「K A R Y Y N」と一致するもの

vol.10 『The Last of Us』 - ele-king

 

みなさんこんにちは。NaBaBaです。いまさらですが今年はゲーマーにとっては凄い年です。何といってもPlayStation 4とXbox Oneの二大次世代ゲーム機の発売が迫り、いよいよ次の時代がはじまろうとしています。

しかし今世代機も負けておらず、これまでの集大成的大作が相次いで発売されています。前々回のレヴューで取り上げた『BioShock: Infinite』や、つい先日発売された『Grand Theft Auto V』がその筆頭でしょう。そして今回取り上げる『The Last of Us』もまた、今世代を締めくくる大作のひとつと言えます。

さて、近年の大作ゲームはほとんどすべてが何らかの形で映画を意識して作られています。例えばアクション映画のようなスペクタクルをゲームとして体験出できるようにしたい。『Half-Life 2』をはじめ、この連載で取り上げてきた多くのゲームがそうした目標を持っていたでしょうし、今世代は言わばゲームが映画的表現力を獲得していった時代とも言えます。

しかし映画はなにもアクション・スペクタクルなものばかりではないのですが、ゲームが目指す映画的な表現というものは、どうもこうした要素に偏重しがちなのも事実です。

そんななか『The Last of Us』は今世代が培った技術力を最大限に駆使しながらも、上述したステレオタイプとは別の意味で映画的な表現を目指したゲームです。そしてその成果はひとつの時代の締めくくりにふさわしいと同時に、次世代への期待も膨らませる見事なものでした。

■テーマは父と子の人間関係

『The Last of Us』を開発した〈Naughty Dog〉は歴史ある名門スタジオ。かつては初代PlayStation時代に、日本でも有名なクラッシュバンディクーを開発したことで知られています。また今世代に入ってからは『Uncherted』シリーズで再び一斉を風靡したことも記憶に新しい。インディ・ジョーンズもかくやと言わんばかりの冒険活劇で、まさに今世代のアクション映画的ゲームの代表作であります。

そんなスタジオの最新作である本作は、『Uncherted』シリーズからさらにテイストを変え、徹底してトーンが抑制された、渋い作風のアクション・ゲームです。ジャンルとしてはポストアポカリプス、ゾンビ物に属しますが、いまだに派手さを競ってばかりの現代の映画的ゲームのなかでは一見すると地味。

しかし抑制されたトーンであっても、それを裏打ちしているのはいままでの映画的ゲームが蓄積してきた技術的ノウハウに他なりません。フォトリアルなグラフィックスやゲームプレイとインゲーム・シネマティックの自然な融合、リアルなフェイシャル・アニメーション等、〈Naughty Dog〉は今回も最高級の技術を見せてくれています。

 
フォトリアル路線のグラフィックスは間違いなく今世代最高クラス。

本作がいままでの映画的ゲームと比較してもっとも特徴的なのは、その研ぎ澄まされた技術で『Uncherted』シリーズのようなスペクタクルを表現するかわりに、主人公JoelとヒロインEllieの人間関係を描き出すことに一貫して注力した点です。

世界の崩壊と同時に娘を失って以来心を閉ざしていたJoelが、訳あってEllieとともに旅をし彼女を守っていくなかで、第二の親子とも言える関係を育んでいく。本作のコンセプトはこの一点であり、崩壊した世界やふたりを襲う困難の数々、極端な話ゲームプレイさえもが、あくまでもこれを引き立てるためのディテールに過ぎないのです。

 
仕事として旅をはじめた二人だが、やがて掛け替えのない関係を築いていく。

その意味で、本作の質を決定づけているのは技術に加えて脚本と言えます。『ザ・ロード』や『28日後…』等と比較するのはおこがましいかもしれませんが、このジャンルにおける一流映画と肩を並べられる力強い物語であると個人的には感じました。

技術力と違い、脚本に関しては、ゲームは映画と比べて全体的にまだまだ劣っていますが、本作の成功は今後映画的ゲームに求められる脚本の水準を一段と引き上げたに違いありません。

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■プレイヤーにとっての他者としての主人公

ゲームで映画的な物語や体験を描くことが困難なのは、何よりも物語にプレイヤーを参加させなければいけないという、ゲームが本来持つ特性に起因しています。

とくにプレイヤーとゲームの主人公との関係性は、ゲームにどのような立場で参加させるかを決める重要な要素です。例えば映画的ゲームのはしりである『Half-Life』シリーズでは、主人公のパーソナリティは極力排除されていて、主人公=ありのままのプレイヤー自身という構図が明快でした。

しかし描こうとする物語の高度化に伴い、プレイヤーと主人公の関係もかつてのシンプルさはほとんど見られなくなりました。FPSなのに主人公が喋ったり、しかもそれが酷く独善的であったりする。果たして主人公はプレイヤーなのか他人なのか、混乱させられることもしばしばです。

この点『The Last of Us』では、主人公のJoelはまったく完全な他者として描かれており、『Half-Life』とは逆の意味で単純明快です。何よりも三人称視点であるし、Joelの人生観はプレイヤーと同一化できるものでもありません。またJoelが下す物語上重要な決断にもプレイヤーは関与することができないのです。

 
Joelは時に迷い、弱さも見せる、等身大の人格を持ったキャラクターだ。

なので、本作の遊び心地は映画や小説を鑑賞している感覚により近く、プレイヤー自らが主体的に物語を動かすという意味でのゲームらしさは希薄です。むしろ本作のゲームとしてのインタラクティヴ性は、主人公を赤の他人とした上で、彼の感情や意思をプレイヤーに拡張して伝える装置として機能していると感じました。

つまり主人公が負った傷に苦しみながら歩いたり、敵を倒すために試行錯誤したりする過程を操作させることで、その瞬間の主人公の悲喜交々を、より拡張して共感させてくれるということです。そしてこれこそが優れた映画的表現と、他者なりに共感できる優れた脚本の賜物なのです。

とくに敵と戦闘する場面でもこの機能が果たされているのが素晴らしい。まず本作はアクション・ゲームとしては大変システマチックで、達成すべき目標や、攻撃があたった外れた、敵を倒した倒されたの判定が常に明快です。高難易度でいながら、理不尽さがなく、とても攻略のし甲斐がある。この時点ですでに他の競合作より遥かに出来がいい。

ですがJoelとEllie、また敵となる感染者や人間兵の生々しい挙動の数々は、単に出来のいいゲームを攻略する以上の感情移入をプレイヤーに促してきます。シチュエーションの設定も常に秀逸で、戦闘を単なるゲームとしての遊びではなく、Joelたちの必死のサヴァイバル、つまり物語の一部として描けているのです。

 
敵も味方もとにかく必死。この上なく泥臭い戦いが展開される。

これは前々回の連載で取り上げた『BioShock: Infinite』が、戦闘を映画におけるミュージカル・シーンのようなものとして努めてお約束化したこととは極めて対照的です。体験の統一感や感情移入度という点で本作の方に分があるのは言うまでもありません。

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■複数視点で描かれる物語

本作のゲームとしてのインタラクティヴ性は、主人公の感情や意思を拡張して伝える装置であると、前項で述べました。この点についてもうひとつ象徴的な事例をご紹介したいと思います。

それは最初のプロローグ。 ここではほとんど歩くか走るかの操作をするに過ぎないのですが、この行為のなかだけでも キャラクターが怯えたり必死になったりといった感情が、操作するときの感触としてフィードバックされてきます。
しかもここでは若きJoelと娘のSarahの両者を操作することになるのがより重要な点です。守り守られるふたりを操作させお互いの立場を共感させた上で、最終的にSarahとの死別のシーンに繋がっていく。

たとえ一瞬でも体験を共有したキャラクターが死ぬのは、映像として一方的に見せられるより遥かにショックだし、もうひとりの操作したキャラクターの悲しみも同様に共感できてしまう。わずか20分にも満たないシーンでありますが、凡百のゲームや映画を越える感動を表現できていると感じました。

 
物語の導入としても完璧。Joelというキャラクターの本質を瞬く間に理解できる。

物語後半でもEllieを操作するという形で再び味わうことになる、この操作キャラクターのザッピングは、主人公を他者としてプレイヤーから突き放すという構図の延長線にある表現でしょう。とは言え操作キャラクターのザッピング自体は過去に例が無かったわけではありません。海外では『Heavy Rain』という作品が正に複数主人公による群像劇だったし、国内では『Bio Hazard 6』や『龍が如く』シリーズ、『SIREN』シリーズといった例がある。

しかしそれらより本作の方が感動的だと感じたのは、隣にいるパートナーが自分のことをどれだけ大事に思ってくれているのかという、誰もが気になる普遍的な関心ごとを、JoelとEllie、あるいはSarahという関係に置き換えて覗き見させてくれるからでしょう。

プロローグの場合で言えば、JoelもSarahもお互い軽口をたたく時もあるが、内心はとても大事に思っている。しかしそれを伝えきれないまま、または知らないまま死別してしまう。プレイヤーだけが特別にその事実を知ることができますが、主人公たちに伝える術がない。しかしこうしたもどかしさが寧ろ胸を打ち感情移入させてくれるのです。

 
Sarahが渡し忘れた父への誕生日カード。Joelが受け取ることは遂に無かった。

ゲームにおける物語は、未だにプレイヤーが主人公になりきったり、またプレイヤー自身が主人公に成るものが大半を占め、複数視点で描くことに関してはまだまだ未成熟です。しかし他のメディアの場合ではひとりの視点に縛る物語の方がむしろ特殊な部類であり、より複雑で高度な物語を描こうと思ったら、今後ますます複数視点の重要性は増してくるでしょう。

折りしもつい先日発売された今年最大級の大作『Grand Theft Auto V』は、まさに複数主人公のザッピングを大々的なフィーチャーとしていますが、本作はそれに先んじてこの物語手法の可能性を感じさせてくれました。

■まとめ

冒頭でも触れましたが、この時期のゲームは集大成とか総決算と言った印象を受けるものが多いです。『The Last of Us』に関してもそれは一部同様で、本作が駆使しているテクニックの数々は今までの積み上げを大変実感させられるものです。

しかし将来の可能性を感じる点で本作は集大成以上のもの。パーソナルな人間関係を描いた物語や複数の操作キャラクターのザッピングは、単体で見ても完成度が高かった上に、大いに伸び代を感じさせてくれるものでした。

満足感がとても高く、かつ今後のゲームの進化も楽しみにさせてくれる大変にお薦めできる作品です。



John Grant - ele-king

 僕がジョン・グラントの音楽を聴くことになったのは、ジャケットの彼と目が合ったからである。なんとなく海外のレヴュー・サイトをウロウロしているときに一際鋭い視線に捕らわれて、ついクリックしてレヴューを読んでみたらば、彼はゲイで、HIVポジティヴであることをカミングアウトしているという。思わずぎょっとして再びジャケットを見てみる……髭面のいかつい男は相変わらずこちらを睨んだままだ。それがたしか、5月のこと。気がつけば、この年僕はこのアルバムをもっとも繰り返し聴いている。

 ジョン・グラントはフォーク/カントリーを基調としたバンド、ザ・シーザーズの元ヴォーカリストであり、本作『ペイル・グリーン・ゴースツ(青緑色の幽霊たち)』がソロの2作目。2010年のソロ・デビュー作『クイーン・オブ・デンマーク』は評論家の間でそこそこ高く評価されたらしいが、僕は知らなかった。恐らくゲイ・シーンの繋がりでヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアとツアーを回ったこともあるそうで、HIVに関してはそのツアーのときに発表したそうだ(ゲイのオーディエンスを意識した上での決断だったのだろう)。
 サウンドは70年代シンガーソングライター風バラッドとフォーク、80年代ニューウェイヴをほどよく交配したよく出来たものである。ちなみに、シネイド・オコナーがパートナーのように3曲でコーラスとして参加している。ゲイ・アーティストで言えば……ルーファス・ウェインライトとジョン・マウスとヘラクレス・アンド・ラヴ・アフェアの間のどこかにいるような。近年のモリッシーのソロ作を聴く感覚とも遠くはないだろう。冒頭を飾るタイトル・トラックは仄かにダークで攻撃的な、ニューウェイヴ調のシンセ・ポップだ。その上でグラントがバリトン気味のよく伸びる声で朗々と歌う。続く“ブラック・ベルト”はややディスコ調のダンス・トラック。ヴァースごとにサウンドをガラッと変えるオールドスクールなマナーも気が利いている。続く“GMF(グレイテスト・マザーファーッカーの略)”はフォーキーなバラッド……普通に聴いていれば、良い声を持った40代のシンガーソングライターによる、影響元を上手く消化したソングブックとして楽しめたのかもしれない。
 だが、このアルバムでグラントが隠さないネガティヴな言葉と感情を耳と頭が探り当ててしまったとき、もう簡単に聞き流すことはできなくなってしまう。続く優雅なバラッド“ヴェトナム”では彼の元恋人、もちろん男の恋人に、「お前の沈黙は兵器だ/まるで核弾頭のような/ヴェトナムで使われた枯葉剤のような」と断罪の言葉を浴びせる。ヴィデオも象徴的だ。白黒の映像に映るのはグラントそのひとで、そして彼はよくあるMVのように口ずさみもせずに、ひたすら画面の向こうからこちらを見つめ、ときどき視線を外す。そしてまたこちらを睨みながら、こう告げるのである。「俺を慰めるただひとつのことは、お前がこの先誰といようが、お前はいつも孤独だろうってわかることだよ」……とても、穏やかに、深い声で、美しいストリングスとアナログ・シンセの和音に乗せて、そう歌うのだ。画面の前で、僕はただ彼と見つめ合うことしかできない。



 これも同様に、かつて愛した人間を「心配するフリなんかしなくていい/思ってもないことなんて言わなくてもいい」と責める“ユー・ドント・ハフ・トゥ”もなかなか強烈だ。「ひと晩中ファックしたのを覚えてるか?/俺も覚えてない、いつもへべれけだったから/痛みを扱うのにたくさんの酒が必要だったんだ」……。だが、サウンドはどこかファニーですらあるシンセ・ポップ。そもそも歌い出しからして、「犬を連れて、寄り添って公園を散歩したのを覚えてるか?」と言いながら、すぐさま「ま、俺たち犬なんて飼ったことないし、いっしょに公園も行ったことないんだけど」とオチをつけずにはいられない。しかしながらこの皮肉は、彼の傷痕から血が吹き出るのをどうにか抑えるための苦肉の策のようでもある。“センチメンタル・ニュー・エイジ・ガイ”におけるパーカッシヴなディスコ・トラックで、なかばやけっぱちにおどけて歌うグラントはしかし、そうして理性をと保とうとする。
 続く“アーネスト・ボーグナイン”(グラントが尊敬するという性格俳優)はHIVポジティヴだと発覚した心境についての歌だという。「医者は俺を見ずに、きみは病気だと言った」。ここで、どうして彼がジャケットからこちらを真っ直ぐに見つめていたかがわかる。グラントは目を逸らされたくないのだ。自らのみっともなさからも気まずさからも卑小さからも。混乱はある、が、錯乱はしていない。「俺はこのクソのような町が大嫌いだ」と軽やかに歌い、過去との訣別を宣言する。そしてラスト・トラックの“グレイシャー”で誇らしげに鳴らされるピアノの高音はそのことを自ら祝福するかのようだ。グラントはそして、アイスランドへと移住したという。
 僕にとってこれは穏やかな精神状態で聴ける作品ではないが、しかしそれなりの覚悟を持って向き合いたいと思える音楽だ。ジョン・グラントはありったけの憎悪と皮肉と悲哀をこめて、愛を歌っている。ユーモアも忘れずに。だから僕は、ジャケットの彼と睨み合いを続けようと思う。

Sound Patrol - ele-king

Paisley Parks - Cold Act Ill EP
Shinkaron


Bandcamp

 ペイズリー・パークスとはプリンスのレーベルではない。日本で生まれたジャパニーズ・ジュークのプロジェクトで、TMTも大絶賛、海外ではすでに人気に火がついている。ところで、つい先日、筆者はKESが〈ダブソニック〉やWOODMANのレーベルから作品を出していたことを知って衝撃を受けた。その初期作品(カセットテープ・リリース)を聴くと、たしかにジュークの青写真とも言えるゲットー・サウンドなのだ。つまり、10年前からやってきたことが、いま、たまたまシカゴと共振したということか。
 ドミューンでのライヴも格好良かった。「F」ワードが乱発される音楽が特別好きなわけではないけれど、この3人組からあふれ出るパンキッシュなエネルギーに降伏したので、早速CD-Rを買った。ブレイクコアのときと似ているのかもしれない。ペイズリー・パークスにしろフードマンにしろ、ジュークは日本との親和性が高いことを証明している。

Juke Footwork

Tiny Hearts - Stay EP
Dirty Tech Records


Amazon iTunes

 〈ダーティ・テック〉は、デトロイト・ヒップホップのキーパーソン、ワジード(スラム・ヴィレッジのオリジナル・メンバーおよびPPPで知られる)が昨年立ち上げたレーベルで、〈サブマージ〉もどこまで関わっているのか定かではないけれど、それなりにサポートしているんじゃないかと思わせるレーベルだ。それほどのポテンシャルはある。昨年1枚、今年1枚出ている2枚のepは、彼のエレクトリック・ストリート・オーケストラ名義の作品だったが、マイク・バンクス、セオ・パリッシュ、アンドレスなどテクノ/ハウスの大物も参加している。
 その2枚も、まあ悪くはなかったのだが、この〈ダーティ・テック〉の第3弾には痺れた。ワジードのR&Bプロジェクトのデビュー作で、初期のスラム・ヴィレッジを彷彿させるメロウなヴォーカルとタイトなビート、そして分厚いシンセのリフが素晴らしい。実験的だがポップで、まさにフューチャーR&Bと言いたくなるような……。これは注目しよう。

R&B Pop

Hilaru Yamada And The Librarians - The Rough Guide To Samplin' Pop
CD-R


https://ekytropics.blogspot.jp/

 カットアップ/サンプリング・ミュージックで、インナーにはネタが表記されているわけだが、そのネタの選び方が面白い(そのセンスはコーネリアス的だ)。洒落が効いていて、カラフルで、チャーミングなドリーム・ポップとして成立している。大昔、ちょうどこれと同じ方法論で、砂原良徳がブートを作ったことがある。推薦です!

Musique Concrete Cut Up Mash Up Dream Pop

Duppy Gun - What Would You Say About Me?
Stones Throw


STONES THROW

 サン・アロウとロブドア、そしてマシューデイヴィッド、LAの3人のジャマイカ旅行、第3弾。迫力ゼロのビートにふにゃふにゃのエフェクト。ジャマイカのディージェイ、Fyah FlamesとI Jahbarが勇ましい声を上げている。ディプロのへなちょこヴァージョンとでも言えばいいのか。格好いいポスターが付いているので、見つけたら買うことをオススメする。

Dancehall Experimental Dub

Jay Daniel - Scorpio Rising EP
Sound Signature


Detroit Report

 待っていた人も多かったでしょう。沈没していく街とは裏腹に、デトロイトらしい上昇する感覚を兼ね備えたジェイ・ダニエルのデビュー・シングル。デリック・メイ的とも言えるタフなリズムとシンセリフの“No Love Lost”も良いが、母であるナオミ・ダニエルの歌う“スターズ”のインロ(大本はラリー・ハードの“スターズ”だが)を微かに使った“I Have No Name”が最高。ついに未来のクラシックが登場したね。

Deep House

Audio Tech - Dark Side
Metroplex


iTunes

 これも聴くのをずっと楽しみにしていたんですよね。ホアン・アトキンスとマーク・エルネストゥスというふたりの先達のコラボ作。モーリッツ・フォン・オズワルドとの共作のミニマリズムとは打って変わって、こちらはエレクトロ。ホアン・アトキンスは歌っている。B面ではマックス・ローダーバウアとリカルド・ヴィラロボスのコンビが12分にもおよぶ幻覚性の高いリミックスをしているが、オリジナルとの関連性は見られない。

Electro Techno

Archie Pelago - Hall Of Human Origins
Styles Upon Styles


Amazon iTunes

 太陽のスタンプでお馴染みの、NYのアンソニー・ネイプスと〈Mister Saturday Night Records〉は今日の90年代ハウス・ブームの主役のひとりだが、昨年末に同レーベルからリリースされたアーチー・ペラゴ(ブルックリンの3人組)のシングル「The Archie Pelago EP」は、ジャズ・ハウスとしては実に幅広い層にアピールしたヒット作となった。その後の「Subway Gothic / Ladymarkers」では、実験的なアプローチも見せて、最近出た「Hall Of Human Origins」でも、IDMの領域にも手を出しているし、下手したらジュークさえも自分たちの養分にしようとしているのかもしれない。ラテンのリズムも冴えを見せ、サン・ラーの雄大なブラスをも引用しているのでは……。いつアルバムが出るのでしょう。

Electronica Jazz Broken Beat

MAJOR FORCE 25th ANNIVERSARY - ele-king

 日本のクラブ・カルチャーの草分けのレーベルと言えば〈メジャー・フォース〉で、歴史にあるように、ECDやスチャダラパーを世に送り出すという日本のヒップホップの開拓者でもあったレーベルだが、今年はタイニー・パンクス(高木完+藤原ヒロシ)の「Last Orgy」から25周年なのだった。このパイオニアたちに敬意を表する、25周年のイヴェントが代官山AIRで開かれる。
 〈メジャー・フォース〉レーベルの第二弾では、当時ブリストルのワイルド・バンチ(後のマッシヴ・アタック)に所属していたDJ Miloがフィーチャーされているが、彼も駆けつけて、今回の「25周年」を高木完 & K.U.D.Oとともに盛り上げてくれる。なんでも「ワイルド・バンチのクラシック・セット」をお披露目するのだそうで、レアグルーヴが好きなひとも見逃せない。なにせMUROも出演するし、そしてアフターアワーズではDJノリ(日本のハウス・シーンの大先輩)がプレイする。

■Sound City feat. DJ Milo[The Wild Bunch] meets MAJOR FORCE 25th ANNIVERSARY

11月9日(土)@代官山AIR

DJ Milo [The Wild Bunch]
- Exclusive Wild Bunch Classics Set -
MAJOR FORCE DJ SET
[高木完 & K.U.D.O]
MURO
and more

AFTERHOURS
DJ NORI

 さあ、いよいよ今週末! 「何気にいいメンツでしょう」でお馴染み、〈ANTI GEEK HEROES vol.2 -CASUALS UTOPIA-〉! Seiho、LUVRAW & BTB (Pan Pacific Playa)、カタコトという、フロンティアをカオッシーに盛り上げるアーティストたちを一気にコンパクトに楽しめる宵。
 さらに、あの“Pool”(THE OTOGIBANASHI'S)で脚光を浴びたアンファン・テリブル、あらべえもDJとして参加決定! ようやく大学生となり、ライヴ活動もはじめたてという初々しい彼は、“Pool”のあとどのような成長を遂げているのだろうか……。今回はライヴではないが、その動向をうかがう上では興味深い出演だ。
 場所はTHREE。至近距離で目撃しよう!

THE OTOGIBANASHI'Sの存在を知らしめるきっかけとなった“Pool”……。そのトラックを手がけたことで知られる、若干19歳のトラックメイカー、あらべえがDJとして参加します。
また、カタコトは前回とは趣向の異なるライヴを行う他、限定グッズの販売もあるかも……!?
前売りまだありますので、ぜひぜひチェックよろしくお願いします!

■ele-king presents
"ANTI GEEK HEROES vol.2 -CASUALS UTOPIA-"

日時:10.27 (sun)
場所:下北沢 THREE
OPEN 18:30 / START 19:00
ADV 2,300 yen / DOOR 2,800 yen
(+ drink fee)

LIVE: Seiho / LUVRAW & BTB / カタコト
DJ: あらべえ

*公演の前売りチケット予約は希望公演前日までevent@ele-king.netでも受け付けております。お名前・電話番号・希望枚数をお知らせください。当日、会場受付にてご精算/ご入場とさせていただきます。

INFO: THREE 03-5486-8804 https://www.toos.co.jp/3


Tropic Of Cancer - ele-king

 平日の深夜、いったい何が起きたのだろう、僕は都内のゲイバーに橋元といた。壁には四谷シモンと金子國義の絵が見える、反対側には、そのバーを訪れた世界中のクイーンが残していった紙幣が貼り付けられている。テーブルには『ベニスの死す』のサントラと演歌のCD……。外見は男性だが内面は女性のママさんは、グラスを傾けながら、我々に向かって、パリのモンマルトルのことを話した。ボヘミアニズムの大いなる故郷に生きる娼婦や男娼たちの話だ。
 『北回帰線』(1934年)、原題「Tropic Of Cancer」は、ヘンリ・ミラーのもっとも有名な小説だが、僕はまだ読んだことがない。が、もっとも有名な小説なので、それがパリで書かれた退廃的で淫靡で性的な内容をもっていることは知っている。貧困と放蕩とセックス三昧は、ある意味では古典的なロマンティシズムに思えるが、トロピック・オブ・キャンサーの、「アイ・フィール・ナッシング(私は何も感じない)EP」に続く『レストレス・アイディル(不穏な田園生活)』なるデビュー・アルバムは、いままさにその名の由来への忠誠を示すかのように、暗いロマンティシズムをぶちまける。
 ゴシック/インダストリアルの拠点として一貫した美学を貫いているロンドンの〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック(BEB)〉は、今年、精力的なリリースを展開している。そのなかには元SPKのメンバーでもあった、ラストモード名義で知られるブライアン・ウィリアムズのアルバム『ザ・ワード・アズ・パワー』も含まれている。屠殺場でのフィールド・レコーディングとチベットの呪文とのおぞましい混合や聴覚を脅かすような低周波数の実験で知られるダーク・アンビエントの先駆者だが、彼のような過剰だった先人が〈BEB〉のようなクラブ系のレーベルから作品を出すことは個人的には面白いと思う。
 まあ何にせよ、〈BEB〉は、もっとも暗い、もっとも悲観的な思いに陶酔しきっているのだ。さあ、この暗さを楽しもう。そんなレーベル側の思いが伝わってくる。トロピック・オブ・キャンサーはロサンジェルスだが、レイムと並んでレーベルにの顔でもあるので、これは待望の1枚目なのである。

 音的なことを言えば、これはニュー・インダストリアル時代のジョイ・ディヴィジョンに喩えられるかもしれない。もともと〈ダウンワーズ〉という老舗のテクノ・レーベルから作品を出しているのでエレクトロニックな要素はある。電子ドラムはクラウトロックの系譜で、淡々とリズムを反復する。ギターは美しい旋律を爪弾き、歌は深いエフェクトのなかで霧となって消えていく。なるほど、ジョイ・ディヴィジョンとコクトー・ツインズを目一杯スクリューしたようなこの感覚は、古典的な暗いロマンティシズムを新鮮なものにする。レイムほどの斬新さはないが、メロディは悪くはない。ハウスのハッピーなノリへの反発心の表れだとしても、クラブ・カルチャーを通過している分、解放感があっていい。ヘンリ・ミラーからの引用も、何か仰々しい思いがあるようには感じないけれど、訴えたい感情はあるはず。さもなければ、真のクラブ・カルチャーたるもの、どうせイクならここまでイケということか。しかし、夜更かした翌朝は、本気でつらいから困ったものである。

「いまさらきけないSEAPUNK & Vaporwave」 - ele-king

 ソーシャルTV局こと2.5Dと『ele-king』が、音楽好きなベッドルーマーたちへ贈る季刊音楽情報&トーク番組、「10代からのエレキング!」が今週金曜2.5Dに登場!
 その名のとおりヤングな皆さんとともに、気になるアーティスト、気になる作品、気になるシーンについて考える番組です。DJタイムを楽しみながら、『ele-king』を片手に、さまざまなゲストやライター陣とお話しましょう。

 第一回目のテーマは、熟読ele-king! 「いまさらきけないSEAPUNK & Vaporwave」ゲストに〈maltine records〉主宰tomad氏と、Hi-Hi-Whoopeeの管理人ことハイハイさんを迎え、新刊『ele-king vol.11』の特集記事を解きほぐす座談会です。特集の焦点となる「SEAPUNK」や「Vaporwave」というキーワードをわかりやすく解説しながら、この謎多きインディ・ムーヴメントについて探っていきましょう。

 今回は、ゲストを含めた真剣Vapor世代がしゃべり場スタイルで激討論! みなさん、どうぞツイッターなどでツッコミいれてやってくださいね! 

 また、redocompass、tomad両氏によるDJタイムもお聴き逃しなく! DJを挟む前後半2部スタイルで、夏期~秋期話題盤をめぐる話題とテーマ・トークをじっくりとお楽しみください。

2.5Dはこちらから■ 


■ele-king×2.5D「10代からのエレキング!」

出演:
中村義響、 竹内正太郎、 斎藤辰也、 橋元優歩、 ちゃんもも◎、 redcompass、 tomad、 ハイハイさん(スカイプ出演)
内容:TALK&DJ
時間:OPEN 19:30 /START 20:00/END 23:00
観覧料:¥1,500
場所:2.5D(PARCO part1 6F)
配信URL:https://2-5-d.jp/livestream/

DJ
redcompass、tomad

第一部
「シーズン&トレンド」
出演:中村義響、redcompass、ハイハイさん
司会:橋元優歩
春期~夏期リリースの重要作を、スピーカー1人1枚全力レヴュー。そのなかからトピックを抽出してクロストーク!

第二部
「いまさらきけないSEAPUNK & Vaporwave」
出演:竹内正太郎、斎藤辰也、ちゃんもも◎、redcompass、tomad
司会:橋元優歩、中村義響
しゃべり場スタイルで激討論!

※放送内容は予定です


Julianna Barwick - ele-king

「エイフェックス・ツインも『ミュージック・フォー・エアポート』も好き。でも、だからといってアンビエント・ミュージックのファンというわけではないの」「わたしはヴォーカル・ミュージックが好き。ドレイクをとてもよく聴くって言ったら、みんな驚くんじゃないかしら」(参照 https://pitchfork.com/features/update/9182-julianna-barwick/

 ジュリアナ・バーウィックの音の背景には、もちろんさまざまな音楽の系譜と歴史が連なっているが、そんなことはこの「ヴォーカル・ミュージックが好き」の一言のもとにすべて溶け合わされてしまう。2006年のデビュー作から、一貫して自身の声とループ・ペダルのみで曲を生むというミニマルなスタイルを崩さない彼女は、人の声というものの持つ情報量に対して並ならぬ感度を持っているのだろう。ひょっとすると、会話などよりも、声やその波長からのほうがより正確に相手のことを理解できるのかもしれない。「ヴォーカル・ミュージック」とはおそらく彼女にとって人そのものであり、感情そのもの。その一点で、彼女のなかにジャンルの概念はほとんど意味をなしていない(とはいえ、一方でジャンルの概念の必要性を理解し、そうした自身の性質を対象化してもいるところが彼女のクールなところなのだが)。

 よって、声が好きといっても、バーウィックの音楽は声をフェティッシュに彫琢したりするものではない。声は素材ではなく、声になったときにすでに完成しているものだ、という思いがあるのではないだろうか。それは、ある感情が身体を離れるときの副産物とも言えるかもしれない。痛みにああと声を上げるとき、感動にああと声を漏らすとき、感情にはやっと出口が与えられる。もし声がなかったら、その気持ちをたえることができるだろうか。声は感情の分身であり、バーウィックはその出口が与えられた分身が飛んでゆくべき場所を指し示してやるだけ。彼女の作品において、音はそのように音楽になる。

 『サングイン』『フロライン』『ザ・マジック・プレイス』、2枚の美しいアルバムとEPのあとには、イクエ・モリとの『ジュリアナ・バーウィック&イクエ・モリ』とヘラド・ネグロとの『ビリーヴ・ユー・ミー』(オンブル名義)が続いた。前者は〈リヴェンジ〉の実験的なコラボ・プロジェクト・シリーズの一作として、後者は〈アスマティック・キティ〉からのパーソナルでカジュアルな歌ものプロジェクトとしてリリースされたが、こうした関わりのなかで、バーウィックは彼女のなかの実験音楽的な側面と歌うたいとしての側面を自然なかたちで伸ばしていった。小節線のないスタイルがバーウィックの曲のひとつの特徴だが、今作には、“ワン・ハーフ”のような歌曲としての拍子とフレーズを持ったトラックに存在感がある。“ルック・イントゥ・ユア・オウン・マインド”など、ピアノを含めた弦楽器がフィーチャーされている曲も増えた。

 とくにこのトラックにおいて増幅されたバスが果たす役割は大きい。オーヴァー・コンプ気味な音像は、大きくて黒い影のように、天をゆくコーラスに地を与え、重力を与えている。“ピリック”でもピアノとコントラバスによって重みが加えられており、バーウィックにはめずらしく、それらの旋律によって声たちに方向づけと色づけがなされている。鳥の群れを先導する鯨、といった印象。ふわふわと和音をなす声の層は、今作では翳りと重力によって、地面の影響を受けている。光ばかりだった彼女の音楽には、地面と海と風が与えられた。創世だ。
アルバム・タイトルともなっているネーペンテースとはウツボカズラのこと。古代ギリシャ人はこれを悲しみや苦痛を忘れさせる薬になると考えたという。なるほど、筆者が翳りと感じたものはこの悲しみや苦痛にあたるのだろう。しかし、この音楽を痛みを忘れるための麻薬や麻酔であるとは考えられない。いずれ癒えるべくして癒える痛みに寄り添い、暗がりから視界がひらけるところを示そうとしてくれる音だと筆者には感じられる。ここではないどこかや、あるいはあの世などに救いがあるのではない――今作に与えられた地面や海は今生の景色であり、現実のいろかたちをしており、バーウィックのささやかな創世はそのことを力強く、しかしやさしく示してくれる。“ザ・ハービンガー”のようなベタが『ネーペンテース』においてはあまりに心の琴線を揺さぶる。

 どうしよう、ポエムになってしまった。彼女については3つレヴューを書き、『ele-king vol.6』においてインタヴューも行っているので、こんな回もあることを許してください。ぜひそちらもご参照のほど。

 巷では新世代のインダストリアル・サウンドが拡大するなか、オリジナル・インダストリアルにも脚光が当たっている。こんな本も出ているし、〈ミュート〉はキャバレ・ヴォルテールのバックカタログを再発する。そして、11月には、インダストリアル・ファンのあいだでは長年愛され続けているスペインの巨匠、名前をイタリアの未来派詩人マリネッティの言葉から引用した筋金入りのインダストリル・グループ、エスプレンドー・ジオメトリコが来日する! 
 来日に合わせて、彼らの最新盤もリリースされる。その多くが限定発売のため入手困難となっているので、興味のある人は思い立ったら吉日でいこう。詳しくはココ→https://suezan.com/eg/

interview with Jun Miyake - ele-king


三宅純
Lost Memory Theatre act-1

Pヴァイン

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 三宅純はインターナショナルに活動しているパリ在住の日本人作曲家である。わりと最近では、2009年の寺山修司版『中国の不思議な役人』の音楽を担当して国内外で話題になった。昨年は、ドイツの高名な舞踏家、ピナ・バウシュを描いたヴィム・ベンダースの映画『Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』にも楽曲を提供しているが、映像や彼女のパフォーマンスもさることながら、その音楽も国内外で賞賛されている(そういえば、1996年の大友克洋の『MEMORIES』にもフィーチャーされています)。
 近年欧米では、賛辞の意を込めて、現代のクルト・ワイル、新時代のギル・エヴァンス、未来のバート・バカラック……などと喩えられているが、こうした表現が正しいか否かはさておき、それが多彩な音楽(ジャズ、ボサノヴァ、エレクトロニカ、クラシック等々)がミックスされた魅力的なものであることはたしかだ。エレガントで静謐で、そしておおらかで、想像力を喚起する面白さがある。「記憶を喚起するような音楽」を主題とした新作『ロスト・メモリー・シアター-Act-1』には、とくにそうした魔法があるように感じる。一流の料理人が用意したご馳走であり、旅人の描いたオデッセイアの断片でもあり、美しいミュータント音楽でもある。 
 ゲストも豪華で、アート・リンゼイをはじめ、大御所デヴィッド・バーン、ピーター・シェラー(exアンビシャス・ラバーズ)、かつて〈4AD〉からの作品で一世を風靡したブルガリアン・ヴォイス、天才ベーシストのメルヴィン・ギブスなどなど……、それからなんとニナ・ハーゲンの名前まであるじゃないですか。

小学6年のときにチャーリー・パーカーとマイルス・デイビスを聴かされて、雷に打たれたようになりました。その和声感、リズムの躍動、即興で奏でられる旋律、すべてにスリルを覚え、自分のやりたいことはこれしかないと思いました。

『Lost Memory Theatre act-1』はとても美しい作品ですが、まず、「失われた記憶の劇場」という主題が興味深く思いました。ヴィム・ヴェンダースがライナーで言っているように、それは「心象風景」に関する音楽ということなのでしょうか? 

三宅純(MJ):ヴェンダースさんにはご自身が感じられた通りに書いて下さいとお願いしました 。僕は常々言葉で限定することで、リスナーの感性を制限するようなことはしたくないと思ってきました。コンセプトノートに書いたように、失われた記憶が流入する劇場が自分のために欲しかったのです。そして結果的に失われた記憶を喚起するような音楽を創れたら良いと思いました。

それは、郷愁という言葉にも置き換えられる感覚なのでしょうか?

MJ:むしろ単に懐古的にはしたくありませんでした。「過去はいつも新しく、未来はいつも懐かしい」という言葉が好きです。パーツを見ると層になった記憶の断片から作られているのに、全体として聴くといままで聴いたことがないものが出来上がったという風にしたかったのです。

「失われた記憶が流入する劇場があってもいい」という考えは、音楽がしうることのひとつを表していると思います。記憶を喚起する音楽、思い出すことを促すであろう音楽を今回お作りするにあたって、何を重視されましたか? 

MJ:僕個人の記憶を投影するのではなく、 失った記憶を呼び覚ますトリガーになるような音楽とはどんなものだろう? というのが大きな課題でした。言うのは簡単ですが、実現は極めて困難です。まだ語り尽くせていないと感じるのでシリーズ化するかもしれません、『act-2』の曲はすでに出揃っています。

三宅さんご自身のリスナー体験として、自らの記憶を刺激するような音楽というと何がありますか?

MJ:物心ついた時から音楽とともに生きて来たので、数限りない音楽 、そして風景や香りが、さまざまな記憶と結びついています。特定するつもりはありません。

ご自身の記憶の風景のなかで、いつか音楽の主題にしたいものがあれば教えてください。

MJ:脳裏に残る情景があったとしても、実際に音にするかどうか、そのときが来るまでわからないのです。僕にはいつか音にしたい「感情の備蓄」のようなものがありますが、風景の備蓄はそれに比べると少ないように思えます。

三宅さんとジャズとの出会い、トランペットとの出会いについて教えて下さい。日野皓正さんに憧れて、ジャズの入ったと聞いたことがありますが、ジャズのどんなところが三宅さんにとって魅力だったのでしょう?

MJ:小学6年のときにジャズ狂のお母さんを持つ友人宅で、チャーリー・パーカーとマイルス・デイビスを聴かされて、雷に打たれたようになりました。その和声感、リズムの躍動、即興で奏でられる旋律、すべてにスリルを覚え、自分のやりたいことはこれしか無いと思いました。当時はまだジャズは進化の途中でしたから、音楽の様式に惹かれたというよりも、日進月歩で進化する自由な魂に憧れたのだと思います。
 それから独学でやみくもに練習をはじめましたが、大学受験の時期に両親の反対にあって、日本でもっとも尊敬できるトランペッター日野皓正さんの門を叩き、彼に才能が無いと言われたらやめようと思ったのです。彼は僕を沼津の自宅に連れていってくれ、聴音の試験をし、奏法上の問題を指摘し、音楽家として生きる厳しさについて話をしてくれました。つまりやめろということだと思った時 、心配した母親から電話があって、日野さんはいきなり電話口で「お宅の息子さんはアメリカに行くことが決まりました」と宣言されたのです。大騒動になりました。

バークリー音楽院では学んだことで、いまでも大きな財産となっていることは何でしょう?

MJ:むしろ学校外の演奏活動で多くのことを学びました。学校では……良くも悪くも楽曲をシステマチックにアナライズすることでしょうか。

とくにアメリカではジャズの演奏家の層も厚いと思いますが、そういう競争率の高い、演奏能力の高い次元で活動することは、それなりのプレッシャーやストレスもあったと思うのですが、いかがでしょうか?

MJ:日々が他流試合の連続だったのでプレッシャーやストレスもあったと思いますが、そういう環境のなかで突出できないのなら、やる意味がないとも思っていました。

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日本は美しく愛すべき祖国ですが、地理的には残りの世界から隔絶していますし、文化的にも閉塞しています。僕は一定の国や文化に執着せずいつも浮遊していたい、自分の創作のためのコラボレーションの起点になりうる場所に身を置きたいたいと思うのです。


三宅純
Lost Memory Theatre act-1

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アート・リンゼイとは長いお付き合いになっているかと思いますが、彼との出会いについて教えて下さい。

MJ:89年頃プロデュースした作品のミックスをNYでしているときに、当時アンビシャスラヴァーズでアートのパートナーだったピーター・シェラーが隣のスタジオで仕事をしていて、話すうちに仲良くなり。アートにも紹介され、その後交流がはじまりました。彼らが初めて僕の作品に参加したのは93年の『星ノ玉ノ緒』で、ピーターもいまだ参加ミュージシャンの常連です。

彼のどんなところがお好きで、また、彼とはどんなところで気が合うのでしょうか? 

MJ:彼のなかには天使と悪魔が同居していて、そのふたりともがインテリで、壊れやすく、ユーモアに富んで います。 音楽のセンスは合うと思いますが、よく喧嘩もするので、気が合うと言えるのかなぁ……

アート・リンゼイもある種、自由人というか、エクレクティックというか、ひとつの型に固執しないタイプのミュージシャンという点では似ていると思います。三宅さんはジャズ出身ですが、クラシック音楽の要素もありますし、ブラジル音楽の要素も、キューバっぽいリズムや東洋の旋律もあります。どのような過程をもって、現在のようなハイブリッドな音楽に辿り着いたのでしょうか?

MJ:80年代のバブル期に創造的な広告制作の現場に携わった経験が、ハイブリッドな手法やセンスを磨いてくれました。 僕らは音楽様式が飽和した時代に生きているわけで、そんな時代に自分の『ヴォイス』を探し出すには、ハイブリッドな異種交配という手法がふさわしい気がしたのです。

“The World I Know ”はブリジット・フォンテーヌみたいだと思ったのですが、いかがでしょう?

MJ:全然意識していませんでした。ストリングスのバックトラックは アニメのサントラに書いたもので、そのスコアを活かして、全く別のリピートしないメロディを乗せてみようと思って作りました。

“Ich Bin Schon”はドイツ語ですが、何を歌っているのでしょう?

MJ:そんな時、Google translationは役に立ちます。ある程度。

『Lost Memory Theatre act-1』にはいろんな言語で歌われていますね。“White Rose”はロシア語ですか? 他に英語、日本語、フランス語、ポルトガル語の歌がありますね? 他にあるのはスワヒリ語ですか? 

MJ:White Rose”はブルガリア語です。後はスワヒリ語ではなく……シラブルだけで言語ではないものがあります。

こうした試みは何を意味しているのでしょう?

MJ:試みという意識はありませんでした。僕を取り巻く、この星の日常です。

広い意味での、ワールド・ミュージックというコンセプトは意識されましたか?

MJ:いいえ、僕を取り巻く、この星の、そして自分の脳内の日常です。

ちなみに“Calluna”の旋律はどこから来ているのでしょう?

MJ:え? 頭の中からです。

三宅さんにとってブラジル音楽、とくにボサノヴァにはどのような魅力を感じていますか?

MJ:人びとの暮らしの一部として音楽が存在している国から生まれた、メロディとハーモニーとリズムの関係性が素敵な音楽です。

アメリカで活動して、帰国したものの、2005年からはパリを拠点にしていますが、日本に居続けるよりは外に出た方が活動しやすいからですか? 

MJ:日本は美しく愛すべき祖国ですが、地理的には残りの世界から隔絶していますし、文化的にも閉塞しています。僕は一定の国や文化に執着せずいつも浮遊していたい、自分の創作のためのコラボレーションの起点になりうる場所に身を置きたいたいと思うのです。

ここ10年ぐらいはアンダーグランドなミュージシャンでも海外を拠点に活動している人たちが少なくありません。そういう人たちはたいてい実験的なことをやっていて、海外のほうが、耳がオープンなオーディエンスが多くいると感じています。ミュージシャンが挑戦しやすい環境は、やはり欧米のほうがあると思いますか?

MJ:場所がどこであれ 、ヴィジョンがはっきりしていれば関係無いと思います。ただ、欧米では音楽は独立した言語のひとつとして存在していて、あえて他の言語に置き換えずとも音を聞けば通じるという側面があり、それは僕らにとって非常に楽なところです。

『Lost Memory Theatre act-1』はエレガントで、穏やかなアルバムだと思います。エレガントさ、穏やかさについては意識されていますか? 

MJ:いいえ。 お言葉は嬉しいですが、意識はしていませんでした。

穏やかではない音楽、エレガントではない音楽にもご興味はありますか? たとえばノイズとか、ダンス・ミュージックとか。

MJ:世のなかのすべてのものは表裏一体です。

たとえば“Still Life”のような曲ではエレクトロニクスも使って実験的なアプローチをしていますが、しかし、三宅さんは、敢えて前衛的な方向に、敢えて難しい方向に行かないように心がけているように思います。その理由を教えてください。

MJ:理由はわかりませんが、自分で何度も聴きたい音楽、反復に耐えうる音楽、しかもいままでに無かった音楽を作りたいと思っています。前衛(という言葉がすでに前衛的ではないですが)に含まれる独善的な成分は排除したい要素のひとつです。

ビョークのやっているような電子音楽にはご興味ありますか?

MJ:彼女のやっていることを電子音楽という言葉で括れるのかどうかわかりませんが、彼女の存在自体に興味とリスペクトがあります。

『Lost Memory Theatre act-1』に限らずですが、三宅さんがもっとも表現したい感情はなんでしょう? 

MJ:感情は脆く移ろいやすく、常に複数のレイヤーによって構成されています。音楽はそれが表現できるメディアです。

『Lost Memory Theatre act-1』のアートワークは何を暗示しているのでしょう?

MJ:自ら限定するつもりはありません。

デヴィッド・バーンは今回のアルバムでどのような役割を果たしていますか?

MJ:皆さんがそれぞれ感じられた通りで良いかと思います。

ヴィム・ヴェンダースの映画でお好きな作品を教えて下さい。その理由なども話してもらえるとありがたいです。

MJ:個人的には初期の作品群が好きですが、それを限定してしまうのは避けたいです。どんな芸術にも一度見たり聴いたりしただけでは感じ取れない要素があり、個人の体験値によって感じ方も変わって来るものだと思うからです。

パリでの生活のなかで水泳もされているそうですが、体力というものと音楽とはどのように関連づけて考えているのでしょう?

MJ:パリだけではなく、この26年間どこにいても365日毎朝泳いでいます。どんなに体調が悪くても泳ぐので、体力のためかどうかは疑問……ただ脳の疲労と体の疲労のバランスを取るには良いのかもしれませんね。屈折した心象風景を描くためには、健全な身体が必要だと思います。朝の水泳だけでなく、 放電のため深夜に1時間ほど散歩をする習慣があります。

パリの街を歩いたことは2回しかないのですが、とても美しい街並みと美味しい料理、あとクラブでのフレンドリーな感覚はいまでも忘れられません。しかし、散歩していると必ずイヌの糞を践んでしまったのですが、あれもフランス的な自由さの表れなんだと受け止めています。日本だったら、怒る人は本当に怒るじゃないかと思うのですが、いかがでしょう?

MJ:自由さの表れ……アハハまさか! フランス人が自由かどうかわかりませんが、少なくとも皆自己中心的で、「横並び」という意識の対極にあります。パリの街を良くしようと思ったら、フランス人にはブランディングだけを任せ、実務をドイツ人に、外交をスイス人に、料理をイタリア人と日本人に、衛生面をシンガポール人に任せれば良いのではないかと思う次第です。

アメリカでもっとも好きなところ、パリでもっとも好きなところ、日本でもっとも好きなところと嫌いなところをそれぞれ挙げてください。

MJ:挙げるのは簡単なのですが、やめておきます。繰り返しになりますが、感情は脆く移ろいやすく、常に複数のレイヤーによって構成されています。国や政治も同じ……アメリカはかつてのアメリカではないし、日本も違う。いまの日本はとても心配です。個人としてどのようにいまを生き、どのような意識をもって行動するかが大切ではないかと思います。

最後に、三宅さんにとって重要なインスピレーションをもらった5枚のアルバムを教えてください。

MJ:5枚に限定する事なんて「言ってはいけないこと」のひとつです。

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