「K A R Y Y N」と一致するもの

Otagiri - ele-king

 Otagiri(オタギリ)の『The Radiant』はリアルではない。痛快なほどシュールだ。このアルバムを聴いていると想像力がかき立てられ、思いも寄らぬイメージがつぎつぎと湧きあがってくる。非常にスリリングな音響体験だが、これは日本で生まれたヒップホップのアルバムである。
 文脈を異にするさまざまな音の断片が入り乱れ、予測のつかないかたちでコラージュされていく。ことばも、ラップというよりはポエトリー・リーディングや演説に近い。ひとつひとつのサウンドや単語は、なるほどたしかにドキッとさせる瞬間もあるにはあるが、決定的な人生の物語や内面を描写することはなく、ただ曲全体のなかへと埋没していく。サックスやら声明やら具体音やらが転げまわり、日本語は唐突に英語へと切り替わる。まずは “Music Related” を聴いてみてほしい。

 Otagiri なるこの才能は、すでに10年ほどまえから活動をはじめていたようだ。これまで Soccerboy や S̸ といった名義で音源を発表したりライヴをしたり、劇作家の岡田利規や ECD とコラボしたり、沖縄を拠点にしているらしいこと……しかしより詳しい情報は出てこない。むかしのバンドキャンプのページも削除されてしまっている(コンピ『REV TAPE VOL.2』は生存を確認。ほかにフィジカル盤では、コンピ『Fresh Evil Dead』や ECD のベスト盤にその名が見える)。『fnmnl』のインタヴューから読書好きだというのはうかがえるのだが、バイオ的なことはほぼ不明。直近では KID FRESINO の新作『20,Stop it.』に参加していた。

 本作のプロダクションを手がけるのは横浜のDJクルー LEF!!! CREW!!! の DJ MAYAKU と Otagiri 本人。まず、彼らの音づくりが卓越していることは疑いない。マスタリング担当は90年代から活躍するヴェテラン音職人のツッチー。シンガーソングライターの butaji も客演している。
 このアルバムを聴いていると、 そもそもヒップホップそれ自体が以前までのポップ・ミュージックに抗う、ある意味で実験的な音楽だったことを思い出す。Otagiri は、キャラに頼らずとも音とことばだけで闘えることを証明しようとしている。なにより、これほどまでにサウンドと向き合い、独自の音楽を創造することを諦めない彼自身は、きわめてリアルというほかない。

4 今月聴いた音楽と余談 - ele-king

1. My Bloody Valentine - Loveless

 マイブラが帰ってきた!
〈Domino〉との契約を発表し『Isn't Anything』、『Loveless』、『ep's 1988-1991 and rare tracks』、『 m b v』の再発、ストリーミング解禁。そして『ニューヨークタイムス』の記事でケヴィンが〈Domino〉から2作品のリリースの予定を発表。発売日はまだ未定だが年末までには完成させると言ってるそう。 やったー!
 この際シングルも再発してくれ。なかなか見ないのもあるしとにかく高い。当初の計画では今年に新作のリリースとツアーを予定してたようです。やる気があるならこちらは待ちましょういつまでも。
せっかくなので移動中にSpotifyで聴いていたら、ギターの轟音が電車の走行音と重なっちゃって「あれ? これギター? 電車?」って。そもそも少し音ちっちゃいから全然聞こえなくなってきちゃって。マイブラは都心の移動中に聴くもんじゃないようです。
 『ニューヨークタイムス』がケヴィンの最近の様子を書いてました。最近の趣味は料理と散歩、詠春拳(中国拳法)を習いはじめ、音楽はSpotifyで聴いててお気に入りはフランク・オーシャン。散歩で見つけたらしい鹿の生態をどこかのインタヴューで楽しそうに語っているという。だいぶ穏やかな生活送っているようです。詠春拳してるケヴィン・シールズ……見たい……そういうのが楽しくなってくる年齢なのもわかるけど、「最近好きなのはフランク・オーシャンです(真顔)」なんて言われたらちょっと不安になっちゃうよ……
 マイブラの曲は皆さんもう聴いていると思うのでケヴィンとジェイの謎セッションをどうぞ。

2. The Orielles - La Vita Olistica

 ロンドン、〈Heavenly Recordings〉からThe Oriellesのサード・アルバム!  Stereolabファンなのでこの手のバンドは大好物。ベース・ヴォーカルとドラムの姉妹とギターの3ピース・バンドだけど使う音もアイデアも多彩で聴いてて楽しい!  こういう手数の多さはそれまで触れてきた文化の多様さが出ますね。 本アルバムはセカンド・アルバムのセルフカヴァーの曲も多いのですがガラッと変わったわけではなくアップデートというよりは別解釈。前作も良かったので比べ合わせて聴くと間違い探し的に面白いです。

3. Floating Points, Pharoah Sanders, The London Symphony Orchestra - Promises

 NYCは〈Luaka Bop〉からFloating PointsとPharoah Sandersのコラボ・アルバム! ロンドン交響楽団も参加。版元の〈Luaka Bop〉はDavid Byrneのレーベルなんですね、ということはByrneも一枚噛んでるのか。
 9曲通して1曲に構成されていて、ファラオ・サンダースのサックスもFloating Pointsのシンセももちろんロンドン交響楽団の完璧な演奏もまったく土下座もので素晴らしいんですが、正直、少し地味かなと感じてしまう。高尚すぎて僕にはまだ早いんだな...

ファラオ・サンダースのデケデケデケドォ〜。

アルバムのプロローグの動画で担当楽器やらレコーディングの状況が中々細かく解説されてます。

4. black midi - John L / Despair

 〈Rough Trade〉からblack midiのニュー・シングル。セカンド・アルバムのリリースも決まっているようです
 それにしても〈Rough Trade〉はblack midi、〈Warp〉はSquid、〈Heavenly〉はWorking Men's Club、〈Domino〉はSorry と、ここ数年で頭角を現したポスト・パンク・バンドを老舗レーベルが取得。black midiとSquidは複雑なアンサンブルやシュプレヒゲザング(喋るような歌い方)がとくに似た印象で、どちらもポストロック要素が多い感じ。
 black midiはより禍々しく、曲の緩急がストーリー性を強く感じる。クラウトロックの影響も強そう。おそらくほぼ同世代のshameはツアーも多かったので一足先にアメリカでウケましたが、上記で挙げた様なバンドもコロナがなければもっと大きくなってたかも。


余談

 ここからは音楽関係なく『シン・エヴァンゲリオン』の話をしたいと思います。冒頭の小型潜水艦を改造した月着陸船、ピアノ線で吊られた8号機と戦艦の空中戦から始まり、レイアウト、ボタンの押し方に至るまで、すべてのキャラの一挙一動にオマージュが込められているであろう常軌を逸した作り方。到底追いきれない元ネタの数と特撮の知識。これは『ウルトラマンA』だ! とか『バロム・1』かな、あの漫画かな、この映画かな、などとやってるうちに映画は終盤に差し掛かりで気付いたらマスクは涙でビショビショ。碇ゲンドウは成仏した。綾波もアスカもカヲルも成仏した。シンジとマリは大人になった。あのシンジが。つい2時間前まで鬱で飯も食えなかったシンジが。日本一のオタクからの外に出よという全オタクへのメッセージ。これはTV版でも旧劇でも繰り返し言われてきたことだけど、これまでのエヴァンゲリオンより確実に大人になったキャラクターたちは、庵野秀明は僕らを傷つけて目を覚まさせるのではなく、手を差し伸べ、引っ張っていってくれる。でも僕はとりあえずウルトラマンと仮面ライダーを見直します。
 ひとつ気になって調べたのですが、第3村で綾波(仮)とおばちゃんたちが前進しながら田植えをします。通常手植えでは後進しながら植えますが、一部地域、とくに棚田のある地方は前進しながら田植えするそう。第3村の田んぼは棚田なので前進しながらするのが正解。細かすぎる! 一瞬でも浅知恵で見つけちゃったー! と喜んだのが恥ずかしい。感服です……

 これはビッグ・ニュースだ。サン・アロウの〈Sun Ark〉から名作『Aru Otoko No Densetsu』がリリースされ、すでに2年半ほどが過ぎている。次のアルバムはいったいいつ……と期待を募らせていたリスナーも多いだろう。フットワークに触発されながらその後、文字どおり唯一無二のエレクトロニック・ダンス・ミュージックをつくりつづけてきた文字どおりの異才、食品まつり a.k.a foodman が、なんと、〈Hyperdub〉と契約。7月9日に新作『Yasuragi Land』をリリースする。これは、ビッグ・ニュースだ。
 現在、新曲 “星くず展望台” が公開中。曲名どおりロマンティックな要素を持ち合わせつつも、彼らしい独特のリズムが盛大に炸裂している。この夏の必聴盤、確定でしょう。

食品まつり a.k.a foodman

名古屋在住のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、
食品まつり a.k.a foodman
Pitchfork の年間ベストにも選出されるなど、
ワールドワイドな活動を続ける彼が、
レフトフィールド・ミュージックにおけるUKの最重要レーベル、
〈Hyperdub〉と契約!
最新作『Yasuragi Land』を7月9日にリリース決定!
新曲 “Hoshikuzu Tenboudai” がMVと共に解禁!

名古屋在住のエレクトロニック・ミュージック・プロデューサー、食品まつり a.k.a foodman。これまでに Pitchfork、FACT Magazine、Tiny Mix Tapes などの海外メディアで年間ベストに選出され、Unsound、Boiler Room、Low End Theory といったシーンの重要パーティーへの出演も果たしワールドワイドな活動を広げる彼が、レフトフィールド・ミュージックにおける最重要レーベル の一つ、〈Hyperdub〉と契約、最新作『Yasuragi Land』を7月9日にリリースすることが発表された。併せて新曲 “Hoshikuzu Tenboudai” のMVが現在公開中となっている。

Foodman, Hoshikuzu Tenboudai
https://youtu.be/5qUCYUI1IqA

食品まつり a.k.a foodman こと樋口貴英(ひぐちたかひで)は、名古屋市出身で、現在も名古屋を拠点に活動をしている。アーティストとしては2010年代初頭に台頭したジュークやフットワークに大きな衝撃を受け、その後の自身の音楽形成に影響を与えたという。彼が伝えているのは、ジュークやフットワークの精神と感覚であり、彼の型破りなスタイルはそれに由来するとも言える。また、他のアーティストのプロデュースも行っており、アルバムにゲスト参加している Bo Ningen の Taigen Kawabe とタッグを組んで Kiseki というデュオでの活動も行なっている。

十代の頃から人前でのパフォーマンスを続ける彼は、人と集まってジャム・セッションしていたことがこのアルバムのインスピレーションになったという。それは一人で行う制作からは得られないものであり、そこから着想を得たサウンドとフィーリングをつなげて完成したのが本作『Yasuragi Land』の核心である。

また、アーティスト名やアルバムのアートワークから想像できるように、彼は食への大きな関心を持っており、アルバムに収録したトラックタイトルにもそれが反映されている。さらに、サウナ好きでも知られる彼が定期的に通う地元の銭湯や、道の駅、パーキングエリアの食堂でのささやかな楽しみにインスパイアされた楽曲も収録されている。

ああいう所に行ったら、その場の雰囲気を楽しむことができます。自分が作りたいと思ったのは、ギターとパーカッションのサウンドを、先が見えないながらも今感じられる穏やかな社会の感覚と組み合わせた真摯なアルバム。『Yasuragi Land』はそんな ‘平穏’ な場所なんです。 ──食品まつり a.k.a foodman

今回のアルバムは〈Hyperdub〉としては珍しくベースが使用されておらず、それによって『Yasuragi Land』は爽やかで洗練された印象を与える。このハイパー・リズミック・ミュージックとも形容できる作品は、2、3のシンプルなツールを用いて制作され、リスナーに脳内でのダンス体験をもたらす。“Yasuragi” や “Parking Area” は、まるで丁寧に分解されたアコースティック・ジャズのようで、“Ari Ari” はマンガに登場するしゃっくりが飛び散ったようなディープ・ハウスだ。“Hoshikuzu Tenboudai” と “Shiboritate” はライヒのようなミニマル・ミュージックのトランス的な要素がアップデートされポリリズム化した楽曲とも表現できる。“Food Court” には機械的なリズムと素朴なメロディが入り組み、“Galley Café” ではキュートな木笛のメロディとマイクロエディットされた木製ドラムが対になっている。ヴォーカル・トラック2曲のうち、Taigen の “Michi No Eki” では、Magma の楽曲のような複雑なロックをカジュアルでデジタルに描き、“Sanbashi ft. Cotto Center” は80年代のR&Bを彷彿とさせる。アルバムを締めくくる “Minsyuku” には、ダフトパンクのトラックから拝借したようなギターが聞こえ、隙間なくもつれ合ったドラムに織り込まれている。

彼の鬼才ぶりが発揮された待望の最新作『Yasuragi Land』は〈Hyperdub〉より7月9日にリリース! 国内盤CDにはボーナストラック “Super Real Sentou” が収録され解説が付属する他、輸入盤CD、デジタルと各種フォーマットで発売される。また、輸入盤LPは8月中旬に発売される予定となっている。

label: BEAT RECORDS / Hyperdub
artist: 食品まつり a.k.a foodman
title: Yasuragi Land
release date: 2021/07/09 ON SALE
* 輸入盤LPは8月中旬発売

国内盤特典:ボーナストラック追加収録 / 解説書封入
CD予約: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11814
LP予約: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11815

tracklist:
01. Omiyage
02. Yasuragi
03. Michi No Eki ft Taigen Kawabe
04. Ari Ari
05. Shiboritate
06. Hoshikuzu Tenboudai
07. Shikaku No Sekai
08. Food Court
09. Gallery Cafe
10. Numachi
11. Parking Area
12. Iriguchi
13. Aji Fly
14. Sanbashi ft Cotto Center
15. Minsyuku
16. Super Real Sentou (Bonus Track) [国内盤CDにのみ収録]

Aaron Cupples - ele-king

 本年2021年初頭に、ベルリンを拠点とするエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈PAN〉からリリースされたアルバムを紹介したい。ロンドンのプロデューサー/映画音楽作曲家アーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』という作品である。
 このアルバムはその名のとおり同名映画作品のサウンドトラックだが、いわゆる「映画音楽を収録したアルバム」とは趣が異なっている作品に仕上がっている。いわばドローン、環境音、そしてノイズなどが混然一体となった「映画音響作品」とでもいうべき作品なのである。「音による映画」とでもいうべきか。
 とはいえ映画の「音響そのものをサウンドトラックとしたアルバム」というものはこれまでもいくつかの作品がリリースされていた。音楽だけではなく環境音、俳優の声、ノイズなどを収めている、文字通り映画のサウンドのトラックである。この『Island of the Hungry Ghosts (OST)』はその系譜に連なる作品といえる。

 例えばデレク・ジャーマン監督の遺作である青画面だけの映画『BLUE』のサウンドトラック・アルバムを思い出しておきたい。この映画はスクリーンにイヴ・クラインの青のような色だけが映し出され、そこにサイモン・フィッシャー・ターナーによる多層的な音響が重ねられていく。イメージを欠いた映画は、その音響の豊穣さによって、観客の聴覚を通して無のイメージを生成する。1994年にリリースされた同作のCD版にはサイモン・フィッシャー・ターナーが手掛けた音響が丸ごと収録されていたのだ。「青画面に覆われたイメージを欠いた映画」を、さらに音だけで聴取することによって研ぎ澄まされた音響体験が可能になる。ちなみにブライアン・イーノやモーマスも参加していたことも記しておきたい。
 そして1997年に〈ECM〉からリリースされたジャン=リュック・ゴダール監督、アラン・ドロン主演の映画『ヌーベルヴァーグ』(1990)のサウンドトラックもそのような「音響映画」とでもいうべきアルバムである。音業技師フランソワ・ミュジーが手掛けた『ヌーベルヴァーグ』の音響トラックすべてをCD2枚に収録し、ゴダールとミュジーの「ソニマージュ」を音だけで鑑賞できるアルバムである。同じくECMから2000年にリリースされたゴダール『映画史』のサウンドトラックCDもゴダール自身が手掛けた全8章に及ぶ『映画史』の音響トラックすべてをCD5枚に収録した豪華なボックスセットだった。
 近年では(映画全編ではないが)、〈Sub Rosa〉からリリースされたアピチャッポン・ウィーラセタクン監督のサウンドトラック『Metaphors』もアピチャッポンの映画に用いられた音響と音楽が収録され、さながら映画の音を用いたアピチャッポンのインスタレーション作品のようなアルバムに仕上がっていた。ありがたいことに日本盤が〈HEADZ〉からリリースされている。

 ここで紹介するアーロン・カップルズによる『Island of the Hungry Ghosts (OST)』もまたこれら映画音響作品と同様にガブリエル・ブレイディー監督による同名ドキュメンタリー映画作品の音響的サウンドトラック・アルバムである。環境音と音楽の境界線を無化させるようなトラックを収録しているのだ。このアルバムを聴くことで「イメージを持たない映画」が、われわれ聴き手のなかに生成されていくことになる。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』はオーストラリアのクリスマス島のセラピスト、ポーリンリーが、島にある亡命者収容所に収容されている亡命希望者たちと会話し、その活動を支援していくさまに加えて、島の自然や儀式も同時に写し取っていくというドキュメンタリー映画である。レーベルは同作を「自然界、人間界、精神界の間を移動するハイブリッド・ドキュメンタリー」と表現している。
 映画『Island of the Hungry Ghosts』は、2018年にトライベッカ映画祭で初公開され、最優秀ドキュメンタリー賞を受賞するなどの高評価を得た。アーロンによるサウンドトラックも「超自然的なオーラ」「異世界的で実験的な」と高く評価され、英国のインディペンデント映画賞で「ベスト・ミュージック」にノミネートされた。

 映画『Island of the Hungry Ghosts』のサウンドトラックはガブリエル監督とアーロンによって「島」自体を主人公として音響化していくコンセプトで設計された。まずアーロンたちは13フィートに及ぶ自作の弦楽器を自作し、それが発するワイヤー・ドローンと、フィールド・レコーディングされた環境音によって、音とノイズの境界線を溶かすようなサウンドを生み出した。
 ちなみにフィールド・レコーディングを手掛けているのはサウンド・デザイナーのレオ・ドルガンだ(彼は本作におけるアーロンの共作者に近い存在である)。レオ・ドルガンの仕事は完璧に近く、島の自然が発する音を見事に捉え、さながら森林の交響楽のような音を実現している。あのフランシスコ・ロペス的なフィールド・レコーディングのハードコアとでもいうべき録音だ。
 環境音とドローンの豊穣かつ深遠な交錯。『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のサウンドにはそのようなミュージック/ノイズの領域が越境していくような感覚が横溢している。その意味では坂本龍一の名作『async』(2017)に近い作品かもしれない。『async』はサウンドトラックではないが、音(ノイズ)と音楽が交錯し、存在しない「映画」の「音響」のようなアルバムであった。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』のノイズや環境音もまた同様である。ここでは環境音が音楽の中に融解し、音楽が環境音の中に溶け合っている。アルバム冒頭の1曲目 “Night” では島の自然が奏でる(発する)環境音のシンフォニーのような音響が、まるでオーケストラのアダージョのようにしっとりと鳴り響く。続く2曲目 “The Understorey” でやわらかいワイヤー・ドローンがレイヤーされ、環境音と持続が互いにゆっくりと浸透する。私見ではこの1曲目と2曲目に「間」に起きる変化こそが、『Island of the Hungry Ghosts』特有の「音の霊性」のようなものを象徴する瞬間ではないかと思う。
 3曲目 “Blowholes” では雨や波の音のような音が鳴り、対して4曲目 “The Long Walk” では世界から不意に解離した人の心の中のようなワイヤー・ドローンが鳴る。静謐な持続音がまるでオーケストレーションされるように音量を増していくだろう。このコンポジションはアーロンの作曲家としての力量を示しているように感じられた。音が浮遊するような緊張感に満ちている。
 5曲目 “Trapped Air” では儀式の始まりを告げるような鐘の音を収録している。その背後には透明な音の霧のように鳴っていることにも注意したい。6曲目 “The Hungry Ghost” では微細な鐘と響くような鐘の音が折り重なり、儀式それじたいの音響のように音響空間を支配する。アルバムのクライマックスのひとつともいえよう(アナログ盤ではここでA面が終わる)。
 7曲目 “Fire & Jungle” では文字通り火を燃やす音から始まり、島の森林に鳴る大自然の音(虫の音の大合唱!)へと変化を遂げていく。8曲目 “The Protester” ではその森林の音響が次第に消え、再びやわらかな絹のようなドローンが生成する。
 9曲目 “Ocean & Prayers” では海の音(波)が鳴り、やがて人の声(祈りか朗読のような)へと変化する。そしてアルバム最終曲10曲目 “Sand Return” ではドローンの折り重なりからオーケストラの序曲のような音の積み重ねを聴かせることで、アルバムは終わりを告げる。

 『Island of the Hungry Ghosts (OST)』の全10曲を通して聴くと、ノイズとドローンの反復によって、映画の重要なテーマである「セラピー」と「儀式」の問題を音から浮かび上がらせてくれるかのようだ。まるで心身に浸透する「儀式的音響」のようにも聴こえてくるのである。
 映像から音響へ。音響から環境へ。環境から身体へ。そして身体から心理へ。心身に「効く」音の織物がここにある。そう、『Island of the Hungry Ghosts (OST)』は、稀有な音響設計を誇るサウンドトラックであり、繊細にして豊穣な音響空間を誇る見事な音響作品なのである。

My Bloody Valentine - ele-king

 先日、ストリーミングの解禁とLP&CDのリイシューで大いに話題を集めたマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。彼らは今度、NTS Radio のキュレイターを務めることになった。同ラジオの10周年を祝う企画で、放送は4月19日。アルカやドップラーエフェクト、ミカ・レヴィやセオ・パリッシュに混じってのキュレイトというのは興味深い。聴き逃し厳禁案件です。


マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン
待望のサブスク解禁が話題沸騰中!
4月19日には NTS Radio にて
特別放送をキュレーション!
5月21日には新装盤CDとLPが再発!

3月31日に、突如『Isn’t Anything』『loveless』『m b v』のアルバム3作、そして4枚のEP作品とレアトラックをまとめた『ep’s 1988-1991 and rare tracks』のストリーミング配信およびダウンロード販売を一挙に解禁したマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン。世界中の音楽ファンが熱狂する中、日本でも Spotify の「バイラルトップ50」の1位となるなど、大きな話題となった。

ストリーミング、CD/LP予約リンク
https://fanlink.to/mbv2021

5月21日には新装盤CDとLPの発売も控える中、英ロンドンの人気ネットラジオ局 NTS Radio の10周年を記念し、スペシャルゲストがキュレーターを務める特別企画『NTS 10』にマイ・ブラッディ・ヴァレンタインが登場することが発表された。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインは、初日となる4月19日(月)の放送でキュレーターを務める。なお、この企画は、世界の食糧資源の統合と分配の改善、食品の浪費の減少、食糧不足に悩む国と地域への協力を目的として創立されたグローバル・フードバンキング・ネットワーク(Global Foodbanking Network)への寄付を募るチャリティ放送となっている。キュレーターにはその他、アルカやミカ・レヴィ、ローリー・アンダーソン、セオ・パリッシュらが名を連ねている。

マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの新装盤CDとLPは5月21日に世界同時リリース!
各作品の発売形態は以下の通り。

Isn't Anything
・国内盤CD(高音質UHQCD仕様/解説書付/リマスター音源)輸入盤CD
・日本語帯付盤デラックス・エディションLP(高品質チップオン・ジャケット式ゲートフォールド・スリーヴ仕様/解説書付/オリジナル1/4インチ・アナログ・テープからマスタリングされた音源を収録/180g重量盤)
・デラックス・エディションLP(高品質チップオン・ジャケット式ゲートフォールド・スリーヴ仕様/オリジナル1/4インチ・アナログ・テープからマスタリングされた音源を収録/180g重量盤)
・スタンダード・エディションLP
・国内盤CD+TシャツセットのTシャツ・デザインには『Feed Me With Your Kiss』EPのアートワークを採用(『m b v』のTシャツセットのデザインとは異なります)

loveless
・国内盤2枚組CD(高音質UHQCD仕様/解説書付/CD1にリマスター音源、CD2には1/2インチ・アナログ・テープからマスタリングされた音源を収録)
・輸入盤2枚組CD
・日本語帯付盤デラックス・エディションLP(高品質チップオン・ジャケット式ゲートフォールド・スリーヴ仕様/解説書付/1/2インチ・アナログ・テープからマスタリングされた音源を収録/180g重量盤)
・デラックス・エディションLP(高品質チップオン・ジャケット式ゲートフォールド・スリーヴ仕様/1/2インチ・アナログ・テープからマスタリングされた音源を収録/180g重量盤)
・スタンダード・エディションLP
・国内盤CD+TシャツセットのTシャツ・デザインには、アルバムのアートワークを採用

m b v
・国内盤CD(高音質UHQCD仕様/解説書付)
・輸入盤CD
・日本語帯付盤デラックス・エディションLP(高品質チップオン・ジャケット式ゲートフォールド・スリーヴ仕様/解説書付/オリジナル1/2インチ・アナログ・テープからマスタリングされた音源を収録/180g重量盤)
・デラックス・エディションLP(高品質チップオン・ジャケット式ゲートフォールド・スリーヴ仕様/オリジナル1/2インチ・アナログ・テープからマスタリングされた音源を収録/180g重量盤)
・スタンダード・エディションLP
・国内盤CD+Tシャツセット用のTシャツ・デザインには『Feed Me With Your Kiss』EPのアートワークを採用(『Isn't Anything』のTシャツセットのデザインとは異なります)
・日本語帯付盤デラックス・エディションLP+Tシャツセット用のTシャツ・デザインには『Glider』EPのアートワークを採用

ep’s 1988-1991 and rare tracks
・国内盤2枚組CD(高音質UHQCD仕様/解説書付/リマスター音源)
・輸入盤2枚組CD
・国内盤CD+TシャツセットのTシャツ・デザインには『You Made Me Realise』EPのアートワークを採用

UHQCD (Ultimate High Quality CD):
CD規格に準拠しており、既存のプレーヤーで再生可能。
新しく開発された製法により、従来の高音質ディスクよりさらに原盤に忠実な音を再現。


label: BEAT RECORDS / DOMINO
artist: My Bloody Valentine
title: Isn't Anything
release date: 2021/05/21 FRI ON SALE

国内盤CD (高音質UHQ仕様 / 帯解説書付き / リマスター音源)
BRC-666 ¥2,300+税
国内盤CD+Tシャツセット:BRC-666T ¥6,800+税

帯付き盤デラックスエディションLP (解説書付き)
BRDWGLP158X
帯付き盤デラックスエディションLP+Tシャツセット
BRDWGLP158XT

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11779


Tシャツセット


帯付きデラックスエディションLP

[CD TRACKLISTING]
01. Soft As Snow (But Warm Inside)
02. Lose My Breath
03. Cupid Come
04. (When You Wake) You’re Still In A Dream
05. No More Sorry
06. All I Need
07. Feed Me With Your Kiss
08. Sueisfine
09. Several Girls Galore
10. You Never Should
11. Nothing Much To Lose
12. I Can See It (But I Can’t Feel It)

[LP TRACKLISTING]
SIDE ONE
01. Soft As Snow (But Warm Inside)
02. Lose My Breath
03. Cupid Come
04. (When You Wake) You’re Still In A Dream
05. No More Sorry
06. All I Need
SIDE TWO
01. Feed Me With Your Kiss
02. Sueisfine
03. Several Girls Galore
04. You Never Should
05. Nothing Much To Lose
06. I Can See It (But I Can’t Feel It)


label: BEAT RECORDS / DOMINO
artist: My Bloody Valentine
title: Loveless
release date: 2021/05/21 FRI ON SALE

国内盤2CD (高音質UHQ仕様 / 帯解説書付き / リマスター音源)
BRC-667 ¥2,500+税
国内盤CD+Tシャツセット:BRC-667T ¥7,000+税

帯付き盤デラックスエディションLP (解説書付き)
BRDWGLP159X
帯付き盤デラックスエディションLP+Tシャツセット
BRDWGLP159XT

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11780


Tシャツセット


帯付きデラックスエディションLP

[CD TRACKLISTING]
CD 1: remastered from original 1630 tape
01. Only Shallow
02. Loomer
03. Touched
04. To Here Knows When
05. When You Sleep
06. I Only Said
07. Come in Alone
08. Sometimes
09. Blown a Wish
10. What You Want
11. Soon
CD 2: mastered from original 1/2 inch analogue tapes
01. Only Shallow
02. Loomer
03. Touched
04. To Here Knows When
05. When You Sleep
06. I Only Said
07. Come in Alone
08. Sometimes
09. Blown a Wish
10. What You Want
11. Soon

[LP TRACKLISTING]
A Side
01. Only Shallow
02. Loomer
03. Touched
04. To Here Knows When
05. When You Sleep
06. I Only Said
B side
01. Come in Alone
02. Sometimes
03. Blown a Wish
04. What You Want
05. Soon


label: BEAT RECORDS / DOMINO
artist: My Bloody Valentine
title: m b v
release date: 2021/05/21 FRI ON SALE

国内盤CD (高音質UHQ仕様 / 帯解説書付き / リマスター音源)
BRC-668 ¥2,300+税
国内盤CD+Tシャツセット:BRC-668T ¥6,800+税

帯付き盤デラックスエディションLP (解説書付き)
BRDWGLP160X
帯付き盤デラックスエディションLP+Tシャツセット
BRDWGLP160XT

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11781


CD Tシャツセット


LP Tシャツセット


帯付きデラックスエディションLP

[CD TRACKLISTING]
01. she found now
02. only tomorrow
03. who sees you
04. is this and yes
05. if i am
06. new you
07. in another way
08. nothing is
09. wonder 2

[LP TRACKLISTING]
side a
01. she found now
02. only tomorrow
03. who sees you
04. is this and yes
side b
01. if i am
02. new you
03. in another way
04. nothing is
05. wonder 2


label: BEAT RECORDS / DOMINO
artist: My Bloody Valentine
title: ep's 1988-1991 and rare tracks
release date: 2021/05/21 FRI ON SALE

国内盤2CD (高音質UHQ仕様 / 帯解説書付き / リマスター音源)
BRC-669 ¥2,500+税
国内盤CD+Tシャツセット:BRC-669T ¥7,000+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11782


Tシャツセット

[CD TRACKLISTING]
CD 1
01. you made me realise
02. slow
03. thorn
04. cigarette in your bed
05. drive it all over me
06. feed me with your kiss
07. i believe
08. emptiness inside
09. i need no trust
10. soon
11. glider
12. don’t ask why
13. off your face

CD 2
01. to here knows when
02. swallow
03. honey power
04. moon song
05. instrumental no. 2
06. instrumental no. 1
07. glider (full length version)
08. sugar
09. angel
10. good for you
11. how do you do it

Godspeed You! Black Emperor - ele-king

 巷には、ゴッドスピード・ユー!ブラックエンペラー(GY!BE)はもう必要ないんじゃないかという言い方がある。90年代末に登場したモントリオールのボヘミアンたちのコミュニティから生まれたこのバンドは、『F♯ A♯ ∞ 』(1997)というその10年においてもっとも重要なロック・アルバムと言われている、世界の崩壊を憎しみと悲しみをもって表現した素晴らしく絶望的なその作品によって我々の前に現れた。政府の腐敗、貧困、悲しみ、刑務所、おそろしく暗い未来──、アルバムには押しつぶされた1ペンスが封入されていた。それから彼らは「Slow Riot For New Zero Kanada E.P.」(1999)の裏ジャケで火焔瓶の作り方を解説し、『Yanqui U.X.O.』(2002)のライナーにおいてはエンターテイメント産業と軍需産業との癒着について実名をもって暴き、新自由主義に支配されたディストピアを描写した。こうした彼らの、これまで執拗に訴え、批判し続けた世界は、今日では誰の目にも明かなものとなっている。ゆえにGY!BEは要らないというある種の皮肉だ。

 まあ、それはさておき、CRASSがそうであったように、GY!BEのような政治的なバンドは、評価され、有名になればなるほど際どいところに追い込まれたりもする。CRASSはまあ、極めてアンダーグラウンドな活動だったがゆえにポップ・カルチャーとはそこそこ距離があったけれど、GY!BEのようにその作品の魅力によって世界中に多くのファンを増やし、あるいは『'Allelujah! Don't Bend Ascend』によって、カナダではそれなりに栄誉ある、200人以上のジャーナリストや関係者の投票で決まるベスト・アルバム賞まで獲ってしまうと、世間はざわついてくるものだ。もっともGY!BEは授賞式には姿を見せず、賞金のすべてを刑務所での楽器代と音楽教育のために寄付したが、かつてアーケイド・ファイヤーやファイストも受賞したその賞に選ばれるほどに、GY!BEとは大きな存在であることを世間に知らしめもした。

 だからといってこのバンドは彼らの信念を曲げはしなかったし、日本を除く先進国では、音楽メディアはもちろんのこと文化を扱う有力新聞のほぼすべてが本作を取り上げているように、むしろポップ・カルチャーに混じってこそ彼らの思想と活動は世界中に伝達されたと言えよう。GY!BEは、作風が明るくなったと言われた前作『Luciferian Towers』(2017)では「医療、住居、食料、水の確保を人権として認めること」「侵略の禁止」「国境の廃止」「産獄複合体の完全解体」などを政府に要求し、そして本作『G_d's Pee AT STATE'S END!(国家の終わりにおける神の小便!)』においても「あらゆる形態の帝国主義の廃止」「刑務所の廃止」「富裕層へのそれがなくなるまでの課税」「警察権力の撲滅」などを要求している(これらのマニフェストは彼らのレコードのインナーないしはbandcampの解説欄で確認できる)。

 さて、その1曲目、7枚目のアルバムの冒頭を彼らは大胆不敵なことに、軍が機密使用する周波数を盗み取り、それらのコラージュからはじめている。タイトルに記されている周波数はそのことで、サブタイトルの“Five Eyes All Blind”にある「ファイヴ・アイズ」とは河野太郎が日本の加入を夢見ている、米、英、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド5カ国による機密情報の共有同盟のことだ。なんとも不吉なサウンド・コラージュのなか、闘いの狼煙を上げるかのようなジミ・ヘンドリックスめいたギターがうなりをあげる。そして激しく高揚していく“Job’s Lament”へと繫がっていく。

 おそらくは真性のアナキスト集団であろう彼らはいわゆるリーダー/中心人物を持たない。シンガーも擁さず、政治的なスローガンをがなりたてることもなければ、「ああしろ」「こうしろ」といった強制的なメッセージの発し方もしない。基本的にスローテンポのインストゥルメンタル主体の音楽で、CRASSというよりもシガー・ロスに近い。たとえばGY!BEには、『Lift Your Skinny Fists Like Antennas To Heaven』(2000)、つまり「あなたのか細い拳をあげよ、天国へのアンテナのごとく」というタイトルの作品がある。この絶妙な言い回しが暗示するように、闇雲に暴動を煽ったりはしないが気持ちを高揚させ、駆り立てはする。GY!BEはあたかも、この世界に見切りをつけた人たちが、ではそこから何が引き出せるのかという試みのひとつに思える。そして彼らがいくら憎しみや悲しみを主題にしようとその楽曲は美しいのだ。

 美しさは、GY!BEの場合は共鳴から生まれる。複数の楽器が共鳴し合い、重なり合ったときに高揚感がもたらされる。本作は、曲調やその構成もふくめ、いかにもGY!BEな作品で、長年彼らの音楽と付き合ってきたぼくにはもう特別新鮮な気持ちにはならないのだけれど、GY!BEがこうしていまも同じように活動していること自体に勇気づけられるし、じっさいその音楽のなかにも年季の入った力強さを感じる。そして、最後の曲のタイトルに“我々の側は勝たなければならない”という熱い言葉があるように、『G_d's Pee AT STATE'S END!』はGY!BEに共鳴する人たちへの励ましであり、街を行進するための序曲でもあろう。ちなみに今回の彼らのマニフェストにはこんな言葉がある。「このレコードは終わりを待っている我々すべてについてであり、すべての政治が失敗に終わったいま、はじまりを待っている我々すべてについてである」

Scotch Rolex - ele-king

 90年代シーフィール作品のリイシューがアナウンスされたばかりだけれど、10年代シーフィールのメンバーであるブライトンのシゲル・イシハラは、もともとノイズ・ミュージシャンであり、DJスコッチ・エッグの名ではチップチューンのアーティストとして知られている(『ゲーム音楽ディスクガイド』監修の hally 氏とも交流あり)。近年はワクワク・キングダムの一員としても活躍中だ。
 その彼がなんと、いまもっとも注目すべきウガンダのレーベル〈Nyege Nyege Tapes〉傘下の〈Hakuna Kulala〉から新作をリリースする(名義もスコッチ・ロレックスへと進化)。同作にはケニアのメタル・デュオ、デュマ2020年のベスト・アルバム30選出)のロード・スパイクハートも参加しているとのことで、これは聴き逃せない。超チェックです。

artist: Scotch Rolex
title: Tewari
label: Hakuna Kulala
release: April 30, 2021

tracklist:
01. UGA262000113 - Omuzira (feat. MC Yallah)
02. Success (feat. Lord Spikeheart)
03. Cheza (feat. Chrisman)
04. Nfulula Biswa (feat. Swordman Kitala)
05. Afro Samurai (feat. Don Zilla)
06. Tewari
07. Juice (feat. MC Yallah)
08. U.T.B. 88
09. Sniper (feat. Lord Spikeheart)
10. Wa kalebule
11. Lapis Lazuli (feat. Lord Spikeheart)

https://hakunakulala.bandcamp.com/album/tewari

Seefeel - ele-king

 1993年に〈Too Pure〉からデビューを果たし、インディ・ロック・バンドでありながらエレクトロニカとの接続に成功した嚆矢、「マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとエイフェックス・ツインの溝を埋めるバンド」と謳われた特異なグループ、シーフィールのリイシュー・プロジェクトが始動する。
 混乱しないように整理しておこう。
 
 ●その三。〈Warp〉からの最初の作品となった1994年のEP「Starethrough Ep」とそれにつづく「Fracture / Tied」の2枚の全曲を収録し、2003年に発表されたオウテカのリミックスともう1曲を加えたLP2枚組の『St / Fr / Sp』。
 ●その一。1995年のセカンド・アルバム『Succour』に12曲ものボーナストラック(「Succour+」)を加えたLP3枚組の『Succour (Redux)』。
 ●その二。1996年に〈Rephlex〉から出たサード・アルバム『(Ch-Vox)』にボーナストラック6曲を加えたLP2枚組の『(Ch-Vox) Redux』。
 ●その四。それらアナログ盤3タイトルの全収録曲を網羅し、さらに2019年にデジタルで公開された2曲を追加したCDボックスセットの『Rupt & Flex (1994 - 96)』。

 以上の4タイトルが5月14日に同時発売される。
 正直、ぜんぶ欲しい。財布とネゴシエイト。

Seefeel
完全未発表楽曲を含む22曲ものボーナストラックを収録した超豪華4枚組CDボックスセット『RUPT & FLEX 1994 - 96』を含む再発企画を発表!
5月14日に4タイトル一挙リリース!
名曲 “Spangle” のオウテカ・リミックスが公開!

「ポスト・ロック」の誕生にも大きな影響を与えた電子音響系バンドのパイオニア、シーフィールが、90年代半ばに〈Warp〉と〈Rephlex〉からリリースされた音源を網羅する再発キャンペーンを発表! 長らく入手困難となっていたスタジオ・アルバム『Succour』と『(Ch-Vox)』が、ボーナストラックを収録した拡大盤、EP集『St / Fr / Sp』、そして94年~96年の音源をまとめた4枚組CDボックスセット『Rupt & Flex』が5月14日に一挙リリース! 発表に合わせて、『Rupt & Flex』収録の “Spangle (Autechre Remix)” が公開!

Spangle (Autechre Remix)
https://youtu.be/iyC0kLVDh-M

また、今回の再発のトレーラー映像も公開!

Rupt & Flex 1994 - 96 out 14 May
https://youtu.be/aELqEiic1J4

すべての作品に、これまで未発表のボーナス音源が含まれており、すべての楽曲は、音響系テクノの鬼才 Pole こと Stefan Betke がオリジナルのDATテープからリマスタリングしている。また The Designers Republic による最新アートワーク(『Succour』はアップデート版)、シーフィールのメンバー、マーク・クリフォードとサラ・ピーコックによるライナーノーツが付く。

〈Too Pure〉からのデビュー・アルバム『Quique』によって注目を集めた彼らは、1994年に〈Warp〉と契約。当初は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインやライド、スロウダイヴを筆頭とするシューゲイザー・サウンドと関連づけて評されていたが、エレクトロニック・サウンドへの傾倒と、サンプラーを駆使するスタイルにより、勢いのあったIDMサウンドとの関連性も語られるようになる。シーフィールの大ファンを公言していたエイフェックス・ツインが、初期のトラック “Time To Find Me” のリミックスを提供し、自身のレーベル〈Rephlex〉とも契約を結んだことで、そのイメージはさらに強まった。

〈Warp〉の設立者、スティーヴ・ベケットは、1stアルバム『Quique』の成功をきっかけに〈Warp〉と契約に至った経緯について、次のように語っている。「シーフィールは〈Warp〉が契約した最初のギター・バンドだった……。彼らは(〈Warp〉という)家族の中では歳が上だったし、純粋なダンス・レーベルであるべき、という(それまでの)不文律を破って非難を浴びたから、我々と契約するのは勇気がいることだったんだ」

シーフィールの最初のEPを聴いたロビン・ガスリーは、マーク・クリフォードをコクトー・ツインズのスタジオに招待し、その後すぐにシーフィールをコクトー・ツインズのツアーに同行させた。マークは、後にコクトー・ツインズのために4曲をリミックスし(EP作品「Otherness」に収録)、彼らの音楽を新たなリスナーに届けるのに貢献している。

1995年3月、〈Warp〉からリリースされた2ndアルバム『Succour』は、1stアルバムのメロディックでギター主導のサウンドから離れ、よりリズミカルで準インダストリアルなテクスチャーを追求したもので、前年にリリースされた2枚のEP作品「Starethrough」と「Fracture / Tied」に続いてリリースされた。1996年に〈Rephlex〉からリリースされた6曲入りのミニ・アルバム『(Ch-Vox)』は、さらに実験的な方向性を示しており、ほとんどの楽曲がマーク・クリフォードが単独で制作したものとなっている。またこの作品は、彼が後に Woodenspoon や Disjecta の名義で〈Warp〉からリリースをするきっかけにもなっている。

バンドは1997年に活動を停止したが、〈Warp〉の設立20周年を祝った Warp20 でのライヴ・パフォーマンス(DJ Scotch Egg と元 Boredoms のドラマー Kazuhisa Iida を加えた新しいラインアップ)をきっかけに、2010年に〈Warp〉からセルフタイトルのアルバムを再びリリースしている。

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: Succour (Redux)
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤3枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11800

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: (Ch-Vox) Redux
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤2枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11802

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: St / Fr / Sp
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤2枚組LP商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11803

label: Warp Records
artist: Seefeel
title: Rupt & Flex (1994 - 96)
release: 2021.05.14 on sale
輸入盤4枚組CDボックスセット商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11804

MYSTICS - ele-king

 スウェーデンのマーカス・ヘンリクソン、札幌の Kuniyuki Takahashi、そして昨年『ASTRAL DUB WORX』を発表したした東京の J.A.K.A.M. (JUZU a.k.a. MOOCHY) によるコラボ・プロジェクト、MYSTICS がアルバムをリリースする。
 なんでも、「共通する神秘主義的な思考、センスが音楽の中で爆発し、化学変化が起こ」ったそうで、ハウスを基礎にしつつ、尺八や箏、アラビック・ヴァイオリンなどをフィーチャーしたディープな一作に仕上がっているようだ。ダブミックスは内田直之。神秘的な音楽旅行を体験しよう。

Sons of Kemet - ele-king

 とき来れり。『Your Queen Is A Reptile』の衝撃から3年。UKジャズの最重要サックス奏者、シャバカ・ハッチングス率いるサンズ・オブ・ケメットのニュー・アルバムが登場する。タイトルは『Black To The Future』。メッセージは明白だ。
 今回のリリースに寄せられたエッセイのなかでシャバカ・ハッチングスは、新作について「力、記憶、癒しを呼び起こす音の詩」と表現している。いわく、「“フィールド・ニーガス” および “ブラック” という、詩人ジョシュア・アイデヘンのことば、その外へと開かれた眼差しにはじまって終わるこのアルバムは、ジョージ・フロイドの死とそれにつづくBLMの抗議から沸き上がってきた怒りや失望、ものの見方を表現している」。このように2020年の画期を受けてつくられた新作は、後ろ(過去)を振り返ることと前(未来)を視ること、その双方に意味を与える作品になっているようだ。
 ゲストも確認しておこう。くだんの詩人ジョシュア・アイデヘンのほかに、コジェイ・ラディカルやD・ダブル・EといったUKのラッパー、シカゴのクラリネット奏者にしてピアニストのエンジェル・バット・ダヴィド、そしてなんとムーア・マザーが参加している! メッセージは明白だ。発売は5日14日。心して待て。

聴く者を圧倒するダイナミックなブラック・パワー。
怒り、戸惑い、そして希望がUK ジャズのカリスマを突き動かす。彼が思い描く未来とは―─。

●サックス奏者、ソングライター、哲学者、作家として活躍するUKジャズの最高峰アーティスト、シャバカ・ ハッチングスがイギリスとアイルランドで最も優れた音楽作品に対して贈られるマーキュリー賞にノミネートされたユニット、サンズ・オブ・ケメットでインパルスから2枚目となるアルバム『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』をリリースする。

●前作『ユア・クイーン・イズ・ア・レプタイル』と同様、テナー・サックス~ベース~ツイン・ドラムという珍しい編成は変わらずだが、UKの次世代ラッパー、コジェイ・ラディカル、シカゴを拠点にするバンドリーダー兼ヴォーカリスト、エンジェル・バット・ダヴィド、アメリカの詩人、ムーア・マザー、彼らの前作にも参加したジョシュア・アイデヘン、イギリスの伝説的なグライムMC、D Double E などの著名なヴォーカリストを迎えたダイナミックな作品に仕上がった。

●昨年、シャバカ・アンド・ジ・アンセスターズとしてリリースした『ウィー・アー・セント・ヒア・バイ・ヒストリー』にも見られるように、ここ数年、シャバカがリリースする作品には、忘れられた神話を発掘し、過去の音を解き明かし、未来へのテーゼを提示する共通のテーマが内在していた。ジョージ・フロイドの死とそれに続くBLMの抗議活動を受けて、シャバカが感じた怒りとフラストレーションを外に向かって表現した政治的に痛烈なパワフルな歌詞と音楽で始まる本作もその例外ではない。メッセージを確かな音楽テクニックと豊かな音色が支え、アート作品として絶妙なバランスを保っている。歌詞までしっかり読みこみたい作品だ。

Sons of Kemet / Black To The Future
サンズ・オブ・ケメット『ブラック・トゥ・ザ・フューチャー』

リリース日:2021年5月14日
品番:UCCI-1049 (SHM CD)
価格:2,600円+TAX

[パーソネル]
シャバカ・ハッチングス(ts, woodwinds)
テオン・クロス(tuba)
トム・スキナー(ds)
エディ・ヒック(ds)

[収録曲]
01. フィールド・ニーガス / Field Negus
02. ピック・アップ・ユア・バーニング・クロス / Pick Up Your Burning Cross
03. シンク・オブ・ホーム / Think Of Home
04. ハッスル / Hustle
05. フォー・ザ・カルチャー / For The Culture
06. トゥ・ネヴァー・フォーゲット・ザ・ソース / To Never Forget The Source
07. イン・リメンブランス・オブ・ゾーズ・フォーレン / In Remembrance Of Those Fallen
08. レット・ザ・サ ークル・ビー・アンブロークン / Let The Circle Be Unbroken
09. エンヴィジョン・ユアセルフ・レヴィテーティング / Envision Yourself Levitating
10. スルーアウト・ザ・マッドネス、ステイ・ストロング / Throughout The Madness, Stay Strong
11. ブラック / Black

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