みなさんこんにちは。夏真っ盛りですね。今回は少し趣旨を変えて、いつものゲーム・ソフトではなく、ハードウェアの方を取り上げたいと思います。というのも、面白いガジェットを手に入れたのですよ。
それが上記写真のこちら。まるでiPadの左右に無理やりコントローラーを付けたかのような豪快なデザインのこのガジェットこそ、今年3月末に発売された、PCゲームが遊べるタブレットPC(史上初!)、「Razer Edge」です。
近年多種多様な機種が出ているタブレットPCですが、その中でもRazer Edgeはトップ・クラスのスペックを誇り、また専用のゲーム・パッドと組み合わせれば、まさに携帯機さながらの感覚で最新のPCゲームを遊ぶことができるのです。いままでこういうハードウェアはありませんでした。
これを作った〈Razer〉というメーカーは、マウスやキーボード等PCゲーム用の周辺機器を中心に手掛けていて、普通のコスト感覚から外れたハイ・スペックと高価格を併せ持つ、変態的デバイスを数多く世に送り出しています。かく言う僕もこのRazer Nagaという17ボタンマウスには、趣味と仕事の両面でお世話になっています。何かもう17ボタンって聞くだけで変態的でしょ。
12個のテンキーをそのままサイドにくっつけた暴力的とも言えるデザイン。しかしこれが意外と使いやすいんです。
そしてこの『Razer Edge』もご多分に洩れず、じつに〈Razer〉らしい変態的な製品です。ていうかまぁ、変態なのは見るからに明らかなのですが、外見以外でも、たとえば価格は本体が約14,5000円に専用のゲーム・パッドが2,4000円と、ゲーム機としては有り得ない高さ。また本製品はアメリカとカナダの限定販売だったので、今回僕は輸入代行業者を挟んで購入し、その手数料や送料も含めると総額180,000円以上になりました。知り合いにこの話をしたら「命懸けてるね」と言われましたよ。
いやー、でも、外でPCゲームを遊びたかったんですよ。普段忙しくてゲームをやっている暇がなかなか無いから、せめて電車のなかとか移動中の時間を有効活用したかった。それに本製品のOSはWindows 8なので、持ち前のハイ・スペックと組み合わせるといろいろと遊べるんじゃないかという期待もありました。
果たしてRazer Edgeはそんな期待に応えられる製品だったのか。180,000円も出すに値するものだったのか。そこのところを今回のレヴューで明らかにしていきたいと思います。
『Razer Edge』のプロモーションビデオ。大体どんなものかわかるはず。
[[SplitPage]]■ゲーム機としてのRazer Edge
さっそく、ゲーム機としてどうなのよって点について語っていきたいと思いますが、その前に基本的なスペックの説明をすませましょう。
Razer Edgeには複数のモデルがありますが、今回僕が手に入れたのは最上位に当たる「Razer Edge Pro 256GB」。CPUはCore i7-3517U 1.9GHz、メモリが8GB DDR 3、256GBのSSDにディスプレイが10.1インチで解像度が1364x768、さらにそこにグラフィック・カードのGT 640M LE(2GB DDR3)が加わり、そこらのコンバーチブルPCと同等以上のスペックを誇ります。
なので、約14,5000円の本体価格も、ゲーム機としてとらえるとギョッとしますが、本製品と同等のスペックのコンバーチブルPCの価格と比較すると決して法外な値段ではありません。ただしゲーム・パッドの方はぼったくってますね。これ単体で2,4000円というのは正直有り得ないと思いますが、これが無いと本製品の真価が発揮されないので仕方がない。
本体の外見は厚めのiPadといった感じ。〈Razer〉にしてはシンプルなデザインに好感。
さて肝心の使い心地ですが、良い点から挙げると、まずは没入感がとても高い。ディスプレイの大きさも解像度もタブレットPCとしては最大級ではありませんが、ゲーム・パッドを装着して持ったときの視界の占有率はとても高く、市販の携帯ゲーム機を遥かに凌駕しています。それこそ感覚的には24インチのディスプレイで遊ぶときとほとんど遜色ありません。
実際にゲームを遊んだときのパフォーマンスはまずまずといったところでしょうか。いくらタブレットPCとしてハイ・スペックとは言え、最新のPCゲームを最高画質で且つ60FPSで動かすのは不可能です。どうしても動かしたい場合は相当設定を下げざるを得ません。
ただし30FPSを基準にすれば、最高設定とまではいかないものの、かなりの品質を出すことができます。これは人によって考えが違うとは思いますが、現行のコンシューマ用のゲームがほとんど30FPSで動いていることを考えれば、コンシューマと同等のパフォーマンスでより高い品質で遊べる、というふうにとらえればアリかな、というのが僕の感想です。
あまり専門的な話にしたくないので今回は詳細なベンチマークは行いませんが、あくまでもザックリとした観測として30FPS基準で大体これぐらいの画質で動くよ、という感じで最近のゲーム4本のスクリーン・ショットを用意しました(クリックで拡大できます)。
『BioShock: Infinite』は今回の4本のなかでは最もコスト・パフォーマンスが良かった。グラフィックス設定をすべてHighにしても30~40FPSを維持し、快適に遊べた。
次いでパフォーマンスが良かったのがウクライナ産ポスト・アポカリプスFPSの『Metro: Last Light』。SSAAとTessellationをオフにする以外はすべて最高設定。これで屋内はほぼ30FPS以上を維持。屋外では20FPS代前半に落ち込む場面もあり。
いちばん厳しかったのが『Crysis 3』。PCゲーム・グラフィックスのベンチマーク的存在の同作は、元々重いこともあり、30FPSを出すにはすべての設定を中以下に落とす必要があった。
脱メスゴリラを遂げた、等身大のララ・クロフトが売りの新生『Tomb Raider』。画質は簡易プリセットのままではコスト・パフォーマンスが良くないが、各項目を個別に設定すれば大分改善される。
もうひとつ良かった点が、〈Steam〉のゲームを遊ぶ際のSteam Cloudによる連携ですね。最近の〈Steam〉のゲームはセーブ・データをクラウド管理でき、すべての環境でそれを読み出すことができます。これを利用することで、ひとつのゲームを出先ではRazer Edgeで遊び、家に着いたら続きをデスクトップPCでやるといったことが可能なのです。まさにハードウェアに縛られないクラウド時代ならではのゲーミングと言え、じつは今回いちばん感動したのもこの点でした。
[[SplitPage]]■携帯し難い携帯機
良い点を先に挙げてみましたが、悪い点ももちろんあります。というか、本製品は良い点も相殺しかねないぐらいの弱点を抱えており、それはズバリ物理的に重くて長いということです。
まず重さ。本体自体が約960gでiPad 2の1.5倍近い重さがあり、これにさらにゲーム・パッドを装着すると約1.9kgになる。それを左右のグリップで支えると手首にとても負担が掛かります。とてもじゃないけど普通の携帯機と同じ感覚で持つことはできず、座って膝に置くなり何らかの支えが不可欠です。
次に長さ。これも本体だけなら約280x180mmとiPadより少し細長い程度なのですが、ゲーム・パッドを装着すると横幅が約410mmになります。これは電車の座席で利用すると両サイドに手がはみ出る長さ。普通に迷惑であり、使う際は状況をよく考えなければいけません。
またこの長さは持ち運ぶ際にも何かと不便。まずリュックサックは必携。個別のケースにしてもゲーム・パッドを装着したときの約410x190mmという変則的な大きさをピッタリ収めてくれるものは見つかりませんでした。ここは公式でケースを販売してほしかった。
持ち運びが不便な携帯機。良くも悪くも常識を打ち破っていると言える。
加えてバッテリーの短さについても触れておかなければなりません。平常時は大体4~5時間程ですが、いざゲームを動かすと、保って1時間半といったところ。ヘヴィなゲームを動かすには大量に電力が必要なのはわかりますが、これだけ短いと携帯機としては何とも心許ない。一応ゲーム・パッド側に内臓させる拡張バッテリーも別売りされていますが、それを積むとさらに重くなるというジレンマにも悩まされます。
要するに携帯機としてはあまりにも取り回しが悪すぎるわけです。ただ、これについては初めからわかっていないはずがなく、普通は取り回しも考えてベターな仕様に着地させるものを、たとえ本末転倒になっても極端な大画面・高性能に舵を切ってしまうのが〈Razer〉らしいというか、変態たるゆえんだと思います。
良さも悪さも理解した上で、それでも使いたいやつだけが使えばいい。むしろこれだけ高額のものを購入した時点で、覚悟はできているんだろ? そうとでも言いたげな開き直りさえ感じます。
[[SplitPage]]■タブレットPCとしてのRazer Edge
ここまではゲーム機としてのRazer Edgeについて触れてきましたが、前述したように本製品はそれだけに留まるものではありません。ここからは汎用タブレットPCとして見た場合にどうなのかという点について書いていきましょう。
ズバリ言ってしまえば、本製品のタブレットPCとしての最大の長所であり同時に短所でもあるのは、OSがWindows 8であるということです。
周知のとおり、Windows 8は新たにタッチパネル操作に最適化されたModern UIが採用されていますが、使い勝手は良くありません。というか、従来のデスクトップ型のUIと混合していて、両者を行ったり来たりするのが非常に煩雑なのです。
Modern UIもそれだけなら決して悪くはないのだが......
それを象徴しているのがWin 8版Internet Explorer 10。こいつはなんとModern UI版とデスクトップ版の2種類が混在している。Modern UI版はタッチパネル操作に最適化されていますが、履歴機能が欠けており、また一部動作しないプラグインもあって、ブラウザとして十分ではありません。
一方のデスクトップ版はModern UI版の物足りなさはありませんが、各ボタンが小さくてタッチパネル操作では使い難い。さらにModern UI版とデスクトップ版はCookieやブックマーク等の情報が共有されない!
こうしたちぐはぐさはOS全般に見られ、何をするにもまずはこのオペレーションの煩雑さに慣れなければいけません。Windowsではいまにはじまった話ではありませんが、改めて普段使っているiPhoneとの差を実感してしまう次第です。
ただしどんなに腐ってもWindowsであり、巷に溢れる多種多様のソフトウェアやハードウェアを使うことができるのが何よりの利点。従来のWindowsと同じく、OSそのものの煩雑ささえ克服できれば、スペックの高さも利用していろいろなことができるでしょう。
ゲーマーとしてまず思いつくのが、Frapsを使ったスクリーン・ショットや動画の撮影。またはゲームの内部データを弄ったり、ネットからMODをダウンロードしてきて適用したりも思いのままです。
しかしそれ以上に僕がやりたかったのが、Photoshopを動かして絵を描くということ。これさえできれば僕にとってはPCで行うことのおよそ8割が実現できるも同然なのです。とは言えPhotoshopを十分に使うにはさまざまな周辺機器も不可欠です。マウスとかキーボードとかペンタブレットとか。そんなわけで、半ば強引に必要なものを揃えてみました。
何か根本的に間違っている気がする。
じゃん。出オチ感が半端ないですが一応解説すると、マウスは例の17ボタンのRazer Naga、ペンタブレットはIntuos 4のLargeとそれぞれ普段愛用しているものを転用。キーボードはBuffaloのワイヤレス・キーボード、SRKB04BKを新調。テンキー付きで大分横長ですが、そもそもRazer Edge自体横長なので、いっしょに持ち歩くなら関係あるまいとこれを選択。またRazer Edge自体はひとつしかUSBポートがないので、ElecomのUSBハブ、U3H-A401BBKも合わせて用意。
結論から言えばPhotoshopを動かすこと自体は可能でした。今回この連載のタイトルバナーを新調しましたが、この絵の原寸が4320x2080px。これだけの大きさの画像でも軽快に動作し、ほぼストレス無く作業ができたのは感激です。ただし前述した本製品の携帯機としての意義以上に、本末転倒感が拭えません。
少なくともこういうことをやるのであれば、ゲーム・パッドと同じくアタッチメントとして販売されているキーボード・ドックやドッキングステーションが必要不可欠でしょう。またマウスとタブレットもさらにコンパクトで且つワイヤレスにするのが望ましい。言うまでもないことですが、今回のセッティングはまったく実用的ではありません。
理想は液晶タブレットのようにタッチパネルを直接ペンで操作できることですが、現状のスタイラスペンでは実用に耐える精度は出せませんし、この辺は今後の技術向上に期待といったところでしょうか。PCゲームの携帯化が実現できたいま、僕が次に待ち望むのはCG制作環境の完全な携帯化に決まりました。
ちなみにRazer Edgeでの制作は早々に切り上げ、結局普段通りデスクトップでの作業に戻っていきました......
■まとめ
個人的には、この『Razer Edge』は大満足です。180,000円出した価値はありました。やはりPCゲームを野外で遊べるというのは、他には代え難い体験です。しかしその体験を得るために犠牲にしなければいけないこと、克服しなければいけない課題がたくさんあり、その点で他人にはまったく薦められないデバイスなのも確か。これは一般人を端から度外視した、どうしても使いたいやつだけが使うものなのです。
ただこうしたゲーム体験は現状こそ『Razer Edge』のみで得られる特異なものですが、あと数年すればわりと近いことは一般のタブレットPCでもできるようになるんじゃないかと僕は思っています。先日iOS7がゲーム・パッドへの正式対応を発表し、それとともに出回った装着型のゲーム・パッドの画像は、まんまRazer Edgeを彷彿させるものでした。一般向けタブレットPCの性能向上も著しく、そう遠くないうちに現行機レベルのゲームをそこらのタブレットPCで動作させられる環境が整ってくるはずです。
そんな、来るかもしれない未来を想像しつつ、現状においてはその未来を唯一体現できるこのRazer Edgeを、僕はこれからも満喫したいと思います。
P.S.
本記事でもサラッと触れましたが、今回長らく仮のままだったタイトル・バナーを一新しました。日本人の立場から洋ゲーを遊ぶ、レヴューするという意味で、日本的美少女を中心にした絵になりました。