「K A R Y Y N」と一致するもの

µ-Ziq - ele-king

 一昨年に設立25周年を迎え、去る2021年もDJマニーヤナ・ラッシュRP・ブーなど変わらず力作を送り出した〈Planet Mu〉。同レーベルを率いるマイク・パラディナス本人によるプロジェクト、ミュージック(µ-Ziq)名義の新作EP「Goodbye」が4月1日にリリースされる。
 今年2022年は代表作『Lunatic Harness』の25周年にあたり、夏にリイシューが予定されているのだが、それを中心に展開される新作シリーズの一発目に当たるのが今回のEPだという。なんでも、『Lunatic Harness』のリマスタリング中に過去のアーカイヴに触れる過程でインスパイアされたのだとか。美しい和音とグリッチ、ジャングルのリズムが融合した表題曲が現在公開中です。

artist: µ-Ziq
title: Goodbye
label: Planet Mu
release: 1st April, 2022

tracklist:
1. Goodbye
2. Giddy All Over
3. Moise
4. Rave Whistle
5. Rave Whistle (Darkside Mix)
6. Rave Whistle (Jungle Tekno Mix)

https://planet.mu/releases/goodbye/

灰野敬二/不失者 - ele-king

 70歳まではハードな音楽をやっていたい──そう公言していた灰野敬二、2010年代には Sunn O)))スティーヴン・オマリーオーレン・アンバーチとのバンド、ナゾラナイなどもやっているエクスペリメンタル・ミュージックの巨匠が、来る5月3日、ついに70歳を迎える。まさにその当日と翌日、不失者の2デイズ・ライヴが開催されることになった。3日は高円寺ShowBoatにて、4日は渋谷WWWにて。長きにわたる灰野の活動の、その次を目撃する二日間。

─70歳まではハードな音楽をやっていたい。
そう公言していた灰野敬二が、2022年5月3日、70歳になる。

ハードの次に、ロックの後に、
何がある のか。何になる のか。

その先を、目撃する2日間。

不失者 日.日

灰野敬二 / 不失者 2DAYS
不失者 日.日

DAY 1
日程:2022年5月3日(火・祝)
会場:高円寺ShowBoat
時間:開場15:00 開演16:00
問い合わせ:ShowBoat 03-3337-5745 (14:00~23:00)

DAY 2
日程:2022年5月4日(水・祝)
会場:渋谷WWW
時間:開場17:00 開演18:00
問い合わせ:WWW 03-5458-7685

チケット
一般発売:3月26日(土)10:00
販売URL:https://eplus.jp/fushitsusha-www/
・2DAYS チケット:¥8,500(全自由/ドリンク代別)
・DAY1 チケット(5月3日 高円寺ShowBoat):¥4,500(全自由/ドリンク代別)
・DAY2 チケット(5月4日 渋谷WWW):¥4,500(全自由/ドリンク代別)
https://www.fushitsusha.com/

Aldous Harding - ele-king

 ポピュラー(=人気のある/大衆向け)音楽というだけあって、ポップスの基本テーゼのひとつは「人に好かれること」にある。耳に心地よいメロディやサウンド、踊りたくなるビート、美しいヴィジュアル等の正の価値観&普遍性は大抵勝つのだ。筆者の暮らすイギリスでも、ここ数年音楽業界のマーケティング・キーワードとして「共感しやすさ」が重視されている。SNSや各種プラットフォームの発達でかつて以上にファンとじかに繫がることのできる時代だけに、スターも「近づきがたい憧れ」だけではなく「親しみやすい普通の人間」な面もアピールした方が賢明かつ無難らしい。
 正の価値観だけで世界が構成されているはずはなく、光あるところに影が生まれるように、負の価値観も音楽の想像力を拡張してきた。前衛や実験音楽のノイズ、不協和音、ドローン、即興/偶然といった「秩序を乱す」ヴォキャブラリ──ときに「音楽ではない」とも評された──は、様々な形でポピュラー音楽に侵入し吸収された。チャート1位云々のレベルではなく多くはアート/アングラ/インディ系と呼ばれるが、それらも確実に商業音楽の一角を占める。人間は清明で整った美しいものだけではなく、不快な/不気味な/恐ろしいものにも魅かれてしまう。普通は抑圧されるか排除される、境界線をかく乱する異物(ジ・アザー、埒外、禁忌、アンビヴァレンス。ジュリア・クリステヴァが言うところのアブジェクシオン)に、アートは長い間生存する逃げ場をもたらしてきた。
 ニュージーランド出身、現在ウェールズを拠点に活動するシンガー・ソングライター、オルダス・ハーディングの新作4th『Warm Chris』を聴きながら、そんなことを考えている。オルダス(Aldous)というとハクスリーが浮かぶし、オルダスの語源は「old」らしい。だが、男性でも年寄りでもないこの人の正体はハナ・シアン・トップという名の今年32歳の女性だ。2015年からやっているツィッターのこれまでのポストは13個。プラヴェートかつインタヴューも苦手という「作品に語らせる」アーティストで、音楽はラウドでもノイジーでもなく一聴チャーミング。だが、その世界観が放つ不穏さ・矛盾は、アブジェクシオンの美で際立っている。

 フォーク/ブルーズ系ミュージシャンのロリーナ・ハーディングを母にもつ彼女にとってギターを手に歌う行為は日常的な光景だったようだ。10代で作曲を始め、一時期ブルーグラス・バンドでも活動。地元のインディ〈Spunk〉から発表したセルフ・タイトルのデビュー作(2014)のジャケットはトラッカー帽にTシャツという現代女性ぶりながら、フォークとカントリーに根ざしたサウンドと思慕に満ちたメロディ、アルカイックなトーン/密やかなフレージングを継承した歌声はタイムレスだった。メルヴィン・ピークの『ゴーメンガースト』を引用した曲名やPV(特に “Hunter”)や歌詞に浮かぶアンジェラ・カーターの『血染めの部屋』的想像力も作用し、同作は「ゴシック・フォーク」とも評され注目を集めた。

ジョンには歌の本質を見極める不思議な才能が備わっている。言葉で言い表せない感覚のようなもので、私の人生の中でもっとも重要なもののひとつである彼との関係は、ふたりにそれぞれ与えられたギフトの間で起きる沈黙のコミュニケーションの上に成り立ってきたように思う
(*発言はオルダス・ハーディングとのメール・インタヴューより引用、以下同)

 世界的な名門〈4AD〉からのリリースとなったセカンド『Party』(2017)で、彼女はジョン・パリッシュと一種運命的な出会いを果たす。『Warm Chris』も含め3作をプロデュース(プレイヤーとしても貢献)することになるジョン・パリッシュはPJハーヴェイの懐刀として知られるが、ジェニー・ヴァル、ディス・イズ・ザ・キット、ドライ・クリーニング等の作品でも優れた手腕を発揮してきた。パーソナルな歌という根本は変わっていないものの、彼と共にピアノ、打ち込み、管楽器、クワイア等の新たな彩りをストイックに配した音空間を造成しつつ、オルダスは大胆なヴォーカル・パフォーマンスに乗り出していった。イノセントな少女のささやき、男性的な低域、空を刺すナイフのようなシャウト、柔らかなメゾ・ソプラノ、初期ニコの硬質で超然としたトーン。曲ごとに、というかひとつの曲の中ですら表情・質感・音域がメタモルフォーズし、視座も変わる。“Horizon” のドラマチックさを筆頭に、表現者としての跳躍が起きた。

まあ、私の歌詞やヴィデオの解釈には色んなものがある。私をホドロフスキーの大ファンで障害者だと思っている人たちもいる。また、ホドロフスキーの大ファンで子供を産めない人だと考える者もいる。どうなることやら

(実に多彩なヴォーカルの「妖精」を用いていますね、との意見に対し)この世界はカラフルなもの、そうじゃない? ヴォイスは楽器であり、私はこの世のギャップを埋めるためにそれを使う。あれら様々なヴォイスは、若い願望やテレビ番組等々と同じくらいに、私の一部を成している

 ニュージーランドと欧州の音楽賞で最優秀アルバム部門にノミネートされた前作に続くサード『Designer』(2019)はクリーンなアレンジとあたたかなサウンド、レンジを広げたヴォーカリゼイションがハモり始めた1枚。初来日も果たしている。才媛ケイト・ル・ボンのコラボレーターでもあったH.ホークライン(ヒュー・エヴァンス)らウェールズ・シーンとのオーガニックな連携も嬉しいが、“Designer” や “The Barrel” のR&Bなグルーヴ・メイクや “Weight of the Planets” のトロピカル味の導入が何より耳を引く。フォークという分類からスルリと逸脱した一種無国籍/無時代なハイブリッドぶりは、スラップ・ハッピーの『Acnalbasac Noom』の楽しさすら彷彿させる。
 より多くの耳目に触れたことで、彼女につきまとう「エニグマ」、「風変わりな」といった形容詞もこの作品で定着したように思う(別に難儀な人だとか、意図的にミステリーを醸しているのではなく、作品や自身を「説明」することに意義を感じないようだ)。たとえば、一聴軽やかなポップ・ソングである “The Barrel” のヴィデオ。子宮を思わせるトンネルを潜ると、17世紀オランダ風でありつつアシメトリーな衣装(上記の引用発言で彼女が触れている「ホドロフスキー」は『ホーリー・マウンテン』に由来する)と分厚いプラットフォーム・シューズ姿を始め、色々な「オルダス」が登場する。がに股で指をスナップする映像は心をざわつかせずにいられないし、「鳩」、「フェレット」、「卵」、「ピーチ」といったセックスや繁殖のイメージを喚起する言葉が並ぶ詩的な歌詞も解釈は十人十色。どうして? 何を象徴しているの? と謎は深まるばかり。
 「動物園の目」なる不思議なイメージからなぜか話がアラブのドバイにまで飛ぶ “Zoo Eyes” の歌詞もシュールで抽象的だ。「ズゥアイズ」―「ドゥバイ」の韻なのはわかるが、そもそも「私はドバイで一体何をしてるんだろう?」の自問で始まる曲だけに、その「私」の状況も曖昧と言える。これでは Genius も註釈に困るだろうし、彼女が主体(語り部)と客体(キャラ)を兼ねるヴィデオもマルチプルな視点が可能な夢の世界のそれ。この奇妙で美しい内的ロジックと想像力を、聴き手は直観で受け入れる(あるいは拒絶する)しかない──簡単に飲み下し消化できない異物でありつつポップな魅力も備えた、久々のカリスマの覚醒だった。

今回のヴォーカルは、他のレコード以上に純粋な音響/音声にチューニングを合わせている。背景音に対して、言葉のサウンドそのものを独立した詩として響かせたかった

 新作『Warm Chris』は、奇妙な感性を自由に広げると同時に、音楽的なフォーカスを引き絞ったマエストロの1枚と言える。どこに向かうか見当のつかない曲展開やテンポ/ムード・チェンジ、コード進行の妙、変幻自在なヴォーカル。1曲ごとに味わいも中身も違うイースター・エッグを思わせる緻密さながら、風通しのよいサウンドゆえに自然体に響くバランス感が素晴らしい(「がんばった」エキセントリックさほど悲しいものはないので)。そこには、ゲストに迎えた英ジャズ界の名物ドラマー:セブ・ロチフォード(近年ではサンズ・オブ・ケメットにも参加)が存在感を増したベースと共に軽快でしなやかなグルーヴを形成しているのはもちろん、タイトル曲のフィンガー・ピッキングを始めギターも健在ながら、歯切れよいアタック感のあるピアノ──昨年出た単発シングル “Old Peel” のPV でもわかるが、ロックダウン中に彼女はピアノを学んだ──がリード楽器になっている点も大きく作用している。

ジェイソンがオーストラリアのフェスでプレイしたのを見たことがあった。自分のショウの後で少し話せたけれども、彼にさよならと言いつつ、頭の中ではもう彼に向けてEメールを書いていた。私たちの間には非常に敬意に満ちた、不安定なケミストリーが生じた。ジェイソンに期待していたのはサウンドではなくエネルギー。彼の肉体性と頭脳から、こちらの求めるどんなサウンドも作り出せる人だと、自分には分かった。たしか彼はあの曲をワン・テイクで録ったんだったと思う

 掛け布団やキルトにぐるぐる巻きにされたアーティスト写真、第一弾シングル “Lawn” のヴィデオではトカゲ(!)に扮する等、相変わらずシュールな世界にも引き込まれる。彼女のこれまでのアルバムはすべて9曲入りであり、ジャズ味が新鮮な⑨ “Bubbles” でしっとり終わる……のもありだっただろう。しかし今回は10曲目に、強力なワイルド・カード=スリーフォード・モッズのジェイソン・ウィリアムソンがカメオ参加した “Leathery Whip” が控えている。「美女と野獣」な顔合せだが、このふたりにしか生み出せない強烈に異色なポップ・マントラなだけではなく、双方が通常の守備範囲を越えている意味でも秀逸(ジェイソンはアレックス・キャメロンの『Oxy Music』でもコラボしている。興味のある方は聴き較べてみてください)。

 この曲の「少し歳をとったけれど私は変わらないままだ/私のことを欲しがる連中は私が追いかけているものを持ち合わせていない/あり得ない」という印象的なヴァースの力強い拒絶の意思(それは “Old Peel” でも響いていた)はより明確にアーティストとして/女性としての自身を定義した彼女を伝えるし、この大胆なオープン・エンディングを聴いていると、オルダス・ハーディングはどこまで行くんだろう? とますます楽しみになる。その唯一無二の旅路をぜひたどってみて欲しい。

Laura Cannell - ele-king

 音楽ファンというのは、自分が好きになれるアーティストを見つけたときは嬉しいものである。この人の作品は追ってみようと思える、そんなアーティスト。生活のなかで自分のためにじっくり何度も、ときには集中して聴いてみようと思える音楽。もちろんそうそう出会えるわけではないが、これがこの世界を支配している巨大なメディア企業や商業的な利益が取引される世界とは別のところであったりすると、ことさら嬉しかったりする。ローラ・キャネルは、ここ数年のぼくにとってそういう人だ。彼女の音楽を聴いているとつくづくこう思う。まだ世界には自由が残っている。

 キャネルの音楽は、自由な世界で鳴っている。ザッカーバーグのメタヴァースの話ではない。つまり彼女は型にハマった音楽から本気で遠く離れて、じつにユニークな発想で音楽を作っている。たとえば、ぼくにとって彼女の音楽を好きになるきっかけとなった『The Sky Untuned』は、イングランドの田舎の中世から残っている教会のなかで、ひとりただひたすら演奏したときの記録だ。音の反響は録音した空間によって決まる。彼女はインプロヴァイザーであり、リコーダー/ヴァイオリン奏者だが、かつて存在し、現在不在なものの記憶を辿るようなその音楽は、その場所でなければ生まれなかったのだろう。彼女はそれ以前にも灯台で演奏し、水力発電所でも演奏している。
 彼女は、もともとクラシックの訓練を受けているが、もうずいぶん前に楽譜がなければ何もできない世界と訣別した。そういう意味でも彼女は自由だが、しかし彼女は自分の音楽に制限を与えている。それはひとつの決められた楽器で、ほとんど一発録りで作品を作るということ。あとから編集したり、手を加えたりしない。その瞬間に生まれる音楽こそが彼女の音楽だ。
 彼女の音楽は、先にも言ったように即興だが、しかしそこには彼女が調査し、長らく研究しているアーリー・ミュージックや中世の民謡の旋律の断片がミックスされている。彼女の内側から出るものと、彼女が学んでいる古楽や民謡(=フォーク)が混じり合い、それが彼女の作品のいち要素となる。また、彼女は、音楽大学でリコーダーもヴァイオリンも学んでいるが、その楽器の弾き方の常識から逸している。独自に開発した奏法をもってヴァイオリンは歪んだ音を出し、リコーダーはダブのように響かせる。そこで聴かれるメロディは、今日のポップ・ミュージックで聴かれるどれとも違っている。彼女はいわば音の吟遊詩人である。

 本作『アンティフォニー・フォー・ザ・ツリーズ』は、ローラ・キャネルにとって7枚目のソロ・アルバムだ。これまで彼女は、曲の主題に動物、それも鳥類をたびたび選んできているが、このアルバムは、彼女が暮らしているエリアに生息する鳥たちとの対話がもとになっているという。すべてはリコーダーの演奏によって表現されているが、その音色は多彩で、というよりも異彩で、ときに妖異で、しかも彼女は伝説のジャズ・ミュージシャン、ローランド・カークのように、二本のリコーダーを同時に、それぞれ別の音符を演奏することができる。
 さて、カラスに呼びかけている1曲目は、なるほど動物の鳴き声のようだ。とはいえアルバムは動物の鳴き声の模倣などではない。今回はある意味、もっともぶっ飛んだ作品とも言えるだろう。反響し、反復するその幽玄な音響の彼方からさらにまた音が響く続く “For the Gatherers” はなかば神秘的で、続く “For the Sacred Birds” では瑞々しくも平和的な旋律が広がる。
 時空を越える音楽があるとしたら、キャネルの作品はそのひとつだ。この音楽に古いも新しいもない。アルバム中盤の “私たちは羽を借りた(We Borrowed Feathers)” から “鳥の神話のために(For the Mythos of Birds)” にかけて、キャネルはほとんど宇宙的とも言える領域へ突入する。次に待ち構えている表題曲もまた異境的で、それは鳥類たちの楽園のようであり、最高にトリップしたサン・ラーの微笑みのようでもある。一本のリコーダーでドローンを発しながら(いったいリコーダーでどうやって?)、メロディを反復させる “フクロウになった少女(The Girl Who Became an Owl)” にも謎めいた美しさがあるが、いたって穏やかで、アルバムはその平穏さのなかで終わっていく。
 この音楽は、自然や環境に関する教訓めいたものではない。ぼくたちに聞こえている世界はひどく限定的で、すぐ近くにはまったく別の世界が広がっていることをほのめかしている。

 最後に、少しばかりエレキング読者も親近感を覚えるかもしれない、彼女のこれまでの共演者について触れておこう。たとえば彼女は、元ディス・ヒートのチェールズ・ヘイワードとWhistling Arrowなるバンドを組んで1枚のアルバムを作っている。また、彼女は先鋭的な電子音楽家として知られるマーク・フェルとの共作アルバムを残している。それから彼女には1枚のリミックス・アルバムがあり、そこにはエコープレックスやボーダー・コミュニティのメンバーらが参加している。さらに昨年は、彼女はアイルランドのアーティスト、Kate Ellisといっしょに毎月1枚のシングルを発表していたが、10月EPには、元キャバレー・ヴォルテールのクリス・ワトソンが参加した。いまや一流の録音技師として名高いワトソンは、その作品において、川のせせらぎ、雨の音、そして野鳥の声を提供している。
 

※ここで予告を一発。6月末発売予定の紙エレキング、「フォーク特集」において、ローラ・キャネルの日本では初インタヴューを掲載予定です。乞うご期待。

250 - ele-king

 昨年ニュース出ししたところ、あまりの反響の大きさに編集部も驚きの韓国でポンチャック(韓国演歌・ミーツ・テクノ)・リヴァイヴァルを先導する男、250(イオゴン)。これぞ真の韓流なのだと言わんばかりの、とんでもない力作がついに完成した。アルバム名はシンプルに、『ポン ppong』だ。

  『ポン』には、電気グルーヴのファンにはお馴染みのイ・パクサも参加。また韓国ジャズ界の大物、イ・ジョンシクをはじめ、韓国大衆音楽における重鎮たちが何人も参加している。コロナに戦争と、こんなとんでもない時代、音楽と笑いをありがとう。まずはこちらで購入可

‘ロイヤル・ブルー (Royal Blue)’

 本作には、韓国大衆音楽の象徴的な存在であり、近年欧米でも再評価の機運が高まっているギタリスト・作曲家のシン・ジュンヒョン、韓国の「国民歌手」チョ・ヨンピル(チョー・ヨンピル)の80年代の代表曲「ソウル・ソウル・ソウル」や「キリマンジャロのヒョウ」をはじめ、作曲家の夫キム・ヒガプとのコンビによる数多くの名曲でも知られる作詞家のヤン・インジャ、90年代の韓国歌謡界には欠かせない名セッションプレイヤーであり(ソテジ・ワ・アイドゥル「君に」、デュース「夏の中で」、イ・スンチョル「さよならなんて言わないで」等)、日野皓正セクステットのメンバーとしても活動するなど日本のジャズ・シーンとの交流も深いサックスの巨匠イ・ジョンシク、高速道路トロット・メドレー界の伝説であり電子オルガン奏者のナ・ウンド、日本でもポンチャックの代名詞として名高いイ・パクサ、そのイ・パクサの片腕として知られたキーボーディストのキム・スイル、韓国では誰もが知っている人気アニメ『赤ちゃん恐竜ドゥーリー』の主題歌を歌った歌手オ・スンウォンまで、大衆音楽の歴史に名前を残した巨匠たちが大挙して参加している。


250(イオゴン)
ポン ppong

BANA
アルバム音源ストリーミング・購入リンク
https://orcd.co/250ppong

Tracklist
01. 全てが夢だったね It Was All a Dream
02. ベンバス Bang Bus
03. 愛のはなし Love Story
04. 裏窓 Rear Window
05. そして誰もいなくなった …And Then There Were None
06. バラボゴ Barabogo
07. 私は君を愛す I Love You
08. ください Give Me
09. ロイヤル・ブルー Royal Blue
10. レッド・グラス Red Glass
11. フィナーレ Finale

‘ベンバス (Bang Bus)’

‘裏窓 (Rear Window)’

 日本統治時代、同時代の西洋音楽の(直接的な)影響を受けることがなかった朝鮮半島で、最初に根を下ろした大衆音楽は他でもない、演歌と軌を一にしたトロットだった。トロットは時代の雰囲気に乗り、変化と拡張、栄枯盛衰を経て、今日に至るまで命脈を保ってきた。その中でも、トロットをベースにテクノとディスコを融合した混種であるポンチャックは、観光地の駐車場、高速道路の休憩所、お年寄りが集まる公園といった場所で接することができる類のものだった(ただし、これは日本でも知られるところの狭義の音楽ジャンルとしてのポンチャックであり、本来ポンチャックという言葉はリズムを表す擬声語である)。
 トロット、とりわけポンチャックは「中高年のダンス音楽」、という固定観念が若い世代の頭の中に深く植え付けられた。あるいは、一部のエンターテイナーがギャグ的なイメージを作るために披露する音楽として人口に膾炙したであろう。ポンチャックを消費する世代がいよいよ終わりに近づいているように見える現時点で「果たしてポンチャックは命脈を繋いでいくのだろうか」という疑問が生じる。ここで、BANA(Beasts And Natives Alike)所属のプロデューサー、250 (イオゴン) の試みが注目される。
 250は、韓国のプロデューサー兼DJとして、幅広い分野で優れて独創的な活動を展開してきた実力派アーティストだ。250は、自身のデビュー・アルバム『ポン』のために、実に4年もの長きにわたって制作作業に没頭してきた。
 250は、NCT 127(’Chain,’ ‘My Van’)、ITZY(’Gas Me Up’)、f(x)、BoA 等のK-POPのみならず、ESENS、Masta Wu、Kim Ximya (XXX) 等のヒップホップに至るまで、幅広いジャンルのプロデューサー
として活発に活動してきた。そしてその実力を認められ、キツネのアジア・ツアー、NTSラジオ、ガブリエル・ガルソン・モンターノのソウル公演、ソウル・ファッション・ウィーク、カルティエ財団のソウルでの展示音楽など、様々な分野でラブコールを受けてきた。
 アルバム『ポン』は、韓国大衆音楽史において明らかに重要な位置を占めるものの、ジャンル的に切り捨てられ、誰もまともに議論しようとしない「ポン」というキーワードを真摯に見つめ直す、大きな意味を持ったプロジェクトだ。
 韓国、そして日本においてもなじみのあるポンチャックのリズムとメロディーを250が自分だけのスタイルで現代的に再解釈した今回のアルバムには、韓国大衆音楽史上初めて「ポン」について真摯に探求し、究極的には様々な世代を一つにするダンス音楽を作ろうという実験的意図が込められている。
250はアルバム『ポン』の4年にわたる制作過程を愉快に収めたドキュメンタリー・シリーズ「ポンを探して」のホストとして、ドキュメンタリー映像をこつこつと発表し、音楽愛好家の間で多くの関心を呼んできた。 2018年には『ポン』にも収録されている最初のシングル「裏窓(イチャン)」と型破りなミュージック・ビデオを公開し、キツネのキュレーションによるプレイリストに選曲されるなど、多くの期待を集めた。
 BANA (Beasts And Natives Alike):韓国の音楽シーンにおいて、その際立ったキュレーションで独自の位置を占めるレーベル兼マネージメント。SMエンターテインメントのインターナショナルA&Rだったキム・ギヒョンが独立して2014年に設立。韓国最高のラッパーの一人とされる E SENS (イーセンス) が、以前の事務所だったアメーバカルチャーを離脱後、BANAの立ち上げから最初の所属アーティストとして合流したことで大きな話題を呼んだ。E SENSが大麻不法所持で逮捕後、2015年に獄中から発表したアルバム『The Anecdote』は各方面から絶賛を浴び、翌年の韓国大衆音楽賞で最優秀アルバム賞を受賞。その後もエクスペリメンタル・ヒップホップ・デュオのXXX、プロデューサー/DJの250やMaalib、アニメーターの
エリック・オー等、多彩なアーティストと契約。2021年3月には韓国ヒップホップ界を牽引してきた重鎮ラッパー、Beenzino (ビンジノ) の加入が発表され、今後の展開にさらに期待が集まっている。

Website https://beastsandnatives.com/
Instagram BANA @watchbana, 250 @250official

Nilüfer Yanya - ele-king

 漂う空気がある。人びとの口から口、スマートフォンに浮かぶ行間に存在するような。インスタグラムやツイッター、自分から積極的に探しにいかなくても知っている誰かが存在していて、その好意が画面のなかから滲んでくる。音楽が語られ、記事のリンクが貼られ(クリックはしない)、何度も写真を見て、そうやってなんとなく知っているみたいな状態ができ上がる。僕にとってニルファー・ヤンヤはそんな存在だった。「Nilüfer Yanya」ってなんて読むのだろう? というところからはじまって、存在を確認し、音楽を聞いて、そうやってUKシーンの人たちが彼女に向ける好意の理由を少しずつ理解していった。
 ウエストロンドン、チェルシー出身のニルファー・ヤンヤ、イスタンブールに生まれたトルコ系の父とバルバドス・アイルランド系の母を持ち、様々な音楽が流れる芸術家の家庭に育ち、6歳の頃にピアノをはじめ11、12歳の頃にギターを習い本格的に音楽をはじめる。2014年、19歳の頃に SoundCloud に曲をアップするようになって、2016年に最初のEPをリリース。彼女の音楽はモダンなソウル・ミュージックのようでも、キング・クルールに影響を受けたインディのギター・バンド、ベッドルームのプロデューサー、ジャズの香りをまとったオルタナ好きのSSWのようにも聞こえた。何より特徴的だったのはその声で、醒めているような雰囲気でいながら芯がありヒンヤリと情熱的で、一言では言い表せない複雑な魅力を持って聞こえてきた。彼女の音楽は簡単にカテゴライズできないようなもので、様々な要素があるからこそいろいろな方向からアクセスができる音楽なのかもしれない。ファット・ホワイト・ファミリーが表紙の『ソー・ヤング・マガジン』で、バンクーバーのニューウェイヴ/ポストパンク・バンド N0V3L のページとシェフィールドからサウス・ロンドンのバンドたちに噛みつく若きワーキング・メンズ・クラブに挟まる形で、ニルファー・ヤンヤは 1st アルバムについての話をする。それらの音楽と同列に聞かれ支持を集めながらもどこか異質で、けれど重なり合うような部分もあってその感覚がとても新鮮だった(ソウル、インディ、ポストパンク、ベッドルーム・ホップ、ひとつの言葉だけで表現しようとするとどれを選んでもしっくりこない)。

 2019年の 1st アルバム『Miss Universe』は「WWAY Health(We Worry About Your Health)」という架空のセルフケア・プログラムを題材にしたコンセプトアルバムで、17曲も入っていて、それぞれの曲のなかに落とし込まれたニルファー・ヤンヤの多彩な側面をアルバムとしてひとつのコンセプトでまとめ上げたような作品だった。それに対して12曲入りのこの 2nd アルバムは全ての曲に同じような空気が流れていて、アルバムの最初と終わりにナレーションを挟むことがなくとも自然と世界が繋がっているように感じられる。前作から引き続いてのウィルマ・アーチャー、〈DEEK Recordings〉の創始者でありウェスターマンのアルバムを手がけたブリオン、ニルファー・ヤンヤのサポート・バンドのメンバーでもあるジャズィ・ボッビ(サックスと鍵盤を担当)、そしてビッグ・シーフのプロデューサーとして有名なアンドリュー・サーロ、多くの人間が関わっていながらもアルバムのなかで流れる空気が統一されていてアルバムを通して聞きやすい(統一された空気のなかで彼女の多彩な側面はアクセントとしてそれぞれの曲のなかに埋め込まれている)。だからなのか続けて何度も聞きたくなってしまう。積極的ではなくて消極的に。そのままそこで鳴っていて欲しいとなんとなく思うような、僕にとってこのアルバムはそんなアルバムだ。

 少しの哀しみ、わずかな虚無、抜け出せない憂鬱、甘くないわけではなくて、苦みが強いわけでもない。全ては複雑に絡み合いコーヒーのなかを回る白いマーブル模様みたいに混じっていく。それは完全に調和が取れているものではなくて、何か別のものがそこにあると認識できるようなもので、決して同じにはならない。ニルファー・ヤンヤの音楽の魅力はやはりその複雑な違和なのかもしれない。ひとつのカップに入ったいくつかの味、混じりきる前のそれ、完全に混じって滑らかになるのではなく、混じりきらずにそのままグルグルとメランコリーに回り続ける。
 もっとエレクトロニクスの要素を強くして、孤独を深め、そうすれば部屋でひとり音楽を作り続けるプロデューサーのような雰囲気の曲になったのかもしれない。でもニルファー・ヤンヤはそうしない。彼女はあくまでギターにこだわってそこに自らの声を乗せる。それはSSWのようなふるまいで、そのギターはグランジを経た90年代のオルタナ・ミュージック、2000年代のUKロック・バンドのような響きがある。唄がすべてのわけではなく、ギターを聞かせるための音楽でもない、声はギターの相棒で、ギターは彼女の声に反応する。それは風変わりのデュエットのようでもあって、そのどちらもが曲の中心に存在する。ニルファー・ヤンヤはそうやって人の感情を表現するのだ。

 性急なブレイクビーツのドラムの上でかき鳴らされるギター、そこに入る低く鋭く染みわたる声、オープニング・トラックの “the dealer” 、スローダウンする中盤の “trouble”、“try”、“company”、彼女の声とギターは何かひとつの感情を違った方法を使って表しているように思えて、その音はメランコリーに哀しく響く。1st アルバムよりも暗く内省的で、だけども他者を寄せ付けないようなものでもない。気持ちをせかせるような “Stabilise” は『Silent Alarm』時代のブロック・パーティーを思い超させ、“Midnight Sun” からは『In Rainbows』期のレディオヘッドのような美しいアルペジオが聞こえてくる。それは彼女が生まれ成長する過程で日常から聞こえてきた音楽なのかもしれない。“L/R” ではトルコのサズという民族楽器が使用されている。それは彼女の父親が家で弾いていた楽器で、彼女のなかにあり血肉となっている音楽がこのアルバムのなかで再解釈されているようにも思える。「高層ビルには何もない/誰もあなたの人生に戻ってこないみたいに」。アルバムのジャケットに記されている “Stabilise” に出てくる言葉のようにニルファー・ヤンヤの音楽には都市生活の孤独があり、そこで鳴っていた音楽の影響が見え隠れする。哀しいだけではない孤独の複雑な味、それは自分のなかにある誰かからの影響を感じ取ることなのかもしれない。ニルファー・ヤンヤの 2nd アルバムはそんな風にして他者の存在を感じさせるのだ。心地が良いわけではなく、落ち着くわけでもない、居心地が悪い都市に漂う感覚、遠くの喧噪を思い浮かべ、そうしてまたなんとなくこのアルバムを繰り返し聞いてしまう。

700 BLISS - ele-king

 2014年に結成されたムーア・マザーとDJハラムによるユニット、700ブリスがついにデビュー・アルバムをリリースする。16曲入りで、ラファウンダスペシャル・インタレストのヴォーカリスト=アリ・ログアウトなどが客演。クラブ・ミュージックやヒップホップの生々しく尖った要素に、パンクのエネルギー、ジャズ、ハウスのカタルシスなどが結合されたノイズ・ラップ作品に仕上がっている模様。『宣言すべきものなどない(Nothing To Declare)』と題されたそれは5月27日に、いま勢いづいている〈Hyperdub〉から発売される。現在、ラファウンダをフィーチャーした “Totally Spies” が先行公開中だ。

artist: 700 BLISS
title: Nothing To Declare
label: Hyperdub
release: 27th May, 2022
format: CD, Vinyl & Digital

tracklist:
01. Nothing To Declare
02. Totally Spies feat Lafawndah
03. Nightflame feat Orion Sun
04. Anthology
05. Discipline
06. Bless Grips
07. Easyjet
08. Candace Parker feat Muqata'a
09. No More Kings
10. Capitol feat Alli Logout
11. Sixteen
12. Spirit Airlines
13. Crown
14. More Victories feat M. Téllez
15. Seven
16. Lead Level 15 feat Ase Manual

https://hyperdub.net/products/700-bliss-nothing-to-declare

 残念なお知らせだ。東京のクラブ・シーンを担ってきた一角、渋谷の Contact が、入居ビル取り壊しのため、9月17日(土)に営業を終了する。
 そのため4月22日と23日に3年ぶりに開催されることになったアニヴァーサリー・パーティが、最後のアニヴァーサリー・パーティとなる。
 4月22日は BLACK SMOKERS、O.N.O、REBEL FAMILIA、Dos Monos、DJ QUIETSTORM、FELINE が集結、翌23日はDJハーヴィーが来日しオールナイト・セットを披露する。豪華なアクトによる音楽を思う存分楽しみたい。

4/22(金)
Contact 6 Year Anniversary Party Part 1

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Open 10PM
¥2000 Under23 | Before 11PM ¥2000 GH G Members | Early Bird Ticket
¥2500 Advance | GH S Members
¥3000 GH Members | w/Flyer | Facebook Discount
¥3500 Door
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Studio:
BLACK SMOKERS -Live 
O.N.O(THA BLUE HERB) -Live
REBEL FAMILIA(GOTH-TRAD × 秋本"HEAVY"武士) -Live
Dos Monos -Live
DJ QUIETSTORM
FELINE

Visual:
rokapenis

Contact:
Atsushi Maeda
Tatsuoki
ZUNDOKO DISCO
Akey
Mari Sakurai

Foyer:
100mado
Frankei $
GQOMZILA -Live
Romy Mats
suimin

Space production:
VJ Camel × LOYALTY FLOWERS (解体新書)

Food:
The Daps

4/23(土)
Contact 6 Year Anniversary Part 2
DJ HARVEY – All Night Long –

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Open: 10PM
¥2500 Under 23 | Before 11PM | Early Bird (早割チケット100枚限定) | GH G Members
¥3000 Advance | GH S Members
¥3500 w/Flyer | GH Members | Facebook Discount
¥4000 Door
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Studio:
DJ HARVEY (Locussolus | LA) – All Night Long –

Contact:
Mild Bunch Soundsystem
Kenji Takimi (Crue-L | Being Borings)
KILLER TUNES BROADCAST (WACKO MARIA)
Vinyl Youth
and more

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DJ HARVEY

ハウス、ディスコ、バレアリックシーンのカルトリーダー、そしてDJとして最も神の領域に近い男と称されるリヴィングレジェンド、DJ Harvey (DJハーヴィー)。
ローリングストーン誌は彼を“DJ界のキース・リチャーズ”と評し、世界に君臨するDJトップ10に選出している。

1980年代半ばのロンドンでDJキャリアをスタート。セカンドサマーオブラヴの狂騒の中、悪名高きDIYパーティー集団「Tonka Sound System」のクルーとしてその名を馳せ、ニューヨークの伝説的クラブ「Paradise Garage」のレジデントDJであったラリー・レヴァンも出演した自身のパーティー「Moist」で、DJとしての評価を不動のものとする。1990年代に「Ministry of Sound」のレジデントDJを務め、2002年にロサンゼルスに移住。LAアンダーグラウンドの聖地として、世界中からハードコアなダンサーたちが集うウェアハウスパーティー「Harvey Sarcastic Disco」を開催して、レフトフィールドなディスコやバレアリック復権への大きな流れを作った。また、当時発表した不朽の名作『Sarcastic Study Masters Volume 2』は、世界最大の中古音楽市場Discogsで、ミックスCDとして史上最高額となる500ドルの値が付けられている。

2010年にアメリカ国外への渡航が可能になると、世界中からオファーが殺到。奇跡の再来日を果たした2010年GWのジャパンツアーでは、全国12都市を回りロックスター顔負けの1万人以上を動員。母国イギリス・ロンドンでの凱旋パーティーは、チケット発売後わずか1分でソールドアウトを記録し、世界最高峰のクラブ「Berghain/Panorama Bar」や世界最大級のフェス「Coachella」などにも出演。2017年には、ニューヨーク「Paradise Garage」のラストパーティーの様子をBoiler Roomが映像作品化した『The Final Night In Paradise - DJ Harvey re-soundtracks lost tapes from legendary Paradise Garage closing party 1987』の選曲を担当。2018年には、トム・クルーズ主演の人気映画シリーズ最新作『Mission: Impossible - Fallout』のナイトクラブのシーンで、DJ(本人役)としてカメオ出演している。また、ワム!の名曲『Club Tropicana』のMVロケ地にして、クイーンのフレディ・マーキュリーが伝説のバースデーパーティーを行ったホテルとしても知られるイビサの「Pikes」で、2015年からレジデントパーティー「Mercury Rising」を開催。2021年に同パーティーのオフィシャルコンピレーション第3弾となる『Mercury Rising Volumen Tres』を2年ぶりにリリースした。

親日家としても知られるDJ Harvey。1989年の初来日以来、全国のクラブやフェスなどに出演し、国内最大級のダンスミュージックポータルサイトClubberiaの年間アワードでは、ARTIST/PARTY/NEWSの主要3部門を受賞。2016年には日本を代表する野外音楽フェス「Fuji Rock Festival」20周年の大トリを飾り、2019年の「Rainbow Disco Club」10周年ではヘッドライナーとして登場してオーディエンスを熱狂の渦に巻き込んだ。2019年11月に来日30周年アニバーサリーツアーを全国4都市で開催。アパレルブランド「WACKO MARIA」と来日30周年を記念したカプセルコレクションを展開して世界で話題を呼んだ。

Huerco S. - ele-king

 ゲーム・チェンジ的な傑作が、といった印象の作品です。USカンザス出身~ニューヨーク拠点のアーティスト、ブライアン・リーズのプロジェクト、フーエアコ・エス名義の3作目となるフル・アルバム(間にカセット・リリースのアルバム大の作品『Quiet Times』もあり)。リリースはアンソニー・ネイプルズと写真家でもあるジェニー・スラッテリー(Jenny Slattery)によるニューヨークのレーベル〈Incienso〉から。

 2010年代初等、キャリア初期のハウス・トラックで朋友アンソニー・ネイプルズとともに注目を集め、なんといいますか、そのセオ・パリッシュをベーシック・チャンネルがクアドラント名義でミックスしたような、そんなビートダウン・ハウスをガス状のダブ・ヴァージョンにした2013年のファースト『Colonial Patterns』を OPN のレーベル〈ソフトウェア〉からリリース。続く、2016年の本名義のセカンド『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』(アンソニーの〈Proibito〉よりリリース)では、さらにダブ・アンビエント・テクノ色を強め、その表現においてひとつの転機とも言える作品になりました。そして続く2018年のペンダント名義『Make Me Know You Sweet』や、昨年の同名義『To All Sides They Will Stretch Out Their Hands』などでは、さらにアブストラクト、かつダークなアンビエント・テクノをリリースしています。

 ここ数年は上記のようにアンビエント・タッチの作品が多かったのですが、まず本作の大きな変化は本名義でひさびさとなるリズムを主体とした作品(といってもハウスではない)となりました。1曲目 “Plonk I” では、それまでどこか避けていたように思えるクリアなニューエイジ的なサウンド感覚も援用しつつ、リズムの躍動感を主眼にした展開に。まさにイントロとして本作品の新機軸感を醸し出しています。この曲が象徴するように、これまでの作品のトレードマークでもあったエコー/リヴァーブ感、ガス状のダブ感が晴れて、全体的にクリアな質感が増幅された点も、同名義の作品としてはわかりやすい変化と言えるでしょう(ラスト・トラックなどにはダブの残り香はあり)。そして2曲目~4曲目 “Plonk II~IV” と、アルバムが進むうちに否応なしに本作の主眼が「リズム」にあることが明白になっていきます。インタールード的に、過去のダブ・アンビエント路線を彷彿とさせる “Plonk V” を挟んで、キラキラとしたシンセ音と後半はスロウなブロークンビーツがグルーヴをノッソリと刻む、アルバム・ハイライトとも言える “Plonk VI”。ノンビート的な “Plonk VII” にしても、エコーの重奏的な絡み合いにしてもベースラインとともにリズムの幻惑をさせるような感覚。どこか90年代後半のエイフェックス・ツインを彷彿とさせるエレクトロ “Plonk VIII”、そして次いで繰り出されるのは初となるヴォーカル(ラップ)トラック。〈Future Times〉からの Tooth Choir による濃いアシッディーなトラックでのラップが印象深い、気だるい SIR E.U のラップのバックには、まるでスピーカー・ミュージックの強烈なドラム連打を煙に巻いたような、もしくはドリルンベース的とも言えるドラム・サウンドが亡霊のように揺れ動いています。最後の曲こそ、同名義の前作を豊富とさせるダブ・アンビエント(とはいえこれも圧巻のクオリティ)ですが、本作の中心は、やはりリズムのアプローチというのが大方のリスナーの印象ではないでしょうか。

 小刻みなリズムが絡みつくストレンジなシンセが有機的に融合した感覚は、ある意味で90年代中頃までのまだリズムの冒険に意欲的だったテクノ──「ハウス」、もっと大きく言えばダンス・グルーヴのループ・リズムからの脱却と、それに伴うリズムの打ち込みの細分化は、1990年代前半のデトロイト・リヴァイヴァルやリスニング・テクノの先鋭化にも通じる感覚ではないでしょうか。また肝としては、IDMというほどエレクトロニカ的なグリッチ感覚が薄いというのも重要ではないかと。それこそパリスのところで書いたような〈リフレックス〉が標榜していた “ブレインダンス” 的とも言えそうな感覚でもあります。

 アンビエントものから、こうしたリズム主体の動きということで言えば、なんとなく思いつくのが彼のここ最近の周辺の動きです。ペンダント名義の作品をリリースしている、自身のレーベル〈West Mineral〉から、Ben Bondy、Ulla Straus、uon といったアーティストの作品や自身とのコラボ作品をリリース。言い換えると、ほぼ同様の人脈が交差する(はじめは傘下のレーベルかと思ってました)、Special Guest DJ(という名義のアーティスト)主宰の〈3XL〉(傘下に〈Experiences Ltd. / bblisss / xpq?〉あり)周辺人脈と、ここ数年は関係を深めているように見えます。ブライアン参加のプロジェクト(Ghostride The Drift など)も含めて、これらの動きには、ダブ・アンビエントやエコーの残響音の中に、アブストラクトに亡霊化したジャングル、ダンスホール、IDM、などなどさまざまな要素を含んだまさにレフトフィールドなテクノの最前線的な作品が目白押しといったところでとても刺激的です。NYとベルリン・スクールを結ぶ地下水脈としてここ数年おもしろい動きを見せています。最近では〈West Mineral〉からは、〈3XL〉のオールスターとも言える、virtualdemonlaxative というプロジェクトがブルータルなノイズ~ブレイクコア的な作品をリリースし話題にもなりました。前述の Ghostride The Drift や Critical Amnesia のような〈3XL〉周辺人脈とのコラボは、本作につながりそうなブレインダンス的なリズムの援用がなされており、そのあたりに本作のリズムへのアプローチの出自があるのではという見方もできます。

 生楽器を取り入れながらも、なんというかポスト・ロックやフュージョンの呪縛にハマらない、エレクトロニック・ミュージックとしてのいい塩梅を提示した、アンソニー・ネイプルズの『Chameleon』とともに、リスニング・テクノの、新たな可能性を示したそんな感覚の作品でもあって、これまたその周辺の動きも含めて、まだまだ注目させるに相当しい作品を世に問うてしまったという、そんな作品ではないでしょうか。

Boris - ele-king

 2020年以降ものすごいペースで作品を送り出し、今年に入ってからも〈キリキリヴィラ〉より新作『W』を発表しているスラッジ/ドゥーム・メタルの泰斗、Boris。このたび活動30周年を記念し、新たな企画がスタートすることになった。
 彼らの代表作6枚からそれぞれ2曲ずつ選んだ7インチ・シングルが計6枚、6月から10月にかけて隔月でリリースされる。第一弾は『Heavy Rocks』(02)と『PINK』(06)から。あらためてマスタリングも施されている。
 また、5月15日には高円寺 HIGH にて30周年記念ライヴも開催。2022年初めての国内でのライヴだ。詳しくは下記より。

Boris活動30周年記念企画スタート!

結成から30年を迎える2022年はいくつかの記念企画が用意されている。その先陣を切るのはBorisの代表的なアルバム6タイトルから2曲づつの7インチを隔月で6月、8月、10月で3連続リリース!

Boris30周年シングルシリーズ第1&第2弾は、アルバム『Heavy Rocks』(2002年)、『PINK』(2006年)から。
今回の新規カッティングにあたって、TDマスターまで遡ってリマスタリング。各アルバムの代表曲を2曲づつ、改めて7inchフォーマットでシングルカット。

7インチシリーズ第一弾

6月10日発売 Heavy Rocks
KKV-139VL
収録曲
Side A : Heavy Friends 
Side B : Korosu
1,650円 税込

6月10日発売 PINK
KKV-140VL
収録曲
Side A : PINK 
Side B : スクリーンの女 ーWoman on the Screenー
1,650円 税込


『Heavy Rocks』
『Heavy Rocks』2002年リリース。2000年に入り、バンドの表記を大文字BORISと小文字borisでの使い分けが始まった。大文字名義では「ロックの中心に向かっていく作品」、小文字名義では「ロックの中心から拡散していく作品」という位置付けとし、『Heavy Rocks』は大文字BORISとしての最初の作品である。2011年にも同名タイトルのアルバムがある為、通称『オレンジHeavy Rocks』と呼ばれる。
小文字boris名義で先に2000年にリリースされた『flood』は、実は『Heavy Rocks』と同時進行で制作が進められており、当初のプランでは2作同時にリリースするはずであった。
一つの作品にまとめるのではなく、対比する2作品として発表するスタイル、バンドとその音楽の像をより立体的に表すというリリーススタイルは既にこの時期に確立され、2021年の『NO』から今年リリースの『W』に至る一連の流れの原点とも言える。
『Heavy Rocks』には親交のあるカリフォルニアのバンドACID KINGのLori他、当時日本国内で行なっていた自主企画「Fangsanalsatan」でジャンルを越えた共演を重ね、Borisが同志と呼べるプレイヤーにゲスト参加してもらっている。MAD3のEddie、AbnormalsのKomiのキャラクターが加わり「ロックの中心」を強く感じさせつつ、崩壊寸前まで楽曲を侵食するMerzbowやMasonnaの音響が「ロックの外側」へと連れ出そうとする。
大文字BORIS名義ながら、実はアンビバレントな現象が『Heavy Rocks』の中で起こっているのも、現在のBorisの在り様に通じるものがある。
このアルバムは当時日本国内CDのみのリリース、後のアナログ・プレス工場の火災によるスタンパーの消失により実質廃盤状態である。世界中のリスナーからはBorisのカルト・クラッシックスとして再発が熱望され続けているアルバムだ。
今回シングルカットされた「Heavy Friends」と「Korosu」は20年に渡りライブでも頻繁に演奏される代表曲と言える二曲。


『PINK』
『PINK』は2006年にリリースされたアルバム。2002年に『Heavy Rocks』を発表後、大文字名義で『あくまのうた』('03)をリリース、以降小文字名義で『boris at last -feedbacker-』('03)、『目をそらした瞬間 -the things which solomon over looked-』('04)、『マブタノウラ』(’05)と実験的な作品を連続リリース。この時期に独自のレコーディングの手法を確立、蓄積し『PINK』は完全セルフレコーディングによる初の作品、そして3年ぶりの大文字名義のフルアルバムとなった。
『PINK』はアメリカDoom Metalの殿堂Southern Lordからリリース、Pitchfolkなどのメディアから高評価を受け、世界各地からの公演オファーやメディアへの露出も急増し、Borisのブレイクスルーを成し遂げた起爆となったアルバムであり、代表作としてロックの歴史に刻まれた作品と言える。以降、2020年のコロナ禍になるまで毎年定期的に、長期にわたる海外ツアーを継続。コスモポリタン・バンドとしての活動の起点となった。当時、国内盤アナログは2枚組のステンシル型特殊ボックス仕様(ltd.500)でリリースされ、CDバージョンではダイ・カット&特殊加工されたインサートをプラスティックジャケットで挟み込むという前代未聞のアートワークでのリリース。フィジカルの表現にも当時からこだわりの姿勢が爆発している。
今回シングルカットされたのは、アルバムタイトル曲の「PINK」と「スクリーンの女」。
「PINK」はライブでは欠かせないアンセムの一つであり、このイントロが鳴っただけで会場フロアにモッシュピットが出現するほど。「スクリーンの女」もサブスクリプションのランキングでは常に上位をキープする曲。

Boris30周年企画『Heavy Rocks』Set LIVE with TOKIE決定!

Borisの結成30周年にあたる2022年、様々なイヴェントが計画されている。コロナ禍で思い通りのライブ活動が出来ない昨今、今年初の国内ライブが発表された。
彼らのカルト・クラッシックス・アルバム『Heavy Rocks』を、日本を代表するベーシストのTOKIEと共に披露する。
昨年のシングル『Reincarnation Rose』、新作アルバム『W』とコラボレートした両者が再びチームアップし、20年を経た楽曲群を新たに描く。
世界のロック史と日本のロック史が交差するスペシャルライブ。お見逃しなく。

Boris 30th Anniversary Show
Performing "Heavy Rocks Set" with TOKIE

日時 : 2022年5月15日(日)
OPEN 17:00 / START 18:00
会場 : 高円寺 HIGH
https://koenji-high.com/
チケット:
限定100名
前売 6000円(+d 600円 別途)
3月26日(土)21:00 販売開始
https://borisheavyrocks.zaiko.io/item/347247
※前売り券購入には事前にZAIKOアカウントの取得が必要となります。

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