「K A R Y Y N」と一致するもの

第22回:フットボールとソリダリティー - ele-king

 夏休みにうちの息子を初めてフットボール・コースに通わせた。
 これはブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCという地域のクラブが運営している小学生向けのコースで、夏休みとかイースター休みとかには必ずやっているのだが、働く親には送り迎えがたいへん不便な時間帯に行われているので、これまでうちの息子は通えなかったのである。

 が、今年はどうにか送り迎えの都合がつくことになり、フットボール狂のうちの息子は喜び勇んでコースに行ったのだが、初日からどんよりした顔つきで帰って来た。
 「どうしたの」
 「ジャパーンはシットだって言われた」
 ああ。と思った。グラウンドに彼を送って行ったときに、それはちょっと思ったのである。子供たちのほとんどは、ブライトン・アンド・ホーヴのキットを着ていた。地元クラブ運営のコースなので当前である。少数派として、チェルシーやマンUなどの定番人気クラブのキットを着ている少年たちもいたが、日本代表のキットなど着て行ったうちの息子はマイノリティー中のマイノリティーだ。しかも、そのチームがまた、どちらかと言えば強くないことで有名である。そりゃからかわれる標的にはなるだろう。
 「明日は日本代表のは着たくない」
 「ほんなこと言ったって、あんたブライトン&ホーヴのキット持ってないじゃん」
 「ウエストハムのキットを着る」
 「いや、それもブライトンじゃ超マイノリティーだよ。強いわけでもないし」
 「ウエストハムなら何と言われてもいい。“僕のチーム”だから」

               *****

 ある日、食事中にうちの息子が、妙に青年っぽく潤んだ瞳で言った。
 「こないだ、父ちゃんとロンドンに行った時、ウエストハムのリュックを背負って行ったんだ。地下鉄を降りて、プラットフォームを歩いていたら後ろから男の人がいきなり僕のリュックをパンチした。で、彼は言ったんだ。『ウエストハム・フォー・ライフ』って」
 わたしは黙って聞いていた。あれほど熱っぽく、しかし静かな息子の微笑は見たことがなかった。8歳児があんな顔するのかよと思った。

 またある時、息子は言った。
 「母ちゃんは実用的なことを教えてくれるけど、父ちゃんは人生について話してくれる」
 「例えば、どんな?」
 「僕たちは一度このクラブをサポートすると決めたら一生変えないんだとか、そういうこと」
 要するにフットボールである。
 うちの息子がウエストハムのサポーターである理由は、ロンドン東部で生まれ育った連合いのローカル・クラブがウエストハムだったからであり、彼の「ウエストハム・フォー・ライフ」はいわば世襲のものである。フットボールには「世襲」だの「帰属」だのといった風通しの悪いコンセプトがつきまとう。そもそも、「○○・フォー・ライフ」などという思い込みの迸りは限りなく愛国精神じみているし。フットボールがウヨク的と言われる所以だろう。

                *****

 『Awaydays』という映画があった。例によってこれも日本には輸入されていないようだが、『This Is England』のフットボール版と言われた映画で、1979年の英国北部の若者たちを描いた作品である。

サッチャーが政権に就いた年の灰色の北部の街で、ちょうど『This Is England』の主人公ショーンがナショナル・フロントに惹かれて行ったように、『Awaydays』の主人公はフーリガニズムに惹かれて行く。『Awaydays』もサブカル色が強く、ここに出て来る北部のフットボール・フーリガンたちは、いやにモッズである。アラン・マッギーが初めてグラスゴーのライブハウスでオアシスを見た時の印象を、「そこら辺を破壊して暴れ出しそうな不良のモッズが隅に陣取っていた。はっきり言ってビビった」と語っているのを読んだことがあるが、モッズにはどうしたって地方のヤンキーという側面がある。この流れを現代に汲んでいるいるのが、スリーフォード・モッズだろう。ああいうおっさんたちは、ブライトンの職安の前に行くとけっこういる。
 『Awaydays』はポストパンク・ミュージックをふんだんに使い、フーリガンたちがワイヤーやマガジンを聴いていたり、主人公の部屋にルー・リードのポスターが貼られていてたりするのだが、これは連合いの世代の人びとに言わせれば、「フーリガンはポストパンクじゃなくて、ディスコかジャズ・ファンクを聴いていた」という時代考証的な矛盾があるらしい。
 が、本作の主人公は、もともとおタクっぽいレコード・コレクターで、田舎のヤンキー文化には溶け込めなかった。そういう青年が何故かフーリガンたちの世界に憧れ、自ら飛び込み、やがてグループの中で最も凶暴なメンバーになるというのは、面白い構図だ。ポストパンクとフーリガンは相容れない世界だったとしても、その境界を飛び越えて行った人もいた筈だ。
 男子が暴れたくなる理由はホルモンの暴走とかいろいろあるんだろうが、この映画では、閉塞や孤独やノー・フューチャーな感じ、禁じられた同性愛などの対極にあるものへの渇望。が満たされない故に疾走する行為として描かれている。そして、あの徒党感。「族」を描く映画には欠かせない、「横並びに共に立っている」という感覚である。それはうちの息子が駅でウエストハムのリュックをパンチされた体験を語る時の、潤んだ微笑でもある。


              *******

 過日。
 若き左派論客オーウェン・ジョーンズがガーディアン紙ですすり泣いていた。この人はダイハードな左翼ライターとして有名で、左派のわりには全くヒューマニティーを感じさせないほど沈着冷静、皮肉屋で残酷。眉ひとつ動かさずにバサバサと右派を斬る人なのだが、その彼が『Pride』という新作映画を見て「僕はすすり泣いた」などと新聞に書いている。
 同作もサッチャー時代の話らしい。炭鉱労働者たちのストライキをサポートするために同性愛者コミュニティーが立ち上がる。という実話ベースの話だそうで、これを見てあのオーウェン・ジョーンズが泣いたというのである。
 「サッチャーが殺すことができなかった伝統がある。それは英国人のソリダリティーだ。どれほど彼女が個人主義の鉈を振り下ろしても、この伝統だけは殺せなかった」
 と彼は書く。うーむ。これも「横並びに共に立つ」というアレだよなあと思った。

 思えば、例えばこのアラフィフのばばあが育って来た時代から現代まで、西洋文化にかぶれた日本人にとっても、ソリダリティーというやつは最もダサいもので、憎むべきものであった。個人主義こそがクールで、おまえはおまえで俺は俺。群れる奴らは弱いとか、団結はおロマンティックなバカどもの幻想だとか言われてきた。わたしなんかも、すっかりその洗脳にやられて生きて来た老害ばばあである。

 最近、UKでは頻繁に「サッチャー」という言葉を耳にする。ひとつのキーワードになっていると思うが、この国で育った人間たちは今つらいのだと思う。組合は駄目、フーリガンは駄目、福祉国家は駄目(この駄目というのは、禁止という意味ではない。「もはやお話にもならないもの」ということ)、人間が結束することを全て駄目化する形で庶民は分割統治されてきた。自力本願が花開く上昇の時代ならそれでも良い。が、人が支え合わなければ生き残れない下降の時代になっても個人主義という基本は変わらない。それでもソリダリティーに惹かれてしまう者は、それこそ左から右にジャンプするしかないというか、ポストパンクからフーリガンに飛び込むしかなかったのだ。
 けれどもそこはやはり人間が繋がることが駄目化された社会なので、『Awaydays』でも主人公のひとりは自殺するし、もうひとりは「やっぱ結束なんてクソだよな」とフーリガンを抜ける。『Pride』のほうだって、炭鉱労働者たちが現実にどうなったかを考えると「勝利」みたいなハッピーエンドではないだろう。が、きっと人間のソリダリティーを否定しない形で終わった映画だからこそ、オーウェン・ジョーンズのような人まで泣いたのではないか。 
 ソリダリティーはいいことなんだよ。と言ってくれる人はこれまでいなかったから。

 サッチャーからはじまった個人主義の果てにあった修羅の如きブロークン・ブリテンに、きっとみんな疲れているのだ。だからちょっとソリダリティーとか言われたら泣いたりする。
 アホか。
 ゲット・リアル。
 とはわたしはもう思わない。
 次の時代は、意外とそういうところからはじまるかもしれないからだ。

interview with Rustie - ele-king


Rustie
Green Language

Warp records / ビート

CrunkHip HopElectronic

Amazon Tower HMV iTunes

 上半身裸の男が壁をよじのぼる光景はなんともクレイジーだった。ラスティが故郷であるスコットランドのグラスゴーでギグをやるといつもこんな感じらしい。やはり素晴らしいミュージシャンを生み出す街と、パーティを楽しむ人びとはセットなのである。
 インタヴューでも本人が触れているグラスゴーのレコード店であるラブ・ア・ダブはレーベル運営もしている。そのうちのひとつ〈スタッフ・レコーズ〉から2007年にリリースされたEP「ジャクズ・ザ・スマック」がラスティのデビュー作品だ。ダブステップの重さとヒップホップの軽さが混在したリズムと、エレクトロの暗いメロディが彼のスタートになった。
 翌2008年にはブリストルのヤンキー・ダブステッパーであるジョーカーとコラボレーションしたシングル「プレイ・ドゥ / テンパード」を〈カプサイズ〉からリリース。現在、ラスティもジョーカーもその類希なメロディ・センスで人気を集めているが、そのスタイルの原型はこのシングルに見出される。
 ここ日本でも注目されるようになったのは、〈ワープ〉と契約してリリースされた2010年の「サンバーストEP」からだ。イントロの“ネコ”で流れるヒロイックな、というかヒーロー映画で流れても違和感のない大胆な構成は、ダンス・ミュージックの領域ではかなり特異なものだった。翌年のファースト・アルバム『グラス・ソーズ』はそれをさらに押し進め、より複雑なリズムとカラフルな音色で彩られている。
 今回のセカンド・アルバム『グリーン・ランゲージ』では、いままでのラスティの作品でありそうでなかったラッパーやシンガーの客演も聴き所のひとつだ。とくにダニー・ブラウンとの“アタック”が素晴らしい。トラップ直球のリズムとハスキーで噛み付いてくるようなラップと、それに劣らない鮮烈なフレーズ が随所でリスナーを刺激する。自分以外の主役を引き立たせられるプロデューサーとしても彼は着実に進化を遂げているのだ。
 前作からの3年に間にラスティはDJとしてツアーで世界を飛び回っていた。来日も果たし、アメリカも周り、冒頭にあるように故郷のグラスゴーのフロアも大いに湧かせた。その間に作られたのが本作『グリーン・ランゲージ』だ。最近の活動の様子から、自身のルーツまで多くのことをラスティは語ってくれた。

いまの時代は以前のように、ずーっと耳を傾けたり集中しなくてよくなってる。そういう意味では俺の音楽はそれを反映してるのかもね。

あなた自身の生活のなかで、今年の夏は、去年の夏とどのように違っていますか?

ラスティ(以下、R):そこまで大きな違いはないけど……。アルバムがリリースされるし、プレスや色々準備があるから、去年よりは忙しくしてる。去年はここまで忙しくはなかったと思うな。それくらい(笑)。

5年前と現在とでは?

R:5年前って2009年だよね? 初めてワープと契約した年だ。だから、自分にとっては新たなスタートって感じの年だった。2007年が初めて作品をリリースした年だったけど、ワープと契約したことでまた気分が変わったんだ。

5年前といまじゃ全然違いますか?

R:全然。当時はリミックスを沢山やったりしてたな(笑)。

通訳:当時より、自分のスタイルが確立されていたり、自信がついていたりはしますか?

R:そうだね。自信はついてると思うし、スタイルも出来てきてると思う。前よりも作業の経験を積んでるし、音楽制作の流れもベターになってきた。ミュージシャンとして、いまのほうがハッピーでもあるよ。

通訳:5年前は何歳だったんですか?

R:25。あ、26かな。いま31歳だから。

通訳:31歳! 見えませんね。欧米の人にしては珍しく若く見えます(笑)。

R:ベビー・フェイスだから(笑)。25歳のときはそれが嫌だったけど、いまはいいかなって思ってる(笑)。

さて、まずはニュー・アルバム『グリーン・ランゲージ』について聞かせてください。アルバムの完成には時間がかかりましたね?

R:まあね。制作には2年かかったよ。理由のひとつは、『グラス・ソーズ』のあと、半年間ハード・ドライヴがダメになってしまって、しばらく曲を作れなくてさ。それがなければ1年半で完成していたのかも。あまり自分を急かして作りたくなかったっていうのもある。自分が満足いくものを作りたかったからね。俺は完璧主義者なところがあって、ひとつひとつを納得できるものにしつつ作業を進めたかったんだ。」

通訳:思ったより長くかかりました?

R:少しね。自分の中では完成は1年後くらいのつもりでいたから。でも忙しくて。ツアー中に作らないといけなかったし。

今作はタイトルやフラミンゴのジャケットから察するにテーマとして自然があるようです。自然をテーマにした理由は?

R:自然や宇宙、動物にはいつもインスパイアされてるから。だから普通なことだったんだ。

通訳:動物は飼っていますか?

R:前は猫を飼ってたけど、もういない。子供の頃の話だよ。いまはちょっといいかな(笑)。

通訳:はは(笑)。アルバム・ジャケットはなぜフラミンゴなんですか?

R:自然や動物をカヴァーにしたかったんだ。だからそれを友だちに伝えてアートワークの制作を頼んだらあのデザインが返ってきた。

通訳:アルバムのテーマと繋がったものを頼んだってことですよね?

R:そうそう。タイトルは鳥の言語っていう意味だしね。だからアルバム・カヴァーはそれと関係あるものにしたかったんだ。で、たくさんあった選択肢のなかであのアートワークが一番それと繋がりを感じたから選んだ。『グラス・ソーズ』もクリスタルだったしね。あれはもっと人工的でアニメーションっぽかったけど、今回はそこからちょっと前進してリアルになっているのもいいと思う。

あなたはPCやネットがカジュアルな世代で、私たちはデジタル情報化社会に生きています。よくよくあなたの音楽は、そうした今日の情報化社会の反映に喩えられますが、あなた自身もそう思いますか?

R:人がそう言うのもある意味理解は出来る。俺は集中力がなくて、3、4分以上の曲を作れない。オンライン・メディアみたいにピンポイントというか、必要なものだけをサッとって感じ。いまの時代は、前みたいにずーっと耳を傾けたり、集中しなくてよくなってる。そういう意味では俺の音楽はそれを反映してるのかもね。

“ワークシップ”や“レッツ・スパイラル”のように壮大な曲がありますが、あなたはドラマチックな展開が好きですよね? ミニマルな人生は嫌いだから?

R:いや、シンプル・ライフも好きだよ。忙しいときは、そこから離れて何もない場所に行きたくなったりもする。あまり質問の答えになってないかもしれないけど(笑)。ドラマとかパッション、エモーショナルなものを音楽に入れるのは好きだね。曲をエキサイティングにしたいから。綺麗な曲もすごく好きだけど、やっぱり人を引き込むくらいエキサイティングなものを作るのが好きなんだよね。

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俺にとってトラップっていうのはヒップホップ・ミュージックなんだ。スリー・シックス・マフィアとかグッチ・メインとか、そういうトラップは好きだね。

表題曲“グリーン・ランゲージ”はピアノのアンビエント曲でラストにふさわしい曲ですね。あなたがアンビエントを作るのは意外でした。これはアルバムのコンセプトとどのような関係があるのですか?

R:「グリーン・ランゲージ(Green Language=鳥の言語)」っていうのはスピリチュアルだから、それが反映されてるんだと思う。だからこのトラックがああいった雰囲気を持っているのは自然なことなんだ。

通訳:アンビエント・トラックはよく作ったりするんですか?

R:うん、作るよ。ドラムのないトラックとか、クラシックっぽい音楽も作る。そこにいろいろ加えてもっとエキサイティングにしていったり、サンプルしたり。

『グラス・ソーズ』をより発展させたのが『グリーン・ランゲージ』なのでしょうか? 

R:うーん。発展でもあるし、新しいチャプターのような作品でもある。全く違うわけじゃないけど、やっぱり違いはあるよ。『グラス・ソーズ』はもちろん反映されているし、要素も繋がりはある。だけど、エナジーみたいなものが違うね。

『グラス・ソーズ』をいまでも聴きますか?

R:DJのときだけ。一度作り終わってリリースすると、俺は自分の音楽って聴かないんだよね。2、3年経たないと聴く気になれないかも(笑)。

通訳:それは何故? 変な感じがするんですか(笑)?

R:いや、心地良くないとかそういうわけじゃないんだ。ただ前に進みたいからだよ。

作曲のときもラップトップをメインで使用するそうですね。前作よりも多様な音のシンセが使われていますが、機材環境に変化はありましたか?
 
R:いや、そんなに。作るときよりもレコーディングのときの方が色々使ったかもしれないな。ツアー中にレコーディングしたから、色んな場所でそこにあるものを使ってレコーディングしたよ。でも基本はラップトップ。特別なものは使ってない。とくに変化はないよ。

レディーニョとの“ロスト”や“ドリーム・オン”においてR&Bトラックを披露していますね。今回はどうしてヴォーカル・トラックに挑戦したのでしょうか?

R:ヴォーカルの入ったトラックが好きだから。それだけだよ。『グラス・ソーズ』でもやりたかったんだけど、チャンスがなかった。でもずっとやりたいことだったんだ。構成もヴォーカルやメロディの入ったものが好きだしね。

先行発表された“アタック”では、トラップを連想させるビートにダニー・ブラウンのラップが最高にマッチしています。あなたの作るラッパーのためのトラックと、ヒップホップのトラックメイカーの作る曲はどこが違うと思いますか?

R:そうだな……。ラッパーのために作るトラックとそうでないトラックの違いなら。ラッパーのために作るときは、そこまでハードに作業しなくてもいい。ラッパーやヴォーカリストがリードをとってくれるから。メインのフォーカスはラッパーだから、バックグラウンド・ミュージックを作るような感じで作るんだ。でもインストとなると、初めから面白いものを意識して作らないといけない。インストだけで聴く価値のあるものをね。メロディが主役だからさ。ラッパーやヴォーカリストがいなくても、インスト・トラックとしていいものを作らないといけないから、もっと注意が必要なんだ。

ハドソン・モホークとルナイスによるプロジェクトのトゥナイトはトラップに焦点を当てていますが、あなたの作品でもトラップのリズムを聴くことができます。やっぱ好きなんですか?

R:EDMのトラップに関してはわからないけど、俺にとってトラップっていうのはヒップホップ・ミュージックなんだ。スリー・シックス・マフィアとかグッチ・メインとか、そういうトラップは好きだね。

ダンス・ミュージックの多くにおいてフレーズのループがじょじょに展開していくパターンが多いですが、あなたのトラックは部分的にメロディが使い分けられており、ポップ・ミュージックの構成に似ています。従来のダンス・ミュージックとはなぜ違ったスタイルを取るのでしょうか?

R:さっきも言ったように、俺の曲は短い。ダンス・ミュージックでは7分間のトラックなんかもあるよね? でも俺はそこまで長いトラックだと退屈してしまうんだ。もっとグッと引き寄せられるような音楽が好きなんだよ。DJするときもそう。素早く集中したエナジーで、次から次に進む方が得意だね。

その曲構成も含め、 あなたの曲の多くはリズムもとてもユニークですが、その反面、フロアでDJがどのようにそれらの曲をミックスするのか想像するのが難しいです。DJのために曲を作ることはあまり意識していないのでしょうか?

R:DJのことはあまり考えない。自分が聴きたいと思う音のことだけを考えてるよ。俺自身もDJだけど、あまり長いトラックはかけない。俺はそういうDJセットが好きなんだ。

自分の曲がEDMと呼ばれたら違和感は覚えますか?

R:自分ではそうは思わないけど、人っていつも新しい言葉を作って何かしら呼びたがるし、別に気にはしないよ。もう慣れたね。そういうのは言葉に過ぎないから。

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もちろんグラスゴー出身だしグラスゴーが好きだけど、そこまでアイデンティティは強くないね。

今年の7月から8月にかけてアメリカをツアーしていましたが、現場での反応はいかがでしたか? 

R:そう。2、3日前に帰って来たばかりなんだ。すごく良かった。最高だったよ。新しいトラックへの反応も良くて、昔のトラックでも盛り上がってくれたよ。

通訳:アメリカとイギリスで受けいられ方が違ったりするのでしょうか?

R:そうだな……。イギリスの方がもっと違うジャンルにハマってると思う。いまイギリスではハウスがきてるんだ。ハウスとかディープ・ハウスとか。アメリカではそこまで流行ってはない。アメリカでは俺の音楽をかけるとフロアはクレイジーなるけど……。イギリスもそうではあるんだけど、もっとハウス寄りのものに反応がある気がする。

あなたは数年前にグラスゴーからロンドンへ引っ越していますが、生まれ育った地元のシーンやあなたのバックグラウンドについても教えてください。少々前の話なのですが、僕は2001年の9月から1年間グラスゴーに住んでいました。シティ・センターにあるクラブ、ステレオで行われた前作『グラス・ソーズ』のリリース・パーティにも行ったんですが、大変盛り上がっていましたね。DJブースの前で人が重なり合い熱狂するなか、自身の曲とベース・ミュージックのチューンを混ぜ合わせ、ハドソン・モホークの“フューズ”をラストにかけていたのが印象的でした。グラスゴーは現在も特別な場所なのでしょうか?

R:あの夜はすごく楽しい夜だった。グラスゴーは人もいいし、勢いもあって、みんなパーティが好きなんだ。楽しい時間を過ごすのが好き。だからたくさんのバンドやDJが、ここでプレイするのが好きだって言ってるよ。グラスゴーのオーディエンスは熱いからね。

ジャックマスターやスペンサーなどの実力派のDJたちの活躍も目覚ましいですが、近年のグラスゴーのシーンについてどう思いますか?

R:昔に比べてより多くの人がシーンに関わっていると思う。〈ラッキー・ミー〉とか〈ナンバーズ〉はいまも忙しくしているよ。でも悪いことじゃないんだけど殆どのアーティストがロンドンに引っ越していたりで、全体的にちょっと静かになったかな。だから前より面白くないんだ。ハウスだらけでちょっと退屈……。でもそれらのレーベルの作品には面白いものが多いよ。でも最近のグラスゴーのシーンは前ほどエキサイティングではないかな。

通訳:グラスゴーで育ったことは、自分の音楽にやはり影響していますか?

R:シティ・センターのレコード店、〈ラブ・ア・ダブ〉でレコードを買ったりしてたから、影響はあるよ。テクノ、エレクトロ、ヒップホップとか、色々なタイプの音楽が揃っててそれらに影響を受けたんだ。すごく折衷的で、ディスコ、シカゴ・ハウス、ロックやパンクもあった。だから、全ての種類の音楽から影響を受けることが出来たんだ。

『ピッチフォーク』などメディアからは、「グラスウェイジアン(グラスゴー人の意)」や「グラスゴーのラスティ」と出身地を強調されることがあります。自分自身がスコットランド人であることやグラスゴー出身であることを意識しますか?

R:いや、そんなに。自分がスコットランド人だってことはあまり意識してない。国家主義者でも何でもないからさ。もちろんグラスゴー出身だしグラスゴーが好きだけど、そこまでアイデンティティは強くないね。

グラスゴーにあってロンドンにないものは何ですか?

R:グラスゴーはヴァイブが違うんだ。独自のユーモア・センスがあって、人がもっとフレンドリー。他人によく話しかけたりね。ロンドンに比べると、そういうエナジーが漂っていると思う。

現在契約している〈ワープ〉が輩出したエイフェックス・ツインやボーズ・オブ・カナダなどのプロデューサーからあなたは大きな影響を受けたそうですが、改めて彼らの魅力について教えてください。

R:エイフェックス・ツインよりはボーズ・オブ・カナダに影響を受けてる。エイフェックスはもちろん好きだけど、そこまで大きな影響ってわけじゃないかも。影響ではボーズの方が大きいね。ボーズ・オブ・カナダのメロディやクールな音楽に魅了されたんだ。自分が初めて聴いたワープのアーティストだと思う。2002年くらいだったかな? 音の質感が単純に美しかったのをいまでも覚えてる。

通訳:ボーズ・オブ・カナダはいまでも聴きますか?

R:去年のニュー・アルバム『トゥモローズ・ハーヴェスト』は聴いたよ。良い作品だね。でもやっぱり聴くのは昔のものが多いかな。『ミュージック・ハズ・ザ・ライト・トゥ・チルドレン』(1998年)とか『ゴーガッディ』(2002年)とかね。

音楽をはじめたきっかけは何ですか? そこからどのようにダンス・ミュージックと関わるようになるのでしょうか?

R:作りはじめたのは2002年。その前からDJはやってたんだけど、フルーティー・ループスのコピーを手に入れてから、それを使って音楽を作るのに中毒的にハマったんだ。15歳のときヒップホップが大好きだったからスクラッチの仕方やターンテーブルを勉強したくて、使い方を教えてくれる人を常に探してた。だけど、みんな幅広いダンス・ミュージックにハマっててさ。彼らが教えに俺の家にくる度ににそういった音楽のレコードをもってきてかけくれたんだ。だから、俺もダンス・ミュージックに興味を持つようになったわけさ。

お兄さんから作曲用音楽ソフトを貰い、お母さんのレコード・コレクションからいろいろ学んだそうですね。ミュージシャン、ラスティのレコードはあなたの家族のレコード棚にはあるのでしょうか?

R:そうなんだよ。親のレコードからも影響を受けてる。プログレッシヴ・ロックの影響なんかはそこからだね。俺のレコードは実家のレコード棚にあるよ(笑)。母親も気に入ってくれいてるよ。まだニュー・アルバムは聴かせてないんだけどね。

OGRE YOU ASSHOLE - ele-king

 これは挑戦です。ロック・サウンドの実験です。よし、試しにやってみようじゃないか。そうだ、やってしまおう。飼い慣らされる前に、飛べ。
 化石となったロック・バンドを尻目に、しかし、バンド・サウンドにはまだ開拓の余地があるとオウガ・ユー・アスホールは考えています。彼らはマーケティングに支配された音楽シーンをささーと駆け抜けます。
 彼らはこの3年のあいだ、『homely』、『100年後』という2枚の重要なアルバムを残しました。それらの作品で、彼らは、細かく分解されたクラウトロックとAORの部品を新しく磨き、あらためて組み立てました。皮肉たっぷりの歌詞と甘美なサウンドで、彼らはリスナーをいろいろな場所に連れて行きました。そして、いまでも彼らはそのことを止めません。
 今年の10月15日、オウガ・ユー・アスホールは『homely』『100年後』に続くニュー・アルバムをリリースします。タイトルは『ペーパークラフト』。すでにライヴではお馴染みで、ele-kingの12インチ・シングルとしてリリースした「見えないルール」のオリジナル・ヴァージョンも収録されています。
 『ペーパークラフト』は、いままで以上に甘いアルバムです。同時に、毒々しくもあります。DJのENAのインタヴューでも話題にしていますが、いま「ノっているんだけど、醒めている」「興奮しているんだけど、冷ややか」な感覚がダンス・ミュージック、とくにUKのテクノの世界では急速に拡大しています。必要以上に上がりもしなければ、必要以上に絶望もしない。オウガ・ユー・アスホールがいま鳴らしている音は、そんなテクノの現在性とも重なっています。
 『ペーパークラフト』の初回限定版は、特別ボックス仕様で、カセットテープが付きます。セッションを録音した音源で、ダウンロードのナンバー入りです。

※10月2日、恵比寿リキッドルームにて、オウガ・ユー・アスホールのライヴあります。

LIQUIDROOM 10th ANNIVERSARY ele-king night
「オウガ・ユー・アスホールvs森は生きている」

■OPEN / START 18:00 / 19:00
■ADV ¥3,500(税込・ドリンクチャージ別)
■LINE UP OGRE YOU ASSHOLE/森は生きている
■TICKET チケットぴあ [232-675] ローソンチケット [79610] e+ ■INFO  LIQUIDROOM 03(5464)0800  


Syro - ele-king

 ひとつには、UKのテクノが面白くなっているという背景もあるのだろう。テセラ、アコード、ラッカー、アクトレス、アントールド、スペシャル・リクエスト、アンディ・ストット、ダムデイク・ステア……等々、そしてここにベテラン勢も加わると。
 もちろん、彼は変わってはいない。アルバム・タイトルの『Syro(サイロ)』、いつものロゴマーク、エイフェックス・ツインの音楽に意味はない。曲名から極力物語性をはぎ取ってきたのも、彼の特徴である。“ Analog Bubblebath”、“Xtal”、“Tha”、“Quoth”、“Quino - Phec”……『アンビエント・ワークスvol.2』では、唯一の既発曲である“Blue Calx”以外は、綺麗なまでに曲名がない。
 ご存じのように、公表されているアートワークには、曲名と制作費用の内訳、そして、リチャード・D・ジェイムスのバイオが掲載されているが、よく読めばわかるように、バイオはメチャメチャだ(笑)。アー写に関しては、いつものリチャード・D・ジェイムスといったところでしょう。

KAKU - ele-king

東京出身 アメリカ・ミシガン州在住のDJ/トラックメーカー 。
BUSHMINDの実兄。1990年頃からDJを始め、1997年アメリカに活動の場を移す。デトロイトの音楽シーンで活動する唯一の日本人として現地で数々のライブ、DJを行う。

KAKU / LIVE AT DETROIT 2000
2014/8/27 on sale
himcast.com

KAKUインタビュー
https://www.himcast.com/2014/08/kaku.html

Chart


1
Substance - CR 18

2
Deep Chord - DCV 08

3
Convextion - Matrix 1

4
Deep Chord - DCV 09

5
Brooks Mosher - Coming Back ( Kevin Reynolds Remix )

6
Echo Inspectors - Lunar Shadows ( Luke Hess Deep Labs Remix )

7
Mosaic - Mcspl 05

8
Bluetrain - Factory Dubs

9
Strange Attractor - Phono 01

10
Kevin Reynolds - Anonymous Room At The Corridor Of Last Night

『ブリングリング』 - ele-king

大金持ちの子どもたち やりたい放題
大金持ちの子どもたち 偽物の友だちしかいない
本物の愛 求めているのは本物の愛
フランク・オーシャン“スーパー・リッチ・キッズ”

 そう、『ブリングリング』はそんな話だ。その歌が使われていても不思議ではない。甘やかされて育ち、ぼんやりとした孤独と退屈があり、生活に困っているわけではなくて、そしてセレブリティの家に侵入して服や宝石を強盗する、そんな子どもたちがいたとして彼/彼女らだけに罪はないのだろうし、この時代になんとなく漂う行き止まり感を表象した映画だと言えるだろう。もう子どもたちは夢を見ていないし、強奪するにせよひと山当てるにせよカネを得ることは目的ですらなくなっている。映画のメインの舞台となるパリス・ヒルトンだかリンジー・ローハンだかのブランドものの服や靴が並ぶクローゼットは資本主義が召喚した虚無そのものだが、「キッズ」の居場所はそこにしかない(あるいは、そこにあるのだと思いたがっている)。そしてそこは、インターネットで検索すれば見つけることができるのだ。サウンドトラックの選曲のオシャレさには定評のあるソフィア・コッポラだが、本作ではなかなか先鋭的なセレクトになっているとはじめは思った。しかしながら、彼女はかつてエイフェックス・ツインの楽曲を使用していたが、それと同じことがテン年代の『ブリングリング』におけるOPNのダニエル・ロパティンとして反復されていると見なせばそう驚くことでもない。
 同じこと……。『スプリング・ブレイカーズ』における頭の弱い女子大生たちの春休みを美しいと思った僕が、『ブリングリング』におけるセレブリティ・カルチャーへの逃避をただ眺めてしまうのは、ソフィア・コッポラがどうも同じことを繰り返しているように見えるからだ。『ヴァージン・スーサイズ』(99)、『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、『マリー・アントワネット』(06)……そこには、自分の居場所が何となく見つからないガールばかりがいなかったか。本作は、自分のからっぽの人生に呆然とする俳優をふんわりと描いた前作『SOMEWHERE』(10)を逆サイドから描いていると言え、そして気がつけばそれはシームレスに繋がっている。パソコンの画面のなかの華やかなセレブリティたちの世界と、そこに行けば何かが変わるかもしれないと憧れた子どもたちの世界、そのふたつにそのじつ大した違いはない(そのことは『ブリングリング』のラストで明らかになる)。その虚しさを繰り返すことがもしフランシス・フォード・コッポラという偉大すぎる父の娘として生まれたソフィアの宿命であるならば……彼女をかばいたいくもあるがしかし、それを何度も見るのは侘しいものだ。

 変わらないと言えば、ソフィア・コッポラの元夫であるスパイク・ジョーンズ『her/世界でひとつの彼女』もそうだった。siriのように話せば優しく答えてくれる人工知能との恋。と言われても、ここには生身の感情のやり取りや生々しい手ざわりはどこにもなく、それは『マルコヴィッチの穴』(99)でジョン・マルコヴィッチの脳内に入ってはじめて「世界」を感じることができたことととてもよく似ている。淡い映像で包まれた映画には切ない気分が終始漂っているが、触れれば血が噴き出すような傷は見つからない。
いや、『her』には人工知能のガールフレンドに対比させるように、現実世界の「ボクの思い通りにいかない女たち」もきちんと登場する。だが、それ以上にOSサマンサの柔らかい肯定感――ぬるま湯感と言おうか――がそれらをたやすく上から色づけして隠してしまう。パステル・カラーで。生身の官能がないセックス・シーンが強烈な皮肉だったらいいのだが、たぶんにここでは一種の「夢」として描かれている。それは避妊も性病予防も体液の交換もなく、面倒で気持ち悪いベトベトやネチネチのない、とてもクリーンで、後腐れのない性愛である。だが、そこにエクスタシーは本当に存在するのだろうか。

 気になるのは、『ブリングリング』も『her』もインターネット・その後が強く意識されていることだ。どちらの主人公たちも自分が許される場所を求めていて、そして無限に広がる情報の海のどこかにそれがあるのかもしれないとぼんやりと信じているようだ。回答を見つけるためではなく、見つけないために検索をかけ続けるかのようだ。すなわち、「居場所はない」のだという現実を。

 『ヴァージン・スーサイズ』や『マルコヴィッチの穴』の頃のトレンディな装いを引きずったまま、ソフィア・コッポラとスパイク・ジョーンズはここまで来てしまったのではないか……「この世界」を受け止めないままに。ということを考えたとき、強引であるのは承知した上で、同じく90年代から映像派として鳴らしたデヴィッド・フィンチャーを僕は補助線としたい。
 たとえば『セブン』(95)、たとえば『ファイト・クラブ』(99)はそれぞれ時代をえぐった傑作とされているが、僕はあくまで彼の最高傑作は『ゾディアック』(07)だと言い張ろう。それまで映画のなかにゲーム的世界を入れ子構造的に用意していた彼が、そこではじめて現実世界に向けてそのような遊戯を「諦めた」と言えるからだ。(それまでフィンチャーが題材にしてきたような)猟奇的事件は解決せず、謎に近づけば近づくほど関わった人間たちは自らの人生を狂わせ、ただひたすら無為に時間ばかりが過ぎていく……。確実にそこでフィンチャーは何かを掴んだ。そして、インターネットばりの更新速度でシェイクスピアをやったような……つまり古典的な物語がたしかに息づいていた『ソーシャル・ネットワーク』(10)では、結局ソーシャル・ネットワーク・サーヴィス上には「誰もいない」ことをあっさりと認めてしまっていた。しかしだからこそ、映画の終わりではロウなコミュニケーションの可能性が示唆されるのである。彼の新作『GONE GIRL(原題、14)』が、妻の失踪を機に人間性を疑われる男を描いていると聞けば、不可解で理不尽な現実を彼がいまでははっきりと見据えていることがわかる。

 切実な表現がいつも素晴らしいと言いたいわけではない。だが、フランク・オーシャンはその歌の正直さにおいて、「スーパー・リッチ・キッズ」を皮肉りながらも、たしかに本物の愛を求めていたのだとわかる。が、『ブリングリング』の子どもたちは……どうなのだろう。本当にこの歌がこの映画のサウンドトラックになるのだろうか? だが、僕はその答えを検索しようとは思わない。


『ブリングリング』予告編


『her/世界でひとつの彼女』予告編

 パリス・ヒルトンやケイト・モスらが通うセレブなリゾートというよりも、最近は篠田真理子や大島優子が魅せられた休息の島と呼ぶほうが通りがいいだろうか。地中海に浮かぶ、スペイン領のリゾート・アイランド、イビザ島。風と光が戯れ、秘密のビーチに美しいチリンギート(海の家)が佇む最後の楽園。しかし、この島の名をさらに忘れがたいものとして印象づけているのは、あちこちに華やかに構えられたクラブや、そこで昼と言わず夜と言わず繰り広げられているパーティである。

 今回、現地体験レポ―トを届けてくれたのは、“ネオ・ドゥーワップ・バンド”として夢と幻想のオールディーズ空間を演出し、ポップスとサイケデリックの可能性をスタイリッシュに追求する注目グループ、JINTANA&EMERALDSのJINTANA氏。軽快な文章をたどっていると、彼がどのような音楽を追求しているのかということとともに、かの島の明媚な風景や、そこに深く根づいたダンス・カルチャーとクラブでの喜びがいきいきと伝わってくる。

 それでは8月のスペシャル・コラム、JINTANAのイビザ来訪記をお楽しみあれ。ベッドルームや通勤電車でこの画面を眺めている人にも、願わくはひとたびのヴァカンス・ムードを。 (編集部)

■JINTANA プレ・コメント

 ネオ・ドゥーワップバンドJINTANA&EMERALDSのJINTANAです。
 今回、イビザについての旅行記を書かせていただくことになりました。
 夏の一日を楽しく過ごすリゾート・エッセイとして、また、ちょっとしたイビザ・ガイドとしての情報も盛り込んでみましたので、イビザに旅行される方もご活用いただければと思います。
 それから、Jintana&EmeraldsのサイトがOPENしました。この紀行文といっしょに楽しんでいただくためのJ&E楽曲MIXをサイトにUPしたので、ぜひ音と文でチルアウトなひとときを楽しんでいただけたらと思います。
Jintanaandemeralds.com

 あなたの素敵なエキゾ体験になることを願って。

JINTANAプロフィール
Paisley ParksやBTBも所属するハマの音楽集団〈Pan Pacific Playa〉(PPP)のスティール・ギタリスト。同じく〈PPP〉のKashifや一十三十一、Crystal、カミカオル、あべまみとともにネオ・ドゥーワップバンドJINTANA&EMERALDSとして『Destiny』をP-VINEよりリリース。オールディーズとチルアウト・ミュージックが融合したスウィート&ドリーミーなサウンドがTiny Mix Tapeなど海外メディアも含め各地で高い評価を得る。この夏は〈JIN ROCK FES〉や〈りんご音楽祭〉などさまざまなフェスに出演予定。



■「悔しさとともに、ヨコハマの夜は更けていく」

 ある夏のはじまる前の夜、僕は横浜の飲み屋街、野毛で〈PPP〉のリーダーである脳くんや〈PPP〉の若手のケントらと飲んでいた。〈PPP〉とはPan Pacific Playaという音楽クルーで、LUVRAW&BTBとしても知られるBTBくんやPEISLEY PARKSなどが所属するヨコハマの音楽クルーだ。僕たちは定期的に野毛で、本人らからすると大変に有意義な、他人からするとまったく不毛な飲みをしているのだが、そんないつものノリで蒸し暑い夜に飲んでいた。僕はJINTANA&EMERALDSのファースト・アルバム『DISTINY』をリリースした直後で、ちょっとした達成感とともに心地よくほろ酔いしていたわけだが、そんなところに脳くんが一言を放った。
 「でもさ、JINTANA&EMERALDSにおいてさ、JINTANAのスチール・ギターの音、まだまだぜんぜん行けるよね」
 「え?」
 「いやさ、JINTANAのスチール・ギターはそのヤバさの片鱗の最初の1ページを見せたに過ぎない感じじゃん? まだまだいけるはずなのになー。おかしいなぁ。せっかくスチール・ギターと出会ったのにね~」
 と言って脳くんはニヤニヤしている。いつも彼はこうなのだ。家庭教師のように、ほどよく人を悔しがらせ挑発する。本当に人の扱いがうまい男だ。ぼくはとぼけて「そうかなー? すでにけっこういい線いってんじゃない? あ、焼きベーコン追加ね!」とか言いながらも、心のなかではワナワナしていた。脳くんよ、まさにそのとおりなのである。僕の中でも、僕の理想のスチール・ギター像に対して、いまはせいぜい10%達成というレベルなのである。

 僕はもともとバンド畑のギタリストだったが、ダンス・ミュージック・クルーの〈PPP〉に10年ほど前に誘われて加入した。トラックメイカーと楽器奏者が共存するこのクルーでの活動のなかで、僕はダンス・ミュージック……それも「シンセのビヨビヨした音色でオーディエンスを飛ばし異世界にいざなう」という音楽の側面に魅せられていった。そして、楽器奏者として僕がたどり着いたのはスチール・ギターという音色だった。この、音色だけで涼感を醸し出し、音階がシームレスだからこそ異空間へトリップさせてしまう楽器を、ダンス・ミュージック/チルアウト・ミュージックという耳のセンスで捉えたら気持ちよすぎてヤバいことになるのではないか? という発想でやりはじめたのだ。いわば、レイドバック空間へ旅立つための装置としての楽器、という役割である。だが、たしかに脳くんの言うようにそのレベルまでまだまだ達していないことは否定できない。そこは2枚めのアルバム以降の大きなチャレンジだと思っていたところであった。
 僕は、そんな部分を指摘された悔しい気持ちを隠しながら「あ、焼きベーコン追加ね!」とか言って、その夜は更けていったのであった。

■「伊勢参りならぬ、イビザチルアウト参り」

 数時間後、人々が通勤に向かう朝の京浜東北線の中で、ひとりほろ酔いの僕がいた。朝日を反射しまぶしい横浜のビル群を見ながら、僕はひとりつぶやいた。「やはり、チルアウトを極めねば……!」。おそらく朝7時のサラリーマンでごった返す車両の中で、チルアウトについて思索しているのは確実に僕ひとりであったであろう。そんなとき、車窓の向こうに旅行会社の看板をみつけて突然閃いた。「夏だ! 旅だ! 島だ! ってかぁ……、あ、 そうか、イビザ・・・! イビザに何かヒントがあるかも……!」イビザとはダンス・ミュージックが盛んな島として知られ、最近ではEDMのイメージも強いが、一方でそれをクールダウンさえるための音楽、すなわちチルアウト・ミュージックの発信地として広く認識されている。イビザのビーチにある〈カフェ・デル・マー〉は、夕陽が沈むタイミングに合わせてそうした音を用いたDJが聴けるという。それはそれは素晴らしい、波と光と音の完全なる融合を魅せる場としてこの世のものとは思えない美しさがあると伝え聞いている。

 僕は江戸時代の「伊勢参り」の気持ちで、イビザにチルアウトを追求する旅にでるのも一興という思いに駆られた。さっそく検索してみると、ヨーロッパまで行ってしまえば、そこからは意外な安さだと知って驚いた。ロンドンからだと片道約2万円だった。あまりに遠い桃源郷に思えていたイビザが、急にリアリティのあるものに思えてきた。2ヵ月後、僕はホクホクした面持ちでイビザの空港に降り立っていた……。

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■「パーティは空港からはじまっていた!」

 おそらく、イビザ空港は、世界中でもっとも「期待感」に満ち溢れた空港であろう。
 飛行機のタラップから降りてくる時点で「ヒャッホーっ」というノリで、みんなちょっと小走りである。イミグレの列に並ぶと、僕の前には「HEN」と書いた揃いのTシャツの15人くらいの女性がいた。先頭にはウェディング・ドレスのヴェールをかぶっている笑顔満開の女性がいる。HENというのは、おそらくバチェラー・パーティ的な意味合いのようで、映画『ハングオーバー』みたいなことをしにきているのであろう。無事に帰って結婚できることを祈らずにおられない。


浜辺で踊る人々を描いてみた

 イビザは空港が市街地から近い点も魅力で、タクシー15分で島の中心部であるエイビッサに到着した。僕が泊まったホテルは〈PPP〉と縁のある名前だったために選んだ「IBIZA PLAYA HOTEL」。ちょっとしたプールもあったりする、海辺の庶民派大型ホテルだった。なぜかホテル全体がチューイング・ガムのようにやたら甘い匂いがするのだが、それもイビザと思って気にせず部屋に入ると、窓の外で爆音でダンス・ミュージックが響き渡っていた。外を見ると300人くらいの人が浜辺にDJブースを出して踊りまくっていた。とはいえ、みんなサンダル履きだったり変なTシャツをきていたりして、どうも僕のような観光客ではなく、近所のおじさんおばさんたちがひと踊りしてから寝るべえ的なノリに見える。このダンスの生活への根づき方をみても、この島は、すみからすみまでダンス・ミュージックなんだなと直感した。そんな爆音が鳴り響く一方で、ホテルの廊下には「夜は踊らず静かにね♪ イエーイ!」という可愛いイラストが貼ってあり、そのスペイン的な無邪気さに僕は明日からの日々へ期待感と不安感を抱かずにおられなかった。

■「ダンス・ミュージックを中心点にする世界でも珍しい島」

 翌日、僕は街に出た。強い日差しとヤシの木というエイビッサの雑多な街並みは、ヨーロッパというよりアジア的な喧騒に満ちていた。繁華街にたどり着くと、そこには一風変わった光景があった。日本で言うと宝くじ屋のようなノリで、小さなブースで何かを売っている。よくみるとそれはクラブの入場券であり、どの店も大きな看板にその日のパーティ名や出演するDJの名を書いていた。「今日はどのパーティが面白いの?」と僕は訊くと、チケット売りたちは「今日はスティーヴ・アオキのAOKI’S PLAY HOUSEだ!」とか「水曜日ならこのパーティがいちばん素晴らしい!!」などなど口々に自分の持論を展開する。それは心からパーティの楽しさを語っているようでとても和やかな空気だ。まぶしい日差しの中、小さなテーブルを囲んでパーティについて楽しく語るという仕事を目の当たりにして、なんと幸せな光景だろうと思った。


イビザの街の様子も描いてみた

 街の中にはそういったチケット売りのほか、クラブ直営のファッション・ブティックやAVICIIなどの写真がデカデカと貼られているパーティ告知の巨大看板など、どこもかしこもダンス・ミュージック一色だ。たとえばアメリカであればgoogleが産業構造の真ん中にあるようなイメージがあったりするが、イビザの場合、産業の中心は完全にクラブである。クラブが真ん中にあり、そこに遊びにきている旅行者がいて、その周りにホテルやレストランがあり、彼らが買い物をするショップが並ぶ。深夜にクラブを行き来する人のために「クラブ・バス」というバスが走る。こんな島は世界中を見渡してもなかなかないだろう。雰囲気としては〈フジロック〉の日の越後湯沢の空気感が365日続いている街というところだろうか。ここまでピュアにダンス・ミュージックを愛する人たちが集まって、それを中心にすえて街が形づくられているという文化のありように驚いた。

■“パーティ・アイランド”イビザの新名所〈USHUAIA〉

 イビザには世界的に有名な老舗クラブの〈PACHA(パチャ)〉,泡パーティが開催される〈Amnesia(アムネシア)〉などさまざまなクラブがあるが、チケット売りは俺も行きたくてたまらない! という顔をしながら「いまいちばんイケているのは〈USHUAIA(ウシュアイア)〉だ」と言い切った。
 僕は眉毛がつながったスペイン男子の過剰な真顔に説得力を感じ、〈ウシュアイア〉に行くことにした。のどかな町をバスに揺られ〈ウシュアイア〉があるプラヤ・デン・ボッサというビーチについた。そこは他にも〈SPACE〉など巨大クラブが並んでいる、いわば海に面した円山町のようなクラブ・ストリートである。


目が合った瞬間、強烈なハイタッチをされた

 〈ウシュアイア〉に入ると、そこは未体験の空間であった。クラブというよりはクラブ付ホテルで、ホテルの中庭に巨大なダンス・フロアがあり、それを取り囲むようにDJブースとホテルのベランダがそびえている構造だ。そして足元には大きなプールと、足だけが浸かれる小さなプールがあり、とても涼しい雰囲気に溢れている。ここはバレアリックなパーティ世界に24時間浸りきって楽しむことのできる滞在型のクラブだったのだ。
 クラブにやってきている人々の情熱も素晴らしい。とてもグラマラスなボディにピンクやグリーンの鮮やかな水着を着て、その上に金のネックレスやバングルなどをするというファッションの女性が何人か目につく。これは〈ウシュアイア〉流のパーティ・ファッションなのだろう。彼女らには、とても艶やかではあるがエロティックではない、むしろ人生や若さを最大限楽しみきろうとする健康的なエナジーがほとばしっていた。


車椅子のアイコンも踊っているのが可愛い

 さて、この日は元スウェディッシュ・ハウス・マフィア(Swedish house mafia)として知られるAXWELL Λ INGROSSOによるレギュラー・パーティ〈Departures(デパーチャーズ)〉のオープニング・パーティだった。日本より日が落ちるのがずっと遅いイビザだが、21時ごろになってやっと夕闇が落ちてくると、ステージがレーザーなどさまざまな演出で光り輝きだす。フロアも最高潮になりフロアを囲む客室のベランダでもみんなが踊りまくる! この場所は、ダンスを愛する人々がもっともっと楽しいパーティをしたい! という気持ちに忠実に従ってたどり着いた、ひとつの究極形だと思った。頭上には青空から夕景までの美しいグラデーション、足元には涼しいプール、四方には世界から集まってきたパーティ・ピープルの笑顔という最高のシチュエーションに、僕は心の底からの気持ちよさに酔いしれ、両手を広げて、この瞬間にこの場所にいる幸せに浸りきった。

 イビザ、そこは弾けるようなパーティ感と、とろけるようなチルアウト感、そしてそれをつなぐピュアな音楽への情熱に溢れている。

 次回は、JINTANAが〈カフェ・デル・マー〉に訪れ波と太陽と音が調和した瞬間を味わう編をお届けします。
「JINTANA イビザ紀行~究極のチルアウトを求めて~ 後編」では、JINTANAによるイビザ体験を元にした楽曲も公開予定です。お楽しみに!


P-VINE BOOKSのIBIZAガイドはとても役にたった!

Yvan Etienne - ele-king

 近年、フィールド・レコーディング作品は、エクスペリメンタルな音響作品の系列において大きな潮流となっている。昨年、〈タッチ〉からリリースされたクリス・ワトソンのハードコアなフィールド・レコーディング・アルバムがこれまで以上に話題になり、さらに本年には日本のレーベル〈Sad〉から、フランシスコ・ロペスのアルバム『アンタイトルド #290』がリリースされるなど、フィーレコは、マニアックな層だけではなく、エレクトロニカを聴いている若いリスナーにまで届きはじめているように思われる。
 さて、今回ご紹介するのはイヴァン・エティエンヌという音響作家の『FEU』というアルバムある。日本ではまだ無名の作家だが、その作品は興味深い出来ばえであった。

 イヴァン・エティエンヌは、フィル・ニブロックとも競演経験のあるフランス人音響作家。また、サウンド・インスタレーションや映像制作も行っているアーティストでもある。イヴァン・エティエンヌはコラボレーションを多く実践しており、以下の作品はマリエ・ベリーとの共作。映像をマリエ・ベリーが担当している。万華鏡のような映像と実写映像が接続され、そこに淡い電子音が重なる。夢の中の光、とでもいうような趣の映像作品だ。

DREAM OUTTAKES from Blazing Sight on Vimeo.

 そしてこちらは、ソロで映像と音響を制作した映像作品。空と雲と光の微細な変化を捉えたイメージに、アトモスフェリックな電子音が重なる。どこかマイケル・スノウの作品を思わせもするミニマルな作風である。ここでも光がモチーフになっている。

Magenta Horizon Line from Yvan Etienne on Vimeo.

 そのほか、イヴァン・エティエンヌのインスタレーションや映像作品などはこのサイトにまとめられているので、ご興味がある方はこちらを見ていただきたい(https://wyy.free.fr/travaux.html)。

 さて、本題『FEU』に戻ろう。この作品はイヴァン・エティエンヌのファースト・アルバムで、フランス・ベルギーの実験音楽レーベル〈アポジオペーシス〉からリリースされたものだ。ジャケットは黒を基調した紙ジャケット仕様。ダブルジャケットになっており、中面は鮮烈な赤。CD盤も赤色に染められている。黒と赤という見事なコントラストのアートワークである。

 基本的にはフィールド・レコーディング+アナログ・シンセ・ノイズによるサウンドだが、そのダイナミックなサウンドのレイヤー感覚、音の強弱や接続によるコンポジションがじつに素晴らしい。音響的にも秀逸だ。接近したマイクで録音したような轟音フィールド・レコーディング・サウンドに、アナログ・シンセの生々しい電子音がバキバキビキビキと交錯し、耳の快楽度数をグングンと上げていくのである。さらにはハーディ・カーディの音まで交わり、時空間を越境するようなノイズが生成される。ちなみにイヴァン・エティエンヌはハーディ・カーディ奏者でもある。

 1曲め“アン・ニュイ”は、静かに幕を開ける。やがて、マイクの傍らで吹きすさぶ暴風や蠢く水のような音が聴こえ、そこに電子ノイズが大胆にレイヤーされる。このトラックは4分ほどで終わる短い曲だが、アルバム全編の雰囲気をよく伝えているトラックだ。
 つづく2曲め“デ・ラ・チャージ”は、固く乾いた物質がカラカラと混じり合うような音響からはじまる。そこにアナログ・シンセの音が微かに聴こえてくるかと思いきや、今度は低音のドローンがブーンと唸りを上げる。そこにピュンピュンと飛び跳ねるような電子音も加わり、サウンドは次第にカオティックになる(この曲にかぎらないがアナログ・シンセの音がじつにフェティッシュ。電子音マニアには堪らない)。楽曲は、静寂な中盤を挟み、後半10分でサウンドは再度ノイジーになり、やがて雨のような音がフェードインし、来るべき静寂を予感させて不意に終わる……。20分もある長尺の曲だが、ときに轟音、ときに静寂と、リスナーの聴覚を見事に引っ張っていく。見事な構成力である。
 ラスト3曲め“ラ・リュエール”は、高音電子ノイズからはじまる。次第にヘリコプターのような音響が加わり、炭酸水のような音に変化。加工されたフィールド・レコーディング音に、モールス信号のような電子音が重なり、ついにハーディガーディが鳴りはじめ、サウンドは無国籍な雰囲気へと変貌する。じつに独創的なノイズ・アンサンブルである。アナログ・シンセ、ノイズ、ハーディガーディ、環境音、そのどれもがバランス良く全体を構成しており、本アルバムのベスト・トラック。これも15分と長めの曲。また、この曲はサウンド・クラウドでも試聴できる。
https://soundcloud.com/#aposiopese-music/yvan-etienne-la-lueur-apo-10

 アルバム全編にわたって自然現象をリ・エディットした轟音フィールド・レコーディング+ハードな電子音なトラックだが、どの曲も緻密に構成されており、単なる環境音やノイズではない。長尺のノイズ・トラックでも飽きることはなく最後まで聴ける。またアルバム全体も曲名にも示されているように「夜(闇)から光へ」といったテーマ性・ストーリー性も込められているようにも感じられた。録音はスウェーデンのEMS電子音楽スタジオで行われたというから、現代音楽的(電子音楽的)なコンテクストも、そのサウンドには加味されており、それも重要なポイントであろう。

 なぜならば近年、フィールド・レコーディング作品に加え、生々しいアナログシンセサイザーの電子音を、コラージュ/インプロ的に構成する音楽作品が、実験的電子音楽の新潮流となっているのだ。たとえば、トーマス・アンカーシュミット(彼もまたフィル・ニブロックと競演経験がある)や町田良夫などの新作は、その代表格といえよう。彼らは70年代のモジュラー・シンセなどヴィンテージ・シンセを使用しており、その点でも本作と共通している。そう、本作は、アナログな電子音のコラージュ/コンクレートとフィールド・レコ―ディングされた環境音の録音/エディットという現在最先端の実験音楽の潮流の二つを体現しているのである。

 ノイズと環境音。その横溢と編集。コンクレート/サウンド。イヴァン・エティエンヌは、これらの電子ノイズの技法を、すでに知りつくしており、非常に才能ある音響作家ではないかと思う。今後、どのような作品を生み出すのか。引き続き、その活動・録音作品などをフォローしていきたい。

 『FEU』のCDは300部限定盤だが、バンド・キャンプでデータ配信もされており、全曲試聴可能。ご興味をもたれた方は聴いていただきたい。
https://label-aposiopese.bandcamp.com/album/feu

 15年間NYに住んでいるが、今年ほど涼しいNYの夏はない。原稿を書いているのが8月20日だから、これから新たな熱波が来るのかもしれない。しかし、現時点で、野外コンサートに野外映画、ビーチ、BBQ、車で小旅行などしても「夏だー」という感じがない。地下鉄もオフィスも店もホテルも、冷房効き過ぎで、夏でも長袖が手放せないし、先週の今年最後のサマースクリーンは、スカーフをぐるぐる巻いたり、ブランケットを被ったりしている人が多数いた。

 サマー・スクリーンは、 ブルックリンのウィリアムスバーグ/グリーンポイントにある大きな公園、マッカレン・パークで開催される『L・マガジン』主催の野外映画である。過去にも何度もレポートしている

 映画の前には毎回、ショーペーパーがキュレートするバンドが演奏。彼らがピックするこれから来そうなバンドが、見れるので、毎年通っている。と言っても今年見たのは、ショーン・レノンのバンド、ザ・ゴースト・オフ・サバー・トゥース・タイガーだけだった。その他はこちら
 クリネックス・ガール・ワンダーは、インディ・ポップ世代には懐かしいが(90年代後期)、最近はNYポップ・フェストも復活し、エイラーズ・セットのアルバムが再リリースされるなど、インディ・ポップも盛り返している模様。ラットキングは去年も出演していたし、これから来るバンドと言うよりは、彼らの友だちのバンド(20代前半から40代中盤の中堅まで)を安全にブックしているように思えた。

 映画と謳っているが、野外ピクニックを楽しむ感じなので(公園内ではアルコールもOK)、映画自体は重要でないかもしれないが「あれ、この映画去年もやってなかった?」と言う回が何度かあった。

 ライセンスの問題なのかネタ切れなのか、オーディエンスは毎年変わっているからよいのか、などと思い何回か通った後、最後の回の盛り上がりが凄かった。毎年最後の週の映画はオーディエンスが投票で選ぶのだが、今年はスパイス・ガールズの映画『スパイス・ワールド』が選ばれた。いつもは映画がはじまってもおしゃべりが止まらない観客が、この映画がはじまると、「ひゅー!!! わー!!!」と言う大歓声。ただでさえ、映画の音が、後ろから前から横から立体的に聞こえるのだが、歌がはじまるともっとすごい。さらに3D、と思っていたら、なんとオーディエンスが一緒に歌っているのである、しかも大合唱。さらに映画のクライマックス、スパイス・ガールズがステージに駆けつけ、いざ、曲がはじまるシーンでは、座っていたオーディエンスが立って、歌いながら踊りはじめた! 先週、先々週見た映画『ヘザーズ』や『ビッグリボウスキー』でも、クライマックスや決めのシーンではヤジが飛んでいたが、実際に立って踊りだしたのは、サマースクリーン史上(著者の記憶では)この映画が初めて。映画の前にプレイしたバンド(今回は、ガーディアン・エイリアンのアレックスのソロ・プロジェクトのアース・イーターとDJドッグ・ディックと言うインディ通好み!)よりも何倍も盛り上がっていた。恐るべきスパイス・ガールズ世代。映画の前にはスパイス・ガールズ・コスチューム・コンテストまで行う気合の入れよう。オーガナイザーも観客も、スパイス・ガールズを聞いて育った世代なのね。


photos by Amanda Hatfield

 野外ライヴと言えば、前回レポートしたダム・ダム・ガールズと同じ場所、プロスペクト・パークで行われたセレブレイト・ブルックリンで、今年最後のショーを見た。最後を飾ったのは、アニー・クラークのプロジェクト、セント・ヴィンセント。元イーノンのトーコさんがバンドに参加しているということもあり、期待して見に行った。
https://www.brooklynvegan.com/archives/2014/08/st_vincent_clos.html

 公園内では、家族でBBQしている人や、ピクニックしている人などたくさんいるが、それを横目に見ながら、目的地のバンド・シェルへ(いつも通り)。最後ということと、天気が良かったこともあり、バンドシェル内はあっという間に人数制限超え。このショーにお昼の12時から並んでいる人もいたとか(ドア・オープンが6時のフリーショー)。非常口の柵に集まりぎゅうぎゅうになってみる人、公園の周りを走る一般道路からバンドを見る人など、シェルに入れない人続出。なかには見るのを諦め、道路に勝手にブランケットを引いて飲み会を始める輩もいた。

 ライヴは、ピンク色の3段の階段をステージのセンターに配置し、シルバーヘアに、白のトップに黒のタイト・ミニスカートにハイヒールのアニーと、バンドメンバー(キーボード2人とドラム)の合計4人。10センチはあると思われるハイヒールで飄々とステージを練り歩き、階段の上に登ってそこでプレイしたり、バンドメンバーと絡み、ヘビーメタル・ギターテク、ギクシャク動くロボテック・ダンスをみると、魂を乗っ取られた(もしくは乗っ取った)妖精に見えてくる。ダムダム・ガールズが感情を剥き出しにする「痛さ」だったら、セント・ヴィンセントは「超絶」だ。が、その仮面の下の本性はまだ見えない。人工的で、妖艶で何にでも化けそう。パフォーマンス は有無も言わさず圧倒的に素晴らしく、曲が終わる度に「オー!!!」と感嘆の嵐、思わず拍手せずにはいられない。新曲中心に、新旧ミックスしたセットで、アンコールにも悠々と答え、轟ギター・ノイズで最後を飾った後、時計を見ると10:28 pm。最終音出し時間10:30pmのところ、完璧主義でもこれは凄くない?

この日のセットリストは以下:
 Rattlesnake
 Digital Witness
 Cruel
 Marrow
 Every Tear Disappears
 I Prefer Your Love
 Actor Out Of Work
 Surgeon
 Cheerleader
 Prince Johnny
 Birth In Reverse
 Regret
 Huey Newton
 Bring Me Your Loves

 Strange Mercy
 Year Of The Tiger
 Your Lips Are Red




photos by Amanda Hatfield

 テクニックといいパフォーマンスといい、彼女の才能は際立っている。 「ソロアーティストの良いところは、いろんなミュージシャンとコラボレートできること」と言う彼女は、2012年にデヴィッド・バーンとの共演作品『ラブ・ディス・ジャイアント』をリリースし、ニルバーナが表彰されたロックン・ロール・ホール・オブ・フェイムでは、ジョーン・ジェット、キム・ゴードン、ロードらと一緒にヴォーカルを取り、セレブレイト・ブルックリンでプレイした次の週では、ポートランディアでお馴染みのフレッド・アーミセン率いる、レイト・ナイト・ウィズ・セス・メイヤーズのTVショーのハウス・バンド、8Gバンドでリーダーも務めるなど、さまざまなミュージシャンと積極的に共演している。

 最近このコラムは、女性ミュージシャンのレヴューが多いが、ブルックリンではTHE MEN,、HONEY、THE JOHNNYなど男性(混合)バンドも、新しくて面白いバンドがたくさんいる。彼らも機会があれば紹介していくつもりだ。

8/20/2014
Yoko Sawai

Aphex Twin - ele-king

 勘のいい人は、もう気がついていたでしょう。リチャード・D・ジェイムス、エイフェックス・ツイン名義での13年ぶりのオリジナル・アルバム、『SYRO』が9月24日にリリースされます。
 2001年の『Drukqs』以来の(エイフェックス・ツイン名義での)アルバムですから、それはもう、ワクワクしますよね! 90年代リアル世代にとっては、テクノと言ったとき、クラフトワークより身近な存在でしょう。非リアル世代にとっても、初のリアルタイム体験に胸躍らせることでしょう。非ギークからも、ギークからも愛された、ベッドルーム・テクノ(非チルウェイヴ/非ヴェイパーウェイヴ)のヒーローの帰還。これを良いことに、すでにネット上では、偽AFXが「コレが新作だ」と自分の音源を発表しているようです(笑)。
 しかし……〈ワープ〉というレーベルは、10月8日(先に1日と表記されてましたが間違いです。申し訳ございません)にフライング・ロータスの果敢とも言える問題作のリリースを控えながら、その前にエイフェックス・ツインの新作リリースだなんて……無茶です。日本支部のビートインクにお盆休みはないようです。

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