YEN with TAX
(フィジカル盤購入特典付)

{トラックリスト}
01. MONKEY OFF MY BACK
02. MOTOR YUK
03. FOREGONE CONCLUSION
04. GRIND IT OUT
05. JUST A THOUGHT
06. SPIT EAZY
07. OCEAN VIEW INTERLUDE
08. DOUGH RULES EVERYTHING
09. EXPERIMENTAL LABORATORY
10. TIME-LAG
11. BLOOD, SWEAT & TEARS
12. TBA
13. LINGERING MEMORY

{参加アーティスト}
ALCI
BUPPON
Campanella
GINMEN
WELL-DONE

{参加プロデューサー}
ISAZ
Kojoe
MASS-HOLE
OWLBEATS
UCbeats

【作品紹介】
ラッパーはフルアルバムを出してなんぼだ。
USの伝説的ヒップホップマガジン「THE SOURCE」のマイクレートシステムはフルアルバムでないと評価対象にすらならなかった。
派手なシングルや、コンパクトに凝縮されたミニアルバム、客演曲での印象的なバースも勿論良い。
だが、そのラッパーの力量・器量を計る指針となるのはやはりフルアルバムなのである。

三重鈴鹿から東海エリアをREPするYUKSTA-ILLは、まさにそのフルアルバムにかける思いを強く持つ“THE RAPPER”の一人だ。
自らの疑問が残る思想への解答を模索した1st「QUESTIONABLE THOUGHT」、
NEO TOKAIの軌道に乗った己を篩に掛けた2nd「NEO TOKAI ON THE LINE」、
世間を見渡しながらも自身のブレない精神力を全面に押し出した3rd「DEFY」、
これらはすべて明確なコンセプトの下、起承転結を意識して作り込まれたフルサイズのヒップホップアルバムである。

そんな彼が約4年ぶりにフルアルバムを引っ提げて戻ってきた。
「MONKEY OFF MY BACK」と名付けられた4枚目のフルとなる今作は、
立ち上げたばかりの自身のレーベル「WAVELENGTH PLANT」から世に送り出される。

「疫病の影響で時間は有り余る程にあった。その結果、楽曲は大量生産された。
只、アルバムを意識せず制作を続けていたので、まとまりを見いだすのに苦労した」、とは本人の弁。
しかし度重なる挫折と試行錯誤の末、やがてそれは本人の望むまとまった作品へと形を成していった。
その期間中に経験した、成長した、変化した、様々な出来事が楽曲に色濃く反映されたのは言うまでもない。

日々の葛藤、金銭問題、目を背けたくなるネガティビティをアートへ昇華する。
ローカルに身を置き、バスケを嗜み、嫁の待つ家へと帰り、リリックを書く。何気ない日常の描写すらドラマチックに魅せる。
適材適所に散りばめられた客演陣、そして夢見心地なサウンドプロダクションが、何かを始めるにはうってつけのSEASONに拍車をかける。
長い沈黙を破り2020年から2022年にかけフルアルバム4枚リリースの記録的なランを見せてくれたレジェンドNASの様に。
無二の境地に到達したYUKSTA-ILLが今、リスナーの鼓膜に向けてSPITを再開する。

【YUKSTA-ILL PROFILE】
三重県鈴鹿市在住、その地を代表するRAPPER。
バスケットボールカルチャー、SHAQでRAPを知り、何よりALLEN IVERSONからHIP HOPを教わる。
「CLUBで目にしたRAPPERのダサいライヴに耐えきれずマイクジャックをした」
「活動初期のグループB-ZIKで制作したデモを鈴鹿タワレコ内で勝手に配布しまくっていた」
という衝動を忘れることなく、スキルの研鑽と表現の追求、セルフプロモーションを日々重ねる。
2000年代後半はUMB名古屋予選で2度の優勝を果たし、長い沈黙と熟考を経てMCバトルへの参戦を2022年末より解禁。
地元で「AMAZON JUNGLE PARADISE」と称したオープンMICパーティーを平日に開催。
”RACOON CITY”と自称する地元の仲間達と結成したTYRANTの巻き起こしたHARD CORE HIP HOP MOVEMENTはNEO TOKAIという地域を作り出した。
そのトップに君臨するRC SLUMのオリジナルメンバーであり最重要なMCとして知られている。
RC SLUMの社長ATOSONEと共に2009年に「ADDICTIONARY」と題されたMIX CDをリリース。
立て続けに2011年にはP-VINE、WDsoundsとRC SLUMがコンビを組み1stアルバム「QUESTIONABLE THOUGHT」をリリース。その思考と行動を未来まで広げていく。
2013年にはGRADIS NICE、16FLIP、ONE-LAW、BUSHMIND、KID FRESINO、PUNPEEと東京を代表するトラックメーカーとの対決盤EP「TOKYO ILL METHOD」をリリース。YUKSTA-ILLのRAPの確かさを見せつける。
NEO TOKAIの暴風が吹き荒れたSLUM RCによるモンスターポッセアルバム「WHO WANNA RAP」「WHO WANNA RAP 2」を経て、2017年には2ndアルバム「NEO TOKAI ON THE LINE」、
2019年にはダメ押しの3rdアルバム「DEFY」をP-VINE、RC SLUMよりリリース。さらなる高みへと昇っていく。
OWLBEATS、MASS-HOLEとそれぞれ全国ツアーを敢行し、世界を知り、自身をアップデートしていく。
RAPへの絶対的な自信があるからこそ出来るトラック選び、時の経過と共にそこへ美学と遊び心が織り込まれていく。
ISSUGI, 仙人掌, Mr.PUG, YAHIKO, MASS-HOLEと82年のFINESTコレクティブ”1982S”のメンバーとしてシングル「82S/SOUNDTRACK」を2020年にリリース。
世界を覆ったコロナ禍の中「BANNED FROM FLAG EP」「BANNED FROM FLAG EP2」を2020年にリリース。ラッパーとは常に希望の光を灯す存在である。
2021年には自他共に認めるバスケットフリークであるRAMZAと故KOBE BRYANTに捧げる「TORCH / BLACK MAMBA REMIX」を7インチでリリースし、NBA情報誌「ダンクシュート」にも紹介される。
さらに同タッグはシングル「FAR EAST HOOP DREAM」をリリース。B.LEAGUEへの想いを放り込んだ、HIP HOPとバスケットボールの歴史に残るであろう1曲となっている。

”tha BOSS(THA BLUE HERB), DJ RYOW, KOJOE, SOCKS, 仙人掌, ISSUGI,
Campanella, MASS-HOLE, 呂布カルマ, NERO IMAI, BASE, K.lee, MULBE, DNC,
BUSHMIND, DJ MOTORA, MARCO, MIKUMARI, HVSTKINGS, BUPPON, Olive Oil,
RITTO, TONOSAPIENS, UCbeats, OWLBEATS, DJ SEIJI, DJ CO-MA, FACECARZ,
LIFESTYLE, HIRAGEN, ALCI, ハラクダリ, ILL-TEE, BOOTY'N'FREEZ, HI-DEF, J.COLUMBUS,
BACKDROPS, DJ SHARK, TOSHI蝮, GINMEN, MEXMAN, DJ BEERT&Jazadocument, and more..”

HIP HOPだけでなくHARD CORE BANDの作品にも参加。キラーバースの数々を叩きつけている。

2023年、自らのプロダクションWAVELENGTH PLANTを設立。鈴鹿のビートメーカーUCbeatsのプロデュースでリリースしたシングル「FIVE COUNT」に続き、約4年ぶりとなる4枚目のフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」をリリースする。
その目の先にあるものを捉え、言葉を巧みに扱い、次から次へと打ち立てていく。YUKSTA-ILLはまだまだ成長し続ける。

HP : https://wavelengthplant.com
Twitter : https://twitter.com/YUKSTA_ILL
Instagram : https://www.instagram.com/yuksta_ill/
YouTube : https://www.youtube.com/@wavelengthplant

talking about Yves Tumor - ele-king

 今日のポピュラー・ミュージックの中心はラップである。そんな時代にあって、次世代のロックはどんな姿をかたどるのだろう──もしかしたらイヴ・トゥモアの試みに、そのヒントが隠されているのかもしれない。エレクトロニック・ミュージックに出自を持ちながらその後ロックへと大きく舵を切り、己の美学を貫くイヴ・トゥモアの新作『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』について、Z世代のライター・yukinoise と、ロックをルーツとした初期衝動をダンス・ミュージックに落とし込むDJの arow が自由気ままにロック・ヴァイブス溢れる音楽談義をカマします。

イヴ・トゥモアは自身のキャリアの歩みの中で音楽と真摯に向き合いつつ、関わる人やコミュニティが広がっていく中でも、周囲からの期待を跳ねのけることなく、かつその上で自分自身の美学をクリエイションに反映させている。(arow)

yukinoise:前作に引き続き、今回のアルバム・リリースでもイヴ・トゥモアは相変わらずインタヴューを受け付けてないみたい。最近で唯一彼がインタヴューを受けたのはコートニー・ラヴとの対談くらいしかなかったので、今回は以前ライヴを観に行ったことのある自分と、ロックに詳しい同世代のDJ・arowくんとイヴ・トゥモアの魅力について対談するわけですが、5年前の来日ライヴは観に行った?

arow:そのライヴ行けなかったんだよね、たしかいまはなき渋谷の Contact に緊急来日したんだっけ?

yukinoise:そうそう。Contact に普段遊びに来るタイプのクラバーよりか、イヴ・トゥモアが気になってる音楽好きの層が集結して、平日のデイ公演なのにメインフロアの Studio X がお客さんでパンパンだった光景を覚えてる。その後、渋谷のWWWで speedy lee genesis さん主催の《Neoplasia》ってパーティーにも出演してたんだけど、ヘッドライナー級なのに出番が日付越える前という独特のパフォーマンスをしてたらしい。〈Warp〉からの異色デビューっていうので彼の存在を知ったのと来日がちょうど同時期で、すぐにライヴを観れたのはラッキーだったな。

arow:イヴ・トゥモアはもともとエレクトロニカやエクスペリメンタル系のアーティストだし、パフォーマンスもスタイルも華やかだから当時は新進気鋭のファッショナブルな印象があったな。でも、そういった印象や解釈を変えてくれたのが “Jackie” を収録した2021年リリースのEP「The Asymptotical World」。ロックやバンド・サウンドが好きな人にはかなり刺さる作品だし、いままでのリリースの中でいちばん好きかも。

yukinoise:“Jackie” でこれまでのエレクトロニカ、インダストリアルR&Bやグラム・ロック的な印象から少し雰囲気が変わったよね。シューゲイズ、ドリーム・ポップ、ポスト・パンクなテイストが取り入れられていて、バンドというかギター・サウンドに対して欲を出してきたな、と。

arow:ディープな電子音楽から活動をスタートして、キャリアを積み重ねていくごとに見える景色の変化に応じてちゃんとクリエイションも進化していくのはアーティストとしてひとつのあるべき姿だと思う。というのも、音楽をやっている全員がそういうことができるわけではないと思っていて。生計を立てるためとかいろいろあると思うんだけど、どうしてもいままでついてきたファンを離さずに活動するために既存の路線から外れないよう、いわゆる正解を取りに行くようなスタンスが活動を通して透けて見えてしまうようなアーティストも中にはいるわけで。だけど、イヴ・トゥモアは自身のキャリアの歩みの中で音楽と真摯に向き合いつつ、関わる人やコミュニティが広がっていく中でも、周囲からの期待を跳ねのけることなく、かつその上で自分自身の美学をクリエイションに反映させているし、少なくともそう勤めようとしている気概が音を通してリスナーにも伝わってくるような説得力があるよね。

yukinoise:美学ね。インタヴューを受けずにソーシャルと距離を置くスタンスや、来日公演でもレーベルや国外アーティストだからって肩書は関係なしに、セルフ・プロデュースで世界観を徹底してるところに惹かれた。イヴ・トゥモアを語ればグラム・ロックが必ずキーワードに登場するけど、たしかに彼のクィアなファッションや強烈なスタイル然りロック・スター的なカリスマ性は持ってる。

刹那的な盛り上がりより、パフォーマンスを目撃したアーティストの曲を帰り道でも聴きたくなるくらい世界観で圧倒されたい。そういう意味ではソロ時代からもステージングを徹底してたし、どんなかたちであれちゃんと自分の個性を100%表現しているアーティスト。(yukinoise)

arow:クィアもロックもどっちも彼のルーツにあるけど、意識的にも無意識的にもステージングや社会との関わり方とかの、自らのパブリック・イメージに関わる細かな部分にまで自分の意思を反映させて世界観を表現できるアーティストはそれだけで希少価値が高い。イヴ・トゥモアの最近のライヴがバンド・セットなのもそのイメージの強化に一役買ってるというか。バックDJがいて、オケを流してる上にマイク通して声を乗せるだけというヒップホップ由来のスタイルがいまでは当たり前のようになった中で、パフォーマンスを差別化するとしたらいちばん効果的なのはやっぱり音楽の捉え方とライヴの見せ方になるんじゃないかな。たとえば普通にラップやってる若いアーティストのライヴだと、いまこの場所をいかに盛り上げるかという点だけに重きを置きがちになる感じがあるけど、その場限りの高揚だけじゃ訴求できない部分って受け取り手のオーディエンスからしても絶対的にあるはずだし。

yukinoise:ライヴの体験価値はオーディエンスにとって欠かせないポイントだよね。刹那的な盛り上がりより、パフォーマンスを目撃したアーティストの曲を帰り道でも聴きたくなるくらい世界観で圧倒されたい。そういう意味ではソロ時代からもステージングを徹底してたし、どんなかたちであれちゃんと自分の個性を100%表現しているアーティストだったな。

arow:60~70年代まで遡るとロック・オペラとかもあったくらいだし、ひとつの世界観を作り上げていくジャンルとしての美学がロックにはある。当然、時代性やバックグラウンドによってアプローチは多種多様なんだけど、自分なりの世界観を築きやすいのがロックというフォーマットの魅力だと思うんだよね。もちろんやりようによってはどんなジャンルの音楽であっても独自の世界観は作れるものだと思うんだけど、記号化される前のロックでは一曲単位の持つ強度に加えてアルバムの構成だったりでいろんな見せ方がされてきたし、とくにリスナーにとっては何のことかわからないような歌詞だったり、音楽的にも新しい試みを取り入れやすかったという点において、ある種音楽の持つ非日常的な側面を反映させやすいという強みがあったんじゃないかな

yukinoise:なるほど。ロックの対比としてのヒップホップ、現代のトラップ・カルチャーはどちらかと言えばストリートやライフ・スタイルの延長線上にある音楽かもね。リアルを大事にしてるし。個人的にはロックは夢を見せてくれるジャンルだと思っていて、たとえば日本でいうヴィジュアル系はサウンドやファッション、世界観を徹底して作り上げて非日常的な雰囲気のステージングがメインだし。でもイヴ・トゥモアにも意外と人間味のある瞬間もあって、インスタ・ライヴとかもたまにする(笑)。Joji や Drain Gang の Ecco2k みたいな同世代のアーティストともコラボしてるし、隣接するシーンとクロスオーヴァーしていく視点はきちんと持ってる人なんだなと。ただ孤高のロック・スターを目指してるわけじゃない。彼の場合は孤高じゃなくて、シーンの中で異質な存在であるという想いが原動力になっている気もするんだけど、なんでロックが王道のサウンドではない時代にあえてこの路線を選んだんだろう?

arow:孤高のロック・スターのイメージに当てはめすぎちゃうと、本当にただ突っ走るだけになっちゃうからそれは本人にとっても良くない(笑)。カート・コベインやフレディ・マーキュリーあたりも世界的な成功を手に入れたからこそ反面自分が理解されていないって葛藤に陥ってしまったりした歴史もあるくらいだし。そもそもロックという音楽自体がR&Bやブルースから発展しているわけで、そういったブラック・ミュージックと呼ばれる音楽自体マイノリティが他者に理解されないところをモチベーションにして、自分たちはここに存在しているんだと主張するために育まれてきたものでもある。イヴ・トゥモアの場合、「マイノリティでありながら電子音楽をやっている」という情報だけじゃ大衆への大胆なアプローチはやっぱり難しいけど、そこにロックという記号を持ち込むだけでオリジナリティが増す。自分たちはすでにロックが一度終わった後の時代にいるわけだけど、かつては王道だった過去があって常識的にロックというものがジャンルの前提として根付いているからこそ、いままではあまり触れられてこなかったマイノリティ性や異質さ、普遍さとかいったものを組み合わせることによってバランスが取れるという。

yukinoise:エレクトロニカ時代の彼のサウンドは大衆的に受け入れがたくとも、ロックがベースになっている最近のサウンドなら受け入れやすいリスナーも多そう。とくに今回の新作はグラム・ロックとダンサブルな感じである種のポップさも含んでるし、去年ヒットしたイタリアのマネスキンの功績で新世代のロックがやっとメインストリームに頭角を現してきた時代ともマッチしてる。

arow:時代によってあり方が変化していったロックがちゃんとメインストリームな音楽だったのは、体感でしかないけど2007年くらいまでかなあ。90年代にいわゆるオルタナティヴ・ロックの時代があり、そこから地続きでインディー・ロックも盛り上がりを見せる一方、スタジアム級のバンドもいて、だんだんその幅が開いていったのが2000年代。個人的な印象では、メジャーで人気になるほど王道なロックが飽きられてしまって、逆に2010年代にかけてはどんどんインディーが盛り上がって、バンドマンと言えどロック・スターにはなろうとしないみたいな、ちょっと内向的なアティチュードのアーティストが増えていった。実際本人のパーソナリティが内向的なのかは置いておいて(笑)、ヴァンパイア・ウィークエンドなんかはその最たる例かも。あくまでも地に足つけて音楽を好きでいるってスタンスのロックが多くなる中で、ザ・1975みたいにインディーの方法論でメジャーとの間に生まれた壁をぶち壊そうとするバンドも現れてから、同レーベル所属の Pale Waves や Beebadoobee といったソーシャル・スター的なロック・アーティストたちが次のフェーズを作っていった感じ。

バンド・サウンドはシンプルになればなるほどひとつの音に対する向き合い方もストイックに成らざるをえなくて、今回のアルバムも曲の構成自体はシンプルだけどギターの印象でかなり喰らわせてきてる。(arow)

yukinoise:ソーシャル・スターね。ザ・1975のマシュー・ヒーリーもかなりアイコニックな存在だし最近も炎上騒ぎがあったし、いまやロックのアーティストですらインフルエンサー的な立ち位置になってしまう時代なのか……。SNSの流行でかつては遠い存在だったアーティストのライフ・スタイルを手軽に知れたり、ちょっとした発言もすぐキャッチできたりするようになった時代の中で、イヴ・トゥモアがソーシャルとうまく距離を置いてるのは正解だね。

arow:それでも、イヴ・トゥモアはいまめちゃくちゃ真正面からロックにぶつかってきてるアーティストだと思う。新作のライナーノーツや本人自身からも異物というワードがよく登場するけど、ロックという音楽として触れたときに異物感は全くないしもはや王道だとも言える。新しい音楽を、誰も見たことのないロックをやるぜ! というタイプでもない。

yukinoise:きっと往年のバンド・サウンドやいろんなロックに触れて育ってきたんだろうな。ロックのアーティストはバンドを経て晩年を迎えたりソロになったりしてから電子音楽に傾倒する節があるけど、イヴ・トゥモアはどんどん初期衝動的なバンド・サウンドに回帰していってるのが面白いところ。

arow:しかも意図してやってるわけじゃないと思わされるところもまたイイ。本当にロックが好きでいまこの音楽がやりたいと素直に思ってるだろうし、世の中での売れ方や音楽産業に振り回されずサウンドを突き詰めてる。俺がいちばん深くロックに触れていた高校時代、教室の隅っこでヘッドホンして爆音でアイスエイジとか聴いて救われてた、あの心が揺らされる感覚こそ、まさに初期衝動でありロックの美学のひとつだね。

yukinoise:彼自身、初期衝動やそういった美学は元来持っていたのに、いまこうしてロックに真正面から向き合っているのは、キャリア的にちゃんとしたクリエイションができる環境でハイクオリティに実現したかったからなのかな、とも思うわけよ。もちろんソロのときでも荒削りに実現できたと思うけど、キャリアが浅い時期にDIYでチャレンジしていたら時代的に宅録系みたいなジャンルで括られてしまった可能性がなきにしもあらず。本人のスタンス的に絶対クオリティ面は重視しているから、自分の理想が実現できる万全な状態でやりたかったんだと思うよ。

arow:ソロでロックに挑戦するのはかなりハードルが高いしね。サンプリングでそれっぽい音はDAWで作れても、結局は打ち込み系の解釈になってしまうし、イヴ・トゥモアはそういうのを嫌がるタイプな気がして。特にバンド・サウンドはシンプルになればなるほどひとつの音に対する向き合い方もストイックに成らざるをえなくて、今回のアルバムも曲の構成自体はシンプルだけどギターの印象でかなり喰らわせてきてる。特にギター・ソロはバンド・サウンドの中でもアンプのつまみがちょっと違うだけで全く印象が変わってしまうようなシンプルだからこそシビアな世界でもある。こだわろうと思えばどこまででも時間をかけられるからこそ、この音でいくぞと決心をするのにどれだけ勇気がいることかはバンドを経験した身としてよくわかるし、その葛藤の末に生まれたサウンドなんだと意識して聴くことでまたそれまでとは違った聴こえ方になったりするところが生音の面白さだと思うな。

yukinoise:タイトルが『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』、和訳すると「齧るが喰わぬ主君を讃えろ」──なんだかスケールが大きくて意味深な感じ。収録曲のうちシングルとして先行リリースされた “Echoalia” のMVからも見て取れるように、本作は『ガリヴァー旅行記』がコンセプトになってるそうで。『ガリヴァー旅行記』は巨人などの異質なキャラクターと世界の関わりが描かれている物語だし、イヴ・トゥモアのクィア性やいまの時代におけるロック・スター的なスタンスといった持ち前の個性が反映されているなと。この曲はビート感が強くてダンサブルだからアルバム全体の中でも割とポップで好きなんだけど、arowくんはどう?

彼が他と一線を画してるのは忠実にロックと向き合ってるところと、ソーシャルやハイパーなカルチャー・シーンと距離をきちんと置いてるところ。その美学の貫き方こそが、イヴ・トゥモアなりにロックを解釈したひとつのかたちなんだろうな。(yukinoise)

arow:このアルバムはダークなところからどんどん曲が進むごとにちょっとずつ光が見えてくる展開だと思った、歌詞もメンタルヘルスや他者との関わりを内包しつつ明るく振る舞おうとしている感じで。となると、中盤の “In Spite of War” がやっぱり好きかな。ヴォーカルもエモいしこのギターの感じも無条件で嬉しくなるサウンド。

yukinoise:このオクターヴを上げた歌い方のヴォーカルのエモさって、2015年くらいのリル・ピープみたいなエモ・ラップ、トラップ・カルチャーとも世代的に親和性があると思うんだよね。イヴ・トゥモアやうちらの世代ならではのエモさだし、王道なロックが入りじゃないからこそグッとくる要素として欠かせない。ただ往年のロックにチャレンジするんじゃなくて、現代に届くロックをやろうとしてる。

arow:今回はポップスとしてもロックのカタルシスを踏襲してる気がする。王道もそうじゃないやり方もどっちも物怖じせずやれること自体、イヴ・トゥモアや自分たちの世代の特徴で、2010年代のインディー・ロックはたぶんそういうのがちょっと嫌だったとこもある。90年代のオルタナティヴなノリに回帰してカマしたくても自信ないみたいなヴァイブスだったけど、ベタな展開でも自分のモノにしちゃうスタンスがいまのロックの特徴かもしれない。

yukinoise:ダークなサウンドからアッパーまで雑多に聴く世代というか、当たり前にクロスオーヴァーしちゃう世代だもんね、わたしたち(笑)。

arow:それも大きいし、案外家で聴いたりディグったりするだけじゃなくていろんなライヴやパーティーに遊びに行って生で聴いて知ろうとする世代でもあるからね。イヴ・トゥモアが来日公演した Contact もクラブだけどバンドも出演してた箱だったし、いろんなものが混ざりつつもミクスチャーともまた違う新鮮な感覚を常に持ってる。

yukinoise:この世代や次世代で流行ってるハイパーポップにもロックのテイストは取り入れられてるけど、それでも彼が他と一線を画してるのは忠実にロックと向き合ってるところと、ソーシャルやハイパーなカルチャー・シーンと距離をきちんと置いてるところ。その美学の貫き方こそが、イヴ・トゥモアなりにロックを解釈したひとつのかたちなんだろうな。

interview with Genevieve Artadi - ele-king

 ジュネヴィーヴ・アルターディが歌う姿や歌詞を見ると、ついつい感情移入して、こんな気分の歌なんだろうな、と様々な感情が沸き起こる。しかし一方で、その感情表現で普通このハーモニーはないだろう、というような曲作りをしている気がして、冷静に音楽を聴いてクールだなと思ったりもする。実際、ジュネヴィーヴの歌は簡単に気持ちよく歌える展開にならず、聴いていくと「予測できること」からどんどん遠ざかっている。「ハーモニーと珍しいキーチェンジをつなぎ合わせて、メロディで接着する方法」という、ファンがジュネヴィーヴのチャンネルで書いていた説明には、なるほどと思った。そんな彼女の理知的にもみえる音楽プロセスや、音楽的リテラシーの高い人には出せないような感覚──衝動的で哲学的、皮肉でロマンチック、パンキッシュで繊細──といった絶妙なバランス感や身体的な感覚についても興味があった。

 今回の新作『Forever Forever』は、ラップトップ上で制作された前作『Dizzy Strange Summer』から一変、ルイス・コール(ds)、ダニエル・サンシャイン(ds)、ペドロ・マルチンス(g)、チキータ・マジック(Syn-Bs)、クリス・フィッシュマン(p)といった多くのメンバーが参加した、スタジオ・レコーディングだ。彼女が書いたビッグ・バンドのための曲が半数を占め、これまで積み上げてきたオーケストレーションのスキルがミュージシャンたちとの信頼関係によって一層発揮されている。ひとつひとつの素材が生き生きと立体的に描き出されているのだ。振り返れば、今作の重要人物、ベドロ・マルチンスが2019年に出していた、アントニオ・ロウレイロ(ds)、フレデリコ・エリオドロ(b)、デヴィッド・ビニー(as)、セバスティアン・ギレ(ts)、ジュネヴィーヴとのライヴ・アルバム『Spider’s Egg (Live)』では、ジュネヴィーヴの声がペドロのギターと有機的に重なる瞬間があり、今作に通じるような音色のレイヤーを聴くことができる。ここで共演したデヴィッド・ビニーは2021年にジュネヴィーヴを迎えたシングルもリリースしており、彼女がいかに現代の俊英たちに影響を与えているかよくわかる。

 そんなジュネヴィーヴが、新作に向かうまでのマインドや、それを形成している生活環境について答えてくれたことは、私たちにも前向きな生き方の示唆を与えてくれるものだった。
 昨年12月のルイス・コール来日公演のオープングステージを見た人は、ジュネヴィーヴが、今作でも存在感を誇るチキータ・マジックこと、イシス・ヒラルドらと組んだ女性チームの表現力の強さに目と耳を奪われたことだろう。そこで断片的に見せていた様々な感情を『Forever Forever』では、愛や感謝、安心といった肯定的な側面に目を向け、それらをミュージシャンたちとともに丁寧に表現している。もちろん彼女の言う「変なコードを使ったりというところは変わらない(笑)」のだけれど。

ポップ・ミュージックがシンプルなコードのみを使ったものでなければならないとは思わないし、ジャズは複雑なコードを多用するべきだとも思わない。ジャンルや曲のタイプに縛られずに自分の書きたいように書いている。

まずイシス・ヒラルドと、フエンサンタ・メンデスとの来日のパフォーマンスのことを聞きたいのですが、このふたりとはいまどんな活動をしているんですか?

ジェネヴィーヴ・アルターディ(Genevieve Artadi:以下GA):イシスとはよく一緒にやっていて。私も彼女のニュー・アルバムの “Dreams Come True” という曲で歌っているし、彼女が私の曲に参加してくれることもあれば、私が彼女の曲に参加することもあるし。パフォーマンスはよく一緒にやっているけど、共同で曲を書いたことはないから、近いうちに曲作りをすることを考えているところ。フエンサンタとは知り合って間もないんだけど、唯一一緒にやったのは、ルイス・コールのメトロポール・オーケストラとのコラボレーションプロジェクトだった。

あなたたちのパフォーマンスは様々な感情の表現があって、女性の感覚もうまく出ているように感じて私は共感したんですが、そういう部分も意識してスタートしたんですか?

GA:あまり男性とか女性とか深く考えたことはないんだけど……とにかくバンドのヴォーカルとして歌いたいと思っていたから、彼女たちとバンドを組んだら楽しいと思った。曲のいくつかは女性的な特性を持っているし、ヴォーカルをレイヤーで重ねるのが好きだから、女性の声の方がいいと思って。とにかく一緒にやったら面白そうと思ったのが理由かな。もちろん男性のミュージシャンともたくさんプレイしているし自分の音楽性に合えば、そこにこだわりはない。なにか主義主張があって決めているわけではなくて。ヴァイブが合えばという感じ。

イシスは、あなたの新作にも参加していますね。新作を作るとき、彼女からどんなインスピレーションをもらいましたか?

GA:彼女には制作の初期の段階から本当に深く関わってもらった。彼女は本当に面白いアイデアをたくさん持っていて、一緒に完成させた曲がいくつもある。それに、彼女から教わったこともいくつもある。例えば、私がきちんと音程を保っていないときは目で合図してくれたり。ライヴのときにはシンセも担当してくれていて、左手でコードを弾いて、右手でメロディを弾きながら歌も歌う。彼女はドラムマシーンもプレイする。彼女の曲を一緒にやったとき、すごく面白いリズムをドラムマシーンで編み出して。全然違う場所からやってきたようなオフセットのリズムで、それを曲にマッチさせていくのがとても興味深かった。それに、何と言ったらいいか……彼女の音楽は、とても強烈な個性と雰囲気を持っていて。そこにとてもインスパイアされる。

働きづめで、自分の時間を楽しむ余裕がなかった。余裕がないから、自分勝手に生きていたと思う。それは自由とは違う。いまは「気が狂っていた時期はもう終わり」という感じ(笑)。

あなたの音楽の経験で気になったことがあるんですが、幼少期にポリネシアン・ダンスをやっていましたよね。あなたの音楽につながっているんじゃなかと思って。

GA:うーん(笑)、そうね……10年ほどやっていたんだけど、ポリネシアン・ミュージックってとてもパーカッションの要素が強くて。6人くらいドラマーがいて、全員が違うリズムを刻んでいる。ダンサーは、リーダーのような人がいてその人の動きに合わせていく感じなんだけど、あまり頭で考えずにリズムを取りながら自由に踊れる感じ。だから、頭で考えずに自然とリズムを自分の中に取り込むことには役立ったかもしれない。それにメロディがとても綺麗で。綺麗なメロディをリズムに乗せるということは身についたかもしれない。

そもそもポリネシアン・ダンスに興味を持ったのはどういうきっかけで?

GA:母がフィリピンに住んでいたことがあって、そのときに興味を持ったみたい。詳しいことはわからないけど、先生をつけてそれなりに本格的にやっていたんだって。子どもの頃、母が姉にポリネシアン・ダンスを教えていて、それで家族でパームデールに移り住んでからも姉はいろいろなグループと一緒にダンスを続けていて。そこで知り合った女性……私の将来の義姉になる人なんだけど、彼女の家族はサモア人で、「一緒に踊らない?」と誘ってくれたのがきっかけでやり始めた。

面白いですね。それとブラジル音楽との関わりも興味があるんですが、あなたはアントニオ・カルロス・ジョビンの “Caminhos Cruzados” から影響を受けていますね。あなたの作ったビデオで知りました。

GA:カレッジ時代にヴォーカル・グループを指導していた先生に教えてもらった。初めて聴いたとき、「ワーオ、これは一体何!?」って感動して。あんな美しいメロディやハーモニーや歌声はそれまで聴いたことがなかった。色鮮やかで豊潤で……それでいて余計な装飾が何もなくて。見せびらかすような派手な演出は一切なくて、ただ感情の深みが表現されていて。この曲が持つメロディやハーモニーの展開にとにかく惹きつけられた。その頃、10曲かそのくらいブラジル音楽の曲について学んだんだけど、本格的にブラジル音楽を聴くようになったのは数年前にペドロ・マルチンスに出会ってから。

ペドロは今回のアルバムの全曲でギターを弾いているし重要な存在ですよね。彼との出会いと今回のコラボレーションのきっかけを教えてください。

GA:もともと私がこの “Caminhos Cruzados” を自分で歌った動画を投稿したことがきっかけだった。それをペドロが観て「君がポルトガル語で歌えるのは知らなかったよ」ってメッセージを送ってきて。ペドロがブラジル出身のミュージシャンだったことは知っていたけど、実際に会ったことはなかった。それで私がロンドンにいるときに、彼がメッセージを送ってきて。「ちょうどロンドンでアルバムのミキシングをしていて、君のショーを観に行きたいんだけど」って。それで、「一緒にステージでプレイしてみない?」と訊いたら、快諾してくれて。でも実際に顔を合わせたのはステージの上なの。その前に会うタイミングがなかったから、「ペドロ・マルチンス!」って彼の名前を呼んで、それでペドロがステージに上がった。それが出会い。そのあとすぐにペドロが、友人でベースプレイヤーのフェデリコと一緒にLAに来た。それで私たちの家に滞在して、セッションしたり一緒にギグを観に行ったり、音楽的なことを中心にして親交を深めていった。

なるほど。あなたの作品にブラジル音楽はどんな風に入っていますか?

GA:いかにもわかりやすい形で取り入れているとは思わないし、そうするつもりもない。どこかで影響を受けてはいるんだろうけど、自分の曲を書くときはあまり意識していないと思う。ただ、ブラジル音楽の持つ美しいメロディやハーモニーを思い出して、そんな曲を書いてみたいと思うことはある。

その曲作りのことなんですが、ジャズのヴォイシングやヴォーカル・アンサンブルをカリフォルニア大学で学んでいますよね。このときの経験はどのように生かされていますか?

GA:大学に通う前にもバンドを組んでいたことはあるけど、当時は曲の書き方もよく理解していなかったから、同じようなコードやメロディばかり繰り返し書いていた。だから、大学で違うコードの使い方やメロディの書き方、管弦楽法や他のミュージシャンと一緒に音楽を演る方法やインプロヴィゼーションの方法なんかについて広く学ぶことができたと思う。その上で私がいちばん気を付けていることは、自然な流れで曲を書くこと。ひとつのパートに固執して、そこで立ち止まってしまわないようにすること。教師は、曲の構成についてある一定のルールがあることをとても重要視していて、ここでこのコードは間違っている、このコードの次はこれが正しい、という法則に則っているけれど、私はなるべくフォーマットのようなものは考えずに、自然に、好きなように書くように心掛けている。ポップ・ミュージックがシンプルなコードのみを使ったものでなければならないとは思わないし、ジャズは複雑なコードを多用するべきだとも思わない。ジャンルや曲のタイプに縛られずに自分の書きたいように書いている。いちばん大切なことは、私が何を表現したいかということだと思っているから。だから、もちろん大学で学んだ音楽理論は役には立っているけど、それよりもコードの持つトーンや色味や、音楽の歴史のようなものの方が身についているような気がする。

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なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。

前作からあなたの声の質感も変化しているように感じます。あなたは技術的にどうやって声をコントロールしていますか?

GA:それについては意識的にかなり自分でも努力してコントロールしている。今回のアルバムに関して言えば、曲作りとスタジオでのレコーディングの間にかなり時間があったから、何度も何度も歌を練習した。いくつかの曲はライヴで演奏したりもした。それで、実際にスタジオに入ったときには、ほぼワンテイクでレコーディングするようにしたかった。家で録音してみて歌い方を考えたりして、スタジオでは完璧に歌いこなすことで、歌に集中できるようにして。

私は前作の『Dizzy Strange Summer』を聞いて、愛の複雑さや自由への欲求を感じました。これを聞いた後に新作『Forever Forever』を聞くと、気持ちが洗われるような美しさや秩序を感じました。このアルバムを作るまでにどんな気持ちの変化がありましたか?

GA:いくつか大きな出来事があったけれど、いちばん大きかったのはペドロとの出会い。彼と付き合うようになったのは、私にとって本当に大きな変化だった。自分自身と向き合うようになったというのかな。自分の問題に向き合えるようになった。彼との関係を深めていく中で、瞑想を始めたり、本を読むようになったり、ティク・ナット・ハンやラム・ダスのビデオを観たり……自分を見つめ直したり、より健康な生活を意識するようになった。ちょうど彼と出会った頃は自分をもっと解放すべき時期に来ていたんだと思う。それまでの私は働きづめで、自分の時間を楽しむ余裕がなかった。余裕がないから、自分勝手に生きていたと思う。それは自由とは違う。いまは「気が狂っていた時期はもう終わり」という感じ(笑)。

(笑)どんなことを毎日の習慣にしているんですか? いまお話にも出ましたが、健康的な食事生活や、瞑想など何かルーティーンにしているものがあれば教えてください。

GA:可能な限りヴェジタリアンを選択している。充分なプロテインが摂れないときは卵を食べたりするけど、なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。本当は瞑想する日もあればしない日もあるというようにしていきたいんだけど、瞑想するのとしないのでは私の心身の状態が全然違うの。

以前に比べて、精神的に落ち着いたり穏やかになったりしたと感じますか?

GA:そうね、前ほど感情的な起伏もないし、周囲の人たちに対してとても忍耐強くなったと感じる。自分の心の中に余裕が生まれたというか。家でひとりでいるときは前から心に余裕があったんだけど、逆にだらしなく過ごしてしまっていたし(笑)。でもいったん外に出ると、自分の社会での立ち位置というか、役割をつねに考えてしまっていた。なるべく聞き役に徹して、相手に緊張感を感じさせないようにしたり。私と話した人はみんな「君と話していると自分らしくいられる気がする」というようなことを言ってくれるんだけど、私自身は気を使いすぎてクタクタになってしまっていた。でもいまは人付き合いを円滑にできるだけのエネルギーを得た感じ。

先ほどお話しに出たティク・ナット・ハンのことをもう少し聞きたいです。

GA:私は何かの問題にぶつかると、すぐにグーグルに訊いちゃうよくないクセがあるの(笑)。でもそんな問題の答えをググってみても「そんなやつ追い出しちまえ」「あなたはそんな目に合うべき人間じゃない」みたいな、怒りに満ちた答えしか見つからなくて。でも、その自分の問題と仏教、ってググると、もっと根本的な解決方法が見つかることに気づいた。そこからティク・ナット・ハンのような名前に行き着いて、彼の本を読んだりビデオを観たりした。彼の言葉には本当に助けられた。

彼の教えであるマインドフルネスについて、あなたはどんな風に考えていますか。

GA:とても美しい考え方で……すべての人に彼の教えを実行してほしいと願っている。例えば、彼はイスラエルやパレスチナの人たちをひとつに結ぶことができると語っている。どんな人間同士でもコミュニケーションは可能であるということ、互いをコントロールすることは可能であるということ。それは戦いで相手を屈服させるという意味ではなくて、互いを尊重し合うということ。自分自身を大切にすることができれば他人を大切にすることもできる。自分の愛する人を大切にすることができるということ。私はほとんどの場面ではかなり忍耐強い人間だとは思うけど、いくつかの地雷があって、それを踏まれると怒りをコントロールできなくなるところがあった。でも、彼の教えを実行していく中で、かなり自分を律することができるようになってきたと思うし、これからも続けていきたいと思っている。

ティク・ナット・ハンのそんな考えは、あなたの今の音楽にも影響していますよね?

GA:そうね、そう思う。歌に対するアプローチに影響を与えていると思うし、音楽づくりのプロセスの中で、自分自身を律して根気強く向き合うことを教えてくれたと思う。自分の頭の中で考えすぎずに、人の意見もよく聞くようになったと思う。それに、自分の音楽をよく聴いて、いま自分がやるべきことや置かれている状況をよく理解することで、すべてのことがうまくいくようになったと思う。

できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。

では今回のアルバムは、具体的にはどのような順番で作られたのですか?

GA:曲を書くときはいつもできるだけ自分の頭の中にあるアイデアを明確にしてから書くようにしている。ジャム・セッションは緊張するというか、得意ではないからそこから曲を作ることはほとんどない。2019年にスウェーデンのノーボッテン・ビッグ・バンドから、専属の作曲家にならないかというオファーがあって。それでコンサート用の曲をいくつか書いてデモを作った。コンサートが終わったあと、書き下ろした曲の半分を自分のソロ・ルバムに入れたいと思って。だからこのアルバムの曲のいくつかはふたつのヴァージョンが存在することになる。それからアルバム用に曲を書き足していって、スタジオでバンド・メンバーと相談しながら「ここにこれを入れよう」「このソロは誰が弾く?」という調子で作っていった。ああ、中にはそれより前に書いた曲もあるね。いちばん古いものは2017年頃に書いたんじゃなかったかな。とにかく、スタジオでみんなでアイデアを出し合って作ったものだけど、全体的なヴィジョンはすでに私の中にあって、それを明確にしてからレコーディングに入るというプロセスが私のやり方。

参加したミュージシャンからどんなアイディアや個性を引き出しましたか?

GA:ルイス・コールは全体に魔法を使ってくれた。それにピアノのクリス・フィッシュマン、ダニエル・サンシャインはドラムを何曲かと、ミックスとマスターを担当してくれたし、ヘンリー・ハリウェルがエレクトロニックな部分をやってくれた。彼は、私が作ったデモの何曲かのドラムをもっとクールなものにしてくれたりした。それと何曲かではダリル・ジョンズがベースを弾いてくれている。

Knower でのデビュー時からあなたの作曲の才能はとても評価されているし、今回特にあなたのプロデュース能力も発揮された内容だと思います。プロデューサーという立場で、この作品をどのように解釈し作ったか教えてください。

GA:そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。今回は、当初はビッグ・バンドのために作曲したから、いままでのようなプロセスは踏めなかった。いつもはデスクに向かって自分のアイデアをクリアにしていく作業なんだけど、どんな音を実際に入れるかというのはそれほど選り好みしないで曲を作っていった。でも、今回はここでサックスを入れる、ここで自分のヴォーカルをレイヤーで重ねる、というそれぞれのパートを曲作りの段階で細かく決めていく必要があった。もちろんどうしても隙間ができるから、それを少しずつ埋めていく感じの作業だった。ビッグ・バンドとレコーディングするわけだから、全てのパートにおいて私が指示を出せなければ曲を作ることは不可能でしょう? だから作曲と同時にプロデュースもすべておこなうというプロセスだった。演奏する人たちが興味を持ち続けられるように、その上で私がどんな曲にしたいか、そのヴィジョンを明確にするということに集中した。このアルバムはその延長上にあるものだと解釈している。

歌うことだけではなくプロデュースをすることや曲を作ることのやりがいはなんですか? 挫折しそうになったときは、どうやって乗り越えましたか?

GA:私はけっこう選り好みするタイプ。歌を歌うときは、その曲が「良いもの」(笑)でなければイヤなの。私はつねに自分がどんなものを求めているのか、明確なヴィジョンがあるけれど、それをどうやって実現すればいいかはわからない。とてもフラストレーションを感じる。自分が信頼している人と曲作りをするときはスムーズにやりたいことに近づけることができるけど、そうでない場合はまずは意思表示して、私の描いているものを理解してもらう必要があるでしょ? それがなかなか伝わらなくて、相手も「結局何がやりたいの? 自分にどうして欲しいの?」って戸惑うことになってしまう。すごく時間が掛かるし、できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。だから、私は信頼する人たちと一緒に音楽を作るべきだという風に考えるようになった。もちろん誰かと一緒に作品を作るときは、それぞれのスケジュールを合わせなければいけないから、途中で長いこと待つ時間が必要になることもあるし、スケジューリングは本当に大変な作業。それでも、スタジオでコラボレーションをするのはとても好き。音楽づくりはそもそも共同作業だと思っているし。だから、私はプロデュースをするときも、みんなの意見にとてもオープンであるようにしている。それも、ただイエス・ノーを言うだけの存在ではなくて、いろいろな意見やアイデアを交わしながら一緒に作っていくことに積極的だと思う。でも最終的な判断を下すのは自分。自分の作品をプロデュースするということは、自分に決定権があって、最終的には自分の満足のいく作品にできるということ。とてもやりがいを感じる。

とても興味深いですね。スタジオでの作業を見てみたいです。今後コラボレーションしたいアーティストや、これからの予定を教えてください。

GA:そうね……ライアン・パワーとぜひ何か一緒にやりたい。ステレオラブレティシア・サディエールともぜひコラボレーションしてみたい。とにかく自分の好きな人たちと何か一緒にやれたらいい。ビョークともやってみたいけど……彼女がオファーを引き受けてくれるとは思えないけど(笑)。それと、すでに次のアルバムの構想ができあがっている。アニメを大量に観ていた時期だから、それに影響を受けたロックっぽい内容になるかもしれない(笑)。今回のアルバムとはかなり違ったものになりそうだけど、それでも変なコードを使ったりというところは変わらないと思う(笑)。

Main Source - ele-king

 VINYL GOES AROUNDから新たなアイテムの登場だ。今回は90年代ヒップホップを代表する金字塔、当時のニューヨークの熱気を伝えるメイン・ソースのファースト『Breaking Atoms』(1991年)がボックスセットとなって蘇ることになった。本編の2LPに加え、アルバムの顔とも言える “Looking At the Front Door” やあのナズの世界初登場曲 “Live At The Barbeque” などを切った、4枚の7インチが付属する(すべてピクチャー・ヴァイナル仕様)。ナンバリング入りの限定商品とのことなので急ぎたい。

MAIN SOURCEの伝説のファースト・アルバム『Breaking Atoms』がついにBOXセットになって発売!

90’sヒップホップ最高峰の名盤として今でも語り継がれているMAIN SOURCEのファースト・アルバム『Breaking Atoms』の2LPと4枚の7インチを収めたBOXセットがVINYL GOES AROUNDから発売されます。『Breaking Atoms』は言わずと知れた “Looking At The Front Door” や “Just Hangin’ Out” 等のヒップホップ・クラシックを生んだ名盤中の名盤!
またここに収録の名曲を組み合わせた7インチもそれぞれ4枚カット! これら全てがピクチャー・ヴァイナル仕様。特製のBOXにまとめて販売します。
今回も超限定(ナンバリング入り)での販売となりますのでお早めにお買い求めください。

Includes...
・Breaking Atoms 2LP
・Live At The Barbeque / Large Professor 7"
・Looking At The Front Door / Snake Eyes 7"
・Just A Friendly Game Of Baseball / Vamos A Rapiar 7"
・Fakin' The Funk / He Got So Much Soul (He Don't Need No Music) 7"

VGA-5011
MAIN SOURCE
BREAKING ATOMS - PICTURE DISC BOX

¥18,000
(With Tax ¥19,800)

*Free shipping within Japan for purchases over 10,000 yen.
※1万円以上のお買い上げで日本国内は送料が無料になります。

*Exclusively until April.3 2023.
※期間限定受注生産(~2023年4月3日まで)

*The products will be shipped in late April 2023.
※商品の発送は 2023年4月下旬ごろを予定しています。

*Please note that these products are a limited editions and will end of sales as it runs out.
※限定品につき無くなり次第終了となりますのでご了承ください。

https://vga.p-vine.jp/exclusive/vga-5011/

Kassem Mosse - ele-king

 ガンナー・ヴェンデル、カッセム・モッセ名義4枚目のアルバムは古巣、ロウテック率いる〈Workshop〉から。本名義での〈Workshop〉からのリリースはというと、コレより前がファースト・アルバムにあたるLP2枚組『Workshop 19』が2014年、ということでココからのリリースはじつにひさびさ、9年ぶりの作品となるわけですね。もろもろのコラボやライヴ盤などを除くと名門〈Honest Jon's Records〉からの2016年『Disclosure』、続く、自身のレーベル〈Ominira〉からは『Chilazon Gaiden』を2017年にリリースしています。またマンチェスターのレフトフィールド・テクノなレーベル〈YOUTH〉(〈PAN〉の切り開いた「その後」を個人的には感じてしまうレーベルです)から、別名義の Seltene Erden で2020年にリリースしたり。また上記のようにコラボや DJ Residue 名義で〈The Trilogy Tapes〉からアブストラクトな電子音響作品『Residual Manifesting』のテープ・リリースもありますが、今回は待望の本名義のアルバムと言えるのではないでしょうか?

 2010年前後、〈Workshop〉がもろにそうですがディープ・ミニマルからの、セオ・パリッシュなどのローファイでラフなハウス・サウンドを昇華したある種のジャーマン・ディープ・ハウスの新たな展開、そうした流れの象徴的なアーティストのひとりとしてあげられるのではないでしょうか。そのサウンドは上記『Workshop 19』あたりを聴いていただければと思いますが、セオ・パリッシュの影響を感じさせるビートダウン・ハウスを、さらにドイツ流にミニマルにクリアに展開といった感覚のサウンドで注目を集めました。
 さて時系列的にそのサウンドの流れを追うと、セカンド『Disclosure』はちょっと異質な作品で、ディスコグラフィーを後から見渡すと、どちらかと言えば Seltene Erden 名義や DJ Residue 名義のアブストラクトな電子音の冒険の前哨戦といった感じもします。前作にあたるサード『Chilazon Gaiden』は、そうした電子音の実験がストレンジな音感のハウス・グルーヴへと進んだ感覚で、ファースト『Workshop 19』が醸し出すムードとも、セカンドの電子音響的な実験的な世界観とも違ったシンプルなリズムの探求を目指した結果という感覚もします。どこかグルーヴだけを手がかりにストーリーやムードといった表現を排除したような、「鳴っている」ことの面白さを極めているようなそんな作品です。

 こうしたキャリアのなかでリリースされた本作は『Chilazon Gaiden』で示されたクリアな質感とシンプルなリズムを表現の中心に備えた作品ではありますが、同時に初期にあったデトロイト・ディープ・ハウスの影響を後半に見せてもいるのが特徴ではないかと。アルバム冒頭、シンプルなフレーズとパーカッションが蛇行したグルーヴを淡々と作る “A1”、彼の真骨頂とも言えるディープ・ハウス・トラック “A2”。このあたりはリズムの冒険を中心に据えた楽曲と言えると思いますが、こうした楽曲でこれまでの作品になかった要素としてあげられそうなのは、ダビーとも表現できそうなサブベースの使い方(サブスク音源だったりあまり現代的でない指向性のスピーカーだとそれほど伝わらないので再生環境に注意が必要ですが)。ミキシングなのか機材なのかマスタリングなのか判断しかねますが、本作の下の方でブンブンと低音が鳴っているのが結構印象としては強いアルバムです。
 リカルド・ヴィラロボス的なサイケデリアを発する “C1” やキックを排した “D2” などの楽曲にもやはりベースラインがよりサウンドの要として活躍しています。リズム、フレーズ、そしてスウィングする地鳴りのようなサブベース、この3つの要素が有機的にからんでグルーヴを作り出していく、そんな印象を受けます。“B1” や “B2” はベースラインの印象は薄いですが、初期ハーバートあたりを彷彿とさせるストレンジなファンクネスです。このあたりの要素は『Chilazon Gaiden』の先にある作品であることは間違いないでしょう。そしてアルバム後半はハイライトとも言える “C2” 以降、前作にはなかったストリングスが流麗にムードを作り出していて、このあたりは逆にファーストあたりで見せていたデトロイト・ディープ・ハウスの影響をひさびさに感じさせるサウンドになっています。アルバムのラスト “Provide Those Ends” は “C2” のダブ・ヴァージョン的な趣ももあります。

 テクノ由来の電子音の実験性が醸し出すストレンジな感覚、淡々とどこまでも続く抑制的なディープ・ハウスのグルーヴ、このふたつの有機的な絡み合いがこの名義の魅力と言えるとは思いますが、本作では彼のキャリアをひとつ総括するように、その才覚が遺憾なく発揮されています。サブべースの援用はもちろん昨今の制作ソフトウェアや機材、モニタリング機材、PAを含めた再生・音響技術の変化といったテクニカルなところから、不断となったベース・ミュージックとハウス/テクノの関係性というモダンなシーンへの反応というアップデートを示すものとも言えるでしょう。ともかく、なんというかミニマルなジャーマン・ディープ・ハウスの真骨頂、そんな言葉が浮かぶアルバムです。アゲず、終わらずなグルーヴの感覚、そこから導き出されるヒプノティックないわゆる「ハメ」の感覚は、バシッとDJプレイでハマったときに「アレからのコレ」なのか「コレからのアレ」なのか、まぁともかくこうした楽曲の真価はそうした瞬間に訪れるものですよね。

Autechre - ele-king

 90年代後半には Max/MSP を導入し、初期のサウンドから大いなる飛躍を遂げたオウテカ。そんな彼らの「中期」とも言える00年代を代表する名作──忘れもしない春、転げまわる小さな金属球のごとき独特の響きがいまでも耳にこびりついている “VI Scose Poise”、同曲で幕を開ける『Confield』(2001年)と、同作をさらに発展させメロディアスな瞬間もたびたび顔をのぞかせる『Draft 7.30』(2003年)の2タイトルが、去る2月24日に(オリジナル盤リリース以来)初めてヴァイナルでリイシューされている。
 その復刻を記念し、両作をモティーフにしたTシャツおよびロングスリーヴTシャツが数量限定で発売されることとなった。現在ビートインクのオフィシャルサイトにてオンライン受注がスタートしている。締切は3月26日、商品の発送は4月中旬からとのこと。そういえば『Confield』も『Draft 7.30』も出たのは4月だった。訪れる春、オウテカを着て、オウテカを聴こう。

『CONFIELD』と『DRAFT 7.30』
オリジナルリリース以来初のヴァイナル・リイシューを記念し
サステナブル素材を使用したTシャツと
ロングスリーブTシャツが数量限定で発売決定!


Confield Black T-Shirt ¥5,500 (税込)
ECOPETのリサイクルポリエステルを採用
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13311


Confield Charcoal Grey Long Sleeve T-shirt ¥8,800 (税込)
オーガニックコットン100%
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13313


DRAFT 7.30 Black T-Shirt ¥5,500 (税込)
ECOPETのリサイクルポリエステルを採用
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13312


DRAFT 7.30 Charcoal Grey Long Sleeve T-shirt ¥8,800
オーガニックコットン100%
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13314


label: Warp Records
artist: Autechre
title: Confield
release: Now On Sale
BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13255

tracklist:
01. VI Scose Poise
02. Cfern
03. Pen Expers
04. Sim Gishel
05. Parhelic Triangle
06. Bine
07. Eidetic Casein
08. Uviol
09. Lentic Catachresis


label: Warp Records
artist: Autechre
title: Draft 7.30
release: Now On Sale
BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13256

tracklist:
01. Xylin Room
02. IV VV IV VV VIII
03. 6IE.CR
04. TAPR
05. SURRIPERE
06. Theme Of Sudden Roundabout
07. VL AL 5
08. P.:NTIL
09. V-PROC
10. Reniform Puls

interview with Sleaford Mods - ele-king


Sleaford Mods
UK GRIM

Rough Trade / ビート
※ウィットに富んだ歌詞対訳付き

RapElectronicPost Punk

beatink.com

 いまのぼくがスリーフォード・モッズを愛し聴いているのは、UKの労働者階級に特別な共感があるわけでもなければ、今日のUKの政治的惨状を理解しようと思っているからでもない。そんなこと知ったこっちゃないし──というか、このおよそ10年ほどの我が国たるや、UKのことを案じるほどの余裕をかましている場合ではないのだ。ここ日本から見たら英国なんて腐っても英国であってはるか天上。かつてザ・クラッシュが歌ったセリフを借用して返してやろう。あんたら英国が悲惨だとしたら俺ら日本はどうなるのかと。
 ぼくのスリーフォード・モッズへの愛は、パンクへの愛だ。パンクの魅力のひとつはウィットに富んでいることにあるが、スリーフォード・モッズにはウィットがある。ウィットというのは “賢くて面白い” ことで(つまりバカにウィットはない)、セックス・ピストルズはウィットの塊だった。これにぴったり意味の合う日本語はおそらくないが、忌野清志郎にはウィットがあった。もちろん優れたブラック・ミュージックには優れたウィットの使い手が数多く存在し(その代表をいまひとり挙げるならジョージ・クリントンで、ぼくはサン・ラーもウィットの名人だと思っている)、一流のウィット使いはメタファーやダブル・ミーニングを巧みに多用する。スリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンもメタファーとダブル・ミーニングの達人だ。『UK GRIM』=「悲惨なUK」もしくは「UKグリム(グリム童話、狼=資本主義に襲われる赤ずきんちゃん=庶民)」、あるいはまた、 “GRIM” に “E” を足して「グライム=汚れ」。
 スペシャル・インタレストもそうだが、パンク・ロックはそして、最悪な社会状況をネタにしながら最高にクールな音楽がこの世界にはあるという夢のある話をいまも保持している。深刻な現実があってタフな人生がある、が、それに打ち勝つことができるかもしれないという素晴らしい可能性、自分が自分自身であることを強調し(だからこの音楽は早くから女性や性的マイノリティに受けた)、この社会のなかで生きることを励ます音楽、それがパンクでありスリーフォード・モッズの本質である。
 というのも、彼らはマイブラやブラーやレディオヘッドよりも若いのに、彼らだけが “中年” と言われ続けている(ビートインクの過去の宣伝文句を参照されたし)。しかしながらこれは、ジェイソンとアンドリューがそれだけ苦労してきたことを意味している。つまり彼らは、人びとから無視されている報われない人たちの気持ちをより理解する能力を持っている可能性が高いということの証左でもあるのだ。また、スリーフォード・モッズの快進撃からは、こうしたロックやパンクやラップやエレクトロが、昔のように、若者だけの特権ではなくなったということもあらためて認識させられてしまう。彼らがブレイクしたのは40を過ぎてからだが、スリーフォード・モッズのサウンドと言葉は、笑えるがシリアスで、誰もそれをやっていなかったという意味において“新しかった” し、クリエイティヴだった(クリエイティヴであることを放棄していなかった)のである。これは人生論としても意味があるだろう。
 だから彼らの最新アルバムとなる『UK GRIM』は、こういう怒った音楽が21世紀にも生まれているのだという、年老いた元パンクにありがちな郷愁めいたところで評価する作品ではない。だいたい、アルバム冒頭を飾る表題曲の寒々しいベースが刻まれ、ビートが発動し、ジェイソンのラップが絡みつくと、もう居ても立ってもいられずにジャンプするしかないのだから。チキショー、なんて格好いいんだ。もっともアルバムは3曲目にとんでもない殺し屋を用意している。挙動不審で逮捕されたくなかったらドライ・クリーニングのフローレンスをフィーチャーした曲、 “Force 10 From Navarone” を間違っても渋谷を歩きながら聴かないことだ。これはザ・フォールの“トータリー・ワイアード” やPiLの “アルバトロス” のような、冷たいからこそ炎が燃えるタイプの曲で、希望を持てずに政治不信に陥っている民衆の醒めた感性と確実にリンクしている。アルバムはほかにも良い曲が目白押しで、 コニー・プランク&DAFを彷彿させる“Right Wing Beast(右翼の野獣) ” や トライバルなリズムを使った“Tory Kong(保守党コング) ” といった賢く笑える題名をもった曲もあれば、メロディアスなピアノを挟み込んだニュー・オーダー風の “Apart from You”、シンセ・ポップとオールドスクール・ヒップホップの中間にあるような“Rhythms of Class” も面白い。とにかくアンドリュー・ファーンは、最小の音数で、しかしヴァラエティに富んだサウンド作りに腐心し、それはかなりの確率で成功している。

 今回の取材にはサウンド担当、アンドリュー・ファーン(ステージ上で、静かに立ちながらボタンを押している男である)にも参加してもらった。彼の登場はエレキングでは初めてなので、エディットは最小限にとどめて掲載することした。彼らの誠実な人柄が見えると思うし、10年前と変わらない彼らのアティチュードもたしかめることができるはずだ。最初のほうではファッションについても話している。ジェイソンが服を好きな話は有名だが、アンドリューのTシャツ趣味にも前々から興味があったのだ。
 インタヴューを最後まで読んでいただければわかるように、国としては英国のはるか下にいる日本だが、同じように政治に絶望している人びとにとっての打開策においては、意外と共通し共有しうるヴィジョンがあるようで、そのこともまた、国も言語も違えどスリーフォード・モッズを好きになれる理由なのだろう。UKはお前の声なんか聞いちゃいないと、アルバムの冒頭でジェイソンは繰り返しているが、そこは日本もまったく同じ。たとえそうでも、スリーフォード・モッズとはこういうことなのだ──窮地に追い込まれても思い切りジタバタしよう、諦めずに言うことだけは言っておこう、で、楽しもうと、それはおそらく健康に良い。そう思いながら、今日もジタバタしよう。

だからアンドリュー、お前ははじめから、最初からモノにしてたんだと思う。俺たちの初期の写真から最近のものまで眺めてみても、お前は一貫してぴったりハマってた。お前の服装センスは生き残った、みたいな(笑)。

今年はちょうど、『Austerity Dogs』を出してから10年になるんですよね。その後スリーフォード・モッズ(以下、SM)は評価され、ファンを増やし、あなたがたの生活も音楽へのアプローチもだいぶ変わったと思いますが、新作『UK GRIM』を聴いて、SMのパッションも怒りもまったく変わっていないことに感銘を受けました。自分たちではそのあたり、どう思いますか? 

ジェイソン:あー……とにかく、自分たちのやってることが相当に気に入ってる、ってのがあるんじゃない? 俺たちはなんであれクズなことは絶対にやるつもりがないし……それだと、俺たちの場合はとにかくどうしたって機能しないんだ。俺たちが興味を掻き立てられる何かである必要があるし、かつ、自分たちもその上にしっかり足を据えて立てるものじゃなくちゃならない。ってのも、そうじゃなかったら、不愉快なものになるだろうし、俺たち自身にとってもあんまり良くない何かに変わってしまうわけでさ。でも、俺にとって運が良かったことに、「良い作品を作りたい」って点に関して、自分と同じくらい目先が利いてて鋭く、かつパッションのある――俺は自分はそうだと思ってるんだけど――そういう人間に出会うことができたんだよね。だから、そんな俺たちふたりが合わされば自分は心配する必要はない、ってのかな……要するに、アンドリューは標準以下な質のものには一切我慢しないし、うん、とにかく彼は妥協しないんだ。というわけで、それがあるから、すごくうまくやれてるっていう。

アンドリュー:(うなずきつつ)もうちょっと「誰のお口にも合う」ようなアルバムを作っていたとしたら、きっと俺たちは自分たち自身にがっかりしちゃうんじゃない?

ジェイソン:ああ、だと思う。でも、そうは言いつつ――アンドリュー、お前も以前に言ってたけど、本当に良い作品が生まれるのには、アルバムごとにある程度の運の良さも伴うものだ、って点もあるんじゃない? またも素晴らしい歌を書けて俺たちはすごくラッキーだな、と思うし。実際、これらはグレイトな楽曲群だし、俺たちは今回のアルバムを本当に誇りに思ってる。それはすべての曲に言えることであって。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:でもまあ……どうなんだろうな、自分でもわからない。とにかくハード・ワークと固い決意の産物じゃないかと俺は思うけどな……。

アンドリュー:うん、それだね。そうは言っても、はじめのうちは幸運にも恵まれたよな、じゃない?

ジェイソン:たしかに。

アンドリュー:俺たちのはじまりの時点ではツキがものを言った。ただ、なんというか、俺たちのいる音楽の世界――っていうか、これはどのメディア(媒体)形態でもそうなんだけど――いったんドアが開いてなかにさえ入れれば、他の連中よりももっと多くの機会に恵まれるようになる、そういう世界で俺たちが生きているのは事実なわけで。

ジェイソン:うんうん。

アンドリュー:悲しい話だけど、現実はそうなんだよね。

ジェイソン:まあ、そういう仕組みだからな。

アンドリュー:ああ。で、誰であれあのドアを抜けることができた奴は、ドアを潜った際の自分にあったもの/それまでやっていたことを維持する必要があると思うけど、残念ながら多くの人間がそれを棄てているよね。で、音楽産業に吸収されてしまう、というか。

ジェイソン:その通り!

アンドリュー:それをやったって、良いことはなんにもないよ。だから、それでクソみたいなアルバムを作ることにして、でもやっぱり失敗したから、デビュー時にもともとやっていたことに立ち返りました、なんてバンドもなかにはいるわけで。自分を曲げずに頑張り続けなくちゃ(笑)!

ジェイソン:だな、自分を通さないと。

不平だらけ。ほんとブーたれてる。で、ほんと、いまってそれくらい悲惨なことが余りに多過ぎだしさ……しかも、この状態はまだこれからも続くと俺は思う。

アンドリューさんは主にビート/音楽面を担当していますが、SMにとってのこの10年で変わったこと変わらなかったこととは何だと思いますか? あなた自身の機材やギアはどう変化しました?

アンドリュー:ああ、毎回、少しずつ変わってるんだ。思うに、過去10年くらいの間に、音楽作りのためのテクノロジーは以前よりずっと安価になったし、ちょっとしたギアもあれこれも比較的買いやすくなって。だから、何か新しいガジェットを購入したら、それが自分にとって音楽をもっと作るインスピレーションになる、という。それはやっぱり、使えるお金がいくらかあるところの利点だよね、対して以前の自分は全然お金がなかったから。昔はジェイルブレイク済みのiPad(※jailbreak=脱獄。基本iOSを改変し使用できるアプリや機能を拡張すること)を持ってて――

ジェイソン:ハッハッハッハッ!

アンドリュー:(笑)おかげで、無料のキーボードだのシンセだののソフトウェアを全部使えてさ。それって良いよね。何か新しいものを作り出すために、別に多くは必要ないってことだから。
ジェイソン:ああ、それは必要ない。

せっかくの機会ですし、アンドリューさんに訊きたいことがほかにいくつかあるんですが、まずはあなたのTシャツの趣味について質問させてください。

アンドリュー:(苦笑)オーケイ!

ジェイソン:(爆笑)

坂本:(笑)。たとえば今日は「HARDCORE」とロゴの入ったTシャツでかっこいいですが、これまでピカチューであるとか――

アンドリュー:(笑)うん、あのピカチューTはまだ持ってる!

坂本:シンプソンズ、はたまたディズニーのパロディTであるとか、いつもユニークなTシャツを着ていますが、どんなこだわりがあるのでしょうか? 

アンドリュー:(笑)まあ、単にヴァイブってことだよ! とにかくパッと見て、「これはイエス」、「これはノー」、そのどっちかに分かれるしかないっていう(苦笑)。だから、別にギャグとして笑えなくたっていいんだし……要はファッションと同じ話というのかな、「これ、自分は着るだろうか、それとも?」ってこと。うん、基本的にはそれだけ。

坂本:なるほど。

アンドリュー:まあ、たまには背景にちょっとしたストーリーが含まれることもあるけどね……。あ、たとえば、いま話に出たディズニーのパロディT(※「Walt Disney」のお城のロゴを「Want Drugs?」に書き換えたもの)、あれは色んなTシャツを作ってるイタリア人男性の製作したもので、彼は俺にああいうおふざけTをたくさん送ってくれるんだよ。でも、それにしたって、俺がいつもある種の類いのTシャツを着てるからなんだろうしね、うん(笑)。

ジェイソンさんは服装にこだわりがあると思いますが、アンドリューさんのファッション・センスに関してどのような意見をお持ちでしょうか? たまに「こいつ、いったい何着てるんだ?」と思ったりしませんか?

アンドリュー:ブハッハッハッハッ!

ジェイソン:ああ、たぶん、若い頃の俺だったらそう思ってただろうな。若いとほら、まだもうちょっとナイーヴで、頭が悪いもんだし――

アンドリュー:うん。

ジェイソン:――それでこの、「バンドってものはこういうルックスであるべき」云々の概念でガチガチなわけで。

アンドリュー:だよな、うんうん。

ジェイソン:でも、思うに、俺たちも歳を食うにつれて――だから、誰でもある程度の歳になると、「人間は人間なんだし」ってことになるんじゃない? 歳を重ねて何かが加わるっていうか、要するにアンドリューはアンドリュー自身でいるだけなんだし、彼が彼以外の他の誰かになろうとしたって意味はない。同じことは俺にも当てはまるし、自分以外の誰かになろうとは思わないな……そうは言いつつ、俺自身もアンドリューの服装センスからちょっといただいてきたんだけどね。確実に、以前よりも少しカジュアルな方向に向かってる。近頃の俺は、もっとショーツを穿くようになったし。

坂本:たしかに。

アンドリュー:でもさ、ショーツ着用って、それ自体がデカいじゃん? 

ジェイソン:ああ。

アンドリュー:ハイ・ファッションの息の根を止めたのが、実質、スポーツウェアだったわけで……。

ジェイソン:ああ、基本的にそうだよな。だからアンドリュー、お前ははじめから、最初からモノにしてたんだと思う。俺たちの初期の写真から最近のものまで眺めてみても、お前は一貫してぴったりハマってた。お前の服装センスは生き残った、みたいな(笑).。

アンドリュー:(笑)うん。

ジェイソン:お前は見事にやってのけた。

アンドリュー:アッハッハッ!

坂本:(笑)

ジェイソン:いやだから、俺だって、写真のなかでいくらでも自前のデザイナー・ブランド服を着て気取ってポーズを決められるけど、ほかの連中もみんなその手のルックスだと、「それって違うだろ」と思うし。っていうか、ちょっとアホっぽい見た目だよな。

アンドリュー:ああ。

ジェイソン:そうは言ったものの――昔だったらたぶん買う金のなかったような洋服を買うのは、やっぱり躊躇するだろ、お前だって?

アンドリュー:うん、そこだよなー。

ジェイソン:多くの面で、お前はいまやいっぱしの、ファッションの今後の雲行きを予想していく予報官なんだしさ。

アンドリュー:ああ。でもそれをやるのは、時間が経つにつれて、ややこしくなっていくよな。

ジェイソン:うん、(苦笑)予想するのは確実にむずかしくなっていく。そこは、お前もちゃんと考えないと。だけどさ、心配しなくちゃいけないのはかっこいいスニーカーを履いてるかどうか、その点だけに尽きるような時点にまで達したんだから、それってかなりナイスじゃない? ハッハッハッ!

アンドリュー:たしかに、その通り(苦笑)。

アンドリューさんは、Extnddntwrk(extended network)名義でずっとソロ活動もしています。アンビエントやエクスペリメンタル、最新作ではジャングルもやっていますが、こちらのほうのコンセプトもせっかくの機会なので教えてください。

アンドリュー:いや、これといったコンセプトはなくて、完全に自己満足でやってる。思うに00年代あたりって、エレクトロニカのシーンもまだ揺籃期だったんだよな。なかでもとくに、98年〜01年の時期。俺も軽く関わったあの当時のシーンには、誰でもやれる家内工業めいたところが少しあったし、日本もきっとそういう状況だったんだろうと思う。

坂本:ええ。

アンドリュー:ところが、その、いわばポスト・エイフェックス/ポスト・オウテカ的なヴァイブを備えたシーンもいったん終わりを迎えたわけで……もちろんそのシーンはいまも存在してるけど、あの当時の方がはるかに人気が高かった。だからなんだ、さっき言った家内工業的なノリで、俺がアルバムを1枚出したのも。でもまあ、とにかくそういうことだし――かなり「ポスト・エヴリシング」な感じ、ってことなんじゃない? 自分の見方はそれだな。ポスト・アンビエントに、ポスト・あれこれに……で、俺からすれば本当に、それらすべてをひとつにまとめたのがエレクトロニカだ、そう思うから。あれはダンス・ミュージック界の一部を形成していた、ダンス以外の色んな音楽、ブライアン・イーノ等々を聴いていた人びとのことだからさ。とにかく、俺はほかとはちょっと違うことをやろうとしているだけなんだ、(ハウス/テクノの)四つ打ちビートから離れていこうとしながら。

ジェイソン:うんうん。

アンドリュー:その意味ではドラムン・ベースの果たした役割も大きかったよ。ドラムン・ベースは素晴らしい。さっきジャングルを指摘されたけど、俺のパートナーがクリスマス・プレゼントにロニ・サイズのヴァイナル盤を贈ってくれて。

坂本:それは良いですね!

アンドリュー:うん、ただし、アナログ再発されていないから中古盤だったんだ。要するに言いたいことは、あの頃はああいう実に素晴らしいアルバムがコマーシャル面でも成立可能だったんだな、と。すごくクールな作品だけど、それにも関わらず誰もがあれを聴くことになったし、ああいう作品が「ドア」を通り抜けて人びとに達したわけ。で、当時あの手のエレクトロニック・ミュージックを作っていた連中の夢がそれ、何か実に驚異的な作品をやってのけ、それを多くの人びとに届けることだったんだと思う。ほかにもたくさんいるよね、ポーティスヘッドやマッシヴ・アタックといったバンドが、多くの耳に音楽を届けてみせたんだから。

ドライ・クリーニングのヴォーカル、フローレンス・ショウが登場する “Force 10 From Navarone” は最高にクールでしたが、このコラボはどういう経緯から実現したのでしょうか?

ジェイソン:ドライ・クリーニングは2021年の『Spare Ribs』向け英ツアーでサポートを担当してくれてね。俺は彼らの出したデビュー・アルバム(『New Long Leg』)にかなり魅かれたし……俺たちふたりとも、「彼らは本当に興味深いな」と思ったわけ。で、アンドリューが“Force 10 From Navarone”の音楽パートを送ってきたとき、俺もすぐに「おっ、これは良いな」とピンときたし、曲のアイディアをまとめていくうちにフローレンスに参加してもらったら良さそうだなと思いついて。そこで彼女に興味はあるかな?と打診してみたところ、ラッキーなことに彼女もやる気だった、という。あとはご存知の通り。

アンドリュー:ああ。

ジェイソン:うん、あれは俺にとっても、アルバムのなかで抜きん出たトラックのひとつだね、間違いない。

彼女の無表情な歌い方はとてもユニークですが、SMはドライ・クリーニングのどんなところが好きなのでしょうか?

ジェイソン:やっぱり、フローレンスのヴォーカルが俺は大好きだな。でも、バンドの側も素晴らしい。

アンドリュー:だよね。

ジェイソン:ほとんどもう、相当ミニマルなものに近いというか……要するに余計なあれこれでゴタゴタしてないっていう。

アンドリュー:たしかに。

ジェイソン:あのバンドの連中は全員、かなりミニマルなプレイヤーだよな。

アンドリュー:それに、多くの面でかなりオリジナルなバンドでもあるし。

ジェイソン:うんうん。

アンドリュー:いやだから、音楽スタイル云々で言えば色んな影響を受けているだろうけど、こと「現在のシーンで何が起きているか」って点から考えれば、彼らはほんと、突出した存在っていうか。

ジェイソン:ああ、同感。

アンドリュー:フローレンスはもちろんだけど、それだけじゃなく、音楽そのものもね。

ジェイソン:たしかに。だから、彼らはすべてを兼ね備えてるバンド、それは間違いない。

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もうちょっと「誰のお口にも合う」ようなアルバムを作っていたとしたら、きっと俺たちは自分たち自身にがっかりしちゃうんじゃない?


Sleaford Mods
UK GRIM

Rough Trade / ビート
※ウィットに富んだ歌詞対訳付き

RapElectronicPost Punk

beatink.com

『UK GRIM』は、前作『Spare Ribs』に較べて「怒った」アルバムだ、という印象なのですが――

ジェイソン:ああ、うんうん。

今作におけるジェイソンさんの怒りは、イギリスに住んでいないぼくたち日本人にとっても共有できることが多いです。

アンドリュー:グレイト!

で、あなたは基本的にイギリスのことを書いていますが、しかしSMはドイツなどイギリス国外にもファンがいます。日本にだって熱狂的なファンがいます。なぜ言葉が大きな位置を占めるSMの音楽が、イギリス国外/非英語圏でも受けるのか考えたことがありますか?

ジェイソン:あー……どうなんだろ、俺にもどうしてかわからないけど、結局は「音楽」ってことじゃない? 俺たちの音楽には違うタイプのスタイルが色々と混ざってるし、もしかしたらそれらが聴き手にも少し聴き馴染みのあるものに感じられる、とか? さっきアンドリューも話していたように、エレクトロニカも多く残響してる音楽だし、アンビエントやサウンド・スケープ的なものもあり、なんでもありだしね。ああ、それにパンクも混じってる。

アンドリュー:とは言っても、それって「だからじゃないか」と推量するしか俺たちにはできないことだよね。

ジェイソン:うん、その通りだ。

アンドリュー:それに、(非英語圏でも)英語を話す人はたくさんいるんだし。

ジェイソン:たしかに。

アンドリュー:かつては大英帝国があったわけで、それで俺たちイギリス人は、人々に――

ジェイソン:――みんなに英語を話すよう強制した、と。

アンドリュー:そうそう(笑)。

ジェイソン:ハッハッハッハッ!

前作はわりと歌っていましたが、今回はラップがほとんどです。それというのも、怒りが前面にでているアルバムだから、というのもあると思うのですが、いかがでしょうか? 

ジェイソン:うん。まあ、正直、ふたつの要素が組み合わさってる。『Spare Ribs』を書いてた頃、俺は背中を痛めていたせいで鎮痛薬をたくさん服用してたし、それにロックダウン期でもあった。だから、どうしたって普段より少し大人しくなるってもんだし、ほとんどもう、一種の発育不全みたいな状態になったというか。で、そのふたつの要素が合わさったことで、あのアルバム(『Spare Ribs』)収録曲の多くはかなり……とは言っても、アンドリューの作った音楽部そのものは、部分的には『UK GRIM』と同じくらいアップテンポなものだったとはいえ、ヴォーカル面で言えば、俺はいつもより少し退いて力を緩めたっていうのかな、いやほんと、あの頃はかなり(薬の副作用/COVID他の)ショックで打ちひしがれていたと思うし……。

アンドリュー:いつもより少しこう、メランコリックな時期だった、っていうか。

ジェイソン:イエス、その通り。ほんと、そうだったよな、じゃない?

アンドリュー:内省的になった。

ジェイソン:そうそう、あれは自分の内側に目を向けた時期だったし、思うに――それゆえに、「あの時期」の俺たちにしか書けなかったであろう、そういうアルバムになったんじゃない?

アンドリュー:うんうん。

ジェイソン:だからあの時期にふさわしい内容だったと思う。でも『UK GRIM』、これは「ポスト・パンデミック」なアルバムだし――うん、とにかく、これらの楽曲を書いていた頃の俺はものすごく怒ってたっていう(苦笑)。

アンドリュー:アッハッハッハッハッ!

坂本:(笑)。でも、「ジェイソンはいつも怒ってる」って印象があるんですよね。過去に、SMは「UKでもっとも怒れるバンド」という形容を捧げられたこともありますし。

アンドリュー:(苦笑)。
ジェイソン:(爆笑)。

なのでお訊きしたいんです。ジェイソンは、もちろん私人として/プライヴェートでは幸せな方だと思いますが――

ジェイソン:ああ、その通り。

アンドリュー:うんうん。

こうやって、ステージや音楽表現において常に情熱的で、ド迫力で、怒りを持続されるのは、すごく疲れるし、たいへんなことだと思います。ジェイソンさんは、怒り続けるのに疲れたりはしないのですか? 

ジェイソン:いや、それはない。ノー。というのも、俺はその在り方は「正しい」在り方だと思うから。フィーリングってことだし、だから疲れはしない。まあたまに、毎晩立て続けにギグをやるのに、ちょっと消耗させられることはあるけどさ。

アンドリュー:ああ、ツアー自体は疲労することもある。

ジェイソン:とはいえ――

アンドリュー:いやだから、それはある意味、俺たちがイギリス人だってことなんじゃないの(苦笑)?

ジェイソン:(笑)だな! たしかに。俺たち、いっつも不満たらたらな連中だし……。

坂本:(笑)

アンドリュー:「ここんとこずっと、ブーブー文句ばっか言ってるな、俺」みたいな(笑)。

坂本:メソメソ泣き言と文句ばかり垂れている、と。

ジェイソン:(笑)その通り! 不平だらけ。ほんとブーたれてる。

アンドリュー:ハッハッハッ!

ジェイソン:(苦笑)で、ほんと、いまってそれくらい悲惨なことが余りに多過ぎだしさ……(真顔に戻って)しかも、この状態はまだこれからも続くと俺は思う。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:このまま続いていくだろうな。でも、ある程度までは、俺たちも以前の状態に戻りつつある。だから……このアルバム(『UK GRIM』)がいつもよりやや怒りの度合いが強いのはたぶん、俺たちは去年、ギグ/ツアー生活に一気に引き戻されたから、というのもあるかもしれないよ? ものすごく慌ただしいスケジュールをこなしたし、このアルバムのなかの怒りやフラストレーションの多くは、もしかしたら、多忙なツアーで消耗したことから来たエネルギーでもあったのかも? まあ、俺にはわからないけど……。

坂本:なるほど。いや、とかく日本人は、文化/慣習として怒りを忘れがちな「水に流そう」な民族なので。

ジェイソン:ああ、そうだろうね。

坂本:一種の東洋哲学でしょうし、そんな我々からすると、あなたみたいに怒りの火を絶やさず燃やし続けるのは疲れないのかな、と思うわけです。我々も、あなたから学んだ方がいいのかも……?

ジェイソン:(爆笑)ブハッハッハッハッ!

坂本:いや、「水に流そう」も良いことだと思うんですが、そうやって忘れてしまうと、同じ過ちを繰り返すことにもなりますし。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:でもさ、そうやって水に流すほかないんじゃない? 昔、アンドリューがよく言ってたように、「俺たちが(歌のなかで言っていることを)ストリートで実際に行動に移したら、きっと逮捕されるだろう」ってこと。

アンドリュー:その通り。

ジェイソン:だから、ノーマルな日常生活の場面では、他の人びとと同じように落ち着いていることは大事だと俺は思っていて。というのも、俺は暴力はなんの解答にもならないと思うし――独善的になるだとか、言葉の暴力で罵るだとか、そういうのはとにかく答えじゃないだろう、そう思うから。だけど、「レコードのなかで」であれば、現実よりももうちょっとファンタジーを働かせることが許されるわけで。

アンドリュー:その通り。

坂本:作品のなかでの表現、ということですしね。

ジェイソン:うん、表現ってこと。だから俺としても、歌詞の面でああやって色いろと実験するのはかなり好きだし、それをやるのは全然OKだと思う。で、それって……俺たちがやってるのって、そういうことじゃないかな? 「これ」といったルールは、別にないんだし。

アンドリュー:ああ。要は、セラピーってことだよ。

ジェイソン:うん! たしかにそうだ。

アンドリュー:だから、あれをやるのはお前にとっては一種のセラピーだし、と同時におそらく、それを聴くリスナーにとってのセラピーにもなっている、と。

ジェイソン:ごもっとも、その通り。

アンドリュー:胸のなかにたまってる思いを吐き出してスッキリする、という。

ジェイソン:だね。

アンドリュー:それに、いまはほんと、そういう音楽って多くないし。

ジェイソン:ない、ない。

前進していくための唯一の道は、小さな空間を、ちょっとした余裕を自分に与えることだと思う。自分自身に、自分の家族に、自分の周囲のコミュニティに、息をつけるちょっとした余裕/小空間をもたらすこと。ここを生きていくには、それしかないと思う。

ジェイソンさんが政治的なことを歌詞に込めるとき、リスナーにどんな期待を抱くのでしょうか? リスナーにもそのことを気づいて欲しいから? 考えて欲しいからとか?

ジェイソン:ふむ(考えている)。

坂本:人によっては「ミュージシャンは政治的なコンテンツを扱う必要はない。こちらをエンターテインしてくれればいい」という考え方の持ち主もいますし。

アンドリュー:いや、それは本当だよ。別に政治について歌う「必要」はないんだしさ。

坂本:はい。でもあなたたちの場合、政治を取り上げずにいられないんじゃないですか?

アンドリュー:(苦笑)。

ジェイソン:それは避けられないよね。だからまあ、こちらとしては人びとが楽しんでくれればいいな、と願うしかないわけで。そうした内容が聴き手のなかに議論等の火花を起こすか否か、そこは俺はあまり気にしちゃいない、というか……いやもちろん、俺たちの歌を聴いて、人びとがより広い意味での社会構造に対して疑問を抱き始めてくれたとしたら、嬉しいことだよ! というのも、それをやってる人間の数は充分多くないと思うし。ただ、それと同時に思うのは――俺たちとしては、とにかく人びとが自分たちの音楽を気に入ってくれればいいな、と。というのも、これをやって俺たちは生計を立ててるんだし。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:だから、別の言い方をすれば――俺たちはこの仕事を心からエンジョイしながらやっているし、聴き手の皆さんもお楽しみいただけたら幸いです、そういうことじゃないかと。

イギリスの労働者階級/文化のポジティヴな面、あなたが好きな面について話してください。

アンドリュー:……うーん、それは答えるのがタフな質問だな。

ジェイソン:むずかしい質問だ。

アンドリュー:……(笑)皆無!

坂本:いいとこなし、ですか? そんなことはないでしょう(笑)。

アンドリュー:ハッハッハッハッハッ!

ジェイソン:あんま多くないな。俺は、洋服は間違いなく良いと思うけど。

アンドリュー:うん。いや、だから……(軽くため息をつく)話しにくいことだよね、ってのも、イギリスの労働者階級ってかなり独特だから。

ジェイソン:ああ、ユニークだ。

アンドリュー:で、英国人であるがゆえに、それを(客観的に)語るのは自分たちにはあまり楽なことじゃないんだと思う。というのも、自分たち自身のことなわけで。

ジェイソン:うん、うん。

アンドリュー:俺は、ヨーロッパに行くたび、その違いにもっと気づかされる。たとえば、ヨーロッパ各国ではヴァイブがどれだけ違うか等々。それで、イギリスはかなりユニークなんだな、と思ったり。

坂本:なるほどね。

アンドリュー:でも、イギリス国内にいると「それが当たり前」になっちゃうわけで。

ジェイソン:それに、いまの俺たちは、厳密な意味での「労働者階級の環境」っていう概念とはコネクトしてないんじゃないか、みたいに思う。

坂本:ああ、なるほど。

ジェイソン:それくらい、俺たちはとにかく多くの意味で、自分たちの小さな世界のなかに存在している、と。でも……そうは言っても、俺はやっぱりいまも、ワーキング・クラスの服装/ユニフォームは好きだよ。それと、労働者階級の人びとが中流階級の人からどれだけかけ離れているか、両者の間の隔たりがいまだに実に大きいか、というところも。

アンドリュー:うん。

ジェイソン:で、労働者階級の人たちをリスペクトの念と共に扱うって点には、本当に意識的でなくちゃならないんだ。ってのも、多くの場合、人びとは労働者階級を見下していると思うから。彼らの使う言葉が違う、装い方が違う、やってる仕事の職種が違う、所有品が違う、たったそれだけの理由でね。だけど、だからって、労働者階級を動物扱いしていいってことにはならないだろ? それくらい明確な階級間の隔たりが存在してるってことだし、でも労働者階級の面々だって、中流階級人と同じように、その「構造」の範疇内で生きているんだよ。だから実は(本質的には)違いはないし、とにかくコンテンツに差があるだけ。その提示の仕方が違う、という。

アンドリュー:なるほど。

ジェイソン:だけど、見た目が違うからって、彼らはイコール動物だ、ってわけじゃないだろ?

アンドリュー:それは絶対ない。

ジェイソン:うん、そんなことはあり得ない。それってすごく単純な意見だろうけど、絶対に憶えておく必要のあるものだと思う。

『UK GRIM』を聴いていると、イギリスでは物事が本当に深刻で重くなっているんだな……と感じます。

ジェイソン&アンドリュー:うん。

一方で、日本も物価が上がって深刻な状況になりつつあるし、イギリスでここ最近ずっと騒がれている「Cost of Living Crisis」が起きています。

ジェイソン:そうなんだ……でもさ、日本の政治家はどうなの?

ただし日本は、イギリスとはかなり違います。というのも、我が国にはイギリスの労働党のような大きな野党がないので、さらに深刻だったりするんです。与党に絶望している人たちが支持したい野党がないんです!

ジェイソン:オーケイ、そうなんだ。

対してイギリスは、ここしばらくの間で労働党の支持率が上がっていて、少なくともまだ一種の希望があるかな、と思います。で、こうした先行き不安な現実のなかを庶民はどう生きていったらいいと思いますか? 

アンドリュー:……かなりでかい質問だな!

坂本:ですよね、すみません……。

アンドリュー:(笑)

ジェイソン:前進していくための唯一の道は、小さな空間を、ちょっとした余裕を自分に与えることだと思う。自分自身に、自分の家族に、自分の周囲のコミュニティに、息をつけるちょっとした余裕/小空間をもたらすこと。ここを生きていくには、それしかないと思う。というのも、ほんと、それ以外の誰にも頼れないような状況だからさ。いや、たぶん、これまでもずっとそうだったんだろうけど、いまはとにかく、状況がさらにタフになってるじゃない? だから、苦痛を軽減してくれるちょっとした緩衝ゾーンは自分自身、各自の内側から出て来るんじゃないか、と。その人自身の姿勢から生まれる、そういうことじゃないかな。うん、それしかないんじゃないかと思う……ってのも、いまは国家にも頼れないし、っていうか、他人の多くも頼りにできないし。それくらい、生活がハードになってるってことだよね。で、その状況はすぐに変わらないだろうな、と俺は思う。

ここ数年、UKからは新手の魅力的なインディ・バンドが出てきました。ドライ・クリーニングもそうですし、シェイム、キャロライン、ブラック・ミディなどなどがいます。ただ思うのは、そうしたインディ・ロック・バンドの多くは中流階級出身ですし、その手の音楽のファン層も中流階級が占めている印象です。そこを責めるつもりはないのですが、ただインディ・ロックは、かつては(ザ・フォールからニュー・オーダーやオアシスまで)もっと労働者階級の子たちのものだったのではないか? とも思います。そうではなくなってしまった現状については、どう思っていますか?

ジェイソン:――正直、労働者階級の人びとはグライムにハマってるんじゃないかと思うけど?

坂本:ああ、たしかにそうですね。

アンドリュー:だよな。

ジェイソン:グライム、あるいはUKヒップホップと言ってもいいけど、そっちに移ってる。俺の実体験から言えば、労働者階級の面々はラッパーになりたいって傾向の方がもっと強いよ。

アンドリュー:ほんと、そう。インディ・ロックはそれよりもっと中流階級向け、みたいな(苦笑)? でも、さっきも話に出た労働者階級って話で言えば、いまのイギリスはかなり変化した、というところもあると思う。もうちょっとアメリカっぽくなってきてるって意味でね。それくらい、もっと様々な階級のレヴェル/細かい隔たりができてきてる、という。いまはロウワー・ミドル・クラス(やや低級な中流。いわば、労働者階級あがりで中流に達しつつある層)もあるし……。

ジェイソン:うん。

アンドリュー:で、そこはアメリカも同じで、あの国じゃ人によっての経済/収入面での異なる区分が10個くらいあるわけでさ。で、それに似たことが、イギリスでも起きつつあるんじゃないかと俺は思う。

ジェイソン:うん、アンドリュー、それは大きいよ。

アンドリュー:だからって労働者階級が存在しなくなる、ってわけじゃないし、いまでもいるんだよ。ただ、貧困線にはまだギリギリ達していないものの、それでもお金が全然ない、という人びとはいるわけでさ。うん……。

ジェイソン:うん……妙な状況だよな。だけど、さっきの君の指摘、インディ・ロックが労働者階級のものではなくなっている、というのは当たってると思う。でも、いまのインディ・ロックって正直、あんま先進的じゃない、ほとんどそんな感じじゃない? もちろん、そうじゃない連中もいるけど……。

アンドリュー:ちょっとレトロな感じだよね?

ジェイソン:うん。多くのバンドのやってることは、あんまりプログレッシヴとは思えない。

アンドリュー:エルヴィスっぽく聞こえる。

ジェイソン:エルヴィスか(苦笑)。

最後の質問です。いま手元に自由に使える500ポンドがあったら何を買いますか?

アンドリュー:そうだな……。

ジェイソン:500ポンドあったとしたら? たぶん、俺が買うのは……んー、なんだろ? 正直、思い浮かばない。だから銀行に預金する。ってのも、いま、自分が何を買いたいかわからないし、必要なものはぜんぶ買ったと思うし。

アンドリュー:ハッハッハッ!

ジェイソン:だから、預金する!

(笑)わかりました。アンドリューさんは?

アンドリュー:(笑)貯めないで使うんだとしたら、たぶん俺は、実は必要のない余計なものを買っちゃうだろうなぁ。いや、ここんとこずっと、Polyendが気になってチェックしてて。

ジェイソン:へー、そうなんだ。

アンドリュー:あれは一種のガジェットみたいなもんで、トラック・シークエンサー機能とかが付属してて。たしか450ポンドくらいだから、ちょうどいい値段かな。

ジェイソン:それ、買うつもりなの?

アンドリュー:いやいや、別に必要じゃないんだってば! でも、気になってついチェックしちゃうんだ。で、眺めながら「別に欲しくないし、自分には必要ないだろう……」ってブツブツつぶやいてるっていう。

ジェイソン:クハッハッハッハッ! スクロールする指が止まらない、と(笑)

アンドリュー:いやー、だから、商品レヴューとかあれこれ読んで、「ああ、こりゃ結構なプロダクトだな」と思いつつ、でも「自分には必要ないか……」と考えあぐねる、その手の商品だってこと。

ジェイソン:(笑)

アンドリュー:でも、プレイステーション・ポータブルの端末は、CeXで中古で買った(※CeXは中古のPC/ゲームソフト/DVD等をメインで扱う英テック系チェーン)。

ジェイソン:へえ、どんな具合? 良いの?

アンドリュー:いや、まだ届いてないんだ。オンラインで通販したから、明日届く予定。あれはもう入手できないんだけど(※PSPは2004年に発表され、2014年に日本国内出荷終了)、「ビートレーター(Beaterator)」ってアプリが使えるんだ。あれはロックスター・ゲームスとティンバランドが2007年に合同開発したアプリ(※実際の発表は2009年)で、ミュージック・シークエンサー等の機能が収まってる。

ジェイソン:(笑)ナ〜イス! それ、かなり良いじゃん?

アンドリュー:値段は140ポンドくらいだったはず。でも、プレイステーション・ポータブルがイギリスで最初に発売された2005年頃は、自分には手が出ない値段だったんだよ。発売当時は、どうだったんだろ、500ポンドくらいしたんじゃない? でも、こうして中古の端末を140ポンドでゲットしたし、ゲームも色いろついてくる、と。オールドスクールな楽しさを満喫できるよ、これで。

ジェイソン:っていうか、良い楽しみ方だよ、それは。

坂本:もう時間ですので、このへんで。今朝は、お時間を割いていただいて本当にありがとうございます。

ジェイソン&アンドリュー:こちらこそ、ありがとう!

坂本:『UK GRIM』はとてもパワフルなアルバムで、大好きですし――

ジェイソン:ありがとう。

アンドリュー:どうも!

 なお、日本がいまどんな政治的な状態にあるのかをわかりやすく理解するために、エレキングでは『臨時増刊:日本を生きるための羅針盤』を刊行した。『UK GRIM』を聴きながらその本を読んでいただけたらこのうえなく幸いである。とくに巻頭の青木理氏の話は、安倍政権以降の日本がいったいどうなっちまったのかをじつにわかりやすく解説している。立ち読みでもいいので、チェックして欲しい(たのむよ)。
また、今回の取材も例によって坂本麻里子氏の通訳を介しておこなわれたわけだが、『UK GRIM』の日本盤には、ジェイソン・ウィリアムソンのウィットに富んだ言葉を、彼女がみごとな日本語に変換した訳詞が掲載されていることもここに記しておく。これを読むためにCDを購入する価値は大いにある。

Cornelius - ele-king

 去る2月22日にアナログ12インチ・シングル「変わる消える」をリリースしたばかりのコーネリアス。今度はアナログ7インチ・シングルの登場だ。題して「火花」。作詞作曲とも小山田圭吾の手による作品である。「変わる消える」はセルフ・カヴァー的な立ち位置だったので、オリジナル曲としては今回の「火花」がひさびさの新曲となる。発売は5月17日、楽しみに待っていましょう。

Cornelius
火花

収録曲
Side A
 火花
Side B
 QUANTUM GHOSTS
Lyrics & Music by Keigo Oyamada

5月17日発売
WPKL-10008
¥1,900(税抜)/ ¥2,090(税込)
アナログ7インチ・シングル
https://Cornelius.lnk.to/hanabi

 ストックホルムのドローン音楽家・実験音楽家カリ・マローンの新作アルバム『Does Spring Hide Its Joy』は、2019年にリリースされたパイプオルガン・ドローン作品『The Sacrificial Code』や、2022年の電子音響ドローン作品『Living Torch』などの近作と比べても、よりいっそうハードコアなドローン・アルバムだった。
 このアルバムの最大のポイントは、SUNN O))) のスティーヴン・オマリーと、〈Modern Love〉からのソロ作品もよく知られているチェロ奏者のルーシー・レイルトンというふたりの優れた音楽家・演奏家が参加している点だ。この3人がめざす音響は、エレクトロニック・ギターとチェロと、マローンによる微かな電子音の持続音が延々と続く、混じりっ気なしの純度100%の持続音、ドローン・ミュージックである。
 中途半端に音楽的な要素が入っていない持続音のみの音を聴取したいというドローン・マニアの方には絶対お勧めできるアルバムだし、同時に音楽に沈静・瞑想的な感覚を求める方にも深く推奨したいアルバムでもある。
 この『Does Spring Hide Its Joy』に収められた音のみに意識を向けて聴いているだけで、世俗の騒がしくも煩わしいあれこれを忘却することができる。世界から隔離されていく感覚こそ、本作の肝ではないかと私は考える(それについては後述する)。

 『Does Spring Hide Its Joy』は、CDでは3枚、LPでも3枚、デジタルでは総収録時間5時間という長大な作品である。フィジカル版では “Does Spring Hide Its Joy” のヴァージョン違い3曲、デジタル版では “Does Spring Hide Its Joy V1” と “Does Spring Hide Its Joy V2” のヴァージョン違いがそれぞれ、3トラックに分けて収録されている。簡単にいえば、『Living Torch』でコンパクトに提示されたドローンの作曲技法(高周波と持続音の交錯)を長時間に渡って展開したとでもいうべきか。ただ『Living Torch』に多少とも残っていた音楽的なハーモニーの要素が本作『Does Spring Hide Its Joy』はさらに希薄になっている。「音」とその「トーン」だけがある。
 だがもっとも重要なのは「時間」への意識だ。この長大な楽曲にはドローン音楽の夢である「永遠に続く音響」への希求があるように思えてならない。まるでラ・モンテ・ヤングの「永久音楽劇場」の精神を継承するかのようなドローンの真髄を聴かせてくれる作品なのだ。
 『Does Spring Hide Its Joy』が、ここまで純粋なドローン作品に仕上がったのは、エレクトリック・ギターのスティーヴン・オマリーとチェロのルーシー・レイルトンというふたりの演奏者との共演だからという側面もあるだろう。じっさいふたりの発する音は本作の印象を決定付けるほどのものだ。
 特にオマリーのエレクトリック・ギターのメタリックなトーンは本当に素晴らしい。硬質な音でありながら、ドローンという音響のに必要な微細な変化を常に生成しているのだ。むろんレイルトンのクールなチェロの響きも本作のマニシックなドローンのムードを促進させていく。電子音楽の伝説的作曲家ピーター・ジノヴィエフとの『RFG Inventions for Cello and Computer』や〈ECM〉からのリリースも有名なピアニスト/オルガン奏者キット・ダウンズとの『Subaerial』とはまた違ったマテリアルなチェロの音響を生成している。
 一方、マローンは本作ではパイプオルガンではなく、サインウェーヴ・オシレーターを用いている。マローンのサインウェーヴ・オシレーターはどこか影のようにふたりの音に寄り添っていく。まるでふたりの「音を影」のように。いわばドローンの作曲者として演者ふたりのコンダクターのようである。
 いずれにせよ3人が発するトーンが微妙な差異を発しつつもレイヤーされていく点がポイントに思える。3人の音が同時に、しかし異なる地平に存在するような多層感覚があるのだ。3人の音が微妙な差異を孕みつつ、一定の持続音として生成していくさまを集中して聴取していると深い瞑想感覚を得ることすらできる。まさにドローンの真骨頂とでいうべきリスニングを可能とするのが本作『Does Spring Hide Its Joy』なのである。

 『Does Spring Hide Its Joy』が録音されたのは2020年3月から5月というコロナウイルスの感染が世界的に増大した時期だ。当時ベルリンに滞在していたマローンたちはベルリンの複合スタジオ施設 Funkhaus(https://www.funkhaus-berlin.net)内にある「MONOM」に招かれて、本作を録音したという。いわば初期のコロナ禍、3人は世界から隔離するかのように、MONOM に滞在し、本作を作り上げたわけだ(アルバム・タイトル「春は喜びを隠すのか」という言葉も、コロナ・ウイルスが猛威をふるいはじめた2020年春の気分を伝えてくれる)。
 録音も MONOM のスタジオでおこなわれ、エディットと編集はステファン・マシュー(Schwebung Mastering)によっておこなわれた。リリースはオマリーが主宰する実験音楽レーベル〈Ideologic Organ〉である。
 ちなみに Funkhaus ではさまざまな先端的なコンサートやイベントがおこなわれ、アルヴァ・ノトと坂本龍一のコンサートも開催されたことでも知られている(https://www.funkhaus-berlin.net/p/jun18.html)。

 パイプオルガン・ドローン、ノイジーな電子音響ドローンなどで培った経験をもとに作曲された長時間ドローンを収録した本作は、コロナウィルス下で隔離されることで生まれた「停滞する時間」の感覚があるように思えた。
 時間を意識し続けることで、時が溶けていくような意識・感覚とでもいうべきか。3人は、MONOM の広い空間をほぼ占有しつつ、「時間」を考察するように本作を作り上げていったのであろう。「密室での隔離」という状況によって、マローンたちのドローン作曲・演奏技法がより研ぎ澄まされていったのではないか。
 気鋭のドローン作曲家と、ふたりの優れた演奏家が生み出す研ぎ澄まされた鋭利で美しい持続音がここにある。そしてコロナ・ウィルスの感染拡大という最悪な状況の中でも、人はこれほどまでに深い瞑想感覚をリスナーに与えてくれる芸術作品を生み出すことができることも教えてくれる。まさに希望のドローンでもある。
 『Does Spring Hide Its Joy』は、確かに長大な作品だが恐れることはない。フィジカルが3時間、デジタル版で5時間ものあいだ音に向かい合う経験は貴重だし、それでしか得られない絶対的な聴取体験はあるのだが(そして本来はそのように聴くべきなのだが)、いっぽうで聴きたいときに聴きたい時間だけ集中して聴くという方法でも本作の魅力を体験することはできるはずだ。
 ドローン音楽の現代最高峰ともいえる本作『Does Spring Hide Its Joy』。ぜひとも多くの音楽ファンに聴いてほしい。

Jitwam - ele-king

 ムーディマンによる素晴らしいミックス『DJ-Kicks』を覚えているだろうか。そこで4曲目につながれていたのがジタム(Jitwam)のトラックだった。
 インドに生を受け、オーストラリアで育ち、ロンドンでエレクトロニック・ミュージックと出会い、現在は(おそらく)ニューヨークを拠点にしているこのコスモポリタンは、すでに3枚のアルバムを送りだす一方、ララージエマ=ジーン・サックレイなどのリミックスをこなしてもいる。ソウルフルでジャジーなダンス・ミュージックを展開する、注目のプロデューサーだ。
 そんなジタムの来日ツアーがアナウンスされている。3月17日から31日にかけ、東京Circusを皮切りに、大阪・京都・広島・金沢・名古屋の6都市を巡回。次世代を担うだろうプロデューサーのプレイを目撃するまたとないチャンス、予定を空けておきましょう。

「インド発、ニューヨーク経由。ネクスト・ネオソウル & ダンスミュージックの新鋭Jitwam来日ツアー!」
インド、アッサム州にルーツを持ち、音楽活動をロンドン、ニューヨーク、そしてメルボルンなどで展開。ビートメーカー、ギタリスト、シンガー、DJとマルチな才能を発揮している。ある人は彼の音楽をジミヘン(Jimi Hendrix)と、ある人はJ Dillaのよう、そしてある人はMoodymann、と聴くにとって多彩な印象を与える彼の独創的なスタイルはジャンルを超えて多くのオーディエンスを魅了。自らのプロデュースに限らず、音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されており、昨年、満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。そんな今が間違いなく「旬」なJitwamの6都市を結ぶジャパンツアーが決定。各都市の個性的なローカルアーティスト達との化学反応を見逃すな。

Jitwam Japan Tour 2023
3/17(金) 東京 Circus Tokyo
https://circus-tokyo.jp/event/eureka-with-jitwam/
3/18(土) 大阪 Circus Osaka
https://circus-osaka.com/event/jitwam/
3/20(月) 京都 Metro
https://www.metro.ne.jp/schedule/230320/
3/24(金) 広島 音楽食堂ONDO
https://www.ongakushokudoondo.com/
3/25(土) 金沢 香林坊Trill
https://www.instagram.com/trill/
3/31(金) 名古屋 club JB’s
http://www.club-jbs.jp/pickup.php?year=2023&month=3&day=31

Jitwam profile
Jitwamにとって、自身の音楽キャリアは常に運命と共にある。彼が最初に購入したたった2ドルのホワイトレーベルのレコードが、Moodymannのトラックであり、それを見つけたのが、まさしく彼の音楽がMoodymannのDJ Kicksコンピレーションにフィーチャーされたのとほぼ同時期だった。インドのアッサム州グワハティで生まれたJitwamは、両親と共にオーストラリアに移住。郊外で育った彼は、The Avalanches、Gerling、Sleepy Jacksonなどのバンドの影響を受け、ギターを弾き、キーボードのレッスンを受け、14歳で曲を書き始めることになる。その後、南アフリカやタイ、そして自身の故郷であるインドなどを転々と移り住み、次に流れ着いたロンドンでエレクトロニックミュージックの洗礼を受ける。そこでの生活の中で、彼が育ったロックの影響を織り交ぜ、Jitwamの代名詞でもある、様々なジャンルを内包したタイトでメロディックな作品へと融合させることを可能にした。その後ニューヨークに移り住み彼のキャリアは一気に前進。2017年に自身のファーストアルバム「ज़ितम सिहँ (selftitled)」を皮切りに、続く2019年にはセカンドアルバム「Honeycomb」をリリース。この作品について彼は「Jimi HendrixやJ Dilla、Moodymann、RD Burman、Bjork… 彼らはまさに自分だけの世界観を作り上げていて、僕も自分自身の音楽で同じようなことを成し遂げたいんだ。『Honeycomb』はロックンロールがソウルと出会い、ブルースがテクノを歌い、ジャズはどんなものにでも変容する世界なんだよ」と語っている。またJitwamは音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されている。そして2022年には満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。数多くの運命に導かれながら多様な土地で吸収した音楽を、新たな高みへと昇華させている。

Soundcloud: https://soundcloud.com/jitwam
Instagram: https://www.instagram.com/jitwam/

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